薄膜磁気ヘッドおよびその製造方法
【課題】磁気ディスク装置の更なる高記録密度化に伴い、記録媒体が更に狭トラック化し高保磁力化しても十分な書き込み能力を有する記録ヘッドを提供する。
【解決手段】少なくとも主磁極、ヨーク、リターンポールを含む記録ヘッドを有する薄膜磁気ヘッドであって、主磁極、ヨーク、リターンポールの少なくとも一部の磁性膜が、Co、Ni及びFeのうち2種類以上の元素を含有し、さらにSを0.5wt%−1.0wt%の組成比で含有する磁性膜であり、結晶粒の膜面に平行な面の格子定数aと膜面に垂直な面の格子定数bの比(a/b)が0.995以下である、薄膜磁気ヘッドを提供する。本発明の薄膜磁気ヘッドを用いると、薄膜磁気ヘッドの主磁極に使用される磁性膜が薄膜化しても、高Bsを得ることができる。また、記録周波数が高周波数化しても、高μを得ることができる。
【解決手段】少なくとも主磁極、ヨーク、リターンポールを含む記録ヘッドを有する薄膜磁気ヘッドであって、主磁極、ヨーク、リターンポールの少なくとも一部の磁性膜が、Co、Ni及びFeのうち2種類以上の元素を含有し、さらにSを0.5wt%−1.0wt%の組成比で含有する磁性膜であり、結晶粒の膜面に平行な面の格子定数aと膜面に垂直な面の格子定数bの比(a/b)が0.995以下である、薄膜磁気ヘッドを提供する。本発明の薄膜磁気ヘッドを用いると、薄膜磁気ヘッドの主磁極に使用される磁性膜が薄膜化しても、高Bsを得ることができる。また、記録周波数が高周波数化しても、高μを得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜磁気ヘッド及びその製造方法に関し、特に、高飽和磁束密度及び高透磁率を有する磁性膜を用いた薄膜磁気ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク・ドライブ装置として、光ディスク装置、光磁気ディスク装置、あるいはフレキシブル磁気ディスク装置などの様々な態様の装置が知られているが、その中で、ハードディスク・ドライブ(HDD)は、コンピュータの記憶装置として広く普及し、現在のコンピュータ・システムにおいて欠かすことができない記憶装置の一つとなっている。HDDは磁気ディスク装置である。
【0003】
磁気ディスク装置は薄膜磁気ヘッドにより記録媒体に磁気情報を書き込み、記録媒体から磁気情報を読み出す。そして、磁気ディスク装置は、記録媒体に記録できる磁気情報のデータ量を増やすため、年々高記録密度化している。それに伴い、記録媒体は高保磁力化することが要求される。また、高保磁力化した記録媒体にエラーすることなく書き込むため、記録ヘッドは、磁気コア材料として飽和磁束密度が高く、強い磁界により記録媒体に書き込むことができる材料を使用することが要求される。
【0004】
高飽和磁束密度を有する材料として、特許文献1や特許文献2が開示されている。特許文献1には、薄膜磁気ヘッドの下部軟磁性体層及び上部軟磁性体層の少なくとも一方に、原子比で30−90%のCo、40%以下のNi、40%以下のFeからなるCo−Ni−Fe合金に、少なくともSを原子比で0.5−4%含有するCo−Ni−Fe−S合金を用いる薄膜磁気ヘッドが開示されている。また、特許文献2には、Feが25−40at%、Niが10−15at%、Coが40−70at%、及びSが0−0.3at%含まれ、かつ結晶構造が面心立方晶もしくは面心立方晶とごくわずかの体心立方晶からなる磁性薄膜を上部磁気コア及び下部磁気コアとに用いた薄膜磁気ヘッドが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−199726号公報
【特許文献2】特開2000−173014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気ディスク装置の更なる高記録密度化に伴い、記録媒体が更に狭トラック化し高保磁力化しても十分な書き込み能力を有する記録ヘッドが求められている。具体的には、記録媒体のトラック幅が狭くなると、それに伴い、記録ヘッドの主磁極の幅も合わせて狭くなり、磁性膜も薄膜化するため、磁化特性が劣化してしまう。さらに、記録媒体が高保磁力化すると、記録ヘッドがエラーなく記録媒体に書き込むためには、記録ヘッドから強い記録磁界を発生させる必要がある。したがって、薄膜化しても高い飽和磁束密度(以下「Bs」とする)を有する材料を記録ヘッドの磁性膜として用いることが必要となる。
【0007】
また、高速通信化に対応して記録周波数の高周波数化を図る為、コイル電流の記録磁界変換効率を向上すべく、記録ヘッドの主磁極部や副磁極部などにおけるヒステリシス損失を低減する必要がある。困難軸方向の保磁力(以下「Hc」とする)或いは異方性磁界(以下「Hk」とする)が低く、透磁率(以下「μ」とする)が高い特性を有する材料を使用することが要求される。
【0008】
従来、高いBsを有する材料としてのCoNiFe系の材料を電気めっきで作製して用いていたが、十分に高いBsを得ることができるまでには至っていない。また、材料として高いBsを有しているものはあるが、薄膜化することが困難であり実用化できるまでには至っていなかった。
【0009】
また、特許文献1に開示される薄膜磁気ヘッドに使用されるCo−Ni−Fe−S合金のBsは1.5−1.8T程度であり、更なる高記録密度化に対応するためには十分ではない。特許文献2に開示される薄膜磁気ヘッドの磁性薄膜は、Bsが2.0Tと低く、Hkが16Oeと高いため、更なる高記録密度化に対応するためには十分ではない。また、どちらの文献でもμについては示唆されていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、従来と比較して、より高いBsおよび高いμを有する磁性膜を使用した薄膜磁気ヘッド及びその製造方法を提供する。また、この薄膜磁気ヘッドを搭載した磁気ディスク装置を提供する。
【0011】
具体的には、少なくとも主磁極、ヨーク、リターンポールを含む記録ヘッドを有する薄膜磁気ヘッドであって、前記主磁極、前記ヨーク、前記リターンポールの少なくとも一部の磁性膜が、Co、Ni及びFeのうち2種類以上の元素を含有し、さらにSを含有する磁性膜であり、前記Sの組成比が0.5wt%−1.0wt%である、薄膜磁気ヘッドである。
【0012】
また、少なくとも主磁極、ヨーク、リターンポールを含む記録ヘッドを有する薄膜磁気ヘッドの製造方法であって、 前記主磁極、前記ヨーク、前記リターンポールの少なくとも一部の磁性膜を、Co、Ni及びFeのうち2種類以上のイオンを含有し、さらにSの錯体を含有し、pHが2.0以下であるめっき浴で、電流密度が150mA/cm2以上である電流を印加することにより成膜する、ことを特徴とする、薄膜磁気ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の薄膜磁気ヘッドを用いると、薄膜磁気ヘッドの主磁極に使用される磁性膜が薄膜化しても、高Bsを得ることができる。また、記録周波数を高周波数化しても対応できるような高μを得ることができる。さらに、本発明の製造方法により、上記効果を有する薄膜磁気ヘッドを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0015】
まず、図1を参照し、本実施形態の磁気ディスク装置の概略を説明する。磁気ディスク装置は、情報を記録する磁気記録媒体105、磁気記録媒体を回転させるスピンドルモーター106、磁気記録媒体に情報を記録し再生する薄膜磁気ヘッド107、薄膜磁気ヘッドを磁気記録媒体の目標位置に位置決めするアクチュエ−タ108及びボイスコイルモ−タ109とを備える。そして、アクチュエータの先端部には、記録又は再生時において薄膜磁気ヘッドと磁気記録媒体との間隔をサブミクロンスペ−スで安定浮上させる為のサスペンション110が固定されている。また、アクチュエ−タとボイスコイルモ−タにより駆動されるガイドア−ム111を備えている。更に磁気記録媒体回転制御系、ヘッド位置決め制御系、記録/再生信号処理系(図示せず)などを備えている。
【0016】
次に、本実施形態における磁気記録媒体105に情報を記録し再生する薄膜磁気ヘッド107を更に詳しく説明する。図2に垂直記録型薄膜磁気ヘッドを示す。ここで、図2に示される、X方向をトレーリング方向、トレーリング方向の逆方向をリーディング方向と呼び、Y方向をヘッド後方方向と呼ぶ(以下、同様)。そして、線24で示される面をヘッド浮上面と呼ぶ(以下、同様)。薄膜磁気ヘッドは、非磁性基板(図示せず)からトレーリング方向に順に各部を形成し、製造される。そのため、トレーリング方向を上方向、リーディング方向を下方向とも呼ぶ。なお、垂直磁気記録型薄膜磁気ヘッドにもさまざまな形態があるが、本実施形態はその一例である。また、本実施形態は垂直記録型薄膜磁気ヘッドを用いるが、当然に面内記録型薄膜磁気ヘッドを用いることもできる。
【0017】
まず、非磁性基板(図示せず)上に再生ヘッドを形成する。具体的には、下部シールド膜16、下部磁気ギャップ膜(図示せず)を形成しこの上に再生用素子15としてMR、GMRまたはTMRセンサ等を形成する。磁区制御層、電極膜、上部磁気ギャップ膜(図示せず)を形成後、上部磁気シールド膜14を形成する。
【0018】
次に、再生ヘッド上に記録ヘッドを形成する。具体的には、再生素子と記録素子の磁気ギャップ膜を形成し、その上に副磁極19を形成する。そして、アルミナ膜をスパッタリングにより形成し、CMPにより副磁極を平坦化した後、さらに下部磁極23として、下地膜をスパッタリング後、めっき法でCoNiFe膜あるいは46NiFe膜を所定の厚さまでめっきした。ここで、垂直記録型薄膜磁気記録ヘッドにおいてはこの下部磁極は形成せず、端子部のみにめっきをする構造でもよい。この場合、先に絶縁膜を形成し、端子部のみ絶縁膜を除去する。つづいて絶縁膜、記録電流を印加するためのコイル20、及び有機絶縁層を形成後、アルミナ膜をスパッタリングにより形成し、CMPにより下部磁極23を平坦化する。なお、副磁極や下部磁極がない垂直記録型薄膜磁気ヘッドにも、本発明を適用することは可能である。そして、ヨーク17を形成する。ヨーク17は下地膜形成後、所望のパターンを作製し、Bs、μの高い膜をめっきする。下地膜除去後、アルミナ膜をスパッタリングし、CMPによりヨーク17を平坦化する。その後、主磁極18を形成する。主磁極18は、下地膜をスパッタリング後、レジストにて所望のパターンを形成し、本実施形態によるめっき膜をめっきする。本実施形態によるめっき膜は後に詳述する。レジスト剥離後トリミングを行い、アルミナ、ストッパー膜を順次形成し、CMPにて所望の膜厚とする。ここで、主磁極18として、本実施形態によるめっき膜を形成し、その後所望のパターンをめっき膜上に形成して、トリミングする方法を用いてもよい。つまり、本実施形態の磁性膜の一部を主磁極18に形成することもできる。ギャップ膜を形成後、シールド21を形成する。アルミナ膜をスパッタリングし、CMPによりシールド21を平坦化する。記録電流を印加するためのコイル20、及び有機絶縁層を形成後、リターンポール22をめっきにより作製し、端子工程を経て、ヘッドを作製する。
【0019】
本実施形態では主磁極の全部又は一部に本実施形態による磁性膜を形成したが、これに限定されるものではない。高いBs及び/又は高いμを必要とする部分には使用することができる。例えば、副磁極19やヨーク17、リターンポール22、下部磁極23などである。
【0020】
本実施形態の磁性膜について以下に詳しく説明する。本実施形態にかかる磁性膜はCo、Ni及びFeのうち2種類以上の元素を有する磁性膜であり、膜中にSを膜厚方向に均一に含有する。そして、各元素の膜組成は、Coの組成比が10wt%−40wt%であり、Niの組成比が0wt%−5wt%であり、Feの組成比が55wt%−90wt%であり、さらにSの組成比が0.5wt%−1.0wt%である。
【0021】
図3にCo、Ni、Feの3元系組成図を示す。本実施形態の薄膜磁気ヘッドの主磁極などに用いられる磁性膜のBsは、高Bsすなわち2.4T以上得ることが必要とされる。図3から、Coの組成比が10wt%−40wt%であり、Niの組成比が0wt%−5wt%であり、Feの組成比が55wt%−90wt%である範囲でのみBs>2.4Tを得られることが知られている。しかし、図3は薄膜化する前の材料のBsを示しており、実際に薄膜磁気ヘッドに用いるために薄膜化した場合には、図3に示されるような高Bsを保持することが困難であった。そこで、本実施形態は磁性膜中にSを含有させ、その組成比を0.5wt%−1.0wt%の範囲で膜中に存在させる。Sを含有させることにより、結晶粒を微細化することができ、高Bsを実現することが可能となる。具体的に、(Fe:62wt%、Co:34.7wt%、Ni:2.4wt%、S:0.9wt%)、(Fe:75.6wt%、Co:23.2wt%、Ni:0.4wt%、S:0.8wt%)、(Fe:68wt%、Co:27.4wt%、Ni:4wt%、S:0.6wt%)のとき、Bs>2.4Tを得ることができた。これら3点のS以外の3つの元素の組成比を、図3上に示す。ここで、Sの組成比を1.0wt%より大きくするとBsが低下し、所望とする2.4Tより大きいBsを得ることができないという結果が得られた。
【0022】
Sの組成比を0.5wt%−1.0wt%とした別の理由を以下に示す。1.0wt%より大きくすると、Sの含有量が多く、膜の耐食性が劣化してしまうため1.0wt%以下とした。また図4に示すとおり、Sの含有量が0.5wt%より小さいと、急激に膜応力が大きくなってしまう。したがって、Sの含有量が0.5wt%より小さいと膜応力が大きく、薄膜で成膜するとはがれやすくなってしまうため、0.5wt%以上とした。
【0023】
また、本実施形態の薄膜磁気ヘッドの主磁極などに用いられる磁性膜の結晶粒は、結晶粒の膜面に平行な面の格子定数をa、膜面に垂直な面の格子定数をbとするときのa/bが0.995以下である。図5に歪量とBsとの関係を示す。図5に示されるとおり、a/b が0.995以下であると、所望とする2.4Tより大きいBsを得ることができる。
【0024】
次に、本実施形態の薄膜磁気ヘッドの製造方法について詳しく説明する。本実施形態の薄膜磁気ヘッドの主磁極を図6のめっき浴にて電気めっきする。図6に示すとおり、めっき浴にはCoイオン、Niイオン、Feイオンに加えSが錯体の形で含有されている。Sを含有するため、めっき浴にはサッカリンナトリウムが含有されている。そして、めっき浴中の電極に印加する電流密度は150mA/cm2以上であり、めっき浴のpHは2.0以下である。また、電気めっき時に電極に印加する電流は、直流の一定電流を印加するか、望ましくはパルス電流を印加する。パルス電流を用いるのは、電流密度を高くすると、DCの一定電流のみではめっきが異常成膜してしまうためである。具体的には、電流密度が高くなると、低電流密度の場合に比べめっきの反応が早くなり、界面近傍の供給イオンが早く消費されてしまい、めっきに異常が生じる。したがって、パルス電流を用いて電流をかけない時間(off time)を設けることにより、濃度を回復させ、正常なめっき成膜を可能とする。
【0025】
本実施形態の電気めっきの条件である図6の電流密度を150mA/cm2以上ではなく、6mA /cm2とした製造方法を比較例とする。図7に本実施形態により製造した磁性膜と比較例により製造した磁性膜とを膜厚方向にオージェ分析した結果を示す。本実施形態の製造方法により製造した磁性膜の膜中にはSが0.8wt%(1.4at%)取り込まれているが、比較例で作製した磁性膜の膜中には0.3wt%(0.5at%)しか取り込まれていない。つまり、本実施形態の製造方法により製造した磁性膜の膜中には比較例で作製した膜の2.5倍のSを含有している。電流密度が100mA/cm2以上で150mA/cm2より小さい場合でも、顕著にBsやμを高くすることはできず、所望とするSの含有量に至っていない。これより、電流密度が150mA/cm2より小さい場合、膜中にSが取り込まれにくいことがわかる。また、めっき浴中のSの含有量を大きくしても、電流密度が150mA/cm2より小さい場合、所望とするSの量をめっき膜中に取り込むことは困難である。
【0026】
めっき浴の電極に印加する電流密度が150mA/cm2以上のように大電流の場合、めっき速度が速く、めっきの異常成膜が生じ表面粗さなどに影響がある。そこで、pHを2.0以下とすると、めっき速度が低下し、異常成長を抑えることができる。さらに、pHを2.0以下とするとめっき膜が白濁しにくくなる。pHを2.0以下にするためには、pHを測定し、硝酸又は塩酸を入れることにより、pHの上昇を抑え制御する。なお、pHを0.8より小さくすると、浴中の水素イオンが多くなりすぎるため、電流密度が大きい電流を印加しても電圧が低くなり、正常にめっきすることができない。
【0027】
また、電流密度が150mA/cm2以上と高く、めっき速度が速いため、さらにN2バブリングやパドル攪拌をおこなうとよい。めっき膜の分布を均一に保つことができるからである。
【0028】
次に、従来法で作製しためっき膜と本実施形態によるめっき膜のX線回折を調べた。X線は広角X線回折により、膜厚方向(膜面に垂直な方向)の情報、面内X線回折により膜面内方向(膜面に平行な方向)の情報が得られる。
【0029】
図8にX線回折パターンを示す。いずれの膜もbcc構造由来の回折パターンが主として認められることから、bcc構造である。尚、指数の記載のないピークは、下地起因のピークである。
【0030】
図9にこの回折パターンから求めた結晶子径を示す。これより、本実施形態の製造方法により製造した磁性膜は比較例で作製した磁性膜と比較し、膜厚方向、膜面内方向いずれも結晶子が小さくなっていることがわかる。
【0031】
図10には図8のX線回折より求めた格子定数を示す。正立方晶では膜面に平行な面すなわち膜厚方向の格子定数をa、膜面に垂直な面すなわち膜面内方向の格子定数をbとするとa=bすなわちa/b=1である。比較例で作製した磁性膜はa/b=0.999であり、ほぼ正立方晶であるのに対し、本実施形態の製造方法により製造した磁性膜はa/b=0.994と膜厚方向に縮んでいる。また、同一面の格子定数を比較例で作製した磁性膜と比較すると、本実施形態の膜は膜面内方向に0.24%伸び、膜厚方向に0.28%縮んでいる。
【0032】
図11に本実施形態の製造方法により製造した磁性膜のB-Hカーブ(ヒステリシス曲線)と比較例で作製した磁性膜のB-Hカーブを示す。図11の実践部分は容易軸方向のカーブであり、点線部分は困難軸方向のカーブである。ここで、本実施形態の製造方法により製造した磁性膜は上記で説明した本実施形態の磁性膜である。また、比較例は、上記のようにSの含有量が十分ではなく、結晶粒径が大きく、結晶の歪みも生じていない磁性膜である。そして、本実施形態の製造方法により製造した磁性膜の方が、保磁力(困難軸:Hch、容易軸:Hce)が低下しており、Bsが高くなっている。また、2.4T以上の高いBsを得ることができている。つまり、Sの含有量が0.5wt%−1.0wt%の範囲内にあることや、結晶粒の微細化と結晶粒の歪みにより、軟磁気特性が改善される。また、異方性磁界は少し増加しているが、保磁力が大きく改善しているため、軟磁気特性は改善される。
【0033】
図12に本実施形態の製造方法により製造した磁性膜のμと、比較例で作製した磁性膜のμを示す。比較例で作製した膜のμは最大800であり、高周波数領域の1GHzで650であるのに対し、本実施形態の製造方法により製造した磁性膜のμは最大1200であり、高周波数領域の1GHzで900となっている。つまり、μの最大値は大きくなり、かつ、記録周波数の高周波数領域でのμも高く、さらに低下も少ない効果を有している。そのため、記録周波数を高周波数化しても本実施形態の磁性膜を用いれば、十分に高いμを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施形態の磁気ディスク装置の一例の概略図である。
【図2】本実施形態の薄膜磁気ヘッドの一例の概略図である。
【図3】FeCoNiめっき薄膜における、膜中のFe,Co,Ni濃度とBsの関係を示した図である。
【図4】本実施形態による膜中のイオウ(S)含有量と膜応力を示す図である。
【図5】本実施形態の磁性めっき薄膜の歪量と飽和磁束密度を示す図である。
【図6】本実施形態の電気めっき浴の条件を示す図である。
【図7】本実施形態及び比較例による磁性めっき薄膜のオージェ分析結果を示す図である。
【図8】本実施形態及び比較例による磁性めっき薄膜のX線回折結果を示す図である。
【図9】本実施形態及び比較例による磁性めっき薄膜の結晶子径を示す図である。
【図10】本実施形態及び比較例による磁性めっき薄膜の格子定数を示す図である。
【図11】本実施形態及び比較例による磁性めっき薄膜のB-Hカーブを示す図である。
【図12】本実施形態及び比較例による磁性めっき薄膜の透磁率μを示す図である。
【符号の説明】
【0035】
14…上部部磁気シ−ルド、15…再生用素子、 16…下部磁気シ−ルド、 17…ヨーク、 18…主磁極、 19…副磁極、 20…コイル、 21…シールド、 22…リターンポール、23…下部磁極
105…磁気記録媒体、 106…スピンドルモ−タ−、 107…薄膜磁気ヘッド、 108…アクチュエ−タ
109…ボイスコイルモ−タ、 110…サスペンション、 111…ガイドア−ム。
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜磁気ヘッド及びその製造方法に関し、特に、高飽和磁束密度及び高透磁率を有する磁性膜を用いた薄膜磁気ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク・ドライブ装置として、光ディスク装置、光磁気ディスク装置、あるいはフレキシブル磁気ディスク装置などの様々な態様の装置が知られているが、その中で、ハードディスク・ドライブ(HDD)は、コンピュータの記憶装置として広く普及し、現在のコンピュータ・システムにおいて欠かすことができない記憶装置の一つとなっている。HDDは磁気ディスク装置である。
【0003】
磁気ディスク装置は薄膜磁気ヘッドにより記録媒体に磁気情報を書き込み、記録媒体から磁気情報を読み出す。そして、磁気ディスク装置は、記録媒体に記録できる磁気情報のデータ量を増やすため、年々高記録密度化している。それに伴い、記録媒体は高保磁力化することが要求される。また、高保磁力化した記録媒体にエラーすることなく書き込むため、記録ヘッドは、磁気コア材料として飽和磁束密度が高く、強い磁界により記録媒体に書き込むことができる材料を使用することが要求される。
【0004】
高飽和磁束密度を有する材料として、特許文献1や特許文献2が開示されている。特許文献1には、薄膜磁気ヘッドの下部軟磁性体層及び上部軟磁性体層の少なくとも一方に、原子比で30−90%のCo、40%以下のNi、40%以下のFeからなるCo−Ni−Fe合金に、少なくともSを原子比で0.5−4%含有するCo−Ni−Fe−S合金を用いる薄膜磁気ヘッドが開示されている。また、特許文献2には、Feが25−40at%、Niが10−15at%、Coが40−70at%、及びSが0−0.3at%含まれ、かつ結晶構造が面心立方晶もしくは面心立方晶とごくわずかの体心立方晶からなる磁性薄膜を上部磁気コア及び下部磁気コアとに用いた薄膜磁気ヘッドが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−199726号公報
【特許文献2】特開2000−173014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気ディスク装置の更なる高記録密度化に伴い、記録媒体が更に狭トラック化し高保磁力化しても十分な書き込み能力を有する記録ヘッドが求められている。具体的には、記録媒体のトラック幅が狭くなると、それに伴い、記録ヘッドの主磁極の幅も合わせて狭くなり、磁性膜も薄膜化するため、磁化特性が劣化してしまう。さらに、記録媒体が高保磁力化すると、記録ヘッドがエラーなく記録媒体に書き込むためには、記録ヘッドから強い記録磁界を発生させる必要がある。したがって、薄膜化しても高い飽和磁束密度(以下「Bs」とする)を有する材料を記録ヘッドの磁性膜として用いることが必要となる。
【0007】
また、高速通信化に対応して記録周波数の高周波数化を図る為、コイル電流の記録磁界変換効率を向上すべく、記録ヘッドの主磁極部や副磁極部などにおけるヒステリシス損失を低減する必要がある。困難軸方向の保磁力(以下「Hc」とする)或いは異方性磁界(以下「Hk」とする)が低く、透磁率(以下「μ」とする)が高い特性を有する材料を使用することが要求される。
【0008】
従来、高いBsを有する材料としてのCoNiFe系の材料を電気めっきで作製して用いていたが、十分に高いBsを得ることができるまでには至っていない。また、材料として高いBsを有しているものはあるが、薄膜化することが困難であり実用化できるまでには至っていなかった。
【0009】
また、特許文献1に開示される薄膜磁気ヘッドに使用されるCo−Ni−Fe−S合金のBsは1.5−1.8T程度であり、更なる高記録密度化に対応するためには十分ではない。特許文献2に開示される薄膜磁気ヘッドの磁性薄膜は、Bsが2.0Tと低く、Hkが16Oeと高いため、更なる高記録密度化に対応するためには十分ではない。また、どちらの文献でもμについては示唆されていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、従来と比較して、より高いBsおよび高いμを有する磁性膜を使用した薄膜磁気ヘッド及びその製造方法を提供する。また、この薄膜磁気ヘッドを搭載した磁気ディスク装置を提供する。
【0011】
具体的には、少なくとも主磁極、ヨーク、リターンポールを含む記録ヘッドを有する薄膜磁気ヘッドであって、前記主磁極、前記ヨーク、前記リターンポールの少なくとも一部の磁性膜が、Co、Ni及びFeのうち2種類以上の元素を含有し、さらにSを含有する磁性膜であり、前記Sの組成比が0.5wt%−1.0wt%である、薄膜磁気ヘッドである。
【0012】
また、少なくとも主磁極、ヨーク、リターンポールを含む記録ヘッドを有する薄膜磁気ヘッドの製造方法であって、 前記主磁極、前記ヨーク、前記リターンポールの少なくとも一部の磁性膜を、Co、Ni及びFeのうち2種類以上のイオンを含有し、さらにSの錯体を含有し、pHが2.0以下であるめっき浴で、電流密度が150mA/cm2以上である電流を印加することにより成膜する、ことを特徴とする、薄膜磁気ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の薄膜磁気ヘッドを用いると、薄膜磁気ヘッドの主磁極に使用される磁性膜が薄膜化しても、高Bsを得ることができる。また、記録周波数を高周波数化しても対応できるような高μを得ることができる。さらに、本発明の製造方法により、上記効果を有する薄膜磁気ヘッドを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0015】
まず、図1を参照し、本実施形態の磁気ディスク装置の概略を説明する。磁気ディスク装置は、情報を記録する磁気記録媒体105、磁気記録媒体を回転させるスピンドルモーター106、磁気記録媒体に情報を記録し再生する薄膜磁気ヘッド107、薄膜磁気ヘッドを磁気記録媒体の目標位置に位置決めするアクチュエ−タ108及びボイスコイルモ−タ109とを備える。そして、アクチュエータの先端部には、記録又は再生時において薄膜磁気ヘッドと磁気記録媒体との間隔をサブミクロンスペ−スで安定浮上させる為のサスペンション110が固定されている。また、アクチュエ−タとボイスコイルモ−タにより駆動されるガイドア−ム111を備えている。更に磁気記録媒体回転制御系、ヘッド位置決め制御系、記録/再生信号処理系(図示せず)などを備えている。
【0016】
次に、本実施形態における磁気記録媒体105に情報を記録し再生する薄膜磁気ヘッド107を更に詳しく説明する。図2に垂直記録型薄膜磁気ヘッドを示す。ここで、図2に示される、X方向をトレーリング方向、トレーリング方向の逆方向をリーディング方向と呼び、Y方向をヘッド後方方向と呼ぶ(以下、同様)。そして、線24で示される面をヘッド浮上面と呼ぶ(以下、同様)。薄膜磁気ヘッドは、非磁性基板(図示せず)からトレーリング方向に順に各部を形成し、製造される。そのため、トレーリング方向を上方向、リーディング方向を下方向とも呼ぶ。なお、垂直磁気記録型薄膜磁気ヘッドにもさまざまな形態があるが、本実施形態はその一例である。また、本実施形態は垂直記録型薄膜磁気ヘッドを用いるが、当然に面内記録型薄膜磁気ヘッドを用いることもできる。
【0017】
まず、非磁性基板(図示せず)上に再生ヘッドを形成する。具体的には、下部シールド膜16、下部磁気ギャップ膜(図示せず)を形成しこの上に再生用素子15としてMR、GMRまたはTMRセンサ等を形成する。磁区制御層、電極膜、上部磁気ギャップ膜(図示せず)を形成後、上部磁気シールド膜14を形成する。
【0018】
次に、再生ヘッド上に記録ヘッドを形成する。具体的には、再生素子と記録素子の磁気ギャップ膜を形成し、その上に副磁極19を形成する。そして、アルミナ膜をスパッタリングにより形成し、CMPにより副磁極を平坦化した後、さらに下部磁極23として、下地膜をスパッタリング後、めっき法でCoNiFe膜あるいは46NiFe膜を所定の厚さまでめっきした。ここで、垂直記録型薄膜磁気記録ヘッドにおいてはこの下部磁極は形成せず、端子部のみにめっきをする構造でもよい。この場合、先に絶縁膜を形成し、端子部のみ絶縁膜を除去する。つづいて絶縁膜、記録電流を印加するためのコイル20、及び有機絶縁層を形成後、アルミナ膜をスパッタリングにより形成し、CMPにより下部磁極23を平坦化する。なお、副磁極や下部磁極がない垂直記録型薄膜磁気ヘッドにも、本発明を適用することは可能である。そして、ヨーク17を形成する。ヨーク17は下地膜形成後、所望のパターンを作製し、Bs、μの高い膜をめっきする。下地膜除去後、アルミナ膜をスパッタリングし、CMPによりヨーク17を平坦化する。その後、主磁極18を形成する。主磁極18は、下地膜をスパッタリング後、レジストにて所望のパターンを形成し、本実施形態によるめっき膜をめっきする。本実施形態によるめっき膜は後に詳述する。レジスト剥離後トリミングを行い、アルミナ、ストッパー膜を順次形成し、CMPにて所望の膜厚とする。ここで、主磁極18として、本実施形態によるめっき膜を形成し、その後所望のパターンをめっき膜上に形成して、トリミングする方法を用いてもよい。つまり、本実施形態の磁性膜の一部を主磁極18に形成することもできる。ギャップ膜を形成後、シールド21を形成する。アルミナ膜をスパッタリングし、CMPによりシールド21を平坦化する。記録電流を印加するためのコイル20、及び有機絶縁層を形成後、リターンポール22をめっきにより作製し、端子工程を経て、ヘッドを作製する。
【0019】
本実施形態では主磁極の全部又は一部に本実施形態による磁性膜を形成したが、これに限定されるものではない。高いBs及び/又は高いμを必要とする部分には使用することができる。例えば、副磁極19やヨーク17、リターンポール22、下部磁極23などである。
【0020】
本実施形態の磁性膜について以下に詳しく説明する。本実施形態にかかる磁性膜はCo、Ni及びFeのうち2種類以上の元素を有する磁性膜であり、膜中にSを膜厚方向に均一に含有する。そして、各元素の膜組成は、Coの組成比が10wt%−40wt%であり、Niの組成比が0wt%−5wt%であり、Feの組成比が55wt%−90wt%であり、さらにSの組成比が0.5wt%−1.0wt%である。
【0021】
図3にCo、Ni、Feの3元系組成図を示す。本実施形態の薄膜磁気ヘッドの主磁極などに用いられる磁性膜のBsは、高Bsすなわち2.4T以上得ることが必要とされる。図3から、Coの組成比が10wt%−40wt%であり、Niの組成比が0wt%−5wt%であり、Feの組成比が55wt%−90wt%である範囲でのみBs>2.4Tを得られることが知られている。しかし、図3は薄膜化する前の材料のBsを示しており、実際に薄膜磁気ヘッドに用いるために薄膜化した場合には、図3に示されるような高Bsを保持することが困難であった。そこで、本実施形態は磁性膜中にSを含有させ、その組成比を0.5wt%−1.0wt%の範囲で膜中に存在させる。Sを含有させることにより、結晶粒を微細化することができ、高Bsを実現することが可能となる。具体的に、(Fe:62wt%、Co:34.7wt%、Ni:2.4wt%、S:0.9wt%)、(Fe:75.6wt%、Co:23.2wt%、Ni:0.4wt%、S:0.8wt%)、(Fe:68wt%、Co:27.4wt%、Ni:4wt%、S:0.6wt%)のとき、Bs>2.4Tを得ることができた。これら3点のS以外の3つの元素の組成比を、図3上に示す。ここで、Sの組成比を1.0wt%より大きくするとBsが低下し、所望とする2.4Tより大きいBsを得ることができないという結果が得られた。
【0022】
Sの組成比を0.5wt%−1.0wt%とした別の理由を以下に示す。1.0wt%より大きくすると、Sの含有量が多く、膜の耐食性が劣化してしまうため1.0wt%以下とした。また図4に示すとおり、Sの含有量が0.5wt%より小さいと、急激に膜応力が大きくなってしまう。したがって、Sの含有量が0.5wt%より小さいと膜応力が大きく、薄膜で成膜するとはがれやすくなってしまうため、0.5wt%以上とした。
【0023】
また、本実施形態の薄膜磁気ヘッドの主磁極などに用いられる磁性膜の結晶粒は、結晶粒の膜面に平行な面の格子定数をa、膜面に垂直な面の格子定数をbとするときのa/bが0.995以下である。図5に歪量とBsとの関係を示す。図5に示されるとおり、a/b が0.995以下であると、所望とする2.4Tより大きいBsを得ることができる。
【0024】
次に、本実施形態の薄膜磁気ヘッドの製造方法について詳しく説明する。本実施形態の薄膜磁気ヘッドの主磁極を図6のめっき浴にて電気めっきする。図6に示すとおり、めっき浴にはCoイオン、Niイオン、Feイオンに加えSが錯体の形で含有されている。Sを含有するため、めっき浴にはサッカリンナトリウムが含有されている。そして、めっき浴中の電極に印加する電流密度は150mA/cm2以上であり、めっき浴のpHは2.0以下である。また、電気めっき時に電極に印加する電流は、直流の一定電流を印加するか、望ましくはパルス電流を印加する。パルス電流を用いるのは、電流密度を高くすると、DCの一定電流のみではめっきが異常成膜してしまうためである。具体的には、電流密度が高くなると、低電流密度の場合に比べめっきの反応が早くなり、界面近傍の供給イオンが早く消費されてしまい、めっきに異常が生じる。したがって、パルス電流を用いて電流をかけない時間(off time)を設けることにより、濃度を回復させ、正常なめっき成膜を可能とする。
【0025】
本実施形態の電気めっきの条件である図6の電流密度を150mA/cm2以上ではなく、6mA /cm2とした製造方法を比較例とする。図7に本実施形態により製造した磁性膜と比較例により製造した磁性膜とを膜厚方向にオージェ分析した結果を示す。本実施形態の製造方法により製造した磁性膜の膜中にはSが0.8wt%(1.4at%)取り込まれているが、比較例で作製した磁性膜の膜中には0.3wt%(0.5at%)しか取り込まれていない。つまり、本実施形態の製造方法により製造した磁性膜の膜中には比較例で作製した膜の2.5倍のSを含有している。電流密度が100mA/cm2以上で150mA/cm2より小さい場合でも、顕著にBsやμを高くすることはできず、所望とするSの含有量に至っていない。これより、電流密度が150mA/cm2より小さい場合、膜中にSが取り込まれにくいことがわかる。また、めっき浴中のSの含有量を大きくしても、電流密度が150mA/cm2より小さい場合、所望とするSの量をめっき膜中に取り込むことは困難である。
【0026】
めっき浴の電極に印加する電流密度が150mA/cm2以上のように大電流の場合、めっき速度が速く、めっきの異常成膜が生じ表面粗さなどに影響がある。そこで、pHを2.0以下とすると、めっき速度が低下し、異常成長を抑えることができる。さらに、pHを2.0以下とするとめっき膜が白濁しにくくなる。pHを2.0以下にするためには、pHを測定し、硝酸又は塩酸を入れることにより、pHの上昇を抑え制御する。なお、pHを0.8より小さくすると、浴中の水素イオンが多くなりすぎるため、電流密度が大きい電流を印加しても電圧が低くなり、正常にめっきすることができない。
【0027】
また、電流密度が150mA/cm2以上と高く、めっき速度が速いため、さらにN2バブリングやパドル攪拌をおこなうとよい。めっき膜の分布を均一に保つことができるからである。
【0028】
次に、従来法で作製しためっき膜と本実施形態によるめっき膜のX線回折を調べた。X線は広角X線回折により、膜厚方向(膜面に垂直な方向)の情報、面内X線回折により膜面内方向(膜面に平行な方向)の情報が得られる。
【0029】
図8にX線回折パターンを示す。いずれの膜もbcc構造由来の回折パターンが主として認められることから、bcc構造である。尚、指数の記載のないピークは、下地起因のピークである。
【0030】
図9にこの回折パターンから求めた結晶子径を示す。これより、本実施形態の製造方法により製造した磁性膜は比較例で作製した磁性膜と比較し、膜厚方向、膜面内方向いずれも結晶子が小さくなっていることがわかる。
【0031】
図10には図8のX線回折より求めた格子定数を示す。正立方晶では膜面に平行な面すなわち膜厚方向の格子定数をa、膜面に垂直な面すなわち膜面内方向の格子定数をbとするとa=bすなわちa/b=1である。比較例で作製した磁性膜はa/b=0.999であり、ほぼ正立方晶であるのに対し、本実施形態の製造方法により製造した磁性膜はa/b=0.994と膜厚方向に縮んでいる。また、同一面の格子定数を比較例で作製した磁性膜と比較すると、本実施形態の膜は膜面内方向に0.24%伸び、膜厚方向に0.28%縮んでいる。
【0032】
図11に本実施形態の製造方法により製造した磁性膜のB-Hカーブ(ヒステリシス曲線)と比較例で作製した磁性膜のB-Hカーブを示す。図11の実践部分は容易軸方向のカーブであり、点線部分は困難軸方向のカーブである。ここで、本実施形態の製造方法により製造した磁性膜は上記で説明した本実施形態の磁性膜である。また、比較例は、上記のようにSの含有量が十分ではなく、結晶粒径が大きく、結晶の歪みも生じていない磁性膜である。そして、本実施形態の製造方法により製造した磁性膜の方が、保磁力(困難軸:Hch、容易軸:Hce)が低下しており、Bsが高くなっている。また、2.4T以上の高いBsを得ることができている。つまり、Sの含有量が0.5wt%−1.0wt%の範囲内にあることや、結晶粒の微細化と結晶粒の歪みにより、軟磁気特性が改善される。また、異方性磁界は少し増加しているが、保磁力が大きく改善しているため、軟磁気特性は改善される。
【0033】
図12に本実施形態の製造方法により製造した磁性膜のμと、比較例で作製した磁性膜のμを示す。比較例で作製した膜のμは最大800であり、高周波数領域の1GHzで650であるのに対し、本実施形態の製造方法により製造した磁性膜のμは最大1200であり、高周波数領域の1GHzで900となっている。つまり、μの最大値は大きくなり、かつ、記録周波数の高周波数領域でのμも高く、さらに低下も少ない効果を有している。そのため、記録周波数を高周波数化しても本実施形態の磁性膜を用いれば、十分に高いμを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施形態の磁気ディスク装置の一例の概略図である。
【図2】本実施形態の薄膜磁気ヘッドの一例の概略図である。
【図3】FeCoNiめっき薄膜における、膜中のFe,Co,Ni濃度とBsの関係を示した図である。
【図4】本実施形態による膜中のイオウ(S)含有量と膜応力を示す図である。
【図5】本実施形態の磁性めっき薄膜の歪量と飽和磁束密度を示す図である。
【図6】本実施形態の電気めっき浴の条件を示す図である。
【図7】本実施形態及び比較例による磁性めっき薄膜のオージェ分析結果を示す図である。
【図8】本実施形態及び比較例による磁性めっき薄膜のX線回折結果を示す図である。
【図9】本実施形態及び比較例による磁性めっき薄膜の結晶子径を示す図である。
【図10】本実施形態及び比較例による磁性めっき薄膜の格子定数を示す図である。
【図11】本実施形態及び比較例による磁性めっき薄膜のB-Hカーブを示す図である。
【図12】本実施形態及び比較例による磁性めっき薄膜の透磁率μを示す図である。
【符号の説明】
【0035】
14…上部部磁気シ−ルド、15…再生用素子、 16…下部磁気シ−ルド、 17…ヨーク、 18…主磁極、 19…副磁極、 20…コイル、 21…シールド、 22…リターンポール、23…下部磁極
105…磁気記録媒体、 106…スピンドルモ−タ−、 107…薄膜磁気ヘッド、 108…アクチュエ−タ
109…ボイスコイルモ−タ、 110…サスペンション、 111…ガイドア−ム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも主磁極、ヨーク、リターンポールを含む記録ヘッドを有する薄膜磁気ヘッドであって、
前記主磁極、前記ヨーク、前記リターンポールの少なくとも一部の磁性膜が、Co、Ni及びFeのうち2種類以上の元素を含有し、さらにSを含有する磁性膜であり、
前記Sの組成比が0.5wt%−1.0wt%である、
薄膜磁気ヘッド。
【請求項2】
結晶粒の膜面に平行な面の格子定数aと膜面に垂直な面の格子定数bの比(a/b)が0.995以下である、
請求項1に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項3】
前記磁性膜の前記Coの組成比が10wt%−40wt%であり、前記Niの組成比が0wt%−5wt%であり、前記Feの組成比が55wt%−90wt%である、
請求項2記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項4】
請求項1記載の薄膜磁気ヘッドと、
前記薄膜磁気ヘッドがアクセスする磁気記録媒体とを、
少なくとも有する磁気ディスク装置。
【請求項5】
少なくとも主磁極、ヨーク、リターンポールを含む記録ヘッドを有する薄膜磁気ヘッドの製造方法であって、
前記主磁極、前記ヨーク、前記リターンポールの少なくとも一部の磁性膜を、Co、Ni及びFeのうち2種類以上のイオンを含有し、さらにSの錯体を含有し、pHが2.0以下であるめっき浴で、電流密度が150mA/cm2以上である電流を印加することにより成膜する、ことを特徴とする、
薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項6】
磁性膜成膜時に印加する電流はパルス電流であることを特徴とする、
請求項5に記載の薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記磁性膜の成膜時に、窒素バブリング及びパドル攪拌を行うことを特徴とする、
請求項5記載の薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項1】
少なくとも主磁極、ヨーク、リターンポールを含む記録ヘッドを有する薄膜磁気ヘッドであって、
前記主磁極、前記ヨーク、前記リターンポールの少なくとも一部の磁性膜が、Co、Ni及びFeのうち2種類以上の元素を含有し、さらにSを含有する磁性膜であり、
前記Sの組成比が0.5wt%−1.0wt%である、
薄膜磁気ヘッド。
【請求項2】
結晶粒の膜面に平行な面の格子定数aと膜面に垂直な面の格子定数bの比(a/b)が0.995以下である、
請求項1に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項3】
前記磁性膜の前記Coの組成比が10wt%−40wt%であり、前記Niの組成比が0wt%−5wt%であり、前記Feの組成比が55wt%−90wt%である、
請求項2記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項4】
請求項1記載の薄膜磁気ヘッドと、
前記薄膜磁気ヘッドがアクセスする磁気記録媒体とを、
少なくとも有する磁気ディスク装置。
【請求項5】
少なくとも主磁極、ヨーク、リターンポールを含む記録ヘッドを有する薄膜磁気ヘッドの製造方法であって、
前記主磁極、前記ヨーク、前記リターンポールの少なくとも一部の磁性膜を、Co、Ni及びFeのうち2種類以上のイオンを含有し、さらにSの錯体を含有し、pHが2.0以下であるめっき浴で、電流密度が150mA/cm2以上である電流を印加することにより成膜する、ことを特徴とする、
薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項6】
磁性膜成膜時に印加する電流はパルス電流であることを特徴とする、
請求項5に記載の薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記磁性膜の成膜時に、窒素バブリング及びパドル攪拌を行うことを特徴とする、
請求項5記載の薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−151833(P2009−151833A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326095(P2007−326095)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】
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