説明

蛍光体及びその製造方法、発光装置

【課題】 主発光ピークが350nm〜470nmの範囲にある一次放射光により効率よく励起され、この一次放射光よりも長波長で効率よく発光する蛍光体を提供する。
【解決手段】 一般式が、(M1−a−bEuMnBOX …(1)
〔ただし、一般式(1)中、MはCa,Sr,Baの中から選ばれた少なくとも一種以上のアルカリ土類金属元素であり、XはF,Cl,Br中から選ばれた少なくとも一種以上のハロゲン元素であり、aは0.001≦a≦0.3、0≦b≦0.3である〕
で表わされる蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2価ユーロピウムで賦活されたハロボレート系の蛍光体、2価ユーロピウム及び2価マンガンで共賦活されたハロボレート系の蛍光体と、これらの製造方法、さらにこの蛍光体と発光素子とを組み合わせた発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)を用いたLEDランプは、信号灯、携帯電話、各種電飾、車載用表示器、あるいは各種の表示装置など、多くの分野に利用されている。またLEDと蛍光体とを組み合わせて形成した白色LED発光装置は、液晶のバックライト、小型ストロボ等への応用が盛んになってきている。この白色LED発光装置は最近では照明装置への利用も試みられており、長寿命・水銀フリーといった長所を活かすことにより、環境負荷の小さい蛍光灯代替光源として期待されている。
【0003】
白色LED発光装置の構成としては、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせたものが挙げられる(例えば特許文献1参照)。これはLEDからの青色光と、このLEDから発せられた青色光の一部を黄色蛍光体で変換させた黄色光とを混色することにより、白色を得ることができるようにしたものである。そのため蛍光体としては、LEDから発光される420nm〜470nmの波長の青色光により効率よく励起され、黄色に発光する蛍光体が求められている。
【0004】
しかしながら、このような青色と黄色の補色関係を利用した擬似白色光は、緑色及び赤色を完全に含んでいないため、色純度や演色性が悪いという欠点があった。そこで、黄色蛍光体に少量の赤色蛍光体や緑色蛍光体を更に混合したり、黄色蛍光体を用いずに緑色蛍光体と赤色蛍光体を混合したりして、RGB3波長型の白色LED発光装置にすることにより、演色性を改善する試みもなされている(例えば特許文献2,3参照)。この場合には、420nm〜470nm波長の青色光により励起可能な緑色及び赤色に発光する高効率な蛍光体が求められる。
【0005】
もう一つの白色LED発光装置の構成として、350nm〜420nmの波長域の紫外LEDと青色蛍光体、緑色蛍光体、及び赤色蛍光体を組み合わせたものが挙げられる。このような構成においても光の三原色RGBを含むために高い演色性の白色光を得ることができる。この方式においては350nm〜420nmの波長域の近紫外光により励起可能な青色、緑色及び赤色に発光する高効率な蛍光体が求められる。
【特許文献1】特許第3503139号公報
【特許文献2】特開2003−101081号公報
【特許文献3】特開2002−531956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、350nm〜420nmの近紫外域あるいは420nm〜470nmの青色域の光を効率よく吸収して励起され、励起光よりも長波長で効率よく発光する実用に耐え得る蛍光体は限られている。
【0007】
例えば、近紫外励起が可能な緑色蛍光体としては,BaMgAl1017:Eu2+,Mn2+や、ZnS:Cu,Alなどがあるが、これらは380nm以上の波長では急激に吸収率が低下するために、発光素子からの一次放射光の波長変動に対して効率の変動幅がかなり大きい。そのため、これらを白色LED発光装置に用いた場合の信頼性に課題を残している。
【0008】
また、青色光による励起が可能な黄色蛍光体としては、YAl12:Ce3+がよく知られているが、演色性改善のために主発光ピーク波長を長波長シフトさせる必要がある。そのために、増感剤としてGd3+をドープする手法が一般的に用いられているが、Gd3+のドープ量を増加すると発光波長シフトは大きくなる反面、効率が低下するという問題点を有している。更に赤色蛍光体では、青色波長域においても効率よく励起できるものとして、硫化物蛍光体(CaS:Eu2+など)や窒化物蛍光体(CaAlSiN:Eu2+など)が公知であるが、化学的安定性に乏しかったり、製造方法が繁雑であるといった問題があった。
【0009】
以上のように、350nm〜470nmの近紫外から青色波長域までの広い範囲に亘る一次放射光を効率よく吸収し、緑色、黄色、あるいは赤色に効率よく発光する蛍光体が望まれている。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、主発光ピークが350nm〜470nmの範囲にある一次放射光により効率よく励起され、この一次放射光よりも長波長で効率よく発光する蛍光体及びその製造を提供することを目的とするものであり、またこの蛍光体を用いた発光装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係る蛍光体は、一般式が、
(M1−a−bEuMnBOX …(1)
〔ただし、一般式(1)中、MはCa,Sr,Baの中から選ばれた少なくとも一種以上のアルカリ土類金属元素であり、XはF,Cl,Br中から選ばれた少なくとも一種以上のハロゲン元素であり、aは0.001≦a≦0.3、bは0≦b≦0.3である〕
で表わされることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項2に係る蛍光体は、一般式が、
(M1−a−bEuMn(BO1−p(POX …(2)
〔ただし、一般式(2)中、MはCa,Sr,Baの中から選ばれた少なくとも一種以上のアルカリ土類金属元素であり、XはF,Cl,Br中から選ばれた少なくとも一種以上のハロゲン元素であり、aは0.001≦a≦0.3、bは0≦b≦0.3、pは0.001≦p≦0.2である〕
で表わされることを特徴とするものである。
【0013】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、上記一般式(1)(2)におけるEuの原子比aが、0.001〜0.2の範囲であることを特徴とするものである。
【0014】
また請求項4の発明は、請求項2又は3において、上記一般式(2)におけるMnの原子比bが、0.001〜0.2の範囲であることを特徴とするものである。
【0015】
また請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、上記一般式(1)(2)におけるアルカリ土類金属元素Mは、Caを含むと共に、SrとBaのうち少なくとも一方を含むものであることを特徴とするものである。
【0016】
また請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれかにおいて、上記一般式(1)(2)におけるハロゲン元素Xは、Clを含むと共に、FとBrのうち少なくとも一方を含むものであることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の請求項7に係る蛍光体の製造方法は、焼成物の一般式が、
(M1−a−bEuMnBOX …(1)
〔ただし、一般式(1)中、MはCa,Sr,Baの中から選ばれた少なくとも一種以上のアルカリ土類金属であり、XはF,Cl,Br中から選ばれた少なくとも一種以上のハロゲン元素であり、aは0.001≦a≦0.3、bは0≦b≦0.3である〕
で表わされるようになる組成で、原料粉末を配合して混合する原料混合粉末調製工程と、得られた原料混合粉末を非酸化性ガス雰囲気中で焼成する焼成工程と、得られた焼成物を粉砕した後に、純水で洗浄して水溶性の不要成分を除去する洗浄工程とを有することを特徴とするものである。
【0018】
本発明の請求項8に係る蛍光体の製造方法は、焼成物の一般式が、
(M1−a−bEuMn(BO1−p(POX …(2)
〔ただし、一般式(2)中、MはCa,Sr,Baの中から選ばれた少なくとも一種以上のアルカリ土類金属であり、XはF,Cl,Br中から選ばれた少なくとも一種以上のハロゲン元素であり、aは0.001≦a≦0.3、bは0≦b≦0.3、pは0.001≦p≦0.2である〕
で表わされるようになる組成で、原料粉末を配合して混合する原料混合粉末調製工程と、得られた原料混合粉末を非酸化性ガス雰囲気中で焼成する焼成工程と、得られた焼成物を粉砕した後に、純水で洗浄して水溶性の不要成分を除去する洗浄工程とを有することを特徴とするものである。
【0019】
本発明の請求項9に係る発光装置は、主発光ピークが350nm〜470nmの範囲にある近紫外線又は青色光を発する発光素子と、発光素子の一次放射光を吸収して発光する請求項1乃至6のいずれかに記載の蛍光体とを具備して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る蛍光体は、主発光ピークが350nm〜470nmの範囲にある一次放射光により効率よく励起され、この一次放射光よりも長波長で効率よく発光するものである。従って、近紫外や青色光を発する発光素子と組み合わせて用いることによって、高発光効率の発光装置を形成することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0022】
本発明に係る蛍光体の一つは、一般式が
(M1−a−bEuMnBOX …(1)
で表わされる、2価ユーロピウムで賦活されたハロボレート系の蛍光体である。この組成の結晶において、発光中心イオンは2価ユーロピウムイオンEu2+であり、アルカリ土類金属元素Mの一部のサイトに置換固溶している。
【0023】
そしてこのような組成を有する結晶を蛍光体として用いることにより、350nm〜470nmの範囲にある近紫外線又は青色光を効率よく吸収して励起され、励起波長よりも長波長の光を効率よく発光する蛍光体を得ることができるものである。
【0024】
ここで、上記の一般式(1)において、MはCa,Sr,Baの中から選ばれた少なくとも一種以上のアルカリ土類金属元素であり、Ca,Sr,Baのうち一種を単独で用いてもよいし、適当な比率で二種以上を組み合わせても良い。好ましくは、M中にCaを必ず含有し、残部がSrとBaのうち少なくとも一方である組み合わせである。M中のCaの含有割合は50mol%以上であることが好ましく、この条件であると、結晶の化学的安定性が増し、蛍光体としての寿命が長くなるので好適である。
【0025】
また上記一般式(1)において、XはF,Cl,Brの中から選ばれた少なくとも一種以上のハロゲン元素であり、F,Cl,Brのうち一種を単独で用いてもよいし、適当な比率で二種以上を組み合わせても良い。好ましくは、X中に必ずClを含有し、残部がFとBrのうち少なくとも一方である組み合わせである。X中のClの含有割合は50mol%以上であることが好ましく、この条件であると、結晶の化学的安定性が増し、蛍光体としての寿命が長くなるので好適である。
【0026】
また上記一般式(1)において、アルカリ土類金属元素Mに対するEuの原子比aは、0.001≦a≦0.3の範囲である。a<0.001であると、Euによる賦活濃度が低すぎるために、十分な発光強度を得ることができない。逆にa>0.3であると、Euによる賦活濃度が高すぎて濃度消光が顕著になり、発光強度が低下する。濃度消光をより低減するためにはa≦0.2であることが好ましく、従って、Euの原子比aは、0.001≦a≦0.2の範囲がより好ましい。
【0027】
上記一般式(1)においてMnは任意成分であるが、賦活剤としてMnをEuと共に添加すると、Eu2+の発光波長よりも長波長側に、Mn2+に起因する発光ピークが現われる。そしてMn/Eu比が大きくなるにつれて、Eu2+の発光ピーク強度が減少すると共にMn2+の発光ピーク強度が増加していき、ついにはEu2+の発光ピークは消滅してMn2+の発光ピークのみになる。アルカリ土類金属Mに対するMnの原子比bは、0≦b≦0.3の範囲であるが、b<0.001であると、Mnによる賦活濃度が低すぎて発光波長をシフトする効果を殆ど得ることができなくなるので、b≧0.001であることが望ましい。逆にb>0.3であると、Mnによる賦活濃度が高すぎて濃度消光が顕著になり、発光強度が低下する。濃度消光をより低減するためにはb≦0.2であることが好ましく、従って、Mnの原子比bは、0.001≦b≦0.2の範囲がより好ましい。また、MnとEuの比率は、0.5≦b/a≦10の範囲が好ましい。b/aが0.5未満であると発光波長をシフトする効果が殆ど得られなくなり、逆にb/aが10を超えると、発光強度が低下するおそれがある。
【0028】
また、本発明に係る蛍光体の他の一つは、一般式が
(M1−a−bEuMn(BO1−p(POX …(2)
で表わされる、2価ユーロピウム及び2価マンガンで共賦活されたハロボレート系の蛍光体である。
【0029】
そしてこの一般式(2)のような組成を有する結晶を蛍光体として用いることにより、上記の一般式(1)のものと同様に、350nm〜470nmの範囲にある近紫外線又は青色光を効率よく吸収して励起され、励起波長よりも長波長の光を効率よく発光する蛍光体を得ることができるものである。
【0030】
ここで、一般式(2)において、アルカリ土類金属元素M、ハロゲン元素Xは上記の一般式(1)の場合と同じである。またEuの原子比aやMnの原子比bについても上記の一般式(1)の場合と同じである。
【0031】
また一般式(2)では、(BO3−の一部を(PO3−で置換するようにしてある。このように(BO3−の一部を(PO3−で置換することによって、無輻射遷移が抑制され、これにより量子効果が向上して、発光強度をより高めることが可能になるものである。BO成分に対するPO成分の比pは0.001≦p≦0.2の範囲であり、0.001≦p≦0.1の範囲がより好ましい。PO成分を含有することによる効果を十分に得るためには、p≧0.001であることが望ましい。また逆にPO成分の含有率が高く、p>0.1であると、特にp>0.2であると、PO成分の全量が固溶しなくなって、ハロリン酸塩として相分離してしまうおそれがあり、異相の存在は量子効果を低下させるので好ましくない。
【0032】
次に、上記の一般式(1)の蛍光体の製造方法について説明する。
【0033】
まず、焼成物が一般式(1)で表わされるようになる組成で、原料粉末を配合して混合する。例えば一般式(1)中のMがCa、XがClであるCaBOCl:Eu2+蛍光体を製造する場合、原料粉末として例えば、CaCO、Eu、HBOを化学量論組成比となるように、また塩素源であるCaClを化学量論組成比の1.1倍〜1.5倍の量となるように秤量し、良く混合する。
【0034】
また、例えば一般式(1)中のMがCa、XがClであるCaBOCl:Eu2+,Mn2+蛍光体を製造する場合、原料粉末として例えば、CaCO、Eu、MnCO、HBOを化学量論組成比となるように、また塩素源であるCaClを化学量論組成比の1.1倍〜1.5倍の量となるように秤量し、良く混合する。
【0035】
そしてこのように原料混合粉末調製工程で得られた原料混合粉末を、石英等の容器に充填し、非酸化性ガス雰囲気中で焼成する。非酸化性ガス雰囲気としては、例えば水素/窒素混合ガス等の弱還元性ガス雰囲気が好ましい。また焼成条件は、700℃〜1000℃で1〜5時間程度が好ましい。このように焼成工程で得られた焼成物を粉砕し、洗浄工程で、純水で洗浄して水溶性の不要成分を除去する。このようにして目的とする組成の蛍光体粉末を得ることができるものである。
【0036】
また、上記の一般式(2)の蛍光体の製造方法について説明する。
【0037】
まず、焼成物が一般式(2)で表わされるようになる組成で、原料粉末を配合して混合する。例えばCa(BO0.998(PO0.002Cl:Eu2+蛍光体を製造する場合、原料粉末として例えば、CaCO、Eu、HBO、CaHPOを化学量論組成比となるように、また塩素源であるCaClを化学量論組成比の1.1倍〜1.5倍の量となるように秤量し、良く混合する。
【0038】
また、例えばCa(BO0.998(PO0.002Cl:Eu2+,Mn2+蛍光体を製造する場合、原料粉末として例えば、CaCO、Eu、MnCO、HBO、CaHPOを化学量論組成比となるように、また塩素源であるCaClを化学量論組成比の1.1倍〜1.5倍の量となるように秤量し、良く混合する。
【0039】
後は、上記と同様に焼成・粉砕・洗浄することによって、目的とする組成の蛍光体粉末を得ることができるものである。
【0040】
上記のようにして得られる本発明の蛍光体を、LEDなどの発光素子と組み合わせて、発光装置を形成することができる。本発明の蛍光体と組み合わせる発光素子としては、特に限定されるものではないが、本発明の蛍光体は350nm〜470nmの近紫外線又は青色光を効率よく吸収して発光するので、窒化物半導体LEDが好ましい。窒化物半導体は、InGaAlN(但し、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)で表わされる化合物半導体であり、例えばAlN、GaN、AlGaN、InGaN等を重要な化合物として挙げることができる。窒化物半導体LEDは、紫や紫外波長で発光する場合、発光波長は410nm以下で、特に365nm〜420nmの範囲で高効率である。また青色波長で発光する場合、発光波長は420nm〜480nmの範囲で高効率である。従って、本発明の蛍光体をこのような窒化物半導体LED発光素子と組み合わせて用いることによって、高発光効率の発光装置を形成することができるものである。
【0041】
図1は発光装置の一例を示すものであり、実装基板1の実装凹部2の底部にLEDなどの発光素子3を実装し、蛍光体粉末を分散した樹脂シート4で実装凹部2の開口部を覆うようにしてある。そして発光素子3から発光した光のうち、一部は樹脂シート4を透過して外部に出射されると共に、他の一部は樹脂シート4中の蛍光体に一次放射光として吸収される。蛍光体はこの一次放射光を吸収して励起され、一次放射光より長波長で発光して外部に出射される。このようにして、発光素子3の発光色と、樹脂シート4中の蛍光体の発光色とが混色された色で、発光装置を発光させることができるものである。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0043】
(実施例1)
一般式(1)において、M=Ca、X=Cl、a=0.025、b=0の、(Ca0.975Eu0.025BOCl蛍光体を合成した。
【0044】
すなわちまず、CaCO、Eu、HBO、CaClの各粉末をモル比で1.45:0.025:1:0.6の比率で秤量し、混合した。次にこの混合粉末を石英るつぼに入れ、水素濃度2%の水素/窒素混合ガス雰囲気下において、950℃で2時間焼成した。そして得られた焼成物を粉砕し、純水で洗浄することによって、蛍光体の粉末を得た。
【0045】
このようにして得られた蛍光体は、図2(a)の発光スペクトルに示すように、ピーク波長が573nmのブロードな発光ピークを示す黄色蛍光体であった。また図2(b)はこの蛍光体の励起スペクトルを示すものであり、近紫外域から青色域までの波長の光を良く吸収して励起されるものである。このため、近紫外に主発光ピークを有するLED発光素子あるいは青色域に主発光ピークを有するLED発光素子と組み合わせて、白色LED発光装置を形成する黄色蛍光体として用いることができるものである。
【0046】
(実施例2)
一般式(2)において、M=Ca、X=Cl、a=0.025、b=0、p=0.002の、(Ca0.975Eu0.025(BO0.998(PO0.002Cl蛍光体を合成した。
【0047】
すなわちまず、CaCO、Eu、HBO、CaHPO、CaClの各粉末をモル比で1.448:0.025:0.998:0.002:0.6の比率で秤量し、混合した。後は、実施例1と同様にして焼成・粉砕・洗浄することによって、蛍光体の粉末を得た。
【0048】
(実施例3)
一般式(1)において、M=Ca、X=Cl、a=0.0025、b=0の、(Ca0.9975Eu0.0025BOCl蛍光体を合成した。
【0049】
すなわちまず、CaCO、Eu、HBO、CaClの各粉末をモル比で1.4475:0.00125:1:0.6の比率で秤量し、混合した。後は、実施例1と同様にして焼成・粉砕・洗浄することによって、蛍光体の粉末を得た。
【0050】
(実施例4)
一般式(1)において、M=Ca、X=Cl、a=0.01、b=0の、(Ca0.99Eu0.01BOCl蛍光体を合成した。
【0051】
すなわちまず、CaCO、Eu、HBO、CaClの各粉末をモル比で1.44:0.005:1:0.6の比率で秤量し、混合した。後は、実施例1と同様にして焼成・粉砕・洗浄することによって、蛍光体の粉末を得た。
【0052】
(実施例5)
一般式(1)において、M=Ca、X=Cl、a=0.05、b=0の、(Ca0.95Eu0.05BOCl蛍光体を合成した。
【0053】
すなわちまず、CaCO、Eu、HBO、CaClの各粉末をモル比で1.4:0.025:1:0.6の比率で秤量し、混合した。後は、実施例1と同様にして焼成・粉砕・洗浄することによって、蛍光体の粉末を得た。
【0054】
(実施例6)
一般式(1)において、M=Ca、X=Cl、a=0.1、b=0の、(Ca0.9Eu0.1BOCl蛍光体を合成した。
【0055】
すなわちまず、CaCO、Eu、HBO、CaClの各粉末をモル比で1.35:0.05:1:0.6の比率で秤量し、混合した。後は、実施例1と同様にして焼成・粉砕・洗浄することによって、蛍光体の粉末を得た。
【0056】
(比較例1)
一般式(2)において、M=Ca、X=Cl、a=0.025、b=0、p=0.25の、(Ca0.975Eu0.025(BO0.75(PO0.25Cl蛍光体を合成した。
【0057】
すなわちまず、CaCO、Eu、HBO、CaHPO、CaClの各粉末をモル比で1.2:0.025:0.75:0.25:0.6の比率で秤量し、混合した。後は、実施例1と同様にして焼成・粉砕・洗浄することによって、蛍光体の粉末を得た。
【0058】
上記のように実施例2〜6及び比較例1で得た蛍光体の発光特性を実施例1と同様に励起波長460nmで測定し、発光ピークを求めた。またその発光ピークでの発光強度を求め、実施例1を100とした相対値で示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1にみられるように、PO成分を含有することによって実施例2のように発光強度を向上できるものであった。またPO成分が多すぎると、比較例1のように発光強度は却って大きく低下するものであった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】発光装置の一例を示す断面図である。
【図2】実施例1の蛍光体の発光特性を示すものであり、(a)は発光スペクトル、(b)は励起スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式が、(M1−a−bEuMnBOX …(1)
〔ただし、一般式(1)中、MはCa,Sr,Baの中から選ばれた少なくとも一種以上のアルカリ土類金属元素であり、XはF,Cl,Brの中から選ばれた少なくとも一種以上のハロゲン元素であり、aは0.001≦a≦0.3、bは0≦b≦0.3である〕
で表わされることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
一般式が、(M1−a−bEuMn(BO1−p(POX …(2)
〔ただし、一般式(2)中、MはCa,Sr,Baの中から選ばれた少なくとも一種以上のアルカリ土類金属元素であり、XはF,Cl,Brの中から選ばれた少なくとも一種以上のハロゲン元素であり、aは0.001≦a≦0.3、bは0≦b≦0.3、pは0.001≦p≦0.2である〕
で表わされることを特徴とする蛍光体。
【請求項3】
上記一般式(1)(2)におけるEuの原子比aが、0.001〜0.2の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光体。
【請求項4】
上記一般式(2)におけるMnの原子比bが、0.001〜0.2の範囲であることを特徴とする請求項2又は3に記載の蛍光体。
【請求項5】
上記一般式(1)(2)におけるアルカリ土類金属元素Mは、Caを含むと共に、SrとBaのうち少なくとも一方を含むものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項6】
上記一般式(1)(2)におけるハロゲン元素Xは、Clを含むと共に、FとBrのうち少なくとも一方を含むものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項7】
焼成物の一般式が、(M1−a−bEuMnBOX …(1)
〔ただし、一般式(1)中、MはCa,Sr,Baの中から選ばれた少なくとも一種以上のアルカリ土類金属元素であり、XはF,Cl,Br中から選ばれた少なくとも一種以上のハロゲン元素であり、aは0.001≦a≦0.3、bは0≦p≦0.3である〕
で表わされるようになる組成で、原料粉末を配合して混合する原料混合粉末調製工程と、得られた原料混合粉末を非酸化性ガス雰囲気中で焼成する焼成工程と、得られた焼成物を粉砕した後に、純水で洗浄して水溶性の不要成分を除去する洗浄工程とを有することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項8】
焼成物の一般式が、(M1−a−bEuMn(BO1−p(POX …(2)
〔ただし、一般式(2)中、MはCa,Sr,Baの中から選ばれた少なくとも一種以上のアルカリ土類金属元素であり、XはF,Cl,Br中から選ばれた少なくとも一種以上のハロゲン元素であり、aは0.001≦a≦0.3、bは0≦b≦0.3、pは0.001≦p≦0.2である〕
で表わされるようになる組成で、原料粉末を配合して混合する原料混合粉末調製工程と、得られた原料混合粉末を非酸化性ガス雰囲気中で焼成する焼成工程と、得られた焼成物を粉砕した後に、純水で洗浄して水溶性の不要成分を除去する洗浄工程とを有することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項9】
主発光ピークが350nm〜470nmの範囲にある近紫外線又は青色光を発する発光素子と、発光素子の一次放射光を吸収して発光する請求項1乃至6のいずれかに記載の蛍光体とを具備して成ることを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−249412(P2006−249412A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18186(P2006−18186)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】