説明

蓄電デバイス用負極活物質の製造方法

【課題】良好な初回充放電特性を有する蓄電デバイス用負極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともSとPを含む化合物からなる酸化物材料とリチウム含有物質を、有機溶媒中で接触させることにより、酸化物材料にリチウムを挿入することを特徴とする蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。酸化物材料とリチウム含有物質を有機溶媒中で混合すること、または、酸化物材料とリチウム含有物質を圧着させた状態で、有機溶媒中に浸漬させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、携帯型電子機器や電気自動車に用いられるリチウムイオン二次電池等の蓄電デバイス用負極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用パソコンや携帯電話の普及に伴い、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスの高容量化と小サイズ化に対する要望が高まっている。蓄電デバイスの高容量化が進めば電池材料の小サイズ化も容易となるため、蓄電デバイス用電極材料の高容量化へ向けての開発が急務となっている。
【0003】
例えば、リチウムイオン二次電池用の正極材料には高電位型のLiCoO2、LiCo1-xNix2、LiNiO2、LiMn24等が広く用いられている。一方、負極材料には一般に炭素質材料が用いられている。これらの材料は充放電によってリチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する電極活物質として機能し、非水電解液あるいは固体電解質によって電気化学的に連結されたいわゆるロッキングチェア型の非水二次電池を構成する。
【0004】
負極材料に用いられる炭素質材料には、黒鉛質炭素材料、ピッチコークス、繊維状カーボン、低温で焼成される高容量型のソフトカーボンなどがある。しかしながら、炭素材料はリチウム挿入容量が比較的小さいため、電池容量が低いという問題がある。具体的には、化学量論量のリチウム挿入容量を実現できたとしても、炭素材料の電池容量は約372mAh/gが限界である。
【0005】
そこで、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であり、炭素質材料を超える高容量密度を有する負極活物質として、SnO等の酸化物材料を用いる方法が提案されている(特許文献1〜4参照)。当該酸化物材料からなる負極活物質には、例えば結着剤や導電助剤が添加され、集電体としての役割を果たす金属箔等の表面に塗布することで負極として使用される。この負極は3〜3.6V級であり、かつ、炭素質材料を用いた負極よりも充放電容量の大きな蓄電デバイスを作製することができる。また、実用領域でデンドライト発生がほとんどなく極めて安全性が高いとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2887632号公報
【特許文献2】特許第3498380号公報
【特許文献3】特許第3890671号公報
【特許文献4】特許第3605866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SnO等の酸化物材料を負極として用いた蓄電デバイスは、初回サイクルの充放電効率(初回充電容量に対する初回放電容量の割合)が低いという問題がある。これは、初回の充電過程で、正極材料中のリチウムの一部が、SnO等の酸化物材料を還元するための不可逆反応に消費されるためであると考えられる。
【0008】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであり、良好な初回充放電特性を有する蓄電デバイス用負極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、少なくともSnとPを含む化合物からなる酸化物材料とリチウム含有物質を、有機溶媒中で接触させることにより、酸化物材料にリチウムを挿入することを特徴とする蓄電デバイス用負極活物質の製造方法に関する。
【0010】
例えば非水二次電池の一例として、リチウムイオン二次電池は充放電の際、SnO等の酸化物材料からなる負極にて以下のような反応が起こることが知られている。
【0011】
Snx++xe-+xLi+→Sn+xLi+ ・・・(1)
Sn+yLi++ye-←→LiySn ・・・(2)
【0012】
まず初回の充電時に、Snx+イオンが電子を受容して金属Snが生成する反応が不可逆的に起こる(式(1))。続いて、生成した金属Snは、電解液または固体電解質を通じて正極から移動したリチウムイオンと、回路から供給された電子と結合し、Sn−Li合金を形成する反応が起こる(式(2))。当該反応は、充電時には右方向に反応が進み、放電時には左方向に進む可逆反応として起こる。
【0013】
ここで、初回充電時に生じる式(1)の反応に着目すると、Snx+イオンから金属Snを生成するため必要となる電子は、通常、導線を通じて正極(例えばLiFePO4)から供給される。正極が電子を放出する際、電荷補償のためにリチウムイオンも同時に電解液中に放出(消費)される。
【0014】
本発明では、少なくともSnとPを含む化合物からなる酸化物材料に対し、予めリチウムを挿入しておくことにより、当該リチウムが初回充電前に電子供給源として使用され、上記式(1)の反応を進めておくことができる。結果として、初回充放電効率に優れた蓄電デバイス用負極活物質を製造することが可能となる。特に、酸化物材料とリチウム含有物質を、有機溶媒中で接触させることにより、酸化物材料とリチウム含有物質が電気的に導通されるため、リチウムを酸化物材料に効率よく挿入することが可能となる。
【0015】
なお、リチウムは通常、リチウムイオンと電子に電離した状態で、酸化物材料に挿入されると考えられる。
【0016】
第二に、本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法において、酸化物材料とリチウム含有物質を有機溶媒中で混合することが好ましい。
【0017】
当該方法によれば、酸化物材料とリチウム含有物質の接触する機会が増し、短時間で効率よくリチウムを挿入することが可能となる。
【0018】
第三に、本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法において、酸化物材料とリチウム含有物質を圧着させた状態で、有機溶媒中に浸漬させることが好ましい。
【0019】
当該方法によれば、酸化物材料とリチウム含有物質の接触面積が大きくなるため、酸化物材料へのリチウムの挿入を効率よく行なうことができる。
【0020】
第四に、本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法において、酸化物材料とリチウム含有物質を不活性雰囲気中で接触させることが好ましい。
【0021】
当該方法によれば、リチウム含有物質の発火の危険性を抑制することが可能となる。また、リチウム含有物質が酸化されたり、負極活物質中において還元されたSnが再度酸化されることを抑制できる。結果として、負極活物質の初回充放電効率を向上させることが可能となる。
【0022】
第五に、本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法おいて、有機溶媒が炭酸エステルであることが好ましい。
【0023】
炭酸エステルは、電気伝導率が比較的高いため、酸化物材料へのリチウムイオンの移動が容易となり、結果として、短時間で効率よくリチウムの挿入を行なうことができる。
【0024】
第六に、本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法において、有機溶媒が、リチウム塩を含有する有機系電解液であることが好ましい。
【0025】
当該方法によれば、酸化物材料へのリチウムイオンの移動が容易になり、結果として、短時間で効率よくリチウムの挿入を行なうことができる。
【0026】
第七に、本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法において、酸化物材料が、組成としてモル%で、SnO 45〜95%、P25 5〜55%を含有することが好ましい。
【0027】
第八に、本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法において、酸化物材料が、非晶質を含有する材料であることが好ましい。
【0028】
第九に、本発明は、前記いずれかの方法により製造されたことを特徴とする蓄電デバイス用負極活物質に関する。
【0029】
第十に、本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、酸化物材料中に金属Sn粒子が分散していることが好ましい。当該構成を有する蓄電デバイス用負極活物質は、初回充放電効率に優れるため好ましい。
【0030】
第十一に、本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られる回折線プロファイルにおいて、2θ値29〜33°にピーク位置を有する回折線が検出されることが好ましい。CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られる回折線プロファイルにおいて、2θ値29〜33°にピーク位置を有する回折線は、金属Snの金属結晶相(正方晶系、空間群I41/amd(141))に帰属でき、酸化物材料中に金属Sn粒子が形成されていることを示している。
【0031】
第十二に、本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、酸化物換算のモル%表示で、SnO 10〜70%、Li2O 15〜70%、P25 1.5〜45%およびMnO+CuO+ZnO+B23+MgO+CaO+Al23+SiO2+R’2O(R’はNa、KまたはCsを示す)0〜45%を含有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例10〜12および比較例で得られた負極活物質について、CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られた回折線プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法は、少なくともSnとPを含む化合物からなる酸化物材料とリチウム含有物質を、有機溶媒中で接触させることにより、酸化物材料にリチウムを挿入することを特徴とする。
【0034】
酸化物材料として、少なくともSnとPを含む化合物からなる材料を用いることで、高容量かつサイクル特性に優れた負極活物質が得られやすくなる。具体的には、組成としてモル%で、SnO 45〜95%、P25 5〜55%を含有するものであることが好ましい。組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の組成の説明において、「%」は特に断りのない限り「モル%」を意味する。
【0035】
酸化物材料中のSnOはリチウムイオンを吸蔵および放出するサイトとなる活物質成分である。SnOの含有量は45〜95%、50〜90%、55〜87%、60〜85%、68〜83%、特に71〜82%であることが好ましい。SnOの含有量が45%より少ないと、酸化物材料の単位質量当たりの充放電容量が小さくなるため、結果的に負極活物質の充放電容量も小さくなる。一方、SnOの含有量が95%より多いと、酸化物中の非晶質成分が少なくなるため、充放電時のリチウムイオンの吸蔵および放出に伴う体積変化を緩和できずに、放電容量が急速に低下するおそれがある。なお、本発明においてSnO成分含有量は、SnO以外の酸化スズ成分(SnO2等)もSnOに換算して合算したものを指す。
【0036】
25は網目形成酸化物であり、Sn原子におけるリチウムイオンの吸蔵および放出サイトを包括し、リチウムイオンが移動可能な固体電解質としての機能を果たす。P25の含有量は5〜55%、10〜50%、13〜45%、15〜40%、17〜32、特に18〜29%であることが好ましい。P25の含有量が5%より少ないと、充放電時のリチウムイオンの吸蔵および放出に伴うSn原子の体積変化を緩和できず構造劣化を起こすため、繰り返し充放電時に放電容量が低下しやすくなる。一方、P25の含有量が55%より多いと、耐水性が悪化しやすくなる。また、吸湿することで異種結晶(例えばSnHPO4)が多量に形成され、繰り返し充放電した際に容量が低下しやすくなる。また、Sn原子とともに安定な結晶(例えばSnP27)を形成しやすく、鎖状P25における酸素原子が有する孤立電子対によるSn原子への配位結合の影響がより強い状態となる。このため、上記式(1)でSnイオンを還元するために電子が多く必要となり、初回充放電効率が低下する傾向にある。
【0037】
なお、SnO/P25(モル比)は、0.8〜19、1〜18、特に1.2〜17であることが好ましい。SnO/P25が0.8より小さいと、SnOにおけるSn原子がP25の配位の影響を受けやすくなり、初回充放電効率が低下する傾向にある。一方、SnO/P25が19より大きいと、繰り返し充放電した際に放電容量が低下しやすくなる。これは、酸化物中のSn原子に配位するP25が少なくなってSn原子を十分に包括できず、結果として、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴うSn原子の体積変化を緩和できなくなり、構造劣化を引き起こすためであると考えられる。
【0038】
また酸化物材料には、上記成分に加えてさらに種々の成分を添加することができる。例えば、MnO、CuO、ZnO、B23、MgO、CaO、Al23、SiO2、R2O(RはLi、Na、KまたはCsを示す)を合量で0〜50%、0〜40%、0〜20%、0〜10%、特に0.1〜7%含有することができる。これらの成分が多くなると、構造が無秩序になって非晶質材料が得られやすくなるが、リン酸ネットワークが切断されやすくなる。結果的に、充放電に伴う負極活物質の体積変化を緩和できずサイクル特性が低下するおそれがある。
【0039】
酸化物材料は非晶質を含有する材料であることが好ましい。この場合、酸化物材料の結晶化度(リチウム挿入前)は95%以下、80%以下、70%以下、50%以下、40%以下、特に20%以下であることが好ましく、実質的に非晶質であることが最も好ましい。結晶化度が小さい(非晶質相の割合が大きい)ほど、繰り返し充放電時の体積変化を緩和でき、放電容量の低下抑制の観点から有利である。なお、「実質的に非晶質である」とは、結晶化度が実質的に0%(具体的には0.1%以下)であることを指し、具体的には、下記のCuKα線を用いた粉末X線回折測定において、結晶性回折線が検出されないものをいう。
【0040】
結晶化度は、CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られる2θ値で10〜60°の回折線プロファイルから求められる。具体的には、回折線プロファイルからバックグラウンドを差し引いて得られた全散乱曲線から、10〜45°におけるブロードな回折線(非晶質ハロー)をピーク分離して求めた積分強度をIa、10〜60°において検出される各結晶性回折線をピーク分離して求めた積分強度の総和をIcとした場合、結晶化度Xcは次式から求められる。
【0041】
Xc=[Ic/(Ic+Ia)]×100(%)
【0042】
酸化物材料の形状は特に限定されないが、バルク状、フィルム状、粉末状等が挙げられ、好ましくは粉末状である。
【0043】
酸化物材料が粉末状である場合、その粒子径としては、平均粒子径0.1〜10μmかつ最大粒子径75μm以下、平均粒子径0.3〜9μmかつ最大粒子径65μm以下、平均粒子径0.5〜8μmかつ最大粒子径55μm以下、特に平均粒子径1〜5μmかつ最大粒子径45μm以下であることが好ましい。酸化物材料の平均粒子径が10μmより大きいまたは最大粒子径が75μmより大きいと、酸化物材料の粉末粒子内部までリチウムを挿入することが困難になり、結果として初回充放電効率が低下しやすくなる。また、充放電した際にリチウムイオンの吸蔵および放出に伴う負極活物質の体積変化を緩和できず、集電体から剥れやすくなる。その結果、繰り返し充放電を行うと、容量が著しく低下する傾向がある。一方、粉末の平均粒子径が0.1μmより小さいと、ペースト化した際に粉末の分散状態に劣り、均一な電極を製造することが困難になる傾向がある。
【0044】
ここで、平均粒子径と最大粒子径は、それぞれ一次粒子のメイジアン径でD50(50%体積累積径)とD100(100%体積累積径)を示し、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定された値をいう。
【0045】
所定サイズの粉末を得るためには、一般的な粉砕機や分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、篩、遠心分離、空気分級などが用いられる。
【0046】
酸化物材料は、例えば原料粉末を加熱溶融してガラス化することにより製造される。ここで、原料粉末の溶融は還元雰囲気または不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
【0047】
Snを含む酸化物材料は、溶融条件によってSn原子の酸化状態が変化しやすく、大気中で溶融した場合、望まないSnO2やSnP27等の結晶が形成されやすくなる。その結果、負極材料の初回充放電効率およびサイクル特性が低下するおそれがある。そこで、還元雰囲気または不活性雰囲気中で溶融を行うことで、酸化物材料中のSnイオンの価数の増加を抑制し、望まない結晶の形成を抑制でき、初回充放電効率およびサイクル特性に優れた蓄電デバイスを得ることが可能となる。
【0048】
還元雰囲気で溶融するには、溶融槽中へ還元性ガスを供給することが好ましい。還元性ガスとしては、体積%で、N2 90〜99.5%、H2 0.5〜10%、特にN2 92〜99%、H2が1〜8%の混合気体を用いることが好ましい。
【0049】
不活性雰囲気で溶融する場合は、溶融槽中へ不活性ガスを供給することが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれかを用いることが好ましい。
【0050】
還元性ガスまたは不活性ガスは、溶融槽において溶融ガラスの上部雰囲気に供給してもよいし、バブリングノズルから溶融ガラス中に直接供給してもよく、両手法を同時に行ってもよい。
【0051】
また、上記の酸化物材料の製造方法において、出発原料粉末に複合酸化物を使用することにより、失透異物が少なく均質性に優れた酸化物材料が得られやすくなる。当該酸化物材料を負極活物質として用いれば、放電容量が安定した蓄電デバイスが得られやすくなる。このような複合酸化物としては、ピロリン酸第一錫(Sn227)等が挙げられる。
【0052】
さらに本発明の蓄電デバイス用負極材料の製造方法において、原料粉末に金属粉末または炭素粉末が含まれていることが好ましい。これにより、負極材料中のSn原子を還元状態にシフトすることができる。結果として、負極材料中のSn価数が小さくなり、蓄電デバイスの初回充電効率を向上させることが可能となる。
【0053】
金属粉末としては、Sn、Al、Si、Tiのいずれかの粉末を用いることが好ましい。なかでも、Sn、Al、Siの粉末を用いることが好ましい。
【0054】
本発明で使用されるリチウム含有物質としては、金属リチウム、あるいは、窒化リチウム等のリチウム化合物が挙げられる。窒化リチウムは比較的安定で、取り扱いが容易という特徴がある。金属リチウムには、例えばアルミニウム等の他の金属が含有しているものであっても構わない。その場合、金属リチウムの純度は90%以上、特に98%以上であることが好ましい。
【0055】
リチウム含有物質は、酸化物材料中のSn原子1モル当たり、Li原子が1〜4モル、特に1.5〜3モルとなるように添加することが好ましい。リチウム含有物質の添加量が少なすぎると、酸化物材料へのリチウムの挿入量が不十分となり、初回充放電特性に劣る傾向にある。一方、リチウム含有物質の添加量が多すぎると、酸化物材料への挿入可能量を超えてしまい、材料が無駄になる傾向がある。
【0056】
リチウム含有物質の形状は特に限定されず、例えば板状、フォイル状、粉末状が挙げられる。特に、取り扱いが容易である点でフォイル状であることが好ましい。リチウム含有物質がフォイル状の場合、その厚さは1000μm以下、特に500μm以下であることが好ましい。リチウム含有物質の厚さが1000μmを超えると、比表面積が小さくなり、酸化物材料に対し、効率よくリチウムを挿入することが困難になる傾向がある。一方、下限は特に限定されないが、リチウム含有物質の厚さが小さすぎると、作製が困難になることから、現実的には10μm以上、特に50μm以上である。
【0057】
なお、金属リチウムは、露点が−80〜−10℃の大気中または炭酸ガスを0.1〜10体積%程度含有する雰囲気中に曝露させたものを使用することが好ましい。特に、金属リチウムを切断する場合やシート状に圧延する場合は、上記雰囲気下で作業を行うことが好ましい。これにより、安定な炭酸リチウム皮膜が表面に形成され、酸素、窒素、水分等によるリチウムの劣化を抑制することができる。
【0058】
本発明で使用される有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの炭酸エステル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等が挙げられ、これらの一種または二種以上を混合して使用することができる。これらのなかで、電気伝導度の高い炭酸エステルが好ましい。有機溶媒として炭酸エステルを使用することにより、酸化物材料に対するリチウムの挿入に要する時間を短縮でき、かつ、酸化物材料中に均質にリチウムを挿入することが可能となる。炭酸エステルのなかでも、特に、引火点が高く、安全性が比較的高いプロピレンカーボネートが最も好ましい。
【0059】
有機溶媒に含まれる水分量は500ppm以下、特に300ppm以下であることが好ましい。水分量が多すぎると、リチウム含有物質(特に金属リチウム)が水分と反応し、集電体等の金属材料に対して腐食性を有する水酸化リチウムが生成するおそれがある。一方、有機溶媒に含まれる水分量が小さい場合は製造コストが高くなるため、現実的には1ppm以上、特に3ppm以上のものが使用される。
【0060】
なお、有機溶媒にリチウム塩を溶解した有機系電解液を使用することが好ましい。これにより、酸化物材料へのリチウムイオンの移動が容易になるため、リチウムの挿入を短時間で効率よく行なうことができる。リチウム塩としては、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiCF3SO3、LiClO4、LiBF4、LiPF6等が挙げられる。なかでも、LiPF6はリチウム塩の解離度が高く高電気伝導度であるため好ましい。
【0061】
リチウム塩の添加量は、上記効果を十分に得るため、有機溶媒1リットル当たり0.1モル以上、0.2モル以上、特に0.5モル以上であることが好ましい。上限については特に限定されないが、多くなりすぎてもさらなる効果が得られないことから、有機溶媒1リットル当たり5モル以下、3モル以下、特に2モル以下であることが好ましい。
【0062】
また、酸化物材料とリチウム含有物質を有機溶媒中で接触させる方法としては、酸化物材料とリチウム含有物質を有機溶媒中で混合する方法が挙げられる。具体的には、せん断混合(混練)が挙げられる。せん断混合には自転公転ミキサー、プラネタリーミキサー、三本ロールミルなどの一般的な混練機が用いられる。
【0063】
さらに、酸化物材料とリチウム含有物質を有機溶媒中で粉砕混合することが好ましい。当該方法によれば、酸化物材料とリチウム含有物質が微粒子化されて比表面積が増大するため、両者の接触する機会が増し、酸化物材料に対して短時間で効率よくリチウムを挿入することが可能となる。これにより、リチウムが均質かつ十分に挿入された粉末状の負極活物質を得ることが可能となる。粉砕混合には、乳鉢、らいかい機、ボールミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミルなどの一般的な粉砕機が用いられる。
【0064】
酸化物材料とリチウム含有物質を有機溶媒中で接触させる別の方法としては、例えば、酸化物材料とリチウム含有物質を予め圧着させた後、有機溶媒中に浸漬する方法が挙げられる。酸化物材料とリチウム含有物質の圧着は、ハンドプレス機、プレスローラー等を用いて行うことができる。
【0065】
酸化物材料とリチウム含有物質(特に金属リチウム)を有機溶媒中で接触させる際の環境は、露点が−80〜−10℃℃の大気中または不活性雰囲気中であることが好ましく、特に、露点が−80〜−10℃℃のアルゴン雰囲気中であることが好ましい。これにより、酸化物材料とリチウム含有物質を有機溶媒中で接触させている際に、リチウム含有物質が発火したり、リチウム含有物質や酸化物材料中のSn金属が酸化されることを抑制することができる。
【0066】
酸化物材料とリチウム含有物質を有機溶媒中に接触させた後、リチウム含有物質が酸化物材料中に均一に拡散するように、一定期間エージングを行うことが好ましい。エージング条件は特に限定されず、例えば、0〜170℃(好ましくは20〜120℃)で30分間〜60日間(好ましくは1時間〜30日間)で適宜選択される。
【0067】
上記の製造方法により得られた蓄電デバイス用負極活物質は、酸化物材料中に金属Sn粒子が分散していることが好ましい。この場合、初回充放電効率に優れるため好ましい。なお、CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られる回折線プロファイルにおいて、2θ値29〜33°にピーク位置を有する回折線は金属Snに帰属することができるため、当該回折線により、金属Sn粒子の有無を確認することができる。
【0068】
なお、金属Snに帰属される回折線のピーク位置は30.6°(ミラー指数(hkl)=(200))および32.0°(ミラー指数(hkl)=(101))に検出される。よって、酸化物材料中に金属Sn粒子が存在する場合は、30.6°付近および32.0°付近に2つの回折線が検出されるが、両回折線が重なりあって1つの回折線として検出される場合もある。
【0069】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られる回折線プロファイルにおいて、2θ値29〜33°にピーク位置を有する回折線の半価幅が0.1°以上、0.12°以上、0.15°以上、0.2°以上、0.3°以上、特に0.5°以上であることが好ましい。回折線の半価幅が十分に大きい場合は、負極活物質中の金属Sn粒子の結晶子サイズがナノオーダー(例えば0.1〜100nm)となるため、充電反応によりリチウムイオンを吸蔵しても体積膨張が起こりにくく、結果として、繰り返し充放電しても安定した放電容量が得られやすくなる。一方、当該回折線の半価幅が小さすぎる場合は、金属Sn粒子のサイズが大きい(ミクロンオーダー以上)ことを示している。このため、充電反応によりリチウムイオンを吸蔵した際に、局所的に大きな体積膨張が起こり、サイクル特性が低下する傾向がある。
【0070】
ただし、金属Snに帰属される回折線の半値幅が大きすぎると、酸化物材料中に金属Sn粒子の含有量が少ないことを意味するため、当該回折線の半値幅は14°以下、13°以下、12.5°以下、12°以下、特に11°以下であることが好ましい。
【0071】
本発明の製造方法により得られる蓄電デバイス用負極活物質は、酸化物換算のモル%表示で、SnO 10〜70%、Li2O 15〜70%、P25 1.5〜45%およびMnO+CuO+ZnO+B23+MgO+CaO+Al23+SiO2+R’2O(R’はNa、KまたはCsを示す)0〜45%を含有することが好ましい。ここで、SnO成分含有量はSnO以外のSn成分(金属Sn、LiySn中のSn、SnO2等)もSnOとして換算して合算した値をいい、Li2O成分含有量はLi2O以外のLi成分(金属リチウム、LiySn中のLi等)もLi2Oとして換算して合算した値をいう。
【0072】
本発明の製造方法により得られた蓄電デバイス用負極活物質に対し、結着剤や導電助剤を添加することにより蓄電デバイス用負極材料として使用される。
【0073】
結着剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体またはポリビニルアルコール等の水溶性高分子;熱硬化性ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。
【0074】
導電助剤としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、グラファイト等のカーボン粉末、炭素繊維などが挙げられる。
【0075】
蓄電デバイス用負極材料を、集電体としての役割を果たす金属箔等の表面に塗布することで蓄電デバイス用負極として用いることができる。
【0076】
以上、主にリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法について説明してきたが、本発明の方法により製造される負極活物質はこれに限定されるものではなく、他の非水系二次電池や、さらには、リチウムイオン二次電池用の負極材料と非水系電気二重層キャパシタ用の正極材料とを組み合わせたハイブリットキャパシタ等にも適用できる。
【0077】
ハイブリットキャパシタであるリチウムイオンキャパシタは、正極と負極の充放電原理が異なる非対称キャパシタの1種である。リチウムイオンキャパシタは、リチウムイオン二次電池用の負極と電気二重層キャパシタ用の正極を組み合わせた構造を有している。ここで、正極は表面に電気二重層を形成し、物理的な作用(静電気作用)を利用して充放電するのに対し、負極は既述のリチウムイオン二次電池と同様にリチウムイオンの化学反応(吸蔵および放出)により充放電する。
【0078】
リチウムイオンキャパシタの正極には、活性炭、ポリアセン、メソフェーズカーボンなどの高比表面積の炭素質粉末などからなる正極材料が用いられる。一方、負極には、本発明の方法により製造される負極活物質を用いることができる。
【実施例1】
【0079】
以下、本発明の蓄電デバイス用負極材料の一例として、リチウムイオン非水二次電池用負極材料の製造方法について、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
(1)酸化物材料の作製
主原料としてスズとリンの複合酸化物(ピロリン酸第一錫:Sn227)、さらにその他の各種酸化物、炭酸塩原料などを用いて、溶融後の酸化物材料としてSnO 72モル%、P25 28モル%の組成となるように原料を調製した。原料を石英ルツボに投入し、電気炉を用いて窒素雰囲気にて950℃、40分間の溶融を行い、ガラス化した。
【0081】
次いで、溶融ガラスを一対の回転ローラー間に流し出することにより、急冷しながら成形し、厚み0.1〜2mmのフィルム状ガラスを得た。このフィルム状ガラスを、φ1〜3cmのジルコニアボールを入れたボールミルを用いて100rpmで3時間粉砕した後、目開き120μmの樹脂製篩に通過させ、平均粒子径3〜15μmのガラス粗粉末(酸化物材料粗粉末)を得た。次いで、ガラス粗粉末を空気分級することで、平均粒子径2μmかつ最大粒子径28μmのガラス粉末(酸化物材料粉末)を得た。
【0082】
酸化物材料粉末について粉末X線回折測定することにより構造を同定したところ、非晶質であり、結晶は検出されなかった。
【0083】
(2)負極活物質の作製(酸化物材料へのリチウムの挿入)
得られた酸化物材料粉末を200℃で12時間、真空中で乾燥させた後、下記の条件下、金属リチウムを接触させた。
【0084】
金属リチウムとしては純度99.5%、厚み500μmのフォイルを、露点温度−40℃以下の環境中で、一辺0.5〜20mmの小片に切断したものを用いた。金属リチウムは、実施例1〜10では酸化物材料1g当たり0.16g(Sn原子1モルに対し、Li原子約4モル)、実施例11では酸化物材料1g当たり0.12g(Sn原子1モルに対し、Li原子約3モル)、実施例12では酸化物材料1g当たり0.08g(Sn原子1モルに対し、Li原子約2モル)の割合でそれぞれ添加した。
の割合で添加した。
【0085】
実施例1〜4、7では、酸化物材料粉末と金属リチウムに表中に記載の有機溶媒を添加し、メノウ乳鉢を用いて1時間粉砕混合した後、3時間(実施例4では10時間)エージングさせた。なお、実施例1〜4では、露点温度−40℃以下の大気雰囲気中で粉砕混合を行い、実施例7では、露点温度−40℃以下のアルゴン雰囲気中で粉砕混合を行った。実施例10〜12では、表中に記載の有機溶媒を添加し、メノウ乳鉢を用いて露点温度−40℃以下の大気雰囲気中で3時間粉砕混合した後、3日間エージングさせた。
【0086】
実施例5および6では、露点温度−40℃以下の大気雰囲気中で、予め表中に記載の有機溶媒に浸漬させた酸化物材料粉末と金属リチウムを混合し、ハンドプレス機を用いてプレスすることにより、酸化物材料粉末と金属リチウムを圧着させたのち、有機溶媒中に10日間浸漬してエージングさせた。
【0087】
実施例8および9では、露点温度−40℃以下の大気雰囲気中で、酸化物材料粉末と金属リチウムに対して表中に記載の有機溶媒中を添加し、自転・公転ミキサーで混練混合させた。
【0088】
酸化物材料粉末と金属リチウムを接触させた後、有機溶媒ごと目開き75μmの樹脂製篩に通過させた。篩下の試料を5000prmで遠心分離して、沈殿した試料を回収した。得られた試料を120℃で真空乾燥して負極活物質を得た。
【0089】
比較例では、酸化物材料に対し金属リチウムの接触を行うことなく、そのまま負極活物質として使用した。
【0090】
なお、表1〜2に記載の有機溶媒は以下のものを示す。
【0091】
EC:DEC(1:1)=エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを、体積比1:1で混合した有機溶媒
PC=プロピレンカーボネート
LiPF6 in PC=プロピレンカーボネート中にLiPF6が1mol/L溶解された有機系電解液
【0092】
(3)負極の作製
上記で得られた負極活物質と導電助剤と結着剤を重量パーセントで85:5:10の割合になるように秤量し、脱水したN−メチルピロリドンに分散した後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化した。ここで、導電助剤としてはケッチェンブラック(以下、「KB」と略す)、結着剤としてはポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」と略す)を用いた。
【0093】
次に、隙間100μmのドクターブレードを用いて、得られたスラリーを負極集電体である厚さ20μmの銅箔上にコートし、70℃の乾燥機で真空乾燥後、一対の回転ローラー間に通してプレスすることにより電極シートを得た。この電極シートを電極打ち抜き機で直径11mmに打ち抜き、温度120℃にて3時間、減圧下で乾燥させて円形の作用極(非水二次電池用負極)を得た。
【0094】
(4)試験電池の作製
コインセルの下蓋に、上記作用極を銅箔面を下に向けて載置し、その上に70℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜(ヘキストセラニーズ社製 セルガード#2400)からなるセパレータ、および対極である金属リチウムを積層し、試験電池を作製した。電解液としては、1M LiPF6溶液/EC:DEC=1:1(EC=エチレンカーボネート、DEC=ジエチルカーボネート)を用いた。なお試験電池の組み立ては露点温度−40℃以下の環境で行った。
【0095】
(5)充放電試験
上記試験電池に対し、0.2mAで2Vから0VまでCC(定電流)充電(負極活物質へのリチウムイオンの吸蔵)を行い、負極活物質の単位重量中に充電された電気量を求め充電容量(mAh/g)を求めた。次に、0.2mAの定電流で0Vから2Vまで放電(負極活物質からのリチウムイオンの放出)させ、負極活物質の単位重量中に放電された電気量を求め放電容量(mAh/g)を求めた。表1および2に、初回の充放電特性の結果を示す。
【0096】
(6)粉末X線回折(粉末XRD)測定
実施例10〜12および比較例で得られた負極活物質につき、粉末X線回折測定装置としてRIGAKU社製RINT2000、X線源にCu−Kα線を用いて、次の条件で各試料を露点−50℃の雰囲気中で測定することで回折線プロファイルを得た(図1参照)。
管電圧/管電流:40kV/40mA
発散・散乱スリット:1°
受光スリット:0.15mm
サンプリング幅:0.01°
測定範囲:10〜60°
測定速度:0.1°/sec
積算回数:5回
【0097】
(7)分析とデータ解析
解析・定量ソフトとしてMaterials Data Inc.製JADE Ver.6.0を用いて、前記回折線プロファイルのデータ解析を行った。
まず、10〜60°の範囲における回折線プロファイルにおいて結晶性回折線以外の非晶質ハローをスムージングするため、Savitzky−Golay Filterによりパラメータを放物線フィルタで99ポイントで平滑化した後、当該範囲内で回折線プロファイルの強度がマイナスならないように回折線プロファイルを直線フィットし、バックグラウンドを差し引いた。
バックグラウンドを差し引いて得られた回折線プロファイルにおいて、2θ値29〜33°にピーク位置を有する回折線が一つ以上検出された場合は、各回折線の半価幅(FWHM)を一義的に決定できるように、各回折線のピーク位置の2θ値を固定し、pseudo−Voight関数によりカーブフィッティングすることで分離した。
また、2θ値が29〜33°以外の回折線プロファイルにおいて、回折線が認められる場合、パラメータ(ピーク位置の2θ値)を固定していない回折線成分を追加した。
回折線プロファイルとカーブフィッティングして得られたフィッティング曲線のフィッティング残差が20%以下になるように繰り返し精密化を行った後、各回折線成分の半価幅およびピーク位置の2θ値をそれぞれ求めた。
表3に実施例10〜12および比較例の負極活物質における回折線プロファイルから求めたピーク位置と半価幅の結果を示した。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
実施例1〜12の負極活物質を用いた電池の初回放電容量は477mAh/g以上、初回充放電効率は58.9%以上と良好な特性を示した。特に、酸化物材料と金属リチウムの接触を粉砕混合または圧着により実施した実施例1〜7、10〜12では、初回充放電効率が63.5%以上と良好であった。
【0102】
一方、比較例の負極活物質を用いた電池の初回放電容量は570mAh/gと高かったが、初回充放電効率は55.3%と低かった。
【0103】
なお、表3および図1から明らかなように、実施例10〜12では、CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られる回折線プロファイルにおいて、2θ値29〜33°にピーク位置を有する回折線が検出されており、酸化物材料中に金属Sn粒子が分散していることがわかる。一方、比較例では、2θ値29〜33°にピーク位置を有する回折線が検出されてなかったため、酸化物材料中に金属Sn粒子が含まれないものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともSnとPを含む化合物からなる酸化物材料とリチウム含有物質を、有機溶媒中で接触させることにより、酸化物材料にリチウムを挿入することを特徴とする蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項2】
酸化物材料とリチウム含有物質を有機溶媒中で混合することを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項3】
酸化物材料とリチウム含有物質を圧着させた状態で、有機溶媒中に浸漬させることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項4】
酸化物材料とリチウム含有物質を不活性雰囲気中で接触させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項5】
有機溶媒が炭酸エステルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項6】
有機溶媒が、リチウム塩を含有する有機系電解液であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項7】
酸化物材料が、組成としてモル%で、SnO 45〜95%、P25 5〜55%を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項8】
酸化物材料が、非晶質を含有する材料であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする蓄電デバイス用負極活物質。
【請求項10】
酸化物材料中に金属Sn粒子が分散していることを特徴とする請求項9に記載の蓄電デバイス用負極活物質。
【請求項11】
CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られる回折線プロファイルにおいて、2θ値29〜33°にピーク位置を有する回折線が検出されることを特徴とする請求項9または10に記載の蓄電デバイス用負極活物質。
【請求項12】
酸化物換算のモル%表示で、SnO 10〜70%、Li2O 15〜70%、P25 1.5〜45%およびMnO+CuO+ZnO+B23+MgO+CaO+Al23+SiO2+R’2O(R’はNa、KまたはCsを示す)0〜45%を含有することを特徴とする請求項9〜11に記載の蓄電デバイス用負極活物質。

【図1】
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【公開番号】特開2012−182115(P2012−182115A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−16940(P2012−16940)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】