説明

蛍光体及びその製造方法、蛍光体含有組成物、並びに、該蛍光体を用いた発光装置、画像表示装置及び照明装置

【課題】蛍光体の耐久性の向上を実現する。
【解決手段】
25℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2.00±0.02のシグナルのスピン濃度が、蛍光体1gあたり3×10−9mol以下であり、かつ、下記式[I]で表
される化学組成を有する結晶相を含有する蛍光体。
Ba [I]
(但し、上記式[I]中、 MはMn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、
Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の付活元素を示し、
はSr、Ca、Mg及びZnから選ばれる少なくとも1種類の二価の金属元素を示
し、 Lは周期律表第4族又は14族に属する金属元素から選ばれる金属元素を示し、 x、y、z、u、v、及びwは、それぞれ以下の範囲の数値である。
0.00001≦x≦3
0≦y≦2.99999
2.6≦x+y+z≦3
0<u≦11
6<v≦25
0<w≦17)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体及びその製造方法、該蛍光体含有組成物並びに該蛍光体を用いた発光装置、画像表示装置及び照明装置に関するものである。詳しくは、第1の発光体である半導体発光素子等の励起光源からの光の照射によって緑色光を発光する蛍光体及びその製造方法、その蛍光体を含む蛍光体含有組成物、並びに、その蛍光体を用いた高効率の発光装置、画像表示装置及び照明装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化物は、安定性や製造のしやすさの点では酸化物に劣るものの、酸化物や他の無機化合物にない特性を持つものが少なくないことで知られている。現に二元系の窒化物であるSi、BN、AlN、GaN、TiN等は、例えば、基板材料、半導体、発光ダイオード(light emitting diode。以下、適宜「LED」と略称する。)、構造用セラミックス、コーティング剤等の様々な用途に使用されており、工業的規模での生産が行われている。
【0003】
また、近年、三元系以上の元素から構成される窒化物について、多くの新規物質が製造されている。特に最近では、窒化珪素をベースとした多元系窒化物や酸窒化物において、優れた特性を有する蛍光体材料が開発されている。これらの蛍光体材料は、青色LED又は近紫外LEDによって励起され、黄色ないし赤色の発光を示すことが知られている。このような青色LED又は近紫外LEDとこれらの蛍光体との組み合わせによって白色を発光する発光装置を構成することが出来る。
【0004】
照明用途及びディスプレイの用途においてしばしば用いられる白色光は、光の加算混合原理により、青色、緑色及び赤色の発光を組み合わせることによって得るのが一般的である。ディスプレイ用途の一分野であるカラー液晶表示装置用バックライトにおいては、色度座標上の広い範囲の色を効率よく再現するために、青色、緑色及び赤色の発光体は、それぞれ出来るだけ発光強度が高いこと、及び、色純度が良いことが望ましい。これらの指標として、例えば、TVの色再現範囲の標準の一つとしてNTSCが知られている。
【0005】
近年、この青色、緑色及び赤色の3色の発光源として半導体発光装置を使用する試みがなされている。しかしながら、3色すべてに半導体発光装置を用いると、通常は、使用中の色シフトを補償する回路を設けることになってしまう。そこで、蛍光体等の波長変換材料を使用して半導体発光素子からの発光を波長変換し、所望の青色、緑色及び赤色の3色を得ることが実際的である。具体的には、近紫外発光の半導体発光素子を光源として青色、緑色及び赤色を発光させる方式と、青色発光の半導体発光素子からの発光はそのまま青色として使用し、緑色及び赤色は蛍光体による波長変換で得る方法が知られている。
【0006】
これら青色、緑色及び赤色の3色の中で、緑色は人間の眼に対する視感度が特に高く、ディスプレイの全体の明るさに大きく寄与するため、他の2色に比べて、とりわけ重要である。しかしながら、既存の緑色発光する蛍光体は、青色又は近紫外光に対して変換効率及び色純度の点で不十分なものであり、上記目的にかなう高性能の緑色の蛍光を発光する蛍光体(以下、適宜「緑色蛍光体」という)が望まれていた。
【0007】
従来、緑色蛍光体の公知例としては、特許文献1又は2に示されているようなSrSi:Eu、CaSi:Eu又はBaSi:Eu蛍光体がある。これらの蛍光体は波長400nmの励起光に対して、発光ピーク波長が490nmか
ら580nmであり、青緑色から黄赤色を示すものである。しかし、特許文献1又は2に記載されている蛍光体は、その蛍光体の発光スペクトル図からも分かるように、ピークの波長が短波長過ぎるため、または、半値幅が広く色純度が低いため、これらの蛍光体を用いたディスプレイの色再現範囲は狭くなっていた。また、輝度も低く上記の目的に対して不十分なものであった。
【0008】
特許文献3には、青緑色〜黄色系の発光色を有するオキシ窒化物蛍光体について記載されている。しかし、特許文献3に具体的に開示があるのは、上記特許文献1、及び特許文献2と同じ組成の蛍光体、並びに、その金属元素又は珪素を置換したもののみであり、上述したものと同様の課題がある。
さらに、特許文献4には、Al含有Si−O−N系蛍光体が開示されている。しかし、特許文献4記載の蛍光体も発光スペクトルは半値幅が広く色純度が低いため、上記の目的に対して不十分なものであった。
【0009】
一方、非特許文献1には、BaSi及びEuSiの合成方法とそのX線構造解析結果が記載されている。しかしながら、非特許文献1記載の酸窒化物はいずれも蛍光を発するものではない。
以上のような状況の中、新規結晶構造を有する蛍光体が見出された(特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2005−530917号公報
【特許文献2】特表2006−503431号公報
【特許文献3】国際公開第2004/039915号パンフレット
【特許文献4】特表2005−529229号公報
【特許文献5】国際公開第2007/088966号公開パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Z.Anorg.Allg.Chem.,2006,vol.632,p.949−954
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
照明用及びディスプレイ用の緑色発光体は、発光ピーク波長が525nm付近であって、発光効率が高いことが望ましい。加えて、発光装置の温度上昇に伴う発光効率の低下や色ズレも小さいことが好ましい。しかしながら、既存の緑色蛍光体は、青色又は近紫外光に対する変換効率が不十分であり、色純度の点でも不十分なものであった。このため上記目的にかなう高性能の緑色蛍光体が望まれていた。
【0013】
また、色ずれの少ない長寿命の画像表示装置や照明装置への要望が高まってきていることもあり、蛍光体の耐久性向上策についても望まれている。
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、緑色に発光しうる蛍光体及びその製造方法、並びに、その蛍光体を用いた蛍光体含有組成物、発光装置、画像表示装置及び照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、各種製造条件の検討を行い、電子スピン共鳴測定において、後述する特定の条件を満たす蛍光体が耐久性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
また、 蛍光体を加熱する際に発生するガスについても分析を行い、後述する特定の条
件を満たす蛍光体が耐久性に優れることを見出した。
さらに、本発明者等は、蛍光体を構成する金属元素を2種以上含有する窒化物又は酸窒化物を含む蛍光体原料を、窒素含有雰囲気下で焼成する工程を有する製造方法が、耐久性向上効果があることも見出した。
【0015】
即ち、本発明の要旨は、以下に存する。
(1)25℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2.00±0.02のシグナル強度が、蛍光体1gあたり3×10−9mol以下であり、かつ、下記式[I]で表さ
れる化学組成を有する結晶相を含有することを特徴とする、蛍光体。
Ba [I]
(但し、上記式[I]中、MはMn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の付活元素を示し、MはSr、Ca、Mg及びZnから選ばれる少なくとも1種類の二価の金属元素を示し、Lは周期律表第4族及び14族に属する金属元素から選ばれる金属元素を示し、x、y、z、u、v及びwは、それぞれ以下の範囲の数値である。
0.00001≦x≦3
0≦y≦2.99999
2.6≦x+y+z≦3
0<u≦11
6<v≦25
0<w≦17)
(2)ヘリウムガス中で昇温速度10℃/分で、室温から1000℃まで加熱したときに発生する水の重量が、加熱前の蛍光体の1000重量ppm以下であり、かつ、前記式[I]で表される化学組成を有する結晶相を含有することを特徴とする、蛍光体。
(3)ヘリウムガス中で昇温速度10℃/分で、室温から1000℃まで加熱したときに発生する二酸化炭素の重量が、加熱前の蛍光体の500重量ppm以下であり、かつ、前記式[I]で表される化学組成を有する結晶相を含有することを特徴とする、蛍光体。
Ba [I]
(4)前記式[I]で表される化学組成を有する結晶相を含有する蛍光体を製造する方法であって、前記蛍光体を構成する金属元素を2種以上含有する窒化物又は酸窒化物を含む蛍光体前駆体を焼成する工程を有することを特徴とする、蛍光体の製造方法。
(5)前記蛍光体前駆体が、前記窒化物又は酸窒化物を、製造される蛍光体の1重量%以上30重量%以下含有することを特徴とする、(4)に記載の蛍光体の製造方法。
(6)前記窒化物又は酸窒化物が、製造する蛍光体と同一の組成を有するものであることを特徴とする、(4)または(5)に記載の蛍光体の製造方法。
(7)(4)〜(6)のいずれかに記載の製造方法により、製造されたものであることを特徴とする、蛍光体。
(8)(1)〜(3)、及び(7)のいずれかに記載の酸窒化物蛍光体と、液体媒体とを含有することを特徴とする蛍光体含有組成物。
(9)第1の発光体と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備え、前記第2の発光体が、(1)〜(3)、及び(7)のいずれかに記載の蛍光体を1種以上、第1の蛍光体として含有することを特徴とする発光装置。
(10)前記第2の発光体が、前記第1の蛍光体とは発光ピーク波長の異なる蛍光体を1種以上、第2の蛍光体として含有することを特徴とする、(9)に記載の発光装置。
(11)(9)又は(10)に記載の発光装置を備えることを特徴とする照明装置。
(12)(9)又は(10)に記載の発光装置を備えることを特徴とする画像表示装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、発光特性に加えて、耐久性にも優れた緑色蛍光体、及びその製造方法、並びに、その蛍光体を用いた蛍光体含有組成物、発光装置、画像表示装置及び照明装置
を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の発光装置の一例における、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)との位置関係を示す模式的斜視図である。
【図2】図2(a)及び図2(b)は何れも、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の照明装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の蛍光体(実施例4)の発光及び励起スペクトルである。
【図5】本発明の蛍光体(実施例3)の粉末X線回折図形である。
【図6】本発明の蛍光体の電子スピン共鳴スペクトルである。
【図7】比較例2のSEM写真である。
【図8】実施例3のSEM写真である。
【図9】実施例4のSEM写真である。
【図10】実施例5のSEM写真である。
【図11】実施例6のSEM写真である。
【図12】実施例7のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施できる。
また、本明細書における色名と色度座標との関係は、すべてJIS規格に基づく(JIS Z8110及びZ8701)。
なお、本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち一種又は二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。例えば、「(Ca,Sr,Ba)Al:Eu」という組成式は、「CaAl:Eu」と、「SrAl:Eu」と、「BaAl:Eu」と、「Ca1−xSrAl:Eu」と、「Sr1−xBaAl:Eu」と、「Ca1−xBaAl:Eu」と、「Ca1−x−ySrBaAl:Eu」とを全て包括的に示しているものとする(但し、前記式中、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1)。
【0019】
[1.酸窒化物蛍光体の組成]
本発明の蛍光体は、下記式[I]で表される化学組成を有する結晶相を含有する蛍光体である。
Ba [I]
(但し、式[I]中、MはMn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の付活元素を示し、MはSr、Ca、Mg及びZnから選ばれる少なくとも1種類の二価の金属元素を示し、Lは周期律表第4族及び14族に属する金属元素から選ばれる金属元素を示し、x、y、z、u、v、及びwは、それぞれ以下の範囲の数値を表す。
【0020】
0.00001≦x≦3
0≦y≦2.99999
2.6≦x+y+z≦3
0<u≦11
6<v≦25
0<w≦17)
上記式[I]において、Mは付活元素を表す。上記Mとしては、Mn、Ce、Pr
、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の遷移金属元素又は希土類元素が挙げられる。中でも、希土類元素であるEu、Ce、Sm、Tm又はYbが好ましい。さらには、発光効率の点では、少なくともEu又はCeを含有するものであることが好ましい。また、上記Mにおいて、発光ピーク波長の点で、少なくともEuを含有するものがより好ましく、M中のEuの含有量は50%以上であるものが更に好ましく、Euの含有量が80%以上であるものが更に好ましく、Euの含有量が90%以上であるものが更に好ましく、Euのみを用いることが特に好ましい。
【0021】
なお、Mとしては、これらの元素のうち何れか一種のみを含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有していてもよい。Mとして2種以上の元素を組み合わせて用いる場合、残光特性の点では、Mは、少なくともEu及びPrを含むものであることが好ましい。この際、MにおいてEuに対するPrの比率は、通常0.01モル%以上、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは1モル%以上、また、通常50モル%以下、好ましくは30モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。Prの比率が低すぎても高すぎても残光時間が長くなる傾向がある。
【0022】
ここで、残光時間が短いことの利点について説明する。蛍光体の中にはりん光を発するものがあり、この場合、蛍光体は通常は蛍光とりん光との両方を発する。蛍光に比較して、りん光は、蛍光体に対する励起光の照射が停止された時点以後も相対的に長時間にわたって発せられる性質を有する。このように励起光の照射が停止された時点以後も蛍光体から光が発せられる現象を残光という。
【0023】
該付活元素Mは、本発明の蛍光体中において、2価のカチオン及び/又は3価のカチオンとして存在することになる。この際、付活元素Mは、2価のカチオンの存在割合が高い方が好ましい。例えば、MがEuである場合、全Eu量に対するEu2+の割合は、通常20モル%以上、好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。
【0024】
なお、本発明の蛍光体に含まれる全Eu中のEu2+の割合は、例えば、X線吸収微細構造(X−ray Absorption Fine Structure)の測定によって調べることができる。すなわち、Eu原子のL3吸収端を測定すると、Eu2+とEu3+が別々の吸収ピークを示すので、その面積から比率を定量できる。また、本発明の蛍光体に含まれる全Eu中のEu2+の割合は、電子スピン共鳴(ESR)の測定によっても知ることができる。
【0025】
上記式[I]において、xは、0.00001以上、3以下の範囲の数値である。このうちxは、好ましくは0.03以上であり、より好ましくは0.06以上、さらに好ましくは0.12以上、中でも好ましくは0.18以上、特に好ましくは0.27以上である。一方、付活元素Mの含有割合が大きすぎると濃度消光が生じる場合もあるため、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.2以下、さらに好ましくは0.9以下、特に好ましくは0.7以下、さらにより好ましくは0.45以下である。
【0026】
上記式[I]において、MはBaの位置を置換することができる元素であり、具体的には、Sr、Ca、Mg、及びZnから選ばれる少なくとも1種の二価の金属元素を表わす。この際、Mは、好ましくはSr、Ca、及び/又はZnであり、より好ましくはSr及び/又はCaであり、さらに好ましくはSrである。
なお、上記Mとしては、これらの元素のうち何れか一種のみを含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有していてもよい。
【0027】
としてCaを含む場合、Ba及びCaの合計量に対するCaの存在割合は、発光強度を重視する観点から、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、更に好ましくは30モル%以下である。一方Ca量を増やすことにより、発光波長を長波長化することができる。
また、MとしてSrを含む場合、Ba及びSrの合計量に対するSrの存在割合は、発光強度を重視する観点から、好ましくは70モル%以下、より好ましくは60モル%以下、更に好ましくは50モル%以下、より更に好ましくは30%以下、より更に好ましくは20%以下である。一方Sr量を増やすことにより発光波長を長波長化することができる。
【0028】
さらに、MとしてZnを含む場合、Ba及びZnの合計量に対するZnの存在割合は、発光強度の観点から
、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル%以下である。一方Zn量を増やすことにより発光波長を長波長化することができる。
また、MとしてMgを含む場合、Ba及びMgの合計量に対するMgの存在割合は、発光強度の観点からは好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、更に好ましくは10モル%以下である。一方Mg量を増やすことにより発光波長を長波長化することができる。
【0029】
したがって、上記式[I]において、zの値は、置換する金属元素Mの種類とyの量とに応じて設定すればよい。zの具体的な値としては、通常0以上であり、また、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.2以下、さらに好ましくは0.9以下、特に好ましくは0.6以下、さらにより好ましくは0.4以下である。
また、式[I]において、上記yは、通常0以上であり、また通常2.99999以下の範囲の数値である。本発明の蛍光体は、結晶構造の安定性の観点から、Baを含有することが好ましい。したがって、上記式[I]においてyは、0より大きいことが好ましく、より好ましくは0.9以上、更に好ましくは1.2以上、特に好ましくは2以上である。また、付活剤元素の含有割合との関係からyは2.99999より小さいことが好ましく、より好ましくは2.99以下、さらに好ましくは2.98以下、特に好ましくは2.95以下である。
【0030】
本発明の蛍光体においては、酸素あるいは窒素と共に、BaやM元素が欠損することがある。このため、上記式[I]においては、x+y+zの値が3未満となることがある。よってx+y+zは2.6以上3以下の範囲の値を取りうるが、2.7以上であることがましく、2.8以上であることが更に好ましく、2.9以上であることが特に好ましく、
理想的にはx+y+z=3である。ここで、x+y+zが2.6より小さい場合は結晶構造を保てなくなる可能性が高い。
【0031】
上記式[I]において、Lは、Ti、Zr、Hf等の周期律表第4族の金属元素、又は、Si、Ge等の周期律表第14族の金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素を表わす。このうちLとして、好ましくはTi、Zr、Hf、Si又はGeであり、より好ましくはSi又はGeであり、特に好ましくはSiである。
なお、Lは、これらの金属元素のうち何れか一種のみを含有していてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有していてもよい。Lが2種以上の金属元素を含有する
場合には、その主成分はSiであることが好ましく、SiのLにおける含有率は50%以上であることが好ましく、80%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0032】
ここで、上記Lは、蛍光体の結晶の電荷バランスの点で当該蛍光体の性能に影響を与えない限りにおいて、その一部にB、Al、Ga等の3価のカチオンとなりうる金属元素が
混入していても良い。その混入量としては、Lに対して、通常10原子%以下、好ましくは5原子%以下である。
また、上記式[I]において、uは、通常11以下、好ましくは9以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは6.4であり、また、通常0より大きく、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは5.6以上の数値である。
【0033】
Oイオン及びNイオンの量は、式[I]において数値v及びwで表される。具体的には、上記一般式(I)において、vは、通常6より大きく、好ましくは7より大きく、より好ましくは8より大きく、さらに好ましくは9より大きく、更に好ましくは11より大きく、特に好ましくは11.6より大きい数値であり、また、通常25以下、好ましくは20より小さく、より好ましくは15より小さく、更に好ましくは13より小さく、特に好ましくは12.4より小さい数値である。
【0034】
本発明の蛍光体は酸窒化物であるので、Nは必須成分である。このため、上記一般式(I)において、wは、通常0より大きく、好ましくは1より大きく、より好ましくは1.6より大きい数値である。また、wは、通常17以下、好ましくは10より小さく、より好ましくは4より小さく、更に好ましくは2.4より小さい数値である。
したがって、上記の観点から、上記式[I]においては、u、v及びwが、それぞれ、5≦u≦7、9<v<15、0<w<4であることが好ましく、5.6≦u≦6.4、11<v<13、1.6<w<2.4であることがさらに好ましく、vについては11.6<v<12.4であることが特に好ましい。これにより、発光強度を高めることができる。
【0035】
ここで、上記O及びNのサイトには、蛍光体の結晶の電荷バランスの点で当該蛍光体の性能に影響を与えない限りにおいて、その一部にS又はハロゲン原子等の1価又は2価のアニオンとなりうる元素が混入していても良い。その混入量としては、O及びNの全体量に対して、通常10原子%以下、好ましくは5原子%以下である。特に、ハロゲン元素に関しては、原料不純物由来以外に製造時に使用するフラックス由来で混入することがある。この場合、ハロゲン原子は、蛍光体中に通常1ppm以上含有し、上限としては蛍光体焼成後の洗浄方法にも依存するが、通常1000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下の範囲で含有する。
【0036】
本発明の蛍光体は、(M+Ba+M)及びLといった金属元素に対する酸素原子の割合が窒素原子の割合より多いことが好ましい。したがって、酸素原子の量に対する窒素原子の量(N/O)としては、好ましくは70モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは30モル%以下、特に好ましくは20モル%未満である。また、下限としては、通常0モル%より大きく、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上である。
【0037】
ところで、前記式[I]で表わされる蛍光体には、Ba及びLの一部をそれぞれLn及びAlで置換した下記式[I’]で表される蛍光体も含まれるものとする。即ち、下記式[I’]で表される蛍光体についても、後述する本発明の蛍光体の製造方法を適用することができ、後述する本発明の蛍光体の特性を満たす蛍光体を得ることができる。
χ(Ba,Ln)(L,Al) [I’]
(式[I’]中、MはMn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の付活元素を示し、LnはLa
、Ce、Pr、Nd、Y及びGdからなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、Lは
周期律表第4族及び14族に属する金属元素から選ばれる金属元素であって、少なくともLの一部がSi元素であるものを示し、χ、a、b、c及びdは、それぞれ、0.00001≦χ≦0.4、2.6≦a≦2.99999、5≦b≦7、11<c<13、及び0
<d<2.4の範囲の数値を示す。)
式[I’]において、M及びLは、式[I]におけるものと同様であり、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Y及びGdからなる群より選ばれる1種以上の元素であることが好ましい。
【0038】
通常、上記式[I’]で表される蛍光体は、式[I]で表わされる蛍光体とランガサイトとの固溶体として得ることができる。 ここで、ランガサイトとは、LaSiAl
12のことをいう。
本発明の蛍光体の好ましい組成の具体例を以下に挙げるが、本発明の蛍光体の組成は以下の例示に制限されるものではない。
【0039】
本発明の蛍光体の好ましい具体例としては、(Ca,Sr,Ba)(Si,Ge)12:(Eu,Ce,Mn)、(Ca,Sr,Ba)(Si,Ge):(Eu,Ce,Mn)、(Ca,Sr,Ba)(Si,Ge):(Eu,Ce,Mn)、(Ca,Sr,Ba)(Si,Ge)128/3:(Eu,Ce,Mn)、(Ca,Sr,Ba)(Si,Ge)1214/3:(Eu,Ce,Mn)、(Ca,Sr,Ba)(Si,Ge)12:(Eu,Ce,Mn)、(Ca,Sr,Ba)(Si,Ge)28/31222/3:(Eu,Ce,Mn)、(Ca,Sr,Ba)(Si,Ge)29/31226/3:(Eu,Ce,Mn)、(Ca,Sr,Ba)(Si,Ge)6.513:(Eu,Ce,Mn)、(Ca,Sr,Ba)(Si,Ge)14:(Eu,Ce,Mn)、(Ca,Sr,Ba)(Si,Ge)16:(Eu,Ce,Mn)、(Ca,Sr,Ba)(Si,Ge)18:(Eu,Ce,Mn)、(Ca,Sr,Ba)(Si,Ge)1020:(Eu,Ce,Mn)、(Ca,Sr,Ba)(Si,Ge)1122:(Eu,Ce,Mn)などが挙げられる。中でも、より好ましい具体例としては、BaSi12:Eu、BaSi:Eu、BaSi:Eu、BaSi128/3:Eu、BaSi1214/3:Eu、BaSi12:Eu、BaSi28/31222/3:Eu、BaSi29/31226/3:Eu、BaSi6.513:Eu、BaSi14:Eu、BaSi16:Eu、BaSi18:Eu、BaSi1020:Eu、BaSi1122:Eu、BaSi12:Eu,Mn、BaSi:Eu,Mn、BaSi:Eu,Mn、BaSi128/3:Eu,Mn、BaSi1214/3:Eu,Mn、BaSi12:Eu,Mn、BaSi28/31222/3:Eu,Mn、BaSi29/31226/3:Eu,Mn、BaSi6.513:Eu,Mn、BaSi14:Eu,Mn、BaSi16:Eu,Mn、BaSi18:Eu,Mn、BaSi1020:Eu,Mn、BaSi1122:Eu,Mn、BaSi12:Ce、BaSi:Ce、BaSi:Ce、BaSi128/3:Ce、BaSi1214/3:Ce、BaSi12:Ce、BaSi28/31222/3:Ce、BaSi29/31226/3:Ce、BaSi6.513:Ce、BaSi14:Ce、BaSi16:Ce、BaSi18:Ce、BaSi1020:Ce、BaSi1122:Ceなどが挙げられる。
[2.酸窒化物蛍光体の製造方法]
本発明の蛍光体は、蛍光体原料粉、及び/又は、これらを混合焼成して得られる焼成物(本明細書では、これらを合わせて蛍光体前駆体と称する。)をフラックス存在下で焼成を行う工程を経て得られる。このときの蛍光体原料、蛍光体製造法等については以下の通りである。
【0040】
本発明の蛍光体の製造方法は、前記蛍光体前駆体をフラックス存在下で焼成する限りにおいて特に制限されないが、前記式[I]における、付活元素Mの原料(以下適宜「M源」という。)、Baの原料(以下適宜「Ba源」という。)、金属元素Mの原料(以下適宜「M源」という。)、及び、Lの原料(以下適宜「L源」という。)を蛍光体原料として用意し、これらの蛍光体原料を混合し(混合工程)、得られた混合物(原料混合物)を焼成する(焼成工程)ことにより製造する方法が挙げられる。
【0041】
[2−1.蛍光体原料]
本発明の蛍光体の製造に使用される蛍光体原料(即ち、M源、Ba源、M源及びL源)としては、例えばM、Ba、M及びL等の本発明の蛍光体を構成する各元素(以下適宜、「蛍光体構成元素」という)を含む単体及び化合物などが挙げられ、中でも好適な例としては、金属、合金、イミド化合物、アミド化合物、酸窒化物、窒化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩、ハロゲン化物等が挙げられる。蛍光体原料は、これらの中から、複合酸窒化物への反応性や、焼成時におけるNO、SO等の発生量の低さ等を考慮して、適宜選択すればよい。
【0042】
また、蛍光体原料中に含まれる不純物としては、蛍光体の性能に影響を与えない限りにおいて、特に限定されない。ただし、Fe、Co、Cr及びNiに関しては、通常1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、特に好ましくは1ppm以下であるものが用いられる。
また、各蛍光体原料の重量メジアン径としては、通常0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上であり、通常30μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは3μm以下のものが用いられる。このために、蛍光体原料の種類によっては予めジェットミル等の乾式粉砕機で粉砕を行っても良い。これにより、各蛍光体原料の原料混合物中での均一分散化を図り、かつ、蛍光体原料の表面積増大による原料混合物の固相反応性を高めることができ、不純物相の生成を抑えることが可能となる。特に、窒化物原料の場合には、反応性の観点から他の蛍光体原料より小粒径のものを用いることが好ましい。
【0043】
〔M源の説明〕
源のうち、Euの原料(Eu源)の具体例としては、Eu、Eu(SO、Eu(C・10HO、EuCl、EuCl、EuF、EuF、Eu(NO・6HO、EuN、EuNH、Eu(NH等が挙げられる。中でもEu、EuCl等が好ましく、特に好ましくはEuである。
【0044】
源のうち、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbそれぞれの原料(以下適宜、それぞれ「Mn源」、「Ce源」、「Pr源」、「Nd源」、「Sm源」、「Tb源」、「Dy源」、「Ho源」、「Er源」、「Tm源」、及び「Yb源」という)等のその他の付活元素の原料の具体例としては、Eu源の具体例として挙げた各化合物において、EuをそれぞれMn、Ce、Pr、Nd、Sm、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYb等の付活元素に置き換えた化合物などが挙げられる。
【0045】
〔Ba源の説明〕
Ba源の具体例としては、BaO、Ba(OH)・8HO、BaCO、Ba(NO、BaSO、Ba(C)、Ba(OCOCH、BaCl、BaF、BaN、BaNH、Ba(NH等が挙げられる。このうち好ましくは、炭酸塩、酸化物等が使用できるが、酸化物は空気中の水分と反応しやすいため、取扱の点から炭酸塩がより好ましい。中でも、BaCOが好ましい。空気中の安定性が良く、また、加熱により容易に分解するため、目的外の元素が残留しにくく、さらに、高純度の原料を入手しやすいからである。炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料と
して使用することが好ましい。
【0046】
〔M源の説明〕
源のうち、Srの原料(Sr源)の具体例としては、SrO、Sr(OH)・8HO、SrCO、Sr(NO、SrSO、Sr(C)・HO、Sr(OCOCH・0.5HO、SrCl、SrF、SrN、SrNH、Sr(NH等が挙げられる。中でも、SrCOが好ましい。空気中の安定性が良く、また、加熱により容易に分解し、目的外の元素が残留しにくく、さらに、高純度の原料を入手しやすいからである。
【0047】
源のうち、Mgの原料(Mg源)の具体例としては、MgO、Mg(OH)、塩基性炭酸マグネシウム(mMgCO・Mg(OH)・nHO)、Mg(NO・6HO、MgSO、Mg(C)・2HO、Mg(OCOCH・4HO、MgCl、MgF、Mg、MgNH、Mg(NH等が挙げられる。中でも、MgOや塩基性炭酸マグネシウムが好ましい。
【0048】
源のうち、Caの原料(Ca源)の具体例としては、CaO、Ca(OH)、CaCO、Ca(NO・4HO、CaSO・2HO、Ca(C)・HO、Ca(OCOCH・HO、CaCl、CaF、Ca、CaNH、Ca(NH等が挙げられる。中でも、CaCO、無水CaCl等が好ましい。
【0049】
源のうち、Znの原料(Zn源)の具体例としては、ZnO、ZnF、ZnCl、Zn(OH)、Zn、ZnNH、Zn(NH等の亜鉛化合物(但し、水和物であってもよい。)が挙げられる。中でも、粒子成長を促進させる効果が高いという観点からZnF・4HO(但し、無水物であってもよい。)等が好ましい。
また、M源として炭酸塩を原料とする場合は、予め炭酸塩を仮焼成して原料として使用することが好ましい。
【0050】
〔L源の説明〕
L源のうち、Siの原料(Si源)としては、SiO又はSiを用いるのが好ましく、より好ましくはSi34である。また、加熱によりSiOとなる化合物を用いることもできる。このような化合物としては、具体的には、HSiO、Si(OCOCH等が挙げられる。また、Siとして反応性の点から、粒径が小さく、発光効率の点から純度の高いものが好ましい。さらに、発光効率の点からはα−Siよりもβ−Siの方が好ましく、特に不純物である炭素元素の含有割合が少ないものの方が好ましい。炭素含有の割合は、少なければ少ないほど好ましいが、通常0.01重量%以上含有され、通常0.3重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下である。
【0051】
一方で、蛍光体粒子の粒径を大きくする点からは、原料であるSiの粒径が大きいことが好ましい。
L源のうち、Ge源としては、GeO又はGeを用いるのが好ましい。また、加熱によりGeOとなる化合物を用いることもできる。このような化合物としては、具体的には、Ge(OH)、Ge(OCOCH、GeCl等が挙げられる。
【0052】
その他のL源の具体例としては、上記Si源又はGe源の具体例として挙げた各化合物において、SiやGeをそれぞれTi、Zr、Hf等の金属元素に置き換えた化合物が挙げられる。
〔蛍光体原料についてのその他の説明〕
上記各種蛍光体原料においては、純度が高く、より白色度の高い蛍光体原料を用いることが好ましい。得られる蛍光体の発光効率を高めるためである。具体的には、380nm〜780nmの波長範囲における反射率が、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である蛍光体原料を用いることが好ましい。特には、本発明の蛍光体の発光ピーク波長に近い波長である525nmにおいて、その蛍光体原料の反射率は60%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。
【0053】
また、複数ある蛍光体原料のうちでも、特に窒化珪素(Si)は反射率が高い物を用いることが好ましく、波長525nmの光を照射した場合における反射率が85%以上であり、好ましくは88%以上であり、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上である。また、当該反射率を満たすSiとしては、不純物として含有されている炭素の量として、通常0.2重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.03重量%以下であることが好ましい。該不純物炭素量は少なければ少ないほど好ましいが、通常0.001重量%以上である。また、結晶相を有する窒化珪素を用いることが好ましい。結晶相としては、α型のみ、β型のみ、又は、α型とβ型が混在のいずれの態様であっても良いが、少なくともβ型が存在することが好ましく、β型のみであることがより好ましい。
【0054】
なお、反射率の測定方法としては、通常の反射スペクトルの測定方法に準じて行えばよいが、具体的には、以下のような方法で行うことができる。
即ち、測定対象となる窒化珪素粉末を、測定精度が保たれるように、十分に表面を平滑にしてセルに詰め、積分球などの集光装置に取り付ける。この積分球などの集光装置に、例えばXeランプ等の光を照射し、得られる反射光のスペクトルを分光測定装置、例えば大塚電子株式会社製MCPD2000、MCPD7000などを用いて測定する。ここで得られる各波長における反射率の値は、光源の光に対しての反射率が判明している物質(例えば、波長525nmの励起光に対して99%の反射率Rを持つLabsphere製「Spectralon」等)の反射率に基づいて補正を行い、反射率を求めることができる。
【0055】
本発明の蛍光体原料は、共沈を行うことにより共沈原料としてから用いてもよい。この共沈原料は、蛍光体構成元素の一部又は全部が原子レベルで混合されているものである。通常、共沈は、それぞれ異なる蛍光体構成元素を含む蛍光体原料を組み合わせて行うため、得られる共沈原料は、蛍光体構成元素を2種以上含有することになる。蛍光体原料を共沈させてから使用することにより、蛍光体構成元素が均一に混合された蛍光体を得ることができるので、発光強度が優れる蛍光体を得ることができる。特に、発光中心元素(通常は、付活元素)を含有する共沈原料を使用することにより、発光中心元素を蛍光体中に均一に分散させることができるので、より発光強度に優れる蛍光体を得ることができる。
【0056】
なお、上述したM源、Ba源、M源及びL源は、それぞれ、一種のみを用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
さらに、本発明の蛍光体の組成中のN元素、O元素及びハロゲン元素等に関しては、通常、上記各蛍光体構成元素の蛍光体原料のアニオン成分として、又は焼成雰囲気中に含有される成分として、蛍光体製造時に供給される。
【0057】
[2−2.蛍光体の製造方法:混合工程]
目的組成が得られるように蛍光体原料を秤量し、これらを混合してから焼成することにより、本発明の蛍光体が得られる。なお、この際、混合はボールミル等を用いて十分に混合することが好ましい。
蛍光体原料の秤量は、混合物中の蛍光体構成元素の仕込み組成が目的とする蛍光体の組
成と同様になるようにすることが好ましい。この際、各蛍光体原料の秤量の誤差はある程度許容されるが、格子欠陥及び不純物相の少ない結晶を得るためには、前記の秤量誤差は小さいことが好ましい。具体的範囲を挙げると、原料混合物中のM元素、M元素及びL元素のモル量比を、それぞれ、目的とする蛍光体組成におけるモル量比に対して±10%の範囲(より詳しくは、通常90%以上、好ましくは95%以上、また、通常110%以下、好ましくは105%以下の範囲)とすることが好ましい。
【0058】
更に、中でも前記式[I]の組成においてM元素として少なくともEu及びPrを含有する蛍光体を製造する場合は、Pr元素を、Ba元素及びM元素の合計量に対してモル比で通常5%以下、好ましくは4モル%以下、より好ましくは3モル%以下の範囲で含むものを使用し、これを焼成して製造することが望ましい。これにより、耐久性に優れた蛍光体をより確実に得られる。なお、下限に制限は無いが、通常0.01モル%以上である。
【0059】
上記混合手法としては、特に限定はされないが、具体的には、下記(A)及び(B)として挙げられたような公知の手法を任意に用いることができる。また、これらの各種条件については、例えば、ボールミルにおいて2種の粒径の異なるボールを混合して用いる等、公知の条件が適宜選択可能である。
(A)例えばハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機、又は、乳鉢と乳棒等を用いる粉砕と、例えばリボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機、又は、乳鉢と乳棒を用いる混合とを組み合わせ、前述の蛍光体原料を粉砕混合する乾式混合法。
【0060】
(B)前述の蛍光体原料にエタノール等のアルコール系溶媒又は水などの溶媒又は分散媒を加え、例えば粉砕機、乳鉢と乳棒、又は蒸発皿と撹拌棒等を用いて混合し、溶液又はスラリーの状態とした上で、噴霧乾燥、加熱乾燥、又は自然乾燥等により乾燥させる湿式混合法。
また、上記混合・粉砕時には、必要に応じて、蛍光体原料を篩いにかけても良い。この場合、各種市販の篩いを用いることが可能であるが、金属メッシュ等の金属製のものよりもナイロンメッシュ等の樹脂製のものを用いる方が、不純物混入防止の点で好ましい。
【0061】
蛍光体原料の混合は、蛍光体原料の物性に応じて、上記湿式又は乾式のいずれかを任意に選択すればよい。
また、原料として大気中で不安定な窒化物を用いる場合には、該窒化物が劣化しないように、例えばアルゴンガス、窒素ガス等の不活性気体を充填し、水や酸素の濃度を管理されたグローブボックスでミキサー混合することが好ましい。
【0062】
さらに、混合を行う際、その雰囲気中の水の濃度は、10000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、10ppm以下が更に好ましく、1ppm以下が特に好ましい。また、酸素の濃度は、1%以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、100ppm以下が更に好ましく、10ppm以下が特に好ましい。
[2−3.蛍光体の製造方法:焼成工程]
得られた混合物を焼成することにより、蛍光体を得る。この焼成は、蛍光体原料をルツボ等の容器に充填し、所定温度、雰囲気下で焼成することが好ましい。
【0063】
容器としては、各蛍光体原料との反応性の低い材料からなるルツボ又はトレイ等の耐熱容器を用いることが好ましい。このような焼成時に用いる耐熱容器の材質としては、例えば、アルミナ、石英、窒化ホウ素、窒化珪素、炭化珪素、マグネシウム、ムライト等のセラミックス、白金、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ、イリジウム、ロジウム等の金属、あるいは、それらを主成分とする合金、カーボン(グラファイト)などが挙
げられる。ここで、石英製の耐熱容器は、比較的低温、すなわち、1200℃以下での熱処理に使用することができ、好ましい使用温度範囲は1000℃以下である。
【0064】
このような耐熱容器の例として、好ましくは窒化ホウ素製、アルミナ製、窒化珪素製、炭化珪素製、白金製、モリブデン製、タングステン製、タンタル製の耐熱容器が挙げられ、より好ましくは窒化ホウ素製、アルミナ製、及びモリブデン製のものが挙げられる。中でも窒素−水素混合気体中といった還元雰囲気での焼成では焼成温度域で安定なアルミナ製のものが好ましい。ただし、蛍光体原料の種類によっては、アルミナと反応する場合もあるため、その場合には窒化ホウ素製又はモリブデン製の耐熱容器を使用することが好ましい。
【0065】
なお、蛍光体原料を前記耐熱容器内へ充填する際の充填率(以下、「耐熱容器内充填率」と称する。)は、焼成条件によっても異なるが、後述する後処理工程において焼成物を粉砕しにくくならない程度に充填すれば良く、通常10体積%以上、通常90体積%以下である。また、ルツボに充填された蛍光体原料は蛍光体原料の粒子同士の間に空隙率を有するため、蛍光体原料が充填された体積100ml当たりの蛍光体原料自体の体積としては、通常10ml以上、好ましくは15ml以上、より好ましくは20ml以上であり、また、通常50ml以下、より好ましくは40ml以下、さらに好ましくは30ml以下である。
【0066】
また、一度に処理する蛍光体原料の量を増やしたいときは、昇温速度を減速する等、耐熱容器内に熱が均一に周るようにすることが好ましい。
また、耐熱容器を炉内に充填する際の充填率(以下適宜、「炉内充填率」と称する)は、炉内の耐熱容器間で熱が不均一にならない程度につめることが好ましい。
さらに、上記焼成において、焼成炉中の耐熱容器の数が多い場合には、例えば、上記の昇温速度を遅めにする等、各耐熱容器への熱の伝わり具合を均等にすることが、ムラなく焼成するためには好ましい。
【0067】
またここで、蛍光体原料として金属炭酸塩を用いている場合には、脱離する二酸化炭素により焼成炉が傷まないよう、多段焼成の形式での焼成を行い、一次焼成で少なくとも一部を金属酸化物に変換することが好ましい。
本発明の蛍光体を製造するための焼成温度としては、通常1600℃を超える焼成温度では焼成粉が焼結してしまい発光強度が低くなる場合があるが、1250℃〜1350℃前後の焼成温度では結晶性の良好な粉体が得られる。したがって、通常1150℃以上、より好ましくは1200℃以上の温度であり、また、通常1600℃以下、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1400℃以下の温度である。
【0068】
焼成雰囲気としては特に制限されないが、通常、不活性ガス雰囲気又は還元雰囲気下で行われる。ここで、前述の通り、付活元素の価数としては、2価のものが多い方が好ましいため、還元雰囲気であるのが好ましい。なお、不活性ガス及び還元性ガスは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
不活性ガス及び還元性ガスとしては、例えば、一酸化炭素、水素、窒素、アルゴン、メタン、アンモニア等が挙げられる。このうち、窒素含有雰囲気下であることが好ましく、より好ましくは水素含有窒素雰囲気下である。上記窒素(N)ガスとしては、純度99.9%以上を使用することが好ましい。水素含有窒素を用いる場合、電気炉内の酸素濃度を20ppm以下に下げることが好ましい。さらに、雰囲気中の水素含有量は1体積%以上が好ましく、2体積%以上がさらに好ましく、また、100体積%以下の水素ガスを用いても良いが、10体積%以下が好ましく、5体積%以下がより好ましい。雰囲気中の水素の含有量は、高すぎると安全性が低下する可能性があり、低すぎると十分な還元雰囲気を達成できない可能性があるからである。
【0069】
また、これらの不活性ガス及び還元性ガス流通下で焼成を行う場合には、通常0.1〜10リットル/分の流量の下、焼成が行われる。
また、焼成時間は、焼成時の温度や圧力等によっても異なるが、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上、さらに好ましくは5時間以上である。また、焼成時間は長い方が好ましいが、通常100時間以下、好ましくは50時間以下、より好ましくは30時間以下である。
【0070】
焼成時の圧力は、焼成温度等によっても異なるため特に限定されないが、通常1×10−5Pa以上、好ましくは1×10−3Pa以上、より好ましくは0.01MPa以上、さらに好ましくは0.1MPa以上であり、また、上限としては、通常5GPa以下、好ましくは1GPa以下、より好ましくは200MPa以下、さらに好ましくは100MPa以下である。このうち、工業的には、大気圧〜1MPa程度がコスト及び手間の点で簡便であり好ましく、大気圧より数Pa加圧とすることがさらに好ましい。
【0071】
[2−4.窒化物又は酸窒化物存在下での焼成]
本発明においては、本発明の蛍光体を構成する金属元素を2種以上含有する窒化物又は酸窒化物(以下、「窒化物又は酸窒化物」と称する場合がある。)を含む蛍光体前駆体を焼成する工程を有することが好ましい。即ち、前記窒化物又は酸窒化物の存在下で、焼成工程を1回以上行なうことが好ましい。
【0072】
このようにすると、前記窒化物又は酸窒化物が粒子成長の核となるので、適当なサイズの、綺麗な結晶面を有する蛍光体粒子を得ることができるので好ましい。このようにして得られた蛍光体は、比表面積が小さくなる傾向にあり耐久性向上に効果的である。
前記窒化物又は酸窒化物としては、前記式[I]に登場するM、Ba、M、及びLからなる群から選ばれる2種以上の元素を含有するものであればよい。例えば、BaSi12、BaSi,BaSi、BaSiなどが挙げられる。中でも、M、Ba、M、L、O、及びNを全て含有する窒化物又は酸窒化物であることが好ましく、製造しようとする蛍光体の組成と同一組成を有するものであることがさらに好ましく、製造しようとする蛍光体と同じ結晶相を有する粒子であることが特に好ましい。よって、本発明の(Ba,Eu)Si12蛍光体を合成する
場合は、(Ba,Eu)Si12を使用することが好ましい。なぜなら、製造
しようとする結晶と同一の結晶を核として用いることが、結晶成長の促進に最も効果的であるためである。
【0073】
本発明において用いる前記窒化物又は酸窒化物の量は、通常1重量%以上、好ましくは2重量%以上であり、また、通常、30重量%以下、好ましくは25重量%以下、より好ましくは15重量%以下である。その量が少なすぎると核としての効果が十分発揮されないことがあり、一方、その量が多すぎると、全体としての生産性が低下したり、核が多すぎることで、結晶成長が十分なされず、成長不十分な蛍光体粒子が多く生成したりすることがある。
【0074】
本発明において用いる前記窒化物又は酸窒化物の粒径は任意であるが、添加した粒子を核として粒子成長が起きるので、合成したい蛍光体の粒径よりも小さくすることが好ましい。具体的には、前記窒化物又は酸窒化物の粒径を、目的とする蛍光体の粒径の半分程度とすることが好ましく、0.3倍〜0.8倍程度とすることがより好ましい。例えば、重量メジアン径20μmの蛍光体を得る場合には、重量メジアン径が6μmから16μmとす
ることが好ましく、重量メジアン径が8μm〜10μm程度のものを添加することが好ま
しい。前記窒化物又は酸窒化物の粒径が小さすぎると、得られる蛍光体の粒子が小さくなりすぎたり、また、その微小粒子同士が融着することにより粗大粒子が発生しやすくなっ
たりする場合がある。一方、前記窒化物又は酸窒化物の粒径が大きすぎると、得られる蛍光体の粒径が大きくなりすぎたり、粒径が大きいために比表面積が小さく、核としての効果が小さくなったりする場合がある。ただし、これは、添加する前記窒化物又は酸窒化物の添加量によって、その好ましい粒径も異なるので、適切な組み合わせを選ぶ必要がある。
【0075】
また、前記窒化物又は酸窒化物の粒径分布の四分偏差は、小さい方が好ましい。粒子径が揃っている方が蛍光体の粒子径も揃ったものになりやすく、好ましいからである。なお、四分偏差の測定方法については、後述の通りである。
このように前記窒化物又は酸窒化物を含有する混合物を焼成する場合、前記窒化物又は酸窒化物は、別途合成した蛍光体を粉砕・分級などの処理をしたものであることが好ましい。特に、分級によって除去された微粒子や粗大粒子を利用することが生産性の面でも好ましい。
【0076】
また、このように焼成工程において核となる前記窒化物又は酸窒化物のを添加する方法が有効なのは、結晶成長において、核の成長よりも、核の発生がおきやすい場合である。比較的低い温度で加熱する方法では、微小な核が多量に生成してしまい、目的とする粒子径の蛍光体を得るための好ましい核を含む状態にならないこともある。従って、焼成温度を1200℃以上とすることが好ましい。
【0077】
[2−5.フラックス]
本発明の蛍光体は、その焼成工程において、反応系にフラックスを共存させることを特徴とする。フラックスの種類は特に制限されないが、例としては、NHCl、NHF・HF等のハロゲン化アンモニウム;NaCO、LiCO等のアルカリ金属炭酸塩;LiCl、NaCl、KCl、CsCl、LiF、NaF、KF、CsF、LiI、NaI、KI、CsI等のアルカリ金属ハロゲン化物;CaCl、BaCl、SrCl、CaF、BaF、SrF、CaI、BaI、SrI等のアルカリ土類金属ハロゲン化物;CaO、SrO、BaO等のアルカリ土類金属酸化物;B、HBO、Na、K等のホウ素酸化物、ホウ酸及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属のホウ酸塩化合物;LiPO、NHPO、BaHPO、Zn(PO等のリン酸塩化合物;AlF等のハロゲン化アルミニウム;ZnCl、ZnBr、ZnFといったハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛、ホウ酸亜鉛、リン酸亜鉛等の亜鉛化合物;Bi等の周期表第15族元素化合物;LiN、Ca、Sr、Ba、SrN、BaN、BN等のアルカリ金属、アルカリ土類金属又は第13族元素の窒化物などが挙げられる。このうち好ましくはハロゲン化物であり、この中でも、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、リン酸塩化合物、又はZnのハロゲン化物が好ましい。また、これらのハロゲン化物の中でも、フッ化物、塩化物が好ましい。このうち、より好ましくはアルカリ土類金属又はZnのフッ化物、並びにアルカリ土類金属のリン酸塩である。
【0078】
フラックスの使用量は、蛍光体原料の種類やフラックスの種類等によっても異なるが、各フラックス毎に通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上であり、また、通常20重量%以下、より好ましくは10重量%以下の範囲である。フラックスの使用量が少な過ぎるとフラックスの効果が現れない可能性があり、フラックスの使用量が多過ぎると、フラックス効果が飽和したり、母体結晶に取り込まれて発光色を変化させたり、輝度低下を引き起こしたりする可能性がある。従って、使用するフラックスの種類としても母体結晶を構成する金属元素と同じ元素を含む化合物の方が好ましい。
【0079】
なお、フラックスは一種のみを使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率
で併用してもよい。二種以上を組み合わせて用いる場合、フラックスの使用量は全体で通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下である。また全体で通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。
【0080】
また、フラックスのうち潮解性のあるものについては無水物を用いることが好ましく、蛍光体を多段焼成により製造する場合にはより後段の焼成時にフラックスを用いることが好ましい。
[2−6.多段焼成]
焼成工程において固相反応をより進行させ、結晶性を向上させるために、焼成工程を1段ではなく多段に分割して行なってもよい。例えば、混合工程により得られた原料混合物をまず一次焼成した後(第一の焼成工程)、必要に応じてボールミル等で再度粉砕してから、再度焼成する(第二の焼成工程)という操作を1回以上行う。再度の焼成(第二の焼成工程)は、二次焼成、三次焼成というように何回行うようにしてもよい。この際、一次焼成した焼成物は、その焼成物だけで後段の焼成に導入してもよいし、前述の蛍光体原料の一部を混合焼成したものを粉砕し、そこに残りの原料を混合して焼成するという態様をとることもできる。
【0081】
一次焼成の温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常800℃以上、好ましくは1000℃以上であり、また、通常1600℃以下、好ましくは1400℃以下、より好ましくは1300℃以下の範囲である。
ここで、粒度の揃った蛍光体を得るためには、一次焼成温度を低く設定して粉体状態で固相反応を進めることが好ましい。一方、高輝度の蛍光体を得るためには、一次焼成温度を高く設定して溶融状態で原料が十分に混合して反応した後に二次焼成で結晶成長させることが好ましい。
【0082】
一次焼成の時間は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1時間以上、好ましくは2時間以上であり、また、通常100時間以下、好ましくは50時間以下、より好ましくは24時間以下、さらに好ましくは12時間以下である。
二次焼成以降の焼成における温度、時間等の条件は、基本的に上述の焼成工程の欄に記載した条件と同様である。
【0083】
なお、フラックスは一次焼成の前に混合してもよいし、二次焼成以降の焼成前に混合してもよい。また、雰囲気等の焼成条件も一次焼成と二次焼成以降とで変更してもよい。
このときの焼成条件としては、前述に記載と同様の範囲で適宜選択して行われる。ただし、連続した2つの焼成工程における焼成温度のうち、後段の焼成温度の方を高い温度とする工程を少なくとも1回以上有している方が、蛍光体の結晶成長が促進され、結晶性を高めることが可能になり好ましい。
【0084】
また、粉砕工程は、焼成物が過大である場合にその焼成物を粉砕するために行う。粉砕の方法としては、特に限定されないが、例えば、蛍光体原料の混合工程の説明の項に記載した乾式粉砕方法及び湿式粉砕方法が使用できる。
また、多段階焼成を行う場合、前述の窒化物又は酸窒化物は、どの焼成工程において添加してもよいが、焼成前は目的とする蛍光体になっておらず、焼成後に大部分が目的とする蛍光体になる焼成工程の前に加えるとよい。また、前記窒化物又は酸窒化物は、フラックスと共に加えることが好ましい。
【0085】
また、雰囲気等の焼成条件も、焼成工程ごとで変更してもよい。
さらに、上記焼成において、焼成炉中のルツボの数が多い場合には、例えば、上記の昇温速度を遅めにする等、各ルツボへの熱の伝わり具合を均等にすることが、ムラなく焼成
するためには好ましい。
・蛍光体原料として窒化物を使用した場合の好ましい操作
蛍光体原料として窒化物を用いる場合、原料混合物の固相反応性を高め、不純物相の生成を抑えるため、窒化物を原料混合物中に均一に混合・分散させることが好ましい。これを実現するための具体的手法としては、例えば、予め窒化物以外の蛍光体原料を混合し、焼成し、粉砕したものに対して、窒化物を混合し、焼成させるようにすればよい。また、例えば窒化物を予めジェットミル等の乾式粉砕機で粉砕したものを蛍光体原料として用いるようにした場合、窒化珪素の粉末の表面積が増大することにもなり、窒化物の固相反応性の向上にも寄与するため、特に好適である。なお、これらの例示した方法は、いずれかを単独で行ってもよいが、組み合わせて行うことが好ましい。
【0086】
[2−7.固溶体の形成]
上記式[I]で表される本発明の蛍光体とランガサイトとの固溶体を形成して、式[I’]で表わされる本発明の蛍光体を製造する場合には、まず式[I]で表される蛍光体及びランガサイトを上述の製造方法に従って又は準じてそれぞれ独立に得た後、それらを混合し、焼成を行うことにより固溶体を形成させればよい。また、始めから固溶体を構成する元素を含有する原料粉を目的とする式[I’]の組成にあわせて混合して、それを焼成することで、固溶体を焼成させても良い。
【0087】
[2−8.再加熱工程]
本発明においては、必要に応じて再加熱工程(アニール工程)を設けることが好ましい。
再加熱工程は、焼成工程と後述の後処理工程で得られた蛍光体に対して、焼成温度よりも低い温度で加熱処 理する工程である。蛍光体の耐久性向上のためには、この工程を有
することが好ましい。
【0088】
再加熱工程における加熱処理温度としては、加熱処理時の雰囲気にもよるが、通常1300℃より低く、好ましくは1200℃以下、更に好ましくは1100℃以下であり、また、通常300℃以上、好ましくは400℃以上、より500℃以上、更に好ましくは600℃以上、特に好ましくは700℃以上である。
再加熱工程における加熱処理時の雰囲気は、前記焼成工程の雰囲気と同様であり、還元雰囲気であることが好ましい。具体的には、窒素、アルゴン、窒素と水素の混合ガスが好ましく、窒素と水素の混合ガスとすることが特に好ましい。水素の濃度は、前記焼成工程の場合と同様であり、2体積%〜5体積%とすることが好ましいが、設備が整えば、水素濃度をより高くすることができ、水素100体積%としてもよい。
【0089】
また、雰囲気は、空気や酸素含有窒素等の酸素含有ガスとすることもできる。ただし、この場合、特に温度が高い場合に蛍光体の輝度が低下する傾向にある。よって、酸素含有雰囲気で加熱した後には、還元雰囲気で再度加熱工程を行うとよい。中でも、酸素含有雰囲気下で再加熱工程を行なった後、さらに、水素含有雰囲気下で再加熱工程を行なうことが好ましい。
【0090】
再加熱工程における加熱処理時の雰囲気を、水素を含む雰囲気とすると、以下のような特徴を示す蛍光体が得られるので好ましい(なお、詳細は、後述する)。
1)電子スピン共鳴(ESR)スペクトルにおいて、g=2.0027の位置にあるシグナルの強度が小さくなる。
2)蛍光体を、ヘリウムガス中で室温から1000℃まで加熱したときに発生する二酸化炭素、及び水の発生量が減少する。
【0091】
上記の特徴は、耐久性改善効果と関連するものと考えられる。
再加熱工程における加熱処理時の圧力は焼成工程の項に記載したのと同様のものが挙げられる。
この再加熱工程を有することにより、さらに蛍光体結晶内にあるゆがみや欠陥を減少させ、蛍光体の結晶性を向上させると共に、蛍光体の表面の改質が期待でき、蛍光体の耐久性向上に寄与するものと考えられる。
【0092】
特に、例えばニトリドシリケート、ニトリドアルミノシリケート、オキソニトリドシリケート、オキソニトリドアルミノシリケート及びカルボニトリドアルミノシリケートからなる群より選ばれる酸窒化物蛍光体を製造する際には、焼成温度よりも低い温度で加熱処理をするという、前記の再加熱工程を行うようにすると効果が顕著に発揮されるため、好ましい。
【0093】
[2−7.後処理]
上述の焼成工程の加熱処理後は、必要に応じて、粉砕、洗浄、乾燥、分級処理等がなされる。
〔粉砕処理〕
粉砕処理は、例えば得られた蛍光体が所望の粒径になっていない場合に、焼成物に対して行う。粉砕処理方法としては、特に限定されない。例えば、蛍光体原料の混合工程の説明の項に記載した乾式粉砕方法及び湿式粉砕方法が使用できるが、生成した蛍光体結晶の破壊を抑え、二次粒子の解砕等の目的とする処理を進めるためには、例えば、アルミナ、窒化珪素、ZrO、ガラス等の容器中にこれらと同様の材質又は鉄芯入りウレタン等のボールを入れてボールミル処理を10分〜24時間程度の間で行うのが好ましい。この場合、有機酸やヘキサメタリン酸などのアルカリリン酸塩等の分散剤を0.05〜2重量%用いても良い。
【0094】
〔洗浄処理〕
洗浄処理は、例えば、脱イオン水等の水、エタノール等の有機溶剤、アンモニア水等のアルカリ性水溶液などで行うことができる。また、使用されたフラックス等の蛍光体の表面に付着した不純物相を除去し発光特性を改善するなどの目的のために、例えば、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸;又は、酢酸などの有機酸の水溶液を使用することもできる。この場合、酸性水溶液中で洗浄処理した後に、水で更に洗浄することが好ましい。
【0095】
洗浄の程度としては、洗浄後の蛍光体を重量比で10倍の水に分散後、1時間静置して得られる上澄み液のpHが中性(pH7〜9程度)であることが好ましい。塩基性、又は酸性に偏っていると、後述の液体媒体等と混合するときに液体媒体等に影響を与えてしまう可能性があるためである。
また、上記洗浄の程度は、洗浄後の蛍光体を重量比で10倍の水に分散後、1時間静置して得られる上澄み液の電気電導度でも表すことができる。前記電気伝導度は、発光特性の観点からは低いほど好ましいが、生産性も考慮すると通常10mS/m以下、好ましくは5mS/m以下、より好ましくは1mS/m以下となるまで洗浄処理を繰り返し行なうことが好ましい。
【0096】
電気伝導度の測定方法としては、当該蛍光体の10重量倍の水中で所定時間、例えば10分間撹拌して分散させた後、1時間静置することにより、水よりも比重の重い蛍光体粒子を自然沈降させ、このときの上澄み液の電気伝導度を東亜ディケーケー社製電気伝導度計「EC METER CM−30G」等を用いて測定すればよい。洗浄処理、及び電気伝導度の測定に用いる水としては、特に制限はないが、脱塩水又は蒸留水が好ましい。中でも特に電気伝導度が低いものが好ましく、通常0.0064mS/m以上、また、通常1mS/m以下、好ましくは0.5mS/m以下のものを用いる。なお、電気伝導度の測定は、通常室温(25℃程度)にて行なう。
【0097】
〔分級処理〕
分級処理は、例えば、水篩や水簸処理を行う、あるいは、各種の気流分級機や振動篩など各種の分級機を用いることにより行うことができる。中でも、ナイロンメッシュによる乾式分級や湿式分級と、水簸処理とを組み合わせて用いると、重量メジアン径20μm程度の分散性の良い蛍光体を得ることができる。
【0098】
また、ここで、水篩や水簸処理では、通常、水媒体中に0.1〜10重量%程度の濃度で蛍光体粒子を分散させる、また、蛍光体の変質を抑えるために、水媒体のpHを、通常4以上、好ましくは5以上、また、通常9以下、好ましくは8以下とする。また、上記のような重量メジアン径の蛍光体粒子を得るに際して、水篩及び水簸処理では、例えば50μm以下の粒子を得てから、30μm以下の粒子を得るといった、2段階で処理を行う方が作業効率と収率のバランスの点から好ましい。
【0099】
〔表面処理〕
得られた本発明の蛍光体を用いて、後述の方法で発光装置を製造する際には、耐湿性等の耐候性を一層向上させるために、又は後述する発光装置の蛍光体含有部における樹脂に対する分散性を向上させるために、必要に応じて、蛍光体の表面を異なる物質で被覆する等の表面処理を行っても良い。
【0100】
蛍光体の表面に存在させることのできる物質(以下、適宜「表面処理物質」と称する。)としては、例えば、有機化合物、無機化合物、およびガラス材料などを挙げることができる。
有機化合物としては、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレン等の熱溶融性ポリマー、ラテックス、ポリオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0101】
無機化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ゲルマニウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化硼素、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化イットリウム、酸化ビスマス等の金属酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウム等の金属窒化物;燐酸カルシウム、燐酸バリウム、燐酸ストロンチウム等のオルト燐酸塩;ポリリン酸塩、燐酸ナトリウムと硝酸カルシウムとの組合せのようなアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の燐酸塩とカルシウム塩との組合せ;NHF、KHF等の水溶性フッ化物;硫酸アルミニウム等の水溶性アルミニウム塩等が挙げられる。
【0102】
ガラス材料としては、例えばホウ珪酸塩、ホスホ珪酸塩、アルカリ珪酸塩等が挙げられる。
これらの表面処理物質は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
前記の表面処理により得られる本発明の蛍光体は、表面処理物質の存在が前提であるが、その態様は、例えば下記のものが挙げられる。
【0103】
(i)前記表面処理物質が連続膜を構成して蛍光体の表面を被覆する態様。
(ii)前記表面処理物質が多数の微粒子となって、蛍光体の表面に付着することにより蛍光体の表面を被覆する態様。
蛍光体の表面への表面処理物質の付着量ないし被覆量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、蛍光体の重量に対して、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上であり、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。蛍光体に対する表面処理物質量が多すぎると蛍光体の発光特性が損なわれることがあり、少
なすぎると表面被覆が不完全となって、耐湿性、分散性の改善が見られないことがある。
【0104】
また、表面処理により形成される表面処理物質の膜厚(層厚)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10nm以上、好ましくは50nm以上であり、通常2000nm以下、好ましくは1000nm以下である。この膜厚が厚すぎると蛍光体の発光特性が損なわれることがあり、薄すぎると表面被覆が不完全となって、耐湿性、分散性の改善が見られないことがある。
【0105】
表面処理の方法には特に限定は無いが、例えば下記のような金属酸化物(酸化珪素)による被覆処理法を挙げることができる。
即ち、本発明の蛍光体をエタノール等のアルコール中に混合して、攪拌し、さらにアンモニア水等のアルカリ水溶液を混合して、攪拌する。次に、加水分解可能なアルキル珪酸エステル、例えばテトラエチルオルト珪酸を混合して、攪拌する。得られた溶液を3分間〜60分間静置した後、スポイト等により蛍光体の表面に付着しなかった酸化珪素粒子を含む上澄みを除去する。次いで、アルコール混合、攪拌、静置、上澄み除去を数回繰り返した後、120℃〜150℃で10分〜5時間、例えば2時間の減圧乾燥工程を経て、表面処理蛍光体を得る。
【0106】
蛍光体の表面処理方法としては、この他、例えば球形の酸化珪素微粉を蛍光体に付着させる方法(特開平2−209989号公報、特開平2−233794号公報)、蛍光体に珪素系化合物の皮膜を付着させる方法(特開平3−231987号公報)、蛍光体微粒子の表面をポリマー微粒子で被覆する方法(特開平6−314593号公報)、蛍光体を有機材料、無機材料及びガラス材料等でコーティングする方法(特開2002−223008号公報)、蛍光体の表面を化学気相反応法によって被覆する方法(特開2005−82788号公報)、金属化合物の粒子を付着させる方法(特開2006−28458号公報)等の公知の方法を用いることができる。
【0107】
また、上記処理の他、公知の蛍光体、例えば、ブラウン管、プラズマディスプレイパネル、蛍光ランプ、蛍光表示管、X線増感紙等に用いられる蛍光体に関して一般的に知られている技術を利用することができ、目的、用途等に応じて適宜選択することができる。
[3.酸窒化物蛍光体の特性]
[3−1.電子スピン共鳴(ESR)スペクトルに関する特性]
前記式[I]で表される化学組成を有する結晶相を含有する蛍光体は、通常、ESRスペクトルにおいて、g=2.00±0.02の位置(より正確にはg=2.0027である。)にシグナルを有する。このシグナルの由来は明らかでないが、ESRのシグナルは不対電子に由来するものであり、何らかの結晶欠陥や表面欠陥が関与していると考えられる。
【0108】
前述の製造方法で得られた蛍光体は、このg=2.0027のシグナル強度が小さい傾向にある。即ち、蛍光特性に悪影響を及ぼすと推測される、結晶欠陥に由来するシグナル強度が小さいと考えられる。前述の製造方法の中でも、特に、水素含有雰囲気下で再加熱工程を行なった場合に、特にg=2.0027のシグナル強度が小さくなる傾向にある。
図6は本発明の実施例3〜7の蛍光体のESRスペクトル示したものである。ここで、g=2.0027のシグナル強度(スピン密度)は小さい方が好ましく、シグナル強度は、蛍光体1gあたり3.0×10−9mol/g以下であることが好ましく、1.5×10−9mol/g以下であることが特に好ましく、1.0×10−9mol/g以下であることがさらに好ましく、5×10−10mol/g以下であることが最も好ましい。
【0109】
後述の実施例5〜7のデータで説明すると、再加熱処理を行っていない実施例5は、スピン密度は2.6×10−9mol/g、空気中で再加熱処理を行った実施例6では、ス
ピン密度は3.8×10−9mol/gであったのに対し、水素窒素混合ガス中で再加熱処理を行った実施例7では、スピン密度は3×10−10mol/gだった。これらの結果から、水素を含む雰囲気で再加熱処理することが、g=2.0027に位置するシグナルの原因となる結晶欠陥等の減少に有効でであることがわかる。
【0110】
また、蛍光体を構成する2種以上の金属元素を含有する窒化物又は酸窒化物を用いても、g=2.0027のシグナル強度(スピン密度)が小さくなる傾向にあり、好ましい。
なお、電子スピン共鳴(ESR)スペクトルは、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
[3−2.加熱時の発生ガスに関する特性]
本発明の蛍光体は、加熱によって脱離するガス成分が少ないことが好ましい。具体的には、蛍光体を、ヘリウムガス中で1000℃まで加熱したときに発生する炭酸ガス(二酸化炭素)、及び水蒸気(水)の発生量が少ないことが好ましい。
【0111】
本発明の蛍光体は、ヘリウムガス中で昇温速度10℃/分で、室温から1000℃まで加熱したときに発生する水の重量が、加熱前の蛍光体の通常1000重量ppm以下であり、500重量ppm以下であることが特に好ましく、300重量ppm以下であることが更に好ましい。
また、本発明の蛍光体は、ヘリウムガス中で昇温速度10℃/分で、室温から1000℃まで加熱したときに発生する二酸化炭素の重量が、加熱前の蛍光体の通常500重量ppm以下であり、300重量ppm以下であることが好ましく、100重量ppm以下であることが特に好ましく、50重量ppm以下であることが更に好ましい。
【0112】
水や二酸化炭素などの脱離ガス成分は、発光装置の中で蛍光体を使用した場合に、使用中に脱離して発光装置の特性を低下させてしまうことがある。前述の製造方法で得られた蛍光体は、この脱離ガス成分が少なくなる傾向にあり、中でも、水素を含む雰囲気下で再加熱処理を行った蛍光体は、脱離ガスが特に少なくなる傾向にあり好ましい。
なお、本発明の蛍光体としては、上記[3−1.電子スピン共鳴(ESR)スペクトルに関する特性]に記載の条件を満たすことに加えて、さらに、[3−2.加熱時の発生ガスに関する特性]を満たす蛍光体が特に好ましい。
【0113】
[3−3.発光スペクトルに関する特性]
本発明の蛍光体は、緑色蛍光体としての用途に鑑みて、波長400nmの光で励起した場合における発光スペクトルを測定した場合に、以下の特性を有することが好ましい。
まず、本発明の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおけるピーク波長λ(nm)が525nm付近にあることが好ましく、具体的には、通常500nmより大きく、中でも510nm以上、さらには515nm以上、また、通常550nm以下、中でも545nm以下が好ましく、540nm以下、さらには535nm以下の範囲であることが好ましい。この発光ピーク波長λが短過ぎると青味を帯びる傾向がある一方で、長過ぎると黄味を帯びる傾向があり、何れも緑色光としての特性が低下する可能性がある。
【0114】
また、本発明の蛍光体は、上述の発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅(full width at half maximum。以下適宜「FWHM」と略称する。)が、通常40nmより大きく、中でも50nm以上、更には60nm以上であることが好ましく、また、通常90nm未満、中でも80nm以下、更には75nm以下の範囲であることが好ましい。この半値幅FWHMが狭過ぎると、照明として使用する場合には発光輝度が低下するために演色性が低くなる可能性があり、広過ぎると液晶ディスプレイなどの画像表示装置に使用する場合には色純度が低下するために画像表示装置の色再現範囲が狭くなる可能性がある。
【0115】
なお、本発明の蛍光体を波長400nmの光で励起するには、例えば、GaN系LEDを用いることができる。また、本発明の蛍光体の発光スペクトルの測定、並びにその発光ピーク波長、ピーク相対強度及びピーク半値幅の算出は、例えば、励起光源として150Wキセノンランプを、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)を用いて行うことができる。
【0116】
[3−4.温度特性]
本発明の蛍光体は、温度特性にも優れるものである。具体的には、455nmの波長の光を照射した場合の20℃での発光スペクトル図中の発光ピーク強度値に対する150℃での発光スペクトル図中の発光ピーク強度値の割合が、通常55%以上であり、好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。
【0117】
また、455nmの波長の光を照射した場合の、20℃での発光スペクトル図中の発光ピーク強度値に対する100℃での発光スペクトル図中の発光ピーク強度値の割合が、通常70%以上であり、好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上である。
また、通常の蛍光体は温度上昇と共に発光強度が低下するので、該割合が100%を越えることは考えられにくいが、何らかの理由により100%を超えることがあっても良い。ただし150%を超えるようであれば、温度変化により色ずれを起こす傾向となる。
【0118】
本発明の蛍光体は、上記発光ピーク強度に関してだけでなく、輝度の点からも優れたものである。具体的には、455nmの波長の光を照射した場合の20℃での輝度に対する150℃での輝度の割合も、通常55%以上であり、好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。
また、455nmの波長の光を照射した場合の、20℃での輝度に対する100℃での輝度の割合も、通常70%以上であり、好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上である。
【0119】
本発明の蛍光体は、温度の変化に伴う発光ピーク波長の値の変化も小さい。具体的には、20℃での発光ピーク波長値をλ20とした場合、150℃での発光ピーク波長値が、通常λ20−10nm以上、好ましくはλ20−5nm以上、より好ましくはλ20−3nm以上、また、通常λ20+10nm以下、好ましくはλ20+5nm以下、より好ましくはλ20+3nm以下の範囲にある。
【0120】
また、本発明の蛍光体は、発光色に関してもその変化が小さい。具体的にはJIS Z8701に基づく色度座標値(CIEx、CIEy)として、20℃での色度座標値X及びYをそれぞれX20及びY20とした場合、150℃でのX値が通常X20−0.03以上、通常X20+0.03以下の範囲にあり、150℃でのY値が通常Y20−0.03以上、通常Y20+0.03以下の範囲にある。
【0121】
尚、上記温度特性を測定する場合は、例えば、発光スペクトル装置として大塚電子製MCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置、ペルチェ素子による冷却機構とヒーターによる加熱機構を備えたステージ及び光源として150Wキセノンランプを備える装置を用いて、以下のように測定することができる。ステージに蛍光体サンプルを入れたセルを載せ、温度を20℃から150℃の範囲で変化させる。蛍光体の表面温度が20℃又は150℃で一定となったことを確認する。次いで、光源から回折格子で分光して取り出した波長455nmの光で蛍光体を励起して発光スペクトル測定する。測定された発光スペクトルから発光ピーク強度及び輝度を求める。ここで、蛍光体の励起光照射側の表面温度の測定値は、放射温度計と熱電対による温度測定値を利用して補正した値を用いる。また、発光ピークが2つ以上現われる場合は、そのうちの最大発光ピークの強度が上記条
件を満たすことが好ましい。
【0122】
また、上記色度座標の測定方法としては、発光スペクトルの380nm〜800nm(励起波長340nmの場合)、430nm〜800nm(励起波長400nmの場合)又は480nm〜800nm(励起波長455nmの場合)の波長領域のデータから、JIS Z8724に準じた方法で、JIS Z8701で規定されるXYZ表色系における色度座標CIExとCIEyを算出すればよい。
【0123】
[3−5.励起波長]
本発明の蛍光体は、200nm以上500nm以下の波長範囲の光で励起可能であることが好ましいが、半導体素子等を第1の発光体とし、その光を蛍光体の励起光源として使用する発光装置に好適に用いるためには、例えば、青色領域(波長範囲:420nm以上500nm以下)の光及び/又は近紫外領域(波長範囲:300nm以上420nm以下)の光で励起可能であることが好ましい。
【0124】
さらに、390nmの波長の光を照射した場合の発光スペクトル図中の発光ピーク強度値に対する410nmの波長の光を照射した場合の発光スペクトル図中の発光ピーク強度値の割合が90%以上であることが好ましい。該発光スペクトルは、上述と同様、光源から回折格子で分光して取り出した波長390nm又は410nmの光で蛍光体を励起して測定することができる。測定された発光スペクトルから発光ピーク強度を求める。なお、発光ピークが2つ以上現われる場合は、そのうちの最大発光ピークの強度が上記条件を満たすことが好ましい。
【0125】
[3−6.発光色]
本発明の蛍光体の発光色は、JIS Z8701に基づく色度座標値として、xが、通常0.100以上、好ましくは0.150以上、より好ましくは0.200以上であり、また、通常0.400以下、好ましくは0.380以下、より好ましくは0.360以下、更に好ましくは0.34以下、更には0.3以下、特に好ましくは0.29以下の範囲であることが望ましい。また、yは、通常0.480以上、好ましくは0.490以上、より好ましくは0.495以上、更に好ましくは0.5以上、中でも好ましくは0.55以上、特に好ましくは0.6以上であり、また、通常0.670以下、好ましくは0.660以下、より好ましくは0.655以下の範囲であることが望ましい。本発明の蛍光体は、M元素及びM源素の量を変化させフラックス存在下で焼成することにより、輝度を維持しつつも上記範囲で発光色を変化させることができる。
【0126】
[3−7.溶解性]
本発明の蛍光体は通常は酸等の溶媒に対しても溶けにくい性質を有する。好ましくは、水及び/又は1Nの塩酸に不溶のものである。
[3−8.耐久性]
本発明の蛍光体は、窒素雰囲気下で2時間加熱を行う耐久性試験において、通常1000℃以上、好ましくは1200℃以上、より好ましくは1300℃以上、更に好ましくは1500℃以上、特に好ましくは1700℃以上であっても分解しないものである。
【0127】
さらに、本発明の蛍光体は、上記耐久性に優れる蛍光体である。このため、本発明の蛍光体は長時間使用した場合でもその発光強度が低下し難い性質を有する。具体的な範囲を挙げると、本発明の蛍光体は、気温85℃、相対湿度85%の環境下での耐久性試験において、通常200時間以上、好ましくは500時間以上、より好ましくは600時間以上、特に好ましくは800時間以上安定なものである。この場合、安定である時間は長ければ長い方が好ましいが、通常1000時間もあれば十分である。なお、ここで「安定である」とは、耐久性試験前の発光強度に対する耐久性試験後の発光強度の割合が50%以上
となっていることを言う。該耐久性の測定は、山勝電子工業社のLEDエージングシステムを用いて、気温85℃、相対湿度85%の環境下で、蛍光体をシリコーン樹脂で封止した後述の青色LEDに20mAを通電させることにより行えるが、この他同様の装置を用いても行ってもよい。
【0128】
この中でも、再加熱工程を経て得られた本発明の蛍光体は、この本発明の蛍光体を6重量%の濃度でシリコーン樹脂中に分散させ、、それを用いて後述の青色LEDを封止し、気温85℃、相対湿度85%の環境下、電流密度255mA/mm、発光出力0.25〜0.35W/mmで500時間通電させた後のJIS Z 8701に基づく色度座標CIEy値が、通電前のJIS Z 8701に基づく色度座標CIEy値に対して、通常±30%の範囲内、好ましくは±25%の範囲内、より好ましくは±20の範囲内の値である。
【0129】
また、励起光の照射開始時点の発光に対する、励起光の照射開始から100時間が経過した時点における発光の輝度維持率は、通常83%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。
上記の電流密度及び発光出力の励起光を発生する青色LEDとしては、例えば、C460EZ290(Cree社製、波長範囲455nm〜457.4nm)に20mAを通電し、蛍光体に励起光を照射すればよい。また、このとき蛍光体を分散するシリコーン樹脂としては、信越化学工業社製SCR1101が挙げられる。
【0130】
本発明の蛍光体が、再加熱工程を有することで前記のように優れた耐久性を発揮できる理由は定かではないが、本発明者らの検討によれば、光によって励起された電子がトラップされる格子欠陥の数が減少するためであると推察される。
[3−9.粒径]
本発明の蛍光体は、その重量メジアン径D50が、通常0.01μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、また、通常100μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下の範囲である。重量メジアン径D50が小さすぎると、輝度が低下し、蛍光体粒子が凝集する傾向がある。一方、重量メジアン径D50が大きすぎると、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる傾向がある。
【0131】
また、本発明の蛍光体の粒径分布QD値は、通常0.5以下、好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.25以下であり、通常0.1以上である。
なお、発光効率、吸光効率を高めるために、重量メジアン径D50の異なる複数の蛍光体を混合して用いる時は、混合蛍光体のQDは0.3よりも大きくなる場合がある。
上記重量メジアン径D50とは、頻度基準粒度分布曲線により得られる値である。前記頻度基準粒度分布曲線は、レーザー回折・散乱法により粒度分布を測定し得られるものである。具体的には、分散剤を含む水溶液中に蛍光体を分散させ、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所 LA−300)により、粒径範囲0.1μm〜600μmにて測定し、得られたものである。この頻度基準粒度分布曲線において、積算値が50%のときの粒径値を重量メジアン径D50とする。また、積算値が25%及び75%の時の粒径値をそれぞれD25及びD75と表記する。標準偏差(4分偏差)QD=(D75−D25)/(D75+D25)と定義する。QDが小さいことは粒度分布が狭いことを意味する。
【0132】
さらに、蛍光体粒子のアスペクト比は、走査電子顕微鏡(SEM)により結晶粒子を観察し、蛍光体の長軸方向の長さを長軸と直交する方向で最も厚みのある箇所の長さで割ることで求めることができる。本発明の蛍光体は、少なくとも50個以上の結晶粒子について上記SEM観察を行った際に、アスペクト比が0.5以上1以下という粒子の割合が、
通常50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、特に好ましくは全ての粒子がこの範囲に入るものである。
【0133】
また、通常、蛍光体の粒子は複数の1次粒子が凝集した2次粒子からなっていることが多いが、この1次粒子の平均粒径としては、通常2μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、また通常30μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。
フラックスの存在下で焼成して得られる本発明の蛍光体は、量子効率と粒径のバランスが向上するものであり、具体的には、1次粒径が大きくなり、2次粒子のQ.D.が狭くなるという傾向を有するものである。
【0134】
[3−10.比表面積]
焼成工程において、前記「蛍光体を構成する金属元素を2種以上含有する窒化物または酸窒化物」を用いると、結晶成長が促進され、蛍光体の1次粒子径が大きくなる傾向にある。そして、1次粒子の集合体ではなく、1次粒子が独立した単結晶とみなされる粒子になる傾向にある。
【0135】
このような粒子からなる蛍光体は、輝度が高く、耐久性も高い傾向にあり、好ましい。このような蛍光体は、比表面積が小さい傾向にあり、このことが高い耐久性の原因の一つと考えられる。
比表面積が小さい蛍光体は、劣化しやすい表面が比較的少ない蛍光体であり、高い耐久性が期待できる。本発明の蛍光体の比表面積は、粒径20μmの蛍光体の場合で、おおよ
そ0.1〜1.0m2/g程度であり、この数値が小さい方が比表面積が小さく、耐久性が高くなるので好ましい。従って、比表面積の値は、0.4m/g以下とすることが好ましく、0.3m/g以下とすることがより好ましい。
【0136】
比表面積を小さく方法としては、前記「蛍光体を構成する金属元素を2種以上含有する窒化物または酸窒化物を添加すること、前述の再加熱処理を行うことが挙げられる。走査型電子顕微鏡写真(本明細書において「SEM写真」という場合がある。)から読み取れる特徴は、再加熱処理によって変化しないように思われる。しかし、再加熱工程を行なうと、表面官能基が減少することにより、比表面積が低下する傾向にあり、また、この表面官能基の減少は、耐久性向上に有効であると考えられる。
【0137】
[3−11.量子効率]
本発明の蛍光体は、その内部量子効率が高いほど好ましい。その値は、通常0.5以上、好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.75以上、特に好ましくは0.8以上である。ここで、内部量子効率とは、蛍光体が吸収した励起光の光子数に対する発光した光子数の比率を意味する。内部量子効率が低いと発光効率、即ち外部量子効率が低下する傾向にある。
【0138】
本発明の蛍光体は、その吸収効率も高いほど好ましい。その値は通常0.5以上、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.65以上、更に好ましくは0.7以上である。外部量子効率は内部量子効率と吸収効率との積により求められるものであり、吸収効率が低いと発光効率、即ち外部量子効率が低下する傾向にある。
また、外部量子効率としては、通常0.2以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.35以上、更に好ましくは0.4以上、中でも好ましくは0.45以上、特に好ましくは0.5以上のものである。特に、式[I]においてLの少なくとも一部がSi元素である場合には、原料の窒化珪素として前述の反射率が高い結晶性窒化珪素を用いることにより、外部量子効率は0.35以上とすることも可能である。高発光強度の発光素子を設計するためには、外部量子効率は高いほど好ましい。
【0139】
なお、吸収効率、内部量子効率、及び外部量子効率は、後述の実施例に記載の測定方法で測定することができる。
[4.蛍光体の用途]
本発明の蛍光体は、蛍光体を使用する任意の用途に用いることができるが、特に、青色光又は近紫外光で励起可能であるという特性を生かして、各種の発光装置(後述する「本発明の発光装置」)に好適に用いることができる。組み合わせる蛍光体の種類や使用割合を調整することで、様々な発光色の発光装置を製造することができ、高性能の白色発光装置も実現することができる。こうして得られた発光装置を、画像表示装置の発光部(特に液晶用バックライト等)や照明装置として使用することができる。
【0140】
特に、本発明の緑色蛍光体を用いた場合、青色光を発する励起光源と橙色ないし赤色の蛍光を発する蛍光体(橙色ないし赤色蛍光体)を組み合わせれば、白色発光装置を製造することができる。この場合の発光色は、本発明の蛍光体や組み合わせる橙色ないし赤色蛍光体の発光波長を調整することにより、好みの発光色にすることができるが、例えば、いわゆる擬似白色(例えば、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせた発光装置の発光色)の発光スペクトルと類似した発光スペクトルを得ることもできる。更に、この白色発光装置に赤色の蛍光を発する蛍光体(赤色蛍光体)を組み合わせれば、赤色の演色性に極めて優れた発光装置や電球色(暖かみのある白色)に発光する発光装置を実現することができる。また、近紫外光を発する励起光源に、本発明の蛍光体と、青色の蛍光を発する蛍光体(青色蛍光体)及び赤色蛍光体を組み合わせても、白色発光装置を製造することができる。[5.蛍光体含有組成物]
本発明の蛍光体は、液体媒体と混合して用いることもできる。特に、本発明の蛍光体を発光装置等の用途に使用する場合には、これを液体媒体中に分散させた形態で用い、封止した後、熱や光によって硬化させて用いることが好ましい。本発明の蛍光体を液体媒体中に分散させたものを、適宜「本発明の蛍光体含有組成物」と呼ぶものとする。
【0141】
[5−1.蛍光体]
本発明の蛍光体含有組成物に含有させる本発明の蛍光体の種類に制限は無く、上述したものから任意に選択することができる。また、本発明の蛍光体含有組成物に含有させる本発明の蛍光体は、1種のみであってもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。更に、本発明の蛍光体含有組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限り、本発明の蛍光体以外の蛍光体を含有させてもよい。
【0142】
[5−2.液体媒体]
本発明の蛍光体含有組成物に使用される液体媒体としては、該蛍光体の性能を目的の範囲で損なわない限りにおいて特に限定されない。例えば、所望の使用条件下において液状の性質を示し、本発明の蛍光体を好適に分散させるとともに、好ましくない反応を生じないものであれば、任意の無機系材料及び/又は有機系材料が使用できる。
【0143】
無機系材料としては、例えば、金属アルコキシド、セラミック前駆体ポリマー若しくは金属アルコキシドを含有する溶液をゾル−ゲル法により加水分解重合して成る溶液(例えばシロキサン結合を有する無機系材料)等を挙げることができる。
有機系材料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。具体例を挙げると、ポリメタアクリル酸メチル等のメタアクリル樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;フェノキシ樹脂;ブチラール樹脂;ポリビニルアルコール;エチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース系樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0144】
これらの中で特に照明など大出力の発光装置に本発明の蛍光体を用いる場合には、耐熱性や耐光性等を高めることを目的として、液体媒体として珪素含有化合物を使用することが好ましい。
珪素含有化合物とは、分子中に珪素原子を有する化合物をいい、例えば、ポリオルガノシロキサン等の有機材料(シリコーン系材料)、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素等の無機材料、及びホウケイ酸塩、ホスホケイ酸塩、アルカリケイ酸塩等のガラス材料を挙げることができる。中でも、ハンドリングの容易さ等の点から、シリコーン系材料が好ましい。
【0145】
前記シリコーン系材料とは、通常、シロキサン結合を主鎖とする有機重合体をいい、例えば、縮合型、付加型、改良ゾルゲル型、紫外硬化型などのシリコーン系材料を用いることができる。
なお、縮合型シリコーン系材料としては、例えば、特開2007−112973〜112975号公報、特開2007−19459号公報、特開2008−34833号公報等に記載の半導体発光デバイス用部材を用いることができる。
【0146】
[5−3.液体媒体の含有率]
液体媒体の含有率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の蛍光体含有組成物全体に対して、通常50重量%以上、好ましくは75重量%以上であり、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下である。液体媒体の量が多い場合には特段の問題は起こらないが、半導体発光装置とした場合に所望の色度座標、演色指数、発光効率等を得るには、通常、上記のような配合比率で液体媒体を用いることが望ましい。一方、液体媒体が少な過ぎると流動性がなく取り扱い難くなる可能性がある。
【0147】
液体媒体は、本発明の蛍光体含有組成物において、主にバインダーとしての役割を有する。液体媒体は、一種のみを用いてもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。例えば、耐熱性や耐光性等を目的として珪素含有化合物を使用する場合は、当該珪素含有化合物の耐久性を損なわない程度に、エポキシ樹脂など他の熱硬化性樹脂を含有してもよい。この場合、他の熱硬化性樹脂の含有量は、バインダーである液体媒体全量に対して通常25重量%以下、好ましくは10重量%以下とすることが望ましい。
【0148】
[5−4.その他の成分]
なお、本発明の蛍光体含有組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限り、蛍光体及び液体媒体以外に、その他の成分を含有させてもよい。また、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
[5−5.蛍光体含有組成物の利点]
本発明の蛍光体含有組成物によれば、本発明の蛍光体を所望の位置に容易に固定できる。例えば、本発明の蛍光体含有組成物を発光装置の製造に用いる場合、本発明の蛍光体含有組成物を所望の位置に成形し、液体媒体を硬化させれば、当該液体媒体で本発明の蛍光体を封止することができ、所望の位置に本発明の蛍光体を容易に固定することが可能となる。
[6.発光装置]
本発明の発光装置(以下、適宜「発光装置」という)は、第1の発光体(励起光源)と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを有する発光装置であって、該第2の発光体として本発明の蛍光体を1種以上、第1の蛍光体として含有するものである。
【0149】
本発明の発光装置は、具体的には、第1の発光体として後述するような励起光源を用い、第2の発光体として使用する蛍光体の種類や使用割合を調整し、公知の装置構成を任意にとることにより、任意の色に発光する発光装置を製造することができる。
例えば、青色光を発する励起光源と緑色の蛍光を発する蛍光体(緑色蛍光体)と橙色ないし赤色の蛍光を発する蛍光体(橙色ないし赤色蛍光体)とを組み合わせれば、白色発光装置を製造することができる。この場合の発光色は、本発明の蛍光体や組み合わせる蛍光体の発光波長を調整することにより、好みの発光色にすることができるが、例えば、いわゆる擬似白色(例えば、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせた発光装置の発光色)の発光スペクトルと類似した発光スペクトルを得ることもできる。更に、この白色発光装置に赤色の蛍光を発する蛍光体(赤色蛍光体)を組み合わせれば、赤色の演色性に極めて優れた発光装置や電球色(暖かみのある白色)に発光する発光装置を実現することができる。また、近紫外光を発する励起光源に、青色の蛍光を発する蛍光体(青色蛍光体)、緑色蛍光体及び赤色蛍光体を組み合わせても、白色発光装置を製造することができる。
【0150】
ここで、該白色発光装置の白色とは、JIS Z 8701により規定された、(黄みの)白、(緑みの)白、(青みの)白、(紫みの)白及び白の全てを含む意であり、このうち好ましくは白である。
またさらに、必要に応じて、黄色蛍光体(黄色の蛍光を発する蛍光体)、青色蛍光体、橙色ないし赤色蛍光体、他種の緑色蛍光体等を組み合わせて、蛍光体の種類や使用割合を調整し、任意の色に発光する発光装置を製造することもできる。
【0151】
本発明の蛍光体は、何れか一種のみを使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
本発明の発光装置の発光スペクトルにおける緑色領域の発光ピークとしては、具体的には、好ましくは500nm〜550nmの波長範囲に発光ピークを有するものが挙げられ、赤色領域の発光ピークとしては570nm〜700nmの波長範囲に発光ピークを有するものが好ましく、青色領域の発光ピークとしては420nm〜490nmの波長範囲に発光ピークを有するものが好ましく、黄色領域の発光ピークとしては530nm〜600nmの波長範囲に発光ピークを有するものが好ましい。
【0152】
なお、発光装置の発光スペクトルは、気温25±1℃に保たれた室内において、オーシャン オプティクス社製の色・照度測定ソフトウェア及びUSB2000シリーズ分光器(積分球仕様)を用いて20mA通電して測定を行うことができる。この発光スペクトルの380nm〜780nmの波長領域のデータから、JIS Z8701で規定されるXYZ表色系における色度座標として色度値(x,y,z)を算出できる。この場合、x+y+z=1の関係式が成立する。本明細書においては、前記XYZ表色系をXY表色系と称している場合があり、通常(x,y)で表記している。
【0153】
また、発光効率は、前述のような発光装置を用いた発光スペクトル測定の結果から全光束を求め、そのルーメン(lm)値を消費電力(W)で割ることにより求められる。消費電力は、20mAを通電した状態で、Fluke社のTrue RMS Multimeters Model 187&189を用いて電圧を測定し、電流値と電圧値の積で求められる。
【0154】
また、本発明の発光装置は平均演色評価数(Ra)及び特殊演色評価数R9が、通常80以上のものであり、好ましくは90以上、より好ましくは95以上のものである。
本発明の蛍光体として、励起光源からの光の照射下において、緑色領域の蛍光を発する蛍光体(以下「本発明の緑色蛍光体」と言う場合がある。)を使用する場合には、本発明の発光装置は、近紫外から青色領域までの発光を有する励起光源(第1の発光体)に対して高い発光効率を示し、更には、液晶ディスプレイ用光源等の白色発光装置に使用した場合にディスプレイの色再現範囲が広くなるという点で、優れた発光装置となる。
【0155】
なお、蛍光体の発光スペクトル、色度座標値、その他の各物性値の測定方法としては、
[3.酸窒化物蛍光体の特性]の項で記載したのと同様の方法を用いることができる。
また、本発明の発光装置に用いられる本発明の緑色蛍光体の好ましい具体例としては、前述の[1.酸窒化物蛍光体の組成]などの項に記載した本発明の蛍光体や、後述の[実施例]の項の各実施例に用いた蛍光体が挙げられる。
【0156】
本発明の発光装置は、特に白色発光装置とした場合、そのNTSC比が高いという特徴もある。具体的には、本発明の発光装置のNTSC比(%)は、通常70以上、好ましくは72以上、より好ましくは74以上である。また、NTSC比は、数値が高ければ高いほうが好ましいが、理論的には150以下となるものである。
なお、NTSC比の測定方法は以下の通りである。
【0157】
日本のカラーTVの標準であるNTSC方式では、基準となるR、G、B色度点を、CIE色度座標上のポイント(x,y)で次のように規定している。
R(0.67,0.33)、G(0.21,0.71)、B(0.14,0.08)
このRGBの3点で形成される三角形の面積を100とした時、求めるディスプレイのR、G及びBで形成される三角形の面積、具体的には求めるディスプレイで単色RGBを発光させて色度(x,y)を測定し、CIE色度図上にプロットして得られる三角形の面積をNTSCの標準三角形の面積で割った値に100を掛けた値をNTSC比(%)と定義する。
【0158】
[8−1.発光装置の構成(発光体)]
(第1の発光体)
本発明の発光装置における第1の発光体は、後述する第2の発光体を励起する光を発光するものである。
第1の発光体の発光波長は、後述する第2の発光体の吸収波長と重複するものであれば、特に制限されず、幅広い発光波長領域の発光体を使用することができる。通常は、紫外領域から青色領域までの発光波長を有する発光体が使用され、近紫外領域から青色領域までの発光波長を有する発光体を使用することが特に好ましい。
【0159】
第1の発光体の発光ピーク波長の具体的数値としては、通常200nm以上が望ましい。このうち、近紫外光を励起光として用いる場合には、通常300nm以上、好ましくは330nm以上、より好ましくは360nm以上が望ましく、また、通常420nm以下のピーク発光波長を有する発光体を使用することが望ましい。また、青色光を励起光として用いる場合には、通常420nm以上、好ましくは430nm以上が望ましく、また、通常500nm以下、好ましくは480nm以下のピーク発光波長を有する発光体を使用することが望ましい。何れも、発光装置の色純度の観点からである。
【0160】
第1の発光体としては、一般的には半導体発光素子が用いられ、具体的には発光LEDや半導体レーザーダイオード(semiconductor laser diode。以下、適宜「LD」と略称する。)等が使用できる。その他、第1の発光体として使用できる発光体としては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス発光素子、無機エレクトロルミネッセンス発光素子等が挙げられる。但し、第1の発光体として使用できるものは本明細書に例示されるものに限られない。
【0161】
中でも、第1の発光体としては、GaN系化合物半導体を使用したGaN系LEDやLDが好ましい。なぜなら、GaN系LEDやLDは、この領域の光を発するSiC系LED等に比し、発光出力や外部量子効率が格段に大きく、前記蛍光体と組み合わせることによって、非常に低電力で非常に明るい発光が得られるからである。例えば、20mAの電流負荷に対し、通常GaN系LEDやLDはSiC系の100倍以上の発光強度を有する。GaN系LEDやLDにおいては、AlGaN発光層、GaN発光層又はIn
N発光層を有しているものが好ましい。GaN系LEDにおいては、それらの中でもInGaN発光層を有するものは発光強度が非常に強いので特に好ましく、GaN系LEDにおいては、InGaN層とGaN層の多重量子井戸構造のものが発光強度は非常に強いので特に好ましい。
【0162】
なお、上記においてX+Yの値は通常0.8〜1.2の範囲の値である。GaN系LEDにおいて、これら発光層にZnやSiをドープしたものやドーパント無しのものが発光特性を調節する上で好ましいものである。
GaN系LEDはこれら発光層、p層、n層、電極、及び基板を基本構成要素としたものであり、発光層をn型とp型のAlGaN層、GaN層、又はInGaN層などでサンドイッチにしたヘテロ構造を有しているものが、発光効率が高くて好ましく、更にヘテロ構造を量子井戸構造にしたものが、発光効率が更に高いため、より好ましい。
【0163】
なお、第1の発光体は、1個のみを用いてもよく、2個以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(第2の発光体)
本発明の発光装置における第2の発光体は、上述した第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する発光体であり、第1の蛍光体として前述の本発明の蛍光体(緑色蛍光体)を含有するとともに、その用途等に応じて適宜、後述する第2の蛍光体(赤色蛍光体、青色蛍光体、橙色蛍光体等)を含有する。また、例えば、第2の発光体は、第1及び第2の蛍光体を封止材料中に分散させて構成される。
【0164】
上記第2の発光体中に用いられる、本発明の蛍光体以外の蛍光体の組成には特に制限はない。下表に、好ましい結晶母体の具体例を示す。
【0165】
【表1】

【0166】
但し、上記の結晶母体、付活元素及び共付活元素は、元素組成には特に制限はなく、同族の元素と一部置き換えることもでき、得られた蛍光体は近紫外から可視領域の光を吸収して可視光を発するものであれば用いることが可能である。
具体的には、蛍光体として以下に挙げるものを用いることが可能であるが、これらはあくまでも例示であり、本発明で使用できる蛍光体はこれらに限られるものではない。なお、以下の例示では、前述の通り、構造の一部のみが異なる蛍光体を、適宜省略して示している。
【0167】
(第1の蛍光体)
本発明の発光装置における第2の発光体は、第1の蛍光体として、少なくとも上述の本発明の蛍光体を含有する。本発明の蛍光体は、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。本発明の蛍光体を用いることで、発光装置の発光効率を高めることが可能である。さらに、本発明の蛍光体の優れた特性を利用して、温度上昇に伴う発光効率の低下が少なく、高輝度で色再現範囲の広い発光装置を実現することができる。
【0168】
また、第1の蛍光体としては、本発明の蛍光体以外にも、本発明の蛍光体と同色の蛍光を発する蛍光体(同色併用蛍光体)を用いてもよい。本発明の蛍光体が緑色蛍光体の場合には、第1の蛍光体として、本発明の蛍光体と共に他種の緑色蛍光体を併用することができる。これらの蛍光体としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。
【0169】
(緑色蛍光体)
該緑色蛍光体としては、発光ピーク波長は、通常500nm以上、中でも510nm以上、さらには515nm以上であることが好ましく、また、通常550nm以下、中でも540nm以下、さらには535nm以下の範囲であることが好ましい。この発光ピーク波長λpが短過ぎると青味を帯びる傾向がある一方で、長過ぎると黄味を帯びる傾
向があり、何れも緑色光としての特性が低下する可能性がある。
【0170】
また、緑色蛍光体の発光ピークの半値幅としては、通常40〜80nmの範囲である。
また、緑色蛍光体は、外部量子効率が、通常60%以上、好ましくは70%以上のものである。同色併用蛍光体として用いることのできる具体例を下記表2及び表3に示す。
【0171】
【表2】

【0172】
【表3】

【0173】
以上例示した緑色蛍光体は、何れか一種のみを使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(第2の蛍光体)
本発明の発光装置における第2の発光体は、その用途に応じて、上述の第1の蛍光体以外にも蛍光体(即ち、第2の蛍光体)を含有していてもよい。この第2の蛍光体は、第1の蛍光体とは発光ピーク波長が異なる蛍光体である。通常、これらの第2の蛍光体は、第2の発光体の発光の色調を調節するために使用されるため、第2の蛍光体としては第1の蛍光体とは異なる色の蛍光を発する蛍光体を使用することが多い。
【0174】
上記のように、第1の蛍光体として緑色蛍光体を使用する場合には、第2の蛍光体としては、例えば橙色ないし赤色蛍光体、青色蛍光体、黄色蛍光体等の緑色蛍光体以外の蛍光体を用いる。該橙色ないし赤色蛍光体、青色蛍光体及び黄色蛍光体の具体例を以下に挙げる。
本発明の発光装置に使用される第2の蛍光体の重量メジアン径は、通常10μm以上、中でも12μm以上が好ましく、また、通常30μm以下、中でも25μm以下の範囲であることが好ましい。重量メジアン径が小さ過ぎると、輝度が低下し、蛍光体粒子が凝集
してしまう傾向がある。一方、重量メジアン径が大き過ぎると、塗布ムラやディスペンサー等の閉塞が生じる傾向がある。
【0175】
(橙色ないし赤色蛍光体)
第2の蛍光体として橙色ないし赤色蛍光体を使用する場合、当該橙色ないし赤色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、橙色ないし赤色蛍光体の発光ピーク波長は、通常570nm以上、好ましくは580nm以上、より好ましくは585nm以上、また、通常700nm以下、好ましくは680nm以下の波長範囲にあることが好適である。
【0176】
このような橙色ないし赤色蛍光体として使用できる蛍光体を下表に示す。
【0177】
【表4】

【0178】
【表5】

【0179】
以上の中でも、赤色蛍光体としては、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Eu、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr)S:Eu、(La,Y)S:Eu、KSiF:Mn又はEu錯体を含むことが好ましく、より好ま
しくは(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Eu、(Sr,Ba)SiO:Eu、(Ca,Sr)S:Eu、、KSiF:Mn又は(La,Y)S:Eu、もしくはEu(ジベンゾイルメタン)・1,10−フェナントロリン錯体等のβ−ジケトン系Eu錯体又はカルボン酸系Eu錯体を含むことが好ましく、(Ca,Sr,Ba)Si(N,O):Eu、(Sr,Ca)AlSi(N,O):Eu又は(La,Y)S:Eu、KSiF:Mnが特に好ましい。
【0180】
また、以上例示の中でも、橙色蛍光体としては(Ca,Sr,Ba)AlSi(N,O):Ce、(Sr,Ba)SiO:Euが好ましい。
なお、橙色ないし赤色蛍光体は、1種のみを用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(青色蛍光体)
第2の蛍光体として青色蛍光体を使用する場合、当該青色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、青色蛍光体の発光ピーク波長は、通常420nm以上、好ましくは430nm以上、より好ましくは440nm以上、また、通常490nm以下、好ましくは480nm以下、より好ましくは470nm以下、更に好ましくは460nm以下の波長範囲にあることが好適である。
【0181】
また、青色蛍光体の発光ピークの半値幅としては、通常20〜80nmの範囲である。
また、青色蛍光体は、外部量子効率が、通常60%以上、好ましくは70%以上のものである。
このような青色蛍光体として利用できる蛍光体を下表に示す。
【0182】
【表6】

【0183】
【表7】

【0184】
以上の例示の中でも、青色蛍光体としては、(Ca,Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu又は(Ba,Ca,Mg,Sr)SiO:Euを含むことが好ましく、(Ca,Sr,Ba)MgAl1017:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO(Cl,F):Eu又は(Ba,Ca,Sr)MgSi:Euを含むことがより好ましく、BaMgAl1017:Eu、Sr10(PO(Cl,F):Eu又はBaMgSi:Euを含むことがより好ましい。また、このうち照明用途及びディスプレイ用途としては(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POCl:Eu又は(Ca,Sr,Ba)MgAl1017:Euが特に好ましい。
【0185】
なお、青色蛍光体は、1種のみを用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(黄色蛍光体)
第2の蛍光体として黄色蛍光体を使用する場合、当該黄色蛍光体は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを使用することができる。この際、黄色蛍光体の発光ピーク波長は、通常530nm以上、好ましくは540nm以上、より好ましくは550nm以上、また、通常600nm以下、好ましくは580nm以下の波長範囲にあることが好適である。
【0186】
また、黄色蛍光体の発光ピークの半値幅としては、通常60nm〜200nmの範囲である。また、黄色蛍光体は、外部量子効率が、通常60%以上、好ましくは70%以上のものである。
このような黄色蛍光体としては、各種の酸化物系、窒化物系、酸窒化物系、硫化物系、酸硫化物系等の蛍光体が挙げられるが、代表的なものは下表に示す蛍光体である。
【0187】
【表8】

【0188】
この中では特に、ガーネット構造を有するガーネット系蛍光体、オルソシリケート系蛍光体が好ましい。 なお、黄色蛍光体は、1種のみを用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(第2の蛍光体の組み合わせ)
上記第2の蛍光体としては、1種類の蛍光体のみを使用してもよく、2種以上の蛍光体を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、第1の蛍光体と第2の蛍光体との比率も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。従って、第2の蛍光体の使用量、並びに、第2の蛍光体として用いる蛍光体の組み合わせ及びその比率等は、発光装置の用途等に応じて任意に設定すればよい。
【0189】
また、本発明の蛍光体は、他の蛍光体と混合(ここで、混合とは、必ずしも蛍光体同士が混ざり合っている必要はなく、異種の蛍光体が組み合わされていることを意味する。)して用いることができる。特に、上記に記載の組み合わせで蛍光体を混合すると、好ましい蛍光体混合物が得られる。なお、混合する蛍光体の種類やその割合に特に制限はない。
本発明の発光装置において、以上説明した第2の蛍光体の使用の有無及びその種類は、発光装置の用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、本発明の発光装置を緑色発光の発光装置として構成する場合には、第1の蛍光体として緑色蛍光体のみを使用すればよく、第2の蛍光体の使用は通常は不要である。
【0190】
一方、本発明の発光装置を第1の蛍光体として緑色蛍光体を用い、白色発光の発光装置
として構成する場合には、第1の発光体と、第1の蛍光体と、第2の蛍光体との好ましい組み合わせの具体例としては、以下の(i)〜(iii)の組み合わせが挙げられる。
(i)第1の発光体として青色発光体(青色LED等)を使用し、第1の蛍光体として緑色蛍光体(本発明の蛍光体等)を使用し、第2の蛍光体として赤色蛍光体を使用する。この場合、赤色蛍光体としては、KSiF:Mn及び(Sr,Ca)AlSi(N,O):Euからなる群より選ばれる一種又は二種以上の赤色蛍光体が好ましい。
【0191】
(ii)第1の発光体として近紫外発光体(近紫外LED等)を使用し、第1の蛍光体として緑色蛍光体(本発明の蛍光体等)を使用し、第2の蛍光体として青色蛍光体及び赤色蛍光体を併用する。この場合、青色蛍光体としては、(Ba,Sr,Ca)MgAl1017:Eu及び(Mg,Ca,Sr,Ba)(PO(Cl,F):Euからなる
群より選ばれる一種又は二種以上の青色蛍光体が好ましい。また、赤色蛍光体としては、(Sr,Ca)AlSiN:Eu及びLaS:Euからなる群より選ばれる一種又は二種以上の赤色蛍光体が好ましい。中でも、近紫外LEDと、本発明の蛍光体と、青色蛍光体としてBaMgAl1017:Euと、赤色蛍光体として(Sr,Ca)AlSi(N,O):Euとを組み合わせて用いることが好ましい。
【0192】
なお、上記のような場合、青色蛍光体から発せられる青色光によって他色の蛍光体を励起することができ、このような場合は赤色蛍光体として、上記に例示した赤色蛍光体に代えて、KSiF:Mnを用いることが好ましい。
(iii)第1の発光体として青色発光体(青色LED等)を使用し、第1の蛍光体とし
て緑色蛍光体(本発明の蛍光体等)を使用し、第2の蛍光体として橙色蛍光体を使用する。
【0193】
この場合、橙色蛍光体としては(Sr,Ca)AlSi(N,O):Ce、及び(Sr,Ba)SiO:Euからなる群より選ばれる一種又は二種以上の橙色蛍光体が好ましい。
(封止材料)
本発明の発光装置において、上記第1及び/又は第2の蛍光体は、通常、封止材料である液体媒体に分散させて用いられる。該液体媒体としては、前述の[7.蛍光体含有組成物]の項で記載したのと同様のものが挙げられる。
【0194】
また、該液体媒体は、封止部材の屈折率を調整するために、高い屈折率を有する金属酸化物となり得る金属元素を含有させることができる。高い屈折率を有する金属酸化物を与える金属元素の例としては、Si、Al、Zr、Ti、Y、Nb、B等が挙げられる。これらの金属元素は1種のみで使用されてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で併用されてもよい。
【0195】
このような金属元素の存在形態は、封止部材の透明度を損なわなければ特に限定されず、例えば、メタロキサン結合として均一なガラス層を形成していても、封止部材中に粒子状で存在していてもよい。粒子状で存在している場合、その粒子内部の構造はアモルファス状であっても結晶構造であってもよいが、高屈折率を与えるためには結晶構造であることが好ましい。また、その粒子径は、封止部材の透明度を損なわないために、通常は、半導体発光素子の発光波長以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。例えばシリコーン系材料に、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化イットリウム、酸化ニオブ等の粒子を混合することにより、上記の金属元素を封止部材中に粒子状で存在させることができる。
【0196】
また、上記液体媒体としては、更に、拡散剤、フィラー、粘度調整剤、紫外線吸収剤等
公知の添加剤を含有していてもよい。なお、これらの添加剤は、1種のみを用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
[8−2.発光装置の構成(その他)]
本発明の発光装置は、上述の第1の発光体及び第2の発光体を備えていれば、そのほかの構成は特に制限されないが、通常は、適当なフレーム上に上述の第1の発光体及び第2の発光体を配置してなる。この際、第1の発光体の発光によって第2の発光体が励起されて(即ち、第1及び第2の蛍光体が励起されて)発光を生じ、且つ、この第1の発光体の発光及び/又は第2の発光体の発光が、外部に取り出されるように配置されることになる。この場合、第1の蛍光体と第2の蛍光体とは必ずしも同一の層中に混合されなくてもよく、例えば、第1の蛍光体を含有する層の上に第2の蛍光体を含有する層が積層する等、蛍光体の発色毎に別々の層に蛍光体を含有するようにしてもよい。
【0197】
また、本発明の発光装置では、上述の励起光源(第1の発光体)、蛍光体(第2の発光体)及びフレーム以外の部材を用いてもよい。その例としては、前述の封止材料が挙げられる。該封止材料は、発光装置において、蛍光体(第2の発光体)を分散させる目的以外にも、励起光源(第1の発光体)、蛍光体(第2の発光体)及びフレーム間を接着する目的で用いたりすることができる。
【0198】
[8−3.発光装置の実施形態]
以下、本発明の発光装置について、具体的な実施の形態を挙げて、より詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
本発明の発光装置の一例における、励起光源となる第1の発光体と、蛍光体を有する蛍光体含有部として構成された第2の発光体との位置関係を示す模式的斜視図を図1に示す。図1中の符号1は蛍光体含有部(第2の発光体)、符号2は励起光源(第1の発光体)としての面発光型GaN系LD、符号3は基板を表す。相互に接触した状態をつくるために、LD(2)と蛍光体含有部(第2の発光体)(1)とそれぞれ別個に作製し、それらの面同士を接着剤やその他の手段によって接触させてもよいし、LD(2)の発光面上に蛍光体含有部(第2の発光体)を製膜(成型)させてもよい。これらの結果、LD(2)と蛍光体含有部(第2の発光体)(1)とを接触した状態とすることができる。
【0199】
このような装置構成をとった場合には、励起光源(第1の発光体)からの光が蛍光体含有部(第2の発光体)の膜面で反射されて外にしみ出るという光量損失を避けることができるので、装置全体の発光効率を良くすることができる。
図2(a)は、一般的に砲弾型と言われる形態の発光装置の代表例であり、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。該発光装置(4)において、符号5はマウントリード、符号6はインナーリード、符号7は励起光源(第1の発光体)、符号8は蛍光体含有樹脂部、符号9は導電性ワイヤ、符号10はモールド部材をそれぞれ指す。
【0200】
また、図2(b)は、表面実装型と言われる形態の発光装置の代表例であり、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。図中、符号22は励起光源(第1の発光体)、符号23は蛍光体含有部(第2の発光体)としての蛍光体含有樹脂部、符号24はフレーム、符号25は導電性ワイヤ、符号26及び符号27は電極をそれぞれ指す。
【0201】
[8−4.発光装置の用途]
本発明の発光装置の用途は特に制限されず、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能であるが、色再現範囲が広く、且つ、演色性も高いことから、中でも照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いられる。
[8−4−1.照明装置]
本発明の発光装置を照明装置に適用する場合には、前述のような発光装置を公知の照明装置に適宜組み込んで用いればよい。例えば、図3に示されるような、前述の発光装置(4)を組み込んだ面発光照明装置(11)を挙げることができる。
【0202】
図3は、本発明の照明装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。この図3に示すように、該面発光照明装置は、内面を白色の平滑面等の光不透過性とした方形の保持ケース(12)の底面に、多数の発光装置(13)(前述の発光装置(4)に相当)を、その外側に発光装置(13)の駆動のための電源及び回路等(図示せず。)を設けて配置し、保持ケース(12)の蓋部に相当する箇所に、乳白色としたアクリル板等の拡散板(14)を発光の均一化のために固定してなる。
【0203】
そして、面発光照明装置(11)を駆動して、発光装置(13)の励起光源(第1の発光体)に電圧を印加することにより光を発光させ、その発光の一部を、蛍光体含有部(第2の発光体)としての蛍光体含有樹脂部における前記蛍光体が吸収し、可視光を発光し、一方、蛍光体に吸収されなかった青色光等との混色により演色性の高い発光が得られ、この光が拡散板(14)を透過して、図面上方に出射され、保持ケース(12)の拡散板(14)面内において均一な明るさの照明光が得られることとなる。
【0204】
[8−4−2.画像表示装置]
本発明の発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合には、その画像表示装置の具体的構成に制限は無いが、カラーフィルターとともに用いることが好ましい。例えば、画像表示装置として、カラー液晶表示素子を利用したカラー画像表示装置とする場合は、上記発光装置をバックライトとし、液晶を利用した光シャッターと赤、緑、青の画素を有するカラーフィルターとを組み合わせることにより画像表示装置を形成することができる。
【0205】
このときのカラーフィルター透過後の光による色再現範囲としては、NTSC比で、通常60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは100%以上であり、通常150%以下である。
また、カラーフィルター全体からの透過光の量に対する、各カラーフィルターからの透過光の量(光の利用効率)としては、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは28%以上、さらに好ましくは30%以上である。利用効率は高ければ高いほど好ましいが、赤、緑及び青の3つのフィルターを用いている関係上、通常33%以下となる。
【実施例】
【0206】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
[1.蛍光体の測定評価方法]
後述の各実施例、比較例及び参考例において、蛍光体粒子の各種の評価は、特に断りの無い限り、以下の手法で行った。
【0207】
[発光スペクトルの測定方法]
発光スペクトルは、励起光源として150Wキセノンランプを備え、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)を用いて測定した。励起光源からの光を焦点距離が10cmである回折格子分光器に通し、波長455nmの励起光のみを光ファイバーを通じて蛍光体に照射した。励起光の照射により蛍光体から発生した光を焦点距離が25cmである回折格子分光器により分光し、300nm以上800nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置により各波長の発光強度を測定し、パーソナルコンピュータによる感度補正等
の信号処理を経て発光スペクトルを得た。
【0208】
[発光ピーク波長、色度座標、発光ピーク強度、輝度の測定方法]
発光ピーク波長は、得られた発光スペクトルから読み取った。色度座標x、及びy(以下、それぞれCIEx、CIEyと記す場合がある。)は、JIS Z8701で規定されるXYZ表色系における色度座標であり、480nm〜800nmの波長領域のデータから、JIS Z8724に準じた方法で算出した。
【0209】
発光ピーク強度は、発光スペクトルから読み取ったピーク強度を化成オプトニクス社製LP−B4の波長365nm励起時のピーク強度を基準値100とした相対値で表した。
また、輝度は以下のように算出した。色度座標の算出の際に計算されるXYZ表色系の刺激値Yを求めた。化成オプトニクス社製黄色蛍光体P46−Y3の波長455nm励起時の刺激値Yを前記の方法で算出し、P46−Y3のY値を100とした場合の、蛍光体のY値の相対値を輝度とした。
【0210】
[励起スペクトルの測定方法]
日立製作所製蛍光分光光度計F−4500を使用し、モニター波長をその蛍光体の発光ピーク波長に合わせ、励起波長を走査し、励起スペクトルを得た。
[温度消光特性(発光強度維持率)]
発光スペクトル測定装置として大塚電子製MCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置、ペルチエ素子による冷却機構とヒーターによる加熱機構を備えたステージ、及び光源として150Wキセノンランプを備える装置を使用して測定した。
【0211】
ステージに蛍光体サンプルを入れたセルを載せ、温度を20℃から175℃の範囲で変化させた。すなわち、蛍光体の表面温度が20℃、25℃、50℃、75℃、100℃、125℃、150℃又は175℃で一定となったことを確認してから、各温度において、光源から回折格子で分光して取り出した波長455nmの光で蛍光体を励起して発光スペクトルを測定した。測定された発光スペクトルから発光ピーク強度を求め、各温度における該発光ピーク強度値を20℃における発光ピーク強度値を100とした場合の割合で計算した。
【0212】
なお、励起光照射側の蛍光体の表面温度の測定値は、放射温度計と熱電対による温度測定値を利用して補正した値を用いた。
[内部量子効率、外部量子効率、及び吸収効率]
以下のようにして、蛍光体の吸収効率α、内部量子効率η、及び、外部量子効率効率η、を求めた。
【0213】
まず、測定対象となる蛍光体サンプルを、測定精度が保たれるように、十分に表面を平滑にしてセルに詰め、積分球に取り付けた。
この積分球に、蛍光体を励起するための発光光源(150WのXeランプ)から光ファイバーを用いて光を導入した。前記の発光光源からの光の発光ピーク波長を455nmの単色光となるようにモノクロメーター(回折格子分光器)等を用いて調整した。この単色光を励起光として、測定対象の蛍光体サンプルに照射し、分光測定装置(大塚電子株式会社製MCPD7000)を用いて、蛍光体サンプルの発光(蛍光)および反射光についてスペクトルを測定した。積分球内の光は、光ファイバーを用いて分光測定装置に導いた。
【0214】
吸収効率αは、蛍光体サンプルによって吸収された励起光のフォトン数Nabsを励起光の全フォトン数Nで割った値である。
まず、後者の励起光の全フォトン数Nは、下記(式A)で求められる数値に比例する。そこで、励起光に対してほぼ100%の反射率Rを持つ反射板であるLabsphere
製「Spectralon」(波長450nmの励起光に対して99%の反射率Rを持つ。)を、測定対象として、蛍光体サンプルと同様の配置で上述の積分球に取り付け、励起光を照射し、分光測定装置で測定することにより反射スペクトルIref(λ)を測定し、下記(式A)の値を求めた。
【0215】
【数1】

【0216】
ここで、積分区間は、410nm〜480nmとした。
蛍光体サンプルによって吸収された励起光のフォトン数Nabsは下記(式B)で求められる量に比例する。
【0217】
【数2】

【0218】
そこで、吸収効率αを求める対象としている蛍光体サンプルを取り付けたときの、反射スペクトルI(λ)を求めた。(式B)の積分範囲は(式A)で定めた積分範囲と同じにした。実際のスペクトル測定値は、一般にはλに関するある有限のバンド幅で区切ったデジタルデータとして得られるため、(式A)および(式B)の積分は、そのバンド幅に基づいた和分によって求めた。
【0219】
以上より、α=Nabs/N=(式B)/(式A)を計算した。
次に、内部量子効率ηを以下のようにして求めた。内部量子効率ηは、蛍光現象に由来するフォトンの数NPLを蛍光体サンプルが吸収したフォトンの数Nabsで割った値である。
ここで、NPLは、下記(式C)で求められる量に比例する。そこで、下記(式C)で求められる量を求めた。
【0220】
【数3】

【0221】
積分区間は、481nm〜800nmとした。
以上により、η=(式C)/(式B)を計算し、内部量子効率ηiを求めた。
なお、デジタルデータとなったスペクトルから積分を行うことに関しては、吸収効率αを求めた場合と同様に行った。
そして、上記のようにして求めた吸収効率αと内部量子効率ηの積をとることで外部量子効率ηを求めた。
【0222】
〔反射率〕
反射率の測定方法としては、通常の反射スペクトルの測定方法に準じて行えばよいが、具体的には、以下のような方法で行った。
即ち、測定対象となる蛍光体粉末を、測定精度が保たれるように、十分に表面を平滑にしてセルに詰め、積分球に取り付けた。この試料にXeランプの光を照射し、得られる反射光のスペクトルを分光測定装置(大塚電子株式会社製MCPD7000)を用いて測定
した。ここで得られたスペクトルをもとに、光源の光に対しての反射率が判明している物質Labsphere製「Spectralon」(波長700nmの光に対して99%の反射率を持つ)の反射率に基づいて補正を行い、反射率を求めた。本発明の実施例においては、700nmの反射率を代表値として示す。
【0223】
[重量メジアン径]
堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−300を用いて、分散媒として水を使用して測定した。
[比表面積]
全自動比表面積測定装置(流動法、大倉理研製、モデル:AMS1000A)を使用し、連続流動BET1点法により測定を実施した。
【0224】
[粉末X線回折測定]
粉末X線回折はPANalytical製粉末X線回折装置X’Pertにて精密測定した。測定条件は以下の通りである。
CuKα管球使用
X線出力=45kV,40mA
発散スリット=可変(照射幅10mm)
検出器=半導体アレイ検出器X’Celerator使用、Niフィルター使用
走査範囲 2θ=10〜65度
読み込み幅=0.0167度
計数時間=10秒
[LED耐久性試験]
図2(b)を参照して説明する。第1の発光体(22)として、青色発光ダイオード(C460EZ290:cree社製)を用い、フレームの凹部の底の電極(27)に接着剤として銀ペーストを用いてダイボンディングした。150℃で2時間加熱し、銀ペーストを硬化させた後、青色LED(22)とフレーム(24)の電極(26)とをワイヤボンディングした。ワイヤとしては直径25μmの金線を用いた。
【0225】
150℃で2時間乾燥させた各蛍光体0.08gに対し、シリコーン樹脂(SCR1011:信越化学工業社製)1.415gを混合して蛍光体スラリーを作製した。該スラリーをフレームの凹部に注入し、70℃で1時間、さらに150℃で5時間加熱して硬化させ蛍光体含有部(23)を形成し、表面実装型緑色発光装置を作製した。
得られた発光装置に対して、温度85℃、湿度85%の環境下で、青色LEDに20mAを通電して駆動し発光させた。緑色に対する影響の高い色度座標であるCIEy値を、室温25℃にて50時間毎に測定し、通電開始直後の値を100としたときの割合をCIEy保持率として求めた。
【0226】
[電子スピン共鳴(ESR)の測定方法]
蛍光体試料600mgを直径5mmの石英試料管に充填し、電子スピン共鳴測定装置JEOL社製FA300型を用いて測定した。測定条件は以下の通りとした。
中心磁場:323mT
掃引磁場幅:±10mT
磁場変調:10kHz
レスポンス:0.1秒
磁場掃引時間:2分
マイクロ波出力:0.1mW
なお、得られたシグナルのg値算出、及び磁場幅補正には、Mn2+を使用した。また、スピン密度測定(ラジカル定量)のための標準試料として、ポリスチレンマトリックスに、2,2,6,6―テトラメチルピペリジン−1−オキシル(略称:TEMPO)を分
散させたものを用いた。
【0227】
[加熱時発生ガス分析の測定]
加熱・分解炉に、蛍光体試料を100mg入れ、ヘリウムガスを60ml/分の流量で流通しながら、室温から1000℃まで蛍光体試料を加熱した。加熱中、炉を通過して蛍光体から発生したガスを含むヘリウムガスを質量分析計(Agilent社製 5973N型)に収集し、蛍光体試料から発生したガスの種類(質量数)、及びその量を測定した。質量分析計のイオン化法はEI法(Elcectron Ionization)で行い、電子エネルギーを70eVとした。
【0228】
なお、加熱分解炉と質量分析計をつなぐ配管は250℃に加熱した。発生ガス量は、あらかじめ測定した検量線をもとに算出した。
[2.使用原料]
蛍光体原料は特に断りの無い限り、下記の製品を使用した。
BaCO(白辰化学研究所製)
SiO(龍森製)
SrCO(白辰化学研究所製)
Eu(信越化学製)
BaF(白辰化学研究所製)
ZnF・4HO(和光純薬製 純度99%)
BaI(STREM CHEMICALS製、純度97%)
BaHPO(白辰化学研究所製、Phosphor Grade)
BaCl(白辰化学研究所製)
また、β−Siについては、以下のような熱処理を行なったものを用いた。
【0229】
熱処理1: 宇部興産製Si3N4(SN−E10)を、圧力0.92MPa、窒素雰囲
気下にて、2000℃で4時間加熱した。次いで、得られた焼成物を粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。なお、以下、「熱処理1を行なったSi
」と称する場合がある。
熱処理2: 宇部興産製Si3N4(SN−E10)と、龍森製SiOとを、100対
3の重量比で良く混合した後に、圧力0.92MPa、窒素雰囲気下にて2000℃で4時間加熱した。次いで、得られた焼成物を粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュ
を通過させた。なお、以下、「熱処理2を行なったSi」と称する場合がある。
【0230】
[3.蛍光体の製造、及びその評価]
[比較例1]
(酸化物焼成)
BaとEuとSiの比率が2.7:0.3:4.5となるように、蛍光体原料としてBaCO3(293g)、SiO2(149g)及びEu23(29g)を十分に攪拌混合した後、アルミナるつぼに充填した。これを温度調節器つき抵抗加熱式電気炉内に置き、大気圧の大気雰囲気下、昇温速度4℃/分で1100℃まで加熱し、その温度で6時間保持した後、室温まで放冷した。得られた試料をアルミナ乳鉢で粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0231】
(一次焼成)
上記で得られた焼成粉(177g)と、熱処理1を行ったSi34(34g)とを十分に攪拌混合を行った後、一次焼成として、アルミナるつぼに充填し、これを大気圧下、水素含有窒素雰囲気(窒素:水素=96:4(体積比)、以下、「96体積%+水素4体積%の混合ガス」と称する場合がある。)3リットル/分の流通下で1170℃まで加熱し、その温度で6時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉をアルミナ乳鉢で粉
砕し、目開き77μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0232】
(二次焼成)
上記一次焼成で得られた焼成粉200gと、フラックスとしてBaF2(3g)と、B
aHPO4(6g)とを十分に攪拌混合を行った後、モリブデン内張付きアルミナるつぼ
に充填し、二次焼成と して大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3リッ
トル/分での流通下で1320℃まで加熱し、その温度で20時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉をアルミナ乳鉢で粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0233】
(三次焼成)
上記二次焼成で得られた試料(200g)と、フラックスとしてBaF2(4g) と、BaCl2(20g) と、BaHPO4(10g)とを十分に攪拌混合を行った後、アル ミナるつぼに充填し、三次焼成として大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3リットル/分での流通下で1170℃まで加熱し、その温度で6時間保持したあと室温まで放冷した。
【0234】
得られた焼成粉を、ガラスビーズを用いてスラリー化して分散を行い、1N塩酸で洗浄処理を行い、分級処理(水簸分級による微細粒子除去とナイロンメッシュ通過による粗大粒子除去)を行った後、脱水、乾燥し、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させることにより重量メジアン径約20μmの蛍光体を得た。この蛍光体の比表面積は0.53
/gだった。
【0235】
得られた蛍光体について、前述の測定方法によりその評価を行ない、その発光特性とLED耐久試験の結果を表9に示す。
また、本比較例の蛍光体のg=2.0027の位置に検出される電子スピン共鳴(ESR)のスピ
ン密度は、4.4×10-9mol/gだった。
[実施例1]
比較例1で得られた蛍光体10gをアルミナボートに入れ、大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス0.5リットル/分での流通下で1000℃まで加熱し、その温度で10時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉は、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させた。この蛍光体の比表面積は0.33m/gだった。
【0236】
得られた蛍光体について、前述の測定方法によりその評価を行ない、その発光特性とLED耐久試験の結果を表9に示す。
この蛍光体のg=2.0027の位置に検出される電子スピン共鳴(ESR)のスピン密度は、1.4×10-9mol/gだった。
実施例1のように再加熱(アニール)処理を実施した蛍光体は、LEDデバイスに組み込んで行った500時間点灯試験後のCIE色度座標のy値の維持率が大きくなった。すなわち、比較例1では500時間点灯試験後のy値の維持率は60%であるのに対して、実施例1では87%となり、再加熱処理は蛍光体の耐久性を大きく改善する事が確認できた 。また、実施例1の再加熱(アニール)処理を実施した蛍光体は、比較例1の蛍光体
と比較して、電子スピン共鳴におけるg=2.0027のシグナル強度が半分以下に減少した。このシグナルは、何らかの結晶欠陥に由来するものであり、耐久性向上の理由の一つと考えられる。
【0237】
[比較例2]
比較例1における一次焼成温度を1220℃とし、二次焼成温度を1300℃ とした
こと以外は比較例1と同様にして蛍光体を得た。
得られた蛍光体について、前述の測定方法によりその評価を行ない、その発光特性とLE
D耐久試験の結果を表9に示す。
【0238】
また、この蛍光体を窒素中で1000℃まで加熱したときに発生するCO2とH2Oの量を前述の方法により測定したところ、蛍光体1gあたり、COが680重量ppm、HOが2050重量ppmだった。
この蛍光体のSEM写真を図7に示す。写真から、蛍光体粒子が、微小な粒子の凝集体となっているものが多いことがわかる。これは、後述の実施例3や実施例5のように原料に蛍光体微粒子を添加していないため、結晶成長におけるシードが十分存在せず、微粒子が多く発生し、それが凝集したものと考えられる。
【0239】
[実施例2]
比較例2で得られた蛍光体を大気圧下、4%水素+96%窒素混合ガス3リットル/分での流通下、1000℃まで加熱し、その温度で10時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉は、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させた。
得られた蛍光体について、前述の測定方法によりその評価を行ない、その発光特性とLED耐久試験の結果を表9に示す。
【0240】
また、この蛍光体を窒素中で1000℃まで加熱したときに発生するCO2とH2Oの量を前述の方法により測定したところ、蛍光体1gあたり、COが80重量ppm、HOが220重量ppmだった。
本実施例の蛍光体と比較例2の蛍光体とを比べると、発生ガス量が大きく低下していることがわかる。本実施例における再加熱処理により、蛍光体表面に存在した水や二酸化炭素が除去されたことがわかる。そして、このことが、この蛍光体が高い耐久性を示すことの原因の一つと考えられる。
【0241】
[実施例3]
(酸化物焼成)
蛍光体の各原料の仕込み組成がBaとEuとSiの比率が2.7:0.3:4.5とな
るように、蛍光体原料としてBaCO3(293g)、SiO2(149g)、及びEu2
3(29g)を十分に攪拌混合した後、アルミナるつぼに充填した。これを温度調節器
つき抵抗加熱式電気炉内に置き、大気圧の大気雰囲気下、昇温速度4℃/分で1100℃まで加熱し、その温度で6時間保持した後、室温まで放冷した。得られた試料をアルミナ乳鉢上で、粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0242】
(二次焼成)
上記で得られた試料(159g)と、熱処理2を行ったSi34(30g)と、比較例2の蛍光体の製造の際に分級により除去された蛍光体微細粒子(重量メジアン径8μm、
前記「蛍光体を構成する2種以上の金属元素を含有する窒化物又は酸窒化物」に相当する。)20gと、フラックスとしてZnF2・4HO(3g)とBaI(2g)とを、
十分に攪拌混合を行った。次いで、モリブデン内張付きアルミナるつぼ に充填し、大気
圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3リットル/分での流通下で1320℃まで加熱し、その温度で20時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉をアルミナ乳鉢で粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0243】
比較例1、2では、酸化物焼成で得られた試料とSi34を焼成する工程(一次焼成)
を行ったのち、そこにフラックスを追加してさらに焼成(二次焼成)した。本実施例では、一次焼成に相当する工程を省略し、酸化物焼成で得られた試料とSi34とフラックスを混合して焼成した。このようにフラックスを添加して最初に行う焼成を二次焼成と称し、以降の実施例でも同様とした。
【0244】
(三次焼成)
上記二次焼成で得られた試料(200g)と、フラックスであるBaF2(4g) と、BaCl2(20g) と、BaHPO4(10g)とを十分に攪拌混合を行った後、アル ミナるつぼに充填し、三次焼成として大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3リットル/分での流通下で1170℃まで加熱し、その温度で6時間保持したあと室温まで放冷した。
【0245】
得られた焼成粉を、ガラスビーズを用いてスラリー化して分散を行い、1N塩酸で洗浄処理を行い、分級処理(水簸分級による微細粒子除去とナイロンメッシュ通過による粗大粒子除去)を行った後、脱水、乾燥し、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させることにより重量メジアン径20μmの蛍光体を得た。
また、この蛍光体の粉末X線回折図形を図5に示す。Ba3Si6O12N2として報告されてい
る結晶相が得られていることがわかる。ここでは、この実施例の回折図形のみ掲示するが、本発明のすべての実施例は、ここに示した回折図形と同様の回折図形を示した。
【0246】
得られた蛍光体について、前述の測定方法によりその評価を行ない、その発光特性とLED耐久試験の結果を表9に示す。
また、得られた蛍光体の電子スピン共鳴スペクトル(ESR)を図6に示す。なお、318mTと327mT付近に現れているシグナルは、標準物質として同時測定したMnのシグナルであり、323mTにあらわれているシグナルが蛍光体由来と思われるg=2.0027のシグナルである。g=2.0027に検出されるシグナルのスピン密度は、1.6×10-9
mol/gだった。
【0247】
この蛍光体は、蛍光体原料とともに、既に合成された蛍光体の微細粒子を添加して合成されたものである。このような製造方法にすると、電子スピン共鳴(ESR)のスピン密度
が小さくなる傾向にあることがわかる。
また、走査電子顕微鏡写真を図8に示す。フラックスを添加した還元雰囲気下での焼成を2回行っているため、凝集した蛍光体粒子が少なく、結晶面が明確に確認できるような、良く成長した粒子が多くなっていることがわかる。
【0248】
[実施例4]
実施例3で得られた蛍光体3gをアルミナボートに入れ、大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス0.5リットル/分での流通下で1000℃まで加熱し、その温度で10時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉は、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0249】
また、走査電子顕微鏡写真を図9に示す。実施例3の蛍光体と同様の特徴を有しており、本実施例の再加熱工程による粒子形態上の変化はほとんど無いことがわかった。
得られた蛍光体について、前述の測定方法によりその評価を行ない、その発光特性とLED耐久試験の結果を表9に示す。
得られた蛍光体の発光スペクトルと励起スペクトルを図4に示す。なお、ここで示す発光スペクトルと励起スペクトルは、いずれも日立製作所製F4500型分光蛍光光度計で測定したものである。その際、 発光スペクトルの励起波長は455nm、励起スペクト
ルの検出波長は528nmとした。ここでは、この実施例のスペクトルのみ掲示するが、本発明のすべての実施例は、ここに示したスペクトルと同様のスペクトルを示した。
【0250】
また、得られた蛍光体の電子スピン共鳴スペクトル(ESR)を図6に示す。なお、318mTと327mT付近に現れているシグナルは、標準物質として同時測定したMnのシグナルであり、323mTにあらわれているシグナルが蛍光体由来と思われるg=2.0027のシグナルである。g=2.0027に検出されるシグナルのスピン密度は、4×10-10m
ol/gだった。
【0251】
本実施例の蛍光体は、蛍光体原料にあらかじめ別途合成した蛍光体を添加して加熱し、フラックスを添加して行う焼成工程を2回行ない、さらに、洗浄等の後処理の後で、再加熱工程も行うことにより製造されたものである。これらの効果により、この蛍光体は、スピン密度が低く、格子欠陥などの非輻射失活中心が少なくなったものと考えられる。
表6に示すように、再加熱(アニール)処理を実施した本実施例の蛍光体は、LEDデバイスに組み込んで行った500時間点灯試験後のCIE色度座標のy値の維持率が大きくなっている。このことは、ESRで検出されたg=2.0027のシグナルが小さくなったこ
と、すなわち、結晶欠陥が少なくなったことに起因するものと考えられる。
【0252】
[実施例5]
(酸化物焼成)
蛍光体の各原料の仕込み組成がBaとEuとSiの比率が2.7:0.3:4.5とな
るように、蛍光体原料としてBaCO3(293g)、SiO2(149g)及びEu23(29g)を十分に攪拌混合した後、アルミナるつぼに充填した。これを温度調節器つき抵抗加熱式電気炉内に置き、大気圧の大気雰囲気下、4℃/分の昇温速度で1100℃まで加熱し、その温度で6時間保持した後、室温まで放冷した。得られた試料をアルミナ乳鉢上で、粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0253】
(二次焼成)
上記の一次焼成で得られた試料(159g)と、熱処理2を行ったSi34(30g)と、比較例2の蛍光体の製造の際に分級により除去された蛍光体微細粒子(重量メジアン径8μm)20gと、フラックスであるZnF2・4HO(4g)を、十分に攪拌混合を行った後、モリブデン内張付きアルミナるつぼに充填し、大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3リットル/分での流通下で1320℃まで加熱し、その温度で20時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉をアルミナ乳鉢で粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0254】
得られた焼成粉をガラスビーズを用いてスラリー化して分散を行い、1N塩酸で洗浄処理を行い、分級処理(水簸分級による微細粒子除去とナイロンメッシュ通過による粗大粒子除去)を行った後、脱水、乾燥し、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させることにより重量メジアン径20μmの蛍光体を得た。
得られた蛍光体について、前述の測定方法によりその評価を行ない、その発光特性とLED耐久試験の結果を表9に示す。
【0255】
得られた蛍光体は、二次焼成の際に、すでに合成された蛍光体の微細粒子を添加して合成したものである。この微細粒子は、焼成中に蛍光体の結晶成長のシードとして作用することで、蛍光体の粒子が、整った形状になり、かつ、粒子径が大きくなることを助けたものと考えられる。
蛍光体微細粒子を添加しないで合成した蛍光体は、複数の結晶が凝集したような形状の粒子を多く含む傾向にある(図7参照)。これに対し、本実施例では、結晶面が明確に確認できる粒子が得られている(図10参照)。ただし、本実施例では、すべての原料を添加してから行う焼成を1回しか行っていないため、すべての原料を添加してから2回焼成を行なった蛍光体(実施例3)の方が本実施例よりも結晶面に乱れが少ない。
【0256】
本実施例で得られた蛍光体の電子スピン共鳴スペクトル(ESR)を図6に示す。なお、318mTと327mT付近に現れているシグナルは、標準物質として同時測定したMnのシグナルであり、323mTにあらわれているシグナルが蛍光体由来と思われるg=2.0027のシグナルである。g=2.0027に検出されるシグナルのスピン密度は、2.6×1
0-9 mol/gだった。この蛍光体は、焼成・後処理の後の再加熱工程を行っていないため、
再加熱工程を含む蛍光体に比較してスピン密度が高かった。
【0257】
[実施例6]
実施例5で得られた蛍光体を、空気中、600℃で4時間加熱した。得られた焼成粉は、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させた。
得られた蛍光体について、前述の測定方法によりその評価を行ない、その発光特性とLED耐久試験の結果を表9に示す。
【0258】
この蛍光体の電子スピン共鳴スペクトル(ESR)を図6に示す。なお、318mTと327mT付近に現れているシグナルは、標準物質として同時測定したMnのシグナルであり、323mTにあらわれているシグナルが蛍光体由来と思われるg=2.0027のシグナルである。g=2.0027に検出されるシグナルのスピン密度は、3.8×10-8mol/gであ
り、実施例5の蛍光体と比較して、スピン密度が高かった。また、発光ピーク強度が実施例5では82だったのに対し、本実施例では44となっており、空気中での再加熱処理により発光ピーク強度が低下している。スピン密度の増加は、このことと関係があると考えられ、本実施例の蛍光体には何らかの格子欠陥が存在することを示している。
【0259】
また、走査電子顕微鏡写真を図11に示す。実施例5の蛍光体と同様の特徴を有しており、本実施例の再加熱工程による粒子形態上の変化はほとんど無いことがわかった。
[実施例7]
実施例6の蛍光体を、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3リットル/分で流通下、1000℃で、10時間加熱した。得られた焼成粉は、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0260】
得られた蛍光体について、前述の測定方法によりその評価を行ない、その発光特性とLED耐久試験の結果を表9に示す。
この蛍光体の電子スピン共鳴スペクトル(ESR)を図6に示す。なお、318mTと327mT付近に現れているシグナルは、標準物質として同時測定したMnのシグナルであり、323mTにあらわれているシグナルが蛍光体由来と思われるg=2.0027のシグナルである。g=2.0027に検出されるシグナルのスピン密度は、3×10-10mol/gだった
。実施例5や実施例6と比較してスピン密度が大幅に低下していることがわかる。これが、LED点灯試験500時間後のy値維持率が高い原因の一つと考えられる。
【0261】
なお、蛍光体粒子の形状に関しては、再加熱工程前の実施例5と大差なかった。
また、走査型電子顕微鏡写真を図12に示す。実施例5の蛍光体と同様の特徴を有しており、本実施例の再加熱工程による粒子形態上の変化はほとんど無いことがわかった。
[実施例8]
(酸化物焼成)
蛍光体の各原料の仕込み組成がBaとEuとSiの比率が2.7:0.3:4.5とな るように、蛍光体原料としてBaCO3(355.2g)、SiO2(180.3g)、及びEu23(35.2g)を十分に攪拌混合した後、アルミナるつぼに充填した。これ
を温度調節器 つき抵抗加熱式電気炉内に置き、大気圧の大気雰囲気下、昇温速度4℃/
分で1100℃まで加熱し、その温度で6時間保持した後、室温まで放冷した。得られた試料をアルミナ乳鉢上で、粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0262】
(二次焼成)
上記で得られた試料(162.2g)と、熱処理2を行ったSi34(30.9g)と、実施例3と同等の蛍光体製造手順において、分級により除去された蛍光体微細粒子(重量メジアン径9.5μm、前記「蛍光体を構成する2種以上の金属元素を含有する窒化物
又は酸窒化物」に相当する。)10.2gと、フラックスとしてZnF2・4HO(3
g)とBaI(2g)とを、十分に攪拌混合を行った。次いで、モリブデン内張付きアルミナるつぼ に充填し、大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3リット
ル/分での流通下で1320℃まで加熱し、その温度で20時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉をアルミナ乳鉢で粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0263】
(三次焼成)
上記二次焼成で得られた試料(195g)と、フラックスであるBaF2(3.9g)
と、BaCl2(1.95g)とを十分に攪拌混合を行った後、モリブデン内張付きアル
ミナるつぼに充填し、三次焼成として大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3リットル/分での流通下で1170℃まで加熱し、その温度で6時間保持したあと室温まで放冷した。
【0264】
得られた焼成粉を、ガラスビーズを用いてスラリー化して分散を行い、1N塩酸で洗浄処理を行い、分級処理(水簸分級による微細粒子除去とナイロンメッシュ通過による粗大粒子除去)を行った後、脱水、乾燥し、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させることにより重量メジアン径20μmの蛍光体を得た。
得られた蛍光体3gをアルミナボートに入れ、大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス0.5リットル/分での流通下で1000℃まで加熱し、その温度で10時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉は、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0265】
得られた蛍光体の発光特性を表10に示す。本実施例の製造方法は、フラックスの種類を変更したことを除いて実施例4のものと同じである。変更により輝度、量子収率等が改善した。LED点灯試験におけるy値維持率も、500時間で95%と高い値を得た。70
0nmの反射率は、実施例4や実施例7の値と比較しても、さらに大幅に改善した。
[実施例9]
(酸化物焼成)
実施例8の酸化物焼成と同様の手順により焼成粉末を得た。
【0266】
(二次焼成)
酸化物焼成で得られた焼成粉末(169.5g)と、熱処理2を行ったSi34(3
2.3g)と、実施例3と同等の蛍光体製造手順において、分級により除去された蛍光体微細粒子(重量メジアン径9.5μm、前記「蛍光体を構成する2種以上の金属元素を含
有する窒化物又は酸窒化物」に相当する。)10.6gと、フラックスとしてZnF2
4HO(3.2g)とBaI(2.1g)とを、十分に攪拌混合を行った。次いで、モリブデン内張付きアルミナるつぼ に充填し、大気圧下、窒素96体積%+水素4体積
%の混合ガス3リットル/分での流通下で1320℃まで加熱し、その温度で20時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉をアルミナ乳鉢で粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0267】
(三次焼成)
上記二次焼成で得られた試料(208g)と、フラックスであるBaF2(4.2g)
と、BaCl2(10.4g)とを十分に攪拌混合を行った後、モリブデン内張付きアル
ミナるつぼに充填し、三次焼成として大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3リットル/分での流通下で1170℃まで加熱し、その温度で6時間保持したあと室温まで放冷した。
【0268】
得られた焼成粉を、ガラスビーズを用いてスラリー化して分散を行い、1N塩酸で洗浄
処理を行い、分級処理(水簸分級による微細粒子除去とナイロンメッシュ通過による粗大粒子除去)を行った後、脱水、乾燥し、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させることにより重量メジアン径20μmの蛍光体を得た。
得られた蛍光体3gをアルミナボートに入れ、大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス0.5リットル/分での流通下で1000℃まで加熱し、その温度で10時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉は、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0269】
得られた蛍光体の発光特性を表10に示す。本実施例の製造方法は、フラックスの種類を変更したことを除いて実施例4のものと同じである。変更により輝度、量子収率等が改善した。LED点灯試験におけるy値維持率も、500時間で99%と高い値を得た。70
0nmの反射率は、実施例4や実施例7の値と比較してさらに大幅に改善した。
[実施例10]
(酸化物焼成)
蛍光体の各原料の仕込み組成がBaとEuとSrとSiの比率が2.4:0.36:0
.24:4.5となるように、蛍光体原料としてBaCO3(276.4g)、SiO2(156.8g)、SrCO3(19.5g)及びEu23(36.4g)を十分に攪拌混
合した後、アルミナるつぼに充填した。これを温度調節器つき抵抗加熱式電気炉内に置き、大気圧の大気雰囲気下、昇温速度4℃/分で1100℃まで加熱し、その温度で6時間保持した後、室温まで放冷した。得られた試料をアルミナ乳鉢上で、粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0270】
(二次焼成)
上記で得られた試料(167g)と、熱処理2を行ったSi34(32.3g)と、実施例3と同等の蛍光体製造手順において、分級により除去された蛍光体微細粒子(重量メジアン径9.5μm、前記「蛍光体を構成する2種以上の金属元素を含有する窒化物又は
酸窒化物」に相当する。)10.5gと、フラックスとしてZnF2・4HO(3.1
5g)とBaI(2.1g)とを、十分に攪拌混合を行った。次いで、モリブデン内張付きアルミナるつぼ に充填し、大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3
リットル/分での流通下で1250℃まで加熱し、その温度で20時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉をアルミナ乳鉢で粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0271】
(三次焼成)
上記二次焼成で得られた試料(204g)と、フラックスであるBaF2(4.1g)
と、BaCl2(10.2g)とを十分に攪拌混合を行った後、モリブデン内張付きアル
ミナるつぼに充填し、三次焼成として大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3リットル/分での流通下で1170℃まで加熱し、その温度で6時間保持したあと室温まで放冷した。
【0272】
得られた焼成粉を、ガラスビーズを用いてスラリー化して分散を行い、1N塩酸で洗浄処理を行い、分級処理(水簸分級による微細粒子除去とナイロンメッシュ通過による粗大粒子除去)を行った後、脱水、乾燥し、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させることにより重量メジアン径20μmの蛍光体を得た。
得られた蛍光体3gをアルミナボートに入れ、大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス0.5リットル/分での流通下で1000℃まで加熱し、その温度で10時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉は、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0273】
得られた蛍光体の発光特性を表10に示す。本実施例の製造方法は、実施例9のものと
ほぼ同じである。変更点は、2価金属のBa、Eu,Srの比率を変更したことである。2価金属の比率変更により発光波長が長波長に移動し、色度座標のx値が上昇、y値が低下した。本実施例の蛍光体と赤色蛍光体と青色LEDと組み合わせた白色LEDは、実施例
9の蛍光体を用いた場合に比べて、発光効率(青色LEDへの投入電力あたりの輝度)が高
いことがわかった。LED点灯試験におけるy値維持率も、500時間で99%と高い値を
得た。
【0274】
[実施例11]
(酸化物焼成)
蛍光体の各原料の仕込み組成がBaとEuとSrとSiの比率が2.4:0.36:0
.3:4.5となるように、蛍光体原料としてBaCO3(325.7g)、SiO2(189.3g)、SrCO3(29.4g)及びEu23(44.0g)を十分に攪拌混合
した後、アルミナるつぼに充填した。これを温度調節器つき抵抗加熱式電気炉内に置き、大気圧の大気雰囲気下、昇温速度4℃/分で1100℃まで加熱し、その温度で6時間保持した後、室温まで放冷した。得られた試料をアルミナ乳鉢上で、粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0275】
(二次焼成)
上記で得られた試料(159.3g)と、熱処理2を行ったSi34(30.9g)と、実施例3と同等の蛍光体製造手順において、分級により除去された蛍光体微細粒子(重量メジアン径9.5μm、前記「蛍光体を構成する2種以上の金属元素を含有する窒化物
又は酸窒化物」に相当する。)10gと、フラックスとしてZnF2・4HO(3g)
とBaI(2g)とを、十分に攪拌混合を行った。次いで、モリブデン内張付きアルミナるつぼ に充填し、大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3リットル/
分での流通下で1220℃まで加熱し、その温度で20時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉をアルミナ乳鉢で粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0276】
(三次焼成)
上記二次焼成で得られた試料(193g)と、フラックスであるBaF2(3.9g)
と、BaCl2(9.7g)とを十分に攪拌混合を行った後、モリブデン内張付きアルミ
ナるつぼに充填し、三次焼成として大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3リットル/分での流通下で1170℃まで加熱し、その温度で6時間保持したあと室温まで放冷した。
【0277】
得られた焼成粉を、ガラスビーズを用いてスラリー化して分散を行い、1N塩酸で洗浄処理を行い、分級処理(水簸分級による微細粒子除去とナイロンメッシュ通過による粗大粒子除去)を行った後、脱水、乾燥し、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させることにより重量メジアン径20μmの蛍光体を得た。
得られた蛍光体3gをアルミナボートに入れ、大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス0.5リットル/分での流通下で1000℃まで加熱し、その温度で10時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉は、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0278】
得られた蛍光体の発光特性を表10に示す。本実施例の製造方法は、実施例10のもの同様である。変更点は、2価金属のBa、Eu,Srの比率を変更したことである。2価金属の中でのSr比率を向上させることにより発光波長が長波長に移動し、色度座標のx値が上昇、y値が低下した。
[実施例12]
(酸化物焼成)
蛍光体の各原料の仕込み組成がBaとEuとSrとSiの比率が2.4:0.36:0
.3:4.5となるように、蛍光体原料としてBaCO3(325.7g)、SiO2(189.3g)、SrCO3(29.4g)及びEu23(44.0g)を十分に攪拌混合
した後、アルミナるつぼに充填した。これを温度調節器つき抵抗加熱式電気炉内に置き、大気圧の大気雰囲気下、昇温速度4℃/分で1100℃まで加熱し、その温度で6時間保持した後、室温まで放冷した。得られた試料をアルミナ乳鉢上で、粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0279】
(二次焼成)
上記で得られた試料(159.3g)と、熱処理2を行ったSi34(30.9g)と、実施例3と同等の蛍光体製造手順において、分級により除去された蛍光体微細粒子(重量メジアン径9.5μm、前記「蛍光体を構成する2種以上の金属元素を含有する窒化物
又は酸窒化物」に相当する。)10gと、フラックスとしてZnF2・4HO(3g)
とBaI(2g)とを、十分に攪拌混合を行った。次いで、モリブデン内張付きアルミナるつぼ に充填し、大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3リットル/
分での流通下で1270℃まで加熱し、その温度で20時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉をアルミナ乳鉢で粉砕し、目開き100μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0280】
(三次焼成)
上記二次焼成で得られた試料(193g)と、フラックスであるBaF2(3.9g)
と、BaCl2(9.7g)とを十分に攪拌混合を行った後、モリブデン内張付きアルミ
ナるつぼに充填し、三次焼成として大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス3リットル/分での流通下で1170℃まで加熱し、その温度で6時間保持したあと室温まで放冷した。
【0281】
得られた焼成粉を、ガラスビーズを用いてスラリー化して分散を行い、1N塩酸で洗浄処理を行い、分級処理(水簸分級による微細粒子除去とナイロンメッシュ通過による粗大粒子除去)を行った後、脱水、乾燥し、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させることにより重量メジアン径20μmの蛍光体を得た。
得られた蛍光体3gをアルミナボートに入れ、大気圧下、窒素96体積%+水素4体積%の混合ガス0.5リットル/分での流通下で1000℃まで加熱し、その温度で10時間保持したあと室温まで放冷した。得られた焼成粉は、目開き57μmのナイロンメッシュを通過させた。
【0282】
得られた蛍光体の発光特性を表10に示す。本実施例の製造方法は、実施例11のものとほぼ同じである。変更点は、フラックスの種類の変更である。フラックスの種類と量が異なるため、実施例11の蛍光体よりも輝度や量子収率が小さくなったが、本実施例の蛍光体と赤色蛍光体と青色LEDと組み合わせた白色LEDは、2価金属の比率の違いにより
、実施例9や10の蛍光体を用いた場合に比べて、発光効率(青色LEDへの投入電力あた
りの輝度)が高いことがわかった。
【0283】
【表9】

【0284】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0285】
本発明の蛍光体は産業上の任意の分野で使用することができ、例えば、発光装置に用いることができる。中でも、本発明の蛍光体は、従来から白色発光装置に多く使用されているYAG:Ce蛍光体に比べて温度上昇に伴う発光効率の低下が通常は小さいため、白色
発光装置に用いて好適である。
さらに、本発明の蛍光体は、通常は酸安定性及び高温安定性を有するため耐熱材料として有用である。
【0286】
また、本発明の蛍光体、蛍光体含有組成物及び発光装置の用途は広く、照明又はディスプレイ等の画像表示装置の分野に使用できる。中でも一般照明用LEDで特に高出力ランプ、とりわけ高輝度で色再現範囲の広いバックライト用白色LEDを実現する目的に適している。
【符号の説明】
【0287】
1:第2の発光体
2:面発光型GaN系LD(第1の発光体)
3:基板
4:発光装置
5:マウントリード
6:インナーリード
7:第1の発光体
8:蛍光体含有樹脂部
9:導電性ワイヤ
10:モールド部材
11:面発光照明装置
12:保持ケース
13:発光装置
14:拡散板
22:第1の発光体
23:蛍光体含有樹脂部(第2の発光体)
24:フレーム
25:導電性ワイヤ
26,27:電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃において、電子スピン共鳴測定で検出されるg=2.00±0.02のシグナル強度が、蛍光体1gあたり3×10−9mol以下であり、かつ、
下記式[I]で表される化学組成を有する結晶相を含有する
ことを特徴とする、蛍光体。
Ba [I]
(但し、上記式[I]中、
はMn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の付活元素を示し、
はSr、Ca、Mg及びZnから選ばれる少なくとも1種類の二価の金属元素を示し、
Lは周期律表第4族及び14族に属する金属元素から選ばれる金属元素を示し、
x、y、z、u、v及びwは、それぞれ以下の範囲の数値である。
0.00001≦x≦3
0≦y≦2.99999
2.6≦x+y+z≦3
0<u≦11
6<v≦25
0<w≦17)
【請求項2】
ヘリウムガス中で昇温速度10℃/分で、室温から1000℃まで加熱したときに発生する水の重量が、加熱前の蛍光体の1000重量ppm以下であり、かつ、
下記式[I]で表される化学組成を有する結晶相を含有する
ことを特徴とする、蛍光体。
Ba [I]
(但し、上記式[I]中、
はMn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の付活元素を示し、
はSr、Ca、Mg及びZnから選ばれる少なくとも1種類の二価の金属元素を示し、
Lは周期律表第4族及び14族に属する金属元素から選ばれる金属元素を示し、
x、y、z、u、v及びwは、それぞれ以下の範囲の数値である。
0.00001≦x≦3
0≦y≦2.99999
2.6≦x+y+z≦3
0<u≦11
6<v≦25
0<w≦17)
【請求項3】
ヘリウムガス中で昇温速度10℃/分で、室温から1000℃まで加熱したときに発生する二酸化炭素の重量が、加熱前の蛍光体の500重量ppm以下であり、かつ、
下記式[I]で表される化学組成を有する結晶相を含有する
ことを特徴とする、蛍光体。
Ba [I]
(但し、上記式[I]中、
はMn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の付活元素を示し、
はSr、Ca、Mg及びZnから選ばれる少なくとも1種類の二価の金属元素を示し、
Lは周期律表第4族及び14族に属する金属元素から選ばれる金属元素を示し、
x、y、z、u、v及びwは、それぞれ以下の範囲の数値である。
0.00001≦x≦3
0≦y≦2.99999
2.6≦x+y+z≦3
0<u≦11
6<v≦25
0<w≦17)
【請求項4】
下記式[I]で表される化学組成を有する結晶相を含有する蛍光体を製造する方法であって、
前記蛍光体を構成する金属元素を2種以上含有する窒化物又は酸窒化物を含む蛍光体前駆体を焼成する工程を有する
ことを特徴とする、蛍光体の製造方法。
Ba [I]
(但し、上記式[I]中、
はMn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群より選ばれる少なくとも1種類の付活元素を示し、
はSr、Ca、Mg及びZnから選ばれる少なくとも1種類の二価の金属元素を示し、
Lは周期律表第4族及び14族に属する金属元素から選ばれる金属元素を示し、
x、y、z、u、v及びwは、それぞれ以下の範囲の数値である。
0.00001≦x≦3
0≦y≦2.99999
2.6≦x+y+z≦3
0<u≦11
6<v≦25
0<w≦17)
【請求項5】
前記蛍光体前駆体が、前記窒化物又は酸窒化物を、製造される蛍光体の1重量%以上30重量%以下含有する
ことを特徴とする、請求項4に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記窒化物又は酸窒化物が、製造する蛍光体と同一の組成を有するものである
ことを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の製造方法により、製造されたものである
ことを特徴とする、蛍光体。
【請求項8】
請求項1〜3、及び請求項7のいずれか1項に記載の酸窒化物蛍光体と、
液体媒体とを含有する
ことを特徴とする蛍光体含有組成物。
【請求項9】
第1の発光体と、当該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備え、
前記第2の発光体が、請求項1〜3、及び請求項7のいずれか1項に記載の蛍光体を1種以上、第1の蛍光体として含有する
ことを特徴とする発光装置。
【請求項10】
前記第2の発光体が、前記第1の蛍光体とは発光ピーク波長の異なる蛍光体を1種以上
、第2の蛍光体として含有する
ことを特徴とする、請求項9に記載の発光装置。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の発光装置を備える
ことを特徴とする照明装置。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の発光装置を備える
ことを特徴とする画像表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−196049(P2010−196049A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19219(P2010−19219)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】