説明

蓄電デバイス

【課題】電極活物質としてπ電子共役雲を有する有機化合物や、ラジカルを有する有機化合物を用いた蓄電デバイスにおいて、充放電反応を繰り返すと、充電した蓄電デバイスの放電電気容量が低下するという課題があった。
【解決手段】正極と電解質の間、もしくは負極と電解質の間に、貫通孔を有する無機多孔質膜層を有している蓄電デバイスを提供する。また、無機多孔質膜層の貫通孔表面にイオン性の官能基を有する有機化合物が修飾されている蓄電デバイスを提供する。貫通孔を有する無機多孔質膜層を正負極間に設けることにより、溶出した活物質が正負極間を自由に動き回ることを抑制することができ、これにより充電した蓄電デバイスの容量低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの高信頼性化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンと電気との両方のエネルギーで駆動することのできるハイブリッド自動車や、無停電電源、移動体通信機器、携帯電子機器等の電源を必要とする機器の普及に伴い、その電源の需要は非常に大きくなっている。
【0003】
そのため、それら電源としてリチウムイオン電池や電気二重層キャパシタの高性能化が強く要望されており、それらの高性能化開発が精力的に進められている。
【0004】
例えば、高出力、高エネルギー密度な蓄電デバイスを実現するために、有機化合物を電極材料に用いる検討が行われており、最近高速の充放電が期待できる新しい活物質としてπ電子共役雲を有する有機化合物及びその反応メカニズムが本発明者らによって明らかにされている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方、リチウムイオン電池の高性能化開発の一つとして、高信頼性化のための取り組みが挙げられる。例えば、正極と負極の電極間の短絡を防止するために、正極板あるいは負極板表面に短絡防止層を付与する技術が開示されている(例えば、特許文献2および3参照)。
【特許文献1】特開2004−111374号公報
【特許文献2】特開2005−327680号公報
【特許文献3】特開2005−285605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電極活物質としてπ電子共役雲を有する有機化合物や、ラジカルを有する有機化合物を用いた蓄電デバイスにおいて、充放電反応を繰り返すと、充電した蓄電デバイスの放電電気容量が低下するという課題がある。
【0007】
これは、活物質である有機化合物が、電解質に用いる溶媒との組み合わせによっては充放電に伴い電極内部から電解質中に無視できない程に溶け出してしまい、溶出した活物質が正負極間を自由に動くことができることに起因している。電解質中に溶出した活物質は、電解質中を自由に動くことができるため、負極表面で還元され、ついで正極表面で酸化される。すなわち、正極、負極の両極において活物質の放電反応を引き起こす。換言すると、溶出した活物質により正負極間に化学的な内部短絡を引き起こしてしまうとも言うことができる。このことにより、充電した蓄電デバイスを使用せずにおいておくだけで、使用する時には蓄電デバイスの蓄電容量が低下してしまうことになる。
【0008】
また、電解質中に溶け出してしまった活物質は、電極内で再び電池反応をすることはできず、溶出分に対応する蓄電デバイス容量の低下にもつながる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明の蓄電デバイスは、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、電解質と、を含む蓄電デバイスであって、
正極活物質と負極活物質との少なくともいずれかは、π電子共役雲を有する有機化合物またはラジカルを有する有機化合物を含んでおり、
正極と負極との間に、貫通孔を有する無機多孔質膜を有していること、を特徴とする。
【0010】
貫通孔を有する無機多孔質膜を正極と負極との間に設けることにより、溶出した活物質が正負極間を自由に動き回ることを抑制することができる。これにより、充電した蓄電デバイスの容量低下を抑制することができる。
【0011】
さらに、無機多孔質膜は耐熱性や機械強度に優れるため、これを正負極間に設けることにより、正負極間の短絡を防止した高信頼性の蓄電デバイスを提供することができる。
【0012】
また、本発明の蓄電デバイスは、貫通孔を有する無機多孔質膜層の貫通孔表面にイオン性の官能基を有する有機化合物が修飾されてることが好ましい。イオン性の官能基は、溶出した帯電状態の活物質とクーロン相互作用を生じ、溶出した活物質が正負極間を自由に動き回ることを、より抑制することができるからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蓄電デバイスによれば、π電子共役雲を有する有機化合物またはラジカルを有する有機化合物を活物質として含む電極を用いた高出力、高エネルギー密度を有する蓄電デバイスにおいて、高信頼性化をもたらすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(実施の形態1)
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
本実施の形態1における蓄電デバイスは、正極活物質としてπ電子共役雲を有する有機化合物またはラジカルを有する有機化合物を含む正極と、負極活物質を含む負極と、電解質と、を含む蓄電デバイスであって、正極と負極との間に、貫通孔を有する無機多孔質膜層を有している蓄電デバイスである。
【0016】
図1は本発明の実施の形態1における蓄電デバイスを模式的に示した概略断面図である。図1において、正極13は、π電子共役雲またはラジカルを有する有機化合物が活物質として含まれた電極であり、正極13の表面に無機多孔質膜層14が配置されている。また、セパレータ15は、正極13と負極18との間に配置されている。セパレータ15に電解質溶液が注入され含浸された場合には、電解質としても作用する。その上に、負極18が正極13と対向するように配置され、これらの組は、ケース11および封口板16に挟まれるようにして、ガスケット19を用いてカシメられ、密封されて蓄電デバイスが構成される。また、正極13とケース11との間には、必要に応じて正極集電体12が配置され、負極18と封口板18との間には、必要に応じて負極集電体17が配置されている。
【0017】
以下に実施の形態1における蓄電デバイスにおける主要な構成要素について詳細に説明する。
【0018】
正極13には、π電子共役雲またはラジカルを有する有機化合物(図示せず)が活物質として含まれている。
【0019】
π電子共役雲を有する有機化合物としては、例えば以下に示す一般式(1)、一般式(2)で表わされる構造を有する有機化合物などが挙げられる。
【0020】
一般式(1):
【0021】
【化1】

【0022】
(式中、Xは硫黄原子、または酸素原子、R〜Rはそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、R、Rはそれぞれ水素原子、鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
一般式(2):
【0023】
【化2】

【0024】
(式中、Xは窒素原子、R〜Rはそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、R、Rはそれぞれ水素原子、鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
また、本発明の別のπ電子共役雲を有する有機化合物としては、例えば以下に示す一般式(3)で表わされる構造を有する有機化合物などが挙げられる。
【0025】
一般式(3):
【0026】
【化3】

【0027】
(式中、X〜Xはそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、R〜Rはそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
一般式(1)で表される化合物としては、具体的には、例えば一般式(4)で表される化合物や式(5)で表される化合物が挙げられる。
【0028】
一般式(4):
【0029】
【化4】

【0030】
(式中、R〜RおよびR〜R10はそれぞれ鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子の群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
式(5):
【0031】
【化5】

【0032】
式(5)の化合物は一般式(1)の化合物群の中でも分子量が小さく、早い反応速度が期待される。
【0033】
また一般式(4)の群は2つの5員環に位置された2つのベンゼン環の存在によって2つの5員環から電子が抜き取られるエネルギーレベルが接近し、あたかも1電子反応のように反応が進行する。したがって反応速度が一般式(1)においてR、Rがベンゼン環を含まない場合に比べて早くなる。一般式(4)の化合物の代表例としては、式(6)〜式(9)で表される化合物が好ましい化合物として挙げられる。
【0034】
式(6):
【0035】
【化6】

【0036】
式(7):
【0037】
【化7】

【0038】
式(8):
【0039】
【化8】

【0040】
式(9):
【0041】
【化9】

【0042】
上述した一般式(3)で表される化合物としては、具体的には、例えば一般式(10)〜(13)で表される化合物が挙げられる。
【0043】
一般式(10):
【0044】
【化10】

【0045】
(式中、X〜Xはそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、R〜Rはそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
一般式(11):
【0046】
【化11】

【0047】
(式中、X〜Xはそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、Y、Zはそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、メチレン基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
一般式(12):
【0048】
【化12】

【0049】
(式中、X〜Xはそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、R、R10はそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
一般式(13):
【0050】
【化13】

【0051】
(式中、X〜Xはそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
また、ラジカルを有する有機化合物としては、分子内にニトロキシラジカルと酸素ラジカルとの少なくともいずれかを有する有機化合物が挙げられる。具体的には、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、2,2,5,5−テトラメチル−3−イミダゾリウム−1−ロキシに代表されるニトリキシラジカル類、キノン、ベンゾキノンなどのキノン類が挙げられる。
【0052】
以上の種々の有機化合物からなる正極活物質を正極13に用いる形態では、有機化合物に電子伝導性を付与する目的で、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子を化合物と混合して用いることができる。
【0053】
また、正極13に、イオン導電性助剤としてポリエチレンオキシドなどからなる固体電解質、ポリメタクリル酸メチルなどからなるゲル電解質を混合してもよい。
【0054】
さらに有機化合物の結着を目的として、正極13に、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアクリル酸などのバインダーを混合しても良い。
【0055】
上記の電極材料は、一般の電池と同様、金属箔、金属メッシュ、導電性フィラーを含む
樹脂フィルムなどの正極集電体12に付与されるのが好ましい。
【0056】
電解質(図示せず)は電解質化合物を含む溶液、さらに上記電解質溶液をポリアクリロニトリル、アクリレートモノマーあるいはメタクリレートモノマーを含む重合体、エチレンとアクリロニトリルの共重合体を用いてゲル化されたポリマー電解質、あるいは固体電解質が適用される。電解質が溶液の場合は電解質溶液がセパレータ15に含浸されて使用されるのが好ましい。
【0057】
電解質としては、リチウムイオン電池や非水系電気二重層キャパシタに用いることでのできるものが使用可能である。具体的には、以下に挙げるカチオンとアニオンの組み合わせにより形成される塩を用いることができる。カチオン種としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属カチオンやマグネシウムなどのアルカリ土類金属カチオン、テトラエチルアンモニウムや1、3−エチルメチルイミダゾリウムに代表される4級アンモニウムカチオンを用いることができる。アニオン種としては、ハロゲン化物アニオン、過塩素酸アニオンおよびトリフルオロメタンスルホン酸アニオン、四ホウフッ化物アニオン、トリフルオロリン6フッ化物アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン、などが挙げられる。これらは単独あるいは混合して用いることができる。
【0058】
電解質自身が溶液状である場合、必ずしもそれらを溶媒と混合しなくとも、単独で用いることも可能である。電解質自身が固体である場合、以下に挙げるような溶媒に溶解させて用いることが必要である。
【0059】
電解質溶液を形成する溶媒には、リチウムイオン電池や非水系電気二重層キャパシタに用いることでのできるものは使用可能である。具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γブチルラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の非水溶媒が好ましい。これらは単独あるいは混合して用いることができる。
【0060】
その他固体電解質にはLiS−SiS、LiS−B、LiS−P−GeS、ナトリウム/アルミナ(Al)無定形または低相転移温度(Tg)のポリエーテル、無定形フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレンコポリマー、異種高分子ブレンド体ポリエチレンオキサイドなどが挙げられる。なお、いずれも充電時に上記化合物に配位されるカチオンを含むことが必要である。
【0061】
次に負極18について説明する。本発明の実施の形態1における負極18は、負極活物質として、グラファイトや、非晶質炭素材料、リチウム金属、リチウム含有複合窒化物、リチウム含有チタン酸化物、スズ(Sn)、シリコン(Si)、シリコン酸化物(SiOx)、活性炭、カーボンナノチューブなどの炭素化合物または他の金属との複合物を用いることができる。あるいは、本発明の正極材料で挙げた有機化合物も相対的に反応電位の低いものであれば、負極活物質材料として使用できる。
【0062】
本発明の負極活物質である活性炭を負極18に用いる場合には、電子伝導性を付与する目的で、負極18にカーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子を化合物と混合して用いることができる。
【0063】
また負極18に、イオン導電性助剤として、ポリエチレンオキシドなどからなる固体電解質、ポリメタクリル酸メチルなどからなるゲル電解質を混合してもよい。
【0064】
さらに負極活物質の電極への結着を目的として、負極18に、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、アクリロニトリル、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、などのバインダーを混合してもよい。
【0065】
上記の電極材料は、一般の電池と同様、金属箔、金属メッシュ、導電性フィラーを含む
樹脂フィルムなどの負極集電体17に付与されるのが好ましい。
【0066】
本実施の形態1における貫通孔を有する無機多孔質膜14としては、金属酸化物、ガラス、セラミックスのいずれか、もしくはこれらの混合物が使用可能である。熱安定性、化学安定性の観点から、具体的にはシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等が好適に用いられる。これらに混合するものとしては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、アクリロニトリル、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、などのバインダーを用いることができる。
【0067】
貫通孔を有する無機多孔質膜14の配置は、膜状に加工した無機多孔質膜を用いて、図1に示すように正極13とセパレータ15(電解質)との間、またはセパレータ15(電解質)と負極18の間に配置してもよい。また、正極13、セパレータ15、または負極18の表面に直接無機多孔質膜14を合成してもよい。また電解質が固体の場合、固体電解質の表面に直接無機多孔質膜14を合成してもよい。
【0068】
具体的には、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の微粒子を水あるいは有機溶媒に分散させ、得たスラリーを正極13、セパレータ15、または負極18の表面に塗布、乾燥することによって得られる。もしくは、ゾルーゲル法で、正極13、セパレータ15、または負極18の表面に無機多孔質膜14を形成してもよい。具体的には、テトラエトキシシランやチタンテトライソプロポキシドに代表されるような金属アルコキシドを、水溶媒あるいは有機溶媒に溶解させ、加水分解、重縮合して得られたゲルを正極13、セパレータ15、または負極18の表面に塗布、乾燥することによっても得られる。
【0069】
次に、本発明の正極13と負極18との間に貫通孔を有する無機多孔質膜14を有している蓄電デバイスの効果について説明する。
【0070】
貫通孔を有する無機多孔質膜14を正負極間に設けることにより、溶出した活物質が正負極間を自由に動き回ることを抑制することができる。これにより、充電した蓄電デバイスの内部短絡による容量低下を抑制することができる。
【0071】
例えば、正極活物質としてπ電子共役雲を有する有機化合物としてのテトラチアフルバレンを用いた場合、充電時に正極活物質は正の電荷を帯び、電解質に溶出する。正の電荷を帯びた正極活物質は、電解質アニオンや溶媒によって溶媒和された構造体を形成する。これらの正極活物質を含んだ構造体が電解質中を自由に動き回り、正極13表面と負極18表面を往復することによって容量の低下が生じるため、正負極間にこれらの活物質構造体の移動を抑制する無機多孔質膜14を配置することが有効となる。
【0072】
帯電した正極活物質は、正極活物質同士の相互作用やアニオンの配位、溶媒和によって、クラスター構造をとりうる。したがって、配置する無機多孔質膜14の貫通孔の細孔径が小さいことが有効であり、具体的には、50nm以下が好ましい。一方、電解質塩はイオンのサイズが帯電した活物質クラスターと比べて小さいため、無機多孔質膜14の配置による電解質イオンの移動を大きく抑制することはないと思われる。
【0073】
また、無機多孔質膜14は耐熱性、機械強度に優れるため、これを正負極間に設けることにより、正負極間の短絡を防止した高信頼性の蓄電デバイスを提供することができる。
【0074】
(実施の形態2)
以下、本発明を実施するための第2の形態について、図面を用いて説明する。
【0075】
本実施の形態2における蓄電デバイスは、用いる貫通孔を有する無機多孔質膜14の貫通孔表面にイオン性の官能基を有する有機化合物が修飾されていることを除き、実施の形態1と全く同じ構成であるため、同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0076】
図2は本発明の蓄電デバイスに用いる、貫通孔を有する無機多孔質膜14の概略断面図であり、図3は無機多孔質膜14の貫通孔内部の概略図を示す。
【0077】
図2において、無機多孔質膜14には、多数の貫通孔21が開いている。貫通孔21の内部は、図3に示すように、貫通孔21の表面22にイオン性の官能基であるスルホン酸基24を有する有機化合物23が修飾されている。
【0078】
例えば、正極活物質としてπ電子共役雲を有する有機化合物としてテトラチアフルバレンを用いた場合、充電時に正極活物質は正の電荷を帯び、電解質に溶出する。正の電荷を帯びた正極活物質は、電解質アニオンや溶媒によって溶媒和された構造体を形成する。これら活物質構造体は、トータルとして正の電荷を持っているため、無機多孔質膜14にある貫通孔21内部のイオン性の官能基とクーロン相互作用を生じ、無機多孔質膜14内部での自由な運動性が抑制されると考えられる。具体的には、イオン性の官能基がスルホン酸基の場合、無機多孔質膜14内部に電解質を含浸した状態でプロトンを解離し、負の電荷を有するアニオン性官能基(SO)となる。このアニオン性官能基の負の電荷と、溶出した正極活物質の持つ正の電荷によるクーロン引力により、無機多孔質膜14内部の正極活物質は貫通孔の表面22に引き寄せられ、自由な運動性を阻害されることになる。この作用により、溶出した正極活物質の正負極間の移動を抑制し、これによって、充電した蓄電デバイスの内部短絡による容量低下を抑制することができる。
【0079】
貫通孔の表面22に修飾する有機化合物が有するイオン性官能基としては、正の電荷を有する官能基を用いることができる。正の電荷を有する官能基は、カチオンを遊離して、アニオン性を示す官能基であり、スルホン酸基以外にも、リン酸基、カルボン酸基、水酸基、エーテル結合、あるいはこれらのカチオン塩などが挙げられる。
【0080】
本実施の形態2では、貫通孔の表面22に修飾する有機化合物が有するイオン性官能基として、正の電荷を有する官能基の場合で説明したが、用いることのできる官能基はこの限りではなく、逆の電荷を有する官能基である負の電荷を有する官能基でも溶出した正極活物質の正負極間の移動を抑制することができる。
【0081】
負の電荷を有する官能基は、カチオンを受容して、カチオン性を示す官能基であり、アミン基、イミン基、アンモニウム基、あるいはこれらのアニオン塩などが挙げられる。例えば、アンモニウム基である第4級アンモニウム基を有する有機化合物を貫通孔の表面22に修飾した場合、無機多孔質膜14内部に電解液を含浸した状態で、第4級アンモニウム基はカチオンを受容し、カチオン性官能基となる。このカチオン性官能基の正の電荷と、溶出した正極活物質の持つ正の電荷によるクーロン斥力により、無機多孔質膜14内部への正極活物質の侵入が抑制され、溶出した正極活物質の正負極間の自由な移動を抑制し、これによって、充電した蓄電デバイスの内部短絡による容量低下を抑制することができる。
【0082】
無機多孔質膜14の貫通孔の表面22への、イオン性の官能基24を有する有機化合物23の修飾は、シランカップリング反応に代表されるようなカップリング反応により修飾することができる。貫通孔の表面22に存在する水酸基と、シランやチタン等の金属アルコキシドからなるカップリング剤との間の重縮合により、修飾することができる。イオン性官能基を有するカップリング剤を用いて、貫通孔の表面22に修飾してもよいし、貫通孔の表面22に有機化合物を修飾した後、化学反応により有機化合物内部にイオン性官能基24を導入してもよい。
【0083】
また、本実施の形態2では、貫通孔の表面22に分子内に1つのイオン性官能基24を有する有機化合物223を修飾した例を示したが、分子内に複数の官能基を有していてもよいし、貫通孔の表面22に有機化合物を修飾した後、化学反応により官能基を有する有機化合物を重合し、複数の官能基を有する有機化合物を導入してもよい。また、貫通孔の表面22に導入する有機化合物は、高分子であってもよい。
【0084】
以下に本発明の蓄電デバイスについて、実施例とともに詳細に説明する。
【0085】
(実施例1)
実施例1では、蓄電デバイスに用いる貫通孔を有する無機多孔質膜層として、厚み60μm、細孔径20nmのアルミナ多孔質膜(whatman社製、Anopore(商品名))を用いた。
【0086】
(実施例2)
実施例2では、蓄電デバイスに用いる貫通孔を有する無機多孔質膜層として、実施例1と同じアルミナ多孔質膜を用い、貫通孔表面に正の電荷を有する官能基であるスルホン酸基を有する有機化合物を修飾したアルミナ多孔質膜を用いた。
【0087】
アルミナ多孔質膜の貫通孔へのスルホン酸基を有する有機化合物の修飾は以下の方法で行った。
【0088】
まず、有機分子の末端にエポキシ基を含んだアルコキシシラン化合物(CH(−O−)CHCHO(CHSi(OCH)0.1gをトルエン溶媒10mlに溶解し、この溶液にアルミナ多孔質膜(外径47mm)1枚を浸漬して、70℃で2時間反応させた。この工程により、アルミナ多孔質膜の貫通孔表面の水酸基(−OH)と上記アルコキシシラン化合物のアルコキシ基との間で脱アルコール反応が起こり、貫通孔表面への有機化合物を修飾することができた。脱アルコール反応は、(化14)に示す化学式のように進んだと考えられる。なお、(化14)に示す化学式において記載してある「表面」はアルミナ多孔質膜の貫通孔の表面を意味している。また、副生成物のアルコールは省略してある。
【0089】
【化14】

【0090】
次に、アルミナ多孔質膜の貫通孔の表面に修飾した有機化合物にスルホン酸機の導入を行った。スルホン酸基の導入は以下の手順で行った。亜硫酸ナトリウム0.4gを水15mlに溶解し、この溶液に前工程において得られた、表面に有機化合物を導入したアルミナ多孔質膜を浸漬し、70℃で2時間反応させた。これにより、(化15)の化学式に示すように、貫通孔表面にスルホン酸基を導入した。
【0091】
【化15】

【0092】
なお、貫通孔表面に修飾したスルホン酸基は、得られたアルミナ多孔質膜を0.1mol/Lの水酸化リチウム水溶液に浸漬することにより、末端のプロトンをリチウムで置換し、(化16)に示すようなスルホン酸Li塩化した。
【0093】
【化16】

【0094】
(実施例3)
実施例3では、蓄電デバイスに用いる貫通孔を有する無機多孔質膜層として、実施例1と同じアルミナ多孔質膜を用い、貫通孔表面に負の電荷を有する官能基であるアミン基を有する有機化合物を修飾したアルミナ多孔質膜を用いた。
【0095】
アルミナ多孔質膜の貫通孔へのアミン基を有する有機化合物の修飾は以下の方法で行った。
【0096】
まず、有機分子の末端にアミン基を含んだアルコキシシラン化合物(HN−(CHSi(OCH)0.1gをトルエン溶媒10mlに溶解し、この溶液にアルミナ多孔質膜(外径47mm)1枚を浸漬して、70℃で2時間反応させた。この工程により、アルミナ多孔質膜の貫通孔表面の水酸基(−OH)と上記アルコキシシラン化合物のアルコキシ基との間で脱アルコール反応が起こり、貫通孔表面への有機化合物を修飾することができた。脱アルコール反応は、(化17)に示す化学式のように進んだと考えられる。なお、(化17)に示す化学式において記載してある「表面」はアルミナ多孔質膜の貫通孔の表面を意味している。また、副生成物のアルコールは省略してある。
【0097】
【化17】

【0098】
(無機多孔質膜の評価)
実施例1〜3により得られた無機多孔質膜を用い、溶出した活物質の多孔質膜の透過速度を測定した。無機多孔質膜の存在により、溶出した活物質の透過速度が遅い場合、溶出した活物質の多孔質膜内部の自由な運動を抑制していることを意味し、すなわち蓄電デバイスの容量低下を抑制することができることを意味する。
【0099】
溶出した活物質の多孔質膜を透過する透過速度の測定は、以下の方法で行った。
【0100】
測定は図4の評価セルを用いて行った。図4に示す評価セルにおいて、H型のガラスセル71は、間に無機多孔質膜サンプル74を挟み、二つの溶液槽72および73を隔離する構造になっている。無機多孔質膜サンプル74を挟んで一方の溶液槽72には溶出活物質溶液を入れ、他方の溶液槽73には溶出活物質を一切含まない有機溶媒73を入れた。各溶液槽ともに、撹拌子75を入れ、マグネチックスターラで撹拌した。
【0101】
溶液槽72に入れる溶出活物質溶液として、Tris(TTF)Bis(BF)錯体(東京化成製)を0.1重量%溶解させたプロピレンカーボネート(Aldrich製)40mlを用いた。溶液槽73に入れる有機溶媒として、プロピレンカーボネート(Aldrich製)40mlを用いた。
【0102】
一定時間ごとに、溶液槽73中に存在する活物質の濃度を定量して、透過速度を評価した。活物質の濃度の定量は、紫外可視吸光スペクトル測定により行った。
測定結果を図5に示す。
【0103】
図5に示す三角(▲)、四角(■)、菱形(◆)、丸(○)、の各データは順にそれぞれ、無機多孔質膜のない場合、実施例1の無機多孔質膜、実施例2の無機多孔質膜、実施例3の無機多孔質膜の場合のデータである。図8に示すように、無機多孔質膜のない場合はすぐに活物質が透過してしまうのに対し、実施例1の無機多孔質膜を用いた場合、活物質の透過が抑制されていることがわかる。また、実施例2、および3のように多孔質膜の貫通孔表面にそれぞれ、正の電荷を有する官能基、負の電荷を有する官能基を修飾することにより、活物質の透過が抑制されていることがわかる。図8のグラフの傾きが活物質の透過速度を意味し、無機多孔質膜がない場合と比較して、実施例1で99.9%の透過抑制効果が得られた。また、実施例1と比較して、さらに実施例2で20%の抑制効果、実施例3で30%の抑制効果が得られた。
【0104】
このように、正負極間に貫通孔を有する無機多孔質膜層を有する蓄電デバイスを提供することにより、溶出した活物質が正負極間を自由に動き回ることを抑制することができた。これにより蓄電デバイスの内部短絡を抑制することができ、充電した蓄電デバイスの容量低下を抑制することができる。
【0105】
また、正負極間に無機多孔質膜層を設けることは、無機多孔質膜層が耐熱性、機械強度に優れることから、正負極間の短絡を防止した高信頼性の蓄電デバイスを提供することができるということができる。なお、無機多孔層による溶出物の移動抑制効果をより効率よく利用するため、例えば実施例に記載したような剛体の無機多孔膜を用いる場合にはこれを電池に組み込む際、必要に応じて無機多孔層の周囲にシール材を配置しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の蓄電デバイスは、高出力、軽量、高容量な蓄電デバイスを提供することができる。これら蓄電デバイスは、各種携帯機器あるいは、輸送機器、無停電電源などの用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施の形態1における蓄電デバイスを模式的に示した概略断面図
【図2】本発明の実施の形態2における無機多孔質膜の概略断面図
【図3】本発明の実施の形態2における無機多孔質膜の貫通孔内部の概略図
【図4】本発明の実施例における無機多孔質膜を評価するための評価セルの概略図
【図5】本発明の実施例における無機多孔質膜の評価結果を示す図
【符号の説明】
【0108】
11 ケース
12 正極集電体
13 正極
14 無機多孔質膜層
15 セパレータ
16 封口板
17 負極集電体
18 負極
19 ガスケット
21 貫通孔
22 貫通孔の表面
23 有機化合物
24 イオン性の官能基
71 H型ガラスセル
72 溶液槽1
73 溶液槽2
74 無機多孔質膜サンプル
75 撹拌子



【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、電解質と、を含む蓄電デバイスであって、
前記正極活物質と前記負極活物質との少なくともいずれかは、π電子共役雲を有する有機化合物またはラジカルを有する有機化合物を含んでおり、
前記正極と前記負極との間に、貫通孔を有する無機多孔質膜を有していること、を特徴とする蓄電デバイス。
【請求項2】
前記貫通孔の表面は、イオン性の官能基を有する有機化合物が修飾されていること、
を特徴とする請求項1記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記イオン性の官能基は、正の電荷を有する官能基であること、
を特徴とする請求項2記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記イオン性の官能基は、負の電荷を有する官能基であること、
を特徴とする請求項2記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記貫通孔を有する無機多孔質膜は、金属酸化物、ガラスおよびセラミックスからなる群から選ばれるいずれか、もしくはこれらの混合物であること、
を特徴とする請求項2記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
前記貫通孔の表面への前記有機化合物の修飾が、カップリング反応により修飾されていること、
を特徴とする請求項2記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
前記π電子共役雲を有する有機化合物は、一般式(1)あるいは一般式(2)で表わされる構造を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の蓄電デバイス。
一般式(1):
【化1】


(式中、Xは硫黄原子、または酸素原子、R〜Rはそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、R、Rはそれぞれ水素原子、鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
一般式(2):
【化2】


(式中、Xは窒素原子、R〜Rはそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、R5、R6はそれぞれ水素原子、鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
【請求項8】
前記π電子共役雲を有する有機化合物は、一般式(3)で表わされる構造を有する請求項1〜6のいずれかに記載の蓄電デバイス。
一般式(3):
【化3】


(式中、X〜Xはそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、R〜Rはそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
【請求項9】
前記ラジカルを有する有機化合物は、分子内にニトロキシラジカルと酸素ラジカルとの少なくともいずれかを有する、請求項1〜6のいずれかに記載の蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−227136(P2007−227136A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46543(P2006−46543)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】