説明

蟻酸の製造方法および製造装置

【課題】毒性の低い二酸化炭素を原料として、工業的に蟻酸を製造することが可能な蟻酸の製造方法およびそれに用いられる製造装置を提供する。
【解決手段】反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器を用い、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を生成させる。
また、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、ニッケル粉末またはニッケル合金粉末を触媒として、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を生成させる。
また、pH8.2〜13.2の条件で炭酸水素塩および/または炭酸塩を水素と反応させる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、蟻酸の製造方法および蟻酸の製造装置に関し、詳しくは、炭酸水素塩および炭酸塩(二酸化炭素)と水素から蟻酸を製造する方法とそれに用いられる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化学工業において蟻酸は基礎原材料として有用であり、蟻酸を出発原料とする種々の化学製品が、プラスチック、医薬品、農薬等の分野で広く用いられている。
【0003】
従来からの蟻酸の製造方法としては、一酸化炭素と水酸化ナトリウムあるいは水酸化カルシウムを反応させる方法が知られている。しかし、これらの方法は毒性の高い一酸化炭素が原料として用いられるため、安全上好ましくなく、二酸化炭素を原料とする新たな製造方法の開発が進められてきた。
【0004】
そして、二酸化炭素と水素から蟻酸を製造する方法としては、
(1)有機溶媒中で各種遷移金属および遷移金属錯体などを触媒として、二酸化炭素と水素を反応させて蟻酸を製造する方法、
(2)8族遷移金属錯体と塩基性物質の存在下で、超臨界状態の二酸化炭素と水素を反応させる方法
などが知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0005】
そして、上記(1)および(2)の方法では生成物である蟻酸の分解を押さえるため、比較的低温で反応が行われる。
しかしながら、上記(1)および(2)の方法では、生成物である蟻酸と触媒および有機溶媒の分離に煩雑な操作を必要とし、コストの増大を招くという問題点がある。
【0006】
また、上記(1)および(2)の方法は、いずれも、反応速度が必ずしも十分ではなく、しかも、二酸化炭素から蟻酸への転換率が小さいため、工業的生産には実用的でないという問題点がある。
【特許文献1】特開平7−173098号公報
【特許文献2】特開平7−330666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、上記課題を解決するものであり、毒性の低い二酸化炭素を原料として、工業的に蟻酸を製造することが可能な蟻酸の製造方法およびそれに用いられる製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願発明(請求項1)の蟻酸の製造方法は、反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器を用い、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を生成させることを特徴としている。
【0009】
また、本願発明(請求項2)の蟻酸の製造方法は、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、ニッケル粉末またはニッケル合金粉末を触媒として、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を生成させることを特徴としている。
【0010】
また、本願発明(請求項3)の蟻酸の製造方法は、燃焼排ガス中に含まれる炭酸ガスをアルカリ水溶液に吸収させ、生成した炭酸水素塩および/または炭酸塩を原料とし、反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器を用い、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を生成させることを特徴としている。
【0011】
また、本願発明(請求項4)の蟻酸の製造方法は、燃焼排ガス中に含まれる炭酸ガスをアルカリ水溶液に吸収させ、生成した炭酸水素塩および/または炭酸塩を原料とし、ニッケル粉末またはニッケル合金粉末を触媒として、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜 350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を生成させることを特徴としている。
【0012】
また、請求項5の蟻酸の製造方法は、pH8.2〜13.2の条件で炭酸水素塩および/または炭酸塩を水素と反応させることを特徴としている。
【0013】
また、本願発明(請求項6)の蟻酸の製造装置は、
炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を製造するための装置であって、
炭酸水素塩および/または炭酸塩を水素と反応させるための反応容器として、反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器を備えていること
を特徴としている。
【0014】
また、本願発明(請求項7)の蟻酸の製造装置は、
燃焼排ガス中に含まれる炭酸ガスをアルカリ水溶液に吸収させる吸収手段と、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させるための反応容器であって、反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器と
を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本願発明(請求項1)の蟻酸の製造方法は、反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器を用い、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を生成させるようにしているので、従来のように毒性の高い一酸化炭素を原料として用いることなく、安全な二酸化炭素を原料として蟻酸を製造することが可能になる。
すなわち、反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器を用い、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させるようにしているので、二酸化炭素から効率よく蟻酸を生成させることが可能になり、安全な原料を用いて、蟻酸を効率よく工業的に製造することが可能になる。
また、反応後の、蟻酸(蟻酸ナトリウムなどの蟻酸塩)の分離・精製は、工業的には、例えば生成する蟻酸ナトリウムを酸(硫酸など)で中和した後、共沸蒸留(4HCOOH・3H2O:bp=107℃)や二段階蒸留などの方法により行うことが可能である。
また、蟻酸ナトリウムは水に対する溶解度が高い(0℃で44g/100gH2O)ため、高濃度の蟻酸ナトリウム溶液とした後に蟻酸ナトリウムとして回収する方法も適切な方法であると考えられる。そして、回収した蟻酸ナトリウムを中間体として、蟻酸を得るか、または他の反応に用いることが望ましいと考えられる。
【0016】
なお、有機溶媒や水に対する二酸化炭素ガスの溶解度は小さいことから、本願発明では、アルカリ水溶液に二酸化炭素を固定して(すなわち、二酸化炭素が炭酸水素塩および/または炭酸塩溶液として溶解した状態で)、反応を行わせることにより、効率よく蟻酸を生成させることができるようにしている。
【0017】
また、本願発明においては、アルカリ性水溶液としては水酸化ナトリウムをアルカリとする水溶液を用いることが好ましいが、アルカリ水溶液は水酸化ナトリウム水溶液に限定されるものでなく、炭酸水素塩および炭酸塩の溶解した溶液がアルカリ性を示すような種々のアルカリを用いることが可能であり、水酸化ナトリウムに変えて水酸化カリウムを用いることも可能である。
【0018】
なお、本願発明では、通常、100℃以上で、かつ、水が超臨界状態になる温度(374℃)より低い温度条件で反応を行わせることが望ましいが、これは、100℃未満の条件温度では、反応効率が不十分になり、また、374℃以上(超臨界状態)にしようとすると、いたずらに設備コストやランニングコストの増大を招く結果になることによる。
【0019】
また、本願発明(請求項2)の蟻酸の製造方法のように、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、ニッケル粉末またはニッケル合金粉末を触媒として、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させるようにした場合にも、本願請求項1の蟻酸の製造方法の場合と同様に、安全な二酸化炭素を原料として効率よく蟻酸を製造することが可能になる。
【0020】
また、本願発明(請求項3)の蟻酸の製造方法は、燃焼排ガス中に含まれる炭酸ガスをアルカリ水溶液に吸収させ、生成した炭酸水素塩および/または炭酸塩を原料として用い、反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器において、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを反応させるようにしているので、燃焼排ガスに含まれる炭酸ガスから効率よく蟻酸を生成することが可能になるとともに、炭酸ガスの排出量を減らして、環境への負荷を軽減することが可能になる。
【0021】
また、本願発明(請求項4)の蟻酸の製造方法のように、燃焼排ガス中に含まれる炭酸ガスをアルカリ水溶液に吸収させ、生成した炭酸水素塩および/または炭酸塩を原料とし、ニッケル粉末またはニッケル合金粉末を触媒として、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を生成させるようにした場合にも、燃焼排ガスに含まれる炭酸ガスから効率よく蟻酸を生成することが可能になるとともに、大気への炭酸ガスの排出量を減らして、環境への負荷を軽減することが可能になる。
【0022】
また、請求項5の蟻酸の製造方法のように、pH8.2〜13.2の条件で炭酸水素塩および/または炭酸塩を水素と反応させることにより、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを効率よく反応させることが可能になり、蟻酸を効率よく製造することが可能になる。
なお、pH8.2〜13.2という条件は、反応工程の主要部で確保されていればよく、反応工程の一部で上記pH範囲を外れることが許容される場合もあるが、可能であれば反応開始から反応終了まで確保されていることが望ましい。
【0023】
また、本願発明(請求項6)の蟻酸の製造装置は、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を製造するための装置において、炭酸水素塩および/または炭酸塩を水素と反応させるための反応容器として、反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器を備えているので、特に触媒を用いることなく、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを効率よく反応させることが可能になり、極めて効率よく蟻酸を製造することが可能になる。
【0024】
また、本願発明(請求項7)の蟻酸の製造装置は、燃焼排ガス中に含まれる炭酸ガスをアルカリ水溶液に吸収させる吸収手段と、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させるための反応容器であって、反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器とを備えているので、燃焼排ガス中に含まれる炭酸ガスから、特に触媒を用いることなく、効率よく蟻酸を製造することが可能になるとともに、大気への炭酸ガスの排出量を減らして、環境への負荷を軽減することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本願発明の実施例を示して、本願発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0026】
図1は、本願発明の蟻酸の製造方法を実施するのに用いた製造装置の構成を示す図、図2はその要部(反応装置)を示す図である。
【0027】
この反応装置は、アルカリ性水溶液中で、炭酸水素塩および/または炭酸塩を水素と反応させる反応装置(オートクレーブ)1と、誘導加熱法により反応装置を加熱する加熱手段(銅コイル)2と、反応装置が収容されるケーシング3と、ケーシング3に取り付けられた軸4を回転可能に保持する支持機構部5と、支持機構部5により支持された軸4を回転させることによりケーシングとともに、反応装置1を揺動させるための駆動手段6とを備えている。
【0028】
また、軸4には、ケーシング3内に冷却水を供給する配管7が配設されている。また、加熱手段(銅コイル)2には、軸4内を通過するように配設された導線8を介して電力の供給を行うことができるように構成されている。
さらに、駆動手段6は、モータ9、変速ギア10、動力伝達レバー11などを備えている。
【0029】
そして、反応装置1は、図2に示すように、高圧バルブ21、水素ガスを導入するためのガス導入管22、温度測定用の熱電対を挿入する熱電対孔23、反応容器24、反応容器24を封止するためのコーン25を備えており、反応容器24の内部には内容物を撹拌するための撹拌ボール26が投入されている。
【0030】
また、反応容器24の内壁はニッケル合金であるハステロイC(商品名)で形成されている。なお、この実施例の反応容器24の内容積は45mlである。
【0031】
次に、上述のように構成された装置を用いて蟻酸を製造する方法について説明する。
(1)反応容器24に、NaHCO3(5.5mmol)と水(31.5ml)を仕込んだ。このNaHCO3水溶液のpHは9.1であった。
(2)それから、反応容器24内の空気を、窒素ガスにて置換するとともに、窒素ガス5.5mmolと、水素ガス27.5mmolを供給し、反応容器24内に封入した。
(3)次に、150〜350℃の範囲内の所定の温度になるまで、反応容器24の内部を急速に昇温した後、駆動手段6により反応装置1を揺動させながら3時間の反応を行わせた。
なお、反応温度と反応終了後のpHの関係は以下の通りであった。
反応温度:150℃ → 反応終了後のpH: 9.7
反応温度:200℃ → 反応終了後のpH: 9.8
反応温度:250℃ → 反応終了後のpH:10.2
反応温度:300℃ → 反応終了後のpH:10.3
【0032】
反応終了後、液体クロマトグラフを用いて、生成した蟻酸(蟻酸ナトリウム)を定量した。
その結果を図3に示す。
【0033】
図3において、□:HCO3-は未反応の炭酸水素塩の量(割合)、○:HCOO-は生成した蟻酸の量(割合)(=収率)を示す。
図3に示すように、温度が約270℃付近で蟻酸の収率(二酸化炭素ガスの蟻酸への転換率)は最大になり、温度がそれより低くなっても、高くなっても、蟻酸の収率が下がることが確認された。
【0034】
また、比較のため、NaHCO3の代わりに、相当する量の二酸化炭素ガスを加圧して、水(アルカリを含まない水)の存在下に、上記実施例の場合と同じ条件で反応を行わせた後、蟻酸の収率(二酸化炭素ガスの蟻酸への転換率)を調べた。
その結果、蟻酸の収率(二酸化炭素ガスの蟻酸への転換率)は1%以下と低いことが確認された。
この比較例と上記実施例の結果より、本願発明のように、NaHCO3を原料とした場合には、非常に高い収率で蟻酸が得られることがわかる。
【実施例2】
【0035】
この実施例2では、表1の試験番号1〜5に示すように、反応溶液の条件を変えて、蟻酸の収率を調べた。
【0036】
【表1】

【0037】
すなわち、この実施例2では、5.5mmolとなるような量のCO2、NaHCO3、Na2CO3を二酸化炭素原料とし、
(1)試験番号1のように、0.01N(規定)のHCl水溶液にCO2を加圧(溶解)した溶液を反応液とする条件、
(2)試験番号2のように、CO2を加圧(溶解)した水を反応液とする条件、
(3)試験番号3のように、NaHCO3を溶解した水を反応液とする条件、
(4)試験番号4のように、Na2CO3を溶解した水を反応液とする条件、
(5)試験番号5のように、1N(規定)のNaOH水溶液にNa2CO3を溶解した溶液を反応液とする条件
の各条件で、窒素ガス5.5mmolと、水素ガス27.5mmolを反応容器内に封入して、300℃で3時間の反応を行わせた。
なお、表1のpHは、反応終了後の反応液のpHを示している。
【0038】
試験番号1(反応終了後の反応液のpH=6.2)および試験番号2(反応終了後の反応液のpH=6.4)の条件の場合、反応後にも、気相中に二酸化炭素が存在し、蟻酸への転換率が低いことが確認された。なお、試験番号1の条件で反応させた場合に、反応後にpHが6.2になるのは、HClが反応容器を腐食して消費されたためである。
また、反応液が強アルカリ性である試験番号5(反応終了後の反応液のpH=13.8)の場合も、蟻酸の収率(蟻酸への転換率)が低いことが確認された。
一方、試験番号3(反応終了後の反応液のpH=9.1)、および試験番号4(反応終了後の反応液のpH=12.8)の場合、蟻酸への転換率が高く、反応がよく進行していることが確認された。
【0039】
この結果より、反応液のpH(反応終了後のpH)が9.1〜12.8の範囲にある場合には、効率よく蟻酸を製造することが可能になることが確認された。
なお、表1以外の条件でも同様の試験を行った結果、反応液のpH(反応後のpH)が8.2〜13.2の範囲となるようにすることが好ましいことが確認された。
【実施例3】
【0040】
この実施例3では、反応容器として、反応液が接する内壁を含めて全体がニッケル合金であるハステロイCから形成されたものを用いた場合と、反応容器として、反応液が接する内壁がポリテトラフルオロエチレン樹脂であるものを用いた場合について、蟻酸の収率を調べた。
【0041】
具体的には、CO2として、5.5mmolとなるような量のNaHCO3を二酸化炭素の原料とし、pH=9.1の条件で、窒素ガス5.5mmolと、水素ガス27.5mmolを反応容器内に封入して、表2の試験番号6,7,8に示すような温度条件および反応時間で反応を行わせた。その結果を表2に併せて示す。
なお、試験番号6では、反応液が接する内壁を含む全体がニッケル合金であるハステロイCから形成された反応容器を用い、試験番号7,8では、高温・高圧下で使用することが可能なポリテトラフルオロエチレン樹脂製容器を用いた。
【0042】
また、上記のポリテトラフルオロエチレン樹脂製加圧分解容器は外部から水素を圧入することができない構造であったことから、試験番号7ではFe粉30mmolを添加し、以下の反応によって水素ガスを発生させた。
3Fe+4H2O → Fe34+4H2
また、試験番号8ではAl粉25mmolを添加し、以下の反応によって水素ガスを発生させた。
2Al+H2O → 2AlO(OH)+3H2
なお、試験番号7および8では、N2ガスが反応に関与しないと考えられることから、N2ガスは特に導入しなかった。
試験番号7および8では、反応終了後に、未反応のFeとAlが一部残存していたが、多量のFe34(マグネタイト)、およびAlO(OH)(ベーマイト)の生成が確認されており、これは、上述の水素発生の反応が生成したことを裏付けている。
ただし、ニッケル合金であるハステロイCから形成された反応容器を用いた試験番号6の場合には、特に添加剤(触媒)は添加せずに反応を行わせた。
【0043】
【表2】

【0044】
表2より、反応液が接する内壁がポリテトラフルオロエチレン樹脂である反応容器を用いた試験番号7および8では、長時間(100時間)の反応を行わせた場合にも、蟻酸の生成は認められなかった。
一方、ニッケル合金であるハステロイCから形成された反応容器を用いて反応を行わせた試験番号6の場合には、蟻酸転換率が約20%で、効率よく二酸化炭素を蟻酸に転換できることが確認された。
【実施例4】
【0045】
この実施例4では、CO2として、5.5mmolとなるような量のNaHCO3を二酸化炭素の原料とし、これを純水に溶解して用い、窒素ガス5.5mmolと、水素ガス27.5mmolを、ニッケル合金からなる反応容器に投入して、150〜350℃の範囲内の所定の温度で3時間の反応を行わせる場合において、
(1)触媒として2mmolのニッケル粉末(ニッケル金属粉末)を添加した場合、および、
(2)触媒としてニッケル−アルミニウム合金を苛性アルカリで処理して得られるラネーニッケル触媒を2mmol添加した場合
における反応生成物の種類や反応の進行状態などを調べた。
ニッケル粉末を触媒として用いた場合の結果を図4に、ラネーニッケル触媒を用いた場合の結果を図5にそれぞれ示す。
【0046】
図4に示すように、ニッケル粉末を触媒として使用した場合、蟻酸への転換率は低温から増加しており、ニッケル粉末が優れた触媒効果を発揮することが確認された。なお、この実施例4においては、ニッケル合金からなる反応容器を用いていることから、図4に示す結果は、添加したニッケル粉末からの触媒作用のみではなく、容器を構成するニッケル合金の触媒作用をも受けたものである。
この実施例4ではニッケル粉末を触媒として用いているが、ニッケル粉末に限らずニッケル合金(例えばハステロイC(商品名)、ハステロイB(商品名)、インコネル(商品名)、モネル(商品名)など)の粉末を添加した場合にも、同様の触媒効果が得られることが確認されている。
【0047】
一方、ラネーニッケル触媒を使用した場合には、図5に示すように、低温(200℃以下)では蟻酸への転換率が高くなるが、200℃を超える高温ではメタン(CH4)への転換率が高く、ニッケル粉末を触媒として使用した場合よりも蟻酸の収率が低くなることが確認された。したがって、ラネーニッケル触媒を用いる場合には、200℃を超えない温度領域で反応を行わせることが望ましい。
なお、図5に示す結果も、添加したラネーニッケル粉末からの触媒作用のみではなく、容器を構成するニッケル合金の触媒作用をも受けたものである。
【0048】
[本願発明の工業化について]
図6は、本願発明の蟻酸の製造方法を工業化した場合の概念を示す図である。
発電所や製鉄所など、熱源を必要とする工場は、重油や石炭を燃焼させており、多量の二酸化炭素を排出している。この二酸化炭素から蟻酸を製造する方法として、例えば、図6に示すような方法が示される。
【0049】
すなわち、工場31から発生する炭酸ガスを、吸収手段(吸収装置)32においてアルカリ(NaOH)水溶液(吸収液)により吸収し、蟻酸の原料となる炭酸水素塩および/または炭酸塩を得る。
この原料を、水素ガスとともに、反応液と接する部分がニッケル合金材料(ハステロイCなど)からなる反応容器24を備えた反応装置1に導入し、工場31からの廃熱を利用して、反応容器24を加熱して水熱反応を行わせ、蟻酸を生成させる。
そして、反応容器24で反応させた後の反応液を気液分離手段34において気液分離し、蟻酸を回収するとともに、蟻酸を回収した後のアルカリ性の残液の一部を吸収手段32における炭酸ガスの吸収液として再利用し、さらにアルカリ性の残液の一部を反応容器24に戻して反応に供する。
また、反応装置1における高温の廃液などは工場31に戻して熱回収を行う。
【0050】
上述のような構成とすることにより、工場から発生する燃焼排ガス中の炭酸ガスを原料として、安全に、しかも、効率よく蟻酸を製造することが可能になる。また、大気への炭酸ガスの排出量を減らして、環境への負荷を軽減することが可能になる。
【0051】
なお、本願発明は、上記実施例に限定されるものではなく、温度、圧力、時間などの反応条件、原料中の炭酸水素塩と炭酸塩の割合、水素の添加量、触媒の種類や反応容器を構成するニッケル材料の種類などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
上述のように、本願発明は、反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器を用い、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を生成させるようにしているので、従来のように毒性の高い一酸化炭素を原料として用いることなく、安全な二酸化炭素を原料として蟻酸を製造することが可能になる。
また、ニッケル粉末またはニッケル合金粉末を触媒として用いた場合にも、効率よく二酸化炭素から蟻酸を生成させることが可能になる。
したがって、本願発明は、例えば、工場から発生する二酸化炭素などを原料として蟻酸を製造する方法として、広く用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本願発明の蟻酸の製造方法を実施するのに用いた装置の構成を示す図である。
【図2】本願発明の蟻酸の製造方法を実施するのに用いた装置の要部(反応装置)を示す図である。
【図3】ニッケル合金であるハステロイCからなる反応容器を用いて反応を行わせた場合の、反応温度と蟻酸の生成率の関係を示す線図である。
【図4】ニッケル粉末(ニッケル金属粉末)を触媒として用いて、本願発明の蟻酸の製造方法を実施した場合の、反応温度と蟻酸などの生成率の関係を示す線図である。
【図5】ラネーニッケル触媒を用いた場合の、反応温度と蟻酸などの生成率の関係を示す線図である。
【図6】本願発明の蟻酸の製造方法を工業化した場合の概念を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 反応装置(オートクレーブ)
2 加熱手段(銅コイル)
3 ケーシング
4 軸
5 支持機構部
6 駆動手段
7 配管
8 導線
9 モータ
10 変速ギア
11 動力伝達レバー
21 高圧バルブ
22 ガス導入管
23 熱電対孔
24 反応容器
25 コーン
26 撹拌ボール
31 工場
32 吸収手段(吸収装置)
34 気液分離手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器を用い、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を生成させることを特徴とする蟻酸の製造方法。
【請求項2】
炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、ニッケル粉末またはニッケル合金粉末を触媒として、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を生成させることを特徴とする蟻酸の製造方法。
【請求項3】
燃焼排ガス中に含まれる炭酸ガスをアルカリ水溶液に吸収させ、生成した炭酸水素塩および/または炭酸塩を原料とし、反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器を用い、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を生成させることを特徴とする蟻酸の製造方法。
【請求項4】
燃焼排ガス中に含まれる炭酸ガスをアルカリ水溶液に吸収させ、生成した炭酸水素塩および/または炭酸塩を原料とし、ニッケル粉末またはニッケル合金粉末を触媒として、炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を生成させることを特徴とする蟻酸の製造方法。
【請求項5】
pH8.2〜13.2の条件で炭酸水素塩および/または炭酸塩を水素と反応させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の蟻酸の製造方法。
【請求項6】
炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させて蟻酸を製造するための装置であって、
炭酸水素塩および/または炭酸塩を水素と反応させるための反応容器として、反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器を備えていること
を特徴とする蟻酸の製造装置。
【請求項7】
燃焼排ガス中に含まれる炭酸ガスをアルカリ水溶液に吸収させる吸収手段と、
炭酸水素塩および/または炭酸塩と水素とを、アルカリ性水溶液中において、温度:100〜350℃、圧力:大気圧〜40MPaの条件で反応させるための反応容器であって、反応液が接する部分の少なくとも一部がニッケルおよび/またはニッケル合金から形成された反応容器と
を備えていることを特徴とする蟻酸の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−70005(P2006−70005A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258869(P2004−258869)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(504338922)
【出願人】(390036663)木村化工機株式会社 (27)
【Fターム(参考)】