薬剤送達のためのリポソームおよびその調製方法
本発明は、治療薬のような生理活性物質の送達に有用なリポソームを提供する。特に、本発明のリポソームは、ホスホリパーゼA2(PLA2)がリポソームの脂質を加水分解するため、分泌型ホスホリパーゼA2(sPLA2)活性の上昇した部位にその内容物(payload)を送達することができる。従って、本発明のリポソームは、例えば、癌治療に関連して使用されうる。本発明の他の態様は、本発明のリポソームを含むリポソーム製剤である。更なる他の態様は、本発明のリポソーム製剤を調製する方法である。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
リポソームは、1980年代に薬剤送達ベヒクル/システムとして開発された微小球体である。最初のリポソーム性医薬品は、1990年代に商業用に認可された。
【0002】
リポソームは、例えば薬剤のような様々な化合物を運ぶために使用され得る3つの異なる区画を有する:すなわち、内部の水性区画;疎水性二重層;ならびに内膜および外膜の極性を有する相間である。封入されるべき化合物の化学的性質に応じて、それはいずれかの区画に局在するであろう。現在、市販されているいくつかの非経口リポソーム‐薬剤製剤がある。水溶性の薬剤はリポソームの水性区画に局在する傾向があり、リポソームに封入される薬剤の例は、例えば、ドキソルビシン(Doxil)、ドキソルビシン(Myocet)およびダウノルビシン(DaunoXone)である。リポソーム膜に挿入される薬剤の例は、例えば、アンフォテリシンB(AmBisome)、アンフォテリシン(Albelcet B)、ベンゾポルフィリン(Visudyne)およびムラミルトリペプチド-ホスファチジルエタノールアミン(Junovan)である。
【0003】
リポソーム技術は、このように、例えば薬剤の溶解度を上昇させる、薬剤の毒性を低減させる、標的化薬剤放出を改善するなどのような、薬理学上の問題を解決するための合理的な解決方法を提供している。
【0004】
薬剤送達ベヒクルとしてのリポソームの特性は、それらの表面電荷、透過性、溶解度、安定性などに著しく依存し、それはリポソーム組成に含まれる脂質によって大きく影響される。加えて、リポソームに封入されるべき薬剤は、安定したリポソーム製剤の調製において考慮されるべき更なる要件を必要としうる。
【0005】
安全性および薬効に関する考慮は、リポソーム製剤がそれらの特性を維持すること、すなわち調製時から投与時まで安定性を保つことを必要とする。更に、このような製剤は、薬剤が特異的に放出される標的部位にそれらが到達するまで、治療される被験者での輸送の間、無傷であることが望ましい。従って、今なお、改良されたリポソーム製剤を得る必要性がある。
【発明の概要】
【0006】
第一の態様では、本発明は、治療薬のような生理活性物質の送達に有用なリポソームを提供する。特に、ホスホリパーゼA2(PLA2)がそのリポソームの脂質を加水分解するため、本発明のリポソームは、分泌型ホスホリパーゼA2(sPLA2)活性の上昇した部位にそれらの封入物(payload)を送達することができる。従って、本発明のリポソームは、例えば、癌治療に関連して使用されうる。本発明の第二の態様は、本発明のリポソームを含有するリポソーム製剤である。更なる他の態様は、本発明のリポソーム製剤を調製する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本発明を、図面を参照しながら下記に詳細に説明する。
【図1】室温で保存する間、10%ショ糖および1 mMグルコン酸カルシウムを含有する溶液中に保存されたオキサリプラチン(oxaliplatin)のUVスペクトルを示す。
【図2】室温で保存する間、10%ショ糖および1 mMグルコン酸カルシウムを含有する溶液中に保存されたオキサリプラチン(図1)の、254 nmでの相対吸光度(数日後/0日目)を示す。
【図3】細胞培地(McCoy)中37℃で24時間保存した後の、シスプラチン(A)またはオキサリプラチン(B)を含有するリポソーム(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)からの漏出に対する、様々なグルコン酸カルシウム濃度の影響を示す(主軸)。初期の封入度(DOE)は副軸に示される。
【図4】1 mMグルコン酸カルシウムを含有するリポソーム(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)封入シスプラチンの細胞毒性を示す。HT-29結腸癌細胞を、シスプラチン、またはsPLA2の存在下もしくは非存在下でのリポソーム封入シスプラチンで6時間(37℃)処理した。
【図5−1】様々な濃度のグルコン酸カルシウム((A)5 mMグルコン酸カルシウム、(B)1 mMグルコン酸カルシウム)を含有するリポソーム(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)封入オキサリプラチンの細胞毒性を示す。HT-29結腸癌細胞を、オキサリプラチン、またはsPLA2の存在下もしくは非存在下でのリポソーム封入オキサリプラチンで6時間(37℃)処理した。
【図5−2】様々な濃度のグルコン酸カルシウム((C)0.1 mMグルコン酸カルシウム、(D)0.01 mMグルコン酸カルシウム)を含有するリポソーム(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)封入オキサリプラチンの細胞毒性を示す。HT-29結腸癌細胞を、オキサリプラチン、またはsPLA2の存在下もしくは非存在下でのリポソーム封入オキサリプラチンで6時間(37℃)処理した。
【図5−3】様々な濃度のグルコン酸カルシウム((E)0 mMグルコン酸カルシウム)を含有するリポソーム(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)封入オキサリプラチンの細胞毒性を示す。HT-29結腸癌細胞を、オキサリプラチン、またはsPLA2の存在下もしくは非存在下でのリポソーム封入オキサリプラチンで6時間(37℃)処理した。
【図6】様々な濃度のグルコン酸カルシウムを含有するリポソーム(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)封入シスプラチンの細胞毒性を示す。HT-29結腸癌細胞を、sPLA2の存在下または非存在下でのシスプラチンで24時間(37℃)処理した。
【図7】カルシウムを含有しないオキサリプラチンを封入したリポソーム(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)における室温で24時間後の粒径の変化をカルシウム濃度の関数として示す。脂質濃度は0.84 mMに維持した。
【図8】カルシウムを含有しないリポソーム封入オキサリプラチン製剤(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)からの室温で24時間後の漏出をカルシウム濃度の関数として示す。脂質濃度は0.84 mMに維持した。
【図9】0.5mol% NBD-PEを含有するDSPC/DSPG/DSPE-PEG LUVの蛍光強度の25℃での時間依存性を示す。矢印は、亜ジチオン酸塩、カルシウムおよびTriton-X100の添加を示す。
【図10】5 mol% DSPE-PEG2000およびDSPCを含有するリポソーム化オキサリプラチン製剤における超音波処理ステップから第一透析ステップ(10%ショ糖)の間の粒径の変化をDSPGの関数として示す。
【図11】5 mol% DSPE-PEG2000およびDSPCを含有するリポソーム化オキサリプラチン製剤における第一透析ステップ(10%ショ糖)から第二透析ステップ(10%ショ糖+グルコン酸カルシウム)の間の粒径の変化をDSPGの関数として示す。
【図12】DSPCおよび5 mol% DSPE-PEG2000を含有するリポソーム化オキサリプラチン製剤における超音波処理から第二透析ステップ(10%ショ糖+/-グルコン酸カルシウム)の間の粒径の変化をDSPGの関数として示す。
【図13】5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々な量のDSPCおよびDSPGを含有するリポソーム化オキサリプラチン製剤における第一透析ステップ(10%ショ糖溶液)後のイオン計数比(Pt195/P31)を示す。
【図14】5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々な量のDSPCおよびDSPGを含有するリポソーム化オキサリプラチン製剤における第二透析ステップ(10%ショ糖溶液±1 mMグルコン酸カルシウム)後のイオン計数比(Pt195/P31)を示す。
【図15】カルシウムを含んで透析された製剤と比較した、カルシウムを含まない溶液中で透析された製剤におけるイオン計数比(Pt195/P31)の差異%を示す(図14参照)。
【図16】5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々な量のDSPCおよびDSPGを含有するリポソーム化オキサリプラチン製剤の第二透析(10%ショ糖溶液±1 mMグルコン酸カルシウム)後の透析液におけるPt濃度を示す。
【図17】最終リポソームサイズと製剤中のオキサリプラチン濃度との相関を示す。リポソーム化オキサリプラチン製剤(5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々な量のDSPCおよびDSPG)を、透析の間1 mMグルコン酸カルシウムの存在下または非存在下で調製した(図14参照)。
【図18】リポソーム化オキサリプラチン製剤(5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々な濃度のDSPCおよびDSPG)のMcCoy細胞培地(37℃で24時間インキュベーション)中での安定性を示す。
【図19】グルコン酸カルシウム非存在下でのリポソーム封入オキサリプラチン(60/35/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)製剤の1.-6. DSCスキャンを示す。スキャン速度:20℃/h。
【図20】5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々なDSPCおよびDSPG濃度を含有する、グルコン酸カルシウム非存在下でのリポソーム封入オキサリプラチン製剤のDSCスキャン(第一スキャン)を示す。スキャン速度:20℃/h。
【図21】外部に1 mMグルコン酸カルシウムを含むリポソーム封入オキサリプラチン(60/35/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)製剤の1.-6. DSCスキャンを示す。スキャン速度:20℃/h。
【図22】5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々なDSPCおよびDSPG濃度を含有し、外部に1 mMグルコン酸カルシウムを含むリポソーム封入オキサリプラチン製剤のDSCスキャン(第一スキャン)を示す。スキャン速度:20℃/h。
【図23】オキサリプラチンを封入したリポソームのa)第一透析ステップおよびb)第二透析ステップ(1 mMグルコン酸カルシウムを含有する10%ショ糖溶液)後の透析物におけるPt濃度を示す。
【図24】内部と外部との両方に1 mMグルコン酸カルシウムを含むリポソーム封入オキサリプラチン(60/35/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)製剤の1.-6. DSCスキャンを示す。スキャン速度:20℃/h。
【図25】5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々なDSPCおよびDSPG濃度を含有し、内部と外部との両方に1 mMカルシウムを含むリポソーム封入オキサリプラチン製剤のDSCスキャン(第一スキャン)を示す。スキャン速度:20℃/h。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のリポソーム
例えば癌性疾患において誘発性薬剤放出を得るための1つのアプローチは、癌組織の近傍における分泌型ホスホリパーゼA2(sPLA2)レベルの上昇を利用することである。従って、リポソームの脂質組成を慎重に設計することにより、一旦腫瘍内に蓄積されたリポソームがsPLA2によって分解可能になり、誘発性放出を可能にする。
【0009】
本発明の目的は、リポソーム膜の漏出による制御されていない送達および/または早過ぎる放出を減少させ、標的部位にそれらの内容物(payload)(例えば薬剤)を送達しうる、安定性が改善したリポソームおよびリポソーム製剤を提供することである。別の目的は、保存の間の安定性が上昇したリポソームおよびリポソーム製剤を提供することである。
【0010】
リポソームの陰イオン性脂質
第一の態様では、本発明は、25%〜45%(mol/mol)の陰イオン性脂質を含有するリポソームを提供する。本発明者らは、陰イオン性脂質の含量が、sPLA2を介したリポソームの脂質加水分解の速度およびリポソームへの免疫反応のような、リポソームの重要な特性に影響を及ぼすことを考慮している。
【0011】
陰イオン性脂質の含量が増加すると、sPLA2による脂質加水分解の速度(および薬剤の放出)も上昇する。妥当な加水分解速度は25%〜45%の陰イオン性脂質含量によって実現され得ることが実証された。従って、1つの実施形態では、陰イオン性脂質の含量は少なくとも25%である。別の実施形態では、陰イオン性脂質の含量は45%以下である。更に別の実施形態では、リポソームの陰イオン性脂質含量は、25%〜45%、25%〜42%、28%〜42%、30%〜40%、32%〜38%および34%〜36%からなる群より選択される。%含量という場合、言及は、特に他に記載されない限りmol/mol%のことである。
【0012】
述べたように、リポソームに対する免疫反応もまた、陰イオン性脂質の含量によって影響を受ける。従って、体内でのリポソームのクリアランス速度は、リポソーム中の陰イオン性脂質の含量を一定レベル以下に保つことによって低下され、本発明者らは、リポソーム中の陰イオン性脂質の含量が、sPLA2の脂質加水分解速度と細網内皮系によるクリアランスとのバランスをとるように使用され得ることを認識している。
【0013】
好ましくは、陰イオン性脂質はリン脂質であり、好ましくは、リン脂質は、PI(ホスファチジルイノシトール)、PS(ホスファチジルセリン)、DPG(ビスホスファチジルグリセロール)、PA(ホスファチジン酸)、PEOH(ホスファチジルアルコール)、およびPG(ホスファチジルグリセロール)からなる群より選択される。より好ましくは、陰イオン性リン脂質はPGである。
【0014】
親水性ポリマー
好ましい実施形態では、リポソームは更に、PEG [ポリ(エチレングリコール)]、PAcM [ポリ(N-アクリロイルモルホリン)]、PVP [ポリ(ビニルピロリドン)]、PLA [ポリ(ラクチド)]、PG [ポリ(グリコリド)]、POZO [ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)]、PVA [ポリ(ビニルアルコール)]、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、PEO [ポリ(エチレンオキシド)]、キトサン[ポリ(D-グルコサミン)]、PAA [ポリ(アミノ酸)]、ポリHEMA [ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)]およびこれらの共重合体からなる群より選択される親水性ポリマーを含有する。
【0015】
最も好ましくは、ポリマーは、100 Da〜10 kDaの分子量を有するPEGである。特に好ましくは、2〜5 kDaのPEGサイズ(PEG2000〜PEG5000)であり、最も好ましくは、PEG2000である。
【0016】
リポソームへのポリマーの含有は当業者にとって周知であり、おそらく細網内皮系によるクリアランスを低下させることによって、血流中のリポソームの半減期を延長するために使用され得る。
【0017】
好ましくは、ポリマーはホスファチジルエタノールアミンの頭部基とコンジュゲートされる。別の選択肢はセラミドである(この脂質はPLA2によって加水分解され得ないが)。
【0018】
ポリマーにコンジュゲートされた脂質は、好ましくは少なくとも2%の量で存在する。より好ましくは、その量は5%以上15%以下である。更により好ましくは、ポリマーにコンジュゲートされた脂質の量は、3%以上6%以下である。陰イオン性リン脂質および≦2.5%のDSPE-PEG2000を含有するリポソームは、カルシウムの存在下で凝集する傾向が増加していた。これは通常、高粘性ゲルの形成によって観察され得る。陰イオン性リン脂質および>7.5%を含有するリポソームは、リポソームに沈殿または相分離を生じる。従って、別の好ましい範囲(window)は、2.5%〜7.5%である。
【0019】
リポソーム中の中性荷電脂質成分
好ましくは、本発明のリポソームはまた、PC(ホスファチジルコリン)およびPE(ホスファチジルエタノールアミン)を含む両性イオン性リン脂質からなる群より選択される非荷電性リン脂質をも含有する。最も好ましくは、両性イオン性リン脂質はPCである。
【0020】
陰イオン性リン脂質とは異なり、両性イオン性リン脂質は、リポソーム中で電荷中性のsPLA2加水分解性脂質成分として機能する。同じリポソーム中で両性イオン性および陰イオン性リン脂質を組み合わせることによって、十分に高いsPLA2加水分解と血中での低いクリアランス速度との両方に応じる望ましい表面電荷密度に調整することが可能である。
【0021】
リポソーム中の両性イオン性リン脂質の量は、好ましくは40%〜75%であり、より好ましくは50%〜70%である。
【0022】
エーテル型リン脂質
一部またはすべてのリン脂質は、エーテル型リン脂質でありうる。
【0023】
従って、それらは、リン脂質のグリセロール骨格のsn-1位にエステル結合ではなくエーテル結合を有しうる。sPLA2がこの特殊な型のリン脂質を加水分解すると、モノエーテルリゾリン脂質が産生され、これらは例えば癌細胞に対して毒性を有する。すなわち、エーテル型リン脂質はモノエーテルリゾリン脂質のプロドラッグと見なすことができ、本発明のリポソームを使用して、このようなプロドラッグを癌細胞のsPLA2上昇環境に送達することができ、そこでプロドラッグはsPLA2加水分解によって活性化される。エーテル型リン脂質はEP 1254143およびWO 2006/048017に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0024】
他のプロドラッグ
リゾ脂質を生じるためにsPLA2によって脂質から放出される部分もまた、薬剤でありうる。従って、リポソームは、モノエーテルリゾ脂質のプロドラッグ、sPLA2によって脂質から放出されるプロドラッグ、および更に下記において概説されるような他の治療薬を含有しうる。
【0025】
安定化剤
リポソームはまた、リポソームの膜成分としてコレステロールを含めることによって安定化されうる。しかし、リポソーム中の多量のコレステロールはPLA2による加水分解に悪影響を及ぼすため、リポソームは20%または10%以下のコレステロールを含有することが好ましい。更により好ましくは、リポソームは、1%未満のコレステロール、0.1%未満のコレステロールを含有する、またはコレステロールをまったく含有しない。
【0026】
リポソームを構成する脂質のアルキル鎖長は、最適なPLA2加水分解速度および封入化合物のリポソームからの最小限の漏出のために調整されうる。好ましくは、アルキル鎖はC18またはC16飽和鎖である。
【0027】
本発明のリポソームは、好ましくは第三の態様の方法によって調製され、そこではリポソームが二価陽イオンへの暴露によって安定化される。
【0028】
上述のように、リポソームは、モノエーテルリゾ脂質のプロドラッグおよび/またはリゾ脂質を生じるためにsPLA2によって脂質から放出される部分のプロドラッグを含有しうる。
【0029】
好ましい実施形態では、リポソームは、モノエーテルリゾリン脂質のプロドラッグまたはモノエーテルリゾリン脂質ではない、治療薬(薬剤)などの生理活性化合物を含有する。リポソームはまた、モノエーテルリゾリン脂質のプロドラッグおよび治療薬を含有しうる。好ましい生理活性化合物は、小分子、ペプチド、タンパク質ならびにプラスミドおよびオリゴヌクレオチドなどの核酸である。好ましいタンパク質の種類は抗体であり、より好ましくはモノクローナル抗体である。好ましいオリゴヌクレオチドは、アプタマー、アンチセンスオリゴヌクレオチド、マイクロRNAおよびsiRNAである。特に重要な化合物の種類は、アントラサイクリン誘導体、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ドキソルビシン、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、エクシスリンド、cis-レチノイン酸、硫化スルジナック(suldinac sulphide)、メトトレキサート、ブレオマイシンおよびビンクリスチンなどの小分子抗腫瘍薬である。他の特に重要な種類は抗生物質および抗真菌薬であり、更に他の種類はステロイドおよび非ステロイドなどの抗炎症薬である。リポソームは、1種、2種、3種またはそれ以上の異なる生理活性化合物を含有しうる。好ましい実施形態では、リポソームは1つだけの生理活性成分を含有する。
【0030】
別の実施形態では、リポソームは診断薬を含有する。「診断薬」とは、標的組織の局在診断ならびに/または疾患および/もしくは症状の診断を支援する薬剤を意味する。非限定的な例は、造影剤、微粒子、放射性物質、例えば疾患および/または症状と関連するマーカーに特異的に結合する物質のような標的特異的物質などでありうる。いくつかの実施形態において、本発明がリポソームが少なくとも1種の薬剤ならびに診断薬を含有するリポソーム製剤に関するということは、当業者にとって明白である。
【0031】
本発明のリポソームの物理化学的特性
リポソームは単層または多層であり得る。最も好ましくは、リポソームは単層である。リポソームの直径は、50〜400 nm、好ましくは80〜160 nm、最も好ましくは90〜l2O nmであるべきである。
【0032】
好ましくは、本発明の第二の態様のリポソーム製剤の多分散度指数(PDI)は、0.2を超えず、より好ましくは0.15以下、更により好ましくは0.10以下であるべきである。この範囲のPDI値は、製剤中の比較的狭い粒径分布を表す。
【0033】
上記から明白であるように、リポソーム中に存在する場合、リポソームを構成する少なくとも1種の脂質が、sPLA2の基質であることが好ましい。
【0034】
1つの実施形態では、リポソームは、sn-2位ではなくsn-3位でsPLA2によって加水分解される脂質を含有する。このような非天然脂質および非天然脂質を含有するリポソームは、WO 2006/048017号に開示されており、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0035】
好ましくは、本発明のリポソームは、第二の態様のリポソーム製剤中に存在する。従って、それらは、第二の態様に記載されるように、二価陽イオンへの暴露によって安定化されている。1つの実施形態では、リポソームは、形成後に二価陽イオンに暴露されるのみである。すなわち、リポソームの内部は二価陽イオンを含まない。別の実施形態では、リポソームの内部のみが二価陽イオンを含有する。
【0036】
本発明のリポソームに結合する二価陽イオンの存在は、直接的には検証できない。しかし、本発明者らは、リポソームが二価陽イオンによって安定化されたかどうかを示すパラメーターを記載した。
【0037】
二価陽イオンの非存在下でのリポソーム化オキサリプラチン(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)のDSCスキャンは、1つのピークとして観察される単一の転移温度を示す。スキャンを繰り返した場合、転移温度はより高温へとシフトし、それは、転移温度を超える際のリポソームの外部へのオキサリプラチンの放出によるのかもしれない(図19)。二価陽イオンに暴露されたリポソームの反復DSCスキャンでは、より一定の転移温度を有する。従って、1つの実施形態では、本発明のリポソームは、リポソームの反復DSCスキャンで、第一スキャンと第二スキャンとで転移温度の差が2℃以下であることを特徴とする。別の実施形態では、本発明のリポソームは、リポソームの反復DSCスキャンで、同一組成の対照リポソームの転移温度と比較して、第一スキャンと第二スキャンとで転移温度の差がより少ないことを特徴とする。
【0038】
二価陽イオンへの暴露によって安定化されたリポソーム化オキサリプラチン(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)のDSCスキャンは、相分離した転移温度(スキャンにおける2つのピーク;例えば図22参照)を示す。従って、本発明のリポソームの1つの実施形態では、リポソームは、リポソームのDSCスキャンが相分離した転移温度を示すことを特徴とする。
【0039】
更に、リポソームの転移温度は、二価陽イオンへの暴露によってより高温へとシフトし、(試験)リポソームがカルシウムなどの二価陽イオンに暴露されたかどうかを決定する1つの方法は、試験リポソームと同一組成の対照リポソーム(その対照リポソームは二価陽イオンに暴露されていない)の転移温度を測定することによる。従って、1つの実施形態では、本発明のリポソームは、それらが二価陽イオンに暴露されていない同一組成の対照リポソームより高い転移温度を有することを特徴とする。
【0040】
別の実施形態では、本発明のリポソームは、1 mMカルシウムに暴露された際、平均リポソームサイズが10%を超えて減少しない、より好ましくは5%を超えて減少しないことを特徴とする。以前にカルシウムに暴露されていない場合、リポソームはカルシウムに暴露された際に収縮するであろう。試験リポソームがカルシウムに暴露されたかどうかを試験する1つの方法は、それらがカルシウムに暴露されていないことが知られている同一組成の対照リポソームとの比較による。従って、1つの実施形態では、本発明のリポソームは、1 mMカルシウムに暴露された際の収縮の程度が、以前に二価陽イオンに暴露されていない同一組成の対照リポソームの収縮の程度より小さいことを特徴とする。
【0041】
リポソーム製剤
本発明の第二の態様は、本発明のリポソームを含有するリポソーム製剤である。好ましくは、製剤はまた、少なくとも0.1 mMの濃度で二価陽イオンを含有する。本発明者らは、二価陽イオンの存在(または二価陽イオンへの事前の暴露)が、製剤中のリポソームを安定化し、リポソームからの生理活性化合物の漏出の減少をもたらすことを発見した。しかし、二価陽イオンの濃度は10 mMを超えず、より好ましくは5 mMを超えるべきではない(このような濃度はリポソームの凝集および望ましくない高い粘性をもたらすため)ことが認められている。より好ましくは、二価陽イオンの濃度は1 mMを超えず、最も好ましくは、二価陽イオンの濃度は0.1 mM〜1 mMである(図3)。好ましい二価陽イオンはカルシウムである。
【0042】
好ましい実施形態では、二価陽イオンは、マグネシウム(Mg2+)、鉄(Fe2+)、カルシウム(Ca2+)、ベリリウム(Be2+)、マグネシウム(Mg2+)、ストロンチウム(Sr2+)、バリウム(Ba2+)、およびラドン(Ra2+)からなる群より選択される。
【0043】
様々な二価陽イオンが試験され(データは示さない)、最良の効果はCa2+によって見られたため、製剤においてはCa2+が好ましい。
【0044】
更に、場合によってはCa2+の対イオンもまた重要であることが認められている。従って、1つの実施形態では、対イオンは、有機塩のような大きな陰イオンからなる群より選択され、好ましくはグルコン酸、プロピオン酸または乳酸からなる群より選択される。より好ましくは、対イオンはグルコン酸である。
【0045】
二価陽イオンは、リポソームの内部、リポソームの外部、またはリポソームの内部と外部の両方に分布しうる。二価陽イオンは、従って、水和溶液中ならびに/またはリポソーム製剤が精製、懸濁および/もしくは保存される溶液中に存在しうる。好ましい実施形態では、二価陽イオンはリポソームの外部に分布するが、リポソームの内部には分布しない。この実施形態では、二価陽イオンはリポソーム形成後に添加されうる。
【0046】
使用されるべきカルシウム塩の濃度は、個々のリポソーム製剤および薬剤に依存しうる。例えばCaCl2またはNaClなどの塩は、しばしば、リポソームを安定化させるために一定の濃度で必要とされる。しかし、オキサリプラチンは、例えばNaClのようないくつかの塩の存在下で不安定であり、シスプラチンはリン酸塩の存在下または純水中で不安定である。従って、選択される塩の種類およびそれらの濃度は、小胞形成特性に大きな影響を与えるため、封入される薬剤に応じて様々な塩が選択されなければならず、リポソーム製剤の調製のために、異なる塩濃度が使用されなければならない。
【0047】
好ましくは、リポソーム製剤の多分散度指数(PDI)は、0.2を超えるべきではなく、0.10以下がより好ましい。この範囲のPDI値は、製剤中の比較的狭い粒径分布を表す。
【0048】
リポソーム製剤の保護
好ましい実施形態では、リポソーム製剤は、更に凍結(cryo-)および/または凍結乾燥(lyo-)保護剤を含有する。
【0049】
リポソームを保存する間、リン脂質は加水分解されうる。リポソーム製剤中のリン脂質の分解を防ぐ1つの簡単な方法は、凍結または凍結乾燥によるものである。
【0050】
しかし、凍結はリポソーム製剤の漏出を生じさせ、封入された薬剤の放出を引き起こす。凍結保護剤の添加は、凍結後のリポソーム調製物からの漏出を防ぐまたは減少させるために必要でありうる。従って、ある実施形態では、本発明は、更に凍結保護剤を含有するリポソーム製剤に関する。凍結保護剤として使用されうる物質の例は、ショ糖、麦芽糖および/またはトレハロースなどの二糖類でありうるがそれに限定されない。このような物質は、調製物および等張液を得るためなどに選択された物質に応じて、様々な濃度で使用されうる。
【0051】
リポソームはまた、その内容物の大部分が保持されるように、凍結乾燥され、保存され、再構成され得る。リポソームの脱水は、通常、リポソーム二重層の内側と外側の両方の界面に、二糖類(ショ糖、麦芽糖またはトレハロース)のような凍結乾燥保護剤の使用を必要とする。この親水性化合物は、一般的に、サイズおよび内容物が乾燥処理の間およびその後の再構成を通じて維持されるように、リポソーム製剤中の脂質の再配列を防ぐと考えられる。このような乾燥保護剤に適した性質は、それらがリポソーム二重層成分の分子間の間隔を維持する立体化学特性を有することである。
【0052】
リポソーム製剤の調製方法
本発明の第三の態様は、
a)選択された脂質を有機溶媒に溶解することによって脂質混合物を調製するステップ
b)リポソームを形成するために、ステップa)の生成物を水性水和溶媒によって水和するステップ
c)水性水和溶媒の添加前または水性水和溶媒の添加後にステップa)の有機溶媒を除去するステップ
を含むリポソーム製剤の調製方法である。
【0053】
好ましくは、有機溶媒は水和溶媒の添加前に除去される。
【0054】
リポソームのサイズを減少させるために、更に高せん断混合(high sheer mixing)を含む方法
本方法は、更に、フィルターを通してステップc)で生成したリポソームを押し出し、特定の平均サイズのリポソームを調製するステップを含みうる。
【0055】
本方法はまた、リポソーム製剤を超音波処理して、特定のサイズのリポソームを調製するステップをも含みうる。
【0056】
好ましくは、リポソームは、本発明の第一の態様に記載されるようなリポソームである。
【0057】
リポソームには、リポソームを調製するために使用される有機溶媒または水和溶媒に薬剤を可溶化することによって、少なくとも1種の治療薬を充填しうる。
【0058】
あるいは、イオン性治療薬は、最初にリポソームを形成し、例えばリポソームの最外層を隔てたpH勾配によって電気化学ポテンシャルを確立し、その後、リポソームの外部の水性溶媒にイオン性治療薬を添加することによって、リポソーム内に充填し得る。
【0059】
好ましい実施形態では、水和溶媒は、少なくとも0.1 mMの濃度で、より好ましくは0.1 mM〜5 mMの濃度で、最も好ましくは0.1 mM〜1 mMの濃度で、二価陽イオンを含有する。好ましくは、二価陽イオンはCa2+である。別の実施形態では、水和溶媒は二価陽イオンを含有しない。この実施形態では、外部水相は、下記のように、二価陽イオンを含有する別の外部水相と交換されることが好ましい。
【0060】
別の実施形態では、本方法は、更に、製剤の外部水相を交換するステップを含む。最初には、水相は水和溶媒を含む。外部水相の規定された組成の溶液中にリポソームを含有するリポソーム製剤を調製するために、外部水相は、遠心分離、限外ろ過、透析または類似の方法によって交換されうる。好ましくは、生理活性化合物(治療薬)は、内部だけにまたはリポソームに付着してのみ存在し、溶液中の遊離化合物としては存在しない。好ましくは、リポソーム内への薬剤封入は、>70%、より好ましくは>95%、最も好ましくは>99%であるべきである。薬剤の封入度は、製剤中の薬剤の総量に対する封入された薬剤の割合である。
【0061】
好ましい実施形態では、外部水相は、少なくとも0.1 mMの濃度で、より好ましくは0.1 mM〜5 mMの濃度で、最も好ましくは0.1 mM〜1 mMの濃度で二価陽イオンを含有する別の外部水相と交換される。好ましくは、二価陽イオンはCa2+である。
【0062】
本発明者らは、カルシウムに暴露された際、リポソームはまず封入化合物を漏出することを発見した。更に、リポソームは凝縮して、より小さい粒径になる。しかし、最初の漏出後、Ca2+に暴露されたリポソームは、例えば細胞培地(例えばMcCoy培地;図3)中でのインキュベーションの場合に見られるように、漏出の減少を示す。最初の漏出のため、通常、透析および/または遠心分離を行い、リポソームを漏出した物質から分離する。ろ過を行っても良い。
【0063】
第二の態様の好ましい実施形態では、リポソーム製剤は第三の態様の方法によって調製される。
【0064】
医薬
本発明の第五の態様は、医薬として使用するための、第一の態様のリポソームまたは第二の態様のリポソーム製剤である。
【0065】
本発明の第六の態様は、PLA2活性が上昇する疾患の治療に使用される、第一の態様のリポソームまたは第二の態様のリポソーム製剤である。このような疾患は、例えば癌および炎症性疾患である。
【実施例1】
【0066】
リポソーム封入シスプラチンおよびリポソーム封入オキサリプラチンの調製
リポソーム封入シスプラチンおよびリポソーム封入オキサリプラチンは、薬剤であるシスプラチンまたはオキサリプラチンがリポソームの水性区画に封入されたリポソーム-薬剤製剤である。そのリポソーム薬剤製剤は、5 mol% mPEG2000-ジステアロイル(disteoryl)-ホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG2000);25 mol% ジステアロイル(disteroryl)ホスファチジルグリセロール(DSPG);および70 mol% ジステアロイル(disteoryl)ホスファチジルコリン(DSPC)から作られた脂質混合物に封入された薬剤から成る。それぞれの製剤についての具体的な手順は、下記に概説される。
【0067】
リポソーム封入シスプラチン
リン脂質を9:1(v/v)クロロホルム/メタノールに溶解した。その後、溶解した脂質混合物の溶媒を、窒素ガス気流下で視覚的に乾燥するまで65℃の湯浴中でエバポレートした。サンプルを更に真空下で一晩乾燥させた。
【0068】
多重層リポソーム(MLV)の調製のために、シスプラチンを含有する水和液(様々な濃度の塩化ナトリウムおよびグルコン酸カルシウムの溶液)を乾燥した脂質混合物に65℃〜70℃の温度で添加した。完全な水和を確実にするために、脂質懸濁液を少なくとも30分間65℃〜70℃に維持した。この間、脂質懸濁液を5分ごとにボルテックスした。大きな1枚膜リポソーム(LUV)は、MLVを65℃で5分間超音波処理し、続いて100 nm孔径のポリカーボネートフィルターを通して65〜70℃で押し出すことによって調製した。その後、LUVを透析カセット(MWCO:10 kDa)に移し、封入されていないシスプラチンを除去した。
【0069】
リポソーム封入オキサリプラチン
リン脂質を9:1クロロホルム/メタノールに溶解した。その後、溶解した脂質混合物を、窒素ガス気流下で視覚的に乾燥するまで65℃の湯浴中でエバポレートした。サンプルを更に真空下で一晩乾燥させた。
【0070】
多重層リポソーム(MLV)の調製のために、オキサリプラチンを含有する水和バッファー(様々な濃度の異なるカルシウム塩を含む10%ショ糖溶液)を乾燥した脂質混合物に添加した。完全な水和を確実にするために、脂質懸濁液を少なくとも30分間65℃〜70℃に維持した。この間、脂質懸濁液を5分ごとにボルテックスした。その後、大きな1枚膜リポソーム(LUV)を、MLVを65〜70℃で5分間超音波処理し、続いて100 nm孔径のポリカーボネートフィルターを通して65〜70℃で10回押し出すことによって調製した。その後、LUVを透析カセット(MWCO:10 kDa)に移し、封入されていないオキサリプラチンを除去した。
【0071】
リポソーム封入シスプラチンまたはリポソーム封入オキサリプラチンの外部のPt含量の測定は、サンプル平衡化とそれに続く遠心ろ過による分離のステップに基づく。Pt含量はICP-MSの使用によって定量化される。
【表1】
【表2】
【実施例2】
【0072】
水和溶液中でのオキサリプラチンの安定性
オキサリプラチンを、10%ショ糖および1 mMグルコン酸カルシウムを含有する水和溶液中に溶解した(10 mg/ml)。生理的塩濃度にほぼ相当する浸透圧を得るためにショ糖を添加した。水和溶液中でのオキサリプラチンの安定性は、UV測定によって追跡した。室温で保存する間、連続的にサンプルを採取した。測定されたサンプル濃度は0.1 mg/mlオキサリプラチンであった。オキサリプラチンの安定性を追跡するために、200〜350 nmのスキャンを行い(図1)、保存の間の254 nmでの吸光度を比較した(図2)。254 nmでの吸光度の大きな変化は通常、オキサリプラチンの分解に関連し、それはオキサリプラチンを水酸化物イオンおよび/または塩化物イオンを含有する溶液に溶解することによって容易に観察し得る。リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、エタノールアミンなどの、いくつかの一般的なバッファー成分もまた試験されたが、それらは254 nmでの吸光度を低下させることが観察された(データは示さない)。1 mM グルコン酸カルシウムを含有する10%ショ糖溶液に溶解されたオキサリプラチンは、室温で少なくとも35日間保存する間、実質的に分解されないことが示された。
【実施例3】
【0073】
リポソーム封入オキサリプラチンの安定性
リポソーム封入オキサリプラチン製剤(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)の安定性は、細胞培地(McCoy;図5A)中37℃で保存した製剤からの白金化学種(platinum species)の受動的な漏出を測定することによって試験した。t = 0およびt = 24時間にサンプルを採取した。リポソームからの漏出は、細胞培地に添加した直後および37℃で24時間インキュベーションした後での外部水相における白金含量の差として報告された。
【0074】
封入度の測定:
1. 50μlのリポソーム製剤をMcCoyで全量5 mlに希釈する。
【0075】
2. 希釈した製剤を含むチューブを37℃で24時間保存する。
【0076】
3. 2 mlの希釈サンプル(Ohおよび24h)をMillipore社のcentricon YM-30フィルターにのせ、15℃で20分間、2500gで回転させる。
【0077】
4. 200μlのろ液を採取し、McCoyを用いて全量2 mlに希釈する。
【0078】
5. 200μlの希釈サンプルを更に全量2 mlに希釈する。
【0079】
6. サンプルのPt含量をICP-MSによって測定する。標準曲線はMcCoy培地で作成する。
【0080】
この細胞培地は、その後のHT-29結腸癌細胞に対するリポソーム封入オキサリプラチンの細胞毒性効果の評価に使用した。細胞培地中で保存する際のリポソームからの漏出の増加は、非特異的な細胞毒性をもたらす。sPLA2加水分解を受けない場合、製剤は最小限の細胞毒性を有するべきである。リポソーム封入オキサリプラチン製剤において様々な濃度のグルコン酸カルシウム(0〜5 mM)が、リポソームを安定化する能力について試験された(図5)。
【0081】
最大5 mMまでの漸増するグルコン酸カルシウム濃度を用いて調製された製剤は、リポソームからの漏出が減少し、McCoy培地中でのリポソーム封入オキサリプラチンの安定性を上昇させることが明らかに実証された(図3)。初期の封入度(細胞培地への添加直後に測定された)もまた、グルコン酸カルシウム濃度の上昇とともに上昇した。グルコン酸カルシウムから観察されたリポソーム製剤に対する安定化作用がカルシウムと関連しているのか、またはグルコン酸と関連しているのかを試験するために、カルシウムまたはグルコン酸を含む他の化合物がリポソーム封入オキサリプラチン製剤を安定化できるかどうかを更に試験した。下記の表に示すように、他のカルシウム化合物もまたリポソーム製剤を安定化できるのに対し、グルコン酸ナトリウムは安定化できないことが明白であった。乳酸カルシウムおよびプロピオン酸カルシウムは、グルコン酸カルシウムと比較して、製剤に対する同様の安定化作用を有する。これらの結果から、リポソーム製剤に対する安定化作用にカルシウムが関与することが示唆される。
【表3】
【0082】
リポソーム製剤が内部または外部のみでのグルコン酸カルシウムの存在によってどのように影響を受けるかを更に試験した。下記の表に示すように、内部のみにカルシウムを含有するリポソーム製剤は、リポソーム化オキサリプラチン製剤をあまりよく安定化しないことが明白であった。外部のみにカルシウムを有するものはリポソーム製剤をかなりよく安定化することが実証された。
【表4】
【実施例4】
【0083】
抗癌性エーテル脂質
エーテル型リン脂質を用いて、10%ショ糖および1 mMグルコン酸カルシウムを含有する溶液中で脂質混合物(25 mol% 1-O-オクタデシル-2-オクタデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール(1-O-DSPG)、70 mol% 1-O-オクタデシル-2-オクタデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(1-O-DSPC)および5 mol% ジオクタデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ-(ポリエチレングリコール)2000](DSPE-PEG2000))に封入されたオキサリプラチンのリポソーム製剤を調製した。
【0084】
37℃で24時間 McCoy培地中で保存した後、わずか4%のオキサリプラチンの漏出しか観察されなかった。
【実施例5】
【0085】
リポソーム封入オキサリプラチンの細胞毒性
結腸癌細胞(HT-29)において、リポソーム封入オキサリプラチンの細胞毒性を評価した(図5)。HT-29細胞株はPLA2を分泌する能力を持たない。対照として遊離オキサリプラチンを用いた。HT-29細胞を、オキサリプラチンまたはPLA2の存在下もしくは非存在下でリポソーム封入オキサリプラチンによって6時間処理した。オキサリプラチンの完全な放出が起こったことを示すために、涙液などの外部由来のPLA2を添加した。安定したリポソーム製剤では、HT-29はこのような存在によって影響を受けるべきではない。リポソームからオキサリプラチンを放出するためには、PLA2源の存在が必要である。しかし、不安定なリポソーム製剤では、漏出が起こり、そのためにPLA2がないにもかかわらずHT-29細胞に影響を及ぼしうる。製剤中のグルコン酸カルシウムの濃度が上昇すると、リポソームからの漏出が減少することは明白である。この結果は、リポソームからの漏出がグルコン酸カルシウムの濃度の上昇に伴って減少し得ることが観察された、in vitroでの安定性試験(図3B)とよく相関する。
【実施例6】
【0086】
グルコン酸カルシウムを含有するリポソーム化シスプラチン製剤の安定性
目的:
グルコン酸カルシウムを含有するリポソーム化シスプラチン製剤(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)のMcCoy培地中での安定性を試験する。その目的は、McCoy培地中で最小限の漏出を示す製剤を見出すことである。
【0087】
手順:
リポソーム製剤(50μl)を4950μlのMcCoy培地と混合し、37℃で24時間インキュベーションした。t=Oおよびt=24hにサンプルを採取した。シスプラチン製剤は、様々な濃度のグルコン酸カルシウムを用いて調製する。
【0088】
封入度:
1. 50μlのリポソーム製剤をMcCoyで全量5 mlに希釈する。
【0089】
2. 希釈した製剤を含むチューブを37℃で24時間保存する。
【0090】
3. 2 mlの希釈サンプル(Ohおよび24h)をMillipore社のcentricon YM-30フィルターにのせ、15℃で20分間、2500gで回転させる。
【0091】
4. 200μlのろ液を採取し、McCoyを用いて全量2 mlに希釈する。
【0092】
5. 200μlの希釈サンプルを更に全量2 mlに希釈する。
【0093】
6. サンプルのPt含量をICP-MSによって測定する。標準曲線はMcCoy培地で作成する。
【0094】
結果:
【表5】
【0095】
100μMおよび1 mMグルコン酸カルシウムを含有するリポソーム封入シスプラチン製剤は、グルコン酸カルシウムの存在なしに調製した製剤を用いて行われた以前の観察と比較して、漏出程度の減少を示した。
【0096】
この細胞培地を、その後のHT-29結腸癌細胞に対するリポソーム封入シスプラチンの細胞毒性効果の評価に使用した(図4および図6)。
【0097】
製剤中のグルコン酸カルシウムの濃度が上昇すると、リポソームからの漏出が減少することは明白である。この結果は、リポソームからの漏出がグルコン酸カルシウムの濃度の上昇に伴って減少し得ることが観察された、in vitroでの安定性試験(図3A)とよく相関する。
【実施例7】
【0098】
リポソーム封入オキサリプラチン製剤に対するカルシウムの影響
目的:リポソーム封入オキサリプラチン製剤に対してグルコン酸カルシウム溶液を添加または希釈する影響を試験する。
【0099】
リポソーム封入オキサリプラチン製剤をカルシウムなしで調製した(内部および外部に10%ショ糖)。リポソーム封入オキサリプラチン製剤を様々な濃度のカルシウム中に希釈した(脂質濃度は0.84 mMに維持した)。サンプルを24時間平衡化し、封入度(DOE;%)および粒径を測定した。
【0100】
頭部基に共有結合した蛍光プローブ7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イルを有する0.5 mol%の1,2-ジパルミトイル-ホスファチジルエタノールアミン(NBD-PE)(Fluka, Buchs, Switzerland)を含有するリポソーム(70/25/5 mol% PC/PG/PE-PEG)の懸濁液を、10%ショ糖中で調製した。NBDプローブ分子は465 nmで励起され、放射波長のピークはSLM DMX-1000分光蛍光光度計を用いて535 nmで観察された。新たに調製された0.1 mM脂質懸濁液の2.5 mLアリコートを一定温度(25℃)のキュベットに入れ、不可逆的な亜ジチオン酸消光剤の外部水相への添加前に5分間平衡化した。磁気撹拌子を用いてキュベット中でサンプルの迅速な混合を行った。30μLの新たに調製した亜ジチオン酸ナトリウム(1M Trizmaバッファー原液中の1M Na2S2O4)の添加後、蛍光強度の時間依存性の減衰を測定した。300秒後、30μlの10 mMグルコン酸カルシウムを添加する。それに続く10μlの10% Triton X-100のリポソーム調製物への添加により、数秒以内にNBD-PE蛍光の完全な消光が生じた。
【0101】
結果
【表6】
【表7】
【0102】
リポソームの粒径は様々な濃度のカルシウムを含有する溶液中で保存する間に減少することが、観察されうる(図7)。製剤からの漏出は、外部でのカルシウムの上昇によって増加した(図8)。消光されたNBD-PEプローブを含有する製剤へのカルシウムの添加は、更なる消光を引き起こさなかった(図9)。この結果から、カルシウムの添加が一過的な透過性を誘導しないことが示される。これらのデータから、カルシウムがリポソーム膜を凝縮し、それによって粒径が減少し、薬剤が放出されることが示される。
【実施例8】
【0103】
リポソーム化オキサリプラチン製剤に対するCa2+の影響;第一部
目的:
粒径、全Pt量、DOE、および安定性に関して、DSPC、DSPGおよびDSPE-PEG2000を含有する様々なリポソーム製剤の外部水相にのみカルシウムを含有する影響を試験する。膜でのCa2+とオキサリプラチンとの相互作用の可能性を追跡調査するために、様々な製剤においてDSCを行った。
【0104】
手順
5つの異なるオキサリプラチンのリポソーム製剤を、内部にカルシウムを含まずに調製した。DSPGおよびDSPC含量は、下記のようにリポソーム製剤で異なっていた。
【0105】
1. 80:15:5 mol% PC/PG/PE-PEG
2. 70:25:5 mol% PC/PG/PE-PEG
3. 60:35:5 mol% PC/PG/PE-PEG
4. 50:45:5 mol% PC/PG/PE-PEG
5. 40:55:5 mol% PC/PG/PE-PEG
4 mlのリポソーム封入オキサリプラチンを75℃で超音波処理し(1 分/ml)、その後、過剰なオキサリプラチンを沈殿させるために冷却した。上清を透析チャンバー(MWCO: 10 kDa)に移し、10%ショ糖溶液に対して透析した。各チャンバーに1.75 mlを入れた。透析したサンプルを2つに分け、一方を10%ショ糖溶液が入っているビーカー中で更に透析し、他方を1 mM グルコン酸カルシウムを含有する10%ショ糖溶液が入っているビーカー中で透析した。
【0106】
・超音波処理後および透析の各ステップの後に、粒径を追跡調査した。
【0107】
・リポソーム製剤(+/-グルコン酸カルシウム)のサーモグラムを比較する。
【0108】
・リポソーム製剤について第一および第二透析ステップの間の漏出を測定した。
【0109】
・リポソーム化オキサリプラチン製剤の安定性をMcCoy培地において試験した(24時間、37℃)。
【0110】
結果
図10〜22を参照されたい。
【0111】
粒径分析(サイズはnmで示される)
【表8】
【0112】
Pt分析
【表9】
【0113】
McCoy細胞培地中での安定性
【表10】
【0114】
考察
製剤は、内部にカルシウムを含まず、外部にカルシウムを含んでまたは含まずに調製した。
【0115】
粒径は、ショ糖のみを含む溶液中では、最大45%までのPG含量の上昇によって増大することが観察される(図10)。これとは反対に、外部に1mMグルコン酸カルシウムを添加することによって、粒径は低下することが観察される(図11)。最も高いPG含量を有する製剤は、Ca2+非存在下での粒径に最も大きな変動を有することが観察された(図11および12)。
【0116】
両透析ステップにおいて透析溶液が10%ショ糖である場合、第一透析と第二透析との間で実質的にオキサリプラチンの損失はない(イオン計数比(Pt195/P31)に基づく)。カルシウムを含有する製剤について、図14のPt/Pレベルを比較すると、第一透析ステップと第二透析ステップとの間で減少が観察される。
【0117】
透析の際にカルシウムが存在する場合、10%ショ糖溶液中で透析した製剤と比較して、オキサリプラチンの損失が観察される。製剤中のPG含量の増加に伴い、オキサリプラチンの減少が観察される。
【0118】
同じ時間透析した場合、DOE(%)は通常、より低いPG含量を有する製剤においてより高い。
【0119】
粒径と全Pt濃度をプロットすると(図17)、相関があると思われる。粒径の増加に伴い、脂質組成(DSPCおよびDSPG含量の変化)に関わらず、より高いPt含量が観察される。
【0120】
グルコン酸カルシウムを含有する溶液中で透析したリポソームはMcCoy培地中で安定であるが、一方、10%ショ糖中で透析した製剤は、McCoy培地に暴露された際、オキサリプラチンの多量の漏出を示した(図18)。
【0121】
35%PGのリポソーム封入オキサリプラチン製剤のDSCスキャンは、カルシウムが存在しない場合、製剤のスキャンを繰り返すことができないことを示した(図19)。それぞれの新たなスキャンにおいて、転移温度は連続的に上昇した。製剤の外部にカルシウムが存在する場合、転移温度は、それぞれの新たなスキャンにおいて一定に保たれた(図21)。更に、より高いPG含量によって、転移温度は上昇した(図20)。
【0122】
リポソーム封入オキサリプラチン製剤の転移温度は60〜70℃の範囲である。従って、押し出し温度を70℃に維持することが推奨される。
【実施例9】
【0123】
リポソーム化オキサリプラチン製剤に対するCa2+の影響;第二部
目的:
粒径、全Pt量、DOE、および安定性に関して、DSPC、DSPGおよびDSPE-PEG2000を含有する様々なリポソーム製剤の内部と外部との両方にカルシウムを含有する影響を試験する。膜でのCa2+とオキサリプラチンとの相互作用の可能性を追跡調査するために、様々な製剤においてDSCを行った。
【0124】
手順:
4つの異なるオキサリプラチンのリポソーム製剤を、内部にグルコン酸カルシウムを含んで調製した。DSPCおよびDSPG含量は、下記のようにリポソーム製剤で異なっていた。
【0125】
6. 70:25:5 mol% PC/PG/PE-PEG
7. 60:35:5 mol% PC/PG/PE-PEG
8. 50:45:5 mol% PC/PG/PE-PEG
9. 40:55:5 mol% PC/PG/PE-PEG
4 mlのリポソーム封入オキサリプラチンを75℃で超音波処理し(1 分/ml)、その後、過剰なオキサリプラチンを沈殿させるために冷却した。上清を透析チャンバー(MWCO 3,500)に移し、1 mM グルコン酸カルシウムを含有する10%ショ糖溶液に対して透析した。各チャンバーに3 mlを入れた。24時間後、透析チャンバーを10%ショ糖および1 mM グルコン酸カルシウムが入っている新しいビーカーに移す。
【0126】
・超音波処理後および透析の各ステップの後に、粒径を追跡調査する。
【0127】
・リポソーム製剤のサーモグラムを比較する。
【0128】
・リポソーム製剤について第一および第二透析ステップの間の漏出を測定する。
【0129】
・リポソーム化オキサリプラチン製剤の安定性をMcCoy培地において試験する(24時間、37℃)。
【0130】
結果
図23〜25を参照されたい。
【0131】
粒径分析(サイズはnmで示される)
【表11】
【0132】
Pt分析
【表12】
【0133】
McCoy安定性
【表13】
【0134】
一般的結論:
製剤は、内部と外部の両方にカルシウムを含んで調製した。
【0135】
第一透析ステップ後、リポソームの粒径は、すべての製剤において低下する。第一透析ステップから第二透析ステップまでに、粒径の上昇が見られる。おそらく、脂質組成と粒径の変化とは相関がない。
【0136】
調製したすべての製剤において、グルコン酸カルシウムが内部に含まれる場合、より高いPt/P比が観察された。
【0137】
35% DSPGのリポソーム封入オキサリプラチン製剤のDSCスキャンは、転移温度がそれぞれの新たなスキャンにおいて一定に保たれることを示した(図24)。更に、より高いPG含量によって、転移温度は上昇すると思われる(図25)。
【0138】
同じ時間透析した場合、DOE(%)は通常、より低いDSPG含量を有する製剤においてより高い。
【背景技術】
【0001】
リポソームは、1980年代に薬剤送達ベヒクル/システムとして開発された微小球体である。最初のリポソーム性医薬品は、1990年代に商業用に認可された。
【0002】
リポソームは、例えば薬剤のような様々な化合物を運ぶために使用され得る3つの異なる区画を有する:すなわち、内部の水性区画;疎水性二重層;ならびに内膜および外膜の極性を有する相間である。封入されるべき化合物の化学的性質に応じて、それはいずれかの区画に局在するであろう。現在、市販されているいくつかの非経口リポソーム‐薬剤製剤がある。水溶性の薬剤はリポソームの水性区画に局在する傾向があり、リポソームに封入される薬剤の例は、例えば、ドキソルビシン(Doxil)、ドキソルビシン(Myocet)およびダウノルビシン(DaunoXone)である。リポソーム膜に挿入される薬剤の例は、例えば、アンフォテリシンB(AmBisome)、アンフォテリシン(Albelcet B)、ベンゾポルフィリン(Visudyne)およびムラミルトリペプチド-ホスファチジルエタノールアミン(Junovan)である。
【0003】
リポソーム技術は、このように、例えば薬剤の溶解度を上昇させる、薬剤の毒性を低減させる、標的化薬剤放出を改善するなどのような、薬理学上の問題を解決するための合理的な解決方法を提供している。
【0004】
薬剤送達ベヒクルとしてのリポソームの特性は、それらの表面電荷、透過性、溶解度、安定性などに著しく依存し、それはリポソーム組成に含まれる脂質によって大きく影響される。加えて、リポソームに封入されるべき薬剤は、安定したリポソーム製剤の調製において考慮されるべき更なる要件を必要としうる。
【0005】
安全性および薬効に関する考慮は、リポソーム製剤がそれらの特性を維持すること、すなわち調製時から投与時まで安定性を保つことを必要とする。更に、このような製剤は、薬剤が特異的に放出される標的部位にそれらが到達するまで、治療される被験者での輸送の間、無傷であることが望ましい。従って、今なお、改良されたリポソーム製剤を得る必要性がある。
【発明の概要】
【0006】
第一の態様では、本発明は、治療薬のような生理活性物質の送達に有用なリポソームを提供する。特に、ホスホリパーゼA2(PLA2)がそのリポソームの脂質を加水分解するため、本発明のリポソームは、分泌型ホスホリパーゼA2(sPLA2)活性の上昇した部位にそれらの封入物(payload)を送達することができる。従って、本発明のリポソームは、例えば、癌治療に関連して使用されうる。本発明の第二の態様は、本発明のリポソームを含有するリポソーム製剤である。更なる他の態様は、本発明のリポソーム製剤を調製する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本発明を、図面を参照しながら下記に詳細に説明する。
【図1】室温で保存する間、10%ショ糖および1 mMグルコン酸カルシウムを含有する溶液中に保存されたオキサリプラチン(oxaliplatin)のUVスペクトルを示す。
【図2】室温で保存する間、10%ショ糖および1 mMグルコン酸カルシウムを含有する溶液中に保存されたオキサリプラチン(図1)の、254 nmでの相対吸光度(数日後/0日目)を示す。
【図3】細胞培地(McCoy)中37℃で24時間保存した後の、シスプラチン(A)またはオキサリプラチン(B)を含有するリポソーム(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)からの漏出に対する、様々なグルコン酸カルシウム濃度の影響を示す(主軸)。初期の封入度(DOE)は副軸に示される。
【図4】1 mMグルコン酸カルシウムを含有するリポソーム(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)封入シスプラチンの細胞毒性を示す。HT-29結腸癌細胞を、シスプラチン、またはsPLA2の存在下もしくは非存在下でのリポソーム封入シスプラチンで6時間(37℃)処理した。
【図5−1】様々な濃度のグルコン酸カルシウム((A)5 mMグルコン酸カルシウム、(B)1 mMグルコン酸カルシウム)を含有するリポソーム(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)封入オキサリプラチンの細胞毒性を示す。HT-29結腸癌細胞を、オキサリプラチン、またはsPLA2の存在下もしくは非存在下でのリポソーム封入オキサリプラチンで6時間(37℃)処理した。
【図5−2】様々な濃度のグルコン酸カルシウム((C)0.1 mMグルコン酸カルシウム、(D)0.01 mMグルコン酸カルシウム)を含有するリポソーム(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)封入オキサリプラチンの細胞毒性を示す。HT-29結腸癌細胞を、オキサリプラチン、またはsPLA2の存在下もしくは非存在下でのリポソーム封入オキサリプラチンで6時間(37℃)処理した。
【図5−3】様々な濃度のグルコン酸カルシウム((E)0 mMグルコン酸カルシウム)を含有するリポソーム(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)封入オキサリプラチンの細胞毒性を示す。HT-29結腸癌細胞を、オキサリプラチン、またはsPLA2の存在下もしくは非存在下でのリポソーム封入オキサリプラチンで6時間(37℃)処理した。
【図6】様々な濃度のグルコン酸カルシウムを含有するリポソーム(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)封入シスプラチンの細胞毒性を示す。HT-29結腸癌細胞を、sPLA2の存在下または非存在下でのシスプラチンで24時間(37℃)処理した。
【図7】カルシウムを含有しないオキサリプラチンを封入したリポソーム(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)における室温で24時間後の粒径の変化をカルシウム濃度の関数として示す。脂質濃度は0.84 mMに維持した。
【図8】カルシウムを含有しないリポソーム封入オキサリプラチン製剤(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)からの室温で24時間後の漏出をカルシウム濃度の関数として示す。脂質濃度は0.84 mMに維持した。
【図9】0.5mol% NBD-PEを含有するDSPC/DSPG/DSPE-PEG LUVの蛍光強度の25℃での時間依存性を示す。矢印は、亜ジチオン酸塩、カルシウムおよびTriton-X100の添加を示す。
【図10】5 mol% DSPE-PEG2000およびDSPCを含有するリポソーム化オキサリプラチン製剤における超音波処理ステップから第一透析ステップ(10%ショ糖)の間の粒径の変化をDSPGの関数として示す。
【図11】5 mol% DSPE-PEG2000およびDSPCを含有するリポソーム化オキサリプラチン製剤における第一透析ステップ(10%ショ糖)から第二透析ステップ(10%ショ糖+グルコン酸カルシウム)の間の粒径の変化をDSPGの関数として示す。
【図12】DSPCおよび5 mol% DSPE-PEG2000を含有するリポソーム化オキサリプラチン製剤における超音波処理から第二透析ステップ(10%ショ糖+/-グルコン酸カルシウム)の間の粒径の変化をDSPGの関数として示す。
【図13】5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々な量のDSPCおよびDSPGを含有するリポソーム化オキサリプラチン製剤における第一透析ステップ(10%ショ糖溶液)後のイオン計数比(Pt195/P31)を示す。
【図14】5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々な量のDSPCおよびDSPGを含有するリポソーム化オキサリプラチン製剤における第二透析ステップ(10%ショ糖溶液±1 mMグルコン酸カルシウム)後のイオン計数比(Pt195/P31)を示す。
【図15】カルシウムを含んで透析された製剤と比較した、カルシウムを含まない溶液中で透析された製剤におけるイオン計数比(Pt195/P31)の差異%を示す(図14参照)。
【図16】5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々な量のDSPCおよびDSPGを含有するリポソーム化オキサリプラチン製剤の第二透析(10%ショ糖溶液±1 mMグルコン酸カルシウム)後の透析液におけるPt濃度を示す。
【図17】最終リポソームサイズと製剤中のオキサリプラチン濃度との相関を示す。リポソーム化オキサリプラチン製剤(5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々な量のDSPCおよびDSPG)を、透析の間1 mMグルコン酸カルシウムの存在下または非存在下で調製した(図14参照)。
【図18】リポソーム化オキサリプラチン製剤(5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々な濃度のDSPCおよびDSPG)のMcCoy細胞培地(37℃で24時間インキュベーション)中での安定性を示す。
【図19】グルコン酸カルシウム非存在下でのリポソーム封入オキサリプラチン(60/35/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)製剤の1.-6. DSCスキャンを示す。スキャン速度:20℃/h。
【図20】5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々なDSPCおよびDSPG濃度を含有する、グルコン酸カルシウム非存在下でのリポソーム封入オキサリプラチン製剤のDSCスキャン(第一スキャン)を示す。スキャン速度:20℃/h。
【図21】外部に1 mMグルコン酸カルシウムを含むリポソーム封入オキサリプラチン(60/35/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)製剤の1.-6. DSCスキャンを示す。スキャン速度:20℃/h。
【図22】5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々なDSPCおよびDSPG濃度を含有し、外部に1 mMグルコン酸カルシウムを含むリポソーム封入オキサリプラチン製剤のDSCスキャン(第一スキャン)を示す。スキャン速度:20℃/h。
【図23】オキサリプラチンを封入したリポソームのa)第一透析ステップおよびb)第二透析ステップ(1 mMグルコン酸カルシウムを含有する10%ショ糖溶液)後の透析物におけるPt濃度を示す。
【図24】内部と外部との両方に1 mMグルコン酸カルシウムを含むリポソーム封入オキサリプラチン(60/35/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)製剤の1.-6. DSCスキャンを示す。スキャン速度:20℃/h。
【図25】5 mol% DSPE-PEG2000ならびに様々なDSPCおよびDSPG濃度を含有し、内部と外部との両方に1 mMカルシウムを含むリポソーム封入オキサリプラチン製剤のDSCスキャン(第一スキャン)を示す。スキャン速度:20℃/h。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のリポソーム
例えば癌性疾患において誘発性薬剤放出を得るための1つのアプローチは、癌組織の近傍における分泌型ホスホリパーゼA2(sPLA2)レベルの上昇を利用することである。従って、リポソームの脂質組成を慎重に設計することにより、一旦腫瘍内に蓄積されたリポソームがsPLA2によって分解可能になり、誘発性放出を可能にする。
【0009】
本発明の目的は、リポソーム膜の漏出による制御されていない送達および/または早過ぎる放出を減少させ、標的部位にそれらの内容物(payload)(例えば薬剤)を送達しうる、安定性が改善したリポソームおよびリポソーム製剤を提供することである。別の目的は、保存の間の安定性が上昇したリポソームおよびリポソーム製剤を提供することである。
【0010】
リポソームの陰イオン性脂質
第一の態様では、本発明は、25%〜45%(mol/mol)の陰イオン性脂質を含有するリポソームを提供する。本発明者らは、陰イオン性脂質の含量が、sPLA2を介したリポソームの脂質加水分解の速度およびリポソームへの免疫反応のような、リポソームの重要な特性に影響を及ぼすことを考慮している。
【0011】
陰イオン性脂質の含量が増加すると、sPLA2による脂質加水分解の速度(および薬剤の放出)も上昇する。妥当な加水分解速度は25%〜45%の陰イオン性脂質含量によって実現され得ることが実証された。従って、1つの実施形態では、陰イオン性脂質の含量は少なくとも25%である。別の実施形態では、陰イオン性脂質の含量は45%以下である。更に別の実施形態では、リポソームの陰イオン性脂質含量は、25%〜45%、25%〜42%、28%〜42%、30%〜40%、32%〜38%および34%〜36%からなる群より選択される。%含量という場合、言及は、特に他に記載されない限りmol/mol%のことである。
【0012】
述べたように、リポソームに対する免疫反応もまた、陰イオン性脂質の含量によって影響を受ける。従って、体内でのリポソームのクリアランス速度は、リポソーム中の陰イオン性脂質の含量を一定レベル以下に保つことによって低下され、本発明者らは、リポソーム中の陰イオン性脂質の含量が、sPLA2の脂質加水分解速度と細網内皮系によるクリアランスとのバランスをとるように使用され得ることを認識している。
【0013】
好ましくは、陰イオン性脂質はリン脂質であり、好ましくは、リン脂質は、PI(ホスファチジルイノシトール)、PS(ホスファチジルセリン)、DPG(ビスホスファチジルグリセロール)、PA(ホスファチジン酸)、PEOH(ホスファチジルアルコール)、およびPG(ホスファチジルグリセロール)からなる群より選択される。より好ましくは、陰イオン性リン脂質はPGである。
【0014】
親水性ポリマー
好ましい実施形態では、リポソームは更に、PEG [ポリ(エチレングリコール)]、PAcM [ポリ(N-アクリロイルモルホリン)]、PVP [ポリ(ビニルピロリドン)]、PLA [ポリ(ラクチド)]、PG [ポリ(グリコリド)]、POZO [ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)]、PVA [ポリ(ビニルアルコール)]、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、PEO [ポリ(エチレンオキシド)]、キトサン[ポリ(D-グルコサミン)]、PAA [ポリ(アミノ酸)]、ポリHEMA [ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)]およびこれらの共重合体からなる群より選択される親水性ポリマーを含有する。
【0015】
最も好ましくは、ポリマーは、100 Da〜10 kDaの分子量を有するPEGである。特に好ましくは、2〜5 kDaのPEGサイズ(PEG2000〜PEG5000)であり、最も好ましくは、PEG2000である。
【0016】
リポソームへのポリマーの含有は当業者にとって周知であり、おそらく細網内皮系によるクリアランスを低下させることによって、血流中のリポソームの半減期を延長するために使用され得る。
【0017】
好ましくは、ポリマーはホスファチジルエタノールアミンの頭部基とコンジュゲートされる。別の選択肢はセラミドである(この脂質はPLA2によって加水分解され得ないが)。
【0018】
ポリマーにコンジュゲートされた脂質は、好ましくは少なくとも2%の量で存在する。より好ましくは、その量は5%以上15%以下である。更により好ましくは、ポリマーにコンジュゲートされた脂質の量は、3%以上6%以下である。陰イオン性リン脂質および≦2.5%のDSPE-PEG2000を含有するリポソームは、カルシウムの存在下で凝集する傾向が増加していた。これは通常、高粘性ゲルの形成によって観察され得る。陰イオン性リン脂質および>7.5%を含有するリポソームは、リポソームに沈殿または相分離を生じる。従って、別の好ましい範囲(window)は、2.5%〜7.5%である。
【0019】
リポソーム中の中性荷電脂質成分
好ましくは、本発明のリポソームはまた、PC(ホスファチジルコリン)およびPE(ホスファチジルエタノールアミン)を含む両性イオン性リン脂質からなる群より選択される非荷電性リン脂質をも含有する。最も好ましくは、両性イオン性リン脂質はPCである。
【0020】
陰イオン性リン脂質とは異なり、両性イオン性リン脂質は、リポソーム中で電荷中性のsPLA2加水分解性脂質成分として機能する。同じリポソーム中で両性イオン性および陰イオン性リン脂質を組み合わせることによって、十分に高いsPLA2加水分解と血中での低いクリアランス速度との両方に応じる望ましい表面電荷密度に調整することが可能である。
【0021】
リポソーム中の両性イオン性リン脂質の量は、好ましくは40%〜75%であり、より好ましくは50%〜70%である。
【0022】
エーテル型リン脂質
一部またはすべてのリン脂質は、エーテル型リン脂質でありうる。
【0023】
従って、それらは、リン脂質のグリセロール骨格のsn-1位にエステル結合ではなくエーテル結合を有しうる。sPLA2がこの特殊な型のリン脂質を加水分解すると、モノエーテルリゾリン脂質が産生され、これらは例えば癌細胞に対して毒性を有する。すなわち、エーテル型リン脂質はモノエーテルリゾリン脂質のプロドラッグと見なすことができ、本発明のリポソームを使用して、このようなプロドラッグを癌細胞のsPLA2上昇環境に送達することができ、そこでプロドラッグはsPLA2加水分解によって活性化される。エーテル型リン脂質はEP 1254143およびWO 2006/048017に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0024】
他のプロドラッグ
リゾ脂質を生じるためにsPLA2によって脂質から放出される部分もまた、薬剤でありうる。従って、リポソームは、モノエーテルリゾ脂質のプロドラッグ、sPLA2によって脂質から放出されるプロドラッグ、および更に下記において概説されるような他の治療薬を含有しうる。
【0025】
安定化剤
リポソームはまた、リポソームの膜成分としてコレステロールを含めることによって安定化されうる。しかし、リポソーム中の多量のコレステロールはPLA2による加水分解に悪影響を及ぼすため、リポソームは20%または10%以下のコレステロールを含有することが好ましい。更により好ましくは、リポソームは、1%未満のコレステロール、0.1%未満のコレステロールを含有する、またはコレステロールをまったく含有しない。
【0026】
リポソームを構成する脂質のアルキル鎖長は、最適なPLA2加水分解速度および封入化合物のリポソームからの最小限の漏出のために調整されうる。好ましくは、アルキル鎖はC18またはC16飽和鎖である。
【0027】
本発明のリポソームは、好ましくは第三の態様の方法によって調製され、そこではリポソームが二価陽イオンへの暴露によって安定化される。
【0028】
上述のように、リポソームは、モノエーテルリゾ脂質のプロドラッグおよび/またはリゾ脂質を生じるためにsPLA2によって脂質から放出される部分のプロドラッグを含有しうる。
【0029】
好ましい実施形態では、リポソームは、モノエーテルリゾリン脂質のプロドラッグまたはモノエーテルリゾリン脂質ではない、治療薬(薬剤)などの生理活性化合物を含有する。リポソームはまた、モノエーテルリゾリン脂質のプロドラッグおよび治療薬を含有しうる。好ましい生理活性化合物は、小分子、ペプチド、タンパク質ならびにプラスミドおよびオリゴヌクレオチドなどの核酸である。好ましいタンパク質の種類は抗体であり、より好ましくはモノクローナル抗体である。好ましいオリゴヌクレオチドは、アプタマー、アンチセンスオリゴヌクレオチド、マイクロRNAおよびsiRNAである。特に重要な化合物の種類は、アントラサイクリン誘導体、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ドキソルビシン、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、エクシスリンド、cis-レチノイン酸、硫化スルジナック(suldinac sulphide)、メトトレキサート、ブレオマイシンおよびビンクリスチンなどの小分子抗腫瘍薬である。他の特に重要な種類は抗生物質および抗真菌薬であり、更に他の種類はステロイドおよび非ステロイドなどの抗炎症薬である。リポソームは、1種、2種、3種またはそれ以上の異なる生理活性化合物を含有しうる。好ましい実施形態では、リポソームは1つだけの生理活性成分を含有する。
【0030】
別の実施形態では、リポソームは診断薬を含有する。「診断薬」とは、標的組織の局在診断ならびに/または疾患および/もしくは症状の診断を支援する薬剤を意味する。非限定的な例は、造影剤、微粒子、放射性物質、例えば疾患および/または症状と関連するマーカーに特異的に結合する物質のような標的特異的物質などでありうる。いくつかの実施形態において、本発明がリポソームが少なくとも1種の薬剤ならびに診断薬を含有するリポソーム製剤に関するということは、当業者にとって明白である。
【0031】
本発明のリポソームの物理化学的特性
リポソームは単層または多層であり得る。最も好ましくは、リポソームは単層である。リポソームの直径は、50〜400 nm、好ましくは80〜160 nm、最も好ましくは90〜l2O nmであるべきである。
【0032】
好ましくは、本発明の第二の態様のリポソーム製剤の多分散度指数(PDI)は、0.2を超えず、より好ましくは0.15以下、更により好ましくは0.10以下であるべきである。この範囲のPDI値は、製剤中の比較的狭い粒径分布を表す。
【0033】
上記から明白であるように、リポソーム中に存在する場合、リポソームを構成する少なくとも1種の脂質が、sPLA2の基質であることが好ましい。
【0034】
1つの実施形態では、リポソームは、sn-2位ではなくsn-3位でsPLA2によって加水分解される脂質を含有する。このような非天然脂質および非天然脂質を含有するリポソームは、WO 2006/048017号に開示されており、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0035】
好ましくは、本発明のリポソームは、第二の態様のリポソーム製剤中に存在する。従って、それらは、第二の態様に記載されるように、二価陽イオンへの暴露によって安定化されている。1つの実施形態では、リポソームは、形成後に二価陽イオンに暴露されるのみである。すなわち、リポソームの内部は二価陽イオンを含まない。別の実施形態では、リポソームの内部のみが二価陽イオンを含有する。
【0036】
本発明のリポソームに結合する二価陽イオンの存在は、直接的には検証できない。しかし、本発明者らは、リポソームが二価陽イオンによって安定化されたかどうかを示すパラメーターを記載した。
【0037】
二価陽イオンの非存在下でのリポソーム化オキサリプラチン(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)のDSCスキャンは、1つのピークとして観察される単一の転移温度を示す。スキャンを繰り返した場合、転移温度はより高温へとシフトし、それは、転移温度を超える際のリポソームの外部へのオキサリプラチンの放出によるのかもしれない(図19)。二価陽イオンに暴露されたリポソームの反復DSCスキャンでは、より一定の転移温度を有する。従って、1つの実施形態では、本発明のリポソームは、リポソームの反復DSCスキャンで、第一スキャンと第二スキャンとで転移温度の差が2℃以下であることを特徴とする。別の実施形態では、本発明のリポソームは、リポソームの反復DSCスキャンで、同一組成の対照リポソームの転移温度と比較して、第一スキャンと第二スキャンとで転移温度の差がより少ないことを特徴とする。
【0038】
二価陽イオンへの暴露によって安定化されたリポソーム化オキサリプラチン(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)のDSCスキャンは、相分離した転移温度(スキャンにおける2つのピーク;例えば図22参照)を示す。従って、本発明のリポソームの1つの実施形態では、リポソームは、リポソームのDSCスキャンが相分離した転移温度を示すことを特徴とする。
【0039】
更に、リポソームの転移温度は、二価陽イオンへの暴露によってより高温へとシフトし、(試験)リポソームがカルシウムなどの二価陽イオンに暴露されたかどうかを決定する1つの方法は、試験リポソームと同一組成の対照リポソーム(その対照リポソームは二価陽イオンに暴露されていない)の転移温度を測定することによる。従って、1つの実施形態では、本発明のリポソームは、それらが二価陽イオンに暴露されていない同一組成の対照リポソームより高い転移温度を有することを特徴とする。
【0040】
別の実施形態では、本発明のリポソームは、1 mMカルシウムに暴露された際、平均リポソームサイズが10%を超えて減少しない、より好ましくは5%を超えて減少しないことを特徴とする。以前にカルシウムに暴露されていない場合、リポソームはカルシウムに暴露された際に収縮するであろう。試験リポソームがカルシウムに暴露されたかどうかを試験する1つの方法は、それらがカルシウムに暴露されていないことが知られている同一組成の対照リポソームとの比較による。従って、1つの実施形態では、本発明のリポソームは、1 mMカルシウムに暴露された際の収縮の程度が、以前に二価陽イオンに暴露されていない同一組成の対照リポソームの収縮の程度より小さいことを特徴とする。
【0041】
リポソーム製剤
本発明の第二の態様は、本発明のリポソームを含有するリポソーム製剤である。好ましくは、製剤はまた、少なくとも0.1 mMの濃度で二価陽イオンを含有する。本発明者らは、二価陽イオンの存在(または二価陽イオンへの事前の暴露)が、製剤中のリポソームを安定化し、リポソームからの生理活性化合物の漏出の減少をもたらすことを発見した。しかし、二価陽イオンの濃度は10 mMを超えず、より好ましくは5 mMを超えるべきではない(このような濃度はリポソームの凝集および望ましくない高い粘性をもたらすため)ことが認められている。より好ましくは、二価陽イオンの濃度は1 mMを超えず、最も好ましくは、二価陽イオンの濃度は0.1 mM〜1 mMである(図3)。好ましい二価陽イオンはカルシウムである。
【0042】
好ましい実施形態では、二価陽イオンは、マグネシウム(Mg2+)、鉄(Fe2+)、カルシウム(Ca2+)、ベリリウム(Be2+)、マグネシウム(Mg2+)、ストロンチウム(Sr2+)、バリウム(Ba2+)、およびラドン(Ra2+)からなる群より選択される。
【0043】
様々な二価陽イオンが試験され(データは示さない)、最良の効果はCa2+によって見られたため、製剤においてはCa2+が好ましい。
【0044】
更に、場合によってはCa2+の対イオンもまた重要であることが認められている。従って、1つの実施形態では、対イオンは、有機塩のような大きな陰イオンからなる群より選択され、好ましくはグルコン酸、プロピオン酸または乳酸からなる群より選択される。より好ましくは、対イオンはグルコン酸である。
【0045】
二価陽イオンは、リポソームの内部、リポソームの外部、またはリポソームの内部と外部の両方に分布しうる。二価陽イオンは、従って、水和溶液中ならびに/またはリポソーム製剤が精製、懸濁および/もしくは保存される溶液中に存在しうる。好ましい実施形態では、二価陽イオンはリポソームの外部に分布するが、リポソームの内部には分布しない。この実施形態では、二価陽イオンはリポソーム形成後に添加されうる。
【0046】
使用されるべきカルシウム塩の濃度は、個々のリポソーム製剤および薬剤に依存しうる。例えばCaCl2またはNaClなどの塩は、しばしば、リポソームを安定化させるために一定の濃度で必要とされる。しかし、オキサリプラチンは、例えばNaClのようないくつかの塩の存在下で不安定であり、シスプラチンはリン酸塩の存在下または純水中で不安定である。従って、選択される塩の種類およびそれらの濃度は、小胞形成特性に大きな影響を与えるため、封入される薬剤に応じて様々な塩が選択されなければならず、リポソーム製剤の調製のために、異なる塩濃度が使用されなければならない。
【0047】
好ましくは、リポソーム製剤の多分散度指数(PDI)は、0.2を超えるべきではなく、0.10以下がより好ましい。この範囲のPDI値は、製剤中の比較的狭い粒径分布を表す。
【0048】
リポソーム製剤の保護
好ましい実施形態では、リポソーム製剤は、更に凍結(cryo-)および/または凍結乾燥(lyo-)保護剤を含有する。
【0049】
リポソームを保存する間、リン脂質は加水分解されうる。リポソーム製剤中のリン脂質の分解を防ぐ1つの簡単な方法は、凍結または凍結乾燥によるものである。
【0050】
しかし、凍結はリポソーム製剤の漏出を生じさせ、封入された薬剤の放出を引き起こす。凍結保護剤の添加は、凍結後のリポソーム調製物からの漏出を防ぐまたは減少させるために必要でありうる。従って、ある実施形態では、本発明は、更に凍結保護剤を含有するリポソーム製剤に関する。凍結保護剤として使用されうる物質の例は、ショ糖、麦芽糖および/またはトレハロースなどの二糖類でありうるがそれに限定されない。このような物質は、調製物および等張液を得るためなどに選択された物質に応じて、様々な濃度で使用されうる。
【0051】
リポソームはまた、その内容物の大部分が保持されるように、凍結乾燥され、保存され、再構成され得る。リポソームの脱水は、通常、リポソーム二重層の内側と外側の両方の界面に、二糖類(ショ糖、麦芽糖またはトレハロース)のような凍結乾燥保護剤の使用を必要とする。この親水性化合物は、一般的に、サイズおよび内容物が乾燥処理の間およびその後の再構成を通じて維持されるように、リポソーム製剤中の脂質の再配列を防ぐと考えられる。このような乾燥保護剤に適した性質は、それらがリポソーム二重層成分の分子間の間隔を維持する立体化学特性を有することである。
【0052】
リポソーム製剤の調製方法
本発明の第三の態様は、
a)選択された脂質を有機溶媒に溶解することによって脂質混合物を調製するステップ
b)リポソームを形成するために、ステップa)の生成物を水性水和溶媒によって水和するステップ
c)水性水和溶媒の添加前または水性水和溶媒の添加後にステップa)の有機溶媒を除去するステップ
を含むリポソーム製剤の調製方法である。
【0053】
好ましくは、有機溶媒は水和溶媒の添加前に除去される。
【0054】
リポソームのサイズを減少させるために、更に高せん断混合(high sheer mixing)を含む方法
本方法は、更に、フィルターを通してステップc)で生成したリポソームを押し出し、特定の平均サイズのリポソームを調製するステップを含みうる。
【0055】
本方法はまた、リポソーム製剤を超音波処理して、特定のサイズのリポソームを調製するステップをも含みうる。
【0056】
好ましくは、リポソームは、本発明の第一の態様に記載されるようなリポソームである。
【0057】
リポソームには、リポソームを調製するために使用される有機溶媒または水和溶媒に薬剤を可溶化することによって、少なくとも1種の治療薬を充填しうる。
【0058】
あるいは、イオン性治療薬は、最初にリポソームを形成し、例えばリポソームの最外層を隔てたpH勾配によって電気化学ポテンシャルを確立し、その後、リポソームの外部の水性溶媒にイオン性治療薬を添加することによって、リポソーム内に充填し得る。
【0059】
好ましい実施形態では、水和溶媒は、少なくとも0.1 mMの濃度で、より好ましくは0.1 mM〜5 mMの濃度で、最も好ましくは0.1 mM〜1 mMの濃度で、二価陽イオンを含有する。好ましくは、二価陽イオンはCa2+である。別の実施形態では、水和溶媒は二価陽イオンを含有しない。この実施形態では、外部水相は、下記のように、二価陽イオンを含有する別の外部水相と交換されることが好ましい。
【0060】
別の実施形態では、本方法は、更に、製剤の外部水相を交換するステップを含む。最初には、水相は水和溶媒を含む。外部水相の規定された組成の溶液中にリポソームを含有するリポソーム製剤を調製するために、外部水相は、遠心分離、限外ろ過、透析または類似の方法によって交換されうる。好ましくは、生理活性化合物(治療薬)は、内部だけにまたはリポソームに付着してのみ存在し、溶液中の遊離化合物としては存在しない。好ましくは、リポソーム内への薬剤封入は、>70%、より好ましくは>95%、最も好ましくは>99%であるべきである。薬剤の封入度は、製剤中の薬剤の総量に対する封入された薬剤の割合である。
【0061】
好ましい実施形態では、外部水相は、少なくとも0.1 mMの濃度で、より好ましくは0.1 mM〜5 mMの濃度で、最も好ましくは0.1 mM〜1 mMの濃度で二価陽イオンを含有する別の外部水相と交換される。好ましくは、二価陽イオンはCa2+である。
【0062】
本発明者らは、カルシウムに暴露された際、リポソームはまず封入化合物を漏出することを発見した。更に、リポソームは凝縮して、より小さい粒径になる。しかし、最初の漏出後、Ca2+に暴露されたリポソームは、例えば細胞培地(例えばMcCoy培地;図3)中でのインキュベーションの場合に見られるように、漏出の減少を示す。最初の漏出のため、通常、透析および/または遠心分離を行い、リポソームを漏出した物質から分離する。ろ過を行っても良い。
【0063】
第二の態様の好ましい実施形態では、リポソーム製剤は第三の態様の方法によって調製される。
【0064】
医薬
本発明の第五の態様は、医薬として使用するための、第一の態様のリポソームまたは第二の態様のリポソーム製剤である。
【0065】
本発明の第六の態様は、PLA2活性が上昇する疾患の治療に使用される、第一の態様のリポソームまたは第二の態様のリポソーム製剤である。このような疾患は、例えば癌および炎症性疾患である。
【実施例1】
【0066】
リポソーム封入シスプラチンおよびリポソーム封入オキサリプラチンの調製
リポソーム封入シスプラチンおよびリポソーム封入オキサリプラチンは、薬剤であるシスプラチンまたはオキサリプラチンがリポソームの水性区画に封入されたリポソーム-薬剤製剤である。そのリポソーム薬剤製剤は、5 mol% mPEG2000-ジステアロイル(disteoryl)-ホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG2000);25 mol% ジステアロイル(disteroryl)ホスファチジルグリセロール(DSPG);および70 mol% ジステアロイル(disteoryl)ホスファチジルコリン(DSPC)から作られた脂質混合物に封入された薬剤から成る。それぞれの製剤についての具体的な手順は、下記に概説される。
【0067】
リポソーム封入シスプラチン
リン脂質を9:1(v/v)クロロホルム/メタノールに溶解した。その後、溶解した脂質混合物の溶媒を、窒素ガス気流下で視覚的に乾燥するまで65℃の湯浴中でエバポレートした。サンプルを更に真空下で一晩乾燥させた。
【0068】
多重層リポソーム(MLV)の調製のために、シスプラチンを含有する水和液(様々な濃度の塩化ナトリウムおよびグルコン酸カルシウムの溶液)を乾燥した脂質混合物に65℃〜70℃の温度で添加した。完全な水和を確実にするために、脂質懸濁液を少なくとも30分間65℃〜70℃に維持した。この間、脂質懸濁液を5分ごとにボルテックスした。大きな1枚膜リポソーム(LUV)は、MLVを65℃で5分間超音波処理し、続いて100 nm孔径のポリカーボネートフィルターを通して65〜70℃で押し出すことによって調製した。その後、LUVを透析カセット(MWCO:10 kDa)に移し、封入されていないシスプラチンを除去した。
【0069】
リポソーム封入オキサリプラチン
リン脂質を9:1クロロホルム/メタノールに溶解した。その後、溶解した脂質混合物を、窒素ガス気流下で視覚的に乾燥するまで65℃の湯浴中でエバポレートした。サンプルを更に真空下で一晩乾燥させた。
【0070】
多重層リポソーム(MLV)の調製のために、オキサリプラチンを含有する水和バッファー(様々な濃度の異なるカルシウム塩を含む10%ショ糖溶液)を乾燥した脂質混合物に添加した。完全な水和を確実にするために、脂質懸濁液を少なくとも30分間65℃〜70℃に維持した。この間、脂質懸濁液を5分ごとにボルテックスした。その後、大きな1枚膜リポソーム(LUV)を、MLVを65〜70℃で5分間超音波処理し、続いて100 nm孔径のポリカーボネートフィルターを通して65〜70℃で10回押し出すことによって調製した。その後、LUVを透析カセット(MWCO:10 kDa)に移し、封入されていないオキサリプラチンを除去した。
【0071】
リポソーム封入シスプラチンまたはリポソーム封入オキサリプラチンの外部のPt含量の測定は、サンプル平衡化とそれに続く遠心ろ過による分離のステップに基づく。Pt含量はICP-MSの使用によって定量化される。
【表1】
【表2】
【実施例2】
【0072】
水和溶液中でのオキサリプラチンの安定性
オキサリプラチンを、10%ショ糖および1 mMグルコン酸カルシウムを含有する水和溶液中に溶解した(10 mg/ml)。生理的塩濃度にほぼ相当する浸透圧を得るためにショ糖を添加した。水和溶液中でのオキサリプラチンの安定性は、UV測定によって追跡した。室温で保存する間、連続的にサンプルを採取した。測定されたサンプル濃度は0.1 mg/mlオキサリプラチンであった。オキサリプラチンの安定性を追跡するために、200〜350 nmのスキャンを行い(図1)、保存の間の254 nmでの吸光度を比較した(図2)。254 nmでの吸光度の大きな変化は通常、オキサリプラチンの分解に関連し、それはオキサリプラチンを水酸化物イオンおよび/または塩化物イオンを含有する溶液に溶解することによって容易に観察し得る。リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、エタノールアミンなどの、いくつかの一般的なバッファー成分もまた試験されたが、それらは254 nmでの吸光度を低下させることが観察された(データは示さない)。1 mM グルコン酸カルシウムを含有する10%ショ糖溶液に溶解されたオキサリプラチンは、室温で少なくとも35日間保存する間、実質的に分解されないことが示された。
【実施例3】
【0073】
リポソーム封入オキサリプラチンの安定性
リポソーム封入オキサリプラチン製剤(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)の安定性は、細胞培地(McCoy;図5A)中37℃で保存した製剤からの白金化学種(platinum species)の受動的な漏出を測定することによって試験した。t = 0およびt = 24時間にサンプルを採取した。リポソームからの漏出は、細胞培地に添加した直後および37℃で24時間インキュベーションした後での外部水相における白金含量の差として報告された。
【0074】
封入度の測定:
1. 50μlのリポソーム製剤をMcCoyで全量5 mlに希釈する。
【0075】
2. 希釈した製剤を含むチューブを37℃で24時間保存する。
【0076】
3. 2 mlの希釈サンプル(Ohおよび24h)をMillipore社のcentricon YM-30フィルターにのせ、15℃で20分間、2500gで回転させる。
【0077】
4. 200μlのろ液を採取し、McCoyを用いて全量2 mlに希釈する。
【0078】
5. 200μlの希釈サンプルを更に全量2 mlに希釈する。
【0079】
6. サンプルのPt含量をICP-MSによって測定する。標準曲線はMcCoy培地で作成する。
【0080】
この細胞培地は、その後のHT-29結腸癌細胞に対するリポソーム封入オキサリプラチンの細胞毒性効果の評価に使用した。細胞培地中で保存する際のリポソームからの漏出の増加は、非特異的な細胞毒性をもたらす。sPLA2加水分解を受けない場合、製剤は最小限の細胞毒性を有するべきである。リポソーム封入オキサリプラチン製剤において様々な濃度のグルコン酸カルシウム(0〜5 mM)が、リポソームを安定化する能力について試験された(図5)。
【0081】
最大5 mMまでの漸増するグルコン酸カルシウム濃度を用いて調製された製剤は、リポソームからの漏出が減少し、McCoy培地中でのリポソーム封入オキサリプラチンの安定性を上昇させることが明らかに実証された(図3)。初期の封入度(細胞培地への添加直後に測定された)もまた、グルコン酸カルシウム濃度の上昇とともに上昇した。グルコン酸カルシウムから観察されたリポソーム製剤に対する安定化作用がカルシウムと関連しているのか、またはグルコン酸と関連しているのかを試験するために、カルシウムまたはグルコン酸を含む他の化合物がリポソーム封入オキサリプラチン製剤を安定化できるかどうかを更に試験した。下記の表に示すように、他のカルシウム化合物もまたリポソーム製剤を安定化できるのに対し、グルコン酸ナトリウムは安定化できないことが明白であった。乳酸カルシウムおよびプロピオン酸カルシウムは、グルコン酸カルシウムと比較して、製剤に対する同様の安定化作用を有する。これらの結果から、リポソーム製剤に対する安定化作用にカルシウムが関与することが示唆される。
【表3】
【0082】
リポソーム製剤が内部または外部のみでのグルコン酸カルシウムの存在によってどのように影響を受けるかを更に試験した。下記の表に示すように、内部のみにカルシウムを含有するリポソーム製剤は、リポソーム化オキサリプラチン製剤をあまりよく安定化しないことが明白であった。外部のみにカルシウムを有するものはリポソーム製剤をかなりよく安定化することが実証された。
【表4】
【実施例4】
【0083】
抗癌性エーテル脂質
エーテル型リン脂質を用いて、10%ショ糖および1 mMグルコン酸カルシウムを含有する溶液中で脂質混合物(25 mol% 1-O-オクタデシル-2-オクタデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール(1-O-DSPG)、70 mol% 1-O-オクタデシル-2-オクタデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(1-O-DSPC)および5 mol% ジオクタデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ-(ポリエチレングリコール)2000](DSPE-PEG2000))に封入されたオキサリプラチンのリポソーム製剤を調製した。
【0084】
37℃で24時間 McCoy培地中で保存した後、わずか4%のオキサリプラチンの漏出しか観察されなかった。
【実施例5】
【0085】
リポソーム封入オキサリプラチンの細胞毒性
結腸癌細胞(HT-29)において、リポソーム封入オキサリプラチンの細胞毒性を評価した(図5)。HT-29細胞株はPLA2を分泌する能力を持たない。対照として遊離オキサリプラチンを用いた。HT-29細胞を、オキサリプラチンまたはPLA2の存在下もしくは非存在下でリポソーム封入オキサリプラチンによって6時間処理した。オキサリプラチンの完全な放出が起こったことを示すために、涙液などの外部由来のPLA2を添加した。安定したリポソーム製剤では、HT-29はこのような存在によって影響を受けるべきではない。リポソームからオキサリプラチンを放出するためには、PLA2源の存在が必要である。しかし、不安定なリポソーム製剤では、漏出が起こり、そのためにPLA2がないにもかかわらずHT-29細胞に影響を及ぼしうる。製剤中のグルコン酸カルシウムの濃度が上昇すると、リポソームからの漏出が減少することは明白である。この結果は、リポソームからの漏出がグルコン酸カルシウムの濃度の上昇に伴って減少し得ることが観察された、in vitroでの安定性試験(図3B)とよく相関する。
【実施例6】
【0086】
グルコン酸カルシウムを含有するリポソーム化シスプラチン製剤の安定性
目的:
グルコン酸カルシウムを含有するリポソーム化シスプラチン製剤(70/25/5 mol% DSPC/DSPG/DSPE-PEG2000)のMcCoy培地中での安定性を試験する。その目的は、McCoy培地中で最小限の漏出を示す製剤を見出すことである。
【0087】
手順:
リポソーム製剤(50μl)を4950μlのMcCoy培地と混合し、37℃で24時間インキュベーションした。t=Oおよびt=24hにサンプルを採取した。シスプラチン製剤は、様々な濃度のグルコン酸カルシウムを用いて調製する。
【0088】
封入度:
1. 50μlのリポソーム製剤をMcCoyで全量5 mlに希釈する。
【0089】
2. 希釈した製剤を含むチューブを37℃で24時間保存する。
【0090】
3. 2 mlの希釈サンプル(Ohおよび24h)をMillipore社のcentricon YM-30フィルターにのせ、15℃で20分間、2500gで回転させる。
【0091】
4. 200μlのろ液を採取し、McCoyを用いて全量2 mlに希釈する。
【0092】
5. 200μlの希釈サンプルを更に全量2 mlに希釈する。
【0093】
6. サンプルのPt含量をICP-MSによって測定する。標準曲線はMcCoy培地で作成する。
【0094】
結果:
【表5】
【0095】
100μMおよび1 mMグルコン酸カルシウムを含有するリポソーム封入シスプラチン製剤は、グルコン酸カルシウムの存在なしに調製した製剤を用いて行われた以前の観察と比較して、漏出程度の減少を示した。
【0096】
この細胞培地を、その後のHT-29結腸癌細胞に対するリポソーム封入シスプラチンの細胞毒性効果の評価に使用した(図4および図6)。
【0097】
製剤中のグルコン酸カルシウムの濃度が上昇すると、リポソームからの漏出が減少することは明白である。この結果は、リポソームからの漏出がグルコン酸カルシウムの濃度の上昇に伴って減少し得ることが観察された、in vitroでの安定性試験(図3A)とよく相関する。
【実施例7】
【0098】
リポソーム封入オキサリプラチン製剤に対するカルシウムの影響
目的:リポソーム封入オキサリプラチン製剤に対してグルコン酸カルシウム溶液を添加または希釈する影響を試験する。
【0099】
リポソーム封入オキサリプラチン製剤をカルシウムなしで調製した(内部および外部に10%ショ糖)。リポソーム封入オキサリプラチン製剤を様々な濃度のカルシウム中に希釈した(脂質濃度は0.84 mMに維持した)。サンプルを24時間平衡化し、封入度(DOE;%)および粒径を測定した。
【0100】
頭部基に共有結合した蛍光プローブ7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イルを有する0.5 mol%の1,2-ジパルミトイル-ホスファチジルエタノールアミン(NBD-PE)(Fluka, Buchs, Switzerland)を含有するリポソーム(70/25/5 mol% PC/PG/PE-PEG)の懸濁液を、10%ショ糖中で調製した。NBDプローブ分子は465 nmで励起され、放射波長のピークはSLM DMX-1000分光蛍光光度計を用いて535 nmで観察された。新たに調製された0.1 mM脂質懸濁液の2.5 mLアリコートを一定温度(25℃)のキュベットに入れ、不可逆的な亜ジチオン酸消光剤の外部水相への添加前に5分間平衡化した。磁気撹拌子を用いてキュベット中でサンプルの迅速な混合を行った。30μLの新たに調製した亜ジチオン酸ナトリウム(1M Trizmaバッファー原液中の1M Na2S2O4)の添加後、蛍光強度の時間依存性の減衰を測定した。300秒後、30μlの10 mMグルコン酸カルシウムを添加する。それに続く10μlの10% Triton X-100のリポソーム調製物への添加により、数秒以内にNBD-PE蛍光の完全な消光が生じた。
【0101】
結果
【表6】
【表7】
【0102】
リポソームの粒径は様々な濃度のカルシウムを含有する溶液中で保存する間に減少することが、観察されうる(図7)。製剤からの漏出は、外部でのカルシウムの上昇によって増加した(図8)。消光されたNBD-PEプローブを含有する製剤へのカルシウムの添加は、更なる消光を引き起こさなかった(図9)。この結果から、カルシウムの添加が一過的な透過性を誘導しないことが示される。これらのデータから、カルシウムがリポソーム膜を凝縮し、それによって粒径が減少し、薬剤が放出されることが示される。
【実施例8】
【0103】
リポソーム化オキサリプラチン製剤に対するCa2+の影響;第一部
目的:
粒径、全Pt量、DOE、および安定性に関して、DSPC、DSPGおよびDSPE-PEG2000を含有する様々なリポソーム製剤の外部水相にのみカルシウムを含有する影響を試験する。膜でのCa2+とオキサリプラチンとの相互作用の可能性を追跡調査するために、様々な製剤においてDSCを行った。
【0104】
手順
5つの異なるオキサリプラチンのリポソーム製剤を、内部にカルシウムを含まずに調製した。DSPGおよびDSPC含量は、下記のようにリポソーム製剤で異なっていた。
【0105】
1. 80:15:5 mol% PC/PG/PE-PEG
2. 70:25:5 mol% PC/PG/PE-PEG
3. 60:35:5 mol% PC/PG/PE-PEG
4. 50:45:5 mol% PC/PG/PE-PEG
5. 40:55:5 mol% PC/PG/PE-PEG
4 mlのリポソーム封入オキサリプラチンを75℃で超音波処理し(1 分/ml)、その後、過剰なオキサリプラチンを沈殿させるために冷却した。上清を透析チャンバー(MWCO: 10 kDa)に移し、10%ショ糖溶液に対して透析した。各チャンバーに1.75 mlを入れた。透析したサンプルを2つに分け、一方を10%ショ糖溶液が入っているビーカー中で更に透析し、他方を1 mM グルコン酸カルシウムを含有する10%ショ糖溶液が入っているビーカー中で透析した。
【0106】
・超音波処理後および透析の各ステップの後に、粒径を追跡調査した。
【0107】
・リポソーム製剤(+/-グルコン酸カルシウム)のサーモグラムを比較する。
【0108】
・リポソーム製剤について第一および第二透析ステップの間の漏出を測定した。
【0109】
・リポソーム化オキサリプラチン製剤の安定性をMcCoy培地において試験した(24時間、37℃)。
【0110】
結果
図10〜22を参照されたい。
【0111】
粒径分析(サイズはnmで示される)
【表8】
【0112】
Pt分析
【表9】
【0113】
McCoy細胞培地中での安定性
【表10】
【0114】
考察
製剤は、内部にカルシウムを含まず、外部にカルシウムを含んでまたは含まずに調製した。
【0115】
粒径は、ショ糖のみを含む溶液中では、最大45%までのPG含量の上昇によって増大することが観察される(図10)。これとは反対に、外部に1mMグルコン酸カルシウムを添加することによって、粒径は低下することが観察される(図11)。最も高いPG含量を有する製剤は、Ca2+非存在下での粒径に最も大きな変動を有することが観察された(図11および12)。
【0116】
両透析ステップにおいて透析溶液が10%ショ糖である場合、第一透析と第二透析との間で実質的にオキサリプラチンの損失はない(イオン計数比(Pt195/P31)に基づく)。カルシウムを含有する製剤について、図14のPt/Pレベルを比較すると、第一透析ステップと第二透析ステップとの間で減少が観察される。
【0117】
透析の際にカルシウムが存在する場合、10%ショ糖溶液中で透析した製剤と比較して、オキサリプラチンの損失が観察される。製剤中のPG含量の増加に伴い、オキサリプラチンの減少が観察される。
【0118】
同じ時間透析した場合、DOE(%)は通常、より低いPG含量を有する製剤においてより高い。
【0119】
粒径と全Pt濃度をプロットすると(図17)、相関があると思われる。粒径の増加に伴い、脂質組成(DSPCおよびDSPG含量の変化)に関わらず、より高いPt含量が観察される。
【0120】
グルコン酸カルシウムを含有する溶液中で透析したリポソームはMcCoy培地中で安定であるが、一方、10%ショ糖中で透析した製剤は、McCoy培地に暴露された際、オキサリプラチンの多量の漏出を示した(図18)。
【0121】
35%PGのリポソーム封入オキサリプラチン製剤のDSCスキャンは、カルシウムが存在しない場合、製剤のスキャンを繰り返すことができないことを示した(図19)。それぞれの新たなスキャンにおいて、転移温度は連続的に上昇した。製剤の外部にカルシウムが存在する場合、転移温度は、それぞれの新たなスキャンにおいて一定に保たれた(図21)。更に、より高いPG含量によって、転移温度は上昇した(図20)。
【0122】
リポソーム封入オキサリプラチン製剤の転移温度は60〜70℃の範囲である。従って、押し出し温度を70℃に維持することが推奨される。
【実施例9】
【0123】
リポソーム化オキサリプラチン製剤に対するCa2+の影響;第二部
目的:
粒径、全Pt量、DOE、および安定性に関して、DSPC、DSPGおよびDSPE-PEG2000を含有する様々なリポソーム製剤の内部と外部との両方にカルシウムを含有する影響を試験する。膜でのCa2+とオキサリプラチンとの相互作用の可能性を追跡調査するために、様々な製剤においてDSCを行った。
【0124】
手順:
4つの異なるオキサリプラチンのリポソーム製剤を、内部にグルコン酸カルシウムを含んで調製した。DSPCおよびDSPG含量は、下記のようにリポソーム製剤で異なっていた。
【0125】
6. 70:25:5 mol% PC/PG/PE-PEG
7. 60:35:5 mol% PC/PG/PE-PEG
8. 50:45:5 mol% PC/PG/PE-PEG
9. 40:55:5 mol% PC/PG/PE-PEG
4 mlのリポソーム封入オキサリプラチンを75℃で超音波処理し(1 分/ml)、その後、過剰なオキサリプラチンを沈殿させるために冷却した。上清を透析チャンバー(MWCO 3,500)に移し、1 mM グルコン酸カルシウムを含有する10%ショ糖溶液に対して透析した。各チャンバーに3 mlを入れた。24時間後、透析チャンバーを10%ショ糖および1 mM グルコン酸カルシウムが入っている新しいビーカーに移す。
【0126】
・超音波処理後および透析の各ステップの後に、粒径を追跡調査する。
【0127】
・リポソーム製剤のサーモグラムを比較する。
【0128】
・リポソーム製剤について第一および第二透析ステップの間の漏出を測定する。
【0129】
・リポソーム化オキサリプラチン製剤の安定性をMcCoy培地において試験する(24時間、37℃)。
【0130】
結果
図23〜25を参照されたい。
【0131】
粒径分析(サイズはnmで示される)
【表11】
【0132】
Pt分析
【表12】
【0133】
McCoy安定性
【表13】
【0134】
一般的結論:
製剤は、内部と外部の両方にカルシウムを含んで調製した。
【0135】
第一透析ステップ後、リポソームの粒径は、すべての製剤において低下する。第一透析ステップから第二透析ステップまでに、粒径の上昇が見られる。おそらく、脂質組成と粒径の変化とは相関がない。
【0136】
調製したすべての製剤において、グルコン酸カルシウムが内部に含まれる場合、より高いPt/P比が観察された。
【0137】
35% DSPGのリポソーム封入オキサリプラチン製剤のDSCスキャンは、転移温度がそれぞれの新たなスキャンにおいて一定に保たれることを示した(図24)。更に、より高いPG含量によって、転移温度は上昇すると思われる(図25)。
【0138】
同じ時間透析した場合、DOE(%)は通常、より低いDSPG含量を有する製剤においてより高い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
・25%〜45%(mol/mol)の陰イオン性脂質、
・10%以下のコレステロール、および
・治療薬
を含んでおり、0.1 mM〜1 mMの濃度の二価陽イオンに暴露された、リポソーム。
【請求項2】
前記陰イオン性脂質が、PI(ホスファチジルイノシトール)、PS(ホスファチジルセリン)、DPG(ビスホスファチジルグリセロール)、PA(ホスファチジン酸)、PEOH(ホスファチジルアルコール)、およびPG(ホスファチジルグリセロール)からなる群より選択される、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
前記陰イオン性脂質がホスファチジルグリセロールである、請求項1または2に記載のリポソーム。
【請求項4】
PEG [ポリ(エチレングリコール)]、PAcM [ポリ(N-アクリロイルモルホリン)]、PVP [ポリ(ビニルピロリドン)]、PLA [ポリ(ラクチド)]、PG [ポリ(グリコリド)]、POZO [ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)]、PVA [ポリ(ビニルアルコール)]、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、PEO [ポリ(エチレンオキシド)]、キトサン[ポリ(D-グルコサミン)]、PAA [ポリ(アミノ酸)]、ポリHEMA [ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)]およびこれらの共重合体からなる群より選択される親水性ポリマーを含有している、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項5】
前記ポリマーが、100 Da〜10 kDaの分子量を有するPEGである、請求項4に記載のリポソーム。
【請求項6】
前記ポリマーが、ホスファチジルエタノールアミンの頭部基とコンジュゲートされる、請求項4および5のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項7】
ポリマーにコンジュゲートされた脂質の量が2.5%〜7.5%(mol/mol)である、請求項4〜6のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項8】
更に、PC(ホスファチジルコリン)およびPE(ホスファチジルエタノールアミン)からなる群より選択される非荷電性リン脂質を含有している、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項9】
コレステロールを含有しない、請求項1〜8のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項10】
脂質のアルキル鎖がC18飽和鎖である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項11】
前記治療薬が、アントラサイクリン誘導体、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ドキソルビシン、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、エクシスリンド、cis-レチノイン酸、硫化スルジナック(suldinac sulphide)、メトトレキサート、ブレオマイシンおよびビンクリスチンからなる群より選択される、請求項1〜10のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項12】
前記治療薬がオキサリプラチンまたはシスプラチンである、請求項1〜11のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項13】
前記リポソームが大きな1枚膜リポソーム(LUV)である、請求項1〜12のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項14】
前記リポソームが80〜120 nmの直径を有する、請求項1〜13のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項15】
リポソーム中の少なくとも1種の脂質がsPLA2の基質である、請求項1〜14のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項16】
前記二価陽イオンがCa2+である、請求項1〜15のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載のリポソーム、および0.1 mM〜1 mMの二価陽イオンを含む、リポソーム製剤。
【請求項18】
前記二価陽イオンがCa2+である、請求項17に記載のリポソーム製剤。
【請求項19】
多分散度指数(Poly Dispersity Index)が0.20以下である、請求項17〜18のいずれか1項に記載のリポソーム製剤。
【請求項20】
a. 選択された脂質を有機溶媒に溶解することによって脂質混合物を調製するステップ、
b. リポソームを形成するために、ステップa)の生成物を水性水和溶媒によって水和するステップ、
c. 水性水和溶媒の添加前または水性水和溶媒の添加後にステップa)の有機溶媒を除去するステップ
を含む、請求項17〜19のいずれか1項に記載のリポソーム製剤の調製方法。
【請求項21】
有機溶媒が水和溶媒の添加前に除去される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
更に、リポソーム製剤を超音波処理して、特定のサイズのリポソームを調製するステップを含む、請求項20〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記水和溶媒が0.1 mM〜1 mMの濃度の二価陽イオンを含有する、請求項20〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
更に、外部水相を0.1 mM〜1 mMの濃度の二価陽イオンを含有する別の外部水相に交換するステップを含む、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記二価陽イオンがCa2+である、請求項20〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
・25%〜45%(mol/mol)の陰イオン性脂質、
・10%以下のコレステロール、および
・治療薬
を含んでおり、0.1 mM〜1 mMの濃度の二価陽イオンに暴露された、リポソーム。
【請求項2】
前記陰イオン性脂質が、PI(ホスファチジルイノシトール)、PS(ホスファチジルセリン)、DPG(ビスホスファチジルグリセロール)、PA(ホスファチジン酸)、PEOH(ホスファチジルアルコール)、およびPG(ホスファチジルグリセロール)からなる群より選択される、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
前記陰イオン性脂質がホスファチジルグリセロールである、請求項1または2に記載のリポソーム。
【請求項4】
PEG [ポリ(エチレングリコール)]、PAcM [ポリ(N-アクリロイルモルホリン)]、PVP [ポリ(ビニルピロリドン)]、PLA [ポリ(ラクチド)]、PG [ポリ(グリコリド)]、POZO [ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)]、PVA [ポリ(ビニルアルコール)]、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、PEO [ポリ(エチレンオキシド)]、キトサン[ポリ(D-グルコサミン)]、PAA [ポリ(アミノ酸)]、ポリHEMA [ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)]およびこれらの共重合体からなる群より選択される親水性ポリマーを含有している、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項5】
前記ポリマーが、100 Da〜10 kDaの分子量を有するPEGである、請求項4に記載のリポソーム。
【請求項6】
前記ポリマーが、ホスファチジルエタノールアミンの頭部基とコンジュゲートされる、請求項4および5のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項7】
ポリマーにコンジュゲートされた脂質の量が2.5%〜7.5%(mol/mol)である、請求項4〜6のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項8】
更に、PC(ホスファチジルコリン)およびPE(ホスファチジルエタノールアミン)からなる群より選択される非荷電性リン脂質を含有している、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項9】
コレステロールを含有しない、請求項1〜8のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項10】
脂質のアルキル鎖がC18飽和鎖である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項11】
前記治療薬が、アントラサイクリン誘導体、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、ドキソルビシン、パクリタキセル、5-フルオロウラシル、エクシスリンド、cis-レチノイン酸、硫化スルジナック(suldinac sulphide)、メトトレキサート、ブレオマイシンおよびビンクリスチンからなる群より選択される、請求項1〜10のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項12】
前記治療薬がオキサリプラチンまたはシスプラチンである、請求項1〜11のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項13】
前記リポソームが大きな1枚膜リポソーム(LUV)である、請求項1〜12のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項14】
前記リポソームが80〜120 nmの直径を有する、請求項1〜13のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項15】
リポソーム中の少なくとも1種の脂質がsPLA2の基質である、請求項1〜14のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項16】
前記二価陽イオンがCa2+である、請求項1〜15のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載のリポソーム、および0.1 mM〜1 mMの二価陽イオンを含む、リポソーム製剤。
【請求項18】
前記二価陽イオンがCa2+である、請求項17に記載のリポソーム製剤。
【請求項19】
多分散度指数(Poly Dispersity Index)が0.20以下である、請求項17〜18のいずれか1項に記載のリポソーム製剤。
【請求項20】
a. 選択された脂質を有機溶媒に溶解することによって脂質混合物を調製するステップ、
b. リポソームを形成するために、ステップa)の生成物を水性水和溶媒によって水和するステップ、
c. 水性水和溶媒の添加前または水性水和溶媒の添加後にステップa)の有機溶媒を除去するステップ
を含む、請求項17〜19のいずれか1項に記載のリポソーム製剤の調製方法。
【請求項21】
有機溶媒が水和溶媒の添加前に除去される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
更に、リポソーム製剤を超音波処理して、特定のサイズのリポソームを調製するステップを含む、請求項20〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記水和溶媒が0.1 mM〜1 mMの濃度の二価陽イオンを含有する、請求項20〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
更に、外部水相を0.1 mM〜1 mMの濃度の二価陽イオンを含有する別の外部水相に交換するステップを含む、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記二価陽イオンがCa2+である、請求項20〜24のいずれか1項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5−1】
【図5−2】
【図5−3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5−1】
【図5−2】
【図5−3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公表番号】特表2011−521913(P2011−521913A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510005(P2011−510005)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056297
【国際公開番号】WO2009/141450
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(510308539)リプラサム ファーマ エーピーエス (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056297
【国際公開番号】WO2009/141450
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(510308539)リプラサム ファーマ エーピーエス (1)
【Fターム(参考)】
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