薄膜形成装置の振動計測および検査方法
【課題】液晶パネルの製造に用いられる薄膜形成装置の据付調整や検査、及び性能評価が客観的データに基づいて行える振動計測及び検査方法を構築する。
【解決手段】複数個の加速度センサ1、5−1〜4と多チャンネル記録表示装置7、及びローパスフィルタ6によって構成され、ローラ2の回転運動は、ローラ2側面に接線方向に取付けられた加速度センサ1の信号をスリップリング4や無線送信装置によって取り出し、多チャンネル記録表示装置7の1チャンネルに記録し、テーブルの直線運動は、その始点と終点及び複数の中間点に垂直及び水平方向に取付けられた加速度センサ5−1〜4の信号を、高い周波数の振動を除去し、ローラ2の回転運動とテーブル3の直線運動が的確に観測できるように、ローパスフィルタ6を介して多チャンネル記録表示装置7に同時記録する。
【解決手段】複数個の加速度センサ1、5−1〜4と多チャンネル記録表示装置7、及びローパスフィルタ6によって構成され、ローラ2の回転運動は、ローラ2側面に接線方向に取付けられた加速度センサ1の信号をスリップリング4や無線送信装置によって取り出し、多チャンネル記録表示装置7の1チャンネルに記録し、テーブルの直線運動は、その始点と終点及び複数の中間点に垂直及び水平方向に取付けられた加速度センサ5−1〜4の信号を、高い周波数の振動を除去し、ローラ2の回転運動とテーブル3の直線運動が的確に観測できるように、ローパスフィルタ6を介して多チャンネル記録表示装置7に同時記録する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大型液晶テレビなどの大型液晶パネルを製造する薄膜形成装置の振動計測方法および検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルの製造において、液晶パネル製品間のバラツキをなくすことは重要なことであり、そのための配向膜・絶縁膜などの薄膜を形成する印刷機においてはその膜厚を均一に形成することが要求される。
【0003】
このような薄膜を形成する手段としてフレキソ印刷による印刷方式が用いられている。この印刷方式には、印刷版が取付けられた版胴が回転し、ガラスを載せたテーブルが移動してガラスに印策する方式と、これとは逆に印刷版の取付けられた版胴が、回転しながら移動しテーブル上のガラスに印刷する方式がある。これらの方式の概要を図12に示す。また、関連する従来技術についての特許文献1〜4を示す。
【0004】
ムラの無い薄膜を形成するためには、ローラの回転角とローラの移動量、もしくはローラの回転角とテーブル移動量が機械的に正確に一致していることが大前提であり、振動によるムラの発生が起こらないことが肝要である。しかし、この薄膜形成装置はテーブル送り運動機構、ローラの回転運動機構とそれらを連結するラックとピニオン機構からなっているので、歯車の噛み合いによって振動が発生し易くなりムラの無い転写印刷に支障をきたすおそれがある。以下に、さらに具体的に説明する。
【0005】
図12の薄膜形成装置は、テーブル上に置かれたガラスの薄板にローラに付着されたポリイミドを含む溶液を一様に付着転写させてガラス面にポリイミドの薄膜を形成させる装置である。大型ガラス面に一様に斑無くポリイミドの薄膜を形成するにはローラの回転運動とテーブルの直線運動の関係を極めてスムーズに連動させる必要がある。連動運動中に何らかの要因で振動が発生すると、それが薄膜面に転写されて不良品を作ることになる。したがって、上記歯車の噛み合い調整や据付調整のための検査方法の確立が求められていた。また、当該装置の性能を一定に保つための品質管理のための手段としても人の勘に頼ることなく客観的に薄膜形成装置の性能評価ができる測定方法が必要であった。
【0006】
ところが、ごく最近になって大型液晶テレビが出現し、今後更なる大型化も予測される事態となっている。これにより、上記液晶パネルは更なる大型化が要求され、薄膜製造における精度管理、すなわち上記の装置振動によるムラの発生を防止するための歯車の噛み合い調整や据付調整をさらに高精度に行う必要が出てきた。
【0007】
【特許文献1】特開平5−72521号公報
【特許文献2】特開2001−83495号公報
【特許文献3】特開2001−142092号公報
【特許文献4】特開2004−12520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、薄膜形成装置のための歯車の噛み合い調整や据付調整のための検査方法はまだ確立されておらず、その検査方法の必要性がより高い大型液晶パネルの製造技術についても、上記調整や検査は従来どおり人の勘と経験に頼らざるを得ないのが現状であった。
具体的には、高速で運動するローラの回転運動とテーブルの直線運動の関係は、動的に測定することが必要であるが、その測定した情報から両者の連動運動を測定し、装置据付調整や検査手段として利用できる測定装置がなかったために、当該装置を適切に調整するための客観的データを得る手段がなかったのである。
【0009】
本発明の目的は、ローラとテーブル面に適宜配置された加速度センサの振動計測情報によって歯車の噛み合い調整やテーブル送り運動機構の据付調整や、薄膜形成装置の組み立て検査に利用することにより、据付調整や検査、及び性能評価が客観的データに基づいて行える薄膜形成装置の振動計測及び検査方法を構築することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために請求項1の発明は、ローラの回転方向に取付けられた加速度センサと、テーブルの運動方向とその直交方向に数箇所取付けられた加速度センサとを信号検出手段として、ローラの回転運動とテーブルの直線運動の連動運動を計測することを特徴とする。これにより、歯車の噛み合い調整やテーブル送り運動機構の据付調整や、組み立て検査を客観的なデータに基づいて行うことができる。
【0011】
請求項2の発明は、さらに、ローラの回転方向に取付けられた加速度センサの信号を検出するとともに、テーブルの運動方向とその直交方向に数箇所取付けられた加速度センサの信号を検出し、これらの検出された加速度信号をローパスフィルタを通して多チャンネル記録装置に収録する測定システムを構成し、上記ローラと上記テーブルの連動運動における加速度センサの信号を同時比較することを特徴とする。これにより、上記客観的なデータをより高精度なものとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明により、ローラとテーブル面に適宜配置された加速度センサの振動計測情報を用いて、歯車の噛み合い調整やテーブル送り運動機構の据付調整や、組み立て検査を客観的なデータに基づいて行える薄膜形成装置の振動計測及び検査方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に図を用いて本発明の薄膜形成装置の振動計測及び検査方法の一つの実施形態について説明する。
【0014】
図1に本実施形態の概略構成を示す。
物体の運動を測定する手段として一般的に用いられているものに加速度センサがあるが、本発明ではこれを複数個効果的に利用する。
ローラの回転運動とテーブルの直線運動の連動する関係を知るために、各運動方向の要所に同一感度を有する加速度センサを配置し、装置の運転中に動的に測定し同時記録する。テーブルの直線運動に伴って水平方向と垂直方向の振動が発生するので、装置据付調整や検査手段として、これら2方向の運動測定のための加速度センサを一組として、テーブルの始点と終点及び複数の中間点に配置する。以下、具体的に説明する。
【0015】
測定システムは前記複数個の加速度センサ1、5−1〜4と多チャンネル記録表示装置7、及びローパスフィルタ6によって構成される。ローラ2の回転運動は、ローラ2側面に接線方向に取付けられた加速度センサ1の信号をスリップリング4を介して取り出し、多チャンネル記録表示装置7の1チャンネルに記録する。テーブルの直線運動は、その始点と終点及び複数の中間点に垂直及び水平方向に取付けられた加速度センサ5−1〜4の信号を、多チャンネル記録表示装置7に同時記録する。各加速度センサは同一感度を有することが望ましい。なお、本実施形態では、加速度センサ1の信号を有線方式でスリップリング4を介して取り出したが、無線送信装置をローラ2に取付ける無線方式で信号伝達を行ってもよい。
【0016】
しかし、各加速度センサの信号には構造物の振動などに起因する多数のノイズ成分が乗っているので、そのままでは連動運動の観測を困難にする。そこで、加速度センサの信号をローパスフィルタ6を介して多チャンネル記録表示装置7に記録することによって、高い周波数の振動を除去し、ローラ2の回転運動とテーブル3の直線運動が的確に観測できるように設定する。
【0017】
次に、上記構成の測定システムにより得られる振動データ及び解析方法について説明する。
【0018】
図2に、多チャンネル記録装置に記録される振動データの一例を示す。図2(a)は加速度センサ1が検出したローラ2における回転方向の振動データである。左側に時系列データを、右側にその振動スペクトルを示す。なお、振動スペクトルとは振動に含まれる各振動数成分の強さを示すものであり、時系列データをスペクトル分析して得られる。
図2(b)は加速度センサ5−1が検出したテーブル3の始点における水平方向の振動データである。左側に時系列データを、右側にその振動スペクトルを示す。さらに、図2(c)に加速度センサ5−1が検出したテーブル3の始点における垂直方向の振動データを示す。左側が時系列データ、右側がその振動スペクトルである。
各時系列データにおいて、0秒から10秒付近までが起動から印刷準備行程、10秒から12秒までが印刷工程、12秒から25秒までが戻り行程を表わしている。
【0019】
振動スペクトルを見ると、50Hz以上の高い振動数成分が多く含まれているために、運動が見えにくくなっていることが分かる。そこで、図2の各データについて、50Hzのカットオフ振動数を有するローパスフィルタを設定した後の分析結果を図3に示す。高次の振動は取り除かれ、回転運動及び直線運動の連動する関係が、ローラ2における回転方向の時系列データと、テーブル3の始点における水平方向及び垂直方向の時系列データにより明確に把握することができる。
【0020】
使用した多チャンネル記録装置はデジタル記録されているので、時間軸の縮小・拡大は容易である。そこで、転写行程を拡大して運動の詳細を見ることができる。図4は、図3の運動開始10秒後から11秒までの記録の時間軸を引き伸ばして表示させたものである。また、図5は11秒後から12秒までの、図6は12秒後から13秒までの同様の記録である。各図の振動スペクトルも時系列データに表示された時間に対応したものである。
【0021】
10.5秒までの転写の初期には図4の矢印で示す40Hz成分の振動が含まれているのが時系列データでわかるが、その後は図5、6から回転運動成分、垂直運動成分共に無振動状態に入り、12.5秒までの間スムーズな転写行程に入っていることが確認できる。逆に、この部分のデータに乱れがあれば、転写の状態の不具合と比較して対策を検討することが可能となる。
【0022】
特に、スペクトル分析の結果を用いれば、定量的に当該装置の性能を評価したり、品質管理や、据付調整のための検査手段として客観的に薄膜形成装置の性能評価をすることが可能となる。スペクトル成分の強さを良否判定の基準とすることができ、また、顕著に現れるスペクトル成分の振動数は、その振動原因を調査する場合の直接的な手掛かりともなるからである。
【0023】
図7に、調整手段としてラックとピニオン間の噛み合いのバックラッシュを大きくする変更を行った後の生データを、また図8に、50Hzのローパスフィルタを通した後のデータを示す。さらに、図9は運転開始10秒後から11秒までの記録、図10は11秒後から12秒までの記録、図11は12秒後から13秒までの記録である。図9と図4、図10と図5、図11と図6は、各々対応する時系列応答とスペクトル分析結果を示す。
【0024】
図5(a)と図10(a)のスペクトル分析結果(右側の図)を比較すると、図10(a)の40Hz付近の振動成分(矢印の部分)が増加している。図5(a)と図10(a)は上記のように、共に運転開始11秒後から12秒までの記録であり、図5(a)はバックラッシュの変更前の状態を、図10(a)はバックラッシュの変更後の状態を示しているので、この40Hz付近の振動成分の増加は、バックラッシュを大きくしたことによる変化と考えられる。さらにこの影響はローラの回転運動、テーブルの直線運動の時系列応答にも現れている。したがって、スペクトル成分に定量的な基準値を設けることにより、人の勘に頼らずしてその値になるようなバックラッシュ値の調整手段として使用することができる。
【0025】
以上説明したように、本発明の振動計測及び検査方法によって、ガラス面に溶液を一様に付着転写させるためのスムーズな連動運動が行われているかどうか、客観的に判定する基準を得ることができる。この基準により、歯車の噛み合い調整やテーブル送り運動機構の据付調整を行うことで、人の勘や経験に頼らずに客観的データに基づいてより高精度の調整を行うことができる。
また、当該装置の性能を一定に保つための品質管理や据付調整のための検査方法として、本発明の振動計測及び検査方法を用いることで、客観的に薄膜形成装置の性能評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態を示す薄膜形成装置の計測システムの概念図である。
【図2】上記計測システムにより得られる振動データの一例であり、(a)はローラ回転方向の、(b)はテーブル水平方向の、(c)は同じく垂直方向のそれぞれ加速度生データ及びスペクトル分析結果を示す。
【図3】図2のそれぞれの振動データについて50Hzローパスフィルタにより高次振動成分をカットしたデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図4】図3のそれぞれの振動データについての運転開始10秒から11秒までのデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図5】図3のそれぞれの振動データについての運転開始11秒から12秒までのデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図6】図3のそれぞれの振動データについての運転開始12秒から13秒までのデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図7】ラックとピニオン間の噛み合いのバックラッシュを大きくする変更を行った後の振動データの一例であり、(a)はローラ回転方向の、(b)はテーブル水平方向の、(c)は同じく垂直方向のそれぞれ加速度生データ及びスペクトル分析果を示す。
【図8】図7のそれぞれの振動データについて50Hzローパスフィルタにより高次振動成分をカットしたデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図9】図8のそれぞれの振動データについての運転開始10秒から11秒までのデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図10】図8のそれぞれの振動データについての運転開始11秒から12秒までのデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図11】図8のそれぞれの振動データについての運転開始12秒から13秒までのデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図12】従来の薄膜形成装置の構成概念図である。
【符号の説明】
【0027】
1 加速度センサ(ローラ用)
2 ローラ
3 テーブル
4 スリップリング
5 加速度センサ(テーブル用)
6 ローパスフィルタ
7 多チャンネル記録表示装置
【技術分野】
【0001】
本発明は大型液晶テレビなどの大型液晶パネルを製造する薄膜形成装置の振動計測方法および検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルの製造において、液晶パネル製品間のバラツキをなくすことは重要なことであり、そのための配向膜・絶縁膜などの薄膜を形成する印刷機においてはその膜厚を均一に形成することが要求される。
【0003】
このような薄膜を形成する手段としてフレキソ印刷による印刷方式が用いられている。この印刷方式には、印刷版が取付けられた版胴が回転し、ガラスを載せたテーブルが移動してガラスに印策する方式と、これとは逆に印刷版の取付けられた版胴が、回転しながら移動しテーブル上のガラスに印刷する方式がある。これらの方式の概要を図12に示す。また、関連する従来技術についての特許文献1〜4を示す。
【0004】
ムラの無い薄膜を形成するためには、ローラの回転角とローラの移動量、もしくはローラの回転角とテーブル移動量が機械的に正確に一致していることが大前提であり、振動によるムラの発生が起こらないことが肝要である。しかし、この薄膜形成装置はテーブル送り運動機構、ローラの回転運動機構とそれらを連結するラックとピニオン機構からなっているので、歯車の噛み合いによって振動が発生し易くなりムラの無い転写印刷に支障をきたすおそれがある。以下に、さらに具体的に説明する。
【0005】
図12の薄膜形成装置は、テーブル上に置かれたガラスの薄板にローラに付着されたポリイミドを含む溶液を一様に付着転写させてガラス面にポリイミドの薄膜を形成させる装置である。大型ガラス面に一様に斑無くポリイミドの薄膜を形成するにはローラの回転運動とテーブルの直線運動の関係を極めてスムーズに連動させる必要がある。連動運動中に何らかの要因で振動が発生すると、それが薄膜面に転写されて不良品を作ることになる。したがって、上記歯車の噛み合い調整や据付調整のための検査方法の確立が求められていた。また、当該装置の性能を一定に保つための品質管理のための手段としても人の勘に頼ることなく客観的に薄膜形成装置の性能評価ができる測定方法が必要であった。
【0006】
ところが、ごく最近になって大型液晶テレビが出現し、今後更なる大型化も予測される事態となっている。これにより、上記液晶パネルは更なる大型化が要求され、薄膜製造における精度管理、すなわち上記の装置振動によるムラの発生を防止するための歯車の噛み合い調整や据付調整をさらに高精度に行う必要が出てきた。
【0007】
【特許文献1】特開平5−72521号公報
【特許文献2】特開2001−83495号公報
【特許文献3】特開2001−142092号公報
【特許文献4】特開2004−12520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、薄膜形成装置のための歯車の噛み合い調整や据付調整のための検査方法はまだ確立されておらず、その検査方法の必要性がより高い大型液晶パネルの製造技術についても、上記調整や検査は従来どおり人の勘と経験に頼らざるを得ないのが現状であった。
具体的には、高速で運動するローラの回転運動とテーブルの直線運動の関係は、動的に測定することが必要であるが、その測定した情報から両者の連動運動を測定し、装置据付調整や検査手段として利用できる測定装置がなかったために、当該装置を適切に調整するための客観的データを得る手段がなかったのである。
【0009】
本発明の目的は、ローラとテーブル面に適宜配置された加速度センサの振動計測情報によって歯車の噛み合い調整やテーブル送り運動機構の据付調整や、薄膜形成装置の組み立て検査に利用することにより、据付調整や検査、及び性能評価が客観的データに基づいて行える薄膜形成装置の振動計測及び検査方法を構築することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために請求項1の発明は、ローラの回転方向に取付けられた加速度センサと、テーブルの運動方向とその直交方向に数箇所取付けられた加速度センサとを信号検出手段として、ローラの回転運動とテーブルの直線運動の連動運動を計測することを特徴とする。これにより、歯車の噛み合い調整やテーブル送り運動機構の据付調整や、組み立て検査を客観的なデータに基づいて行うことができる。
【0011】
請求項2の発明は、さらに、ローラの回転方向に取付けられた加速度センサの信号を検出するとともに、テーブルの運動方向とその直交方向に数箇所取付けられた加速度センサの信号を検出し、これらの検出された加速度信号をローパスフィルタを通して多チャンネル記録装置に収録する測定システムを構成し、上記ローラと上記テーブルの連動運動における加速度センサの信号を同時比較することを特徴とする。これにより、上記客観的なデータをより高精度なものとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明により、ローラとテーブル面に適宜配置された加速度センサの振動計測情報を用いて、歯車の噛み合い調整やテーブル送り運動機構の据付調整や、組み立て検査を客観的なデータに基づいて行える薄膜形成装置の振動計測及び検査方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に図を用いて本発明の薄膜形成装置の振動計測及び検査方法の一つの実施形態について説明する。
【0014】
図1に本実施形態の概略構成を示す。
物体の運動を測定する手段として一般的に用いられているものに加速度センサがあるが、本発明ではこれを複数個効果的に利用する。
ローラの回転運動とテーブルの直線運動の連動する関係を知るために、各運動方向の要所に同一感度を有する加速度センサを配置し、装置の運転中に動的に測定し同時記録する。テーブルの直線運動に伴って水平方向と垂直方向の振動が発生するので、装置据付調整や検査手段として、これら2方向の運動測定のための加速度センサを一組として、テーブルの始点と終点及び複数の中間点に配置する。以下、具体的に説明する。
【0015】
測定システムは前記複数個の加速度センサ1、5−1〜4と多チャンネル記録表示装置7、及びローパスフィルタ6によって構成される。ローラ2の回転運動は、ローラ2側面に接線方向に取付けられた加速度センサ1の信号をスリップリング4を介して取り出し、多チャンネル記録表示装置7の1チャンネルに記録する。テーブルの直線運動は、その始点と終点及び複数の中間点に垂直及び水平方向に取付けられた加速度センサ5−1〜4の信号を、多チャンネル記録表示装置7に同時記録する。各加速度センサは同一感度を有することが望ましい。なお、本実施形態では、加速度センサ1の信号を有線方式でスリップリング4を介して取り出したが、無線送信装置をローラ2に取付ける無線方式で信号伝達を行ってもよい。
【0016】
しかし、各加速度センサの信号には構造物の振動などに起因する多数のノイズ成分が乗っているので、そのままでは連動運動の観測を困難にする。そこで、加速度センサの信号をローパスフィルタ6を介して多チャンネル記録表示装置7に記録することによって、高い周波数の振動を除去し、ローラ2の回転運動とテーブル3の直線運動が的確に観測できるように設定する。
【0017】
次に、上記構成の測定システムにより得られる振動データ及び解析方法について説明する。
【0018】
図2に、多チャンネル記録装置に記録される振動データの一例を示す。図2(a)は加速度センサ1が検出したローラ2における回転方向の振動データである。左側に時系列データを、右側にその振動スペクトルを示す。なお、振動スペクトルとは振動に含まれる各振動数成分の強さを示すものであり、時系列データをスペクトル分析して得られる。
図2(b)は加速度センサ5−1が検出したテーブル3の始点における水平方向の振動データである。左側に時系列データを、右側にその振動スペクトルを示す。さらに、図2(c)に加速度センサ5−1が検出したテーブル3の始点における垂直方向の振動データを示す。左側が時系列データ、右側がその振動スペクトルである。
各時系列データにおいて、0秒から10秒付近までが起動から印刷準備行程、10秒から12秒までが印刷工程、12秒から25秒までが戻り行程を表わしている。
【0019】
振動スペクトルを見ると、50Hz以上の高い振動数成分が多く含まれているために、運動が見えにくくなっていることが分かる。そこで、図2の各データについて、50Hzのカットオフ振動数を有するローパスフィルタを設定した後の分析結果を図3に示す。高次の振動は取り除かれ、回転運動及び直線運動の連動する関係が、ローラ2における回転方向の時系列データと、テーブル3の始点における水平方向及び垂直方向の時系列データにより明確に把握することができる。
【0020】
使用した多チャンネル記録装置はデジタル記録されているので、時間軸の縮小・拡大は容易である。そこで、転写行程を拡大して運動の詳細を見ることができる。図4は、図3の運動開始10秒後から11秒までの記録の時間軸を引き伸ばして表示させたものである。また、図5は11秒後から12秒までの、図6は12秒後から13秒までの同様の記録である。各図の振動スペクトルも時系列データに表示された時間に対応したものである。
【0021】
10.5秒までの転写の初期には図4の矢印で示す40Hz成分の振動が含まれているのが時系列データでわかるが、その後は図5、6から回転運動成分、垂直運動成分共に無振動状態に入り、12.5秒までの間スムーズな転写行程に入っていることが確認できる。逆に、この部分のデータに乱れがあれば、転写の状態の不具合と比較して対策を検討することが可能となる。
【0022】
特に、スペクトル分析の結果を用いれば、定量的に当該装置の性能を評価したり、品質管理や、据付調整のための検査手段として客観的に薄膜形成装置の性能評価をすることが可能となる。スペクトル成分の強さを良否判定の基準とすることができ、また、顕著に現れるスペクトル成分の振動数は、その振動原因を調査する場合の直接的な手掛かりともなるからである。
【0023】
図7に、調整手段としてラックとピニオン間の噛み合いのバックラッシュを大きくする変更を行った後の生データを、また図8に、50Hzのローパスフィルタを通した後のデータを示す。さらに、図9は運転開始10秒後から11秒までの記録、図10は11秒後から12秒までの記録、図11は12秒後から13秒までの記録である。図9と図4、図10と図5、図11と図6は、各々対応する時系列応答とスペクトル分析結果を示す。
【0024】
図5(a)と図10(a)のスペクトル分析結果(右側の図)を比較すると、図10(a)の40Hz付近の振動成分(矢印の部分)が増加している。図5(a)と図10(a)は上記のように、共に運転開始11秒後から12秒までの記録であり、図5(a)はバックラッシュの変更前の状態を、図10(a)はバックラッシュの変更後の状態を示しているので、この40Hz付近の振動成分の増加は、バックラッシュを大きくしたことによる変化と考えられる。さらにこの影響はローラの回転運動、テーブルの直線運動の時系列応答にも現れている。したがって、スペクトル成分に定量的な基準値を設けることにより、人の勘に頼らずしてその値になるようなバックラッシュ値の調整手段として使用することができる。
【0025】
以上説明したように、本発明の振動計測及び検査方法によって、ガラス面に溶液を一様に付着転写させるためのスムーズな連動運動が行われているかどうか、客観的に判定する基準を得ることができる。この基準により、歯車の噛み合い調整やテーブル送り運動機構の据付調整を行うことで、人の勘や経験に頼らずに客観的データに基づいてより高精度の調整を行うことができる。
また、当該装置の性能を一定に保つための品質管理や据付調整のための検査方法として、本発明の振動計測及び検査方法を用いることで、客観的に薄膜形成装置の性能評価を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態を示す薄膜形成装置の計測システムの概念図である。
【図2】上記計測システムにより得られる振動データの一例であり、(a)はローラ回転方向の、(b)はテーブル水平方向の、(c)は同じく垂直方向のそれぞれ加速度生データ及びスペクトル分析結果を示す。
【図3】図2のそれぞれの振動データについて50Hzローパスフィルタにより高次振動成分をカットしたデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図4】図3のそれぞれの振動データについての運転開始10秒から11秒までのデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図5】図3のそれぞれの振動データについての運転開始11秒から12秒までのデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図6】図3のそれぞれの振動データについての運転開始12秒から13秒までのデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図7】ラックとピニオン間の噛み合いのバックラッシュを大きくする変更を行った後の振動データの一例であり、(a)はローラ回転方向の、(b)はテーブル水平方向の、(c)は同じく垂直方向のそれぞれ加速度生データ及びスペクトル分析果を示す。
【図8】図7のそれぞれの振動データについて50Hzローパスフィルタにより高次振動成分をカットしたデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図9】図8のそれぞれの振動データについての運転開始10秒から11秒までのデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図10】図8のそれぞれの振動データについての運転開始11秒から12秒までのデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図11】図8のそれぞれの振動データについての運転開始12秒から13秒までのデータ及びスペクトル分析結果を示す。
【図12】従来の薄膜形成装置の構成概念図である。
【符号の説明】
【0027】
1 加速度センサ(ローラ用)
2 ローラ
3 テーブル
4 スリップリング
5 加速度センサ(テーブル用)
6 ローパスフィルタ
7 多チャンネル記録表示装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラの回転方向に取付けられた加速度センサと、テーブルの運動方向とその直交方向に数箇所取付けられた加速度センサとを信号検出手段として、ローラの回転運動とテーブルの直線運動の連動運動を計測する
ことを特徴とする薄膜形成装置の振動計測及び検査方法。
【請求項2】
ローラの回転方向に取付けられた加速度センサの信号を検出するとともに、テーブルの運動方向とその直交方向に数箇所取付けられた加速度センサの信号を検出し、これらの検出された加速度信号をローパスフィルタを通して多チャンネル記録装置に収録する測定システムを構成し、上記ローラと上記テーブルの連動運動における加速度センサの信号を同時比較することを特徴とする、請求項1に記載の薄膜形成装置の振動計測及び検査方法。
【請求項1】
ローラの回転方向に取付けられた加速度センサと、テーブルの運動方向とその直交方向に数箇所取付けられた加速度センサとを信号検出手段として、ローラの回転運動とテーブルの直線運動の連動運動を計測する
ことを特徴とする薄膜形成装置の振動計測及び検査方法。
【請求項2】
ローラの回転方向に取付けられた加速度センサの信号を検出するとともに、テーブルの運動方向とその直交方向に数箇所取付けられた加速度センサの信号を検出し、これらの検出された加速度信号をローパスフィルタを通して多チャンネル記録装置に収録する測定システムを構成し、上記ローラと上記テーブルの連動運動における加速度センサの信号を同時比較することを特徴とする、請求項1に記載の薄膜形成装置の振動計測及び検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−58225(P2009−58225A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223106(P2007−223106)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(594073587)株式会社飯沼ゲージ製作所 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(594073587)株式会社飯沼ゲージ製作所 (7)
【Fターム(参考)】
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