説明

蛍光体シートの製造方法

【課題】構造欠陥の発生が少ない蛍光体シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】基板上への成膜材料の蒸着により所定の蛍光体膜を形成する蛍光体シートの製造方法であって、前記基板を前記成膜材料の蒸発源上方から退去させておき、前記基板と前記成膜材料の蒸発源との間に設けられている開閉可能なシャッタを閉じた状態で前記成膜材料の蒸発を開始し、一定時間経過後に、前記シャッタを開き、その後に前記基板の搬送を開始し、前記基板上に前記蛍光体膜を形成することを特徴とする蛍光体シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輝尽性蛍光体を用いる放射線画像記録再生システムに用いられる放射線像画像変換パネルを構成するための蛍光体シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線(X線,α線,β線,γ線,電子線,紫外線等)の照射を受けると、この放射線エネルギーの一部を蓄積し、その後、可視光等の励起光の照射を受けると、上述の蓄積されたエネルギーに応じた輝尽発光を示す蛍光体が知られている。この蛍光体は、輝尽性蛍光体(または蓄積性蛍光体)と呼ばれ、医療用途等の各種の用途に利用されている。
【0003】
この輝尽性蛍光体からなる層(以下、蛍光体層という)を有するシート(蛍光体シート(放射線画像変換シートとも呼ばれる)という)を利用する、放射線画像情報記録再生システムが知られており、一例としては、FCR(Fuji Computed Radiography 富士写真フイルム(株)商品名)等として実用化されている。
【0004】
このシステムでは、蛍光体シートに人体などの被写体の放射線画像情報を記録し、記録後に、蛍光体シートをレーザ光等の励起光で2次元的に走査して輝尽発光光を生ぜしめ、この輝尽発光光を光電的に読み取って画像信号を得、この画像信号に基づいて再生した画像を、写真感光材料等の記録材料、あるいはCRT,液晶パネル等を用いた表示装置に、被写体の放射線画像の可視像として出力する。
【0005】
また、記録画像の読み取りが終了した蛍光体シートは、残存するエネルギーの消去が行われた後、次回の撮影(記録)に供される。すなわち、蛍光体シートは、放射線画像情報の記録,読み取り,残存エネルギーの消去,放射線画像情報の記録というように、繰り返し使用することが可能である。
【0006】
蛍光体シートは、基本構造として、支持体とその上に形成された蛍光体層とからなる。また、蛍光体層の上面には、通常、保護層が設けられており、蛍光体層を化学的な変質や物理的な衝撃などから保護している。
【0007】
このような蛍光体シートは、従来、輝尽性蛍光体の粉末をバインダ等を含む溶液に分散してなる塗料を調製して、この塗料をガラスや樹脂製のシート状の支持体に塗布し、乾燥して、蛍光体層を形成することによって、作製されていた。
これに対して、特許文献1,特許文献2等に示されるように、真空蒸着等の物理蒸着法(気相製膜法)によって、支持体に蛍光体層を形成するようにした蛍光体シートも知られている。
【0008】
真空蒸着によって作製される蛍光体層は、真空中で形成されるために不純物が少なく、また、バインダなどの輝尽性蛍光体以外の成分が殆んど含まれない柱状結晶により構成されることから、性能のバラつきが少なく、しかも、上記柱状結晶の間に存在する空隙(クラック)により励起光の進入効率や発光光の取り出し効率が良好であるため高感度であり、さらに、発光光の散乱が防止されるため高鮮鋭度の画像を得ることができるという、優れた特徴を有している。
【0009】
ところで、上述のような蒸着によって作製される蛍光体層は、一般に、母剤と付活剤と呼ばれる2種類の成膜材料を、支持体上に所定の比率で蒸着させることによって作製される。ここで問題となるのは、上述の母剤と付活剤との2種類の成膜材料を、支持体上に所定の比率で均一に蒸着させることである。
【0010】
従来、例えば、特許文献3には、輝尽性蛍光体の一例であるユーロピウム付活ハロゲン化セシウム(CsX:Eu)を支持体である基板上に蒸着する蛍光体シートを作製する方法が開示されているが、ここでは、上述の、母剤であるハロゲン化セシウムと付活剤であるユーロピウムを、得られた蒸着膜中に十分均一に分布させることについての配慮がなされているとはいえない。
【0011】
この問題に対しては、例えば特許文献4に開示されているように、基板と成膜材料の蒸発源(ルツボ)との間に遮蔽部材(シャッタ)を配して、成膜材料の蒸発状況が安定するまでは、上述のシャッタを閉じておいて、成膜材料の蒸発状況が安定したところで上述のシャッタを開いて、蒸着を開始することが考えられる。
【0012】
【特許文献1】特許第2789194号公報
【特許文献2】特開平5−249299号公報
【特許文献3】WO01/03156A1号公報
【特許文献4】特開2003−302497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献4に開示されている蒸着装置は、いわゆる回転型の基板ホルダを有する装置であるため、上述のように、成膜材料の蒸発状況が安定した時点で、上述のシャッタが開かれるときには、基板がすでに成膜材料の蒸発源上で回転しており、直ちに蒸着が行われるという状態にある。
【0014】
しかし、本発明者の研究によると、上述のシャッタを開かれた時点から、ルツボからの成膜材料の蒸発流が安定するまでには、ある程度の時間(待機時間)が必要である。
また、このような、ルツボからの成膜材料の蒸発流が安定するまでには、ある程度の距離も必要である。
【0015】
このような知見に基づくと、特許文献4に開示されている蒸着装置は、上述の待機時間が設定できず、また、ルツボから基板までの距離についても特段の配慮がなされてはいないことから、成膜材料の蒸発状況がまだ安定しない段階でも蒸着が行われているというべきである。
【0016】
なお、上述の時間(待機時間)や距離が十分でないと、蒸発流が安定せず、いわゆる揺らぎが発生し、これにより、異常核成長(Hillock現象、画像上に、点欠陥として現われる)が生ずるという問題が発生する。
【0017】
このように、特許文献4に開示されている蒸着装置では、成膜材料の蒸発状況がまだ安定しない段階でも蒸着が行われるため、前述のように、少なくとも母剤と付活剤との2種類の成膜材料を別々に蒸発させる、いわゆる二元の蒸着装置として適用した場合、この方法により蒸着される蛍光体膜は、必ずしも十分均一な組成を有するものとなるとはいえないという問題がある。
【0018】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、少なくとも母剤と付活剤との2種類の成膜材料を、支持体である基板上に所定の比率で均一に蒸着させるとともに、形成された蛍光体シート上での、構造欠陥の発生が少ない蛍光体シートの製造方法を提供することにある。
【0019】
より具体的には、蒸着装置として、蒸発源と支持体である基板との間に開閉可能なシャッタを備えた蒸着装置を用いる場合における、ユーロピウム付活アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体の蒸着による、形成された蛍光体シート上での、構造欠陥の発生が少ない蛍光体シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本発明に係る蛍光体シートの製造方法は、基板上への成膜材料の蒸着により所定の蛍光体膜を形成する蛍光体シートの製造方法であって、前記基板を前記成膜材料の蒸発源上方から退去させておき、前記基板と前記成膜材料の蒸発源との間に設けられている開閉可能なシャッタを閉じた状態で前記成膜材料の蒸発を開始し、一定時間経過後に、前記シャッタを開き、その後に前記基板の搬送を開始し、前記基板上に前記蛍光体膜を形成することを特徴とする。
【0021】
ここで、前記シャッタは、前記基板と前記成膜材料の蒸発源との間の、前記基板に近い位置に設けられていることが好ましい。これにより、蒸発源から蒸発した成膜材料の蒸発流が均一化するに必要な時間(すなわち、距離)を確保することができる。
また、前記基板の搬送は、往復直線搬送方式であることが好ましい。この搬送方式は、基板回転方式に比較して、基板各部における移動速度を均一化させることができるので、蒸着条件を均一化することができ、安定した蒸着を可能とするものである。
【0022】
また、前記シャッタの下方で前記基板と前記成膜材料の蒸発源の周囲に、前記成膜材料の蒸発流の拡散を抑制する遮蔽手段を配することが好ましい。この遮蔽手段は、シャッタを閉じている間にも蒸発している成膜材料の蒸発流が、不必要に前記基板に接触(蒸着)することを防止することができる。
【0023】
さらに、前記成膜材料の蒸発源上方から退去させてある前記基板の下方に、前記成膜材料の蒸発流の接触を抑制する遮蔽手段を配することも好ましい。この遮蔽手段は、シャッタを閉じている間にも蒸発している成膜材料の蒸発流が、不必要に前記基板に接触(蒸着)することを、より厳しく防止することができる。
【0024】
すなわち、本発明に係る蛍光体シートの製造方法は、前記基板と前記成膜材料の蒸発源との間に設けられている開閉可能なシャッタを閉じた状態で前記成膜材料の蒸発を開始した後、この蒸発状況が安定するまで待って前記シャッタを開き、この時点から開始される蒸発流の本格的な上昇状態が安定して、蒸発成分の組成等が均一、かつ一定の状態になったところで前記基板の搬送を開始し、前記蛍光体膜の形成を行うものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る蛍光体シートの製造方法によれば、基板への蒸着開始当初から安定した蛍光体膜の形成が継続して行われ、前記成膜材料を前記基板上に所定の比率で均一に蒸着させるとともに、形成された蛍光体シート上での、構造欠陥の発生が少なくすることが可能になるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態では、本発明を、二元蒸着に適用する例を挙げるが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。
【0027】
図2は、本発明の一実施形態に係る蛍光体シートの製造方法に用いる蛍光体シート製造装置の一例を示す概念図である。なお、図2において、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【0028】
図2に示す実施形態の蛍光体シート製造装置(以下、単に製造装置という)10は、母体となる材料(母剤)と、付活剤材料とを別々に蒸発させる二元の真空蒸着によって、基板Sの表面に輝尽性蛍光体からなる層(蛍光体層)を形成して、蛍光体シートを製造する装置である。
【0029】
このような製造装置10は、基本的に、真空チャンバ12と、基板保持搬送機構14と、加熱蒸発部16(後述する温度センサ54は省略している)と、ガス導入ノズル18と、RF用マッチングボックス20と、シャッタ28とを有して構成される。なお、本実施形態に係る製造装置10は、これ以外にも、公知の真空蒸着装置が有する各種の構成要素を有してもよいのは、もちろんである。
【0030】
なお、本発明は図示例のような二元の真空蒸着装置に限定はされず、全ての成膜材料を混合して蒸発源に収納する一元の真空蒸着を行う装置であってもよく、あるいは、三元以上の真空蒸着を行う装置であってもよいが、好ましくは、複数の成膜材料を別々の蒸発源に収納する、二元あるいはそれ以上の多元の真空蒸着装置に好適である。
【0031】
図示例においては、好適な一例として、母体成分となる臭化セシウム(CsBr)と、付活剤成分となる臭化ユーロピウム(EuBrx(xは、通常、2〜3であり、特に2が好ましい):以下、EuBrと略記する)とを成膜材料として用い、抵抗加熱による二元の真空蒸着を行って、基板Sに輝尽性蛍光体であるCsBr:Euからなる蛍光体層を成膜して、蛍光体シートを作製する。
【0032】
また、成膜中に不活性ガスの導入を行うガス導入ノズル18を有する製造装置10は、好ましくは、一旦、真空チャンバ12内を高真空度まで排気した後、排気を行いつつガス導入ノズル18によって不活性ガスを導入して真空チャンバ12内を0.1Pa〜10Pa程度の真空度(以下、中真空という)とし、この中真空下で、加熱蒸発部16において抵抗加熱によって成膜材料(臭化セシウムおよび臭化ユーロピウム)を蒸発させて、基板保持搬送機構14によって基板Sを直線状に搬送(直線搬送)しつつ、真空蒸着による基板Sへの蛍光体層の成膜を行う。
【0033】
本発明において、蛍光体層を形成する輝尽性蛍光体(蓄積性蛍光体)としては、CsBr:Eu以外にも各種のものが利用可能である。一例として、特開昭57−148285号公報に開示される、一般式「MIX・aMIIX’・bMIIIX'':cA」で示されるアルカリハライド系輝尽性蛍光体が好ましく例示される。
【0034】
上記式において、MI は、Li,Na,K,RbおよびCsからなる群より選択される少なくとも一種であり、MIIは、Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Zn,Cd,CuおよびNiからなる群より選択される少なくとも一種の二価の金属であり、MIIIは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Al,GaおよびInからなる群より選択される少なくとも一種の三価の金属であり、X、X’およびX''は、F,Cl,BrおよびIからなる群より選択される少なくとも一種であり、Aは、Eu,Tb,Ce,Tm,Dy,Pr,Ho,Nd,Yb,Er,Gd,Lu,Sm,Y,Tl,Na,Ag,Cu,BiおよびMgからなる群より選択される少なくとも一種である。また、0≦a<0.5であり、0≦b<0.5であり、0<c≦0.2である。
【0035】
また、これ以外にも、米国特許第3,859,527号明細書や、特開昭55−12142号、同55−12144号、同55−12145号、同57−148285号、同56−116777号、同58−69281号、同59−75200号等の各公報に開示される輝尽性蛍光体も、好ましく例示される。
【0036】
特に、輝尽発光特性や再生画像の鮮鋭性、さらに、本発明の効果が好適に発現できる等の点で、前記アルカリハライド系輝尽性蛍光体は好ましく例示され、中でも特に、MIが少なくともCsを含み、Xが少なくともBrを含み、さらに、AがEuまたはBiであるアルカリハライド系輝尽性蛍光体は好ましく、その中でも特に前記「CsBr:Eu」が好ましい。
【0037】
基板Sにも、特に限定はなく、ガラス、セラミックス、カーボン、アルミニウム、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリイミド等、蛍光体シートで利用されている各種のシート状の基板が、全て利用可能であり、さらに、形状にも、特に限定はない。
図示例においては、一例として、矩形の基板Sを用いる。
【0038】
真空チャンバ12は、鉄、ステンレス、アルミニウム等で形成される、真空蒸着装置で利用される公知の真空チャンバ(ベルジャー、真空槽)である。
ガス導入ノズル18も、ボンベ等との接続手段やガス流量の調整手段等を有する(もしくは、これらに接続される)、真空蒸着装置やスパッタリング装置等で用いられている公知のガス導入手段であり、前記中真空での真空蒸着による蛍光体層の成膜を行うために、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスを真空チャンバ12内に導入する。
さらに、RF用マッチングボックス20は、蛍光体層の成膜(真空蒸着)に先立って、基板Sの表面のプラズマ洗浄等を行うためのものである。
【0039】
真空チャンバ12には、図示しない真空ポンプが接続される。
真空ポンプにも、特に限定はなく、必要な到達真空度を達成できるものであれば、真空蒸着装置で利用されている各種のものが利用可能である。一例として、油拡散ポンプ、クライオポンプ、ターボモレキュラポンプ等を利用すればよく、また、補助として、クライオコイル等を併用してもよい。なお、前述の蛍光体層を成膜する製造装置10においては、真空チャンバ40内の到達真空度は、8.0×10−4Pa以下であるのが好ましい。
【0040】
基板保持搬送機構14は、基板Sを保持して、直線状の搬送経路で搬送(以下、直線搬送とする)するものであり、図3に模式的に示すように、駆動手段22と、リニアモータガイド24と、基板Sを保持する基板保持手段26とから構成される。なお、図3において、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は側面図である。
【0041】
駆動手段22は、基板保持手段26(すなわち基板S)を、前記直線搬送の方向に移動するもので、基板Sの搬送方向(以下、単に「搬送方向」という。また、この搬送方向と直交する方向を、便宜的に「搬送直交方向」とする。)に延在して保持部材30によって回転自在に軸支されるネジ軸32a、およびネジ軸32aに螺合するナット部32bからなるボールネジ32と、前記ネジ軸32aを回転するモータ34とからなる、ボールネジを用いる公知の直線状の移動機構である。
【0042】
なお、本実施形態に係る製造装置10において、駆動手段はボールネジ32とモータ34を利用するものに限定はされず、シリンダを利用する搬送手段、モータとモータによって回転されるリング状のチェーンを用いる搬送手段など、必要な耐熱性を有するものであれば、公知の直線状の移動(搬送)手段が、各種利用可能である。
【0043】
リニアモータガイド(以下、LMガイドという)24は、駆動手段22による基板保持手段26(すなわち、基板S)の直線搬送を補助するもので、ガイドレール24aと、長手方向に移動自在にガイドレール24aに係合する係合部材24bとからなる、公知のリニアモータガイドである。
ガイドレール24aは、搬送方向に延在して、前記ネジ軸32aを軸とする対称位置に離間して2本が配置され、共に、真空チャンバ12の天井面に固定される。一方、係合部材24bは、各ガイドレール24aに2つずつ係合するように、合計4つが基板保持手段26(後述する基台36の上面)に固定される。
【0044】
基板保持手段26は、基板Sを保持して、前記LMガイド24によって案内されつつ前記駆動手段22によって直線状で移動されるものであり、基台36と、保持部材38と、防熱部材40を有して構成される。
【0045】
基台36は、製造装置10が適正に設置された状態で水平となる長方形状の平板状部材である。
基台36の上面の中心には、前記ボールネジ32のナット部32bが固定され、また、基台36の上面の対角線上の対称位置には、2本のガイドレール24aの間隔に応じて前記LMガイド24の係合部材24bが固定される。
【0046】
保持部材38は、下端部で基板Sを保持するものであり、基台36の角部近傍から垂下されるように、4つが配置される。
本発明において、保持部材38による基板Sの保持方法には特に限定はなく、治具等を用いる方法、静電気を利用する方法、吸着を利用する方法等、上面から板状物を保持する公知の方法が各種利用可能である。
【0047】
また、基板Sへの蛍光体層の蒸着領域等に応じて可能であれば、治具等を用いて、下方から基板Sの四隅を押さえる保持手段、下方から基板Sの四辺を押さえる保持手段等を利用してもよい。
また、スペーサを利用する方法、ネジによる調整手段を利用する方法、シリンダによる昇降手段を設ける方法等によって、保持部材38の下端位置すなわち基板Sを保持/搬送する高さを調整可能にしてもよい。
【0048】
前述のように、基台36は、駆動手段22によって直線搬送される。従って、基板保持搬送機構14は、保持部材38によって例えば基板Sの四隅近傍を保持し、基板保持手段26を駆動手段22によって搬送することにより、基板Sを直線搬送する。
後述するが、本発明においては、このように基板Sの搬送を直線搬送とし、かつ、複数の蒸発源を搬送直交方向に配列することにより、膜厚分布均一性の高い蛍光体層の形成を実現している。
【0049】
なお、本発明において、必要な膜厚の蛍光体層を形成できれば、成膜中における基板Sの直線搬送は、1回の直線搬送でも、1回の往復動(往復搬送)でも、往復動を複数回行ってもよい。また、基板の搬送経路は、おおむね直線状であれば、多少、ジグザグ状であっても、波打つような経路であってもよい。
【0050】
一般的に、同じ膜厚であれば、加熱蒸発部16の上部の通過回数が多い程、膜厚分布均一性を高くできるので、複数回の往復動を行って蛍光体層を形成するのが好ましい。この往復動の回数は、蛍光体層の目的膜厚や目的とする膜厚分布均一性等に応じて、適宜、決定すればよい。直線搬送の搬送速度にも特に限定はなく、LMガイド24の速度限界、往復動の回数、目的とする蛍光体層の膜厚等に応じて、適宜、決定すればよい。
【0051】
基板Sを保持する基板保持手段26において、上面にボールネジ32のナット部32bやLMガイド24の係合部材24b等が固定される基台36の直下には、基台下面の全面を覆って、防熱部材40が配置される。
防熱部材40は、後述する加熱蒸発部16(蒸発源)に対して基台36を覆うことにより、加熱蒸発部16からの輻射熱等によって、LMガイド24の係合部材24bおよびボールネジ32aのナット部32bが加熱されるのを防止するものである。
【0052】
周知のように、LMガイド24の係合部材24bや、ボールネジ32のナット部32bには、円滑な移動を可能にするためにボールが組み込まれ、また、ボールの円滑な回転を可能にするために、グリス等の潤滑剤が注入される。また、ボールを有さなくても、円滑な駆動を可能にするために、通常、駆動手段や搬送ガイド手段の摺動部にはグリス等の滑材が注入される。
【0053】
ところで、詳細については後述するが、高い輝尽発光特性や画像鮮鋭性を実現可能な良好な柱状の結晶構造を有する蛍光体層を形成(成膜)するためには、抵抗加熱や高周波誘導加熱等を利用した中真空での真空蒸着を行うのが好ましい。
しかしながら、抵抗加熱等による真空蒸着は、成膜材料を収容するルツボの発熱によって成膜材料を加熱するので、蒸発源からの輻射熱が非常に大きく、これにより係合部材24b等が加熱してしまい、グリスの流出による動作不良等、様々な不都合が生じる。
【0054】
しかも、中真空による真空蒸着では、蒸発源と基板Sすなわち係合部材24b等とを近接して配置する必要がある。そのため、係合部材24bやナット部32bは、より加熱され易い状態となっている。
すなわち、基板Sを直線搬送する中真空での真空蒸着では、特性や膜厚均一性に優れた蛍光体層を形成できる反面、係合部材24bやナット部32bからのグリスの流出による動作不良等が非常に発生し易く、メンテナンスに手間がかかり、また、ランニングコストも高くなってしまう。
【0055】
これに対し、本実施形態に係る製造装置10においては、加熱蒸発部16からの輻射熱によって、LMガイド24の係合部材24aや、ボールネジ32のナット部32bが加熱されることを防止する防熱部材40を有する。
これにより、係合部材24bやナット部32bが加熱されることによるグリスの流出等の不都合を防止し、長期にわたる安定した動作を可能にし、メンテナンスの手間やランニングコストを大幅に低減することを可能にしている。
【0056】
防熱部材40には、特に限定はなく、加熱蒸発部16からの輻射熱を遮蔽して、係合部材24bやナット部32b、あるいはさらに基台36が加熱されることを防止できれば、各種のものが利用可能である。一例として、ステンレス板、鋼板、アルミニウム板、モリブデン板等が例示される。また、必要に応じて、防熱部材40に冷水を流すパイプ(冷却パイプ)を設ける、板材(防熱部材40)の内部をくり抜いて水を流す等の公知の手段によって、防熱部材40を冷却してもよい。
【0057】
真空チャンバ12の下方には、加熱蒸発部16が配置される。
加熱蒸発部16は、抵抗加熱によって,成膜材料である臭化セシウムおよび臭化ユーロピウムを蒸発させる部位である。
【0058】
前述のように、製造装置10は、好ましい態様として、母体成分である臭化セシウムと、付活剤成分である臭化ユーロピウムとを独立して加熱蒸発する、二元の真空蒸着を行うものである。従って、加熱蒸発部16には、臭化セシウム(母体)用の蒸発源となる抵抗加熱用のルツボ50、および、臭化ユーロピウム(付活剤)用の蒸発源となる抵抗加熱用のルツボ52が配置される。
【0059】
このようなルツボ50および52は、通常の真空蒸着における抵抗加熱蒸発源用のルツボと同様、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などの高融点金属で形成され、電極(図示を省略している)から通電されることにより自身が発熱し、充填された成膜材料を加熱/溶融して、蒸発させるものである。
また、本発明において、抵抗加熱用の電源(加熱制御手段)には特に限定はなく、サイリスタ方式、DC方式、熱電対フィードバック方式等、抵抗加熱装置で用いられる各種の方式が利用可能である。また、抵抗加熱を行う際の出力にも特に限定はなく、使用する成膜材料、ルツボの形成材料の抵抗値や発熱量等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0060】
輝尽性蛍光体において、付活剤と母剤とは、例えばモル濃度比で0.0005/1〜0.01/1程度と、蛍光体層の大部分が母剤である。
そのため、図示例においては、蒸着量の多い臭化セシウム(母剤)用のルツボ50は、円筒状(ドラム型)の大型のルツボを用いている。このルツボ50は、ドラムの側面に、ドラムの軸線方向に延在するスリット状の開口を有し、この開口に一致して、開口と同形状のスリット状の上下開口面を有する四角筒状のチムニー50aを蒸気排出口として設けている。
【0061】
他方、蒸着量の少ない臭化ユーロピウム(付活剤)用のルツボ52は、通常のボート型のルツボの上面を、臭化セシウム用と同様のスリット状の開口に対応するチムニー52aを蒸気排出口として有する蓋体で閉塞してなる小型のルツボを用いている。なお、チムニー52aのスリット(開口)は、ルツボ52の長手方向に延在している。
このようなスリット状のチムニーを有するルツボを用いることにより、ルツボ内における局所加熱や異常加熱によって突沸が生じた際に、成膜材料が不意にルツボから飛び出して周囲や基板Sに付着し汚染することを防止できる。特に、中真空の蒸着では、前述のように、基板Sと蒸発源とを近接させる必要があるので、その効果は大きい。
【0062】
ここで、本実施形態に係る製造装置10おいては、ルツボ50および52を、共に、搬送直交方向に、それぞれ複数個配列する。なお、各ルツボは、離間や絶縁材の挿入等によって、互いに絶縁状態にある。
本実施形態においては、前述のように、基板Sを直線搬送とし、ルツボ等の蒸発源を、複数、基板Sの搬送方向と直交する方向(搬送直交方向)に配列することにより、基板Sの全面を成膜材料の蒸気に均一に曝し、この状態で蒸着を行って、膜厚分布均一性に優れた蛍光体層の形成を可能にしている。
【0063】
加熱蒸発部16の上方には、シャッタ28が配置される。
このシャッタ28は、加熱蒸発部16の上方に、加熱蒸発部16の平面形状より一回り大きな平面形状を有するものであり、図示されていない直線搬送手段(例えば、基板保持搬送手段14のLMガイド24とボールネジ32等を用いる構成が用い得る)により、図2中の矢印b方向、すなわち、基板Sの往復搬送方向aと同じ方向に移動可能に構成されている。
【0064】
そして、シャッタ28は、後に詳述するように、蒸着開始時に開かれ(加熱蒸発部16上方からその外側に退去させられる)、蒸着終了時に閉じられる(加熱蒸発部16上方に戻される)。そして、このシャッタ28が開かれている間だけ、基板Sが所定の搬送速度で、所定の搬送区間内を往復搬送され、これにより、基板Sの全面が成膜材料の蒸気に均一に曝され、安定した成膜材料の蒸発流内で、蒸着が行われる。
【0065】
なお、ここでは図示を省略するが、製造装置10の加熱蒸発部16には、全ルツボを水平方向の4方で囲む、ルツボの最上部よりも高い四角筒状の防熱板が配置されており、かつ、上述のシャッタ28は、この防熱板の上部開放面を閉塞/開放自在であり、これにより成膜材料蒸気を遮蔽したり透過させたりするものである。このシャッタ28は、母体構成材料の蒸発源上と付活剤材料の蒸発源上とを一括して閉塞/開放するものでもよく、これらを別々に閉塞/開放するものでもよい。
【0066】
蛍光体層の形成を真空蒸着で行う場合には、通常は、全面的に膜厚が均一な蛍光体層を形成するために、基板を回転させて成膜を行う(例えば、特開2000−344591号公報参照)。ただし、基板Sを回転させると、半径方向で基板表面(成膜面)の速度(線速)が異なる。そのため、例えば、回転する基板の全面に均一に対面するように半径方向に直線状に蒸発源を配列しても、基板面の線速の違いによって半径方向で蒸発源と対面する時間に差が生じ、これにより、回転半径方向の位置で、基板S表面が蒸気に曝される条件が異なってきてしまい、この差が、そのまま膜厚の差となってしまう。
【0067】
これに対して、基板Sを往復直線搬送して行う本実施形態に係る中真空の真空蒸着では、比較的容易に、基板の全面に均一に蒸気を暴露することができる。さらに、成膜材料が多少ロスすることはあるとはいえ、上述のように、成膜材料の蒸発流が安定するまで少し待つという本実施形態に係る蒸着方法は、結果として、成膜材料を前記基板上に所定の比率で均一に蒸着させることが可能になるという効果が得られる。
【0068】
本実施形態に係る製造装置10で好適に形成される前記各種の輝尽性蛍光体からなる蛍光体層、特にアルカリハライド系輝尽性蛍光体からなる蛍光体層、中でも特にCsBr:Euからなる蛍光体層を、真空蒸着によって形成(成膜)する際には、一旦、系内を高い真空度に排気した後、排気を維持した状態でアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスを系内に導入して、0.1〜10Pa、特に0.5〜3Pa程度の中真空度として蛍光体層を形成するのが好ましい。これにより、前述のように、良好な柱状の結晶構造を有する蛍光体層を形成することができ、輝尽発光特性や画像鮮鋭性に優れた蛍光体シートを製造することができる。
【0069】
なお、図示例の製造装置10には示されてはいないが、好ましくは、加熱蒸発部16の周囲に、前記成膜材料の蒸発流の拡散を抑制する遮蔽手段(例えば、金属板により形成される筒状の部材:高さは加熱蒸発部16の底部から、シャッタ28の底面近くまで、平面形状としては加熱蒸発部16よりやや広い面積でよい)を配するとよい。この遮蔽手段により、シャッタを閉じている間に蒸発してくる成膜材料の蒸発流が、不用意に基板Sに接触(蒸着)することを防止することができる。
【0070】
また、これも図示例の製造装置10には示されてはいないが、好ましくは、前記加熱蒸発部16の上方から退去させてある前記基板Sの退去位置の下方に、前記成膜材料の蒸発流が基板Sに接触しないように抑制する遮蔽手段(金属板により形成される板状の部材:平面形状が、基板Sの面積よりやや広い面積を有するものがよい)を配するとよい。この遮蔽手段によっても、シャッタを閉じている間に蒸発してくる成膜材料の蒸発流が、不用意に基板Sに接触(蒸着)することを防止することができる。
【0071】
上記2つの遮蔽部材は、本実施形態に係る製造装置10に必須のものではないが、これらを配することにより、成膜される基板Sに不必要な成膜材料の蒸着が起きないようにして、所定の組成からなる蛍光体層を有する高品質の蛍光体シートを作製することを可能にする上で、有効なものである。
【0072】
また、前述の通り、本実施形態に係る製造装置10に置いては、シャッタ28の配置位置は、加熱蒸発部16と基板Sの搬送路との間で、基板Sの搬送路側に寄った位置(例えば、上記加熱蒸発部16と基板Sの搬送路との距離の、基板S側から1/4〜1/3位の位置が好ましい。この位置は、加熱蒸発部16から蒸発してくる臭化セシウム(母体)と臭化ユーロピウム(付活剤)とが均一に混合するための時間および空間を提供するものである。
【0073】
なお、本発明において、搬送直交方向に配置する蒸発源の数には特に限定はない。
基本的には、数が多い程、膜厚分布均一性は良好になるが、多くなるに従って、コストや制御性等の点で不利になるので、この搬送直交方向のルツボの配置数は、基板Sのサイズ、目的とする蛍光体層の膜厚、要求される膜厚分布均一性、装置コスト等に応じて、適宜、決定すればよい。
【0074】
加熱蒸発部16の概略上面図である図4に示すように、図示例においては、一例として、臭化セシウム用のルツボ50は、円筒(ドラム)の軸線方向を搬送直交方向に一致して、6つが配列されている。図示例においては、このルツボ50の配列を、2つ有する。
ルツボ50において、電極は円筒の端面に形成されており、個々のルツボ50で独立して電源に接続される。また、各ルツボ50に対応して、温度測定用のセンサ54(図2では装置の全体構成を明瞭にするために省略している)が配置され、この蒸発量の測定結果に応じて、ルツボ50への通電が制御される。
【0075】
これにより、蒸着量の多い臭化セシウムの蒸着レートを、各ルツボ50毎にコントロールすることができる。
なお、蒸発量の制御は、図示例のように、温度センサによるルツボの温度測定に応じてルツボ50の個々に対して行うのが好ましいのはもちろんであるが、実験により確認された範囲内であれば、装置コストの低減等を目的として、近接する2個のルツボ等、複数のルツボをまとめてコントロールを行うようにしてもよい。
【0076】
他方、同様に、ボート型のルツボである臭化ユーロピウム用のルツボ52も、長手方向を配列方向に一致して、6つが配列される。ルツボ52も、配列方向の両端に電極が形成され、個々に独立した電源が接続される。
また、ルツボ50と同様に、ルツボ52も、6個並べた配列を2つ有する。
【0077】
ルツボ50の列およびルツボ52の各列においては、共に、ルツボ50同士およびルツボ52同士は、装置やルツボの構成上、可能な限り配列方向に近接して配置され、かつ、ルツボの列は、基板Sの配列方向のサイズを充分に包含する長さとするのが好ましい。このような構成とすることにより、基板Sの搬送方向に直交する方向における成膜材料の蒸発蒸気量を均一にして、より組成の均一性の高い蛍光体層を形成することができる。
【0078】
また、図示例においては、好ましい態様として、1つのルツボ50とルツボ52とを対として、すなわち母体の成膜材料である臭化セシウムの1つの蒸発源と付活剤である臭化ユーロピウムの1つの蒸発源を対として、両者が基板Sの搬送方向に並ぶように配置し、さらに、より好ましい態様として、ルツボ50とルツボ52とを、装置および両ルツボの構成上、可能な限り近接して配置している。
【0079】
このような構成とすることにより、母体となる臭化セシウム蒸気中に、臭化ユーロピウム蒸気を充分に分散して、微量成分であるユーロピウム(付活剤)を蛍光体層中に均一に分散し、輝尽発光特性等の良好な蛍光体層を形成できる。このような搬送直交方向の各成膜材料のルツボの列(以下、ルツボ列とする)は、1つでもよく、図示例のように2列でもよく、さらに、3列以上でもよい。また、成膜材料毎に、有するルツボ列の数が異なってもよい。
【0080】
ここで、複数列のルツボ列を有する場合には、各ルツボ列は、搬送方向から見た際に、他のルツボ列の成膜材料蒸気の排出口(前記スリット状のチムニー)の配列方向の間隙を、互いに埋めるように配置するのが好ましく、さらに、異なる列で成膜材料蒸気の排出口が搬送方向に重ならないように配置するのがより好ましい。
【0081】
いい換えれば、各搬送方向から見た際に、ルツボの列で、成膜材料蒸気の排出口が互い違いとなるようにするのが好ましい。図示例においては、配列方向への2列のルツボの列において、基板Sの搬送方向から見た際に、一方のルツボ列の電極位置に他方のルツボ列の蒸気排出口が位置するように、各ルツボの列を配列している。
このような構成とすることにより、配列方向における成膜材料の蒸発蒸気量を均一にして、より組成均一性の高い蛍光体層を形成することができる。
【0082】
また、同様の理由で、図示例のように、スリット状の蒸気排出口(チムニー50aおよびチムニー52a)を有するルツボを用い、かつ、蒸気排出口の長手方向を配列方向(搬送直交方向)に一致して配置するのが好ましい。
【0083】
さらに、ルツボ列を複数有する場合には、搬送方向に対して外側に蒸発量の多い臭化セシウム(母体の成膜材料)用のルツボ50の列を配置するのが好ましい。
このような構成とすることにより、蒸発量の多い臭化セシウムの蒸発量センサを、搬送方向に対してルツボの列の外側の開いている空間に配置することができ、すなわち、蒸発量センサ(あるいは、温度センサ)の選択自由度や配置の自由度、製造装置10の設計自由度を向上することができる。
【0084】
以下、本実施形態に係る製造装置10による基板Sへの蛍光体層の形成(蛍光体シートの製造)の作用について、図1に示す動作フロー図をも用いて説明する。
【0085】
まず、真空チャンバ12を開放して、基板保持手段26の保持部材38bに基板Sを保持し、かつ、全てのルツボ50に臭化セシウムを、全てのルツボ52に臭化ユーロピウムを所定量まで充填する(ステップS70)。その後、前記シャッタ28を閉じ、さらに、真空チャンバ12を閉塞する(ステップS71)。次いで、真空排気手段を駆動して真空チャンバ12内を排気し、真空チャンバ12内が例えば8×10−4Paとなった時点で、排気を継続しつつ、ガス導入ノズル18によって真空チャンバ12内にアルゴンガスを導入して、真空チャンバ12内の圧力を例えば1Paに調整する(ステップS72)。
【0086】
次いで、抵抗加熱用の電源を駆動して、全てのルツボ50およびルツボ52に通電して成膜材料を加熱する(ステップS73)。
その後、予め設定した時間(例えば、60分)が経過したら(ステップS74でY)、前記シャッタ28を開放し(ステップS75)、次いで、これも予め設定した時間(例えば、15秒〜60秒程度:詳細については、後述する)が経過したら(ステップS76でY)、モータ34を駆動して、所定速度での基板Sの直線搬送を開始し、基板Sの表面への蛍光体層の形成を開始する(ステップS77)。
【0087】
蛍光体層の形成が進行していく状況を、膜厚センサにより監視し、所定の膜厚が形成されたら(ステップS78でY)、基板Sの直線搬送を停止し、前記シャッタ28を閉じ、ガス導入ノズル18によるアルゴンガスの導入量を増加して真空チャンバ12内を大気圧とし(ステップS79)、次いで真空チャンバを開放して、蛍光体層を形成した基板Sすなわち作製した蛍光体シートを取り出す(ステップS80)。
【0088】
上記実施形態では、蒸発源として抵抗加熱方式のルツボを用いているが、本発明はこれに限定はされるものではなく、搬送直交方向に配列可能なものであれば、各種の蒸発源が利用可能である。
【0089】
以上、本発明に係る蛍光体シートの製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定はされず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいことは、いうまでもない。
【0090】
例えば、図示例では、臭化セシウム(母体成分)用のルツボ50のみを配列したルツボ列、および、臭化ユーロピウム(付活剤)用のルツボ52のみを配列したルツボ列を有するものであるが、本発明は、これに限定はされず、例えば、臭化セシウム用のルツボ50と臭化ユーロピウム52とを交互に配置して、搬送直交方向へのルツボ列を形成してもよい。
【0091】
〔実施例1〜3〕
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。
【0092】
*蒸発原料の準備:
蒸発原料として、純度4N以上の臭化セシウム(CsBr)粉末、および純度3N以上の臭化ユーロピウム(EuBr)の溶融品を用意した。EuBr溶融品は、酸化を防ぐため十分なハロゲン雰囲気としたチューブ炉中にて、粉末を白金製ルツボに入れて800℃に加熱して溶融、冷却後に炉から取り出して作製した。
【0093】
各原料中の微量元素を、ICP−MS法(誘導結合高周波プラズマ分光分析−質量分析法)により分析した結果、CsBr中のCs以外のアルカリ金属(Li,Na,K,Rb)は、各々10ppm以下であり、アルカリ土類金属(Mg,Ca,Sr,Ba)など他の元素は2ppm以下であった。また、EuBr中のEu以外の希土類元素は各々20ppm以下であり、他の元素は10ppm以下であった。
【0094】
これらの原料は、吸湿性が高いので、露点−20℃以下の乾燥雰囲気を保ったデシケータ内で保管し、使用直前に取り出すようにした。
【0095】
*蛍光体層の形成:
支持体として、450mm×450mmサイズで10mm厚のAl基板(圧延成型品、住友軽金属工業(株)製)を用意した。これを界面活性剤を含むアルカリ性洗浄液による脱脂,脱イオン水による水洗,乾燥を行い、さらに500W・60秒の条件でプラズマ洗浄を行った後、前記実施形態に示した製造装置10内の基板保持手段26にセットした。
【0096】
ここで、基板と各蒸発源との距離は100mmとした。CsBrおよびEuBrの蒸発用抵抗加熱ルツボは、それぞれ対向して対をなすように12個ずつ設置し、約45cmの基板全面に蒸着が行えるように配置した。各ルツボのCsBr量は、いわゆる飛ばし切りで蒸着を行ったときに十分な膜厚均一性が得られた各ルツボの成膜材料量を予め調べておいて、それと同じ量を投入した。なお、この成膜材料量は、蒸着のシミュレーションにより求めてもよい。
【0097】
なお、ここで、飛ばし切りとは、蒸発容器に入れた成膜材料をすべて蒸発させることをいい、より詳細には、母体構成材料の蒸発源で空になったもので出た場合には、これを検出してその蒸発源の加熱を停止するとともに、これと対になって配置されている付活剤の蒸発源の加熱も停止するよう制御するものである。
【0098】
この場合、CsBr蒸発用の抵抗加熱ルツボは、蒸発口からK熱電対をルツボの底に接触するように挿入し、CsBr融液の温度をモニターした。ここで、この熱電対の温度については、CsBr融液が存在しているときは約650℃を示し、CsBr融液がなくなると瞬時に700℃以上を示すことを確認した。
【0099】
上述のように、CsBrおよびEuBrの各成膜材料を製造装置10内の抵抗加熱用ルツボに充填した後、メイン排気バルブ(図示されていない)を開いて製造装置10内を排気して、8×10−4Paの真空度とした。このとき、真空排気装置としては、ロータリーポンプ,メカニカルブースターポンプおよびディフージョンポンプの組み合わせを用いた。さらに、水分除去のため、水分排気用クライオポンプを使用した。
【0100】
その後、排気をメイン排気バルブからバイパスに切り換え、製造装置10内にArガスを導入して、1Paの真空度とし、プラズマ発生装置(図2中のマッチングボックス20)によりArプラズマを発生させて基板表面の洗浄を行った。その後、排気をメイン排気バルブに切り換えて、8×10−4Paの真空度まで排気後、再度、排気をバイパスに切り換え、Arガスを導入して1Paの真空度とした。
【0101】
蒸着膜の厚さを均一にするため、前述の通り、基板は周期的に直線状に往復搬送させている。蒸着側に設置されたハロゲンランプにより基板加熱を行い、ランプの強度を変えることにより、蒸着開始時の基板温度を100℃に設定した。
【0102】
蒸着は以下の手順で行った。
前述の通り、まず、基板と各蒸発源の間に設けられたシャッタを閉じた状態で、蒸発源それぞれの抵抗加熱器を通電して加熱溶融した後、所定時間(ここでは、60分とした)を置いて、上述のシャッタ28を開いた。そして、以下のようにシャッタ28を開いてからの時間を異ならせて、基板Sの表面へのCsBr:Eu蛍光体を堆積させる被覆層の形成を開始した。
【0103】
すなわち、シャッタ28を開いてから基板Sの搬送(往復直線搬送)を開始するまでの時間(蒸着開始時間)は、実施例1においては30秒、実施例2においては15秒、実施例3においては60秒とした。
【0104】
そして、CsBr:Eu輝尽性蛍光体を堆積させた。なお、ここでは、CsBrの堆積速度が平均で約6μm/分の速度になるように回路抵抗などを適切に設計し、通電したが、その間、電流値を一定にするような制御は特に行わなかった。一方、EuBrの堆積は、電流値を一定にするように制御して行った。
なお、EuBrは、CsBrに比べて約1/1000の堆積量の関係にあるため、CsBr蒸着に対して十分な量のEuBr原料量をルツボに投入してある。
【0105】
堆積速度から膜厚が700μmになる蒸着時間を予め計算しておき、その蒸着時間が経過した時点で12対すべてのるつぼへの通電を停止することにより蒸着を終了させた。蒸着時間は、1.5時間〜2.5時間であった。
【0106】
蒸着終了後、製造装置10内を大気圧に戻し、製造装置10から基板を取り出した。被覆された基板上には、CsBr:Eu蛍光体の柱状結晶がほぼ垂直方向に密に林立した構造の輝尽性蛍光体層が、略均一に厚さ700μmに形成されていた。
【0107】
製造装置10から取り出した基板上に形成された蛍光体層を、以下の手順で熱処理した。製造装置10から取り出した輝尽性蛍光体層を、ガス導入可能な真空加熱装置の中に入れ、ロータリーポンプにより約1Paまで減圧し、サンプルに吸着している水分等の除去を行った。熱処理条件は、処理温度200℃、時間は2時間、Nガス雰囲気中で熱処理を行った。サンプルの冷却は真空雰囲気中で行い、十分温度が下がった状態にしてから、加熱装置から取り出した。
【0108】
このようにして作製した蛍光体シートについて、目視により、点欠陥の存在個数を調査した。この結果は、比較例による方法で作製した蛍光体シートについての調査結果と合わせて、後に示す表1にまとめた。
【0109】
〔比較例1,2〕
なお、比較例として、上述のシャッタ28を開いてから基板Sの搬送を開始するまでの時間について、以下のような実験を行った。なお、これ以外の工程は、実施例1〜3の工程と同じとしている。
【0110】
すなわち、実施例1〜3の蛍光体層の形成において、シャッタ28を開いてからの時間を以下のように設定して、基板Sの表面へのCsBr:Eu蛍光体を堆積させた。
比較例1では、シャッタ28を開くと同時に、基板Sの搬送を開始した。また、比較例2では、シャッタ28を開くより10秒前から基板Sの搬送を開始した。
【0111】
上述の結果をまとめると、表1のようになる。
【表1】

【0112】
表1からも判るように、本発明に係る蛍光体シートの製造方法によれば、450mm×450mmサイズというような大型の蛍光体シートにおいても、点欠陥の発生を著しく低く抑えることができた。
【0113】
ここで、測定方法について補足説明しておく。
点欠陥の発生数については、均一X線露光を行った蛍光体シートに励起光を照射して、発生する輝尽発光光を読み取り、その強度分布から構造上の欠陥と認められる点の数を、目視で計数し、10cm角(つまり、100cm当たりの数)として示した。
【0114】
上記実施形態並びに実施例は、いずれも、本発明の一例を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではなく、また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜の変更や改良を行ってもよいことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の一実施形態に係る蛍光体シートの製造方法の動作概要を説明するフローチャートである。
【図2】(A)は、本発明の一実施形態に係る蛍光体シートの製造方法に用いる蛍光体シート製造装置の一例を示す概略正面図、(B)は、同概略側面図である。
【図3】(A)は、図2に示す蛍光体シート製造装置の基板保持搬送手段の概略平面図、(B)は同概略正面図、(C)は同概略側面図である。
【図4】図2に示す蛍光体シート製造装置の加熱蒸発部の概略平面図である。
【符号の説明】
【0116】
10 (蛍光体シート)製造装置
12 真空チャンバ
14 基板保持搬送手段
16 加熱蒸発部
18 ガス導入手段
22 駆動手段
24 LMガイド
24a ガイドレール
24b 係合部材
26 基板保持手段
28 シャッタ
30 保持部材
32 ボールネジ
32a ネジ軸
32b ナット部
34 モータ
36 基台
38 保持部材
40 防熱部材
50,52,60,64 ルツボ
62 加熱コイル
66 加熱部材
S 基板
S70〜S80 処理ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上への成膜材料の蒸着により所定の蛍光体膜を形成する蛍光体シートの製造方法であって、
前記基板を前記成膜材料の蒸発源上方から退去させておき、
前記基板と前記成膜材料の蒸発源との間に設けられている開閉可能なシャッタを閉じた状態で前記成膜材料の蒸発を開始し、
一定時間経過後に、前記シャッタを開き、
その後に前記基板の搬送を開始し、前記基板上に前記蛍光体膜を形成する
ことを特徴とする蛍光体シートの製造方法。
【請求項2】
前記シャッタは、前記基板と前記成膜材料の蒸発源との間の、前記基板に近い位置に設けられている請求項1に記載の蛍光体シートの製造方法。
【請求項3】
前記基板の搬送は、往復直線搬送方式である請求項1または2に記載の蛍光体シートの製造方法。
【請求項4】
前記シャッタの下方で前記基板と前記成膜材料の蒸発源の周囲に、前記成膜材料の蒸発流の拡散を抑制する遮蔽手段を配した請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光体シートの製造方法。
【請求項5】
前記成膜材料の蒸発源上方から退去させてある前記基板の下方に、前記成膜材料の蒸発流の接触を抑制する遮蔽手段を配した請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−120978(P2007−120978A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310040(P2005−310040)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】