説明

薄板樹脂成形品のバリ処理方法

【課題】薄板樹脂成形品の周縁部に発生するバリを、バリ片を生じさせることなく容易に処理する方法を提供する。
【解決手段】薄板樹脂成型品12bが光吸収する波長のレーザビーム30sを用いて、バリが存在する薄板樹脂成形品12bの端面に前記レーザービーム30sを入射し、前記端面に一様に照射できるように前記レーザービーム30sを走査し、前記レーザービーム30sの光吸収により、前記薄板樹脂成形品12bの端面に存在するバリを溶融収縮させてその端面に固着させることによりバリを処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板樹脂成形品のバリ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイの表示面には、導光板(光散乱板)等、シート状ないしフィルム状で透光性を有する薄板樹脂成形品が配置されている。これら透光性を有する薄板樹脂成形品は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を含むアクリル樹脂やポリカーボネート(PC)からなり、板厚はおよそ1.0mm以下である。
【0003】
通常、薄板樹脂成形品は、加熱溶融した樹脂を所望形状の型枠に流し込み、加圧下で冷却凝固させることにより成形される。このとき、溶融状態の樹脂が、型枠の微細な凸凹、ないし間隙に入り込み、薄板樹脂成形品の周縁部にバリと呼ばれる微細な余剰部分が発生しうる。このようなバリは、成形加工条件により改善することが困難である。
【0004】
一般的に、薄板樹脂成形品の周縁部に発生するバリは、ワイピングクロス等で擦ることにより、除去される。除去されたバリ片は、成形品の主要面に付着する可能性がある。成形品が液晶ディスプレイに用いられる導光板などである場合、導光板の主要面にこのようなバリ片が付着していると、バリ片が光散乱源となり、液晶ディスプレイの表示品質を低下させる可能性がある。バリ片は微細であり、肉眼で確認し、取り除くことは困難である。薄板樹脂成形品の周縁部に発生するバリを、バリ片を生じさせることなく、処理する方法が望まれる。
【0005】
特許文献1には、樹脂成形品に発生するバリに、レーザ光を直接照射し、バリを加熱・気化させて除去する方法が開示されている。しかし、薄板樹脂成形品に発生するバリは視認できないほどに微細であり、バリに直接レーザ光を照射することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−114458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、薄板樹脂成形品の周縁部に発生するバリを、バリ片を生じさせることなく容易に処理する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1観点によれば、
工程a)薄板樹脂成形品と、前記薄板樹脂成形品が光吸収する波長のレーザビームを出射し、前記レーザビームの出射方向において該レーザビームを所望の方向に、所望の速度で走査することができるレーザ光源と、を用意する工程と
工程b)前記薄板樹脂成形品の所定端面と、前記レーザ光源のレーザビーム出射方向とを対向して配置する工程と、
工程c)前記レーザビームを、前記端面に入射し、前記端面が一様に照射されるよう走査する工程と、を含み、
前記工程c)において、前記レーザビームの光吸収により、前記端面に存在しうるバリが溶融収縮して該端面に固着する薄板樹脂成形品のバリ処理方法、が提供される。
【発明の効果】
【0009】
薄板樹脂成形品の周縁部に発生するバリを、バリ片を生じさせることなく容易に処理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、薄板樹脂成形品の形状例を示す斜視図である。
【図2】図2は、PMMAおよびPCの赤外線透過スペクトルである。
【図3】図3Aおよび3Bは、薄板樹脂成形品の一端面にレーザビームを照射する様子を示す側面図および平面図である。
【図4】図4Aおよび4Bは、PMMAシート上端面のバリが、溶融収縮して上端面に固着する様子を示す顕微鏡写真である。
【図5】図5Aおよび5Bは、PMMAシート上端面の溶け込みの様子を示す顕微鏡写真、およびレーザ走査速度を変化させたときのPMMAシート上端面の溶け込み量を示すテーブルである。
【図6−1】および
【図6−2】図6A〜6Dは、薄板樹脂成形品の一端面におけるレーザ走査軌跡の具体例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、薄板樹脂成形品の形状例を示す斜視図である。薄板樹脂成形品10は、例えば、矩形状であり、幅Wおよび高さHの主面11(表面11a、裏面11b)と、厚さTの端面12(上端面12a、左端面12b、下端面12c、右端面12d)と、を有する。成形時、薄板樹脂成形品10の端面12には、ミクロンオーダーのバリ13が発生し得る。なお、図中において、幅Wないし高さHに対する厚さT、およびバリ13のサイズは便宜的に誇張して描かれている。
【0012】
本発明者は、薄板樹脂成形品の端面にレーザビームを照射し、樹脂部材の光吸収による発熱を利用してバリを処理する方法について検討を行った。実施例では、薄板樹脂成形品を構成する樹脂部材として、透光性樹脂であるポリメチルメタクリレート(PMMA)、ないしポリカーボネート(PC)を想定する。まず、本発明者は、使用するレーザビームの選定を行った。
【0013】
図2は、板厚約1mmのPMMAおよびPCの赤外線透過スペクトルを示す。破線がPMMAの赤外線透過スペクトルであり、実線がPCの赤外線透過スペクトルである。このスペクトルから、PMMAおよびPCは、波長約6.0μm以下の赤外線で透過率が大きく、つまり、波長6.0μm以下の赤外線では、発熱効率がよくないことがわかる。一方、波長約6.0μm以上の赤外線では、透過率が著しく小さく、つまり発熱効率が良いことがわかる。この結果から、実施例では波長約10.6μmの炭酸ガス(CO)レーザを用いることにした。
【0014】
次に、本発明者は、薄板樹脂成形品の端面にレーザビームを照射し、その端面に存在しうるバリを溶融収縮させて固着させる方法について検討を行った。以下では、薄板樹脂成形品としてPMMAシートを、レーザビームとして炭酸ガスレーザを用いた実施例について説明する。なお、薄板樹脂成形品には、PCシートを用いてもかまわない。
【0015】
図3Aは、PMMAシートの一端面に炭酸ガスレーザを照射する様子を示す側面図である。PMMAシートは、例えば支持具20により狭持され、直立するよう支持される。実施例では、PMMAシートのサイズを幅W=300mm、高さH=180mm、厚さT=0.8mmとした。なお、薄板樹脂成形品が自立可能な強度を有していれば、支持具はなくてもかまわない。レーザ光源30は、PMMAシートの上端面12aの上方に配置される。レーザ光源30は、炭酸ガスレーザ発振器、光学系、および光学系制御装置などを含み、レーザビームを所望の方向に出射し、所望の速度で走査することが可能である。レーザ光源30から出射されるレーザビーム30sは、PMMAシートの上端面12aに入射され、上端面12aを含む平面上で走査される。
【0016】
図3Bは、PMMAシートの上端面におけるレーザ走査軌跡の一例を示す平面図である。レーザビーム30sは、例えば、そのビーム径sの中心軌跡がピッチpのライン状になるよう走査される。つまり、レーザビーム30sは、図に示すように、PMMAシートの上端面12aの延在方向一端側の走査ライン40aから他端側の走査ライン40eまで板厚方向にピッチpで順次走査される。なお、PMMAシートがたわみ、レーザ光が照射されない領域が生じないよう、レーザビームは、実際の上端面よりも広い領域で走査されることが好ましいであろう。PMMAシートの上端面12sは、照射されたレーザ光を吸収し、発熱・溶融する。このとき、上端面12aには、著しい温度分布が生じないことが望ましい。
【0017】
炭酸ガスレーザを含む一般的なレーザビームは強度分布(例えばガウス分布)を有する。レーザビームの強度分布に対応して、レーザ走査ラインでは、図3Bに示すグラフのように、その中央付近で発熱量(t)が多くなり、周縁部で発熱量が少なくなる。このようなレーザ走査ライン周縁部の発熱不足を補完するため、隣接するレーザ走査ラインの周縁部がオーバラップするようビーム径sおよび走査ピッチpを設定することが好ましい。このようなレーザ走査ラインの設定は、薄板樹脂成形品の端面の温度分布均一化に貢献するであろう。実施例では、レーザビームの波長を10.6μm、出力強度を20W、ビーム径sを0.5mmとし、レーザ走査速度を4000mm/sec、走査ピッチpを0.1mmとした。なお、ビーム径sおよび走査ピッチpは、レーザ光源に含まれる光学系を調整することにより、可変可能である。
【0018】
図4Aおよび4Bは、本発明者が提供するバリ処理方法の検討結果を示す顕微鏡写真である。これらの写真は、PMMAシートの表面方向から上端面を観察した写真である。図4Aおよび図4Bの左側にある写真がレーザ照射処理前の観察写真であり、右側にある写真がレーザ照射処理後の観察写真である。図4Aにおいて、レーザ照射処理前には、PMMAシート10の上端面12aに、およそ170μm程度の糸状バリ13aが発生していることがわかる。このバリ13aが、レーザ照射処理後には、図中の破線で囲む領域に示すように、溶融収縮して上端面12aに固着していることがわかる。図4Bにおいても同様に、およそ100μmオーダーの帯状バリ13bが、レーザ照射処理後、溶融収縮して上端面12aに固着している様子がわかる。これらの観察写真から、本発明者が提供するバリ処理方法により、薄板樹脂成形品の端面に存在しうるバリを、バリ片を発生させることなく、容易に処理できることがわかった。
【0019】
以上のバリ処理方法は、薄板樹脂成形品の端面に存在しうるバリを溶融収縮させて固着させると同時に、端面自体も加熱・溶融させる。このとき、端面における溶融した樹脂が薄板樹脂成形品の板厚方向に溶け出して、薄板樹脂成形品の寸法精度に影響を与えることになろう。例えば、薄板樹脂成形品の高さH方向に溶け込む量をΔHとする。溶け込み量ΔHは、照射するレーザビームの波長、出力強度、ないしレーザ走査速度を変化させ、端面の発熱量を制御することにより調整可能であろう。本発明者は、上記実施例の条件において、レーザ走査速度を変化させたときのPMMAシートの溶け込み量ΔHについて検討を行った。
【0020】
図5Aおよび5Bは、PMMAシート上端面の溶け込みの様子を示す顕微鏡写真、およびレーザ走査速度を変化させたときのPMMAシート上端面の溶け込み量を示すテーブルである。図5Aには、一例として、レーザ走査速度2000mm/secでレーザ照射処理を施したときのPMMAシート表面から見た上端面の観察写真を示す。図中の境界線Lよりも左側の領域がレーザ照射処理を行っていない領域であり、右側の領域がレーザ照射処理を行った領域である。レーザ照射処理を行うことにより、PMMAシート上端面がΔH溶け込んでいる様子がわかる。図5Bには、レーザ走査速度を1000〜6000mm/secで変化させたときのPMMAシート上端面の溶け込み量ΔHが示されている。レーザ走査速度が低速の場合、単位時間当たりに照射される光エネルギーが増加し、上端面における発熱量および溶融樹脂量が増加する、つまり、溶け込み量ΔHが増加する。逆に、レーザ走査速度が高速の場合、単位時間当たりに照射される光エネルギーが低減し、上端面における発熱量および溶融樹脂量が低減する、つまり、上端面における溶け込み量ΔHが低減する。レーザ走査速度を1000mm/sec単位で変化させると、PMMAシート上端面が数μm〜数十μm単位で溶け込むことがわかる。本実施例に用いたPMMAシートのサイズにおいて、一般的に、その高さH(ないし幅W)の許容誤差は±0.2mm程度である。レーザ走査速度が1000mm/sec以上であれば、この許容誤差に対し十分なマージンをもってバリ処理を行えることがわかった。なお、これらの条件において、端面に存在するバリがその端面に固着することは、本発明者によって確認されている。
【0021】
これらの検討結果から、レーザビームを薄板樹脂成形品の端面に一様に照射し、端面に存在するバリを溶融収縮させてその端面に固着させることにより、バリ片を発生させることなく容易にバリを処理できることがわかった。また、レーザビームを端面に一様に照射する工程において、レーザビームの走査速度を制御することにより、端面の溶け込み量を調整できることがわかった。なお、このようなバリ処理方法をPMMAからなる導光板に施したところ、光散乱特性などの導光板の性能に劣化ないし変化が見られなかったことは、本発明者によって確認されている。
【0022】
以上、具体例を示しながら説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、本実施例では、薄板樹樹脂成形品にPMMAシートを用いたが、PCシートに代替しても同様の結果が得られることは自明であろう。さらに言えば、薄板樹脂成形品が光吸収する波長のレーザビームを用いれば、薄板樹脂成形品がPMMAおよびPCに限られないことも自明であろう。また、レーザビームの走査軌道は、PMMAシートの端面が一様に照射され、著しい温度分布が発生しなければ、どのような走査軌道にしてもかまわない。
【0023】
図6A〜6Dは、薄板樹脂成形品の上端面におけるレーザ走査軌跡の他の例を示す平面図である。レーザ走査ライン40は、図6Aに示すように、所定ピッチのライン状で走査進行方向が交互に逆向きになるようにしてもかまわないし、図6Bに示すように、同一走査ラインを複数回往復するようにしてもかまわない。また、図6Cおよび6Dに示すように、薄板樹脂成形品の板厚方向に対して斜め、ないし直交になるようにしてもかまわない。なお、このときも、薄板樹脂成形品のたわみを考慮し、上端面を含む平面上において上端面を内包する領域をレーザビーム照射することが好ましいであろう。
【0024】
その他種々の変更、置換、改良、組み合わせなどが可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0025】
10 薄板樹脂成形品、
20 支持具、
30 レーザ光源、
30s レーザビーム、
40 レーザ走査ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程a)薄板樹脂成形品と、前記薄板樹脂成形品が光吸収する波長のレーザビームを出射し、前記レーザビームの出射方向において該レーザビームを所望の方向に、所望の速度で走査することができるレーザ光源と、を用意する工程と
工程b)前記薄板樹脂成形品の所定端面と、前記レーザ光源のレーザビーム出射方向とを対向して配置する工程と、
工程c)前記レーザビームを、前記端面に入射し、前記端面が一様に照射されるよう走査する工程と、を含み、
前記工程c)において、前記レーザビームの光吸収により、前記端面に存在しうるバリが溶融収縮して該端面に固着する薄板樹脂成形品のバリ処理方法。
【請求項2】
前記工程c)において、前記レーザビームは、所定ピッチのライン状に走査される請求項1記載の薄板樹脂成形品のバリ処理方法。
【請求項3】
前記工程c)において、前記レーザビームは、該ビーム径の周縁部がオーバラップするように走査される請求項1または2記載の薄板樹脂成形品のバリ処理方法。
【請求項4】
前記工程c)において、前記レーザビームは、前記端面を内包する領域で走査される請求項1〜3いずれか1項記載の薄板樹脂成形品のバリ処理方法。
【請求項5】
前記レーザビームは、前記薄板樹脂成形品の板厚方向に走査される請求項2〜4いずれか1項記載の薄板樹脂成形品のバリ処理方法。
【請求項6】
前記工程c)において、前記レーザビームは、1000mm/sec以上の走査速度で走査される請求項1〜5記載の薄板樹脂成形品のバリ処理方法。
【請求項7】
前記工程c)において、前記レーザビームの光吸収による前記端面の溶け込み量は、0.2mm以下である請求項1〜6いずれか1項記載の薄板樹脂成形品のバリ処理方法。
【請求項8】
前記樹脂成形品はPMMAまたはPCを含み、前記レーザビームは炭酸ガスレーザである請求項1〜7いずれか1項記載の薄板樹脂成形品のバリ処理方法。

【図1】
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【図3】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−148541(P2012−148541A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10856(P2011−10856)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】