説明

血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤

中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤であって、中鎖トリセリドの構成脂肪酸の90質量%以上が炭素数8および10の飽和脂肪酸であり、炭素数8および10の飽和脂肪酸の質量比率が60/40〜85/15であり、且つ、トリグリセリドの2位に結合した全脂肪酸中の炭素数8の飽和脂肪酸割合が60〜85質量%である血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤および血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を含有する血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品および血清レムナント様リポタンパク濃度調整用医薬品。この血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品は、食事制限を伴わず、副作用の懸念がなくかつ簡便に使用できる。

【発明の詳細な説明】
発明の背景
本発明は、血清レムナント様リポタンパク濃度調整を目的とした組成物に係わり、詳しくはヒトの血清レムナント様リポタンパク濃度の上昇を安全にかつ適正域に調整することのできる血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤および血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を含有する血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品および血清レムナント様リポタンパク濃度調整用医薬品に関するものである。
血清レムナント様リポタンパクとは、通常、腸管由来のカイロミクロンリポタンパク(CM)および肝臓由来の超低比重リポタンパク(VLDL)などの中性脂肪に富むリポタンパクがリポタンパクリパーゼにより加水分解された結果生じる一過性の中間代謝産物である。前者はCMレムナント、後者はVLDLレムナントとそれぞれ呼ばれ、いずれのレムナント様リポタンパクも比較的コレステロールに富む。これらの血清レムナント様リポタンパクは通常速やかに代謝され、健常者の早朝空腹時にはわずかしか存在しないが、この代謝過程が障害されるとこれらは血中に遷延し、増加する。このような、血中のレムナント様リポタンパクの遷延により生じる、いわゆる高レムナント血症の代表的な症例として、血清レムナント様リポタンパク代謝が障害され、血中に血清レムナント様リポタンパクがうっ滞・蓄積する家族性III型高脂血症が知られている。そのほか、血清レムナント様リポタンパクはトリグリセリド高含有リポタンパクの中でもコレステロール含有量が比較的高いため、血管壁に取り込まれやすく、結果として、血清レムナント様リポタンパク中のコレステロールは容易に血管壁に蓄積される。又、血清レムナント様リポタンパクはマクロファージに取り込まれ、マクロファージを動脈硬化の初期病変である泡沫細胞へと変換するため(Mahley R.W.,「Atherogenic lipoproteins and coronary artery disease:concepts derived from recent advances in cellular and molecular biology」,Circulation(U.S.A.),1985年,第72巻,第5号,p.943−948、及びKosaka S.et al.,「Evidence of macrophage foam cell formation by very low−density lipoprotein receptor.」,Circulation(U.S.A.),2001年,第103巻,第8号,p.1142−1147)、摂食にて血中に増加する血清レムナント様リポタンパクは動脈硬化発症の危険因子として注目されている。又、ヒトは1日3回の食事の他に、間食をする機会も多いことから、1日のうちの多くの時間は、空腹の状態よりも食後の状態にあると考えられる。従って、これまでは空腹時に採血した血清脂質値を問題とすることが多かったが、近年、食後高脂血症(早朝空腹時では正脂血症状態を呈するが、食後、血清脂質の増加が異常に増幅する状態、あるいはこの増加が遷延する状態を呈する高脂血症)の研究の重要性が強調されるようになってきた。この食後高脂血症において血清脂質の大部分を構成するのがCMおよびCMレムナントで、以前よりCMレムナントの動脈硬化惹起性が指摘されている(Zilversmit D.B.,「Atherogenesis:a post−prandial phenomenon.」,Circulation(U.S.A.),1979年,第60巻,第3号,p.473−485、及びKarpe F et al.,「Postprandial lipoproteins and progression of coronary atherosclerosis.」,Atherosclerosis(Netherlands),1994年,第106巻,第1号,p.83−97)。従って、血清レムナント様リポタンパクを低減させることは、動脈硬化発症の予防および発症後の治療において極めて重要である。動脈硬化発症の予防は、日常の食生活の改善が重要な位置を占めるため、毎日の生活において簡便に摂取することができ、且つ、食後の血清レムナント様リポタンパクを低下させ、副作用の懸念がなく使用できるものが望まれる。
従来、血清レムナント様リポタンパクの定量は、一般に免疫吸着法によって実施される。免疫吸着法とは、血清レムナント様リポタンパク分析法として一般に用いられる方法で、血清レムナント様リポタンパクを反映する値として血清レムナント様リポタンパクに含まれるコレステロール(以下、血清レムナント様リポタンパク−コレステロール)を測定することにより実施される。詳しくは、抗ヒトアポA−IおよびアポB−100モノクローナル抗体を固定化した不溶性支持体と緩衝液との懸濁液に、試料を添加してゆっくり振盪混和し、静置後、抗体と反応しなかった血清レムナント様リポタンパクを含む上清液に血清レムナント様リポタンパクのコレステロール部分に反応する酵素試薬を添加し、上清液中のコレステロール量を測定する分析方法である(Nakajima K.et al.,「Cholesterol in remnant−like lipoproteins in human serum using monoclonal anti apo B−100 and anti apo A−I immunoaffinity mixed gels.」,Clin Chim Acta(Netherlands),1993年,第223巻,第1−2号,p.53−71)。血清中に存在するアポタンパクのうち、CM、高比重リポタンパク(HDL)はアポA−Iを持ち、VLDL、低比重リポタンパク(LDL)はアポB−100を持つため、これらはそれぞれの抗体と結合して沈殿し、上清液中には非結合分画としてレムナント様リポタンパク(CMレムナントおよびVLDLレムナント)が存在する。この分画中のコレステロール値がレムナント様リポタンパクを反映したものとしてわが国では臨床的に測定されている。
中鎖脂肪酸トリグリセリドは、酸化安定性が高く凝固点や粘度が低いこと、無色透明に近く溶解性が高いことから、食品用油溶性香料・色素の溶剤、食品用離形油・潤滑油あるいは医薬品原料などに利用されてきた。又、吸収性が良く、糖類に比べてエネルギー比率が高いことから、効率のよいエネルギー補給を目的として経腸栄養剤の原料としても利用されている。
また、食事中の油脂を中鎖脂肪酸トリグリセリドに置き換えることにより、食後の血中中性脂肪濃度の調整効果(上昇抑制効果)がもたらされることについて報告がなされている(Calabrese,C.et al.,「A cross−over study of the effects of a single oral feeding of medium chain triglyceride oil vs.canola oil on post−ingestion plasma triglyceride levels in healthy men.」,Alternative Medicine Review(U.S.A.),1999年,第4巻,第1号,p.23−28)。しかしながら、中鎖脂肪酸トリグリセリドが、血清レムナント様リポタンパク濃度の上昇抑制機能を有することは明らかにされていない。
【発明の開示】
本発明は、食事制限を伴わず、副作用の懸念がなくかつ簡便に使用できる血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を提供することを目的とする。
本発明は又、上記血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を含有する血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品および血清レムナント様リポタンパク濃度調整用医薬品を提供することを目的とする。
本発明者らは、前述の課題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、中鎖脂肪酸トリグリセリドは優れた血清レムナント様リポタンパク濃度調整効果を有し、且つ、日常生活において簡便に摂取が可能であることから、食品や医薬品として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を提供する。
本発明は、又、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤であって、中鎖脂肪酸トリグリセリドの構成脂肪酸の90質量%以上が炭素数8および10の飽和脂肪酸であり、炭素数8および10の飽和脂肪酸の質量比率が60/40〜85/15であり、且つ、トリグリセリドの2位に結合した全脂肪酸中の炭素数8の飽和脂肪酸割合が60〜85質量%であることを特徴とする血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を提供するものである。
本発明は、又、中鎖脂肪酸トリグリセリドを40質量%以上含有することを特徴とする血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を提供する。
本発明は、又、BMI値が23以上であるヒトの血清レムナント様リポタンパク濃度を調整するための上記血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤の使用を提供する。
本発明は、又、ヒト、特にBMI値が23以上であるヒトに、上記血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を投与(好ましくは経口投与)することを含むヒトの血清レムナント様リポタンパク濃度を調整する方法を提供する。
本発明は、又、上記血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を含有することを特徴とする血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品を提供する。
本発明は、又、上記血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を含有することを特徴とする血清レムナント様リポタンパク濃度調整用医薬品を提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は、血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1摂食後8時間までの血清レムナント様リポタンパク−コレステロール濃度の経時推移(初期値を0として算出)を示すグラフである。
図2は、血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1摂食後8時間までの血清レムナント様リポタンパク−コレステロール量の血中濃度−時間曲線下面積を示すグラフである。
図3は、血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1摂食後8時間までの血清レムナント様リポタンパク−コレステロール量の血中濃度−時間曲線下面積(BMI値が23以上の群)を示すグラフである。
図4は、血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1摂食後8時間までの血清レムナント様リポタンパク−コレステロール量の血中濃度−時間曲線下面積(BMI値が23未満の群)を示すグラフである。
図5は、血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品2摂食後6時間までの血清レムナント様リポタンパク−コレステロール濃度の経時推移(初期値を0として算出)を示すグラフである。
図6は、血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品2摂食後6時間までの血清レムナント様リポタンパク−コレステロール量の血中濃度−時間曲線下面積を示すグラフである。
図7は、血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品2摂食後6時間までの血清レムナント様リポタンパク−コレステロール量の血中濃度−時間曲線下面積(BMI値が23以上の群)を示すグラフである。
図8は、血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1摂食後6時間までの血清レムナント様リポタンパク−コレステロール量の血中濃度−時間曲線下面積(BMI値が23未満の群)を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明における中鎖脂肪酸トリグリセリドは、中鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド、すなわち、トリアシルグリセロールのことである。本発明で中鎖脂肪酸としては、炭素数が6〜12の脂肪酸、特に飽和脂肪酸であるのが好ましく、更に炭素数が偶数である飽和脂肪酸であるのが好ましい。例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸が挙げられ、炭素数が8〜10の飽和脂肪酸であるカプリル酸およびカプリン酸が好ましい。又、中鎖脂肪酸トリグリセリドの構成脂肪酸の90質量%以上(より好ましくは95〜100質量%)が炭素数8および10の飽和脂肪酸であって、炭素数8および10の飽和脂肪酸の質量比率が60/40〜85/15(より好ましくは7:3〜8:2)であり、且つ、トリグリセリドの2位に結合した脂肪酸組成において、炭素数8の飽和脂肪酸の割合が60〜85質量%(より好ましくは65〜80質量%)であることが好ましい。
このような中鎖脂肪酸トリグリセリドの製造方法は特に限定されないが、例えばパーム核油やヤシ油由来の中鎖脂肪酸とグリセリンを原料として、エステル結合反応を行うことにより得ることができる。エステル結合反応の条件も特に限定されないが、例えば無触媒かつ無溶剤にて、加圧下で反応して得ることができる。もちろん、触媒や溶剤を用いた反応によっても、このような中鎖脂肪酸トリグリセリドを得ることが可能である。混合比率を工夫した中鎖脂肪酸トリグリセリドと中鎖脂肪酸を混合し、位置特異性を有するリパーゼ、例えば、名糖産業製「リパーゼPL」を用いることにより、構成脂肪酸の90質量%以上が炭素数8および10の飽和脂肪酸であって、炭素数8および10の飽和脂肪酸の質量比率が60/40〜85/15であり、且つ、トリグリセリドの2位に結合した脂肪酸組成において、炭素数8の飽和脂肪酸の割合が60〜85質量%である中鎖脂肪酸トリグリセリドを得ることができる。又、遺伝子組み換え植物の油糧種子から中鎖脂肪酸トリグリセリド自体を得る、又は、遺伝子組み換え植物の油糧種子から得られた中鎖脂肪酸を原料にして、中鎖脂肪酸トリグリセリドを製造することも可能である。
本発明における血清レムナント様リポタンパクとは、腸管由来のCMおよび肝臓由来のVLDLなど中性脂肪に富むリポタンパクが、リポタンパクリパーゼにより加水分解された結果生じる一過性の中間代謝産物である。前者はCMレムナント、後者はVLDLレムナントと呼ばれ、いずれのレムナント様リポタンパクも比較的コレステロールに富むため、血管壁に蓄積しやすく、その動脈硬化作用が懸念されている。このうち、リポタンパクとは脂質とタンパク質の複合体であり、主としてCM、VLDL、LDL、HDLの4種で構成される。中性脂肪とは、血液中に含まれるトリグリセリドである。血清とは、血液中の脂質を分析するために、採血した血液を試験管中に放置し得られる上清のことであり、血液から血球と血小板を除いた成分である。
本発明における血清レムナント様リポタンパク濃度の調整とは、食事による通常の食用油(例えば調合油)などの脂質を摂取することを起因として、食後の血清レムナント様リポタンパク濃度が上昇するような場合にはその上昇を抑制し、血清レムナント様リポタンパク濃度が適正な場合にはそれに影響を及ぼさないといった、血清レムナント様リポタンパク濃度の調整機能のことを示す。ここで本発明における食後とは、食事により動植物油脂などの脂質を摂取した後の状態を示す。
本発明の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤は、上記中鎖脂肪酸トリグリセリドを5質量%以上含有するのが好ましく、特に5〜100質量%が好ましく、さらに40〜99.95質量%含有するのが好ましい。又、95〜100質量%含有するのも好ましい。
本発明は、又、一般的な中鎖脂肪酸トリグリセリドを40質量%以上含有することを特徴とする血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を提供する。この血中レムナント濃度調整剤では、40〜99.95質量%含有するのが好ましく、特に48〜99.95質量%含有するのが好ましい。又、95〜100質量%含有するのも好ましい。
本発明品である血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤は、中鎖脂肪酸トリグリセリド以外の成分を含有することができる。このような成分としては、特に限定されないが、通常の食用油脂、例えば大豆油、菜種油、高オレイン酸菜種油、コーン油、ゴマ油、ゴマサラダ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、ラード、鶏脂、乳脂、魚油、アザラシ油、藻類油、品種改良によって低飽和化されたこれらの油脂およびこれらの水素添加油脂、分別油脂等があげられる。又、ビタミンEや植物ステロールを始めとして、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アスコルビン酸脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、リグナン、コエンザイムQ、アミノ酸、メチルサルフォニルメタン、グルコサミン、コンドロイチン、アスコルビン酸ステアレート、アスコルビン酸パルミテート、リン脂質、オリザノール、ジグリセリド等も添加することができる。
なお、前記ビタミンEとは、植物および穀物類に多く含まれる複数種のトコフェロールおよびトコトリエロールの総称で、それぞれ、α、β、γ、δの4種に分類されるものをいい、また、合成によりつくられたものでも良い。
また、前記植物ステロールとは、フィトステロールとも呼び、例えば、シトステロール、シトスタノール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、フコステロール、イソフコステロール、クレロステロール、2,2−デヒドロクレロステロール、スピナステロール、2,2−ジヒドロスピナステロール、アベナステロール、2,2β−エチル−2,5−デヒドロラトステロール、2,5−デヒドロコンドリラステロール、ポリナステロールおよびブラシカステロールなどが挙げられ、植物を起源とした一連のステロール化合物であり、油糧種子や穀物類に広く分布しているものをいい、また、合成によりつくられたものでも良い。
これらのうち、動植物油脂、ビタミンEおよび植物ステロールから選ばれる1種以上を含有することが好ましい。動植物油脂を含有する場合には、全体の60質量%以下であるのが好ましく、より好ましくは、5〜55質量%、特に好ましくは、5〜50質量%である。又、ビタミンEを含有する場合には、全体の0.01〜5質量%であるのが好ましく、より好ましくは、0.01〜2質量%である。又、植物ステロールを含有する場合には、全体の0.5〜6質量%であるのが好ましく、より好ましくは、1〜4質量%である。
前記動植物油脂には、例えば、前記食用油脂の2種以上を混合した食用油脂をエステル交換処理して得られる食用油脂も用いることができる。また、エステル交換は、アルカリ触媒を用いたケミカル反応、酵素を用いた酵素反応があり、食用油脂の風味・色の点で酵素反応が好ましいが、これに限定するものではない。又、得られたエステル交換食用油脂の1,3位の脂肪酸と2位の脂肪酸の組成に偏りがあってもなくてもよい。
本発明で用いる体格指数BMI(Body Mass Index)とは、医学的に肥満判定に用いられる数値で、(体重kg)/(身長m)/(身長m)から求められ、単位はkg/mである。BMI値は体重と身長の測定値を用いて簡単に算出されるものであるため、水中法や空気置換法に代表される体密度法、体内K40測定法、およびインピーダンス法などの、測定に時間や設備を要する体脂肪測定法の代替として、一般に用いられているものである。BMI値の増加に伴い、早朝空腹時での血中中性脂肪値および血中コレステロール値が増加することがこれまでの研究により明らかとなっている(垂井清一郎他、「成人肥満・小児肥満の成因と病態に関する総合的研究」、厚生省昭和59年度科研総合研究成果報告書、1985年)。食事による脂質摂取を起因として血清レムナント様リポタンパク濃度が上昇するような場合において、本発明の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を用いることにより、好ましくはBMI値が23以上であるヒトで、血清レムナント様リポタンパク濃度を適正域へ調整することができ、食後の血清レムナント様リポタンパク濃度を上昇させない。
本発明の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤の形態は、特に限定されないが、カプセルや錠剤などの形態でよく、又、食品、加工食品、飲料、調味料、菓子、医薬品などに添加してもよく、例えば、ゼラチンカプセル、食用油脂、ドレッシング、バター、マーガリン、調製マーガリン、ファットスプレッド、クリーム、アイスクリーム、マヨネーズ、ショートニング、ベーカリーミックス、パン、パイ、ケーキ、クッキー、ドーナツ、マフィン、スコーン、フライ食品、スナック菓子、チョコレート、トッピング、加工肉製品、冷凍食品、フライ食品、経腸栄養剤、静脈栄養剤、流動食に添加することができる。
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
日清オイリオ(株)製の中鎖脂肪酸トリグリセリド(商品名:O.D.O)を血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤1とした。又、日清オイリオ(株)製の中鎖脂肪酸トリグリセリド(商品名:O.D.O)500gに、日清オイリオ(株)製の菜種油500gを混合し、血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤2を1Kg得た。又、日清オイリオ(株)製の中鎖脂肪酸トリグリセリド(商品名:O.D.O)900gに雪印製のラードを100g混合し、血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤3を1Kg得た。この中鎖脂肪酸トリセリド(商品名:O.D.O)の構成脂肪酸のうち、99.9質量%が炭素数8および10の飽和脂肪酸であり、炭素数8および10の飽和脂肪酸の質量比率は、7.4:2.6であった。又、トリグリセリドの2位に結合した脂肪酸組成において、炭素数8の飽和脂肪酸の割合は73質量%であった。なお、トリグリセリドの2位に結合した脂肪酸の割合は、Brockerhoff法(Brockerhoff,H.,「Stereospecific analysis of triglycerides:an alternative method.」,Journal of Lipid Research(U.S.A.),1967年,第8巻,第3号,p.167−169)により求めた。
【実施例2】
日清オイリオ(株)製の中鎖脂肪酸トリグリセリド(商品名:O.D.O)999gに、日清オイリオ(株)製のトコフェロール(商品名:トコフェロール85)を1g添加し、十分に攪拌・溶解し、血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤4を1Kg得た。中鎖トリセリドの構成脂肪酸の99.9質量%が炭素数8および10の飽和脂肪酸であり、炭素数8および10の飽和脂肪酸の質量比率は、7.4:2.6であった。又、トリグリセリドの2位に結合した脂肪酸組成において、炭素数8の飽和脂肪酸の割合は、73質量%であった。
【実施例3】
980gの血中レムナント濃度調整剤2に、米油由来の植物ステロールを20g添加し、十分に攪拌・混合し、血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤5を得た。
【実施例4】
実施例1の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤1を調理用油脂として用いて、ピラフ(血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1)を以下の要領により調製した。なお、この血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1は、1食あたり血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤1を9.5g含有している。
配合割合(質量部)
米320部、玉葱80部、人参80部、トマトケチャップ94部、固形コンソメ5.3部、水400部、および血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤148部。
製造方法
調製法:玉葱と人参をみじん切りにし、米とともに血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤1にて炒めたのちに、炊飯釜に移し入れ、トマトケチャップ、固形コンソメおよび水を加え炊飯した。1食あたり260gに分割した。
実施例4の血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1を用い、クロスオーバー法による食後の血清レムナント様リポタンパク濃度調整効果試験を実施した。対照食品として同量の汎用サラダ油(菜種油:大豆油=70:30(質量比)の調合油)により調製したピラフを用いた。試験は健常成人男性29名で行った。試験前日より12時間絶食の後、試験日の朝、血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1又は対照食品を、市販のコンソメスープとともに摂取させた。コンソメスープを加味した実施例および比較例の1食あたりの油脂含有量はそれぞれ10.4gであった。摂食前と、摂食後2、3、4、6、および8時間にて経時採血を実施し、免疫吸着法にて血清レムナント様リポタンパク−コレステロール値を定量した。結果は各測定時間における定量値をもとに、台形法を用いて計算した血中濃度−時間曲線下面積によって評価した。その試験結果を表1、表2、図1、図2、図3および図4に示す。なお、血中濃度−時間曲線下面積とは摂取物質の体内動態関数であり、投与物質が単位時間あたりに体内へ吸収される量を表すもので、一般に台形法又は指数関数法を用いて計算される。


【実施例5】
実施例1の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤1を用いて、ファットスプレッド(血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品2)を調整した。なお、この血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品2は、1食あたり血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤1を5g含有している。
配合割合(質量部)
食用精製加工油脂30.8部、30%β−カロテン10ppm、乳化剤0.5部、水27.2部、食塩1.1部、粉乳1部、香料0.1部、および血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤1 39.3部。
製造方法
調製法:食用精製加工油脂、30%β−カロテン、乳化剤、香料とともに血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤1を加熱混合し、その後、水、食塩、粉乳を加えて予備乳化後、コンビネーターにて急冷混練する。
実施例5の血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品2を用い、クロスオーバー法による食後の血清レムナント様リポタンパク濃度調整効果試験を実施した。対照食品として同量の汎用サラダ油(菜種油:大豆油=70:30(質量比)の調合油)により調製したファットスプレッドを用いた。試験は健常成人31名(男性15名、女性16名)で行った。試験前日より12時間絶食の後、試験日の朝、血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品2又は対照食品を、市販の食パンとともに摂取させた。食パンを加味した実施例および比較例の1食あたりの油脂含有量はそれぞれ15.8gであった。摂食前と、摂食後2、4、および6時間にて経時採血を実施し、免疫吸着法にて血清レムナント様リポタンパク−コレステロール値を定量した。結果は各測定時間における定量値をもとに、台形法を用いて計算した血中濃度−時間曲線下面積によって評価した。その試験結果を表3、表4、図5、図6、図7および図8に示す。なお、血中濃度−時間曲線下面積とは摂取物質の体内動態関数であり、投与物質が単位時間あたりに体内へ吸収される量を表すもので、一般に台形法又は指数関数法を用いて計算される。


表1および図1に示したように、食後の血清レムナント様リポタンパク濃度は、本発明の血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1を摂取することにより、摂食後、特に食後2、3および4時間にてその上昇が対照食品と比較して有意に抑制された。同様に、表3および図5に示したように、食後の血清レムナント様リポタンパク濃度は、本発明の血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品2を摂取することにより、摂食後2時間にてその上昇が対照食品と比較して有意に抑制された。これらのことから、血清レムナント様リポタンパクの産生が有意に減少したことがわかる。また、図2および図6より、摂食から8ないしは6時間後までの血中に現れたレムナント様リポタンパク量において、血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1および2は、対照食品と比較して有意に低値を示し、血清レムナント様リポタンパク産生量が減少したことがわかる。これらのことから、本発明の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を含有する血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1および2は、食後血清レムナント様リポタンパク濃度の上昇を抑制することが明らかとなった。
また、表2、図3、図4、表4、図7および図8に示したように、本発明の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を含有する血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1および2を摂食した際のBMI値が23以上のヒトの群と23未満のヒトの群を比較すると、血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1および2は、特にBMI値23以上のヒトで、摂食後の血清レムナント様リポタンパク濃度の上昇を抑制することが明らかとなった。
なお、図1、図2、図3、図5、図6および図7中に示した*印は、本発明の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を含有する血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品1および2を摂取した際の平均値が、対照食品のそれと比較して統計学的に有意な差がある(危険率5%以下)ことを表す。
本発明は、有効性が高く、安全で、なおかつ実施が容易な血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤および血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を含有する食品、および血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を含有する医薬品を提供することができる。本発明の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を日常的に摂取することで、血清レムナント様リポタンパク濃度を適正域に調整できるため、高脂血症などの生活習慣病の予防が可能となり、又、動脈硬化症などの脂質過多に起因する血管系疾患の予防効果が期待できる。又、この効果は、特にBMI値が高めのヒト(好ましくはBMI値が23以上)に対し、より有効である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中鎖トリグリセリドを含有する血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤。
【請求項2】
中鎖トリグリセリドが、炭素数が6〜12の飽和脂肪酸とグリセリンとのトリエステルである請求項1記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤。
【請求項3】
中鎖トリグリセリドが、カプリル酸およびカプリン酸とグリセリンとのトリエステルである請求項1記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤。
【請求項4】
前記中鎖脂肪酸トリグリセリドの構成脂肪酸の90質量%以上が炭素数8および10の飽和脂肪酸であり、炭素数8および10の飽和脂肪酸の質量比率が60/40〜85/15であり、且つ、トリグリセリドの2位に結合した全脂肪酸中の炭素数8の飽和脂肪酸割合が60〜85質量%である請求項1記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤。
【請求項5】
前記中鎖脂肪酸トリグリセリドの構成脂肪酸の95〜100質量%が炭素数8および10の飽和脂肪酸であり、炭素数8および10の飽和脂肪酸の質量比率が7/3〜8/2であり、且つ、トリグリセリドの2位に結合した全脂肪酸中の炭素数8の飽和脂肪酸割合が65〜80質量%である請求項4記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤。
【請求項6】
前記中鎖脂肪酸トリグリセリドの含量が5質量%以上である請求項1〜5のいずれか1項記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤。
【請求項7】
中鎖脂肪酸トリグリセリドを40質量%以上含有する請求項6記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤。
【請求項8】
中鎖脂肪酸トリグリセリドを40〜99.95質量%含有する請求項7記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤。
【請求項9】
さらに、動植物油脂を含有する請求項1〜8のいずれか1項記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤。
【請求項10】
さらに、ビタミンEを含有する請求項1〜9のいずれか1項記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤。
【請求項11】
さらに、植物ステロールを含有する請求項1〜10のいずれか1項記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤。
【請求項12】
BMI値が23以上であるヒトの血清レムナント様リポタンパク濃度を調整するための請求項1〜11のいずれか1項記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤。
【請求項13】
BMI値が23以上であるヒトの血清レムナント様リポタンパク濃度を調整するための請求項1〜11のいずれか1項記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤の使用。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を含有することを特徴とする血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品。
【請求項15】
前記食品が、食用油脂、ドレッシング、マヨネーズ、バター、マーガリン、調製マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング、ベーカリーミックス、パン、パイ、飲料、アイスクリーム、クリーム、菓子、チョコレート、ケーキ、クッキー、ドーナツ、マフィン、スコーン、トッピング、加工肉製品、冷凍食品又はフライ食品である請求項14記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整用食品。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか1項記載の血清レムナント様リポタンパク濃度調整剤を含有することを特徴とする血清レムナント様リポタンパク濃度調整用医薬品。

【国際公開番号】WO2004/080209
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503517(P2005−503517)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003000
【国際出願日】平成16年3月9日(2004.3.9)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】