薬物送達膜をもつスコアリングカテーテル
本発明は、医療機器、特に血管系の狭窄に対する治療を目的とした医療機器の分野に関する。スコアリングエレメントを有する血管形成術用デバイス及び他の拡張デバイスを提供する。このデバイスは、体管腔、通常血管に薬物類及びその他の活性物質類を送達するのに用いられる別個の薬物適用膜をさらに内蔵する。このデバイスは、このスコアリング構造体が管腔壁中に半径方向に拡張するときに管腔壁の領域中に薬物を放出する働きをする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器、特に血管系の狭窄に対する治療を目的とした医療機器の分野に関する。
【0002】
バルーン拡張法(血管形成術)は、狭窄血管、通常アテローム斑狭窄動脈に対する血管再生又は閉塞除去によく用いられている医学的手技である。この血管形成手技は、しぼませた拡張用バルーンを先端に付けたカテーテルを血管系を通して標的狭窄部位まで進めることによって機能する。適切な部位に達した時点でバルーンを膨張させる。この膨張させたバルーンは血管の内壁に半径方向の圧をかける。これによって班のより好ましい(閉塞性の少ない)構造への再配置が促進され、狭窄領域が拡張されて血流を改善させることができる。
【0003】
残念なことに、バルーン拡張術後の多くの場合、いつかは班及び血管壁が再び好ましくない構造に再配置され、その結果、しばしば血管の再閉塞が生じる。これを防止するために、バルーン拡張法の施工後直ちにステント植込み術を行うことが多い。ステント植込み術では、血管内にステントと呼ばれるチューブ状の足場を設置することにより血管を開いた状態に保ち、血管の開通性を維持することが容易になる。物理的な足場としての役割の他に、多くのステントは薬物類を溶出することにより再狭窄を予防するのにも役立つ。このようなステントは、薬物溶出ステント又はDES(drug eluting stent)と呼ばれる。
【0004】
しかしながら、ステント植込み術自体は完璧なものではなく、まだ再閉塞の発生率が高すぎる。これはいくつかの要因によるものである。前述のように多くのステントは薬物類を溶出することにより再狭窄を予防するのに役立つが、薬物類が有効であるためには、これを適正な部位に送達しなければならない。しかしながら、血管形成術用バルーンによって狭窄血管が適正に拡張されなければ、ステントが事実上適正に配置されないこともありうる。
【0005】
また、薬物溶出ステント(DES)は、他にも問題点があり、全ての患者に適している訳ではない。DESの植込みを受ける患者は、遅発性血栓症の生じるリスクをできるだけ少なくするために、長時間抗凝固療法の管理下に維持される場合が多い。しかしながら、このような抗凝固剤は出血多量を引き起こす恐れがあり、全ての患者に推奨できる訳ではない。
【0006】
ステントの設置に伴って生じうる他の問題点としては、ステントと血管壁との間のすき間及びバルーンによる拡張に抵抗性の血管班又は壁の石灰化部位の存在が挙げられる。
【0007】
従来のバルーン血管形成術には他にもいくつかの欠点がある。ある場合には、バルーン拡張を強引にやりすぎることにより、バルーン拡張術は病変血管をその弾性限界を超えて伸長させ、その結果、血管の損傷をもたらす。こうした損傷血管壁は再狭窄をきたすリスクが高くなる。別の場合では、この拡張術中にバルーンがずれる可能性がある。これによって、治療病変周囲の血管壁に損傷が生じる恐れがある。
【0008】
このため、一部の血管閉塞は従来の血管形成術用バルーンでは治療が困難である。こうした一部の困難な状況としては、ステント内再狭窄(即ち、最初の再狭窄が血管形成術及びステントにより治療された後に生じる第二の再狭窄)が挙げられる。ステント内再狭窄は血管形成術用バルーンでは治療困難である。何故なら、ステントが拡張に抵抗するので血管形成術用バルーンが膨張過程で標的区域から外れやすいからである。別の治療困難な問題が、伸長に対して比較的抵抗性である線維性病変によってもたらされる。血管形成術用バルーンは、そのような線維性病変に遭遇すると、この場合も膨張時に適正な標的区域から外れてしまいやすい。あいにく、多くの長い病変部は線維性の部分を有し、このため、従来の血管形成術用バルーンを用いて治療することは難しい。
【0009】
こうした問題を解決するための一つの方法は、ブレード又はスコアリングエレメント(scoring element)を血管形成術用バルーンと合体させることである。こうしたブレード又はスコアリングエレメントはいずれもバルーンが適正な位置からずれるのを防止するのに役立ち、血管壁の比較的抵抗性の部分を一部切り開くこともできる。これによって、ずれが防止され、目的とする血管の拡張が進行する。
【0010】
血管形成術用バルーンと共にブレード又はスコアリングエレメントを用いることに関する第二の利点は血管壁、特に班により閉塞された壁がバルーン膨張時に制御不可能な仕方で裂け易いことにある。切削ブレードはこの損傷を最小限に抑えるのに役立てることができる。何故なら、これによる切削及び裂けは制御不能ではなく、今や制御し、限定することができるからである。拡張術を遂行するのに必要な最低限の大きさの切削又はスコアリングのみを実施する必要があり、この切削又はスコアリングを血管の特定の限局部分に限定することができる。
【0011】
切削ブレードを有する血管形成術用バルーンを用いると多くの条件下で極めて有利であることが判っているが、現行の切削バルーンの設計及び方法には依然として欠点がある。
【0012】
前述のように、血管壁の切削、スコアリング又は損傷を受けた区域に薬物類又は治療剤類を用いると、再狭窄を減少させるのが容易となり、転帰を改善することができる。しかしながら、こうした薬物類の多くは、全身性に投与するのではなく、理想的には血管の損傷部位に直接適用する必要がある。スコアリングの結果、血管の損傷部位が正確に特定されるので、理想的に、薬物類その他の治療剤類が正確にこの特定された損傷領域に運ばれ、この損傷の影響を軽減するのに用いられるはずである。このように送達が正確に行われることによってより高濃度の薬物類及び治療剤類を投与することが可能となり、さらに、そのような薬物類と非標的組織との好ましくない副反応を全て低減させることにもなる。そのために、権利者が共通の米国特許出願公開第2006/0259005A1号において、スコアリングエレメントを抗増殖剤その他の薬剤で被覆することが提案されている。かなりの改善ではあるが、スコアリングエレメント上に薬物類を被覆するか、それとも隔離する必要があることは、技術的に厳しいものがあり、送達させることができる薬物量を制限するものと考えられ、各種薬物類及び各種投与量の余裕維持が困難となる。
【0013】
スコアリングエレメントを被覆することに関する別の問題は、カテーテルの外側に被覆した薬物類が適正部位に到達する前に拡散してしまいやすいことである。更なる問題は、有効性を示すのに十分な薬物をスコアリングエレメント上に付着又は隔離させるのは必ずしも可能ではないと考えられることである。
【0014】
このような理由で、血管その他の体管腔に治療剤類を送達するための「薬物不含」スコアリング及び切削構造体を利用することができる方法及びシステムを提供することは望ましいことになる。このような方法及びシステムを用いれば、スコアリング及び切削構造体により血管及び管腔の閉塞を崩壊させる可能性があり、同時に、スコアリング/切削エレメント自体の改変を必要とすることなく血管に治療剤類を送達することが可能となる。特に、治療剤類の送達を、好ましくは各種の投与量で種々の条件下に、可能とするために切削エレメントと共に機能させる方法及びシステム。これらの目的の少なくとも一部は、以下で説明する本発明によって満たされることになる。
【背景技術】
【0015】
以下の米国特許及び刊行物は、切削バルーン及びバルーン構造体に関するものである:米国特許第6,450,988号、同第6,425,882号、同第6,394,995号、同第6,355,013号、同第6,245,040号、同第6,210,392号、同第6,190,356号、同第6,129,706号、同第6,123,718号、同第5,891,090号、同第5,797,935号、同第5,779,698号、同第5,735,816号、同第5,624,433号、同第5,616,149号、同第5,545,132号、同第5,470,314号、同第5,320,634号、同第5,221,261号及び同第5,196,024号、並びに米国特許出願公開第2006/0259005号及び同第2003/0032973号。重要な他の米国特許としては米国特許第6,454,775号、同第5,100,423号、同第4,998,539号、同第4,969,458号及び同第4,921,984号が挙げられる。以下の特許には針利用送達機構を有する薬物送達カテーテルが開示されている。即ち、米国特許第4,578,061号には、向きをそらすことができて軸方向に進めることができる針を有する針注射カテーテルが開示されている。米国特許第5,538,504号には、バルーンドライバによって横方向に進められる横走針を有する針注射カテーテルが開示されている。また、米国特許第6,319,230号、同第6,283,951号、同第6,283,947号、同第6,004,295号、同第5,419,777号及び同第5,354,279号も重要である。薬物被覆ステント及び血管形成術用バルーンについては、米国特許第6,280,411号、同第6,656,156号及び同第6,682,545号、並びに米国特許出願公開第2004/0193257号、同第2004/0208985号及び同第2005/0033417号を含む多くの特許及び公開出願に開示されている。
【0016】
被覆薬物及び、任意選択的に切削ブレードを有する血管形成術用バルーンに関する特許及び公開出願としては、米国特許第5,102,402号、同第5,120,322号、同第5,304,121号、同第5,868,719号、同第6,929,320号、同第6,364,856号、同第6,592,548号及び同第7,060,051号、並びに米国特許出願公開第2004/127475A1号、同第2004/143287A1号、同第2005/288629A1号、同第2006/004323A1号、同第2006/020243A1号、同第2006/129093A1号、同第2006/247674A1号及び同第20056/259062A1号、特許文献1及び特許文献2、並びに欧州特許第1007135B1号が挙げられる。
【0017】
当該分野ではいくつかの異なる滑り止め、切削及びスコアリング構造が提案されている。米国特許第5,320,634号には、バルーンに切削ブレードを増設することが開示されている。このブレードは、バルーンが膨張するにつれて線維性病変を切り開くことができる。米国特許第5,616,149号にはバルーンにとがった刃先を取り付ける同様な方法が開示されている。米国特許出願公開第2003/0032973号には、膨張時に血管形成術用バルーンを固定する非軸方向グリップを有するステント様構造体が開示されている。米国特許第6,129,706号には、外側表面に滑り止め用隆起(bump)を有するバルーンカテーテルが開示されている。米国特許第6,394,995号には、バルーンプロフィルを縮小させて締まった病変部の横断を可能にする方法を開示している。米国特許出願公開第2003/0153870号には、狭窄その他の閉塞領域に長軸方向チャネルを創出する可撓性の細長いエレメントを有するバルーン血管形成用カテーテルを開示している。
【0018】
薬物送達バルーン及び膜については、米国特許第5,102,402号、同第5,120,322号、同第5,304,121号、同第5,383,928号、同第5,707,385号、同第5,868,719号、同第6,471,979号、同第6,565,528号及び同第7,011,654号、並びに米国特許出願公開第2004/0127475号、同第2004/0143287号、同第2005/0288629号、同第2006/0004323号、同第2006/0020243号、同第2005/0083768号、同第2006/0112536号及び同第2006/0259062号にも開示されている。米国特許出願公開第2006/0129093号には、多重膨張可能バルーンカテーテルであって、バルーンの少なくとも1つは少なくとも1つのスコアリングブレードを有することができ、少なくとも1つのバルーンの外面は薬物又は治療剤を含有することができるものとするカテーテルが開示されている。米国特許第6,939,320号には、カテーテルシース内の基材が拡張すると開いて基材に被覆されている薬物類を放出するミシン目が設けられている弾性カテーテルシースが開示されている。米国特許第6,364,856号には、拡張時に薬物類又は生物活性物質を放出することができる多数のボイドを有するスポンジ状被膜で被覆された拡張可能カテーテルが開示されている。米国特許第6,656,156号には、薬物を含有する第1のバルーン被膜と、バルーンが拡張すると裂けて薬物を放出する第1の薬物被膜を被覆する第2の被膜とを有するバルーンカテーテルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】国際公開第WO95/03083A1号パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO99/16500A2号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、管腔部位に物質を送達するための、特に、患者動脈の血栓形成及び班の部位などの患者血管系の病変部位に抗増殖及び抗過形成物質(薬物類)などの活性物質を送達するための方法及び装置を提供する。管腔部位(即ち、動脈の狭窄領域などの標的部位)に活性物質を送達する方法は、スコアリング構造体を体管腔内の適切な位置に置き、このスコアリング構造体を進めて体管腔の壁をスコアリングすることを含む。所望通りに管腔のスコアリング領域(単数又は複数)に狙いを定めることができる薬物送達は、スコアリングエレメントを覆って(スコアリング構造体の全てもしくは一部を覆うエンベロープとして)又はスコアリング構造体の裏側に(スコアリング構造体とバルーンとの間に配置した、他のカテーテル構成部分とは別個の薬物送達膜によって実現される。この薬物送達膜システムは、スコアリングエレメントと連動して機能することにより管腔部位に活性物質(薬物)を送達する。この活性物質はスコアリングの前、スコアリング時又はスコアリング後に管腔壁領域の表面に送達することができる。
【0021】
本発明の本薬物送達膜デバイス及び方法は、多種多様なスコアリングカテーテルの設計とともに機能させることができるが、共有特許出願第10/917,902号にすでに記載されているスコアリングエレメント構造を用いることが特に有用であり、この出願内容は本明細書に参考として援用されている。
【0022】
例示的な血管での使用においては、活性物質は、血管壁の内膜層内又は下の、概して0.001mm乃至1mm、通常0.01mm乃至0.1mmの範囲の深さまでの位置に放出させることができる。動脈部位の治療の場合には、その領域、閉塞物及び/又は壁機構を同時にスコアリングすることにより、血栓又は班内の領域に薬物を送達することができるばかりでなく、さらに、血管周囲の内膜及び内膜下の層中に薬物を送達することもできる。
【0023】
血管の治療の他に、本発明の方法及びシステムは、静脈移植血管及び人工移植血管を含む種々の他の体管腔並びに呼吸器系、泌尿器系、生殖器系、消化器系などの管腔を治療するのに用いることができる。
【0024】
スコアリングを標的薬物送達と組み合わせるメリットはかなりなものである。スコアリング単独の場合、損傷血管領域は、治療剤類が投与されるまでのある期間、血管環境にさらされることになる。こうした薬物類をスコアリングカテーテルを用いて送達すると、任意の損傷又は傷害の直前、その過程又はその直後に損傷血管領域が標的治療剤類の投与を受けることができる。多くの炎症及び凝固過程が、天然組織トロンボプラスチンの遊離などの最初の小さなシグナルが好ましくない場合の多い反応の生化学的カスケードを作動させるカスケード過程であることから、そのような好ましくない生化学的カスケード過程を適正なタイミングで標的治療剤類を用いてほとんど瞬時に防止又は遮断する利点はかなりなものである。
【0025】
同時又はほぼ同時に薬物を送達することのメリットの他に、薬物リザーバとしての別の膜の利用には多くの利点がある。薬物の量を、スコアリングエレメント及び/又はバルーン表面に被覆することができる量よりもはるかに多くすることができる。この膜を、それ自体スコアリングエレメントバルーンを有するか、薬物類で被覆したカテーテルと共に用いることができることによって、各種薬物類を組み合わせて放出させるか、さらに多くの量の薬物類を放出させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1A】本発明の実施態様による、スコアリングエレメントの外側に装着された薬物送達膜の略図である。
【図1B】本発明の実施態様による、スコアリングエレメントの外側に装着された薬物送達膜の略図である。
【図2A】体管腔のスコアリング領域に治療剤類を送達する、スコアリングエレメントの外側に装着された薬物送達膜を示す略図である。
【図2B】体管腔のスコアリング領域に治療剤類を送達する、スコアリングエレメントの外側に装着された薬物送達膜を示す略図である。
【図3A】薬物送達膜がスコアリングエレメントの内側に装着され、任意選択的に細孔があけられ、任意選択的に多数の位置でスコアリングエレメントに取り付けられている本発明の実施態様を示す略図である。
【図3B】薬物送達膜がスコアリングエレメントの内側に装着され、任意選択的に細孔があけられ、任意選択的に多数の位置でスコアリングエレメントに取り付けられている本発明の実施態様を示す略図である。
【図3C】薬物送達膜がスコアリングエレメントの内側に装着され、任意選択的に細孔があけられ、任意選択的に多数の位置でスコアリングエレメントに取り付けられている本発明の実施態様を示す略図である。
【図4A】図3のデバイスがどのようにして班閉塞動脈のスコアリング及びこれへの治療剤類の送達を同時に行うのかを示す略図である。
【図4B】図3のデバイスがどのようにして班閉塞動脈のスコアリング及びこれへの治療剤類の送達を同時に行うのかを示す略図である。
【図5A】薬物送達膜がスコアリングエレメントの外側に装着され、スコアリングエレメントの近傍に位置する細孔があけられ、任意選択的に多数の位置でスコアリングエレメントに取り付けられている本発明の実施態様を示す略図である。
【図5B】薬物送達膜がスコアリングエレメントの外側に装着され、スコアリングエレメントの近傍に位置する細孔があけられ、任意選択的に多数の位置でスコアリングエレメントに取り付けられている本発明の実施態様を示す略図である。
【図5C】薬物送達膜がスコアリングエレメントの外側に装着され、スコアリングエレメントの近傍に位置する細孔があけられ、任意選択的に多数の位置でスコアリングエレメントに取り付けられている本発明の実施態様を示す略図である。
【図6A】薬物送達膜が弾力性のないものであり、スコアリングエレメントの内側に装着されている本発明の実施態様を示す略図である。この場合、治療剤類は、ヒドロゲル状態、ポリマーに埋め込まれた状態又は他のメタ−可溶性状態で薬物送達膜のくぼみ(ポケット)に貯蔵されていて、スコアリングエレメントが班又は他の体管腔壁をスコアリングすると、放出される。
【図6B】薬物送達膜が弾力性のないものであり、スコアリングエレメントの内側に装着されている本発明の実施態様を示す略図である。この場合、治療剤類は、ヒドロゲル状態、ポリマーに埋め込まれた状態又は他のメタ−可溶性状態で薬物送達膜のくぼみ(ポケット)に貯蔵されていて、スコアリングエレメントが班又は他の体管腔壁をスコアリングすると、放出される。
【図6C】薬物送達膜が弾力性のないものであり、スコアリングエレメントの内側に装着されている本発明の実施態様を示す略図である。この場合、治療剤類は、ヒドロゲル状態、ポリマーに埋め込まれた状態又は他のメタ−可溶性状態で薬物送達膜のくぼみ(ポケット)に貯蔵されていて、スコアリングエレメントが班又は他の体管腔壁をスコアリングすると、放出される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の記述では、本発明の種々の態様について説明する。この説明では、本発明を完全に理解できるように、特定の構成及び詳細について記載する。しかしながら、本発明が本明細書に提示した特定の詳細がなくても実施可能であることは当業者には明らかであろう。さらに、本発明を不明瞭にしないように、周知の特徴は省略又は簡略化する場合がある。
【0028】
本発明の実施態様は、狭窄血管の血行再建のためのデバイス、より詳細には、血管拡張エレメント、さらには管腔スコアリングエレメント及び膜薬物送達エレメントを有するカテーテルに関する。
【0029】
本発明は、理想的には班によって閉塞された冠動脈の治療を対象としたものであるが、外傷又は腫瘍又は一部の種類の癌又は他の局所疾患のような他の疾患において静脈移植血管、人工移植血管などの他の体管腔及び呼吸器系、泌尿器系、生殖器系、消化器系などの管腔を治療するのにも用いることができる。
【0030】
この開示内容全体を通じて、本発明の薬物送達膜により送達することができる物質は、一般に、薬物類、活性薬剤類、又は物質類と呼ぶ。実際には、多種多様な化学物質を送達することができるので、「薬物類」などの特定例又は「薬物送達膜」などの用語を使用しても、このことにより本発明により送達することができる物質の範囲が限定されるものではない。ある状況では、血管損傷の程度を視覚化するのを容易にするために、造影剤などの非薬物、非活性薬剤類及び非治療剤類を導入することも有益となる。別の状況では、血管修復の促進を容易にするために、ウイルス、生細胞(例えば、幹細胞)などの生物剤類を導入することが有益な場合もある。
【0031】
投与することのできる薬物類、活性薬剤類及び物質類の種類についてのより広範な説明、並びに薬物送達膜の化学的構成のより広範な説明は本節の最後に行うが、先ず、このデバイスの構造的及び機械的側面について説明する。
【0032】
この血管拡張デバイスは、ポリマー製バルーンのような通常の拡張バルーンを含むことができる。最適な管腔スコアリングエレメントは、線形、うず巻形、らせん形その他の形に配置されたスコアリングブレード、ワイヤ又は構造体を1個以上含むことができる。一部の実施態様では、こうしたスコアリングエレメントはバルーンカテーテル上に装着する。この装置はさらに薬物送達膜システムを含む。薬物類又は活性薬剤類はこの膜に被覆するかこの膜中に取り込ませることができ、或いは、この膜を用いて、血管壁中に放出すべき活性物質の送達を制御することができる。
【0033】
本明細書ではスコアリングバルーンカテーテルを例として用いることが多いが、本膜システム薬物送達発明はスコアリングエレメントを有するバルーンカテーテルに限定されるものではない。本薬物送達膜は、POBA(plain old conventional balloon angioplasty:単純旧式従来型バルーン血管形成)デバイス及び種々の拡張可能エレメントを有する他のカテーテルとともに用いることができる。こうした拡張可能エレメントは、拡張可能バルーンを含むことができるが、拡張可能ポリマー、形状記憶ワイヤ、加熱拡張エレメント、電気的拡張エレメント、化学的拡張エレメント又は機械的拡張エレメントを含む他の展開手段を含むこともできる。
【0034】
本発明の薬物送達膜システムは、体管腔の最初のスコアリング時に適用されることになる場合が多いが、必要に応じてその前又は後に用いることもできる。
【0035】
本発明のスコアリングエレメント(類)は、通常、血管内その他の管腔内カテーテルを用いて適切な位置に置く。このカテーテルにはその遠位端又はその近傍に1個以上のスコアリングエレメントを担持させる。血管の場合、このカテーテルは、通常、従来通りに、例えば冠動脈に到達させるために大腿動脈を通して、又は抹消動脈の場合にはシースを通してガイドワイヤを覆って導入する。
【0036】
スコアリングエレメント(類)は、病変部位及び管腔壁中へとこのスコアリングエレメントを半径方向に進めることによって、(動脈の班狭窄のような)体管腔の標的領域をスコアリングするように進めることができる。前述したように、そのような半径方向の拡張は、通常、カテーテルに担持された膨張可能バルーンなどの拡張可能内部シェルを用いて達成される。或いはまた一方では、この半径方向の拡張は、ニチノールなどの自己拡張型材料又は(ステンレス鋼などの)別の材料による拡張可能幾何形状を用いて達成することができる。簡略にするために、本明細書で説明する例は膨張可能バルーンに焦点を当てるが、この使用は、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0037】
本技術のスコアリングエレメントは、各種の線形ブレード幾何形状を含む、これまでスコアリングデバイスに用いられてきた幾何形状のいずれかを有することができる。しかしながら、場合によっては、こうしたスコアリングエレメントは、本発明の譲受人に譲渡された2003年7月30日付け出願の同時係属特許出願第10/631,499号(代理人整理番号:021770− 000100US)、2004年3月25日付け出願の同第10/810,330号(代理人整理番号:021770−000120US)、2004年8月13日付け出願の同第10/917,917号(代理人整理番号:021770−000130US)に教示されているようならせん幾何形状を有する弾性ボイドエレメントを1個以上含むことになり、これらの完全な開示内容については本明細書に参考として援用されている。
【0038】
本開示内容において用いているスコアリング構造は、通常、スコアリングエレメントとボイドとの両者からなる。ボイド(スペースの無いこと)はスコアリング構造において重要な役割を果たしている。何故なら、ボイドは切削又はスコアリングエレメントに圧を集中させるからである。ボイドがなければ、スコアリング構造の固体エレメントの力が本体表面の内腔全体にわたって均等に分散されることになり、有効なスコアリングが生じないことになる。通常、実際にはスコアリング構造の90%超がボイドからなる。
【0039】
スコアリングエレメントの幾何形状を問わず、的確な標的区域に配置したスコアリングエレメントは、スコアリングエレメント支持シェルを拡張させることによって半径方向に外側へと進める(拡張させる)。多くの場合、これは、少なくとも1個のスコアリングエレメントを担持するバルーンを膨張させることによって行う。このようにして、スコアリングエレメントの外側縁端部(単数又は複数)は、管腔壁及び/又は管腔壁の少なくとも一部を覆う(斑などの)閉塞物その他に結合して侵入する。
【0040】
或いは、前述したように、半径方向の拡張は、ニッケル−チタン合金などの自己拡張型材料又は(ステンレス鋼などの)別の材料による拡張可能幾何形状を用いて達成することができる。また、スコアリングエレメントは、温度制御構造体質(例えば、熱記憶合金)などの他の手段又は直径が拡大する内部スライダーなどの機械的拡張手段によって拡張させることもできる。
【0041】
通常、本発明のスコアリング及び薬物送達膜システムは、カテーテルを用いてその標的区域に送達することになる。本発明のカテーテルは、近位端(カテーテル本体の外側へ伸びることができるオペレータ端部)及び遠位端(カテーテルのノーズ端部)を有するカテーテル本体を含む。通常、スコアリングエレメント又はスコアリングエレメント類はこの遠位端の近傍に配置されることになる。
【0042】
このカテーテルは、通常、圧拡張可能弾性バルーンのような内部拡張可能エレメントを含むことになる。このバルーン自体が膜又は壁を含むことができるが、本発明の薬物送達膜はこの弾性バルーン膜又は壁から離れた別個のものである。
【0043】
この弾性圧拡張可能バルーン膜/壁材とは対照的に、通常バルーン材を囲むことになる薬物送達膜は、それ自体、弾性又は圧拡張可能であってもよいが、通常、必ずしもそうである必要はない。薬物送達膜は薬物類又は活性薬剤類の送達を制御しさえすればよく、本来の圧及び機械的負荷負担機能は、通常拡張バルーン膜/壁又はスコアリングエレメントにゆだねられることになる。この機能分離によって薬物送達膜は本来の機能−薬物類の送達−を果たすことが可能となる。例えば、この膜は、非拡張可能(即ち、弾性率:5GPA超、多くの場合、10GPA超)、半弾性(1GPA乃至5GPA)又は弾性(1GPA未満)であってもよい。
【0044】
所望の構成に応じて、スコアリングエレメント又は諸エレメントを圧拡張可能弾性拡張バルーンと薬物送達膜との間のスペースに装着するか、スコアリングエレメントを薬物送達膜の外側に装着することにより圧拡張可能弾性バルーンと薬物送達膜とを囲むことができる。
【0045】
通常、この薬物送達膜がスコアリングエレメントの働きと連動して機能することによってスコアリングエレメントによりスコアリング又は切削された管腔壁に薬物又は活性薬剤が送達されることになる。この活性物質は、様々な形で薬物送達膜及びスコアリングエレメントの働きにより供給することができる。
【0046】
第1の例として、この活性物質は、薬物送達膜の表面に付着させるか、薬物送達膜のマトリックスに浸透させる。薬物は直接的接触又は拡散によって体管腔のスコアリングされた領域に送達される。
【0047】
この実施態様では、薬物送達膜はスコアリングエレメントの外側に装着することができ、薬物送達膜はスコアリングエレメントの働きによって管腔壁中に押し込まれる。薬物送達膜は、薬物又は活性薬剤類がスコアリングエレメントによりスコアリングされた管腔壁の領域(膜が管腔壁に機械的に押し込まれるので、高用量)及びスコアリングエレメントによりスコアリングされていない管腔壁の領域(ここでは接触圧が少ないことになるので、低用量)の両方に投与されるように働く。
【0048】
薬物は、通常、浸し塗り、吹付け、塗布、プラズマ蒸着、電気めっき、遠心方式などによって、薬物送達膜の露出面の少なくとも一部分を覆うように被覆することができる。或いはまた一方では、活性物質はポリマー膜マトリックス担体に取り込ませることができる。このようなポリマー担体及びマトリックスについては、この開示内容の化学の箇所でより詳細に説明する。
【0049】
「膜マトリックスに浸透させる」という用語は、薬物送達膜の原料である基材(通常、架橋ポリマー)が、分子レベルで(例えば、自然なセットの分子隙間に薬物その他の分子を入れることができる能力を有するという概念を記載するために用いている。そのような自然な分子隙間の例としては、膜マトリックスポリマーを共に連結する架橋鎖間におけるスペースが挙げられる。
【0050】
この浸透性膜マトリックスの概念は、ピンホール又は細孔の導入により浸透性にされた膜という別の概念とは異なる。このようなピンホール及び細孔は、薬物分子がポリマー基本膜構造とからみあうことなくそのまま膜中を流れることを可能にする。
【0051】
薬物類は、通常は拡散過程によって膜マトリックスから溶出することになる。一方、膜の細孔又はピンホールからは薬物類は圧勾配による活発な流れによって放出されると考えられる。
【0052】
別の実施態様では、内側の拡張可能な弾性バルーンエレメントと外側の薬物送達膜との間にスコアリングエレメントを装着することができる。さらに、薬物送達膜は、これがスコアリングエレメント又はその下にある弾性バルーンエレメントに付着する特定の付着点を有することができる。さらに、このスコアリングエレメントは、任意選択的に、薬物送達膜の種々の領域を選択的に貫いて(通り道を作って)細孔を創出する働きをする鋸歯状の縁、突起部、溝又は開口を含むことができる。この構成では、こうした細孔、鋸歯状の縁、突起部、溝又は開口は薬物送達膜と連動することにより、薬物送達膜の内側の薬物がこの膜の中を流れ、管腔のスコアリング領域中に浸透することが可能となる。
【0053】
一部の実施態様では、薬物は、使用時に(弾性バルーンエレメントと薬物送達膜との間の領域などの)薬物送達膜リザーバ中に注入することができ、次いで、このリザーバから細孔、ピンホールその他の機構を介して放出させることができる。この注入薬物はカテーテルの薬物リザーバによりもたらすことができようし、或いはその局所の薬物送達膜薬物リザーバをカテーテル外にある主薬物リザーバに接続している管から供給することができる。
【0054】
或いは、スコアリングエレメントは、この場合も薬物送達膜の外側に装着することができる。この例では、薬物送達膜は、弾力性のないものとすることができ、さらに、スコアリングエレメントの周囲に折り畳まれている薬物を含有する膜のしわもしくはポケットを作り出すように折り畳むことができる。この内部の弾性バルーンが拡張するにつれて、これがスコアリングエレメントと薬物を含有する薬物送達膜のしわ又はポケットとの両方を管腔表面のスコアリングされた領域に押し付けることになる。
【0055】
前述したように、本開示の薬物送達膜と共に用いるスコアリングエレメントは、線形、らせん形その他の幾何形状を含む、概して上記のような任意の通常の幾何形状を有することができる。例示的な実施態様では、スコアリングエレメントは、治療カテーテルにより担持された拡張可能シェルを囲む弾性ケージの少なくとも一部分として形成する。この弾性ケージは、シェルの拡張と共に拡張し、シェルを覆って縮小し、(例えば、このケージを担持するバルーンをしぼませるのを容易にする構造を有する。
【0056】
薬物送達膜は、普通はスコアリングエレメント及びその下にある拡張可能な弾性バルーンエレメントとは別個のものであるが、このデバイスの一部の実施態様では、これらのエレメント間に特定の接続領域を存在させることができる。例として、一部の構成では、薬物送達膜と弾性バルーンエレメントとの間に特定の接続点又は線形の接続リゲインを有することが有益であると考えられる。こうした接続領域は、薬物送達膜の形状を制御するのに役立つことになり、(細孔又はピンホールなどの)薬物送達膜の特定の領域がスコアリングデバイス上の特定の領域と厳密にぴったり合うようにする。これがまた、薬物が所望の位置に送達されるようにするのに役立つことになる。
【0057】
多くの構成では、薬物送達膜は大きな(人為的に誘導された)細孔、穴、ピンホール又は開口を有しない完全な状態の膜であるが、別の場合では、薬物送達膜は、これまでに米国特許第5,213,576号に開示されている膜などの、天然の細孔を有するGore−Tex(登録商標)膜のような材料で作製することができる。
【0058】
しかしながら、さらに別の実施態様では、薬物送達膜に、薬物を流すことができる小さな、意図的に配置した細孔、穴又はスリットを含有させることができる。この場合、「意図的に配置した」とは、そのような細孔、穴又はスリットが(Gore−Tex膜の場合のような)膜微細構造の天然の部分ではなく、製造過程で膜中の明確な位置に意図的に配置されたものであることを意味する。このような細孔、穴及びスリットを総称して「細孔」と呼ぶことにする。これらは、機械的又はレーザーによるせん孔、化学又は光化学エッチング、放射エッチングその他のプロセスを含む各種の手段によって作り出すことができる。
【0059】
そのような意図的に配置した細孔、穴又はスリットが所望される場合には、さらに、スコアリングエレメントによりスコアリングされた管腔の領域に近接した薬物の流れを生じるように、これらの穴及びスリットをスコアリングエレメントと連絡させるように配置することが有利であると考えられる。このプロセスを容易にするために、場合によっては、薬物送達膜をスコアリングデバイス及び/又はその下にある弾性拡張バルーンエレメントの特定領域に接続することによって、下の拡張バルーンがデバイスを拡張させた時に薬物送達用穴又は細孔とスコアリングエレメントとが適切な配列となるようにし、さらに、必要に応じて、体管腔から最終的に抜き取るのを容易にするためにこのデバイスが再度小さくなった形に折り畳まれるようにもすることができる。
【0060】
次に、本発明の実施態様によるスコアリング及び薬物送達カテーテル組合せデバイス(100)の略図である図1A及び図1Bについて説明する。
【0061】
図1Aはスコアリング及び薬物送達カテーテル組合せデバイス(100)の概略を示す。この実施態様では、このスコアリング/薬物送達カテーテルデバイス(100)は拡張バルーン(120)(ここでは膨張していない状態で示されている)を含むが、これは介入心臓専門医又は放射線医によりよく用いられている任意の通常の血管形成術用バルーンとすることができる。この場合、らせん形又はうず巻形のスコアリングユニット(140)を拡張バルーン(120)を覆って装着する(又は付着させる)。バルーン及び(諸)スコアリングエレメントの弾性は、バルーンの拡張が均一となるように選択する必要がある。特に、この組合せ構造が病変部内で拡張する時に「中央よりも末端が大きくなる」不均一な拡張(一般に「ドッグボーン化」と呼ばれる)が起こらないように材料を選択することが重要となる。
【0062】
繰り返して述べるが、材料及び構造の選択が重要である。弾性又は半弾性バルーンが用いられ、スコアリングエレメントの弾性がバルーンの特性に適合するように適正に対応しない場合には、バルーン−スコアリングエレメント系の拡張は均一にならないことになる。この不均一性によってスコアリングカテーテルの有効性が損なわれると考えられ、場合によっては、性能不足に陥ることがある。例えば、所与の圧力の下で、バルーンのある部分は拡張することができる一方で、他の部分はスコアリングエレメントの過度の抵抗により制約されることになる。
【0063】
多くの実施態様におけるスコアリングユニット(140)はニチノールでできており、任意選択的にらせん形構造を有することができる。しかしながら、スコアリングユニット(140)は、ステンレス鋼、コバルト−クロム合金、チタンなどの他の金属でできていてもよい。或いは、スコアリングユニット(140)は、ポリマー材料であってもよく、又は別の弾性材料でできていてもよい。スコアリングユニット(140)は、その近位及び遠位端において拡張バルーン(120)の近位端(170)及び遠位端(180)に接続していてもよい(この場合、同一方向でカテーテルに装着されるものと仮定する)。或いは、スコアリングユニット(140)は、カラー様の接続エレメント(150)及び(160)によって拡張バルーン(120)の遠位端及び/又は近位端に接続することができる。ばねその他の弾性エレメントを接続エレメントの一部として代替的又は追加的に設けることによって、スコアリングユニットが拡張され場合のこのユニットの短縮に適応することができる。
【0064】
この構成では、スコアリングユニット(140)を薬物送達膜(610)(ここではこれをバルーン(120)と明確に区別するためにより膨張させた状態で示されている)によって囲む。薬物送達膜(610)は特に耐荷重性である必要はなく、従って、拡張バルーン(120)の壁を形成する膜(810)よりもしなやかであることになる場合が多い。
【0065】
拡張バルーン(120)は耐荷重性であり、従って通常、外側及び体管腔(図には示されていない)内へスコアリングエレメント(140)を拡張させるのに十分な力をスコアリングユニット(140)に対して発揮することができるのに(拡張時に)十分厚く、十分半剛性である壁(810)を有することになる。しかしながら、薬物送達膜(610)がスコアリングユニット(140)の表面に実質的に適合することができる一方、スコアリングユニット(140)は拡張バルーン(120)からの圧によって拡張を余儀なくされている。
【0066】
図1Bは、薬物送達膜(610)、スコアリングユニット(140)により形成されたスコアリングエレメント(710)及び拡張バルーン(120)の外壁(810)間の境界面の詳細を示したものである。この場合、スコアリングエレメント(710)は単にスコアリングユニット(140)の一部であり、外壁(810)は単に拡張バルーン(120)の一部である。
【0067】
この詳細では、バルーンの外側のスキン、縁端部又は膜(810)からなる拡張バルーン(120)のごく一部が、拡張バルーンの中空(通常、液が満たされている)内部(830)と共に示されている。薬物送達膜(610)と拡張バルーンのスキン(810)とは、通常はすき間(680)によって隔てられることになるが、特定の領域及び特定の構成では、任意選択的に、薬物送達膜(610)を拡張バルーンのスキン(810)に、場合によっては特定の領域(690)でこれら2つの材料を結合させ、接着剤で付け、又は溶接することによって、接続することが有益であると考えられる。こうした結合領域を用いることによって、拡張バルーン(120/810)が拡張し、収縮するときの薬物送達膜(610)、スコアリングエレメント(710)及び拡張バルーンスキン(810)の相対的配置及び位置出しの調整を容易にすることができる。
【0068】
この構成では、薬物送達膜(610)には、通常、使用前に、適切な治療剤を取り込ませることになる。薬物又は治療剤は膜(610)のマトリックス中に埋め込むか、これに浸透させることができ、或いは、薬物又は治療剤は膜(610)の表面に被覆することができる。
【0069】
カテーテルデバイス(100)は適切な体管腔中に挿入することになる。これが所望の(標的)位置に置かれた時点で、通常、液(850)を拡張バルーン(120/810)の内部(830)中にポンプで注入することになる。この液は拡張バルーン(120/810)を拡張させ、その結果、拡張バルーンのスキン(810)がスコアリングユニット(140)のスコアリングエレメント(710)に押し付けられる。この圧によってスコアリングユニット(140)が拡張し、スコアリングエレメント(710)が薬物送達膜(610)の内面に押し付けられる。この構成では、この圧は薬物送達膜(610)を変形させてスコアリングエレメントに密着させ、その結果、膜で覆われたスコアリングエレメント(650)が形成される。このため、スコアリングエレメント(710)は、治療剤類を含有する材料の層(610)で効果的に被覆される。薬物送達膜(610)が適当に薄く、可撓性で強いものであるように選ばれたと仮定すると、スコアリングエレメント(710)は、薬物送達膜(610)で覆われていても体管腔をスコアリングする能力を保持することになる。
【0070】
次に、図2Aについて説明する。カテーテルデバイス(図1(100))は、使用に当たっては、例えば通常のカテーテル法を用いて、血管系中に血管(200)の内腔の狭窄物(220)(例えば、班)の部位まで挿入する。(「狭窄」という用語は、本明細書では、血管病変、例えば、バルーンが広げることになっている血管の狭くなった部分という意味で用いている。)
狭窄部位(220)では、拡張バルーン(120)、(810)/(830)は、例えばバルーンへ液体(850)を流入させることによって、拡張する。スコアリングユニット(図1(140))に装着されたスコアリングエレメント(710)はこの膨張した拡張バルーンからの圧によって拡大する。こうしたスコアリングエレメントは薬物送達膜(610)に対して密着する。拡張バルーン120は、膨張すると、スコアリングユニット(140)、(710)及び薬物送達膜(610)と共に血管壁に押し付けられる。
【0071】
図2Bに示したように、拡張バルーンのスキン(810)からの圧はスコアリングエレメント(710)及び薬物送達膜(610)を共に狭窄物(班)(220)中に押し込み、その結果、狭窄物(220)が圧縮され、かつスコアリング(230)される。(薬物類などの)治療剤類(620)は、直接的な接触又は薬物送達膜(610)からの拡散(小さな矢印を参照)によって狭窄部位(220)のスコアリング領域(230)に流入する。一部の薬物は内腔の非スコアリング領域にも流れる。
【0072】
この拡張及びスコアリング段階の後、通常、拡張バルーン(図1(120)、(810)/(830))は、このバルーン(120)、(810)/(830)から液(860)を除去することによって収縮することになる。スコアリングユニット(図1(140)に装着されたスコアリングエレメント(710)及び薬物送達膜(610)は収縮時に縮むか狭まる。
【0073】
従って、拡張デバイス(図1(100))は細くなり、血管から容易に取り出すことができる。縮小されるデバイス(図1(100))の縮小プロフィルは薄型で主として円形である。血管内の狭窄物図2(220)は、理想的には血管壁図2(220)に押し付けられた状態が継続することにより、利用可能な内腔が拡大され、血流が向上する。
【0074】
他の実施態様では、本発明のスコアリング構造(140)/(710)は非らせん形の構造を有することができる。膨張時のバルーン(図1(120))の直径の増大に適応し、バルーンが収縮するとその形状に戻ることができるスコアリング構造のデザインは全て本発明に有用であると考えられる適切なデザインとなる可能性がある。多くの実施態様では、スコアリングエレメントの少なくとも一部分がバルーンカテーテルの長手方向軸と平行ではないことにより可撓性が向上し、スコアリングが改善されることになる。
【0075】
再び図1Aについて説明する。ここで留意すべきは、一部の実施態様では、スコアリングユニット(140)がバルーン(120)の膨張によって外側に押され、バルーンの拡張によって引き伸ばされることである。従って、バルーンが縮小すると、スコアリングユニット(140)は弾性反跳によりその収縮をサポートすることもできる。このアクティブな収縮はより速く、収縮バルーンの薄型プロフィルをもたらす。スコアリングユニット(140)内に配置されたバルーン(120)はその膨張前の形状に戻り、バルーンは半径方向に薄型のプロフィルを取らざるを得なくなる。一般に、薬物送達膜(610)は、この膨張及び収縮の過程を妨げない材料で構成されることになる。
【0076】
本発明の別の実施態様では、カテーテル又は拡張デバイス(100)はステントを担持することができる。このステントはスコアリングユニット(140)を覆って波形にすることができる。このようにして、スコアリングユニット(140)はステントを病変部の硬い領域に押し付けることができ、その結果、予め拡張することのない硬く石灰化した病変部においてさえ、血管に対するステントの正しい位置出しが可能となる。
【0077】
一部の実施態様では、スコアリングユニット(140)は、近位端及び遠位端の、それぞれカラー(150)及び(160)に取り付けられた3本のワイヤを含むらせん形構造を有することができる。或いは、スコアリング構造は穴のある管でできている金属ケージもしくはポリマーケージ又はポリマー外部エレメントとして形成することができる。或いは、スコアリング構造は、直接拡張バルーン材に又はバルーン端に近接して取り付けられた他のエレメントのワイヤを含むことができる。
【0078】
スコアリングユニットがニチノール製ワイヤでできている場合、このニチノール製ワイヤの直径は通常0.05mm乃至0.5mmの範囲にある。或いは、ケージ(例えば、穴のある管でできている金属ケージ)は、局部の応力集中を可能にするいくつかの形状で用いることができる。こうしたケージエレメントの断面又はこうしたワイヤの断面の大きさ及び形状は変えることができる。この断面は円形、長方形、三角形、又はその他の形状であってもよい。
【0079】
別の実施態様では、ニチノール製ワイヤは、拡張バルーン(120)に取り付けた短いセグメントを含むことができる。
【0080】
一部の実施態様では、薬物送達膜(610)は、治療剤類を吸収することができ、ニチノール製ワイヤの周囲でスコアリングエレメント(140)を変形させることができ、拡張バルーン(120)及びらせん形ユニット(140)の膨張及び収縮に対する大きな抵抗性を付与しないほどしなやかであるものとして選ばれる薄くて強い膜材料で構成される。薬物送達膜(610)は、ナイロン系材料(ポリアミド)、Pebax又はPETとすることができる。この薬物送達膜は、拡張バルーン材と同様の非拡張可能材、半弾性材又はエラストマー弾性材とすることができる。
【0081】
膜材料は、とりわけ、Pebax、ポリウレタン、ゴム、ポリスルホン、ナイロン11、ナイロン12、エチレン−酢酸ビニルコポリマー類、エチレン−アクリレートエステルコポリマー類、ビニルピロリドン−酢酸ビニル、スチレンアクリルポリマー、エチレンアクリル酸コポリマー、カルボキシル官能アクリルポリマー、ヒドロキシル官能アクリルポリマー、及びアクリル分散ポリマーなどのポリマーマトリックスを含むことができる。場合によっては、密着結合被膜(即ち、エポキシ、アセタール、アクリル、エチレンコポリマー、又はその他の適切なグループ)を用いることが望ましい。被膜は、ポリ(グリコールメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸スルファナトエチル)、ポリ(エチレン−コ−酢酸ビニル)、ポリ(アクリル酸エチル)、ポリ(ウレタン−アクリレート)、ポリ(アクリルアミド−コ−メタクリル酸エチル)、ポリ(ジビニルベンゼン)、ポリ(トリエチレングリコール−コ−ジビニルエーテル)、ポリ(トリメチロールプロパントリアクリレート)、ポリ(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、ポリ(ビスフェノールAエトキシレートジアクリレート)、ポリ(アリルエーテル)、ポリ(マレイン酸ジアリル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(イソシアヌル酸トリアリル)、ポリ(ビニルアルコール)、エチレンビニルアルコールコポリマーなどを含むこともできる。薬物は、酸化物層又は多孔酸化物層を用いて薬物送達膜の表面に担持させることもできる。或いは、薬物送達膜を、ポリマーを用いずに薬物で、又は任意の種類のマトリックスを担持させることによってコーティングすることができる。
【0082】
スコアリングエレメントを覆って配置した薬物送達膜を用いることの利点は、スコアリングエレメント単独で送達できるよりも多くの薬物類をスコアリングした表面領域及びその隣接組織に送達することができることである。薬物送達膜のポリマー材はスコアリングエレメントのニチノール表面よりもより多くの薬物を搭載し、移行させることができる。別の利点は、ポリマー材がスコアリングエレメントの切削力を分散させると考えられることである。このことによって組織の切断/傷害/損傷が少なくなる。何故なら、覆われていないニチノールスコアリングエレメント接触表面の接触面積に比し、より大きな面積にわたってスコアリング力を分散させることになるからである。
【0083】
標的動脈に対して適正な大きさのデバイスが膨張すると、血流が遮断され、デバイスの呼び膨張圧、即ち、より高い膨張圧が膜を動脈壁の方へ押し、これによって薬物被覆膜が接触している動脈壁組織へ薬物が移行する。収縮すると、薬物送達膜は、下のバルーンと同様に、再度折り畳まれる。
【0084】
薬物送達膜が十分に弾力性のある材料でできている場合、膨張液が内部の拡張バルーンから排出されるとき、この薬物送達膜のエラストマー特性はこのバルーンが再度折り畳まれるのを容易することにより、くぼみのない外部薬物送達バルーン(くぼみゼロバルーン)として機能する。薬物送達膜が十分に弾力性ではないならば、薬物送達バルーンが拡張バルーン又はスコアリング構造に複数の異なる点で接続(接着剤で接着、溶接)されている(例えば、種々の位置でスポット溶接されている)場合、下にある拡張バルーンが収縮すると、この膜はなお、適正に再度折り畳まれるように誘導することができる(図1B(690)参照)。この場合、薬物送達膜は、拡張バルーンが収縮するときにこれがしわの寄った外観を呈すると考えられることから、多重折り畳みバルーン(multiple−fold balloon)として機能することができる。
【0085】
この構成では、組織のスコアリングされた領域に直接送達する他に、薬物送達膜は、スコアリングエレメントが直接には接触しなかった周囲の組織領域に薬物を送達することもできる。こうした周囲の組織により吸収された薬物はスコアリングされた組織に再狭窄が生じるのを防止するのにも有用であると考えられる。
【0086】
図3A、図3B及び図3Cに、薬物送達膜(610)が拡張バルーン(120)の上部であるがスコアリング構造(140)の下に配置される別の構成を示した。この種の構成では、大容量の治療剤類を管腔のスコアリング領域に正確に送達することができる。これを行うためには、薬物送達膜(610)に多数の細孔(660)をあける。これらの細孔の分布は、デバイスの製造プロセスによって決定することができる。一実施態様では、これらの細孔はスコアリングエレメント(140)の近傍に選択的に分布させることができる。
【0087】
この構成が所望される場合は、薬物送達膜及び細孔(660)が、薬物送達膜をスコアリングエレメントに複数の接触点(670)で溶接するか貼り付けることにより、スコアリングエレメントに対して適正な方向を維持するようにすることも有益であると考えられる。このように、細孔は、バルーン(120)の膨張及び収縮の全体を通じてスコアリングプロセスに対するその方向を維持することになる。
【0088】
この実施態様では、カテーテルの近位端(170)は、液(850)を加えたり抜いたりすることで拡張バルーン(120)を膨張及び縮小させるための第1の管、さらに、薬物送達膜(610)と拡張バルーンのスキン(810)との間のすき間(680)又は他の薬物送達膜薬物リザーバに治療剤類を投与するための第2の管を含むことができる。
【0089】
図3Bに図3Aで示した構造の外表面の拡大図を示した。この構成では、薬物送達膜(610)は、各種スコアリングエレメント(710)の近傍に位置する複数の小さな細孔(660)を有することができる。前述のように、拡張バルーン(120)/(810)が膨張及び収縮する時に薬物送達膜(610)とスコアリングエレメント(710)との間で良好な寸法関係を維持させるために、この実施態様では、薬物送達膜(610)は複数の接続点(670)でスコアリングエレメント(710)に断続的に接続させて示した。
【0090】
図3Cに拡張液及び薬物類の流れに焦点を合わせて、この実施態様がどのように作動するかについての詳細を示した。この実施態様では、管腔をスコアリングした後、そのスコアリングした領域に薬物を適用するプロセスは多段階プロセスである。
【0091】
図3Cに示した工程の前に行うプロセスでは、拡張バルーンの液は拡張バルーン(120)、(810)、(830)に適用され、バルーンの圧によってスコアリングエレメント(710)/(140)は体管腔を押して拡張し、班をスコアリングした。このプロセスは先に図2Aで示した。
【0092】
図3Cには、班がスコアリングされた後に、液状の薬物又は治療薬剤(600)をほぼ同時に加えながら、拡張バルーンの液を放出(860)させることにより拡張バルーン内の圧を軽度に緩和することができることを示した。タイミングが適正であれば、治療剤(600)は細孔(660)から流出し、理想的には、体管腔のスコアリングした領域(例えば、班)(図2B(230))に直接高用量の治療剤を送達することになる。薬物(600)は、必要ならば本体の外側にあるリザーバから適用することができるので、その状況に適切と思われるのと同量の薬物を適用することができる。
【0093】
図4A及び図4Bに本発明の別の実施態様を示した。この別の実施態様では、薬物送達膜(610)は材料として薄くて弾力性があり、しなやかなものを選ぶことにより、注入された治療剤(600)によりもたらされる小さな圧でも薬物送達膜を拡張させるのに十分であるようにした。しかしながら、薬物送達膜(610)は、それでもなお耐荷重性ではないので、膜(610)はスコアリングエレメント(710)/(140)を拡張させるのに十分な力を発揮しない。むしろ、薬物送達膜(610)はスコアリングエレメント(710)間において拡張する(図4B)。
【0094】
従って、薬物送達膜(610)により発揮される弱い圧では拡張しないスコアリングエレメント(710)/(140)は、拡張バルーン(120)/(810)によって発揮される大きな圧によってのみ拡張する。この実施態様では、薬物送達膜(610)は、ここで再びスコアリングエレメント(710)近傍に配置して示した複数の細孔(660)を穿孔させることもできる。
【0095】
図4Aに示した例では、オペレータがカテーテルを動脈中班閉塞部位まで挿入し、目下、拡張/膨張バルーン(120)(810)、(830)中に液(850)を注入することで動脈壁(200)の班標的(220)を押して拡張バルーン(120)/(810)を拡張させているところである。薬物(600)はまだ注入されていない。従って、薬物送達膜(610)は拡張する拡張バルーン壁(810)の上で、スコアリングエレメント(710)の下にある。拡張バルーン壁(810)の力によってスコアリングエレメント(710)が班(220)に当たってその中へ押し上げられる。
【0096】
図4Bは、スコアリングエレメント(710)が班(220)をスコアリングしてスコアリング領域(230)を作り出しており、目下、オペレータが、このスコアリングプロセスの直後で、カテーテルを本体から抜き取る前に、このスコアリングした領域を薬物又はその他の治療剤(600)で治療しようとしているところである。
【0097】
これを行うために、液状の治療剤(600)の注入を拡張バルーン液(860)の一部放出により調節する。拡張バルーン液(860)の除去とほぼ同じ速度で治療剤(600)が注入される場合、膨張カテーテルヘッド薬物送達膜(810)の全外容積は概ね変わらないままである。しかしながら、内部拡張バルーン(120)、(810)、(830)及びスコアリングエレメント(810)は収縮する。この容積は薄くてしなやかな薬物送達膜(610)の拡張によって取って代わられ、このとき、この膜はスコアリングエレメント(710)間において拡張し、その減少した容積にある程度取って代わる。このとき、薬物送達膜(610)はスコアリングされた領域(230)の一方の面で班(220)と接触する。この薬物送達膜(610)は、このスコアリング領域への外部液の侵入に対する部分的なバリアを形成する働きをし、この同じ部分的バリアが、注入された治療剤(600)をスコアリング領域(230)に局在化された状態に維持する働きをする。
【0098】
図4Bは作動中のこのプロセスを示したものである。拡張バルーン膜(810)によってもはや支持されていないスコアリングエレメント(710)は、班のスコアリング領域(230)からある程度引っ込み、スコアリング領域が露出される。こうしたスコアリング領域(230)に薬物送達膜の細孔(660)から治療剤(600)が導入される。最終的には、治療剤(600)がスコアリング領域(230)に高度に局在化され、その他の方法で可能であるかもしれない濃度よりもはるかに高い濃度で送達されるという結果になる。
【0099】
図5A、図5B及び図5Cに図1乃至図2及び図3乃至4の概念を組み合わせた本発明の別の実施態様を示した。この構成では、薬物送達膜(610)は多数の細孔(660)が通り抜けており、拡張バルーン(120)及びスコアリングエレメント(140)の両方の外側に装着されている。この構成の概略を図5Aに示し、この実施態様の細孔構成の拡大図を図5Bに示した。
【0100】
図5Bに示したように、薬物送達膜(610)は、この場合も複数の細孔(660)が通り抜けており、こうした細孔は、この場合も、所望であれば任意選択的にスコアリングエレメント(140/710)の分布に一致するように作製することができる。前述同様に、細孔(660)とスコアリングエレメント(140)/(710)との配置は、薬物送達膜(610)とスコアリングエレメント(140/710)との間の複数の溶接部又はスポット接着領域(670)で維持させることができる。
【0101】
この実施態様の動作を図5Cに示した。包括的概念は、図2Bでは薬物送達膜(610)をスコアリングエレメントによりスコアリング班領域に押し込み、薬物を直接的接触又は拡散のようなより受動的なプロセスによって膜(610)から放出させたこと以外は、先に図2Bに示したのと同様である。対照的に、図5Cには、薬物送達膜(610)が小さな細孔(660)を有し、薬物(600)がポンプで細孔から能動的に排出させ、スコアリング領域に送り込むより能動的なプロセスを示した(図2B(230))。
【0102】
5Cに示したように、拡張バルーンの壁(810)を先ず液(850)で膨張させることによって、スコアリングエレメント(710)を班(図には示されていない)に押し込み、班のスコアリング領域を作り出す(図には示されていない。同様な構成を示す図2Bを参照されたい)。このスコアリングプロセスの後、拡張バルーンから一部のバルーン液を放出(860)させる。ほぼ同時に、液状の薬物又は治療剤(600)を薬物送達膜(610)と拡張バルーン(810)との間のスペースにポンプで送り込むことができる。この薬物(600)は、先に図5Bに示したようにスコアリングエレメント(710)の近傍に配置することができる細孔(660)によって薬物送達膜(610)から放出させることができる。この場合もこの実施態様は班のスコアリング領域又はその近傍に薬物(600)を送達する。
【0103】
図6A、図6B及び図6Cに、薬物送達膜(610)の裂け目(655)に薬物を半乾燥、ポリマー混合又はヒドロゲル状態で貯蔵する本発明の別の実施態様を示した。こうした裂け目は、薬物送達膜(610)が各種スコアリングエレメント(140/710)の周囲でくるまり、しわが寄り、又は変形するときに形成される。この実施態様の概略を図6Aに示した。
【0104】
図6B及び図6Cにこの実施態様の詳細を示した。この実施態様では、通常、薬物送達膜(610)は弾力性がない。薬物送達膜は一応スコアリングケージ又はエレメント(140/710)の内側に装着されるが、これは通常、拡張バルーン(120/810)が液(850)により拡張させられた場合に拡張バルーン(120/810)と共に拡大するのに十分な余分の表面積を折り畳まれた形態で有する多重折り畳み膜であることになる。
【0105】
この場合、薬物送達膜(610)は、拡張バルーン(120/810)が収縮状態にある時に、スコアリングエレメント(140/710)が適当な薬物又は治療剤(601)と共に薬物送達膜のくぼみ(655)に貯蔵されるように構成される。この場合通常は、固体、半固体、ポリマー送達系又はヒドロゲル状態などの部分的に固定化された状態で貯蔵される。
【0106】
図6Cに示したように、スコアリングエレメント(710)が拡張バルーンの液(850)及び拡張バルーン壁(810)からの力によって拡張すると、膜のくぼみ(655)に担持された治療剤(601)は、スコアリングエレメント(710)が班をスコアリングすると同時に、班のスコアリング領域(図2B(230)参照)に投与される。
【0107】
本発明の方法及びシステムは、特に、疎水性及び脂溶性である薬物を送達するのに有用である。こうした薬物は、正確に分布させるのが難しい場合が多い。何故なら、水性媒体に溶解させるのが困難であり、他の脂質含有体成分などの非標的部位に他着しやすくもあるからである。しかしながら、本発明のデバイス及び方法を用いて標的に正確に送達した場合、一部の薬物(例えば、パクリタキセル及びシルリムス)の疎水性及びこうした薬物が脂溶性(即ち、細胞膜及びリポソームに高親和性)であるという事実はその薬物を標的領域により長時間保持するのを容易にする。これにより、標的部位に送達される薬物の送達時及び送達後の血中への溶解によるロスが最小限に抑えられる。
【0108】
具体的な例では、先ず、薬物送達膜の露出表面の少なくとも一部分に吸収性又は非吸収性ポリマーマトリックスを貼り付け、その後、この薬物送達膜ポリマー担体マトリックスの多孔性構造中に薬物を吸収させることができる。
【0109】
薬物の送達に用いられるスコアリングカテーテル関連膜システム中のポリマーマトリックスは、薬物溶出ステント用に薬物の送達に用いられるポリマーマトリックスとは異なる性質を有する場合が多いと考えられる。薬物溶出ステントは数日又は数週間の期間にわたって薬物を放出するように設計されているが、本発明の薬物送達膜は、多くの場合、数秒間乃至数分間といった極めて短い時間にわたって薬物を放出するように設計される。従って、薬物溶出ステントとは対照的に、本膜送達システムはすみやかに溶解するポリマー及び急速薬物放出ポリマーの両方を利用することができる。
【0110】
好適なポリマー担体は、ポリ乳酸類(PLA)、ポリグリコール酸類(PLG)、コラーゲン類などを含む吸収性の担体とすることができる。或いは、ポリマー担体は、多孔性シリコン又はポリエチレンのような多孔性であるが非吸収性の材料とすることができる。Poly Ethylene Oxide(PEO)などのヒドロゲルを用いることができ、これは薬物を膨潤及びエロージョン(erosion)によって放出することができる。ポリヒドロキシアルカノエートを初めとする分解性ポリマーも用いることができる。このポリマーはスコアリングエレメントの諸支柱を被覆することができ、或いは、こうしたスコアリングエレメントの諸支柱の少なくとも一部の間又は上記の任意の組合せ間にフィルムを創出することができる。
【0111】
場合によっては、拡張した構造を示すときにより迅速に薬物を浸透、溶出させるが、拡張の少ない構造を示すときにそのような薬物が浸透、溶出するのを妨げる材料から薬物送達膜のポリマー及び構造体を選ぶことが有利なことがある。この場合、このようにしてそうした薬物溶出膜は、カテーテルが標的区域に導入されつつあり、下のバルーンが収縮している間、薬物を保持し続けやすいが、それにもかかわらず正確な標的区域で薬物を速やかに放出しやすいので、こうした性質はとくに有益である。これは、正確な標的区域では、オペレータが下のバルーンを拡張させ、次にこのバルーンが薬物送達膜をより大きな直径へと拡大させることになるためである。薬物送達膜中の薬物担持材料の構造も拡張することになるので、より速やかに薬物が放出されることになる。
【0112】
この膜システムは、多くの各種管腔の疾患及び症状の治療に有用な薬物を含む極めて多種多様な活性物質を送達することができる。本発明により送達することができる多くの薬物、治療剤、医薬品及び活性物質の一部を以下に記載した:
(1)ビンカアルカロイド類(即ち、ビンブラスチン、ビンクリスチン及びビノレルビン)、パクリタキセル、エピジポドフィロトキシン類(即ち、エトポシド、テニポシド)、抗生物質(ダクチノマイシン、アクチノマイシンD、ダウノルビシン、ドキソルビシン及びイダルビシン)、アントラサイクリン類、ミトキサントロン、ブレオマイシン類、プリカマイシン(ミトラマイシン及びマイトマイシンなどの天然物、酵素(L−アスパラギンを全身性に代謝し、自らのアスパラギンを合成する能力を有しない細胞を取り除くL−アスパラギナーゼ)などの抗増殖剤及び有糸分裂阻害剤;
(2)G(GP)II.b/III.a阻害剤などの抗血小板剤及びビトロネクチン受容体アンタゴニスト類
(3)ナイトロジェンマスタード類(メクロレタミン、シクロホスファミドとそのアナログ類、メルファラン、クロラムブシル)、エチレンイミン類、メチルメラミン類(ヘキサメチルメラミン及びチオテパ)、スルホン酸アルキル−ブスルファン類、ニトロソウレア類(カルムスチン(BCNU)とそのアナログ類、ストレプトゾシン)、トラゼン−ダカルバジニン(DTIC)などのアルキル化剤;
(4)葉酸アナログ類(メトトレキサート)、ピリミジンアナログ類(フルオロウラシル、フロクシウリジン及びシタラビン)、プリンアナログ類並びに関連阻害剤(メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチン及び2−クロロデオキシアデノシン(クラドリビン))などの抗増殖剤及び抗有糸分裂代謝拮抗剤;
(5)シスプラチン、カルボプラチン、プロカルバジン、ヒドロキシウレア、ミトタン、アミノグルテチミドなどの白金配位錯体類;
(6)ホルモン類(例えば、エストロゲン);
(7)抗凝固剤(ヘパリン、合成ヘパリン塩及び他のトロンビン阻害剤);
(8)(組織プラスミノゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ、及びウロキナーゼなどの)フィブリン溶解剤、アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキマブ;
(9)抗移動剤(antimigratory agents);
(10)抗分泌剤(ブレベルジン)
(11)副腎皮質ステロイド(コルチゾール、コルチゾン、フルドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、6.アルファ−メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、及びデキサメタゾン)、非ステロイド剤(サリチル酸誘導体、即ち、アスピリン;パラアミノフェノール誘導体、即ち、アセトアミノフェンなどの抗炎症剤;
(12)インドール及びインデン酢酸類(インドメタシン、スリンダク及びエトドラク)、ヘテロアリール酢酸類(トルメチン、ジクロフェナク及びケトロラク)、アリールプロピオン酸類(イブプロフェンとその誘導体)、アントラニル酸類(メフェナム酸及びメクロフェナム酸)、エノール酸類(ピロキシカム、テノキシカム、フェニルブタゾン及びオキシフェンタトラゾン)、ナブメトン、金化合物(オーラノフィン、金チオグルコース、金チオリンゴ酸ナトリウム);
(13)シクロスポリン、タクロリムス(FK−506)、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、ミコフェノール酸、モフェチルなどの免疫抑制剤;
(14)血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)などの血管形成剤;
(15)アンジオテンシン受容体遮断剤;
(16)酸化窒素供与体類;
(17)アンチセンスオリゴヌクレオチド類及びその組合せ;
(18)細胞周期阻害剤、mTOR阻害剤及び成長因子受容体シグナル伝達キナーゼ阻害剤;
(19)レテノイド類;
(20)サイクリン/CDK阻害剤;
(21)HMG補酵素還元酵素阻害剤(スタチン類);並びに
(22)プロテアーゼ阻害剤。
【0113】
さらに、ウイルス遺伝子ベクター、アンチセンス剤などの核酸試薬を用いることができ、或いは、インビボ改変幹細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、衛星細胞、周皮細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、マクロファージなどの生細胞を用いることができる。
【0114】
別の実施態様では、再狭窄に関与する標的(例えば、平滑筋、凝固、組織因子又は血小板)に結合するように設計された抗体、特に、モノクロナール抗体、を用いることもできる。
【0115】
治療剤の他に、管腔の状態を視覚化するのを容易にするために、X線不透過性造影剤、磁気共鳴イメージング(MRI:magnetic resonance imaging)色素(造影剤)、又は超音波造影剤などの診断剤を用いることができる。或いは、発色性色素、蛍光色素又は発光染料(造影剤)を用いることもできる。
【0116】
このデバイスを製造する方法には種々ある。1つの方法は、薬物送達膜を複数の薬物スコアリングエレメントを覆って巻くか包んだ後、この膜をこれらの薬物スコアリングエレメントに結合させることである。或いは、薬物送達膜は弾性バルーン様材料で作ることができ(この場合、Pellethane又はその他の熱可塑性エラストマーを用いることができる)、次いで、この弾性薬物送達膜を近位又は遠位カテーテル端に、拡張バルーンが結合されている位置又はその近傍で結合させることができる。
【0117】
或いは、薬物送達膜は、ちょうどバルーンを製造する場合のように、空気又は真空吹き込み法により押し出し材から形成させることができる。この場合、吹き込まれる管の遠位及び近位端に接続タブを取り付けることになる。通常、こうした膜の肉厚は厚さ約0.0005”乃至0.0020”となる。
【0118】
ただし、このバルーン吹き込み法は、薬物送達膜に肉眼で見えるような細孔を普通はもたらさないことに留意されたい。従って、(以下に示す例で述べるように)薬物送達のためにそのような細孔が所望される場合には、後の製造工程においてレーザー打抜き、光化学エッチング又は何らかの他の穿孔方法によってこうした細孔を作り出すことができる。
【0119】
その後、このバルーン形薬物送達膜はスコアリングエレメント構造体の上部に装着し、任意選択的に、スコアリングエレメント及びカテーテルの特定の領域乃至部分で接続することができる。一部の実施態様では、次に、この薬物送達膜を薬物又は薬物とポリマーを組み合わせたもので被覆することができる。
【0120】
薬物送達膜上に薬物を搭載する方法には種々ある。1つの方法としては、下にあるバルーンを拡張させ、薬物又は薬物ポリマーを吹き付け被覆その他の方法で薬物送達膜に適用し、任意選択的に薬物又は薬物−ポリマー混合物の揮発性部分を乾燥させ、その後、下のバルーンを縮小させる。吹き付け被覆の他に、薬物その他の活性物質は、浸せき、塗装、蒸着、スピンコーティングなどの他の従来の技術により薬物送達膜の片面又は両面の領域に適用することができる。
【0121】
活性物質は、基本的に純粋な状態、即ち、担体、希釈剤、佐剤、調節剤、賦活剤などを含まない状態で適用することができる。しかしながら、一般には、活性物質は、所望の時間にわたって、又は体管腔への薬物送達膜の接触時に直ちに薬物の放出を促進又は制御することができる適切な担体、マトリックスその他の化学構造体と共に、又はこれらに混合して適用することになる。例えば、活性物質(類)は、ポリマーナノ粒子又はポリマー微小粒子のような生分解性又は生体吸収性マトリックス中に含ませることができる。
【0122】
本発明の他の実施態様では、スコアリングユニット(140)は、拡張バルーン(120)に一端又は両端を接着剤で接着、熱的に結合、融合又は機械的に付着させることができる。或いは、薬物送達膜(610)は、らせん形ユニット(スコアリングエレメント)又は拡張バルーンに複数の位置で接着剤により接着、熱的に結合、融合又は機械的に付着させることができる。
【0123】
多くの代替スコアリングエレメントを用いることができる。このスコアリング構造は、らせん形その他の形状で拡張バルーンに取り付けるワイヤを含むことができる。こうしたワイヤは、拡張バルーンに熱的に結合させるか、接着剤で接着、機械的に付着するなどして取り付ける。また、スコアリング構造は、このスコアリング構造と拡張バルーンとを組み合わせても可撓性が維持されるように拡張バルーンの長手方向軸に平行ではないワイヤ又はケージエレメントを含むこともできる。
【0124】
こうしたスコアリング構造はバルーン又は他のシェルに直接取り付けることができ、場合によってはバルーン材中に埋め込むことができるが、より普通には、バルーンを覆って配置し、バルーンの両側の取り付けエレメントを介してカテーテルに取り付ける別のケージ構造として形成することになる。
【0125】
こうした拡張可能ケージは、ステントを作るのに用いられる技術などやハイポチューブその他の管構造のレーザー切断、ハイポチューブ及び管のEDM成型、ワイヤ及びその他の部品の溶接などの通常の医療機器製造技術を用いて形成することができる。
【0126】
通常、このような拡張可能シェル構造体は取り付けエレメント及び取り付けエレメント間の中間スコアリング部を含むことになる。上記の実施態様で示したように、こうした取り付けエレメントは、バルーン又はその他の拡張可能シェルの両面上のカテーテル本体を囲む単純な円筒状又は管状の構造体とすることができる。この単純な管状の構造体は、カテーテル本体を覆って浮かせる(即ち、結合させない)ことができ、又はカテーテル本体に固定することができる。取り付けエレメントに関する別のいくつかの実施態様については以下の実施態様に関連して説明する。
【0127】
中間スコアリング部は、複数のスコアリングエレメントの少なくとも一部が通常、非軸構造で、即ち、拡張可能ケージの軸方向に平行でない方向に配置されることになる種々の構造を有することもできる。中間スコアリング部の好ましい構造は、おおむね先の実施態様に示したように、1個以上のらせん形エレメントを含む。他の例示的な構造については下記の実施態様において記載する。
【0128】
一般に、らせん型のスコアリングエレメント(140)などの拡張可能ケージ構造は、拡張バルーンの両側でカテーテル本体に固定された取り付けエレメントを有する拡張バルーン(120)を覆って装着されることになる。管状又は円筒状の取り付けエレメント(150)(160)は、カテーテル本体を覆って単純に浮かせることができる。しかしながら、他の実施態様では、カテーテル本体に取り付けエレメントの一方又は両方を取り付けるための接着剤その他の手段を用いることが望ましいと考えられる。しかしながら、少なくとも一方の取り付けエレメントを浮かせることが望ましい場合が多い。何故なら、これは、中間スコアリング部が半径方向に拡張する時にこの部の短縮に適応することができるからである。しかしながら、別の場合では、個々のスコアリングエレメントはそのような短縮に適応するのに十分な弾性を有することができる。例えば、ニチノール及びその他の形状記憶合金は、通常、場合によってはバルーンの半径方向の拡張によって中間スコアリング部に加わるいかなる張力にも適応するのに十分である8%程度の大きな伸縮性を有する。
【0129】
このシステムの弾性は、スコアリング構造体、バルーン又は薬物送達膜の材料、肉厚又は長さのいずれか1つ又は組合せたものを変更することにより調整することができる。このデバイスを送達するのに用いるカテーテルチューブは、Nylon、Pebax又はPETのような弾性ポリマーなどの任意のエラストマーを含むことができる。通常、カテーテルチューブは押出チューブから形成されるが、ポリマーもしくは金属の繊維又は金網を含むこともできる。ニチノール又はステンレス鋼のような高度形状記憶合金を用いることもできる。
【0130】
一部の実施態様では、スコアリング構造体(140)、拡張バルーン(120)及び、任意選択的に薬物送達膜(610)の弾性は、半径方向に拡張可能なシェルの拡張又は収縮時にマニピュレータを作動させることにより制御する。一態様では、取り付け構造体は、拡張バルーンが膨張又は収縮しつつある時に、カテーテル本体に対して軸方向に進めることができる。例えば、拡張バルーンが拡張されつつある間に、取り付け構造体をカテーテル本体の遠位端に向けて押すことにより、拡張バルーンの弾性を抑制することができる。また、拡張バルーンが収縮しつつある間又はその後に、取り付け構造体をカテーテル本体の遠位端から引き離すことにより、バルーン及びスコアリング構造体のプロフィルを最小化することもできる。或いは、マニピュレータ(図には示されていない)を用いてカテーテル本体に対して取り付け構造体を回転させることにより、折り畳まれた状態から拡張された状態への移行過程及び折り畳まれた状態へ戻る過程で拡張バルーン及びスコアリング構造体の弾性を制御することができる。
【0131】
拡張バルーン及びスコアリング構造体の形状を操作することの他に、薬物送達膜及び又は治療剤類の送達もこの手順の過程でオペレータの制御下に置くこともできる。この制御は、各種ポンプ、スイッチ、モータ、制御棒、シャフト、ワイヤなどの、カテーテルチューブの遠位端の種々の機構によって遂行することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器、特に血管系の狭窄に対する治療を目的とした医療機器の分野に関する。
【0002】
バルーン拡張法(血管形成術)は、狭窄血管、通常アテローム斑狭窄動脈に対する血管再生又は閉塞除去によく用いられている医学的手技である。この血管形成手技は、しぼませた拡張用バルーンを先端に付けたカテーテルを血管系を通して標的狭窄部位まで進めることによって機能する。適切な部位に達した時点でバルーンを膨張させる。この膨張させたバルーンは血管の内壁に半径方向の圧をかける。これによって班のより好ましい(閉塞性の少ない)構造への再配置が促進され、狭窄領域が拡張されて血流を改善させることができる。
【0003】
残念なことに、バルーン拡張術後の多くの場合、いつかは班及び血管壁が再び好ましくない構造に再配置され、その結果、しばしば血管の再閉塞が生じる。これを防止するために、バルーン拡張法の施工後直ちにステント植込み術を行うことが多い。ステント植込み術では、血管内にステントと呼ばれるチューブ状の足場を設置することにより血管を開いた状態に保ち、血管の開通性を維持することが容易になる。物理的な足場としての役割の他に、多くのステントは薬物類を溶出することにより再狭窄を予防するのにも役立つ。このようなステントは、薬物溶出ステント又はDES(drug eluting stent)と呼ばれる。
【0004】
しかしながら、ステント植込み術自体は完璧なものではなく、まだ再閉塞の発生率が高すぎる。これはいくつかの要因によるものである。前述のように多くのステントは薬物類を溶出することにより再狭窄を予防するのに役立つが、薬物類が有効であるためには、これを適正な部位に送達しなければならない。しかしながら、血管形成術用バルーンによって狭窄血管が適正に拡張されなければ、ステントが事実上適正に配置されないこともありうる。
【0005】
また、薬物溶出ステント(DES)は、他にも問題点があり、全ての患者に適している訳ではない。DESの植込みを受ける患者は、遅発性血栓症の生じるリスクをできるだけ少なくするために、長時間抗凝固療法の管理下に維持される場合が多い。しかしながら、このような抗凝固剤は出血多量を引き起こす恐れがあり、全ての患者に推奨できる訳ではない。
【0006】
ステントの設置に伴って生じうる他の問題点としては、ステントと血管壁との間のすき間及びバルーンによる拡張に抵抗性の血管班又は壁の石灰化部位の存在が挙げられる。
【0007】
従来のバルーン血管形成術には他にもいくつかの欠点がある。ある場合には、バルーン拡張を強引にやりすぎることにより、バルーン拡張術は病変血管をその弾性限界を超えて伸長させ、その結果、血管の損傷をもたらす。こうした損傷血管壁は再狭窄をきたすリスクが高くなる。別の場合では、この拡張術中にバルーンがずれる可能性がある。これによって、治療病変周囲の血管壁に損傷が生じる恐れがある。
【0008】
このため、一部の血管閉塞は従来の血管形成術用バルーンでは治療が困難である。こうした一部の困難な状況としては、ステント内再狭窄(即ち、最初の再狭窄が血管形成術及びステントにより治療された後に生じる第二の再狭窄)が挙げられる。ステント内再狭窄は血管形成術用バルーンでは治療困難である。何故なら、ステントが拡張に抵抗するので血管形成術用バルーンが膨張過程で標的区域から外れやすいからである。別の治療困難な問題が、伸長に対して比較的抵抗性である線維性病変によってもたらされる。血管形成術用バルーンは、そのような線維性病変に遭遇すると、この場合も膨張時に適正な標的区域から外れてしまいやすい。あいにく、多くの長い病変部は線維性の部分を有し、このため、従来の血管形成術用バルーンを用いて治療することは難しい。
【0009】
こうした問題を解決するための一つの方法は、ブレード又はスコアリングエレメント(scoring element)を血管形成術用バルーンと合体させることである。こうしたブレード又はスコアリングエレメントはいずれもバルーンが適正な位置からずれるのを防止するのに役立ち、血管壁の比較的抵抗性の部分を一部切り開くこともできる。これによって、ずれが防止され、目的とする血管の拡張が進行する。
【0010】
血管形成術用バルーンと共にブレード又はスコアリングエレメントを用いることに関する第二の利点は血管壁、特に班により閉塞された壁がバルーン膨張時に制御不可能な仕方で裂け易いことにある。切削ブレードはこの損傷を最小限に抑えるのに役立てることができる。何故なら、これによる切削及び裂けは制御不能ではなく、今や制御し、限定することができるからである。拡張術を遂行するのに必要な最低限の大きさの切削又はスコアリングのみを実施する必要があり、この切削又はスコアリングを血管の特定の限局部分に限定することができる。
【0011】
切削ブレードを有する血管形成術用バルーンを用いると多くの条件下で極めて有利であることが判っているが、現行の切削バルーンの設計及び方法には依然として欠点がある。
【0012】
前述のように、血管壁の切削、スコアリング又は損傷を受けた区域に薬物類又は治療剤類を用いると、再狭窄を減少させるのが容易となり、転帰を改善することができる。しかしながら、こうした薬物類の多くは、全身性に投与するのではなく、理想的には血管の損傷部位に直接適用する必要がある。スコアリングの結果、血管の損傷部位が正確に特定されるので、理想的に、薬物類その他の治療剤類が正確にこの特定された損傷領域に運ばれ、この損傷の影響を軽減するのに用いられるはずである。このように送達が正確に行われることによってより高濃度の薬物類及び治療剤類を投与することが可能となり、さらに、そのような薬物類と非標的組織との好ましくない副反応を全て低減させることにもなる。そのために、権利者が共通の米国特許出願公開第2006/0259005A1号において、スコアリングエレメントを抗増殖剤その他の薬剤で被覆することが提案されている。かなりの改善ではあるが、スコアリングエレメント上に薬物類を被覆するか、それとも隔離する必要があることは、技術的に厳しいものがあり、送達させることができる薬物量を制限するものと考えられ、各種薬物類及び各種投与量の余裕維持が困難となる。
【0013】
スコアリングエレメントを被覆することに関する別の問題は、カテーテルの外側に被覆した薬物類が適正部位に到達する前に拡散してしまいやすいことである。更なる問題は、有効性を示すのに十分な薬物をスコアリングエレメント上に付着又は隔離させるのは必ずしも可能ではないと考えられることである。
【0014】
このような理由で、血管その他の体管腔に治療剤類を送達するための「薬物不含」スコアリング及び切削構造体を利用することができる方法及びシステムを提供することは望ましいことになる。このような方法及びシステムを用いれば、スコアリング及び切削構造体により血管及び管腔の閉塞を崩壊させる可能性があり、同時に、スコアリング/切削エレメント自体の改変を必要とすることなく血管に治療剤類を送達することが可能となる。特に、治療剤類の送達を、好ましくは各種の投与量で種々の条件下に、可能とするために切削エレメントと共に機能させる方法及びシステム。これらの目的の少なくとも一部は、以下で説明する本発明によって満たされることになる。
【背景技術】
【0015】
以下の米国特許及び刊行物は、切削バルーン及びバルーン構造体に関するものである:米国特許第6,450,988号、同第6,425,882号、同第6,394,995号、同第6,355,013号、同第6,245,040号、同第6,210,392号、同第6,190,356号、同第6,129,706号、同第6,123,718号、同第5,891,090号、同第5,797,935号、同第5,779,698号、同第5,735,816号、同第5,624,433号、同第5,616,149号、同第5,545,132号、同第5,470,314号、同第5,320,634号、同第5,221,261号及び同第5,196,024号、並びに米国特許出願公開第2006/0259005号及び同第2003/0032973号。重要な他の米国特許としては米国特許第6,454,775号、同第5,100,423号、同第4,998,539号、同第4,969,458号及び同第4,921,984号が挙げられる。以下の特許には針利用送達機構を有する薬物送達カテーテルが開示されている。即ち、米国特許第4,578,061号には、向きをそらすことができて軸方向に進めることができる針を有する針注射カテーテルが開示されている。米国特許第5,538,504号には、バルーンドライバによって横方向に進められる横走針を有する針注射カテーテルが開示されている。また、米国特許第6,319,230号、同第6,283,951号、同第6,283,947号、同第6,004,295号、同第5,419,777号及び同第5,354,279号も重要である。薬物被覆ステント及び血管形成術用バルーンについては、米国特許第6,280,411号、同第6,656,156号及び同第6,682,545号、並びに米国特許出願公開第2004/0193257号、同第2004/0208985号及び同第2005/0033417号を含む多くの特許及び公開出願に開示されている。
【0016】
被覆薬物及び、任意選択的に切削ブレードを有する血管形成術用バルーンに関する特許及び公開出願としては、米国特許第5,102,402号、同第5,120,322号、同第5,304,121号、同第5,868,719号、同第6,929,320号、同第6,364,856号、同第6,592,548号及び同第7,060,051号、並びに米国特許出願公開第2004/127475A1号、同第2004/143287A1号、同第2005/288629A1号、同第2006/004323A1号、同第2006/020243A1号、同第2006/129093A1号、同第2006/247674A1号及び同第20056/259062A1号、特許文献1及び特許文献2、並びに欧州特許第1007135B1号が挙げられる。
【0017】
当該分野ではいくつかの異なる滑り止め、切削及びスコアリング構造が提案されている。米国特許第5,320,634号には、バルーンに切削ブレードを増設することが開示されている。このブレードは、バルーンが膨張するにつれて線維性病変を切り開くことができる。米国特許第5,616,149号にはバルーンにとがった刃先を取り付ける同様な方法が開示されている。米国特許出願公開第2003/0032973号には、膨張時に血管形成術用バルーンを固定する非軸方向グリップを有するステント様構造体が開示されている。米国特許第6,129,706号には、外側表面に滑り止め用隆起(bump)を有するバルーンカテーテルが開示されている。米国特許第6,394,995号には、バルーンプロフィルを縮小させて締まった病変部の横断を可能にする方法を開示している。米国特許出願公開第2003/0153870号には、狭窄その他の閉塞領域に長軸方向チャネルを創出する可撓性の細長いエレメントを有するバルーン血管形成用カテーテルを開示している。
【0018】
薬物送達バルーン及び膜については、米国特許第5,102,402号、同第5,120,322号、同第5,304,121号、同第5,383,928号、同第5,707,385号、同第5,868,719号、同第6,471,979号、同第6,565,528号及び同第7,011,654号、並びに米国特許出願公開第2004/0127475号、同第2004/0143287号、同第2005/0288629号、同第2006/0004323号、同第2006/0020243号、同第2005/0083768号、同第2006/0112536号及び同第2006/0259062号にも開示されている。米国特許出願公開第2006/0129093号には、多重膨張可能バルーンカテーテルであって、バルーンの少なくとも1つは少なくとも1つのスコアリングブレードを有することができ、少なくとも1つのバルーンの外面は薬物又は治療剤を含有することができるものとするカテーテルが開示されている。米国特許第6,939,320号には、カテーテルシース内の基材が拡張すると開いて基材に被覆されている薬物類を放出するミシン目が設けられている弾性カテーテルシースが開示されている。米国特許第6,364,856号には、拡張時に薬物類又は生物活性物質を放出することができる多数のボイドを有するスポンジ状被膜で被覆された拡張可能カテーテルが開示されている。米国特許第6,656,156号には、薬物を含有する第1のバルーン被膜と、バルーンが拡張すると裂けて薬物を放出する第1の薬物被膜を被覆する第2の被膜とを有するバルーンカテーテルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】国際公開第WO95/03083A1号パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO99/16500A2号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、管腔部位に物質を送達するための、特に、患者動脈の血栓形成及び班の部位などの患者血管系の病変部位に抗増殖及び抗過形成物質(薬物類)などの活性物質を送達するための方法及び装置を提供する。管腔部位(即ち、動脈の狭窄領域などの標的部位)に活性物質を送達する方法は、スコアリング構造体を体管腔内の適切な位置に置き、このスコアリング構造体を進めて体管腔の壁をスコアリングすることを含む。所望通りに管腔のスコアリング領域(単数又は複数)に狙いを定めることができる薬物送達は、スコアリングエレメントを覆って(スコアリング構造体の全てもしくは一部を覆うエンベロープとして)又はスコアリング構造体の裏側に(スコアリング構造体とバルーンとの間に配置した、他のカテーテル構成部分とは別個の薬物送達膜によって実現される。この薬物送達膜システムは、スコアリングエレメントと連動して機能することにより管腔部位に活性物質(薬物)を送達する。この活性物質はスコアリングの前、スコアリング時又はスコアリング後に管腔壁領域の表面に送達することができる。
【0021】
本発明の本薬物送達膜デバイス及び方法は、多種多様なスコアリングカテーテルの設計とともに機能させることができるが、共有特許出願第10/917,902号にすでに記載されているスコアリングエレメント構造を用いることが特に有用であり、この出願内容は本明細書に参考として援用されている。
【0022】
例示的な血管での使用においては、活性物質は、血管壁の内膜層内又は下の、概して0.001mm乃至1mm、通常0.01mm乃至0.1mmの範囲の深さまでの位置に放出させることができる。動脈部位の治療の場合には、その領域、閉塞物及び/又は壁機構を同時にスコアリングすることにより、血栓又は班内の領域に薬物を送達することができるばかりでなく、さらに、血管周囲の内膜及び内膜下の層中に薬物を送達することもできる。
【0023】
血管の治療の他に、本発明の方法及びシステムは、静脈移植血管及び人工移植血管を含む種々の他の体管腔並びに呼吸器系、泌尿器系、生殖器系、消化器系などの管腔を治療するのに用いることができる。
【0024】
スコアリングを標的薬物送達と組み合わせるメリットはかなりなものである。スコアリング単独の場合、損傷血管領域は、治療剤類が投与されるまでのある期間、血管環境にさらされることになる。こうした薬物類をスコアリングカテーテルを用いて送達すると、任意の損傷又は傷害の直前、その過程又はその直後に損傷血管領域が標的治療剤類の投与を受けることができる。多くの炎症及び凝固過程が、天然組織トロンボプラスチンの遊離などの最初の小さなシグナルが好ましくない場合の多い反応の生化学的カスケードを作動させるカスケード過程であることから、そのような好ましくない生化学的カスケード過程を適正なタイミングで標的治療剤類を用いてほとんど瞬時に防止又は遮断する利点はかなりなものである。
【0025】
同時又はほぼ同時に薬物を送達することのメリットの他に、薬物リザーバとしての別の膜の利用には多くの利点がある。薬物の量を、スコアリングエレメント及び/又はバルーン表面に被覆することができる量よりもはるかに多くすることができる。この膜を、それ自体スコアリングエレメントバルーンを有するか、薬物類で被覆したカテーテルと共に用いることができることによって、各種薬物類を組み合わせて放出させるか、さらに多くの量の薬物類を放出させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1A】本発明の実施態様による、スコアリングエレメントの外側に装着された薬物送達膜の略図である。
【図1B】本発明の実施態様による、スコアリングエレメントの外側に装着された薬物送達膜の略図である。
【図2A】体管腔のスコアリング領域に治療剤類を送達する、スコアリングエレメントの外側に装着された薬物送達膜を示す略図である。
【図2B】体管腔のスコアリング領域に治療剤類を送達する、スコアリングエレメントの外側に装着された薬物送達膜を示す略図である。
【図3A】薬物送達膜がスコアリングエレメントの内側に装着され、任意選択的に細孔があけられ、任意選択的に多数の位置でスコアリングエレメントに取り付けられている本発明の実施態様を示す略図である。
【図3B】薬物送達膜がスコアリングエレメントの内側に装着され、任意選択的に細孔があけられ、任意選択的に多数の位置でスコアリングエレメントに取り付けられている本発明の実施態様を示す略図である。
【図3C】薬物送達膜がスコアリングエレメントの内側に装着され、任意選択的に細孔があけられ、任意選択的に多数の位置でスコアリングエレメントに取り付けられている本発明の実施態様を示す略図である。
【図4A】図3のデバイスがどのようにして班閉塞動脈のスコアリング及びこれへの治療剤類の送達を同時に行うのかを示す略図である。
【図4B】図3のデバイスがどのようにして班閉塞動脈のスコアリング及びこれへの治療剤類の送達を同時に行うのかを示す略図である。
【図5A】薬物送達膜がスコアリングエレメントの外側に装着され、スコアリングエレメントの近傍に位置する細孔があけられ、任意選択的に多数の位置でスコアリングエレメントに取り付けられている本発明の実施態様を示す略図である。
【図5B】薬物送達膜がスコアリングエレメントの外側に装着され、スコアリングエレメントの近傍に位置する細孔があけられ、任意選択的に多数の位置でスコアリングエレメントに取り付けられている本発明の実施態様を示す略図である。
【図5C】薬物送達膜がスコアリングエレメントの外側に装着され、スコアリングエレメントの近傍に位置する細孔があけられ、任意選択的に多数の位置でスコアリングエレメントに取り付けられている本発明の実施態様を示す略図である。
【図6A】薬物送達膜が弾力性のないものであり、スコアリングエレメントの内側に装着されている本発明の実施態様を示す略図である。この場合、治療剤類は、ヒドロゲル状態、ポリマーに埋め込まれた状態又は他のメタ−可溶性状態で薬物送達膜のくぼみ(ポケット)に貯蔵されていて、スコアリングエレメントが班又は他の体管腔壁をスコアリングすると、放出される。
【図6B】薬物送達膜が弾力性のないものであり、スコアリングエレメントの内側に装着されている本発明の実施態様を示す略図である。この場合、治療剤類は、ヒドロゲル状態、ポリマーに埋め込まれた状態又は他のメタ−可溶性状態で薬物送達膜のくぼみ(ポケット)に貯蔵されていて、スコアリングエレメントが班又は他の体管腔壁をスコアリングすると、放出される。
【図6C】薬物送達膜が弾力性のないものであり、スコアリングエレメントの内側に装着されている本発明の実施態様を示す略図である。この場合、治療剤類は、ヒドロゲル状態、ポリマーに埋め込まれた状態又は他のメタ−可溶性状態で薬物送達膜のくぼみ(ポケット)に貯蔵されていて、スコアリングエレメントが班又は他の体管腔壁をスコアリングすると、放出される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の記述では、本発明の種々の態様について説明する。この説明では、本発明を完全に理解できるように、特定の構成及び詳細について記載する。しかしながら、本発明が本明細書に提示した特定の詳細がなくても実施可能であることは当業者には明らかであろう。さらに、本発明を不明瞭にしないように、周知の特徴は省略又は簡略化する場合がある。
【0028】
本発明の実施態様は、狭窄血管の血行再建のためのデバイス、より詳細には、血管拡張エレメント、さらには管腔スコアリングエレメント及び膜薬物送達エレメントを有するカテーテルに関する。
【0029】
本発明は、理想的には班によって閉塞された冠動脈の治療を対象としたものであるが、外傷又は腫瘍又は一部の種類の癌又は他の局所疾患のような他の疾患において静脈移植血管、人工移植血管などの他の体管腔及び呼吸器系、泌尿器系、生殖器系、消化器系などの管腔を治療するのにも用いることができる。
【0030】
この開示内容全体を通じて、本発明の薬物送達膜により送達することができる物質は、一般に、薬物類、活性薬剤類、又は物質類と呼ぶ。実際には、多種多様な化学物質を送達することができるので、「薬物類」などの特定例又は「薬物送達膜」などの用語を使用しても、このことにより本発明により送達することができる物質の範囲が限定されるものではない。ある状況では、血管損傷の程度を視覚化するのを容易にするために、造影剤などの非薬物、非活性薬剤類及び非治療剤類を導入することも有益となる。別の状況では、血管修復の促進を容易にするために、ウイルス、生細胞(例えば、幹細胞)などの生物剤類を導入することが有益な場合もある。
【0031】
投与することのできる薬物類、活性薬剤類及び物質類の種類についてのより広範な説明、並びに薬物送達膜の化学的構成のより広範な説明は本節の最後に行うが、先ず、このデバイスの構造的及び機械的側面について説明する。
【0032】
この血管拡張デバイスは、ポリマー製バルーンのような通常の拡張バルーンを含むことができる。最適な管腔スコアリングエレメントは、線形、うず巻形、らせん形その他の形に配置されたスコアリングブレード、ワイヤ又は構造体を1個以上含むことができる。一部の実施態様では、こうしたスコアリングエレメントはバルーンカテーテル上に装着する。この装置はさらに薬物送達膜システムを含む。薬物類又は活性薬剤類はこの膜に被覆するかこの膜中に取り込ませることができ、或いは、この膜を用いて、血管壁中に放出すべき活性物質の送達を制御することができる。
【0033】
本明細書ではスコアリングバルーンカテーテルを例として用いることが多いが、本膜システム薬物送達発明はスコアリングエレメントを有するバルーンカテーテルに限定されるものではない。本薬物送達膜は、POBA(plain old conventional balloon angioplasty:単純旧式従来型バルーン血管形成)デバイス及び種々の拡張可能エレメントを有する他のカテーテルとともに用いることができる。こうした拡張可能エレメントは、拡張可能バルーンを含むことができるが、拡張可能ポリマー、形状記憶ワイヤ、加熱拡張エレメント、電気的拡張エレメント、化学的拡張エレメント又は機械的拡張エレメントを含む他の展開手段を含むこともできる。
【0034】
本発明の薬物送達膜システムは、体管腔の最初のスコアリング時に適用されることになる場合が多いが、必要に応じてその前又は後に用いることもできる。
【0035】
本発明のスコアリングエレメント(類)は、通常、血管内その他の管腔内カテーテルを用いて適切な位置に置く。このカテーテルにはその遠位端又はその近傍に1個以上のスコアリングエレメントを担持させる。血管の場合、このカテーテルは、通常、従来通りに、例えば冠動脈に到達させるために大腿動脈を通して、又は抹消動脈の場合にはシースを通してガイドワイヤを覆って導入する。
【0036】
スコアリングエレメント(類)は、病変部位及び管腔壁中へとこのスコアリングエレメントを半径方向に進めることによって、(動脈の班狭窄のような)体管腔の標的領域をスコアリングするように進めることができる。前述したように、そのような半径方向の拡張は、通常、カテーテルに担持された膨張可能バルーンなどの拡張可能内部シェルを用いて達成される。或いはまた一方では、この半径方向の拡張は、ニチノールなどの自己拡張型材料又は(ステンレス鋼などの)別の材料による拡張可能幾何形状を用いて達成することができる。簡略にするために、本明細書で説明する例は膨張可能バルーンに焦点を当てるが、この使用は、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0037】
本技術のスコアリングエレメントは、各種の線形ブレード幾何形状を含む、これまでスコアリングデバイスに用いられてきた幾何形状のいずれかを有することができる。しかしながら、場合によっては、こうしたスコアリングエレメントは、本発明の譲受人に譲渡された2003年7月30日付け出願の同時係属特許出願第10/631,499号(代理人整理番号:021770− 000100US)、2004年3月25日付け出願の同第10/810,330号(代理人整理番号:021770−000120US)、2004年8月13日付け出願の同第10/917,917号(代理人整理番号:021770−000130US)に教示されているようならせん幾何形状を有する弾性ボイドエレメントを1個以上含むことになり、これらの完全な開示内容については本明細書に参考として援用されている。
【0038】
本開示内容において用いているスコアリング構造は、通常、スコアリングエレメントとボイドとの両者からなる。ボイド(スペースの無いこと)はスコアリング構造において重要な役割を果たしている。何故なら、ボイドは切削又はスコアリングエレメントに圧を集中させるからである。ボイドがなければ、スコアリング構造の固体エレメントの力が本体表面の内腔全体にわたって均等に分散されることになり、有効なスコアリングが生じないことになる。通常、実際にはスコアリング構造の90%超がボイドからなる。
【0039】
スコアリングエレメントの幾何形状を問わず、的確な標的区域に配置したスコアリングエレメントは、スコアリングエレメント支持シェルを拡張させることによって半径方向に外側へと進める(拡張させる)。多くの場合、これは、少なくとも1個のスコアリングエレメントを担持するバルーンを膨張させることによって行う。このようにして、スコアリングエレメントの外側縁端部(単数又は複数)は、管腔壁及び/又は管腔壁の少なくとも一部を覆う(斑などの)閉塞物その他に結合して侵入する。
【0040】
或いは、前述したように、半径方向の拡張は、ニッケル−チタン合金などの自己拡張型材料又は(ステンレス鋼などの)別の材料による拡張可能幾何形状を用いて達成することができる。また、スコアリングエレメントは、温度制御構造体質(例えば、熱記憶合金)などの他の手段又は直径が拡大する内部スライダーなどの機械的拡張手段によって拡張させることもできる。
【0041】
通常、本発明のスコアリング及び薬物送達膜システムは、カテーテルを用いてその標的区域に送達することになる。本発明のカテーテルは、近位端(カテーテル本体の外側へ伸びることができるオペレータ端部)及び遠位端(カテーテルのノーズ端部)を有するカテーテル本体を含む。通常、スコアリングエレメント又はスコアリングエレメント類はこの遠位端の近傍に配置されることになる。
【0042】
このカテーテルは、通常、圧拡張可能弾性バルーンのような内部拡張可能エレメントを含むことになる。このバルーン自体が膜又は壁を含むことができるが、本発明の薬物送達膜はこの弾性バルーン膜又は壁から離れた別個のものである。
【0043】
この弾性圧拡張可能バルーン膜/壁材とは対照的に、通常バルーン材を囲むことになる薬物送達膜は、それ自体、弾性又は圧拡張可能であってもよいが、通常、必ずしもそうである必要はない。薬物送達膜は薬物類又は活性薬剤類の送達を制御しさえすればよく、本来の圧及び機械的負荷負担機能は、通常拡張バルーン膜/壁又はスコアリングエレメントにゆだねられることになる。この機能分離によって薬物送達膜は本来の機能−薬物類の送達−を果たすことが可能となる。例えば、この膜は、非拡張可能(即ち、弾性率:5GPA超、多くの場合、10GPA超)、半弾性(1GPA乃至5GPA)又は弾性(1GPA未満)であってもよい。
【0044】
所望の構成に応じて、スコアリングエレメント又は諸エレメントを圧拡張可能弾性拡張バルーンと薬物送達膜との間のスペースに装着するか、スコアリングエレメントを薬物送達膜の外側に装着することにより圧拡張可能弾性バルーンと薬物送達膜とを囲むことができる。
【0045】
通常、この薬物送達膜がスコアリングエレメントの働きと連動して機能することによってスコアリングエレメントによりスコアリング又は切削された管腔壁に薬物又は活性薬剤が送達されることになる。この活性物質は、様々な形で薬物送達膜及びスコアリングエレメントの働きにより供給することができる。
【0046】
第1の例として、この活性物質は、薬物送達膜の表面に付着させるか、薬物送達膜のマトリックスに浸透させる。薬物は直接的接触又は拡散によって体管腔のスコアリングされた領域に送達される。
【0047】
この実施態様では、薬物送達膜はスコアリングエレメントの外側に装着することができ、薬物送達膜はスコアリングエレメントの働きによって管腔壁中に押し込まれる。薬物送達膜は、薬物又は活性薬剤類がスコアリングエレメントによりスコアリングされた管腔壁の領域(膜が管腔壁に機械的に押し込まれるので、高用量)及びスコアリングエレメントによりスコアリングされていない管腔壁の領域(ここでは接触圧が少ないことになるので、低用量)の両方に投与されるように働く。
【0048】
薬物は、通常、浸し塗り、吹付け、塗布、プラズマ蒸着、電気めっき、遠心方式などによって、薬物送達膜の露出面の少なくとも一部分を覆うように被覆することができる。或いはまた一方では、活性物質はポリマー膜マトリックス担体に取り込ませることができる。このようなポリマー担体及びマトリックスについては、この開示内容の化学の箇所でより詳細に説明する。
【0049】
「膜マトリックスに浸透させる」という用語は、薬物送達膜の原料である基材(通常、架橋ポリマー)が、分子レベルで(例えば、自然なセットの分子隙間に薬物その他の分子を入れることができる能力を有するという概念を記載するために用いている。そのような自然な分子隙間の例としては、膜マトリックスポリマーを共に連結する架橋鎖間におけるスペースが挙げられる。
【0050】
この浸透性膜マトリックスの概念は、ピンホール又は細孔の導入により浸透性にされた膜という別の概念とは異なる。このようなピンホール及び細孔は、薬物分子がポリマー基本膜構造とからみあうことなくそのまま膜中を流れることを可能にする。
【0051】
薬物類は、通常は拡散過程によって膜マトリックスから溶出することになる。一方、膜の細孔又はピンホールからは薬物類は圧勾配による活発な流れによって放出されると考えられる。
【0052】
別の実施態様では、内側の拡張可能な弾性バルーンエレメントと外側の薬物送達膜との間にスコアリングエレメントを装着することができる。さらに、薬物送達膜は、これがスコアリングエレメント又はその下にある弾性バルーンエレメントに付着する特定の付着点を有することができる。さらに、このスコアリングエレメントは、任意選択的に、薬物送達膜の種々の領域を選択的に貫いて(通り道を作って)細孔を創出する働きをする鋸歯状の縁、突起部、溝又は開口を含むことができる。この構成では、こうした細孔、鋸歯状の縁、突起部、溝又は開口は薬物送達膜と連動することにより、薬物送達膜の内側の薬物がこの膜の中を流れ、管腔のスコアリング領域中に浸透することが可能となる。
【0053】
一部の実施態様では、薬物は、使用時に(弾性バルーンエレメントと薬物送達膜との間の領域などの)薬物送達膜リザーバ中に注入することができ、次いで、このリザーバから細孔、ピンホールその他の機構を介して放出させることができる。この注入薬物はカテーテルの薬物リザーバによりもたらすことができようし、或いはその局所の薬物送達膜薬物リザーバをカテーテル外にある主薬物リザーバに接続している管から供給することができる。
【0054】
或いは、スコアリングエレメントは、この場合も薬物送達膜の外側に装着することができる。この例では、薬物送達膜は、弾力性のないものとすることができ、さらに、スコアリングエレメントの周囲に折り畳まれている薬物を含有する膜のしわもしくはポケットを作り出すように折り畳むことができる。この内部の弾性バルーンが拡張するにつれて、これがスコアリングエレメントと薬物を含有する薬物送達膜のしわ又はポケットとの両方を管腔表面のスコアリングされた領域に押し付けることになる。
【0055】
前述したように、本開示の薬物送達膜と共に用いるスコアリングエレメントは、線形、らせん形その他の幾何形状を含む、概して上記のような任意の通常の幾何形状を有することができる。例示的な実施態様では、スコアリングエレメントは、治療カテーテルにより担持された拡張可能シェルを囲む弾性ケージの少なくとも一部分として形成する。この弾性ケージは、シェルの拡張と共に拡張し、シェルを覆って縮小し、(例えば、このケージを担持するバルーンをしぼませるのを容易にする構造を有する。
【0056】
薬物送達膜は、普通はスコアリングエレメント及びその下にある拡張可能な弾性バルーンエレメントとは別個のものであるが、このデバイスの一部の実施態様では、これらのエレメント間に特定の接続領域を存在させることができる。例として、一部の構成では、薬物送達膜と弾性バルーンエレメントとの間に特定の接続点又は線形の接続リゲインを有することが有益であると考えられる。こうした接続領域は、薬物送達膜の形状を制御するのに役立つことになり、(細孔又はピンホールなどの)薬物送達膜の特定の領域がスコアリングデバイス上の特定の領域と厳密にぴったり合うようにする。これがまた、薬物が所望の位置に送達されるようにするのに役立つことになる。
【0057】
多くの構成では、薬物送達膜は大きな(人為的に誘導された)細孔、穴、ピンホール又は開口を有しない完全な状態の膜であるが、別の場合では、薬物送達膜は、これまでに米国特許第5,213,576号に開示されている膜などの、天然の細孔を有するGore−Tex(登録商標)膜のような材料で作製することができる。
【0058】
しかしながら、さらに別の実施態様では、薬物送達膜に、薬物を流すことができる小さな、意図的に配置した細孔、穴又はスリットを含有させることができる。この場合、「意図的に配置した」とは、そのような細孔、穴又はスリットが(Gore−Tex膜の場合のような)膜微細構造の天然の部分ではなく、製造過程で膜中の明確な位置に意図的に配置されたものであることを意味する。このような細孔、穴及びスリットを総称して「細孔」と呼ぶことにする。これらは、機械的又はレーザーによるせん孔、化学又は光化学エッチング、放射エッチングその他のプロセスを含む各種の手段によって作り出すことができる。
【0059】
そのような意図的に配置した細孔、穴又はスリットが所望される場合には、さらに、スコアリングエレメントによりスコアリングされた管腔の領域に近接した薬物の流れを生じるように、これらの穴及びスリットをスコアリングエレメントと連絡させるように配置することが有利であると考えられる。このプロセスを容易にするために、場合によっては、薬物送達膜をスコアリングデバイス及び/又はその下にある弾性拡張バルーンエレメントの特定領域に接続することによって、下の拡張バルーンがデバイスを拡張させた時に薬物送達用穴又は細孔とスコアリングエレメントとが適切な配列となるようにし、さらに、必要に応じて、体管腔から最終的に抜き取るのを容易にするためにこのデバイスが再度小さくなった形に折り畳まれるようにもすることができる。
【0060】
次に、本発明の実施態様によるスコアリング及び薬物送達カテーテル組合せデバイス(100)の略図である図1A及び図1Bについて説明する。
【0061】
図1Aはスコアリング及び薬物送達カテーテル組合せデバイス(100)の概略を示す。この実施態様では、このスコアリング/薬物送達カテーテルデバイス(100)は拡張バルーン(120)(ここでは膨張していない状態で示されている)を含むが、これは介入心臓専門医又は放射線医によりよく用いられている任意の通常の血管形成術用バルーンとすることができる。この場合、らせん形又はうず巻形のスコアリングユニット(140)を拡張バルーン(120)を覆って装着する(又は付着させる)。バルーン及び(諸)スコアリングエレメントの弾性は、バルーンの拡張が均一となるように選択する必要がある。特に、この組合せ構造が病変部内で拡張する時に「中央よりも末端が大きくなる」不均一な拡張(一般に「ドッグボーン化」と呼ばれる)が起こらないように材料を選択することが重要となる。
【0062】
繰り返して述べるが、材料及び構造の選択が重要である。弾性又は半弾性バルーンが用いられ、スコアリングエレメントの弾性がバルーンの特性に適合するように適正に対応しない場合には、バルーン−スコアリングエレメント系の拡張は均一にならないことになる。この不均一性によってスコアリングカテーテルの有効性が損なわれると考えられ、場合によっては、性能不足に陥ることがある。例えば、所与の圧力の下で、バルーンのある部分は拡張することができる一方で、他の部分はスコアリングエレメントの過度の抵抗により制約されることになる。
【0063】
多くの実施態様におけるスコアリングユニット(140)はニチノールでできており、任意選択的にらせん形構造を有することができる。しかしながら、スコアリングユニット(140)は、ステンレス鋼、コバルト−クロム合金、チタンなどの他の金属でできていてもよい。或いは、スコアリングユニット(140)は、ポリマー材料であってもよく、又は別の弾性材料でできていてもよい。スコアリングユニット(140)は、その近位及び遠位端において拡張バルーン(120)の近位端(170)及び遠位端(180)に接続していてもよい(この場合、同一方向でカテーテルに装着されるものと仮定する)。或いは、スコアリングユニット(140)は、カラー様の接続エレメント(150)及び(160)によって拡張バルーン(120)の遠位端及び/又は近位端に接続することができる。ばねその他の弾性エレメントを接続エレメントの一部として代替的又は追加的に設けることによって、スコアリングユニットが拡張され場合のこのユニットの短縮に適応することができる。
【0064】
この構成では、スコアリングユニット(140)を薬物送達膜(610)(ここではこれをバルーン(120)と明確に区別するためにより膨張させた状態で示されている)によって囲む。薬物送達膜(610)は特に耐荷重性である必要はなく、従って、拡張バルーン(120)の壁を形成する膜(810)よりもしなやかであることになる場合が多い。
【0065】
拡張バルーン(120)は耐荷重性であり、従って通常、外側及び体管腔(図には示されていない)内へスコアリングエレメント(140)を拡張させるのに十分な力をスコアリングユニット(140)に対して発揮することができるのに(拡張時に)十分厚く、十分半剛性である壁(810)を有することになる。しかしながら、薬物送達膜(610)がスコアリングユニット(140)の表面に実質的に適合することができる一方、スコアリングユニット(140)は拡張バルーン(120)からの圧によって拡張を余儀なくされている。
【0066】
図1Bは、薬物送達膜(610)、スコアリングユニット(140)により形成されたスコアリングエレメント(710)及び拡張バルーン(120)の外壁(810)間の境界面の詳細を示したものである。この場合、スコアリングエレメント(710)は単にスコアリングユニット(140)の一部であり、外壁(810)は単に拡張バルーン(120)の一部である。
【0067】
この詳細では、バルーンの外側のスキン、縁端部又は膜(810)からなる拡張バルーン(120)のごく一部が、拡張バルーンの中空(通常、液が満たされている)内部(830)と共に示されている。薬物送達膜(610)と拡張バルーンのスキン(810)とは、通常はすき間(680)によって隔てられることになるが、特定の領域及び特定の構成では、任意選択的に、薬物送達膜(610)を拡張バルーンのスキン(810)に、場合によっては特定の領域(690)でこれら2つの材料を結合させ、接着剤で付け、又は溶接することによって、接続することが有益であると考えられる。こうした結合領域を用いることによって、拡張バルーン(120/810)が拡張し、収縮するときの薬物送達膜(610)、スコアリングエレメント(710)及び拡張バルーンスキン(810)の相対的配置及び位置出しの調整を容易にすることができる。
【0068】
この構成では、薬物送達膜(610)には、通常、使用前に、適切な治療剤を取り込ませることになる。薬物又は治療剤は膜(610)のマトリックス中に埋め込むか、これに浸透させることができ、或いは、薬物又は治療剤は膜(610)の表面に被覆することができる。
【0069】
カテーテルデバイス(100)は適切な体管腔中に挿入することになる。これが所望の(標的)位置に置かれた時点で、通常、液(850)を拡張バルーン(120/810)の内部(830)中にポンプで注入することになる。この液は拡張バルーン(120/810)を拡張させ、その結果、拡張バルーンのスキン(810)がスコアリングユニット(140)のスコアリングエレメント(710)に押し付けられる。この圧によってスコアリングユニット(140)が拡張し、スコアリングエレメント(710)が薬物送達膜(610)の内面に押し付けられる。この構成では、この圧は薬物送達膜(610)を変形させてスコアリングエレメントに密着させ、その結果、膜で覆われたスコアリングエレメント(650)が形成される。このため、スコアリングエレメント(710)は、治療剤類を含有する材料の層(610)で効果的に被覆される。薬物送達膜(610)が適当に薄く、可撓性で強いものであるように選ばれたと仮定すると、スコアリングエレメント(710)は、薬物送達膜(610)で覆われていても体管腔をスコアリングする能力を保持することになる。
【0070】
次に、図2Aについて説明する。カテーテルデバイス(図1(100))は、使用に当たっては、例えば通常のカテーテル法を用いて、血管系中に血管(200)の内腔の狭窄物(220)(例えば、班)の部位まで挿入する。(「狭窄」という用語は、本明細書では、血管病変、例えば、バルーンが広げることになっている血管の狭くなった部分という意味で用いている。)
狭窄部位(220)では、拡張バルーン(120)、(810)/(830)は、例えばバルーンへ液体(850)を流入させることによって、拡張する。スコアリングユニット(図1(140))に装着されたスコアリングエレメント(710)はこの膨張した拡張バルーンからの圧によって拡大する。こうしたスコアリングエレメントは薬物送達膜(610)に対して密着する。拡張バルーン120は、膨張すると、スコアリングユニット(140)、(710)及び薬物送達膜(610)と共に血管壁に押し付けられる。
【0071】
図2Bに示したように、拡張バルーンのスキン(810)からの圧はスコアリングエレメント(710)及び薬物送達膜(610)を共に狭窄物(班)(220)中に押し込み、その結果、狭窄物(220)が圧縮され、かつスコアリング(230)される。(薬物類などの)治療剤類(620)は、直接的な接触又は薬物送達膜(610)からの拡散(小さな矢印を参照)によって狭窄部位(220)のスコアリング領域(230)に流入する。一部の薬物は内腔の非スコアリング領域にも流れる。
【0072】
この拡張及びスコアリング段階の後、通常、拡張バルーン(図1(120)、(810)/(830))は、このバルーン(120)、(810)/(830)から液(860)を除去することによって収縮することになる。スコアリングユニット(図1(140)に装着されたスコアリングエレメント(710)及び薬物送達膜(610)は収縮時に縮むか狭まる。
【0073】
従って、拡張デバイス(図1(100))は細くなり、血管から容易に取り出すことができる。縮小されるデバイス(図1(100))の縮小プロフィルは薄型で主として円形である。血管内の狭窄物図2(220)は、理想的には血管壁図2(220)に押し付けられた状態が継続することにより、利用可能な内腔が拡大され、血流が向上する。
【0074】
他の実施態様では、本発明のスコアリング構造(140)/(710)は非らせん形の構造を有することができる。膨張時のバルーン(図1(120))の直径の増大に適応し、バルーンが収縮するとその形状に戻ることができるスコアリング構造のデザインは全て本発明に有用であると考えられる適切なデザインとなる可能性がある。多くの実施態様では、スコアリングエレメントの少なくとも一部分がバルーンカテーテルの長手方向軸と平行ではないことにより可撓性が向上し、スコアリングが改善されることになる。
【0075】
再び図1Aについて説明する。ここで留意すべきは、一部の実施態様では、スコアリングユニット(140)がバルーン(120)の膨張によって外側に押され、バルーンの拡張によって引き伸ばされることである。従って、バルーンが縮小すると、スコアリングユニット(140)は弾性反跳によりその収縮をサポートすることもできる。このアクティブな収縮はより速く、収縮バルーンの薄型プロフィルをもたらす。スコアリングユニット(140)内に配置されたバルーン(120)はその膨張前の形状に戻り、バルーンは半径方向に薄型のプロフィルを取らざるを得なくなる。一般に、薬物送達膜(610)は、この膨張及び収縮の過程を妨げない材料で構成されることになる。
【0076】
本発明の別の実施態様では、カテーテル又は拡張デバイス(100)はステントを担持することができる。このステントはスコアリングユニット(140)を覆って波形にすることができる。このようにして、スコアリングユニット(140)はステントを病変部の硬い領域に押し付けることができ、その結果、予め拡張することのない硬く石灰化した病変部においてさえ、血管に対するステントの正しい位置出しが可能となる。
【0077】
一部の実施態様では、スコアリングユニット(140)は、近位端及び遠位端の、それぞれカラー(150)及び(160)に取り付けられた3本のワイヤを含むらせん形構造を有することができる。或いは、スコアリング構造は穴のある管でできている金属ケージもしくはポリマーケージ又はポリマー外部エレメントとして形成することができる。或いは、スコアリング構造は、直接拡張バルーン材に又はバルーン端に近接して取り付けられた他のエレメントのワイヤを含むことができる。
【0078】
スコアリングユニットがニチノール製ワイヤでできている場合、このニチノール製ワイヤの直径は通常0.05mm乃至0.5mmの範囲にある。或いは、ケージ(例えば、穴のある管でできている金属ケージ)は、局部の応力集中を可能にするいくつかの形状で用いることができる。こうしたケージエレメントの断面又はこうしたワイヤの断面の大きさ及び形状は変えることができる。この断面は円形、長方形、三角形、又はその他の形状であってもよい。
【0079】
別の実施態様では、ニチノール製ワイヤは、拡張バルーン(120)に取り付けた短いセグメントを含むことができる。
【0080】
一部の実施態様では、薬物送達膜(610)は、治療剤類を吸収することができ、ニチノール製ワイヤの周囲でスコアリングエレメント(140)を変形させることができ、拡張バルーン(120)及びらせん形ユニット(140)の膨張及び収縮に対する大きな抵抗性を付与しないほどしなやかであるものとして選ばれる薄くて強い膜材料で構成される。薬物送達膜(610)は、ナイロン系材料(ポリアミド)、Pebax又はPETとすることができる。この薬物送達膜は、拡張バルーン材と同様の非拡張可能材、半弾性材又はエラストマー弾性材とすることができる。
【0081】
膜材料は、とりわけ、Pebax、ポリウレタン、ゴム、ポリスルホン、ナイロン11、ナイロン12、エチレン−酢酸ビニルコポリマー類、エチレン−アクリレートエステルコポリマー類、ビニルピロリドン−酢酸ビニル、スチレンアクリルポリマー、エチレンアクリル酸コポリマー、カルボキシル官能アクリルポリマー、ヒドロキシル官能アクリルポリマー、及びアクリル分散ポリマーなどのポリマーマトリックスを含むことができる。場合によっては、密着結合被膜(即ち、エポキシ、アセタール、アクリル、エチレンコポリマー、又はその他の適切なグループ)を用いることが望ましい。被膜は、ポリ(グリコールメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸スルファナトエチル)、ポリ(エチレン−コ−酢酸ビニル)、ポリ(アクリル酸エチル)、ポリ(ウレタン−アクリレート)、ポリ(アクリルアミド−コ−メタクリル酸エチル)、ポリ(ジビニルベンゼン)、ポリ(トリエチレングリコール−コ−ジビニルエーテル)、ポリ(トリメチロールプロパントリアクリレート)、ポリ(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、ポリ(ビスフェノールAエトキシレートジアクリレート)、ポリ(アリルエーテル)、ポリ(マレイン酸ジアリル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(イソシアヌル酸トリアリル)、ポリ(ビニルアルコール)、エチレンビニルアルコールコポリマーなどを含むこともできる。薬物は、酸化物層又は多孔酸化物層を用いて薬物送達膜の表面に担持させることもできる。或いは、薬物送達膜を、ポリマーを用いずに薬物で、又は任意の種類のマトリックスを担持させることによってコーティングすることができる。
【0082】
スコアリングエレメントを覆って配置した薬物送達膜を用いることの利点は、スコアリングエレメント単独で送達できるよりも多くの薬物類をスコアリングした表面領域及びその隣接組織に送達することができることである。薬物送達膜のポリマー材はスコアリングエレメントのニチノール表面よりもより多くの薬物を搭載し、移行させることができる。別の利点は、ポリマー材がスコアリングエレメントの切削力を分散させると考えられることである。このことによって組織の切断/傷害/損傷が少なくなる。何故なら、覆われていないニチノールスコアリングエレメント接触表面の接触面積に比し、より大きな面積にわたってスコアリング力を分散させることになるからである。
【0083】
標的動脈に対して適正な大きさのデバイスが膨張すると、血流が遮断され、デバイスの呼び膨張圧、即ち、より高い膨張圧が膜を動脈壁の方へ押し、これによって薬物被覆膜が接触している動脈壁組織へ薬物が移行する。収縮すると、薬物送達膜は、下のバルーンと同様に、再度折り畳まれる。
【0084】
薬物送達膜が十分に弾力性のある材料でできている場合、膨張液が内部の拡張バルーンから排出されるとき、この薬物送達膜のエラストマー特性はこのバルーンが再度折り畳まれるのを容易することにより、くぼみのない外部薬物送達バルーン(くぼみゼロバルーン)として機能する。薬物送達膜が十分に弾力性ではないならば、薬物送達バルーンが拡張バルーン又はスコアリング構造に複数の異なる点で接続(接着剤で接着、溶接)されている(例えば、種々の位置でスポット溶接されている)場合、下にある拡張バルーンが収縮すると、この膜はなお、適正に再度折り畳まれるように誘導することができる(図1B(690)参照)。この場合、薬物送達膜は、拡張バルーンが収縮するときにこれがしわの寄った外観を呈すると考えられることから、多重折り畳みバルーン(multiple−fold balloon)として機能することができる。
【0085】
この構成では、組織のスコアリングされた領域に直接送達する他に、薬物送達膜は、スコアリングエレメントが直接には接触しなかった周囲の組織領域に薬物を送達することもできる。こうした周囲の組織により吸収された薬物はスコアリングされた組織に再狭窄が生じるのを防止するのにも有用であると考えられる。
【0086】
図3A、図3B及び図3Cに、薬物送達膜(610)が拡張バルーン(120)の上部であるがスコアリング構造(140)の下に配置される別の構成を示した。この種の構成では、大容量の治療剤類を管腔のスコアリング領域に正確に送達することができる。これを行うためには、薬物送達膜(610)に多数の細孔(660)をあける。これらの細孔の分布は、デバイスの製造プロセスによって決定することができる。一実施態様では、これらの細孔はスコアリングエレメント(140)の近傍に選択的に分布させることができる。
【0087】
この構成が所望される場合は、薬物送達膜及び細孔(660)が、薬物送達膜をスコアリングエレメントに複数の接触点(670)で溶接するか貼り付けることにより、スコアリングエレメントに対して適正な方向を維持するようにすることも有益であると考えられる。このように、細孔は、バルーン(120)の膨張及び収縮の全体を通じてスコアリングプロセスに対するその方向を維持することになる。
【0088】
この実施態様では、カテーテルの近位端(170)は、液(850)を加えたり抜いたりすることで拡張バルーン(120)を膨張及び縮小させるための第1の管、さらに、薬物送達膜(610)と拡張バルーンのスキン(810)との間のすき間(680)又は他の薬物送達膜薬物リザーバに治療剤類を投与するための第2の管を含むことができる。
【0089】
図3Bに図3Aで示した構造の外表面の拡大図を示した。この構成では、薬物送達膜(610)は、各種スコアリングエレメント(710)の近傍に位置する複数の小さな細孔(660)を有することができる。前述のように、拡張バルーン(120)/(810)が膨張及び収縮する時に薬物送達膜(610)とスコアリングエレメント(710)との間で良好な寸法関係を維持させるために、この実施態様では、薬物送達膜(610)は複数の接続点(670)でスコアリングエレメント(710)に断続的に接続させて示した。
【0090】
図3Cに拡張液及び薬物類の流れに焦点を合わせて、この実施態様がどのように作動するかについての詳細を示した。この実施態様では、管腔をスコアリングした後、そのスコアリングした領域に薬物を適用するプロセスは多段階プロセスである。
【0091】
図3Cに示した工程の前に行うプロセスでは、拡張バルーンの液は拡張バルーン(120)、(810)、(830)に適用され、バルーンの圧によってスコアリングエレメント(710)/(140)は体管腔を押して拡張し、班をスコアリングした。このプロセスは先に図2Aで示した。
【0092】
図3Cには、班がスコアリングされた後に、液状の薬物又は治療薬剤(600)をほぼ同時に加えながら、拡張バルーンの液を放出(860)させることにより拡張バルーン内の圧を軽度に緩和することができることを示した。タイミングが適正であれば、治療剤(600)は細孔(660)から流出し、理想的には、体管腔のスコアリングした領域(例えば、班)(図2B(230))に直接高用量の治療剤を送達することになる。薬物(600)は、必要ならば本体の外側にあるリザーバから適用することができるので、その状況に適切と思われるのと同量の薬物を適用することができる。
【0093】
図4A及び図4Bに本発明の別の実施態様を示した。この別の実施態様では、薬物送達膜(610)は材料として薄くて弾力性があり、しなやかなものを選ぶことにより、注入された治療剤(600)によりもたらされる小さな圧でも薬物送達膜を拡張させるのに十分であるようにした。しかしながら、薬物送達膜(610)は、それでもなお耐荷重性ではないので、膜(610)はスコアリングエレメント(710)/(140)を拡張させるのに十分な力を発揮しない。むしろ、薬物送達膜(610)はスコアリングエレメント(710)間において拡張する(図4B)。
【0094】
従って、薬物送達膜(610)により発揮される弱い圧では拡張しないスコアリングエレメント(710)/(140)は、拡張バルーン(120)/(810)によって発揮される大きな圧によってのみ拡張する。この実施態様では、薬物送達膜(610)は、ここで再びスコアリングエレメント(710)近傍に配置して示した複数の細孔(660)を穿孔させることもできる。
【0095】
図4Aに示した例では、オペレータがカテーテルを動脈中班閉塞部位まで挿入し、目下、拡張/膨張バルーン(120)(810)、(830)中に液(850)を注入することで動脈壁(200)の班標的(220)を押して拡張バルーン(120)/(810)を拡張させているところである。薬物(600)はまだ注入されていない。従って、薬物送達膜(610)は拡張する拡張バルーン壁(810)の上で、スコアリングエレメント(710)の下にある。拡張バルーン壁(810)の力によってスコアリングエレメント(710)が班(220)に当たってその中へ押し上げられる。
【0096】
図4Bは、スコアリングエレメント(710)が班(220)をスコアリングしてスコアリング領域(230)を作り出しており、目下、オペレータが、このスコアリングプロセスの直後で、カテーテルを本体から抜き取る前に、このスコアリングした領域を薬物又はその他の治療剤(600)で治療しようとしているところである。
【0097】
これを行うために、液状の治療剤(600)の注入を拡張バルーン液(860)の一部放出により調節する。拡張バルーン液(860)の除去とほぼ同じ速度で治療剤(600)が注入される場合、膨張カテーテルヘッド薬物送達膜(810)の全外容積は概ね変わらないままである。しかしながら、内部拡張バルーン(120)、(810)、(830)及びスコアリングエレメント(810)は収縮する。この容積は薄くてしなやかな薬物送達膜(610)の拡張によって取って代わられ、このとき、この膜はスコアリングエレメント(710)間において拡張し、その減少した容積にある程度取って代わる。このとき、薬物送達膜(610)はスコアリングされた領域(230)の一方の面で班(220)と接触する。この薬物送達膜(610)は、このスコアリング領域への外部液の侵入に対する部分的なバリアを形成する働きをし、この同じ部分的バリアが、注入された治療剤(600)をスコアリング領域(230)に局在化された状態に維持する働きをする。
【0098】
図4Bは作動中のこのプロセスを示したものである。拡張バルーン膜(810)によってもはや支持されていないスコアリングエレメント(710)は、班のスコアリング領域(230)からある程度引っ込み、スコアリング領域が露出される。こうしたスコアリング領域(230)に薬物送達膜の細孔(660)から治療剤(600)が導入される。最終的には、治療剤(600)がスコアリング領域(230)に高度に局在化され、その他の方法で可能であるかもしれない濃度よりもはるかに高い濃度で送達されるという結果になる。
【0099】
図5A、図5B及び図5Cに図1乃至図2及び図3乃至4の概念を組み合わせた本発明の別の実施態様を示した。この構成では、薬物送達膜(610)は多数の細孔(660)が通り抜けており、拡張バルーン(120)及びスコアリングエレメント(140)の両方の外側に装着されている。この構成の概略を図5Aに示し、この実施態様の細孔構成の拡大図を図5Bに示した。
【0100】
図5Bに示したように、薬物送達膜(610)は、この場合も複数の細孔(660)が通り抜けており、こうした細孔は、この場合も、所望であれば任意選択的にスコアリングエレメント(140/710)の分布に一致するように作製することができる。前述同様に、細孔(660)とスコアリングエレメント(140)/(710)との配置は、薬物送達膜(610)とスコアリングエレメント(140/710)との間の複数の溶接部又はスポット接着領域(670)で維持させることができる。
【0101】
この実施態様の動作を図5Cに示した。包括的概念は、図2Bでは薬物送達膜(610)をスコアリングエレメントによりスコアリング班領域に押し込み、薬物を直接的接触又は拡散のようなより受動的なプロセスによって膜(610)から放出させたこと以外は、先に図2Bに示したのと同様である。対照的に、図5Cには、薬物送達膜(610)が小さな細孔(660)を有し、薬物(600)がポンプで細孔から能動的に排出させ、スコアリング領域に送り込むより能動的なプロセスを示した(図2B(230))。
【0102】
5Cに示したように、拡張バルーンの壁(810)を先ず液(850)で膨張させることによって、スコアリングエレメント(710)を班(図には示されていない)に押し込み、班のスコアリング領域を作り出す(図には示されていない。同様な構成を示す図2Bを参照されたい)。このスコアリングプロセスの後、拡張バルーンから一部のバルーン液を放出(860)させる。ほぼ同時に、液状の薬物又は治療剤(600)を薬物送達膜(610)と拡張バルーン(810)との間のスペースにポンプで送り込むことができる。この薬物(600)は、先に図5Bに示したようにスコアリングエレメント(710)の近傍に配置することができる細孔(660)によって薬物送達膜(610)から放出させることができる。この場合もこの実施態様は班のスコアリング領域又はその近傍に薬物(600)を送達する。
【0103】
図6A、図6B及び図6Cに、薬物送達膜(610)の裂け目(655)に薬物を半乾燥、ポリマー混合又はヒドロゲル状態で貯蔵する本発明の別の実施態様を示した。こうした裂け目は、薬物送達膜(610)が各種スコアリングエレメント(140/710)の周囲でくるまり、しわが寄り、又は変形するときに形成される。この実施態様の概略を図6Aに示した。
【0104】
図6B及び図6Cにこの実施態様の詳細を示した。この実施態様では、通常、薬物送達膜(610)は弾力性がない。薬物送達膜は一応スコアリングケージ又はエレメント(140/710)の内側に装着されるが、これは通常、拡張バルーン(120/810)が液(850)により拡張させられた場合に拡張バルーン(120/810)と共に拡大するのに十分な余分の表面積を折り畳まれた形態で有する多重折り畳み膜であることになる。
【0105】
この場合、薬物送達膜(610)は、拡張バルーン(120/810)が収縮状態にある時に、スコアリングエレメント(140/710)が適当な薬物又は治療剤(601)と共に薬物送達膜のくぼみ(655)に貯蔵されるように構成される。この場合通常は、固体、半固体、ポリマー送達系又はヒドロゲル状態などの部分的に固定化された状態で貯蔵される。
【0106】
図6Cに示したように、スコアリングエレメント(710)が拡張バルーンの液(850)及び拡張バルーン壁(810)からの力によって拡張すると、膜のくぼみ(655)に担持された治療剤(601)は、スコアリングエレメント(710)が班をスコアリングすると同時に、班のスコアリング領域(図2B(230)参照)に投与される。
【0107】
本発明の方法及びシステムは、特に、疎水性及び脂溶性である薬物を送達するのに有用である。こうした薬物は、正確に分布させるのが難しい場合が多い。何故なら、水性媒体に溶解させるのが困難であり、他の脂質含有体成分などの非標的部位に他着しやすくもあるからである。しかしながら、本発明のデバイス及び方法を用いて標的に正確に送達した場合、一部の薬物(例えば、パクリタキセル及びシルリムス)の疎水性及びこうした薬物が脂溶性(即ち、細胞膜及びリポソームに高親和性)であるという事実はその薬物を標的領域により長時間保持するのを容易にする。これにより、標的部位に送達される薬物の送達時及び送達後の血中への溶解によるロスが最小限に抑えられる。
【0108】
具体的な例では、先ず、薬物送達膜の露出表面の少なくとも一部分に吸収性又は非吸収性ポリマーマトリックスを貼り付け、その後、この薬物送達膜ポリマー担体マトリックスの多孔性構造中に薬物を吸収させることができる。
【0109】
薬物の送達に用いられるスコアリングカテーテル関連膜システム中のポリマーマトリックスは、薬物溶出ステント用に薬物の送達に用いられるポリマーマトリックスとは異なる性質を有する場合が多いと考えられる。薬物溶出ステントは数日又は数週間の期間にわたって薬物を放出するように設計されているが、本発明の薬物送達膜は、多くの場合、数秒間乃至数分間といった極めて短い時間にわたって薬物を放出するように設計される。従って、薬物溶出ステントとは対照的に、本膜送達システムはすみやかに溶解するポリマー及び急速薬物放出ポリマーの両方を利用することができる。
【0110】
好適なポリマー担体は、ポリ乳酸類(PLA)、ポリグリコール酸類(PLG)、コラーゲン類などを含む吸収性の担体とすることができる。或いは、ポリマー担体は、多孔性シリコン又はポリエチレンのような多孔性であるが非吸収性の材料とすることができる。Poly Ethylene Oxide(PEO)などのヒドロゲルを用いることができ、これは薬物を膨潤及びエロージョン(erosion)によって放出することができる。ポリヒドロキシアルカノエートを初めとする分解性ポリマーも用いることができる。このポリマーはスコアリングエレメントの諸支柱を被覆することができ、或いは、こうしたスコアリングエレメントの諸支柱の少なくとも一部の間又は上記の任意の組合せ間にフィルムを創出することができる。
【0111】
場合によっては、拡張した構造を示すときにより迅速に薬物を浸透、溶出させるが、拡張の少ない構造を示すときにそのような薬物が浸透、溶出するのを妨げる材料から薬物送達膜のポリマー及び構造体を選ぶことが有利なことがある。この場合、このようにしてそうした薬物溶出膜は、カテーテルが標的区域に導入されつつあり、下のバルーンが収縮している間、薬物を保持し続けやすいが、それにもかかわらず正確な標的区域で薬物を速やかに放出しやすいので、こうした性質はとくに有益である。これは、正確な標的区域では、オペレータが下のバルーンを拡張させ、次にこのバルーンが薬物送達膜をより大きな直径へと拡大させることになるためである。薬物送達膜中の薬物担持材料の構造も拡張することになるので、より速やかに薬物が放出されることになる。
【0112】
この膜システムは、多くの各種管腔の疾患及び症状の治療に有用な薬物を含む極めて多種多様な活性物質を送達することができる。本発明により送達することができる多くの薬物、治療剤、医薬品及び活性物質の一部を以下に記載した:
(1)ビンカアルカロイド類(即ち、ビンブラスチン、ビンクリスチン及びビノレルビン)、パクリタキセル、エピジポドフィロトキシン類(即ち、エトポシド、テニポシド)、抗生物質(ダクチノマイシン、アクチノマイシンD、ダウノルビシン、ドキソルビシン及びイダルビシン)、アントラサイクリン類、ミトキサントロン、ブレオマイシン類、プリカマイシン(ミトラマイシン及びマイトマイシンなどの天然物、酵素(L−アスパラギンを全身性に代謝し、自らのアスパラギンを合成する能力を有しない細胞を取り除くL−アスパラギナーゼ)などの抗増殖剤及び有糸分裂阻害剤;
(2)G(GP)II.b/III.a阻害剤などの抗血小板剤及びビトロネクチン受容体アンタゴニスト類
(3)ナイトロジェンマスタード類(メクロレタミン、シクロホスファミドとそのアナログ類、メルファラン、クロラムブシル)、エチレンイミン類、メチルメラミン類(ヘキサメチルメラミン及びチオテパ)、スルホン酸アルキル−ブスルファン類、ニトロソウレア類(カルムスチン(BCNU)とそのアナログ類、ストレプトゾシン)、トラゼン−ダカルバジニン(DTIC)などのアルキル化剤;
(4)葉酸アナログ類(メトトレキサート)、ピリミジンアナログ類(フルオロウラシル、フロクシウリジン及びシタラビン)、プリンアナログ類並びに関連阻害剤(メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチン及び2−クロロデオキシアデノシン(クラドリビン))などの抗増殖剤及び抗有糸分裂代謝拮抗剤;
(5)シスプラチン、カルボプラチン、プロカルバジン、ヒドロキシウレア、ミトタン、アミノグルテチミドなどの白金配位錯体類;
(6)ホルモン類(例えば、エストロゲン);
(7)抗凝固剤(ヘパリン、合成ヘパリン塩及び他のトロンビン阻害剤);
(8)(組織プラスミノゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ、及びウロキナーゼなどの)フィブリン溶解剤、アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキマブ;
(9)抗移動剤(antimigratory agents);
(10)抗分泌剤(ブレベルジン)
(11)副腎皮質ステロイド(コルチゾール、コルチゾン、フルドロコルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、6.アルファ−メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、及びデキサメタゾン)、非ステロイド剤(サリチル酸誘導体、即ち、アスピリン;パラアミノフェノール誘導体、即ち、アセトアミノフェンなどの抗炎症剤;
(12)インドール及びインデン酢酸類(インドメタシン、スリンダク及びエトドラク)、ヘテロアリール酢酸類(トルメチン、ジクロフェナク及びケトロラク)、アリールプロピオン酸類(イブプロフェンとその誘導体)、アントラニル酸類(メフェナム酸及びメクロフェナム酸)、エノール酸類(ピロキシカム、テノキシカム、フェニルブタゾン及びオキシフェンタトラゾン)、ナブメトン、金化合物(オーラノフィン、金チオグルコース、金チオリンゴ酸ナトリウム);
(13)シクロスポリン、タクロリムス(FK−506)、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、ミコフェノール酸、モフェチルなどの免疫抑制剤;
(14)血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)などの血管形成剤;
(15)アンジオテンシン受容体遮断剤;
(16)酸化窒素供与体類;
(17)アンチセンスオリゴヌクレオチド類及びその組合せ;
(18)細胞周期阻害剤、mTOR阻害剤及び成長因子受容体シグナル伝達キナーゼ阻害剤;
(19)レテノイド類;
(20)サイクリン/CDK阻害剤;
(21)HMG補酵素還元酵素阻害剤(スタチン類);並びに
(22)プロテアーゼ阻害剤。
【0113】
さらに、ウイルス遺伝子ベクター、アンチセンス剤などの核酸試薬を用いることができ、或いは、インビボ改変幹細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、衛星細胞、周皮細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、マクロファージなどの生細胞を用いることができる。
【0114】
別の実施態様では、再狭窄に関与する標的(例えば、平滑筋、凝固、組織因子又は血小板)に結合するように設計された抗体、特に、モノクロナール抗体、を用いることもできる。
【0115】
治療剤の他に、管腔の状態を視覚化するのを容易にするために、X線不透過性造影剤、磁気共鳴イメージング(MRI:magnetic resonance imaging)色素(造影剤)、又は超音波造影剤などの診断剤を用いることができる。或いは、発色性色素、蛍光色素又は発光染料(造影剤)を用いることもできる。
【0116】
このデバイスを製造する方法には種々ある。1つの方法は、薬物送達膜を複数の薬物スコアリングエレメントを覆って巻くか包んだ後、この膜をこれらの薬物スコアリングエレメントに結合させることである。或いは、薬物送達膜は弾性バルーン様材料で作ることができ(この場合、Pellethane又はその他の熱可塑性エラストマーを用いることができる)、次いで、この弾性薬物送達膜を近位又は遠位カテーテル端に、拡張バルーンが結合されている位置又はその近傍で結合させることができる。
【0117】
或いは、薬物送達膜は、ちょうどバルーンを製造する場合のように、空気又は真空吹き込み法により押し出し材から形成させることができる。この場合、吹き込まれる管の遠位及び近位端に接続タブを取り付けることになる。通常、こうした膜の肉厚は厚さ約0.0005”乃至0.0020”となる。
【0118】
ただし、このバルーン吹き込み法は、薬物送達膜に肉眼で見えるような細孔を普通はもたらさないことに留意されたい。従って、(以下に示す例で述べるように)薬物送達のためにそのような細孔が所望される場合には、後の製造工程においてレーザー打抜き、光化学エッチング又は何らかの他の穿孔方法によってこうした細孔を作り出すことができる。
【0119】
その後、このバルーン形薬物送達膜はスコアリングエレメント構造体の上部に装着し、任意選択的に、スコアリングエレメント及びカテーテルの特定の領域乃至部分で接続することができる。一部の実施態様では、次に、この薬物送達膜を薬物又は薬物とポリマーを組み合わせたもので被覆することができる。
【0120】
薬物送達膜上に薬物を搭載する方法には種々ある。1つの方法としては、下にあるバルーンを拡張させ、薬物又は薬物ポリマーを吹き付け被覆その他の方法で薬物送達膜に適用し、任意選択的に薬物又は薬物−ポリマー混合物の揮発性部分を乾燥させ、その後、下のバルーンを縮小させる。吹き付け被覆の他に、薬物その他の活性物質は、浸せき、塗装、蒸着、スピンコーティングなどの他の従来の技術により薬物送達膜の片面又は両面の領域に適用することができる。
【0121】
活性物質は、基本的に純粋な状態、即ち、担体、希釈剤、佐剤、調節剤、賦活剤などを含まない状態で適用することができる。しかしながら、一般には、活性物質は、所望の時間にわたって、又は体管腔への薬物送達膜の接触時に直ちに薬物の放出を促進又は制御することができる適切な担体、マトリックスその他の化学構造体と共に、又はこれらに混合して適用することになる。例えば、活性物質(類)は、ポリマーナノ粒子又はポリマー微小粒子のような生分解性又は生体吸収性マトリックス中に含ませることができる。
【0122】
本発明の他の実施態様では、スコアリングユニット(140)は、拡張バルーン(120)に一端又は両端を接着剤で接着、熱的に結合、融合又は機械的に付着させることができる。或いは、薬物送達膜(610)は、らせん形ユニット(スコアリングエレメント)又は拡張バルーンに複数の位置で接着剤により接着、熱的に結合、融合又は機械的に付着させることができる。
【0123】
多くの代替スコアリングエレメントを用いることができる。このスコアリング構造は、らせん形その他の形状で拡張バルーンに取り付けるワイヤを含むことができる。こうしたワイヤは、拡張バルーンに熱的に結合させるか、接着剤で接着、機械的に付着するなどして取り付ける。また、スコアリング構造は、このスコアリング構造と拡張バルーンとを組み合わせても可撓性が維持されるように拡張バルーンの長手方向軸に平行ではないワイヤ又はケージエレメントを含むこともできる。
【0124】
こうしたスコアリング構造はバルーン又は他のシェルに直接取り付けることができ、場合によってはバルーン材中に埋め込むことができるが、より普通には、バルーンを覆って配置し、バルーンの両側の取り付けエレメントを介してカテーテルに取り付ける別のケージ構造として形成することになる。
【0125】
こうした拡張可能ケージは、ステントを作るのに用いられる技術などやハイポチューブその他の管構造のレーザー切断、ハイポチューブ及び管のEDM成型、ワイヤ及びその他の部品の溶接などの通常の医療機器製造技術を用いて形成することができる。
【0126】
通常、このような拡張可能シェル構造体は取り付けエレメント及び取り付けエレメント間の中間スコアリング部を含むことになる。上記の実施態様で示したように、こうした取り付けエレメントは、バルーン又はその他の拡張可能シェルの両面上のカテーテル本体を囲む単純な円筒状又は管状の構造体とすることができる。この単純な管状の構造体は、カテーテル本体を覆って浮かせる(即ち、結合させない)ことができ、又はカテーテル本体に固定することができる。取り付けエレメントに関する別のいくつかの実施態様については以下の実施態様に関連して説明する。
【0127】
中間スコアリング部は、複数のスコアリングエレメントの少なくとも一部が通常、非軸構造で、即ち、拡張可能ケージの軸方向に平行でない方向に配置されることになる種々の構造を有することもできる。中間スコアリング部の好ましい構造は、おおむね先の実施態様に示したように、1個以上のらせん形エレメントを含む。他の例示的な構造については下記の実施態様において記載する。
【0128】
一般に、らせん型のスコアリングエレメント(140)などの拡張可能ケージ構造は、拡張バルーンの両側でカテーテル本体に固定された取り付けエレメントを有する拡張バルーン(120)を覆って装着されることになる。管状又は円筒状の取り付けエレメント(150)(160)は、カテーテル本体を覆って単純に浮かせることができる。しかしながら、他の実施態様では、カテーテル本体に取り付けエレメントの一方又は両方を取り付けるための接着剤その他の手段を用いることが望ましいと考えられる。しかしながら、少なくとも一方の取り付けエレメントを浮かせることが望ましい場合が多い。何故なら、これは、中間スコアリング部が半径方向に拡張する時にこの部の短縮に適応することができるからである。しかしながら、別の場合では、個々のスコアリングエレメントはそのような短縮に適応するのに十分な弾性を有することができる。例えば、ニチノール及びその他の形状記憶合金は、通常、場合によってはバルーンの半径方向の拡張によって中間スコアリング部に加わるいかなる張力にも適応するのに十分である8%程度の大きな伸縮性を有する。
【0129】
このシステムの弾性は、スコアリング構造体、バルーン又は薬物送達膜の材料、肉厚又は長さのいずれか1つ又は組合せたものを変更することにより調整することができる。このデバイスを送達するのに用いるカテーテルチューブは、Nylon、Pebax又はPETのような弾性ポリマーなどの任意のエラストマーを含むことができる。通常、カテーテルチューブは押出チューブから形成されるが、ポリマーもしくは金属の繊維又は金網を含むこともできる。ニチノール又はステンレス鋼のような高度形状記憶合金を用いることもできる。
【0130】
一部の実施態様では、スコアリング構造体(140)、拡張バルーン(120)及び、任意選択的に薬物送達膜(610)の弾性は、半径方向に拡張可能なシェルの拡張又は収縮時にマニピュレータを作動させることにより制御する。一態様では、取り付け構造体は、拡張バルーンが膨張又は収縮しつつある時に、カテーテル本体に対して軸方向に進めることができる。例えば、拡張バルーンが拡張されつつある間に、取り付け構造体をカテーテル本体の遠位端に向けて押すことにより、拡張バルーンの弾性を抑制することができる。また、拡張バルーンが収縮しつつある間又はその後に、取り付け構造体をカテーテル本体の遠位端から引き離すことにより、バルーン及びスコアリング構造体のプロフィルを最小化することもできる。或いは、マニピュレータ(図には示されていない)を用いてカテーテル本体に対して取り付け構造体を回転させることにより、折り畳まれた状態から拡張された状態への移行過程及び折り畳まれた状態へ戻る過程で拡張バルーン及びスコアリング構造体の弾性を制御することができる。
【0131】
拡張バルーン及びスコアリング構造体の形状を操作することの他に、薬物送達膜及び又は治療剤類の送達もこの手順の過程でオペレータの制御下に置くこともできる。この制御は、各種ポンプ、スイッチ、モータ、制御棒、シャフト、ワイヤなどの、カテーテルチューブの遠位端の種々の機構によって遂行することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管壁を治療するためのシステムであって、
近位端及び遠位端を有するカテーテル本体を含むカテーテル、
該カテーテルの遠位端に配置された拡張可能スコアリング構造体、
該拡張可能スコアリング構造体の少なくとも一部分を覆って配置されるようにした膜、及び
該膜上又は中に隔離された物質であって、該物質の少なくとも一部分は、該スコアリング構造体が体管腔内で拡張された時に、該膜から放出されるものとする物質
を含むシステム。
【請求項2】
該拡張可能スコアリング構造体が膨張可能バルーンを含む請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
該拡張可能スコアリング構造体が該バルーンを覆って配置されたケージをさらに含み、該ケージは該バルーンの膨張と共に開き、収縮時に該バルーンを覆って弾性的に閉じるものとする請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
該膜が少なくとも部分的に該ケージ構造体を覆って配置される請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
該膜が少なくとも部分的に該ケージ構造体と該バルーンとの間に配置される請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
該膜が該拡張可能スコアリング構造体を覆って配置されるようにチューブ状の幾何形状にされた請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
該膜が該拡張可能スコアリング構造体を覆って巻かれるようにされたシートを含む請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
該膜が、該バルーンが膨張し、収縮する時に、拡張し、収縮することができるように弾力性がある請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
該膜が非拡張可能又は半弾性であり、該バルーンが膨張する前に該バルーンを覆って折り畳まれる請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
該物質が抗増殖剤、抗有糸分裂剤、抗血小板剤、アルキル化剤、白金配位錯体類、ホルモン類、抗凝固剤、フィブリン溶解剤、抗移動剤、抗分泌剤、抗炎症剤、インドール酢酸類、インデン酢酸類、免疫抑制剤、血管形成剤、アンジオテンシン受容体遮断剤、酸化窒素供与体類、アンチセンスオリゴヌクレオチド類、細胞周期阻害剤、mTOR阻害剤、成長因子受容体シグナル阻害剤、伝達キナーゼ阻害剤、レチノイド類、サイクリン/CDK阻害剤、HMG補酵素還元酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、ウイルス遺伝子ベクター類、幹細胞類、インビボ改変幹細胞類、マクロファージ、モノクロナール抗体類、パクリタキセル、シルリムス、X線造影剤、MRI造影剤、超音波造影剤、発色性色素、蛍光色素及び発光染料からなる群から選ばれる請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
該物質がポリマーナノ粒子及びポリマー微小粒子からなる群から選ばれる生分解性又は生体吸収性マトリックス中に存在する請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
該膜がポリマーを含む請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
該ポリマーがPebax、ポリウレタン、ゴム、ポリスルホン、ナイロン11、ナイロン12、エチレン−酢酸ビニルコポリマー類、エチレン−アクリレートエステルコポリマー類、ビニルピロリドン−酢酸ビニル、スチレンアクリルポリマー、エチレンアクリル酸コポリマー、カルボキシル官能アクリルポリマー、ヒドロキシル官能アクリルポリマー、アクリル分散ポリマー、ポリ(グリコールメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸スルファナトエチル)、ポリ(エチレン−コ−酢酸ビニル)、ポリ(アクリル酸エチル)、ポリ(ウレタン−アクリレート)、ポリ(アクリルアミド−コ−メタクリル酸エチル)、ポリ(ジビニルベンゼン)、ポリ(トリエチレングリコール−コ−ジビニルエーテル)、ポリ(トリメチロールプロパントリアクリレート)、ポリ(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、ポリ(ビスフェノールAエトキシレートジアクリレート)、ポリ(アリルエーテル)、ポリ(マレイン酸ジアリル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(イソシアヌル酸トリアリル)、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコールコポリマー、コラーゲン、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド及びポリヒドロキシアルカノエートからなる群から選ばれる請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
該ポリマーマトリックスが浸透性であり、該物質がこれに吸収される請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
該物質が膜の表面に被覆される請求項11に記載のシステム。
【請求項16】
該ポリマーが血管環境において溶解可能である請求項11に記載のシステム。
【請求項17】
該薬物が該ポリマー内に分散され、該ポリマーが血管環境において溶解する時に放出される請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
管腔壁を治療する方法であって、
患者の体管腔中の治療部位に拡張可能スコアリング構造体を配置し、
該スコアリング構造体が該管腔壁の、又は該管腔壁上の領域をスコアリングするように該スコアリング構造体を拡張し、及び
最も少ないように部分的に該拡張可能スコアリング構造体を覆って配置された膜からスコアリングされたものの中に物質を放出する
ことを含む方法。
【請求項19】
該スコアリング構造体が、該物質が血管壁の閉塞物中に放出されるように該閉塞物をスコアリングする請求項17に記載の方法。
【請求項20】
該スコアリング構造体が、該物質が該血管壁中に放出されるように該血管壁をスコアリングする請求項17に記載の方法。
【請求項21】
該物質が抗増殖剤、抗有糸分裂剤、抗血小板剤、アルキル化剤、白金配位錯体類、ホルモン類、抗凝固剤、フィブリン溶解剤、抗移動剤、抗分泌剤、抗炎症剤、インドール酢酸類、インデン酢酸類、免疫抑制剤、血管形成剤、アンジオテンシン受容体遮断剤、酸化窒素供与体類、アンチセンスオリゴヌクレオチド類、細胞周期阻害剤、mTOR阻害剤、成長因子受容体シグナル阻害剤、伝達キナーゼ阻害剤、レチノイド類、サイクリン/CDK阻害剤、HMG補酵素還元酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、ウイルス遺伝子ベクター類、幹細胞類、インビボ改変幹細胞類、マクロファージ、モノクロナール抗体類、パクリタキセル、シルリムス、X線造影剤、MRI造影剤、超音波造影剤、発色性色素、蛍光色素及び発光染料からなる群から選ばれる請求項17に記載の方法。
【請求項22】
拡張がその上にスコアリングケージを有するバルーンを膨張させることを含む請求項17に記載の方法。
【請求項23】
該膜が該スコアリングケージを覆って配置される請求項21に記載の方法。
【請求項24】
該膜が該スコアリングケージと該バルーンとの間に配置される請求項21に記載の方法。
【請求項1】
血管壁を治療するためのシステムであって、
近位端及び遠位端を有するカテーテル本体を含むカテーテル、
該カテーテルの遠位端に配置された拡張可能スコアリング構造体、
該拡張可能スコアリング構造体の少なくとも一部分を覆って配置されるようにした膜、及び
該膜上又は中に隔離された物質であって、該物質の少なくとも一部分は、該スコアリング構造体が体管腔内で拡張された時に、該膜から放出されるものとする物質
を含むシステム。
【請求項2】
該拡張可能スコアリング構造体が膨張可能バルーンを含む請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
該拡張可能スコアリング構造体が該バルーンを覆って配置されたケージをさらに含み、該ケージは該バルーンの膨張と共に開き、収縮時に該バルーンを覆って弾性的に閉じるものとする請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
該膜が少なくとも部分的に該ケージ構造体を覆って配置される請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
該膜が少なくとも部分的に該ケージ構造体と該バルーンとの間に配置される請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
該膜が該拡張可能スコアリング構造体を覆って配置されるようにチューブ状の幾何形状にされた請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
該膜が該拡張可能スコアリング構造体を覆って巻かれるようにされたシートを含む請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
該膜が、該バルーンが膨張し、収縮する時に、拡張し、収縮することができるように弾力性がある請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
該膜が非拡張可能又は半弾性であり、該バルーンが膨張する前に該バルーンを覆って折り畳まれる請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
該物質が抗増殖剤、抗有糸分裂剤、抗血小板剤、アルキル化剤、白金配位錯体類、ホルモン類、抗凝固剤、フィブリン溶解剤、抗移動剤、抗分泌剤、抗炎症剤、インドール酢酸類、インデン酢酸類、免疫抑制剤、血管形成剤、アンジオテンシン受容体遮断剤、酸化窒素供与体類、アンチセンスオリゴヌクレオチド類、細胞周期阻害剤、mTOR阻害剤、成長因子受容体シグナル阻害剤、伝達キナーゼ阻害剤、レチノイド類、サイクリン/CDK阻害剤、HMG補酵素還元酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、ウイルス遺伝子ベクター類、幹細胞類、インビボ改変幹細胞類、マクロファージ、モノクロナール抗体類、パクリタキセル、シルリムス、X線造影剤、MRI造影剤、超音波造影剤、発色性色素、蛍光色素及び発光染料からなる群から選ばれる請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
該物質がポリマーナノ粒子及びポリマー微小粒子からなる群から選ばれる生分解性又は生体吸収性マトリックス中に存在する請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
該膜がポリマーを含む請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
該ポリマーがPebax、ポリウレタン、ゴム、ポリスルホン、ナイロン11、ナイロン12、エチレン−酢酸ビニルコポリマー類、エチレン−アクリレートエステルコポリマー類、ビニルピロリドン−酢酸ビニル、スチレンアクリルポリマー、エチレンアクリル酸コポリマー、カルボキシル官能アクリルポリマー、ヒドロキシル官能アクリルポリマー、アクリル分散ポリマー、ポリ(グリコールメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸スルファナトエチル)、ポリ(エチレン−コ−酢酸ビニル)、ポリ(アクリル酸エチル)、ポリ(ウレタン−アクリレート)、ポリ(アクリルアミド−コ−メタクリル酸エチル)、ポリ(ジビニルベンゼン)、ポリ(トリエチレングリコール−コ−ジビニルエーテル)、ポリ(トリメチロールプロパントリアクリレート)、ポリ(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、ポリ(ビスフェノールAエトキシレートジアクリレート)、ポリ(アリルエーテル)、ポリ(マレイン酸ジアリル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(イソシアヌル酸トリアリル)、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコールコポリマー、コラーゲン、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド及びポリヒドロキシアルカノエートからなる群から選ばれる請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
該ポリマーマトリックスが浸透性であり、該物質がこれに吸収される請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
該物質が膜の表面に被覆される請求項11に記載のシステム。
【請求項16】
該ポリマーが血管環境において溶解可能である請求項11に記載のシステム。
【請求項17】
該薬物が該ポリマー内に分散され、該ポリマーが血管環境において溶解する時に放出される請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
管腔壁を治療する方法であって、
患者の体管腔中の治療部位に拡張可能スコアリング構造体を配置し、
該スコアリング構造体が該管腔壁の、又は該管腔壁上の領域をスコアリングするように該スコアリング構造体を拡張し、及び
最も少ないように部分的に該拡張可能スコアリング構造体を覆って配置された膜からスコアリングされたものの中に物質を放出する
ことを含む方法。
【請求項19】
該スコアリング構造体が、該物質が血管壁の閉塞物中に放出されるように該閉塞物をスコアリングする請求項17に記載の方法。
【請求項20】
該スコアリング構造体が、該物質が該血管壁中に放出されるように該血管壁をスコアリングする請求項17に記載の方法。
【請求項21】
該物質が抗増殖剤、抗有糸分裂剤、抗血小板剤、アルキル化剤、白金配位錯体類、ホルモン類、抗凝固剤、フィブリン溶解剤、抗移動剤、抗分泌剤、抗炎症剤、インドール酢酸類、インデン酢酸類、免疫抑制剤、血管形成剤、アンジオテンシン受容体遮断剤、酸化窒素供与体類、アンチセンスオリゴヌクレオチド類、細胞周期阻害剤、mTOR阻害剤、成長因子受容体シグナル阻害剤、伝達キナーゼ阻害剤、レチノイド類、サイクリン/CDK阻害剤、HMG補酵素還元酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、ウイルス遺伝子ベクター類、幹細胞類、インビボ改変幹細胞類、マクロファージ、モノクロナール抗体類、パクリタキセル、シルリムス、X線造影剤、MRI造影剤、超音波造影剤、発色性色素、蛍光色素及び発光染料からなる群から選ばれる請求項17に記載の方法。
【請求項22】
拡張がその上にスコアリングケージを有するバルーンを膨張させることを含む請求項17に記載の方法。
【請求項23】
該膜が該スコアリングケージを覆って配置される請求項21に記載の方法。
【請求項24】
該膜が該スコアリングケージと該バルーンとの間に配置される請求項21に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【公表番号】特表2010−540185(P2010−540185A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528133(P2010−528133)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/078607
【国際公開番号】WO2009/046206
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(506053087)アンジオスコア, インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/078607
【国際公開番号】WO2009/046206
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(506053087)アンジオスコア, インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】
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