説明

融液からシリコン単結晶を成長させるための方法及び装置

【課題】低酸素シリコン単結晶を製造するのに適しておりかつ酸素濃度を制御するために努力をあまり必要としない方法を提供する。
【解決手段】るつぼに融液を提供し、磁界中心Cにおける磁気誘導Bを有する水平方向磁界を融液に提供し、ガスをシリコン単結晶と熱遮へい体の間を融液自由面に向かって送り、融液自由面の、実質的に磁気誘導Bに対して垂直に延びた領域上を流れるようにガスを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融液からシリコン単結晶を成長させるための方法及び装置に関する。特に、本発明は、融液に水平方向の磁界を加えながらチョクラリスキー法によって、いわゆるHMCZ法によって、シリコン単結晶を成長させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
融液に水平方向の磁界を加えることにより、融液の対流と、るつぼからのSiOの溶解とが減じられることが、例えば欧州特許出願公開第0745706号明細書から知られている。その結果、融液に水平方向に磁界を加えることは、比較的低い酸素濃度を有するシリコン単結晶を製造するための適切な方法である。
【0003】
さらに、シリコン単結晶における酸素濃度を、シリコン単結晶と熱遮へい体との間を融液自由面にまで流れる不活性ガスの流量を増加させることによって低下させることができることが知られている。増加したガスの流量は、融液から蒸発するSiOの搬送を高め、成長するシリコン単結晶に取り込まれる酸素が少なくなる。
【0004】
特開2004−196569号公報は、低酸素シリコン単結晶を製造するために水平方向磁界の軸方向位置と、ガス流の強さとを同時に制御することを含むHMCZ法を開示している。しかしながら、水平方向磁界の軸方向位置を制御するためには、複雑な制御システムが必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0745706号明細書
【特許文献2】特開2004−196569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低酸素シリコン単結晶を製造するのに適しておりかつ酸素濃度を制御するために努力をあまり必要としない方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的は、るつぼに融液を提供し、磁界中心Cにおける磁気誘導Bを有する水平方向磁界を融液に提供し、ガスをシリコン単結晶と熱遮へい体の間を融液自由面に向かって送り、融液自由面の、実質的に磁気誘導Bに対して垂直に延びた領域上を流れるようにガスを制御する、融液からシリコン単結晶を成長させる方法によって達成された。
【0008】
前記目的は、さらに、融液を保持するためのるつぼと、融液に水平方向の磁界を提供する磁気システムとが設けられており、磁界が、磁界中心Cにおいて磁気誘導Bを有しており、シリコン単結晶を包囲する熱遮へい体が設けられており、該熱遮へい体が下端部を有しており、該下端部が、融液自由面に面した底部カバーに結合されておりかつるつぼ軸線Mに関して非軸対称形状を有しており、これにより、シリコン単結晶と熱遮へい体との間を融液自由面に向かって送られるガスが、底部カバーによって、融液自由面の、実質的に磁気誘導Bに対して垂直な方向に延びた領域上を流れさせられるようになっている、融液からシリコン単結晶を成長させるための装置によって達成された。
【0009】
本発明を用いることにより、シリコン単結晶の円筒形部分の長さの少なくとも50%よりも多くにおいて、好適には少なくとも70%よりも多くにおいて、最も好適には少なくとも80%よりも多くにおいて、5・107atom/cm3(新たなASTM規格に従う)の酸素濃度を有するシリコン単結晶を成長させることができる。
【0010】
融液に提供される水平方向磁界は、主に、磁気誘導Bに対して平行に延びた融液の部分において、融液における熱対流を抑制する。本発明によれば、融液自由面へ送られるガスは、水平方向の磁界によって抑制されない熱対流により融液からのSiOの蒸発が高められる融液自由面の領域上を流れさせられる。融液自由面のこの領域上を流れるようにガスを制御することは、SiOの除去を高め、融液及びシリコン単結晶における酸素濃度を著しく低下させる。
【0011】
別の態様によれば、本発明は、300mm、450mm又はそれ以上の大きな直径を有するシリコン単結晶における酸素濃度を制御するために必要とされる不活性ガスの消費を減少させるための手段をも提供する。慣用的に、成長させられたシリコン単結晶における目標酸素濃度を達成するために必要とされる不活性ガスの流量は、単結晶の直径に依存する。例えば、200mmの直径を有する単結晶において同じ酸素濃度を維持するために必要な流量と比較して、300mmの直径を有するシリコン単結晶における所定の酸素濃度を維持するためには、アルゴンのより大きな流量が必要とされる。不十分なポンプ及び真空システム等の技術的な理由から、300mmよりも大きな直径を有するシリコン単結晶が慣用の形式で引き上げられなければならない場合、所要のガス流を提供することがますます困難になっている。しかしながら、本発明による方法を実施することにより、このような困難を回避することができる。なぜならば、慣用の方法を行うことによって同じ目標酸素濃度を達成するために必要とされる流量と比較して、単結晶において所定の目標酸素濃度を達成するために、不活性ガスのより小さな流量が必要とされるからである。
【0012】
水平方向の磁界は、一般的に、るつぼの周囲に(るつぼ軸線Mに関して)対称に配置された複数のコイルを有する磁気システムによって生ぜしめられる。請求項に記載の発明に従って定義される磁界中心Cは、コイルを半分に分割する水平面と、るつぼの軸線Mとの交点である。磁気誘導Bは、磁界中心Cにおける水平方向磁界の磁気誘導を表している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】炉の典型的な特徴を示す概略的な断面図である。
【図2】好適な実施形態による底部カバーを示す図である。
【図3】図4の断面図であり、磁気誘導Bの方向に対して平行な方向での単結晶の軸方向断面図を示している。
【図4】単結晶と、るつぼとを示す斜視図である。
【図5】矩形の縁区分を示す図である。
【図6】丸み付けられた端部を有する矩形の縁区分を示す図である。
【図7】楕円形の縁区分を示す図である。
【図8】楕円形に広がった端部を有する縁区分を示す図である。
【図9】シリコン融液自由面の上面を示す図である。
【図10】シリコン融液自由面の上面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、HMCZ法によるシリコン単結晶を成長させるために適した炉の典型的な特徴と、請求項に記載の発明の特徴とを示す概略的な図である。
【0015】
融液(メルト)2を保持するるつぼ1はハウジング3内に配置されており、持上げ軸4に載置されている。単結晶5は、水平方向の磁界が融液に加えられながら、引上げ機構16によって融液から引き上げられる。単結晶を包囲する熱遮へい体6が、るつぼ1を包囲して配置されたサイドヒータ7から放射される熱放射からるつぼを保護するために設けられている。好適な実施形態によれば、るつぼの下方には別のヒータ18が配置されている。ハウジングは、ガス入口を通ってハウジングに進入しかつ多数のガス排出開口17を通ってハウジングから流出するガスによって、定期的にパージされる。ガスは、単結晶と熱遮へい体との間を融液自由面8に向かって送られ、さらに、融液自由面から熱遮へい体とるつぼ壁部との間を通ってガス排出開口17へ送られる。ガスは、好適には、シリコン単結晶と熱遮へい体との間を、融液自由面へ、中心軸線Mに関して非軸対称に送られる。るつぼの周囲に対称に配置されたコイル9によって磁界が発生される。水平方向の磁界の磁界中心Cは、コイルを半分に分割する水平面と、るつぼの中心軸線Mとの交点によって表されている。磁界中心における磁気誘導は磁気誘導Bによって表されている。本発明によれば、熱遮へい体6は、熱遮へい体の下端部に結合された、例えばねじによって固定された、底部カバー10を有している。底部カバー10は融液に面している。底部カバーは、るつぼの中心軸線Mに関して非軸対称であり、ガスが、融液自由面の、磁気誘導Bに対して実質的に垂直な方向に延びた領域上を流れるように制御するためのツールとして、すなわち、ガスが、中心軸線Mに関して非軸対称に融液自由面上を流れるように制御するためのツールとして働く。本発明の好適な実施形態によれば、熱遮へい体は、熱遮へい体の回転を可能にする形式で支持体に取り付けられている。熱遮へい体と、熱遮へい体に取り付けられた底部カバーとを回転させることにより、融液自由面の領域上を流れるガスをより正確に制御することができる。熱遮へい体を左(右)へ回転させることにより、ガス流が左(右)へ案内される。融液自由面の、磁気誘導Bに対して実質的に垂直な方向に延びた領域上を流れるガスを促進するために、排出開口17がるつぼ軸線Mに関して非軸対称に配置されていることも好適である。
【0016】
図2は、好適な実施形態による底部カバーを示している。底部カバーは、環区分11と、縁区分12と、カラー区分13とを有している。縁区分は、平坦であるか、凸状又は凹状に曲げられていることができる。環区分は、シリコン単結晶が引き上げられることができるように十分な大きさの内径を有している。縁区分は環区分から水平に延びており、カラー区分は、縁区分の外縁部に結合されており、融液に向かって鉛直方向に延びている。
【0017】
本発明の効果を、図3及び図4を参照して以下に説明する。図3は、図4の断面図であり、磁気誘導Bの方向に対して平行な方向での単結晶の軸方向断面図を示している。主に単結晶5と、るつぼ1と、融液2と、底部カバー10とが示されている。矢印"Si"は融液対流の方向を示している。矢印"Ar"は、ガス、例えばアルゴン等の不活性ガスの流れ方向を示しており、このガスは、最初は熱遮へい体(図示せず)と単結晶との間を融液自由面8に向かって送られる。
【0018】
底部カバー10は、単結晶と熱遮へい体との間を融液自由面に向かって送られるガスが、融液自由面の、磁気誘導Bに対して実質的に垂直な方向に延びた領域上を流れさせられるように、非軸対称に成形されている。この領域においては、融液における熱対流"Si"が水平方向の磁界によって影響されにくいのでSiOの蒸発率が高められ、ガス流"Ar"がこの領域において融液から蒸発するSiOを容易に除去する。
【0019】
この領域は、好適には、45゜〜135゜の中心角を有する融液自由面の扇形の範囲に延びており、扇形の中心軸線Dは磁気誘導Bに対して垂直に整合させられているか、又はるつぼの回転の影響により、磁気誘導Bに対して垂直に整合した状態から±30゜までずらされている。
【0020】
縁区分12と、カラー区分13と、融液自由面8と、シリコン単結晶5とは、チャネル14の境界を形成しており、このチャネル14は、ガスがカラー区分の内壁に沿ってカラー区分における開口15に向かって流れるように、ガスを制御する。底部カバーは、開口15から流出したガスが、融液自由面の、磁気誘導Bに対して実質的に垂直な方向に延びた領域上を流れるように配置されている。縁区分12と、カラー区分13とは、好適には、磁気誘導Bに対して横方向に延びるように成形されている。これにより、ガスがより高い速度で融液自由面と縁区分との間を流れ、融液からのSiOの除去率をさらに高める。
【0021】
図5から図8までは、好適な実施形態による縁区分の形状を示している。縁区分は、矩形(図5)又は楕円形(図7)であってよいか、又は丸み付けられた端部を有する矩形(6)又は楕円形に広がった端部を有する矩形(図8)であってよい。縁区分が磁気誘導Bに対して横方向に拡大されている場合、縁区分の長さLと幅Wとの比L/Wは、好適には、式:1.1<L/W<3.0を満たす。長さLと幅Wとは環区分11の中心において交差する。
【0022】
底部カバーは、好適には、シリコン単結晶の成長境界面における軸方向温度勾配に対する底部カバーの影響をできるだけ小さくしかつ融液から放出される熱放射の吸収による消費電力を低減するように、設計されている。この理由から、底部カバーは、好適には、実質的に磁気誘導Bの方向に延びていないように成形されている。底部カバーを構成するための好適な材料は黒鉛である。
【0023】
図9及び図10は、シリコン融液の上面を示す図であり、結晶及び熱遮へい体は示されていない。扇形の中心軸線Dが、磁気誘導Bに対して垂直に整合しているか又は垂直に整合した状態から±30゜までの角度βだけずれていることが示されている。角度βの代数記号は、るつぼの回転方向、すなわち時計回り(図10)又は反時計回り(図9)に依存する。
【符号の説明】
【0024】
1 るつぼ、 2 融液、 3 ハウジング、 4 持上げ軸、 5 単結晶、 6 熱遮へい体、 7 サイドヒータ、 8 融液自由面、 9 コイル、 10 底部カバー、 11 環区分、 12 縁区分、 13 カラー区分、 14 チャネル、 15 開口、 16 引上げ機構、 17 ガス排出開口、 18 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融液からシリコン単結晶を成長させる方法において、
るつぼに融液を提供し、
磁界中心Cにおける磁気誘導Bを有する水平方向磁界を融液に提供し、
ガスをシリコン単結晶と熱遮へい体の間を融液自由面に向かって送り、
融液自由面の、実質的に磁気誘導Bに対して垂直に延びた領域上を流れるようにガスを制御することを特徴とする、融液からシリコン単結晶を成長させる方法。
【請求項2】
前記領域が、45゜〜135゜の中心角αを有する融液自由面の扇形を形成しており、該扇形が、磁気誘導Bに対して垂直に整合した又は磁気誘導Bに対して垂直に整合した状態から±30゜までずれた方向で整合した中心軸線Dを有している、請求項1記載の方法。
【請求項3】
熱遮へい体を回転させることによって融液自由面の前記領域上を流れるようにガスを制御する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
実質的に磁気誘導Bに対して垂直な方向にガスをるつぼから追い出す、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
融液からシリコン単結晶を成長させるための装置において、
融液を保持するためのるつぼと、
融液に水平方向の磁界を提供する磁気システムとが設けられており、磁界が、磁界中心Cにおいて磁気誘導Bを有しており、
シリコン単結晶を包囲する熱遮へい体が設けられており、該熱遮へい体が下端部を有しており、該下端部が、融液自由面に面しておりかつるつぼ軸線Mに関して非軸対称形状を有する底部カバーに結合されており、これにより、シリコン単結晶と熱遮へい体との間を融液自由面に向かって送られるガスが、底部カバーによって、融液自由面の、実質的に磁気誘導Bに対して垂直な方向に延びた領域上を流れさせられるようになっていることを特徴とする、融液からシリコン単結晶を成長させるための装置。
【請求項6】
前記領域が、45゜〜135゜の中心角αを有する融液自由面の扇形を形成しており、該扇形が、磁気誘導Bに対して垂直に整合した又は磁気誘導Bに対して垂直に整合した状態から±30゜までずれた方向に整合した中心軸線Dを有している、請求項5記載の方法。
【請求項7】
底部カバーが、縁区分とカラー区分とによって包囲された環区分を有しており、縁区分とカラー区分とがチャネルを形成しており、該チャネルが、ガスを融液自由面の前記領域へ送るための開口を有している、請求項5記載の装置。
【請求項8】
縁区分が、磁気誘導Bに対して横方向に延びており、矩形、楕円形、丸み付けられた端部を有する矩形、又は楕円形に広がった端部を有する矩形である、請求項7記載の装置。
【請求項9】
縁区分が、環区分の中心において交差する長さL及び幅Wを有しており、比L/Wが、式:1.1<L/W<3.0を満たしている、請求項7又は8記載の装置。
【請求項10】
融液自由面の、実質的に磁気誘導Bに対して垂直に延びた前記領域上にガスを流れさせるために、るつぼの軸線Mに関して非軸対称に配置されたガス排出開口が設けられている、請求項5又は6記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−265168(P2010−265168A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−109256(P2010−109256)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】