説明

薄膜磁気デバイスおよびその製造方法

【課題】高周波領域での透磁率を簡易に向上させることが可能な薄膜磁気デバイスを提供する。
【解決手段】下部磁性膜11および上部磁性膜14の表面または裏面のうちの少なくとも一方側に、コイル13の延在方向(例えば、第2のコイルパターンの延在方向であるY軸方向)に沿って延在するキズ状溝16,17を形成する。キズ状溝16,17の形成領域(下部磁性膜11B,11Dおよび上部磁性膜14B,14Dの形成領域)において、異方性磁化Mb,Mdの磁化方向が制御され、異方性磁化Mb,Mdの磁化方向の変位(回転)がキズ状溝16,17によってピン止めされる。したがって、高周波領域でもある程度の透磁率が維持される。また、このようなキズ状溝16,17の形成によって、製造工程が複雑化することはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜コイルと磁性膜とを備えた薄膜磁気デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種用途の電子機器分野において、集積化受動部品として、薄膜コイルおよび磁性膜を含んで構成される薄膜インダクタや薄膜トランスなどの薄膜磁気デバイスが広く利用されている。
【0003】
図30は、矩形状のスパイラルコイルにより構成された従来の薄膜磁気デバイス(薄膜インダクタ101)の一例を表したものであり、図30(A)は平面構成を、図30(B)は図30(A)に示したV−V部分の矢視断面構成を、それぞれ表している。この薄膜インダクタ101では、基板100上に、中央部分に開口105Aを有する下部磁性膜104A、絶縁膜102、端子103T1,103T2を有する矩形状のスパイラルコイル103、および中央部分に開口105Bを有する上部磁性膜104Bがこの順にZ軸方向に積層された積層構造をなしている。また、下部磁性膜104Aおよび上部磁性膜104Bは、成膜時などにX軸方向に所定の磁場が印加されることにより、この磁場印加方向(X軸方向)に磁場容易軸Meが形成される一方、これと直交する方向(Y軸方向)に磁場困難軸Mhが形成され、一軸異方性を示すようになっている。
【0004】
ところで、近年ではこのような薄膜磁気デバイスにおいて、GHz(ギガ・ヘルツ)帯域等での高周波用途が期待され、高周波特性の良好な磁性膜、具体的には高周波領域において高い透磁率を示す磁性膜が求められている。
【0005】
例えば、図30に示したような従来の薄膜磁気デバイスでは、薄膜コイルが矩形状のスパイラルコイルであるため、X軸方向およびY軸方向に延在するコイルパターンがそれぞれ存在し、磁化容易軸Meに沿ったものと、磁化困難軸Mhに沿ったものとが混在している。そのため、コイルによって生成される磁化方向が磁化容易軸Meと直交するコイルパターン(X軸方向のもの)については、もともと低周波領域での透磁率が低いものの、高周波領域まである程度の透磁率を維持できる一方、磁化方向が磁化容易軸Meと平行するコイルパターン(Y軸方向のもの)については、低周波領域での透磁率が高いものの、高周波領域では透磁率が急激に低下してしまうことになる。よって、磁性膜の磁気特性利用効率が悪く(正方形状のスパイラルコイルの場合、約50%となる)、高周波領域において高い透磁率を示すことが困難であった。
【0006】
そこで、高周波領域での透磁率を向上させるため、例えば特許文献1〜3に示したような薄膜磁気デバイスが提案されている。このうち、特許文献1には、矩形状のスパイラルコイルが構成する2方向のコイルパターンにそれぞれ対応させ、磁性膜の形状磁気異方性を利用して磁化容易軸方向がそれぞれ異なることとなるようにしたものが開示されている。具体的には、2方向のコイルパターンに対応して別個に磁場中で磁性膜を形成することにより、両方向のコイルパターンともに磁化容易軸と直交するようにし、高周波領域での透磁率向上を図ったものである。
【0007】
また、特許文献2には、矩形状のスパイラルコイルのコイルパターンに対応して周回する微細なスリットを形成することにより、磁性膜の磁化容易軸方向を回転させるようにしたものが開示されている。これも上記特許文献1と同様に、両方向のコイルパターンを磁化容易軸と直交させることにより、高周波領域での透磁率向上を図ったものである。
【0008】
【特許文献1】特開平8−172015号公報
【特許文献2】特開2001−143929号公報
【特許文献3】特開平11−87125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1,2に示された薄膜磁気デバイスでは、コイルパターンに対応して磁性膜の成膜回数が増えてしまったり、コイルパターンに対応した微細なスリットを形成する必要が生じるため、製造工程が複雑化してしまうことになる。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、高周波領域での透磁率を簡易に向上させることが可能な薄膜磁気デバイスおよび薄膜磁気デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の薄膜磁気デバイスは、薄膜コイルと、この薄膜コイルの延在面の上方および下方のうちの少なくとも一方側に積層されると共にこの積層面内において異方性磁化を有する磁性膜とを備え、この磁性膜の表面および裏面のうちの少なくとも一方側に、薄膜コイルの延在方向に沿って延在するキズ状溝が形成されているようにしたものである。ここで、「キズ状溝」とは、意図的に形成したキズ状の溝を意味するものである。
【0012】
本発明の薄膜磁気デバイスでは、磁性膜の表面および裏面のうちの少なくとも一方側に薄膜コイルの延在方向に沿って延在するキズ状溝が形成されているため、このキズ状溝の形成領域において、磁性膜が有する異方性磁化の磁化方向が制御される。すなわち、例えば積層面内においてコイルの延在方向に直交する方向に磁場を印加したような場合であっても、異方性磁化の磁化方向の変位(回転)が上記キズ状溝によってピン止めされるため、異方性磁化の磁化方向の変位が、磁場印加方向にまでは至らなくなる。よって、高周波領域でもある程度の透磁率が維持される。また、このようなキズ状溝の形成によって、製造工程が複雑化することはない。
【0013】
本発明の薄膜磁気デバイスでは、上記薄膜コイルの延在領域をその巻回方向に沿って分割してなる4つの分割領域が、互いに対向すると共にキズ状溝が形成されていない磁性膜が存在する第1の一対の分割領域と、互いに対向すると共にキズ状溝が形成されている磁性膜が存在する第2の一対の分割領域とから構成されているようにすることが可能である。このように構成した場合、第2の一対の分割領域に存在する磁性膜において、異方性磁化の磁化方向が制御され、高周波領域における透磁率がある程度維持される。なお、上記4つの分割領域に存在する磁性膜にそれぞれ、キズ状溝を形成するようにしてもよい。
【0014】
本発明の薄膜磁気デバイスでは、上記第1の一対の分割領域に存在する磁性膜における異方性磁化の方向と、上記第2の一対の分割領域に存在する磁性膜におけるキズ状溝の延在方向とが互いに直交しているように構成することが可能であり、さらに、上記第2の一対の分割領域に存在する磁性膜において、異方性磁化の方向とキズ状溝の延在方向とが互いに鋭角をなしているように構成可能である。
【0015】
本発明の薄膜磁気デバイスでは、上記第1の一対の分割領域に存在する磁性膜の裏面側にのみ、非磁性膜が形成されているようにしてもよく、また、上記第2の一対の分割領域に存在する磁性膜の裏面側にのみ、キズ状溝の形成パターンに対応する形状のキズ状溝が表面に形成されたダミー層が形成されているようにしてもよい。
【0016】
本発明の薄膜磁気デバイスでは、上記キズ状溝が不連続に形成されているのが好ましい。このように構成した場合、連続的に形成された場合と比べて磁性膜の体積の減少が抑えられる。言い換えると、連続的に形成された場合と比べて磁性膜の体積が増加するため、薄膜磁気デバイスの磁気特性がより向上する(例えば、薄膜インダクタの場合、インダクタンスがより高まる)。また、この場合において、上記キズ状溝が、薄膜コイルの延在方向に沿って断続的に複数列形成されると共に隣り合う列同士で互いに千鳥状に配列されているようにするのがより好ましい。このように構成した場合、磁性膜の体積の減少がより抑えられるため、薄膜磁気デバイスの磁気特性がさらに向上する。
【0017】
本発明の薄膜磁気デバイスでは、上記磁性膜において、キズ状溝が形成されている側の面の表面粗さとこの磁性膜の厚みとの比率を0.02以上とするのが好ましく、0.04以上とするのがより好ましい。このように構成した場合、キズ状溝の形成領域において、磁性膜における異方性磁化の磁化方向の制御が容易となる。
【0018】
本発明の薄膜磁気デバイスの製造方法は、基板上に薄膜コイルを形成する第1の工程と、この薄膜コイルの延在面の上方および下方のうちの少なくとも一方側に、表面および裏面のうちの少なくとも一方側に薄膜コイルの延在方向に沿って延在するキズ状溝を有する磁性膜を形成する第2の工程と、この磁性膜の積層面内の所定方向に磁場を印加しつつ熱処理を行う第3の工程とを含むようにしたものである。
【0019】
本発明の薄膜磁気デバイスの製造方法では、表面および裏面のうちの少なくとも一方側に薄膜コイルの延在方向に沿って延在するキズ状溝を有する磁性膜が形成されたのち、磁性膜の積層面内の所定方向に磁場を印加しつつ熱処理がなされるため、キズ状溝の形成領域において、磁性膜が有する異方性磁化の磁化方向が制御される。すなわち、磁場の印加方向がコイルの延在方向に直交するような場合であっても、異方性磁化の磁化方向の変位(回転)が上記キズ状溝によってピン止めされるため、異方性磁化の磁化方向の変位が、磁場印加方向にまでは至らなくなる。よって、高周波領域でもある程度の透磁率が維持される。また、このようなキズ状溝の形成によって、製造工程が複雑化することはない。
【0020】
本発明の薄膜磁気デバイスの製造方法では、上記第2の工程が、薄膜コイルの延在面の上方および下方のうちの少なくとも一方側に磁性膜を形成する工程と、この磁性膜の表面に上記キズ状溝を形成する工程とを含むようにすることが可能である。このように構成した場合、磁性膜の表面に直接的にキズ状溝が形成される。なお、この場合において、磁性膜の表面を研磨することによって上記キズ状溝を形成することが可能である。
【0021】
本発明の薄膜磁気デバイスの製造方法では、上記第2の工程が、基板の表面またはその上層に薄膜コイルの延在方向に沿って延在するキズ状溝を形成する工程と、薄膜コイルの延在面の上方および下方のうちの少なくとも一方側において上記キズ状溝の形成面上に磁性膜を形成する工程とを含むようにすることが可能である。このように構成した場合、磁性膜の裏面側にも間接的に、上記キズ状溝の形成パターンに対応したキズ状溝が形成される。なお、この場合において、基板の表面またはその上層を研磨することによって上記キズ状溝を形成することが可能である。また、上記キズ状溝を形成する工程が、基板の表面またはその上層に樹脂膜を形成する工程と、この樹脂膜の表面に、キズ状溝の形成パターンに対応する形状の表面を有するナノスタンパを押し当てることにより樹脂膜の表面にキズ状溝を形成する工程とを含むようにしてもよい。
【0022】
本発明の薄膜磁気デバイスの製造方法では、上記磁性膜を形成する工程の後から上記第3の工程の前までの間に、磁性膜の積層面内における第3の工程での磁場印加方向とは直交する方向に沿って磁場を印加しつつ熱処理を行う工程をさらに含むようにするのが好ましい。また、上記磁性膜を形成する工程において、磁性膜の積層面内における第3の工程での磁場印加方向とは直交する方向に沿って磁場を印加しつつ磁性膜を形成するようにするのが好ましい。これらのように構成した場合、第3の工程での磁場印加方向と直交する方向に予め異方性磁化の磁化方向が向いていることになるため、異方性磁化の変位に対するピン止め作用がより強まり、これにより高周波領域での透磁率もより向上する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の薄膜磁気デバイスによれば、磁性膜の表面および裏面のうちの少なくとも一方側に、薄膜コイルの延在方向に沿って延在するキズ状溝を形成するようにしたので、このキズ状溝の形成領域において磁性膜が有する異方性磁化の磁化方向を制御することができ、異方性磁化の磁化方向の変位(回転)をキズ状溝によってピン止めすることができる。したがって、高周波領域でもある程度の透磁率を維持することができる。また、このようなキズ状溝の形成によって、製造工程が複雑化することはない。よって、高周波領域での透磁率を簡易に向上させることが可能となる。
【0024】
また、本発明の薄膜磁気デバイスの製造方法によれば、表面および裏面のうちの少なくとも一方側に薄膜コイルの延在方向に沿って延在するキズ状溝を有する磁性膜を形成したのち、磁性膜の積層面内の所定方向に磁場を印加しつつ熱処理を行うようにしたので、キズ状溝の形成領域において磁性膜が有する異方性磁化の磁化方向を制御することができ、異方性磁化の磁化方向の変位(回転)をキズ状溝によってピン止めすることができる。また、このようなキズ状溝の形成によって、製造工程が複雑化することはない。よって、高周波領域での透磁率を簡易に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、単に実施の形態という。)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
[第1の実施の形態]
図1および図2は、本発明の第1の実施の形態に係る薄膜磁気デバイスとしての薄膜インダクタ1の構成を表しており、図1はX−Y平面構成を、図2は図1に示したII−II線に沿ったX−Z断面構成を表している。この薄膜インダクタ1は、基板10上に、下部磁性膜11、絶縁膜12、薄膜状のコイル13、および上部磁性膜14がこの順に形成された積層構造を有している。
【0027】
基板10は、薄膜インダクタ1全体を支持ずる矩形状の基板であり、例えば、ガラス、シリコン(Si)、酸化アルミニウム(Al;いわゆるアルミナ)、セラミックス、半導体または樹脂などにより構成される。ただし、必ずしも上記した一連の材料に限らず、自由に選定可能である。この基板10の表面の一部(後述する下部磁性膜11B,11Dの延在領域に対応する部分)には、後述するコイル13の延在方向に沿って延在するキズ状溝16が形成されている。
【0028】
絶縁膜12は、コイル13を周辺から電気的に絶縁するものであり、例えば、酸化ケイ素(SiO)などの絶縁性材料により構成される。この絶縁膜12の表面の一部(後述する上部磁性膜14B,14Dの延在領域に対応する部分)にも、後述するコイル13の延在方向に沿って延在するキズ状溝17が形成されている。
【0029】
コイル13は、一端(13T1)と他端(13T2)との間にインダクタを構成するものであり、例えば銅(Cu)などの導電性材料により構成される。このコイル13は、X−Y平面内で端子13T1,13T2がいずれも外部へ導出されるように巻回された矩形状のスパイラル型構造となっており、X軸方向に沿って延在するコイルパターン(第1のコイルパターン)と、Y軸方向に沿って延在するコイルパターン(第2のコイルパターン)とを有している。これにより、コイル13の延在領域は、互いに対向すると共に第1のコイルパターンが延在する一対の分割領域(第1の一対の分割領域)と、互いに対向すると共に第2のコイルパターンが延在する一対の分割領域(第2の一対の分割領域)とからなる4つの分割領域により構成されている。なお、コイル13のうちの端子13T2に通じる部分は、コイル13のうちの端子13T1に通じる部分を含む巻回部分と接触せずに外部に導かれるように、その巻回部分よりも下層に配置されている。
【0030】
下部磁性膜11および上部磁性膜14は、薄膜インダクタ1のインダクタンスを高めるためのものであり、それぞれ中央部に矩形状の開口15A,15Bを有している。下部磁性膜11は、絶縁膜12の下層、すなわち基板10と絶縁膜12との間に形成され、上部磁性膜14は、絶縁膜12の上層(絶縁膜12上)に形成されている。これら下部磁性膜11および上部磁性膜14は、例えば、コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)系合金またはニッケル鉄合金(NiFe;いわゆるパーマロイ)などの磁性材料により構成される。このうち、コバルト系合金としては、例えば、薄膜インダクタ1の実用上の観点から、コバルトジルコニウムタンタル(CoZrTa)系合金またはコバルトジルコニウムニオブ(CoZrNb)系合金などが好ましい。なお、開口15A,15Bの形状は矩形状には限らず、任意の形状とすることができる。
【0031】
下部磁性膜11および上部磁性膜14は、上記したコイル13の延在領域をその巻回方向に沿って分割してなる4つの分割領域に対応して存在する4つの下部磁性膜11A〜11Dおよび4つの上部磁性膜14A〜14Dにより構成されている。詳細は後述するが、これら下部磁性膜11A〜11Dおよび上部磁性膜14A〜14Dはそれぞれ、積層面(X−Y平面)内において異方性磁化(後述する異方性磁化Ma〜Md)を有している。下部磁性膜11A〜11Dのうちの下部磁性膜11B,11Dの裏面には、基板10上にキズ状溝16が形成されていることにより、間接的にキズ状溝16の形成パターンに対応した形状のキズ状溝が形成されている。同様に、上部磁性膜14A〜14Dのうちの上部磁性膜14B,14Dの裏面には、絶縁膜12上にキズ状溝17が形成されていることにより、間接的にキズ状溝17の形成パターンに対応した形状のキズ状溝が形成されている。
【0032】
次に、図3〜図10を参照して、本実施の形態の薄膜インダクタ1の製造方法の一例について説明する。ここで図3〜図9は、薄膜インダクタ1の製造方法の一例を表したものであり、図3および図6はX−Z断面構成を、図4,図5,図7〜図9はX−Y平面構成を、それぞれ表している。なお、X−Y平面構成ではコイル13の図示を省略し、簡略化して表している。
【0033】
まず、図3に示したように、前述した材料よりなる基板10上に、開口15Aを有すると共に裏面側にキズ状溝16を有する下部磁性膜11を形成する。
【0034】
具体的には、まず、図4(A)に示したように、基板10の表面を例えば研磨することにより、この基板10の表面に、コイル13のうちの第2のコイルパターンの延在方向(Y軸方向)に沿って延在することとなるキズ状溝16を一様に形成する。この際、キズ状溝16における溝の幅は、例えば5〜20μm程度とし、溝の深さは、例えば0.2〜0.4μm程度とする。
【0035】
続いて、図4(B)に示したように、キズ状溝16が形成された基板10上に、例えば厚みが500nm程度のポリイミド膜18を一様に形成する。なお、このポリイミド膜18が、本発明における「非磁性膜」の一具体例に対応する。したがって、ポリイミド層18の代わりに、他の非磁性膜を形成してもよい。
【0036】
続いて、図5(A)に示したように、ポリイミド層18を、例えばフォトグラフィー法を用いてパターニングし、第2のコイルパターンが延在することとなる一対の分割領域(第2の一対の分割領域)のみ、ポリイミド膜18を除去する。したがって、この第2の一対の分割領域にのみキズ状溝16が形成された基板10が露出することになると共に、第1の一対の分割領域に存在する下部磁性膜11(具体的には、下部磁性膜11A,11C)の裏面側にのみ、非磁性膜であるポリイミド膜18が形成されていることになる。
【0037】
続いて、図5(B)に示したように、基板10およびポリイミド膜18の上に、前述した材料よりなる下部磁性膜11を、例えばスパッタリング法やめっき法により一様に形成する。この際、下部磁性膜11の厚みは、例えば5〜15μm程度に設定する。そして図5(C)に示したように、所定のエッチング材料を用いて下部磁性膜11のエッチングを行い、開口15Aを形成する。これにより、図3に示した断面構造が形成される。
【0038】
次に、図6に示したように、基板10および下部磁性膜11の上に、前述した材料よりなる絶縁膜12およびコイル13を形成する。絶縁膜12の形成は、例えばスパッタリング法により行い、コイル13の形成は、例えばめっき法により行う。また、図6のようにコイル13が絶縁膜12中に埋設されるようにするため、例えば、絶縁膜12を上部と下部とに分割形成しつつコイル13を形成する。
【0039】
次に、図3〜図5を用いて説明した工程と同様にして、図1および図2に示したように、絶縁膜12上に、開口15Bを有すると共に裏面側にキズ状溝17を有する上部磁性膜14を形成する。具体的には、絶縁膜12の表面を例えば研磨することにより、この絶縁膜12の表面に、コイル13のうちの第2のコイルパターンの延在方向(Y軸方向)に沿って延在するキズ状溝17を一様に形成する。この際、キズ状溝17における溝の幅も、例えば5〜20μm程度とし、溝の深さも、例えば0.2〜0.4μm程度とする。また、図4および図5に示したのと同様に、絶縁膜12上に非磁性膜であるポリイミド膜等(図示せず)を形成したのちに、第2のコイルパターンが延在する一対の分割領域(第2の一対の分割領域)のみ、ポリイミド膜等を除去する。したがって、第2の一対の分割領域にのみキズ状溝17が形成された絶縁膜12が露出することになると共に、第1の一対の分割領域に存在する上部磁性膜14(具体的には、上部磁性膜14A,14C)の裏面側にのみ、非磁性膜であるポリイミド膜等が形成されていることになる。
【0040】
次に、図7(A)に示したように、下部磁性膜11および上部磁性膜14の積層面(X−Y平面)内で固定磁場H1を印加しつつ、熱処理を行う。その際、固定磁場H1の印加方向は、コイル13のうちの第2のコイルパターンの延在方向およびキズ状溝16,17の延在方向と略平行方向、すなわちこの場合はY軸方向となるようにする。また、固定磁場H1の大きさは例えば300×10/4π[A/m](=300Oe)程度とし、熱処理温度は例えば330℃程度とし、熱処理時間は例えば1時間程度とする。すると図7(B)に示したように、下部磁性膜11A〜11Dおよび上部磁性膜14A〜14Dにおいて、それぞれの異方性磁化Ma〜Mdの磁化方向が固定磁場H1の印加方向(Y軸方向)に沿うようになり、これにより下部磁性膜11および上部磁性膜14がY軸方向に沿った一軸異方性を示す(Y軸方向に沿って磁化容易軸を有する)ようになる。
【0041】
次に、図8に示したように、下部磁性膜11および上部磁性膜14の積層面(X−Y平面)内で固定磁場H2を印加しつつ、熱処理を行う。その際、固定磁場H2の印加方向は、コイル13のうちの第1のコイルパターンの延在方向と略平行方向およびキズ状溝16,17の延在方向と略直交方向、すなわちこの場合は固定磁場H1の印加方向(Y軸方向)とは直交する方向であるX軸方向となるようにする。また、固定磁場H2の大きさは例えば300×10/4π[A/m](=300Oe)程度とし、熱処理温度は例えば330℃程度とし、熱処理時間は例えば1時間程度とする。すると、図9に示したように、キズ状溝16,17が形成されていない領域の磁性膜(下部磁性膜11A,11Cおよび上部磁性膜14A,14C)では、異方性磁化Ma,Mcの磁化方向が、それぞれ固定磁場H2の印加方向(X軸方向)に変位(回転)する一方、キズ状溝16,17が形成されている領域の磁性膜(下部磁性膜11B,11Dおよび上部磁性膜14B,14D)では、異方性磁化Mb,Mdの磁化方向が制御される。すなわち、異方性磁化Mb,Mdの磁化方向の変位(回転)がキズ状溝16,17によってピン止めされ、これにより異方性磁化Mb,Mdの磁化方向の変位(回転)が、固定磁場H2の印加方向(X軸方向)にまでは至らなくなる。
【0042】
具体的には、例えば図10(A)に示したように、キズ状溝16,17の延在方向と異方性磁化M1の磁化方向とが積層面内で略直交となっている場合や、キズ状溝16,17自体が形成されていない場合(下部磁性膜11A,11Cおよび上部磁性膜14A,14Cの場合)には、異方性磁化M1の磁化方向と積層面内で直交する方向に固定磁場H21を印加した場合、異方性磁化M1の磁化方向は、固定磁場H21の印加方向に変位(回転)する。一方、例えば図10(B)に示したように、キズ状溝16,17の延在方向と異方性磁化M2の磁化方向とが積層面内で略平行となっている場合(下部磁性膜11B,11Dおよび上部磁性膜14B,14Dの場合)には、異方性磁化M2の磁化方向と積層面内で直交する方向に固定磁場H22を印加した場合、異方性磁化M2の磁化方向の変位(回転)がキズ状溝16,17によってピン止めされ、これにより異方性磁化M2の磁化方向の変位(回転)が、固定磁場H22の印加方向にまでは至らなくなる。すなわち、異方性磁化M2の磁化方向とキズ状溝16,17の延在方向とが、互いに所定の角度θ(0°<θ<90°;鋭角)をなすようになる。このようにして、図1および図2に示した薄膜磁気デバイス1が製造される。
【0043】
なお、図10(A)および図10(B)で示した異方性磁化の変位(回転)については、より具体的には以下のように説明することができる。すなわち、上記のように磁場中の熱処理によって磁性膜の磁性原子の再配列が発生し、磁化容易軸(異方性磁化の磁化方向)を所望の方向に制御することができるが、この場合の磁性原子の移動速度は、表面自由エネルギーをγ、体積拡散係数をD、ボルツマン定数をk、磁性原子の体積をΩ、とすると、以下の(1)式で表される。そして磁性原子の易動度は移動速度に反比例するので、この場合の磁性原子の易動度Eは、比例定数をαとすると、以下の(2)式で表される。ここで、物体の表面には格子欠陥や微細な凹凸など、原子の移動を妨げるものが存在し、それらによって障壁エネルギーが形成される。したがって、例えば、図10(A)に示したように、キズ状溝16,17の延在方向と異方性磁化M1の磁化方向とが積層面内で略直交となっている場合や、キズ状溝16,17自体が形成されていない場合(下部磁性膜11A,11Cおよび上部磁性膜14A,14Cの場合)には、積層面内で直交する方向に固定磁場H21を印加すると、異方性磁化M1の磁化方向がキズ状溝16,17の延在方向と略平行となったほうがより安定となるため、異方性磁化M1の磁化方向は、固定磁場H21の印加方向に容易に変位(回転)する。一方、例えば図10(B)に示したように、キズ状溝16,17の延在方向と異方性磁化M2の磁化方向とが積層面内で略平行となっている場合(下部磁性膜11B,11Dおよび上部磁性膜14B,14Dの場合)には、異方性磁化M2の磁化方向と積層面内で直交する方向に固定磁場H22を印加すると、異方性磁化M2がそのまま固定磁場H22の印加方向に変位(回転)した場合には、キズ状溝16,17の凸部に異方性磁化M2が乗り上げることになるため、エネルギー的に不安定な状態となってしまう。このとき、キズ状溝16,17の延在方向と印加磁場の方向とがなす角度をφとすると、キズ状溝16,17の凸部の障壁によって磁性原子が乗り越えるエネルギーの大きさは、U(h/t)をポテンシャル障壁の大きさを表す(h/t)の関数、tを磁性膜の膜厚、hを凸部の高さとすると、以下の(3)式で表される。したがって、(2)式および(3)式により、異方性磁化M2は、以下の(4)式で表される条件式を満たす範囲で変位(回転)することになる。このようにして、前述のように異方性磁化M2の磁化方向の変位(回転)がキズ状溝16,17によってピン止めされ、これにより異方性磁化M2の磁化方向の変位(回転)が、固定磁場H22の印加方向にまでは至らなくなる。なお、キズ状溝16,17の凸部の間隔は、磁性原子によるドメインが十分にポテンシャルを感じることが必要であることから、磁壁の幅の(1/10)程度であることが望ましく、例えば、20μm以下が望ましい。
(原子の移動速度)=(2.5πγDΩ/kT) ……(1)
E=(αkT/γDΩ) ……(2)
(磁性原子が乗り越えるエネルギーの大きさ)=−U(h/t)×cosφ ……(3)
(αkT/γDΩ)>−U(h/t)×cosφ ……(4)
【0044】
なお、上記した薄膜インダクタ1の製造方法では、下部磁性膜11および上部磁性膜14を形成した後に固定磁場H1を印加しつつ熱処理を行うことにより、下部磁性膜11および上部磁性膜14が予めY軸方向に沿った一軸異方性を示す(Y軸方向に沿って磁化容易軸を有する)ようにしているが、例えばDCマグネトロンスパッタリング法を用いて固定磁場H1を印加しつつ下部磁性膜11および上部磁性膜14を形成することにより、下部磁性膜11および上部磁性膜14が予めY軸方向に沿った一軸異方性を示す(Y軸方向に沿って磁化容易軸を有する)ようにしてもよい。このように製造した場合にも、上記の場合と同様の薄膜インダクタ1を製造することができる。
【0045】
このようにして本実施の形態の薄膜インダクタ1では、下部磁性膜11および上部磁性膜14の裏面に、コイル13のうちの第2のコイルパターンの延在方向(Y軸方向)に沿って延在するキズ状溝16,17が形成されているため、これらキズ状溝16,17の形成領域(下部磁性膜11B,11Dおよび上部磁性膜14B,14Dの形成領域)において、異方性磁化Mb,Mdの磁化方向が制御される。すなわち、積層面(X−Y平面)内において第2のコイルパターンの延在方向に直交する方向(X軸方向)に固定磁場H2を印加した場合に、異方性磁化Mb,Mdの磁化方向の変位(回転)がキズ状溝16,17によってピン止めされるため、異方性磁化Mb,Mdの磁化方向の変位(回転)が、磁場印加方向(X軸方向)にまでは至らなくなる。したがって、異方性磁化Ma,Mcについては、例えば図11(A)および図11(B)に示したように、固定磁場H2による磁場中熱処理の前後で、X軸方向の透磁率の周波数特性G11とY軸方向の透磁率の周波数特性G12とが、図中の符号P1で示したように互いに入れ替わる一方、異方性磁化Mb,Mdについては、例えば図12(A)および図12(B)に示したように、固定磁場H2による磁場中熱処理の前後で、X軸方向の透磁率の周波数特性G21とY軸方向の透磁率の周波数特性G22とが、図中の符号P2,P3でそれぞれ示したように、互いに完全には入れ替わらず、変位の途中で維持される。したがって、そのようにX軸方向の透磁率の周波数特性G21とY軸方向の透磁率の周波数特性G22とが完全には入れ替わらないで維持される分、図11(A),(B)のように完全に入れ替わる場合と比べ、高周波領域での透磁率が維持され、向上する(例えば、50%程度向上)。また、このようなキズ状溝16,17の形成によって、製造工程が複雑化することはない。
【0046】
次に、図13,図14および表1を参照して、薄膜インダクタ1の磁気特性について詳細に説明する。ここで、図13(A)は、下部磁性膜11または上部磁性膜14の平面形態の一例を拡大して示す顕微鏡像であり、図13(B)は、図13(A)の一部を拡大して表した顕微鏡像であり、図13(C)は、図13(B)におけるIII−III部分の矢視断面構成を模式的に表したものである。また、図14および表1は、下部磁性膜11または上部磁性膜14におけるアスペクト比(=下部磁性膜11または上部磁性膜14における(表面粗さ/厚み)の比率)と異方性磁化Ma〜Mdに対するピン止め効果の有無との関係を表したものである。なお、図14および表1において、ピン止め効果の有無については、「0」が効果なし(異方性磁化Ma〜Mdに対する制御性なし)を、「0.5」がある程度効果あり(異方性磁化Ma〜Mdに対する制御性がややあり)を、「1」が効果あり(異方性磁化Ma〜Mdに対する制御性あり)を、それぞれ表している。
【0047】
【表1】

【0048】
まず、図13(A),(B)に示した顕微鏡像から、実際に下部磁性膜11または上部磁性膜14に、一方向に沿ったキズ状溝16,17が形成されていることが分かる。また、図13(C)に示した模式断面図から、キズ状溝16,17における溝の幅wが、実際に5〜20μm程度であり、溝の深さdが、実際に0.2〜0.4μm程度となっていることが分かる。
【0049】
また、図14および表1から、下部磁性膜11または上部磁性膜14におけるアスペクト比が大きくなると、具体的にはアスペクト比が0.02以上になると、異方性磁化Ma〜Mdに対するピン止め効果がある程度出現し、0.04以上になると完全に出現していることが分かる。これは、下部磁性膜11または上部磁性膜14における表面粗さの値が大きくなるほど、異方性磁化Ma〜Mdに対するピン止めをしやすくなるためだと考えられる。したがって、下部磁性膜11または上部磁性膜14におけるアスペクト比は、0.02以上であるのが好ましく、0.04以上であるのがより好ましい。
【0050】
以上のように、本実施の形態では、下部磁性膜11および上部磁性膜14の裏面に、コイル13のうちの第2のコイルパターンの延在方向(Y軸方向)に沿って延在するキズ状溝16,17を形成するようにしたので、これらキズ状溝16,17の形成領域(下部磁性膜11B,11Dおよび上部磁性膜14B,14Dの形成領域)において、異方性磁化Mb,Mdの磁化方向を制御することができ、異方性磁化Mb,Mdの磁化方向の変位(回転)をキズ状溝16,17によってピン止めすることができる。したがって、高周波領域でもある程度の透磁率を維持することができる。また、このようなキズ状溝16,17の形成によって、製造工程が複雑化することはない。よって、高周波領域での透磁率を簡易に向上させることが可能となる。
【0051】
また、このように異方性磁化をピン止めすることができるため、仮に薄膜インダクタを形成した後の工程において熱処理を行うような場合であっても、異方性磁化の磁化方向の変位を回避し、高周波領域での高い透時率を維持することが可能となる。
【0052】
さらに、下部磁性膜11または上部磁性膜14におけるアスペクト比を0.02以上(より好ましくは0.04以上)とした場合には、キズ状溝16,17の形成領域において、異方性磁化Mb,Mdの磁化方向の制御を容易にすることができる。
【0053】
なお、本実施の形態では、キズ状溝16,17が第2のコイルパターンの延在方向(Y軸方向)に沿って不連続に形成されている場合について説明したが、これらキズ状溝16,17が連続的に形成されているようにしてもよい。ただし、本実施の形態のように、キズ状溝16,17が不連続に形成されている場合には、連続的に形成された場合と比べ、下部磁性膜11や上部磁性膜14の体積の減少を抑えることができる。言い換えると、連続的となるように形成した場合と比べて下部磁性膜11や上部磁性膜14の体積を増加させることができるので、薄膜インダクタのインダクタンスをより向上させることが可能となる。なお、このことは、以下説明する第2および第3の実施の形態においても同様である。
【0054】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態の薄膜インダクタは、第1の実施の形態の薄膜インダクタ1とは異なる方法で製造したものである。なお、本実施の形態の薄膜インダクタの基本的な動作については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0055】
図15は、本実施の形態に係る薄膜インダクタ(薄膜インダクタ1A)のX−Z断面構成を表したものである。この図において、図2に示した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。この薄膜インダクタ1Aは、第2の一対の分割領域(下部磁性膜11A,11Cおよび上部磁性膜14A,14Cの形成領域)では、下部磁性膜11が一対の下部磁性膜111,112が積層された構成となっていると共に、上部磁性膜14も一対の上部磁性膜141,142が積層された構成となっている一方、第1の分割領域(下部磁性膜11B,11Dおよび上部磁性膜14B,14Dの形成領域)では、下部磁性膜11が下部磁性膜112のみにより構成されていると共に、上部磁性膜14も上部磁性膜142のみにより構成されている。また、下部磁性膜111および上部磁性膜141の表面には、それぞれキズ状溝16,17が第2のコイルパターンの延在方向(Y軸方向)に沿って形成され、これにより第2の一対の分割領域において、下部磁性膜112および上部磁性膜142の裏面側にも、間接的にキズ状溝16,17の形成パターンに対応した形状のキズ状溝が形成されるようになっている。なお、下部磁性膜111および上部磁性膜141が本発明における「ダミー層」の一具体例に対応する。したがって、このダミー層としては、磁性膜以外の他の膜で構成してもよい。
【0056】
次に、図16〜図18を参照して、本実施の形態の薄膜インダクタ1Aの製造方法の一例について説明する。ここで、図16〜図18は、薄膜インダクタ1Aの製造方法の一例を表したものであり、図16はX−Z断面構成を、図17,図18はX−Y平面構成を、それぞれ表している。なお、これらX−Y平面構成ではコイル13の図示を省略し、簡略化して表している。
【0057】
まず、図16に示したように、基板10上に、開口15Aを有すると共に第2の一対の分割領域においてキズ状溝16を有する下部磁性膜11を形成する。
【0058】
具体的には、まず、図17(A)に示したように、基板10上にダミー層とするための下部磁性膜111を、例えばスパッタリング法やめっき法により一様に形成する。この際、下部磁性膜111の厚みは、例えば500nm程度に設定する。そして図17(B)に示したように、この下部磁性膜111を、例えばフォトグラフィー法を用いてパターニングし、第2のコイルパターンが延在することとなる第2の一対の分割領域を除き、下部磁性膜111を除去する。
【0059】
続いて、図17(C)に示したように、下部磁性膜111の表面を選択的に例えば研磨することにより、この下部磁性膜111の表面に、コイル13のうちの第2のコイルパターンの延在方向(Y軸方向)に沿って延在することとなるキズ状溝16を一様に形成する。これにより、第2の一対の分割領域にのみ、キズ状溝16が形成されていることになる。なお、キズ状溝16における溝の幅は、例えば5〜20μm程度とし、溝の深さは、例えば0.2〜0.4μm程度とする。
【0060】
続いて、図18(A)に示したように、基板10およびキズ状溝16が形成された下部磁性膜111の上に、下部磁性膜112を、例えばスパッタリング法やめっき法により一様に形成する。これにより、第2の一対の分割領域(具体的には、下部磁性膜11B,11Dの形成領域)に存在する下部磁性膜112の裏面側にのみ、間接的にキズ状溝16の形成パターンに対応した形状のキズ状溝が形成される。なお、下部磁性膜112の厚みは、例えば5〜15μm程度に設定する。そして図18(B)に示したように、所定のエッチング材料を用いて下部磁性膜111,112のエッチングを行い、開口15Aを形成する。これにより、図16に示した断面構造が形成される。
【0061】
なお、その後は、まず第1の実施の形態と同様に、基板10および下部磁性膜11の上に、絶縁膜12およびコイル13を形成する。次に、図16〜図18を用いて説明した工程と同様にして、図15に示したように、絶縁膜12上に、開口15Bを有すると共に第2の一対の分割領域においてキズ状溝17を有する上部磁性膜14を形成する。そして第1の実施の形態と同様に、下部磁性膜11および上部磁性膜14の積層面(X−Y平面)内で、第2のコイルパターンの延在方向およびキズ状溝16,17の延在方向と略平行方向(Y軸方向)に固定磁場H1を印加しつつ熱処理を行い、その後、下部磁性膜11および上部磁性膜14の積層面(X−Y平面)内で、固定磁場H1の印加方向(Y軸方向)と直交する方向(X軸方向)に固定磁場H2を印加しつつ、熱処理を行う。これにより、第1の実施の形態と同様の作用によって、図15に示した薄膜インダクタ1Aが製造される。
【0062】
このようにして本実施の形態では、第2の一対の分割領域において、下部磁性膜112および上部磁性膜142の裏面に、コイル13のうちの第2のコイルパターンの延在方向(Y軸方向)に沿って延在するキズ状溝16,17を形成するようにしたので、第1の実施の形態と同様の作用により、同様の効果を得ることができる。すなわち、高周波領域での透磁率を簡易に向上させることが可能となる。
【0063】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態の薄膜インダクタは、キズ状溝16,17が、第2のコイルパターンの形成領域(第2の一対の分割領域)に加えて第1のコイルパターンの形成領域(第1の一対の分割領域)にも形成されていると共に、これらキズ状溝16,17を、研磨を行う代わりに所定形状のナノスタンパを用いることによって形成するようにしたものである。
【0064】
図19および図20は、本実施の形態に係る薄膜インダクタ(薄膜インダクタ1B)の構成を表したものであり、図19はX−Y平面構成を、図20は図19に示したIV−IV線に沿ったX−Z断面構成を、それぞれ表している。これらの図において、図1および図2に示した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。この薄膜インダクタ1Bは、下部磁性膜11の裏面側(基板10と下部磁性膜11との間)に樹脂膜191が形成されると共に、上部磁性膜14の裏面側(絶縁膜12と上部磁性膜14との間)に樹脂膜194が形成されている。また、これら樹脂膜191,194の表面には、コイル13(第1および第2のコイルパターン)の延在方向(X軸方向およびY軸方向)に沿ってキズ状溝16,17がそれぞれ形成され、これにより下部磁性膜11および上部磁性膜14の裏面側にも、間接的にキズ状溝16,17の形成パターンに対応した形状のキズ状溝が形成されるようになっている。
【0065】
なお、樹脂膜191,194は、例えばPMMA(ポリメタクリル酸メチル)やフッ素系樹脂などの熱可塑性樹脂等により構成される。
【0066】
次に、図21〜図24を参照して、本実施の形態の薄膜インダクタ1Bの製造方法の一例について説明する。ここで、図21〜図24は、薄膜インダクタ1Bの製造方法の一例を表したものであり、図21〜図23はX−Z断面構成を、図24はX−Y平面構成を、それぞれ表している。なお、図23のX−Y平面構成ではコイル13の図示を省略し、簡略化して表している。
【0067】
まず、図21に示したように、基板10上に、開口15Aを有すると共にキズ状溝16を有する樹脂膜191および下部磁性膜11を形成する。
【0068】
具体的には、まず、図22(A)に示したように、基板10上に、前述した材料よりなる樹脂膜191を、例えばスピンコート法により一様に形成する。この際、樹脂膜191の厚みは、例えば200nm程度に設定する。そして図22(B)に示したように、基板10および樹脂膜191を加熱ステージ21上に設置することにより、基板10を介して樹脂膜191に熱量Qを供給し、樹脂膜191を加熱する。この際、加熱ステージ21の温度は、例えば200℃程度に設定し、例えば10分程度加熱する。
【0069】
続いて、図23(A)に示したように、この状態のまま、樹脂膜191の表面に、キズ状溝16の形成パターンに対応する形状の表面S1を有するナノスタンパ22を押し当てる。そしてこの状態を、例えば15秒程度保つようにする。
【0070】
続いて、図23(B)に示したように、基板10、樹脂膜191およびナノスタンパ21を冷却ステージ23上に設置することにより、基板10を介して樹脂膜191から熱量Qを奪い、樹脂膜191を冷却する。この際、冷却ステージ23の温度は、例えば20℃程度に設定し、例えば5分程度冷却する。そして図23(C)に示したように、ナノスタンパ22を樹脂膜191の表面から離すことにより、図中の符号P5,P6および図24(A)に示したように、樹脂膜191の表面に、コイル13の延在方向に沿ったキズ状溝16が形成される。
【0071】
続いて、図24(B)に示したように、キズ状溝16が形成された樹脂膜191上に、下部磁性膜11を、例えばスパッタリング法やめっき法により一様に形成する。この際、下部磁性膜11の厚みは、例えば5〜15μm程度に設定する。そして図24(C)に示したように、所定のエッチング材料を用いて樹脂膜191および下部磁性膜11のエッチングを行い、開口15Aを形成する。これにより、図21に示した断面構造が形成される。
【0072】
なお、その後は、まず第1および第2の実施の形態と同様に、基板10および下部磁性膜11の上に、絶縁膜12およびコイル13を形成する。次に、図21〜図24を用いて説明した工程と同様にして、図19および図20に示したように、絶縁膜12上に、開口15Bを有すると共にキズ状溝17を有する樹脂膜194および上部磁性膜14を形成する。そして第1および第2の実施の形態と同様に、下部磁性膜11および上部磁性膜14の積層面(X−Y平面)内で、第2のコイルパターンの延在方向と略平行方向(Y軸方向)に固定磁場H1を印加しつつ熱処理を行い、その後、下部磁性膜11および上部磁性膜14の積層面(X−Y平面)内で、固定磁場H1の印加方向(Y軸方向)と直交する方向(X軸方向)に固定磁場H2を印加しつつ、熱処理を行う。これにより、第1および第2の実施の形態と同様の作用によって、図15に示した薄膜インダクタ1Aが製造される。
【0073】
このようにして本実施の形態では、下部磁性膜11および上部磁性膜14の裏面に、コイル13の延在方向(X軸方向およびY軸方向)に沿って4つの分割領域全てに延在するキズ状溝16,17を形成するようにしたので、第1の実施の形態と同様の作用により、同様の効果を得ることができる。すなわち、高周波領域での透磁率を簡易に向上させることが可能となる。
【0074】
なお、本実施の形態では、コイル13の延在方向に沿って4つの分割領域全てに延在する延在するキズ状溝16,17を、樹脂膜191,194の表面に所定形状のナノスタンパ22を押し当てることによって形成する場合について説明したが、このようなキズ状溝16,17を、例えば図25に示したようにダイサー3を用いて、下部磁性膜11や上部磁性膜14の表面に直接的に(あるいは間接的に)形成するようにしてもよい。このようにしてキズ状溝16,17を形成するようにした場合、本実施の形態よりもより簡単に形成することが可能となる。
【0075】
以上、第1〜第3の実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0076】
例えば、上記実施の形態では、下部磁性膜11および上部磁性膜14を、例えば最終的な磁場印加である固定磁場H2の印加方向とは直交する方向(例えば、Y軸方向)に沿って予め一軸異方性を示す(例えば、Y軸方向に沿って磁化容易軸を有する)ようにしておく場合について説明したが、必ずしもそのように予め一軸異方性を示すようにしておく必要はない。そのような事前の磁場印加(固定磁場H1の印加)を行わないようにした場合、固定磁場H2の印加の際に、下部磁性膜11および上部磁性膜14の磁化方向がランダムであり定まっていないことになるが、そのような場合でも、ある程度のピン止め効果を得ることが可能である。
【0077】
また、上記実施の形態では、磁場中熱処理を行う際の熱処理の温度は、第1の一対の分割領域の異方性磁化Ma,Mcが磁場印加方向に変位(回転)することができるエネルギーを与えることが可能な温度よりも高く、かつ、第2の一対の分割領域の異方性磁化Mb,Mdをピン止めすることが可能な程度の温度であることが望ましい。ピン止めすることが可能な温度よりも高くなってしまうと、異方性磁化Mb,Mdも磁場印加方向にまで変位(回転)してしまい、本発明の効果を得ることができなくなってしまうからである。
【0078】
また、上記実施の形態では、下部磁性膜11および上部磁性膜14の裏面側(基板10側や絶縁膜12側)にキズ状溝16,17を形成した場合について説明したが、下部磁性膜11および上部磁性膜14の表面側に形成してもよく、さらに裏面側および表面側の両面に形成してもよい。表面側に形成した場合でも、上記実施の形態で説明したのと同様のピン止め作用によって同様の効果を得ることができる。また、両面に形成した場合、その分ピン止め作用が強まるため、高周波領域での透磁率をより向上させることが可能となる。
【0079】
また、上記実施の形態では、キズ状溝16,17がコイルパターンの延在方向に沿って不連続に形成されている場合におけるキズ状溝の形成パターンついては特に触れなかったが、このようにキズ状溝16,17が不連続に形成されている場合の形成パターンとしては、例えば図26に示したように、キズ状溝16,17がコイルパターンの延在方向に沿って断続的に複数列形成されると共に隣り合う列同士で互いに千鳥状に配列されているような形成パターンと、キズ状溝16,17がその方向に沿って断続的に複数列形成されると共に隣り合う列同士で互いに向かい合うように(隣り合うように)配列されている場合とが考えられる。これら2つの形成パターンのうちでは、前者(隣り合う列同士で互いに千鳥状に配列されている場合)の形成パターンのほうが好ましい。下部磁性膜11や上部磁性膜14の体積の減少をより抑えることができ、薄膜インダクタのインダクタンスをさらに向上させることが可能となるからである。
【0080】
また、上記実施の形態では、コイル13の上方および下方の両方に磁性膜がある場合(下部磁性膜11および上部磁性膜14の両方が存在する場合)について説明したが、コイル13の少なくとも一方側に磁性膜が形成されていればよい。ただし、上記実施の形態のようにコイルの上方および下方の両方にあったほうが、薄膜インダクタのインダクタンスがより大きくなるため、好ましい。
【0081】
また、上記実施の形態では、コイル13が互いに略直交する第1および第2のコイルパターンを有する矩形状のスパイラルコイルから構成されている場合で説明したが、薄膜コイルであるコイル13の形状は、これには限られない。例えば、図27に示した薄膜インダクタ1Cのように、下部磁性膜11および上部磁性膜14が円形状(楕円形でもよい)であって例えばコイル13も円形状のスパイラルコイルの場合であってよい。この場合、コイル13の形状によらずに、例えばY軸方向(またはX軸方向)に沿って下部磁性膜11および上部磁性膜14にキズ状溝16,17スリット16を形成すると共に、X軸方向(またはY軸方向)に沿って固定磁場H3を印加しつつ熱処理を行うようにすればよい。
【0082】
また、例えば図28に示した薄膜インダクタ1Dのように、コイルが矩形状のミアンダコイル13Dであってもよく、また、例えば図29に示した薄膜インダクタ1Eのように、コイルがソレノイドコイル13Eであってもよい。具体的には、図28に示した薄膜インダクタ1Dでは、コイル13DのうちのX軸方向に沿ったコイルパターンに沿って、下部磁性膜11および上部磁性膜14に、X軸方向に沿って延在するキズ状溝16,17を形成すると共に、X軸方向に沿って固定磁場H4を印加しつつ熱処理を行うようにすればよい。また、図29に示した薄膜インダクタ1Eでは、コイル13EのうちのY軸方向に沿ったコイルパターンに沿って、磁性膜11Eに、Y軸方向に沿って延在するキズ状溝16を形成すると共に、X軸方向に沿って固定磁場H5を印加しつつ熱処理を行うようにすればよい。
【0083】
また、上記実施の形態では、薄膜磁気デバイスの一例として薄膜インダクタを挙げて説明したが、本発明はこの他にも薄膜トランスなどに適用することも可能である。すなわち、上記実施の形態で説明した磁性膜と所定の電極とを備えているのであれば、薄膜インダクタには限られず、広く薄膜磁気デバイスとして適用することが可能である。
【0084】
さらに、上記実施の形態において説明した各層の材料、成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、また他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る薄膜磁気デバイスの構成を表す平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った薄膜磁気デバイスの構成を表す断面図である。
【図3】図1および図2に示した薄膜磁気デバイスの製造方法を説明するための断面図である。
【図4】図3に示した断面構成の製造方法を説明するための平面図である。
【図5】図4に続く断面構成の製造方法を説明するための平面図である。
【図6】図3に続く薄膜磁気デバイスの製造方法を説明するための断面図である。
【図7】図6に続く薄膜磁気デバイスの製造方法を説明するための平面図である。
【図8】図7に続く薄膜磁気デバイスの製造方法を説明するための平面図である。
【図9】図8に続く薄膜磁気デバイスの製造方法を説明するための平面図である。
【図10】分割領域における異方性磁化方向とキズ状溝の延在方向との関係を説明するための平面模式図である。
【図11】分割領域における透磁率の周波数依存性の一例を表す特性図である。
【図12】分割領域における透磁率の周波数依存性の他の例を表す特性図である。
【図13】キズ状溝の一例を示す顕微鏡写真および断面模式図である。
【図14】磁性膜における表面粗さと厚みとの比率およびピン止め効果の関係を表す特性図である。
【図15】本発明の第2の実施の形態に係る薄膜磁気デバイスの構成を表す断面図である。
【図16】図15に示した薄膜磁気デバイスの製造方法を説明するための断面図である。
【図17】図16に示した断面構成の製造方法を説明するための平面図である。
【図18】図17に続く断面構成の製造方法を説明するための平面図である。
【図19】本発明の第3の実施の形態に係る薄膜磁気デバイスの構成を表す平面図である。
【図20】図19のIV−IV線に沿った薄膜磁気デバイスの構成を表す断面図である。
【図21】図19および図20に示した薄膜磁気デバイスの製造方法を説明するための断面図である。
【図22】図21に示した断面構成の製造方法を説明するための断面図である。
【図23】図22に続く断面構成の製造方法を説明するための断面図である。
【図24】図23に続く断面構成の製造方法を説明するための平面図である。
【図25】第3の実施の形態の変形例に係るキズ状溝の形成方法を説明するための斜視図である。
【図26】本発明の変形例に係るキズ状溝の形成パターンを表す平面模式図である。
【図27】本発明の変形例に係る薄膜磁気デバイスの構成を表す平面図である。
【図28】本発明の変形例に係る薄膜磁気デバイスの構成を表す平面図である。
【図29】本発明の変形例に係る薄膜磁気デバイスの構成を表す斜視図である。
【図30】従来の薄膜磁気デバイスの構成を表す平面図および断面図である。
【符号の説明】
【0086】
1,1A〜1E…薄膜インダクタ、10…基板、11,11A〜11D,111,112…下部磁性膜、11E…磁性膜、12…絶縁膜、13,13D,13E…コイル、13T1,13T2…端子、14,14A〜14D,141,142…上部磁性膜、15A,15B…開口、16,17…キズ状溝、18…ポリイミド膜、191,192…樹脂膜、21…加熱ステージ、22…ナノスタンパ、23…冷却ステージ、3…ダイサー、H1,H2,H21,H22,H3〜H5…印加磁場、Ma〜Md,M1,M2…分割領域における異方性磁化、w…キズ状溝の幅、d…キズ状溝の深さ、Q…熱量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜コイルと、
前記薄膜コイルの延在面の上方および下方のうちの少なくとも一方側に積層されると共にこの積層面内において異方性磁化を有する磁性膜と
を備え、
前記磁性膜の表面および裏面のうちの少なくとも一方側に、前記薄膜コイルの延在方向に沿って延在するキズ状溝が形成されている
ことを特徴とする薄膜磁気デバイス。
【請求項2】
前記薄膜コイルの延在領域をその巻回方向に沿って分割してなる4つの分割領域が、
互いに対向すると共に前記キズ状溝が形成されていない磁性膜が存在する第1の一対の分割領域と、
互いに対向すると共に前記キズ状溝が形成されている磁性膜が存在する第2の一対の分割領域とから構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜磁気デバイス。
【請求項3】
前記第1の一対の分割領域に存在する磁性膜における前記異方性磁化の方向と、前記第2の一対の分割領域に存在する磁性膜における前記キズ状溝の延在方向とが、互いに直交している
ことを特徴とする請求項2に記載の薄膜磁気デバイス。
【請求項4】
前記第2の一対の分割領域に存在する磁性膜において、前記異方性磁化の方向と、前記キズ状溝の延在方向とが、互いに鋭角をなしている
ことを特徴とする請求項3に記載の薄膜磁気デバイス。
【請求項5】
前記第1の一対の分割領域に存在する磁性膜の裏面側にのみ、非磁性膜が形成されている
ことを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の薄膜磁気デバイス。
【請求項6】
前記第2の一対の分割領域に存在する磁性膜の裏面側にのみ、前記キズ状溝の形成パターンに対応する形状のキズ状溝が表面に形成されたダミー層が形成されている
ことを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の薄膜磁気デバイス。
【請求項7】
前記薄膜コイルの延在領域をその巻回方向に沿って分割してなる4つの分割領域に存在する前記磁性膜にそれぞれ、前記キズ状溝が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜磁気デバイス。
【請求項8】
前記キズ状溝が、不連続に形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の薄膜磁気デバイス。
【請求項9】
前記キズ状溝が、前記薄膜コイルの延在方向に沿って断続的に複数列形成されると共に隣り合う列同士で互いに千鳥状に配列されている
ことを特徴とする請求項8に記載の薄膜磁気デバイス。
【請求項10】
前記磁性膜において、前記キズ状溝が形成されている側の面の表面粗さとこの磁性膜の厚みとの比率が、0.02以上である
ことを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の薄膜磁気デバイス。
【請求項11】
基板上に薄膜コイルを形成する第1の工程と、
前記薄膜コイルの延在面の上方および下方のうちの少なくとも一方側に、表面および裏面のうちの少なくとも一方側に前記薄膜コイルの延在方向に沿って延在するキズ状溝を有する磁性膜を形成する第2の工程と、
前記磁性膜の積層面内の所定方向に磁場を印加しつつ熱処理を行う第3の工程と
を含むことを特徴とする薄膜磁気デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記第2の工程は、
前記薄膜コイルの延在面の上方および下方のうちの少なくとも一方側に磁性膜を形成する工程と、
前記磁性膜の表面に前記キズ状溝を形成する工程とを含む
ことを特徴とする請求項11に記載の薄膜磁気デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記第2の工程は、
前記基板の表面またはその上層に、前記薄膜コイルの延在方向に沿って延在するキズ状溝を形成する工程と、
前記薄膜コイルの延在面の上方および下方のうちの少なくとも一方側において、前記キズ状溝の形成面上に磁性膜を形成する工程とを含む
ことを特徴とする請求項11に記載の薄膜磁気デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記キズ状溝を形成する工程は、
前記基板の表面またはその上層に樹脂膜を形成する工程と、
前記樹脂膜の表面に、前記キズ状溝の形成パターンに対応する形状の表面を有するナノスタンパを押し当てることにより、前記樹脂膜の表面にキズ状溝を形成する工程とを含む
ことを特徴とする請求項13に記載の薄膜磁気デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記磁性膜を形成する工程の後から前記第3の工程の前までの間に、前記磁性膜の積層面内における第3の工程での磁場印加方向とは直交する方向に沿って磁場を印加しつつ熱処理を行う工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項12ないし請求項14のいずれか1項に記載の薄膜磁気デバイスの製造方法。
【請求項16】
前記磁性膜を形成する工程において、前記磁性膜の積層面内における前記第3の工程での磁場印加方向とは直交する方向に沿って磁場を印加しつつ、前記磁性膜を形成する
ことを特徴とする請求項12ないし請求項14のいずれか1項に記載の薄膜磁気デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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