説明

薄膜リチウム二次電池及び薄膜リチウム二次電池の形成方法

【課題】リチウム二次電池を構成する基板表面の水分や異物を除去する技術を提供する。
【解決手段】第一の処理室11の内部に雲母から成る基板70を配置し、第一〜第三のシャッターが閉じた状態で、基板加熱ステージ59により基板70の温度を所定温度に保ち、真空排気装置301を動作させて第一の処理室内部11を真空雰囲気にして、基板70の表面から水分を除去する脱ガスを行う。さらに第一〜第三のシャッターを閉じた状態で、ガス導入装置311より第一の処理室11内部に反応ガスを導入して基板70の表面のエッチングを行い、基板70の表面に付着した異物を除去する。また、第一の処理室11の内部に、スパッタガスを導入して、スパッタガスのプラズマが第一〜第三のターゲットのうち、いずれか一つのターゲットをスパッタすることにより基板70の表面に薄膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に用いられる基板と、基板の表面処理に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノートパソコンの充電池として広く用いられているが、電解液の液漏れが起こらない固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池が注目されている。
リチウム二次電池を構成する基板はガラス基板であり、フレキシブルな形状に加工することは困難であり、雲母を基板に用いると基板表面の水分や異物が負極を形成するリチウムと反応してしまうという不都合が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、リチウム二次電池を形成する前処理として基板表面の水分や異物を除去する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、基板と、前記基板の上に接触して配置された正極集電体膜と、前記正極集電体膜の上に接触して配置されたリチウムを含む金属酸化物から成る正電極膜と、前記正電極膜の上に接触して配置されたリチウムを含む固体電解質から成る電解質膜と、前記電解質膜の上に接触して配置され金属、又は金属酸化物から成る負電極膜とを有する薄膜リチウム二次電池であって、前記基板は、雲母から成り、前記基板の表面は、前記正極集電体膜が形成される前に予めプラズマに曝され、前記正極集電体膜は、前記プラズマに曝された前記基板の表面と接触した薄膜リチウム二次電池である。
本発明は、前記正極集電体膜は、TiO膜、TiO2膜、MgO膜、Al23膜、AlN膜、SiO2膜、又はSiN膜のいずれか一つの薄膜である薄膜リチウム二次電池である。
本発明は、基板の表面をプラズマに曝す表面処理工程と、前記基板の前記プラズマに曝された表面に正極集電体膜を接触して配置する正極集電体膜形成工程と、前記正極集電体膜の表面にリチウムを含む金属酸化物から成る正電極膜を接触して配置する正電極膜形成工程と、前記正電極膜の表面にリチウムを含む固体電解質から成る電解質膜を接触して配置する電解質膜形成工程と、前記電解質膜の表面に金属、又は金属酸化物から成る負電極膜を接触して配置する負電極膜形成工程とを有する薄膜リチウム二次電池形成方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、フレキシブルな形状のリチウム電池の製作が可能であり、かつ基板による絶縁性、及び基板とリチウムとの反応を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の真空処理装置の構成図
【図2】第一の処理室の断面図
【図3】(a):薄膜リチウム二次電池の平面図(b):薄膜リチウム二次電池のA−A’裁断断面図
【図4】(a)〜(c)雲母基板表面の五千倍の拡大写真
【図5】(a)〜(c)雲母基板表面の一万倍の拡大写真
【発明を実施するための形態】
【0008】
<全体の装置>
図1の符号1は真空処理装置であり、真空処理装置1は、第一〜第五の処理室11〜15と、搬送室20と、仕込取出室16とを有している。
第一〜第五の処理室11〜15と仕込取出室16は、搬送室20を中心に、搬送室20の周りに配置されている。第一〜第五の処理室11〜15と仕込取出室16は、それぞれ開閉自在なゲートバルブ611〜616を介して搬送室20と接続されている。
さらに仕込取出室16には開閉自在な入口用ゲートバルブ62が設けられており、入口用ゲートバルブ62を開けると、真空処理装置1の外部から基板70の搬入、又は外部への搬出ができるように構成されている。
搬送室20内には、搬送ロボット33が配置されており、基板70を搬送室20を介して仕込取出室16と第一〜第五の処理室11〜15との間及び第一〜第五の処理室11〜15の間で移動させることができる。
第一〜第五の処理室11〜15には、真空排気装置301〜306が接続され、搬送室20には、真空排気装置307が接続されている。
【0009】
搬送室20内部は、真空排気装置307により真空雰囲気にされている。各ゲートバルブ611〜616を閉じ、入口用ゲートバルブ62を開けて仕込取出室16内に基板70を搬入し、入口用ゲートバルブ62を閉じて、真空排気装置306により仕込取出室16内部を真空雰囲気にする。搬送室20と仕込取出室16の間のゲートバルブ616を開けると基板70を仕込取出室16から搬送室20へ搬送できる。
搬送室20と仕込取出室16の間のゲートバルブ616を閉じて、真空排気装置301〜306を動作させて各処理室11〜15内を真空雰囲気にして、各ゲートバルブ611〜616を開けると、搬送ロボット33により搬送室20を介して第一〜第五の処理室11〜15に真空雰囲気を維持した状態で基板70を搬送することができる。
【0010】
第一〜第五の処理室11〜15と仕込取出室16には、それぞれガス導入装置311〜316が接続されており、ガス導入装置311〜316を動作させると第一〜第五の処理室11〜15と仕込取出室16の内部を所望圧力のガス雰囲気にすることができる。
第一、第二、第四、第五の処理室11、12、14、15の内部には、ターゲットがそれぞれ配置されており、第一、第二、第四、第五の処理室11、12、14、15の内のいずれかの一室に基板70が搬送され、基板70が搬送された処理室と搬送室20との間のゲートバルブを閉じてガス導入装置により処理室の内部に反応ガスを導入すると、基板70表面に搬入された処理室に配置されたターゲットの薄膜を成膜できるように構成されている。
また、第三の処理室13の内部には、加熱装置(不図示)が配置されており、加熱装置に通電すると加熱装置が熱を放出して第三の処理室13内部に搬送された基板70を設定温度に加熱することができる。
【0011】
<第一の処理室>
図2の符号11は第一の処理室である。第一の処理室11の外部には、真空排気装置301とガス導入装置311が接続されており、真空排気装置301を動作させて第一の処理室11内部を真空雰囲気にした後で、ガス導入装置311を動作させると第一の処理室11内部を所望圧力のガス雰囲気にすることができる。
基板70は、基板加熱ステージ59を介してRF電源63が接続されており、真空排気装置301により第一の処理室11内を真空雰囲気にした後に、ガス導入装置311により第一の処理室11内にエッチングガスを導入して、RF電源63に通電するとエッチングガスがプラズマ化して、エッチングガスのプラズマが基板70表面をエッチングできるように構成されている。
第一の処理室11内部の天井部分には、第一〜第三のターゲットが配置されており、第一〜第三のターゲットには、それぞれ第一〜第三の電極を介して第一〜第三のターゲット電源が接続されている。図2は、第一〜第三のターゲットと、第一〜第三の電極と、第一〜第三のターゲット電源と、第一〜第三のシャッターのうちの二個ずつが符号51、52と、53、54と、55、56、57、58でそれぞれ図示している。
【0012】
第一のターゲットには、TiO、TiO2、MgO、Al23、AlN、SiO2、又はSiNのいずれかが配置され、第二のターゲットには、Ti、Ru、Ta、W、又はMoのいずれかが配置され、第三のターゲットには、Pt、又はNiのいずれかが配置されている。
第一〜第三のターゲットと対面する位置には、基板加熱ステージ59が配置されている。
第一〜第三のシャッターは、開閉可能であり、第一〜第三のターゲットと、基板加熱ステージ59の間に配置されている。
第一の処理室11内は、予め真空排気装置301によって真空雰囲気にしておき、ガス導入装置311からスパッタリングガスを第一の処理室11内に導入して第一の処理室11内を所定圧力にした後、第一〜第三のスパッタ電源をこの順序で動作させ第一〜第三のターゲットに電圧を印加する。電圧を印加する際には、電圧が印加されるターゲット上の第一〜第三のシャッターを開け、第一〜第三のターゲットをこの順序でスパッタすると、基板70表面には、第一〜第三のターゲットから成る第一〜第三の薄膜がこの順序で成膜される。
【0013】
第一の処理室11内部でエッチング処理を行う場合には、第一〜第三のシャッターが閉じた状態で行い、第一〜第三のターゲットは、エッチングプラズマから遮断され、エッチングガスのプラズマによってスパッタされない。
基板加熱ステージ59に通電すると基板加熱ステージ59は熱を放出し、基板ステージ59上に配置された基板70を加熱しながらスパッタリングやエッチングが行えるように構成されている。
【0014】
<基板前処理>
表面が図4(a)と図5(a)の写真で示される雲母から成る基板70を仕込取出室16に配置し、搬送室20内部に配置された搬送ロボット33に基板70を装着させて搬送室20と第一の処理室11との間に設けられたゲートバルブ611から基板70を第一の処理室11内部に搬送し、基板加熱ステージ59上に配置する。
第一〜第三のシャッターを閉じた状態で、基板加熱ステージ59により基板70の温度を300℃に保ち、真空排気装置301を動作させて第一の処理室11内部を1×10-4Pa程度の真空雰囲気にして、基板70の表面から水分を除去する脱ガスを3分間行う。脱ガス後の基板70表面の写真を図4(b)と図5(b)に示す。
【0015】
さらに第一〜第三のシャッターを閉じた状態で、基板70の温度を300℃に保ち、ガス導入装置311より第一の処理室11内部に0.3Paの希ガスを導入して基板70の表面積1cm2に対して0.53Wの電力を基板70に印加してエッチングプラズマを形成して6.0nm/分のエッチング率でエッチングを行い、基板70表面の60nmをエッチングして基板70の表面に付着した異物を除去する。エッチング処理をした後の基板70の表面の写真を図4(c)と図5(c)に示す。
図4(a)、5(a)と図4(b)、5(b)をそれぞれ比較すると脱ガス処理により基板表面の突起物が減少していることがわかる。
図4(b)、5(b)と図4(c)、5(c)をそれぞれ比較するとプラズマエッチングにより基板表面の突起物が除去されていることがわかる。
【0016】
<実施例>
図2の第一の処理室11内部に図4(c)と図5(c)の写真に示す、表面がエッチング処理された雲母から成る基板70を配置する。
ここでは第一のターゲットには、MgOが配置され、第二のターゲットには、Tiが配置され、第三のターゲットには、Ptが配置されている。
第一の処理室11の内部を圧力0.5Paのスパッタガス雰囲気にして、第一のターゲットの表面積1cm2に対する印加電圧を6.2Wにし、成膜速度を10.0nm/分にして表面がエッチング処理された雲母から成る基板70の表面に200nmのMgO薄膜を形成する。
第一の処理室11内部の圧力を0.3Paに保ち、第二のターゲットの表面積1cm2に対する印加電圧を6.2Wにし、成膜速度を8.0nm/分にしてMgO薄膜が形成された基板70の表面に20nmのTi薄膜を形成する。
第三のターゲットの表面積1cm2に対する印加電圧を6.2Wにし、成膜速度を10.0nm/分にしてTi薄膜が形成された基板70の表面に100nmのPt薄膜を形成する。
【0017】
上述したスパッタリングでは、RF電源63の周波数は13.56MHzであり、第一〜第三の電極の直径は101.6mmであり、第一〜第三のターゲットと基板70との間の距離は60mmであり、スパッタ処理中の基板70の温度は300℃である。
正極集電体膜91としてMgOとTiとPtの積層膜を形成後、正極集電体膜91が形成された基板70を第二の処理室12に搬送して基板の温度を300℃に保ち、正極集電体膜91の上に正電極膜92としてLiCoO2を2μm成膜する。
【0018】
正電極膜92を形成後、最表面に正電極膜92が形成された基板70を第三の処理室13に搬送し、ガス導入装置313により第三の処理室13内部に1atmのアルゴンと酸素の混合気体を導入して、15分間、500℃〜700℃程度に保ちLiCoO2を結晶化させるアニール処理を行う。
アニール処理後に最表面に正電極膜92が形成された基板70を第四の処理室14に搬送し、正電極膜92の上に電解質膜93としてLiPON1μmを100℃以下の温度で成膜する。
電解質膜93を形成後に、最表面に電解質膜93が形成された基板70を第五の処理室15に搬送して負極集電体膜94として電解質膜93の上にNi、又はCu250〜300nmを成膜する。
負電極集電体膜94が形成された後に、最表面に負電極集電体膜94が形成された基板70は、搬送ロボット33により仕込取出室16に戻される。
【0019】
図1の真空処理装置1の外部には、不図示の蒸着装置と保護膜形成装置が配置されており、仕込取出室16に戻された最表面に負電極集電体膜94が形成された基板70は、搬送装置(不図示)により蒸着室に搬送され、負電極集電体膜94の上に負電極膜95として金属膜が成膜され、ここではLiが蒸着法により成膜される。
負電極膜95を蒸着した後に、最表面に負電極膜95が形成された基板70は、保護膜形成室に搬送されて表面に、ポリウレアと金属とポリウレアの積層膜から成る保護膜96が成膜され薄膜リチウム二次電池が形成される(図3)。
上記では、負電極膜95としてLi膜を形成したが、Vをターゲットとして、V25膜等の金属酸化物を形成してもよい。
保護膜96は、負電極膜95を大気中の水分と反応させないために形成されており、薄膜リチウム二次電池を大気中へ取り出すことができる。この薄膜リチウム二次電池は、充電と放電が可能な二次電池として使用される。
なお、本発明の「薄膜リチウム二次電池」には薄膜リチウムイオン二次電池も含まれる。
【符号の説明】
【0020】
1……真空処理装置 11〜15……第一〜第五の処理室 16……仕込取出室 20……搬送室 301〜306……真空排気装置 311〜316……ガス導入装置 611〜616……ゲートバルブ 62……入口用ゲートバルブ 63……RF電源 70……基板 91……正極集電体膜 92……正電極膜 93……電解質膜 94……負極集電体膜 95……負電極膜 96……保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の上に接触して配置された正極集電体膜と、
前記正極集電体膜の上に接触して配置されたリチウムを含む金属酸化物から成る正電極膜と、
前記正電極膜の上に接触して配置されたリチウムを含む固体電解質から成る電解質膜と、
前記電解質膜の上に接触して配置され金属、又は金属酸化物から成る負電極膜とを有する薄膜リチウム二次電池であって、
前記基板は、雲母から成り、前記基板の表面は、前記正極集電体膜が形成される前に予めプラズマに曝され、前記正極集電体膜は、前記プラズマに曝された前記基板の表面と接触した薄膜リチウム二次電池。
【請求項2】
前記正極集電体膜は、TiO膜、TiO2膜、MgO膜、Al23膜、AlN膜、SiO2膜、又はSiN膜のいずれか一つの薄膜である請求項1記載の薄膜リチウム二次電池。
【請求項3】
基板の表面をプラズマに曝さす表面処理工程と、
前記基板の前記プラズマに曝された表面に正極集電体膜を接触して配置する正極集電体膜形成工程と、
前記正極集電体膜の表面にリチウムを含む金属酸化物から成る正電極膜を接触して配置する正電極膜形成工程と、
前記正電極膜の表面にリチウムを含む固体電解質から成る電解質膜を接触して配置する電解質膜形成工程と、
前記電解質膜の表面に金属、又は金属酸化物から成る負電極膜を接触して配置する負電極膜形成工程とを有する薄膜リチウム二次電池形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−108603(P2011−108603A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265593(P2009−265593)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】