説明

薬剤送達インプラントおよびその作製のためのプロセス

本発明は、少なくとも一つの薬剤の送達に適したインプラントであって、該インプラントは線維状コラーゲンマトリックスを含み、該線維状コラーゲンマトリックスは、実施例1における測定を行った場合に、140mgの線維状コラーゲンマトリックスから形成されたコラーゲン分散体が、3.5未満のpHおよび30.0+/−0.5℃の温度において25mlの2mM HCl中に分散しているときに、100mPasより大きい粘度、任意には103mPasより大きい粘度、さらに任意には106mPasより大きい粘度、なおさらに任意には109mPasより大きい粘度を有する、インプラントを開示する。本発明はまた、少なくとも一つの薬剤の送達に適したインプラントを作製するためのプロセスであって、該プロセスは、コラーゲン懸濁液から線維状コラーゲンマトリックスを形成するステップ;および、該線維状コラーゲンマトリックスまたは該コラーゲン懸濁液のいずれかに対して架橋のステップを実行するステップを含み、該架橋のステップは、実施例1における測定を行った場合に、140mgの線維状コラーゲンマトリックスから形成されたコラーゲン分散体が、3.5未満のpHおよび30.0+/−0.5℃の温度において25mlの2mM HCl中に分散しているときに、該線維状コラーゲンマトリックスが、100mPasより大きい粘度、任意には103mPasより大きい粘度、さらに任意には106mPasより大きい粘度、なおさらに任意には109mPasより大きい粘度を有するような条件下で実行されるものである、プロセスを開示する。本発明はさらに、上述の線維状コラーゲンマトリックスの使用であって、該使用は、移植部位に隣接しての、インプラントからの少なくとも一つの薬剤の延長された局所送達のための、上述のインプラントを製造するためのものである、使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、薬剤送達インプラントおよびその作製のためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
関連する背景技術
薬剤送達の分野における現在の取り組みとしては、薬剤が身体の標的領域において(例えば、癌組織において)のみ活性を有する標的送達、および、薬剤が制御された様式で製剤からある期間にわたって放出される徐放性製剤が挙げられる。
【0003】
コラーゲン
コラーゲンは、人体において最も豊富なタンパク質であり、全タンパク質の約30%を占めている。コラーゲンは骨の約95%、皮膚の75%を構成し、他の結合組織(軟骨、腱および靱帯)の主な構成要素である。コラーゲンは、構成要素のアミノ酸に天然に生物分解し、身体はコラーゲンの再構成の際に該アミノ酸を取り込んで使用する。コラーゲンは細胞を取り囲んで全ての組織の三次元細胞マトリックスを形成し、それぞれにその特徴的な構造、質感および形状を与えている。20より多くの異なる種類のコラーゲンが知られており、それらは分子構成および組織分布に従って分類されている(Gelse et al. 2003)。骨、真皮、腱および靱帯は主にI型コラーゲンである。
【0004】
コラーゲンの構造、機能および生合成は、徹底的に研究されてきた(Gelse et al. 2003, Nimmi et al. 1988)。I型コラーゲン分子は三つのペプチドサブユニットから成り、その全ては類似のアミノ酸組成を有し、また三重ヘリックスとして適合されている。へリックス部分に加えて、該分子の各末端の末端アミノ酸配列は、テロペプチドと呼ばれる短い(全体の5%未満)非ヘリックスドメインから成り、これらは、隣接するヘリックスとの非共有結合性の重合に関与している。その後の分子内および分子間の架橋の形成は、コラーゲンの線維、原線維および巨視的束状構造の形成を助け、それらは組み合わさって組織を形成する。
【0005】
バイオ医学用途のためのI型コラーゲンの主な採取源は、動物の皮膚(主にウシまたはブタ)、あるいはアキレス腱(通常、ウシまたはウマ由来のもの)のいずれかである。抽出および精製の後、コラーゲンの一次から三次構造は保存され得るか(通常、「不溶性」、「線維状」または「天然」コラーゲンと呼ばれる)、あるいは代替的には、コラーゲンは酵素および/または極端なpHによってさらに消化および分解されて、より高次の原線維構造の部分的もしくは完全な除去に繋がり得る(いわゆる、「可溶性」コラーゲン)。
【0006】
コラーゲン由来の医療製品
コラーゲンは、安全かつ効果的な生体材料(バイオマテリアル)として十分確立されている。コラーゲンは、高い引張強度、生体適合性および生体組織における吸収性といった特性を兼ね備えている。コラーゲンベースの医療デバイスは広く使用されており、それらとしては、止血剤、血管プロテーゼ、心臓弁および尿道括約筋インプラントが挙げられる。
【0007】
可溶性および不溶性コラーゲンの生理学的特性は異なり、そのことにより多様な医療用途がもたらされている。可溶性コラーゲンは、優れた機械的特性および生体適合性を有する生物分解性または非生物分解性の材料を生産するために使用することが可能であり、一方、不溶性コラーゲンはそれに加えて、天然コラーゲンの止血(出血の停止)および創傷治癒の特性を保持している。
【0008】
外科的止血剤
移植された不溶性コラーゲンの組織学的および生化学的な運命は、よく研究されてきた。コラーゲンインプラントには先ず、多くの細胞型、主には線維性組織の生成に関与する細胞(線維芽細胞)が密集する(Anselme et al. 1990)。線維芽細胞による新たなコラーゲンの生成は、該細胞がコラーゲンインプラントなどの細胞外マトリックスに結合しているときに増加することが見出されている(Postlethwaite et al. 1978)。様々な種類のコラーゲンは、コラーゲン溶解性の分解に対する異なる感受性を示す。三重へリックスの開裂後、ゼラチナーゼおよび非特異的プロテイナーゼによってコラーゲン分子のさらなる分解が促進される。該ゼラチナーゼおよび非特異的プロテイナーゼは、最初の断片を小ペプチドおよびアミノ酸にまで切断するため、インプラントは徐々にリモデリングされ、宿主のI型コラーゲンによって置き換えられる(Burke et al. 1983)。細胞の応答、コラーゲンインプラントの吸収およびリモデリングというこの一連の流れは、通常の創傷治癒のメカニズムにとって古典的なものであり(Cooper, Chapter 7)、研究により、そのようなインプラントがこの天然のプロセスを加速させることが示されている(Leipziger et al. 1985)。止血剤は外科手術および救急医療の両方において一般に使用されており、出血を縫合または他の外科技術で修復できるまで、出血(特に、破れた血管からの出血)を制御する。血液凝固の過程において、血小板はトロンビンによって活性化され、損傷の部位に集まる。フィブリノーゲンによって刺激されると、血小板は、血管の内皮裏打ちの破裂後に露出されるコラーゲンに結合することによって凝集する。止血活性は天然コラーゲンの固有の特性であり、該タンパク質のへリックス構造に依存している。そのため、コラーゲンは天然の止血剤になり得、過度の出血(bleeding)、または大出血(haemorrhage)を制御するために、多様なコラーゲンベースの製品が外科および歯科において使用されている。
【0009】
多様な局所止血剤が市販されている。ゼラチンスポンジ/パウダー(J&JのSurgifoam(登録商標)、PfizerのGelfoam(登録商標));コラーゲンスポンジ/パウダー/繊維/シート;酸化セルロース(J&JのSurgicel(登録商標));トロンビン;止血性の因子(アプロチニン、トロンビンおよびフィブリンシーラントなど)と組み合わせたコラーゲン;トロンビンおよびフィブリン糊を伴うゼラチン、などである。局所止血剤の適切な取扱いが出血の制御のために不可欠であり、そのために、局所止血剤の形態または構成は重要な要素である。
【0010】
大部分のコラーゲンベースの止血剤は、微線維性コラーゲン止血剤(microfibrillar collagen haemostats; MCH)と呼ばれており、該剤としては、J&JのInstat MCH(登録商標)(これはスポンジ型ではなく繊維型であるが)、およびDavolのAvitene(登録商標)(粉末(powder/flour)型およびシート状で提供されている)、およびDavolのUltrafoam(登録商標)コラーゲンスポンジ(Davolは、Ultrafoamは膨潤しないと主張している。Aviteneと共に、UltraFoamは、神経外科での使用が示されている唯一のコラーゲン止血剤である)が挙げられる。外科医がMCHを出血部位に押し付けると、コラーゲンは凝固プロセスを引き寄せてそれを助け、最終的に出血を止める。Johnson & JohnsonのInstatは、精製され、凍結乾燥されたウシ真皮のコラーゲンから成り、スポンジ状のパッドとして作製されており、少し架橋されており、無菌で、非発熱性で、吸収性である。J&JのInstat MCH製品のリーフレットには、Instatは、液体を吸収して膨張し、隣接する構造を圧迫する可能性があるため、空洞や閉じた空間に詰め込み過ぎないように示唆されている。
【0011】
局所止血剤は、液体(体液/水分)を吸収して膨張し、周囲組織の神経を骨または硬組織に対して押し付けることがある(Tomizawa 2005)。開胸から一日後に対まひ(パラプレジア)と診断され、そしてそれは外科手術に用いられたSurgicelによる脊髄の圧迫により引き起こされたものであったという事例が報告されている(Iwabuchi et al. 1997)。Surgicelが移動し、脊髄の圧迫を引き起こしたことに起因する開胸手術後の対まひの事例がBrodbelt et al 2002で報告されている。開胸および腰椎椎弓切除後の対まひの事例が報告されており、ほとんどが手術から24時間以内に起こっている(Lovstad et al 1999, Awwad and Smith 1999)。閉鎖された空間においてさえ、Gelfoamもまた膨張して脊髄を傷付けた(Alander and Stauffer, 1995; Friedman and Whitecloud,2001)。
【0012】
吸収性の止血剤を骨または神経の空間において、または該空間の近くで使用する場合(FDA Public Health Notification, 2004)、食品医薬品局(the Food and Drug Administration; FDA)は、止血を達成するのに必要な最低量の止血剤を使用すること、および、止血が達成された後にはできるだけ多くの剤を除去することを推奨している。1996年以降、吸収性止血剤に関連する110を超える悪い事象の報告をFDAは受けている。該事象のうち11例は、麻痺または他の神経障害をもたらすものであった。最も最近報告された麻痺は、2003年10月に起きたものである。11の事象全てに共通するのは、骨または神経の空間において、または該空間の近くで吸収性止血剤を使用し、それを患者の体内に残したということであった。湿ったときに該材料が膨潤し、脊髄または他の神経の構造体に圧力を与えて、痛み、無感覚または麻痺を引き起こしていた。
【0013】
コラーゲンベースの局所薬剤送達システム
作用が意図される特定の組織、器官または領域に対して直接的に薬剤を送達するというコンセプトは医学界において注目を増している(Patterson et al. 2003)。全身治療を上回る局所薬剤送達の重要な利点は、全身毒性および関連する副作用のリスクを回避しつつ、標的部位において高濃度の薬剤を維持できるということである。局所送達を目的とする今日の製品の多くは、デバイスと薬剤との組み合わせである。例としては、局所麻酔薬の連続注入用のポンプ、薬用ステント、および、抗生物質を含有する骨セメントが挙げられる。
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、先行技術に関連する上述の問題のいくつかを除去する薬剤送達インプラントを提供することである。
【0015】
発明の要旨
本発明は、薬剤送達用インプラントおよびその作製のためのプロセスを対象とする。
【0016】
本発明の第一の態様では、本発明は、少なくとも一つの薬剤の送達に適したインプラントであって、該インプラントは線維状コラーゲンマトリックスを含み、該線維状コラーゲンマトリックスは、実施例1における測定を行った場合に、140mgの線維状コラーゲンマトリックスから形成されたコラーゲン分散体が、3.5未満のpHおよび30.0+/−0.5℃の温度において25mlの2mM HCl中に分散しているときに、100mPasより大きい粘度、任意には103mPasより大きい粘度、さらに任意には106mPasより大きい粘度、なおさらに任意には109mPasより大きい粘度を有する、インプラントを対象とする。「30.0+/−0.5℃」は、29.5℃〜30.5℃の範囲内の温度を意味する。当然のことであるが、一つ以上の薬剤が線維状コラーゲンマトリックス中に分散している場合、上記で与えた粘度の値は、任意の薬剤を分散させる前のコラーゲン分散体自体を指しており、線維状コラーゲンマトリックス中に分散した少なくとも一つの薬剤を含む薬剤送達デバイスを指しているのではないことは、実施例1自体を参照することにより理解されるであろう。任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの粘度の少なくとも70%である。
【0017】
本発明の第二の態様では、本発明は、少なくとも一つの薬剤の送達に適したインプラントを作製するためのプロセスであって、該プロセスは、
(i)コラーゲン懸濁液から線維状コラーゲンマトリックスを形成するステップ、および、
(ii)該線維状コラーゲンマトリックスまたは該コラーゲン懸濁液のいずれかに対して架橋のステップを実行するステップ
を含み、該架橋のステップは、実施例1における測定を行った場合に、140mgの線維状コラーゲンマトリックスから形成されたコラーゲン分散体が、3.5未満のpHおよび30.0+/−0.5℃の温度において25mlの2mM HCl中に分散しているときに、該線維状コラーゲンマトリックスが、100mPasより大きい粘度、任意には103mPasより大きい粘度、さらに任意には106mPasより大きい粘度、なおさらに任意には109mPasより大きい粘度を有するような条件下で実行されるものである、
プロセスを対象とする。当然のことであるが、一つ以上の薬剤が線維状コラーゲンマトリックス中に分散している場合、上記で与えた粘度の値は、任意の薬剤を分散させる前のコラーゲン分散体自体を指しており、線維状コラーゲンマトリックス中に分散した少なくとも一つの薬剤を含む薬剤送達デバイスを指しているのではないことは、実施例1自体を参照することにより理解されるであろう。コラーゲン分散体が、実施例1における測定を行った場合に100mPasより大きい粘度、任意には103mPasより大きい粘度、さらに任意には106mPasより大きい粘度、なおさらに任意には109mPasより大きい粘度を有することを確保しつつ、少なくとも一つの薬剤の組み込みの前または後に、コラーゲン懸濁液または線維状コラーゲンマトリックスのいずれかを架橋することが、予想外なことに、インプラントからの薬剤送達についての臨床効果の延長と関連することに本発明者らは気付いた。
【0018】
任意には、架橋のステップは、少なくとも一つの薬剤の線維状コラーゲンマトリックスへの組み込みの前または後に、コラーゲンの線維状マトリックスに対して実行される。さらに任意には、架橋のステップは、少なくとも一つの薬剤の線維状コラーゲンマトリックスへの組み込みの後に、線維状コラーゲンマトリックスに対して実行される。
【0019】
本発明のさらなる態様では、線維状コラーゲンマトリックスの使用であって、該線維状コラーゲンマトリックスは、実施例1における測定を行った場合に、140mgの線維状コラーゲンマトリックスから形成されたコラーゲン分散体が、3.5未満のpHおよび30.0+/−0.5℃の温度において25mlの2mM HCl中に分散しているときに、100mPasより大きい粘度、任意には103mPasより大きい粘度、さらに任意には106mPasより大きい粘度、なおさらに任意には109mPasより大きい粘度を有し、該使用は、移植部位に隣接しての、インプラントからの少なくとも一つの薬剤の延長された局所送達のための、本発明の第一の態様のインプラントを製造するためのものである、使用が提供される。図7から観察されるように、ガンマ放射線のみによって滅菌した線維状コラーゲンマトリックスを含み、本発明の一部を形成しないインプラントの移植から24時間後には、薬剤の血清レベルはもはや検出できない。対照的に、同様に図7から観察されるように、EO滅菌で滅菌した線維状コラーゲンマトリックスを含むインプラントの移植から42時間より後においてもなお、薬剤の血清レベルが検出できる。従って、本発明のインプラントからの薬剤送達の持続時間は、本発明のものではないインプラントのそれよりも、少なくとも50%長く、任意には少なくとも75%長いことが理解されるであろう。
【0020】
本発明のインプラントからの特定の薬剤のインビボ放出プロファイルは、動物およびヒトの両方において、薬物動態(PK)評価を通じて観察することができる。驚くべきことに、そのようなシステムのPKプロファイルは、血清濃度において二つのピークを示す。これに対する一つの可能な説明としては、線維状コラーゲンマトリックス中の結晶性薬剤が溶出するにつれて線維状コラーゲンマトリックスの構造が崩壊し、薬剤の初期の放出、および、それと関連する血清PKプロファイルにおける一つ目のピークをもたらすというものである。崩壊した線維状コラーゲンマトリックスからの薬剤放出の第二段階は、二つ目のPKピークを与える、空隙率の減小およびヒドロゲル型材料の形成によるものである可能性があると考えられる。
【0021】
後述する図6a、7、9および12が実証していることとして、ガンマ照射のみによってではなく、EO滅菌またはEビーム滅菌を用いて架橋のステップを実行することは、驚くべきことに、ビーグル犬およびヒトの両方において、インプラントからの薬剤送達についての延長した臨床効力と関連している。当然のことであるが、そのような延長した臨床効力は望ましいものであり得ることが理解されるであろう。また、そのような延長した臨床効力は、任意の動物において本発明の移植によって期待できることも理解されるであろう。
【0022】
本発明はまた、線維状コラーゲンマトリックスを含む無菌薬剤送達インプラントであって、該線維状コラーゲンマトリックスは、それぞれpH4.5および37℃において、非無菌薬剤送達インプラントの線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度に少なくとも類似する相対粘度を有する、無菌薬剤送達インプラントを開示する。任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも90%である。さらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも95%である。なおさらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度より大きい。なおさらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約90%から、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約5倍までの範囲内、任意には、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約90%から、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約3倍までの範囲内である。
【0023】
「無菌」という用語によって我々が意味しているのは、生きている細菌および微生物がいないことである。最終滅菌の方法としては、熱、エチレンオキサイドまたはeビームもしくはガンマ線などの放射線での処理が挙げられる。これらの最終滅菌の方法の全ては、通常、コラーゲンなどのタンパク質との架橋の増加を生じる。加えて、熱またはeビームもしくはガンマ線などの放射線での処理による最終滅菌は、通常、特にコラーゲンなどのタンパク質の場合において、ある程度の分子結合の切断または破壊を生じる。
【0024】
任意には、本発明は、線維状コラーゲンマトリックスを含む無菌薬剤送達インプラントであって、該線維状コラーゲンマトリックスは、pH4.5および37℃において100mlの脱イオン水中に0.56gの濃度で該線維状コラーゲンマトリックスが均一に分散しているときに、オストワルド粘度計での測定で1.5より大きい相対粘度を有する、無菌薬剤送達インプラントを開示する。さらに任意には、該相対粘度は1.7より大きい。さらに任意には、該相対粘度は2.5より大きい。
【0025】
あるいは、本発明は、薬剤送達用インプラントであって、該インプラントは、線維状コラーゲンマトリックスを含み、該線維状コラーゲンマトリックスは、それぞれpH4.5および37℃において、非無菌薬剤送達インプラントの線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度に少なくとも類似したブルックフィールド粘度計での相対粘度を有する、インプラントを対象とする。任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも90%である。さらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも95%である。なおさらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度より大きい。
【0026】
医薬的に許容される量の少なくとも一つの薬剤が線維状コラーゲンマトリックスに分散していることが好ましい。
【0027】
任意には、本発明の薬剤送達インプラントは、70mgの線維状コラーゲンマトリックスを50mlの生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム溶液)中に37℃で10分間浸したときに、少なくとも30%の体積減少を示す。任意には、該体積減少は少なくとも50%である。さらに任意には、該体積減少は少なくとも70%である。
【0028】
理論に縛られるものではないが、線維状コラーゲンマトリックスから形成されたコラーゲン分散体についての、実施例1における測定を行った場合の100mPasより大きい粘度は、線維状構造のコラーゲンマトリックスがインビボで水性媒体(例えば体液)と接触してヒドロゲルを形成するときに形成されるゲルに対して構造を与えるものと考えられる。
【0029】
理論に縛られるものではないが、1.5より大きい線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度(上述したような、オストワルド粘度計での測定による)は、該マトリックスがインビボで水性媒体と接触してヒドロゲルを形成するときに形成されるゲルに対して構造を与えるものと考えられる。
【0030】
無菌線維状コラーゲンマトリックスを、ヒトまたは動物の体内において、あるいはヒトまたは動物の体の開放創上に使用できないことは理解されるであろう。本発明の目的は、無菌線維状コラーゲンマトリックスに少なくとも類似した相対粘度を有する薬剤送達インプラントを提供することである。この相対粘度は、滅菌の形態を選択することによって達成することができ、該形態は、ある程度の分子損傷(例えば、照射に起因する一部の架橋の切断または破壊)を引き起こすのみならず、架橋を促進し、かつ、架橋の程度を天然の非無菌線維状コラーゲンマトリックスで観察される程度まで回復するか、あるいは架橋の程度を、天然の非無菌線維状コラーゲンマトリックスで観察される程度を超えるものにまでさえも向上させるものである。
【0031】
代替的または付加的には、線維状コラーゲンマトリックスは、ガンマ照射(これは、合成ポリマーにおいて架橋を生成し得るが、切断ダメージの程度の方が大きいため、放射線の架橋によっては補填されない)を用いて滅菌することができ、ここで該線維状コラーゲンマトリックスは、ガンマ照射前に既に、脱水熱架橋または化学的架橋によって、あるいはその両方によって処理されたものである。
【0032】
少なくとも30%の任意の体積減少は、4.9未満(例えば3.6〜4.9)のpHで、25mg/ml未満(例えば2.5〜11.2mg/mlの範囲、任意には約5.6mg/ml)のポリマー濃度において、コラーゲン懸濁液を凍結乾燥し、本発明のインプラントにおいて使用されるコラーゲンスポンジを作製することによって得ることができる。11.2mg/ml未満、例えば約5.6mg/mlという濃度は、コラーゲン懸濁液の粘度および取扱性、コラーゲン懸濁液の流動性、鋳型への注入の容易性、およびその後のスポンジ特性に基づいて選択された。pHは、任意の薬剤がコラーゲン懸濁液に添加される前に、約4.5という好ましいpHを達成するように選んだ(薬剤の添加がpH変化を引き起こす状況においては、そのような変化を相殺するために、薬剤添加の直前にコラーゲン懸濁液のpHを調整してもよい)。
【0033】
pHに関して、コラーゲン懸濁液の上限は(薬剤の存在の有無に関わらずに)、pH4.9に設定されるべきである。4.9というpHは経験的に選んだものであり、それによりコラーゲン懸濁液が十分に酸性となって、コラーゲン線維が膨潤して粘度を減少させるのを許容するため、懸濁液の均一化が可能となり、かつさらなる処理(鋳型への注入、など)が促進される。例えば薬剤が塩酸ブピバカインである場合、コラーゲン懸濁液の最終pHは、薬剤添加前にはおおよそpH4.5に保たれるが、薬剤の添加後には、理想的にはpH3.9±0.3である。
【0034】
本発明の第二の態様では、本発明は、薬剤送達インプラントであって、70mgの線維状コラーゲンマトリックスを50mlの生理食塩水に37℃で10分間浸したときに、少なくとも30%の体積減少を示す、薬剤送達インプラントを開示する。任意には、該体積減少は少なくとも50%である。さらに任意には、該体積減少は少なくとも70%である。
【0035】
任意には、該線維状コラーゲンマトリックスは、pH4.5および37℃において、100mlの脱イオン水中に0.56gの濃度で該マトリックスが分散したときに、1.5より大きい(上述したように、オストワルド粘度計で測定した場合)相対粘度を有する。さらに任意には、該相対粘度は1.7より大きい。なおさらに任意には、該相対粘度は2.5より大きい。医薬的に妥当な量の少なくとも一つの薬剤が線維状コラーゲンマトリックス中に分散していることが好ましい。当然のことであるが、一つ以上の薬剤が線維状コラーゲンマトリックス中に分散している場合、上記で与えた相対粘度の値は、任意の薬剤を分散させる前の線維状コラーゲンマトリックス自体を指しており、線維状コラーゲンマトリックス中に分散した少なくとも一つの薬剤を含む薬剤送達デバイスを指しているのではないことが理解されるであろう。
【0036】
本発明のさらなる態様では、本発明の第一の態様による無菌薬剤送達インプラントを作製するためのプロセスであって、それぞれpH4.5および37℃において非無菌薬剤送達インプラントの相対粘度に少なくとも類似した相対粘度になるまで、線維状コラーゲンマトリックスを架橋することを含む、プロセスを開示する。
【0037】
任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも90%である。さらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも95%である。なおさらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度より大きい。なおさらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約90%から、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約5倍までの範囲内、任意には、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約90%から、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約3倍までの範囲内である。
【0038】
任意には、架橋のステップは、pH4.5および37℃において100mlの脱イオン水中に0.56gの濃度で均一に線維状コラーゲンマトリックスが分散したときに、オストワルド粘度計での測定で1.5より大きい相対粘度を生じる。さらに任意には、該相対粘度は1.7より大きい。さらに任意には、該相対粘度は2.5より大きい。
【0039】
あるいは、架橋のステップは、非無菌薬剤送達インプラントの線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度に少なくとも類似したブルックフィールド粘度計での相対粘度を生じる。任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも90%である。さらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも95%である。なおさらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度より大きい。
【0040】
架橋のステップは、エチレンオキサイド(EO)滅菌、電子線(Eビーム)滅菌、脱水熱架橋、化学的架橋、またはそれらの組み合わせであり得る。任意には、架橋のステップは、エチレンオキサイド(EO)滅菌または電子線(Eビーム)滅菌であり得る。理論に縛られるものではないが、相対粘度の増加は架橋の増加によって引き起こされると想定されるため、任意の適当な架橋剤は同一の最終結果を達成するはずである。
【0041】
本発明のさらなる態様では、本発明の第二の態様による薬剤送達インプラントを作製するためのプロセスであって、25mg/ml未満の濃度(任意には、2.5〜11.2mg/mlの濃度範囲内)および4.9未満(任意には、3.6〜4.9の範囲内)のpHにおいて線維状コラーゲン懸濁液を調製することを含む、プロセスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1はスポンジ型の薬剤送達インプラントを示す。
【図2】図2は、二連で試験した異なるスポンジ薬剤送達インプラントの比較のDSCスキャンを示す。青色(白四角)はガンマ滅菌したコラーゲンスポンジ、緑色(黒丸)は非無菌コラーゲンスポンジ、赤色(十字)はEO滅菌したコラーゲンスポンジである。
【図3】図3は水性媒体中のコラーゲンスポンジの経時的な重量増加を示すグラフ図である(黒い菱形は非無菌コラーゲン;ピンクの四角はETO(またはEO)滅菌したコラーゲン;黄色の三角はガンマ滅菌したコラーゲンである)。
【図4a】図4aはブピバカイン含有薬剤送達インプラント(実施例3に従って作製されるようなもの)を示す。
【図4b】図4bは本研究で使用したオストワルド粘度計の絵図である。
【図5】図5はブピバカイン含有薬剤送達インプラントの体積減小を示す。
【図6a】図6aはビーグル犬におけるブピバカイン含有薬剤送達インプラントの平均の血清PKプロファイルを示す。
【図6b】図6bはビーグル犬におけるブピバカイン含有薬剤送達インプラントの個々の血清PKプロファイルを示す。
【図7】図7はビーグル犬におけるEO(青枠白四角)およびガンマ(赤枠白丸)滅菌したブピバカイン含有薬剤送達インプラントのPKプロファイルを示す。
【図8】図8はコラーゲンにおいて生じる鎖切断の説明を示す。
【図9】図9は子宮を摘出された女性における血清ブピバカインの平均(および点の標準偏差)のPKプロファイルを示す。
【図10】図10は子宮を摘出された12人の女性における血清ブピバカインの個々のPKプロファイルを示す。
【図11】図11は本発明のブピバカイン含有インプラントのSEMであり、線維状コラーゲンマトリックスの微細構造が示されている。
【図12】図12はビーグル犬におけるEOおよびEビーム滅菌したブピバカイン含有薬剤送達インプラントの平均の血清PKプロファイルを示す(ピンクで塗られた四角および黒く塗られた菱形はそれぞれEOのコラーゲンを表し、赤く塗られた三角はeビームのコラーゲンを表す)。
【発明を実施するための形態】
【0043】
発明の詳細な説明
本発明は、薬剤送達インプラントおよびその作製のためのプロセスを対象とする。
【0044】
本発明の第一の態様では、本発明は、少なくとも一つの薬剤の送達に適したインプラントであって、該インプラントは、線維状コラーゲンマトリックスを含み、該線維状コラーゲンマトリックスは、実施例1における測定を行った場合に、140mgの線維状コラーゲンマトリックスから形成されたコラーゲン分散体が、3.5未満のpHおよび30.0+/−0.5℃の温度において25mlの2mM HCl中に分散しているときに、100mPasより大きい粘度、任意には103mPasより大きい粘度、さらに任意には106mPasより大きい粘度、なおさらに任意には109mPasより大きい粘度を有する、インプラントを対象とする。
【0045】
本発明の第二の態様では、本発明は、少なくとも一つの薬剤の送達に適したインプラントを作製するためのプロセスであって、該プロセスは、
(i)コラーゲン懸濁液から線維状コラーゲンマトリックスを形成するステップ、および、
(ii)該線維状コラーゲンマトリックスまたは該コラーゲン懸濁液のいずれかに対して架橋のステップを実行するステップ
を含み、該架橋のステップは、実施例1における測定を行った場合に、140mgの線維状コラーゲンマトリックスから形成されたコラーゲン分散体が、3.5未満のpHおよび30.0+/−0.5℃の温度において25mlの2mM HCl中に分散しているときに、該線維状コラーゲンマトリックスが、100mPasより大きい粘度、任意には103mPasより大きい粘度、さらに任意には106mPasより大きい粘度、なおさらに任意には109mPasより大きい粘度を有するような条件下で実行されるものである、
プロセスを対象とする。
【0046】
本発明はまた、線維状コラーゲンマトリックスを含む無菌薬剤送達インプラントであって、該線維状コラーゲンマトリックスは、非無菌薬剤送達インプラントの線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度に少なくとも類似する相対粘度を有する、無菌薬剤送達インプラントを開示する。任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも90%である。さらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも95%である。なおさらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度より大きい。なおさらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約90%から、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約5倍までの範囲内、任意には、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約90%から、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約3倍までの範囲内である。
【0047】
任意には、本発明は、線維状コラーゲンマトリックスを含む無菌薬剤送達インプラントであって、該線維状コラーゲンマトリックスは、pH4.5および37℃において100mlの脱イオン水中に0.56gの濃度で該線維状コラーゲンマトリックスが均一に分散したときに、オストワルド粘度計での測定で1.5より大きい相対粘度を有する、無菌薬剤送達インプラントを開示する。さらに任意には、該相対粘度は1.7より大きい。さらに任意には、該相対粘度は2.5より大きい。
【0048】
あるいは、本発明は、線維状コラーゲンマトリックスを含む無菌薬剤送達インプラントであって、該線維状コラーゲンマトリックスは、それぞれpH4.5および37℃において、非無菌薬剤送達インプラントの線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度に少なくとも類似したブルックフィールド粘度計での相対粘度を有する、インプラントを開示する。任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも90%である。さらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも95%である。なおさらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度より大きい。より具体的には、そのような粘度は、以下の通りに、循環槽およびレオカルク(Rheocalc)ソフトウェアと共にブルックフィールドデジタルレオメーター DV−III+を用いて測定することができる。一点測定のためには、試験する試料に適したスピンドルを選択する。スピンドルをレオメーターに取り付け、泡の無い試料を加熱チャンバー中に置く。試料を試験する温度を設定し、その温度に対して試料を平衡化させる。必要なせん断力が得られようにスピンドル速度を設定し、良好な精度が得られるよう、トルクが10%〜100%であることを確認する。このトルクレベルに達していない場合、速度およびまたはスピンドルを修正すべきである。これに達したら、レオメーターのビジュアルディスプレイユニット上で粘度を読み取ることができ、あるいは、一点測定用プログラムを開始することができる。三つの粘度値の平均を取るべきである。
【0049】
医薬的に許容される量の少なくとも一つの薬剤が線維状コラーゲンマトリックス中に分散していることが好ましい。当然のことであるが、一つ以上の薬剤が線維状コラーゲンマトリックス中に分散している場合、上記で与えた相対粘度の値、および、上記で与え、実施例1に従って測定された粘度の値は、任意の薬剤を分散させる前の線維状コラーゲンマトリックス自体を指しており、線維状コラーゲンマトリックス中に分散した少なくとも一つの薬剤を含む薬剤送達インプラントを指しているのではないことが理解されるであろう。
【0050】
任意には、該薬剤送達インプラントはまた、インプラントを過剰な生理食塩水中に37℃で10分間浸したときに、少なくとも30%の体積減少を示す。任意には、該体積減少は少なくとも50%である。さらに任意には、該体積減少は少なくとも70%である。
【0051】
理論に縛られるものではないが、インプラントの崩壊に対する主な影響は、線維状コラーゲンマトリックス内の微細構造であると考えられる。これは、コラーゲンの線維としての性質、ならびに、線維状コラーゲンマトリックスを形成するコラーゲン懸濁液の濃度およびpHによって制御される。精製後の本発明の薬剤送達インプラントの構造は、原線維と微小線維との組み合わせであり、また、凍結乾燥後のインプラントで作られる微細構造に影響しているのは、この線維性の性質であると考えられる。図11は本発明のブピバカイン含有インプラントの微細構造を示している。
【0052】
薬剤送達インプラントを作製するために使用される懸濁液について、最大で11.2mg/mlのコラーゲン濃度が用いられる。pHに関して、コラーゲン懸濁液の上限は(薬剤の存在の有無に関わらずに)、pH4.9に設定されるべきである。4.9というpHは経験的に選んだものであり、それにより懸濁液が十分に酸性となって、コラーゲン線維が膨潤することにより粘度を減少させるのを許容するため、懸濁液の均一化が促進され、かつ下流の処理(鋳型への注入、など)が促進される。例えば薬剤が塩酸ブピバカインである場合、薬剤添加前には対象のpHは4.5であるが、薬剤の添加後にはコラーゲン懸濁液の最終pHは理想的にはpH3.9±0.3である。
【0053】
本発明のさらなる態様では、本発明の第一の態様による薬剤送達インプラントを作製するためのプロセスであって、線維状コラーゲンマトリックスを架橋すること、および、薬剤送達インプラントを滅菌することを含む、プロセスを提供する。架橋のステップと滅菌のステップとは、滅菌の形態を選択することによって同時に達成することができ、該形態は、ある程度の分子損傷(例えば、放射線に起因する切断)を引き起こすのみならず、架橋を促進し、かつ、架橋の程度を天然の非無菌線維状コラーゲンマトリックスで観察される程度まで回復するか、あるいは架橋の程度を、天然の非無菌線維状コラーゲンマトリックスで観察される程度を超えるまでさえも向上させるものである。架橋のステップと滅菌のステップとは、ある程度の分子損傷(例えば、放射線に起因する切断)を引き起こすのみならず架橋を促進する滅菌の形態を選択し、次いで該形態の滅菌を、実施例1における測定を行った場合に、140mgの線維状コラーゲンマトリックスから形成されたコラーゲン分散体が、3.5未満のpHおよび30.0+/−0.5℃の温度において25mlの2mM HCl中に分散しているときに、該線維状コラーゲンマトリックスが、100mPasより大きい粘度、任意には103mPasより大きい粘度、さらに任意には106mPasより大きい粘度、なおさらに任意には109mPasより大きい粘度を有するような条件下で実行することにより、同時に達成することができる。代替的または付加的には、線維状コラーゲンマトリックスは、eビーム滅菌を用いるか、またはガンマ照射によって(これらのうち少なくとも後者は、合成ポリマーにおいて架橋を生成し得るが、切断ダメージの程度の方が大きいため、放射線の架橋によっては補填されない)滅菌することができ、また、線維状コラーゲンマトリックスは、eビーム滅菌またはガンマ照射の前、間または後に、脱水熱架橋または化学的架橋、あるいはその両方で処理することによって別々に架橋することができる。
【0054】
本発明のなおさらなる態様では、本発明の第一の態様による薬剤送達インプラントを作製するためのプロセスであって、それぞれpH4.5および37℃において非無菌薬剤送達インプラントの相対粘度に少なくとも類似した相対粘度になるまで、線維状コラーゲンマトリックスを架橋することを含む、プロセスを開示する。
【0055】
任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも90%である。さらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも95%である。なおさらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度より大きい。なおさらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約90%から、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約5倍までの範囲内、任意には、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約90%から、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の約3倍までの範囲内である。
【0056】
任意には、架橋のステップは、pH4.5および37℃において100mlの脱イオン水中に0.56gの濃度で線維状コラーゲンマトリックスが均一に分散したときに、オストワルド粘度計での測定で1.5より大きい相対粘度を生じる。さらに任意には、該相対粘度は1.7より大きい。さらに任意には、該相対粘度は2.5より大きい。
【0057】
あるいは、架橋のステップは、非無菌薬剤送達インプラントの線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度に少なくとも類似したブルックフィールド粘度計での相対粘度を生じる。任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも90%である。さらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度の少なくとも95%である。なおさらに任意には、無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度は、非無菌線維状コラーゲンマトリックスの相対粘度より大きい。
【0058】
架橋のステップは、エチレンオキサイド(EO)滅菌、電子線(Eビーム)滅菌、脱水熱架橋、化学的架橋、またはそれらの組み合わせであり得る。理論に縛られるものではないが、相対粘度の増加は架橋の増加によって引き起こされると想定されるため、変更の対象となる任意の適当な架橋剤は、同一の最終結果を達成するはずである。
【0059】
本発明のなおさらなる態様では、本発明の第二の態様による薬剤送達インプラントを作製するためのプロセスであって、25mg/ml未満の濃度(任意には、2.5〜11.2mg/mlの濃度範囲内)および4.9未満(任意には、3.6〜4.9の範囲内)のpHにおいて線維状コラーゲン懸濁液を調製することを含む、プロセスを開示する。
【0060】
本発明のさらなる態様では、本発明は、薬剤送達インプラントであって、70mgの線維状コラーゲンマトリックスを50mlの生理食塩水に37℃で10分間浸したときに、少なくとも30%の体積減少を示す、薬剤送達インプラントを対象とする。任意には、該体積減少は少なくとも50%である。さらに任意には、該体積減少は少なくとも70%である。本発明のなおさらなる態様では、薬剤送達インプラントを作製するためのプロセスであって、該薬剤送達インプラントは、70mgの線維状コラーゲンマトリックスを50mlの生理食塩水に37℃で10分間浸したときに、少なくとも30%の体積減少を示し、該プロセスは、25mg/ml未満の濃度(任意には、2.5〜11.2mg/mlの濃度範囲内)および4.9未満(任意には、3.6〜4.9の範囲内)のpHにおいて線維状コラーゲン懸濁液を調製することを含む、プロセスが提供される。
【0061】
生物分解性ポリマーにより、局所薬剤送達のために理想的な媒体が作られる。コラーゲンは、称賛されている創傷治癒および止血の特性と共に、天然の十分認められた生物適合性の材料であるという利点を提供する。本技術は、ウシまたはウマのアキレス腱由来のI型コラーゲンマトリックスに基づいて、局所薬剤送達のためにコラーゲンを使用するものである。本発明の第一の態様の薬剤送達インプラントは、スポンジとして提供されてもよい。より具体的には、本発明の第一の態様の薬剤送達インプラントは、凍結乾燥された多孔質スポンジの形式であってもよい(図1)。インビボにおいて、薬剤は、拡散と線維状コラーゲンマトリックスの自然な酵素的分解との組み合わせによって放出される。線維状コラーゲンマトリックス自体は、移植の位置(即ち、骨空洞に対するよく血管新生した領域)に応じて一週間から七週間以内に完全に吸収される。
【0062】
該インプラントは、局所的な薬理作用のための薬剤送達システムとして使用される。多様な薬剤が局所的に作用することが知られており、該薬剤としては、抗バクテリア剤、麻酔剤、鎮痛剤および抗炎症剤が挙げられ、全て、本技術の利用(単一の活性製品または組み合わせの活性製品のいずれかとして)のために大きな可能性を提供するものである。
【0063】
該薬剤送達インプラントは、コラーゲン分子の三重ヘリックス構造を保持する線維状コラーゲンマトリックスに基づいて開発されたものであり、薬剤送達システムとして理想的である。何故なら、他のコラーゲンスポンジとは異なり、この多孔質コラーゲン構造は湿るとすぐに崩壊するため、あらゆる膨張および周囲の組織/神経の圧迫を防止するからである。この薬剤送達インプラントの重要な特徴の一つは、該コラーゲンマトリックスが、置かれたままにされるインプラントであって、マトリックスが崩壊して膨張しないため、周囲の組織/神経に圧力をかけず、従って局所薬剤送達のために理想的であるという事実である。
【0064】
本技術の別の重要な特徴は、動物およびヒトの両方において薬物動態(PK)評価を通じて観察される、本発明の薬剤送達デバイスからの特定の薬剤のインビボ放出プロファイルである。驚くべきことに、このようなシステムのPKプロファイルは、血清濃度において二つのピークを示す。これに対する一つの可能な説明は以下の通りである。スポンジマトリックス中の結晶性薬剤が溶出して、コラーゲンマトリックスの構造の崩壊を促進し、薬剤の初期の放出、および、それと関連する血清PKプロファイルにおける一つ目のピークをもたらす。崩壊したスポンジマトリックスからの薬剤放出の第二段階は、よりゆっくりしたものである。これは空隙率の減小およびヒドロゲル型材料の形成によるものである可能性があり、それが第二のPKピークを与えていると考えられる。この二つのPKピークの現象は、薬剤の延長した臨床効力と関連している。
【0065】
コラーゲンスポンジマトリックスによる液体の吸収によるヒドロゲル型材料の形成に影響するものの一つは、スポンジマトリックス中の架橋の程度である。これは例えば、エチレンオキサイド(EO)滅菌または電子線(Eビーム)滅菌によって増加し得る。EO滅菌およびEビーム滅菌は、コラーゲン分子中に架橋を誘発すると考えられ(EO sterilization, Friess 1998)、そしてこれが、コラーゲンスポンジによる液体の吸収の際に、より高い密度および粘性の層をもたらすと考えられる。次いでこれが、崩壊したスポンジからの薬剤放出に影響を及ぼすため、二つ目のPKピークの原因となる。
【0066】
方法A:エチレンオキサイド(EO)滅菌による架橋
EO滅菌は保健医療産業において重要な役割を果たしている。EOは強力な抗菌性因子であり、あらゆる既知のウイルス、細菌および真菌を殺すことができ、最も滅菌耐性型の微生物である細菌胞子でさえも根絶できる。EOは、高度に歪んだ環において二つの炭素原子および4つの水素原子が一つの酸素原子に結合した小分子である。該化学物質の沸点は非常に低い(10.4℃)ため、室温で活性となる。EOは、プラスチックやゴムのような物質における詰め込みおよび溶解を通じて、容易に揮発し、充満する。EOは通常の大気条件下であらゆる種類の微生物を容易に殺す。その壊れ易い分子結合により、多様な化合物と迅速に反応することが可能である。生じる化学反応はアルキル化と呼ばれる。
【0067】
効果的な滅菌は、滅菌サイクルの間の多くのプロセス変量に依存する。該プロセス変量としては、(1)十分な量のEOを、最も耐性の微生物を殺すのに十分な期間使用しなければならないこと;(2)プロセスを促進するために、十分な湿度がなければならないこと;および、(3)必要とされるEOの量はプロセスの温度に依存すること(温度が高くなるほど、滅菌に必要なEOの量は低下する)が挙げられる。
【0068】
コラーゲンポリマーを保護し、マトリックスの物理的構造を維持するために(特に、凍結乾燥されたスポンジの場合において)、40℃〜42℃を上回る温度での製品(薬剤送達インプラント)の使用は回避されるべきである。一つの適切なEO滅菌器としては、DMB Wiesbadenによって製造されている15009型VD滅菌器(Type 15009 VD steriliser)であり、この滅菌器のチャンバー容積は約1500lである。しかし、他のモデルおよびチャンバーサイズを使用してもよい。
【0069】
本発明のプロセスの滅菌ステップにおいて使用するのに適切なEO滅菌条件は、−0.07〜−0.8バールに至るまで排気すること、および、その後、チャンバーを30℃〜60℃で4〜6時間、+0.4〜+4バールに至るまで滅菌ガスで充満させることを含む。脱離は、4時間以上の間、10〜30分のサイクルで、+0.6〜1.0バールの過圧力と−0.06〜0.8バールの減圧力とを交互させることにより達成する。
【0070】
製品のために使用され得る他のサイクルは、−0.268バールに至るまでの第二の排気と共に、滅菌プロセスの効率を向上させるために蒸気を注入することと、その後、4時間の曝露の間、30〜60℃の温度において、0.385バールに至るまで漸増する圧力でEOガスを注入することとを伴う。脱離は、0.068バールの真空圧、0.813バールでの窒素または空気での加圧洗浄、そしてサイクルの最後に大気圧というのをサイクルすることにより達成する。EO滅菌の温度と圧力とは異なる機能を有しており、温度はEOの反応、および従って効率を向上させ、圧力は、最初にEOを製品中に押し込み、そして後には真空下でサイクルの最後にガスを引き出すために使用されることが理解されるであろう。
【0071】
方法B:脱水熱的および化学的な架橋プロセスによる架橋
コラーゲン材料において架橋を生成する別の手段としては、脱水熱的および化学的な架橋プロセスが挙げられる。架橋は、ポリマー内の分子鎖間に化学的な連結を確立することと定義される。コラーゲン線維は、上昇した温度での重度の脱水によって(脱水熱架橋)、および、架橋剤(グルタルアルデヒド、カルボジイミド類および有機過酸化物が挙げられる)を使用することによって、架橋させることができる。グルタルアルデヒドによって開始される架橋は、リジンまたはヒドロキシリジンのいずれかの二つのαアミノ基とグルタルアルデヒドのアルデヒド基との反応によって生じる。あらゆるグルタルアルデヒド誘発性の第一級アミンの架橋において、二つのアミン基が使用される。脱水熱(dehydrothermal; DHT)乾燥は、物理的な架橋の方法であり、コラーゲン原線維を低圧で熱にさらし、残留している水分子を取り去るものである。これらの乾燥条件は、リジノアラニンアミノ酸の形成を開始させ、それによりアミノ酸の連結が形成されると思われ、また、それは、恐らくはコラーゲン分子の多くのヒドロキシプロリン残基からのものであるヒドロキシル基によって開始されるものと思われる。
【0072】
化学的架橋剤は二つのグループに分けることができる。二つの反応性末端が同一である場合はホモ二官能性と呼ばれ、二つの異なる反応性末端を有する剤はヘテロ二官能性と呼ばれる。ホモ二官能性架橋剤(アミン反応性ホモ二官能性架橋剤であるグルタルアルデヒドが挙げられる)は1ステップの反応に使用され、ヘテロ二官能性架橋剤は、不安定性が最も低い反応性末端が最初に反応する2ステップの順次の反応に使用される。ホモ二官能性架橋剤は、自己連結(self-conjugation)、重合および細胞内架橋を生じる傾向がある。一方、ヘテロ二官能性の剤は、より制御された2ステップの順次の反応を可能とし、望ましくない分子内架橋反応および重合を最小化する。
【0073】
最も広く使用されているヘテロ二官能性剤は、一方の末端にアミン反応性NHSエステルを有し、他方の末端にスルヒドリル反応性の基を有するものである。NHSエステルは水性媒体中での安定性が最も低いため、最初に反応する。未反応の剤を除去した後、第二の反応基との反応が進められる。スルヒドリル反応性の基は、一般には、マレイミド類、ピリジルジスルフィド類およびαハロアセチル類である。広く使用されている他の架橋剤は、カルボジイミド類であり、これは、カルボン酸(−COOH)と第一級アミン(−NH)との間の反応を促進する。一つの光反応性の末端を有するヘテロ二官能性の架橋剤もある。
【0074】
方法C:Eビーム放射滅菌による架橋
Eビーム照射は電子加速器を伴い、高エネルギーの電子またはβ粒子の流れに物体を曝露させる。電子線線形加速器はテレビ受像管に対して同様に働く。電子が広く分散して低エネルギーレベルでリン光スクリーンに衝突する代わりに、電子は、集中され、光速近くまで加速される。これにより、照射されている製品中の分子において非常に迅速な反応が生じる。Eビームまたはベータ放射線は、架橋を生成してポリマー材料を強化するために、ポリマーおよび医療器具産業において使用されている。Eビーム架橋の技術は、ポリマーの基を一緒に連結させるために照射を使用する。放射線により、ポリマー鎖の複数の部位において結合の発生が引き起こされる。架橋の結果、より大きな引張強度および衝撃強度、耐久性および変形抵抗性の増大、優れた溶媒および化学物質耐性、ならびにより大きな磨耗および応力破壊への抵抗性がもたらされる。天然に存在するポリマーのEビーム放射は、一般には、ポリマーの分解を生じると報告されている。しかしながら、天然ポリマーから生成したヒドロゲルを架橋するための方法として使用するためのEビームが開発されている(Radiation Processing of Polysaccharides International Atomic Energy Agency 2004 report)。Eビームによる滅菌は、重症の火傷を覆うために設計されたコラーゲンおよびコンドロイチン4−、6−硫酸の生体材料のガンマ照射後に観察される機械特性の減少を回避するための手段としても提案されている(Berthod et al. Clinical Materials 1994 15(4):259-65)。
【0075】
しかしながら、ガンマ放射線、Eビーム放射線またはグルタルアルデヒドの化学的架橋を通じて架橋されたヒト羊膜について物理化学的および生物分解的な特性を比較した研究では、ガンマ照射の膜およびEビーム照射の膜の両方が、羊膜の破断時の引張強度および伸長の減少を示した。羊膜の破断時の引張強度および伸長のこの減少は、照射によるコラーゲン鎖の切断によって引き起こされたものと示唆されている(Valentino et al. Archives of Otolaryngology - Head and Neck Surgery 2000 126(2):215-9)。
【0076】
Eビーム滅菌
Eビーム滅菌は他の滅菌方法を上回る多くの利点を提供するため、医療産業において急速に成長している。EO滅菌と比較して、Eビーム放射は残留物を生じず、また、数日または数週間でさえあるのとは対照的に、プロセスにかかるのは数分である。コンベアまたはカートのシステムにより、Eビーム下で滅菌されている製品を所定の速度で移動させることにより、所望の電子線量を得る。医療産業での標準的な線量は25kGyであるが、製品におけるバイオバーデンレベルに応じて、より低い放射線量(例えば少なくとも15kGy、および/または、例えば40kGy以下)が使用され得る。製品は完成された包装された形態において滅菌することができ、EO滅菌とは異なり、放射後のさらなる処理のステップは必要ない。EOを用いるのとは異なり、放射後の残留物の消散のための保持時間もない。
【0077】
本発明のプロセスの滅菌ステップにおいて使用するのに適切なEビーム滅菌条件は、例えば15〜40kGy、任意には少なくとも25kGyの電子線量を含むが、製品における所望のバイオバーデンレベルに応じて、より低い放射線量が使用され得る。
【0078】
薬剤
本発明の第一および第二の態様の薬剤送達インプラントの中または上において使用するのに適した薬剤の種類としては、化合物、任意には、その必要があるわけではないが水溶性化合物が挙げられ、例えば、アミノアミド麻酔剤(リドカイン、ブピバカイン、ロピバカインおよびメピバカインが挙げられる)の塩、ならびに、鎮痛剤、特に麻薬性鎮痛剤(モルヒネ、コデイン、ヒドロコドン、ヒドロモルフォンおよびオキシコドンが挙げられる)の可溶性塩などである。このシステムによる送達に適したものであり得る他の化合物としては、NSAID類(ナプロキセンナトリウム、ジクロフェナクナトリウム)のようなある種の抗炎症薬が挙げられる。任意には、本発明の第一および第二の態様の薬剤送達インプラントにおいて使用するのに適した薬剤としては、アミノアミド麻酔剤(リドカイン、ブピバカイン、ロピバカインおよびメピバカインが挙げられる)の塩などの水溶性化合物が挙げられる。さらに任意には、本発明の第一および第二の態様の薬剤送達インプラントにおいて使用するのに適した薬剤はブピバカインである。
【0079】
本発明の第一および第二の態様の薬剤送達インプラントの中または上において使用するのに適した薬剤の種類としては以下が挙げられる。
局所麻酔剤 以下に限定されないが例えば、リドカイン、プリロカイン、ブピビカイン(bupivicaine)およびその単一のエナンチオマーであるレボブピバカイン、ロピバカイン、メピバカイン、ジブカイン、ならびに、これらの局所麻酔剤のいずれかの医薬的に許容される塩(上記したもの全ての塩酸塩が挙げられる)
NSAID鎮痛剤 以下に限定されないが例えば、ジクロフェナクのナトリウム塩およびカリウム塩、ケトプロフェンおよびその活性エナンチオマーであるデクスケトプロフェン、ナプロキセンおよびそのナトリウム塩、イブプロフェンおよびそのナトリウム塩およびその活性エナンチオマーであるデキシブプロフェン、メロキシカム、ピロキシカム、インドメタシン、アセチルサリチル酸、ならびに、これらのNSAID鎮痛剤のいずれかの医薬的に許容される塩
オピオイドおよび関連する鎮痛剤 以下に限定されないが例えば、モルヒネおよびその塩(硫酸塩および塩酸塩が挙げられる)、ジアモルヒネおよびその塩酸塩、デソモルヒネ、コデインおよびその塩(リン酸塩、硫酸塩および塩酸塩が挙げられる)、ヒドロコドンおよびその酒石酸水素塩、ヒドロモルフォンおよびその塩酸塩、オキシコドン、オキシモルフォン;フェンタニルおよびその関連するアナログであるアルフェンタニル、スフェンタニル、レミフェンタニル、カルフェンタニルおよびロフェンタニル;ブプレノルフィンおよびその塩酸塩、トラマドールおよびその塩酸塩および酒石酸塩、ならびにタペンタドール
化学療法剤 以下に限定されないが例えば、5−フルオロウラシル
抗菌剤
【0080】
これより、以下の一般的な製造方法および実施例を参照することにより本発明の具体的な実施形態を説明する。これらの実施例は単に本発明を説明する目的で開示されたものであり、本発明の範囲をいくらかでも限定するものと解釈されるべきでないことを理解すべきである。
【実施例】
【0081】
実施例1 − コラーゲン分散体の粘度の測定
【0082】
I.材料
・少なくとも140mgのコラーゲンを含有するようにサンプリングされたコラーゲンインプラント(例えばスポンジ)またはその部分。コラーゲン分散体は、例えば薬剤からの添加塩を含有しない。より具体的には、コラーゲン分散体の粘度の測定のために使用されたコラーゲンスポンジは、例えば薬剤からの添加塩を含有しない。
・2mmol HCl溶液
・35ml遠心管
【0083】
II.装置
1.試料調製
・高せん断ホモジナイザー(Ultra−turrax UT25(IKA),18mm幅のヘッド)
・目盛り付きpHメーター(Cyber Scan PH310)
・目盛り付きデジタル温度計(ReiTech RT200−02)
・目盛り付きタイマー
・超音波洗浄器(Bandelin Sonorex Super 10P,容積:2リットル)
2.粘度測定
・ブルックフィールドDVIII+レオメーター
・ブルックフィールドTC−501 プログラム可能なコントローラーを有する循環水槽
・ULA−31Y試料チャンバー(容積 約70ml(空),約20ml(スピンドル挿入時))を有するスピンドルULA
・ブルックフィールドレオカルク32ソフトウェア,V3.1−1
【0084】
III.方法論
試料調製
140mgのコラーゲンを含有する量のインプラント(例えばスポンジ)を、はさみを用いて小片(それぞれ約1×1cmの大きさ)に切断し、35ml遠心管に入れる。25mlの2mmol HClを該遠心管に加える。分散体が目視で均一になるまで、かつ、分散体の温度が少なくとも38.5℃かつ42℃以下に達するまで、IKA UT25 Ultra−Turrax/18mmシャフトを用いて2〜3分間ホモジナイズする。これを達成するのにかかる時間は2分10秒から3分20秒の範囲である。pHを測定し、必要であれば、1M HClを用いて3.5以下まで調整する。pHが3.5未満である場合、調整は必要でない。泡が見られなくなるまで、音波洗浄器を最大強度(約480W)および室温で用いて分散体からガスを抜く(2分未満)。
【0085】
粘度測定
16mlのガスを抜いた分散体をULAチャンバーに慎重に注ぎ、試料の泡を調べる。必要であれば、プラスチックピペットを用いて泡を除去する。ULAスピンドルをULAチャンバーに慎重に導入する。ULAチャンバーを温度を制御した二重の包みに入れ、スピンドルをカップリングナットに取り付ける。ソフトウェアに粘度測定用の設定を入力する:
・回転速度:20rpm(せん断率=24s−1
・温度 30.0+/−0.5℃
・平衡時間:15分
・データ点/試料の個数=6
【0086】
データ整理
三つの連続する値が%RSD<5.0となるまで、各試料の粘度を測定する。試料の粘度は、それらの三つのデータ点の平均値として定義される。新たなインプラントまたはスポンジを用いて、少なくとも10(最大12)の試料の粘度の測定値が得られるまで該方法を繰り返す。全ての試料の反復の、平均、標準偏差および%RSDを算出する。
【0087】
上述の方法論を用いて、滅菌していないコラーゲンスポンジの粘度を決定した。データを以下の表に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
滅菌していないスポンジの平均粘度は153ミリパスカル(mPas)であることが観察されるであろう。
【0090】
上述の方法論を用い、少なくとも25kGyの放射線量により上記方法Cを用いて、Eビームによって滅菌したコラーゲンスポンジの粘度を測定した。データを以下の表に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
Eビームによって滅菌したコラーゲンスポンジの平均粘度は112mPasであることが観察されるであろう。
【0093】
上述の方法論を用い、上記方法A(具体的には、−0.8バールまで排気し、次いで、32℃〜40℃において6時間(±10分)、+4バールの間(3.6〜4.1バールの範囲)に至るまで滅菌ガス(EO/CO混合物,15%w/wのEOを含有する)でチャンバーを充満する。脱離は、12時間未満の間、+0.6バールの過圧力と−0.8バールの減圧力とを交互させることにより達成する。)の下でEOによって滅菌したコラーゲンスポンジの粘度を測定した。データを以下の表に示す。
【0094】
【表3】

【0095】
EOによって滅菌したコラーゲンスポンジの平均粘度は180mPasであることが観察されるであろう。
【0096】
上述の方法論を用い、少なくとも25kGyの放射線量でのガンマ照射によって滅菌したコラーゲンスポンジの粘度を測定した。データを以下の表に示す。
【0097】
【表4】

【0098】
ガンマ照射によって滅菌したコラーゲンスポンジの平均粘度は88mPasであることが観察されるであろう。
【0099】
要約した粘度データを以下に示す。
【0100】
【表5】

【0101】
実施例2− t検定:滅菌の種類の間で粘度について統計的有意差はあるか?
【0102】
H0:別の群に対して統計的に比較したときに、ある群からのスポンジの粘度の間に有意差はない。
H1:別の群に対して統計的に比較したときに、ある群からのスポンジの粘度の間に有意差がある。
【0103】
以下の表は、EO滅菌したコラーゲンスポンジの粘度を、滅菌していない(NS)コラーゲンスポンジの粘度と比較したt検定を示す。
【0104】
【表6】

【0105】
Statは両側tCritical(Tc)よりも大きいため、H0は棄却される。従って、NSスポンジの粘度とEO滅菌したスポンジの粘度との間には統計的有意差がある(T検定=2.32,df=22,p=3E−5)。
【0106】
以下の表は、滅菌していない(NS)コラーゲンスポンジの粘度を、Eビーム滅菌(EB)したコラーゲンスポンジの粘度と比較したt検定を示す。
【0107】
【表7】

【0108】
Statは両側tCritical(Tc)よりも大きいため、H0は棄却される。従って、NSスポンジの粘度とEB滅菌したスポンジの粘度との間には統計的有意差がある(T検定=2.34,df=20,p=1E−9)。
【0109】
以下の表は、Eビーム滅菌(EB)したコラーゲンスポンジの粘度を、ガンマ滅菌(G)したコラーゲンスポンジの粘度と比較したt検定を示す。
【0110】
【表8】

【0111】
Statは両側tCritical(Tc)よりも大きいため、H0は棄却される。従って、EB滅菌したスポンジの粘度とG滅菌したスポンジの粘度との間には統計的有意差がある(T検定=2.34,df=20,p=3E−6)。
【0112】
まとめると、T検定を用いて、NSスポンジの粘度と、EO滅菌したスポンジの粘度またはEB滅菌したスポンジの粘度のいずれかとの間、ならびに、EB滅菌したスポンジの粘度とG滅菌したスポンジの粘度との間には統計的有意差があることを示すことができる。
【0113】
実施例3− EO滅菌とガンマ放射との比較
【0114】
異なる分析技術を用いて特徴付けする実験を行い、線維状コラーゲンマトリックスに対するEO滅菌およびガンマ放射の効果を比較した。コラーゲンのEO滅菌によりコラーゲン分子中に架橋が生じるが、対照的に、ガンマ放射によりコラーゲン分子内において鎖の切断が生じることを結果は実証している。
【0115】
示差走査熱量測定法(DSC)分析
示差走査熱量測定法(DSC)分析を、非無菌、EO滅菌、およびガンマ放射したプラシーボのコラーゲンスポンジに対して行った。試料を手で圧縮し、小さな長方形片に切断した。次いでこれらの小片をアルミニウムの皿に入れ、密封した。比較のため、同じスポンジから二つの試料を試験した。用いたDSCは、3.60〜3.90mgの試料サイズを有するTA2910示差走査熱量計であった。酸化を防ぐべく、全てのDSC試験は、1分当たり20mLの窒素流の下で行った。得られたDSCスキャン(図2参照)は、EO滅菌したコラーゲン試料の熱的挙動が、ガンマ放射した試料とは異なることを実証しており、そしてそれは、コラーゲンスポンジマトリックスの熱力学的特性は滅菌の方法に依存することを裏付けている。要点としては、EOプロダクトのDSCプロファイルは非無菌のものと類似しており、また、両滅菌方法は、コラーゲン分子自体またはコラーゲン構造内の架橋のいずれかの何らかの破壊を引き起こす可能性があるが、EOはまた、様々な位置においてより多くの架橋を生成し、それが該破壊を補填し得るという仮説が立てられる。滅菌していないスポンジの挙動は、薬剤放出および崩壊に関してEO滅菌したスポンジと同様であるが、滅菌していないスポンジは、外科用インプラントまたは創傷ケア用製品として使用することはできない。本発明の薬剤送達インプラントは、外科用インプラントとしてまたは創傷ケア用製品として使用するためには、滅菌される必要があることが理解されるであろう。
【0116】
水和研究
表1に列挙するようなコラーゲンスポンジ試料の重さを測り、脱イオン水を含有するガラスのペトリ皿に入れた。次いで、これらのペトリ皿を37℃のオーブン中で保管した。24時間後、ペトリ皿をオーブンから取り出し、各試料の重さを記録した。この手順を24時間毎に二週間繰り返し、表1の各種類のコラーゲンスポンジの試験を三連で行った。各時点における平均の重量増加を算出した。
【0117】
【表9】

【0118】
予期したように、図3に示す通り、各試料の全体の重量は増加した。ガンマ滅菌による線維状コラーゲン構造の破壊は、この試料が吸収した脱イオン水が最も少なく、また二週間後に該試料が構造的完全性の大部分を失っていたという点で、明白であった。これは、線維状コラーゲン構造のガンマ照射は鎖の切断を開始させ、より少ない架橋のより低分子量の物質を生じたことを示唆している。これはNoah, E.M. et al (2002)の知見と一致している。最大の重量増加は、EO滅菌したコラーゲンを含有する試料において起こった。これは、EO滅菌したコラーゲンスポンジでは、ガンマ滅菌したスポンジと比較して架橋密度が増加していることを示唆しているであろう。
【0119】
粘度研究
表1に列挙したようなコラーゲンスポンジ試料の各々について、B型オストワルド粘度計を用いて37℃で粘度研究を行った。脱イオン水で粘度計を数回すすぎ、オーブン中80℃で乾燥させた。次いで粘度計を室温に冷却した後、図4bに描かれているようなBの印とZの印との間で脱イオン水で満たした。次いで粘度計を37℃に温度制御した水槽に入れ、溶液を必要な温度まで平衡化させた。Pで連結されたピペットバルブを用いて溶液を目盛り線「X」よりも上まで吸い上げた後、ピペットバルブを開放した。メニスカスが「A」を過ぎたときにストップウォッチを開始し、位置「B」に達した後でストップウォッチを停止し、フロー時間を記録した。この手順を3回繰り返し、平均値を用いた。この値は数学的には「to」として知られる。その後、粘度計を洗い、オーブン中80℃で乾燥した。
【0120】
コラーゲンスポンジ試料は以下の通りに調製した:0.56gのスポンジおよび0.2mlの酢酸を99.2mlの脱イオン水に入れた後、溶液を約37℃まで加熱した。pH値をモニタリングし(4.5±0.2)、適切な場合には、0.1M水酸化ナトリウム溶液を加えて、溶液を均一化のために必要なpHとした。次いで適当な撹拌器を用いて試料をホモジナイズした。この手順を各コラーゲンスポンジについて繰り返した後、均一化された溶液をオストワルド粘度計を用いて上述したようにして分析した。得られる平均値は数学的には「tsol」として知られる。
【0121】
得られた値toおよびtsolを用いて、相対粘度および比粘度を各スポンジについて算出した。ここで、
相対粘度η=tsol/to (式1)
である。
【0122】
このようにしてこの研究から得られた結果を表2に示す。
【0123】
【表10】

【0124】
表2に示されるように、ガンマ滅菌したコラーゲンスポンジの相対粘度の結果は、滅菌していないコラーゲンスポンジについて得られた結果よりも小さい。加えて、滅菌していないスポンジの相対粘度の結果は、EO滅菌したスポンジについて得られた結果よりも小さい。実施例1のDSCデータはEO滅菌したコラーゲンスポンジと滅菌していないコラーゲンスポンジとが同程度であることを示唆しているが、相対粘度のデータは、EO滅菌したコラーゲンスポンジが、試験した他のコラーゲンスポンジよりも多く架橋されたことを示唆しているように思われ、また、この傾向は水和研究の結果(図3)からも明白であった。
【0125】
ガンマ放射線を通じて、またはグルタルアルデヒドを通じた化学的手段によって架橋されたヒト羊膜の物理化学的および生物分解的な特性を比較した研究では、ガンマ照射した膜とEビーム照射した膜の両方が、羊膜の破断時の引張強度および伸長の減少を示した。羊膜の破断時の引張強度および伸長のこの減少は、照射によるコラーゲン鎖の切断によって引き起こされたものと示唆されている(Valentino et al. Archives of Otolaryngology - Head and Neck Surgery 2000 126(2):215-9)。
【0126】
実施例4 − 線維状コラーゲンマトリックスの物理的特性に対するグルタルアルデヒドによる架橋の影響
【0127】
線維状コラーゲンマトリックスにおいて架橋を生成する別の手段としては、グルタルアルデヒド、カルボジイミド類および有機過酸化物などの化学的架橋剤を使用することである。線維状コラーゲンマトリックスの物理的特性に対する架橋の影響を評価するために、1%のコラーゲン濃度でのコラーゲン分散体に化学的架橋剤であるグルタルアルデヒド(GTA)を加え、0〜0.8%w/wのコラーゲン含量レベルでpH4.5±0.2とした(表3参照 − グルタルアルデヒド濃度は架橋されるコラーゲンのパーセンテージで示している)。
【0128】
GTAの添加後、pHを標準pH4.5±0.2とし、コラーゲンスポンジの形態の薬剤送達インプラントを、凍結乾燥およびその後の32kGyでのガンマ放射により製造した。生じたマトリックスの引張強度を湿潤形態で測定したところ、グルタルアルデヒドの増加と共に引張強度の増大が示されており、これは架橋の増加と相関しているものと思われる(表3)。
【0129】
【表11】

【0130】
架橋(EO滅菌、脱水または化学的手段による)によるマトリックスの密度および空隙率の変化は薬剤放出プロファイルの変化をもたらすことが想定される。
【0131】
実施例5 − ブピバカイン含有薬剤送達インプラント(ブピバカインコラーゲンスポンジ)
【0132】
本発明の第一および第二の態様による薬剤送達インプラントは、アミド局所麻酔剤である塩酸(HCl)ブピバカインを含有する高度に精製されたI型コラーゲンマトリックスから構成される。該システムはエチレンオキサイドにより最終滅菌されて、外科移植に適した無菌マトリックスを得る。
【0133】
製造方法
【0134】
コラーゲンの抽出および精製
コラーゲンは、動物の皮および動物の腱を含む多くの採取源から抽出できる。本発明の第一および第二の態様の薬剤送達インプラントにおいて使用されるコラーゲンは動物の腱(ウマまたはウシ)由来であり、より好ましくはウシの腱由来である。コラーゲンの抽出プロセスは標準的なプラクティスに従うものであり、当業者に周知である。製造プロセスの間に、破砕したウシの腱を、多くの試薬、最も重要には1N水酸化ナトリウム(NaOH)で処理し、プリオンを含む微生物学的な汚染物を除去する。
【0135】
コラーゲン含有材料の粒子サイズをさらに減少させた後、約2.5のpHにおいてペプシンで処理する。該処理は、汚染する血清の成分(主にはウシ血清アルブミン)を分解し、コラーゲン分子の非らせん状部分(テロペプチド)の脱離を引き起こすために用いられる。このプロセスの間、コラーゲン材料は酸性媒体中で部分的に可溶化される。ろ過した後、pH操作(約2.5のpHから約7.5のpH)によりコラーゲンの沈殿を達成する。線維状コラーゲン材料を溶液から最終的に沈殿させ、次いで遠心により濃縮する。
【0136】
配合のプロセスおよび装置
コラーゲン分散体はステンレス鋼容器内で製造される。予め加熱した(35〜42℃)水を用いて水性分散体を調製し、pHを4.5±0.2に調整する。理論に縛られるものではないが、pH4.5でコラーゲン懸濁液にブピバカインを加えるとコラーゲンは沈降し、そしてこれを反転させるためにpHを3.9まで下降させるとコラーゲンが再分散されると考えられる(より低いpHにおいて、線維はより膨潤し、溶解性は増加する)。ウマのコラーゲン懸濁液のためには、沈殿を防ぐために3.9というpHが使用されるが、これは恐らく、時と共に、より高程度の架橋が自然に起きることに起因している(腱の採取源として使用されるウマはウシよりもかなり高齢である傾向がある)。
【0137】
コラーゲンの塊を壊してコラーゲン線維を酸性媒体に露出させるためには高せん断の混合が必要とされる。用いられるホモジナイザーはローター−ステーターのヘッドを有し、該ヘッドは、回転するホモジナイザーのヘッドを通じて材料を引き付け、そしてそれを、隣接する静止したステーターヘッドに押し付けることにより高せん断力を生み出すように設計されている。この設計により、懸濁液の調製の最初における線維状コラーゲンの塊の分離のために必要とされる高せん断力が促進される。
【0138】
製造プロセスにおいて使用されるローター/ステーター装置は、この装置についての既存の組織内の経験に基づいて選択した。例えば、IKA Ultra−Turraxミキサーは、約5〜10分間高速で使用され、そしてそれに続いて、薬剤の添加後に最低20分間低せん断混合で使用され得る。
【0139】
コラーゲン懸濁液の形成の完了後、最終的な配合のために、懸濁液を、熱ジャケットを施した閉じたステンレス鋼容器に移す。ジャケットの温度を37℃に維持する。先ず、塩酸ブピバカインを、手動での撹拌の下で水の一部に溶解する。次いで、この溶液プレミックスを低せん断混合下で、熱ジャケットを施したSS容器に入れ、薬剤が入ったコラーゲン懸濁液において均一化を達成する。ブリスタートレイまたは凍結乾燥用の鋳型に充填する前に、最終の薬剤/コラーゲン懸濁液のpHを3.9±0.3に調整する。コラーゲン濃度は0.56g/100mgである。ブピバカイン−コラーゲン懸濁液のために3.9±0.3というpHを選択し、薬剤を添加した際に起こる可能性があるコラーゲンの沈降を防いだ。このpHは、水性媒体におけるコラーゲンの懸濁を助ける。
【0140】
充填/凍結乾燥のプロセスおよび装置
充填プロセスは容積型ポンプを用いて行う。このポンプは、バルブレスであり、セラミックのピストンを有し、かつ容積式の原理で働く。あるいは、蠕動ポンプを使用することもできるであろう。薬剤−コラーゲン懸濁液は、凍結乾燥用の鋳型中またはブリスタートレイ中に充填することができる。12.5グラムの薬剤−コラーゲン懸濁液(50mg相当の塩酸ブピバカインを含有する)を、5cm×5cm×1.3cmの内寸を有する鋳型中またはブリスター中に充填する。トレイの充填が完了したら、充填した鋳型/ブリスターを凍結乾燥器に入れる。ブピバカイン含有薬剤送達インプラントの凍結乾燥のために、市販の凍結乾燥器(例、Christ凍結乾燥器)を利用した。凍結乾燥器操作用コンソールにより処理サイクルのプログラミングが可能であり、自動化されたプログラムサイクルを該製品のために確立して、5cm×5cmのおおよその寸法、約3.5mm〜約5.0mmの範囲の厚さを有する図4aの凍結乾燥されたスポンジを得た。
【0141】
包装のプロセスおよび装置
凍結乾燥サイクルの完了後、トレイをシェルフから取り出す。鋳型中で凍結乾燥が起きたら、スポンジを鋳型から取り出し、ブリスタートレイに詰め込む。包装プロセスは、内側ブリスターの包装および密封ならびに外側(EO型)のパウチの包装および密封という2ステップで進む。スポンジ製品を内側のPETGブリスターに入れた後、該ブリスターを、空気圧式ブリスター包装/密封装置を用いてTyvekの蓋で密封する。ブリスタートレイ中で凍結乾燥が起きたら、ブリスターから取り出す必要はないので、包装はブリスターの密封から始まる。次いで密封したブリスターを、外側のEO滅菌可能なパウチに挿入する。外側パウチの片側は、Tyvekのストリップシールを有する透明なポリエステル/LDPEホイルのラミネートからなり、もう片側は不透明なポリエステル/LDPEラミネートからなる。酸化アルミニウムで被覆したポリエチレン材料を含む、その他の外側パウチ包装を使用することもでき、あるいは、滅菌のためにEビーム放射を用いる場合には、アルミニウムの外側パウチを使用できる。次に該パウチを連続ヒートシール装置を用いて密封する。このヒートシーラーは、パウチの開放端における連続的なシールの形成を促進する。パウチの最上部は、二つの穴、またはTyvekで裏打ちしたストリップを含む。これらの窓はEOガスでの滅菌プロセスのために特に設計されており、気体のみが透過できる。窓の透過性により最終滅菌プロセスの間のEOガスの透過が促進される。密封された製品は最終のEO滅菌プロセスの段階に移される。滅菌および換気の後、気体が透過できる窓の下で外側パウチが再び密封され、次いで、この気体が透過できる(最も上にある)部分はパウチから取り除かれる。これにより、最終滅菌されたスポンジ製品を含有する、完全に密封された外側パウチがもたらされる。
【0142】
EO滅菌のプロセスおよび装置
エチレンオキサイド(CO)は、作業温度において気体であり、強力なアルキル化剤としてのその作用を通じて滅菌を行う。適切な条件下において、核酸複合体、機能性タンパク質および酵素などの生物の細胞構成成分はエチレンオキサイドと反応し、アルキル基の付加を招く。アルキル化の結果として、細胞複製が妨げられ、その後細胞死が起こる。具体的な処理の条件およびパラメータが、対象とする製品内でこの効果を達成するために満たされなければならず、以下に限定されないが、チャンバー中で許容できるエチレンオキサイドの濃度、および該生物内での最小の水分活性レベルが挙げられる。
【0143】
滅菌器としてはモデルDMB 15009VD(ドイツのDMB Apparatebau GmbH社製)であり、これは1500lのチャンバー容量を有する2ドアの完全に自動化されたユニットである。15:85の比率のEO/COの混合物が滅菌用ガスとして用いられる。滅菌後、エチレンオキサイドは、二つのドナルドソン触媒コンバーターを通じて排出される。
【0144】
滅菌前の平衡化
滅菌のために、環境条件(22±2℃およびRH25〜65%)が制御された保持領域にスポンジを準備し、スポンジ中の水分レベルを平衡化させる。滅菌前のスポンジにおいて、9%以上の水分という望ましい水分制限(乾燥減量により決定)を達成しなければならない。
【0145】
チャンバーへの投入
パウチしたスポンジ製品をステンレス鋼のメッシュバスケット内の列に配置し、滅菌チャンバー内に入れる。これにより、滅菌ガスがチャンバー内に均一に分布し、全てのスポンジが等しいガス濃度に曝されることが保証される。
【0146】
以下に説明するように、滅菌プロセスは4バールの圧力サイクルに基づき、該サイクルは6時間の滅菌の間維持される。滅菌器は完全に自動式であり、これが意味するのは、チャンバーは全滅菌サイクルを完了した後においてのみ開放できるということである。
【0147】
サイクルのパラメータ
滅菌サイクルは以下の段階にさらに分割することができる。
高圧力試験:
高圧力範囲におけるシステムのチェック;何らかの漏れが起きている場合にはサイクルは停止される。
低圧力試験:
チャンバーは4バールの滅菌圧力に至るまで圧縮空気で満たされ、5分間この圧力で維持される。チャンバーからの漏れが検出された場合にはサイクルは停止される。試験が成功であれば、圧縮空気は解放され、チャンバーは−0.8バールまで排気される。
ガスの供給:
必要な真空に到達したら、システムは即時にガス供給に切り替わる。二つのガス化装置によって液体EO/CO混合物が気化および調整される。ガスのチャンバー内への導入には、この4バールのサイクルについて約15分かかる。
予備プログラムの間、チャンバー加熱システムが作動される。滅菌を開始するための全てのパラメータは、ガス供給段階の終了までに実現される。
滅菌:
滅菌時間:6時間(半分の時間のサイクル:3時間)
チャンバーの圧力:4バール(限度:3.6〜4.1バール)
チャンバーの温度:30℃〜40℃
エチレンオキサイドの濃度:>1300mg ETO/l
ガスの排出:
滅菌ガスのチャンバーからの排出は、二つのドナルドソン触媒コンバーターを通じて、容積制御の下で達成される。
脱離:
ガスの脱離がチャンバー内で起こる。この段階のための温度は、滅菌のための温度(30℃〜40℃)と同一である。チャンバーは、排気(−0.8バールまで)および圧縮空気でのフラッシュを交互にされる。0.6バール程度の圧力がこの段階で達成される。このサイクルが30分毎に繰り返される。脱離には12時間以上かかる。チャンバーはこの期間を通じてロック(インターロック)されたままである。
【0148】
より長期間の給気
プロセスのこの段階は、低レベルの残留エチレンオキサイドを製品および包装からさらに取り除くのに役に立つ。エチレンオキサイド誘導体残留物についての制限に達するまで、最低3〜4週間、製品は室温で置かれたままにされる。
【0149】
実施例6 − コラーゲンスポンジの崩壊
【0150】
本発明のこの特徴を評価するために、実施例3のブピバカイン含有薬剤送達インプラント、そしてまた薬剤を有しないコラーゲンスポンジ薬剤送達マトリックスを用いて、以下の実験作業を行った。
【0151】
pH6.8、37℃におけるPBS(リン酸緩衝生理食塩水溶液)中でのコラーゲンスポンジの収縮
異なる製造ロットからのブピバカインコラーゲンスポンジ(5×5cm)の三つの試料を用いて、実験を三連で行った。各試料のスポンジは、70mgのコラーゲンおよび50mgの塩酸ブピバカインを含んでいた。70mgのコラーゲンを含み、薬物を有しない単一の製造ロットの薬剤送達マトリックスを用いた実験も行った。
【0152】
50mlのPBS(Ph.Eur.5th Edition Volume 1, 01/2005 Reagents/Buffers Solutions 4.1.3に従って調製した)を400mlのビーカーに入れ、37℃の温度に維持した水槽中で平衡化した。400mlビーカー中のPBSに入れる前に、各乾燥スポンジ試料の全体的な外観および寸法(長さ、幅および厚さ)を記録した。
【0153】
10分および30分の時点において外観および寸法を観察し、測定し、記録した。スポンジの長さおよび幅は、スポンジ(まだビーカー中にある間に)を目盛り付きの50×50mmテンプレート上に置くことによって測定した。厚さの記録は、ピンセットを用いてスポンジをビーカーから取り出し、手作業用のキャリパーを用いて測定することにより行った(mm)。
【0154】
結果:
【0155】
【表12】

【0156】
【表13】

【0157】
10分後において、液体の吸収の際に薬剤送達インプラントの体積が少なくとも70%減少したことを結果は示している。この体積の減少は、医薬の局所投与用の薬剤送達システムとしての該インプラントの使用を促すものである。結果を図5にグラフで示している。
【0158】
実施例7 − 前臨床データ、薬物動態、腹部への移植
【0159】
本発明のブピバカイン含有薬剤送達インプラントの前臨床(ビーグル犬モデル)研究およびヒト臨床研究の両方を行った。血漿濃度は一貫して二つのピークの現象を実証している。
【0160】
前臨床データ
前臨床研究では、EO滅菌したブピバカイン含有薬剤送達インプラント(5×5cmのコラーゲンスポンジマトリックス中に50mgの塩酸ブピバカイン)を8匹のビーグル犬(雄4匹、雌4匹)の腹部に移植した。試験品の投与前、および以下の時点(±10分):1、2、3、6、9、12、18、24、30、36、42、48、54、60、66、72時間において血液のサンプリングを行った。図6aに示されるように、平均のPKプロファイルは、移植から2時間後および30時間後において、ブピバカインの血清濃度に二つのピークが生じていることを示している。図6bにおける個々の血清プロファイルもまた二つのピークを示しており、これにより、平均プロファイルが示す二つのピークは、インプラントからの薬剤放出の作用であり、異なる動物における最大濃度までの早いまたは遅い時間のいずれかを有しているというアーチファクトではないことが実証される。
【0161】
実施例8 − 前臨床データ、薬物動態、滅菌方法の比較
【0162】
二つの異なる前臨床ビーグル犬研究から、EO処理したブピバカイン含有インプラントのPKプロファイルを、ガンマ放射したブピバカイン含有インプラント(5×5cmの70mgのコラーゲンスポンジマトリックス中に50mgの塩酸ブピバカイン)と交差比較することにより、滅菌方法による影響を調べた。EO滅菌したインプラントの場合、移植は腹部に行い、一方、ガンマ滅菌したインプラントは後肢に移植した。移植の部位が役割を果たしている可能性がある。部位それ自体が液体の量および循環へのアクセスに影響するためである(移植部位が腹部のみである下記実施例7を参照)。PKのサンプリングを二つの研究間で同様に行った。図7は、両方の薬剤送達インプラントのPKプロファイルを示している(EO滅菌は青色、ガンマ滅菌は赤色)。
【0163】
二つのインプラント間でPKプロファイルのはっきりとした違いが観察される。ガンマ滅菌したインプラントが典型的な単一ピークのプロファイルを示している一方、EO滅菌したインプラントは二つのPKピークを示している。PKプロファイルの違いは、線維状コラーゲンマトリックスに対する滅菌方法の影響、特に、崩壊したコラーゲンスポンジ中の架橋の程度(これは、薬剤放出の動態を変更する)に対する滅菌方法の影響によって説明することができる。
【0164】
ガンマ照射はコラーゲン分子の鎖の切断をもたらし、ポリマーの断片化を引き起こす(図8)ことが研究により示されている。典型的には、一部の製造業者は、タンパク質を故意に架橋することによってこの断片化の増加を補填している。ガンマ照射による損傷の大部分は、水分子の放射線分解に起因するフリーラジカルによって引き起こされると考えられる。しかしながら、ガンマ照射は、コラーゲンスポンジの著しい分解(架橋されていようと、いなかろうと)を引き起こし、また、変性温度および引張強度の減少を引き起こす(Salehpur et al 1995, Liu et al 1989, Noah et al 2002)。
【0165】
ガンマ滅菌したスポンジのこのより早い分解は、インビボにおいて、マトリックスからの薬剤のより早い放出をもたらし、それがひいては、全身の(PK)プロファイルに影響すると想定される。
【0166】
EO滅菌はコラーゲン分子において架橋を引き起こすことが知られており、また、アミノ酸分析により、リジンおよびヒドロキシリジン残基の形態のコラーゲンによって提示されるアミノ基とEOとの強い反応が示されている(Friess 1998)。
【0167】
前臨床評価において観察された一つ目のPKピークは、インプラントの表面からの薬剤の受動的な溶出によって説明できると想定される。インプラントが液体を吸収して構造が崩壊すると、ヒドロゲル型材料が形成され、該材料は、EO滅菌プロセスによって引き起こされる架橋によって強化される。薬剤の放出はヒドロゲル層を通じた拡散によって生じ、そしてそれは後に遅発するものであり、PKプロファイルにおいて観察される二つ目のピークをもたらす。反対に、ガンマ滅菌の場合、架橋レベルの低減は、より弱い(より低い粘度の)ヒドロゲルを生成する。これは、薬剤がより迅速に放出され、単一のピークのみが観察されることを意味している。前臨床評価において観察された二つのPKピークは、ヒトにおいても現れる(実施例8を参照)。
【0168】
実施例9 − 前臨床データ、EO滅菌とEビーム滅菌との比較
【0169】
三つのブピバカイン含有薬剤送達インプラントの局所および全身薬物動態を比較する研究を行った。該三つのインプラントのうちの二つはEO滅菌し、異なる期間保管されたものであり、三つ目はEビーム放射により滅菌したものである。研究には三つの群があり、各群は、8匹の動物(雄4匹、雌4匹)を含んでいた。動物を群1(周囲条件で2年間保管した後のEO滅菌したブピバカイン含有薬剤送達インプラント)、群2(最近製造したEO滅菌したブピバカイン含有薬剤インプラント)または群3(Eビーム滅菌したブピバカイン含有薬剤送達インプラント)のいずれかに割り当てた。インプラントを腹部の左の外側面に外科的に挿入した。血液試料(試験品投与前および試験品投与から最大72時間後)を採取し、ブピバカイン濃度についてアッセイし、三つの異なるインプラントの全身PKプロファイルを決定した。
【0170】
三つのインプラントの全身PKプロファイルは類似のパターンを示しており、図12に示されるように、血清ブピバカインレベルにおける二つのピークがそれぞれの場合に観察された。このことは、ガンマ滅菌とは異なり、Eビーム滅菌はコラーゲンマトリックスにおいてある程度の架橋をもたらし、それにより、マトリックスからの薬剤放出速度に起因する二つのPKピークを生じるらしいことを示唆している。Eビーム放射の主な産業用途の一つは、引張強度および耐久性を向上させるためのポリマーの架橋である。この架橋の効果は、相対粘度および血清PKプロファイルによって実証されるように、本発明のコラーゲンマトリックスにおいても観察される。Eビーム滅菌はまた、重症の火傷を覆うように設計されているコラーゲンおよびコンドロイチン−4,6−硫酸の生体材料のガンマ照射後に観察される機械特性の減少を回避する手段としても提案されている(Berthod et al. Clinical Materials 1994 15(4):259-65)。
【0171】
実施例10 − 臨床データ
【0172】
子宮摘出手術後の12患者における実施例3のブピバカイン含有薬剤送達インプラントの薬物動態(PK)プロファイル、安全性および耐容性を調べるための第I相単回投与非盲検前向き研究を英国で行った。
【0173】
それぞれ50mgの塩酸ブピバカインを含有する三つのEO滅菌したブピバカイン含有薬剤送達インプラントを、外科創傷中に異なるレベルで移植した。一つのスポンジは外科手術の円蓋中に、一つは腹膜に、そして三つ目は真皮の切開の下に配置した。この様式の投与は、この種の外科手術後に痛みを覚える異なる部位において痛みの軽減を可能とする。本研究の第一の目的は、ブピバカイン含有薬剤送達インプラントの薬物動態プロファイル、安全性および耐用性を決定することであった。第二の目的は、モルヒネの節約(術後の最初の24時間に消費されたモルヒネの量の低減)および痛みの強さのビジュアル・アナログ・スコアリング(VAS)を評価することにより、インプラントによって付与される痛みの軽減を測定することであった。外科手術後、各患者は、最初の24時間、そしてそれに加えて診療上の鎮痛の基準の間、PCA(患者自己管理鎮痛法)のモルヒネを受け、かつ、その期間にわたって患者によって自己投与されたモルヒネの累積の量を記録した。0〜100mmのスケール(0は痛みがなく、100は耐えられない痛みである)でVAS(安静時)によって測定された痛みの強さを、退院(少なくとも術後96時間)まで頻繁な間隔で評価した。
【0174】
それぞれ図9および図10の平均および個々のPKプロファイルの決定は、基準時(インプラントの移植前)ならびにインプラントの移植から30分、1、1.5、2、3、4、5、6、9、12、18、24、36、48、72および96時間後に血液試料を採取することにより行った。血漿を血液から分離し、有効なアッセイ方法を用いてブピバカインについてアッセイした。
【0175】
子宮摘出術の試験からのPKデータは、ほとんどの患者が、全身循環におけるブピバカイン濃度の二つのピークを示すことを表している。図9および図10に示されるように、一つ目のピークは一般に最初の1.5時間以内に起こり、二つ目のピークは12〜18時間の間に起こる。局部麻酔に使用されるブピバカインの半減期は約3時間(1.5〜5.5時間の範囲)と報告されているが、本発明の薬剤送達インプラントでは、薬剤の半減期のかなり後に二つ目のピークが起きており、ブピバカインの持続した局所送達を実証している。
【0176】
本研究からの全般的結果は、最も著しいことに、全ての患者が術後24時間以内に、外科手術後のリハビリテーションに向けた重要なステップであるモビライゼーションを施されたということである。さらには、低い平均モルヒネ消費量(文献データとの比較)が報告され、かつ退院までの低いVAS痛みスコアが記録された。この結果は、コラーゲン薬剤送達システムにおけるブピバカインの作用の持続期間の延長を示している(下記の表6を参照)。
【0177】
【表14】

【0178】
結論
線維状コラーゲンマトリックスに基づく本発明の薬剤送達インプラントは、薬剤の局所送達用の移植可能なマトリックスとして理想的である。液体を吸収すると線維状コラーゲンスポンジマトリックスの構造は崩壊し、それにより、マトリックスの体積は減少し、周囲の組織および神経にかかる圧力のあらゆる問題を回避する。線維状コラーゲンスポンジマトリックスの崩壊する性質は非常に望ましく、また、液体を吸収して膨潤し深刻な合併症に繋がるためFDAによって使用制限を発令されている市販のコラーゲンベースの止血剤とは異なっている。インビボでの構造の崩壊の結果、本発明の薬剤送達インプラントによって送達された薬剤は、PKプロファイルによって示されるように、全身薬剤レベルにおける二つのピークを示す。この二つのピークの現象は、作用の持続時間の延長を提供し得るものであり、それは、痛みを軽減するための局所薬剤送達の場合において特に望ましい。
【0179】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの薬剤の送達に適したインプラントであって、該インプラントは線維状コラーゲンマトリックスを含み、該線維状コラーゲンマトリックスは、実施例1における測定を行った場合に、140mgの線維状コラーゲンマトリックスから形成されたコラーゲン分散体が、3.5未満のpHおよび30.0+/−0.5℃の温度において25mlの2mM HCl中に分散しているときに、100mPasより大きい粘度、任意には103mPasより大きい粘度、さらに任意には106mPasより大きい粘度、なおさらに任意には109mPasより大きい粘度を有する、インプラント。
【請求項2】
70mgの線維状コラーゲンマトリックスを50mlの0.9%塩化ナトリウム中に37℃で10分間浸したときに、少なくとも30%の体積減少を示す、請求項1記載のインプラント。
【請求項3】
該体積減少が少なくとも50%であり、任意には該体積減少が少なくとも70%である、請求項2に記載のインプラント。
【請求項4】
医薬的に許容される量の少なくとも一つの薬剤が該線維状コラーゲンマトリックス中に分散しており、該少なくとも一つの薬剤は、少なくとも局所的な薬理作用を有するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項5】
該少なくとも一つの薬剤が、麻酔剤、任意には局所麻酔剤;オピオイド型鎮痛剤;抗炎症性鎮痛剤;化学療法剤;および抗バクテリア剤などの抗菌剤、それらいずれかの医薬的に許容される塩、またはそれらいずれかの組み合わせから選択されるものである、請求項4に記載のインプラント。
【請求項6】
該少なくとも一つの薬剤が、アミノアミド麻酔剤またはその塩、オピオイド型鎮痛剤またはその塩および非ステロイド系抗炎症性鎮痛剤、あるいはそれらの混合物から選択されるものである、請求項4に記載のインプラント。
【請求項7】
該少なくとも一つのアミノアミド麻酔剤が、それらいずれかの塩酸塩も含めて、リドカイン、プリロカイン、ブピビカインおよびそのエナンチオマーであるレボブピバカイン、ロピバカイン、メピバカイン、ジブカイン、またはそれらいずれかの混合物から選択されるものであり;任意には、該アミノアミド麻酔剤が、それらいずれかの塩酸塩も含めて、ブピバカインおよびそのエナンチオマーであるレボブピバカインであり;さらに任意には、該アミノアミド麻酔剤が、その塩酸塩も含めて、ブピビカインである、請求項6に記載のインプラント。
【請求項8】
該少なくとも一つのオピオイド型鎮痛剤が、モルヒネおよびその塩;ジアモルヒネおよびその塩酸塩;デソモルヒネ;コデインおよびその塩;ヒドロコドンおよびその酒石酸水素塩;ヒドロモルフォンおよびその塩酸塩;オキシコドン;オキシモルフォン;フェンタニルならびにアルフェンタニル、スフェンタニル、レミフェンタニル、カルフェンタニルおよびロフェンタニルを含むその関連するアナログ;ブプレノルフィンおよびその塩酸塩、トラマドールおよびその塩酸塩および酒石酸塩、タペンタドール、またはそれらいずれかの混合物から選択されるものである、請求項6に記載のインプラント。
【請求項9】
該少なくとも非ステロイド系抗炎症性薬剤が、ジクロフェナクのナトリウム塩およびカリウム塩、ケトプロフェンおよびその活性エナンチオマーであるデクスケトプロフェン、ナプロキセンおよびそのナトリウム塩、イブプロフェンおよびそのナトリウム塩およびその活性エナンチオマーであるデキシブプロフェン、メロキシカム、ピロキシカム、インドメタシン、アセチルサリチル酸、またはそれらいずれかの混合物から選択されるものである、請求項6に記載のインプラント。
【請求項10】
少なくとも一つの薬剤の送達に適したインプラントを作製するためのプロセスであって、該プロセスは、
コラーゲン懸濁液から線維状コラーゲンマトリックスを形成するステップ;および、
該線維状コラーゲンマトリックスまたは該コラーゲン懸濁液のいずれかに対して架橋のステップを実行するステップ
を含み、該架橋のステップは、実施例1における測定を行った場合に、140mgの線維状コラーゲンマトリックスから形成されたコラーゲン分散体が、3.5未満のpHおよび30.0+/−0.5℃の温度において25mlの2mM HCl中に分散しているときに、該線維状コラーゲンマトリックスが、100mPasより大きい粘度、任意には103mPasより大きい粘度、さらに任意には106mPasより大きい粘度、なおさらに任意には109mPasより大きい粘度を有するような条件下で実行されるものである、
プロセス。
【請求項11】
該架橋のステップが、該少なくとも一つの薬剤の組み込みの前または後に、該線維状コラーゲンマトリックスに対して実行される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
該架橋のステップが、エチレンオキサイド(EO)滅菌、電子線(Eビーム)滅菌、脱水熱架橋、化学的架橋、またはそれらの組み合わせから選択される、請求項10または11に記載のプロセス。
【請求項13】
該架橋のステップがエチレンオキサイド(EO)滅菌であり、該エチレンオキサイド(EO)滅菌の条件が、任意には、3.6〜4.1バールのチャンバー圧力、30℃〜40℃のチャンバー温度、および、1300mg EO/lより大きいエチレンオキサイド濃度を用いた、6時間のエチレンオキサイド(EO)滅菌時間を含む、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
該架橋のステップが電子線(Eビーム)滅菌であり、該電子線(Eビーム)滅菌が、任意には、少なくとも15kGyの放射線量で実行される、請求項12に記載のプロセス。
【請求項15】
架橋のステップが脱水熱架橋または化学的架橋であり、任意には化学的架橋から選択され、なおさらに任意には、グルタルアルデヒド、カルボジイミド類または有機過酸化物を用いる化学的架橋から選択される、請求項12に記載のプロセス。
【請求項16】
該架橋のステップが脱水熱架橋または化学的架橋であり、かつ、該インプラントが、エチレンオキサイド(EO)滅菌、電子線(Eビーム)滅菌またはガンマ照射を用いて滅菌され;該電子線(Eビーム)滅菌または該ガンマ照射が、任意には、少なくとも15kGyの放射線量で実行される、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
少なくとも30%の任意の体積減少が、任意の薬剤を該コラーゲン懸濁液に添加する前に、4.9未満のpHで、25mg/ml未満、任意には2.5〜11.2mg/mlの範囲、さらに任意には約5.6mg/mlのコラーゲン濃度において、該コラーゲン懸濁液を凍結乾燥して、該インプラントを作製することによって得られる、請求項10〜16のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項18】
該少なくとも30%の任意の体積減少が、任意の薬剤を該コラーゲン懸濁液に添加する前に、3.6〜4.9のpHで、25mg/ml未満、任意には2.5〜11.2mg/mlの範囲、さらに任意には約5.6mg/mlのコラーゲン濃度において、該コラーゲン懸濁液を凍結乾燥して、該インプラントを作製することによって得られる、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
少なくとも30%の任意の体積減少が、任意の薬剤を該コラーゲン懸濁液に添加する前に、約4.5のpHで、11.2未満、任意には約5.6mg/mlのコラーゲン濃度において、該コラーゲン懸濁液を凍結乾燥することによって得られる、請求項10〜18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項20】
該体積減少が少なくとも50%であり;任意には、該体積減少が少なくとも70%である、請求項17〜19のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項21】
線維状コラーゲンマトリックスの使用であって、該線維状コラーゲンマトリックスは、実施例1における測定を行った場合に、140mgの線維状コラーゲンマトリックスから形成されたコラーゲン分散体が、3.5未満のpHおよび30.0+/−0.5℃の温度において25mlの2mM HCl中に分散しているときに、100mPasより大きい粘度、任意には103mPasより大きい粘度、さらに任意には106mPasより大きい粘度、なおさらに任意には109mPasより大きい粘度を有し、該使用は、移植部位に隣接しての、インプラントからの少なくとも一つの薬剤の延長された局所送達のための、請求項1〜10のいずれか1項に記載のインプラントを製造するためのものである、使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−507383(P2012−507383A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535203(P2011−535203)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【国際出願番号】PCT/IE2009/000078
【国際公開番号】WO2010/052694
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(511112032)イノコル テクノロジーズ リミティッド (1)
【Fターム(参考)】