説明

薄膜電池のバリア層

基体と、基体上に形成された陽極電流コレクタ層及び陰極電流コレクタ層と、各々の電流コレクタ層の上部に形成され、それぞれ電気的に接続された陽極層及び陰極層と、陽極層と陰極層との間に形成された電解質層と、酸化スズ、リン酸スズ、フルオロリン酸スズ、カルコゲナイド・ガラス、テルライト・ガラス、又はホウ酸塩ガラスのような材料から成るバリア層とから成る薄膜電池であって、バリア層が薄膜電池層をカプセル封入して薄膜電池層が空気又は水分に暴露されるのを実質的に抑制又は防止するよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は「薄膜電池のバリア層」の名称で2009年1月29日出願の米国特許出願番号12/362,063の優先権を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は薄膜電池を密封する材料及び方法に関し、具体的には酸化スズ、リン酸スズ、フルオロリン酸スズ、カルコゲナイド・ガラス、テルライト・ガラス、及びホウ酸塩ガラスのうちの1つ以上によって形成されるバリア層から成る気密シールに関するものである。
【背景技術】
【0003】
薄膜電池は従来の電池とほぼ同様に機能するが、全体の厚さを1mm未満(例えば0.35〜0.65mm)にすることができ、例えば、従来のボタン電池の形状には向かない低電圧(1.5〜3.0V)用途に適している。薄膜電池は再充電可能であり、1回の放電におけるエネルギー要件を満足するサイズ以上に大きくする必要がないため重量及びコストを削減することができる。また、中心部が液体電解質である従来のリチウムイオン電池と異なり、薄膜電池は中心部が固体であるため電解質の漏洩の心配がなく、かつ熱に強い。薄膜電池は動作温度範囲が広く、例えば−20℃〜130℃であり、有害な作用を最小限に抑えて繰り返し充放電が可能である。このような特性及びその他の特性に基づいて、薄膜電池はマイクロ・エレクトロニクス及びMEMS業界における現用又は予備電源用途として非常に大きな可能性を秘めている。
薄膜電池は、極薄形状、低熱質量、広動作可能温度範囲、既存技術との製造の互換性等により、例えば、半導体加工における診断用ウェハー、埋込み型無線センサー、スマート・カード、アクティブ型無線(RFID)タグ、不揮発性メモリ・バックアップ、植込み型医療機器の電源を含む多様な用途に適している。このような小型の電力システムは無数の新しい無線機器を可能にする潜在能力を有しており、更なる用途には携帯電話、ラップトップ・コンピュータ、パーソナル電子アシスタント、ハイブリッド通信装置が含まれる。
【0004】
半導体用途において、薄膜電池を希望する形状及びサイズに直接チップ又はチップ・パッケージに配置することができる。例えば、パワー・ペーパー電池は、紙のような薄い基体に直接印刷可能であり、非常に柔軟性に富んでいる。更に、例えば、各々が約0.25〜1mmを占める個別のユニットとして、多数の薄膜電池を高密度にアレー配置することができる。平面薄膜電池をモジュールに実装することができる円筒又は角柱形に巻設又は積層することができる。このように構成上において柔軟性に富んでいるため、用途に応じて多数の電池を並列又は直列接続することができる。本発明によるバリア層を組み込むことにより、装置の製造中及び製造後において、個別にパッケージされた薄膜電池を欠陥率に影響されずに取り扱うことができる。
【0005】
前記に関わらず、薄膜電池の大幅な普及は容量の増大、サイクリング損失の低減、及び寿命の延長を含む、別の多くの課題に対処できるか否かにかかっている。例えば、薄膜電池の寿命は、電池パッケージの気密性の他に、電極及び電解質の温度及び電気化学的安定性のような要因に影響を受ける。
【0006】
気密性の要求は、主として一般に使用されているLi又はLiCのようなアルカリ金属を主成分とする陽極の反応的特性、特にこれ等の材料の空気及び水との有害な反応がきっかけとなっている。具体的には、空気又は水との反応により、危険な状態の惹起及び薄膜電池の性能低下を招く可能性がある。従って、装置の製造中及び製造後において、薄膜電池層、特に陽極材料が空気又は水に暴露されないようにすることが望ましい。
【0007】
バリア層の材料及びバリア層材料により薄膜電池を気密パッケージする方法が知られている。バリア層の目的は、高温多湿状態においても、陽極が空気や水に暴露されず元の状態を維持するよう空気及び水の浸透を大幅に低減することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記に鑑み、厳しい動作条件下において、リチウム薄膜電池を保護することができる改良型薄膜電池バリア層を提供することが有益である。例えば、前記動作条件には温度85℃、相対湿度85%下での1000時間以上の動作が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のこれ等及びその他の態様及び効果は、薄膜電池を高性能にカプセル封入する材料系及び方法によって達成することができる。このようなカプセル封入により、外部環境が故障の主たる要因でなくなり、薄膜電池、特にアルカリ金属を主成分とする薄膜電池の寿命を延ばすことができる。具体的には、本発明による高性能カプセル封入層が薄膜電池に組み込まれ、電池を構成する材料層、特にアルカリ金属を主成分とする陽極材料が気密封止される。
別の実施の形態によれば、バリア層材料の選択及びバリア層材料を組み込むための処理条件が柔軟であるため、バリア層が薄膜電池に悪影響を与えることはない。バリア層材料の例には酸化スズ、リン酸スズ、フルオロリン酸スズ、テルライト・ガラス、及びホウ酸塩ガラスが含まれる。他の薄膜堆積法を用いることもできるが、実施の形態において、前記材料の1つ以上又はその先駆体を室温スパッタリングすることによってバリア層を得ることができる。また、堆積方法を調整してバリア層の厚さ、正角性、及び化学量論を制御することができる。各種の薄膜電池構造に対応するため、堆積マスクを用いて適切なパターンのバリア層を製造することができる。別の方法として、従来のリソグラフィー及びエッチング技術を用いて一様な層からパターン化したバリア層を形成することができる。
【0010】
本発明の更なる特徴及び効果は以下の詳細な説明に述べてあり、当業者にとって以下の説明によりある程度明白になり、また詳細な説明、特許請求の範囲、及び添付図面を含む本明細書に記載の本発明を実施することにより認識することができる。
前記概要説明及び本発明の実施の形態を示す以下の詳細な説明は、特許請求した本発明の本質及び特徴を理解するための要旨及び構成の提供を意図したものである。添付図面は本発明の理解を深めるためのものであり、本明細書に組み込まれその一部を構成するものである。図面は本発明の各種実施の形態を示すものであり、本明細書の記述と合わせて本発明の原理及び作用の説明に役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態による薄膜電池の概約平面図。
【図2】実施の形態による薄膜電池の概約断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、単数冠詞「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明確に別に解釈されない限り、複数も意味するものとする。従って、例えば「バリア層材料」と言った場合、文脈上明確に別に解釈されない限り、2つ以上のかかる「材料」から成る例を含むものである。
【0013】
本明細書において、範囲は「約」1つの特定の値から及び/又は「約」別の特定の値と表記される。このような例の場合、1つの特定の値から及び/又は別の特定の値が含まれる。同様に、値が先行詞「約」を伴い概算表記された場合、その特定の値が別の態様を形成すると解釈されるものである。また、範囲の端点は他の端点との関係において有意であると共に他の端点とは独立したものである。
【0014】
別に明確に述べてない限り、如何なる方法もそのステップを具体的順序で実行する必要があると解釈されるべきではない。従って、従うべきステップ順序が実際に記述されていない方法の請求項の場合、あるいはステップが具体的順序に限定される旨が特許請求の範囲又は明細書中に別に明記されていない場合、特定の順序を暗示するものではない。
【0015】
また、本明細書における部品の記述は特定の方法で「構成された」ものである。この点において、かかる部品は特定の特性又は機能を特定の方法で具体化するために「構成された」ものであり、かかる記述は用途記述とは対照的な構造記述である。具体的には、本明細書において、「構成された」部品の記述はその部品の現存する物理的状態を意味するものであり、その部品の構造的特性を明確に記述したものであると解釈されるべきものである。
【0016】
本発明は基体と、基体上に形成された陽極電流コレクタ層及び陰極電流コレクタ層と、それぞれの電流コレクタ層に電気的に接続された陽極層及び陰極層と、陽極と陰極との間に形成され両者を隔絶するよう構成された電解質層とから成る薄膜電池に関するものである。電流コレクタ層、陽極、陰極、及び電解質層の上部に、各々の薄膜電池層を空気(O及びN)及び/又は湿気から保護するよう構成された気密シール(バリア層)が形成されている。本明細書において、「上部に形成されている」とは、1つ以上の介在層の有無に関わらず各々の層と層との間に少なくともある程度の重複があることを意味する。
気密層は実用上気密であり実質的に湿気を浸透させないと見なされる層である。例として、酸素の発散(拡散)を約10−2cm/m/日未満(例えば、10−3cm/m/日未満)、水分の発散(拡散)を約10−2g/m/日未満(例えば、約10−3、10−4、10−5、10−6g/m/日未満)に抑制するようバリア層を構成することができる。実施の形態において、陽極層に対する空気及び水分の接触がバリア層により実質的に阻止される。
【0017】
1つの実施の形態によれば、薄膜電池の形成方法が、基体上に陽極電流コレクタ層及び陰極電流コレクタ層を形成するステップと、陰極電流コレクタ層の上部に陰極層を形成するステップと、陰極層の上部に電解質層を形成するステップと、陽極電流コレクタ層及び電解質層の上部に陽極層を形成するステップと、陽極層及び電解質層の上部にバリア層を形成するステップとを有している。
薄膜電池の概略構成例を図1及び図2に示す。図1は薄膜電池の平面図であり、図2は対応する薄膜電池の部分断面図である。図2において、薄膜電池100はインジウム酸化スズ(ITO)のパターンが1つの面に形成された基体110を備えている。パターン化されたITO層により、各々が上部にそれぞれ陽極層126及び陰極層136が形成された陽極電流コレクタ層120及び陰極電流コレクタ層130が形成される。ITOの代わりに任意の適切な透明導電性酸化物により陽極及び陰極電流コレクタ層を形成することができる。1つの実施の形態によれば、電流コレクタ層の各々が間隔を設けた複数の導線を有することができる。陽極層126は、例えば、リチウム金属又はリチウム・カーバイド(LiC)から成ることができ、陰極層136は、例えば、LiCoO、LiMnO、LiFeO、LiNiO、及び/又はVから成ることができる。
固体電解質層140が陽極層126及び陰極層136に接触して形成され、陽極層を陰極層から電気的に隔絶するよう構成されている。電解質層は、例えば、リチウムホスホロスオキシナイトライド(LiPON)から成ることができる。
陽極層及び陰極層の各々が周囲の空気(O)又は水分と接触しないようにするため、バリア層150が両者の上部に形成されている。 バリア層は酸化スズ, リン酸スズ, フルオロリン酸スズ, タングステンをドープしたフルオロリン酸スズ, カルコゲナイド・ガラス, テルライト・ガラス 、及びホウ酸塩ガラスのうちの1つ以上から形成することができる。実施の形態において、バリア層が、例えば、SnO、SnOとP、又はBPOとの混合物のような、Sn2+含有無機酸化物材料から成ることができる。例えば、バリア層は60〜100モル%のSnO(例えば、60、70、80、90、又は100モル%)及び0〜40モル%のP(例えば、0、10、20、30、又は40モル%)から成ることができる。別の実施の形態において、Sn2+含有無機酸化物が59〜85重量%のSn、0〜13重量%のP、6〜25重量%のO、及び0〜12重量%のFから成っている。
【0018】
バリア層の組成にタングステン及び/又はニオビウムのようなドーパントを含めることができるが、重金属及びその他環境に好ましくない材料を実質的に含まないようにすることができる。タングステン及び/又はニオビウムのドーパントを使用する場合、その濃度範囲は約0.01〜15重量%である。例示のスズ−フルオロリン酸塩ガラスは20〜85重量%のSn、2〜20重量%のP、10〜36重量%のO、10〜36重量%のF、及び0〜5重量%のNbから成っている。実施の形態において、前記組成のSn+P+O+Fの合計が少なくとも75%である。ニオビウムをドープしたスズ−フルオロリン酸塩ガラスの例は22.42重量%のSn、11.48重量%のP、42.41重量%のO、22.64重量%のF、及び1.05重量%のNbから成っている。タングステンをドープしたスズ−フルオロリン酸塩ガラスの例は55〜75重量%のSn、4〜14重量%P、6〜24重量%のO、4〜22重量%のF、及び0.15〜15重量%のWから成っている。
前記バリア層材料の更なる側面は、ここに引用することによりそっくりそのまま本明細書に組み込まれたものとする、共同所有の米国特許出願第61/130506号明細書、米国特許出願公開第2007/0252526号明細書及び第2007/004050号明細書に開示されている。
本発明のバリア層は、Li金属及びLiイオンを主成分とする薄膜電池を外部環境から保護することができ、水分及び/または空気との有害な反応を実質的に阻止又は防止することにより電池の寿命を延ばすことができる。また、バリア層によって効率的かつ省スペースのパッケージ化が可能となり、従来の封止方法による薄膜電池と比較して、体積エネルギー、質量エネルギー、及び電力密度が向上した薄膜電池を製造することができる。
【0019】
実施の形態による薄膜電池全体の厚さは、カプセル封入前において、約320ナノメートル〜100マイクロメートルである。例えば、カプセル封入されていない薄膜電池全体の厚さは約2〜10マイクロメートル(例えば、約2、3、4、5、6,7、8、9、又は10マイクロメートル)である。また、薄膜電池構造内において、個々の層の厚さはそれぞれ異なることができる。全体の厚さ範囲の下端において、薄膜電池は、例えば、厚さ約20nmの電流コレクタ層と厚さがそれぞれ約100nmの陽極層、陰極層、及び電解質層とから成ることができる。
電流コレクタ層の厚さは約20〜1000nm(例えば、約20、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、又は1000nm)である。陰極層の厚さは約5〜5000nm(例えば、約5、10、20、50、100、200、300、400、500、1000、2000、3000、4000、又は5000nm)であり、陽極層の厚さは約100〜2000nm(例えば、約100、200、300、400、500、1000、又は2000nm)である。
【0020】
バリア層の平均の厚さは約2〜5マイクロメートル(例えば、約2、3、4、又は5マイクロメートル)であるが、実施の形態によれば、その範囲を約100nm〜35マイクロメートル(例えば、約100、200、500、1000、2000、5000、10000、20000、又は35000nm)とすることができる。
【0021】
薄膜電池の気密シールを形成する方法は柔軟性に富み、例えば、二次元及び三次元のパターン化された薄膜電池アレーを含む、多数の異なる薄膜電池構造をカプセル封入できると共に、薄膜電池下部層に都合よく適合させることができる。更に、本方法はシンプルであり、多数の異なる気密シール組成に適応できるため、陽極層及び陰極層の両方に対し容易に適合させることができる。
【0022】
本発明のバリア層はアルカリ金属の急激な酸化を実質的に抑制することができるため、固体電解質のリチウムを主成分とする電池の高エネルギー密度化及び再充電性が得られる。超薄膜バリア層によりパターン化されたフォーマットで薄膜電池を製造できるため、従来のリチウムを主成分とする大容量の電池を損傷する可能性がある「暴走」化学連鎖反応を低減することができる。特に、1つの薄膜電池のリチウム金属の含有量を低減すると共に、多数のパターン化された薄膜電池アレーを所定の基体上において接続することにより、適切なエネルギー密度を達成することができる一方、重大故障の可能性を抑制することができる。例えば、装置が破損した場合、粒子割れや断層線の広がりがリチウム含有材料の僅かな部分に留まるため酸化を軽微なものに抑えることができる。
本発明のバリア層を有する薄膜電池は、低湿度又は高湿度条件下(例えば、相対湿度0〜100%)において、広い温度範囲(例えば、−20〜130℃)にわたり長時間動作可能である。 例えば、相対湿度50、60、70、80、又は90%以上において、動作温度50、60、70、80、又は90℃以上で動作することができる。達成可能な寿命は1000時間以上である。
【0023】
各々の層(例えば、電流コレクタ層、陽極層、陰極層、電解質層、及びバリア層)は従来の真空蒸着法によって形成することができ、それによって反応性層が周囲環境に暴露される前に直接カプセル封入することができる。その例には化学又は物理気相成長法、フラッシュ蒸着法、レーザーアブレーション法、及び共蒸着法がある。物理気相成長(PVD)法には、例えば、反応性又は非反応性スパッタリング法がある。スパッタリングにおいて、マグネトロン、DC、RF、又はパルスDC電源のような従来の電源を用いてターゲットに対しイオン(例えば、Ar)流を生成することができる。各種電池層組成に対し、溶融パウダー・ターゲット又はプレスト・パウダー・ターゲットとして、適切なスパッタ・ターゲットを形成することができる。
【0024】
一部の用途において、スパッタ・ターゲットの組成がスパッタリングによって形成された薄膜の組成と異なっている。例えば、フルオロリン酸スズ系において、形成された薄膜の組成が、例えば、異なるスパッタ速度及び/又はスズ、酸素、フッ素、及びリン各々の取込み能力によって、対応するスパッタ・ターゲットの組成と比較して、フッ素及びリンが激減している。例として、限定されたフルオロリン酸スズ・スパッタ・ターゲットの組成と対応する薄膜バリア層の組成(モル%)を表1に示す。
【表1】

【実施例】
【0025】
以下の実施例により本発明が更に明確になる。再び図2において、バリア層を有する薄膜電池100を形成する方法が、陽極及び陰極電流コレクタ120、130となる、分離パターン化されたインジウム酸化スズ層が上部に形成された基体110を用意するステップを有している。
陰極層136が陰極電流コレクタ130の上部に形成されている。適切にパターン化されたマスクを通して、陰極材料から成るプレスト・パウダー・ターゲットをスパッタリングすることによって形成できる陰極層136はLiCoOあるいは、例えば、LiMnO、LiFeO、LiNiO、又はVから成ることができる。RFマグネトロンスパッタ装置において、LiCoO陰極層を形成するための例示的なスパッタリング条件としては、電力が約50W、チャンバー圧力が約3ミリトル(例えば、0.5〜5ミリトル)、スパッタ時間が100%純アルゴン中において1〜3時間である。ターゲットをスパッタリングする間、基体を約−15〜120℃に維持することができる。形成される薄膜電池の短絡を防止するため、陰極層136と陽極電流コレクタ120との接触が防止されるよう陰極層のマスクを構成する必要がある。陰極層を形成した後、陰極層の結晶化に有効な条件下で構造体をアニールすることができる(例えば、空気中において300℃で2時間)。
陰極層を形成した後、例えば、適切なマスクを通してプレスト・パウダー・ターゲットをスパッタリングすることにより、電解質層140を形成する。電解質層を形成するための例示的なスパッタリング条件としては、電力が約50W、チャンバー圧力が約0.5ミリトル(例えば、0.1〜5ミリトル)、スパッタ時間が100%純窒素中において1〜3時間である。純窒素雰囲気中において、反応性スパッタリングにより、LiPOから成るスパッタ・ターゲットを用いてLiPONから成る電解質層を形成することができる。
電解質層140を形成した後、陽極電流コレクタ120の上部に陽極層126を形成する。陽極層126と陰極層136とのエリアル・レジストリー(重複)が最大となるよう陽極層126を電解質層140の上部にも形成することが好ましい。リチウム金属を用いて形成された陽極層の例において、リチウムを入れたるつぼを抵抗加熱することにより陽極層が形成される。蒸発したリチウムを陽極電流コレクタ上に直接蒸着させると共に適切なマスクを通して電解質層層上に蒸着させる。
陰極層、陽極層、電解質層の上部に、これ等の層が完全に密封されるようにバリア層150を形成する。本質的に酸素及び水分を浸透させない材料を用いてバリア層を形成することが好ましく、また形成されたバリア層に酸素及び/又は水分を浸透させるような欠陥が実質的にないことが好ましい。
バリア層をスパッタリングする間、真空チャンバーに酸素(O)及び水分(HO)が実質的に存在していないことが好ましい。バリア層を形成するためのスパッタリング時間は45分〜24時間である。バリア層の蒸着速度は0.1〜10オングストローム/秒である。バリア層の材料は陰極材料、陽極材料、及び電解質材料に反応しないことが好ましい。
【0026】
バリア層150は酸化スズ, リン酸スズ, フルオロリン酸スズ, カルコゲナイド・ガラス, テルライト・ガラス、ホウ酸塩ガラス等の材料から形成することができる。バリア層材料の融解温度は約1000℃未満(例えば、約1000、900、800、700、600、500、又は400℃未満)である。バリア層は単一かつ均質層であって、アモルファス層又は結晶層であってよい。例えば、バリア層はアモルファス酸化スズ(例えばSnO)から成ることができる。また、バリア層は複合層であってもよい。複合バリア層は組成、結晶化度、結晶粒度及び形状、結晶配向、屈折率、濃度、欠陥の種類及び数等を含む、1つ以上の空間的に変化する特性を有することができる。
バリア層を形成した後、任意のパッシベーション・ステップ(例えば、熱強化処理)により、形成中に生じたバリア層の欠陥を修理することができる。そのような欠陥にはピンホール、亀裂等がある。パッシベーション・ステップを実行する場合、下部の薄膜電池層に対して無害であることが好ましく、例えば、バリア層を制御された温度、湿度、及び/又は制御された量の酸素に暴露することが含まれる。パッシベーションにより、バリア層の露出面に個別のパッシベーション層が形成される場合がある。
例として、蒸気カマド(例えば、85℃、相対湿度85%)内又は水槽(例えば、室温)内における薄膜電池蒸着後処理によって、形成されたままのバリア層に対しパッシベーション処理を施すことができる。別の方法として、バリア層の形成に用いた真空チャンバーには100%酸素や水分が存在しない訳ではないため、パッシベーションがその場で行われる(即ち、バリア層の形成中に、その酸素及び/又は水分を初期成長膜に反応させる)場合もある。かかるその場パッシベーションを継続し、前記の蒸気カマド又は水槽を用いた蒸着後処理において加速することができる。
パッシベーション層はアモルファス層又は結晶層であって、酸化によってバリア層表面の近傍領域に形成されるものである。従って、パッシベーション層はバリア層の表面を適切に改質することによって形成することができる。アモルファス酸化スズ(例えば、SnO)から成るバリア層の例において、パッシベーション層は結晶酸化スズ(例えば、SnO)から成っている。バリア層表面の酸化により、厚さが約100nm〜1マイクロメートルのパッシベーション層が形成される。バリア層全体(パッシベーション層+下部のバリア層)の厚さに対するパッシベーション層の厚さの比率は0〜約50%(例えば、0、1、2、5、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50%)である。
実施の形態において、薄膜電池の製造中における汚染、並びに空気及び/又は水分に対する暴露を抑制するため、成膜ステップ、アニーリング・ステップ、及び任意のパッシベーション・ステップが1つの真空チャンバー内又はクラスタ・ツール内で実施される。このような装置を使用することにより、バリア層を形成し終えるまで真空状態が中断されることなく一連の成膜ステップを実行することができる。例えば、クラスタ・ツールの場合、内部において1回以上の真空状態の中断により、薄膜電池の中間層が不活性環境(例えば、チャンバー間の搬送中)に暴露されるが、これ等の層が高濃度(例えば、周囲)の空気及び/又は水分に暴露されるような真空状態の中断を避けることができるので好ましい。このように、クラスタ・ツールを使用することにより、陽極電流コレクタ層、陰極電流コレクタ層、陰極層 陽極層、電解質層、及びバリア層を周囲環境に暴露することなく形成することができる。
本発明の精神及び範囲を逸脱せずに本発明に対し各種改良及び変更が可能であることは当業者にとって明らかである。当業者にとって、本明細書に開示の実施の形態に対する、本発明の精神及び本質を組み込んだ改良、組合せ、部分的組合せ、及び変形が想起可能であるため、本発明は添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲に属するすべてのものを含むものと解釈される。
【符号の説明】
【0027】
100 薄膜電池
110 基体
120 陽極電流コレクタ層
126 陽極層
130 陰極電流コレクタ層
136 陰極層
140 電解質層
150 バリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
前記基体上に形成された陽極電流コレクタ層及び陰極電流コレクタ層と、
前記陰極電流コレクタ層の上部に形成された陰極層と、
前記陰極層の上部に形成された電解質層と、
前記陽極電流コレクタ層及び前記電解質層の上部に形成された陽極層と、
前記陽極層及び前記電解質層の上部に形成されたバリア層であって、酸化スズ、リン酸スズ、フルオロリン酸スズ、カルコゲナイド・ガラス、テルライト・ガラス、及びホウ酸塩ガラスから成る群から選択される材料から成るバリア層と、
を有して成る薄膜電池。
【請求項2】
前記陽極電流コレクタ層及び陰極電流コレクタ層がインジウム酸化スズから成ることを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項3】
前記陰極層がLiCoO、LiMnO、LiFeO、LiNiO、及び/又はVから成ることを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項4】
前記陽極層がリチウム金属又はLiCから成ることを特徴とする請求項1記載の電池。
【請求項5】
基体上に陽極電流コレクタ層及び陰極電流コレクタ層を形成するステップと、
前記陰極電流コレクタ層の上部に陰極層を形成するステップと、
前記陰極層の上部に電解質層を形成するステップと、
前記陽極電流コレクタ層及び電解質層の上部に陽極層を形成するステップと、
前記陽極層及び電解質層の上部にバリア層であって、酸化スズ、リン酸スズ、フルオロリン酸スズ、カルコゲナイド・ガラス、テルライト・ガラス、 及びホウ酸塩ガラスから成る群から選択される材料から成るバリア層を形成するステップと、
を有して成る薄膜電池形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−516549(P2012−516549A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548320(P2011−548320)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/022493
【国際公開番号】WO2010/088454
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】