説明

血糖値低下剤

【課題】血糖値をより安全に、かつ確実にコントロールできる新規な血糖値低下剤を提供する。
【解決手段】レスベラトロールを有効成分として含有する血糖値低下剤およびそれを添加した糖尿病の予防または症状改善のための飲食品または飼料であり、好ましくは飲食品中にレスベラトロールを0.005重量%以上添加したものである。本発明の血糖値低下剤は、II型糖尿病モデルマウスに対して優れた血糖値低下作用および耐糖能障害改善作用を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レスベラトロールを含有する血糖値低下剤およびこれを含有する糖尿病の予防または症状改善のための飲食品または飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノールの一種であるレスベラトロール(resveratrol)はブドウや赤ワインに含まれる抗酸化作用を有するフィトアレキシン(抗菌性物質)である。本物質には、心臓病予防改善効果(特許文献1参照)、抗酸化活性(非特許文献1参照)、抗炎症効果や脳血栓症予防(特許文献2参照)、抗癌効果(非特許文献2参照)や脳梗塞後の脳組織障害進展抑制効果(特許文献3参照)が示されている。レスベラトロールのこのような生理作用から、中程度のワイン消費が心血管病、脳卒中、痴呆の危険度と負の相関を示す、いわゆる『フレンチパラドックス』に関与する物質と考えられてきている。
【0003】
糖尿病の治療薬は、大きく経口薬とインスリンに分けられる。さらに経口薬はその作用機序により、インスリン分泌促進薬、インスリン抵抗性改善薬、α−グルコシダーゼ阻害薬に分類される。インスリン分泌促進薬にはスルホニル尿素(sulfonylurea;SU)薬とフェニルアラニン誘導体薬があり、SU薬は細胞外よりKATPチャネルを閉鎖し、細胞膜の脱分極を介して電位依存性Ca2+チャネルが活性化された結果、細胞内へ流入したCa2+がインスリン分泌を促進する。インスリン抵抗性改善薬にはチアゾリジン誘導体(thiazolidinediones;TZD)薬とヒグアナイド薬があり、前者は核内受容体であるペルオキシソーム増殖応答性受容体γ(PPARγ)のリガンドとして作用すること、後者の作用発現の一部にAMP依存性キナーゼが関与することでインスリン抵抗性を改善すると考えられている。しかし、これらは過度の投与や長期の使用により、肥満やインスリン抵抗性の増悪、血糖値コントロールの不全などをもたらすこともある。
【0004】
【特許文献1】特表2001−510777号公報
【特許文献2】特開平9−165331号公報
【特許文献3】特開2003−300904号公報
【非特許文献1】Fauconneau, B. et al. Comparative study of radical scavenger and antioxidant properties of phenolic compounds from Vitis vinifera cell cultures using in vitro test. Life Sci.61, 2103-2110 (1997)
【非特許文献2】Jang, M. et al. Cancer chemopreventive activity of resveratrol, anatural product derived from grapes. Science 275, 218-220 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、血糖値をより安全に、かつ確実にコントロールできる新規な血糖値低下剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、レスベラトロールをII型糖尿病モデルマウスに経口投与すると、マウスの血糖値が有意に低下し、耐糖機能障害も改善されることを見出した。すなわち、レスベラトロールの適当量を経口投与すると糖尿病の予防と症状改善に有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)レスベラトロールを有効成分として含有する血糖値低下剤、
(2)レスベラトロールが、ブドウ、ラッカセイまたはイタドリ由来のものである(1)記載の血糖値低下剤、
(3)(1)または(2)記載の血糖値低下剤を添加した、糖尿病の予防または症状改善のための飲食品、
(4)レスベラトロールを飲食品中に0.005重量%以上添加した(3)記載の飲食品、
(5)(1)または(2)記載の血糖値低下剤を添加した、糖尿病の予防または症状改善のための飼料、および
(6)レスベラトロールを飲食品中に0.005重量%以上添加した(5)記載の飼料、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の血糖値低下剤に含まれるレスベラトロールは、血糖値降下作用を有し、血糖値の上昇を抑制し、糖尿病の主症状である異常な高血糖状態の血糖値を低下させる効果を有する。また、さらにレスベラトロールを投与しても体重の異常増加等の副作用は認められず、また耐糖能障害を改善する効果もある。したがって、効果的に糖尿病の予防または症状改善を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。本発明の血糖値低下剤、糖尿病の予防または症状改善のための飲食品、またはそのための飼料の有効成分であるレスベラトロールは、赤ワインの原料となるブドウの皮、種などに含まれる天然成分であり、人畜に対する安全性は高い。さらに、レスベラトロールはブドウ、ラッカセイ、イタドリなどの原料植物からエタノール、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒を用いた抽出法やシリカゲル、吸着樹脂などを用いたクロマトグラフィー等の種々の精製方法を用いて単離することができる。また、有機合成法によっても製造することができる。
【0010】
本発明を実施する方法について具体的に示す。まず、本発明の血糖値低下剤の投与経路としては経口が好ましい。好ましい投与量は、マウスに対しては、0.01〜100mg/体重kg/日であり、ヒトに対してはマウスとの相関性を考慮して、あるいはヒトの糖尿病の程度を考慮して決めればよいが、0.1〜100mg/体重kg/日が好ましい。
【0011】
本発明の血糖値低下剤の剤型としては、アンプル、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、ドリンク剤等が挙げられるが、特定の剤型のものに限定されるものではない。また、製剤中のレスベラトロールの好ましい含有量は、製剤全量に対して0.005重量%以上とすることが好ましい。これらの剤型には、通常、製剤化に用いられる各種の成分が任意に使用されるが、例えばコーンスターチ等のデンプン、デキストリン、乳糖、無機塩類、グルコース、マンニトール、ステアリン酸マグネシウム、タルク、セルロース誘導体、ゼラチン、クエン酸などが挙げられる。
【0012】
また、レスベラトロールは食経験があるので食品または飼料に添加し、糖尿病予防用または症状改善用の、飲食品または飼料とすることもできる。そのような場合、飲食品へは、通常0.01〜50重量%程度、好ましくは0.1〜10重量%程度添加すればよく、飼料へは、通常0.01〜50重量%程度、好ましくは0.1〜10重量%程度添加すればよい。
【0013】
一般的に、高血糖状態から血糖値を低下させる作用及び血糖値の上昇を抑制する作用は、糖尿病モデルマウスを使用したin vivo試験、すなわち糖尿病モデルマウスに被験物質を投与し、一定期間投与した段階での血糖値及び糖化ヘモグロビン量を測定する試験によって評価することができる。糖化ヘモグロビンは、ヘモグロビンA1a、ヘモグロビンA1b、ヘモグロビンA1cの成分から構成され、長期間にわたって血液中に残存する傾向をもつことより、血液中の糖化タンパク質の優れたマーカーとなる。中でも、ヘモグロビンA1c(HbA1c)の値は、測定前の6〜8週間の平均的血糖コントロールレベルの指標として血中グルコース治療の有効性を反映するので、糖尿病の診断に有効なマーカーであり、血糖値の測定と併用して糖尿病の診断及び進行度の測定に利用されている。本発明の血糖値低下剤は、前述の試験方法によれば、対照群に比べ、有意に血糖値と糖化ヘモグロビン量を低下させ、優れた血糖値低下作用を有することがわかる。
【0014】
次に実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0015】
実施例1 II型糖尿病モデルマウスにおける血糖値低下作用確認試験
II型糖尿病モデルマウスである6週齢、雄性db/dbマウス(日本チャールスリバー社より購入)を1群5匹に群分けし、予め通常の血糖値を測定して、高血糖状態(300mg/dl)であることを確認した。第1群(db/dbマウス対照群)及び第2群(レスベラトロール投与db/dbマウス群)には基本食として用いたCRF−1固形飼料(オリエンタル酵母工業社製)を自由に与え、第1群には0.5%CMCを、第2群には0.5%CMCによって3.5μg/mlに調製したレスベラトロール試料を、それぞれ600μlずつ、1日1回、20日間連続してゾンデを用いて強制経口投与した。20日間の飼育後、尾静脈より採血し、ワンタッチウルトラ(LIFESCAN社製)にて血糖値を測定した。また、眼窩静脈よりヘマトクリット管を用いて採血を行い、糖化ヘモグロビン量(HbA1c)をマイクロマットII(シスメックス社製)を用いて測定した。本試験の結果を表1と図1に示す。
【0016】
その結果、第2群では第1群との比較において、有意に血糖値の低下が認められた。したがって、レスベラトロールの投与は血糖値低下に有効であることが判明した。また、糖化ヘモグロビン量についても、第2群は第1群より低下していたことから、マウスへのレスベラトロールの投与により血糖値の低下が維持されていたことが確認された。
【0017】
【表1】

【0018】
実施例2 II型糖尿病モデルマウスを用いた糖負荷試験における耐糖能障害改善作用確認試験
第1群(db/dbマウス対照群)及び第2群(レスベラトロール投与db/dbマウス群)には基本食として用いたCRF−1固形飼料(オリエンタル酵母工業社製)を自由に与え、第1群には0.5%CMCを、第2群には0.5%CMCによって3.5μg/mlに調製したレスベラトロール試料を、それぞれ600μlずつ、1日1回、ゾンデを用いて強制経口投与した。投与を開始してから14日後にマウスを20時間絶食し、糖負荷試験を行った。グルコースを2g/kg体重の割合で経口投与を行い、糖負荷直前(0分)、負荷後30分、60分、120分にマウスの尾静脈より採血し、ワンタッチウルトラを用いて血糖値を測定した。結果を表2と図2に示す。
【0019】
第2群では、第1群と比較して、糖負荷後30分に有意に低い血糖値を示し、それ以降も低い血糖値を示した。このことより、レスベラトロールが耐糖能障害の改善に有効であることが確認された。
【0020】
【表2】

【0021】
実施例3 II型糖尿病モデルマウスにおける体重変化
第1群(db/dbマウス対照群)及び第2群(レスベラトロール投与db/dbマウス群)には基本食として用いたCRF−1固形飼料(オリエンタル酵母工業社製)を自由に与え、第1群には0.5%CMCを、第2群には0.5%CMCによって3.5μg/mlに調製したレスベラトロール試料を、それぞれ600μlずつ、1日1回、20日間連続してゾンデを用いて強制経口投与した。飼育期間中の体重を測定し、対照群との比較を行った。結果を図3に示す。
【0022】
第2群のレスベラトロール投与区では、体重増加は第1群の未投与区との比較ではほとんど同等であり、体重変化は正常であると考えられた。したがって、レスベラトロール投与により体重に異常をきたす副作用は確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】レスベラトロールの血糖値低下作用を示す図である。
【図2】糖負荷試験におけるレスベラトロールの耐糖能障害改善作用を示す図である。
【図3】レスベラトロール投与後の体重変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レスベラトロールを有効成分として含有する血糖値低下剤。
【請求項2】
レスベラトロールが、ブドウ、ラッカセイまたはイタドリ由来のものである請求項1記載の血糖値低下剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の血糖値低下剤を添加した、糖尿病の予防または症状改善のための飲食品。
【請求項4】
レスベラトロールを飲食品中に0.005重量%以上添加した請求項3記載の飲食品。
【請求項5】
請求項1または2記載の血糖値低下剤を添加した、糖尿病の予防または症状改善のための飼料。
【請求項6】
レスベラトロールを飲食品中に0.005重量%以上添加した請求項5記載の飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−126390(P2007−126390A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319803(P2005−319803)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000001915)メルシャン株式会社 (48)
【Fターム(参考)】