説明

蓄電装置およびその作製方法

【課題】充放電に伴うシリコンの体積変化に起因する電池特性の劣化を抑制したリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】負極は、粒子状あるいはウィスカ状のシリコンを含有し、シリコン粒子あるいはウィスカの表面は酸化グラフェンを還元して作製された1層乃至50層のグラフェンよりなるカーボン膜で覆われている。このようなカーボン膜は、分子間の結合力の強いsp結合がシリコン表面と概略平行であるため、シリコンが膨張する際においてもカーボン膜が破断することがなく、シリコンの破砕を防止することができる。また、このようにして作製されたカーボン膜は、適度に隙間があり、シリコンが膨張する際に伸縮することができ、さらに、リチウムイオンを透過させることができる。また、シリコンと電解液との反応を防止する効果もある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池あるいはキャパシタ等の蓄電装置に用いる材料および電極に関する。特に、粒子状合金系負極材料を用いる蓄電装置、中でもリチウムイオン二次電池用の負極材料および当該負極材料を使用したリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池用の負極材料としては、グラファイトが広く使用されている。しかし、グラファイトの単位質量当たりの理論放電容量は、炭素原子6個に対してリチウム原子1個が結合するため、372mAh/gしかない。リチウムイオンはグラファイトの層間に挿入されることにより、グラファイトに吸蔵される。
【0003】
この限界を打破するため、リチウムイオン二次電池用の負極材料として、シリコン、ゲルマニウム、アルミニウムあるいはスズ(これらを合金系負極材料という)を用いることが検討されている。シリコン系の負極材料の単位質量当たりの理論放電容量は、シリコン原子1個に対してリチウム原子4個が結合するため、4210mAh/gと極めて大きい。
【0004】
しかし、合金系負極材料は、リチウムと合金を形成することによりリチウムを吸蔵するため、充放電に伴う粒子の体積変化がはなはだしく、電池特性を劣化させるという問題がある(例えば、特許文献1参照)。この問題を避けるためには平均粒径250nm以下、好ましくは20nm以上100nm以下の合金系負極材料の微粒子を用いることが必要である。なお、粒径は一次粒子のものである。
【0005】
また、充放電の際に合金系負極材料と電解液が反応して、電極表面に電解液の分解した化合物膜が形成されることが知られている。このような化合物膜はSEI(Solid Electrolyte Interface)と呼ばれ、電極と電解質の反応を和らげ、安定化させるために必要であると考えられている。しかしながら、その厚さは電極と電解質の組み合わせによって決定されるため、必要以上に厚くなることもある。
【0006】
SEI形成に伴う悪影響としては、クーロン効率の低下、電極と電解液間のリチウムイオン伝導性の低下、電解液の消耗などが挙げられる。
【0007】
また、合金系負極材料は、上述のように粒子状にしたものを集電体上に形成するのであるが、粒子を結合させるためにはバインダーを必要とする。通常のバインダーは高分子有機化合物であり、導電性は著しく悪い。そのため、電池の内部抵抗を増大させる要因ともなる。
【0008】
一般的には従来の電極では、活物質である合金系負極材料以外の材料が15%以上も含まれていた。電池の容量を向上させるには、活物質以外の重量や体積を減少させることが求められる。また、活物質以外の材料(特にバインダー)では、電解液を吸収することにより膨潤して、電極が変形、破壊されることもあり、その対策も求められる。
【0009】
さらに、合金系負極材料粒子の平均粒径が250nm以下であると、バインダー中に合金系負極材料粒子や導電助剤を均等に分散させることが困難となり、より多くのバインダーを必要とする。このため、電極に占める活物質の重量の比率が低下し、また、内部抵抗も増加する。
【0010】
図1(B)には、合金系負極材料を用いた場合の電極の断面模式図を示す。合金系負極材料粒子は微粒子化すると凝集しやすくなり、バインダー中に均等に分散させることが困難となる。そのため、合金系負極材料粒子の密な部分(合金系負極材料粒子が凝集した部分)と疎な部分が生じ、電極に占める活物質の比率が低下する。また、合金系負極材料粒子の密な部分では、導電助剤が存在しない部分があり、その部分での導電性が劣り、容量に寄与できない合金系負極材料粒子が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0253045号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0131915号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一態様は、この問題を解決するためになされたもので、充放電に伴う合金系負極材料粒子の体積変化に起因する電池特性の劣化の抑制された蓄電装置を提供することを目的とする。また、本発明の一態様は、SEIの形成が抑制された蓄電装置を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明の一態様は、充放電特性の優れた蓄電装置を提供することを目的とする。あるいは、信頼性が高く、長期あるいは繰り返しの使用にも耐える蓄電装置を提供することを目的とする。本発明は上記の課題の少なくとも1つを解決する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、表面が1層乃至50層、好ましくは1層乃至20層のグラフェンの層よりなるカーボン膜に覆われた合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカを負極として有し、前記カーボン膜は少なくとも1つの空孔を有することを特徴とする蓄電装置である。ここで前記カーボン膜は、網目状のグラフェン(グラフェンネット)であってもよい。
【0015】
そのような拡がりを有するグラフェンネットを用いた場合の電極の断面模式図を図1(A)に示す。ここでは、複数のグラフェンネットと多数の合金系負極材料粒子があり、グラフェンネットが合金系負極材料粒子にからまることで、合金系負極材料粒子を結合させることができる。あるいは、グラフェンネットに合金系負極材料粒子が詰め込まれた状態とする。
【0016】
グラフェンネットは2次元的な拡がりを有し、また、凹部や凸部も有するため、一部は袋状となる。また、グラフェンネットは上述のように限られた層のグラフェンよりなるため、極めて薄く、したがって、断面は線状になる。
【0017】
グラフェンネットを合金系負極材料粒子と均等に混合させることにより、合金系負極材料粒子間の間隔を、通常のバインダーを用いた場合(図1(B))よりも狭めることができ、電極体積を小さくできる。また、合金系負極材料粒子間には適当な空間が残るが、この部分は、合金系負極材料粒子にリチウムが吸蔵された際に、合金系負極材料粒子が膨張するときの緩衝領域となる。
【0018】
もちろん、グラフェンネットは集電体とも接するため、結果として、集電体と合金系負極材料粒子とを結合させる。その際には、グラフェンネットは集電体と合金系負極材料粒子間の電気伝導も担うことができる。
【0019】
このように、2次元的な拡がりを有し、厚さが無視できるグラフェンネットはバインダーとしても機能する。その結果、これまで必要であったバインダーの含有量を低減させることができる。また、場合によっては、これまで必要であったバインダーを用いることなく電極を構成できる。このため、電極体積や電極重量に占める活物質の比率を向上させることができる。
【0020】
また、グラフェンネットは柔軟性に富み、機械的強度も高いという特色も有する。しかも、図1(A)に示すように、グラフェンネットが合金系負極材料粒子を包み込んでいるため、充電や放電に伴って合金系負極材料粒子の体積が増減しても、合金系負極材料粒子間の結合を維持できる。
【0021】
また、グラフェンネットは電解液を吸収する能力は低く、そのため、電解液中において、グラフェンネットが膨潤することはない。結果として電極が変形、破壊されることを抑制できる。
【0022】
なお、グラフェンネット以外に、グラフェンネットの体積の0.1倍以上10倍以下のアセチレンブラック粒子や1次元の拡がりを有するカーボン粒子(カーボンナノファイバー等)、公知のバインダーを有してもよい。
【0023】
上記において、合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカを覆うカーボン膜は酸化グラフェンをその表面に形成した後、これを還元して得られたものとすることが好ましい。また、上記において、カーボン膜に含まれる炭素と水素以外の元素は15原子%以下であることが好ましい。また、カーボン膜には炭素以外に30原子%以下の他の元素が含まれていてもよい。
【0024】
前記カーボン膜と合金系負極材料粒子と混合することにより、導電性と、合金系負極材料粒子間の結合性、粒子の分散性の少なくとも1つを改善させることができる。なお、本明細書では、グラフェンとは、sp結合を有する厚さ1原子層の炭素分子のシートのことをいう。なお、グラファイトは、複数のグラフェンがファンデルワールス力により結合したものである。
【0025】
また、本発明の一態様は、合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカとカーボン膜の前駆体(例えば、酸化グラフェン)を混合する工程と、この混合物を真空(100Pa以下)中あるいは還元性雰囲気中で加熱する工程とを有する蓄電装置の作製方法である。
【0026】
また、本発明の一態様は、カーボン膜の前駆体を分散させた溶液中に、合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカを浸漬する工程と、その後、合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカを真空(100Pa以下)中あるいは還元性雰囲気中で加熱する工程とを有する蓄電装置の作製方法である。
【0027】
また、本発明の一態様は、カーボン膜の前駆体を分散させた溶液中に、合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカと電極を浸漬し、合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカと電極間に電圧を加える工程と、合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカを真空中(100Pa以下)あるいは還元性雰囲気中で加熱する工程とを有する蓄電装置の作製方法である。
【0028】
その際、前駆体は特段、大きな拡がりを有すること、あるいは高分子化合物であることは求められないが、加熱する過程において、前駆体同士が結合し、重合あるいは高分子化して、より広い立体的なカーボン膜のネットワーク(グラフェンネット)を形成する。
【0029】
なお、本明細書でグラフェンネットと称するものは純然たる2次元構造である必要はなく、部分的に立体構造を有してもよい。例えば、一のグラフェンのある場所に他のグラフェンが結合して一体となったようなものもグラフェンネットと称する。
【0030】
なお、上記においてグラフェンネットの前駆体として酸化グラフェンを用いる場合には、酸化グラフェンの大きさは1辺の長さが10μm以下のものを用いるとよい。このような酸化グラフェンは上記の加熱の際に互いに結合して、大きな面積のカーボン膜となるが、その際、適度な空孔や隙間が形成される。
【0031】
また、上記において、合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカの表面には、カーボン膜とは異なる材料の層が単層あるいは複数層形成されていてもよい。そのような材料の層には導電性のよいものを用いるとよい。また、合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカとの密着性およびカーボン膜との密着性がともに良好なものであってもよい。
【0032】
さらに、上記においてカーボン膜の上に、カーボン膜とは異なる材料の層が単層あるいは複数層形成されていてもよい。また、カーボン膜とは異なる材料の層の上にカーボン膜を形成してもよい。その際、カーボン膜とは異なる材料の層は、カーボン膜が剥離することを防止するような応力緩和作用を有することが好ましい。
【0033】
また、上記においてカーボン膜の上に、さらに酸化グラフェン等の前駆体の層を形成し、これを還元して別のカーボン膜を形成してもよい。
【発明の効果】
【0034】
上記構成のいずれかによれば、充放電に伴い合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカの体積変化が発生しても、カーボン膜が合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカを覆っているため、合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカの破砕を防止でき、充放電に伴う合金系負極材料粒子の体積変化に起因する蓄電装置の劣化が抑制される。
【0035】
特に、上記構成において、カーボン膜は、分子間の結合力の強いsp結合が合金系負極材料表面と概略平行であるため、合金系負極材料が膨張する際においても、カーボン膜が破断することが防止できる。加えてカーボン膜は、適度に空孔や隙間があり、合金系負極材料が膨張する際に伸縮することができ、さらに、このような空孔や隙間はリチウムイオンを透過させることができる。
【0036】
なお、200層以上のグラフェンの層よりなるカーボン膜は、必ずしもsp結合が合金系負極材料表面と平行とならないため、機械的強度に問題があることがある。また、本発明者の観察の結果、例えば、65層、および108層のグラフェンの層よりなるカーボン膜は、合金系負極材料表面から剥離しやすいことが認められ、剥離の程度は108層のグラフェンの層よりなるカーボン膜で大きかった。一方、17層、43層のグラフェンの層よりなるカーボン膜では剥離は認められなかった。
【0037】
したがって、51層以上のグラフェンの層よりなるカーボン膜は、合金系負極材料が膨張する際において破断・剥離することがあり、そのような場合には、膨張した合金系負極材料が破砕してしまうことがある。なお、合金系負極材料表面に別の材料の膜が形成されて、カーボン膜との密着性が向上している場合にはこの限りではない。
【0038】
より柔軟なカーボン膜を得るためには、20層以下のグラフェンの層よりなるカーボン膜を用いればよい。また、酸素の濃度のより高いものが好ましく、酸素濃度が5原子%以上15原子%以下であるものを用いるとよい。なお、カーボン膜の導電性を重視する場合には、酸素濃度の低いものが望ましく、酸素濃度が1原子%以下であるものを用いるとよい。
【0039】
また、上記の構成を有することで電極の密度を高めることができ、また、活物質と集電体間の抵抗を低減させることができる。特に、電池では電極の抵抗(内部抵抗)が小さい方が有利であり、これは、一時的に大電力が必要な用途に向いている。上記構成はその目的に好適である。
【0040】
例えば、電気自動車の電源は、平坦地を走行するときには、比較的、電力消費量が少ない。しかしながら、急加速するときや、坂を上るときは多くの電力を消費する。その際、電源は多くの電流を流す必要があるが、内部抵抗が大きいと、電圧降下が著しくなり、また、内部抵抗による損失も発生する。また、その際には、電池の重量が大きいと損失も大きくなる。
【0041】
その結果、そのような状況では、本来使用できる電力の何割かは損失となってしまう。例えば、二次電池を電源とする場合は、蓄えたはずの電力は、平坦地走行であればほぼ100%使用できるのに、登坂時や加速時には、その何割かが失われてしまう。内部抵抗を下げ、電池の重量を低減する(あるいは電池容量を増加させる)ことで、そのような損失を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1(A)は本発明の一態様の電極の断面模式図であり、図1(B)は電極の断面模式図である。
【図2】実施例1に関する図である。
【図3】実施例2に関する図である。
【図4】実施例3における試料Aおよび試料Bの特性を説明する図である。
【図5】蓄電装置の例を示す図である。
【図6】蓄電装置のさまざまな利用形態を説明するための図である。
【図7】実施例3に関する図である。
【図8】加熱に伴う酸化グラフェンの重量変化、熱流量の変化および二酸化炭素の放出量を示す図である。
【図9】加熱に伴う酸化グラフェンの赤外分光スペクトルの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、実施の形態について説明する。但し、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨およびその範囲から逸脱することなくその形態および詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0044】
(実施の形態1)
本実施の形態では、合金系負極材料としてシリコンを用い、シリコン粒子の表面に1層乃至50層のグラフェンの層よりなるカーボン膜を形成する例について説明する。最初に、グラファイトを酸化して、酸化グラファイトを作製し、これに超音波振動を加えることで酸化グラフェンを得る。詳細は特許文献2を参照すればよい。また、市販の酸化グラフェンを利用してもよい。グラファイトより酸化グラフェンを得るには以下のようにおこなうとよい。
【0045】
まず、鱗片状グラファイト等のグラファイトを酸化して、酸化グラファイトを得る。酸化グラファイトとは、グラファイトがところどころ酸化されて、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の官能基が結合したものであり、グラファイトの結晶性が損なわれ、グラフェン間の距離も大きくなっている。そのため、超音波処理等によって、容易に、層間が分離する。
【0046】
その結果、グラフェンに相当する炭素のシートが1層乃至50層積層した酸化グラフェンが得られる。なお、酸化グラフェンは官能基により周囲が終端されているため、水やクロロホルムやN,N−dimethylformamide(DMF)やN−methylpyrrolidone(NMP)等の極性溶媒中に懸濁させることができる。超音波処理後に得られた酸化グラフェンを含む溶液を乾燥して、粉末状の酸化グラフェンを得る。
【0047】
次に、酸化グラフェンとシリコン粒子を混合する。酸化グラフェンの割合は、全体の1重量%乃至15重量%、好ましくは1重量%乃至5重量%とするとよい。なお、シリコン粒子の表面には銅等の導電性のよい材料の層を予め形成しておいてもよい。シリコンの平均粒径は250nm以下、好ましくは20nm乃至100nmとする。
【0048】
さらに、真空中あるいは不活性ガス(窒素あるいは希ガス等)中等の還元性の雰囲気で150℃以上、好ましくは200℃以上の温度で加熱する。温度によっては、大気中で加熱してもよい。加熱する温度が高いほど、また、加熱する時間が長いほど、酸化グラフェンがよく還元され、純度の高い(すなわち、炭素以外の元素の濃度の低い)グラフェンが得られる。なお、酸化グラフェンは150℃で還元されることがわかっている。
【0049】
図8(A)は、上記の方法で作製された酸化グラフェンを還元性雰囲気中(ヘリウム中)で室温から1000℃まで昇温レート+2℃/分で加熱した際の重量変化(実線)と熱流量の変化(点線)を示す。200℃付近には大きな重量減少を伴う発熱ピークが確認され、何らかの化学変化が生じていることが示された。
【0050】
上記の測定の際に放出される分子を質量分析法で分析した。図8(B)は、その結果のうち質量数44の分子(二酸化炭素と推定される)の放出量を示す。ここでも、やはり200℃付近で急激に質量数44の分子が放出される様子が観察された。
【0051】
また、図には示されないが、質量数12(炭素原子であるが、質量分析の際に炭素を含む分子が分解して生成したものと推定される)、質量数16(酸素原子と推定される)、質量数18(水と推定される)もやはり200℃付近で非常に多く観測され、この温度で酸化グラフェンから酸素および水素が炭素と共に脱離していること、すなわち還元反応が起こることが示唆される。
【0052】
なお、グラファイトを酸化するため、グラファイトを硫酸で処理するため、多層酸化グラファイトは、スルホン基等も結合しているが、この分解(脱離)は、200℃から300℃前後で開始することが明らかとなった。したがって、酸化グラフェンの還元は200℃以上、好ましくは300℃以上でおこなうことが好ましい。
【0053】
高温になるほど、還元が進み、得られるグラフェンネットの炭素の比率が高まる。また、欠陥の修復も進み、導電性がよくなる。なお、得られるグラフェンの電子伝導性を高めるためには、高温での処理が好ましい。例えば、加熱温度100℃(1時間)では多層グラフェンの抵抗率は240MΩcm程度であるが、加熱温度200℃(1時間)では4kΩcmとなり、300℃(1時間)では2.8Ωcmとなる。
【0054】
このようにしてシリコン粒子の表面に形成された酸化グラフェンは還元され、グラフェンの層よりなるカーボン膜となる。その際、隣接するグラフェン同士が結合し、より巨大な網目状あるいはシート状のネットワーク(グラフェンネット)を形成する。このようにして形成されたカーボン膜は、適度に空孔や隙間がある。
【0055】
以上の処理を経たシリコン粒子を適切な溶媒(水やクロロホルムやN,N−dimethylformamide(DMF)やN−methylpyrrolidone(NMP)等の極性溶媒が好ましい)に分散させスラリーを得る。このスラリーを用いて二次電池を作製できる。
【0056】
また、シリコン粒子と酸化グラフェンを混合したスラリーを形成し、集電体に塗布した後、酸化グラフェンを還元してもよい。シリコン粒子と酸化グラフェンを混合する際、シリコン粒子の比率が混合物の90wt%以上、好ましくは95wt%以上となるようにするとよい。
【0057】
混合する前に酸化グラフェンのみを水あるいはNMP等の溶液に懸濁させてもよい。その後、シリコン粒子を混合することでスラリーが得られる。アセチレンブラック等の他の導電助剤やバインダーを適宜、混入してもよい。
【0058】
得られたスラリーを集電体上に塗布する。厚さは、任意に設定できるが、1μm乃至1mmとするとよい。その後、スラリーを乾燥させる。乾燥後は必要に応じてプレスしてもよい。
【0059】
その後、真空中あるいは還元性雰囲気中で酸化グラフェンを還元する。その際、グラフェンネットが形成され、このグラフェンネット内にシリコン粒子が取り込まれるため、結果的にシリコン粒子間の結合力が高められる。すなわち、グラフェンのネットがバインダーとして機能する。
【0060】
なお、カーボン膜(グラフェンネット)は、還元温度により、上述のように導電性が変化するが、それ以外にも柔軟性や強度等も変化する。必要とする導電性、柔軟性、強度等を考慮して、還元温度を決定すればよい。また、導電性が十分でないグラフェンネットをバインダーの代わりに使用するのであれば、導電性を補うために公知の導電助剤を必要量添加することが好ましい。
【0061】
なお、本発明者の検討の結果、150℃でも長時間の加熱により還元が進行することが明らかとなっている。図9には、酸化グラフェンを150℃で1時間加熱した場合と、10時間加熱した場合の、赤外線分光(透過率)の結果を示す。150℃で1時間加熱しただけであれば、C=O結合や、C=C結合、C−O結合等に伴う、多くの吸収が見られるが、10時間加熱したものでは、上記の炭素と酸素の結合に伴う吸収が減少する。
【0062】
図5はコイン型の二次電池の構造を示す模式図である。図5に示すように、コイン型の二次電池は、負極104、陽極132、セパレータ110、電解液(図示せず)、筐体106および筐体144を有する。このほかにはリング状絶縁体120、スペーサー140およびワッシャー142を有する。
【0063】
負極104は、負極集電体100上に負極活物質層102を有する。負極集電体100としては、例えば銅を用いるとよい。負極活物質としては、上記スラリー単独、あるいはバインダーで混合したものを負極活物質層102として用いるとよい。
【0064】
陽極集電体128の材料としては、アルミニウムを用いるとよい。陽極活物質層130は、陽極活物質の粒子をバインダーや導電助剤ともに混合したスラリーを陽極集電体128上に塗布して、乾燥させたものを用いればよい。
【0065】
陽極活物質の材料としては、コバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、珪酸マンガンリチウム、珪酸鉄リチウム等を用いることができるが、これに限らない。活物質粒子の粒径は20nm乃至100nmとするとよい。また、陽極活物質の作製時にグルコース等の炭水化物を混合して、陽極活物質粒子にカーボンがコーティングされるようにしてもよい。この処理により導電性が高まる。
【0066】
電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒にLiPFを溶解させたものを用いるとよいが、これに限られない。
【0067】
セパレータ110には、空孔が設けられた絶縁体(例えば、ポリプロピレン)を用いてもよいが、リチウムイオンを透過させる固体電解質を用いてもよい。
【0068】
筐体106、筐体144、スペーサー140およびワッシャー142は、金属(例えば、ステンレス)製のものを用いるとよい。筐体106および筐体144は、負極104および陽極132を外部と電気的に接続する機能を有している。
【0069】
これら負極104、陽極132およびセパレータ110を電解液に含浸させ、図5に示すように、筐体106の中に負極104、セパレータ110、リング状絶縁体120、陽極132、スペーサー140、ワッシャー142、筐体144をこの順で積層し、筐体106と筐体144とを圧着してコイン型の二次電池を作製する。
【0070】
本実施の形態では、合金系負極材料として、シリコンを例に取ったが、他の合金系負極材料であっても同様に実施できる。
【0071】
(実施の形態2)
本実施の形態では、集電体上に形成されたシリコン活物質層の表面に1層乃至50層のグラフェンの層よりなるカーボン膜を形成する例について説明する。最初に、酸化グラフェンを水やNMP等の溶媒に分散させる。溶媒は極性溶媒であることが好ましい。酸化グラフェンの濃度は1リットル当たり0.1g乃至10gとすればよい。
【0072】
この溶液にシリコン活物質層を集電体ごと浸漬し、これを引き上げた後、乾燥させる。なお、シリコン活物質層の表面には銅等の導電性のよい材料の層を予め形成しておいてもよい。さらに、真空中あるいは不活性ガス(窒素あるいは希ガス等)中等の還元性の雰囲気で150℃以上、好ましくは200℃以上の温度で加熱する。以上の工程により、シリコン活物質層表面に1層乃至50層のグラフェンの層よりなるカーボン膜を形成することができる。
【0073】
なお、このようにして一度、カーボン膜を形成した後、もう一度、同じ処理を繰り返して、さらに同様に1層乃至50層のグラフェンの層よりなるカーボン膜を形成してもよい。同じことを3回以上繰り返してもよい。このように多層のカーボン膜を形成するとカーボン膜の強度が高くなり、シリコンの膨張に対する破断をより抑制できる。
【0074】
なお、一度に厚いカーボン膜を形成する場合には、カーボン膜のsp結合の向きに乱雑さが生じ、カーボン膜の強度が厚さに比例しなくなるが、このように何度かに分けてカーボン膜を形成する場合には、カーボン膜のsp結合が概略シリコンの表面と平行であるため、厚くするほどカーボン膜の強度が増す。
【0075】
(実施の形態3)
本実施の形態では、集電体上に形成されたシリコン活物質層の表面に1層乃至50層のグラフェンの層よりなるカーボン膜を形成する別の例について説明する。実施の形態2と同様に、酸化グラフェンを水やNMP等の溶媒に分散させる。酸化グラフェンの濃度は1リットル当たり0.1g乃至10gとすればよい。
【0076】
酸化グラフェンを分散させた溶液にシリコン活物質層が形成された集電体を入れ、これを陽極とする。なお、シリコン活物質層の表面には銅等の導電性のよい材料の層を予め形成しておいてもよい。また、溶液に負極となる導電体を入れ、陽極と負極の間に適切な電圧(例えば、5V乃至20V)を加える。酸化グラフェンは、ある大きさのグラフェンシートの端の一部がカルボキシル基(−COOH)で終端されているため、水等の溶液中では、カルボキシル基から水素イオンが離脱し、酸化グラフェン自体は負に帯電する。そのため、陽極に引き寄せられ、付着する。なお、この際、電圧は一定でなくてもよい。陽極と負極の間を流れる電荷量を測定することで、シリコン活物質層に付着した酸化グラフェンの層の厚さを見積もることができる。
【0077】
必要な厚さの酸化グラフェンが得られたら、集電体を溶液から引き上げ、乾燥させる。さらに、真空中あるいは不活性ガス(窒素あるいは希ガス等)中等の還元性の雰囲気で150℃以上、好ましくは200℃以上の温度で加熱する。温度によっては、大気中で加熱してもよい。このようにしてシリコン活物質の表面に形成された酸化グラフェンは還元され、グラフェンとなる。その際、隣接するグラフェン同士が結合し、より巨大な網目状あるはシート状のネットワークを形成する。
【0078】
上記のように形成されたグラフェンは、シリコン活物質に凹凸があっても、その凹部にも凸部にもほぼ均一な厚さで形成される。このようにして、シリコン活物質層の表面に1層乃至50層のグラフェンの層よりなるカーボン膜を形成することができる。
【0079】
なお、このようにカーボン膜を形成した後に、本実施の形態の方法によるカーボン膜の形成や、実施の形態2の方法によるカーボン膜の形成を2回以上おこなってもよい。
【0080】
(実施の形態4)
本発明の蓄電装置は、例えば、電気自動車、電動工具、パーソナルコンピュータ、携帯電話、非常用電源等で使用できる。これらの電気機器は、有線で電源を供給されるとは限らないため、内部に充電池を有する。その充電池の負極の活物質として、例えば、実施の形態1乃至実施の形態3で示したグラフェンの層よりなるカーボン膜で表面が覆われたシリコン粒子あるいはウィスカを用いればよい。
【0081】
その他にも、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いた電子機器・電気機器の具体例として、表示装置、照明装置、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記憶された静止画または動画を再生する画像再生装置、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器、電気洗濯機、エアコンディショナーなどの空調設備、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫、透析装置などが挙げられる。
【0082】
また、蓄電装置からの電力を用いて電動機により推進する移動体なども、電子機器・電気機器の範疇に含まれるものとする。上記移動体として、例えば、電気自動車、内燃機関と電動機を併せ持った複合型自動車(ハイブリッドカー)、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車などが挙げられる。
【0083】
なお、上記電子機器・電気機器は、消費電力の殆ど全てを賄うための蓄電装置(主電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電子機器・電気機器は、商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電子機器・電気機器への電力の供給をおこなうことができる蓄電装置(無停電電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。
【0084】
或いは、上記電子機器・電気機器は、上記主電源や商用電源からの電子機器・電気機器への電力の供給と並行して、電子機器・電気機器への電力の供給をおこなうための蓄電装置(補助電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。
【0085】
図6に、上記電子機器・電気機器の具体的な構成を示す。図6において、表示装置201は、本発明の一態様に係る蓄電装置205を用いた電子機器・電気機器の一例である。具体的に、表示装置201は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体202、表示部203、スピーカー部204、蓄電装置205等を有する。本発明の一態様に係る蓄電装置205は、筐体202の内部に設けられている。
【0086】
表示装置201は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置205に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置205を無停電電源として用いることで、表示装置201の利用が可能となる。
【0087】
表示部203には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0088】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0089】
図6において、据え付け型の照明装置211は、本発明の一態様に係る蓄電装置214を用いた電気機器の一例である。具体的に、照明装置211は、筐体212、光源213、蓄電装置214等を有する。図6では、蓄電装置214が、筐体212及び光源213が据え付けられた天井215の内部に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置214は、筐体212の内部に設けられていても良い。
【0090】
照明装置211は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置214に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置214を無停電電源として用いることで、照明装置211の利用が可能となる。
【0091】
なお、図6では天井215に設けられた据え付け型の照明装置211を例示しているが、本発明の一態様に係る蓄電装置は、天井215以外、例えば側壁216、床217、窓218等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0092】
また、光源213には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0093】
図6において、室内機221及び室外機225を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る蓄電装置224を用いた電気機器の一例である。具体的に、室内機221は、筐体222、送風口223、蓄電装置224等を有する。図6では、蓄電装置224が、室内機221に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置224は室外機225に設けられていても良い。或いは、室内機221と室外機225の両方に、蓄電装置224が設けられていても良い。
【0094】
エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置224に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機221と室外機225の両方に蓄電装置224が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置224を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0095】
なお、図6では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることもできる。
【0096】
図6において、電気冷凍冷蔵庫231は、本発明の一態様に係る蓄電装置235を用いた電気機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫231は、筐体232、冷蔵室用扉233、冷凍室用扉234、蓄電装置235等を有する。図6では、蓄電装置235が、筐体232の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫231は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置235に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置235を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫231の利用が可能となる。
【0097】
なお、上述した電子機器・電気機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電気機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることで、電気機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0098】
また、電子機器・電気機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、蓄電装置に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫231の場合、気温が低く、冷蔵室用扉233、冷凍室用扉234の開閉がおこなわれない夜間において、蓄電装置235に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉233、冷凍室用扉234の開閉がおこなわれる昼間において、蓄電装置235を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【実施例1】
【0099】
本実施例では、ウィスカ状のシリコン表面に実施の形態2で示した浸漬法によりグラフェンを形成した試料について説明する。ウィスカ状のシリコンは集電体(チタンシート)上に形成され、図2(A)に示すような表面形状をしている。
【0100】
酸化グラフェンを分散させた水溶液は以下のように作製した。グラファイト(鱗片カーボン)と濃硫酸を混合したものに、過マンガン酸カリウムを加えた後、2時間撹拌した。その後、純水を加え、加熱しつつ15分撹拌し、さらに過酸化水素水を加えることで、酸化グラファイトを含む黄褐色の溶液を得た。さらに、これを濾過し、塩酸を加えた後、純水で洗浄した。そして、超音波処理を2時間おこない、酸化グラファイトを酸化グラフェンにし、酸化グラフェンを分散させた水溶液を得た。
【0101】
そして、この水溶液に上記のウィスカ状のシリコンをチタンシートごと浸漬し、引き上げた。これを乾燥させ、さらに、真空中(0.1Pa以下)、300℃で10時間加熱した。このようにして作製した試料の表面を観察したものを図2(B)に示す。
【0102】
図2(B)に示されるように、ウィスカ状のシリコンの凹部はグラフェンの層に覆われている。また、このグラフェンの層は、ウィスカ状のシリコンの凸部と凸部の間をつなぐように形成されていることがわかった。
【0103】
ウィスカ状のシリコンがどのくらいの厚さのグラフェンで覆われているか確かめるため、断面TEM観察をおこなった。2箇所の断面を観察した。図2(C)に示される部分では、グラフェンの厚さは6.8nmであった。また、図2(D)に示される部分では、グラフェンの厚さは17.2nmであった。
【実施例2】
【0104】
本実施例では、ウィスカ状のシリコン表面に実施の形態3で示した電気泳動法によりグラフェンを形成した試料について説明する。ウィスカ状のシリコンは実施例1で用いたものと同じである。また、実施例1で用いたものと同じ酸化グラフェンの水溶液を用意する。
【0105】
この水溶液に、上記のウィスカ状のシリコンをチタンシートごと浸漬し、また、別の電極としてステンレス板を浸漬した。チタンシートとステンレス板との距離は約1cmとした。そして、チタンシートを陽極、ステンレス板を負極として、10Vの電圧を5分間かけた。この間に流れた電荷量は0.114Cであった。
【0106】
その後、チタンシートを取り出し、乾燥させ、さらに、真空中(0.1Pa以下)、300℃で10時間加熱した。このようにして試料を作製した。得られたウィスカ状のシリコンの表面を観察したものを図3に示す。初期状態(図2(A))と目立った違いが認められないが、写真の中央部には膜状の物体が、ウィスカ間にかかっている様子が認められる。また、ところどころ、ウィスカ表面に黒い部分があり、グラフェンの厚い部分であると考えられる。
【0107】
ラマン分光法より、グラフェンの特徴であるDバンドおよびGバンドのピークがウィスカのどの箇所を測定しても認められたことから、ウィスカ表面のほぼ全面がグラフェンで覆われていると考えられる。
【0108】
電気泳動法では、グラフェンの層の厚さは電荷量で制御できるので極めて再現性がよかった。このように、実施の形態3で示される電気泳動法によるグラフェンの層の形成は極めて均一におこなえることが示された。
【実施例3】
【0109】
本実施例では、ウィスカ状のシリコン表面にグラフェンを形成し、これをリチウムイオン二次電池の負極として用いた場合と、表面に何の処理も施さなかった場合とを比較する。リチウムイオン二次電池に用いられる電解液は、シリコン負極と反応して、電極表面にSEIが形成されることが知られている。
【0110】
本実施例では、試料Aと試料Bの2種類の試料を用意した。試料Aは表面に何の処理も施さなかったウィスカ状のシリコンであり、初期の表面の状態は図2(A)に示されるものと同等である。試料Bは実施例2に示した方法で表面にグラフェンを形成したウィスカ状のシリコンで、初期の表面の状態は図3に示されるものと同等である。
【0111】
次に、試料Aおよび試料Bに関してサイクリックボルタンメトリー測定(CV測定)を1回おこない、その後のウィスカ状のシリコンの表面の様子を観察した。CV測定は三極式のビーカーセル(作用極:試料Aあるいは試料B、参照極:金属リチウム、対極:金属リチウム、電解液:六フッ化リン酸リチウム(LiPF)のエチレンカーボネート(EC)溶液(1mol/L)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液(体積比1:1))を用いて、走査速度0.1mV/秒でおこなった。
【0112】
図4(A)には、上記のCV測定(走査範囲0V〜1V(vs.Li/Li))を1サイクルおこなった後の試料Aの表面の様子を示す。また、図4(B)には上記のCV測定(走査範囲0V〜1V(vs.Li/Li))を10サイクルおこなった後の試料Bの表面の様子を示す。
【0113】
図4(A)と図2(A)を比較してわかるように、試料Aの表面には、SEIが厚く形成され、元のウィスカ状のシリコンの形状を確認することは困難である。一方、図4(B)と図3あるいは、図4(B)と図4(A)を比較してわかるように、試料Bの表面のSEIは試料Aほど厚くは形成されなかった。
【0114】
上記の試料Aあるいは試料Bを陽極、金属リチウムを負極、電解液として、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)のエチレンカーボネート(EC)溶液(1mol/L)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液(体積比1:1)を用い、セパレータとして、微細な穴のあいたポリプロピレンを用いたコインセルを作製した。そしてコインセルの充放電をおこない、リチウムの放出と吸収に伴う容量の変化を測定した。充放電に際しては、1サイクル目の電流値は50μA、2サイクル目以降は4mAとした。
【0115】
図7(A)に示すように、リチウムの放出と吸収を繰り返すと、試料A、試料Bとも容量が低下するが、10サイクル以降は試料Bの方では容量が増加し、試料Aよりも大きくなった。図7(B)には、30サイクル目のリチウムの放出(あるいは吸収)に伴う電位の変動と容量の関係を示す。試料Bの方が試料Aよりもより多くのリチウムを放出でき、また、より多くのリチウムを吸収できることがわかる。これは、試料BではSEIが薄く形成されたことによるものと考えられる。
【符号の説明】
【0116】
100 負極集電体
102 負極活物質層
104 負極
106 筐体
110 セパレータ
120 リング状絶縁体
128 陽極集電体
130 陽極活物質層
132 陽極
140 スペーサー
142 ワッシャー
144 筐体
201 表示装置
202 筐体
203 表示部
204 スピーカー部
205 蓄電装置
211 照明装置
212 筐体
213 光源
214 蓄電装置
215 天井
216 側壁
217 床
218 窓
221 室内機
222 筐体
223 送風口
224 蓄電装置
225 室外機
231 電気冷凍冷蔵庫
232 筐体
233 冷蔵室用扉
234 冷凍室用扉
235 蓄電装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が1層乃至50層のグラフェンの層よりなるカーボン膜に覆われた合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカを負極として有し、前記カーボン膜は少なくとも1つの空孔を有することを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
前記合金系負極材料粒子あるいは前記合金系負極材料ウィスカを覆うカーボン膜は酸化グラフェンをその表面に形成した後、これを還元して得られた請求項1記載の蓄電装置。
【請求項3】
前記カーボン膜に含まれる炭素と水素以外の元素は15原子%以下であることを特徴とする請求項1もしくは請求項2記載の蓄電装置。
【請求項4】
前記合金系負極材料粒子あるいは前記合金系負極材料ウィスカ表面はカーボン膜とは異なる材料の層が単層あるいは複数層形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の蓄電装置。
【請求項5】
合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカと酸化グラフェンを混合する工程と、
前記混合物を真空中あるいは還元性雰囲気中で加熱する工程と
を有する蓄電装置の作製方法。
【請求項6】
酸化グラフェンを分散させた溶液中に、合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカを浸漬する工程と、
前記合金系負極材料粒子あるいは前記合金系負極材料ウィスカを真空中あるいは還元性雰囲気中で加熱する工程と
を有する蓄電装置の作製方法。
【請求項7】
酸化グラフェンを分散させた溶液中に、合金系負極材料粒子あるいは合金系負極材料ウィスカと電極を浸漬し、前記合金系負極材料粒子あるいは前記合金系負極材料ウィスカと前記電極間に電圧を加える工程と、
前記合金系負極材料粒子あるいは前記合金系負極材料ウィスカを真空中あるいは還元性雰囲気中で加熱する工程と
を有する蓄電装置の作製方法。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−30462(P2013−30462A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−125608(P2012−125608)
【出願日】平成24年6月1日(2012.6.1)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】