説明

衝撃低減装置およびチャイルドシート装置

【課題】広い範囲の衝撃に対応できる衝撃低減装置を提供する。
【解決手段】シャフト101の外周にコイルばね105を装着し、コイルばね105がシャフト101を締め付けた状態とする。コイルばね105は、円筒ケース106端部のフランジ部107に接触しており、上ブラケット109と下ブラケット103とを引き離す方向に衝撃が加わると、コイルばね105に対して摩擦しながら、シャフト101が円筒ケース106から引き出される。この際、衝撃のエネルギーが摩擦によって吸収され、衝撃が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃を低減する衝撃低減装置、およびこの衝撃低減装置を用いたチャイルドシート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車の前突時等におけるチャイルドシートに座った子供に加わる衝撃を低減する仕組みとして、特許文献1に記載された技術が知られている。特許文献1には、チャイルドシートのシートベルトの一端を、波型の衝撃吸収プレートを介して、チャイルドシートの座部に固定する構成が記載されている。この構成によれば、シートベルトに衝撃が加わった際に、波型の衝撃吸収プレートが塑性変形し、それによりシートベルトに加わった衝撃が吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−136564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された構成では、衝撃吸収プレートの塑性変形を利用しているので、対応できる衝撃の範囲が狭い。そこで、本発明は、広い範囲の衝撃に対応できる衝撃低減装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、柱状の部材と、前記柱状の部材をばねの力により締め付けるばね部材とを備え、前記ばね部材が前記柱状の部材を摩擦しながら前記柱状の部材に対して相対的に動くことで、前記柱状の部材の軸方向において前記柱状の部材と前記ばね部材との間に加わる衝撃が低減されることを特徴とする衝撃低減装置である。
【0006】
請求項1に記載の発明においては、柱状の部材がばね部材により締め付けられている。このため、ばね部材に対して柱状の部材を相対的に軸方向に動かすと、ばね部材と柱状の部材との間に働く摩擦力により、抵抗が発生し、エネルギーが消費される。すなわち、柱状の部材とばね部材との間において、軸方向における衝撃が加わると、この衝撃の力によって、ばね部材が柱状の部材に対して摩擦しつつ相対的に移動し、その際に衝撃のエネルギーが摩擦エネルギーに転化されて消費される。
【0007】
この原理によれば、柱状の部材に対するばね部材の相対的な移動に際して発生する両部材間における摩擦力を利用して、衝撃の低減が行われる。このため、柱状の部材に対するばね部材の相対的な移動距離を確保することで、広い範囲の衝撃に対応できる衝撃低減装置が提供される。また、この摩擦力は、柱状の部材に対するばね部材の締め付け力によって発生するので、設定の精度が高く、また安定した値を得ることができる。また、摩擦しつつ相対移動する間に衝撃の低減が行われるので、衝撃の吸収が時間をかけて行われ、効果的な衝撃の低減が行われる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ばね部材がコイルばねであり、前記コイルばねの内側に前記柱状の部材が圧入されていることを特徴とする。コイルばねは、柱状の部材への圧入時に捩れて内径が拡大するので、柱状の部材への装着が容易である。また、柱状の部材への安定した装着状態(言い換えれば、締め付け状態)を得ることができるので、安定した衝撃低減機能が得られる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ばね部材は、断面形状がC字型になるように曲げた板ばねであることを特徴とする。請求項3に記載の発明によれば、コイルばねとは異なる構造を得ることができる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記ばね部材を内側に納めた筒状の部材と、前記筒状の部材の内側に突出した突出部とを更に備え、軸方向において、前記柱状の部材と前記筒状の部材との間に衝撃が加わると、前記ばね部材が、前記突出部に接触した状態で、前記柱状の部材を摩擦しながら前記柱状の部材に対して相対的に動くことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明によれば、柱状の部材と筒状の部材との間に衝撃が加わると、柱状の部材に対して筒状の部材が相対的に動こうとする。この際、ばね部材がフランジ部に突き当たることで、ばね部材が筒状の部材に対して相対的に移動できなくなり、ばね部材に対して柱状の部材が摩擦しながら相対的に移動する。これにより、衝撃のエネルギーが摩擦のエネルギーに転化され、衝撃の低減が行われる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記コイルばねを構成する線材の断面形状が四角形状、丸型形状を軸方向において押しつぶした形状、または楕円形状であることを特徴とする。請求項5に記載の発明によれば、コイルばねと柱状の部材との間における摩擦力の調整や軸方向におけるコイルばねの寸法の調整が、コイルばねを構成する線材の断面形状を調整することで行える。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発明において、前記柱状部材の外径寸法が軸方向において異なった値を有していることを特徴とする。請求項6に記載の発明によれば、柱状の部材の外径を軸方向で変化させることで、ばね部材と柱状の部材との間で作用する摩擦力の強弱を軸方向において変化させることができる。
【0014】
この構成によれば、ばね部材の柱状の部材に対する変位が進行するのに従って、徐々に衝撃の吸収能力が高くなるようになる設定や、ばね部材の柱状の部材に対する変位が進行するのに従って、衝撃の吸収能力が低→高→低となる設定等が実現できる。
【0015】
例えば、本発明の衝撃低減装置をシートベルトに加わる衝撃を低減する用途に適用した場合において、変位の最初は相対的に低摩擦で、その後に相対的に高摩擦となる設定とした場合を考える。この場合、相対的に低体重な人には、低摩擦の領域で衝撃の低減機能が作用する。このため、シートベルトに加わる張力を抑えることができ、身体への負担が抑えられる。
【0016】
また、相対的に高体重な人には、低摩擦が作用する期間の後の高摩擦が作用する期間においても衝撃の低減が行われる。このため、シートベルトに加わる張力が、衝撃低減期間の後半において上昇する。この特性によれば、身体に加わる負荷を抑えながら、高体重者に加わる衝撃を効果的に低減することができる。また、請求項6に記載の発明によれば、時間経過に伴う衝撃の吸収能力の分布特性を、身体への負担に鑑み調整することが可能となる。
【0017】
請求項7に記載の発明は、シート面に固定される本体と、一端が、請求項1〜6のいずれか一項に記載の衝撃低減装置を介して前記本体に固定されたシートベルトとを備えることを特徴とするチャイルドシート装置である。請求項7に記載の発明によれば、請求項1〜6に記載の発明が有する優位性を備えたチャイルドシートが提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、広い範囲の衝撃に対応できる衝撃低減装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態の衝撃低減装置の概要を示す上面図(A)と側面図(B)である。
【図2】実施形態の衝撃低減装置の概要を示す上面図(A)と側面図(B)である。
【図3】実施形態のチャイルドシートの側面図(A)、正面図(B)および背面図(C)である。
【図4】実施形態のチャイルドシートをシート装置に取り付けた状態を示す側面図である。
【図5】実施形態の衝撃低減装置の特性を示すグラフである。
【図6】コイルばねの線材の断面の形状を示す断面図である。
【図7】衝撃低減装置の他の例を示す上面図(A)、側面図(B)、断面図(C)である。
【図8】衝撃低減装置の他の例を示す上面図(A)、側面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(衝撃低減装置の構造)
図1および図2は、実施形態の衝撃低減装置の概要を示す上面図(A)と側面図(B)である。図1は、衝撃が加わる前の状態を示し、図2は、衝撃が加わっている最中(あるいは衝撃が加わった後)の状態を示す。図1および図2は、内部構造が一部透視できる図面とされている。
【0021】
図1には、衝撃低減装置100が示されている。衝撃低減装置100は、円柱状の部材の一例であるシャフト101を備えている。シャフト101は、断面が円形の金属製であり、その外径はテーパ部の部分で図の上方向に向かって徐々に大きくなる一部テーパ構造とされている。シャフト101の端部(図の下端)には、軸に直行する方向に孔が開けられ、そこに下ブラケット取り付けピン102が貫通している。
【0022】
下ブラケット103は、カール部103aを備えている。このカール部103aは、丸められた内側に下ブラケット取り付けピン102を収容する構造とされている。上記シャフト101端部に形成された孔とカール部103aの位置を合わせ、それらの内側に下ブラケット取り付けピン102を貫通させることで、図示する様にシャフト101の端部に下ブラケット103が取り付けられる。下ブラケット103には、シートベルトを通し固定するためのスリット104が形成されている。
【0023】
シャフト101の外周には、コイルばね105が装着されている。コイルばね105を構成する線材(ばね性を有する金属線)は、断面が円形とされている。コイルばね105の内径は、シャフト101の外径よりも少し小さな寸法とされ、シャフト101がコイルばね105の内側に圧入された状態とされている。この構造によれば、コイルばね105が少し捩れて内径が拡径し、ばねの反発力により、シャフト101を締め付けた状態となる。
【0024】
シャフト101は、筒状の部材の一例である円筒形状の円筒ケース106内に収納されている。円筒ケース106の端部(図の下端部)には、内側の方向に突出したフランジ部107が設けられている。このフランジ部107にコイルばね105が突き当たって接触した状態とされ、フランジ部107の中央からシャフト101が下方に突出している。
【0025】
円筒ケース106のもう一方の端部(図の上端部)には、軸に直交する方向に孔が形成され、そこに上ブラケット取り付けピン108が貫通している。上ブラケット109は、カール部109aを備えている。このカール部109aは、内側に上ブラケット取り付けピン108を収容する構造とされている。シャフト101の上端部に形成された孔とカール部109aの位置を合わせ、それらの内側に上ブラケット取り付けピン108を貫通させることで、図示する様に円筒ケース106の端部に上ブラケット109が取り付けられる。上ブラケット109には、シートベルトを通し固定するためのスリット110、111が形成されている。
【0026】
(チャイルドシートの構造)
以下、図1の衝撃低減装置100を備えたチャイルドシートの一例を説明する。図3は、実施形態のチャイルドシートの側面図(A)、正面図(B)、背面図(C)である。図3(A)および(C)は、内部構造が一部透視できる状態で作図されている。図4は、実施形態のチャイルドシートを車両のシートに装着した状態を示す側面図である。
【0027】
図3には、チャイルドシート300が示されている。チャイルドシート300は、本体301に座面となるシートクッション302、背もたれとなるシートバック303を備えた構成とされている。
【0028】
シートクッション302からは、シートベルト304が引き出されている。シートベルト304の引き出し個所は、子供が着座した状態における股の間とされている。シートベルト304のシートクッション302に引き込まれた側の端部は、本体301に固定されている。シートベルト304の他方の端部には、二股バックル305が取り付けられている。二股バックル305は、後述する連結金具311、312を連結することが可能であり、装着解除ボタン305aを備えている。装着解除ボタン305aは、連結金具311、312の連結状態を解除する際に利用される。
【0029】
シートバック303からはシートベルト306、307が引き出されている。シートベルト306、307は、着座した子供の左右の肩の上の部分から引き出されている。シートベルト306、307のシートバック303に引き込まれた部分は、折り返し部材308で下方に折り返され、その端部は、図1に示す衝撃低減装置100の上ブラケット109に固定されている。この例では、上ブラケット109のスリット110を利用して、シートベルト307の上ブラケット109への取り付けが行われ、スリット111を利用して、シートベルト306の上ブラケット109への取り付けが行われている。
【0030】
図3に示す状態において、衝撃低減装置100の下ブラケット103には、スリット104を利用してシートベルト309の一方の端部(上側の端部)が取り付けられている。シートベルト309の他方の端部は、本体301に固定された巻き取り装置310に巻き取られている。巻き取り装置310は、シートベルト309に適度な張力を与えてシートベルト309を巻き取る。また、シートベルト306、307が引き出された場合には、シートベルト309を引き出すことができる構造とされている。また、シートベルト309が急激に引き出された場合には、シートベルト309の引き出しがロックされる構造とされている。これらの機能は、通常のシートベルトの巻き取り装置と同じである。
【0031】
図3に示すように、シートバック303から引き出されたシートベルト306、307の端部には、連結金具311、312が取り付けられている。連結金具311、312は、二股バックル305に差し込まれることで、二股バックル305に連結される。
【0032】
シートベルトを着用する場合、まず子供をチャイルドシート300に座らせた状態において、股の間から二股バックル305を上方に引き出し、そこに連結金具311、312を差し込んで装着する。この状態で、巻き取り装置310により軽い張力が加わった状態でシートベルト306、307により子供の身体(図示せず)がチャイルドシート300に固定される。
【0033】
また、シートベルトを締めた状態を解除する場合、解除ボタン305aを押して、連結金具311、312の二股バックル305への連結状態を解除し、連結金具311、312を二股バックル305から取り外す。
【0034】
図4には、チャイルドシート300をシート装置400に取り付けた状態が示されている。シート装置400は、乗用車等の車両のシート装置であり、シートクッション401とシートバック402を備え、また通常の3点式のシートベルト(図示省略)を備えている。チャイルドシート300は、この3点式のシートベルトによってシート装置400に取り付けられている。この取り付け構造は、通常のチャイルドシートと同じであるので説明は省略する。
【0035】
(衝撃の低減機能)
衝撃低減装置100の機能を説明する。ここでは、図4に示すようにチャイルドシート300がシート装置400に取り付けられ、さらにチャイルドシート300に子供が着座し、シートベルト306、307の装着が行われている状態とする。また、シート装置400は、車両の前方に向いているものとする。
【0036】
この状態において、車両が前突を起こす、あるいは走行時に急ブレーキをかけると、チャイルドシート300に着座した子供は、前方に飛び出し、主にシートベルト306、307から衝撃を受ける。この際、図1の衝撃低減装置100の上ブラケット109と下ブラケット103とが、上下に離される方向に引っ張られる。
【0037】
この状態において、コイルばね105の下端は、フランジ部107に突き当たっているので、上記の上下の方向に加わる力がコイルばね105とシャフト101との間の摩擦力よりも大きければ、コイルばね105に対する摩擦力に打ち勝って、シャフト101が図1の下方の方向に相対的に移動する。つまり、上ブラケット109と下ブラケット103とが、上下に離される方向に移動する。図2には、図1に示す状態から、シャフト101が円筒ケース106から引き出される方向に変位した状態が示されている。
【0038】
図1に示す状態から図2に示す状態への遷移が発生すると、見た目にはシートベルト306、307が上記の相対的な移動の分、伸びる状態となる。この際、コイルばね105とシャフト101との間に作用する摩擦力と両者の相対的な移動距離との積分値が仕事として消費され、衝撃のエネルギーが吸収される。これにより、主にシートベルト306、307(図3参照)から着席者の身体に加わる衝撃が低減される。
【0039】
なおこの際、コイルばね105からシャフト101を引き抜くのに要する力がシートベルト306と307に2分されて加わり、これらシートベルトの張力となる。そして、この張力がシートベルト306および307から身体に加わる。この張力は、一瞬ではなく、シャフト101に対するコイルばね105の相対的な移動が生じている期間において発生するので、衝撃が低減された状態で身体に加わる。
【0040】
(性能評価)
図5は、図1に示す衝撃低減装置の性能試験の結果を示すグラフである。図5において、横軸は、シャフト101に対するコイルばね105(円筒ケース106)の変位の相対値であり、縦軸は、シャフト101とコイルばね105との間に作用する摩擦力の相対値である。図5には、図1に示すテーパ範囲において、上方にゆくに従って、徐々にシャフト101の外径が大きくなる構造とした場合の特性が示されている。
【0041】
図5からは、以下の現象が読み取れる。まず、範囲(1)では、寸法精度のガタの影響で、摩擦力が有効に発生していない。次に、範囲(2)の初めは静止摩擦の影響で、大きな摩擦力が生じ、次いで動摩擦に移行するに従って、少し摩擦力が低下する。そして、範囲(3)において、変位の速さが低下し始め、静止摩擦の影響が徐々に現れることで摩擦力が徐々に上昇する。その後、範囲(4)において、シャフト101の外径が徐々に大きくなるテーパ部分での摩擦が生じることで、摩擦力が直線的に増加する。
【0042】
(優位性)
コイルばね105のシャフト101に対する締め付けに起因する摩擦力によって衝撃が低減されるので、簡単な構造でありながら、衝撃の低減を効果的に、また高い信頼性でもって行うことができる。
【0043】
特に、コイルばね105に対して、シャフト101が相対的に移動する期間は、シートベルト306、307に加わる張力が一定以上に上がらず、その期間では、シートベルト306、307が伸びる状態となる。このため、シートベルト306、307から身体に加わる力の上限が抑えられ、シートベルト306、307の身体への食い込みが抑えられる。また、コイルばね105に対するシャフト101の移動が可能な距離の分、衝撃の低減作用が機能するので、小さな衝撃から大きな衝撃まで、広い範囲の衝撃に対応することができる。
【0044】
また、コイルばね105のシャフト101に対する締め付け状態を調整することで、両者の間に作用する摩擦力が調整されるので、衝撃の吸収能力の設定が容易となる。この調整は、例えば、コイルばねの長さを調整する方法や、シャフト101の外径を調整する方法により実行することができる。また、シャフト101の表面を一部削ることや粗い面にすることで行うこともできる。
【0045】
コイルばね105は、その内径が、シャフト101の外径よりも小さくても、コイルばね105の性質により、その内径を広げることでシャフト101への装着作業が容易に行える。このため、製造コストを抑えることができる。
【0046】
また、シャフト101にテーパ構造を採用し、図5に示す特性とすることで、図3に示すシートベルトへの適用において、低体重者から高体重者まで対応可能となる。すなわち、低体重者の場合、図5の範囲(1)〜(3)の比較的低摩擦力(=シートベルトに加わる張力)が作用する範囲(期間)において衝撃の低減が行われる。この場合、範囲(1)〜(3)において、シートベルト306、307が伸び続け、徐々に衝撃が吸収されると共に、シートベルトから身体に力が分散して加わる。このため、身体への負担が抑えられる。
【0047】
一方、高体重者の場合、範囲(1)〜(3)で衝撃を吸収し切れないと、範囲(4)において、引き続き衝撃の吸収が行われる。この場合、シートベルト306、307に加わる張力が徐々に上昇しつつ、衝撃の吸収が行われるので、身体に加わる負担が徐々に上昇する。このため、衝撃を吸収しきれず、身体に瞬間的に大きな衝撃が加わる不都合の発生を防止しつつ、身体への負担が抑えられる。
【0048】
このように、シャフトにテーパ構造を採用し、図5に示す特性とすることで、低体重者から高体重者まで対応することができる衝撃低減機能が得られる。
【0049】
(コイルばねのバリエーション)
コイルばね105を構成する線材の断面形状は、円形に限定されない。図6は、コイルばねを構成する線材の断面の形状を示す断面図である。図6において、図面の上下の方向がコイルばねの軸の方向である。
【0050】
図6(A)には、コイルばね105を構成する線材の断面形状を四角形状とする例が挙げられている。この場合、シャフト101との接触面積をより大きく確保できるので、同じ摩擦力を得るのであれば、コイルばね105の軸方向における寸法をより短くすることができる。このため、衝撃低減装置100をより小型化することができる。
【0051】
図6(B)には、コイルばね105を構成する線材の断面形状を、丸型形状を軸方向において押しつぶした形状とする例が挙げられている。この場合、コイルばね105の軸方向における寸法を短くすることができる。
【0052】
図6(C)には、コイルばね105を構成する線材の断面形状を、楕円形状とする例が挙げられている。この場合もコイルばね105の軸方向における寸法を短くすることができる。
【0053】
(シャフトのバリエーション)
図1に示す例では、シャフト101に対するコイルばね105の相対的な変位が大きくなるのにしたがって、両者の間に作用する摩擦力が増大するシャフト101のテーパ構造の例を説明したが、摩擦力が最初大きく、徐々に低下する、中ほどで上昇する、高低を繰り返す、といった設定がシャフト101の外径を調整することで可能である。
【0054】
(他の構成1)
コイルばね105の代わりに、軸方向から見て、断面形状がC型になるようにカールさせた板ばねを用いることもできる。以下、この例を説明する。図7は、軸方向から見て、断面形状がC型になるようにカールさせた板ばねを用いた衝撃低減装置の一例を示す上面図(A)、側面図(B)、円筒ケース部分における軸方向に垂直な断面図(C)である。図7において、図1と同じ符号の部分は、図1に関連して説明したもの同じである。
【0055】
図7には、軸方向から見て、断面形状がC型になるようにカールさせた板ばね120が示されている。この板ばね120は、C型の内側の内径を、シャフト101の外径よりも少し小さくし、そこにシャフト101が圧入される構造としている。板ばね120の一部は、スリット121とされている。板ばね120は、そのばね性により、シャフト101を締め付けている。板ばね120の機能は、図1のコイルばね105と同じである。
【0056】
(他の構成2)
図1には、円筒ケースからシャフトを引き出す方向に加わる衝撃を低減する構成が記載されているが、円筒ケースにシャフトを押し込む方向に加わる衝撃を低減する構成も可能である。以下、この一例を説明する。図8は、実施形態の衝撃低減装置の一例を示す上面図(A)と側面図(B)である。
【0057】
図8には、衝撃低減装置500が示されている。衝撃低減装置500は、シャフト501と円筒ケース502を備えている。シャフト501には、コイルばね503が装着されている。コイルばね503の内径は、シャフト501の外径よりも小さな値とされ、コイルばね503がシャフト501を締め付けている。
【0058】
円筒ケース502の内周面には、円環形状の突起構造であるフランジ部504が設けられている。コイルばね503の端部は、このフランジ部504に突き当たり、接触している。符号505は、シャフト501が円筒ケース502から抜け落ちないようにする円環形状の蓋部材である。
【0059】
この構造において、シャフト501を円筒ケース502の内部に押し込む方向に衝撃が加わると、シャフト501と一体となったコイルばね503が、フランジ部504を押す。そして、この押す力が、コイルばね503とシャフト501との間で作用する摩擦力よりも大きければ、シャフト501がコイルばね503に対して滑り、図1の衝撃低減装置100と同様の原理により、衝撃のエネルギーが吸収される。このように衝撃低減装置500は、引っ張りの衝撃ではなく、押される衝撃を低減する機能を発揮する。
【0060】
(その他)
柱状の部材の断面形状は、円形に限定されず、楕円形や多角形状であってもよい。筒状の部材に関しても、円筒に限定されず、多角形状の筒構造が採用可能である。
【0061】
本発明の衝撃低減装置の適用は、チャイルドシートのシートベルトに限定されず、通常のシート装置のシートベルトに適用することもできる。また、シート装置と車体との間に本発明の衝撃低減装置を介在させることで、衝突や急ブレーキの際にシート装置に加わる衝撃を低減する構成も可能である。更に、本発明の衝撃低減装置の適用対象は、シート装置に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、衝撃を低減する技術に利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
100…衝撃低減装置、101…シャフト、102…下ブラケット取り付けピン、104…スリット、105…コイルばね、106…円筒ケース、107…フランジ部、108…上ブラケット取り付けピン、109…上ブラケット、109a…カール部、110…スリット、111…スリット、120…断面形状がC型にカールされた板ばね、121…スリット、300…チャイルドシート、301…本体、302…シートクッション、303…シートバック、304…シートベルト、305…二股バックル、305a…装着解除ボタン、306…シートベルト、307…シートベルト、308…折り返し部材、309…シートベルト、310…巻き取り装置、311…連結金具、312…連結金具、400…シート装置、401…シートクッション、402…シートバック、500…衝撃低減装置、501…シャフト、502…円筒ケース、503…コイルばね、504…フランジ部、505…蓋部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の部材と、
前記柱状の部材をばねの力により締め付けるばね部材と
を備え、
前記ばね部材が前記柱状の部材を摩擦しながら前記柱状の部材に対して相対的に動くことで、前記柱状の部材の軸方向において前記柱状の部材と前記ばね部材との間に加わる衝撃が低減されることを特徴とする衝撃低減装置。
【請求項2】
前記ばね部材がコイルばねであり、
前記コイルばねの内側に前記柱状の部材が圧入されていることを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収装置。
【請求項3】
前記ばね部材は、断面形状がC字型になるように曲げた板ばねであることを特徴とする請求項1に記載の衝撃低減装置。
【請求項4】
前記ばね部材を内側に納めた筒状の部材と、
前記筒状の部材の内側に突出した突出部と
を更に備え、
軸方向において、前記柱状の部材と前記筒状の部材との間に衝撃が加わると、前記ばね部材が、前記突出部に接触した状態で、前記柱状の部材を摩擦しながら前記柱状の部材に対して相対的に動くことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の衝撃低減装置。
【請求項5】
前記コイルばねを構成する線材の断面形状が四角形状、丸型形状を軸方向において押しつぶした形状、または楕円形状であることを特徴とする請求項2に記載の衝撃低減装置。
【請求項6】
前記柱状部材の外径寸法が軸方向において異なった値を有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の衝撃低減装置。
【請求項7】
シート面に固定される本体と、
一端が、請求項1〜6のいずれか一項に記載の衝撃低減装置を介して前記本体に固定されたシートベルトと
を備えることを特徴とするチャイルドシート装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−94661(P2011−94661A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247499(P2009−247499)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】