説明

薄膜固体二次電池用の薄膜の製造方法とそれに用いる塗布液、及び薄膜、並びにそれを用いた薄膜固体二次電池

【課題】 正負極集電体層及び正負極活物質層、固体電解質層の各薄膜を有する薄膜固体二次電池において、各薄膜の形成を塗布法という簡便な方法により行う薄膜固体二次電池用の薄膜の製造方法とそれに用いる塗布液、及びこの製造方法で得られる薄膜、並びにその薄膜を用いて、薄型化、小型化、低コスト化が図られた薄膜固体二次電池を提供する。
【解決手段】 基板上に順次形成されている正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層から成る積層構造、あるいは、これと逆の順に基板上に形成されている負極集電体層、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、正極集電体層から成る積層構造を有する薄膜固体二次電池における正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の少なくとも一つ以上の薄膜の製造方法であって、薄膜が主成分として有機金属化合物を含有する塗布液を塗布して塗布膜を形成する塗布工程、前記塗布膜を乾燥して乾燥塗布膜を形成する乾燥工程、前記乾燥工程で形成された有機金属化合物を主成分とする乾燥塗布膜を無機化して、金属酸化物を主成分とする無機薄膜を形成する無機化工程の各工程からなる塗布法により形成され、無機化工程が酸素含有雰囲気下で加熱処理、エネルギー線照射処理、プラズマ照射処理の少なくともいずれかの処理により乾燥塗布膜に含まれる有機成分を分解または酸化、あるいは分解並びに酸化により除去することで金属酸化物を主成分とする微粒子で構成される無機薄膜(金属酸化物微粒子膜)を形成する工程であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜固体二次電池用の薄膜の製造方法とそれに用いる塗布液、及びその製造方法による薄膜、並びにその薄膜を用いた薄膜固体二次電池に関するものである。
より詳しくは、集電体層(正極、負極)、及び正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の各薄膜を有する薄膜固体二次電池において、それら各薄膜の形成を塗布法という簡便な方法により行う薄膜の製造方法とそれに用いる塗布液、及びその製造方法で得られる薄膜を適用することで、薄型化、小型化、低コスト化を図ることが可能な薄膜固体二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が大きく、充放電のサイクル特性に優れるため、携帯機器等の電子機器を中心に広く使用されている。
【0003】
一般的なリチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液、セパレータの基本要素で構成され、正極、及び負極は、これら電極間に電解質を保持できるセパレータを介在させた状態で電解液に浸漬され、容器で覆われている。
さらに、上記正極、及び負極は、それぞれの活物質(正極活物質、負極活物質)の結晶性粒子、導電材、結合材等を集電体(金属箔、金属メッシュ等)が保持し、構成されて利用されている。
【0004】
正極活物質にはリチウムと遷移金属を含む複合酸化物が用いられている。具体的には、層状系材料としてのコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、スピネル系材料としてのリチウム−マンガン酸化物(LiMn)、オリビン系材料としてのリン酸鉄リチウム(LiFePO)等が一般的である。
負極活物質としては、黒鉛(グラファイト)、チタン酸リチウム(LiTi12)等が一般的に用いられている。
【0005】
しかしながら、液体である電解液を電解質として用いるリチウムイオン二次電池では、小型化、薄型化に限界があり、ゲル状電解質を用いるポリマー電池や固体電解質を用いる薄膜固体二次電池が開発されている。
このなかで、薄膜固体二次電池では、その構造が基板上に正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層を順に形成した積層構造、あるいは、基板上に上記層を逆の順で形成した積層構造を採り、基板を除く電池素子部分の厚みを1μm程度にすることができ、電池全体の薄型化、小型化をより一層図ることが可能である。
【0006】
特に、固体電解質を用いた薄膜固体二次電池は、小型化、薄型化が可能という利点に加え、電位窓が広いためLiに対して高電位の正極活物質(5V系)の適用により高容量化が可能で、また、一つのセル内で積層する直列化による高電圧化が容易なため低コスト化が図れ、更に、固体電解質の優れた耐熱性や難燃性による安全性向上も期待できる。
【0007】
使用する固体電解質には、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムに窒素を添加したLiPO(LiPONと呼ばれる。)等の酸化物系固体電解質や酸化物系固体電解質に比べて導電性の高いLiS−P等の硫化物系固体電解質が用いられている。
【0008】
このような固体電解質を用いた薄膜固体二次電池としては、スパッタリング法等の物理的成膜方法(気相成長方法)を用いて正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の薄膜を形成したものが提案されている(特許文献1〜4等参照)。
【0009】
特許文献1には、イオンビームや電子ビーム蒸着法による成膜法を用いて、リン酸リチウム(LiPO)に窒素が添加された物質(LiPON)の固体電解質層、リチウムを含む金属酸化物の正極活物質層、金属リチウムの負極活物質層を形成した薄膜固体二次電池が開示されている。
【0010】
特許文献2には、スパッタリング法による成膜法を用いて、リチウムイオン伝導体(イオン伝導度の高いLi、Ta、Nb、N、Oから成る複合酸化物)の固体電解質層、リチウムを含む金属酸化物(LiCoOやLiMn等)の正極活物質層、SiやLiTi12等の負極活物質層を形成した薄膜固体二次電池が開示されている。
【0011】
特許文献3には、スパッタリング法による成膜法を用いて、リン酸リチウム(LiPO)に窒素が添加された物質(LiPON)の固体電解質層、遷移金属およびリチウムを含む金属酸化物の正極活物質層、半導体、金属、合金または金属酸化物のいずれかの負極活物質層を形成した薄膜固体二次電池が開示されている。
【0012】
特許文献4には、スパッタリング法による成膜法を用いて、窒素が添加されたリン酸リチウム(LiPON)の固体電解質層、リチウム−コバルト酸化物の正極活物質層、金属リチウムの負極活物質層を形成した薄膜固体二次電池が開示されている。
【0013】
さらに、特許文献5においてもスパッタリング法による成膜法を用いて、リン酸リチウム(LiPO)または窒素が添加されたリン酸リチウム(LiPON)の固体電解質層、リチウム−マンガン酸化物、リチウム−コバルト酸化物、リチウム−ニッケル酸化物、リチウム−マンガン−コバルト酸化物、リチウム−チタン酸化物のいずれか一つ以上の金属酸化物の正極活物質層、リチウム−チタン−ニオブ複合酸化物の負極活物質層を形成した薄膜固体二次電池が開示されている。
【0014】
以上のように、従来の薄膜固体二次電池における、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の各薄膜の成膜には、イオン・電子ビーム蒸着、直流スパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法等の物理的成膜方法(気相成長方法)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−183078号公報
【特許文献2】特開2004−179158号公報
【特許文献3】WO2006/082846号の明細書
【特許文献4】米国特許第7959769号明細書
【特許文献5】特開2008−159399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、薄膜固体二次電池の正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の各薄膜を、スパッタリング法などの物理的成膜方法(気相成長方法)で成膜する場合、使用する成膜装置は真空容器をベースとする装置となるため非常に高価であり、また成膜される膜の組成制御も容易ではなく、かつ成膜する材料によっては成膜速度を大きくできないため、製造コストと量産性に問題があった。
そこで、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の各薄膜をより簡便な方法で形成する成膜方法が望まれていた。
【0017】
本発明は、集電体層(正極、負極)、及び正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の各薄膜を有する薄膜固体二次電池において、低コストかつ簡便な塗布法により上記各薄膜を形成する方法とそれに用いる塗布液、及びその方法により得られる各薄膜、並びにその各薄膜を用いた薄型化、小型化、低コスト化が図られた薄膜固体二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明者らは、このような状況に鑑み、有機金属化合物を主成分として含有する(正極、負極)活物質層形成用塗布液や電解質層形成用塗布液を、塗布、乾燥、無機化して得られる金属酸化物を主成分とする無機薄膜について鋭意研究を重ねた結果、その無機化の工程で、酸素含有雰囲気下で加熱処理、エネルギー線照射処理、プラズマ照射処理の少なくともいずれかの処理を行えば無機化が促進されて、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の各薄膜に適した金属酸化物を主成分とする無機薄膜が得られることを見出したものである。
【0019】
即ち、本発明の第1の発明は、基板上に順次形成されている正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層から成る積層構造、あるいは、これと逆の順に基板上に形成されている負極集電体層、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、正極集電体層から成る積層構造を有する薄膜固体二次電池における正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の少なくとも一つ以上の薄膜の製造方法であって、その薄膜が、主成分として有機金属化合物を含有する正極活物質層形成用塗布液、固体電解質層形成用塗布液、負極活物質層形成用塗布液から選択されるいずれかの塗布液を塗布して塗布膜を形成する塗布工程、塗布膜を乾燥して乾燥塗布膜を形成する乾燥工程、乾燥工程で形成された有機金属化合物を主成分とする乾燥塗布膜を無機化して、金属酸化物を主成分とする無機薄膜を形成する無機化工程の各工程からなる塗布法により形成され、その無機化工程が、酸素含有雰囲気下で加熱処理、エネルギー線照射処理、プラズマ照射処理の少なくともいずれかの処理により乾燥塗布膜に含まれる有機成分を分解または酸化、あるいは分解および酸化により除去することで金属酸化物を主成分とする微粒子で構成される無機薄膜(金属酸化物微粒子膜)を形成する工程であることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の第2の発明は、第1の発明における正極活物質層形成用塗布液に主成分として含有される有機金属化合物が、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄のうちのいずれか一種以上の遷移金属の有機金属化合物、及び有機リチウム化合物であり、形成された無機薄膜の主成分である金属酸化物が、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄のいずれか一種以上の遷移金属を含むリチウム複合酸化物であることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0021】
本発明の第3の発明は、第2の発明におけるリチウム複合酸化物が、LiMO、LiMPO、LiMSiO(M:マンガン、コバルト、ニッケル、鉄のうちのいずれか一種以上の遷移金属)、LiMnのいずれか一種以上であることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0022】
本発明の第4の発明は、第1の発明における固体電解質層形成用塗布液に主成分として含有される有機金属化合物が、有機リン化合物と有機リチウム化合物であり、形成された無機薄膜の主成分である金属酸化物が、リンを含むリチウム複合酸化物であることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0023】
本発明の第5の発明は、第4の発明におけるリンを含むリチウム複合酸化物が、LiPO、LiO−Al−TiO−P系酸化物、LiO−Al−GeO−P系酸化物、LiO−La−TiO系酸化物、LiO−La−ZrO系酸化物のいずれか一種以上であることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0024】
本発明の第6の発明は、第1の発明における固体電解質層形成用塗布液に主成分として含有される有機金属化合物が、有機ランタン化合物と有機リチウム化合物であり、形成された無機薄膜の主成分である金属酸化物が、ランタンを含むリチウム複合酸化物であることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0025】
本発明の第7の発明は、第6の発明におけるランタンを含むリチウム複合酸化物が、LiO−La−TiO系酸化物、LiO−La−ZrO系酸化物のいずれか一種以上であることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0026】
本発明の第8の発明は、第1の発明における負極活物質層形成用塗布液に主成分として含有される有機金属化合物が、有機チタン化合物と有機リチウム化合物、または、ニオブ、インジウム、錫、亜鉛、チタンのいずれか一種以上の金属の有機金属化合物であり、形成された無機薄膜の主成分である金属酸化物が、リチウム−チタン酸化物、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタンのいずれか一種以上であることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0027】
本発明の第9の発明は、第8の発明におけるリチウム−チタン酸化物がLiTi12であることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0028】
本発明の第10の発明は、第1〜第9の発明におけるエネルギー線照射が、少なくとも200nm以下の波長を主要成分の一つとして含む紫外線の照射であることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0029】
本発明の第11の発明は、第10の発明における少なくとも200nm以下の波長を主要成分の一つとして含む紫外線の照射が、低圧水銀ランプ、アマルガムランプ、エキシマランプのいずれかから放射される紫外線の照射であることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0030】
本発明の第12の発明は、第1〜第11の発明における酸素含有雰囲気の露点温度の制御により、金属酸化物を主成分とする無機薄膜の充填密度を制御することを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0031】
本発明の第13の発明は、第1〜第12の発明における酸素含有雰囲気が空気雰囲気であることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0032】
本発明の第14の発明は、第1の発明における基板がガラス基板、またはセラミック基板、あるいは耐熱性プラスチックフィルムであることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0033】
本発明の第15の発明は、第1の発明における正極集電体層、及び負極集電体層が、単一金属または合金であることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0034】
本発明の第16の発明は、第1の発明における正極集電体層、または負極集電体層が形成された基板の代わりに、正極集電体層、または負極集電体層として単一金属または合金から成る板または箔を用いることを特徴とする薄膜の製造方法である。
【0035】
本発明の第17の発明は、第1〜第9の発明における薄膜の製造方法に用いられる、正極活物質層形成用塗布液、固体電解質層形成用塗布液、負極活物質層形成用塗布液から選択されるいずれかの塗布液であって、正極活物質層形成用塗布液は、有機溶剤、及びその有機溶剤中に溶解した、主成分としての、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄のうちのいずれか一種以上の遷移金属の有機金属化合物、及び有機リチウム化合物を含有し、固体電解質層形成用塗布液は、有機溶剤、及びその有機溶剤中に溶解した、主成分としての、有機リン化合物と有機リチウム化合物、あるいは、有機ランタン化合物と有機リチウム化合物を含有し、負極活物質層形成用塗布液は、有機溶剤、及びその有機溶剤中に溶解した、主成分としての、有機チタン化合物と有機リチウム化合物を含有し、有機リチウム化合物は、リチウム(I)−2,4−ペンタンジオネート[Li(C)]、リチウム(I)エトキシド[Li(CO)]、リチウム(I)−tert−ブトキシド[Li(CO)]のうちのいずれか一種以上であり、有機溶剤は、N−メチル−2−ピロリドン、沸点150℃以上のアミン系溶剤のうちのいずれか一種以上であることを特徴とする塗布液である。
【0036】
本発明の第18の発明は、第17の発明における沸点150℃以上のアミン系溶剤が、3−アミノ−1−プロパノールであることを特徴とする塗布液である。
【0037】
本発明の第19の発明は、第1〜第16の発明における薄膜の製造方法で得られる薄膜固体二次電池用の薄膜である。
【0038】
本発明の第20の発明は、薄膜を有する薄膜固体二次電池における薄膜が、第19の発明における薄膜固体二次電池用の薄膜であることを特徴とする薄膜固体二次電池である。
【発明の効果】
【0039】
本発明の薄膜固体二次電池用の薄膜の製造方法によれば、有機金属化合物を主成分として含有する(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液を用いる塗布法により、金属酸化物を主成分とする無機薄膜を簡便に形成するため、活物質層(正極、負極)や固体電解質層という薄膜を安価に製造できる。
【0040】
本発明に係る薄膜固体二次電池は、塗布法により極めて簡便に形成された活物質層(正極、負極)や固体電解質層を適用しているため、薄型化、小型化に加え大幅な低コスト化が達成でき、ICカード、カード型電子マネー、RFIDタグ等への応用に大きく寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】薄膜固体二次電池の構造の一例を示す模式図である。
【図2】薄膜固体二次電池の他の構造の一例を示す模式図である。
【図3】図1、2に示す薄膜固体二次電池とは異なる構造を示す薄膜固体二次電池の模式図である。
【図4】空気中の飽和水蒸気含有量(体積%)と露点温度(℃)の関係を示す図である。
【図5】本発明に係る塗布法による薄膜の製造方法における加熱処理及びエネルギー線(紫外線)照射処理を用いた無機化工程の一例を示す模式図である。
【図6】実施例6に係る薄膜固体二次電池用の薄膜を正極に、リチウムドープ黒鉛を負極に用いた電解液系コインセルの充放電曲線を示す図である。
【図7】本発明に係る塗布法による薄膜の製造方法における加熱処理を用いた無機化工程の一例を示す模式図である。
【図8】実施例11に係る各種温度の加熱処理で得られた薄膜固体二次電池用の各種薄膜のX線回折チャート、結晶構造、及び結晶子サイズを示す図である。
【図9】実施例12に係る薄膜固体二次電池用の薄膜を正極に、リチウムドープ黒鉛を負極に用いた電解液系コインセルの充放電曲線を示す図である。
【図10】本発明に係る塗布法による薄膜の製造方法における加熱処理を用いた無機化工程の別の一例を示す模式図である。
【図11】実施例14に係る各種温度の加熱処理で得られた薄膜固体二次電池用の各種薄膜のX線回折チャート、結晶構造、及び結晶子サイズを示す図である。
【図12】実施例16に係る各種温度の加熱処理で得られた薄膜固体二次電池用の各種薄膜のX線回折チャート、結晶構造、及び結晶子サイズを示す図である。
【図13】実施例17に係る各種温度の加熱処理で得られた薄膜固体二次電池用の各種薄膜のX線回折チャート、結晶構造、及び結晶子サイズを示す図である。
【図14】実施例19に係る薄膜固体二次電池(コインセル)の充放電曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の薄膜固体二次電池用の薄膜の製造方法では、主成分として有機金属化合物を含有する正極活物質層形成用塗布液、固体電解質層形成用塗布液、負極活物質層形成用塗布液から選択されるいずれかの塗布液を、塗布、乾燥、無機化するという塗布法により金属酸化物を主成分とする無機薄膜を形成するため、薄膜固体二次電池用の正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の少なくとも一つ以上の薄膜を簡便に製造することができる。
【0043】
[薄膜固体二次電池の構造]
先ず、本発明の薄膜を適用する薄膜固体二次電池の構造を図1〜図3を参照して説明する。
なお、図1〜図3は、本発明による構造の異なる薄膜固体二次電池における積層構造を示す断面模式図である。
図1に示す薄膜固体二次電池の構造は、基板1上に正極集電体層2、正極活物質層3、固体電解質層4、負極活物質層5、負極集電体層6を順に形成した積層構造、あるいは、図2に示す薄膜固体二次電池は、基板1上に上記各層を図1の薄膜固体二次電池の場合と逆の順で形成した積層構造を有している。
なお、薄膜固体二次電池は、大気中の水分によって性能の劣化を生じるため、保護膜または保護フィルム7を設けることで、耐久性向上が図られている。
【0044】
また、図1において、正極集電体層2を板状、または箔状にすれば、基板1が不要となり、図3に示すような図1、2の薄膜固体二次電池とは異なる基板を必要としない構造の薄膜固体二次電池とすることも可能である。
以下、薄膜固体二次電池の各要素について詳細に説明する。
【0045】
(a)基板
使用する基板は、耐熱性基板がよく、中でもソーダライムガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラス基板、あるいはアルミナ(Al)等のセラミック基板が好ましい。場合によっては、ポリイミド(PI)、ポリアミド等の耐熱性樹脂基板(プラスチックフィルム)を用いることもできる。
【0046】
(b)集電体層(正極集電体層、負極集電体層)
正極集電体層2、負極集電体層6の材料としては、Cu、Mg、Ti、Fe、Co、Ni、V、Zn、Al、Ge、In、Au、Pt、Ag、Pd等、または、これらのいずれかを含む合金(例えばステンレススチール)から適宜選択して用いることができる。
上記材料は、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法、塗布法等の既存の成膜方法を用いて基板1上に形成した薄膜として用いてもよいし、図3の薄膜固体二次電池のように、上記材料自体を板状、箔状にして用いることも可能である。
【0047】
(c)正極活物質層
正極活物質層3を形成する物質は、リチウムイオンを離脱、吸着させ易く、多くのリチウムイオンを離脱、吸蔵させることが可能な物質であればよく、リチウム−コバルト酸化物(LiCoO[コバルト酸リチウム]、LiCo等)(LCOと呼ばれる。)、リチウム−ニッケル酸化物(LiNiO[ニッケル酸リチウム]、LiNi等)(LNOと呼ばれる。)、リチウム−マンガン酸化物(LiMnO[マンガン酸リチウム]、LiMn、LiMn等)(LMOと呼ばれる。)、リチウム−マンガン−コバルト酸化物(LiMnCoO、LiMnCoO等)、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト酸化物(Li(Ni-Mn-Co)O、LiNi1/3Mn1/3Co1/3等)(NMCまたはNCMと呼ばれる。)、リチウム−ニッケル−コバルト−アルミニウム酸化物(Li(Ni-Co-Al)O)(NCAと呼ばれる。)、リチウム−チタン酸化物(LiTi12、LiTi等)(LTOと呼ばれる。)、その他遷移金属を含むリチウム酸化物(LiCuO、LiCuO、LiVO、LiV、LiCrO、LiFeO、LiTiO、LiScO、LiYO、LiMnCrO、LiNiVO、LiCoVO等)、各種遷移金属を含むリチウムリン酸塩(LiFePO[リン酸鉄リチウム]、LiCuPO、LiNiPO、LiCoPO、LiMnPO、LiNiPOF、LiCoPOF、LiMnPOF、LiFePOF、LiVOPO、Li(PO等)、各種遷移金属を含むリチウムケイ酸塩(LiMnSiO、LiFeSiO、LiCoSiO、LiNiSiO等)、各種遷移金属の硫化物(TiS、MoS、FeS、FeS、CuS、Ni)、各種遷移金属の酸化物(Bi、BiPb、CuO、V、V13、Nb等)等を使用することができる。また、これらを混合して用いても良い。
【0048】
ここで、正極活物質と負極活物質には明確な区別はなく、2種類の化合物の充放電電位を比較して貴な電位のものを正極活物質に、卑な電位のものを負極活物質に用いれば良い。
上記多くの正極活物質の中では、層状系材料としてのコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、スピネル系材料としてのリチウム−マンガン酸化物(LiMn)、オリビン系材料としてのリン酸鉄リチウム(LiFePO)等が好適であり、一般的に用いられている。
正極活物質層3の膜厚は、薄型化という観点からするとできるだけ薄いことが望ましいが、充放電容量の確保を考えると、0.05〜5μm程度が適当である。
【0049】
(d)負極活物質層
上述のように、負極活物質と正極活物質には明確な区別はなく、負極活物質層5を形成する物質は、リチウムイオンを吸着、離脱させ易く、多くのリチウムイオンを吸蔵、離脱させることが可能な物質であればよく、例えば、リチウム−チタン酸化物(LiTi12、LiTi等)、リチウム−チタン−ニオブ酸化物(Li(Ti2Nb)O12等)、各種金属酸化物(Nb、V、NiO、In、SnO、ZnO、TiO等)、各種単体元素(Si、Ge、Li、Mg、Al等)、各種シリコン合金(Si−Mn、Si−Co、Si−Ni等)、マグネシウム−リチウム合金(Mg−Li)、アルミニウム−リチウム合金(Al−Li系;AlLi等)、インジウム−リチウム合金(In−Li系;InLi等)、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛等)等を使用することができる。また、これらを混合して用いても良い。
上記多くの負極活物質の中で、金属リチウム(Li)、各種リチウム合金(例えばAlLi、InLi等)、黒鉛、チタン酸リチウム(LiTi12)等が一般的に用いられるが、高容量化という観点からすると、金属リチウム(Li)、または各種リチウム合金が好ましく、これらはシート状や箔状として負極活物質層に適用することができる。
負極活物質層5の膜厚は、薄型化という観点からするとできるだけ薄いことが望ましいが、充放電容量の確保を考えると、0.05〜5μm程度が適当である。
【0050】
(e)固体電解質層
固体電解質層4を形成する物質は、リチウムイオンの高いイオン伝導性を有する物質を用いることが必要で、酸化物系固体電解質としての、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムに窒素を添加したLiPO(LiPONと呼ばれる。)、LiBO、LiNbO、LiTaO、LiSiO、LiSiO−LiPO、LiSiO−LiVO、LiO−B−P、LiO−SiO、LiO−B−ZnO、Li1+XAlTi2−X(PO(0≦X≦1)(LATPまたはLTAPと呼ばれる。)、Li1+XAlGe2−X(PO(0≦X≦1;具体的には、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO)(LAGPと呼ばれる。)、LiTi(PO、Li3XLa2/3−XTiO(0≦X≦2/3;具体的には、Li0.33La0.56TiO、Li0.5La0.5TiO等)(LLTまたはLLTOと呼ばれる。)、LiLaTa12、LiLaZr12(LLZまたはLLZOと呼ばれる。)、LiBaLaTa12、Li3.6Si0.60.4等、硫化物系固体電解質としての、LiS−SiS、LiI−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiS−B、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiPO−P、LiS−P等、あるいは、LiI−LiI−Al、LiN、LiN−LiI−LiOH等を用いることができる。
【0051】
さらに、リチウムイオン伝導性の観点から選択すると、酸化物系固体電解質よりも硫化物系固体電解質が好ましいが、一方で、硫化物系固体電解質は水分と反応して有毒な硫化水素ガスを発生するという問題がある。
したがって、リチウムイオン電池の製造工程の作業性、及び製品としてのリチウムイオン電池の安全性の観点からすると、酸化物系固体電解質の方が、硫化物系固体電解質よりも好ましい。
【0052】
この酸化物系固体電解質の中では、上記LATP、LLT、LLZ等が比較的高いリチウムイオン伝導性を有する(LATP:1×10S/cm[25℃]、LLT:1×10S/cm[25℃]、LLZ:4×10S/cm[25℃])ため好ましい。ただし、負極活物質に金属リチウムやリチウム合金を適用する場合には、酸化チタン(TiO)を構成成分として含むLATPやLLTは、金属リチウムやリチウム合金と固体電解質の界面でTi4+がTi3+に還元されてリチウムイオン伝導性が大幅に劣化するため使用することができない。
また、金属リチウムやリチウム合金を負極活物質に用いる場合には、上記劣化の生じないLLZが好適である。
固体電解質層4の膜厚は、薄型化やリチウムイオンの移動距離を短くするという観点からできるだけ薄いことが望ましいが、薄すぎると固体電解質層にピンホ−ルが発生し易くなるため、その防止の観点からすると、0.05〜1μm程度が好ましい。
【0053】
[塗布法で形成した活物質層や固体電解質層の構造]
次に、塗布法を用いて形成した薄膜である活物質層(正極、負極)や固体電解質層の構造を説明する。
例えば、スパッタリング法等の気相成長法を用いて金属酸化物を主成分とする活物質層(正極、負極)や固体電解質層を形成した場合、通常、金属酸化物の結晶粒が粒界を介して配列した膜構造である多結晶の膜構造(または緻密なアモルファス膜構造)が形成され、膜構造において金属酸化物微粒子はほとんど観察されない。
また、有機金属化合物を主成分とする(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液を塗布、乾燥、無機化する塗布法で形成した活物質層(正極、負極)や固体電解質層では、通常、金属酸化物微粒子同士が結合した膜構造を有しており、金属酸化物微粒子の粒子径や金属酸化物微粒子間に存在する空隙の大きさは、無機化条件などで異なるが、少なからず開空隙(オープンポア)を有する金属酸化物微粒子で構成される活物質層(正極、負極)や固体電解質層となることが判っている。
【0054】
そして、この塗布法で形成された金属酸化物微粒子同士が結合した活物質層(正極、負極)や固体電解質層においては、活物質層(正極、負極)や固体電解質層が導電性(電子伝導やイオン伝導)を有する場合には、その導電機構が金属酸化物微粒子の接触部分(結合部分)を介在するものであることから、金属酸化物微粒子同士が微小面積で接触して導電性を発現していると考えられる。
なお、固体二次電池では、通常の液体電解質層を用いる二次電池と異なり、活物質層(正極、負極)中活物質成分間に固体電解質層成分を介在させて(リチウムイオンの)イオン伝導を促進させる必要があり、したがって、上記金属酸化物微粒子同士の導電性に加え、この固体電解質層成分の(リチウムイオンの)イオン伝導の観点からも、活物質層の金属酸化物微粒子間に存在する空隙の大きさを適宜制御する必要がある。
【0055】
このような塗布法を用いて形成された薄膜の活物質層(正極、負極)や固体電解質層では、活物質層の金属酸化物微粒子の充填状態、充填密度を制御して、開空隙(オープンポア)の大きさや数を制御し、活物質層の金属酸化物微粒子同士の接触状態や固体電解質成分の活物質層内への介在(染み込み)状態を制御することが望ましく、そのためには、塗布法における無機化工程の昇温過程において、水蒸気含有量、すなわち露点温度を制御した酸素含有雰囲気を適用することが望ましい。
【0056】
このような緻密な金属酸化物微粒子を主成分とする無機薄膜の形成機構については、いまだ明らかとはいえず、後でも詳細に説明(段落[0132]から[0133]参照)するが、要は酸素含有雰囲気中に水蒸気が存在すると、有機金属化合物等が熱分解・燃焼して生じる無機化による金属酸化物の結晶化並びに結晶成長が、水蒸気で促進され、熱分解・燃焼を行なう無機化工程での初期段階で金属酸化物微粒子同士を固着して動けなくしてしまうため、金属酸化物微粒子の緻密化が生じにくくなるためと推測される。
【0057】
一方、塗布法による活物質層(正極、負極)や固体電解質層の無機化工程において、水蒸気含有量の少ない、すなわち露点温度が低い酸素含有雰囲気を適用すれば、活物質層(正極、負極)や固体電解質層の金属酸化物の種類や組成にもよるが、例えば、活物質層(正極、負極)や固体電解質層における金属酸化物微粒子の充填密度を、場合によっては金属酸化物の真比重の70〜90%程度まで高めることが可能であり、また逆に水蒸気を多く含む酸素含有雰囲気を適用した場合には、真比重の40〜70%程度に留まることがある。要するに、無機化工程における酸素含有雰囲気の露点温度は、適用する活物質層(正極、負極)や固体電解質層に応じ適宜最適となるように設定すればよい。
【0058】
[(正極、負極)活物質層形成用塗布液、固体電解質層形成用塗布液]
本発明では、活物質層(正極、負極)や固体電解質層の形成に、(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液を用いており、以下これら各種塗布液について説明する。
【0059】
(a)塗布液の主成分としての有機金属化合物
(1)正極活物質層形成用塗布液
本発明で用いられる正極活物質層形成用塗布液について詳細に説明する。
本発明では、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄のうちのいずれか一種以上の遷移金属の有機金属化合物、及び有機リチウム化合物を主成分とする正極活物質層形成用塗布液を用いて、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄のうちのいずれか一種以上の遷移金属を含むリチウム複合酸化物を主成分とする微粒子膜(無機薄膜)からなる正極活物質層を形成している。
【0060】
まず、本発明で用いる有機リチウム化合物について、以下に説明する。
有機リチウム化合物は、無機化により酸化リチウム(LiO)となり、この酸化リチウムは、塗布法で得られるリチウム複合酸化物の主成分を構成する。
本発明で用いることができる有機リチウム化合物としては、例えば、アセチルアセトンリチウム(正式名称:リチウム(I)−2,4−ペンタンジオネート[Li(C)]、蟻酸リチウム(I)[Li(HCOO)]、リチウムアルコキシドとしてのリチウム(I)エトキシド[Li(CO)]、リチウム(I)−tert−ブトキシド[Li(CO)]、リチウム(I)イソプロポキシド[Li(CO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機リチウム化合物であれば良い。これらの中でもアセチルアセトンリチウムは有機溶剤への溶解性が高く、熱分解・燃焼(酸化)して酸化物となり易いため好ましい。
【0061】
次に、本発明で用いるマンガン、コバルト、ニッケル、鉄のそれぞれの有機金属化合物について、以下に説明する。
有機マンガン化合物は、無機化により酸化マンガン(MnO、Mn、MnO等)となり、この酸化マンガンは、塗布法で得られるリチウム複合酸化物の主成分を構成する。
本発明で用いることができる有機マンガン化合物としては、例えば、マンガンアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンマンガン{(正式名称:マンガン(II)−2,4−ペンタンジオネート)[Mn(C]、(正式名称:マンガン(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Mn(C]}等や、有機酸マンガンとしての酢酸マンガン(II)[Mn(CHCOO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機マンガン化合物であれば良い。
【0062】
有機鉄化合物は、無機化により酸化鉄(FeO、Fe等)となり、この酸化鉄は、塗布法で得られるリチウム複合酸化物の主成分を構成する。
本発明で用いることができる有機鉄化合物としては、例えば、鉄アセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトン鉄(正式名称:鉄(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Fe(C]等、鉄アルコキシドとしての鉄(III)エトキシド[Fe(CO)]等、有機酸鉄としての酢酸鉄(III)[Fe(CHCOO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機鉄化合物であれば良い。
【0063】
有機コバルト化合物は、無機化により酸化コバルト(CoO、Co等)となり、この酸化コバルトは、塗布法で得られるリチウム複合酸化物の主成分を構成する。
本発明で用いることができる有機コバルト化合物としては、例えば、コバルトアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンコバルト{(正式名称:コバルト(II)−2,4−ペンタンジオネート)[Co(C]、(正式名称:コバルト(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Co(C]}等や、有機酸コバルトとしての蟻酸コバルト(II)[Co(COOH)・2HO]、酢酸コバルト(II)[Co(CHCOO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機コバルト化合物であれば良い。
【0064】
有機ニッケル化合物は、無機化により酸化ニッケル(NiO、Ni等)となり、この酸化ニッケルは、塗布法で得られるリチウム複合酸化物の主成分を構成する。
本発明で用いることができる有機ニッケル化合物としては、例えば、ニッケルアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンニッケル(正式名称:ニッケル(II)−2,4−ペンタンジオネート)[Ni(C]等や、有機酸ニッケルとしての蟻酸ニッケル(II)[Ni(HCOO)・2HO]、酢酸ニッケル(II)[Ni(CHCOO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機ニッケル化合物であれば良い。
【0065】
ここで、前述のリチウム複合酸化物が、LiMPO、LiMSiO(M:マンガン、コバルト、ニッケル、鉄のうちのいずれか一種以上の遷移金属)の場合は、リンとケイ素の有機金属化合物(有機リン化合物、有機ケイ素化合物)を用いるため、それぞれについて以下に説明する。
【0066】
有機リン化合物は、無機化により酸化リン(P等)となり、この酸化リンは、塗布法で得られるLiMPO(M:マンガン、コバルト、ニッケル、鉄のうちのいずれか一種以上の遷移金属)の主成分を構成する。
有機リン化合物としては、例えば、トリエチルフォスフェイト[PO(CO)]、トリブチルフォスフェイト[PO(CO)]、トリペンチルフォスフェイト(別名:トリアミルフォスフェイト)[PO(C11O)]、ビス(2−エチルヘキシル)フォスフェイト[(CCH(C)CHHPO]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機リン化合物であれば良い。
これらの中でもトリペンチルフォスフェイトやビス(2−エチルヘキシル)フォスフェイトは、有機溶剤への溶解性が高く、蒸気圧が低いため乾燥工程における成分揮発が抑制できるため好ましい。
【0067】
有機ケイ素化合物は、無機化により酸化ケイ素(SiO等)となり、この酸化ケイ素は、塗布法で得られるLiMSiO(M:マンガン、コバルト、ニッケル、鉄のうちのいずれか一種以上の遷移金属)の主成分を構成する。
有機ケイ素化合物としては、多くのタイプの有機化合物が存在するが、例えば、シリコンアルコキシドとしてのシリコン(IV)テトラメトキシド[Si(CHO)]、シリコン(IV)テトラエトキシド[Si(CO)]、シリコン(IV)−tert−ブトキシド[Si(CO)]、シリコン(IV)テトラ−n−ブトキシド[Si(CO)]、シリコン(IV)テトライソプロポキシド[Si(CO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機ケイ素化合物であれば良い。
【0068】
(2)負極活物質層形成用塗布液
次に、本発明で用いられる負極活物質層形成用塗布液について詳細に説明する。
本発明では、有機チタン化合物と有機リチウム化合物、または、ニオブ、インジウム、錫、亜鉛、チタンのうちのいずれか一種以上の金属の有機金属化合物を主成分とする負極活物質層形成用塗布液を用いて、リチウム−チタン酸化物、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタンのうちのいずれか一種以上の酸化物を主成分とする微粒子膜(無機薄膜)からなる負極活物質層を形成している。
【0069】
本発明で用いる有機リチウム化合物は、正極活物質層形成用塗布液に用いた有機リチウム化合物と同一であり、無機化により酸化リチウム(LiO)となり、この酸化リチウムは、塗布法で得られるリチウム−チタン酸化物(LiTi12)の主成分を構成する。
【0070】
次に、本発明で用いるチタン、ニオブ、インジウム、錫、亜鉛のそれぞれの有機金属化合物について、以下に説明する。
有機チタン化合物は、無機化により酸化チタン(TiO等)となり、この酸化チタンは、塗布法で得られるリチウム−チタン酸化物(LiTi12)の主成分を構成し、また単独でも負極活物質層の主成分を構成できる。
有機チタン化合物としては、例えば、チタンアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンチタン(正式名称:チタン(IV)ジ−n−ブトキシド ビス(2,4−ペンタンジオネート)[Ti(CO)(C] )、チタニル(IV)アセチルアセトネート[(CTiO]、チタン(IV)ジイソプロポキシド ビス(2,4−ペンタンジオネート)[Ti(CO)(C]等や、チタンアルコキシドとしてのチタン(IV)テトラエトキシド[Ti(CO)]、チタン(IV)−tert−ブトキシド[Ti(CO)]、チタン(IV)テトラ−n−ブトキシド[Ti(CO)]、チタン(IV)テトライソプロポキシド[Ti(CO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機チタン化合物であれば良く、これらの中でも、アセチルアセトンチタン、チタン(IV)テトラ−n−ブトキシド、チタン(IV)テトライソプロポシドは、安価で入手し易いので好ましい。
【0071】
有機ニオブ化合物は、無機化により酸化ニオブ(Nb等)となり、この塗布法で得られる酸化ニオブは負極活物質層の主成分を構成する。
有機ニオブ化合物としては、例えば、ニオブアルコキシドとしてのニオブ(V)エトキシド[Nb(CO)]、ニオブ(V)−n−ブトキシド[Nb(CO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機ニオブ化合物であれば良い。
【0072】
有機インジウム化合物は、無機化により酸化インジウム(In)となり、この塗布法で得られる酸化インジウムは負極活物質層の主成分を構成する。
有機インジウム化合物は、例えば、アセチルアセトンインジウム(正式名称:トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III))[In(C]、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)[In(C15COO]、蟻酸インジウム(III)[In(HCOO)]、酢酸インジウム(III)[In(CHCOO)]、インジウムアルコキシドとしてのインジウム(III)メトキシエトキシド[In(CHOCO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機インジウム化合物であれば良い。これらの中でもアセチルアセトンインジウムは有機溶剤への溶解性が高く、熱分解・燃焼(酸化)して酸化物となり易いため好ましい。
【0073】
有機錫化合物は、無機化により酸化錫(SnO)となり、この塗布法で得られる酸化錫は負極活物質層の主成分を構成する。
有機錫化合物(化合物中の錫の価数は2価、4価にこだわらない)は、例えば、アセチルアセトン錫(正式名称:ジ−n−ブチル ビス(2,4−ペンタンジオナト)錫(IV))[Sn(C(C]、2−エチルヘキサン酸錫(II)(別名:オクチル酸錫(II))[Sn(C15COO]、酢酸錫(II)[Sn(CHCOO)]、酢酸錫(IV)[Sn(CHCOO)]、ジ−n−ブチル錫(IV)ジアセテート[Sn(C(CHCOO)] 、蟻酸錫(II)[Sn(HCOO)]、錫アルコキシドとしての錫(IV)−tert−ブトキシド[Sn(CO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機錫化合物であれば良い。これらの中でも、アセチルアセトン錫は、比較的安価で入手し易いので好ましい。
【0074】
有機亜鉛化合物は、無機化により酸化亜鉛(ZnO)となり、この塗布法で得られる酸化亜鉛は負極活物質層の主成分を構成する。
有機亜鉛化合物は、例えば、亜鉛アセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトン亜鉛(正式名称:亜鉛(II)−2,4−ペンタンジオネート)[Zn(C]、亜鉛(II)−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート[Zn(C1119]、亜鉛アルコキシドとしての亜鉛(II)メトキシエトキシド[Zn(CHOCO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機亜鉛化合物であれば良い。これらの中でも、アセチルアセトン亜鉛は、安価で入手し易いので好ましい。
【0075】
(3)固体電解質層形成用塗布液
本発明で用いられる固体電解質層形成用塗布液について詳細に説明する。
本発明では、有機リン化合物と有機リチウム化合物の有機金属化合物を主成分とする固体電解質層形成用塗布液、あるいは、有機ランタン化合物と有機リチウム化合物の有機金属化合物を主成分とする固体電解質層形成用塗布液を用いて、リンを含むリチウム複合酸化物、あるいは、ランタンを含むリチウム複合酸化物を主成分とする微粒子膜(無機薄膜)からなる固体電解質層を形成している。
【0076】
本発明で用いる有機リチウム化合物は、正極活物質層形成用塗布液に用いた有機リチウム化合物と同一であり、無機化により酸化リチウム(LiO)となり、この酸化リチウムは、塗布法で得られるリンを含むリチウム複合酸化物、あるいは、ランタンを含むリチウム複合酸化物の主成分を構成する。
【0077】
また上記有機リン化合物も、正極活物質層形成用塗布液に用いた有機リン化合物と同一であり、無機化により酸化リン(P)となり、この酸化リンは、塗布法で得られるリンを含むリチウム複合酸化物の主成分を構成する。
【0078】
ここで、前述のリンを含むリチウム複合酸化物が、LiO−Al−TiO−P系酸化物(LATP等)やLiO−Al−GeO−P系酸化物(LAGP等)、また、ランタンを含むリチウム複合酸化物が、LiO−La−TiO系酸化物(LLT等)やLiO−La−ZrO系酸化物(LLZ等)の場合は、チタン、アルミニウム、ゲルマニウム、ランタン、ジルコニウムのそれぞれの有機金属化合物を用いるため、それぞれについて以下に説明する。
【0079】
本発明で用いる有機チタン化合物は、負極活物質層形成用塗布液に用いた有機チタン化合物と同一であり、無機化により酸化チタン(TiO等)となり、この酸化チタンは、塗布法で得られるLiO−Al−TiO−P系酸化物やLiO−La−TiO系酸化物の主成分を構成する。
【0080】
有機アルミニウム化合物は、無機化により酸化アルミニウム(Al等)となり、この酸化アルミニウムは、塗布法で得られるLiO−Al−TiO−P系酸化物やLiO−Al−GeO−P系酸化物の主成分を構成する。
有機アルミニウム化合物は、アルミニウムアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンアルミニウム(正式名称:アルミニウム(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Al(C]、アルミニウムアルコキシドとしてのアルミニウム(III)エトキシド[Al(CO)]、アルミニウム(III)−n−ブトキシド[Al(CO)]、アルミニウム(III)−tert−ブトキシド[Al(CO)]、アルミニウム(III)イソプロポキシド[Al(CO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機アルミニウム化合物であれば良い。これらの中でも、アセチルアセトンアルミニウム、アルミニウム(III)−n−ブトキシドは、比較的安価で入手し易いので好ましい。
【0081】
有機ゲルマニウム化合物は、無機化により酸化ゲルマニウム(GeO等)となり、この酸化ゲルマニウムは、塗布法で得られるLiO−Al−GeO−P系酸化物の主成分を構成する。
有機ゲルマニウム化合物は、例えば、ゲルマニウムアルコキシドとしてのゲルマニウム(IV)テトラエトキシド[Ge(CO)]、ゲルマニウム(IV)テトラ−n−ブトキシド[Ge(CO)]、ゲルマニウム(IV)テトライソプロポキシド[Ge(CO)]等や、β−カルボキシエチルゲルマニウム(IV)オキシド[(GeCHCHCOOH)]、テトラエチルゲルマニウム(IV)[Ge(C]、テトラブチルゲルマニウム(IV)[Ge(C]、トリブチルゲルマニウム(IV)ハイドライド[Ge(CH]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機ゲルマニウム化合物であれば良い。これらの中でも、ゲルマニウム(IV)テトラエトキシド、ゲルマニウム(IV)テトラ−n−ブトキシド、ゲルマニウム(IV)テトライソプロポキシドは、比較的安価で入手し易いので好ましい。
【0082】
有機ランタン化合物は、無機化により酸化ランタン(La等)となり、この酸化ランタンは、塗布法で得られるLiO−La−TiO系酸化物やLiO−La−ZrO系酸化物の主成分を構成する。
有機ランタン化合物としては、例えば、ランタンアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンランタン(正式名称:ランタン(III)−2,4−ペンタンジオネート)[La(C]等、ランタンアルコキシドとしてのランタン(III)イソプロポキシド[La(CO)]等、有機酸ランタンとしての酢酸ランタン(III)[La(CHCOO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機ランタン化合物であれば良い。
【0083】
有機ジルコニウム化合物は、無機化により酸化ジルコニウム(ZrO等)となり、この酸化ジルコニウムは、塗布法で得られるLiO−La−ZrO系酸化物の主成分を構成する。
有機ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムアセチルアセトン錯体としてのジルコニウム(IV)ジ−n−ブトキシド ビス(2,4−ペンタンジオネート)[Zr(CO)(C]、アセチルアセトンジルコニウム(正式名称:ジルコニウム(IV)−2,4−ペンタンジオネート)[Zr(C]、ジルコニウムアルコキシドとしてのジルコニウム(IV)エトキシド[Zr(CO)]、ジルコニウム(IV)−n−プロポキシド[Zr(CO)]、ジルコニウム(IV)イソプロポキシド[Zr(CO)]、ジルコニウム(IV)−n−ブトキシド[Zr(CO)]、ジルコニウム(IV)−tert−ブトキシド[Zr(CO)]、ジルコニウム(IV)−2−メチル−2−ブトキシド[Zr(C11O)]、ジルコニウム(IV)−2−メトキシメチル−2−プロポキシド[Zr(CHOCO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機ジルコニウム化合物であれば良い。これらの中でも、ジルコニウム(IV)−n−プロポキシド、ジルコニウム(IV)−n−ブトキシドは、比較的安価で入手し易いので好ましい。
【0084】
前述の正極活物質層形成用塗布液、負極活物質層層形成用塗布液、固体電解質層形成用塗布液には、必要に応じて、前述以外の各種有機金属化合物を配合して、それら各種有機金属化合物の無機化により形成される各種金属酸化物を、正極活物質層、負極活物質層、固体電解質層を構成する金属酸化物に添加することができる。
【0085】
必要に応じて配合する上記各種有機金属化合物は、例えば、有機スカンジウム化合物、有機バナジウム化合物、有機クロム化合物、有機銅化合物、有機ガリウム化合物、有機イットリウム化合物、有機モリブデン化合物、有機ルテニウム化合物、有機アンチモン化合物、有機ハフニウム化合物、有機タンタル化合物、有機タングステン化合物、有機ビスマス化合物、有機セリウム化合物、有機ネオジム化合物、有機サマリウム化合物、有機ガドリニウム化合物、有機マグネシウム化合物、有機カルシウム化合物、有機ストロンチウム化合物、有機バリウム化合物等であり、それら各種有機金属化合物の無機化により形成される各種金属酸化物は、酸化スカンジウム、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化銅、酸化ガリウム、酸化イットリウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アンチモン、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化ビスマス、酸化セリウム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ガドリニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム等である。
以下に、必要に応じて配合する上記各種有機金属化合物について説明する。
【0086】
有機スカンジウム化合物としては、例えば、スカンジウムアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンスカンジウム(正式名称:スカンジウム(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Sc(C]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機スカンジウム化合物であれば良い。
【0087】
有機バナジウム化合物としては、例えば、バナジウムアセチルアセトン錯体としてのバナジウム(IV)オキサイドビス−2,4−ペンタンジオネート[VO(C]、アセチルアセトンバナジウム(正式名称:バナジウム(III)−2,4−ペンタンジオネート)[V(C]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機バナジウム化合物であれば良い。
【0088】
有機クロム化合物としては、例えば、クロムアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンクロム(正式名称:クロム(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Cr(C]等、クロムアルコキシドとしてのクロム(III)イソプロポキシド[Cr(CO)]等、有機酸クロムとしての酢酸クロム(II)[Cr(CHCOO)]、二酢酸ヒドロキシクロム(III)[Cr(CHCOO)(OH)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機クロム化合物であれば良い。
【0089】
有機銅化合物としては、例えば、銅アセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトン銅(正式名称:銅(II)−2,4−ペンタンジオネート)[Cu(C]等、銅アルコキシドとしての銅(II)エトキシド[Cu(CO)]等、有機酸銅としての蟻酸銅(II)[Cu(HCOO)]、酢酸銅(II)[Cu(CHCOO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機銅化合物であれば良い。
【0090】
有機ガリウム化合物としては、ガリウムアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンガリウム(正式名称:ガリウム(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Ga(C]、ガリウムアルコキシドとしてのガリウム(III)エトキシド[Ga(CO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機ガリウム化合物であれば良い。
【0091】
有機イットリウム化合物としては、例えば、イットリウムアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンイットリウム(正式名称:イットリウム(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Y(C]等、イットリウムアルコキシドとしてのイットリウム(III)イソプロポキシド[Y(CO)]等、有機酸イットリウムとしての酢酸イットリウム(III)[Y(CHCOO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機イットリウム化合物であれば良い。
【0092】
有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデンアセチルアセトン錯体としてのモリブデン(VI)オキサイドビス−2,4−ペンタンジオネート[MoO(C]、モリブデンアルコキシドとしてのモリブデン(V)エトキシド[Mo(CO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機モリブデン化合物であれば良い。
【0093】
有機ルテニウム化合物としては、ルテニウムアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンルテニウム(正式名称:ルテニウム(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Ru(C]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機ルテニウム化合物であれば良い。
【0094】
有機アンチモン化合物としては、例えば、酢酸アンチモン(III)[Sb(CHCOO)]、アンチモンアルコキシドとしてのアンチモン(III)エトキシド[Sb(CO)]、アンチモン(III)−n−ブトキシド[Sb(CO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機アンチモン化合物であれば良い。これらの中でも、アンチモン(III)−n−ブトキシドは、比較的安価で入手し易いので好ましい。
【0095】
有機ハフニウム化合物としては、例えば、ハフニウムアセチルアセトン錯体としてのハフニウム(IV)ジ−n−ブトキシド ビス(2,4−ペンタンジオネート)[Hf(CO)(C] )、アセチルアセトンハフニウム(正式名称:ハフニウム(IV)−2,4−ペンタンジオネート)[Hf(C]、ハフニウムアルコキシドとしてのハフニウム(IV)エトキシド[Hf(CO)]、ハフニウム(IV)−n−ブトキシド[Hf(CO)]、ハフニウム(IV)−tert−ブトキシド[Hf(CO)]、ハフニウム(IV)イソプロポキシドモノイソプロピレート[Hf(CO)(COH)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機ハフニウム化合物であれば良い。これらの中でも、ハフニウム(IV)−n−ブトキシドは、比較的安価で入手し易いので好ましい。
【0096】
有機タンタル化合物としては、例えば、タンタルアセチルアセトン錯体としてのタンタル(V)テトラエトキシド−ペンタンジオネート[Ta(C)(OC]、タンタルアルコキシドとしてのタンタル(V)メトキシド[Ta(CHO)]、タンタル(V)エトキシド[Ta(CO)]、タンタル(V)イソプロポキシド[Ta(CO)]、タンタル(V)−n−ブトキシド[Ta(CO)]、テトラエトキシアセチルアセトナトタンタル(V)[Ta(CO)(C)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機タンタル化合物であれば良い。
【0097】
有機タングステン化合物としては、例えば、タングステンアルコキシドとしてのタングステン(V)エトキシド[W(CO)]、タングステン(VI)エトキシド[W(CO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機タングステン化合物であれば良い。
【0098】
有機ビスマス化合物としては、例えば、ビスマスアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンビスマス(正式名称:ビスマス(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Bi(C]等や、ビスマスアルコキシドとしてのビスマス(III)ペントキシド[Bi(C11O)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機ビスマス化合物であれば良い。
【0099】
有機セリウム化合物としては、例えば、セリウムアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンセリウム(正式名称:セリウム(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Ce(C]、セリウムアルコキシドとしてのセリウム(IV)メトキシエトキシド[Ce(CHOCO)]、セリウム(IV)−tert−ブトキシド[Ce(CO)]、セリウム(IV)イソプロポキシド[Ce(CO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機セリウム化合物であれば良い。
【0100】
有機ネオジム化合物としては、例えば、ネオジムアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンネオジム(正式名称:ネオジム(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Nd(C]等、ネオジムアルコキシドとしてのネオジム(III)メトキシエトキシド[Nd(CHOCO)]等、有機酸ネオジムとしての酢酸ネオジム(III)[Nd(CHCOO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機ネオジム化合物であれば良い。
【0101】
有機サマリウム化合物としては、例えば、サマリウムアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンサマリウム(正式名称:サマリウム(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Sm(C]等、サマリウムアルコキシドとしてのサマリウム(III)イソプロポキシド[Sm(CO)]等、有機酸サマリウムとしての酢酸サマリウム(III)[Sm(CHCOO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機サマリウム化合物であれば良い。
【0102】
有機ガドリニウム化合物としては、例えば、ガドリニウムアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンガドリニウム(正式名称:ガドリニウム(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Gd(C]等や、有機酸ガドリニウムとしての酢酸ガドリニウム(III)[Gd(CHCOO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機ガドリニウム化合物であれば良い。
【0103】
有機マグネシウム化合物としては、例えば、マグネシウムアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンマグネシウム(正式名称:マグネシウム(II)−2,4−ペンタンジオネート)[Mg(C]等や、マグネシウムアルコキシドとしてのマグネシウム(II)エトキシド[Mg(CO)]、マグネシウム(II)n−プロポキシド[Mg(CO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機マグネシウム化合物であれば良い。
【0104】
有機カルシウム化合物としては、例えば、カルシウムアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンカルシウム(正式名称:カルシウム(II)−2,4−ペンタンジオネート)[Ca(C]等、カルシウムアルコキシドとしてのカルシウム(II)エトキシド[Ca(CO)]等、有機酸カルシウムとしての酢酸カルシウム(II)[Ca(CHCOO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機カルシウム化合物であれば良い。
【0105】
有機ストロンチウム化合物としては、例えば、ストロンチウムアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンストロンチウム(正式名称:ストロンチウム(II)−2,4−ペンタンジオネート)[Sr(C]等、ストロンチウムアルコキシドとしてのストロンチウム(II)イソプロポキシド[Sr(CO)]等、有機酸ストロンチウムとしての酢酸ストロンチウム(II)[Sr(CHCOO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機ストロンチウム化合物であれば良い。
【0106】
有機バリウム化合物としては、例えば、バリウムアセチルアセトン錯体としてのアセチルアセトンバリウム(正式名称:バリウム(II)−2,4−ペンタンジオネート)[Ba(C]等、バリウムアルコキシドとしてのバリウム(II)イソプロポキシド[Ba(CO)]等、有機酸バリウムとしての酢酸バリウム(II)[Ba(CHCOO)]等が挙げられるが、基本的には、溶剤に溶解し、無機化時において塩素ガスや窒素酸化物ガスなどの有害ガスが発生せずに酸化物に分解する有機バリウム化合物であれば良い。
【0107】
(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液における上記有機金属化合物は、塗布法による活物質層(正極、負極)や固体電解質層を形成させるための主たる化合物原料であり、その含有量は1〜30質量%の範囲であることが好ましく、更に好ましくは5〜20質量%とするのが良い。
その合計含有量が1質量%未満であると膜厚の薄い活物質層(正極、負極)や固体電解質層しか得られなくなるため薄膜固体二次電池用の薄膜として十分な機能が得られない。また、30質量%より多いと(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液中の有機金属化合物が析出し易くなって塗布液の安定性の低下を招き、さらに得られる活物質層(正極、負極)や固体電解質層が厚くなり過ぎて亀裂(クラック)を発生させる場合がある。
【0108】
(b)塗布液のバインダー成分
(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液には、必要に応じて有機バインダーを添加しても良い。
有機バインダーを加えることで、基板に対する濡れ性が改善されると同時に、塗布液の粘度調整を行うことができる。添加する有機バインダーは、無機化時において燃焼や熱分解する材料が好ましく、このような材料として、セルロース誘導体、アクリル樹脂等が有効である。
有機バインダーに用いられるセルロース誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース 、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース 、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース 、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、ニトロセルロース等が挙げられるが、これらの中でもヒドロキシプロピルセルロース(以下、「HPC」と表記する場合がある)が好ましい。
なお、上記各種セルロース誘導体やアクリル樹脂では、分子量が異なる多くの種類が市販されており、例えば、HPCでは、その分子量の大きさに応じて、高分子量タイプ、中分子量タイプ、低分子量タイプがあり、分子量が大きいほど、バインダーとして配合した(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液の粘度を高めることができる。分子量タイプの選定、および、配合量の決定は、(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液の塗布性、および(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液の塗布方法や塗布膜厚に応じ、随時最適化する必要がある。
【0109】
このHPCを用いれば、通常、5質量%以下の含有量で十分な濡れ性が得られると同時に、大幅な粘度調整を行うことができる。また、HPCの燃焼開始温度は300℃程度であり、加熱処理による無機化では300℃以上、好ましくは350℃以上の加熱温度で行えば燃焼するので、金属酸化物微粒子からなる活物質層(正極、負極)や固体電解質層を作製することができる。
HPCの含有量が5質量%より多くなると、ゲル状になって塗布液中に残留し易くなり、極めて多孔質の活物質層(正極、負極)や固体電解質層を形成して膜強度が著しく損なわれる場合がある。
【0110】
ここで、セルロース誘導体として、例えばHPCの代わりにエチルセルロースを用いた場合には、通常、HPCを用いた場合よりも塗布液の粘度が低く設定できるが、高粘度塗布液が好適であるスクリーン印刷法等ではパターン印刷性が若干低下する。
ところで、ニトロセルロースは、熱分解性は優れているが、無機化時において有害な窒素酸化物ガスの発生があり、無機化炉の劣化や排ガス処理に問題を生じる場合がある。以上のように、使用するセルロース誘導体は、状況に応じて適宜選択する必要がある。
【0111】
また、アクリル樹脂としては、比較的低温で燃焼するアクリル樹脂が好ましい。
【0112】
(c)塗布液の溶剤
(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液に用いる溶剤としては、各種金属アセチルアセトン錯体化合物や各種金属アルコキシド化合物を高濃度で溶解でき、かつ、後述する塗布液の製造過程での80〜180℃の加熱溶解が可能となるような高沸点溶剤が適しており、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)(沸点204℃)や、沸点150℃以上のアミン系溶剤である1−アミノ−2−プロパノール(沸点:159.9℃)、2−アミノエタノール(別名:モノエタノールアミン)(沸点:171℃)、3−アミノ−1−プロパノール(沸点188℃)、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール(沸点238〜240℃/752mmHg)、3−アミノ−1,2−プロパンジオール(沸点264〜265℃/739mmHg)、ジエタノールアミン(沸点269℃)が好ましい。特にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)や3−アミノ−1−プロパノールが最適である。
更に、別の好ましい溶剤として、アルキルフェノール、アルケニルフェノールのいずれかあるいは両者と二塩基酸エステル、もしくはアルキルフェノール、アルケニルフェノールのいずれかあるいは両者と酢酸ベンジル、またはこれらの混合溶液が挙げられる。
【0113】
このアルキルフェノールあるいはアルケニルフェノールとしては、クレゾール類、キシレノール、エチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、カシューナット殻液[3ペンタデカデシールフェノール]等が挙げられ、二塩基酸エステル(例えば二塩基酸ジメチル、二塩基酸ジエチル等)としては、コハク酸エステル、グルタル酸エステル、アジピン酸エステル、マロン酸エステル、フタル酸エステル等が用いられる。
【0114】
更に、塗布液を低粘度に調整する場合や、塗布性を改善させるために(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液に配合する溶剤には、各種有機金属化合物とセルロース誘導体やアクリル樹脂を溶解させた溶液と相溶性があれば良く、上記以外の溶剤として、水、メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール(DAA)等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、ギ酸アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸ブチル、酪酸イソプロピル、酪酸エチル、酪酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、オキシ酢酸メチル、オキシ酢酸エチル、オキシ酢酸ブチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、3−オキシプロピオン酸メチル、3−オキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸メチル、2−オキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸プロピル、2−メトキシプロピオン酸メチル、2−メトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシプロピオン酸プロピル、2−エトキシプロピオン酸メチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、2−メトキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−エトキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸メチル、2−オキソブタン酸エチル等のエステル系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、エチレングリコールモノブチルエーテル(BCS)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGM−AC)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール誘導体、トルエン、キシレン、メシチレン、ドデシルベンゼン等のベンゼン誘導体、ホルムアミド(FA)、N−メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1、3−ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、1、3−オクチレングリコール、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、ミネラルスピリッツ、ターピネオール等、及びこれらの二種以上の混合液が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0115】
塗布液の安定性や成膜性を考慮すると、組み合わせて使用する溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、γ−ブチロラクトン等が好ましい。
【0116】
本発明で用いる(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液は、前述の主成分としての各種有機金属化合物、必要に応じてこれら以外の各種有機金属化合物、更に、必要に応じて有機バインダーを加えた混合物を溶剤に加熱溶解させることによって製造する。
【0117】
その加熱溶解は、通常、加熱温度を80〜180℃とし、0.5〜6時間攪拌することにより行われる。
加熱温度が80℃よりも低いと十分に溶解せず、180℃よりも高いと溶剤の蒸発が顕著となり塗布液の組成が変化してしまうので好ましくない。
【0118】
(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液の粘度は、有機バインダーの分子量や含有量、溶剤の種類によって調整することができるので、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、ディスペンサ印刷法、スリットコート法、ダイコート法、ドクターブレードコート法、ワイヤーバーコート法、スピンコート法、スプレーコート法等の各種塗布法のそれぞれに適した粘度に調整して対応することができる。
【0119】
高粘度(5000〜50000mPa・s程度)の塗布液は、高分子量の有機バインダーを5質量%以下、好ましくは2〜4質量%含有させることで作製でき、低粘度(5〜500mPa・s程度)は、低分子量の有機バインダーを5質量%以下、好ましくは0.1〜2質量%含有させ、かつ低粘度の希釈用溶剤で希釈することで作製できる。また、中粘度(500〜5000mPa・s)の塗布液は、高粘度の塗布液と低粘度の塗布液を混合して作製できる。
【0120】
[薄膜の製造方法]
本発明の薄膜固体二次電池用の薄膜の製造方法について詳細に説明する。
本発明の薄膜(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)は、主成分として有機金属化合物を含有する(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液を塗布して塗布膜を形成する塗布工程、その塗布膜を乾燥して乾燥塗布膜を形成する乾燥工程、その乾燥塗布膜を無機化して金属酸化物を主成分とする無機薄膜(金属酸化物微粒子膜)を形成する無機化工程の各工程を経て形成される。
【0121】
(a)塗布工程
(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液の塗布は、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、ディスペンサ印刷法、スリットコート法、ダイコート法、ドクターブレードコート法、ワイヤーバーコート法、スピンコート法、スプレーコート法等の各種塗布法を用いて行われる。
【0122】
薄膜固体二次電池は、図1または図2に示されるように、基板1上に正極集電体層2、正極活物質層3、固体電解質層4、負極活物質層5、負極集電体層6が形成された積層構造を有しているため、正極活物質層形成用塗布液は、正極集電体層上または固体電解質層上に塗布する場合が考えられ、また、負極活物質層形成用塗布液は、負極集電体層上または固体電解質層上に塗布する場合が考えられる。固体電解質層形成用塗布液は、活物質層(正極、負極)上に塗布することとなる。
【0123】
(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液の塗布は、クリーンルーム等のように清浄でかつ温度や湿度が管理された雰囲気下で行うことが好ましい。その温度は室温(25℃程度)、湿度は40〜60%RHが一般的である。
【0124】
(b)乾燥工程
次の乾燥工程では、(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液が塗布された基板を、通常大気中、乾燥温度80〜200℃、好ましくは100〜180℃で、乾燥時間1〜30分間、好ましくは2〜10分間保持して塗布膜の乾燥を行い、乾燥塗布膜を作製する。
一般的に、(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液に主成分として含まれる各種有機金属化合物の(塗布液中の)溶剤への溶解度は、高温になる程高くなる。したがって、上記乾燥温度を高くした方が、乾燥過程の塗布膜が上記各種有機金属化合物をより高濃度に溶解した液体を経由して固体の乾燥塗布膜を形成でき、膜均一性や緻密性をより高めることができ好ましい。
【0125】
ただし、乾燥温度の上限は、(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液に含まれる主要な高沸点溶剤の沸点以下である必要があり、例えば主要な高沸点溶剤がN−メチル−2−ピロリドン(NMP)[沸点:204℃]であれば、乾燥温度は150〜200℃程度、3−アミノ−1−プロパノール[沸点:188℃]であれば150〜180℃程度がよい。
また、上記乾燥温度や乾燥時間等の乾燥条件は、上記塗布液に用いる高沸点溶剤の種類に加え、用いる基板の種類や(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液の塗布厚み等によって、適宜選択すればよく、上記乾燥条件に限定される訳ではない。ただし、生産性を考慮すれば、乾燥時間は、得られる乾燥塗布膜の膜質が悪化しない必要最低限度に短縮することが望ましい。
【0126】
また、乾燥温度は、用いる基板の耐熱温度以下であることも必要である。なお、必要に応じて大気中乾燥に代えて、減圧乾燥(到達圧力:通常1kPa以下)を適用することも可能である。この減圧乾燥では、塗布された(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液中の溶剤が、減圧下で強制的に除去されて乾燥が進行するため、大気中乾燥に比べてより低温での乾燥が可能となる。
【0127】
この作製した乾燥塗布膜は、(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液から前述の有機溶剤が揮発除去されたものであって、前述の主成分としての各種有機金属化合物(必要に応じて少量添加される、これら以外の各種有機金属化合物)、有機バインダー等の有機系成分で構成されている。
【0128】
(c)無機化工程
次の無機化工程では、乾燥工程で作製した乾燥塗布膜を無機化して乾燥塗布膜中の主成分である有機金属化合物、あるいは少量添加された各種有機金属化合物、および有機バインダー等の有機系成分を、酸素含有雰囲気下で加熱処理、エネルギー線照射処理、プラズマ照射処理の少なくともいずれかの処理により熱分解・燃焼(酸化)して無機化させ、金属酸化物を主成分とする無機薄膜(金属酸化物微粒子が充填した金属酸化物微粒子膜としての活物質層(正極、負極)や固体電解質層)を形成するものである。
【0129】
例えば、加熱処理を用いる無機化工程では、その昇温過程で加熱温度が高くなってくると、乾燥塗布膜中の主成分である有機金属化合物(少量添加された有機金属化合物を含有する物も含む)は徐々に熱分解・燃焼(酸化)されて、アモルファス状態(ここでは、X線回折で求めた結晶子サイズ:3nm未満の非常に微細な粒子の状態を称する)の金属酸化物への変換、所謂無機化が生じる。その後加熱温度が一層上昇して通常500〜600℃を越えると、金属酸化物の結晶化や結晶成長が起きて金属酸化物の結晶微粒子が生じて活物質層(正極、負極)や固体電解質層は結晶性の薄膜となる。
【0130】
一方、有機バインダーも同様に、加熱処理を用いる無機化工程では、その昇温過程で徐々に熱分解・燃焼(酸化)するが、主に二酸化炭素(CO)に転化されて雰囲気中に揮散して膜中から消失(有機バインダーの種類にもよるが、例えばHPCであれば約300〜350℃でほぼ消失)していくため、最終的には活物質層(正極、負極)や固体電解質層中にはほとんど残留しない。なお、加熱処理を用いた場合の無機化工程の初期段階(昇温過程のある段階で、例えば室温から加熱して300℃まで到達した段階)までは有機バインダーが多く残留し、上記アモルファス状態の金属酸化物間に有機バインダーが均一に介在しているが、更に加熱温度を上昇させて無機化を進めると有機バインダー成分が徐々に消失していって上記金属酸化物の結晶化が起こるものと考えられる。
【0131】
以下、無機化工程をより詳細に説明する。
本発明の乾燥塗布膜の無機化工程においては、二酸化炭素(CO)濃度が低い酸素含有雰囲気(例えば、通常380ppm程度COが含まれている大気からゼオライト等による吸着等でCO除去し、CO濃度を1ppm未満にした空気雰囲気)を適用することが望ましい。酸素含有雰囲気中に二酸化炭素(CO)が多く含まれていると、無機薄膜の形成過程で無機薄膜の主要成分であるリチウム(Li)との反応により炭酸リチウム(LiCO)を生成して目的とする組成の無機薄膜が得られなくなる可能性があるからである。
加えて、露点温度、即ち水蒸気含有量を制御した酸素含有雰囲気(参考として、図4に、空気中の飽和水蒸気含有量(体積%)と露点温度(℃)の関係を示す)を適用することが望ましい。
例えば、露点温度の低い酸素含有雰囲気を無機化工程に適用すると、上記の通り無機化工程の初期段階での乾燥塗布膜の無機化が抑制されて、金属酸化物微粒子が緻密に充填した無機薄膜の薄膜構造を得ることができる。
【0132】
なお、金属酸化物微粒子が緻密に充填するメカニズムに関しては、必ずしも明らかではないが、例えば、以下のように考えることができる。
すなわち、少なくとも加熱処理を用いた無機化工程において、露点温度の低い空気雰囲気下での昇温過程では、生じた上記アモルファス状態の金属酸化物間に有機バインダーが均一に介在した膜構造が維持され、この膜構造が有機物質である有機バインダーの作用で柔軟性を有して基板と垂直方向への膜の収縮(緻密化)が可能となり、有機バインダーが消失するぎりぎりの加熱温度まで(約300〜350℃程度まで)上記収縮可能な膜構造を取ることができて膜の緻密化が図られたものと推測される。
【0133】
なお、上述した露点温度の低い、即ち水蒸気含有量の少ない空気雰囲気下において乾燥塗布膜の無機化が抑制される理由は明らかではないが、例えば空気雰囲気中の水蒸気が、
(1)金属酸化物間に介在している有機バインダー成分の熱分解・燃焼(酸化)の促進作用を有する、
(2)金属酸化物自体の無機化を促進する作用を有する、
等が考えられる。
【0134】
加熱処理を用いる無機化工程では、具体的には、先ず露点温度−80℃〜30℃の酸素含有雰囲気ガスを供給しながら金属酸化物の無機化結晶化が起こる温度以上(通常300〜330℃以上)に昇温して無機化を行い、形成する薄膜の緻密度合いを制御する。
以上のような単純な加熱処理による無機化でも活物質層(正極、負極)や固体電解質層を得ることはできるが、以下に述べるエネルギー線照射処理やプラズマ照射処理の単独処理または加熱処理と併用した処理を行えば、特に加熱温度が低い場合において上記酸素含有雰囲気下での無機化を大幅に促進することができる。言い換えれば、低温(300℃未満;例えば150℃程度)の加熱処理で無機薄膜を得ることが可能となる。
【0135】
すなわち、乾燥工程で得られた乾燥塗布膜を、CO濃度が低く、露点温度−80℃〜30℃の範囲内で制御した酸素含有雰囲気下で、エネルギー線照射やプラズマ照射を施す無機化処理(必要に応じて加熱処理も併用)の方法である。
この方法によって乾燥塗布膜の有機成分が徐々に分解・燃焼(酸化)して、膜の無機化が進行し、膜の厚みも徐々に低下していき、酸素含有雰囲気の露点温度が低い場合には緻密化がより一層促進される。例えば、厚み130〜150nmの乾燥塗布膜を、露点温度−50℃程度の酸素含有雰囲気下で、150〜200℃という低温加熱処理とエネルギー線照射処理やプラズマ照射処理の併用による無機化によって、最終的に厚み60〜70nm程度の無機薄膜に変化させることができる。
【0136】
なお、エネルギー線照射処理やプラズマ照射処理と加熱処理を併用する場合の加熱温度は、300℃未満が良く、好ましくは40〜250℃、より好ましくは、100〜200℃、更に好ましくは100〜150℃の範囲である。300℃以上だと、エネルギー線照射やプラズマ照射処理前にエネルギー線照射やプラズマ照射処理を施す乾燥塗布膜の熱分解が始まるため、膜の緻密化が阻害されるため好ましくない。
また、エネルギー線照射用のランプからは、通常、紫外線等のエネルギー線以外に熱線も放出され、プラズマ照射処理でもプラズマエネルギーにより、加熱処理を併用しなくても基板温度は上昇する。例えば、紫外線によるエネルギー線照射処理では、基板温度は40〜50℃程度まで上昇するため、加熱処理の加熱温度が40℃未満では加熱処理を併用する意味がなくなる。
【0137】
以下、エネルギー線照射処理について詳しく説明する。
本発明のエネルギー線照射処理に用いるエネルギー線照射は、少なくとも200nm以下の波長を主要成分の一つとして含む紫外線の照射であることが望ましく、より具体的には、低圧水銀ランプ、アマルガムランプ、エキシマランプのいずれかから放射される紫外線の照射が好ましい。(以下、上記波長200nm以下の紫外線照射によるエネルギー線照射処理を、「短波長UV照射処理」と呼ぶことがある。)
紫外線の照射量は、波長200nm以下の光の照度:2mW/cm以上、好ましくは4mW/cm以上で、照射時間は、1分間以上、好ましくは2分間以上、より好ましくは4分間以上が良い。照射時間が短すぎると、エネルギー線照射の効果(無機化、緻密化)が不十分となり、また、逆に長くなり過ぎると(例えば60分間を超える長時間)、生産性(処理効率)が著しく低下する一方で、エネルギー線照射の効果(無機化、緻密化)は途中でほぼ飽和してしまうため好ましいとは言えない。
【0138】
この紫外線の照射量は、基板とランプとの距離(照射距離)、照射時間、またはランプの出力によって適宜調整できる。このランプを用いた基板全面へのエネルギー線照射では、例えば直管状のランプを並行に配列させて照射しても良いし、グリッド型ランプの面光源を用いても良い。
【0139】
ここで、エネルギー線照射処理におけるエネルギー線照射は、乾燥塗布膜の全面に施しても良いし、乾燥塗布膜のある特定部分だけにパターン形状に施しても良い。この場合、エネルギー線照射を施した部分だけで上述した膜の無機化が進行するため、パターン形状を有する無機薄膜を形成することができる。
なお、無機薄膜が形成されなかった乾燥塗布膜部分(エネルギー線が照射されなかった乾燥塗布膜部分)の除去が必要な場合は、その部分は無機化していないため、乾燥塗布膜を溶解可能な有機溶剤、場合によってはアルカリ水溶液で溶解して除去することができる。一方で、無機化した無機薄膜部分は有機溶剤に全く溶解せず、金属酸化物の種類にもよってはアルカリ水溶液にも溶解しない場合があるため、無機薄膜部分だけを基板上に残すことが可能となる。
【0140】
用いる乾燥塗布膜の溶解性に優れる有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、アセチルアセトン(2、4−ペンタンジオン)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【0141】
また、用いる乾燥塗布膜の溶解性に優れるアルカリ水溶液には、例えば、炭酸ナトリウム、苛性ソーダ、苛性カリ、アンモニア水、エチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)等のアルカリ水溶液(濃度=0.1〜5質量%)等が挙げられる。
【0142】
以下、波長200nm以下の光を放射可能な低圧水銀ランプとエキシマランプについて詳細に説明するが、エネルギー線照射では、使用上の制約が少なく、加熱処理と併用した場合にランプへの加熱の影響を小さくできる低圧水銀ランプを用いることがより好ましい。
【0143】
アマルガムランプは、低圧水銀ランプが一般に石英ガラス管内にアルゴンガスと水銀を封入するのに対し、水銀と特殊希少金属の合金であるアマルガム合金を封入することで、低圧水銀ランプと比べて、2〜3倍程度の高出力化を可能としたもので、出力波長特性はほぼ低圧水銀ランプと同じなため、詳細説明は省略する。当然のことながら、アマルガムランプも、低圧水銀ランプと同様に、エネルギー線照射では、使用上の制約が少なく、加熱処理と併用した場合にランプへの加熱の影響を小さくできるため好ましい。
ただし、紫外線の吸収を伴わない窒素ガス等を冷却ガスとしてランプを冷却する特殊な装置を用いる事も可能で、そのような場合はこの限りでない。
【0144】
低圧水銀ランプは、185nmと254nmの波長の紫外線を放射し、例えば空気中では、下記反応式(1)〜(3)のように185nmの光は酸素を分解してオゾンを生成し、更に、そのオゾンを254nmの光がms(ミリ秒)単位の速さで分解して、高エネルギーの活性原子状酸素O(D)を生成する。これと同時に185nmの光(フォトンエネルギー:647kJ/mol)、及び254nmの光は有機物の化学結合を切断し、その化学結合が切断された有機物にオゾンや活性原子状酸素が作用して、最終的に有機物を水や炭酸ガスに酸化分解・揮発させると考えられる。その有効照射距離は0〜20mm(臨界照射距離は200mm)と比較的長い照射距離が確保できる。
【0145】
【化1】

【0146】
一方、エキシマランプ(キセノンエキシマランプ)は、172nmの波長の紫外線を放射し、例えば空気中では、低圧水銀ランプと異なり、下記反応式(4)に示す高エネルギーの活性原子状酸素O(D)を直接生成できるという特徴がある(反応式(4)の解離には波長175nm以下が必要なので、低圧水銀ランプの185nmの光ではこの解離は起きない)。また、反応式(5)によりオゾンを生成し、反応式(6)によっても活性原子状酸素を生成できる(反応式(6)は2次反応であり、主たる活性原子状酸素の生成は反応式(4)によると考えられる)。
【0147】
更に、フォトンのエネルギーが696kJ/molと大きいので有機物の結合を切る能力が高いという利点もある(ほとんどの有機物の分子結合エネルギーより高いため分子結合が切れる確率が高くなる)。ただし、172nmの光は、低圧水銀ランプの185nmの光に比べて酸素の吸収係数が約100倍も大きく、酸素に強く吸収されるため、上記オゾンや高エネルギーの活性原子状酸素は、ランプ表面近傍でしか酸化反応が起こせず、大気中での有効照射距離が0〜3mm(臨界照射距離は8mm)と極端に短くなる欠点がある。
以上のようにして、乾燥塗布膜中の有機成分を熱分解・燃焼(酸化)により無機化させながら緻密化させて、金属酸化物微粒子が充填した無機薄膜を得ることができる。
【0148】
【化2】

【0149】
次に、プラズマ照射処理について詳しく説明する。
本発明のプラズマ照射処理に用いるプラズマとしては、マイクロ波プラズマや高周波プラズマ(RFプラズマ)が考えられるが、いずれのプラズマの適用も可能である。
【0150】
まず、マイクロ波プラズマを用いたマイクロ波プラズマ照射処理について述べると、マイクロ波は極めて短波長の電磁波で、波長3〜30cm(周波数1000M〜10000MHz)程度の電波の総称であり、工業的には、2450MHz、915MHzが利用されるが、2450MHzが一般的である。マイクロ波プラズマは一般的に減圧雰囲気下(圧力2〜200Pa、好ましくは3〜20Pa、更に好ましくは3〜10Pa)で安定形成され、1011〜1012/cmという高密度プラズマを得ることができる。
その圧力が高すぎる(200Paを越える)とマイクロ波プラズマ形成が困難となってくると同時に、プラズマ中のイオンや活性原子の存在寿命が短くなってイオン濃度や活性原子濃度が低下して、プラズマ照射の効果(無機化、緻密化)が小さくなるため好ましいとは言えない。また、圧力が低すぎる(2Pa未満)と、同様に、マイクロ波プラズマ形成が困難となると同時に、プラズマ中のイオン濃度や活性原子濃度が低下するため好ましいとは言えない。
【0151】
次いで、高周波プラズマを用いた高周波プラズマ照射処理について述べると、高周波はラジオ波(RF:Radio Frequency)の波長の電磁波で、波長1m〜100km(周波数3k〜300MHz)程度の電波の総称である。工業的には、13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz等が利用されるが、13.56MHzが一般的である。
高周波プラズマは、マイクロ波プラズマと比べて広範な圧力範囲(圧力2Pa〜100kPa(大気圧))で比較的安定に形成でき、プラズマ密度は10〜1010/cm程度と、マイクロ波プラズマに比べると幾分低いが、例えば大気圧雰囲気を用いた大気圧高周波プラズマ照射処理であれば装置構造が単純になり装置コストを安価にできる利点がある。
【0152】
プラズマ照射処理では、プラズマの電子温度が高い(マイクロ波プラズマの電子温度:1eV程度、高周波プラズマ:数eV程度)ため、基板が加熱されるが、その加熱温度はプラズマ照射処理条件(基板とプラズマ発生部の距離(照射距離)、処理時間、入力エネルギー(数百W〜数キロW)等)により100〜数百度まで大きく異なってくるが、基板の材質や無機薄膜の種類等により適宜最適化すれば良い。加熱処理時の加熱温度の設定は、プラズマ照射処理単独で行っても良いし、(加熱装置による)加熱処理とプラズマ照射処理を併用して行っても良い。
【0153】
上記マイクロ波と高周波のいずれのプラズマ照射処理においても、酸素含有雰囲気下において無機化や緻密化を大幅に促進する効果を有しており、前述の紫外線等のエネルギー線照射処理と同様に無機薄膜の形成に活用できる。
【0154】
ところで、CO濃度が低く、露点温度が低い(−10℃以下;例えば−10〜−80℃)の酸素含有雰囲気下での無機化により緻密な薄膜を得た後に、必要に応じて、次にCO濃度が低く、露点温度の高い(0℃以上;例えば0〜30℃)の酸素含有雰囲気ガスを供給しながら無機化処理を行って、より無機化を促進させても良い。
更には、酸素含有雰囲気ガス中での無機化により活物質層(正極、負極)や固体電解質層としての無機薄膜を得た後、必要に応じ、例えば電子導電性の向上等の目的で、その膜の酸素含有量(酸素欠損量、つまり、酸素空孔量)を調節するために、中性雰囲気または還元性雰囲気ガスを供給しながら無機化処理を行うこともできる。
【0155】
本発明で使用する酸素含有雰囲気ガスは、空気、または酸素ガス、あるいは、酸素ガスと中性雰囲気ガス(窒素)・不活性ガス(アルゴン、ヘリウム等)の混合ガスが挙げられるが、安価で入手しやすい空気、特に、COが除去された空気(CO濃度1ppm未満)が好ましい。
【0156】
ここで、酸素含有雰囲気下での単純な加熱処理を用いた無機化工程(つまり、エネルギー線照射処理やプラズマ照射処理との併用がない加熱処理)の加熱温度(ピーク温度)は、300℃以上、より好ましくは350℃以上、更に好ましくは400℃以上の加熱温度で5〜120分間、より好ましくは15〜60分間である。
300℃よりも低い加熱温度(特に270℃未満の加熱温度)では、通常、乾燥塗布膜に含まれる有機成分(有機金属化合物有機バインダー等に含まれる有機成分)の熱分解、あるいは燃焼が不十分となり易く、それら有機成分が活物質層(正極、負極)や固体電解質層に残留して無機化が不十分となり、膜の緻密化も不十分となって、活物質層(正極、負極)や固体電解質層として機能しなくなる恐れがあるため好ましいとは言えない。
【0157】
ただし、加熱処理時間を例えば60分間程度以上と長くした場合や、最終的な活物質層(正極、負極)や固体電解質層の膜厚が50nm程度以下と薄い場合等では、例えば270℃程度でも上記有機成分の熱分解、あるいは燃焼が進行して、膜の無機化が達成される場合もある。
したがって、単純な加熱処理を用いた無機化では、一般的には300℃以上の加熱温度が好ましいが、各工程の条件(膜厚、無機化時間等)によっては、270℃程度の加熱温度も適用可能である。
【0158】
また、単純な加熱処理を用いた無機化工程での加熱温度の上限は特に限定されないが、用いる無機化装置の種類や基板の耐熱性等の影響を受ける。例えば、安価で最も一般的に用いられるソーダライムガラス基板では、歪点が約510℃であるので、この温度よりも低い温度で無機化することが好ましい。ただし、ソーダライムガラス基板をより耐熱性の高い耐熱性基材上で無機化すれば、基板の歪みを比較的少なくできるため、約600℃程度での無機化も可能である。もちろん、石英ガラス基板、無アルカリガラス基板、高歪点ガラス基板等のより耐熱性が高いガラス基板を用いる場合は、更に高い加熱温度が適用できる。
なお、基板として耐熱性プラスチックであるポリイミド(PI)フィルムを用いた場合は、ポリイミドの種類にもよるが、400℃程度までの無機化が可能である。
【0159】
加熱処理を用いた無機化工程で用いる無機化装置には、ホットプレート、熱風循環無機化炉、電気炉、赤外線加熱装置等が挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
赤外線加熱装置の中でも、急速昇温炉(RTA炉:Rapid Thermal Annealing Furnace)は、ハロゲンランプやキセノンフラッシュランプからの強力な赤外線を試料に照射することで極短時間での加熱処理が可能となるため、無機化工程の効率化を図ることができる。
ただし、本発明を実施するためには二酸化炭素(CO)が低く、露点温度−80℃〜30℃の範囲内で制御された酸素含有雰囲気を用いることが好ましいため、その場合には、上記無機化装置には無機化雰囲気の制御が可能であることが求められる。
【0160】
なお、加熱処理を用いた無機化工程の昇温過程における金属酸化物の結晶化が起こる温度以上までの昇温速度については特に制約はないが、5〜40℃/分の範囲、より一般的には10〜30℃/分である。
5℃/分より昇温速度が遅いと昇温に時間がかかりすぎて効率が悪くなり、一方40℃/分を越える昇温速度を上記無機化装置で実現しようとすると、通常の伝熱型ヒーターではヒーター容量が大きくなりすぎて現実的でない。ただし、上記急速加熱装置(RTA炉)では、100℃/分以上の急速加熱も可能であり、好適に用いることができる。
【0161】
前述の中性雰囲気または還元性雰囲気ガスを供給しながらの無機化処理で用いる中性雰囲気は、窒素ガス、不活性ガス(アルゴン、ヘリウム等)のいずれか1種以上からなり、還元性雰囲気は、水素ガスまたは該中性雰囲気に水素または有機溶剤蒸気(メタノール等の有機ガス)の少なくとも1種以上が含まれる雰囲気などが挙げられるが、これらに限定されない。1〜2%水素−99〜98%窒素の混合ガスは、大気に漏洩しても爆発の恐れがないため好ましい還元性雰囲気である。
【0162】
中性雰囲気または還元性雰囲気下での無機化の処理条件は、加熱温度が250℃以上、より好ましくは350℃以上の加熱温度で5〜120分間、より好ましくは15〜60分間である。
また、この加熱温度の上限は特に限定されないが、無機化工程で用いる無機化装置の種類や基板の耐熱性に影響受ける点は、酸素含有雰囲気下での無機化と同様である。
【0163】
なお、加熱処理を用いた無機化工程における、CO濃度の低い各種露点温度の酸素含有雰囲気下での無機化、及び中性雰囲気または還元性雰囲気下の無機化は、連続して行うことができる。即ち、乾燥塗布膜が形成された基板の無機化において、例えば、基板の温度を300℃以上の加熱温度に昇温した後、その温度を保ったまま、雰囲気だけをCO濃度の低い露点温度の異なる酸素含有雰囲気、あるいは、中性雰囲気または還元性雰囲気に切替えればよい。
【0164】
本発明に係る薄膜固体二次電池用の薄膜は、塗布法という極めて簡便な方法で形成できるため、薄膜固体二次電池の正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層に適用することで、薄型化、小型化が可能な薄膜固体二次電池の低コスト化に大きく貢献することができるものである。
【実施例】
【0165】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0166】
[正極活物質層形成用塗布液の作製]
リチウム(I)−tert−ブトキシド(室温で固体)[Li(CO)](分子量=80.05)3.46g、蟻酸コバルト(II)(室温で固体)[Co(COOH)・2HO](分子量=185.0)8.0g、3−アミノ−1−プロパノール88.54gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して溶解させ、次に、得られた溶解液10gに、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)9.996g、界面活性剤0.004gを混合して均一になるまで良く攪拌し、リチウム(I)−tert−ブトキシドと蟻酸コバルト(II)を合計で5.73質量%(ヒドロキシプロピルセルロースは非含有)含有する正極活物質層形成用塗布液(リチウム(I)−tert−ブトキシド:蟻酸コバルト(II)=1:1[モル比])を作製した。
【0167】
[薄膜の作製]
作製した正極活物質層形成用塗布液を、25℃の無アルカリガラス基板(5cm×5cm×0.7mm厚さ;ヘイズ値=0.26%、可視光線透過率=91.2%)上の全面にスピンコーティング(3000rpm×60sec)した後、大気中150℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約120nm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。
次に、図5の塗布法による薄膜の製造方法における加熱処理及びエネルギー線照射工程を用いた無機化工程の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気中150℃に昇温(昇温速度:30℃/分)し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気を紫外線照射窓12(合成石英板;厚さ2mm)と基板9との間に供給しながら150℃に加熱したままで低圧水銀ランプ11を30分間照射する加熱処理を併用したエネルギー線照射処理を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、コバルトを含むリチウム複合酸化物(LCO:LiCoO)を主成分とする正極活物質層からなる実施例1に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約62nm)を作製した。
なお、低圧水銀ランプ11と基板9との距離(照射距離)は10.5mmで、254nmの光の照度:約20mW/cm、185nmの光の推定照度:約5mW/cmであった。更に、基板9と紫外線照射窓12の間隔は3.5mmでその間を流れる雰囲気ガス(CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気)の平均流速は約0.29m/秒)であった。
【0168】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された正極活物質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズ(以下、結晶子径と呼ぶこともある)の諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された正極活物質層はアモルファス膜であり、更に、実施例1の正極活物質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
【0169】
塗布法により形成された上記正極活物質層の表面抵抗は、三菱化学株式会社製の表面抵抗計ハイレスタIP(MCP−HT260)を用い測定した。尚、測定される表面抵抗は、電子伝導とイオン伝導の両方を合せて測定していると考えられるが、例えば表面抵抗が10〜10Ω/□(オーム・パー・スクエア)程度と低い値の場合は電子伝導が主体であり、表面抵抗が10〜1012Ω/□と高い値の場合は、250〜500Vの高電圧を測定プローブに印加しての測定であり、イオン伝導の寄与も大きくなっていると考えられる。
膜厚は、オプティカルプロファイラー(Zygo社製 NewView6200)を用いて測定した。
結晶子サイズは、X線回折測定を行い、Scherrer法により求めた。
【実施例2】
【0170】
[正極活物質層形成用塗布液の作製]
リチウム(I)−tert−ブトキシド(室温で固体)[Li(CO)](分子量=80.05)9.07g、蟻酸ニッケル(II)(室温で固体)[Ni(HCOO)・2HO](分子量=184.77)20.93g、3−アミノ−1−プロパノール70gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して溶解させ、次に、得られた溶解液10gに、ジエチレングリコールモノメチルエーテル9.996g、界面活性剤0.004gを混合して均一になるまで良く攪拌し、リチウム(I)−tert−ブトキシドと蟻酸ニッケル(II)を合計で10質量%(ヒドロキシプロピルセルロースは非含有)含有する正極活物質層形成用塗布液(リチウム(I)−tert−ブトキシド:蟻酸ニッケル(II)=1:1[モル比])を作製した。
【0171】
[薄膜の作製]
作製した正極活物質層形成用塗布液を、25℃の無アルカリガラス基板(5cm×5cm×0.7mm厚さ;ヘイズ値=0.26%、可視光線透過率=91.2%)上の全面にスピンコーティング(3000rpm×60sec)した後、大気中150℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約120nm)を得た。
次に、図5の塗布法による薄膜の製造方法における加熱処理及びエネルギー線照射工程を用いた無機化工程の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を、CO濃度1ppm未満で露点温度−30℃の低湿度空気中150℃に昇温(昇温速度:30℃/分)し、CO濃度1ppm未満で露点温度−30℃の低湿度空気を紫外線照射窓12(合成石英板;厚さ2mm)と基板9との間に供給しながら150℃に加熱したままで低圧水銀ランプ11を20分間照射する加熱処理を併用したエネルギー線照射処理を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、ニッケルを含むリチウム複合酸化物(LNO:LiNiO)を主成分とする正極活物質層からなる実施例2に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約45nm)を作製した。
なお、低圧水銀ランプ11と基板9との距離(照射距離)は10.5mmで、254nmの光の照度:約20mW/cm、185nmの光の推定照度:約5mW/cmであった。更に、基板9と紫外線照射窓12の間隔は3.5mmでその間を流れる雰囲気ガス(CO濃度1ppm未満で露点温度−30℃の低湿度空気)の平均流速は約0.29m/秒)であった。
【0172】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された正極活物質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された正極活物質層はアモルファス膜であり、更に、実施例2の正極活物質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
【実施例3】
【0173】
[正極活物質層形成用塗布液の作製]
アセチルアセトンリチウム(室温で固体)[Li(C)](分子量=106.05)1.31g、アセチルアセトンマンガン(室温で固体)[Mn(C](分子量=352.26)8.69g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)39g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC;低分子量タイプ)1gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して溶解させ、次に、得られた溶解液5gに、シクロヘキサノン6g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)3g、メチルエチルケトン(MEK)6g、界面活性剤0.004gを混合して均一になるまで良く攪拌し、アセチルアセトンリチウムとアセチルアセトンマンガンを合計で5質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを0.5質量%含有する正極活物質層形成用塗布液(アセチルアセトンリチウム:アセチルアセトンマンガン=1:2[モル比])を作製した。
【0174】
[薄膜の作製]
作製した正極活物質層形成用塗布液を、25℃の無アルカリガラス基板(5cm×5cm×0.7mm厚さ;ヘイズ値=0.26%、可視光線透過率=91.2%)上の全面にスピンコーティング(1500rpm×60sec)した後、大気中100℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約105nm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。
次に、図5の塗布法による薄膜の製造方法における加熱処理及びエネルギー線照射工程を用いた無機化工程の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気中150℃に昇温(昇温速度:30℃/分)し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気を紫外線照射窓12(合成石英板;厚さ2mm)と基板9との間に供給しながら150℃に加熱したままで低圧水銀ランプ11を10分間照射する加熱処理を併用したエネルギー線照射処理を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、マンガンを含むリチウム複合酸化物(LMO:LiMn)を主成分とする正極活物質層からなる実施例3に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約66nm)を作製した。
なお、低圧水銀ランプ11と基板9との距離(照射距離)は10.5mmで、254nmの光の照度:約20mW/cm、185nmの光の推定照度:約5mW/cmであった。
更に、基板9と紫外線照射窓12の間隔は3.5mmでその間を流れる雰囲気ガス(CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気)の平均流速は約0.29m/秒)であった。
【0175】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された正極活物質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された正極活物質層はアモルファス膜であり、更に、実施例3の正極活物質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
【0176】
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
【実施例4】
【0177】
[薄膜の作製]
実施例3の正極活物質層形成用塗布液を、25℃の無アルカリガラス基板(5cm×5cm×0.7mm厚さ;ヘイズ値=0.26%、可視光線透過率=91.2%)上の全面にスピンコーティング(2000rpm×60sec)した後、大気中100℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約88nm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。
次に図5の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気中で、加熱処理を併用せずに(加熱装置8を用いずに)、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気を紫外線照射窓12(合成石英板;厚さ2mm)と基板9との間に供給しながら低圧水銀ランプ11を10分間照射するエネルギー線照射処理を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進してマンガンを含むリチウム複合酸化物(LMO:LiMn)を主成分とする無機薄膜(膜厚:約47nm)を得た。正極活物質層形成用塗布液を用いて同様の膜形成操作を繰り返し、この無機薄膜を2層積層して、マンガンを含むリチウム複合酸化物(LMO:LiMn)を主成分とする正極活物質層からなる実施例4に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約94nm)を作製した。
なお、低圧水銀ランプ11と基板9との距離(照射距離)は10.5mmで、254nmの光の照度:約20mW/cm、185nmの光の推定照度:約5mW/cmであった。更に、基板9と紫外線照射窓12の間隔は3.5mmでその間を流れる雰囲気ガス(CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気)の平均流速は約0.29m/秒)であった。
また、上記加熱処理を併用しないエネルギー線照射処理において、低圧水銀ランプ11から放出される熱線によって、基板温度は40〜42℃程度まで上昇していることが確認された。
【0178】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された正極活物質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された正極活物質層はアモルファス膜であり、更に、実施例4の正極活物質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
【0179】
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
【実施例5】
【0180】
[負極活物質層形成用塗布液の作製]
アセチルアセトンリチウム(室温で固体)[Li(C)](分子量=106.05)1.78g、アセチルアセトンチタン(室温で液体)[Ti(CO)(C](分子量=392.32)8.22g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)39g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC;低分子量タイプ)1gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して溶解させ、次に、得られた溶解液5gに、シクロヘキサノン6g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)3g、メチルエチルケトン(MEK)6g、界面活性剤0.004gを混合して均一になるまで良く攪拌し、アセチルアセトンリチウムとアセチルアセトンチタンを合計で5質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを0.5質量%含有する負極活物質層形成用塗布液(アセチルアセトンリチウム:アセチルアセトンチタン=4:5[モル比])を作製した。
【0181】
[薄膜の作製]
作製した負極活物質層形成用塗布液を、25℃の無アルカリガラス基板(10cm×10cm×0.7mm厚さ;ヘイズ値=0.26%、可視光線透過率=91.2%)上の全面にスピンコーティング(1000rpm×60sec)した後、大気中100℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約100nm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。図5の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気中150℃に昇温(昇温速度:30℃/分)し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気を紫外線照射窓12(合成石英板;厚さ2mm)と基板9との間に供給しながら150℃に加熱したままで低圧水銀ランプ11を10分間照射する加熱処理を併用したエネルギー線照射処理を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、リチウム−チタン酸化物(LTO:LiTi12)を主成分とする負極活物質層からなる実施例5に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約58nm)を作製した。
なお、低圧水銀ランプ11と基板9との距離(照射距離)は10.5mmで、254nmの光の照度:約20mW/cm、185nmの光の推定照度:約5mW/cmであった。更に、基板9と紫外線照射窓12の間隔は3.5mmでその間を流れる雰囲気ガス(CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気)の平均流速は約0.29m/秒)であった。
【0182】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された負極活物質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された負極活物質層はアモルファス膜であり、更に、実施例5の負極活物質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
【実施例6】
【0183】
[負極活物質層形成用塗布液の作製]
アセチルアセトンリチウム(室温で固体)[Li(C)](分子量=106.05)1.78g、アセチルアセトンチタン(室温で液体)[Ti(CO)(C](分子量=392.32)8.22g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)39g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC;低分子量タイプ)1gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して溶解させ、次に、得られた溶解液10gに、シクロヘキサノン3.996g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)2g、メチルエチルケトン(MEK)4g、界面活性剤0.004gを混合して均一になるまで良く攪拌し、アセチルアセトンリチウムとアセチルアセトンチタンを合計で10質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを1.0質量%含有する負極活物質層形成用塗布液(アセチルアセトンリチウム:アセチルアセトンチタン=4:5[モル比])を作製した。
【0184】
[薄膜の作製]
作製した負極活物質層形成用塗布液を、25℃のステンレス基板(直径16mm×0.5mm厚さ;面積2cm、SUS304)上の全面にスピンコーティング(1000rpm×60sec)した後、大気中150℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約250nm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。図5の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気中150℃に昇温(昇温速度:30℃/分)し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気を紫外線照射窓12(合成石英板;厚さ2mm)と基板9との間に供給しながら150℃に加熱したままで低圧水銀ランプ11を10分間照射する加熱処理を併用したエネルギー線照射処理を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、リチウム−チタン酸化物(LTO:LiTi12)を主成分とする無機薄膜(膜厚:約70nm)を得た。
【0185】
負極活物質層形成用塗布液を用いて同様の膜形成操作を繰り返し、この無機薄膜を4層積層して、リチウム−チタン酸化物(LTO:LiTi12)を主成分とする負極活物質層からなる実施例6に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約280nm、重量:0.05mg/cm)を作製した。
なお、低圧水銀ランプ11と基板9との距離(照射距離)は10.5mmで、254nmの光の照度:約20mW/cm、185nmの光の推定照度:約5mW/cmであった。更に、基板9と紫外線照射窓12の間隔は3.5mmでその間を流れる雰囲気ガス(CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気)の平均流速は約0.29m/秒)であった。
【0186】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された負極活物質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。尚、表面抵抗は、基板として良導電性のステンレスを用いたため測定できなかった。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された負極活物質層はアモルファス膜であり、更に、実施例6の負極活物質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
【0187】
さらに、上記負極活物質層を正極に、リチウムドープ黒鉛を負極として組み込んだ2032型コインセルを作製し、負極活物質層(正極として適用)の充放電特性を評価した。コインセルの構成は、上記負極活物質層が形成されたステンレス基板(面積2cm)が、厚さ約180μmのポリプロピレン製セパレータを介して市販の黒鉛負極シート(活物質:天然球状グラファイト、基材シート:厚さ20μm銅箔、直径16mm、面積2cm、1.6mAh/cm)及び黒鉛シート上に配置した金属リチウム箔(約2mm×約5mm×厚さ100μm)と、負極活物質層、黒鉛と金属リチウム箔が対向するようにアルゴン雰囲気中で挟み込まれ、電解液(1M LiClO(EC:DEC=1:1 V/V%))が充填されている。
【0188】
上記コインセルは、充放電特性評価の前に、作製後1日放置し電解液を介した黒鉛へのリチウムドープ(リチウムプレドープ)を行い、予め黒鉛負極シートの電位を十分低下(約0.1V vs Li)させている。したがって、充放電特性評価でのセル電位(V)は、リチウムドープ黒鉛(約0.1V vs Li)に対する電位である。上記コインセルにおいて、充放電電流2μA、カットオフ電位1.0−2.3Vでの充放電を3回実施し、得られた充放電曲線を図6に示す。
上述のように実施例6の負極活物質層はアモルファス膜のため、通常の結晶LTOの充放電曲線に見られるプラトー領域(1.55V vs Li)は観察されなかったものの、平均電圧は1.5〜1.6V(vs Li)程度であり、負極活物質層(LTO薄膜)の総重量0.12mgから負極容量は140〜155mA/gと見積もられた(結晶LTOの負極実容量:160〜170mA/g;実容量は実際に充放電可能な容量で理論的に計算される理論容量より小さい値となる)。
【実施例7】
【0189】
[固体電解質層形成用塗布液の作製]
アセチルアセトンリチウム(室温で固体)[Li(C)](分子量=106.05)2.54g、トリペンチルフォスフェイト(別名:トリアミルフォスフェイト)[PO(C11O)]トリエチルフォスフェイト(室温で液体)[PO(C11O)](分子量=308.39)2.46g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)69.46g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC;低分子量タイプ)0.5g、界面活性剤0.04gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して溶解させて、アセチルアセトンリチウムとトリペンチルフォスフェイトを合計で6.67質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを0.67質量%含有する固体電解質層形成用塗布液(アセチルアセトンリチウム:トリペンチルフォスフェイト=3:1[モル比])を作製した。
【0190】
[薄膜の作製]
作製した固体電解質層形成用塗布液を、25℃の無アルカリガラス基板(10cm×10cm×0.7mm厚さ;ヘイズ値=0.26%、可視光線透過率=91.2%)上の全面にスピンコーティング(1000rpm×60sec)した後、大気中100℃で3分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約90nm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。図5の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気中150℃に昇温(昇温速度:30℃/分)し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気を紫外線照射窓12(合成石英板;厚さ2mm)と基板9との間に供給しながら150℃に加熱したままで低圧水銀ランプ11を10分間照射する加熱処理を併用したエネルギー線照射処理を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進してリンを含むリチウム複合酸化物を主成分とする無機薄膜(膜厚:約22nm)を得た。
【0191】
固体電解質層形成用塗布液を用いて同様の膜形成操作を繰り返し、この無機薄膜を2層積層して、リンを含むリチウム複合酸化物(LiPO)を主成分とする固体電解質層からなる実施例7に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約44nm)を作製した。
なお、低圧水銀ランプ11と基板9との距離(照射距離)は10.5mmで、254nmの光の照度:約20mW/cm、185nmの光の推定照度:約5mW/cmであった。更に、基板9と紫外線照射窓12の間隔は3.5mmでその間を流れる雰囲気ガス(CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気)の平均流速は約0.29m/秒)であった。
【0192】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された固体電解質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された固体電解質層はアモルファス膜であり、更に、実施例7の固体電解質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
【0193】
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
【実施例8】
【0194】
[固体電解質層形成用塗布液の作製]
アセチルアセトンリチウム(室温で固体)[Li(C)](分子量=106.05)0.79g、アセチルアセトンランタン(正式名称:ランタン(III)−2,4−ペンタンジオネート)(室温で固体)[La(C・HO](分子量=454.26)3.38g、アセチルアセトンチタン(室温で液体)[Ti(CO)(C](分子量=392.32)5.83g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)39g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC;低分子量タイプ)1.0gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して溶解させ、次に、得られた溶解液10gに、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)9.996g、界面活性剤0.004gを混合して均一になるまで良く攪拌し、アセチルアセトンリチウム、アセチルアセトンランタン、アセチルアセトンチタンを合計で10質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを1.0質量%含有する固体電解質層形成用塗布液(アセチルアセトンリチウム:アセチルアセトンランタン:アセチルアセトンチタン=1:1:2[モル比])を作製した。
【0195】
[薄膜の作製]
作製した固体電解質層形成用塗布液を、25℃の無アルカリガラス基板(5cm×5cm×0.7mm厚さ;ヘイズ値=0.26%、可視光線透過率=91.2%)上の全面にスピンコーティング(2000rpm×60sec)した後、大気中100℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約230nm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。
次に、図5の塗布法による薄膜の製造方法における加熱処理及びエネルギー線照射工程を用いた無機化工程の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気中150℃に昇温(昇温速度:30℃/分)し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気を紫外線照射窓12(合成石英板;厚さ2mm)と基板9との間に供給しながら150℃に加熱したままで低圧水銀ランプ11を20分間照射する加熱処理を併用したエネルギー線照射処理を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、リチウム−ランタン−チタン酸化物(LLT:Li0.5La0.5TiO)を主成分とする固体電解質層からなる実施例8に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約56nm)を作製した。
なお、低圧水銀ランプ11と基板9との距離(照射距離)は10.5mmで、254nmの光の照度:約20mW/cm、185nmの光の推定照度:約5mW/cmであった。更に、基板9と紫外線照射窓12の間隔は3.5mmでその間を流れる雰囲気ガス(CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気)の平均流速は約0.29m/秒)であった。
【0196】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された固体電解質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された固体電解質層はアモルファス膜であり、更に、実施例8の固体電解質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
【実施例9】
【0197】
[固体電解質層形成用塗布液の作製]
リチウム(I)−tert−ブトキシド(室温で固体)[Li(CO)](分子量=80.05)1.5gをテトラヒドロフラン(THF)7.0gに混合し、攪拌して溶解させ、次に、ニオブ(V)−n−ブトキシド(室温で液体)[Nb(CO)](分子量=458.12)8.5g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.9g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)21.25g、エタノール42.14g、イソプロピルアルコール(IPA)6.86g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC;低分子量タイプ)0.85gを混合し、50℃に加温して攪拌しながら超音波処理して均一に溶解させ、リチウム(I)−tert−ブトキシドとニオブ(V)−n−ブトキシドを合計で10質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを0.85質量%含有する固体電解質層形成用塗布液(リチウム(I)−tert−ブトキシド:ニオブ(V)−n−ブトキシド=1:1[モル比])を作製した。
【0198】
[薄膜の作製]
作製した固体電解質層形成用塗布液を、25℃の無アルカリガラス基板(10cm×10cm×0.7mm厚さ;ヘイズ値=0.26%、可視光線透過率=91.2%)上の全面にスピンコーティング(500rpm×60sec)した後、大気中180℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約410nm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。
次に、図5の塗布法による薄膜の製造方法における加熱処理及びエネルギー線照射工程を用いた無機化工程の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気中200℃に昇温(昇温速度:30℃/分)し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気を紫外線照射窓12(合成石英板;厚さ2mm)と基板9との間に供給しながら200℃に加熱したままで低圧水銀ランプ11を20分間照射する加熱処理を併用したエネルギー線照射処理を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、ニオブを含むリチウム複合酸化物(LiNbO)を主成分とする固体電解質層からなる実施例9に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約240nm)を作製した。
なお、低圧水銀ランプ11と基板9との距離(照射距離)は10.5mmで、254nmの光の照度:約20mW/cm、185nmの光の推定照度:約5mW/cmであった。更に、基板9と紫外線照射窓12の間隔は3.5mmでその間を流れる雰囲気ガス(CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気)の平均流速は約0.29m/秒)であった。
【0199】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された固体電解質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された固体電解質層はアモルファス膜であり、更に、実施例9の固体電解質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
【実施例10】
【0200】
[固体電解質層形成用塗布液の作製]
アセチルアセトンリチウム(室温で固体)[Li(C5H7O2)]分子量=106.05)0.827g、アセチルアセトンアルミニウム(正式名称:アルミニウム(III)−2,4−ペンタンジオネート)(室温で固体)[Al(C]1.164g、アセチルアセトンチタン(室温で液体)[Ti(CO)(C](分子量=392.32)2.979g、ビス(2−エチルヘキシル)フォスフェイト(CCH(C)CHHPO](室温で液体)(分子量=322.42)5.03g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)13g、p−tert−ブチルフェノール13g、二塩基酸エステル(デュポンジャパン製;コハク酸ジメチル(沸点:196℃)、グルタル酸ジメチル(沸点:210〜215℃)、アジピン酸ジメチル(沸点:215〜225℃)の混合物)13g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC;低分子量タイプ)1gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して溶解させ、次に、得られた溶解液10gに、シクロヘキサノン4g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)2g、メチルエチルケトン(MEK)3.996g、界面活性剤0.004gを混合して均一になるまで良く攪拌し、アセチルアセトンリチウム、アセチルアセトンアルミニウム、アセチルアセトンチタン、ビス(2−エチルヘキシル)フォスフェイトを合計で10質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを1.0質量%含有する高粘度の固体電解質層形成用塗布液(アセチルアセトンリチウム:アセチルアセトンアルミニウム:アセチルアセトンチタン:ビス(2−エチルヘキシル)フォスフェイト=1.5:0.69:1.46:3[モル比])を作製した。
【0201】
[薄膜の作製]
作製した固体電解質層形成用塗布液を、25℃の無アルカリガラス基板(5cm×5cm×0.7mm厚さ;ヘイズ値=0.26%、可視光線透過率=91.2%)上の全面にスピンコーティング(1500rpm×60sec)した後、大気中100℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約220nm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。
次に、図5の塗布法による薄膜の製造方法における加熱処理及びエネルギー線照射工程を用いた無機化工程の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気中150℃に昇温(昇温速度:30℃/分)し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気を紫外線照射窓12(合成石英板;厚さ2mm)と基板9との間に供給しながら150℃に加熱したままで低圧水銀ランプ11を20分間照射する加熱処理を併用したエネルギー線照射処理を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、アルミニウム、チタン、リンを含むリチウム複合酸化物(LATP:Li1.5Al0.69Ti1.46(PO)を主成分とする固体電解質層からなる実施例10に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約65nm)を作製した。
なお、低圧水銀ランプ11と基板9との距離(照射距離)は10.5mmで、254nmの光の照度:約20mW/cm、185nmの光の推定照度:約5mW/cmであった。更に、基板9と紫外線照射窓12の間隔は3.5mmでその間を流れる雰囲気ガス(CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気)の平均流速は約0.29m/秒)であった。
【0202】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された固体電解質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された固体電解質層はアモルファス膜であり、更に、実施例10の固体電解質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
【実施例11】
【0203】
[正極活物質層形成用塗布液の作製]
リチウム(I)−tert−ブトキシド(室温で固体)[Li(CO)](分子量=80.05)1.84g、アセチルアセトンコバルト(室温で固体){(正式名称:コバルト(III)−2,4−ペンタンジオネート)[Co(C]}(分子量=356.24)8.16g、3−アミノ−1−プロパノール55g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC;高分子量タイプ)1gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して溶解させ、次に、得られた溶解液に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)33.98g、界面活性剤0.02gを混合して均一になるまで良く攪拌し、リチウム(I)−tert−ブトキシドとアセチルアセトンコバルトを合計で10質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを1.0質量%含有する正極活物質層形成用塗布液(リチウム(I)−tert−ブトキシド:アセチルアセトンコバルト=1:1[モル比])を作製した。
【0204】
[薄膜の作製]
作製した正極活物質層形成用塗布液を、25℃の透明石英ガラス基板(5cm×5cm×2mm厚さ)上の全面にスピンコーティング(1000rpm×60sec)した後、大気中180℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約940nm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。図7の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を加熱装置(加熱ヒーター)8を有する電気炉内に設置し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気(5リッター/分供給)下で、500℃で60分間の加熱処理(500℃までの昇温速度:20℃/分)を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、リチウム−コバルト酸化物(LCO:LiCoO)を主成分とする正極活物質層からなる実施例11に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約350nm)を作製した。
【0205】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された正極活物質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された正極活物質層はアモルファス膜(非晶質膜)であり、更に、実施例11の正極活物質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
【0206】
ここで、加熱温度と結晶構造との関係を調査するために、実施例11で得られた薄膜に、上記と同様の方法で600℃、700℃のそれぞれの温度で60分間の追加の加熱処理(600℃、700℃のそれぞれの温度までの昇温速度:20℃/分)を行い、それぞれについて、X線回折による結晶構造、及び結晶子サイズを求め、その結果を、上記500℃で60分間の加熱処理の結果と合せて図8に示す。
【実施例12】
【0207】
[正極活物質層形成用塗布液の作製]
リチウム(I)−tert−ブトキシド(室温で固体)[Li(CO)](分子量=80.05)1.73g、蟻酸コバルト(II)(室温で固体)[Co(COOH)・HO](分子量=185.0)3.98g、3−アミノ−1−プロパノール91.28g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC;高分子量タイプ)3g、界面活性剤0.01gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して均一に溶解させ、リチウム(I)−tert−ブトキシドと蟻酸コバルト(II)を合計で5.71質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを3.0質量%含有する高粘度の正極活物質層形成用塗布液(リチウム(I)−tert−ブトキシド:蟻酸コバルト(II)=1:1[モル比])を作製した。
【0208】
[薄膜の作製]
作製した正極活物質形成用塗布液を、25℃のステンレス基板(直径16mm×0.5mm厚さ;面積2cm、SUS304)上の全面にドクターブレードコーティング(ステンレス基板とドクター刃のギャップ:350μm)した後、大気中180℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約3μm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。図7の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を加熱装置(ホットプレート)8上に設置し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気(3リッター/分供給;基板上のガスの平均流速:約0.045m/秒)下で、500℃で30分間の加熱処理(500℃までの昇温速度:20℃/分)を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、リチウム−コバルト酸化物(LCO:LiCoO)を主成分とする正極活物質層からなる実施例12に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約1.3μm(1300nm)、重量:0.30mg/cm)を作製した。
【0209】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された正極活物質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。尚、表面抵抗は、基板として良導電性のステンレスを用いたため測定できなかった。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された正極活物質層はアモルファス膜であり、更に、実施例12の正極活物質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
【0210】
さらに、上記正極活物質を正極に、リチウムドープ黒鉛を負極として組み込んだ2032型コインセルを作製し、正極活物質層の充放電特性を評価した。コインセルの構成は、上記正極活物質層が形成されたステンレス基板(面積2cm)が、厚さ約180μmのポリプロピレン製セパレータを介して市販の黒鉛負極シート(活物質:天然球状グラファイト、基材シート:厚さ20μm銅箔、直径16mm、面積2cm、1.6mAh/cm)及び黒鉛シート上に配置した金属リチウム箔(約2mm×約5mm×厚さ100μm)と、正極活物質層、黒鉛と金属リチウム箔が対向するようにアルゴン雰囲気中で挟み込まれ、電解液(1M LiPF(EC:DEC=1:2 V/V%))が充填されている。
【0211】
上記コインセルは、充放電特性評価の前に、作製後1日放置し電解液を介した黒鉛へのリチウムドープ(リチウムプレドープ)を行い、予め黒鉛負極シートの電位を十分低下(約0.1V vs Li)させている。したがって、充放電特性評価でのセル電位(V)は、リチウムドープ黒鉛(約0.1V vs Li)に対する電位である。上記コインセルにおいて、充電電流3μA、放電電流2μA、カットオフ電位2.1−4.3Vでの充放電を2回実施し、得られた充放電曲線を図9に示す。
上述のように実施例12の正極活物質層はアモルファス膜であり、通常の高温安定相を有する結晶
LCO(LiCoO)の充放電曲線に見られるプラトー領域(3.9V程度 vs Li)は観察されなかったものの、別のプラトー領域(3.6〜3.7V vs Li)が観察されが、これは実施例12の加熱温度が500℃と低いため結晶LCOの低温安定相生成に起因するものと予想される。尚、正極活物質(LiCoO)の総重量0.60mgから正極容量は約70mA/gと見積もられた(高温安定相を有する結晶LCOの正極実容量:約140mA/g;実容量は実際に充放電可能な容量で理論的に計算される理論容量より小さい値となる)。
【実施例13】
【0212】
[薄膜の作製]
実施例11の正極活物質層形成用塗布液を、25℃の無アルカリガラス基板(5cm×5cm×0.7mm厚さ;ヘイズ値=0.26%、可視光線透過率=91.2%)上の全面にスピンコーティング(1000rpm×60sec)した後、大気中180℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約940nm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。
図10の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を加熱用ランプ(ハロゲンランプ)12を有する急速加熱装置(RTA炉)内に設置し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気(5リッター/分供給)下で、加熱用ランプによる急速昇温(500℃までの平均昇温速度:100℃/分)を行い、次いで500℃で10分間の加熱処理を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、リチウム−コバルト酸化物(LCO:LiCoO)を主成分とする正極活物質層からなる実施例13に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約355nm)を作製した。
【0213】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された正極活物質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された正極活物質層はアモルファス膜(非晶質膜)であり、更に、実施例13の正極活物質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
【実施例14】
【0214】
[正極活物質層形成用塗布液の作製]
アセチルアセトンリチウム(室温で固体)[Li(C)]分子量=106.05)1.31g、アセチルアセトンマンガン(室温で固体)[Mn(C](分子量=352.26)8.69g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)39g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC;低分子量タイプ)1gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して溶解させ、次に、得られた溶解液10gに、シクロヘキサノン4g、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)2g、メチルエチルケトン(MEK)3.996g、界面活性剤0.004gを混合して均一になるまで良く攪拌し、アセチルアセトンリチウムとアセチルアセトンマンガンを合計で10質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを1.0質量%含有する正極活物質層形成用塗布液(アセチルアセトンリチウム:アセチルアセトンマンガン=1:2[モル比])を作製した。
【0215】
[薄膜の作製]
作製した正極活物質層形成用塗布液を、25℃の透明石英ガラス基板(5cm×5cm×2mm厚さ)上の全面にスピンコーティング(500rpm×60sec)した後、大気中180℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約860nm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。
この乾燥塗布膜10を有する基板9を、実施例13と同様にして、急速加熱装置(RTA炉)を用い、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気(5リッター/分供給)下で500℃で5分間の加熱処理を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、リチウム−マンガン酸化物(LMO:LiMn)を主成分とする無機薄膜(膜厚:約130nm)を得た。
【0216】
負極活物質層層形成用塗布液を用いて同様の膜形成操作を繰り返し、この無機薄膜を2層積層した後、図7の模式図に示すように、この積層膜を有する基板9を加熱装置(加熱ヒーター)8を有する電気炉内に設置し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気(5リッター/分供給)下で、さらに500℃で60分間の加熱処理(500℃までの昇温速度:20℃/分)を行い、リチウム−マンガン酸化物(LMO:LiMn)を主成分とする正極活物質層からなる実施例14に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約260nm)を作製した。
【0217】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された正極活物質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された正極活物質層は極僅かに結晶化した微晶質膜であり、更に、実施例14の正極活物質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm程度の金属酸化物微粒子(微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
ここで、加熱温度と結晶構造との関係を調査するために、実施例14で得られた薄膜に、上記と同様の電気炉を用いる方法(図7の模式図)で600℃、700℃のそれぞれの温度で60分間の追加の加熱処理(600℃、700℃のそれぞれの温度までの昇温速度:20℃/分)を行い、それぞれについて、X線回折による結晶構造、及び結晶子サイズを求め、その結果を、上記500℃で60分間の加熱処理の結果と合せて図11に示す。
【実施例15】
【0218】
[正極活物質層形成用塗布液の作製]
アセチルアセトンリチウム(室温で固体)[Li(C)]分子量=106.05)1.36g、アセチルアセトンマンガン(室温で固体)[Mn(C](分子量=352.26)4.51g、ビス(2−エチルヘキシル)フォスフェイト(CCH(C)CHHPO](室温で液体)(分子量=322.42)4.13g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)39g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC;低分子量タイプ)1gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して溶解させ、次に、得られた溶解液に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)49.98g、界面活性剤0.02gを混合して均一になるまで良く攪拌し、アセチルアセトンリチウム、アセチルアセトンマンガン、ビス(2−エチルヘキシル)フォスフェイトを合計で10質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを1.0質量%含有する正極活物質層形成用塗布液(アセチルアセトンリチウム:アセチルアセトンマンガン:ビス(2−エチルヘキシル)フォスフェイト=1:1:1[モル比])を作製した。
【0219】
[薄膜の作製]
作製した正極活物質層形成用塗布液を、25℃の無アルカリガラス基板(5cm×5cm×0.7mm厚さ;ヘイズ値=0.26%、可視光線透過率=91.2%)上の全面にスピンコーティング(500rpm×30sec)した後、大気中100℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜を得た。
図7の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を加熱装置(ホットプレート)8上に設置し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気(3リッター/分供給;基板上のガスの平均流速:約0.045m/秒)下で、500℃で30分間の加熱処理(500℃までの昇温速度:20℃/分)を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、マンガンとリンを含むリチウム複合酸化物(LiMnPO)を主成分とする正極活物質層からなる実施例15に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約140nm)を作製した。
【0220】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された正極活物質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された正極活物質層はアモルファス膜であり、更に、実施例15の正極活物質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
【実施例16】
【0221】
[薄膜の作製]
実施例6の負極活物質層形成用塗布液を、25℃の透明石英ガラス基板(5cm×5cm×2mm厚さ)上の全面にスピンコーティング(500rpm×60sec)した後、大気中180℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約390nm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。
この乾燥塗布膜10を有する基板9を、実施例13と同様にして、急速加熱装置(RTA炉)を用い、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気(5リッター/分供給)下で500℃で5分間の加熱処理を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、リチウム−チタン酸化物(LTO:LiTi12)を主成分とする無機薄膜(膜厚:約90nm)を得た。
【0222】
負極活物質層層形成用塗布液を用いて同様の膜形成操作を繰り返し、この無機薄膜を3層積層した後、図7の模式図に示すように、この積層膜を有する基板9を、加熱装置(加熱ヒーター)8を有する電気炉内に設置し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気(5リッター/分供給)下で、さらに500℃で60分間の加熱処理(500℃までの昇温速度:20℃/分)を行い、リチウム−チタン酸化物(LTO:LiTi12)を主成分とする負極活物質層からなる実施例16に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約270nm)を作製した。
【0223】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された負極活物質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された負極活物質層はアモルファス膜(非晶質膜)であり、更に、実施例16の負極活物質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
ここで、加熱温度と結晶構造との関係を調査するために、実施例16で得られた薄膜に、上記と同様の電気炉を用いる方法(図7の模式図)で600℃、700℃のそれぞれの温度で60分間の追加の加熱処理(600℃、700℃のそれぞれの温度までの昇温速度:20℃/分)を行い、それぞれについて、X線回折による結晶構造、及び結晶子サイズを求め、その結果を、上記500℃で60分間の加熱処理の結果と合せて図12に示す。
【実施例17】
【0224】
[固体電解質層形成用塗布液の作製]
アセチルアセトンリチウム(室温で固体)[Li(C)](分子量=106.05)0.79g、アセチルアセトンランタン(正式名称:ランタン(III)−2,4−ペンタンジオネート)(室温で固体)[La(C・HO](分子量=454.26)3.38g、アセチルアセトンチタン(室温で液体)[Ti(CO)(C](分子量=392.32)5.83g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)51g、p−tert−ブチルフェノール12g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC;低分子量タイプ)0.5g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC;高分子量タイプ)1.24gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して溶解させ、次に、得られた溶解液に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)25.25g、界面活性剤0.01gを混合して均一になるまで良く攪拌し、アセチルアセトンリチウム、アセチルアセトンランタン、アセチルアセトンチタンを合計で10質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを1.74質量%含有する固体電解質層形成用塗布液(アセチルアセトンリチウム:アセチルアセトンランタン:アセチルアセトンチタン=1:1:2[モル比])を作製した。
【0225】
[薄膜の作製]
作製した固体電解質層形成用塗布液を、25℃の透明石英ガラス基板(5cm×5cm×2mm厚さ)上の全面にスピンコーティング(500rpm×60sec)した後、大気中180℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜(膜厚:約900nm、表面抵抗値:>1×1013Ω/□(絶縁))を得た。この乾燥塗布膜10を有する基板9を、実施例13と同様にして、急速加熱装置(RTA炉)を用い、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気(5リッター/分供給)下で500℃で5分間の加熱処理を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、リチウム−ランタン−チタン酸化物(LLT:Li0.5La0.5TiO)を主成分とする無機薄膜(膜厚:約210nm)を得た。
固体電解質層形成用塗布液を用いて同様の膜形成操作を繰り返し、この無機薄膜を4層積層した後、図7の模式図に示すように、この積層膜を有する基板9を加熱装置(加熱ヒーター)8を有する電気炉内に設置し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気(5リッター/分供給)下で、さらに500℃で60分間の加熱処理(500℃までの昇温速度:20℃/分)を行い、リチウム−ランタン−チタン酸化物(LLT:Li0.5La0.5TiO)を主成分とする固体電解質層からなる実施例17に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約840nm)を作製した。
【0226】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された固体電解質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された固体電解質層はアモルファス膜(非晶質膜)であり、更に、実施例17の固体電解質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
ここで、加熱温度と結晶構造との関係を調査するために、実施例17で得られた薄膜に、上記と同様の電気炉を用いる方法(図7の模式図)で600℃、700℃、800℃のそれぞれの温度で60分間の追加の加熱処理(600℃、700℃、800℃のそれぞれの温度までの昇温速度:20℃/分)を行い、それぞれについて、X線回折による結晶構造、及び結晶子サイズを求め、その結果を、図13に示す。
【実施例18】
【0227】
[固体電解質層形成用塗布液の作製]
アセチルアセトンリチウム(室温で固体)[Li(C5H7O2)]分子量=106.05)0.827g、アセチルアセトンアルミニウム(正式名称:アルミニウム(III)−2,4−ペンタンジオネート)(室温で固体)[Al(C]1.164g、アセチルアセトンチタン(室温で液体)[Ti(CO)(C](分子量=392.32)2.979g、ビス(2−エチルヘキシル)フォスフェイト(CCH(C)CHHPO](室温で液体)(分子量=322.42)5.03g、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)29g、p−tert−ブチルフェノール29g、二塩基酸エステル(デュポンジャパン製;コハク酸ジメチル(沸点:196℃)、グルタル酸ジメチル(沸点:210〜215℃)、アジピン酸ジメチル(沸点:215〜225℃)の混合物)29g、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC;高分子量タイプ)3gを混合し、120℃に加温して120分間攪拌して均一に溶解させ、アセチルアセトンリチウム、アセチルアセトンアルミニウム、アセチルアセトンチタン、ビス(2−エチルヘキシル)フォスフェイトを合計で10質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを3.0質量%含有する高粘度の固体電解質層形成用塗布液(アセチルアセトンリチウム:アセチルアセトンアルミニウム:アセチルアセトンチタン:ビス(2−エチルヘキシル)フォスフェイト=1.5:0.69:1.46:3[モル比])を作製した。
【0228】
[薄膜の作製]
作製した固体電解質層形成用塗布液を、25℃の無アルカリガラス基板(5cm×5cm×0.7mm厚さ;ヘイズ値=0.26%、可視光線透過率=91.2%)上の全面にワイヤーバーコーティング(#12:線径0.3mm)した後、大気中180℃で5分間乾燥して乾燥塗布膜を得た。
図7の模式図に示すように、この乾燥塗布膜10を有する基板9を加熱装置(ホットプレート)8上に設置し、CO濃度1ppm未満で露点温度−55℃の低湿度空気(3リッター/分供給;基板上のガスの平均流速:約0.045m/秒)下で、500℃で30分間の加熱処理(500℃までの昇温速度:20℃/分)を行い、乾燥塗布膜10の無機化(有機成分の分解または燃焼)と緻密化を促進して、アルミニウム、チタン、リンを含むリチウム複合酸化物(LATP:Li1.5Al0.69Ti1.46(PO)を主成分とする固体電解質層からなる実施例18に係る薄膜固体二次電池用の薄膜(膜厚:約165nm)を作製した。
【0229】
[特性評価]
次に作製した薄膜における塗布法により形成された固体電解質層の表面抵抗、膜厚、比抵抗(=表面抵抗×膜厚)、結晶子サイズの諸特性を測定し、その結果を表1に示す。
X線回折測定の結果から上記塗布法により形成された固体電解質層はアモルファス膜であり、更に、実施例18の正極活物質層の断面を透過電子顕微鏡で観察したところ、主に3nm未満の金属酸化物微粒子(アモルファス状微結晶)が緻密に充填した無機薄膜が観察されている。
また、上記薄膜の無機化度合いの評価を、フーリエ変換赤外分光分析(FTIR法)により行ったところ、薄膜からは有機官能基(C=O等)や水酸基(−OH)はほとんど観察されず、無機化していることが確認された(尚、FTIR法による測定では、ガラス基板からの影響が懸念されたため、測定に影響を与えないアルミニウム(Al)を予め蒸着したAl蒸着膜付ガラス基板を用い、そのAl蒸着膜上に、上述と同様の方法で薄膜を形成して評価している)。
【実施例19】
【0230】
[薄膜固体二次電池の作製]
まず、鏡面研磨した平滑なステンレス基板(直径16mm×0.5mm厚さ;面積2cm、SUS304)上に、実施例3と同様の方法(150℃の加熱処理及びエネルギー線照射)で無機薄膜を2回積層し、マンガンを含むリチウム複合酸化物(LMO:LiMn)を主成分とする正極活物質層からなる薄膜(膜厚:約130nm)を作製した。
【0231】
次に、作製した正極活物質層からなる薄膜上に、実施例10と同様の方法(150℃の加熱処理及びエネルギー線照射)で無機薄膜を2回積層し、アルミニウム、チタン、リンを含むリチウム複合酸化物(LATP:Li1.5Al0.69Ti1.46(PO)を主成分とする固体電解質層からなる薄膜(膜厚:約300nm)を作製した。
【0232】
その固体電解質層からなる薄膜の膜上に、実施例5と同様の方法(150℃の加熱処理及びエネルギー線照射)で無機薄膜を2回積層し、リチウム−チタン酸化物(LTO:LiTi12)を主成分とする負極活物質層からなる薄膜(膜厚:約120nm)を作製した。
【0233】
作製した負極活物質層からなる薄膜上に、アルミニウム蒸着膜を形成した基板を集電電極として用い、アルゴン雰囲気中で2032型コインセル(ステンレス基板/正極活物質層/固体電解質層/負極活物質層/アルミニウム蒸着膜)を組み立てで、実施例19に係る薄膜固体二次電池を作製した。
【0234】
上記コインセルにおいて、充電電流10μA、放電電流5μA、カットオフ電位0.7Vでの充放電を実施し、得られた充放電曲線を図14に示す。
実施例19の正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層は製造過程において、その温度履歴は全て150℃以下の温度で形成されているため、それらの層は全てアモルファス膜であり、そのため固体電解質層のリチウムイオン伝導度が小さく、かつ電子伝導による電流リークも無視できないレベルであるため、図14に示すように3.5μAh程度の容量しか得られていないが、その充放電挙動を確認している。
【0235】
【表1】

【0236】
実施例1〜10では、塗布法による無機薄膜の製造工程における最高加熱温度が100〜150℃という低温であるにもかかわらず、エネルギー線照射処理を加熱処理と併用しているため(実施例4はエネルギー線照射処理単独)、得られた正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の各薄膜はアモルファス膜(非晶質膜)ながらも無機化していることが確認される。
さらに、実施例6の負極活物質層(LTO:LiTi12)は、リチウムドープ黒鉛を負極に用いた電解液系コインセルの正極に適用した場合に、150℃という極めて低温成膜のアモルファス膜でありながら、140〜155mA/gという比較的良好な負極容量を有することが確認される(実施例6のコインセルの電極構成では「正極容量」と呼ぶべきであるが、LTOは一般に負極に用いられるため、あえて「負極容量」と呼んでいる)。
【0237】
実施例11〜18では、塗布法による無機薄膜の製造工程において500℃以上の加熱処理(ホットプレート、電気炉、急速昇温炉(RTA))を用いており、得られた正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の各薄膜は、全て無機化しており、加熱処理の温度が600℃程度から(実施例14のLMO、実施例17のLLTでは、それぞれ500℃程度、700℃程度から)結晶化が始まっているのが確認される。
また、実施例11、13の正極活物質層(LCO:LiCoO)は、理由は明らかではないが、非常に低い(電子伝導の)比抵抗(11Ω・cm)[参考:通常の結晶LiCoOの比抵抗=約1000Ω・cm]を有するため、正極活物質層として有用であることが確認される。
さらに、実施例12の正極活物質層(LCO:LiCoO)は、リチウムドープ黒鉛を負極に用いた電解液系コインセルの正極に適用した場合に、500℃という比較的低温成膜のアモルファス膜でありながら、70mA/gという正極容量を有することが確認される。
【0238】
各実施例(実施例1〜18)から、本発明の塗布液(活物質層形成用塗布液、固体電解質層形成用塗布液)が基本的に溶解性の高い有機金属化合物を用い、かつそれら有機金属化合物の溶解性に優れる有機溶剤を最適に配合しているため、塗布液中や乾燥塗布膜中において無機薄膜を構成する各種成分元素が分子やイオンレベルで均一に混合しており、それらを用い塗布法で形成される無機薄膜は、より低温の加熱処理で無機化した場合であっても、目的の結晶構造が得られやすく、かつ、仮にアモルファス膜(非晶質膜)であっても、活物質や固体電解質としての機能(充放電容量)を発揮しやすいことが確認される。
【0239】
実施例19から、本発明の塗布法で形成された各薄膜(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)を用いた薄膜固体二次電池は、放電容量は小さいものの充放電挙動が確認されたため、本発明の正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層はそれぞれ単独、または複数組み合わせて、薄膜固体二次電池に適用可能であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0240】
本発明による薄膜固体二次電池用の薄膜の製造方法によれば、有機金属化合物を主成分として含有する(正極、負極)活物質層形成用塗布液や固体電解質層形成用塗布液を用いる塗布法により、活物質層(正極、負極)や固体電解質層という薄膜を簡便かつ安価に製造することが可能であり、得られた薄膜を適用した薄膜固体二次電池は、薄型化、小型化に加え大幅な低コスト化が実現できるため、ICカード、カード型電子マネー、RFIDタグ等への応用促進が期待できる。
【符号の説明】
【0241】
1 基板(ガラス基板、セラミック基板、耐熱性プラスチックフィルム)
2 正極集電体層
3 正極活物質層
4 固体電解質層
5 負極活物質層
6 負極集電体層
7 保護膜または保護フィルム
8 加熱装置(ホットプレート、加熱ヒーター等)
9 塗布液を塗布する下地基板
10 塗布法により形成された塗布液の乾燥塗布膜
11 エネルギー線照射ランプ(紫外線照射ランプ)
12 紫外線照射窓(合成石英板等)
13 加熱用ランプ(ハロゲンランプ、キセノンランプ等)
14 赤外線照射窓(溶融石英板等)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に順次形成されている正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層から成る積層構造、あるいは、これと逆の順に基板上に形成されている負極集電体層、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、正極集電体層から成る積層構造を有する薄膜固体二次電池における正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の少なくとも一つ以上の薄膜の製造方法であって、
前記薄膜が、主成分として有機金属化合物を含有する正極活物質層形成用塗布液、固体電解質層形成用塗布液、負極活物質層形成用塗布液から選択されるいずれかの塗布液を塗布して塗布膜を形成する塗布工程、前記塗布膜を乾燥して乾燥塗布膜を形成する乾燥工程、前記乾燥工程で形成された有機金属化合物を主成分とする乾燥塗布膜を無機化して、金属酸化物を主成分とする無機薄膜を形成する無機化工程の各工程からなる塗布法により形成され、
前記無機化工程が、酸素含有雰囲気下で加熱処理、エネルギー線照射処理、プラズマ照射処理の少なくともいずれかの処理により乾燥塗布膜に含まれる有機成分を分解または酸化、あるいは分解および酸化により除去することで金属酸化物を主成分とする微粒子で構成される無機薄膜(金属酸化物微粒子膜)を形成する工程であることを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記正極活物質層形成用塗布液に主成分として含有される有機金属化合物が、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄のうちのいずれか一種以上の遷移金属の有機金属化合物、及び有機リチウム化合物であり、
前記無機薄膜の主成分である金属酸化物が、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄のうちのいずれか一種以上の遷移金属を含むリチウム複合酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記リチウム複合酸化物が、LiMO、LiMPO、LiMSiO(M:マンガン、コバルト、ニッケル、鉄のうちのいずれか一種以上の遷移金属)、LiMnのいずれか一種以上であることを特徴とする請求項2に記載の薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記固体電解質層形成用塗布液に主成分として含有される有機金属化合物が、有機リン化合物と有機リチウム化合物であり、
前記無機薄膜の主成分である金属酸化物が、リンを含むリチウム複合酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記リンを含むリチウム複合酸化物が、LiPO、LiO−Al−TiO−P系酸化物、LiO−Al−GeO−P系酸化物、LiO−La−TiO系酸化物、LiO−La−ZrO系酸化物のいずれか一種以上であることを特徴とする請求項4に記載の薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記固体電解質層形成用塗布液に主成分として含有される有機金属化合物が、有機ランタン化合物と有機リチウム化合物であり、
前記無機薄膜の主成分である金属酸化物が、ランタンを含むリチウム複合酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記ランタンを含むリチウム複合酸化物が、LiO−La−TiO系酸化物、LiO−La−ZrO系酸化物のいずれか一種以上であることを特徴とする請求項6に記載の薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記負極活物質層形成用塗布液に主成分として含有される有機金属化合物が、有機チタン化合物と有機リチウム化合物、または、ニオブ、インジウム、錫、亜鉛、チタンのいずれか一種以上の金属の有機金属化合物であり、
前記無機薄膜の主成分である金属酸化物が、リチウム−チタン酸化物、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタンのいずれか一種以上であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項9】
前記リチウム−チタン酸化物が、LiTi12であることを特徴とする請求項8に記載の薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記エネルギー線照射が、少なくとも200nm以下の波長を主要成分の一つとして含む紫外線の照射であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記少なくとも200nm以下の波長を主要成分の一つとして含む紫外線の照射が、低圧水銀ランプ、アマルガムランプ、エキシマランプのいずれかから放射される紫外線の照射であることを特徴とする請求項10に記載の薄膜の製造方法。
【請求項12】
前記酸素含有雰囲気の露点温度の制御により、前記金属酸化物を主成分とする無機薄膜の充填密度を制御することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項13】
前記酸素含有雰囲気が空気雰囲気であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項14】
前記基板がガラス基板、またはセラミック基板、あるいは耐熱性プラスチックフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項15】
前記正極集電体層、及び負極集電体層が、単一金属または合金であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項16】
前記正極集電体層、または負極集電体層が形成された基板の代わりに、正極集電体層、または負極集電体層として単一金属または合金から成る板または箔を用いることを特徴とする請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法に用いられる、正極活物質層形成用塗布液、固体電解質層形成用塗布液、負極活物質層形成用塗布液から選択されるいずれかの塗布液であって、
前記正極活物質層形成用塗布液は、有機溶剤、及びその有機溶剤中に溶解した、主成分としての、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄のうちのいずれか一種以上の遷移金属の有機金属化合物、及び有機リチウム化合物を含有し、
前記固体電解質層形成用塗布液は、有機溶剤、及びその有機溶剤中に溶解した、主成分としての、有機リン化合物と有機リチウム化合物、あるいは、有機ランタン化合物と有機リチウム化合物を含有し、
前記負極活物質層形成用塗布液は、有機溶剤、及びその有機溶剤中に溶解した、主成分としての、有機チタン化合物と有機リチウム化合物を含有し、
前記有機リチウム化合物は、リチウム(I)−2,4−ペンタンジオネート[Li(C)]、リチウム(I)エトキシド[Li(CO)]、リチウム(I)−tert−ブトキシド[Li(CO)]のうちのいずれか一種以上であり、
前記有機溶剤は、N−メチル−2−ピロリドン、沸点150℃以上のアミン系溶剤のうちのいずれか一種以上であることを特徴とする塗布液。
【請求項18】
前記沸点150℃以上のアミン系溶剤が、3−アミノ−1−プロパノールであることを特徴とする請求項17に記載の塗布液。
【請求項19】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の薄膜の製造方法で得られることを特徴とする薄膜固体二次電池用の薄膜。
【請求項20】
薄膜を有する薄膜固体二次電池における薄膜が、請求項19に記載の薄膜固体二次電池用の薄膜であることを特徴とする薄膜固体二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−62242(P2013−62242A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−184729(P2012−184729)
【出願日】平成24年8月24日(2012.8.24)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】