説明

蛋白質結合性高分子とその用途

【課題】本発明では、蛋白質を安定に包含した安定な粒子を形成し、粒子径が約100から200nmのものとなるような蛋白質と高分子の静電複合体粒子を作製し提供することである。これにより、腸管あるいは粘膜等から吸収され、生体内に取り込まれることが可能となるため、新たな蛋白質の経口あるいは非経口の投与方法を提供できる。
【解決手段】、式1のアニオン性高分子を作製し、塩基性蛋白質と静電複合体を形成させることができることを見出し、この静電複合体が塩基性蛋白質の高分子キャリヤーとして機能することを明らかにした。
【化1】


[式中、Aはカルボキシル基、p−(ナトリウムカルボキシレート)フェニル基またはp−(ナトリウムスルホネート)フェニル基を表し、nは5から347の整数を表す。分子量が4000から100000である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質を包含して所望の部位に搬送できる高分子キャリヤーに関するものである。更には、この高分子キャリヤーを用いて、経口または非経口の投与を可能にする、蛋白質との静電複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組み換え技術の確立により、生理活性蛋白質の大量生産が可能となり、小人症に対するhGH補充療法、悪性貧血や癌化学療法時のEPO, G−CSFによる造血療法などの医療分野で、多大な貢献をもたらしている。カルシトニンやインスリン、hGHについても、遺伝子組み換え技術にて量産が可能となっている。しかし、これら蛋白質やペプチドをもっと多くの患者に広範に適応するには、在宅においても服用が可能な経口製剤、経粘膜製剤の開発が必要である。
非特許文献2、3に示されるように、蛋白質の消化管吸収性を改善するための方策が種々検討されている。非特許文献3では、従来の試みは充分なものではないと考え、蛋白質を脂肪酸で化学修飾して、消化管における吸収性と安定性を向上させている。
このように、蛋白質に関する製剤処方は多く報告されているが、その効果は不十分で、さらに優れた高分子キャリヤーが求められている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−092388
【非特許文献1】Biochem. Biophys. Res. Commun., 338, 1499−1506(2005)
【非特許文献2】日本臨床,56(3),589−594(1998)
【非特許文献3】日本臨床,56(3),601−607(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明では、分岐鎖を有するアニオン性ポリマーを構成要素とする蛋白質の結合性高分子キャリヤーを提供することを目的とする。また、該高分子キャリヤーと蛋白質との間で形成される静電複合体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために、式1のアニオン性高分子化合物を作製したところ、本発明の高分子化合物が蛋白質と静電複合体を形成して、蛋白質の高分子キャリヤーとなることを見出した。
【化1】


[式中、Aはカルボキシル基、p−(ナトリウムカルボキシレート)フェニル基またはp−(ナトリウムスルホネート)フェニル基を表し、nは5から347の整数を表す。分子量が4000から100000である。]
【0006】
更に、式1のアニオン性高分子化合物の蛋白質との凝集安定性を向上させるために、アニオン性高分子と感温性高分子をブロック化して以下の式2の高分子化合物を作製した。
【化2】


[式中、Aはカルボキシル基、p−(ナトリウムカルボキシレート)フェニル基またはp−(ナトリウムスルホネート)フェニル基を表し、nは4から347の整数を表す。BはN,N−ジメチルアミノカルボニル基またはN−イソプロピルアミノカルボニル基を表わし、mは2から253の整数を表わす。分子量が4000から100000である。]
上記式1と式2のアニオン性高分子化合物を用いて、例えば塩基性蛋白質との静電複合体を作製すると、この静電複合体はアニオン性の静電複合体となっている。
【0007】
本発明者らは、これまでの遺伝子治療用高分子キャリヤーの研究から、カチオン性のキャリヤー粒子が細胞吸収性に優れていることを見出しているので、この知見を蛋白質にも適用し、更に上記静電複合体の腸管での吸収性を向上させるために、上記塩基性蛋白質の静電複合体粒子の外層に以下の式3のカチオン性高分子化合物を付加させ、新たなカチオン性の静電複合体粒子を作製した。
【化3】


[式中、Cが3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアミノカルボニル基またはN−イソプロピルアミノカルボニル基を表わし、nは5から252の整数を表す。Bは3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアミノカルボニル基、N,N−ジメチルアミノカルボニル基またはN−イソプロピルアミノカルボニル基を表わし、mは5から252の整数を表わす。分子量が4000から100000である。]
【0008】
本発明者らは、塩基性蛋白質と上記のアニオン性高分子化合物やカチオン性高分子化合物との静電複合体粒子を作製し、経口的に投与したところ、腸管から吸収されやすいことを見出した。これらの結果から、本発明のアニオン性高分子化合物とカチオン性高分子化合物を使用すれば、塩基性蛋白質や酸性蛋白質の新たなキャリヤーになり得ることを見出した。特に、塩基性蛋白質のアニオン性静電複合体粒子にカチオン性高分子化合物を付加させた粒子は、塩基性蛋白質を経口的に腸管で吸収させるため新たなツールとして有効であることを見出した。以上に知見に基づいて本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)下記の式1:
【化1】


[式中、Aはカルボキシル基、p−(ナトリウムカルボキシレート)フェニル基またはp
−(ナトリウムスルホネート)フェニル基を表し、nは5から347の整数を表す。]で示される、分子量が4000から100000であるアニオン性高分子化合物。
(2)分子量が10000以上である、上記(1)記載のアニオン性高分子化合物。
(3)nが23から87である、上記(1)又は(2)に記載のアニオン性高分子化合物。
【0010】
(4)下記の式2:
【化2】


[式中、Aはカルボキシル基、p−(ナトリウムカルボキシレート)フェニル基またはp−(ナトリウムスルホネート)フェニル基を表し、nは4から347の整数を表す。BはN,N−ジメチルアミノカルボニル基またはN−イソプロピルアミノカルボニル基を表わし、mは2から253の整数を表わす。]で示される、分子量が4000から100000である、アニオン性高分子化合物。
(5)分子量が10000以上である、上記(4)記載のアニオン性高分子化合物。
(6)Aがカルボキシル基であり、BがN−イソプロピルアミノカルボニル基である、上記(4)または(5)記載のアニオン性高分子化合物。
(7)nが23から87の整数を表わし、mが11から25の整数を表わす、上記(4)から(6)のいずれかに記載のアニオン性高分子化合物。
【0011】
(8)下記の式3:
【化3】


[式中、Cが3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアミノカルボニル基またはN−イソプロピルアミノカルボニル基を表わし、nは5から252の整数を表す。Bは3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアミノカルボニル基、N,N−ジメチルアミノカルボニル基またはN−イソプロピルアミノカルボニル基を表わし、mは5から252の整数を表わす。]で示される、分子量が4000から100000である、カチオン性高分子化合物。
(9)分子量が10000以上である、上記(8)記載のカチオン性高分子化合物。
(10)Bが3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアミノカルボニル基、CがN−イソプロピルアミノカルボニル基である、上記(8)または(9)記載のカチオン性高分子化合物。
(11)nが5から161の整数を表わし、mが7から252の整数を表わす、上記(8)から(10)のいずれかに記載のカチオン性高分子化合物。
(12)Cが3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアミノカルボニル基、BがN−イソプロピルアミノカルボニル基である、上記(8)または(9)記載のカチオン性高分子化合物。
(13)nが7から252の整数を表わし、mが5から161の整数を表わす、上記(12)に記載のカチオン性高分子化合物。
【0012】
(14)塩基性蛋白質と上記(1)から(7)に記載のアニオン性高分子化合物との静電複合体であって、蛋白質の重量を1として、該化合物が重量比で1から32の組成である塩基性蛋白質の静電複合体粒子。
(15)塩基性蛋白質と上記(1)から(7)に記載のアニオン性高分子化合物との静電複合体であって、蛋白質の重量を1として、該化合物が重量比で3から32の組成である塩基性蛋白質の静電複合体粒子。
(16)該静電複合体粒子がアニオン性であり、粒子径が50から250nmである、上記(14)又は(15)記載の塩基性蛋白質の静電複合体粒子。
(17)塩基性蛋白質が、カルシトニンまたはヒト成長ホルモンである、上記(14)から(15)のいずれかに記載の静電複合体粒子。
(18)上記(15)から(17)に記載の静電複合体粒子に、上記(8)から(13)のカチオン性高分子化合物を静電複合体形成に使用したアニオン性高分子化合物の0.5から4倍量を付加して得られる付加粒子。
【発明の効果】
【0013】
塩基性蛋白質は、本発明の式1と式2のアニオン性高分子化合物と静電複合体を形成し、また、酸性蛋白質は式3のカチオン性高分子化合物と静電複合体を形成する。細胞表面はアニオン性であるため、腸管吸収を促進させるためには、静電複合体の荷電はカチオン性であることが望ましい。塩基性蛋白質の場合、本発明の式1と式2のアニオン性高分子化合物と反応して生成する静電複合体粒子はアニオン性となるため、更に式3のカチオン性高分子化合物を添加して、粒子の外層がカチオン性となった付加粒子を形成させる。これにより、このカチオン性付加粒子は腸管吸収性が向上した。一方、酸性蛋白質の場合には、式3のカチオン性高分子化合物との静電複合体はカチオン性となるため、この複合体を使用することにより、腸管吸収性の向上が可能である。
このように、蛋白質が塩基性であるか酸性であるかによって、本発明の式1と式2のアニオン性高分子化合物、式3のカチオン性高分子化合物を使用して、蛋白質との静電複合体を形成させ、静電複合体の荷電の量を、式1から式3の高分子化合物を組み合わせて使用することにより、調整することができる。即ち、蛋白質の新たなキャリヤーとして、本発明の式1から式3の高分子化合物の組み合わせによる、蛋白質の混合静電複合体粒子を提供できることが見出せた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
−本発明の第一の態様−
本発明の第一の態様は、蛋白質と静電複合体を形成し得る、式1から式3のアニオン性高分子化合物とカチオン性高分子化合物に関するものである。
本発明の式1から式3の分子量とは、ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)で測定された各化合物の数平均分子量を表し、分子量が4000から100000の範囲の数値である。好ましい分子量としては、4000から60000の範囲を挙げることができる。より好ましくは、10000から60000を挙げることができる。
本発明の式1から式3の高分子化合物におけるnとmの整数の値は、式1から式3の本発明化合物に関する以下に示す合成方法に基づき、GPCによる各高分子化合物の数平均分子量と、使用したアクリル酸誘導体の分子量から算出される。
【0015】
式1から式3の化合物の合成方法を以下に説明する。特許文献1に示されている方法に準じて光重合反応を利用して、それぞれの化合物を合成する。例えば、式4
【化4】


で示される化合物と、モノマーである、アクリル酸、p−ビニル安息香酸メチル、p−ビニルベンゼンスルホニルメチル、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドをそれぞれ使用し、メタノールなどのアルコール溶液あるいは溶解性を考慮してクロロホルムなどの低極性溶媒の溶液として混合し、UV照射下にリビング重合を行う。式1の高分子化合物は、アニオン性の官能基を持つ、アクリル酸、p−ビニル安息香酸メチル、p−ビニルベンゼンスルホニルメチルを使用し、式4の化合物と光重合し、エステル基を加水分解することにより合成することができる。
式2の高分子化合物は、上述するように式4の化合物とアニオン性官能基を持つモノマーを光重合させた後に、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドをそれぞれ加えて更に光重合を行うことによって合成できる。
式3の高分子化合物は、式4の化合物とカチオン性の官能基を持つモノマー(例えば、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)を光重合させ、その後、更にN,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドなどを加えて光重合することによって合成することができる。また、式4の化合物に付加させる順序が逆である高分子化合物も同様に合成することができる。即ち、式4の化合物とN,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドなどを光重合させた後、更にカチオン性の官能基を持つモノマー(例えば、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)加えて光重合させ合成することができる。
合成された式1と式2のアニオン性高分子あるいは式3のカチオン性高分子は、メタノール溶液を大量のジエチルエーテルに滴下することによる沈殿法を繰り返す、再沈殿法を用いて、あるいは水溶液を透析処理することで精製することができる。
【0016】
式2や式3の高分子化合物においてN−イソプロピルアクリルアミドが重合した領域は疎水性が高くなり、加熱するとその領域が凝集するようになっている。そのため、式2や式3の高分子化合物の3次元構造が大きく変わり、新たな物性を高分子化合物に付与することができる。そこで、このN−イソプロピルアクリルアミドが重合した領域を感温性領域(部分)と名付ける。
加熱することによる3次元構造の変化を、具体的に式3のカチオン性高分子化合物を用いて説明する。上述の合成方法で示されるように、感温性領域が4本の側鎖の中心部分に存在する化合物(以下の式5で示される高分子化合物)と感温性領域が4本の側鎖の先端部分に存在する化合物(以下の式6で示される高分子化合物)の2種の化合物(ブロック構造の異なる化合物)が存在する。
【0017】
【化5】


[式中、n、mはモノマーの重合度を表わす整数であり、nはカチオン性官能基の付いたカチオン性領域の数平均分子量から算出される数字である。mは感温性領域の数平均分子量から算出される数字である。全分子量は4000から100000である。]
【0018】
【化6】


[式中、n、mはモノマーの重合度を表わす整数であり、mはカチオン性官能基の付いたカチオン性領域の数平均分子量から算出される数字である。nは感温性領域の数平均分子量から算出される数字である。全分子量は4000から100000である。]
【0019】
これら2種の式5と式6の高分子化合物を加熱すると、感温性領域の凝集が起こり、それぞれ図1と図2に示すような3次元構造の変化が生じた。図1の凝集構造を、イソギンチャクに似ていることから、イソギンチャク構造と名付けた。図2の凝集構造を、クモに似ていることから、スパイダー構造と名付けた。
【0020】
式1のアニオン性高分子化合物におけるnの値は、式1の高分子化合物のGPCによる数平均分子量から、使用したモノマーの分子量と側鎖の数(4本)で除して算出される整数である。なお、式4の化合物の分子量は計算に加えなかった。
式1の分子量としては、4000から100000の範囲の数値を表し、好ましくは、17000から25000の範囲の数値を表す。アクリル酸、p−ビニル安息香酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸の分子量は、それぞれ、72、148、184である。従って、nの値は5から347の範囲にある。好ましい範囲としては、23から87の範囲を挙げることができる。
【0021】
式2のアニオン性高分子化合物におけるnとmの値は、式4の化合物にアニオン性モノマーが付加重合しただけの合成中間化合物の数平均分子量と、更にN,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドなどを光重合させた後の式2の高分子化合物の数平均分子量から、それぞれのモノマーに由来する分子量が概算され、この分子量を使用したモノマーの分子量と側鎖の数(4本)で除して算出される整数である。
アニオン性モノマー由来の領域の分子量としては、3000から100000の範囲の数値を表し、より好ましくは17000から25000となる数値を表す。更に、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドなどに由来する分子量としては、1000から100000の範囲の数値を表す。好ましくは、5000から10000の範囲の数値を表す。上述のごとく、アニオン性モノマーの分子量で上記の合成中間化合物の分子量を除すことにより、nの値は、4から347の範囲であり、好ましくは23から87の範囲を挙げることができる。一方、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドの分子量は、99、113であるので、mの値は、2から253の範囲であり、好ましくは11から25の範囲を挙げることができる。
【0022】
式3におけるカチオン性高分子化合物におけるnとmの値は、カチオン性モノマーに由来する領域が、nで表わされる領域であるのか、mで表わされる領域であるのかで異なる。式5で表わされるイソギンチャク構造を取る高分子化合物においては、カチオン性モノマー由来の分子量としては、3000から100000の範囲を表わし、好ましくは、3000から10000の範囲を示す。また、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドに由来する領域の分子量としては、3000から100000の範囲を表わし、好ましくは3000から24000の範囲を挙げることができる。なお、カチオン性モノマー(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)の分子量が155であるので、式5の高分子化合物においては、nの値は、5から161の範囲を表わし、好ましいものとしては5から16の範囲を挙げることができる。mの値は、7から252の範囲を表わし、好ましくは7から60の範囲を挙げることができる。
式6の高分子化合物におけるnとmの値は、式5のnとmの値を交換したものであり、nの値は、7から252の範囲を表わし、好ましくは7から60の範囲を挙げることができる。mの値は、5から161の範囲を表わし、好ましいものとしては5から16の範囲を挙げることができる。
【0023】
−本発明の第二の態様−
本発明の第二の態様は、塩基性蛋白質と上述の式1と式2のアニオン性高分子化合物との静電複合体、更に式3のカチオン性高分子化合物が付加した混合静電複合体(付加粒子)に関するものである。
本発明で言う「静電複合体」とは、塩基性蛋白質と酸性のアニオン性化合物が静電的に結合して得られる複合体(塩)のことを言う。この静電複合体は、蛋白質の重量を1重量部として、式1または式2のアニオン性化合物を3から32重量部を加えて、蛋白質−アニオン性化合物静電複合体を形成させることができる。好ましくは、式1または式2のアニオン性化合物を3から32重量部を加えて、静電複合体を形成させることが挙げられる。
この蛋白質静電複合体は、水溶液中で分散して微細な粒子構造を形成しており、蛋白質とアニオン性高分子の構成モル比によっては、酸性(アニオン性)の粒子になったり、塩基性(カチオン性)の粒子になったりする。これを総称して本発明では「静電複合体粒子
」と言う。なお、本発明の蛋白質静電複合体粒子においては、カチオン性高分子化合物の荷電量が蛋白質の荷電量より多くなるため、結果的には酸性(アニオン性)になっている。
上記アニオン性の蛋白質静電複合体粒子の粒子径は、濃度の影響を受けやすく、例えば図3から図4に示されるように高濃度では安定で150から200nmのサイズであるが、低濃度になると粒子径が拡大し700nmを超えるようになる傾向が見られた。
【0024】
本発明で言う「カチオン性高分子化合物の付加粒子」とは、溶液中の上記アニオン性の蛋白質静電複合体粒子に、式3のカチオン性化合物を添加し、静電複合体粒子の外層にカチオン性化合物を付加させた粒子(混合静電複合体)のことを表す。本発明の付加粒子は、カチオン性化合物が静電複合体粒子の外層に付加されているため、粒子構造が安定化して上述のような濃度の影響は受けなくなっている。
なお、本発明のカチオン性化合物付加粒子は、カチオン性化合物で被覆されている粒子であり、粒子全体としての電荷はカチオン性になっている。このカチオン性化合物付加粒子(混合静電複合体)は、出発物質である蛋白質静電複合体粒子のアニオン性(酸性)が強いほど安定であって、粒子径も小さくなる傾向がある。逆に出発物質の蛋白質静電複合体粒子のアニオン性(酸性)が弱ければ、不安定になり、粒子径が拡大する傾向にある。例えば図5に示すように、蛋白質に添加するアニオン性高分子化合物の量が少なければ、生成した静電複合体にカチオン性高分子化合物を付加させた場合、添加量が増大してくると粒子径が130nmから拡大して700nmを超えるようになる傾向が見られた。一方、蛋白質に添加するアニオン性高分子化合物の量が充分であれば、生成した静電複合体にカチオン性化合物を付加させた場合、添加量が増大しても粒子径は拡大せず、縮小する傾向になる。例えば図6に示されるように130nmから70nmに粒子が締まってくる傾向が見られる。
更に、特許文献1や非特許文献1の結果を参考にすると、核酸の場合と同じように蛋白質に関しても、生体内への蛋白導入効率を向上できるようになる。
【0025】
本発明の蛋白質静電複合体粒子をアニオン性(酸性)するためには、使用されるアニオン性化合物のアニオン性(酸性)が強いことが望ましい。この酸性の強さは、有機酸を持つモノマーの重合度に比例すると考えられる。例えばモノマーとしてアクリル酸を使用する場合には、アクリル酸の重合度に比例すると考えられる。例えば、図8に示されるように、静電複合体粒子の溶液中での安定性も、アクリル酸の重合度が高い(酸性が高い)ものがより安定であることが示されている。
【0026】
以上のことから、本発明の蛋白質静電複合体粒子を安定に且つ粒子径を小さくするには、アニオン性高分子化合物の分子量は、4000から100000の範囲であり、好ましくは約1万以上である。
また、蛋白質に対して、アニオン性化合物の添加量が多くなれば、上記の分子量の効果と同じ効果が見られる。例えば図9に示されるように、アニオン性化合物の添加量が多くなれば、静電複合体粒子の粒子径は縮小する傾向にある。また、溶液の散乱強度(scattering intensity)から、分子量約1万のアニオン性化合物を用いて、蛋白質1重量部に対して3重量部あれば、静電複合体粒子が充分形成されることが分かった。それ故、これ以上のアニオン性化合物を添加しても静電複合体形成に加わることがなく、過剰のアニオン性化合物として溶液中に共存することになることが分かった。
【0027】
本発明で言う「蛋白質」とは、生理活性を示す蛋白質であれば特に限定されないが、塩基性蛋白質を使用することが望ましい。なお、酸性の蛋白質を使用する場合には、式3のカチオン性(塩基性)化合物を用いて静電複合体粒子を作製できる。
本発明で使用可能な塩基性蛋白質としては、例えばカルシトニン、インターフェロン等のホルモン類、例えばhGH、HGF、EGF、VEGF、FGF等の成長因子、例えば
BDNF等の神経栄養因子等を挙げることができる。好ましいものとしては、カルシトニン、hGH、HGF等を挙げることができる。
【0028】
本発明の静電複合体粒子あるいはカチオン性高分子化合物の付加粒子(混合静電複合体)に関して、その粒子径が50から400nm程度が好適である。これよりも小さいと、複合体粒子等の内部の蛋白質にまで酵素の作用が及ぶ恐れがある。更には腎臓にて濾過排出される恐れもある。一方、これよりも粒子径が大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。特に、経口による腸管吸収性を考慮すれば、本発明の静電複合体粒子あるいはカチオン性高分子付加粒子の粒子径は150nm以下が好ましい。また、静電複合体粒子に添加すべきカチオン性高分子化合物(式3)の重量は、静電複合体の重量を1として、0.5から4の範囲であり、好ましくは、0.5から2の範囲を挙げることができる。
【0029】
また、式2の感温性高分子が導入されたアニオン性高分子化合物についても、式1のアニオン性高分子化合物と同様の挙動が見られることが明らかとなった。例えば式2のアニオン性化合物(アニオン性部分の分子量:17000、感温性部分の分子量:9500)を用いて、蛋白質との静電複合体を作製した場合にも、図11に示されるように、静電複合体の安定性は良好で、濃度による影響は少ないことが示された。また、図13に示されるように蛋白質を1重量部として、式2のアニオン性高分子化合物を1重量部添加すれば、充分な静電複合体が得られることが分かった。
図14に示されるように、この静電複合体粒子は、pH6.5よりも高いpHでは式3のアニオン性化合物の添加量の効果を受け難いが、pH6.5以下になれば大きく添加量効果を受けることが示された。
【0030】
本発明のアニオン性高分子化合物と塩基性蛋白質とを反応させ静電複合体を形成させるには、蛋白質の濃度0.1から10μg/μL程度の水溶液に対し、常温にてアニオン性高分子化合物の水溶液(0.1から10μg/μL)を添加し、混合すればよい。蛋白質1重量部に対してアニオン性高分子化合物を重量比として3から32倍量添加することが望ましい。好ましくはアニオン性高分子化合物を荷電的に過剰量添加し、生成する静電複合体粒子がアニオン性となることが望ましい。
【0031】
本発明の静電複合体粒子あるいはカチオン性高分子化合物の付加粒子は任意の方法で生体に投与することができる。当該投与方法としては経口あるいは非経口での投与が可能であり、経口では、液剤やゼリー剤として投与することができる。非経口としては、静脈内又は動脈内への注射を挙げることができる。それ以外にも、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与も可能であり、更には、気管内視鏡を用いて肺胞へ噴霧するなど病変組織内に直接投与することも可能である。
【0032】
本発明の静電複合体粒子あるいはカチオン性高分子化合物の付加粒子を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る試剤(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら試剤は公知のものが使用できる。また、本発明の静電複合体粒子あるいはカチオン性高分子化合物の付加粒子を有効成分とする医薬の投与量は、治療目的とする疾患、疾患部位、投与方法等の種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分な量を投与することが行われる。

【実施例】
【0033】
本発明は更に下記の実施例、試験例で詳しく説明されるが、これらの例示は単なる実例であって本発明を限定するものではなく、また本発明の範囲を逸脱しない範囲で変化させ
ても良い。
【0034】
(実施例1)1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンの合成
【化7】


1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼン(1g,2.22mmol,Mw.449.83)にエタノール(100ml)とナトリウムN,N−ジエチルジチオカルバメートトリハイドレート(4g,17.76mmol,Mw.225.31)を加えて、室温で撹拌した。撹拌開始48時間後、ろ過して沈殿を回収した。回収した沈殿をクロロホルムに溶解し、水で分液洗浄した。クロロホルム層をエバポレータにて濃縮し、デシケータにて真空乾燥させて1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンを得た(白色固体)。収量1.48g(収率91.4%)。H−NMR測定の結果、δ7.487ppm(s,2H,Ar−H)、δ4.573ppm(s,8H,Ar−CHS)、δ4.065から3.994ppm(q,8H,−N−CH−)、δ3.765から3.687ppm(q,8H,−N−CH−)、δ1.304から1.256ppm(t,24H,−CH−CH)であった。
【0035】
(実施例2)アニオン性高分子化合物(式1、A:カルボキシル基)の合成
上記反応式により、1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンにアクリル酸を重合させてアニオン性官能基の領域がアクリル酸重合体である4分岐型アニオン性高分子化合物(式1)を合成した。
即ち、1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン(108mg,0.15mmol,Mw.723.30)をトルエンで希釈し、アクリル酸(1.44g,20mmol)を加え、トルエンで全量を20mlとし、さらにメタノールを40ml加えた溶液を調製した。この溶液に窒素ガスを吹き込みながら撹拌し、紫外光(光量1mW/cm)を照射した。紫外光照射30分後、重合溶液をエバポレーターにて濃縮し、大量のジエチルエーテルに滴下することで高分子を析出させた。デカンテーションにより上澄み液を除去した後、高分子を水に溶解し、凍結乾燥し、アニオン性高分子化合物(式1)である白色の4分岐型ポリアクリル酸化合物を132mg得た。GPCにて得られた高分子の分子量を測定したところ、数平均分子量は約10,000であった。
また、1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの量を108mgに固定し、とアクリル酸の量を0.645gとすることで、生成するアニオン性高分子化合物の数平均分子量は約4500となり、アクリル酸の量を6.76gとすることで数平均分子量は約55000となった。
使用したアクリル酸の量と生成した式1のアニオン性化合物の分子量とは、図15で示されるような相関関係を有することが明らかとなった。
【0036】
(実施例3)アニオン性高分子化合物(式2)の合成
1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンにアクリル酸、N−イソプロピルアクリルアミドの順で重合させてベンゼン環に近い部分がアクリル酸重合体であり、4本の側鎖の末端部が感温性領域のN−イソプロピルアクリルアミド重合体である4分岐型アニオン性高分子化合物(式2)を合成した。
即ち、1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン(216mg,0.3mmol,Mw.723.30)にアクリル酸(1.31g,
18mmol)を加え、トルエンで全量を60mlとた溶液を調製した。この溶液に窒素ガスを吹き込みながら撹拌し、紫外光(光量1mW/cm)を照射した。紫外光照射30分後、重合溶液をエバポレーターにて濃縮し、大量のジエチルエーテルに滴下することで高分子を析出させた。デカンテーションにより上澄み液を除去した後、高分子を水に溶解し、凍結乾燥し、白色の4分岐型ポリアクリル酸化合物を348mg得た。GPCにて得られた高分子の分子量を測定したところ、数平均分子量は約22,000であった。
得られた4分岐型ポリアクリル酸化合物(162mg,7.2μmol,Mn=22000)にN−イソプロピルアクリルアミド(930mg,8.2mmol)を加え、メタノールで全量を20mlとした溶液を調製した。この溶液に窒素ガスを吹き込みながら撹拌し、紫外光(光量1mW/cm)を照射した。紫外光照射30分後、重合溶液をエバポレーターにて濃縮し、大量のジエチルエーテルに滴下することで高分子を析出させた。デカンテーションにより上澄み液を除去した後、高分子を水に溶解し、凍結乾燥し、アニオン性高分子化合物(式2)である白色の4分岐型ポリアクリル酸-ポリN−イソプロピ
ルアクリルアミド化合物を228mg得た。GPCにて得られた高分子の分子量を測定したところ、数平均分子量は約27,000であった(ポリN−イソプロピルアクリルアミド部の分子量は約5000)。
【0037】
(実施例4)アニオン性化合物(式2)の合成
1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンにN−イソプロピルアクリルアミド、アクリル酸の順で重合させて実施例3とは反応させるモノマーの順序を逆にした。ベンゼン環に近い部分が感温性領域のN−イソプロピルアクリルアミド重合体であり、4本の側鎖の末端部分がアクリル酸重合体である4分岐型アニオン性高分子化合物(式2)を合成した。
即ち、1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン(54mg,0.075mmol,Mw.723.30)にN−イソプロピルアクリルアミド(2.34g,18mmol)を加え、トルエンで全量を20とし、さらにメタノール40mlを加えた溶液を調製した。この溶液に窒素ガスを吹き込みながら撹拌し、紫外光(光量1mW/cm)を照射した。紫外光照射30分後、重合溶液をエバポレーターにて濃縮し、大量のジエチルエーテルに滴下することで高分子を析出させた。デカンテーションにより上澄み液を除去した後、高分子を水に溶解し、凍結乾燥し、白色の4分岐型N−イソプロピルアクリルアミド化合物を334mg得た。GPCにて得られた高分子の分子量を測定したところ、数平均分子量は約9,500であった。
得られた4分岐型ポリアクリル酸化合物(162mg,7.2μmol,Mn=22000)にアクリル酸(1.44g,20mmol)を加え、トルエンで全量を20mlとし、さらにメタノール40mlを加えた溶液を調製した。この溶液に窒素ガスを吹き込みながら撹拌し、紫外光(光量1mW/cm)を照射した。紫外光照射30分後、重合溶液をエバポレーターにて濃縮し、大量のジエチルエーテルに滴下することで高分子を析出させた。デカンテーションにより上澄み液を除去した後、高分子を水に溶解し、凍結乾燥し、白色のアニオン性高分子化合物(式3)である4分岐型ポリN−イソプロピルアクリルアミド−ポリアクリル酸化合物を190mg得た。GPCにて得られた高分子の分子量を測定したところ、数平均分子量は約27,000であった(ポリアクリル酸部の分子量は約17,000)。
【0038】
(実施例5)カチオン性化合物(式3)の合成
【化8】

1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンにN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドの順で重合させてCがN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド重合体で、BがN−イソプロピルアクリルアミド重合体である4分岐型カチオン性高分子化合物(式3)を合成した。
即ち、1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン(432mg,0.6mmol,Mw.723.30)を36mlのベンゼンに溶解させ、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(5.16g、33mmol)を加えた後、メタノールで希釈し、全量を120mlの溶液を調製した。この溶液から20mlを取り、窒素ガスを吹き込みながら撹拌し、紫外光(光量1mW/cm)を照射した。紫外光照射90分後、重合溶液をエバポレーターにて濃縮し、大量のジエチルエーテルに滴下することで高分子を析出させた。デカンテーションにより上澄み液を除去した後、高分子を水に溶解し、凍結乾燥し、白色の4分岐型ポリN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド化合物を803mg得た。GPCにて得られた高分子の分子量を測定したところ、数平均分子量は約3,700であった。
得られた4分岐型ポリN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド化合物(650mg,0.18mmol)にメタノール10mlを加えて溶解させ、これにN−イソプロピルアクリルアミド(1.24g,11.0mmol)を加え、メタノールを加えて全量を20mlとした溶液を調製した。この溶液に窒素ガスを吹き込みながら撹拌し、紫外光(光量1mW/cm)を照射した。紫外光照射90分後、重合溶液をエバポレーターにて濃縮し、大量のジエチルエーテルに滴下することで高分子を析出させた。デカンテーションにより上澄み液を除去した後、高分子を水に溶解し、凍結乾燥し、カチオン性高分子化合物(式3)である白色の4分岐型ポリN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド-ポリN−イソプロピルアクリルアミド化合物を395mg得た。GPCにて得られた
高分子の分子量を測定したところ、数平均分子量は約15,000であった(ポリN−イソプロピルアクリルアミド部の分子量は約12,000)。
使用したN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの添加量と、生成したカチオン性中間体(iniferter)の分子量とは、図16で示される相関関係があることを示した。また、同様にカチオン性の中間体(iniferter)の分子量と、添加したN−イソプロピルアクリルアミドの量とは、同じく図17で示される相関関係があることを示した。
【0039】
(実施例6)アニオン性高分子化合物(式1、A:p−カルボキシルフェニル基)の合成
1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンにビニル安息香酸メチルを重合させた後に加水分解を行い、p−ビニル安息香酸重合体である4分岐型アニオン性高分子化合物(式1)を合成した。
即ち、1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベ
ンゼン(50mg)とp−ビニル安息香酸メチルエステル(2g)をクロロホルム30mlとメタノール30mlに溶解させた。生成した溶液に窒素ガスを吹き込みながら撹拌し、紫外光(光量1mW/cm)を照射した。紫外光照射30分後、重合溶液をエバポレーターにて濃縮し、脱イオン水30mlを加えた後、水酸化ナトリウム200mgを加えた。80℃で1時間撹拌した後、1N塩化水素水溶液で中和を行い、3日間透析(限外濾過分子量1000)を行った。凍結乾燥によりアニオン性高分子化合物である白色の4分岐型ポリビニル安息香酸化合物190mgを得た。GPCにて得られた高分子の分子量を測定したところ、数平均分子量は約10,000であった。
【0040】
(実施例7)アニオン性高分子化合物(式1、A:p−ヒドロキシスルホニルフェニル基)の合成
1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンにp−ビニルベンゼンスルホン酸メチルエステルを重合させた後に加水分解を行い、p−ビニルベンゼンスルホン酸重合体である4分岐型アニオン性高分子化合物(式1)を合成した。
即ち、1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン(100mg)とp−ビニルベンゼンスルホン酸メチルエステル(1g)をトルエン60mlに溶解させた。生成した溶液に窒素ガスを吹き込みながら撹拌し、紫外光(光量1mW/cm)を照射した。紫外光照射60分後、重合溶液をエバポレーターにて濃縮し、脱イオン水30mlを加えた後、水酸化ナトリウム200mgを加えた。80℃で1時間撹拌した後、1N塩化水素水溶液で中和を行い、3日間透析(限外濾過分子量1000)を行った。凍結乾燥によりアニオン性高分子化合物である白色の4分岐型ポリビニルベンゼンスルホン酸化合物244mgを得た。GPCにて得られた高分子の分子量を測定したところ、数平均分子量は約6,100であった。
【0041】
(実施例8)アニオン性高分子化合物(式1)とカルシトニンとの静電複合体の合成
カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)を精製水にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、アニオン性高分子化合物(式1)であるポリアクリル酸化合物(分子量約27000)を精製水にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調整した。カルシトニン水溶液50μlに室温でポリアクリル酸化合物水溶液200μlを加え、10分間放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体を調整した。
得られた静電複合体粒子の粒子径は、動的光散乱法で測定した。その結果を図3と図4に示す。
この結果から、アニオン性のカルシトニン蛋白質静電複合体粒子の粒子径は、濃度の影響を受けやすく、例えば図4に示されるように高濃度では安定で150から200nmのサイズであるが、低濃度になると粒子径が拡大し700nmを超えるようになる傾向が見られた。一方、図3に示されるように、該静電複合体粒子は熱的には安定で経時的な変化は受け難いことが示された。
【0042】
(実施例9)アニオン性化合物(式2)とカルシトニンとの静電複合体の合成
カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)を精製水にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、アニオン性高分子化合物(式2)であるポリアクリル酸-ポリN−イソプロピルアクリルアミド化合物(分子量約27000)を精製水にて希
釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調整した。カルシトニン水溶液50μlに室温でポリアクリル酸-ポリN−イソプロピルアクリルアミド化合物水溶液200μlを加え
、10分間放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体を調整した。
得られた静電複合体粒子の粒子径は、動的光散乱法で測定した。その結果を図26に示す。
【0043】
(実施例10)アニオン性化合物(式3)とカルシトニンとの静電複合体の合成
カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)を精製水にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、アニオン性高分子化合物(式3)であるポリN−イソプロピルアクリルアミドーポリアクリル酸化合物(分子量約27000)を精製水にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調整した。カルシトニン水溶液50μlに室温でポリアクリル酸-ポリN−イソプロピルアクリルアミド化合物水溶液200μlを加え
、10分間放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体を調整した。
得られた静電複合体粒子の粒子径は、動的光散乱法で測定した。その結果を図25に示す。
【0044】
(実施例11)アニオン性化合物(式1)とカルシトニンとの静電複合体に基づくカチオン性高分子付加粒子の合成
実施例8に従って調整した、アニオン性高分子化合物(式1)とカルシトニンとの静電複合体の水溶液250μlに、実施例7に従って合成したカチオン性高分子の水溶液200μl(濃度1mg/ml)を室温で加え、10分放置することでアニオン性化合物とカルシトニンとの静電複合体に基づくカチオン性高分子付加粒子を調整した。
得られた静電複合体粒子の粒子径は、動的光散乱法で測定した。その結果を図5に示す。
図5に示されるように、蛋白質(カルシトニン)に添加するアニオン性化合物の量が少なければ、生成した静電複合体にカチオン性化合物を付加させた場合、付加量が増大してくると粒子径が130nmから拡大して700nmを超えるようになる傾向が見られた。一方、図6に示されるようにカルシトニンに添加するアニオン性化合物の量が充分であれば、生成した静電複合体にカチオン性化合物を付加させた場合、付加量が増大しても粒子径は拡大せず、縮小する傾向になる。例えば130nmから70nmに粒子径が締まってくる傾向が見られた。
【0045】
(実施例12)アニオン性化合物(式2)とカルシトニンとの静電複合体に基づくカチオン性高分子付加粒子の合成
実施例8に従って調整した、アニオン性高分子化合物(式1)とカルシトニンとの静電複合体の水溶液250μlに、実施例5に従って合成したカチオン性高分子の水溶液250μl(濃度1mg/ml)を室温で加え、10分放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体に基づくカチオン性高分子付加粒子を調整した。
得られた静電複合体粒子の粒子径は、動的光散乱法で測定した。その結果を図28に示す。
【0046】
(実施例13)動物実験用のカルシトニン含有カチオン性高分子化合物の付加粒子の合成
カルシトニンを精製水に溶解させ1mg/ml濃度の水溶液を3ml調整した。また、実施例3に従って合成したアニオン性高分子化合物(式3、分子量約10,000)を精製水に溶解させ1mg/ml濃度の水溶液を5ml調整した。さらに、実施例2に従って合成したカチオン性高分子化合物(式2、分子量約15,000)を精製水に溶解させ1mg/ml濃度の水溶液を5ml調整した。
カルシトニン水溶液1mlに室温でアニオン性高分子化合物水溶液4mlを加え、10分間放置した。これにカチオン性高分子化合物水溶液4mlを加え、10分間放置し、カチオン性高分子付加粒子の水溶液を調整した。20分間37℃で保温し、経口投与用カルシトニンス水溶液(カルシトニン濃度1mg/9ml)を調整した。ラットへの経口投与では体重あたり1mg/kg量の割合で与えた。
上記で調整した経口投与水溶液から900μlを計り取り、37℃下で生理食塩水1100μlを加え、十二指腸投与用カルシトニン水溶液(カルシトニン濃度100μg/2ml)を調整した。ラットへの十二指腸投与では体重あたり100μg/kg量の割合で
与えた。
上記で調整した十二指腸投与用水溶液から20μlを計り取り、37℃下で生理食塩水1980μlを加え、カルシトニン濃度を1μg/2mlに希釈した。これから100μlを計り取り37℃下で生理食塩水1900μlを加えて全量を2mlとし、静脈注射用カルシトニン水溶液(カルシトニン濃度50ng/2ml)を調整した。ラットへの静脈内投与では体重あたり50ng/kgの割合で与えた。
【0047】
(試験例1)感温性カチオン性高分子化合物(式3)の凝集性
実施例5に従って合成したカチオン性高分子化合物の1%水溶液を調整した。この溶液を25℃とし、1分間に0.5℃の割合で昇温させながら、800nmの光の透過率を分光光度計(島津製作所UV−1700)にて測定することで凝集性を調べた。
その結果を図18に示す。
図18に示されるように、35℃から37℃で式3の感温性カチオン性化合物は凝集して白濁し、透過度が減少した。
【0048】
(試験例2)直鎖構造(2本側鎖)を持つアニオン性高分子化合物(対照例)と蛋白質とのナノ粒子形成能
カルシトニン水溶液50μl(濃度50μg/50μl)に、実施例2に従って合成されたアニオン性高分子化合物水溶液250μl(濃度250μg/250μl)を加え、アニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体を調製した。これを測定用セルに加え、動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)を用いて、静電複合体の粒径測定を行った。粒径はキュウムラント解析値とした。
その結果を図19に示す。
2本側鎖のアニオン性高分子化合物を用いた場合、蛋白質との静電複合体粒子の安定性が悪く、経時的に粒子径が拡大して行くことが示された。
【0049】
(試験例3)分岐構造を持つアニオン性高分子化合物(式1)と蛋白質とのナノ粒子形成能
カルシトニン水溶液50μl(濃度50μg/50μl)に、実施例2に従って合成された分岐構造を持つアニオン性高分子化合物水溶液250μl(濃度250μg/250μl)を加え、アニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体を調製した。これを測定用セルに加え、動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)を用いて、静電複合体の粒径測定を行った。粒径はキュウムラント解析値とした。
その結果を図24に示す。
図19と図24から示されるように、4本側鎖のアニオン性高分子化合物の方が2本側鎖のアニオン性高分子化合物より、粒子の安定性が良好になる傾向にあることが分かった。このことから、ベンゼン環の側鎖(置換基)の数は、多い方が少ないよりも蛋白質との絡み合いが増え安定性が良い傾向にあると言える。
【0050】
(試験例4)アニオン性高分子化合物(式1)と蛋白質とのナノ粒子形成の安定化
カルシトニン水溶液50μl(濃度50μg/50μl)に、実施例2に従って合成されたアニオン性高分子化合物水溶液250μl(濃度250μg/250μl)を加え、アニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体を調製した。これを測定用セルに加え、動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)を用いて、静電複合体の粒径を経時的に測定することで、粒径の変化を調べ、安定性を評価した。粒径はキュウムラント解析値とした。
その結果を図8に示す。
この結果から、アニオン性化合物の分子量が大きくなる(モノマーの重合度が上がり、アニオン性(酸性)が高くなる)ほど粒子は安定になり、粒子径が拡張しないことが示された。
【0051】
(試験例5)アニオン性高分子化合物(式1)の最適化
カルシトニン水溶液50μl(濃度50μg/50μl)を動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)の測定用セルに入れて装置にセットし、そこに実施例2に従って合成されたアニオン性高分子化合物水溶液(濃度250μg/250μl)を50μlづつ加え、光散乱強度測定によって粒子の形成量を、キュウムラント解析による粒径測定を行い、アニオン性高分子化合物の使用量の最適化を行った。
その結果を図9に示す。
図7に示されるように、アニオン性高分子化合物の添加量が多くなれば、静電複合体粒子の粒子径は縮小する傾向にある。また、溶液の散乱強度(scattering intensity)から、分子量約1万のアニオン性高分子化合物を用いて、蛋白質1重量部に対して3重量部あれば、静電複合体粒子が充分形成されることが分かった。それ故、これ以上のアニオン性高分子化合物を添加しても静電複合体形成に加わることがなく、過剰のアニオン性高分子化合物として溶液中に共存することになることが分かった。
【0052】
(試験例6)カルシトニン非存在下でのアニオン性高分子化合物とカチオン性高分子化合物同士の安定性
実施例2に従って合成したアニオン性化合物200μg(濃度200μg/200μl)を動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)の測定用セルに入れて装置にセットし、そこに実施例5に従って合成したカチオン性化合物を50μg(濃度50μg/50μl)ずつ加え、キュウムラント解析による粒径測定を行い、安定性を調べた。
その結果を図20に示す。
図20に示されるように、式2のアニオン性化合物と式3のカチオン性化合物は静電複合体を形成することが分かった。粒子径も約200nmで一定し、安定な粒子を形成することが分かった。
【0053】
(試験例7)カルシトニンとアニオン性高分子化合物との静電複合体とカチオン性高分子化合物同士の安定性
カルシトニン水溶液50μl(濃度50μg/50μl)を動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)の測定用セルに入れて装置にセットし、実施例2に従って合成したアニオン性高分子化合物の水溶液(濃度100μg/100μl)を100μlあるいは200μl添加した。そこに実施例5に従って合成したカチオン性高分子化合物の水溶液(濃度100μg/100μl)を50μlづつ加え、キュウムラント解析による粒径測定を行い、安定性を調べた。
その結果を図5と図6に示す。
図5に示されるようにアニオン性化合物の添加量が少ない場合の蛋白質静電複合体は、カチオン性化合物を付加させると粒子の安定性が弱くなり、粒子径が拡大する傾向になることが分かった。また、図6に示されるようにアニオン性化合物の添加量が充分である場合の蛋白質静電複合体は、カチオン性化合物を付加させて行くと粒子が凝集して粒子径が縮小する傾向にあることが分かった。
【0054】
(試験例8)感温性高分子化合物の安定性
実施例4の中間生成物として合成したポリN−イソプロピルアクリルアミド化合物の1%水溶液を調整した。この溶液を24℃とし、1分間に0.5℃の割合で昇温させながら、800nmの光の透過率を分光光度計(島津製作所UV−1700)にて測定することで安定性を調べた。
その結果を図21に示す。
【0055】
(試験例9)感温性アニオン性高分子化合物の安定性
実施例2から4に従って合成したアニオン性化合物の1%水溶液を調整した。この溶液
を24℃とし、1分間に0.5℃の割合で昇温させながら、800nmの光の透過率を分光光度計(島津製作所UV−1700)にて測定することで安定性を調べた。
その結果を図22に示す。
【0056】
(試験例10)感温性アニオン性高分子化合物のみの安定性
実施例4に従って合成したアニオン性高分子化合物の水溶液200μl(濃度200μg/200μl)を動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)の測定用セルに入れて装置にセットし、経時的に、あるいは精製水で希釈しながら、キュウムラント解析による粒径測定を行うことで安定性を調べた。
その結果を図23と図24に示す。
【0057】
(試験例11)カルシトニンとアニオン性高分子化合物との静電複合体(ナノ粒子)の安定性
カルシトニン水溶液50μl(濃度50μg/50μl)に実施例4に従って合成したアニオン性高分子化合物の水溶液200μl(濃度200μg/200μl)を加え、動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)の測定用セルに入れて装置にセットし、経時的に、あるいは精製水で希釈しながら、キュウムラント解析による粒径測定を行うことで安定性を調べた。
その結果を図11と図12に示す。
図11に示されるように、静電複合体粒子の安定性は良好で、粒子径の経時変化は少ししかなく、また、図12に示されるように希釈による静電複合体濃度の粒子径に対する影響は少ないことが示された。
【0058】
(試験例12)カルシトニンとアニオン性高分子化合物の静電複合体形成における高分子化合物の分子量の効果
カルシトニン水溶液50μl(濃度50μg/50μl)を動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)の測定用セルに入れて装置にセットし、実施例4に従って合成した式2のアニオン性高分子化合物の水溶液(濃度200μg/200μl)を50μlづつ加え、キュウムラント解析による粒径測定を行うことで分子量の効果を調べた。
その結果を図13に示す。
図13に示されるように蛋白質を1重量部として、式2のアニオン性高分子化合物を1重量部添加すれば、充分な静電複合体が得られることが分かった。
【0059】
(試験例13)カルシトニンとの静電複合体粒子のpH安定性
カルシトニン水溶液50μl(濃度50μg/50μl)に、実施例4に従って合成した式2のアニオン性高分子化合物の水溶液(濃度200μg/200μl)を50、250、あるいは500μl加え、動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)の測定用セルに入れて装置にセットし、0.1N塩酸または、0.1N水酸化ナトリウム水溶液にてpHを調整しながら、キュウムラント解析による粒径測定を行うことでカルシトニンとの静電複合体粒子のpH安定性を調べた。
その結果を図14に示す。
図14に示されるように、この静電複合体粒子は、pH6.5よりも高いpHでは式2のアニオン性化合物の添加量の効果を受け難いが、pH6.5以下になれば大きく添加量効果を受けることが示された。
【0060】
(試験例14)カルシトニンとの静電複合体粒子におけるアニオン性高分子化合物の分子量の効果
カルシトニン水溶液50μl(濃度50μg/50μl)に、実施例2に従って合成した分子量の異なる種々のアニオン性化合物の水溶液(濃度200μg/200μl)200μlを加え、これを動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)の測定用セルに入
れて装置にセットし、キュウムラント解析による粒径測定を行うことで、カルシトニン粒子の粒径のアニオン性高分子化合物の分子量の効果を調べた。
その結果を図7に示す。
図7に示されるように、静電複合体粒子の溶液中での安定性は、アニオン性化合物の分子量が多いほど、即ちアクリル酸の重合度が高い(酸性が高い)ものがより安定であることが示されている。
【0061】
(試験例15)2本側鎖鎖と4本側鎖のアニオン性高分子化合物による粒子サイズの依存性
カルシトニン水溶液50μl(濃度50μg/50μl)に、実施例2に従って合成した分子量の異なる種々のアニオン性高分子化合物の水溶液(濃度200μg/200μl)200μl、あるいは市販の直鎖状ポリアクリル酸の水溶液(分子量5000または25000)200μlを加え、これを動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)の測定用セルに入れて装置にセットし、キュウムラント解析による粒径測定を行うことで、カルシトニン粒子の粒径のアニオン性高分子の分子量依存性を調べた。
その結果を図10に示す。
図10に示すように、本発明の静電複合体粒子あるいはカチオン性高分子付加粒子(混合静電複合体)を作製する場合、それらの粒子径はベンゼン環の置換基の数とアニオン性高分子化合物の分子量に影響を受けやすい。例えば2本側鎖のアニオン性高分子化合物の方が粒子径の小さいものができやすい傾向にあることが示された。
【0062】
(試験例16)ラット経口投与による血中カルシウム濃度変化
実施例13に示した動物実験用のカルシトニン含有カチオン製高分子付加粒子(以下高分子付加粒子と記載)を、ラットに各種投与ルートで投与し、カルシトニン薬理活性(血中カルシウム低下作用)を、高分子を付加しないカルシトニン(以下原体と記載)と、比較検討した。各投与群に群分けした8週齢の雄性SDラットの体重を朝9:00に体重を測定し,10:00から絶食を開始した。3時間後(13:00)からヘマトクリット管を用いて尾静脈より採血を行った(投与前値).採血後,ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)を腹腔内に投与して麻酔し,気管内チューブを挿管後,人工呼吸器に接続した。薬剤投与は、投与経路ごとに、以下のように処置した。
無処置群 : 呼吸器接続後,少なくとも15分以上安定させた後に試験を開始した。
静脈内投与群 : 呼吸器接続後,左大腿静脈を露出させた。その後少なくとも15分以上安定させた後に,溶解溶液または被験物質を左大腿静脈から投与した。
十二指腸投与群 : 呼吸器接続後,腹部を開腹し十二指腸を露出させた。その後少なくとも15分以上安定させた後に,溶解溶液または被験物質を,注射針を用いて十二指腸内へ直接投与した。
経口投与群: 呼吸器接続後,胃内経口ゾンデを装着した。その後少なくとも15分以上安定させた後に,溶解溶液または被験物質を,シリンジを用いて装着した胃内経口ゾンデから経口投与した。
採血は、投与30,60,120,180および300分後にヘマトクリット管を用いて尾静脈から採血した。血液は採血後室温でしばらく放置した後,3,000rpmで15分間遠心分離し,血清を分取し、測定日まで−80℃以下で保存した。血清中カルシウム濃度は、BioAssay System社製,QuantichromTM Calcium Assay Kit [DICA−500]を使用して測定した。
各投与ルートの投与量は表1(カルシトニン投与群の構成)のように設定した。また、図27に、十二指腸投与群での血中Ca濃度の変化を示した。高分子付加粒子投与において、血中Caの低下(カルシトニン薬理作用)が見られ、カチオン製高分子付加粒子の有効性が確認された。
【0063】
【表1】

【0064】
(試験例17)カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式1)との静電複合体形成とその安定性
(1)カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、アニオン性高分子化合物である4分岐ポリアクリル酸化合物(分子量約9400)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を2ml調製した。カルシトニン水溶液50μlに室温でポリアクリル酸化合物水溶液200μl、400μl、800μlあるいは1600μlを加え、10分間放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体を調製した。得られた静電複合体粒子の粒子径は、動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)のセルを用いて動的光散乱法で測定した。その結果を図30左図に示す。
ポリアクリル酸化合物を用いたカルシトニンとの静電複合体はポリアクリル酸化合物の添加量の増加に伴って安定性が増すことが分かった。
(2)カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、アニオン性化合物である4分岐ポリビニル安息香酸化合物(分子量約12000)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。カルシトニン水溶液50μlに室温でポリアクリル酸化合物水溶液200μlを加え、10分間放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体を調製した。得られた静電複合体粒子の粒子径は、動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)のセルを用いて動的光散乱法で測定した。その結果を図30中央図に示す。
ポリアクリル酸化合物を用いたカルシトニンとの静電複合体はポリビニル安息香酸化合物が200ulにおいても安定性であることが分かった。
(3)カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、アニオン性化合物である4分岐ポリビニル安息香酸化合物(分子量約6100)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。カルシトニン水溶液50μlに室温でポリアクリル酸化合物水溶液200μlを加え、10分間放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体を調製した。得られた静電複合体粒子の粒子径は、動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)のセルを用いて動的光散乱法で測定した。その結果を図30右図に示す。
ポリアクリル酸化合物を用いたカルシトニンとの静電複合体はポリスチレンスルフォン酸化合物が200μlにおいても安定性であることが分かった。
【0065】
(試験例18)カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式1)の静電複合体にカチオン性高分子化合物を付加した付加粒子の安定性
カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、式1のアニオン性高分子化合物である4分岐ポリアクリル酸化合物(分子量約9400)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。さらに、カチオン性高分子化合物である4分岐ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド化合物(分子量約4700)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。ポリアクリル酸化合物800μlに室温でカルシトニン水溶液50μlを加え、10分放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体を調製した。得られた静電複合体溶液にカチオン性高分子化合物200μlを加え、10分間放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニン、カチオン性高分子化合物との3者静電複合体を調製した。得られた3者静電複合体粒子の粒子径は、動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)のセルを用いて動的光散乱法で測定した。その結果を図31に示す。
ポリアニオン性高分子化合物とカルシトニン、ポリカチオン性高分子化合物との3者静電複合体は比較的安定性であることが分かった。
【0066】
(試験例19)カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式1)の静電複合体にカチオン性高分子化合物(式3)を付加した付加粒子の安定性
カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、アニオン性高分子化合物である4分岐ポリアクリル酸化合物(分子量約8700)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。さらに、カチオン性−非イオン性化合物である4分岐ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミドーポリジメチルアミノアクリルアミドブロック共重合体化合物(カチオン部分子量約10000-非イオン性部分子量約30000、カチオン性部
分子量約4000-非イオン性部分子量約4000、あるいはカチオン性部分子量約40
00-非イオン性部分子量8000)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水
溶液を1ml調製した。ポリアクリル酸化合物200μlに室温でカルシトニン水溶液50μlを加え、10分放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体を調製した。得られた静電複合体溶液にカチオン性−非イオン性化合物200μlを加え、10分間放置することでアニオン性化合物とカルシトニン、カチオン性−非イオン性化合物との3者静電複合体を調製した。得られた3者静電複合体粒子の粒子径は、動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)のセルを用いて動的光散乱法で測定した。その結果を図32に示す。
ポリアニオン性化合物とカルシトニン、ポリカチオン性−非イオン性化合物との3者静電複合体は直後の粒子径は約100nmであった。非イオン性部が長いと粒子は不安定であったが、非イオン性部の分子量10000以下では比較的安定であることが分かった。
【0067】
(試験例20)カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式1)の静電複合体にカチオン性高分子化合物(式3)を付加した付加粒子の安定性
カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、アニオン性高分子化合物である4分岐ポリアクリル酸化合物(分子量約8700)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。さらに、式5のポリ感温性−カチオン性高分子化合物である4分岐ポリイソプロピルアクリルアミドーポリジメチルアミノプロピルアクリルアミドブロック共重合体化合物(感温性部分子量約9000-カチオン性部分子量約3000)をPBS
(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。ポリアクリル酸化合物400μlあるいは1600μlに室温でカルシトニン水溶液50μlを加え、10分放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体を調製した。得られた静電複合体溶液に感温性−カチオン性高分子化合物200μlを加え、10分間放置す
ることでアニオン性高分子化合物とカルシトニン、感温性−カチオン性高分子化合物との3者静電複合体を調製した。得られた3者静電複合体粒子の粒子径は、動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)のセルを用いて動的光散乱法で測定した。その結果を図33に示す。
ポリアニオン性化合物とカルシトニン、ポリ感温性−ポリカチオン性化合物との3者静電複合体は直後の粒子径は約300nmであった。ポリアニオン性化合物の組成比が多い3者静電複合体は極めて安定であることが分かった。
【0068】
(試験例21)カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式1)の静電複合体にカチオン性高分子化合物(式3)を付加した付加粒子の安定性
カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、アニオン性高分子化合物である4分岐ポリアクリル酸化合物(分子量約8700)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。さらに、式6のポリ感温性−カチオン性化合物である4分岐ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)ブロック共重合体化合物(カチオン性部分子量約3000-感温性部分子量約10
000、カチオン性部分子量約10000-感温性部分子量約10000、あるいはカチ
オン性部分子量約3000-感温性部分子量約24000)をPBS(−)にて希釈し、
1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。ポリアクリル酸化合物200μlに室温でカルシトニン水溶液50μlを加え、10分放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体を調製した。得られた静電複合体溶液にカチオン性−感温性化合物200μlを加え、10分間放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニン、カチオン性−感温性化合物との3者静電複合体を調製した。得られた3者静電複合体粒子の粒子径は、動的光散乱装置(大塚電子、ELS−8000)のセルを用いて動的光散乱法で測定した。その結果を図34に示す。
ポリアニオン性化合物とカルシトニン、ポリポリカチオン性−ポリ感温性化合物との3者静電複合体は直後から約1000nmと大きく凝集した。
【0069】
(試験例22)カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式1)の静電複合体のCaco−2細胞単層膜透過試験
(1)Caco−2細胞単層膜透過試験方法
透過性実験はBecton Dickinson社製BIOCOAT HTS Caco−2 Assay Systemキットを用いて行った。Caco−2細胞を単層膜状に培養した24穴トランスウェル(pore size 1μm)内の培養液を吸引し、PBSで洗浄した後、カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式1)の静電複合体サンプル250μlを2穴ずつ入れた。各ウエルに1mlのPBSを添加した24穴マルチウエルに先のトランスウエルを重ね、37℃下、二酸化炭素濃度5%のインキュベータ内で培養を行った。所定時間毎にマルチウエル内のPBS100μlを採取し、新たにPBS100μlを加え、サンプリングを繰り返した。
(2)ラジオイムノアッセイ測定
サンプリングした溶液50μlをRIA用バッファー50ulで希釈し、カルシトニン抗体100μlを加えた。これにRI値がγカウンターで20000cpm/100μlになるように溶液濃度を調整したヨウ素125ラベル化カルシトニン溶液を加え、4℃で40時間放置した。氷上において1.0%ウシγグロブリンを各サンプルに100μlづつ加えて撹拌し、次いで23%ポリエチレングリコール水溶液を各サンプルに500μlづつ加えて撹拌した。遠心機で3000rpm、15分遠心し、上清を吸引し、沈殿物のRI値をγカウンターで測定し、検量線を元にカルシトニン量を求めた。透過率(Paap(cm/sec))の計算は以下の計算式を用いて行った。
【化9】


dM/dtは組織を通過する流量(μM min−1またはdpm min−1)、A(0.1963cm)はメンブレンの表面積、Cは試薬の初期濃度である。
(3)評価試験
カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、アニオン性高分子化合物として、4分岐型ポリアクリル酸(分子量約9400)、ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム(分子量約6100)あるいはポリビニル安息香酸(分子量約12000)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。アニオン性高分子化合物200μlあるいは1600μlとカルシトニン水溶液50μlを混合することで静電複合体を調製した。別に、インターセル内でCaco−2細胞を培養し、腸間膜モデルを作製した。インターセル上面に先に調製した静電複合体溶液250μlを加え、1時間ごとに3時間までインターセル下面に移動したカルシトニン量をラジオイムノアッセイによって測定した。その結果を図35に示す。
アニオン性高分子化合物の中で、ポリアクリル酸やポリビニル安息香酸を用いた場合にはほとんど細胞膜を透過しなかったが、ポリスチレンスルフォン酸の場合にはカルシトニンと同程度の透過性を有していた。
【0070】
(試験例23)カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式2)の静電複合体のCaco−2細胞単層膜透過試験
試験例22と同様にして、カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式1と式2)の静電複合体の細胞膜透過活性を評価した。評価サンプルは、以下のように作成した。カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、アニオン性高分子化合物として、4分岐型ポリアクリル酸(分子量約9400)、ポリアクリル酸−ポリジメチルアクリルアミド(アニオン性部分子量約5000-非イオン性部分子量約5000)あるいはポリイソプロピルアクリル
アミド−ポリアクリル酸(感温性部分子量約9000-アニオン性部分子量約9000)
をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。アニオン性高分子化合物200μlとカルシトニン水溶液50μlを混合することで静電複合体を調製した。別に、インターセル内でCaco−2細胞を培養し、腸間膜モデルを作製した。インターセル上面に先に調製した静電複合体溶液250μlを加え、1時間ごとに3時間までインターセル下面に移動したカルシトニン量をラジオイムノアッセイによって経時的に測定した。その結果を図36に示す。
アニオン性単独のポリアクリル酸から作製した静電複合体ではほとんど細胞膜を透過しなかったが、感温性や非イオン性化させたアニオン性化合物から作製した静電複合体ではカルシトニンに比べて透過速度が高くなることが分かった。また、感温性−アニオン性である(イソギンチャク構造)場合には、より細胞膜透過活性が優れていることが分かった。
【0071】
(試験例24)カルシトニンとアニオン性高分子化合物の静電複合体のCaco−2細胞単層膜透過試験
試験例22と同様にして、カルシトニンとアニオン性高分子化合物の静電複合体の細胞膜透過活性を評価した。評価サンプルは、以下のように作成した。カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、アニオン性高分子化合物として、4分岐型ポリアクリル酸−ポリジメチルアクリルアミド(アニオン性部分子量約5000-非イオン性部分子量約5000)あ
るいは感温性部分が4分岐側鎖の中心部分に存在する、ポリイソプロピルアクリルアミド−ポリアクリル酸(感温性部分子量約9000-アニオン性部分子量約9000、感温性
部分子量約22000-アニオン性部分子量約24000)をPBS(−)にて希釈し、
1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。アニオン性高分子化合物200μl、800μlあるいは1600μlとカルシトニン水溶液50μlを混合することで静電複合体を調製した。別に、インターセル内でCaco−2細胞を培養し、腸間膜モデルを作製した。インターセル上面に先に調製した静電複合体溶液250μlを加え、1時間ごとに3時間までインターセル下面に移動したカルシトニン量をラジオイムノアッセイによって測定した。その結果を図37に示す。
感温性や非イオン性化させたアニオン性化合物から作製した静電複合体ではカルシトニンに比べて約2倍の高い細胞膜透過性を有していることが分かった。また、アニオン性高分子化合物においては、感温性部分を4本側鎖の中心部に持ち、アニオン性部分を4本側鎖の末端部分に持つイソギンチャク構造のアニオン性高分子化合物の方が、より優れた細胞膜透過活性を持つことが分かった。
【0072】
(試験例25)カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式1)の静電複合体に対してカチオン性高分子化合物(式3)を付加した付加粒子に関するCaco−2細胞単層膜透過試験
試験例22と同様にして、アニオン性高分子化合物とカルシトニン、カチオン性高分子化合物との3者静電複合体のCaco−2細胞単層膜透過試験を行なった。評価サンプルは、以下のように作成した。カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、アニオン性高分子化合物である4分岐ポリアクリル酸化合物(分子量約8700)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。さらに、カチオン性化合物である4分岐ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド(分子量約1700または4700)、カチオン性−非イオン性化合物である4分岐ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド−ポリジメチルアクリルアミド(カチオン性部分子量約40000-非イオン性部分子量約8
0000、またはカチオン性部分子量約10000-非イオン性部分子量約3000)、
あるいは式5と式6のカチオン性−感温性化合物である4分岐ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミドーポリイソプロピルアクリルアミド(カチオン性部分子量約10000-感温性部分子量約10000(式6)、カチオン性部分子量約3000-感温性部分子量約9000(式5))をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。ポリアクリル酸化合物200μlに室温でカルシトニン水溶液50μlを加え、10分放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニンとの静電複合体を調製した。得られた静電複合体溶液にカチオン性高分子化合物200μlを加え、10分間放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニン、カチオン性高分子化合物との3者静電複合体を調製した。別に、インターセル内でCaco−2細胞を培養し、腸間膜モデルを作製した。インターセル上面に先に調製した静電複合体溶液250μlを加え、1時間ごとに3時間までインターセル下面に移動したカルシトニン量をラジオイムノアッセイによって測定した。その結果を図38に示す。
感温性化させたカチオン性高分子化合物を用いることで細胞膜透過性はカルシトニンのみの約2倍となることが分かった。また、式3のカチオン性高分子化合物の付加粒子においては、感温性部分を4本側鎖の末端部分に持つ化合物(スパイダー構造)の方が、非イオン性部分を4本側鎖の末端部分に持つ化合物よりも、優れた細胞膜透過活性を持つことが分かった。
【0073】
(試験例26)カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式1)の静電複合体に対してカチオン性高分子化合物(式3)を付加した付加粒子に関するCaco−2細胞単層膜透過試験
試験例22と同様にして、カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式1)の静電複合
体に対してカチオン性高分子化合物(式3)を付加した付加粒子に関する細胞膜透過活性を評価した。評価サンプルは、以下のように作成された。カルシトニン酢酸塩(サケ、分子量3491)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。また、アニオン性高分子化合物である4分岐ポリアクリル酸化合物(分子量約9400)、ポリスチレンスルフォン酸(分子量約6100)あるいはポリビニル安息香酸(分子量約12000)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。さらに、感温性−カチオン性高分子化合物である4分岐ポリイソプロピルアクリルアミド−ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド(感温性部分子量約9000-カチオ
ン性部分子量約3000、感温性部分子量約9000−カチオン性部分子量約5000)をPBS(−)にて希釈し、1mg/ml濃度の水溶液を1ml調製した。ポリアニオン化合物200μlまたは400μlに室温でカルシトニン水溶液50μlを加え、10分放置することでアニオン性化合物とカルシトニンとの静電複合体を調製した。得られた静電複合体溶液にカチオン性化合物200μlまたは400μlを加え、10分間放置することでアニオン性高分子化合物とカルシトニン、カチオン性高分子化合物との3者静電複合体を調製した。別に、インターセル内でCaco−2細胞を培養し、腸間膜モデルを作製した。インターセル上面に先に調製した静電複合体溶液250ulを加え、1時間ごとに3時間までインターセル下面に移動したカルシトニン量をラジオイムノアッセイによって測定した。その結果を図39に示す。
アニオン性高分子化合物の種類を問わずに、感温性-カチオン性高分子化合物と組み合
わせた3者複合体はカルシトニン単独の約4倍の非常に高い細胞膜透過性を有していることが分かった。なお、付加粒子を作成するには、式1のアニオン性高分子化合物としては、疎水性のより高い、p−ナトリウムカルボキシルフェニル基、p−ナトリウムスルホン酸フェニル基を持つ化合物の方が、カルボキシル基を持つ化合物よりも、より優れた細胞膜透過活性を持つことが分かった。

【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】カチオン性高分子化合物(式5)の加熱による3次元的な構造変化(イソギンチャク構造)
【図2】カチオン性高分子化合物(式6)の加熱による3次元的な構造変化(スパイダー構造)
【図3】カルシトニンとアニオン性化合物との静電複合体粒子の安定性
【図4】カルシトニンとアニオン性化合物との静電複合体粒子の濃度依存性
【図5】カチオン性化合物付加粒子(アニオン性が低い蛋白質静電複合体粒子)の安定性
【図6】カチオン性化合物付加粒子(アニオン性が高い蛋白質静電複合体粒子)の安定性
【図7】蛋白質静電複合体粒子の粒子径に対するアニオン性高分子化合物の分子量の影響
【図8】蛋白質静電複合体粒子の安定性に対するアニオン性高分子化合物の分子量(低分子量のアニオン性高分子化合物)の影響
【図9】蛋白質静電複合体を作製するためのアニオン性高分子化合物の最適量
【図10】アニオン性高分子化合物の分枝側鎖(2本側鎖、4本側鎖)の影響
【図11】アニオン性高分子化合物(式3、感温性)を用いた蛋白質静電複合体粒子の安定性
【図12】アニオン性高分子化合物(式3、感温性)を用いた蛋白質静電複合体粒子の濃度安定性
【図13】アニオン性高分子化合物(式3、感温性)を用いた蛋白質静電複合体粒子の分子量依存性
【図14】アニオン性高分子化合物(式3、感温性)を用いた蛋白質静電複合体粒子のpH安定性
【図15】アニオン性高分子化合物(式1)の分子量とアクリル酸の使用量の量的相関関係
【図16】カチオン性中間体(iniferter)の分子量と使用したN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの使用量の量的相関関係
【図17】カチオン性中間体(iniferter)の分子量と添加したN−イソプロピルアクリルアミドの使用量との相関関係
【図18】カチオン性化合物(式4)の感温性(凝集性)
【図19】直鎖アニオン性化合物(式1)による蛋白質静電複合体の安定性
【図20】アニオン性化合物(式1)とカチオン性化合物(式4)との静電複合体の安定性
【図21】感温性高分子化合物の安定性
【図22】感温性高分子化合物、アニオン性感温性化合物(式2、式3)の安定性
【図23】アニオン性感温性化合物(式3)の安定性(経時変化)
【図24】アニオン性感温性化合物(式3)の希釈安定性
【図25】直鎖アニオン性化合物と分枝状アニオン性化合物(式1)による蛋白質静電複合体の安定性
【図26】アニオン性化合物(式2)とカルシトニンとの静電複合体の粒子径
【図27】アニオン性化合物(式3)とカルシトニンとの静電複合体の粒子径
【図28】アニオン性化合物(式2)とカルシトニンとの静電複合体に基づくカチオン性高分子付加粒子の粒子径
【図29】カルシトニン含有カチオン性高分子付加粒子の十二指腸投与によるラット血中Ca低下作用
【図30】カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式1)との静電複合体の安定性
【図31】カルシトニン含有の静電複合体にカチオン性高分子化合物(カチオン性部分のみ)を付加させた付加粒子の安定性
【図32】カルシトニン含有の静電複合体にカチオン性高分子化合物(式3、カチオン性部分+非イオン性部分)を付加させた付加粒子の安定性
【図33】カルシトニン含有の静電複合体にカチオン性高分子化合物(式5、感温性部分+カチオン性部分:イソギンチャク構造)を付加させた付加粒子の安定性
【図34】カルシトニン含有の静電複合体にカチオン性高分子化合物(式6、カチオン性部分+感温性部分:スパイダー構造)を付加させた付加粒子の安定性
【図35】カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式1)との各種静電複合体における細胞膜透過活性
【図36】カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式1と式2)との各種静電複合体における細胞膜透過量の比較
【図37】カルシトニンとアニオン性高分子化合物(式2、アニオン性部分+非イオン性部分、感温性部分+アニオン性部分)との2種の静電複合体における細胞膜透過活性
【図38】カルシトニン含有の静電複合体にカチオン性高分子化合物を付加した付加粒子の細胞膜透過活性
【図39】カチオン性高分子化合物(式3、イソギンチャク構造)を付加した付加粒子において、アニオン性高分子化合物(式1)の組成変化が及ぼす細胞膜透過性に対する効果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式1:
【化1】


[式中、Aはカルボキシル基、p−(ナトリウムカルボキシレート)フェニル基またはp−(ナトリウムスルホネート)フェニル基を表し、nは5から347の整数を表す。]で示される、分子量が4000から100000であるアニオン性高分子化合物。
【請求項2】
分子量が10000以上である、請求項1記載のアニオン性高分子化合物。
【請求項3】
nが23から87である、請求項1又は2に記載のアニオン性高分子化合物。
【請求項4】
下記の式2:
【化2】


[式中、Aはカルボキシル基、p−(ナトリウムカルボキシレート)フェニル基またはp−(ナトリウムスルホネート)フェニル基を表し、nは4から347の整数を表す。BはN,N−ジメチルアミノカルボニル基またはN−イソプロピルアミノカルボニル基を表わし、mは2から253の整数を表わす。]で示される、分子量が4000から100000である、アニオン性高分子化合物。
【請求項5】
分子量が10000以上である、請求項4記載のアニオン性高分子化合物。
【請求項6】
Aがカルボキシル基であり、BがN−イソプロピルアミノカルボニル基である、請求項4または5記載のアニオン性高分子化合物。
【請求項7】
nが23から87の整数を表わし、mが11から25の整数を表わす、請求項4から6のいずれかに記載のアニオン性高分子化合物。
【請求項8】
下記の式3:
【化3】


[式中、Cが3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアミノカルボニル基またはN−イソプロピルアミノカルボニル基を表わし、nは5から252の整数を表す。Bは3−(N
,N−ジメチルアミノ)プロピルアミノカルボニル基、N,N−ジメチルアミノカルボニル基またはN−イソプロピルアミノカルボニル基を表わし、mは5から252の整数を表わす。]で示される、分子量が4000から100000である、カチオン性高分子化合物。
【請求項9】
分子量が10000以上である、請求項8記載のカチオン性高分子化合物。
【請求項10】
Bが3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアミノカルボニル基、CがN−イソプロピルアミノカルボニル基である、請求項8または9記載のカチオン性高分子化合物。
【請求項11】
nが5から161の整数を表わし、mが7から252の整数を表わす、請求項8から10のいずれかに記載のカチオン性高分子化合物。
【請求項12】
Cが3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアミノカルボニル基、BがN−イソプロピルアミノカルボニル基である、請求項8または9記載のカチオン性高分子化合物。
【請求項13】
nが7から252の整数を表わし、mが5から161の整数を表わす、請求項12に記載のカチオン性高分子化合物。
【請求項14】
塩基性蛋白質と上記請求項1から7に記載のアニオン性高分子化合物との静電複合体であって、蛋白質の重量を1として、該化合物が重量比で1から32の組成である塩基性蛋白質の静電複合体粒子。
【請求項15】
該静電複合体粒子がアニオン性であり、粒子径が50から250nmである、請求項14記載の塩基性蛋白質の静電複合体粒子。
【請求項16】
塩基性蛋白質が、カルシトニンまたはヒト成長ホルモンである、請求項14又は15記載の静電複合体粒子。
【請求項17】
請求項15または16に記載の静電複合体粒子に、請求項8から13のカチオン性高分子化合物をアニオン性高分子化合物の0.5から4倍量を付加して得られる付加粒子。


【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図36】
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【図1】
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【図2】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図35】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【公開番号】特開2008−266631(P2008−266631A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82589(P2008−82589)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(302005628)株式会社 メドレックス (35)
【Fターム(参考)】