説明

血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤

【課題】 血糖値の上昇の抑制あるいはフリーラジカルや活性酸素による酸化ストレスの抑制を行うことができる血糖上昇抑制剤又は抗酸化剤を提供する。
【解決手段】 ツユクサ科コンメリナ属植物から得られるフラボノイドを有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血糖値の上昇を抑制するための血糖上昇抑制剤及びフリーラジカルや活性酸素(スーパーオキシドなど)による酸化ストレスを抑制するための抗酸化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明者等は、ツユクサ(Commelina communis L)及びオオボウシバナ(Commelina communis L. var. hortensis)についての食後血糖値上昇抑制効果を見出し、その有効成分(活性成分)がα−グルコシターゼ(α−glucosidase)の阻害活性を示す1−デオキシノジリマイシン(1-deoxynojirimycin、「DNJ」と略称する)と2,5−ビスハイドロキシメチル−3,4−ジハイドロキシピロリジン(2,5-bishydoroxymethyl-3,4-dihydoroxy pyrrolidine、「DMDP」と略称する)であることを明らかにし、特許出願すると共に特許を受けている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
そして、本発明者等はさらにツユクサ及びオオボウシバナ並びにこれらが属する他のツユクサ科コンメリナ属植物について研究を行ない、新規な血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤を発明した。
【特許文献1】特開2001−118469号公報
【特許文献2】特開2003−415363号公報(特許第3575766号公報)
【特許文献3】特開2001−118469号公報(特許第3581670号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、血糖値の上昇を抑制することができる血糖上昇抑制剤を提供することを目的とするものである。
【0005】
また、本発明は、フリーラジカルや活性酸素による酸化ストレスを抑制することができる抗酸化剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤は、ツユクサ科コンメリナ属植物から得られるフラボノイドを有効成分として成ることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤は、ツユクサ科コンメリナ属植物が、オオボウシバナ、ツユクサ、マルバツユクサ、シマツユクサ、ホウライツユクサから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤は、ツユクサ科コンメリナ属植物からの抽出物であることを特徴とするものである。
【0009】
さらに、本発明の血糖上昇抑制剤は、フラボノイドが、イソクェルシトリン、イソラムネチン−3−O−ルチノサイド、ビテキシン、スウェルチシンから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とするものである。
【0010】
加えて、本発明の血糖上昇抑制剤は、有効成分として1−デオキシノジリマイシンと2,5−ビスハイドロキシメチル−3,4−ジハイドロキシピロリジンの少なくとも一方を含有して成ることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の抗酸化剤は、フラボノイドが、オリエンチン、ビテキシン、イソオリエンチン、イソビテキシン、フラボコンメリン、スウェルチシンから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の血糖上昇抑制剤は、ツユクサ科コンメリナ属植物から得られるフラボノイドによりα−グルコシターゼの作用を阻害することができ、血糖値の上昇を抑制することができるものである。また、ツユクサ科コンメリナ属植物から得られるフラボノイドの多くは、糖部(グリコシル基)が炭素に直接結合したC配糖体であって、糖部が切断されにくくて水に溶解し易いものであり、水あるいは熱水抽出して飲用することにより、容易に体内に摂取することができるものである。
【0013】
本発明の抗酸化剤は、ツユクサ科コンメリナ属植物から得られるフラボノイドによりフリーラジカルや活性酸素の作用を阻害することができ、これらによる酸化ストレスを抑制することができるものである。また、ツユクサ科コンメリナ属植物から得られるフラボノイドの多くは、糖部(グリコシル基)が炭素に直接結合したC配糖体であって、糖部が切断されにくくて水に溶解し易いものであり、水あるいは熱水抽出して飲用することにより、容易に体内に摂取することができるものである。
【0014】
また、ツユクサ科コンメリナ属植物として、オオボウシバナ、ツユクサ、マルバツユクサ、シマツユクサ、ホウライツユクサから選ばれる少なくとも一つを用いることにより、α−グルコシターゼの作用を阻害するフラボノイドやフリーラジカルや活性酸素の作用を阻害するフラボノイドを容易に得ることができるものである。
【0015】
また、ツユクサ科コンメリナ属植物からの抽出物を用いることによって、フラボノイド以外の成分を除去してフラボノイドの濃度を高めることができ、少量の摂取量で血糖上昇抑制効果及び抗酸化効果を得ることができるものである。
【0016】
さらに、本発明の血糖上昇抑制剤は、フラボノイドが、イソクェルシトリン、イソラムネチン−3−O−ルチノサイド、ビテキシン、スウェルチシンから選ばれる少なくとも一つによって、血糖値の上昇を抑制することができるものである。
【0017】
加えて、本発明の血糖上昇抑制剤は、有効成分として1−デオキシノジリマイシンと2,5−ビスハイドロキシメチル−3,4−ジハイドロキシピロリジンの少なくとも一方を含有することにより、フラボノイドとの相乗効果により高い血糖上昇抑制効果を得ることができるものである。
【0018】
また、本発明の抗酸化剤は、フラボノイドが、オリエンチン、ビテキシン、イソオリエンチン、イソビテキシン、フラボコンメリン、スウェルチシンから選ばれる少なくとも一つによって、フリーラジカルや活性酸素の作用による酸化ストレスを抑制することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0020】
本発明の血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤は、ツユクサ科コンメリナ属植物から得られるフラボノイドを有効成分として含有するものである。
【0021】
ツユクサ科コンメリナ属植物としては、オオボウシバナ(C. communis L. var. hortensis Makino)、ツユクサ(Commelina communis L.)、マルバツユクサ(C. benghalensis L.)、シマツユクサ(C. diffusa Burm. fil.)、ホウライツユクサ(C. auriculata Blume)から選ばれる一種類を用いたりあるいは二種類以上を併用したりすることができる。
【0022】
また、ツユクサ科コンメリナ属植物から得られるフラボノイドはフラボノイド配糖体であって、例えば、イソクェルシトリン(下記化学式(1))、イソラムネチン−3−O−ルチノサイド(下記化学式(2))、グルコルテオリン(下記化学式(3))、オリエンチン(下記化学式(4))、ビテキシン(下記化学式(5))、クリソリオール−7−o−β−D−グルコサイド(下記化学式(6))、スウェルチシン(下記化学式(7))、フラボコンメリン(下記化学式(8))、イソオリエンチン(下記化学式(9))、イソビテキシン(下記化学式(10))などである。以下にこれら十種類のフラボノイドの化学構造式を示す。
【0023】
【化1】

【0024】
尚、化学式中のGlcはグルコシル基、Meはメチル基、Rhamはラムノシル基をそれぞれ示す。
【0025】
上記の化学式から明らかなように、ツユクサ科コンメリナ属植物から得られるフラボノイドの多くは、糖部(グリコシル基)が炭素に直接結合したC配糖体であり、多くの植物がO配糖体を主成分とするのに対して特徴的である。このため、ツユクサ科コンメリナ属植物から得られるフラボノイドは、糖部が切断されにくくて水に溶解し易いものであり、水抽出しても沈殿しにくいものであり、従って、水あるいは熱水抽出して茶飲料と同様に飲用することにより、容易に体内に摂取することができるものである。
【0026】
そして、上記フラボノイドの中でイソクェルシトリン、イソラムネチン−3−O−ルチノサイド、ビテキシン、スウェルチシンがα−グルコシターゼの作用を阻害する活性を有し、また、上記フラボノイドの中でオリエンチン、ビテキシン、イソオリエンチン、イソビテキシン、フラボコンメリン、スウェルチシンがフリーラジカル(ヒドロキシラジカル(・OH)など)や活性酸素(スーパーオキシドアニオン(・O2−)や過酸化水素(H)など)の作用を阻害する活性を有するものである。
【0027】
上記のフラボノイドはツユクサ科コンメリナ属植物の地上部(花、葉、茎など)や地下部(根など)に含まれている。従って、本発明の血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤はこれら地上部や地下部をそのままであるいは乾燥した後、適当な大きさ(10〜20mm)に切断・粉砕することにより得ることができる。
【0028】
また、上記のフラボノイドはツユクサ科コンメリナ属植物の地上部や地下部から抽出することができ、本発明の血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤はこれらの抽出物を含んで調製することができる。ツユクサ科コンメリナ属植物の地上部や地下部から上記のフラボノイドを抽出するにあたっては、例えば、ツユクサ科コンメリナ属植物の地上部や地下部をそのままであるいは乾燥した後、必要に応じて適当な大きさ(10〜20mm)に切断・粉砕し、この切断、粉砕物を溶媒に浸漬した後、還流抽出あるいは静置抽出することによって、上記のフラボノイドを溶媒に抽出することができる。ここで、上記の溶媒としては水、アルコール、水とアルコールの混合溶媒を用いることができる。水を溶媒として用いる場合は常温以上の熱水であっても良い。また、アルコールを溶媒として用いる場合は、メタノール、エタノールなどを単独であるいは複数種混合して用いることができる。また、水とアルコールの混合溶媒を用いる場合は、両者を任意の割合で混合したものを用いることができるが、例えば、アルコール濃度が5〜95%、好ましくは65〜75%のものを用いるようにする。さらに、抽出時の溶媒の温度は60〜80℃に、抽出時の浸漬時間は60〜120分間にそれぞれ設定することができるが、これに限定されるものではない。また、上記の溶媒はツユクサ科コンメリナ属植物の地上部や地下部の1gに対して3〜200mL、好ましくは5〜30mLの割合で配合して抽出を行うことができる。尚、本発明では処理のしやすさなどを考慮してツユクサ科コンメリナ属植物の地上部を好適に用いることができる。
【0029】
本発明の血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤は、ツユクサ科コンメリナ属植物の地上部や地下部から上記のフラボノイドを溶媒で抽出して得られる抽出液をそのままで用いたりあるいは適当な濃度に希釈したりすることにより得ることができる。この時、抽出液中の不純物は濾過により除去するのが好ましい。また、本発明の血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤は、抽出液(濾過により不純物を除去したものも含む)中の溶媒を除去することにより乾燥エキスとして得ることができる。さらに、本発明の血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤は上記の乾燥エキスを水やアルコールなどの溶媒に溶解して調製することができる。
【0030】
本発明では上記の抽出液から単離精製した上記各フラボノイドをそれぞれ単独であるいは複数種混合して血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤として用いることができる。上記の抽出液から各フラボノイドを単離精製するにあたっては、既知の方法を採用することができ、例えば、逆相のシリカゲルなどを備えたクロマトグラフィーを用いた分画方法を挙げることができ、この場合、上記各フラボノイドは水溶性画分として得ることができる。
【0031】
また、本発明の血糖上昇抑制剤は上記フラボノイドとともに、DNJとDMDPの一方あるいは両方を含有するのが好ましく、この場合、フラボノイド及びDNJとDMDPの相乗効果によりα−グルコシターゼの作用を阻害する効果を向上させることができ、高い血糖上昇抑制効果を得ることができる。ここで、α−グルコシターゼに対して阻害を示したフラボノイド(上記化学式(1)(2)(5)(7))は非拮抗阻害剤であることが考えられる。一方、ツユクサ科コンメリナ属植物に含有されるDNJやDMDPは糖類似構造を有しており,酵素との拮抗阻害剤である。また、ツユクサやオオボウシバナなどのツユクサ科コンメリナ属植物の水抽出エキスや乾燥エキス(粉末)が、動物実験において、DNJやDMDPの含有濃度から予想される効果より強い効果を示す。これらの事実からフラボノイド配糖体がα-グルコシダーゼに対して作用部位の違いからDNJやDMDPと相乗的に作用していることが推定される。尚、DNJやDMDPはツユクサ科コンメリナ属植物(特にツユクサとオオボウシバナ)から得られる上記抽出液中に含有されているために、この抽出液をフラボノイドとDNJとDMDPを含有する本発明の血糖上昇抑制剤とすることができる。
【0032】
また、ツユクサ科コンメリナ属植物に含有されるフラボノイドは、フラボンの複素環骨格に単数あるいは複数の水酸基を有しているので、抗酸化剤として作用するものである。
【0033】
本発明の血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤は、そのまま飲食することにより体内に摂取することができる。この場合、血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤に含まれているフラボノイドの摂取量は任意ではあるが、体重60kgの成人においてフラボノイドの摂取量が20〜60mgとなるようにするのが好ましく、これにより、血糖値の上昇抑制効果及び酸化ストレスの抑制効果を高く得ることができる。
【0034】
また、本発明の血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤を既知の食品等に配合することにより、機能性食品とすることができる。例えば、口腔用組成物(ガム、キャンデーなど)やかまぼこ、ちくわなどの加工水産ねり製品、ソーセージ、ハムなどの畜産製品、洋菓子類、和菓子類、生めん、中華めん、ゆでめん、ソバなどのめん類、ソース、醤油、タレ、砂糖、ハチミツ、粉末あめ、水あめなどの調味料、カレー粉、からし粉、コショウ粉などの香辛料、ジャム、マーマレード、チョコレートスプレッド、漬物、そう菜、ふりかけや、各種野菜・果実の缶詰・瓶詰など加工野菜・果実類、チーズ、バター、ヨーグルトなど乳製品、みそ汁、スープ、果実ジュース、野菜ジュース、乳清飲料、清涼飲料、酒類などの飲料、茶葉、その他、健康食品など一般的な飲食品類への使用を例示することができる。また、本発明の血糖上昇抑制剤及び抗酸化剤を既知の賦形材やカプセル材を用いて各種の内用・外用製剤類(動物用に使用する製剤も含む)のように、アンプル状、カプセル状、丸剤、錠剤状、粉末状、顆粒状、固形状、液状、ゲル状あるいは気泡性のように形成することができる。
【実施例】
【0035】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0036】
(実施例1)
乾燥した草津産オオボウシバナ200gを熱水(約5L、温度80〜95℃)で2時間抽出し、その抽出液を濾過後に減圧下で濃縮し、熱水抽出エキスを約22gを得た。この熱水抽出エキスは上記化学式(1)〜(10)に示す全てのフラボノイドとDNJとDMDPとが含有された熱水抽出エキスである。
【0037】
(実施例2〜11)
草津産オオボウシバナ1.2kgを70%エタノール水溶液20Lで還流抽出し、その抽出液を減圧下で濃縮し、エキス(抽出物)約100gを得た。このエキスをダイヤイオンHP−20カラム(700g)に通導し、HO溶出画分、MeOH溶出画分、EtOAc溶出画分を得た。さらに、MeOH溶出画分について、シリカゲルクロマトグラフィー(シリカゲル:400g,5cmi.d.×40cm,CHCl−MeOH系)に付し、計32フラクションを得た。次に、フラクションNo.19−27について分取HPLC(カラム:Deverosil−5PEまたはNucleosil5C18AB,移動相:15%MeCNまたは13%MeCNまたは10%MeCN(1%酢酸含有),流速:1.5〜2.0mL/min,検出:紫外線254nm,温度:40℃)に付し、上記のフラボノイド(1)〜(10)をそれぞれ40mg,25mg,40mg,60mg,50mg,35mg,40mg,55mg,60mg,20mgの収量で単離した。尚、上記の手順を図1に示す。
【0038】
各フラクションの化合物の構造は、500MHz核磁気共鳴スペクトルや質量分析等を用いて文献記載のデータと比較することにより、上記化学式(1)〜(10)のフラボノイドであることを同定した。
【0039】
(実施例12)
上記と同様のオオボウシバナの地上部2gを100%メタノール溶液100mLに一夜常温で浸漬して抽出液を得、この抽出液をダイヤイオンHP−20カラムに付し、50%メタノール水溶液で溶出して粗フラボノイド画分を得て、これを高速液体クロマトグラフ法(HPLC)のサンプルとした。
【0040】
(実施例13)
オオボウシバナの代わりにツユクサを用いた以外は、実施例12と同様にして高速液体クロマトグラフ法(HPLC)のサンプルとした。
【0041】
[DNS法によるα−グルコシターゼ活性阻害試験]
実施例1〜11について、ジニトロサリチル酸(DNS)法によるα−グルコシターゼ活性阻害試験を行なった。試験方法は、実施例1のエキス及び実施例2〜11で得られたフラボノイドを100mLの50%エタノール水溶液(50%EtOH)に溶解し、その溶液25μLに50mMリン酸緩衝液(phosphate buffer、pH7.0)を200μL加えて37℃で5分間加温した。次に、サンプルを混入した緩衝溶液に基質溶液(100mMショ糖水溶液)を175μL加えて37℃で5分間加温した。次に、この溶液に酵素溶液(100μLのα−グルコシダーゼ溶液)を加えて37℃で30分間反応した。α−グルコシダーゼ溶液としては酵素標準品(Saccharomyces sp.由来)を10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で1mg/mLに溶解し、同緩衝液で約40倍に希釈したものを用いた。次に、α−グルコシダーゼ溶液を加えた溶液にDNS溶液を加えて100℃で10分間反応した。DNS溶液としては水1リットルに対して、3,5-dinitrosalicylic acid(DNS)を1%、酒石酸カリウムを5%、NaOHを1%、フェノールを0.2%、NaSOを0.05%の割合で溶解した溶液を用いた。そして、DNS溶液を加えた溶液を水で3倍に希釈した後、540nmにおける3−アミノ−5−ニトロサリチル酸の光学濃度を測定した。
【0042】
この結果をIC50値として表1に示す。また、比較のために、DNJとDMDPのα−グルコシターゼ活性阻害試験の結果も比較例1、2として併記する。DNJとDMDPの構造式は下記[化2]の通りである。表1においてIC50の値が小さいほどα−グルコシターゼの活性阻害効果が高いことを示す。すなわち、下記[化3]に示すように、ショ糖はα−グルコシターゼの作用によりD−グルコースに分解され、このD−グルコースがジニトロサリチル酸と反応して3−アミノ−5−ニトロサリチル酸が生成されるが、実施例1〜14によりα−グルコシターゼの活性が阻害されると、D−グルコースの生成が抑制されて3−アミノ−5−ニトロサリチル酸の生成量が少なくなる。従って、3−アミノ−5−ニトロサリチル酸の光学濃度が小さいほど、α−グルコシターゼの活性阻害効果が高いことになる。
【0043】
【化2】

【0044】
【化3】

【0045】
[DPPHラジカル消去能試験]
実施例1のエキス及び実施例2〜11で得られたフラボノイドについて、1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)のラジカルの消去能試験を行なった。試験方法は、実施例1のエキス及び実施例2〜11で得られたフラボノイドをそれぞれ100mLの50%エタノール水溶液(50%EtOH)に溶解し、その溶液2mLと0.1Mアセテート緩衝液(acetate buffer、pH5.5)の2mLとを混合した。
【0046】
次に、上記溶液とアセテート緩衝液との混合液に0.5mMのDPPH溶液(エタノール溶液)を1mL加え、30℃で30分間、暗下で反応させた。
【0047】
この後、反応後の混合液について吸光光度法(測定波長517nm)によりDPPHラジカル消去能を評価した。
【0048】
この結果をEC50値として表1に示す。また、比較のために、没食子酸エピガロカテキン(epigallocatechin gallate)のDPPHラジカル消去能の結果も比較例3として併記する。尚、DPPHの構造式を下記[化4]に示す。
【0049】
【化4】

【0050】
[化学発光による抗酸化能の測定]
実施例1のエキス及び実施例2〜11で得られたフラボノイドについて、化学発光による抗酸化能の測定(Chemiluminescence quenching/antioxidant capacity 略してCQAC測定法)を行なった。CQAC測定法の過程で起こる化学反応式を以下に示す。
CumOOH + microperoxidase(MP) → CumO・
CumO・ + isoluminol(QH) → CumOH + semiquinoneradical(・Q)
・Q + O2 → Q +・O2
・Q +・O2 → isoluminol endoperoxide → light
また、この過程を下記[化5]に示す。
【0051】
【化5】

【0052】
化学発光による抗酸化能の測定の試験方法は、まず、過酸化物標準液を作成した。過酸化物標準液は、250μMクメンペルオキシド(CumOOH)/0.2Mホウ酸緩衝液(pH9.4)と、0.1mMジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)と、50%メタノール水溶液とを混合したものである。また、実施例1のエキス及び実施例2〜11で得られたフラボノイドを含む試料液を作成した。この試料液は実施例1のエキス及び実施例2〜11で得られたフラボノイドを1000μLの50%メタノール水溶液に溶解して用いた。さらに、化学発光試薬を作成した。この化学発光試薬は、1mMイソルミノール(Isoluminol)と0.005%マイクロペルオキシターゼ(MP)の混合物である。
【0053】
そして、過酸化物標準液0.8mLに試料液20〜200μLと化学発光試薬0.15mLとを添加し、化学発光測定を3分間行なった。この測定にはアロカ(株)製のルミネッセンスリーダBLR−201を用いた。結果を図2のグラフに示す。尚、比較のために、ルチン(rutin)及びヘスペリジン(hesperidin)の抗酸化能についても併記した。また、1Uはtroloxの50nmolの抗酸化力に相当する。ルチン、ヘスペリジン、troloxの構造式を下記[化6]に示す。
【0054】
【化6】

【0055】
[高速液体クロマトグラフ法によるフラボノイドの確認試験]
実施例12、13で得られたサンプルについて、高速液体クロマトグラフ法により含有フラボノイドの同定を行なった。高速液体クロマトグラフ法による分析条件は、カラムとして全多孔性球状シリカゲルを用いたCosmosil(登録商標)5PE−MS 4.6×150mmを用いて、10%アセトニトリル水溶液から30%アセトニトリル水溶液へ50分でグラジエント溶出を行ない、流速は0.8mL/minとした。また、検出は紫外線の254nmで行ない、温度は40℃に設定した。結果を図3に示す。
【0056】
[実施例1と「ベイスン0.2錠」とのα−グルコシターゼ阻害活性の対比試験]
実施例1のエキスの乾燥粉末(1.2205g)と「ベイスン0.2錠」(商品名)3錠(0.3921g)とをそれぞれ蒸留水10mLに溶解し、この溶液を蒸留水で希釈して表2に示す各種の希釈濃度の希釈サンプルを得、各希釈サンプルについてα−グルコシターゼ阻害活性率を測定した。測定方法はp-nitrophenyl法を用いた。この方法は、p-nitrophenyl-α-D-glucopyranoside(PNP-α-D-glc)を基質とし、酵素はラット小腸由来のα−グルコシターゼを使用した。実験方法は、まず、25μLの希釈サンプルと0.1Mリン酸緩衝液(phosphate buffer、pH7.0)475μLとを混合して37℃で5分間加温した後、250μLの20mMパラニトロフェニルα−グルコピラノシド(p-nitrophenyl-α-glucopyranoside、PNP)をさらに加え、37℃で5分間加温した後、250μLのα−グルコシターゼ(ラット小腸由来)を用いて、37℃で15分間反応させた。次に、1000μLの0.2M炭酸ナトリウム水溶液(NaCO)を加え、この後、この混合液について吸光光度法(測定波長400nm)により吸光度を測定し、α−グルコシターゼ阻害活性を評価した。結果を表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から明らかなように、イソクェルシトリン(実施例2)、イソラムネチン−3−O−ルチノサイド(実施例3)、ビテキシン(実施例6)、スウェルチシン(実施例8)が高いα−グルコシターゼの作用を阻害する活性を示した。また、表1及び図4から明らかなように、オリエンチン(実施例5)、ビテキシン(実施例6)、イソオリエンチン(実施例10)、イソビテキシン(実施例11)、フラボコンメリン(実施例9)、スウェルチシン(実施例8)がフリーラジカルや活性酸素の作用を阻害する活性を示した。
【0059】
また、図3から明らかなように、実施例12と実施例13で得られたサンプルのいずれの測定結果においても、同じ保持時間(Retention time)でのピークを有し、実施例12と実施例13で得られたサンプルに同等のフラボノイドが含有されていることが判る。従って、オオボウシバナ以外のツユクサ科コンメリナ属植物についても上記のフラボノイドが得られて、これを有効成分とするα−グルコシターゼ阻害活性剤や抗酸化性剤を得ることができる。尚、図3において(1)(2)(5)(7)は、上記化学式(1)(2)(5)(7)の各フラボノイドのピークを示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表2から明らかなように、実施例1のエキス粉末はベイスン0.2錠に比べて、少ない量で同等のα−グルコシターゼ阻害活性を示す。そして、p-nitrophenyl法による実施例1とベイスン0.2錠とのIC50値は、実施例1のエキス粉末は0.026mg/mL、ベイスン0.2錠が0.49mg/mLであった。これは、ベイスン1錠が約130mg(voglibose(ボグリボース)0.2mg含有)であるので、実施例1のエキス粉末が約10mg(DNJ、DMDP 0.0346mg含有)程度と考えられ、実施例1のエキス粉末が少ない量で高いα−グルコシターゼ阻害活性を示すことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】フラボノイドの単離精製の過程を示す説明図である。
【図2】化学発光による抗酸化能の測定の結果を示すグラフである。
【図3】高速液体クロマトグラフ法によるフラボノイドの確認試験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツユクサ科コンメリナ属植物から得られるフラボノイドを有効成分として成ることを特徴とする血糖上昇抑制剤。
【請求項2】
ツユクサ科コンメリナ属植物が、オオボウシバナ、ツユクサ、マルバツユクサ、シマツユクサ、ホウライツユクサから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の血糖上昇抑制剤。
【請求項3】
ツユクサ科コンメリナ属植物からの抽出物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の血糖上昇抑制剤。
【請求項4】
フラボノイドが、イソクェルシトリン、イソラムネチン−3−O−ルチノサイド、ビテキシン、スウェルチシンから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の血糖上昇抑制剤。
【請求項5】
有効成分として1−デオキシノジリマイシンと2,5−ビスハイドロキシメチル−3,4−ジハイドロキシピロリジンの少なくとも一方を含有して成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の血糖上昇抑制剤。
【請求項6】
ツユクサ科コンメリナ属植物から得られるフラボノイドを有効成分として成ることを特徴とする抗酸化剤。
【請求項7】
ツユクサ科コンメリナ属植物が、オオボウシバナ、ツユクサ、マルバツユクサ、シマツユクサ、ホウライツユクサから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項6に記載の抗酸化剤。
【請求項8】
ツユクサ科コンメリナ属植物からの抽出物であることを特徴とする請求項6又は7に記載の抗酸化剤。
【請求項9】
フラボノイドが、オリエンチン、ビテキシン、イソオリエンチン、イソビテキシン、フラボコンメリン、スウェルチシンから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の抗酸化剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−143658(P2006−143658A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336591(P2004−336591)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年8月9日 日本生薬学会発行の「日本生薬学会 第51回(2004年)年会講演要旨集」に発表
【出願人】(000132323)株式会社スピルリナ研究所 (6)
【出願人】(397014558)株式会社ヤマダ薬研 (4)
【Fターム(参考)】