説明

蛍光X線分析装置

【課題】エネルギー校正が必要であることを的確に分析者に知らせることで、不要なエネルギー校正作業をなくすとともに、大きなエネルギー位置ずれの下での信頼性の乏しい測定の実行も回避する。
【解決手段】被測定試料2に1次X線を照射して得られた検出信号に基づいて作成されるX線スペクトル上で、レイリー散乱線検出部14はX線管1のターゲット元素に応じたエネルギー位置に出現する筈であるレイリー散乱線を検出する。エネルギー判定部15は、この散乱線が検出されればエネルギー位置ずれがないと判断するが、散乱線が検出されない場合にエネルギー位置ずれが大きくエネルギー校正が必要であると判断する。その場合、制御部20は測定を一時中断し、報知部22はエネルギー校正が必要である旨の表示を行う。これにより、分析者は的確なタイミングでエネルギー校正を実施できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光X線分析装置に関し、さらに詳しくは、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析装置は、固体試料、粉体試料又は液体試料に1次X線を照射し、該1次X線により励起されて放出される蛍光X線を検出することによって、その試料に含まれる元素の定性又は定量分析を行うものである。蛍光X線分析装置は、波長分散型とエネルギー分散型の2つに大別される。前者は、分光結晶とスリットとを組み合わせたX線分光器により特定波長の蛍光X線を選別した上で検出器で検出する構成を有する。一方、後者は、こうした波長選別を行わずに直接、蛍光X線をリチウムドリフト型Si検出器などで検出し、その後に検出信号をエネルギー(つまり波長)毎に分離する処理を行うという構成を有する。蛍光X線スペクトルを作成する場合、波長分散型では機械的な駆動機構により波長走査を行う必要があるのに対し、エネルギー分散型ではこうした波長走査を行うことなく同時に多数の波長の情報が得られるため、短時間で蛍光X線スペクトルを取得できるという特徴を有する。
【0003】
エネルギー分散型蛍光X線分析装置では、X線検出器やその後段の信号処理回路の経時変化などによってエネルギー位置、つまり蛍光X線スペクトルの横軸位置のずれが生じる。エネルギー位置ずれが或る程度大きくなると、例えば或る元素のスペクトル線が存在しても、そのスペクトル線に対応したエネルギーとその元素に対応した理論的なエネルギーとの乖離が大きくなり、そのスペクトル線が該元素に対応したものであると同定されなくなる。或いは、そのスペクトル線が他の元素に対応したものであると誤った同定がなされてしまうおそれもある。そこで、上記のようなエネルギー位置のずれを修正するために、既知元素を含有するエネルギー校正用試料を測定し、その測定結果に基づいたエネルギー校正が行われている(特許文献1など参照)。
【0004】
従来、上記のようなエネルギー校正作業の要否は分析者自身が判断している。具体的には、例えば装置の使用時間や使用回数などを管理しておき、所定の使用時間経過毎或いは所定の使用回数毎にエネルギー校正が必要であると判断し、エネルギー校正用試料を用いたエネルギー校正を実施するのが一般的である。しかしながら、こうした方法では次のような問題がある。
【0005】
(1)上記方法では、エネルギー校正が必要な状態であるか否かを必ずしも適切に知ることはできない。そのため、エネルギー校正が未だ必要でないにも拘わらず、エネルギー校正作業を実施することも多い。その場合、測定目的である被測定試料に代えてエネルギー校正用試料を装置にセットして校正作業を行うことになり、被測定試料に対する測定のスループットが低下する。
(2)上記のような不必要なエネルギー校正を避けようとしてエネルギー校正作業の頻度を下げると、1乃至複数の被測定試料に対する連続測定の途中でエネルギー位置ずれが許容範囲を超えてしまうおそれがある。その場合、どの時点でエネルギー位置ずれが許容範囲を超えたのか不明であるため、既に得られた測定結果の全てを信頼性がないものとみなして廃棄するか、或いは測定結果の1つ1つについて正しい結果か否かを評価する作業が必要になる。
【0006】
【特許文献1】特開平10−48161号公報(段落0023−0027)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題は、通常の被測定試料を測定する際にエネルギー校正が必要な状態であることを的確に知ることができないことに起因している。本発明はこうした点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エネルギー校正用試料を用いた測定を行うことなく、通常の被測定試料に対する測定を行う際にエネルギー校正の要否を的確に把握することができる蛍光X線分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明は、X線源で発生した1次X線を試料に照射し、それに応じて該試料から放出される蛍光X線をX線検出器で受けて分析するエネルギー分散型の蛍光X線分析装置において、
a)前記X線検出器により得られた検出信号に基づいて作成されるスペクトル上で、前記X線源のターゲット元素に対応したレイリー散乱によるスペクトル線又はコンプトン散乱によるスペクトル線の少なくともいずれか一方を検出する散乱線検出手段と、
b)前記散乱線検出手段による、レイリー散乱スペクトル線又はコンプトン散乱スペクトル線の少なくともいずれか一方又は両方の検出結果に基づいて、当該装置におけるエネルギー位置ずれを判断する判定手段と、
c)前記判定手段による判定結果に基づいてエネルギー校正の要否を報知する情報提供手段と、
を備えることを特徴としている。
【0009】
X線源から放出されるX線のスペクトルには、ターゲットに用いた金属元素固有の波長を持つ非常に鋭い特性X線のピークが現れる。このX線が試料に照射されると、試料からは蛍光X線が放出されるともにレイリー散乱及びコンプトン散乱が生じる。それら散乱によるスペクトル線(散乱線)のエネルギーは理論的に決まっているから、装置にエネルギー位置ずれが生じていない場合、誤差を考慮しても、レイリー散乱及びコンプトン散乱によるスペクトル線はそれぞれ所定のエネルギー範囲内に生じる筈である。逆にそれぞれのエネルギー範囲内にレイリー散乱及びコンプトン散乱によるスペクトル線が存在しない場合には、エネルギー位置ずれが起きている可能性が高いと推測できる。
【0010】
そこで本発明に係る蛍光X線分析装置では、被測定試料に対する測定の際に、蛍光X線と同時に得られるレイリー散乱線、コンプトン散乱線の少なくともいずれか一方を利用して、エネルギー校正の要否を判断する。即ち、X線源から被測定試料に照射された1次X線に対して、X線検出器により得られた検出信号に基づいてX線スペクトルが作成されると、散乱線検出手段は、X線源のターゲット元素に対応したレイリー散乱線又はコンプトン散乱のいずれか一方を検出する。
【0011】
このとき、散乱線検出手段は、X線源のターゲット元素に対応した所定のエネルギー範囲内にスペクトル線が存在することを、レイリー散乱線及びコンプトン散乱線の検出条件の一つとすることができる。また一般に、X線源のターゲット元素に固有の特性X線は1種ではなく、Kα線、Kβ線など複数存在するから、それに対応してレイリー散乱線なども複数現れる。そこで、例えばKα線のレイリー散乱線とKβ線のレイリー散乱線の強度比など、複数のスペクトル線の強度比を散乱線の検出条件の一つに加えてもよい。
【0012】
例えばX線源のターゲット元素に対応した所定のエネルギー範囲内にスペクトル線が存在せずレイリー散乱線が検出されないとの検出結果が出た場合、判定手段は、この検出結果を受けて当該装置におけるエネルギー位置ずれが許容範囲を超えていると判断する。情報提供手段は、この判定結果を受けてエネルギー校正が必要である旨を報知する。この報知は例えば、メッセージの表示や警告灯の点灯などの表示によるもの、ブザーなどの音によるもの、など特にその方法は限定されない。
【0013】
上述のように散乱にはレイリー散乱とコンプトン散乱とがあるが、その散乱線の強度は試料に含まれる元素の種類に依存する。特に重元素ではコンプトン散乱の強度が低下し、そのスペクトル線を見い出すことが困難である場合がある。即ち、試料に含まれる元素の種類によってはコンプトン散乱線が見つけにくい場合があり、コンプトン散乱線の検出結果のみを利用してエネルギー位置ずれを判断すると誤判定のおそれがある。
【0014】
そこで、本発明の好ましい一態様として、上記判定手段は、X線源のターゲット元素に対応したレイリー散乱スペクトル線が検出された場合にエネルギー位置ずれが無い又は許容範囲内であると判断する構成とすることができる。
【0015】
試料に含まれる元素の種類によってレイリー散乱線の強度も変化するものの、通常、検出不能であるほどに強度が下がることはない。したがって、レイリー散乱線を利用することで確実にエネルギー位置ずれを判断することができ、情報提供手段による報知の信頼性を高めることができる。
【0016】
なお、試料に含まれる元素の種類が限定された条件の下では、コンプトン散乱線のみを利用しても的確にエネルギー位置ずれを判断することができる。また、コンプトン散乱線が見つからない場合にレイリー散乱線を利用するといった、両者の併用も考えられる。
【0017】
また本発明に係る蛍光X線分析装置の一態様として、被測定試料に対し1次X線を照射し、それに応じてX線検出器により得られた検出信号に基づいて作成されるスペクトルを利用して前記散乱線検出手段及び前記判定手段によりエネルギー位置ずれを判断し、エネルギー位置ずれが許容範囲内である場合には被測定試料に対する測定を続行する一方、エネルギー位置ずれが許容範囲を超えている場合には前記情報提供手段によりエネルギー校正の実施を促す報知を行うとともに被測定試料に対する測定を中断する測定制御手段をさらに備える構成とするとさらに好ましい。
【0018】
この構成によれば、被測定試料に対する測定の一環としてエネルギー校正の要否を判定することができ、エネルギー校正が不要であればそのまま被測定試料に対する測定を続行し、エネルギー校正が必要であれば測定を一旦中断してエネルギー校正の実施を促す報知を行うことができる。したがって、エネルギー位置ずれが大きく測定結果の信頼性が乏しい状況で測定が続行されることがないので、無駄な測定が実行されることを回避することができる。また、エネルギー位置ずれがない又は許容範囲内である場合には、既に取得したスペクトルに基づく蛍光X線のスペクトル線も元素同定や定量などに利用することができるので、測定の無駄がなく、効率的な測定が可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る蛍光X線分析装置によれば、エネルギー校正用試料を装置にセットして実測を行うことなく、任意の被測定試料をセットした状態での通常の測定の一環として、エネルギー位置ずれの程度を判断し、エネルギー校正の要否を判断して分析者(ユーザ)に知らせることができる。したがって、分析者はエネルギー校正を実施するタイミングを的確に知ることができ、自らがその実施のタイミングの判断を行ったりそのための使用時間の管理などを行ったりする必要がなくなる。
【0020】
また、エネルギー校正が不要であるにも拘わらずエネルギー校正用試料をセットして校正作業を実行するような無駄な作業を回避できるので、本来の目的である被測定試料に対する測定のスループットが向上する。
【0021】
さらにまた、複数の被測定試料を連続的に測定する場合でも、その被測定試料の測定毎にエネルギー校正の要否の判断を行うようにすることで、エネルギー校正の必要性を的確に把握し、エネルギー位置ずれが大きい状況で無駄な測定を実行してしまうことを回避することができる。これにより、信頼性が乏しい測定結果が信頼性を有する測定結果に混じることを防止して測定結果の信頼性の向上を図ることができるとともに、無駄な測定を実行しないことにより測定の効率化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施例であるエネルギー分散型蛍光X線分析装置について図1〜図3を参照して説明する。図1は本実施例による蛍光X線分析装置の概略構成図である。
【0023】
図1において、X線管1から発せられた1次X線が試料2に当たると、1次X線により励起された蛍光X線が試料2より放出され、リチウムドリフト型シリコン検出器などのX線検出器3に入射して電流信号として検出される。X線検出器3の出力電流はプリアンプ4により積分されて電圧信号に変換され、その積分電圧が閾値電圧を超えるとリセットされる。これにより、プリアンプ4の出力信号は階段状の電圧パルス信号となる。この信号の各段の高さが試料2に含まれる各元素のエネルギーに対応している。この電圧パルス信号は波形整形回路を含む比例増幅器5に入力され、上記各階段の高さに応じた波高を持つ適当な形状のパルスに成形されて出力される。
【0024】
A/D変換器(ADC)6はこのパルス波形状のアナログ信号を所定のサンプリング周期でサンプリングしてデジタル化し、マルチチャンネルアナライザ(MCA)7はデジタル化されたパルス信号の波高値に応じて各パルスを弁別した後にそれぞれ計数し、波高分布図、つまりX線スペクトルを作成してデータ処理部10に入力する。X線スペクトルを構成するデータはスペクトル記憶部11に格納される。図2に示すように、X線スペクトルでは、分析対象である試料中に含まれる元素から放出される蛍光X線のエネルギー値に対応する位置に各元素固有のスペクトル線がピークとして現れる。データ処理部10においてピーク検出部12はスペクトル上に現れている各ピークを検出し、定性/定量分析部13は検出されたピークの出現位置やそのX線強度値などに基づいて、含有元素の定性や定量を行う機能を有する。
【0025】
本実施例の蛍光X線分析装置においてデータ処理部10は、上記のような基本的な機能のほかに、上記X線スペクトルの横軸であるエネルギーの位置ずれを判断し、エネルギー校正の要否を報知する特徴的な機能を有している。この機能を達成するための機能ブロックとして、データ処理部10は、レイリー散乱線検出部14とエネルギー判定部15とを備え、このエネルギー判定部15の判定結果に応じて報知部22が動作する。また、操作部21が付設された制御部20は本装置における各部の動作を制御し、測定動作を遂行するものである。なお、データ処理部10や制御部20の少なくとも一部は、汎用のパーソナルコンピュータに搭載された専用のソフトウエアを実行することにより具現化されるものとすることができる。
【0026】
次に、上記の特徴的な機能であるエネルギー校正の要否の判断及び報知を中心とする動作を、図3のフローチャートに従って説明する。
【0027】
まず分析者は被測定試料2を本装置にセットし(ステップS1)、操作部21より測定開始を指示する(ステップS2)。なお、試料がロボットアームなどにより自動的に交換され、交換が終了すると自動的に測定の開始が自動的に指示される構成も考えられる。いずれにしても測定が開始されると、制御部20は被測定試料2に対する測定の一環としてまず予備測定を実行する(ステップS3)。即ち、制御部20の制御の下に、X線管1から被測定試料2に短時間(例えば10〜20秒程度)1次X線が照射され、それ応じて試料2から放出される各種X線をX線検出器3は検出する(ステップS4)。このX線検出器3で得られた検出信号に基づいて、MCA7はX線スペクトルを作成し、これをスペクトル記憶部11に格納する(ステップS5)。
【0028】
データ処理部10において、ピーク検出部12はスペクトル記憶部11に格納されたX線スペクトルに現れているスペクトル線(ピーク)を検出し、各スペクトル線のエネルギーを求める(ステップS6)。上記X線スペクトルには、被測定試料2に含まれる各種元素に対応した蛍光X線によるスペクトル線が現れるが、そのほかに、X線管1のターゲット元素に由来する特性X線が被測定試料2に当たって散乱したことによるレイリー散乱線やコンプトン散乱線も現れる。レイリー散乱線検出部14は、X線管1のターゲット材料の元素で一義的に決まる所定のエネルギー範囲を利用してX線スペクトルからレイリー散乱線を検出する(ステップS7)。
【0029】
具体的には、レイリー散乱線にはそれぞれエネルギーが相違するKα線とKβ線とがあるから、Kα線とKβ線とのそれぞれに対応するエネルギー範囲にスペクトル線が存在するか否かを確認し、スペクトル線が存在したならば、そのX線強度比を計算する。そして、その強度比が所定範囲に収まっているときに、そのスペクトル線がX線管1のターゲット元素由来のものであると判断する。Kα線とKβ線とのそれぞれに対応するエネルギー範囲にスペクトル線が存在しない場合や、存在してもX線強度比が所定範囲から逸脱している場合には、X線管1のターゲット元素由来のものではないと判断し、レイリー散乱線が検出不能との検出結果を出す。
【0030】
エネルギー判定部15はレイリー散乱線検出部14による検出結果を受けて、レイリー散乱線が存在するとの検出結果である場合には(ステップS8でY)、エネルギー位置ずれが無い(つまり、エネルギー位置ずれがあったとしても許容範囲内に収まっている)と判断する(ステップS12)。この判断結果は制御部20に送られ、制御部20は決められたシーケンスに従ってそのまま測定を続行する(ステップS13)。例えば、定性/定量分析部13で得られた定性結果や定量結果に基づいて、さらに詳細な測定が必要であるか否かなどを判断し、詳細測定が必要な場合には、同一被測定試料2に対しさらに長い時間X線を照射した測定を行う。
【0031】
レイリー散乱線検出部14によりレイリー散乱線が存在しないとの検出結果が得られた場合(ステップS8でN)、エネルギー判定部15はエネルギー位置ずれが許容範囲を超えていてエネルギー校正が必要であると判断する(ステップS9)。この判断結果は制御部20に送られ、制御部20はその時点で一旦測定を中断する(ステップS10)。また、判断結果は報知部22に送られ、報知部22はエネルギー校正が必要である旨のメッセージを表示し、分析者にエネルギー校正の実施を促す(ステップS11)。分析者はこの表示によりエネルギー校正の必要性を認識し、例えば被測定試料2に代えてエネルギー校正用試料を装置にセットし、操作部21からエネルギー校正実行の指示を行うことにより、エネルギー校正を実行することができる。なお、ステップS10で測定は一時中断するが、分析者がメッセージを無視して測定を再開できるようにしてもよい。
【0032】
以上のように本実施例のエネルギー分散型蛍光X線分析装置によれば、被測定試料2が新たにセット又は交換されて該被測定試料2に対する測定が実行される毎に、その測定の一環として(予備測定の中で)、エネルギー校正の要否がチェックされ、エネルギー校正が必要な場合にはその旨の報知がなされる。したがって、分析者はエネルギー校正を実施する的確なタイミングを知ることができ、不必要なエネルギー校正作業を行うことなく、且つ、エネルギー位置ずれの大きな不適切な測定結果を取得することも防止できる。
【0033】
なお、散乱線にはレイリー散乱線にほかにコンプトン散乱線もあり、これもX線管1のターゲット元素の種類によって理論的なエネルギー位置が決まっているから、エネルギー位置ずれの判断にレイリー散乱線でなくコンプトン散乱線を利用することも不可能ではない。但し、レイリー散乱とコンプトン散乱のX線強度は被測定試料2に含まれる元素の種類に依存し、レイリー散乱は元素の種類に依らずに或る程度の強度が観測されるのに対し、コンプトン散乱は重元素に対して強度が極端に下がり、スペクトル線の検出が困難になる。したがって、被測定試料2に含まれる元素の種類を限定せずにエネルギー位置ずれの判断を行う場合には、レイリー散乱線を利用することが望ましい。一方、例えば被測定試料を重元素が含まれないような試料に限定する条件を課せば、コンプトン散乱線を用いることもできる。また、レイリー散乱線とコンプトン散乱線の両方を併用してエネルギー位置ずれの判断を行うようにすることもできる。
【0034】
また、上記実施例は一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施例であるエネルギー分散型蛍光X線分析装置の概略構成図。
【図2】本実施例の蛍光X線分析装置で取得されるX線スペクトルの一例を示す図。
【図3】本実施例の蛍光X線分析装置におけるエネルギー校正の要否の判断及び報知を中心とする動作を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0036】
1…X線管
2…試料(被測定試料)
3…X線検出器
4…プリアンプ
5…比例増幅器
6…A/D変換器
7…マルチチャンネルアナライザ(MCA)
10…データ処理部
11…スペクトル記憶部
12…ピーク検出部
13…定性/定量分析部
14…レイリー散乱線検出部
15…エネルギー判定部
20…制御部
21…操作部
22…報知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源で発生した1次X線を試料に照射し、それに応じて該試料から放出される蛍光X線をX線検出器で受けて分析するエネルギー分散型の蛍光X線分析装置において、
a)前記X線検出器により得られた検出信号に基づいて作成されるスペクトル上で、前記X線源のターゲット元素に対応したレイリー散乱によるスペクトル線又はコンプトン散乱によるスペクトル線の少なくともいずれか一方を検出する散乱線検出手段と、
b)前記散乱線検出手段による、レイリー散乱スペクトル線又はコンプトン散乱スペクトル線の少なくともいずれか一方又は両方の検出結果に基づいて、当該装置におけるエネルギー位置ずれを判断する判定手段と、
c)前記判定手段による判定結果に基づいてエネルギー校正の要否を報知する情報提供手段と、
を備えることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記判定手段は、前記X線源のターゲット元素に対応したレイリー散乱スペクトル線が検出された場合にエネルギー位置ずれが無い又は許容範囲内であると判断することを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置であって、
前記散乱線検出手段は、前記X線源のターゲット元素に対応した所定のエネルギー範囲内にスペクトル線が存在することを、レイリー散乱線及びコンプトン散乱線の検出条件の一つとすることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光X線分析装置であって、
被測定試料に対し1次X線を照射し、それに応じてX線検出器により得られた検出信号に基づいて作成されるスペクトルを利用して前記散乱線検出手段及び前記判定手段によりエネルギー位置ずれを判断し、エネルギー位置ずれが許容範囲内である場合には被測定試料に対する測定を続行する一方、エネルギー位置ずれが許容範囲を超えている場合には前記情報提供手段によりエネルギー校正の実施を促す報知を行うとともに被測定試料に対する測定を中断する測定制御手段をさらに備えることを特徴とする蛍光X線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−107261(P2010−107261A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277527(P2008−277527)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】