説明

蛋白質結晶化用装置

【課題】蛋白質含有試料の分注量を簡便に秤量することができる、秤量手段を提供する。
【解決手段】蛋白質含有試料の分注量を秤量する手段であって、容積の異なる2以上の秤量用凹部を有する、秤量手段。好ましくは、秤量用凹部が、容積順に並べられたものである。また、好ましくは、各秤量用凹部の容積が、0.001μl〜2μlの範囲内のものである。さらに好ましくは、秤量用凹部の形状が、半球状又は円柱状である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質の結晶化あるいは結晶化条件のスクリーニングを行うための装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蛋白質の立体構造と蛋白質の機能との関係を明らかにすることにより、それをコードする遺伝子の機能を解明しようとする、構造ゲノム科学と呼ばれる研究が行われている。
【0003】
蛋白質の立体構造の解析は、通常、解析しようとする蛋白質の結晶化条件をスクリーニングした後、最適な結晶化条件における結晶化を実施し、その後得られた結晶をX線構造解析に供することにより行われている。ここで、蛋白質の結晶化条件をスクリーニングする過程においては、立体構造解析を行うのに十分に良好な結晶を得る条件を決定するまでに、多くの時間と多量の蛋白質含有試料を費やしており、立体構造解析におけるボトルネックとなっている。
【0004】
このことに対し、蛋白質の結晶化条件のスクリーニング、あるいは結晶化を迅速に、より微量のサンプルで行うために、種々の蛋白質結晶化用装置や結晶化方法、結晶化スクリーニング方法が提案されている。
【0005】
本発明者らの一部も蛋白質の結晶化条件のスクリーニングを迅速に、かつ微量のサンプルで経済的に行うことを目的として、結晶化実験をマイクロアレイ型のチップ上で行うような結晶化用装置を提案している(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0006】
特許文献1及び特許文献2に記載の発明では、蛋白質の結晶化条件のスクリーニングは、マイクロアレイを使用することにより行われる。そして、そのマイクロアレイは、貫通孔により形成された各区画内にゲル状物が保持されており、各ゲル状物には、複数の種類及び濃度の蛋白質結晶化剤が含まれている。このようなマイクロアレイを蛋白質含有試料と接触させることにより、一度に複数の結晶化条件をスクリーニングすることができる。さらに、微量の蛋白質含有試料で実施することができ、非常に効率的である。マイクロアレイを蛋白質含有試料と接触させる手段としては、所望の容量に合わせた貫通孔を有する専用の補助治具、ピペッタのような一般的な分注器具、自動分注装置等が挙げられるが、マイクロアレイに保持される区画数が多くなるほど、自動分注装置が簡便性と迅速性の点で最も有利である。
【0007】
【特許文献1】WO03/053998号パンフレット
【特許文献2】特開2005−58889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
様々なメーカーから発売されている自動分注装置は、分注量を調節する機構も様々であるが、一般には用いる液剤の粘度により分注量が変化する。そのため、自動分注装置自体には検量線の設定がなく、用いる液剤に合わせてユーザーが検量線を設定しているのが現状である。蛋白質の結晶化等に用いられる蛋白質含有試料は、その種類や濃度が広範囲に及び、したがってその粘度も広範囲に及ぶ。蛋白質の結晶化等のように蛋白質含有試料の正確な分注が必要な用途においては、蛋白質含有試料を変更する都度、その分注量を秤量し、自動分注装置を調節する必要がある。
【0009】
このとき、分注量の秤量は天秤等を用いて蛋白質含有試料の質量を測定するのが一般的であるが、蛋白質の結晶化等においては1滴の分注量が0.5μl以下と微量であるため、一般的に普及している最小表示0.1mgの電子天秤で精度の高い秤量を行うには、10〜100滴程度分注した総質量を測定し、得られた総質量から1滴の分注量を計算して求める必要がある。このように、従来の分注量の秤量方法は極めて煩雑である。また、蛋白質含有試料は高価且つ貴重な生体サンプルの場合もあり、そのような場合には自動分注装置の調節に多量の蛋白質含有試料を消費することを避けることが好ましい。
【0010】
このような状況の下、蛋白質含有試料の分注量を簡便に秤量することができる、秤量手段が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、蛋白質含有試料の分注量を秤量するために、容積の異なる2以上の秤量用凹部を有する秤量手段を用いることで、分注量を簡便に秤量することができることなどを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0012】
(1) 蛋白質含有試料の分注量を秤量する手段であって、容積の異なる2以上の秤量用凹部を有する、秤量手段。
(2) 秤量用凹部が容積順に並べられたものである、上記(1)に記載の秤量手段。
(3) 各秤量用凹部の容積が0.001μl〜2μlの範囲内のものである、上記(1)又は(2)に記載の秤量手段。
(4) 秤量用凹部の形状が半球状又は円柱状である、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の秤量手段。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の秤量手段と、2以上の凹部を有する蛋白質結晶化用マイクロアレイとを備える、蛋白質結晶化用装置。
(6) 2以上の凹部を有する蛋白質結晶化用マイクロアレイを配置する第1のプレートと、前記蛋白質結晶化用マイクロアレイの凹部に対応する凹部を有する第2のプレートとを備える、上記(5)に記載の装置。
(7) 秤量手段が第1のプレート及び/又は第2のプレートに備えられたものである、上記(6)に記載の装置。
(8) 上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の手段の凹部のそれぞれに、蛋白質含有試料を分注し、分注した試料がすりきり状態を呈した秤量用凹部の容積を、蛋白質含有試料の分注量とする、蛋白質含有試料の分注量の秤量方法。
(9) 上記(8)に記載の秤量方法により秤量された分注量に基づき分注装置の分注量を調節し、当該分注量を調節した分注装置を用いて、蛋白質含有試料の分注を行う、蛋白質含有試料の分注方法。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明によれば、蛋白質含有試料の分注量の秤量手段が提供される。本発明の好ましい態様によれば、蛋白質含有試料の分注量を簡便に秤量することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されない。
本発明は、蛋白質含有試料の分注量を秤量する手段であって、容積の異なる2以上の秤量用凹部を有する、秤量手段を提供する。また、本発明は、このような秤量手段と、2以上の凹部を有する蛋白質結晶化用マイクロアレイとを備える、蛋白質結晶化用装置を提供する。さらに、本発明は、容積の異なる2以上の秤量用凹部のそれぞれに、等量の蛋白質含有試料を分注し、分注した試料がすりきり状態を呈した秤量用凹部の容積を、蛋白質含有試料の分注量とする、蛋白質含有試料の分注量の秤量方法を提供する。
【0015】
[蛋白質結晶化用装置]
図1は、本発明の蛋白質結晶化用装置の一例を示すものである。図1の蛋白質結晶化用装置は、第1のプレート11(以下、ロアープレートと称ぶ場合がある)と、第2のプレート16(以下、アッパープレートと呼ぶ場合がある)と、2以上の凹部を有する蛋白質結晶化用マイクロアレイ14と、第1のプレート及び第2のプレートのそれぞれに、蛋白質含有試料の分注量の秤量手段12,17とを備える。
【0016】
そして、この蛋白質結晶化用装置では、ロアープレート11に設けられた蛋白質結晶化用マイクロアレイ保持用凹部13に蛋白質結晶化用マイクロアレイ14を嵌め込み、蛋白質結晶化用マイクロアレイ14をロアープレート11に配置する。また、この蛋白質結晶化用マイクロアレイ14の凹部15には、蛋白質結晶化剤保持ゲル状物が保持される。さらに、アッパープレート16は、蛋白質結晶化用マイクロアレイ14の凹部15に対応する2以上の凹部18を有する。この凹部18には、蛋白質含有試料が保持される。
【0017】
さらに、この蛋白質結晶化用装置では、アッパープレート16に設けられた蛋白質含有試料保持用凹部18に蛋白質含有試料を分注し、ロアープレート11とアッパープレート16を重ね合わせ、ロアープレート11とアッパープレート16にそれぞれ4箇所設けた対応する貫通孔20、21を通じて締結部品19で締結することができる。ロアープレート11とアッパープレート16を重ね合わせる際に、蛋白質含有試料保持用凹部18に分注された蛋白質含有試料と蛋白質結晶化用マイクロアレイ14の蛋白質結晶化剤保持ゲル状物が接触し、締結部品19で締結することで結晶化区画が維持される。
【0018】
ここで、本発明において、「蛋白質含有試料」とは、結晶化しようとする対象の蛋白質、又は結晶化条件を特定しようとする対象の蛋白質を含む試料である。蛋白質としては、天然又は合成のペプチド、ポリペプチド、蛋白質及び蛋白質複合体が挙げられる。これらの物質は、天然若しくは合成材料から抽出・単離、又は遺伝子工学的手法若しくは化学合成手法等により生成した後、通常の精製法、例えば溶媒抽出、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどを組み合わせて用いることにより、スクリーニング対象の蛋白質を精製しておくことが好ましい。
また、「秤量」とは、自動分注装置などが分注する蛋白質含有試料の分注量(容積)を測定することを指す。
【0019】
以下、本発明の好ましい態様における秤量手段について、さらに詳しく説明する。
蛋白質含有試料の分注に自動分注装置を用いる場合は、分注前に自動分注装置の分注量の調節が必要である。前述したとおり、従来、自動分注装置の分注量の調節には、煩雑な秤量作業と、蛋白質含有試料のロスが生じていた。
そこで、図1の蛋白質結晶化用装置では、前述のように、ロアープレート11とアッパープレート16の表面に秤量手段12、17を設けることとし、従来の課題を解決することに成功した。この秤量手段12、17は、自動分注装置などの分注量の調節時に利用される。
【0020】
図2は、図1の秤量手段の使用状態を示すものである。すなわち、図2は、秤量手段12の断面図であり、容積順に一列に並べられた容積の異なる5つの秤量用凹部12a〜12eのそれぞれに一定量の蛋白質含有試料を分注した状態を示す。図2中、秤量用凹部12aの容積が最小であり、秤量用凹部12eの容積が最大となっている。このように、ロアープレート11に配置された秤量手段12の各秤量用凹部12a〜12eのそれぞれに自動分注装置などを用いて一定量の蛋白質含有試料22を分注し、側面から蛋白質含有試料22の液面の高低を目視観察することで、自動分注装置の分注量を視覚的に秤量することが可能である。例えば、図2において、12a〜12eのそれぞれの凹部に、量が予めわかっている試料を等量添加する場合を考えてみる。そうすると、試料の量が凹部の容積よりも大きいときは試料の一部が凹部からはみ出る(12a、12b)のに対し、試料の量が、凹部の容積と等量又は凹部よりも小さいときは、試料は凹部内に全部収まることとなる(12c、12d、12e)。従って、蛋白質含有試料22の液面を側面から見たときに、秤量用凹部12a,12bでは、液面が秤量用凹部の開口部より上に出ており、秤量用凹部12cでは、液面が秤量用凹部の開口部に対してすりきり状態を呈しており、秤量用凹部12d,eでは、液面が秤量用凹部の開口部より下である。そこで、分注した試料がすりきり状態を呈した秤量用凹部12cの容積を、この時の自動分注装置の分注量とみなすことができる。
【0021】
本発明の好ましい態様では、蛋白質含有試料の分注量を簡便に秤量することができ、このため、自動分注装置の調節作業も比較的簡便に行うことができる。また、本発明の好ましい態様では、自動分注装置の調節に消費する蛋白質含有試料を節減することができる。この場合、蛋白質の結晶化又は結晶化条件のスクリーニングを、迅速かつ経済的に、高い信頼性をもって実施することができる。ここで、「結晶化」とは、蛋白質含有試料から結晶を成長又は析出させて蛋白質の結晶を得ることを指す。また、「蛋白質の結晶化条件」とは、例えば、蛋白質結晶化剤の種類及び濃度、蛋白質結晶化剤を保持させて固化した後のゲルのpH、組成及び架橋度、結晶化区画の温度、結晶化の時間ならびに冷却プロファイル等である。
【0022】
図2では、ロアープレート11に設けられた秤量手段12の5ヶ所の秤量用凹部12a〜12eの全部に蛋白質含有試料を分注して、秤量を行っているが、本発明はこれに限定されず、秤量用凹部12a〜12eの一部に蛋白質含有試料を分注して、秤量を行うようにしても良い。また、アッパープレート16に設けられた秤量手段17の秤量用凹部の全部又は一部を用いて、蛋白質含有試料の分注量の秤量を行うようにしても良いし、ロアープレート11とアッパープレート16に設けられた秤量手段12、17の両方の秤量用凹部の全部又は一部を用いて蛋白質含有試料の秤量を行うようにしても良い。
【0023】
また、図1の蛋白質結晶化用装置では、分注量の秤量手段をロアープレート11及びアッパープレート16の両方に設けているが、本発明はこれに限定されず、ロアープレート11又はアッパープレート16のいずれか一方にのみ設けるようにして、秤量手段12又は17のどちらか一方を省略することも可能である。蛋白質結晶化用装置内で秤量手段を設ける場合、秤量手段を設ける場所は特に限定されないが、使い勝手上、図1に示すようにロアープレート11及びアッパープレート16の外周付近に容積の異なる2以上の凹部を1列に配置することが最も好ましい。また、1枚のロアープレート11又はアッパープレート16に2以上の容積の異なる凹部を複数列設けるようにしてもよい。
【0024】
さらに、図1の秤量手段12,17は、容積の異なる秤量用凹部を、それぞれ5個ずつ、合わせて10個有する。しかしながら、本発明の秤量手段の秤量用凹部の個数はこれに限定されず、2個以上であれば良く、特に3〜10個であることが好ましい。また、本発明の好ましい態様によれば、秤量用凹部は容積順に並べられる。すなわち、秤量用凹部の容積を徐々に変化させる。さらに、本発明の好ましい態様によれば、各凹部の容積は、0.001μl〜2μlの範囲内であり、より好ましくは、0.01μl〜1μlである。秤量手段の秤量用凹部の個数が多ければ多いほど、容積総変化量が大きくなり、秤量範囲が拡大する。また、各秤量用凹部間の容積変化量を小さくとることで秤量精度が向上するなど、秤量能力面で利点が生じる。一方、秤量用凹部の個数が少なければ少ないほど、秤量用手段の製造コストや蛋白質含有試料のロスを抑えることが可能である。秤量用凹部の個数は、使用者の使い勝手を考慮して適宜増減すればよい。
【0025】
また、図2の秤量手段12では、秤量用凹部の形状は半球状であるが、本発明では秤量用凹部の形状はこれに限定されず、例えば図3(a)に示すように円柱状であっても良い。また、図3(b)に示すように、開口部側を円柱状とし、底部側を半球状に形成しても良い。分注した蛋白質含有試料は概ね円形に形成されるため、秤量用凹部の開口部の形状も円形であることが好ましい。秤量用凹部の形状は、半球状又は円柱状が好ましく、最も好ましくは半球状である。半球を例に挙げれば、半径0.078mmで容積が0.001μl、半径0.985mmで容積が2μlである。また、円柱を例に挙げれば、半径0.08mm×深さ0.05mmで容積が0.001μl、半径1.03mm×深さ0.6mmで容積が2μlである。なお、秤量用凹部の容積は、凹部の幅(例えば直径)及び/又は深さを適宜変更することにより、変更することができる。
【0026】
さらに、秤量手段12、17の加工法としては、機械切削及びレーザ切削に代表される除去加工、並びにブロー成型、真空成型、射出成型及び光造型に代表される成型加工等が挙げられるが、微細形状を高い再現性で効率よく量産可能という点で、射出成型が最も好適である。機械切削、レーザ切削に代表される除去加工は、加工誤差が不可避のため秤量手段の間で個体間差が生じる場合があるが、成型金型等を必要としないために初期投資額を抑えられる利点がある。また、ホットエンボスに代表される転写加工技術は、他の手法に比べてより微細形状の成型に好適であり、目標とする蛋白質含有試料の量が少なくなるほど好適である。
【0027】
また、用いる材質の性状が疎水性である場合、蛋白質含有試料の表面張力による凹部縁からの盛り上がりを減少する目的で凹部の表面を含む秤量手段の表面に、さらには秤量手段を配置するプレートの表面全体に親水化処理を適宜施工しても良い。
【0028】
次に、図1に示す装置の秤量手段以外の構成部分について、さらに詳しく説明する。
本発明の蛋白質結晶化用装置は、経時による結晶化挙動の変化が、ロアープレート11又はアッパープレート16越しに透過観察できるものであるのが好ましい。このため、ロアープレート11及び/又はアッパープレート16は、透明性の高い透過観察部を含むものであるのが好ましい。ロアープレート11及び/又はアッパープレート16の透過観察部の材質としては、アクリル、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリカーボネート、ポリエステルに代表される各種透明樹脂、ガラス等が挙げられる。その他の部分の材質としては、前記各種透明樹脂の他、ナイロン、ポリアミド、ポリアセタール、テフロン(登録商標)に代表される各種樹脂、鉄、アルミ、銅、チタン、マグネシウムに代表される各種金属及び合金、タングステンカーバイトに代表される粉末冶金焼結体、さらに前記樹脂にガラス繊維や炭素繊維等を混入した複合樹脂、ガラス、セラミックに代表される無機材料等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。最も好適なのは、装置の透過観察部を含む装置全体を単一材料で成型可能な、アクリル、ABS、ポリカーボネート、ポリエステルに代表される各種透明樹脂である。
【0029】
図1において、蛋白質結晶化用マイクロアレイ14は、例えば蛋白質の結晶化又は結晶化条件のスクリーニングに用いるものである。図1の装置では、蛋白質結晶化用マイクロアレイ14の形状は長方形であるが、本発明はこれに限定されず、例えば、円形や正方形であっても良い。また、蛋白質結晶化用マイクロアレイ14の厚みは、結晶化の効率や、結晶化挙動の観察の容易性などを考慮して任意に選択することができるが、好ましくは、0.1mm〜5mm、より好ましくは0.2mm〜2mmとする。
【0030】
また、蛋白質結晶化用マイクロアレイ14の凹部の数は、マイクロアレイ1cm2あたり、10個以上であり、好ましくは、1cm2あたり10〜200個である。
【0031】
さらに、蛋白質結晶化用マイクロアレイ14の材質は、透過観察できるように透明性の高いものが好ましい。そのような材質としては、前述のアッパープレートとロアープレートの材質として説明した、ガラス及び樹脂等が挙げられる。
【0032】
本発明の蛋白質結晶化用装置に用いられる蛋白質結晶化用マイクロアレイの好適な例は、WO03/053998号パンフレット及び特開2005−58889号公報などに記載されている、2以上の管状体を配列してなるマイクロアレイである。このマイクロアレイは、中空繊維を規則的に配列し、樹脂接着剤等で接着することにより製造することができる。中空繊維の材質としては、例えば、メタクリレート系モノマー及びアクリレート系モノマーの単重合体又はこれらの共重合体などが挙げられる。また、樹脂接着剤としては、ポリウレタン樹脂接着剤等が挙げられる。尚、マイクロアレイが、2以上の管状体を配列してなるものである場合、マイクロアレイの凹部は、通常、マイクロアレイを貫通する貫通孔である。
【0033】
また、蛋白質結晶化剤保持ゲル状物は、蛋白質結晶化剤を保持するゲル状物である。蛋白質結晶化剤は、蛋白質の溶解度を下げる機能をする化合物を意味し、沈殿剤、pH緩衝剤、その他付加物等が挙げられる。また、ゲル状物としては、特に制限されないが、例えば、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルアミノエトキシエタノール、N−アクリロイルアミノプロパノール、N−メチロールアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、及び(メタ)アクリル酸、アリルデキストリン等の単量体の一種類又は2種類以上と、メチレンビス(メタ)アクリルアミド又はポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等との多官能性単量体を、例えば水性媒体中で共重合したゲルを挙げることができる。その他のゲル状物として、例えばアガロース、アルギン酸、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等のゲル、又はこれらを架橋したゲルを挙げることができる。
【0034】
ゲル状物には、複数の種類及び濃度の蛋白質結晶化剤を保持させることができる。ここで「保持」とは、蛋白質結晶化剤をマイクロアレイに固定化することを意味する。ゲル状物に蛋白質結晶化剤を保持させる方法は、特に制限されるものではない。例えば、蛋白質結晶化剤とゲル状物となる重合性モノマーを混合しておき、その後、重合過程を経てポリマーゲルを形成させてゲル状物に蛋白質結晶化剤を固定化する方法が挙げられる。
【0035】
さらに、締結部品19としては、ロアープレート11とアッパープレート16を締結できる部品であればよく、材質及び形状は限定されない。また、貫通孔20、21の形状及び数も、締結部品の材質及び形状などに応じて適宜選択すれば良く、限定されない。また、締結部品の形状を、例えばクリップ状にした場合などには、貫通孔を設けなくても、ロアープレート11とアッパープレート16を締結することができる。
【0036】
本発明の好ましい態様における蛋白質結晶化用装置は、例えば、医薬分野等における研究及び開発において、蛋白質の結晶化条件のスクリーニング及び蛋白質の構造解析用結晶の作製などに用いることができる。
【0037】
[蛋白質含有試料の分注方法]
本発明の好ましい態様では、前述の秤量手段を用いて秤量した分注量に基づいて、自動分注装置の分注量を調節し、分注量を調節した分注装置を用いて、蛋白質含有試料の分注を行う。
自動分注装置は、液状の蛋白質含有試料の注出を自動的に行う装置である。自動分注装置の注出口の数は特に限定されないが、2以上の注出口を有する自動分注装置を用いることが好ましい。自動分注装置は、適当量の蛋白質含有試料を注出することができれば特に限定されないが、例えば、マイクロピペットを有するものを挙げることができる。
【0038】
そして、自動分注装置の分注量の調節は、秤量した分注量に基づいて行う。自動分注装置の分注量を調節するとは、予め設定した分注量で蛋白質含有試料を分注できるように、自動分注装置の設定を調節することを指す。
【0039】
分注量の調節は、例えば、空気による加圧量を調整することによって、行うことができる。
【0040】
さらに、自動分注装置の調節後、図1の装置に蛋白質含有試料を分注する場合には、蛋白質含有試料保持用凹部18に蛋白質含有試料を分注する。しかし、本発明は、これに限定されず、蛋白質結晶化剤保持ゲル状物を保持するマイクロアレイ14の凹部15に直接分注するようにしても良いし、蛋白質含有試料保持用凹部18とマイクロアレイ14の凹部15の両者に適宜配分して分注するようにしても良い。
【0041】
[蛋白質の結晶化条件のスクリーニング及び蛋白質の結晶化]
図1に示す装置を用いて、蛋白質の結晶化条件のスクリーニングを行う場合は、例えば、次のようにして行う。先ず、蛋白質結晶化用マイクロアレイの中で、蛋白質結晶化剤と蛋白質含有試料とを複数の結晶化条件で反応させる。次に、蛋白質結晶化用装置を、蛋白質が析出するのに十分な時間にわたって、ある温度条件下にて、密閉状態又は大気中に静置する。そして、蛋白質が析出するのに十分な時間が経過した後、蛋白質の結晶析出の状況を観察し、対象の蛋白質について最適な結晶化条件を決定する。
【0042】
さらに、蛋白質の結晶化は、スクリーニングで決定した結晶化条件に基づき、公知の結晶化方法、例えば、蒸気拡散法又はハンギングドロップ法などを用いて行うことができる。また、蛋白質の結晶化は、図1の装置を用いて行っても良い。その場合、例えば、スクリーニングで結晶が析出した結晶化区画において引き続いて結晶化を行うようにすれば良い。さらに、スクリーニングで析出した結晶を回収し、これを種結晶として用い、公知の結晶化方法により蛋白質の結晶を作製することもできる。公知の結晶化方法としては、ハンギングドロップ法、シッティングドロップ法、透析法、及びバッチ法などを挙げることができる。
【0043】
そして、得られた蛋白質結晶を回収し、回収した結晶を公知の方法でX線構造解析などの立体構造解析方法を用いて解析することで、対照蛋白質の立体構造を決定することができる。
【実施例】
【0044】
[実施例1]
(ロアープレートの製作)
材質として透明アクリル樹脂VA001(三菱レイヨン(株)製)を用い、ロアープレートを射出成型で製作した。ロアープレートの外形寸法は縦65mm×横55mm×厚さ12mmで、65mm×55mm面の中央に縦30mm×横20mm×深さ0.7mmの蛋白質結晶化用マイクロアレイ保持用凹部を設けた。さらに同一面の55mm辺に並行して2.5mmの場所に、半球状の蛋白質含有試料秤量用凹部を5個、2mmの間隔で設けた。各凹部の半径は、順にSR=0.135mm、0.17mm、0.195mm、0.21mm、0.23mmとした。各凹部の容積は、順に0.005μl、0.01μl、0.015μl、0.02μl、0.025μlである。さらに同一面にアッパープレートとの締結用の貫通穴(M5めねじ穴)を4箇所設けた。
【0045】
(アッパープレートの製作)
材質として透明アクリル樹脂VA001(三菱レイヨン(株)製)を用い、アッパープレートを射出成型で製作した。アッパープレートの外形寸法は縦65mm×横55mm×厚さ12mmで、65mm×55mm面の中央に直径0.7mm×深さ0.15mmの円柱状の蛋白質含有試料保持用凹部を、縦12個×横8個の合計96個、縦横とも2mmの間隔で設けた。さらに同一面の55mm辺に並行して2.5mmの場所に、半球状の蛋白質含有試料秤量用凹部を5個、2mmの間隔で設けた。各凹部の半径は、順にSR=0.265mm、0.29mm、0.305mm、0.32mm、0.335mmとした。各凹部の容積は、順に0.04μl、0.05μl、0.06μl、0.07μl、0.08μlである。さらに同一面にロアープレートとの締結用の直径5.5mm貫通穴を4箇所設けた。
【0046】
(自動分注装置の分注量の秤量1;目標値0.015μl)
自動分注装置として、卓上型3軸同時制御ロボットSHOTminiSLに搭載した非接触ジェットディスペンサMJET−1(いずれも武蔵エンジニアリング(株)製)を、蛋白質含有試料として、卵白由来リゾチーム120−02674(和光純薬工業(株)製)30mgを超純水500μlに溶解したリゾチーム水溶液を、蛋白質含有試料の秤量手段として、先述の通り製作したロアープレートに設けたものを用いて、自動分注装置の分注量の秤量を実施した。
【0047】
まず蛋白質含有試料を自動分注装置の液剤貯留部に装填し、次いで自動分注装置の空気減圧弁を0.02MPa、タイマーを0.004sec、マイクロメータ読みを0.1mmに設定し、ロアープレートの蛋白質含有試料秤量用凹部5個に分注した。
5個の蛋白質含有試料秤量用凹部をロアープレートの55mm辺側面から見ると、SR=0.135mmと0.17mmの凹部からは蛋白質含有試料が溢れ、SR=0.195mmの凹部ではすりきり状態を呈し、SR=0.21mmと0.23mmの凹部では液面が窪んだ状態を呈した。
よって、この条件では、自動分注装置の分注量が、0.015μlであることがわかった。
【0048】
(自動分注装置の分注量の秤量2;目標値0.06μl)
自動分注装置、蛋白質含有試料として先述と同じものを、蛋白質含有試料の秤量手段として、先述の通り製作したアッパープレートに設けたものを用いて、自動分注装置の分注量の秤量を実施した。
【0049】
先述同様、まず蛋白質含有試料を自動分注装置の液剤貯留部に装填し、次いで自動分注装置の空気減圧弁を0.02MPa、タイマーを0.006sec、マイクロメータ読みを0.1mmに設定し、アッパープレートの蛋白質含有試料秤量用凹部5個に分注した。
5個の蛋白質含有試料秤量用凹部をアッパープレートの55mm辺側面から見ると、SR=0.265mmと0.29mmの凹部からは蛋白質含有試料が溢れ、SR=0.305mmの凹部ではすりきり状態を呈し、SR=0.32mmと0.335mmの凹部では液面が窪んだ状態を呈した。
よって、この条件では、自動分注装置の分注量が、0.06μlであることがわかった。
【0050】
(蛋白質結晶化用装置の組立)
先述したロアープレート、アッパープレート、自動分注装置、蛋白質含有試料と、蛋白質結晶化用マイクロアレイとして、外形寸法が縦30mm×横20mm×厚さ0.75mmで、直径0.3mmの蛋白質結晶化剤保持ゲル状物を縦横とも2mmの間隔で縦12個×横8個の合計96個保持した構造のものを用い、蛋白質結晶化用装置の組立を行った。
【0051】
まず、ロアープレート中央の蛋白質結晶化用マイクロアレイ保持用凹部に蛋白質結晶化用マイクロアレイを嵌め込み、空気減圧弁を0.02MPa、タイマーを0.004sec、マイクロメータ読みを0.1mmに設定した自動分注装置で、蛋白質結晶化剤保持ゲル状物96個全てに蛋白質含有試料を分注した。この操作は、蛋白質結晶化剤保持ゲル状物が0.01μl程度不規則に減肉している場合があり、それを補填するためのものである。
【0052】
次いで、自動分注装置の空気減圧弁を0.02MPa、タイマーを0.006sec、マイクロメータ読みを0.1mmに設定し、アッパープレートに設けられた蛋白質含有試料保持用凹部96個全てに蛋白質含有試料を分注し、ロアープレートとアッパープレートを重ね合わせ、4本のM5ボルトで締結した。
組み立てた蛋白質結晶化用装置をアッパープレート越しに透過観察すると、蛋白質含有試料保持用凹部96個全てに蛋白質含有試料が充填された状態が確認された。充填状態は、蛋白質含有試料の過剰な漏溢も不足もなく、良好であった。
【0053】
[比較例1]
(自動分注装置の分注量の秤量2;目標値0.06μl)
自動分注装置、蛋白質含有試料として実施例1と同じものを、蛋白質含有試料の秤量手段として、アッパープレートの代わりに電子天秤A200S(ザルトリウス(株)製)を用いて、自動分注装置の分注量の秤量を実施した。
実施例1同様、まず蛋白質含有試料を自動分注装置の液剤貯留部に装填し、次いで自動分注装置の空気減圧弁を0.02MPa、タイマーを0.006sec、マイクロメータ読みを0.1mmに設定し、スライドガラスに5滴分注した。この5滴の質量を電子天秤で測定したところ、表示値が0〜0.2mg間で振れ、測定できなかった。
【0054】
[比較例2]
(自動分注装置の分注量の秤量2;目標値0.06μl)
自動分注装置、蛋白質含有試料として実施例1と同じものを、蛋白質含有試料の秤量手段として比較例1と同じものを用いて、自動分注装置の分注量の秤量を実施した。
実施例1及び比較例1同様の装填操作、同条件で、スライドガラスに100滴分注した。この100滴の質量を電子天秤で測定したところ、表示値は5.9〜6.2mgであった。
このように秤量すると、自動分注装置の分注量が、0.059〜0.062mgとして求められ、ばらつきが大きいことがわかる。その上、多くの蛋白質含有試料を秤量に消費してしまうことにもなる。
【0055】
[比較例3]
(自動分注装置の分注量の秤量1;目標値0.015μl)
自動分注装置、蛋白質含有試料として実施例1と同じものを、蛋白質含有試料の秤量手段として比較例1、2と同じものを用いて、自動分注装置の分注量の秤量を実施した。
実施例1及び比較例1、2同様の装填操作を行い、次いで自動分注装置の空気減圧弁を0.02MPa、タイマーを0.004sec、マイクロメータ読みを0.1mmに設定し、スライドガラスに100滴分注した。この100滴の質量を電子天秤で測定したところ、表示値は1.1〜1.6mgであった。
このように秤量すると、自動分注装置の分注量が、0.011〜0.016mgとして求められ、ばらつきが大きいことがわかる。その上、多くの蛋白質含有試料を秤量に消費してしまうことにもなる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の蛋白質結晶化用装置の一例を示す概略図である。
【図2】蛋白質含有試料の分注量の秤量手段の使用状態を示す概略図である。
【図3】秤量手段の秤量用凹部の例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0057】
11…ロアープレート
12…秤量手段
12a〜12g…秤量用凹部
13…蛋白質結晶化用マイクロアレイ保持用凹部
14…蛋白質結晶化用マイクロアレイ
15…マイクロアレイの凹部
16…アッパープレート
17…秤量手段
18…蛋白質含有試料保持用凹部
19…締結部品
20…締結用貫通穴
21…締結用貫通穴
22…蛋白質含有試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質含有試料の分注量を秤量する手段であって、容積の異なる2以上の秤量用凹部を有する、秤量手段。
【請求項2】
秤量用凹部が容積順に並べられたものである、請求項1に記載の秤量手段。
【請求項3】
各秤量用凹部の容積が0.001μl〜2μlの範囲内のものである、請求項1又は2に記載の秤量手段。
【請求項4】
秤量用凹部の形状が半球状又は円柱状である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の秤量手段。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の秤量手段と、2以上の凹部を有する蛋白質結晶化用マイクロアレイとを備える、蛋白質結晶化用装置。
【請求項6】
2以上の凹部を有する蛋白質結晶化用マイクロアレイを配置する第1のプレートと、前記蛋白質結晶化用マイクロアレイの凹部に対応する凹部を有する第2のプレートとを備える、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
秤量手段が第1のプレート及び/又は第2のプレートに備えられたものである、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の手段の凹部のそれぞれに、蛋白質含有試料を分注し、分注した試料がすりきり状態を呈した秤量用凹部の容積を、蛋白質含有試料の分注量とする、蛋白質含有試料の分注量の秤量方法。
【請求項9】
請求項8に記載の秤量方法により秤量された分注量に基づき分注装置の分注量を調節し、当該分注量を調節した分注装置を用いて、蛋白質含有試料の分注を行う、蛋白質含有試料の分注方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−309617(P2008−309617A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157338(P2007−157338)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】