説明

薄膜形成装置および薄膜形成方法

【課題】真空プロセスによる薄膜形成時に見られる、基板冷却の不足を解決し、張力によるシワを抑制するための薄膜形成装置を提供すると共に、これを用いた薄膜形成方法を提供する。
【解決手段】基板12と接する側から順に少なくとも絶縁層21と導電層22を有する無終端帯7に沿って基板が走行中に、薄膜形成源9から飛来する粒子によって基板上に真空中で薄膜形成を行うにあたり、導電層22と基板12との間に変動する電位差を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空中での薄膜形成を行うための薄膜形成装置および薄膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凹凸形状を有する基板(集電体)に真空中で、蒸着法によって活物質層を形成する方法が特許文献1に開示されている。このような活物質層形成に用いる成膜装置の構成を図8に示す。真空ポンプ(101)によって真空排気されている真空容器(102)内で、巻出しロール(108)から巻出された基板(112)が成膜ロール(106)に沿って走行する。成膜源(109)と成膜ロール(106)との間に基板(112)上への蒸着物質の蒸着範囲を規制するためにマスク(110)を配置してある。基板は、薄膜形成領域において、成膜ロール(巡回支持体)(106)に支持されて走行中、成膜源(109)から活物質材料を蒸着することにより、基板(集電体)(112)上に活物質層が形成された状態で基板(112)を巻取りロール(103)に巻き取ることが出来る。必要に応じて酸素ガス等を導入して反応成膜をすることも出来る。
【0003】
巡回支持体には、特許文献1、特許文献2にて開示されている円筒状のキャンの他に、特許文献3に開示されている無終端帯がある。無終端帯を巡回支持体に用いた薄膜形成装置の構成例を 図 9に示 す。排気系(201)によって真空排気されている真空槽(202)中で、巻出しロール(208)からガイドロール(205)に沿って巻出された長尺基板(212)は、主ロール(206a)に沿った無終端帯(207)の表面に沿って走行中に活物質材料を長尺基板(212)上に蒸着され、巻取りロール(203)に巻き取られる。主ロール(206a)と主ロール(206b)との間に長尺基板(212)上への蒸着物質の蒸着範囲を規制するために遮蔽板(210)を配置してある。筒状キャンを用いた場合に比べ、無終端帯(207)は装置を小型化することができ、遮蔽板(210)の開口部を広く取ることが可能となる。そのため、薄膜形成源(209)から飛来した粒子を薄膜形成部(215)にて効率良く捕捉することができる。
【0004】
特許文献2では、薄膜形成時の基板の温度上昇を防いで、基板を所定の温度に維持するために、シリコーン樹脂あるいは比較的柔らかい金属からなる冷却支持部と、基板と冷却支持部の密着性を高める押し付け機構とを有する温度管理機構を備えたキャンを用いて、有機物シートとキャンの密着性を高める試みがなされている。さらに冷却支持部が、主に断面波形を呈した金属からなるばね部と、ばね部上に部分的に接合された外皮部により構成されている。これにより、基板として用いられる有機物シートが、押し付け機構によって張力を与えられたときに冷却支持部に密着し、十分な冷却効果が期待できることが開示されている。
【0005】
一方、特許文献4では、基板に高い張力を加える代わりにキャンの外周面に静電チャックを設けた静電吸着体を用いることで、基板のしわ、ゆがみ、こすれ、やぶけ等の問題を発生することなく、均一に平坦性良く確実にキャンと吸着して移送することが開示されている。
【特許文献1】特開2005−196970号公報
【特許文献2】特開2000−17426号公報
【特許文献3】特開平9−157849号公報
【特許文献4】特開2006−149156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板に金属箔を用いた場合、キャン上に基板を均一に沿わせるには、非常に高い張力をかける必要がある。そのため、基板とキャンとの密着性が上がりすぎ、走行ムラやたわみが生じ、基板に対して部分的な歪を発生させる。しかし金属箔は伸びないので、このような歪を吸収できず、基板である集電体にシワが発生するという課題がある。
【0007】
特許文献3に開示されているような、巡回支持体に無終端帯を用いた場合、基板はキャン上の曲面で無終端帯と接触してから平面状の薄膜形成部に移動するため、基板に高い張力をかけても、平面状の薄膜形成部の膜面垂直方向には、張力がかかりにくい。また基板は、図9に示すように主ロール(206a)上を移動する時、無終端帯より外側を移動するため、外周が無終端帯より長くなる。そのため主ロール(206a)と主ロール(206b)間の平面状の薄膜形成部に移動すると基板がたるみ、無終端帯から浮いてしまう。これにより密着性が下がり、基板の冷却が困難になり、シワ、ゆがみ、こすれ、やぶけが発生する。
【0008】
特許文献4に示されるような、従来の静電吸着法を無終端帯に適用しても、キャンから平面状の薄膜形成部に移動する時に基板が無終端帯から浮いてしまい、シワは改善されず、課題を解決することができない。
【0009】
本発明は上記課題を解決するもので、基板の冷却の不足を解決するとともに、基板に発生するシワを抑える薄膜形成装置および薄膜形成法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の薄膜形成装置は、真空中で、長尺基板上に、薄膜を形成することができる薄膜形成装置であって、前記長尺基板を搬送させる搬送機構と、前記搬送中の基板表面上に、薄膜を形成する手段と、前記薄膜形成時に前記基板の裏面に接して搬送され、前記基板側から順に絶縁層、導電層が設けられ、前記導電層と前記基板との間に変動する電圧(電位差)を付与して、前記基板を静電吸着する無終端帯と、前記搬送機構と、前記薄膜を形成する手段と、前記無終端帯を収容する真空容器と、を有していることを特徴とするものである。
【0011】
また本発明の薄膜形成方法は、真空中で、基板搬送系に沿って長尺の基板を搬送しつつ、薄膜形成源より粒子を飛来させて前記基板上に、薄膜を形成する薄膜形成法において、前記基板側から順に絶縁層、導電層が設けられた無終端帯を前記基板の裏面に接して搬送し、前記導電層と前記基板との間の電圧を高電圧状態と低電圧状態とで切り換えることにより、前記基板を前記無終端帯に静電吸着しながら、前記基板上に前記薄膜を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
基板と無終端帯の密着性を良くすることで、基板の熱伝導性を上げて冷却効果を向上させ、基板に発生するシワを抑制し、薄膜を連続形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1の薄膜形成装置の一例を示す模式図である。真空容器(2)は、排気ポンプ(1)によって減圧排気されている。真空容器(2)の中には、薄膜を形成する手段と、基板搬送系(18)が設置されている。薄膜を形成する手段には、薄膜形成源(9)、遮蔽板(10)、薄膜形成部(15)が含まれる。基板搬送系(18)には、
基板の巻出しロール(8)、複数の搬送ローラ(5)、巡回支持体としての無終端帯(7a,b)、基板の巻取りロール(3)が含まれる。
【0015】
基板(12)は巻出しロール(8)から巻き出され、複数の搬送ローラ(5)に沿って移動する。無終端帯(7a)はキャン(6)とテンションローラ(14)によって保持されている。なお、ここで示すキャン(6)は、特許文献1のような巡回支持体としてのキャンではなく、基板と接しておらず、無終端帯と接しており、無終端帯を走行させるものである。搬送系の一部、例えば駆動用モーター等は真空容器(2)の外に配置し、回転導入端子を介して駆動力を真空容器(2)中に導入しても良い。
【0016】
本実施形態の無終端帯(7)は、図2に示すように、基板と接触する外側から順に、絶縁層(21)と導電層(22)とを有する。必要に応じて、導電層(22)の内側に無終端帯の強度を確保するための基材(23)を備えることもできる。
【0017】
無終端帯(7a)が有する導電層(22)は、電源(17)に接続され、搬送ローラ(5)の表面は接地電位(16)に接続されている。基板(12)を搬送系に装着することにより、搬送ローラ(5)の表面と導体である基板(12)は同電位になる。電源(17)より無終端帯(7a)の導電層(22)に電圧を付与することにより、導電層(22)と基板(12)表面との間に電圧が生じる。基板(12)が無終端帯(7a)と接して走行する際、無終端帯(7a)の絶縁層(21)を介して、無終端帯(7a)の導電層(22)と基板との間で静電吸着力が生じる。
【0018】
薄膜形成源(9)は、るつぼに薄膜の原料を挿入し、電子線源(図示せず)から電子を照射することにより加熱する。薄膜形成源(9)と無終端帯(7a)の間には開口部を有する遮蔽板(10)が設置されており、薄膜形成源(9)から飛来した粒子の一部が開口部を経由して薄膜形成部(15)にある基板(12)上に付着して薄膜が形成される。
【0019】
その後、真空容器(2)の上部を経由して、無終端帯(7b)上にて、もう一度薄膜形成を行うことで、基板(12)の両面に薄膜を形成することができる。薄膜形成を行った基板は搬送ローラ(5)に沿って巻取りロール(3)に巻き取られる。
【0020】
巻出しローラ(8)および巻取りローラ(3)は、回転を制御することにより、基板の搬送速度および基板(12)にかかる張力を制御する。一般的な真空プロセスでは、張力のみで基板(12)と巡回支持体を接触させるため、非常に強い張力を必要とする。しかし、本発明では静電吸着力によって基板(12)と巡回支持体を接触させるため、張力は基板(12)と無終端帯(7a,b)が最初に接触する際の幅方向で均一が保てる程度でよく、具体的には基板幅1cmあたり100〜200gf程度でよい。
【0021】
導電層(22)に電圧を印加する方法には、種々の方法を採用することができる。望ましい方法の一つは、図2に示すように、無終端帯(7)の表面で回転ロール(25)を接触回転させる方法である。この場合の電圧付与手段には、電極端子保持部(26)、電極端子(27)、電極端部の回転ロール(25)が含まれる。電極端子(27)には、電源(17)からの電圧が印加される。そして、その電圧は、表面が導体である回転ロール(25)を経由して導電層(22)に伝達される。電極端子保持部(26)は、電極端子(27)を保持する。無終端帯(7)表面の幅方向端部は、絶縁層(21)が設けられておらず、導電層(22)が露出している。この露出した端部の導電層(22)と回転ロールが接触して導通が確保される。基板と絶縁層との接触部(24)は、絶縁層の幅より狭くなるように設定されている。基板(12)と露出した導電層(22)の間で放電が発生するのを防ぐため、絶縁層(21)を除去した部分は基板走行位置の端から1cm以上離れていることが望ましい。この場合、キャン(6)およびテンションローラ(14)を絶縁
するなど、無終端帯(7)の導電層(22)を接地電位から浮かせる必要があることは言うまでもない。
【0022】
基板(12)と導電層(22)の間には絶縁層(21)が存在するため、導電層(22)に電圧を印加すると基板(12)は、導電層の印加電位と逆位相の電子またはホールが静電吸着力によって導電層側に引き寄せられ、同位相のホールまたは電子が離されるので基板(12)と導電層(22)には、絶縁層を挟んで必ず逆位相の電子およびホールが向かい合う。このときの静電吸着力の大きさは、基板(12)と導電層(22)の電位差に由来する。基板(12)と導電層(22)の電位が同位相の場合、基板(12)と導電層(22)の電位差分の静電吸着力が働く。また逆位相の場合、基板(12)と導電層(22)の電位の大きいほうの絶対値分の静電吸着力が働く。
【0023】
本発明の特徴は、基板(12)と導電層(22)の電圧(電位差)を変動させることである。本実施形態においては、導電層(22)に与える電圧を時間的に変動させる。すなわち、高電圧状態と低電圧状態とで切り換える。基板(12)と導電層(22)の電位差を変動させる作用は、次の通りである。基板(12)と導電層(22)の間を高電圧状態とし、両者を密着させると、基板(12)と走行経路が曲線部から直線部に移行する際に、基板(12)は無終端帯(7)より外周を移動するため、無終端帯(7)より長くなる。無終端帯(7)と基板(12)が密着していると、平面状の薄膜形成部(15)に移動すると基板(12)がたるみ、無終端帯(7)から浮いてしまう。そこで、基板(12)と導電層(22)間を低電圧状態にすると、静電吸着力が弱くなり、基板(12)は無終端帯(7)から離れる。そのため、基板(12)にかかる巻出しローラ(8)および巻取りローラ(3)からの制御された張力により無終端帯(7)と基板(12)を均一に接触しなおすことができ、基板(7)の無終端帯(7)からの浮くことによって生じるシワを防ぐことができる。
【0024】
そして再度、導電層(22)と基板(7)間を高電圧状態にすることで基板(12)を無終端帯(7)に吸着させ、浮きを防ぐことができる。このため基板(7)を均一に冷却することが可能になり、薄膜形成源(9)からの熱負荷による基板(7)の伸びを防止できる。また、シワ、破れも防止できる。
【0025】
このとき、絶縁層(21)に用いる柔軟性の樹脂の耐電圧性に限界があるため、高電圧状態の値は、1kV以上3kV以下で望ましくは、2kV程度である。また低電圧状態の値は、100V以下で望ましくは、0Vである。
【0026】
長時間にわたって導電層(22)と基板(12)間の低電圧状態にしたとき、基板(12)が無終端帯(7)から離れている間、基板(12)と無終端帯(7)の密着度が低下し、基板(12)の冷却効果の低下につながる。そのため、電圧の変動時間を調整することにより、基板が無終端帯上を滑っている間の冷却時間を長くし、基板(12)の温度上昇が小さいうちに再度、無終端帯(7)と基板(12)間に電圧を付与させ、基板(12)のシワや薄膜形成時の温度上昇を抑制することができる。
【0027】
電圧を1kV未満に保持する時間(電圧が1kV未満になってから再び1kV以上になるまでの時間)は、連続して0.1秒以上0.5秒以下程度であることが望ましい。0.1秒未満では、基板(12)が無終端帯(7)から離れる前に電圧が印加され、基板(12)がキャンを通過して、平面状の薄膜形成部に移動した時生じる無終端帯(7)からの浮きを緩和することができず、シワを抑制することが困難になる。また、0.5秒以上では、基板(12)の冷却時間が短くなり、冷却効果が低下する。また、変動する電圧を1kV以上に保持する時間(電圧が1kV以上になってから再び1kV未満になるまでの時間)は、0.5秒以上5秒以下であることが好ましい。0.5秒未満では、十分に基板(12)を無終
端帯(7)に吸着することができず、冷却効果が低下する。5秒以上では、基板(12)が吸着されている間にシワが入りやすくなる。
【0028】
電圧の変動と時間の関係は、矩形波や図3に示すような直線的な変動、正弦波や図4に示すような曲線的な変動など、どのような波形をとっても問題はない。
【0029】
本発明で使用する絶縁層(21)は、基板(12)との接触面積を大きくするため、柔軟性がある樹脂を用いることが望ましい。例えば、フッ素ゴム(たとえばサーコン30Q;富士高分子工業株式会社製)、天然ゴム、石油合成ゴム、シリコーンゴム(たとえば珪樹放熱タイプ;三菱樹脂株式会社製)、シリコーンゴムなどの表面を基板とのすべりを良くするテフロン(登録商標)やガラス成分を主成分とする層で覆って、絶縁層(21)の摩擦強度を補強したもの(たとえばサーコン15GTR;富士高分子工業株式会社製、コ・サーム1T441;太陽金網株式会社)、熱伝導性シリコーンゴムとガラス繊維熱伝導層の一体形成品であり、強化層を持ち柔軟性と強度に優れているギャップパッド (GP1;北川工業株式会社製)、またテフロン(登録商標)、セラミック、ガラス繊維を主成分とした材料などがよい。
【0030】
絶縁層(21)が有する樹脂層のゴム硬度は、JIS K 6253 デュロメータ硬さ試験 タイプA硬度で20〜90でかつ、厚みは100μm以上500μm以下であることが望ましい。
【0031】
ゴム硬度がJIS K 6253 デュロメータ硬さ試験 タイプA硬度で90以上では、基板(12)がゴムにめり込み難いため接触面積が低下し、熱伝導がされ難い。JIS K 6253 デュロメータ硬さ試験 タイプA硬度で20以下では、ゴムの耐久性が低くため使用を繰り返すことで亀裂が入りやすく、導電層(22)に電圧を印加したときに放電を起こしやすくなる。
【0032】
また、厚みが100μm以下では、基板(12)と無終端帯(7)の擦れにより絶縁層(21)が破れてしまうため、放電を起こしやすくなる。厚みが500μm以上では、導電層(22)から基板(12)までの距離が長くなるため、静電吸着力が弱まり、冷却効果が低下する。
【0033】
導電層(22)は、導電性塗料(たとえばJFE-603;株式会社モリテックス製、E-3315;神東塗料株式会社製、MAC−115;有限会社マックコーポレーション製)や導電性テープ(たとえばAL−25DC;住友スリーエム株式会社製、ニトホイルAT-511E;日東電工株式会社製)、グラファイトシート(たとえばEYGS182310;松下電器産業株式会社製)、金属箔(たとえばアルミニウム箔、銅箔)なども用いることができる。導電性塗料、導電性テープ、金属箔など機械的強度が低い材料を用いる場合には、必要に応じて、絶縁層(21)、導電層(22)に加えて、無終端帯(7)の強度を保障するための基材(23)を無終端帯(7)の内側に設けることが望ましい。
【0034】
なお、グラファイト導電性シートにシリコーンゴムを積層させて、導電層と絶縁層を持ち合わせるPGSグラファイトシート(たとえばEYGM121810SS;松下電器産業製)を用いることもできる。基板(23)は、材質、厚み、表面形状によって限定されない。
【0035】
また無終端帯(7)に電圧を印加する別の方法としては、図5に示すベアリング構造を用いて、絶縁ケース(31)内に導電性を呈するキャン(6)またはテンションローラ(14)の中心軸をベアリングの内輪(33)で支持し、ベアリングの外輪(35)を保持するベアリングケース(32)に、電極端子(37)をネジ(36)止めして、テンションローラ(14)またはキャンを接地電位から絶縁する電圧印加方法でも良い。
【0036】
なお、導電層と基板表面との間に生じる電圧の付与は、導電層と基板の片方が接地電位であっても良く、両方とも正あるいは負の非接地電位であってもよい。導電層と基板間に印加する電圧の大きさに差があればよい。電圧があれば、基板と導電層に電位をかけるのは、同時でも別々でも相違はない。
【0037】
本実施形態においては、搬送ローラ(5)を接地電位にして、無終端帯(7)の導電層に電圧を付与する場合について説明したが、基板(12)に電圧を付与しても良い。基板(12)に電圧を印加するには、複数の搬送ローラ(5)のうち1つ又は複数に電圧を付与し、他の搬送ローラ(5)は接地電位から浮かしておけばよい。図5に示すベアリング構造を用いて、絶縁ケース(31)内に導電性を呈する搬送ローラ(5)の中心軸をベアリングの内輪(33)で支持し、ベアリングの外輪(35)を保持するベアリングケース(32)を接地電位から絶縁しておき、ベアリングケース(32)に電極端子(37)をネジ(36)止めする。ベアリングの外輪と内輪の間には、ベアリングボール(34)を挟んでおく。
【0038】
他に電極端部に板材やカーボンブラックなどからなる電極ブラシを無終端帯(7)表面で摺動させる方法や、キャン(6)やテンションローラ(14)から電圧を印加する場合と同じく無終端帯(7)の内側に電極を接触させて電圧印加しても良い。これらの組合せはもちろんのこと、その他の方法を用いることもでき、本発明はこれらの電圧を印加する方法によって限定されない。
【0039】
本発明の薄膜形成過程では、無終端帯(7b)を経由せず、基板(12)の片面のみに薄膜を形成しても問題はない。薄膜形成方法は、蒸着の角度に左右されず行うことができ、他にスパッタ法などで行っても良い。
【0040】
また基板搬送経路は、他に図6に示すように、真空容器(2)を小型化するために図1より搬送ローラ(5)を減らし、成膜領域(15)から離れた場所で基板(12)と無終端帯(7)を接触させて、基板(12)がキャン(6)を通過して、平面状の薄膜形成部に移動した時生じる無終端帯(7)からの浮きによるシワを防ぐことができる。しかし、図6の薄膜形成装置は、基板(12)と無終端帯(7)がキャン(6)に接している部分が図1と比較すると長い。そのため、基板(12)がキャン(6)を通過して、平面状の薄膜形成部(15)に移動した時生じる無終端帯(7)からの浮きが大きくなる。そこで図7に示すように、搬送補助ローラ(11)を用いることによって、基板(12)と無終端帯(7)が搬送補助ローラ(11)に接している部分を短くし、浮きを緩和することができる。図6、図7の番号は図1と同様である。
(実施例)
非水電解質二次電池の負極を作成する目的で、図1に示す装置を用いて負極集電体上にSi薄膜を形成した。
【0041】
基板(12)は、幅28cmの粗面化銅箔(EXP−DT−NC35μm;古河サーキットフォイル株式会社製)を用いた。
【0042】
薄膜形成部(15)の長さが45cm程度になるよう遮蔽版(10)の位置を調整し、黒鉛ルツボに高純度Siを投入した薄膜形成源(9)を薄膜形成部(15)からの最短距離が40cmになる長さに設置した。真空度10−2Pa程度の減圧条件下、電子線によりSiを加熱溶解し、Si溶湯の表面温度を2000℃程度に保った。
【0043】
基板(12)に5kgfのテンションをかけながら、基板(12)を毎分0.33m程度の速度で走行させて薄膜形成を行った。
【0044】
無終端体としては、図2の構成のものを用いた。無終端帯(7)の導電層(22)にはスチールベルト(スチールエンドレスベルト;株式会社ディムコ製)、絶縁層(23)には硬度熱伝導性シリコーンゴムシート(CT-A;信越化学工業株式会社製)を用いた。
【0045】
回転ロール(25)により無終端帯の基板側から電圧を印加する方法を用いて、2kVの電圧を1秒間付与後、0.2秒間電圧を0Vにするパターンで変動する電圧を付与した。これにより、シワを発生すること無く厚さ20μm程度のSi薄膜を活物質とする負極を作成することができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明にかかる薄膜形成装置及び薄膜形成法によれば、高容量電池活物質層を真空プロセスで形成する場合に代表される、基板の温度上昇を軽減することができ、基板の熱損傷やシワを抑制することができる。その結果、電池の信頼性や生産性等を向上することが出来る等、電池用途に限らず広く真空中での薄膜形成に用いる薄膜形成装置及び薄膜形成法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態における薄膜形成装置の構成の一例を示す模式図
【図2】本発明の実施の形態における無終端帯(7)の構成および電極端子の接触による電圧印加のための電極端子の構成例を示す模式図
【図3】本発明の実施の形態における基板と無終端帯の導電層の間の電圧の時間変化を示す図
【図4】本発明の実施の形態における基板と無終端帯(7)の導電層の間の電圧の時間変化を示す図
【図5】本発明の実施の形態1におけるベアリングの構成例を示す模式図
【図6】本発明の実施の形態における薄膜形成装置の構成の一例を示す模式図
【図7】本発明の実施の形態における薄膜形成装置の構成の一例を示す模式図
【図8】従来の薄膜形成装置の構成を示す模式図
【図9】従来の薄膜形成装置の構成を示す模式図
【符号の説明】
【0048】
1 排気ポンプ
2 真空容器
3 巻取りロール
5 搬送ローラ
6 キャン
7a,b 無終端帯
8 巻出しロール
9 薄膜形成源
10 遮蔽板
11 搬送補助ローラ
12 基板
14 テンションローラ
15 薄膜形成部
16 接地電位
17 電源
18 基板搬送系
21 絶縁層
22 導電層
23 基材
24 絶縁層上の基板との接触部
25 回転ロール
26 電極端子保持部
27 電極端子
31 絶縁ケース
32 ベアリングケース
33 ベアリング内輪
34 ベアリングボール
35 ベアリング外輪
36 ネジ
37 電極端子
101 真空ポンプ
102 真空容器
103 巻取りロール
106 成膜ロール
108 巻出しロール
109 成膜源
110 マスク
112 集電体
201 排気系
202 真空槽
203 巻取りロール
205 ガイドロール
206a,b 主ロール
207 無終端帯
208 巻出しロール
209 薄膜形成源
210 遮蔽板
212 長尺基板
215 薄膜形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中で、長尺基板上に、薄膜を形成することができる薄膜形成装置であって、
前記長尺基板を搬送させる搬送機構と、
前記搬送中の基板表面上に、薄膜を形成する手段と、
前記薄膜形成時に前記基板の裏面に接して搬送され、前記基板側から順に絶縁層、導電層が設けられ、前記導電層と前記基板との間に変動する電位差を付与して、前記基板を静電吸着する無終端帯と、
前記搬送機構と、前記薄膜を形成する手段と、前記無終端帯とを収容する真空容器と、
を有する薄膜形成装置。
【請求項2】
前記絶縁層の硬度がJIS K 6253 デュロメータ硬さ試験 タイプA硬度で20〜90であることを特徴とする請求項1記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
前記絶縁層の厚みが100μm以上500μm以下あることを特徴とする請求項1記載の薄膜形成装置。
【請求項4】
前記無終端帯の絶縁層がガラス繊維、テフロン(登録商標)、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、石油合成ゴムのいずれかを主成分とすることを特徴とする請求項1記載の薄膜形成装置。
【請求項5】
真空中で、基板搬送系に沿って長尺の基板を搬送しつつ、薄膜形成源より粒子を飛来させて前記基板上に、薄膜を形成する薄膜形成法において、前記基板側から順に絶縁層、導電層が設けられた無終端帯を前記基板の裏面に接して搬送し、前記導電層と前記基板との間の電圧を高電圧状態と低電圧状態とで切り換えることにより、前記基板を前記無終端帯に静電吸着しながら、前記基板上に前記薄膜を形成することを特徴とする薄膜形成法。
【請求項6】
前記高電圧状態が1kV以上3kV以下であることを特徴とする請求項5記載の薄膜形成法。
【請求項7】
前記低電圧状態が100V以下であることを特徴とする請求項5記載の薄膜形成法。
【請求項8】
前記低電圧状態である時間が0.1秒以上0.5秒以下であることを特徴とする請求項5記載の薄膜形成法。
【請求項9】
前記高電圧状態である時間が0.5秒以上5秒以下であることを特徴とする請求項5記載の薄膜形成法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−161783(P2009−161783A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339170(P2007−339170)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】