説明

血管透過性亢進の治療におけるマルチキナーゼ阻害剤の使用

マルチキナーゼ阻害剤、具体的にはソラフェニブは、血管透過性亢進を減少させるための血管透過性亢進を含む様々な病的状態の治療において、薬学的組成物を調製するために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管透過性亢進を含む様々な病的状態の治療におけるマルチキナーゼ阻害剤、具体的にはソラフェニブの使用に関する。
【0002】
特に、本発明はリンパ浮腫、脳浮腫、熱傷、網膜浮腫、敗血症、心血管疾患(例えば、心不全)、門脈圧亢進症の二次的な症状である腹水症の治療における、マルチキナーゼ阻害剤、具体的にはソラフェニブの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
血管透過性亢進
様々に異なりかつ潜在的な重度の病的状態は、血管透過性の増加を決定的に含んでいる。このような病的状態の非包括的リストは、
・リンパ節の外科的切開術および/または放射線治療後のリンパ浮腫、
・脳浮腫(腫瘍性、血管性)、
・熱傷、
・網膜浮腫、
・敗血症、
・心血管疾患(例えば、心不全)、
・門脈圧亢進症の二次的な症状である腹水症、を含む。
【0004】
これらの病的状態は、現在のところ、種々の治療選択肢を用いて治療されている。例として、外科的なリンパ節切除および/または放射線治療後の後天性リンパ浮腫は、固形腫瘍を有する患者において頻繁に起こりかつ臨床的に関連性のある事象である。局部リンパ節の切開術の後に、20〜25%の乳癌患者および40〜50%の黒色腫患者がリンパ浮腫を発症している。それ故、術後の局所放射線治療を受ける患者においてリンパ浮腫の発生が著しく増加している。
【0005】
現在のところ、リンパ浮腫のための効果的な治療選択肢はない。従って、可能な治療法は限られた効能しか持たず、リンパ液の排出と関連する弾性圧迫帯を含むものである。
【0006】
脳浮腫は、それの腫瘍性または血管性の由来に関係なく、現在のところ、例えば、浸透圧療法、利尿薬、および副腎皮質ステロイドによって治療される。
【0007】
さらに、熱傷の治療は、水分補給、抗生物質、鎮痛剤、および皮膚移植によって実施される。
【0008】
さらに、網膜浮腫は副腎皮質ステロイドによって治療される。
【0009】
また、敗血症は、抗生物質、遺伝子組み換えヒト活性化プロテインC、および副腎皮質ステロイドによって治療される。
【0010】
さらに、心機能不全は、ACE阻害剤、β−遮断剤、アルドステロン拮抗薬、利尿薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬治療、陽性変力作用薬、および梗塞(infartual)浮腫の場合、副腎皮質ステロイドなど、一連の種々の治療を含む。
【0011】
そして、門脈圧亢進症を伴う腹水症は、現在のところ、塩分制限、利尿薬、および穿刺術によって治療される。
【0012】
上述のように、これらの病的状態は血管透過性の増加を含み、それは血管新生促進の血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR1)−1、VEGFR−2、VEGFR−3、および血小板由来成長因子受容体PDGFRの活性化によって引き起こされる(Bates DO、Harper SJ.Regulation of vascular permeability by vascular endothelial growth factors.Vascul Pharmacol.2002;39:225−237)。
【0013】
マルチキナーゼ阻害剤
ソラフェニブ(ネクサバール、BAY43−9006)は、癌の治療用として一般的に周知かつ使用される、抗増殖性かつ血管新生抑制の特性を有する経口マルチキナーゼ阻害剤である(Wilhelm S,Carter C,Lynch M,et al.Discovery and development of sorafenib:a multikinase inhibitor for treating cancer.Nat Rev Drug Discov.2006;5:835−844)。
【0014】
ソラフェニブは、造血器悪性腫瘍および固形腫瘍の両方からの様々な細胞株におけるRAF/MEK/ERK経路を阻害することで、腫瘍細胞の増殖を阻止することが知られている。さらに、ソラフェニブは、受容体チロシンキナーゼ c−kit、Flt3、RET、および抗アポトーシス性タンパク質 Mcl−1、Bcl−2ファミリーメンバーを抑制する。(Meng XW、Lee SH、Dai H,et al.Mcl−1 as a buffer for proapoptotic Bcl−2 family members during TRAIL−induced apoptosis:a mechanistic basis for sorafenib(Bay 43−9006)−induced TRAIL sensitization.J Biol Chem.2007;282:29831−29846、および、Rahmani M,Davis EM,Bauer C,Dent P,Grant S.Apoptosis induced by the kinase inhibitor BAY 43−9006 in human leukemia cells involves down−regulation of Mcl−1 through inhibition of translation.J Biol Chem.2005;280:35217−35227)。
【0015】
さらに、ソラフェニブは、ヒト黒色腫、腎臓、結腸、膵臓、肝細胞、甲状腺、および卵巣の癌、ならびにNSCLCの様々な前臨床モデルにおける腫瘍成長を抑制する(Wilhelm SM,Carter C,Tang L,et al.BAY 43−9006 exhibits broad spectrum oral antitumor activity and targets the RAF/MEK/ERK pathway and receptor tyrosine kinases involved in tumor progression and angiogenesis.Cancer Res.2004;64:7099−7109)。
【0016】
さらに、ソラフェニブはPLC/PRF/5 HCCを有するマウスの部分的腫瘍退縮を生じさせ、B−RafおよびK−Rasの発癌突然変異を抱える乳癌モデルにおける実質的な腫瘍退縮を誘発した(Liu L, Cao Y, Chen C,et al.Sorafenib blocks the RAF/MEK/ERK pathway,inhibits tumor angiogenesis,and induces tumor cell apoptosis in hepatocellular carcinoma model PLC/PRF/5.Cancer Research.2006;66:11851−11858)。
【0017】
ソラフェニブは進行性の腎細胞癌(RCC)および切除不能な肝細胞癌(HCC)を有する患者の治療のために、米国食品医薬品局によって承認されている(Escudier B,Eisen T,Stadler WM,et al.Sorafenib in advanced clear−cell renal−cell carcinoma.N Engl J Med.2007;356:125−134、および、Llovet JM,Ricci S,Mazzaferro V,et al.Sorafenib in advanced hepatocellular carcinoma.N Engl J Med.2008;359:378−390)。
【0018】
RAFセリン/チロシンキナーゼを標的とすることに加えて、ソラフェニブは血管新生促進の血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR1)−1、VEGFR−2、VEGFR−3、および血小板由来成長因子受容体(PDGFR)の強力な抑制因子としても知られている(Wilhelm SM,Adnane L,Newell P,Villanueva A,Llovet JM,Lynch M.Preclinical overview of sorafenib,a multikinase inhibitor that targets both Raf and VEGF and PDGF receptor tyrosine kinase signaling.Molecular Cancer Therapeutics.2008;7:3129−3140)。
【0019】
また、ソラフェニブは、以前のIFN−alfaまたはインターロイキン−2をベースにした治療が不成功、またはこのような治療が不適切と考えられる、HCCを有する患者および進行性RCCを有する患者の治療に対して、欧州医薬品庁によって承認されている。
【0020】
ソラフェニブの全ての公知の使用において、推奨される1日の投与量は800mgである。
【0021】
さらに、ソラフェニブは、造血器腫瘍、黒色腫を含む、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫、および多種多様なその他の固形腫瘍において、フェーズII/IIIの臨床評価を受けている。
【0022】
現在のところ、非腫瘍性疾患においてソラフェニブを使用するための承認された適用はない。しかしながら、肺高血圧症の治療のためのソラフェニブの臨床開発は、ソラフェニブが実験的肺高血圧症においてRafキナーゼ経路を阻害することで肺リモデリングを妨げかつ心臓および肺の機能を向上させることを示した、最近の出版物に基づいて予測可能である(Klein M,Schermuly RT,Ellinghaus P,et al.Combined tyrosine and serine/threonine kinase inhibition by sorafenib prevents progression of experimental pulmonary hypertension and myocardial remodeling.Circulation.2008;118:2081−2090)。
【0023】
いくつかの特許公報は癌の治療においてソラフェニブを使用することを開示している。これらの中で、私達は、欧州特許出願公開第1954272号明細書、同第1568589号明細書、米国特許第7351834号明細書、米国特許出願公開第2803825号明細書、国際公開第2007/053573号、同第2007/059155号を引用する。
【0024】
ソラフェニブと同様の特性を示すその他のマルチキナーゼ阻害剤が最近開発された。これらの中で、私たちはベバシズマブ、スニチニブ、およびバタラニブを引用するが、このリストは包括的ではない。
【0025】
ベバシズマブは静脈内投与の5−フルオロウラシル(5−FU)をベースにした化学療法と組み合わせることにより、結腸または直腸の転移性癌を有する患者の一次または二次治療のために承認されている。
【0026】
ベバシズマブはカルボプラチンとパクリタキセルと組み合わせることにより、切除不能、局所進行性、再発性または転移性の非扁平上皮、非小細胞肺癌(NSCLC)を有する患者の一次治療のために承認されている。
【0027】
ベバシズマブはパクリタキセルと組み合わせることにより、転移性HER2−陰性乳癌のための化学治療を受けていない患者の治療のために承認されている。
【0028】
スニチニブは疾患の進行後またはメシル酸イマチニブ不耐性後の、胃腸の間質腫瘍の治療に適用される。
【0029】
スニチニブは進行性腎細胞癌の治療に適用される。
【0030】
最後に、バタラニブは開発中であり、現在のところ米国食品医薬品局に承認された適用はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1954272号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1568589号明細書
【特許文献3】米国特許第7351834号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2803825号明細書
【特許文献5】国際公開第2007/053573号
【特許文献6】国際公開第2007/059155号
【非特許文献1】Bates DO、Harper SJ.Regulation of vascular permeability by vascular endothelial growth factors.Vascul Pharmacol.2002;39:225−237.
【非特許文献2】Wilhelm S,Carter C,Lynch M,et al.Discovery and development of sorafenib:a multikinase inhibitor for treating cancer.Nat Rev Drug Discov.2006;5:835−844.
【非特許文献3】Meng XW、Lee SH、Dai H,et al.Mcl−1 as a buffer for proapoptotic Bcl−2 family members during TRAIL−induced apoptosis:a mechanistic basis for sorafenib(Bay 43−9006)−induced TRAIL sensitization.J Biol Chem.2007;282:29831−29846.
【非特許文献4】Rahmani M,Davis EM,Bauer C,Dent P,Grant S.Apoptosis induced by the kinase inhibitor BAY 43−9006 in human leukemia cells involves down−regulation of Mcl−1 through inhibition of translation.J Biol Chem.2005;280:35217−35227.
【非特許文献5】Wilhelm SM,Carter C,Tang L,et al.BAY 43−9006 exhibits broad spectrum oral antitumor activity and targets the RAF/MEK/ERK pathway and receptor tyrosine kinases involved in tumor progression and angiogenesis.Cancer Res.2004;64:7099−7109.
【非特許文献6】Liu L, Cao Y, Chen C,et al.Sorafenib blocks the RAF/MEK/ERK pathway,inhibits tumor angiogenesis,and induces tumor cell apoptosis in hepatocellular carcinoma model PLC/PRF/5.Cancer Research.2006;66:11851−11858.
【非特許文献7】Escudier B,Eisen T,Stadler WM,et al.Sorafenib in advanced clear−cell renal−cell carcinoma.N Engl J Med.2007;356:125−134.
【非特許文献8】Llovet JM,Ricci S,Mazzaferro V,et al.Sorafenib in advanced hepatocellular carcinoma.N Engl J Med.2008;359:378−390.
【非特許文献9】Wilhelm SM,Adnane L,Newell P,Villanueva A,Llovet JM,Lynch M.Preclinical overview of sorafenib,a multikinase inhibitor that targets both Raf and VEGF and PDGF receptor tyrosine kinase signaling.Molecular Cancer Therapeutics.2008;7:3129−3140.
【非特許文献10】Klein M,Schermuly RT,Ellinghaus P,et al.Combined tyrosine and serine/threonine kinase inhibition by sorafenib prevents progression of experimental pulmonary hypertension and myocardial remodeling.Circulation.2008;118:2081−2090.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明は、血管透過性亢進を含む様々な病的状態の治療、特にリンパ浮腫、脳浮腫、熱傷、網膜浮腫、敗血症、心血管疾患(例えば、心不全)、門脈圧亢進症の二次的な症状である腹水症の治療における、ソラフェニブ、ベバシズマブ、スニチニブ、バタラニブ等のマルチキナーゼ阻害剤の使用に関する。
【0033】
このような使用は主要な特許請求の範囲において記載されている。従属請求項にはマルチキナーゼ阻害剤を使用したさらなる有利な方法を示している。
【0034】
血管透過性亢進を含む病状の治療のためのマルチ−キナーゼ阻害剤の使用は、知られている公知の治療法を有さないこの頻繁に起こりかつ衰弱性の進行性疾患のための、一番効果的かつ良好な耐容性を示す薬理学的治療として表される。
【0035】
本発明のその他の特徴および利点は、限定されない実施例として、かつ添付の図面において例示される図表の補助と共に与えられる、以下の本発明の実施形態におけるいくつかの形態の記述を読むことで明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1はそれぞれマルチキナーゼ阻害剤で処理または未処理の誘発されたリンパ浮腫を有するマウスの尾部において実施された実験の結果を示す。
【図2】図2はそれぞれマルチキナーゼ阻害剤で処理または未処理のマウスの尾部において血管透過性亢進が存在するものと比較した実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
最近、出願人はフェーズII臨床治験の状況下において、1日に800mgのマルチキナーゼ阻害剤であるソラフェニブの投与を受けたホジキンリンパ腫の患者において、両脚の重度のリンパ浮腫の完全な退縮を観察した。この患者におけるリンパ浮腫は、放射線治療後の後遺症と関連する圧迫性リンパ管閉塞によるものであった。
【0038】
本観察の機構的な説明として、本出願人は、ソラフェニブはVEGFRsを抑制することによって血管透過性を阻害するため、最終的にはリンパ浮腫の減少を驚くほど誘導すると仮定した。実際、VEGFRsの配位子であるVEGFの1つの主要な活性は血管透過性の増加であり、このタンパク質は血管透過性因子(VPF)としても知られている。
【0039】
この仮説を検証するために、出願人は初めにマルチキナーゼ阻害剤であるソラフェニブの効果をリンパ浮腫のマウス尾部モデルにおいて評価し、次にソラフェニブが血管透過性を阻害するかどうかをマイルズ血管透過性アッセイを用いて調査した。
【実施例1】
【0040】
実施例1:リンパ浮腫のマウス尾部モデル
6〜8週齢および体重が20〜25gの雌C57BL/6マウスをCharles River(ミラノ、イタリア、EU)から購入した。マウスを出願人の施設ガイドラインに従って標準実験室条件で収容した。動物実験は、EU86/109指令を実施かつ動物実験のための施設倫理委員会によって承認された、イタリアの法律(法令116/92およびそれに続く付加条項)に従って行った。
【0041】
リンパ浮腫を形成するために、尾基底に近接する真皮を通過して円周切開することで皮膚リンパ管を切断した。その後、この切開の縁を押し広げることで、より深い排出リンパ管を切断し、表部の出血を防ぎ、2−3mmの裂け目を形成して創閉鎖を遅らせた。下部の主要な血管および腱を無傷に維持するようにケアをすることで、切開のための尾部末端は壊死しなかった。
【0042】
円周切開後の5日間、マウスは末端尾部リンパ浮腫を示し、5〜9および12〜16日目にコントロールの賦形剤またはソラフェニブ(60mg/kg/日)の投与を受けるよう無作為に割り当てた。マウス実験において使用されるソラフェニブの投与量は、ヒトにおいて1日当たりおよそ300mgの投与量に相当する。
【0043】
円周切開後5日目において、平均(±SEM)尾部直径は、悪化しつつある尾部リンパ浮腫の一貫性のある発生により、ベースライン値と比較して著しく増加した(55±7対36±1、P≦0.002)(図1)。その後、5〜9および12〜16日目に2サイクルのソラフェニブ(60mg/kg/日)またはコントロールの賦形剤の投与を受けるように、マウスを無作為に割り当てた。コントロールのマウスはリンパ浮腫の漸進的な増加を示し、15日目においてピークに達し、そのときに63±3mmの平均尾部直径が記録された。それとは著しい対照を成して(図1を参照のこと)、ソラフェニブで処理したマウスのリンパ浮腫は7日目においてピークに達し、そのときに58±4mmの尾部直径が記録された。続いて尾部体積は漸進的かつ迅速に低下し、20日目においてリンパ浮腫の完全な解消をもたらした。そのとき、コントロールのマウスは、なお関連する尾部リンパ浮腫を示していた(36±1対58±3、P≦0.0003)。
【実施例2】
【0044】
実施例2:マイルズ血管透過性アッセイ
ソラフェニブ処理のマウスにおいて著しく減少した浮腫形成を発見したため、次に出願人は、マルチキナーゼ阻害剤であるソラフェニブが血管透過性亢進を減少させるかどうかを調査した。青色染料のエバンズブルーの脾臓内注射を用いたマイルズ血管透過性アッセイを、外科的に誘発された尾部リンパ浮腫を有するソラフェニブで未処理および処理のマウスにおいて行った。
【0045】
6〜8週齢および体重が20〜25gの雌C57BL/6マウスを本実験で使用した。尾部のリンパ浮腫は、上述のように尾基底に近接する真皮を通過する円周切開によって形成した。円周切開後の5日間、マウスは末端尾部リンパ浮腫を示し、5〜9および12〜16日目にコントロールの賦形剤またはソラフェニブ(60mg/kg/日)の投与を受けるよう無作為に割り当てた。16日目において、マウスはソラフェニブの最終投与を受け、2時間後、0.1mlの1%エバンズブルー/PBSを脾臓に注射された。2時間後、マウスに麻酔をかけて失血させ、肺および肝臓が青白化するまでヘパリン/PBSをかん流させた。その後、尾部の末端部を摘出して、37℃で一晩中ホルマリン中に置いてエバンズブルーを抽出した。尾部中のエバンズブルーは、分光光度計を用いて650nmで上清の吸光度を測定することによって定量した。
【0046】
図2に示すように、尾部浮腫を有する未処理のマウスにおけるエバンズブルーの漏出の増加から明らかなように、マウスの尾部において血管透過性亢進が認められた。溢出したエバンズブルーの量における分光光度測定により、ソラフェニブ処理のマウスにおける血管透過性は未処理のマウスにおいて観察されるレベルと比較して著しくも2倍減少することが明らかとなった[平均(±SEM)OD620:0.09±0.009対0.16±0.01、P≦0.0001]。エバンズブルーの溢出の減少は、ソラフェニブが生体内において著しく血管透過性を減少させる能力を有することを示している。
【0047】
臨床研究
臨床設定においてマルチキナーゼ阻害剤であるソラフェニブの抗リンパ浮腫活性をさらに評価するために、出願人は人道的な必要性に基づいて試験的研究を行って、腋窩リンパ節の外科的切開術および/または放射線治療に続いて発生する後天性の上肢リンパ浮腫を有する同意した乳癌患者において、マルチキナーゼ阻害剤であるソラフェニブの毒性および抗リンパ浮腫に対する効果を評価した。これらの患者に対して、証明された効果を有するその他の治療選択肢は利用しなかった。
【0048】
患者に1日200mgの投与量のソラフェニブを経口投与した。
【0049】
治療は最大で8週間、すなわちリンパ浮腫の進行または臨床的に著しい毒性の発現がマルチキナーゼ阻害剤であるソラフェニブと高い確率で関係付けられるまで行った。
【0050】
2ヶ月の期間内に、10人の後天性上肢リンパ浮腫を有する乳癌患者をマルチキナーゼ阻害剤のソラフェニブを用いて治療した。
【0051】
リンパ浮腫発症までの平均期間は24ヶ月(6〜48の範囲)であった。全体としては、ソラフェニブは良好な耐容性を示し、かつ全ての患者はあらゆる等級のあらゆる種類の毒性の発生によって投与量を減少させる、または治療を中止することなく、計画された治療を受けた。
【0052】
治療の最後に、マルチキナーゼ阻害剤であるソラフェニブの効果は、治療前の値と比較した全腕周囲の減少率によって評価した。全腕周囲の平均減少率は60%(30〜100の範囲)であった。リンパ浮腫の減少により、体重が5−10%減少した。
【0053】
結果
本明細書において報告した前臨床および臨床のデータは、後天性リンパ浮腫の治療においてマルチキナーゼ阻害剤であるソラフェニブの強力な効能を強く支持している。マルチキナーゼ阻害剤であるソラフェニブの効果は、リンパ浮腫のマウス尾部モデルにおいて前臨床レベルで発見され、かつ乳癌患者において腋窩リンパ節の外科的切開術および/または放射線治療に続いて発生する医原性リンパ浮腫の臨床設定において確認された。ソラフェニブは1日1回200mgを用いて投与され、それは本薬剤における従来の抗腫瘍に対する計画の1/4を意味している。これは危険な副作用を防ぎ、かつマルチキナーゼ阻害剤であるソラフェニブにおいて、血管透過性亢進を含む様々な病的状態の治療によって前記血管透過性亢進を減少させるための非常に良い指針を発見し得たことを示した。
【0054】
したがって、血管透過性亢進を誘発するVEGFRsの活性化は、マルチキナーゼ阻害剤であるソラフェニブを用いた治療による強力な抗浮腫活性によって仲介された。前臨床レベルにおいて、マイルズ血管透過性アッセイはマルチキナーゼ阻害であるソラフェニブが生体内において血管透過性を著しく減少させる能力を有することを実に示唆している。
【0055】
VEGFRsを抑制することは、ベバシズマブ、スニチニブ、バタラニブ等の様々なマルチキナーゼ阻害剤によって共有される性質であるため、これらのマルチキナーゼ阻害剤は、リンパ浮腫、脳浮腫、熱傷、網膜浮腫、敗血症、心血管疾患(例えば、心不全)、門脈圧亢進症の二次的な症状である腹水症などの一連の病的状態において、血管透過性亢進を減少させるために効率的に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管透過性亢進を減少させるための血管透過性亢進を含む様々な病的状態の治療において、薬学的組成物を調製するためのマルチキナーゼ阻害剤の使用。
【請求項2】
請求項1に記載の使用であって、前記マルチキナーゼ阻害剤はソラフェニブである使用。
【請求項3】
請求項1に記載の使用であって、前記マルチキナーゼ阻害剤はベバシズマブである使用。
【請求項4】
請求項1に記載の使用であって、前記マルチキナーゼ阻害剤はスニチニブである使用。
【請求項5】
請求項1に記載の使用であって、前記マルチキナーゼ阻害剤はバタラニブである使用。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかの請求項に記載の使用であって、前記病的状態はリンパ浮腫である使用。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれかの請求項に記載の使用であって、前記病的状態は脳浮腫である使用。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれかの請求項に記載の使用であって、前記病的状態は熱傷である使用。
【請求項9】
請求項1から請求項5のいずれかの請求項に記載の使用であって、前記病的状態は網膜浮腫である使用。
【請求項10】
請求項1から請求項5のいずれかの請求項に記載の使用であって、前記病的状態は敗血症である使用。
【請求項11】
請求項1から請求項5のいずれかの請求項に記載の使用であって、前記病的状態は心血管疾患、例えば心不全である使用。
【請求項12】
請求項1から請求項5のいずれかの請求項に記載の使用であって、前記病的状態は門脈圧亢進症の二次的な症状である腹水症である使用。

【図2】
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【図1】
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【公表番号】特表2012−524058(P2012−524058A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505244(P2012−505244)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【国際出願番号】PCT/IB2009/051566
【国際公開番号】WO2010/119306
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(511245097)
【Fターム(参考)】