説明

表皮材用基材、表皮材及び成形体

【課題】 軽量、低コストかつ意匠性、難燃性、離型性、追従性及びトリミング性という要件を同時に満足する表皮材用基材、これを用いた表皮材、及び基材マットと一体化された成形体を提供すること。
【解決手段】 本発明の表皮材用基材は、セルロース系繊維を含む繊維基材の片表面が、難燃剤と熱硬化性樹脂を含むアクリル系樹脂バインダによって接着されている表皮材用基材であり、繊維基材を構成する繊維の繊度が2.2dtex以下であり、かつアクリル系樹脂と熱硬化性樹脂との質量比率が80:20〜65:35である。本発明の表皮材は前記表皮材用基材における繊維基材の、アクリル系樹脂バインダによって接着された表装面と反対面に、200℃以下の融点をもつ樹脂を含む接着剤層を備えている。更に、成形体は前記表皮材と基材マットとが熱成形により、接着剤層を介して一体化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表皮材用基材、表皮材及び成形体に関する。より具体的には、意匠性、難燃性、離型性、追従性及びトリミング性に優れる表皮材用基材、表皮材及び成形体に関し、自動車用途の表皮材用基材、表皮材及び成形体として好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車のインシュレーターの表皮材として、ニードルパンチ不織布に塩化ビニル系バインダー、アクリル系バインダー、或いはポリエステル系バインダーを含浸したものが知られている(特許文献1〜4)。このような表皮材は自動車の各所部材として使用できるように、レジンフェルト、段ボール、プラスチック発泡体、ガラス繊維樹脂複合体、ウッドストック、或いは剛性のある不織布などからなる基材マットと成形一体化される。この表皮材と基材マットとを成形一体化する方法の1つとして、ヒートプレスにより行う方法が知られている。このヒートプレスは一対の金型によって、積層した表皮材と基材マットとに対して、熱と圧力を作用させることにより、表皮材と基材マットとを一体化するとともに、成形する方法である。そして、このように成形一体化された成形体の周囲を刃で押し切り、自動車の各所部材として使用している。
【0003】
このようなヒートプレスによる方法により、前記のような表皮材と基材マットとを成形一体化したところ、塩化ビニル系バインダーを含浸した表皮材を用いた場合、ヒートプレスした際に、表皮材が金型に貼り付き、金型からの離型性が悪いばかりでなく、表皮材の金型の形状への追従性が悪く、基材マットとが剥離した浮きを生じたり、皺が発生しやすく、表面品位の劣るものであった。
【0004】
また、アクリル系バインダーを含浸した表皮材を用いた場合、塩化ビニル系バインダーを用いた場合と同様に、表皮材が金型に貼り付き、離型性が悪いばかりでなく、成形一体化後に成形体の周囲を刃で押し切る際に、押し切り刃によって表皮材が引張られ、千切れてしまい、この千切れた箇所から表皮材と基材マットとが剥離してしまうということがあった。つまり、トリミング性も悪いものであった。
【0005】
更に、ポリエステル系バインダーを含浸した表皮材を用いた場合、塩化ビニル系バインダーを用いた場合と同様に、ヒートプレスした際に、表皮材が金型に貼り付き、金型からの離型性が悪いものであった。なお、いずれの場合においても、基材マットを構成する材料の種類及び/又は難燃剤の有無によっては、自動車用途に必要な難燃性を満足しない場合があった。
【0006】
そのため、本願出願人は、「セルロース系繊維を含む繊維基材の片表面が、難燃剤と熱硬化性樹脂を含むポリエステル系樹脂バインダによって接着されていることを特徴とする表皮材用基材」を提案した(特許文献5)。この表皮材用基材は意匠性、難燃性、離型性、追従性及びトリミング性に優れるものであった。
【0007】
【特許文献1】特公平7−30515号公報(特許請求の範囲、第4欄第8行〜第20行)
【特許文献2】特許第3212853号公報(特許請求の範囲、段落番号0022〜0023)
【特許文献3】特開平6−278260公報(段落番号0033)
【特許文献4】特公平7−72394号公報(特許請求の範囲、第4欄第29行〜第32行)
【特許文献5】特開2009−78375号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本願出願人の提案した表皮材用基材を、近年の軽量化及び低コスト化に対応するために、低目付化を推進した場合、基材マットと成形一体化した際に、表皮材が透けてしまい、基材マットを認識できるため、意匠性に劣るという問題が発生した。
【0009】
そこで、本願発明者らは表皮材が透けないように、繊維基材構成繊維として繊度の小さい繊維、つまり細い繊維を使用することによって解決することを試みた。この試みは透け防止という観点においては成功したものの、繊度が小さく、かつ表皮材用基材の厚さが薄くなったことに起因してか、トリミング性が悪い、という新たな問題が発生した。
【0010】
そこで、トリミング性の課題を解決するために、更に、ポリエステル系樹脂バインダ量を増加させることによって解決することを試みた。この試みはトリミング性の課題を解決できたものの、バインダ量の増加によって、離型性が悪くなるという新たな問題が発生した。
【0011】
このように、従来の表皮材用基材では、軽量、低コストかつ意匠性、難燃性、離型性、追従性及びトリミング性という要件を同時に満足することは困難であった。
【0012】
このような軽量化に伴う問題点は自動車用途に限らず、意匠性を付与する表皮材と吸音性能、断熱性能、及び/又はクッション性能等を有する基材マットとをヒートプレスして成形体を製造する場合にも生じる問題であった。
【0013】
本発明は上述のような状況に鑑みてなされたものであり、軽量、低コストかつ意匠性、難燃性、離型性、追従性及びトリミング性という要件を同時に満足する表皮材用基材、これを用いた表皮材、及び基材マットと一体化された成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1にかかる発明は、「セルロース系繊維を含む繊維基材の片表面が、難燃剤と熱硬化性樹脂を含むアクリル系樹脂バインダによって接着されている表皮材用基材であり、繊維基材を構成する繊維の繊度が2.2dtex以下であり、かつアクリル系樹脂と熱硬化性樹脂との質量比率が80:20〜65:35であることを特徴とする表皮材用基材。」である。
【0015】
本発明の請求項2にかかる発明は、「請求項1に記載の表皮材用基材における繊維基材の、アクリル系樹脂バインダによって接着された表装面と反対面に、200℃以下の融点をもつ樹脂を含む接着剤層を備えていることを特徴とする表皮材。」である。
【0016】
本発明の請求項3にかかる発明は、「目付が30〜80g/mであることを特徴とする、請求項2記載の表皮材。」である。
【0017】
本発明の請求項4にかかる発明は、「請求項2又は請求項3に記載の表皮材と基材マットとが熱成形により、接着剤層を介して一体化されていることを特徴とする成形体。」である。
【0018】
本発明の請求項5にかかる発明は、「自動車のエンジンルームにおける吸音材として使用することを特徴とする、請求項4記載の成形体。」である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1にかかる発明は、繊維基材を構成する繊維としてセルロース系繊維を含み、かつアクリル系樹脂バインダ中に難燃剤を含んでいることによって、用途に応じた難燃性を有する表皮材を製造することができる。また、バインダとしてアクリル系樹脂を用い、しかも熱硬化性樹脂を含んでいることによって、成形時におけるアクリル系樹脂の粘着性発現を抑制し、表皮材の金型への貼り付きを防止でき、離型性に優れている。アクリル系樹脂バインダが熱硬化性樹脂を含んでおり、しかもアクリル系樹脂バインダと熱硬化性樹脂との質量比率が80:20〜65:35と、従来よりも熱硬化性樹脂量が多いため、表皮材の風合いを硬くすることができ、結果として、押し切り刃によって表皮材が引張られることを防止して、トリミング性にも優れる表皮材を製造することができる。更に、アクリル系樹脂はヒートプレス等の成形時に適度に軟化するため、金型への追従性にも優れ、浮きや皺を発生することなく、基材マットと一体化できる。更に、繊維基材を構成する繊維の繊度が2.2dtex以下と細く、単位体積あたりの繊維本数を多くすることができるため、軽量、低コスト化のために繊維基材の目付を小さくした場合であっても、表皮材を基材マットと成形一体化した際に表皮材が透けず、意匠性に優れる成形体を製造することができる。
【0020】
本発明の請求項2にかかる発明は、前記表皮材用基材を用いているため、軽量、低コストかつ意匠性、難燃性、離型性、追従性及びトリミング性という要件を同時に満足するのはもちろんのこと、前記表皮材用基材における繊維基材の、アクリル系樹脂バインダによって接着した表装面と反対面に、200℃以下の融点をもつ樹脂を含む接着剤層を備えているため、熱成形の際に、前記接着剤層の作用によって、確実に基材マットと一体化することができる。
【0021】
本発明の請求項3にかかる発明は、目付が30〜80g/mという低目付であっても、意匠性、難燃性、離型性、追従性及びトリミング性という要件を同時に満足する表皮材である。
【0022】
本発明の請求項4にかかる発明は、前記表皮材を用いているため、難燃性に優れ、離型性に優れているため生産性に優れ、追従性にも優れているため表面品位が優れた成形体である。また、トリミング性良く製造できるため、表皮材と基材マットとが剥離しない成形体である。更に、前記表皮材と基材マットとが熱成形により、接着剤層を介して一体化されているため、表皮材と基材マットとが強固に接着一体化したものである。更に、繊維基材構成繊維の繊度が2.2dtex以下と細く、単位体積あたりの繊維本数を多くすることができるため、軽量、低コスト化のために繊維基材の目付を小さくした表皮材であっても、表皮材を基材マットと成形一体化した際に表皮材が透けず、意匠性に優れた成形体であることができる。
【0023】
本発明の請求項5にかかる発明は、自動車のエンジンルームにおける吸音材として使用すると、前記成形体の効果に加えて、吸音性能にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の表皮材用基材はセルロース系繊維を含む繊維基材の片表面が、難燃剤と熱硬化性樹脂を含むアクリル系樹脂バインダによって接着されたものである。
【0025】
本発明の繊維基材を構成するセルロース系繊維は燃焼時に炭化することにより、燃焼速度を落とす効果を奏する。このセルロース系繊維としては、例えば、レーヨン繊維、ポリノジック繊維、キュプラ繊維、綿繊維、麻繊維などを挙げることができ、これらの中でも、綿繊維又はレーヨン繊維は経済性の面で好ましく、特にレーヨン繊維は染色等の加工性に優れ、しかも燃焼しても有毒ガスが発生せず、高温にもならないため、好適に使用できる。このセルロース系繊維の繊度は繊維基材を低目付化しても熱成形の際に透けが生じないように、2.2dtex以下であり、1.7dtex以下であるのが好ましい。なお、セルロース系繊維の繊度の下限は特に限定するものではないが、0.8dtex以上であるのが好ましい。また、セルロース系繊維の繊維長は特に限定するものではないが、20〜80mmであるのが好ましく、30〜70mmであるのがより好ましい。このようなセルロース系繊維は燃焼速度を遅くできるように、繊維基材全体の10mass%以上を占めているのが好ましく、15mass%以上を占めているのがより好ましく、20mass%以上を占めているのが更に好ましい。場合によって、繊維基材がセルロース系繊維のみから構成されている。なお、セルロース系繊維は材料の異なるセルロース系繊維を2種類以上含んでいることができ、2種類以上含んでいる場合には総量が前記量だけ占めているのが好ましい。
【0026】
本発明の繊維基材はセルロース系繊維以外に、200℃以上の融点又は分解点を有する耐熱性繊維を含んでいることができる。このような耐熱性繊維を含んでいることによって、燃えにくく、また、耐候性に優れる場合もある。このような耐熱性繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリウレタン繊維、炭素繊維、フッ素繊維、アラミド繊維などを挙げることができ、特に耐侯性、経済性に優れるポリエステル繊維が好適である。このような耐熱性繊維の繊度も2.2dtex以下であり、1.7dtex以下であるのが好ましく、1.4dtex以下であるのがより好ましい。なお、耐熱性繊維の繊度の下限は特に限定するものではないが、0.8dtex以上であるのが好ましい。また、耐熱性繊維の繊維長は特に限定するものではないが、20〜80mmであるのが好ましく、30〜70mmであるのがより好ましい。
【0027】
本発明における「融点」は、JIS K 7121-1987に規定されている示差熱分析により得られる示差熱分析曲線(DTA曲線)から得られる融解温度をいい、「分解点」はJIS K 7120-1987(プラスチックの熱重量測定方法)に定義される開始温度Tをいう。また、「繊度」はJIS L 1015:1999、8.5.1(正量繊度)に規定されているA法により得られる値を意味し、「繊維長」はJIS L 1015:1999、8.4.1[補正ステープルダイヤグラム法(B法)]により得られる値を意味する。
【0028】
なお、本発明の繊維基材を構成する繊維の繊度は軽量化、低コスト化に対応するために低目付化した場合であっても、熱成形時に透けが生じ、意匠性を損なわないように、2.2dtex以下である。好ましくは、1.7dtex以下である。なお、繊維基材構成繊維の繊度の下限は特に限定するものではないが、0.8dtex以上であるのが好ましい。
【0029】
本発明の繊維基材は上述のような繊維から構成することができるが、その形態は織物、編物、不織布などであることができる。これらの中でも基材マットとの成型加工性の面から不織布であるのが好ましく、基材マットへの追従性、不織布の強度という点から、特にニードルパンチ不織布であるのが好ましい。この繊維基材の目付は表皮材用基材に必要とされる強度、繊維の種類等によって異なるため、特に限定するものではないが、近年の軽量化及び低コスト化に対応できるように、15〜65g/mであるのが好ましく、25〜55g/mであるのがより好ましい。
【0030】
本発明の表皮材用基材は上述のような繊維基材の片表面が、難燃剤と熱硬化性樹脂を含むアクリル系樹脂バインダによって接着されている。アクリル系樹脂バインダは難燃剤を含んでいるため、前述のセルロース系繊維との相乗効果によって、十分な難燃性が付与される。この難燃剤は特に限定するものではないが、例えば、リン系難燃剤、臭素系難燃剤、無機系難燃剤を使用できる。
【0031】
より具体的には、リン系難燃剤として、リン酸アンモニウム、トリクレジルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリス(β−クロロエチル)ホスフェート、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、酸性リン酸エステル、含窒素リン化合物などを使用できる。
【0032】
また、臭素系難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ペンタブロモベンゼン、ヘキサブロモベンゼン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、デカブロモジフェニルオキサイドなどを使用できる。
【0033】
更に、無機系難燃剤として、赤燐、酸化スズ、三酸化アンチモン、水酸化ジルコニウム、メタホウ酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどを使用できる。これら難燃剤は1種類、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
このような難燃剤は、アクリル系樹脂と難燃剤との質量比率(固形分)が20:80〜70:30となる量だけ含まれているのが好ましい。アクリル系樹脂20に対して難燃剤が80よりも多くなると、トリミング性が悪くなる傾向があり、アクリル系樹脂70に対して難燃剤が30よりも少なくなると、難燃性が不十分となる傾向があるためで、より好ましいアクリル系樹脂と難燃剤との質量比率は30:70〜60:40である。
【0035】
本発明のアクリル系樹脂バインダは前述のような難燃剤に加えて、熱硬化性樹脂を含んでいる。熱硬化性樹脂を含んでいることによって、成形時におけるアクリル系樹脂及び難燃剤の粘着性発現を抑制し、表皮材の金型への貼り付きを防止できるため、離型性に優れている。また、表皮材の風合いを硬くすることができるため、押し切り刃によって表皮材が引張られることを防止でき、トリミング性も向上させることができる。
【0036】
このような熱硬化性樹脂は熱成形時の熱で硬化するものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、エポキシ樹脂、オリゴエステルアクリレート、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、DFK樹脂、熱硬化性樹脂プレポリマー、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、ポリイミド、ポリ(p−ヒドロキシ安息香酸)、ポリウレタン、マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂などを使用することができる。これらの中でもメラミン樹脂は耐水性、耐候性及び耐薬品性に優れており、汎用性に優れているため好適である。
【0037】
この熱硬化性樹脂は、アクリル系樹脂と熱硬化性樹脂との質量比率(固形分)が80:20〜65:35である必要がある。アクリル系樹脂80に対して熱硬化性樹脂が20よりも少ないと、トリミング性及び離型性が悪くなり、アクリル系樹脂65に対して熱硬化性樹脂が35よりも多いと、熱成形時における表皮材の基材マットへの追従性が悪くなるためで、より好ましいアクリル系樹脂と熱硬化性樹脂との質量比率は75:25〜65:35である。
【0038】
本発明で使用できるアクリル系樹脂バインダとしては、アクリル酸あるいはメタクリル酸のアルキルエステル類の単独重合体、前記単量体と共重合したエチレン性不飽和単量体との共重合体などを挙げることができ、特にアクリル酸エステル共重合体が好ましい。なお、離型性、追従性、トリミング性を良くするために、アクリル系樹脂バインダはガラス転移温度(Tg)が−10℃〜50℃であるのが好ましく、0〜40℃であるのがより好ましい。本発明におけるガラス転移温度はJIS K7121−1987の規定に則り、熱流束示差走査熱量測定(DSC)により得たDSC曲線から読み取った中間点ガラス転移温度を意味する。
【0039】
本発明の表皮材用基材は前述のような難燃剤及び熱硬化性樹脂を含むアクリル系樹脂バインダによって、繊維基材の片表面を接着したものである。アクリル系樹脂はヒートプレス等の熱成形時に適度に軟化するため、金型への追従性にも優れ、浮きや皺を発生することなく、基材マットと一体化できる。
【0040】
このアクリル系樹脂は前述のような比率で難燃剤及び熱硬化性樹脂を含むのが好ましいが、繊維基材とアクリル系樹脂バインダ(固形分)との質量比率は、90:10〜60:40であるのが好ましい。繊維基材90に対してアクリル系樹脂バインダが10よりも少ないと、トリミング性及び燃焼性が悪くなる傾向があり、繊維基材60に対してアクリル系樹脂バインダが40よりも多いと、離型性が悪くなる傾向があるためで、好ましい繊維基材とアクリル系樹脂バインダ(固形分)との質量比率は80:20〜65:35である。
【0041】
なお、アクリル系樹脂バインダは意匠性、難燃性、離型性、追従性及びトリミング性を損なわない範囲内で、難燃剤、熱硬化性樹脂以外に、染料、顔料、界面活性剤、撥水・撥油剤などを含んでいることができる。
【0042】
本発明の表皮用基材はこのようなアクリル系樹脂バインダによって繊維基材の片表面が接着されているが、繊維基材の片表面のみが接着されている必要はなく、繊維基材の内部も接着されていても良いし、繊維基材の他方の表面も接着されていても良い。つまり、少なくとも片表面が接着されていれば良い。
【0043】
本発明の表皮用基材の目付は特に限定するものではないが、近年の軽量、低コスト化に対応できるように、20〜70g/mであるのが好ましく、30〜60g/mであるのがより好ましい。本発明の表皮用基材はこのような低目付であっても、前述のような構成を有するため、意匠性、難燃性、離型性、追従性及びトリミング性に優れている。
【0044】
本発明における目付はJIS L 1096−1999「一般織物試験方法」の8.4.2「織物の標準状態における単位面積あたりの質量」に定義されている値を意味し、厚さは前田式圧縮弾性測定器を用い、圧接子5cm、圧接荷重1.96kPaで測定した値を意味する。
【0045】
このような表皮材用基材は、例えば、セルロース系繊維を含む繊度が2.2dtex以下の繊維を用いて繊維基材を形成した後、アクリル系樹脂と熱硬化性樹脂との質量比率が80:20〜65:35のアクリル系樹脂バインダを、繊維基材の少なくとも片表面に付与し、接着することによって製造することができる。
【0046】
なお、繊維基材は常法により形成することができ、好適である不織布は、例えば、カード法、エアレイ法などの乾式法、スパンボンド法、メルトブロー法などの直接法、或いは湿式法により形成した繊維ウエブを、水流などの流体流及び/又はニードルによって絡合させて製造することができる。また、アクリル系樹脂バインダは、例えば、含浸、塗布、スプレーして繊維基材に付与し、乾燥することによって接着できる。
【0047】
本発明の表皮材は前述のような表皮材用基材における繊維基材の、アクリル系樹脂バインダによって接着した表装面と反対面に、200℃以下の融点をもつ樹脂を含む接着剤層を備えている。そのため、熱成形の際に、前記接着剤層の作用によって、確実に基材マットと一体化することができる。この接着剤層は基材マットとの接着作用を奏するため、表皮材の片面のみに存在するのが好ましい。また、前記アクリル系樹脂バインダが接着した表装面は表皮材に意匠性を付与するため、また、接着剤層が表装面側に存在する意味がなく、しかも接着剤層が表装面側に存在すると、金型に貼り付き、離型性に劣るため、接着剤層は表装面の反対面に備えている。
【0048】
この接着剤層は熱成形の際に基材マットと一体化できるように、200℃以下の融点をもつ樹脂(以下、「接着樹脂」ということがある)を含んでいる。この接着樹脂は基材マットと接着しやすいように、融点は190℃以下であるのが好ましく、180℃以下であるのがより好ましい。一方で、融点が低すぎると、耐熱性を必要とする用途に使用するのが困難になるため、80℃以上であるのが好ましく、100℃以上あるのがより好ましい。
【0049】
このような接着樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン(例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン)、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体などを1種類又は2種類以上使用することができる。これらの中でもポリプロピレンは比較的融点が高く、接着性も優れているため好適である。
【0050】
このような接着剤層は繊維基材を構成する繊維間の空隙に存在する状態にあっても良いが、基材マットとの接着性に優れるように、繊維基材とは別の層として存在しているのが好ましい。例えば、接着樹脂が繊維形態を採っており、繊維基材の片面に積層された状態にあるのが好ましい。より具体的には、接着樹脂繊維を含む繊維シート(例えば、不織布、織物、編物)が繊維基材の片面に積層されているのが好ましい。
【0051】
なお、接着樹脂が繊維基材を構成する繊維間の空隙に存在する表皮材は、例えば、接着樹脂粉体を繊維基材に散布し、接着樹脂粉体の接着性を発現させることによって製造することができ、繊維基材の片面に接着樹脂繊維が積層された表皮材は、接着樹脂繊維を繊維基材に散布した後に、ニードルなどの絡合を作用させることにより、及び/又は接着樹脂繊維の接着性を発現させることによって製造することができ、繊維基材の片面に接着樹脂繊維を含む繊維シートが積層された表皮材は、繊維基材に繊維シートを積層し、ニードルなどの絡合を作用させることにより、及び/又は接着樹脂繊維の接着性を発現させることによって製造することができる。
【0052】
本発明の表皮材の目付は特に限定するものではないが、近年の軽量、低コスト化に対応できるように、30〜80g/mであるのが好ましく、40〜70g/mであるのがより好ましい。本発明の表皮材はこのような低目付であっても、前述のような構成を有するため、意匠性、難燃性、離型性、追従性及びトリミング性に優れている。なお、表皮材の厚さも特に限定するものではないが、0.4〜2mmであるのが好ましく、0.6〜1.8mmであるのがより好ましい。
【0053】
本発明の表皮材は繊維基材の片表面をアクリル系樹脂バインダで接着して表装面を形成した後に接着剤層を形成しても良いし、アクリル系樹脂バインダで接着する前の繊維基材に接着剤層を形成した後にアクリル系樹脂バインダで接着して表装面を形成しても良い。
【0054】
本発明の成形体は前述のような表皮材と基材マットとが熱成形により、接着剤層を介して一体化されたものである。この成形体は前述の表皮材を用いているため、軽量、低コストであり、難燃性に優れ、離型性に優れているため生産性に優れ、追従性にも優れているため表面品位が優れた成形体である。また、トリミング性良く製造できるため、表皮材と基材マットとが剥離しない成形体である。更に、前記表皮材と基材マットとが熱成形により、接着剤層を介して一体化されているため、表皮材と基材マットとが強固に接着一体化したものである。更に、繊維基材構成繊維が繊度2.2dtex以下の繊維からなるため、軽量、低コスト化のために目付を低くした表皮材であっても、熱成形一体化した際に表皮材の透けが生じず、意匠性に優れた成形体である。
【0055】
この基材マットは成形体を使用する用途によって異なり、特に限定するものではないが、例えば、樹脂含浸したガラスウールマット、フェルト、ロックウールマット、レジンフェルト、ポリウレタン、ポリスチレン又はポリオレフィン系樹脂の発泡体などを使用することができる。なお、これら基材マットはいずれも吸音性に優れている。
【0056】
本発明の成形体は、このような基材マットと前述の表皮材が熱成形により、接着剤層を介して一体化している。このような成形体は、表皮材の接着剤層が基材マットと当接するように配置し、熱成形する、例えば、加熱した一対の金型で押圧することによって製造できる。加熱温度は接着樹脂の種類、基材マットの耐熱性、表皮材用基材の耐熱性等によって異なり、特に限定するものではないが、200℃程度で実施することができる。また、押圧力は所望形状に成形できれば良く、特に限定するものではない。
【0057】
本発明の成形体は、例えば、自動車、産業用機械、建設機械などのエンジンルームにおける吸音材、マンション、住宅、学校、病院、図書館などの建築物用吸音材などに使用することができ、特に、基材マットとして吸音性能に優れるものを使用し、自動車のエンジンルームにおける吸音材として好適に使用することができる。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
(1)繊維基材用繊維ウエブの製造;
表1に示すレーヨン繊維とポリエステル繊維とを、表1に示す質量比率で混合し、カード機により開繊して繊維基材用繊維ウエブを形成した。
















【0060】
【表1】

#1:繊度1.4dtex、繊維長38mmのポリエステル繊維(HUVIS社製、HUVIS ESTER クロ)
#2:繊度1.7dtex、繊維長51mmのレーヨン繊維(Lenzing Fibers社製、品番:LENZING 9001 BK)
#3:繊度2.2dtex、繊維長51mmのポリエステル繊維(小山化学社製、オヤマエステルBL)
#4:繊度3.3dtex、繊維長60mmのレーヨン繊維(Lenzing Fibers社製、品番:LENZING 9001 BK)
(2)接着剤層用繊維ウエブの製造;
【0061】
表2に示す繊維を表2に示す割合で混合し、カード機により開繊して、又はスパンボンド法により接着剤層用繊維ウエブを形成した。
【0062】
【表2】

#1:繊度3.3dtex、繊維長64mmのポリプロピレン繊維(チッソ社製、品番:チッソRP030クロ、融点:160℃)
#2:繊度1.4dtex、繊維長38mmのポリエステル繊維(HUVIS社製、HUVIS ESTER クロ)IS ESTER クロ、融点:260℃)
#3:繊度1.7dtex、繊維長51mmのレーヨン繊維(Lenzing Fibers社製、品番:LENZING 9001 BK)
#4:ポリプロピレン樹脂製スパンボンド不織布(融点:160℃、目付:20g/m、厚さ:0.2mm)
【0063】
(3)樹脂バインダの調製;
アクリル系樹脂バインダ又はポリエステル系樹脂バインダを、表3の固形分比率となるように配合した。
【0064】
【表3】

#1:ポリエステル樹脂エマルジョン(長瀬産業株式会社製 RESIN VF−1、Tg=15℃)
#2:アクリル樹脂エマルジョン(日本ゼオン社製 LX−851F2、Tg=15℃)
#3:アクリル樹脂エマルジョン(DIC社製 JT−80、Tg=30℃)
#4:メラミン樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製、品番:ベッカミン J−103、=熱硬化性樹脂)
#5:ペンタブロモベンゼン(丸菱油化工業株式会社製、品番:ノンネンSMC−65、=難燃剤)
*5:リン酸アンモニウム(丸菱油化工業株式会社製、品番:ノンネンSMC−95、=難燃剤)
#6:アクリル樹脂と難燃剤との質量比率
#7:アクリル樹脂と熱硬化性樹脂との質量比率
【0065】
(4)表皮材の製造;
繊維基材用繊維ウエブの片面のみに接着剤層用繊維ウエブを積層した後、繊維基材用繊維ウエブ側から、針密度170本/cm又は90本/cm(実施例2のみ)でニードルパンチし、表4に示すニードルパンチ積層不織布を製造した。
【0066】
次いで、前記ニードルパンチ積層不織布の繊維基材用繊維ウエブ面に対してのみ、泡立てた前記(3)樹脂バインダを塗布した後に、140℃に設定したドライヤーにより乾燥して表皮材を製造した。
【0067】
【表4】

#:繊維基材質量と樹脂バインダ(固形分)との質量比
【0068】
(5)性能評価;
(5)−1 難燃性;
表皮材の難燃性を、米国自動車安全基準 FMVSS No.302に規定された燃焼試験に準拠して測定した。この燃焼試験を各表皮材5点について行い、次の基準により判定した。この結果は表5に示す通りであった。
【0069】
○・・燃焼速度が100mm/min.を超える表皮材がない
×・・燃焼速度が100mm/min.を超える表皮材がある
【0070】
(5)−2 離型性;
基材マットとして、溶かしたガラスを遠心力によって吹き飛ばして形成した繊維を集積させた後に、フェノール樹脂によって結合させたグラスウールマット(目付:500g/m)を用意した。
【0071】
次いで、前記基材マットの片面に、表皮材の接着剤層用繊維ウエブ側が基材マットと当接するように積層した後、200℃に加熱した一対の金型(最大深さ:10cm)により90秒間加圧して、エンジンルームサイレンサーの形状に成形した。この時、一対の金型から取り出した成形体の表皮材における毛羽立ち状態、及び金型への繊維及び/又は樹脂の付着状態から、次の基準により判断した。この結果は表5に示す通りであった。
【0072】
○・・表皮材表面の毛羽立ち及び繊維、樹脂の金型への付着がともに認められない
×・・表皮材表面の毛羽立ち及び繊維及び/又は樹脂の金型への付着が認められる
【0073】
(5)−3 追従性;
前記(5)−2(離型性)試験で成形体を製造した時に、表皮材が基材マットに追従しきれず、グラスウールマットと剥離した浮きや皺が発生したかどうかを確認した。つまり、次の基準で判断した。この結果は表5に示す通りであった。
【0074】
○・・浮き、皺ともに認められない
×・・浮き及び/又は皺が認められる
【0075】
(5)−4 トリミング性;
前記(5)−2(離型性)試験で製造した成形体の周囲を、トリム刃を有する型枠で打ち抜き機によって打ち抜いた。その際に、表皮材が引っ張られ、引っ張られた表皮材の基材マットへの貼り付き度合いによって、トリミング性の良し悪しを判断した。つまり、次の基準により判断した。この結果は表5に示す通りであった。
【0076】
○・・成形体端部において、グラスウール方向に引張られ、付着した繊維が目立たない
×・・成形体端部において、グラスウール方向に引張られ、付着した繊維が目立つ
【0077】
(5)−5 意匠性;
前記(5)−4 トリミング性試験で製造した成形体について、その表面意匠性を表皮材の透け度合いによって、意匠性の良し悪しを判断した。つまり、次の基準により判断した。この結果は表5に示す通りであった。
【0078】
○・・成形体表面意匠部において、透けが目立たない
×・・成形体表面意匠部において、透けが目立つ
【0079】
(5)−6 接着性;
前記(5)−4 トリミング性試験で製造した成形体について、表皮材と基材マットとの接着性を、表皮材の基材マットからの剥離度合いによって、接着性の良し悪しを判断した。つまり、次の基準により判断した。この結果は表5に示す通りであった。
【0080】
○・・成形体において、表皮材の基材マットからの剥離がない
×・・成形体において、表皮材の基材マットからの剥離がある










【0081】
【表5】

【0082】
表5から次のことが分かった。
1.実施例1と比較例5との比較から、繊維基材を構成する繊維の繊度が2.2dtex以下であれば、表皮材の透けが生じず、意匠性に優れていること。
2.実施例1と比較例6との比較から、アクリル系樹脂バインダを使用することによって、熱成形時の追従性に優れていること。
3.実施例6と比較例7との比較、及び実施例7と比較例8との比較から、アクリル系樹脂と熱硬化性樹脂との質量比率が80:20〜65:35であれば、離型性及び追従性に優れていること。
4.実施例1と実施例5から、難燃剤の種類に影響を受けず、難燃性に優れていること。
5.実施例1と実施例2から、接着剤層の形態に影響を受けず、表皮材と基材マットとが強固に接着一体化できること。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の表皮材は意匠性、難燃性、離型性、追従性及びトリミング性に優れているため、この表皮材を使用した成形体は、例えば、自動車、産業用機械、建設機械などのエンジンルームにおける吸音材、マンション、住宅、学校、病院、図書館などの建築物用吸音材などに使用することができ、特に、基材マットとして吸音性能に優れるものを使用し、自動車のエンジンルームにおける吸音材として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維を含む繊維基材の片表面が、難燃剤と熱硬化性樹脂を含むアクリル系樹脂バインダによって接着されている表皮材用基材であり、繊維基材を構成する繊維の繊度が2.2dtex以下であり、かつアクリル系樹脂と熱硬化性樹脂との質量比率が80:20〜65:35であることを特徴とする表皮材用基材。
【請求項2】
請求項1に記載の表皮材用基材における繊維基材の、アクリル系樹脂バインダによって接着された表装面と反対面に、200℃以下の融点をもつ樹脂を含む接着剤層を備えていることを特徴とする表皮材。
【請求項3】
目付が30〜80g/mであることを特徴とする、請求項2記載の表皮材。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の表皮材と基材マットとが熱成形により、接着剤層を介して一体化されていることを特徴とする成形体。
【請求項5】
自動車のエンジンルームにおける吸音材として使用することを特徴とする、請求項4記載の成形体。

【公開番号】特開2011−189553(P2011−189553A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55766(P2010−55766)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】