説明

薄膜測定方法および薄膜測定システム

【課題】薄膜に機械的な力を加えずに、密度(硬さ)等の薄膜の物性に関する測定を精度良く行なえるようにする。
【解決手段】薄膜31に原子を打ち込み、前記薄膜31に打ち込まれた原子に由来する信号を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜の測定技術に関し、例えば、薄膜の密度等の物性を測定あるいは評価するのに用いることのできる薄膜測定方法および薄膜測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜や製品の表面の硬さを評価(測定)する方法の一つに、下記の特許文献1や非特許文献1に記載された技術がある。これらの技術は、圧子押し込み評価法と呼ばれる方法である。圧子押し込み評価法では、マイクロニュートン(μN)オーダーの微小な荷重を制御し、ナノメートル(nm)オーダーの測定精度をもつ変位計を用いて、圧子が測定対象の試料に押し込まれる深さを測定する。すなわち、圧子押し込み評価法は、圧子の押し込み及び引き抜きの過程における試料の変形挙動を測定する方法である。
【0003】
また、薄膜等の物質の物性を測定する方法として、斜入射X線反射率測定法(GIXR)が知られている。表面が平坦な物質に対して或る入射角度θc以下の非常に浅い角度でX線を斜めに入射すると、X線は物質表面において全反射される。このときの入射角度は臨界角と呼ばれ、物質の密度(屈折率)に依存して変化する。
【0004】
入射角度がこの臨界角よりも大きい角度でX線を物質表面に入射すると、X線は物質表面で反射波と透過波とに分かれ、透過波は物質中において密度の異なる界面でさらに反射波と透過波とに分かれる。物質内に深く伝搬したX線ほど、反射するX線の強度は弱まる。すなわち反射率が低下する。したがって、反射強度を計測しプロファイリングすることにより、膜厚や、組成が既知であれば物質の密度を知ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−271202号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「薄膜の機械特性評価(ナノインデンテーション法)」、都立産業技術研究所、テクノ東京21、平成17(2005)年6月、第147巻、p.10−11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、圧子押し込み評価法では、測定対象の試料(物質)に圧子を物理的に押し込むため、試料を変形させたり損傷させたりするおそれがある。
【0008】
また、圧子を繰り返し使用すると、圧子の先端形状の磨耗劣化が生じ、押し込み深さが不十分になる場合もある。この場合、評価精度が著しく劣化するおそれがある。
【0009】
また、基板等の基体上に形成された薄膜を評価対象とする場合、基体の硬さ等の機械的特性を考慮しなければ、正確な測定、評価は望めない。一般に何らかの基体上に塗布法や蒸着法等によって薄膜を形成した後に、評価のために薄膜のみを基体から分離することは、合理的でなく、また、膜厚が薄くなるほど困難である。
【0010】
さらに、圧子押し込み評価法で評価可能な領域は、試料と接する圧子の先端形状(接触面積)に依存するため、用いる圧子の形状によって評価可能な領域が制約される。例えば、この評価方法で評価可能な領域は数マイクロメートル(μm)程度である。
【0011】
一方、GIXRでは、測定対象の物質に対してX線を浅い角度で斜めに入射するため、X線の照射領域は不可避的に物質表面においてX線のビーム径よりも広がることになる。例えば、GIXRでは、X線のビーム径が1mm程度であっても物質への斜め入射により10mm×10mm程度以上の面積が照射領域となる。結果として、GIXRでは、この面積での平均化された情報しか測定結果として得られない。
【0012】
そのため、例えば、測定対象の物質に100μm以下の空間スケールで密度ゆらぎが存在しているとしても、GIXRでは、当該密度ゆらぎを選択的に検出することはできず、10mm×10mm程度以上の面積全体の平均化された情報でしか測定結果が得られないことになる。つまり、GIXRは、物質の局所的な密度を測定するには不向きである。
【0013】
そこで、本発明の目的の一つは、測定対象の薄膜に機械的な力を加えずに、密度(硬さ)等の薄膜の物性に関する測定を精度良く行なえるようにすることにある。
また、薄膜の測定対象とする領域を自由に設定できるようにすることも本発明の目的の一つである。
【0014】
なお、前記目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本発明の他の目的の一つとして位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、例えば、以下に示す薄膜測定方法および薄膜測定システムとして把握される。
すなわち、本発明の薄膜測定方法の一態様は、薄膜に原子を打ち込む第一工程と、
前記薄膜に打ち込まれた原子に由来する信号を測定する第二工程と、を有する。
【0016】
ここで、前記薄膜測定方法は、前記第二工程での測定結果に基づいて、前記薄膜の密度を求める第三工程をさらに有することとしてもよい。
【0017】
また、前記第三工程において、前記薄膜の密度は前記信号の強度と既知の異なる密度との相関関係を基に求められるものであり、前記相間関係が前記既知の異なる密度を有する複数の薄膜サンプルを基に予め求められるものである、こととしてもよい。
【0018】
さらに、前記原子は、前記薄膜を組成する成分に含まれる原子とは異なる種類の原子である、こととしてもよい。
【0019】
また、前記第一工程での前記原子の打ち込みは、荷電した原子のビームを前記薄膜に照射することで行なうようにしてもよい。
【0020】
さらに、前記第一工程での前記原子の打ち込みは、前記原子によるスパッタリングエッチングの発生を抑制可能な条件下で行なう、こととしてもよい。
【0021】
また、前記ビームの照射は、前記薄膜上の照射面が前記薄膜に対して相対的に回転する状態で行なう、こととしてもよい。
【0022】
さらに、前記第一工程での前記原子の打ち込みは、前記薄膜に対して斜め方向から行なうこととしてもよい。
【0023】
また、前記第二工程での前記測定は、前記原子に由来する信号に関して異なる検出深度を有する複数の検出器のそれぞれを用いて前記信号を検出することを含んでもよい。
【0024】
さらに、前記第2工程での前記測定は、前記原子に由来する信号の検出深度が可変の検出器を用いて前記信号を異なる検出深度で複数回検出することを含んでもよい。
【0025】
また、前記薄膜は、基体の表面に形成されていてもよい。
【0026】
さらに、本発明の薄膜測定システムの一態様は、薄膜に原子を打ち込む装置と、前記薄膜に打ち込まれた原子に由来する信号を測定する装置と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一実施形態に係る薄膜測定システム及び同システムによる薄膜測定方法を説明する模式図である。
【図2】本実施形態の薄膜測定方法による測定結果の一例を示す図である。
【図3】本実施形態の薄膜測定方法による測定結果を面内強度分布として得ることを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、あくまでも例示であり、以下に明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0029】
図1は、一実施形態に係る薄膜測定システム及び同システムによる薄膜測定方法を説明する模式図である。この図1に示す薄膜測定システムは、例示的に、照射装置10と、測定装置20と、を備える。測定装置20は、測定対象の試料の表面分析を行なう手段の一例として、検出器21と、コンピューター(情報処理装置)22とを有する。符号40は、試料が載置される台を示し、コンピューター22の制御により水平面内において360度回転可能である。そのため、台40はターンテーブル40とも称する。なお、ターンテーブル40の駆動回路の図示は省略している。
【0030】
照射装置10は、第一工程において、ターンテーブル40に載置された試料、例えば基板等の基体30の表面に形成された薄膜31に対して原子を打ち込む(照射する)。薄膜31は、有機、無機のいずれの材料を組成に含んでいてもよい。例示的に、薄膜31には、ポリイミド、シリコン、セラミック等の材料を用いることができる。薄膜31の膜厚に制限はないが、本例のシステムにおいては、例示的に、100ナノメール(nm)以下の膜厚の薄膜31を測定対象にすることができる。
【0031】
原子の打ち込みは、荷電粒子、例えばイオン化された原子のビーム(荷電ビーム)を照射することで実現される。この場合、照射装置10として例えばイオンビームガンを用いて薄膜31にイオンを打ち込むことができる。荷電ビームを用いることで、ビームの収束や走査などのビーム制御を容易に行なうことができる。したがって、薄膜31の所望領域へ荷電粒子を打ち込むことが容易に可能となる。なお、前記ビーム制御は、例えばコンピューター22の制御によって行なうことができる。
【0032】
打ち込みに用いる荷電粒子(イオン)の種類の一例としては、Ga+、Cs+、Ar+、Au+、Bi+などが挙げられる。これらのうち、試料である薄膜31を組成する成分とは異なる種類の荷電粒子を、打ち込みに用いる荷電粒子として選定することができる。これによれば、測定装置20(第二工程)において、照射装置10によって打ち込んだ荷電粒子に由来する信号を、薄膜31の組成成分とは区別して精度良く検出することが可能となる。ただし、薄膜31の組成成分に対して相対的に測定に支障の無い程度の十分な量の荷電粒子を打ち込むこととして、薄膜31の組成成分と同種の荷電粒子を、前記打ち込みに用いることを許容してもよい。
【0033】
照射装置10(第一工程)による荷電粒子の照射量は、例えばコンピューター22によって制御(設定)可能である。荷電粒子の照射量を、例えば、薄膜31が荷電粒子の照射により掘れてしまうスパッタリングエッチングの発生を抑制可能な量に制御(設定)することもできる。このような照射量を満たす条件は、静的条件と呼ばれ、例えば1E12[ions/cm2]以下である。前記静的条件を満たす範囲で薄膜31に対する荷電粒子の照射を行なうことで、準非破壊の状態で薄膜31に荷電粒子を打ち込むことが可能となる。
【0034】
照射装置10によって打ち込まれた荷電粒子が薄膜31内に留まる際の深度や濃度分布は、ビームの加速電圧、薄膜31への入射角度(打ち込み角度)、照射密度、荷電粒子の種類等のパラメータに依存する。そのため、複数の薄膜31間で比較、評価を行なう場合には、各薄膜31について前記パラメータを同一に設定するとよい。
【0035】
一方、前記パラメータを変更することで、荷電粒子が薄膜31内に留まる際の深度や濃度分布を制御することもできる。例えば、膜厚の薄い薄膜31ほど、加速電圧、または打ち込み角度、または照射密度を小さく設定することで、薄膜31内に荷電粒子を確実に留めるように制御できる。
【0036】
なお、薄膜31の配向性および荷電粒子の打ち込み角度によっては、チャネリング効果によって荷電粒子がたまたま深く打ち込まれてしまう場合が有り得る。そのような場合、測定装置20(第二工程)での測定精度が低下するおそれがある。
【0037】
そこで、荷電粒子の照射は、例えばコンピューター22によるターンテーブル40の回転制御によって、薄膜31を水平面内で回転させながら行なうこともできる。あるいは、付加的又は代替的に、荷電ビームの軸を回転させながら前記照射を行なうこともできる。つまり、荷電ビームの照射面が薄膜31に対して相対的に回転する状態であればよい。これにより、前記のような薄膜31の配向性に起因する測定精度の低下を抑制することができる。
【0038】
照射装置10によって薄膜31に照射された荷電粒子は、薄膜31を組成する原子との衝突を繰り返し、最終的にエネルギーを失って静止する。薄膜31に打ち込まれた荷電粒子が薄膜31内に留まる深さは、薄膜31の物性、例えば密度に依存して変化する。
【0039】
測定装置20は、上述のように照射装置10によって薄膜31に打ち込まれた荷電粒子が薄膜31内に留まる深さが薄膜31の密度に依存して変化すること利用して、薄膜31の物性を分析(測定)する。例えば、測定装置20は、検出器21及びコンピューター22を用いて、薄膜31に対して表面分析を実施して照射装置20(第一工程)によって薄膜31に打ち込まれた荷電粒子に由来する信号を測定する。
【0040】
前記表面分析には、イオンや、電子、光子(X線やレーザー等の電磁波)をプローブの一例として試料(薄膜31)に照射することで、当該試料から放出されるイオンや、電子、光子を検出、分析する方法を用いることができる。例えば、プローブの照射により試料から放出されるイオンや、電子、光子を検出器21にて検出し、その検出信号をコンピューター22に入力して解析することができる。
【0041】
測定装置20(第二工程)で用いることのできる表面分析方法の種類を例示すると、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)、AES(オージェ電子分光分析)、XPS(X線光電子分光法)、EPMA(電子プローブマイクロアナリシス)、などが挙げられる。
【0042】
TOF−SIMSは、試料にパルスイオンビームをプローブとして照射し、これによって放出される試料を組成する元素または分子のうちイオン化しているものについて、検出器21の一例としての飛行時間型分離器にて分離して、当該元素および分子の種類に関する情報を得る手法である。TOF−SIMSによって分析可能な深度(分析深度)は試料の最表面〜2ナノメートル(nm)程度であり、分析可能な面積(分析面積)は1μm×1μm〜500μm×500μm程度である。
【0043】
AESは、試料に電子線をプローブとして照射し、試料を組成する元素から放出されるオージェ電子を検出器21にて検出し、そのエネルギー分布を測定することで、試料を組成する元素の種類、存在量に関する情報を得る手法である。AESによる分析深度は試料の最表面〜5nm程度であり、分析面積は50nm×50nm〜100μm×100μm程度である。
【0044】
XPSは、試料にX線をプローブとして照射し、試料を組成する元素から放出される光電子を検出器21にて検出し、そのエネルギー分布を測定することで、試料を組成する元素の種類、存在量、化学結合状態に関する情報を得る手法である。XPSによる分析深度は試料の最表面〜5nm程度であり、分析面積は50μm×50μm〜10mm×10mm程度である。
【0045】
EPMAは、試料に電子線をプローブとして照射し、試料を組成する元素から放射される特性X線を波長分散型の検出器21にて分離して、試料を組成する元素の種類、存在量に関する情報を得る手法である。EPMAによる分析深度は最表面〜1μm程度であり、分析面積は1μm×1μm〜1mm×1mm程度である。
【0046】
これらの分析手法は、分析深度が他の分析手法に比べて浅いことから、測定装置20(第二工程)に適している。分析手法は、上記のいずれか1つを選んでもよいし、いずれか2以上を併用してもよい。その際、薄膜31の膜厚や組成に応じて適切な分析手法を選定するとよい。
【0047】
例えば、分析深度の異なる2以上の分析手法(異なる分析手法に対応する検出器21)を用いることで、薄膜31に打ち込まれた荷電粒子が異なる分析深度の間に存在することを検出することも可能である。また、XPSのように分析深度を動的に変更可能な分析手法を用いる場合には、同じ分析手法(検出器21)で複数回の分析(検出)を行なうことで、同等の検出が可能である。
【0048】
以下、表面組成分析手法の一例としてTOF−SIMSを用いた場合の実施例を示す。
第一工程で照射する荷電粒子の一例としてはGa+イオンを用い、Ga+イオンビームの加速電圧は15kV、照射面積は100μm×100μm、照射イオン密度は前記静止条件を満足する8E10[ions/cm2]にそれぞれ設定した場合について例示する。
【0049】
図2に、四種類の薄膜セラミック前駆体についてTOF−SIMSを用いて、Ga+イオンに由来する信号の測定を行なった結果例を示す。
【0050】
薄膜セラミック前駆体には、異なる焼成温度T1,T2,T3,T4の4試料を用い、各焼成温度には、T1<T2<T3<T4の関係がある。用いたセラミック前駆体は、例示的に、厚さ数百nm程度の薄膜であって、有機金属錯体を原料として成膜されている。焼成温度がT4の試料は焼結した硬質セラミック試料であり、T4よりも低い焼成温度T1,T2,T3の各試料には有機成分が残留している。
【0051】
高温焼成では金属酸化物が焼結体となって結晶を形成するが、低温焼成では残留有機成分が存在し相対的に低密度となる。そのため、Ga+イオンは、焼成温度が低くて密度の低い試料ほど深く打ち込まれやすくなる。
【0052】
したがって、図2に例示するように、TOF−SIMSによってGa+イオンに由来して測定される信号(Ga+イオン検出量)は、試料の焼成温度に依存して変化する。すなわち、Ga+イオン検出量は、試料の密度が比較的小さくGa+イオンの打ち込みが深い場合、相対的に小さな値となり、逆に、試料の密度が比較的大きくGa+イオンの打ち込みが浅い場合、相対的に大きな値となる。
【0053】
本例の薄膜測定方法では、このように同一又は類似の組成物(薄膜)の密度の相対比較が可能となる。なお、密度の絶対値を求めたい場合は、密度が既知であってかつ測定対象と同一の材質の試料をいくつか用意し、この密度が既知の試料に対して本例の薄膜測定方法を適用して、第二工程の信号検出量と密度との相関関係(例えば校正曲線)を求める。
【0054】
そして、密度が不明な試料に対して本例の薄膜測定方法を適用し、これにより得られた第二工程の信号検出量を前記相関関係と照合することで、密度の絶対値を得ることができる。
【0055】
具体例を示すと、まず、異なる既知の密度のサンプル薄膜(例えばセラミックス膜)を複数用意する。なお、焼成温度などの製造レシピが少しでも異なれば各セラミックス膜の密度も異なる。この密度は、一般の測定方法Xを用いて測定することができる。
【0056】
次に、各セラミック膜のそれぞれについて本例の薄膜測定方法を適用する。すなわち、照射装置10によってセラミック膜に打ち込んだ荷電粒子に由来する信号(例えば強度値)を、測定装置20によって測定し、その測定結果と前記既知の密度との相関関係を求める。得られた相関関係は、例えばテーブル形式のデータ等としてコンピューター22のメモリ等に記憶しておくことができる。
【0057】
そして、密度の不明なセラミックス膜を測定する際には、本例の薄膜測定方法を適用し、照射装置10によって打ち込んだ荷電粒子に由来する信号を測定装置20によって測定する。コンピューター22は、その測定結果を基に前記記憶した相関関係を参照することで、密度を求める。その際、必要に応じて平均値補完などのデータ補完を行なってもよい。
【0058】
以上のように、本例の薄膜測定方法によれば、荷電した原子(イオン)を薄膜に打ち込んで、前記原子に由来する信号を測定するので、圧子押し込み評価法におけるような圧子を用いずに(薄膜に機械的な力を加えずに)、密度(硬さ)等の薄膜の物性に関する測定(評価)を精度良く行なえる。
【0059】
また、圧子を用いない(薄膜に機械的な力が加わらない)ので、薄膜31を変形させてしまったり損傷させてしまったりすることも抑制できる。さらに、圧子を用いないので、圧子の磨耗劣化による測定精度の低下を回避することもできる。
【0060】
また、荷電した原子の打ち込みを用いることで、薄膜31上の測定領域が圧子押し込み法のように機械的な力の作用する領域に制約されないので、測定領域を自由に設定することも可能である。
【0061】
さらに、基体30上に形成された薄膜31の密度等の物性を測定(評価)する場合でも、基体30から薄膜31のみを取り出さなくても、基体30の機械的特性に影響されずに、薄膜(例えば100nm以下の膜厚の薄膜)そのものの密度を精度良く測定できる。
【0062】
また、測定装置20(第二工程)で用いるプローブの選択肢として、イオンビーム、電子線、X線等があり、これらのうち、例えばナノメートルあるいはサブミクロンスケールの空間分解能をもつ電子線あるいはイオンビームを用いることで、薄膜31の局所的な測定が可能である。一方、より大きなスケールの空間分解能をもつX線をプローブに用いることで、広い領域での平均化した測定が可能である。
【0063】
つまり、プローブの選択に応じて、測定対象とする薄膜31の面積のレンジを広く(自由に)設定できる。例えば、薄膜31に対して多点測定を行ないたい場合、プローブにX線を用いて測定面積を広く設定する。これによれば、圧子を多数回薄膜31に押し込んで多数回にわたって測定するような操作を不要にでき、多点測定を容易に、また、短時間に行なうことが可能になる。
【0064】
なお、図3に例示するように、測定装置20(第二工程)において、プローブは例えばコンピューター22の制御によって走査してもよい。この場合、コンピューター22は、当該プローブの走査の過程で検出器21によりそれぞれ得られた、荷電粒子に由来する信号の各測定結果を基に、薄膜31の面内強度分布を求めることが可能となる。
【0065】
図3には、求めた面内強度分布の画像がコンピューター22から出力された状態(出力先は表示装置でもよいし印刷装置でもよい)を例示している。この場合、強度の高低(多少)が濃淡により表現されており、高い強度を示す領域ほど密度が高いことを示している。したがって、図3の例では、薄膜31に部分的に密度の低い部分が生じていることを確認できる。このように面内強度分布を得ることによって、例えば薄膜31において密度の異なる領域を同定することができ、材料劣化の解析を行なうことも可能となる。
【符号の説明】
【0066】
10…照射装置、20…測定装置、21…検出器、22…コンピューター(情報処理装置)、30…基体、31…薄膜、40…台(ターンテーブル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜に原子を打ち込む第一工程と、
前記薄膜に打ち込まれた原子に由来する信号を測定する第二工程と、
を有することを特徴とする、薄膜測定方法。
【請求項2】
前記第二工程での測定結果に基づいて、前記薄膜の密度を求める第三工程をさらに有することを特徴とする、請求項1記載の薄膜測定方法。
【請求項3】
前記第三工程において、前記薄膜の密度は前記信号の強度と既知の異なる密度との相関関係を基に求められるものであり、前記相間関係が前記既知の異なる密度を有する複数の薄膜サンプルを基に予め求められるものである、ことを特徴とする、請求項2記載の薄膜測定方法。
【請求項4】
前記原子は、前記薄膜を組成する成分に含まれる原子とは異なる種類の原子であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜測定方法。
【請求項5】
前記第一工程での前記原子の打ち込みは、荷電した原子のビームを前記薄膜に照射することで行なう、ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄膜測定方法。
【請求項6】
前記第一工程での前記原子の打ち込みは、前記原子によるスパッタリングエッチングの発生を抑制可能な条件下で行なう、ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の薄膜測定方法。
【請求項7】
前記ビームの照射は、前記薄膜上の照射面が前記薄膜に対して相対的に回転する状態で行なう、ことを特徴とする、請求項5記載の薄膜測定方法。
【請求項8】
前記第一工程での前記原子の打ち込みは、前記薄膜に対して斜め方向から行なうことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の薄膜測定方法。
【請求項9】
前記第二工程での前記測定は、前記原子に由来する信号に関して異なる検出深度を有する複数の検出器のそれぞれを用いて前記信号を検出することを含む、ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の薄膜測定方法。
【請求項10】
前記第2工程での前記測定は、前記原子に由来する信号の検出深度が可変の検出器を用いて前記信号を異なる検出深度で複数回検出することを含む、ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の薄膜測定方法。
【請求項11】
前記薄膜は、基体の表面に形成されていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の薄膜測定方法。
【請求項12】
薄膜に原子を打ち込む装置と、
前記薄膜に打ち込まれた原子に由来する信号を測定する装置と、
をそなえたことを特徴とする、薄膜測定システム。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−164466(P2010−164466A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7691(P2009−7691)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】