説明

血液試料中に存在し得る微生物からのデオキシリボ核酸(DNA)の抽出方法

本発明は、血液試料中に存在し得る微生物からデオキシリボ核酸(DNA)を抽出する方法に関し、前記方法は、i)0.01μm〜50μm、特に0.1μm〜10μm、とりわけ0.2μm〜1μmの孔径を有する濾過膜を通して血液試料を濾過する工程、ii)前記濾過膜を洗浄する工程、及び、iii)前記濾過膜上に存在し得る微生物からデオキシリボ核酸を抽出する工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液試料中に存在する微生物の検出及び同定の分野に関する。特に、血液試料中に存在する微生物から、それらを同定する目的でデオキシリボ核酸(DNA)を抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液試料中に存在する微生物の検出、及び/又は同定、及び/又は濃度の測定を可能にする単純かつ迅速な方法の開発は、特に健康分野において主要な課題である。
現在、分子生物学的方法、特にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術が急速に発展している。
【0003】
その理由は、これらの技術が微生物の同定及び/又は定量に対して優れた検出感度及び特異性を提供するためである。しかし、血液試料に対するこれらの分子生物学的方法、特にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の適用は、特に検出感度及び実施の点で困難である。
【0004】
その理由は、血液試料が分子生物学的技術、特にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を妨げる物質からなるためである。
これらの妨害物質はDNA抽出方法を妨害し、かつ/又は細胞のデオキシリボ核酸(DNA)を分解し、かつ/又は、酵素、特に様々な分子生物学的技術に用いられるポリメラーゼの活性を阻害し得る。
【0005】
特に全血に存在し、特にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を妨げるそれらの物質の例には、カルシウムイオン、ヘモグロビン、ラクトフェリン、ヘミン、尿素及び血液ヘパリンが挙げられる(Al−Soud W.A.and Radstrom P.2001.Purification and characterization of PCR−inhibitory components in blood cells.J Clin Microbiol 39:2:485−493)。したがって、血液試料中に存在する微生物から、それらを検出及び/又は同定する目的でDNAを抽出する方法が依然必要とされている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の発明者らは、上述の課題を完全に又は部分的に解決する特定の方法を発見した。
第1の態様によれば、本発明の目的は血液試料中に存在する微生物からDNAを抽出する方法にあって、前記方法は、
i)0.01μm〜50μm、特に0.1μm〜10μm、とりわけ0.2μm〜1μmの孔径を有する濾過膜を通して血液試料を濾過する工程、
ii)前記濾過膜を洗浄する工程、
iii)前記濾過膜上に存在する微生物からデオキシリボ核酸を抽出する工程
からなる。
【0007】
本発明において「血液試料」とは、その中に存在する赤血球及び/又は血小板の量を低下かつ/又は除去する目的で処理された全血又は血液培養物試料を意味する。
血液試料中に存在する赤血球及び/又は血小板の量を低下かつ/又は除去する目的で前記試料を処理する工程は、当業者に周知の技術によって実施され得る。
【0008】
そのような技術の例には、PCT出願の国際公開第03/025207号パンフレットに開示される
・血小板抗原の特異的抗体等の凝集剤を用いた血小板凝集法に続き、処理された試料の濾過を行うこと、
・レクチン等の凝集剤を用いた赤血球の凝集法に続き、処理された試料の濾過を行うこと
が挙げられる。
【0009】
全血試料は、例えば注射器に装着された針を用い、特に個人の前腕又は肘窩の静脈に挿入する技術等の、当業者に周知の技術によって得ることができる。ヒト又は被験動物から得られ、特に抗血液凝固剤、特にEDTA、クエン酸ナトリウム又はヘパリンの下で採取される1〜10mlの血液試料が、本発明による方法を実施するために十分である。
【0010】
血液培養物試料は、ヒト又は被験動物から採取された全血を、微生物の成長に適した培養培地に播種した後に得られる。
本発明の方法に適用される濾過膜は、当業者の一般知識に照らして容易に特定され得る。
【0011】
特に、本発明による濾過膜は、ポリフッ化ビニリデン製、ポリエステル製、ナイロン製、ポリプロピレン製、ポリカーボネート製、及びポリエーテルスルホン製の膜からなる群より選択され、特にポリフッ化ビニリデン製である。
【0012】
好ましくは、前記濾過膜はセルロース系ではない。
本発明による方法の濾過工程i)は、当業者に周知の装置及び濾過支持体、特に米国特許出願公開第2004/0208796号明細書に開示されるような支持体を用いて行われ得る。
【0013】
工程ii)において、「洗浄」とは、前記濾過膜上に溜まった不純物の量を減少させ、かつ、前記微生物の少なくともいくつかを前記膜上に保持する工程を意味する。
前記不純物は、特に分子生物学的技術を妨げる物質であり(Wilson J.G.1997.Inhibition and Facilitation of Nucleic Acid Amplification.Appl Environ Microbiol 63:10:3741−3751)、特に、
・血漿タンパク質、免疫グロブリンG(Al−Soud W.A.,Jonsson L.J.,and Radstrom P.2000.Identification and characterization of immunoglobulin G in blood as a major inhibitor of diagnostic PCR.J Clin Microbiol 38:1:345−350)、
・酵素(プロテアーゼ)、
・ポリアミン類、
・ポリアネトールスルホン酸ナトリウム(SPS)、
・ヘパリン(Satsangi J.,Jewell D.P.,Welsh K.,Bunce M.,and Bell J.I.1994.Effect of heparin on polymerase chain reaction.Lancet 343:8911:1509−1510)、及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)(Al−Soud W.A.and Radstron P.2001.Purification and characterization of PCR−inhibitory components in blood cells.J Clin Microbiol 39:2:485−493)等の抗血液凝固剤、
・ヘモグロビン、ヘミン(Akane A.,Matsubara K.,Nakamura H.,Tahahashi S.,and Kimura K.1994.Identification of the heme compound copurified with deoxyribonucleic acid(DNA)from bloodstains,a major inhibitor of polymerase chain reaction(PCR)amplification.J Forensic Sci 39:2:362−372)、ビリルビン、フェノール、
・ドデシル硫酸ナトリウム又はトリトンX100等の界面活性剤、及び、
・胆汁酸
である。
【0014】
有利には、前記工程ii)はまた、特に低温ショックによって血液試料の赤血球を溶解し、かつ、それらの赤血球に含有される内容物、特にヘモグロビンを除去することができる。
【0015】
当業者は、一般知識に照らして工程ii)で用いられる洗浄溶液量を容易に決定することができるであろう。
前記洗浄溶液量は、工程i)で濾過される前記血液試料の量の4分の1〜2倍、特に2分の1〜10倍、とりわけ1〜5倍に相当する量であってもよい。
【0016】
例えば、工程i)において濾過される前記血液試料の量が0.2〜5ml、特に0.5〜1mlの範囲にある場合、工程ii)は、1〜10ml、特に3〜5ml、とりわけ3mlの洗浄溶液量で行うことができる。
【0017】
さらなる例として、工程i)で濾過される血液試料の量が、5〜100ml、特に5〜20mlである場合、工程ii)は、5〜50ml、特に8〜20ml、とりわけ10mlの洗浄溶液量で行うことができる。
【0018】
本発明による方法に適用される洗浄溶液は、当業者が一般常識に照らして容易に特定され得る。
前記洗浄溶液は、特に水性溶液から選択することができ、特に水、とりわけ濾過により滅菌されていることが好ましい透析水である。
【0019】
濾過による水の前記滅菌は、特に濾過膜を用いて行うことができ、その孔径は約0.22μmであってもよい。
本発明の洗浄工程ii)に用いられ得る洗浄溶液の例には、エッペンドルフ社から入手可能な、特に参照番号0032.006.159の分子生物学用の純水、周知の精製システム、特にELGAラボウォータ社のPurelab(登録商標)システム、又はミリポア社のMilli−Q(登録商標)システム、又はワーナー社のInfinity UV/UF(登録商標)システムから得られる純水が挙げられる。
【0020】
本発明による方法が濾過装置及び/又は支持体を用いる場合、前記洗浄工程ii)は、工程i)で用いられた前記濾過装置及び/又は濾過支持体において前記濾過膜をその位置に残したまま、前記濾過膜に前記洗浄溶液を通すことによって実施され得る。
【0021】
前記濾過膜上に存在する微生物のデオキシリボ核酸の抽出工程は、特に熱又は超音波処理による物理的溶解方法、特にSambrook J.,Fritsch E.F.及びManiatis T.の手引書(Molecular cloning:a laboratory manual,2nd ed.Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring,N.Y.,1989)に開示されている化学的溶解方法等の当業者に周知の技術によって行われ得る。
【0022】
「微生物」とは、次の三界、すなわちのモネラ界、原生生物界、及び原生動物界のうちの一つに所属する生物を意味する。微生物は真核又は原核又は無核の細胞構造、微細又は超微細な大きさを有し、かつ単細胞である。微生物の例には以下のものが挙げられる。
・大腸菌、クレブシエラ菌、赤痢菌、連鎖球菌、ブドウ球菌、腸球菌、変形菌、腸内細菌、セラチア菌、シュードモナス菌、バチルス菌、コリネバクテリア、リステリア菌、アシネトバクター、クリプトコッカス、バルトネラ菌、及びミクロバクテリア等の細菌、及び、
・カンジダ菌及びアスペルギルス等の菌類。
【0023】
特に、本発明による方法は更に以下の工程からなる。
iv)前記血液試料中に存在し得る微生物、特に細菌、ウイルス、原生動物及び/又は菌類を同定する工程。
【0024】
「同定」とは、微生物種を確定することを意味する。
前記微生物の同定は、当業者に周知の分子生物学的技術によって前記微生物から抽出されるデオキシリボ核酸を用いて行われ得る。
【0025】
特に、工程iv)はエンドポイントポリメラーゼ連鎖反応、マルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応、定性ポリメラーゼ連鎖反応、半定量ポリメラーゼ連鎖反応及び定量ポリメラーゼ連鎖反応からなる群より選択されるポリメラーゼ型の活性を用いる技術の使用からなる。
【0026】
本発明による方法では、アプライド・バイオシステムズ社から「ABI PRISM(登録商標)」の名称で、及びロシュ・ダイアグノティクス社から「COBAS Amplicor(登録商標)」の名称で入手可能なエンドポイントPCR装置を使用することができる。
【0027】
本発明による方法では、アプライド・バイオシステムズ社から「7500 Real−time PCR System(登録商標)」の名称で、ロシュ・ダイアグノティクス社から「COBAS Taqman(登録商標)」の名称で、及びジーンシステムズ社から「GeneDisc cycler(登録商標)」の名称で入手可能なリアルタイムPCR装置を使用することができる。
【0028】
本発明による方法では、ロシュ社の参照番号04469046001又は04488814001の「Lightcycler SeptiFast kit(登録商標)」、バイオタージ社の参照番号8、7、及び12の「microbial species determination and resistance」キット、BAG(Biologish Analysensystem GmbH)社の参照番号3801の「Hyplex StaphyloResist(登録商標)」、参照番号3809の「Hyplex StaphyloResist Plus」、及び参照番号3802の「Hyplex EnteroResist(登録商標)」として入手可能な、微生物に特異的なプローブ及びプライマー対を伴うリアルタイムPCRキットを使用することができる。例えば、Argene社から入手可能な参照番号69−002のリアルタイムPCRキットは、血液試料中に存在するエプスタイン・バール・ウイルス(EBV)の同定及び量の測定に使用可能である。
【0029】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は更に以下の工程からなる。
v)前記血液試料中に存在し得る少なくとも一種の微生物の少なくとも一つの抗生物質耐性遺伝子を同定する工程。
【0030】
微生物から抽出されるデオキシリボ核酸を用いた抗生物質耐性遺伝子の同定は、当業者に周知の分子生物学的技術によって実施され得る。
特に、工程v)は少なくとも一つの抗生物質耐性遺伝子に特異的なプライマー対及びプローブを用いるポリメラーゼ連鎖反応技術の使用からなる。
【0031】
別の特定の実施形態によれば、本発明の方法は更に以下の工程からなる。
vi)前記血液試料中に存在し得る微生物、特に細菌、ウイルス、原生動物及び/又は菌類の量を測定する工程。
【0032】
「微生物の量」とは、本発明の方法の実施を受ける血液試料中に存在する微生物の量を意味する。
前記血液試料中に存在し得る微生物の量の測定は、当業者に周知の技術によって行われ得る。
【0033】
例として、この測定は微生物を同定する工程iv)で得られた結果を、前記微生物の所定の希釈物に相当する陽性基準から得られた結果と比較することによって行われ得る。
特に、工程vi)はリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応技術の使用からなる。
【0034】
有利には、本発明による方法の工程iv)、v)又はvi)の少なくとも一つは、工程iii)で得られた微生物のデオキシリボ核酸の抽出物からなり、少なくとも一つの分子生物学的技術が適用される媒体において実施される。
【0035】
「少なくとも一つの分子生物学的技術が適用される媒体」とは、これらの技術、特にポリメラーゼ連鎖反応の効率、及び/又は感度、及び/又は特異性を高めるための物質からなる媒体を意味する。
【0036】
そのような媒体は当業者に周知であり、例えば文献(Wilson J.G.1997.Inhibition and Facilitation of Nucleic Acid Amplification.Appl Environ Microbiol 63:10:3741−3751)に開示されている。
【0037】
PCR技術に適用される媒体の例には、以下のもの、すなわち、特にウシ血清アルブミン(Akane A.,Matsubara K., Nakamura H.,Tahahashi S.,and Kimura K.1994.Identification of the heme compound copurified with deoxyribonucleic acid(DNA)from bloodstains,a major inhibitor of polymerase chain reaction(PCR)amplification.J Forensic Sci 39:2:362−372)、グリセロール、マグネシウムイオン(Satsangi J.,Jewell D.P.,Welsh K.,Bunce M.,and Bell J.I.1994.Effect of heparin on polymerase chain reaction.Lancet 343:8911:1509−1510)、トリメチルグリシン、ジメチルスルホキシド、ポリエチレングリコール、Tween20(登録商標)、Tween40(登録商標)、Tween80(登録商標)、DMSO、TritonX−100(登録商標)、TritonX−114(登録商標)、ベタイン一水和物、ベタイントリメチルグリシン、PEG35000、PEG400、PEG6000、及びアセトアミドからなる媒体が挙げられる。
【0038】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は、工程i)の前に、以下の工程、すなわち、
a)全血、又は、赤血球凝集溶液及び/又は血小板凝集溶液の血液培養物を添加する工程、及び、
b)工程a)で得られた調製物を、2μm〜50μm、特に10μm〜25μm、とりわけ17μmの孔径を有するフィルタを通して濾過する工程
を含む。
【0039】
特に、前記赤血球の凝集溶液は、レクチン、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、デキストラン及びポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも一つの凝集剤からなり、特にレクチンである。
【0040】
特に、前記レクチンは、lens culinaris、Phaseolus vulgaris、Vicia sativa、Vicia faba及びErythrina corallodendronレクチンからなる群より選択される。
【0041】
前記凝集剤、特にレクチンは、前記凝集溶液中に10μg/ml〜200μg/ml、特に15μg/ml〜100μg/ml、とりわけ20μg/ml〜30μg/mlの濃度で存在し得る。
【0042】
特に、前記血小板凝集溶液は、特異的血小板抗原抗体、トロンビン、トリプシン、コラーゲン、トロンボキサンA2、血小板活性化因子、アドレナリン、アラキドン酸、セロトニン、及びエピネフリンからなる群より選択される少なくとも一つの血小板凝集剤からなり、特に血小板抗原及びコラーゲンの特異的抗体である。
【0043】
前記血小板抗原の特異的抗体は、血小板凝集溶液中に、0.5μg/ml〜100μg/ml、特に1μg/ml〜60μg/ml、とりわけ5μg/ml〜45μg/mlの濃度で存在し得る。
【0044】
前記コラーゲンは、前記血小板凝集溶液中に、0.05μg/ml〜50μg/ml、特に1μg/ml〜20μg/mlの濃度で存在し得る。
本発明の他の効果及び特徴は、以下の図面及び実施例に照らして明らかになるであろう。
【0045】
以下の図面及び実施例は、例示として提示されるものであり、限定的なものではない。
・図1(A及びB)は、全血試料中に存在する大腸菌の同定及び定量を示す。図1Aは、蛍光プローブ及び一対の大腸菌特異的プライマーを用いたリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応の結果を曲線で示す。図1Bは、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応の閾値サイクル及び増幅を表で示す。
・図2(A及びB)は、全血試料中に存在する表皮ブドウ球菌の同定及び定量を示す。図2Aは、蛍光プローブ及び一対の表皮ブドウ球菌特異的プライマーを用いたリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応の結果を曲線で示す。図2Bは、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応の閾値サイクル及び振幅を表で示す。
・図3Aは、蛍光プローブ及び一対の大腸菌特異的プライマーを用いたエンドポイントポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び泳動後のアガロースゲルの写真を示す。
・図3Bは、蛍光プローブ及び一対の大腸菌特異的プライマーを用いたリアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の結果を示す。
・図4は、血液培養物試料中に存在する大腸菌、表皮ブドウ球菌及びクレブシエラ・オキシトカの同定及び定量を曲線で示す。図4は、蛍光プローブ及び大腸菌、表皮ブドウ球菌、及びクレブシエラ・オキシトカ特異的プライマーを用いたリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応の結果を曲線で示す。
・図5は、EDTA(図5A)及びクエン酸ナトリウム(図5B)の下で採取された全血試料中に存在する大腸菌の同定及び定量、及び、ヘパリン(図5C)の下で採取された全血試料中に存在する表皮ブドウ球菌の同定及び定量を曲線で示す。図5は、蛍光プローブ及び大腸菌及び表皮ブドウ球菌特異的プライマーを用いたリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応の結果を曲線で示す。
【実施例1】
【0046】
I.血液試料の調製方法
(I.1 血液培養物試料の調製方法)
100μlの血液培養物試料が、滅菌注射器を用いて血液培養フラスコの隔膜を通して採取された。1mlの濾過透析水(約0.22μmの孔径を有するフィルタを用いた)が各試料に加えられた。
【0047】
各試料は、0.2μm〜1μmの孔径を有する直径25〜32mmのフッ化ポリビニリデン濾過膜を通して濾過された。前記濾過膜は、米国特許出願公開第2004/0208769号明細書に開示されているような濾過支持体に包含された。
【0048】
その後、各濾過膜は、1〜10mlの純水又は約0.22μmの孔径を有するフィルタを用いた濾過により透析された水で洗浄された。
濾過の後、各濾過膜は滅菌ピンセットで回収され、200μl〜1mlの
・エッペンドルフ社によって販売されているような、分子生物学用の純水、又は、
・ウシ血清アルブミン(BSA)が0.7%添加された分子生物学用の純水、又は、
・トリスHClが125mM、ベタインが160mM、及びジメチルスルホキシド(DMSO)が5%添加され、1MのNaOHでpH9.3に調整された分子生物学用の純水
を入れた滅菌マイクロチューブに挿入された。
(I.2 全血試料の調製)
抗凝集剤(EDTA、ヘパリン又はクエン酸ナトリウム)の下で採取された5mlの全血が20mlの赤血球凝集溶液に加えられた。
【0049】
前記凝集溶液は、75%ブレイン・ハート・ブロス及び25%トリプトンソイブロス(TSB)を含む培地中25μg/mlのlens culinarisレクチン、1%のポリエチレングリコール(PEG)からなる。
【0050】
室温で30分培養後、赤血球は濃縮物となって凝集した。
15〜20mlの赤血球凝集物の上清が取り出され、1mlの血小板凝集物溶液と共に培養された。
【0051】
前記凝集物溶液は、75%ブレイン・ハート・ブロス及び25%TSBを含む培地中45μg/mlの抗CD9モノクローナル抗体からなる。
前記血小板の凝集後、調製物は約17μmの孔径を有するフィルタを通して濾過された。
【0052】
この濾過工程は、フィルタ上にフィルタの孔の大きさよりも大きい血小板凝集物及び血液細胞を留めることを可能にした。
濾過物は、再度0.2μm〜1μmの孔径を有する直径25〜32mmのフッ化ポリビニリデン濾過膜を通して濾過された。前記濾過膜は米国特許出願公開第2004/0208796号明細書に開示されるような濾過支持体に包含された。
【0053】
前記濾過膜は、続いて8〜20mlの純水又は濾過による透析水で洗浄された。
濾過後、濾過膜は滅菌ピンセットで回収され、200μl〜1mlの
・エッペンドルフ社によって販売されているような、分子生物学用の純水、又は、
・ウシ血清アルブミン(BSA)が0.7%添加された分子生物学用の純水、又は、
・トリスHClが125mM、ベタインが160mM、及びジメチルスルホキシド(DMSO)が5%添加され、1MのNaOHでpH9.3に調整された分子生物学用の純水
のいずれかが入っている滅菌マイクロチューブに挿入された。
【実施例2】
【0054】
II.血液試料中に存在する微生物の同定
(II.1 DNA抽出方法)
実施例1に記載の方法を実施した後に得られ、滅菌マイクロチューブに入れられた濾過膜から、DNAが抽出された。
【0055】
各マイクロチューブは、連続する加熱及び/又は超音波処理工程、及び/又はManiatisに開示されるような凍結工程(Sambrook J.,Fritsch E.F.and Maniatis T.in“Molecular Cloning”(1992),Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York)に曝された。
(II.2 使用されるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術)
II.2.1 リアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術
前の項目(II.1)に記載の方法によって抽出された30〜42μlのDNAは、緩衝媒体中にTaq(登録商標)ポリメラーゼ及びデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む混合液30μlに加えられた。
【0056】
この調製物の12μlが、蛍光プローブ及びPCT出願の国際公開第2004/024944号パンフレットに開示されるような検出されるべき微生物系の特異的プライマー対を含むウェルに入れられた。陰性基準は蛍光プローブを含まないウェルに相当する。
【0057】
陽性基準は、合成したDNA配列と共に、蛍光プローブ及び前記配列の特異的プライマー対を含むウェルに相当する。
結果は、第一に、増幅サイクルの関数として蛍光強度の変化を示す増幅曲線で表示されている(図1、2及び4に示される曲線)。
【0058】
第二に、図1及び3の表は、実施された各ポリメラーゼ連鎖反応について、
・DNAの指数増幅期に達するまでに必要な最小サイクル数に相当する閾値サイクル、すなわちCt、
・得られる最大及び最小蛍光強度の間の差に相当する振幅
を示す。
II.2.2 従来のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術及びその後のアガロースゲル泳動
前の項目(II.1)に記載の方法によって抽出された7μlのDNAが、緩衝媒体中にTaq(登録商標)ポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)及び検出されるべき微生物の特異的プライマー対を含む混合液43μlに加えられた。
【0059】
40サイクルの増幅が実施された。
その後、15μlの増幅DNAがピペットで採取され、そこに3μlのブロモフェノールブルーが加えられ、この調製物はアガロースゲルのウェルに入れられた。
【0060】
増幅DNA断片を、それらの分子量(MW)にしたがって泳動させるため、電流が適用された。
泳動後のアガロースゲルの写真が図3Aに示されている。
(II.3 全血試料中に存在する大腸菌及び表皮ブドウ球菌の同定)
項目I.2に記載の、濾過膜が約0.65μmの孔径を有する直径25mmのフッ化ポリビニリデンから形成されているプロトコルにしたがい、5mlの全血が処理された。約0.22mmの孔径を有するフィルタを用いて濾過された8mlの透析水が、濾過膜の洗浄に用いられた。
【0061】
項目II.1に記載のプロトコルによるDNA抽出の後、項目II.2.1に記載のプロトコルにしたがい、蛍光プローブ、及び、大腸菌及び表皮ブドウ球菌に特異的プライマー対を用いたリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が実施された。
【0062】
図1(A及びB)は、蛍光プローブ及び大腸菌の特異的プライマー対を用いたポリメラーゼ連鎖反応の結果を示す。
図2(A及びB)は、蛍光プローブ及び表皮ブドウ球菌の特異的プライマー対を用いたポリメラーゼ連鎖反応の結果を示す。
【0063】
これらの結果は、本発明による全血試料の調製方法から、ポリメラーゼ連鎖反応技術により微生物を特異的かつ再生可能な態様で同定及び定量できる試料が得られることを示している。
(II.4 全血試料中に存在する大腸菌の同定)
項目I.2に記載の、濾過膜が約0.65μmの孔径を有する直径25mmのフッ化ポリビニリデンから形成されているプロトコルにしたがい、5mlの全血が処理された。約0.22mmの孔径を有するフィルタによって濾過された8mlの透析水が、濾過膜の洗浄に用いられた。
【0064】
項目II.1に記載のプロトコルによるDNA抽出の後、PCRの感度を調べるため、DNA抽出物の分子生物学用の純水への希釈が行われた。DNA抽出物の希釈は100分の1〜50000分の1で行った。
【0065】
続いて、項目II.2.1に記載のプロトコルによるリアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び項目II.2.2に記載のエンドポイントポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が実施された。蛍光プローブ及び大腸菌の特異的プライマー対が用いられた。
【0066】
図3Aは、蛍光プローブ及び大腸菌の特異的プライマー対を用いた従来のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、及び泳動後のアガロースゲルの写真を示す。
図3Bは、蛍光プローブ及び大腸菌の特異的プライマー対を用いたリアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の結果を示す。
【0067】
これらの結果は、本発明による全血に由来する血液試料の調製方法から、リアルタイム又はエンドポイントポリメラーゼ連鎖反応技術により微生物を特異的かつ再生可能な態様で、さらに一定の感度で同定及び定量できる試料が得られることを示している。
(II.5 血液培養物試料中に存在する大腸菌、表皮ブドウ球菌、及びクレブシエラ・オキシトカの同定)
項目I.1に記載の、濾過膜が約0.65μmの孔径を有する直径25mmのフッ化ポリビニリデンから形成されているプロトコルにしたがい、血液培養物試料が調製された。3mlの透析水が濾過膜の洗浄に用いられた。
【0068】
項目II.1に記載のプロトコルによるDNA抽出の後、項目II.2.1に記載のプロトコルにしたがい、蛍光プローブ、及び、大腸菌、表皮ブドウ球菌及びクレブシエラ・オキシトカの特異的プライマー対を用いたリアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が実施された。結果は図4に示されている。
【0069】
これらの結果は、本発明による血液培養物に由来する血液試料の調製方法から、ポリメラーゼ連鎖反応技術により微生物を特異的かつ再生可能な態様で同定及び定量できる試料が得られることを示している。
(II.6 異なる抗凝固剤から採取される全血試料中に存在する大腸菌及び表皮ブドウ球菌の同定)
血液抗凝固剤のEDTA三カリウム塩、クエン酸ナトリウム又はヘパリン(ヘパリンリチウム)タイプの入ったチューブから採取された5mlの全血が、項目I.2に記載の、濾過膜が約0.65μmの孔径を有する直径25mmのフッ化ポリビニリデンから形成されているプロトコルにしたがって処理された。約0.22μmの孔径を有するフィルタによって濾過された8mlの透析水が、濾過膜の洗浄に用いられた。
【0070】
項目II.1に記載のプロトコルによるDNA抽出の後、項目II.2.1に記載のプロトコルにしたがい、蛍光プローブ、及び、大腸菌及び表皮ブドウ球菌の特異的プライマー対を用いたリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が実施された。
【0071】
図5A及び5Bは、EDTA三カリウム塩(図5A)及びクエン酸塩(図5B)の下で採取された全血に由来する微生物DNAに対し、蛍光プローブ及び大腸菌の特異的プライマー対を用いたポリメラーゼ連鎖反応の結果を示す。
【0072】
図5Cは、ヘパリン(図5C)の下で採取された全血に由来する微生物DNAに対し、蛍光プローブ及び表皮ブドウ球菌の特異的プライマー対を用いたポリメラーゼ連鎖反応の結果を示す。
【0073】
これらの結果は、本発明による異なる抗凝固剤の下で採取された全血に由来する血液試料の調製方法から、ポリメラーゼ連鎖反応技術により微生物を特異的かつ再生可能な態様で同定及び定量できる試料が得られることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1A】蛍光プローブ及び一対の大腸菌特異的プライマーを用いたリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応の結果を曲線で示す。
【図1B】リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応の閾値サイクル及び振幅を表で示す。
【図2A】蛍光プローブ及び一対の表皮ブドウ球菌特異的プライマーを用いたリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応の結果を曲線で示す。
【図2B】リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応の閾値サイクル及び振幅を表で示す。
【図3A】蛍光プローブ及び一対の大腸菌特異的プライマーを用いたエンドポイントポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び泳動後のアガロースゲルの写真を示す。
【図3B】蛍光プローブ及び一対の大腸菌特異的プライマーを用いたリアルタイム定量ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の結果を示す。
【図4】血液培養物試料中に存在する大腸菌、表皮ブドウ球菌及びクレブシエラ・オキシトカの同定及び定量を曲線で示す。
【図5A】EDTAの下で採取された全血試料中に存在する大腸菌の同定及び定量を曲線で示す。
【図5B】クエン酸ナトリウムの下で採取された全血試料中に存在する大腸菌の同定及び定量を曲線で示す。
【図5C】ヘパリンの下で採取された全血試料中に存在する表皮ブドウ球菌の同定及び定量を曲線で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)0.01μm〜50μm、特に0.1μm〜10μm、とりわけ0.2μm〜1μmの孔径を有する濾過膜を通して血液試料を濾過する工程と、
ii)前記濾過膜を洗浄する工程と、
iii)前記濾過膜上に存在する微生物からデオキシリボ核酸を抽出する工程と
からなる血液試料中に存在する微生物からのDNAの抽出方法。
【請求項2】
前記方法が、更に、
iv)前記血液試料中に存在し得る微生物、特に細菌、ウイルス、原生動物及び/又は菌類を同定する工程
からなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程iv)が、エンドポイントポリメラーゼ連鎖反応、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応、マルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応、定性ポリメラーゼ連鎖反応、半定量ポリメラーゼ連鎖反応及び定量ポリメラーゼ連鎖反応からなる群より選択されるポリメラーゼ型の活性を用いた分子生物学的技術を使用する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、更に、
v)前記血液試料中に存在し得る少なくとも一種の微生物の少なくとも一つの抗生物質耐性遺伝子を同定する工程
からなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程v)が、ポリメラーゼ連鎖反応技術を用いる請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記方法が、更に、
vi)前記血液試料中に存在し得る微生物、特に細菌、ウイルス、原生動物及び/又は菌類の量を測定する工程
からなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記濾過膜が、フッ化ポリビニリデン製、ポリエステル製、ナイロン製、ポリプロピレン製、ポリカーボネート製及びポリエーテルスルホン製の膜からなる群より選択され、特にフッ化ポリビニリデン製である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記濾過膜がセルロース系ではないことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記血液試料が、全血試料、及び、血液培養物試料からなる群より選択される請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程i)の前に、
a)全血又は血液培養物に赤血球の凝集溶液及び/又は血小板凝集溶液を加える工程、及び、
b)工程a)で得られた調製物を、2μm〜50μm、特に10μm〜25μm、とりわけ17μmの孔径を有するフィルタを通して濾過する工程
を含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記凝集溶液が、レクチン、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、デキストラン及びポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも一つの凝集剤からなり、特にLens culinarisレクチンであることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記血小板凝集溶液が、血小板抗原、トロンビン、トリプシン、コラーゲン、トロンボキサンA2、血小板活性化因子、アドレナリン、アラキドン酸、セロトニン及びエピネフリンの特異的抗体からなる群より選択される少なくとも一つの血小板凝集剤からなり、特に血小板抗原及びコラーゲンの特異的抗体であることを特徴とする請求項10又は11に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図3A】
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【公表番号】特表2009−537167(P2009−537167A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511555(P2009−511555)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051300
【国際公開番号】WO2007/135332
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508343456)ジーンオーム サイエンシズ インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】GENEOHM SCIENCES,INC.
【Fターム(参考)】