説明

表示体および印刷物

【課題】より高い偽造防止効果を達成する偽造防止技術を実現する。
【解決手段】本発明の表示体1は、レリーフ型の回折格子が形成された回折格子領域2と、方向の揃った複数の直線状の凸部および/または凹部が各々に形成され、前記方向が互いに異なる複数の光散乱領域20a,20bとを一方の主面に含んだ層を具備し、前記複数の光散乱領域20a,20bは互いに異なる像を形成していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示体およびこれを含んだ印刷物に関する。本発明は、特には、各種カード類、有価証券類および各種ブランド製品の偽造防止に用いられ、回折格子パターンやホログラムなどにより像を表示する表示体およびそれを含んだ印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
光散乱により像を表示するパターン(以下、光散乱パターンと称する)は、通常、基材の表面に凹凸加工を施すことにより形成される。この凹凸加工方法としては、例えば、基材をエッチングする方法、基材の表面部を薬品で荒らす方法、電子ビーム(EB)描画装置により基材表面に凹凸を形成する方法などが挙げられる。
【0003】
これらの方法のうち、エッチングを利用した方法および薬品を用いる方法では、凹部および/または凸部を形成すべき表面の或る微小領域と他の微小領域とで凹部および/または凸部の密度を変えることは困難である。したがって、凹部および/または凸部の密度を制御することで、それら領域の散乱の度合いを異ならしめることは難しい。一方、EB描画装置を用いると、微小領域に形成する凹部および/または凸部の密度や形状を任意に制御することができる。
【0004】
特許文献1には、EB描画装置を用いて回折格子パターンおよび光散乱パターンを同一面に形成した表示体が記載されている。この表示体は、以下の効果を奏する。
【0005】
(a)回折光のみによる表示でないため、観察条件の制約が少ない。
(b)散乱光も表示に利用するため、きらきらとした印象を与えるだけの画像表現ではない。
(c)回折格子パターンおよび光散乱パターンの双方が凹部および/または凸部で構成されるため、それらパターンをエンボス成形により形成できることに加え、それらパターンの位置合わせが不要である。
【0006】
しかしながら、レリーフ型の回折格子は、レーザなどの設備があれば、比較的容易に形成することができる。また、先の表示体が含んでいる光散乱パターンの視覚効果は、例えば、透明粒子とこれとは屈折率が異なる透明樹脂とを含有した印刷層でも得ることができる。それゆえ、この表示体の偽造防止効果は、必ずしも十分であるとはいえない。
【特許文献1】特開平5−273500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、より高い偽造防止効果を達成する偽造防止技術を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための第1の発明は、レリーフ型の回折格子が形成された回折格子領域と、方向の揃った複数の直線状の凸部および/または凹部が各々に形成され、前記方向が互いに異なる複数の光散乱領域とを一方の主面に含んだ層を具備し、前記複数の光散乱領域は、互いに異なる像を形成していることを特徴とする表示体である。
【0009】
また、第2の発明は、前記回折格子領域および前記光散乱領域の各々は、複数のセルで構成されていて、前記複数のセルを画素とした像を表示することを特徴とする第1の発明の表示体である。
【0010】
また、第3の発明は、前記回折格子領域を構成している前記複数のセルは、前記回折格子を形成している溝の空間周波数、方位、および深さまたは高さ、ならびに前記セルに対する前記回折格子の面積比の少なくとも1つが互いに異なるセルを含み、前記光散乱領域を構成している前記複数のセルは、前記凸部および/または凹部の密度、大きさ、形状、および深さまたは高さ、ならびに前記セルに対する前記凸部および/または凹部が形成された部分の面積比の少なくとも1つが互いに異なるセルを含むことを特徴とする第2の発明の表示体である。
【0011】
また、第4の発明は、少なくとも1つの前記光散乱領域において、複数の前記直線状の凸部および/または凹部は、ランダムに配置されていることを特徴とする第1から第3の発明のいずれか1つの表示体である。
【0012】
また、第5の発明は、少なくとも1つの前記光散乱領域において、複数の前記直線状の凸部および/または凹部は、長さおよび幅が等しいことを特徴とする第1から第4の発明のいずれか1つの表示体である。
【0013】
また、第6の発明は、前記光散乱領域を構成している前記複数のセルは、前記複数の凸部および/または凹部の長さおよび/または幅が互いに異なるセルを含むことを特徴とする第2または第3の発明の表示体である。
【0014】
また、第7の発明は、前記複数の凸部および/または凹部が、10μm以下の平均間隔で形成されていることを特徴とする第1から第6の発明のいずれか1つの表示体である。
【0015】
また、第8の発明は、前記複数の光散乱領域は、前記方向が互いに直交する2つの光散乱領域を含むことを特徴とする第1から第7の発明のいずれか1つの表示体である。
【0016】
また、第9の発明は、前記層は、前記主面に、平面形状が円形、楕円形または多角形である複数の凸部および/または凹部が形成された領域をさらに含んだことを特徴とする第1から第8の発明のいずれか1つの表示体である。
【0017】
また、第10の発明は、前記主面を被覆した反射膜または半透過反射膜をさらに含み、前記層は光透過性材料からなることを特徴とする第1から第9の発明のいずれか1つの表示体である。
【0018】
また、第11の発明は、第1から第10の発明のいずれか1つの表示体と、前記表示体を支持した、印刷を施された基材とを含んだことを特徴とする印刷物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、より高い偽造防止効果を達成する偽造防止技術を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様または類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
図1は、本発明の第1実施形態の表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す表示体のII−II線に沿った概略断面図である。
【0022】
表示体1は、層2を含んでいる。層2は、例えば、光透過性材料層50と反射性材料層51とを含んでいる。図2に示すように、反射性材料層51の、光透過性材料層50と反対側の面に、接着層52を設けることもできる。なお、図2に示す例では、光透過性材料層50側を前面側とし、接着層52側を背面側としている。
【0023】
反射性材料層51は、光透過性材料層50の背面を被覆している。光透過性材料層50と反射性材料層51との界面には、凹凸構造が設けられている。この凹凸構造については、後で説明する。接着層52は、反射性材料層51上に形成されている。
【0024】
光透過性材料層50は、例えば、反射性材料層51の下地としての役割を果たす。また、光透過性材料層50は、表面の汚れや傷などから凹凸構造を保護し、これにより、表示体1の視覚効果を長期に亘って保つ役割を果たす。さらに、光透過性材料層50は、凹凸構造を露出させないことにより、その複製を困難なものにしている。光透過性材料層50および反射性材料層51の一方は、省略してもよい。
【0025】
光透過性材料層50の材料としては、熱可塑性樹脂や紫外線硬化樹脂などが、原版を用いた転写により凹凸構造を形成するうえで好適である。エンボスを利用する場合、後述する回折格子領域10ならびに光散乱領域20aおよび20bに対応した凹凸構造を原版に高精度に形成しておけば、容易に精密な量産複製品を得ることができる。
【0026】
透過性材料層50には、表面強度や凹凸構造の形成し易さなどを考慮して、2層以上の構成を採用してもよい。また、反射性材料層51の材料として金属を使用した場合、それに由来する金属光沢色をこれとは異なる色に変えるために、透過性材料層50に染料などを混ぜ、この染料に特定の波長の光を吸収させることも可能である。
【0027】
反射性材料層51は、凹凸構造が設けられた界面の反射率を高める役割を果たす。反射性材料層51の材料としては、例えば、Al、Agなどの金属材料を用いることができる。また、反射性材料層51の材料は、誘電体材料などの光透過性材料層50とは屈折率が異なる透明材料であってもよい。反射性材料層51は、単層に限られず、多層膜であってもよい。
【0028】
接着層52は、表示体1を偽造が防止されるべき物品に取り付けるために設けられる。接着層52は、表示体1と偽造が防止されるべき物品との接着強度や接着面の平滑性などを考慮して、2層以上の構成であってもよい。
【0029】
なお、図2には、光透過性材料層50側から表示体1を観察する構成を描いているが、反射性材料層51側から表示体1を観察する構成を採用することもできる。
【0030】
次に、層2に形成された凹凸構造について説明する。
層2は、回折格子領域10と第1光散乱領域20aと第2光散乱領域20bと領域30とを含んでいる。
【0031】
回折格子領域10では、光透過性材料層50と反射性材料層51との界面に、レリーフ型の回折格子からなる回折格子パターンが形成されている。この回折格子は、例えば、複数の溝を配列してなる。なお、用語「回折格子」は、照明光を照射することにより回折波を生じる構造を意味し、例えば複数の溝を平行且つ等間隔に配置する通常の回折格子に加え、ホログラムに記録された干渉縞も包含することとする。また、溝または溝に挟まれた部分を「格子線」と呼ぶこととする。
【0032】
回折格子を構成している溝の深さは、例えば、0.1〜1μmの範囲内とする。また、回折格子の格子定数は、例えば、0.5〜2μmの範囲内とする。
【0033】
光散乱領域20aおよび20bの各々では、光透過性材料層50と反射性材料層51との界面に、方向の揃った複数の直線状の凸部および/または凹部が形成されている。そして、領域20aと領域20bとでは、直線状の凸部および/または凹部の方向が互いに異なっている。
【0034】
領域20aまたは20bを領域の法線方向から照明した場合、この領域は、直線状の凸部および/または凹部の長手方向に垂直な面内には最も広い射出角範囲で散乱光を射出し、直線状の凸部および/または凹部の長手方向に平行であり且つ先の領域の主面に垂直な面内には最も狭い射出角範囲で散乱光を射出する。以下、光散乱領域が一定強度以上の散乱光を射出する角度範囲の大きさを、用語「光散乱能」で表現する。例えば、用語「光散乱能」を用いた場合、上述した光学特性は、「領域20aおよび20bの各々は、直線状の凸部および/または凹部の長手方向で最小の光散乱能を示し、これに垂直な方向で最大の光散乱能を示す」と記載することができる。また、最大の光散乱能と最小の光散乱能との差が十分に存在する性質を「光散乱能異方性」と呼ぶこととする。
【0035】
直線状の凸部および/または凹部の長さは、例えば、10μm以上とする。また、これら凸部および/または凹部の幅は、例えば、0.1〜10μmの範囲内とする。そして、これら凸部および/または凹部の高さまたは深さは、例えば、0.1〜10μmの範囲内とする。
【0036】
領域30では、光透過性材料層50と反射性材料層51との界面に凹凸構造は形成されていない。すなわち、領域30では、光透過性材料層50と反射性材料層51との界面は平坦面である。
【0037】
層2は、例えば、領域10、20a、20bおよび30にそれぞれ対応した複数のセグメントで構成することができる。或いは、層2を例えばマトリクス状に配列した多数のセルで構成するとともに、これらセルの一部で回折格子領域10を構成し、これらセルの他の一部で領域20aを構成し、これらセルのさらに他の一部で領域20bを構成し、残りのセルで領域30を構成してもよい。層2を複数のセルで構成した場合、これらセルの各々を画素として用いて像を表示できる。以下、回折格子領域10を構成しているセルを「回折格子セル」と呼び、領域20aおよび20bを構成しているセルを「光散乱セル」と呼ぶことにする。
【0038】
層2を複数種のセルで構成する場合、各セルの視覚効果が分かっていれば、それらの並べ替えによって得られる像の予想は容易である。それゆえ、デジタル画像データから、各画素で使用すべきセルを容易に決定することができる。したがって、この場合、表示体1の設計が容易になる。
【0039】
セグメント間でまたは画素間で視覚効果を異ならしめるために、以下に説明する事項を利用することができる。
まず、回折格子領域10で得られる視覚効果について、図面を参照しながら説明する。
【0040】
図3は、回折格子に入射した照明光と回折格子が射出した回折光との関係の一例を示す図である。
【0041】
格子線に垂直な方向から照明光71を入射角α’で回折格子11に入射させると、回折格子11は、代表的な回折光である1次回折光73を射出角βで射出する。回折格子11による正反射光(0次回折光)72の反射角または射出角αは、入射角α’と絶対値が等しく、法線に対して対称である(α、βは時計回りを正方向とする)。角度αと角度βとは、回折格子11の格子定数をd(nm)、照明光71の波長をλ(nm)とすると、下記式(1)に示す関係を満たしている。
【0042】
d=λ/(sinα−sinβ) …(1)
上記式(1)から分かるように、白色光を入射させた場合には、1次回折光の射出角は、波長に応じて異なる。すなわち、回折格子11は分光作用を持ち、回折格子領域10の色は、観察位置を変化させることにより七色に変化する。
【0043】
また、或る観察条件のもとで観察者が知覚する色は、格子定数dに応じて変化する。
例えば、回折格子11がその格子面に対して垂直方向に1次回折光73を射出するとする。すなわち、1次回折光73の射出角βは0°であるとする。この場合、照明光71の入射角および0次回折光72の射出角をαNとすると、式(1)は以下のように簡略化される。
【0044】
d=λ/sinαN …(2)
式(2)から明らかなように、観察者に或る色を知覚させるには、その色に対応した波長λと照明光71の入射角αNと格子定数dとを、それらが式(2)に示す関係を満たすように設定すればよい。例えば、波長が400〜700nmの白色光を照明光71とし、照明光71の入射角αNを45°とし、回折格子の空間周波数,すなわち、格子定数の逆数,が1800〜1000本/mmの範囲内で分布している回折格子を使用すると、空間周波数が1600本/mm程度の部分は青く見え、1100本/mm程度の部分は赤く見える。したがって、セグメント間またはセル間で回折格子の空間周波数を異ならしめることにより、それらの表示色を異ならしめることができる。
【0045】
なお、回折格子は、空間周波数が小さいほうが形成し易い。そのため、表示体に用いられる通常の回折格子の多くでは、空間周波数を500〜1600本/mmとしている。
【0046】
上記の説明では、照明光71を格子線に垂直な方向から回折格子11に入射させることを仮定している。この状態から、観察方向を一定としたまま、回折格子11をその法線の周りで回転させると、この回転角度に応じて格子定数dの実効値が変化する。その結果、観察者が知覚する色が変化する。そして、この回転角度が十分に大きくなると、観察者は、先の観察方向で回折光を知覚できなくなる。それゆえ、セグメント間またはセル間で格子線の方位を異ならしめることにより、それらの表示色を異ならしめることができる。
【0047】
また、回折格子11を構成している溝の深さを大きくすると、回折効率が変化する。そして、セグメントまたはセルに対する回折格子の面積比を大きくすると、回折光の強度はより大きくなる。
【0048】
したがって、セグメント間またはセル間で、回折格子の空間周波数および/または方位を異ならしめると、それらセグメントまたはセルに異なる色を表示させることができ、また観察可能な条件を設定することができる。そして、セグメント間またはセル間で、回折格子11を形成している溝の深さとセグメントまたはセルに対する回折格子11の面積比との少なくとも一方を異ならしめると、それらセグメントまたはセルの輝度を異ならしめることができる。それゆえ、これらを利用することにより、フルカラー像および立体像などの像を表示させることができる。
【0049】
次に、光散乱領域20aおよび20bで得られる視覚効果について、図面を参照しながら説明する。
【0050】
図4は、光散乱領域の一例を概略的に示す平面図である。
図4に示す光散乱領域20は、複数の光散乱構造25を含んでいる。これら光散乱構造25は、各々が直線状であり、各光散乱領域20内で方向が揃った複数の凸部および/または凹部である。すなわち、各光散乱領域20において、光散乱構造25はほぼ平行に配列している。
【0051】
なお、各光散乱領域20において、光散乱構造25は完全に平行に配列していなくてもよい。光散乱領域20が十分な光散乱能異方性を有している限り、その光散乱領域20において、例えば、一部の光散乱構造25の長手方向と他の一部の光散乱構造25の長手方向とが交差していてもよい。以下、光散乱領域20の主面に平行な方向のうち、光散乱領域20が最小の光散乱能を示す方向を「配向方向」と呼び、光散乱領域20が最大の光散乱能を示す方向を「光散乱軸」と呼ぶ。
【0052】
図4に示す光散乱領域20では、矢印26で示す方向は配向方向であり、矢印27で示す方向は光散乱軸である。例えば、配向方向26に垂直な斜め方向から光散乱領域20を照明して、光散乱領域20を正面から観察すると、光散乱領域20は、その高い光散乱能に起因して、比較的明るく見える。一方、光散乱軸27に垂直な斜め方向から光散乱領域20を照明して、光散乱領域20を正面から観察すると、光散乱領域20は、その低い光散乱能に起因して、比較的暗く見える。
【0053】
これから明らかなように、例えば、光散乱領域20を斜め方向から照明して、これを正面から観察した場合、光散乱領域20をその法線方向の周りで回転させると、その明るさが変化する。それゆえ、例えば、図1に示す光散乱領域20aと光散乱領域20bとに同一の構造を採用し、それら領域20aおよび20b間で光散乱軸の方向のみを異ならしめた場合、領域20aが最も明るく見えるときには領域20bは比較的暗く見え、領域20aが最も暗く見えるときには領域20bは比較的明るく見える。また、領域20bが最も明るく見えるときには領域20aは比較的暗く見え、領域20bが最も暗く見えるときには領域20aは比較的明るく見える。
【0054】
すなわち、領域20aと領域20bとで光散乱軸27を異ならしめることにより、それらの間に明るさの差を生じさせることができる。したがって、これにより、像を表示することができる。特に、領域20aと領域20bの光散乱軸27の角度差を十分とする(例えば、30°以上)、あるいはそれぞれの光散乱異方性を十分大きくすることにより、それぞれの領域で表示された像をそれぞれ別の観察条件で観察できる。
【0055】
光散乱領域20の明るさは、他の方法で制御することもできる。
例えば、光散乱構造25の幅が大きいほど、光散乱軸27の方向についての光散乱能が小さくなる。一方、光散乱構造25を長くすると、配向方向26についての光散乱能が小さくなる。
【0056】
光散乱構造25の形状は、1つの光散乱領域20において全て同じであってもよい。或いは、1つの光散乱領域20は、形状の異なる複数の凸部および/または凹部25を含んでいてもよい。
【0057】
同一形状の光散乱構造25のみを含んだ光散乱領域20は、光散乱能の設計が容易である。また、そのような光散乱領域20は、電子線描画装置やステッパなどの微細加工装置を用いることで、高精度にかつ容易に形成することができる。一方、形状の異なる光散乱構造25を含んだ光散乱領域20によると、広い角度範囲に亘ってなだらかな光強度分布をもった散乱光が得られる。それゆえ、観察位置による明暗の変化が小さく、安定した白色を表示させることが可能となる。
【0058】
また、光散乱構造25の配向秩序度が高いほど、光散乱領域20の光散乱能異方性は大きくなる。
【0059】
光散乱領域20において、光散乱構造25はある程度規則的に配置されていてもよく、ランダムに配置されていてもよい。例えば、光散乱構造25の光散乱軸27に平行な方向の間隔をランダムにすると、配向方向26に垂直な方向について関する散乱光の光強度分布がなだらかになる。したがって、観察角度に応じた白さや明るさの変化が抑制される。
【0060】
また、光散乱軸27に平行な方向について、光散乱構造25の間隔を小さくすると、入射光のより多くを散乱させることができるため、光散乱能異方性を劣化させることなしに、散乱光の強度を強くすることができる。例えば、光散乱軸27に平行な方向についての光散乱構造25の平均間隔が10μm以下であれば、視認性の良い表示を実現するのに十分な光散乱強度を得ることができる。
【0061】
なお、この平均間隔を十分に小さくすると、光散乱領域20が複数の光散乱セルで構成されている場合、光散乱セルの大きさを100μm程度とすることは十分に可能である。この場合、通常の観察条件における人間の目の分解能以下の細かさで像を表示することができる。すなわち、十分に高精細な像を表示できる。
【0062】
図1では、光散乱軸が略直交する2つの光散乱領域20aおよび20bを配置しているが、光散乱軸が異なる3つ以上の光散乱領域を配置してもよい。
【0063】
図5(a)〜(c)は、光散乱領域の構成例を示す平面図である。図5(a)〜(c)において、それぞれ白部が凸部または凹部に対応している。
【0064】
図5(a)の光散乱領域20では、光散乱構造25はy方向に配向している。図5(b)の光散乱領域20では、光散乱構造25は、y方向から反時計回りに45°回転させた方向に配向している。図5(c)の光散乱領域20では、光散乱構造25は、y方向と直交するx方向に配向している。
【0065】
このように、光散乱軸が異なる3つ以上の光散乱領域を配置すると、例えば、階調表示を行うことや、表示体1の方位を変化させることに伴って像の変化をより複雑にすることができる。例えば、表示体1の方位を変化させることにより、アニメーション的に像を変化させることも可能である。
【0066】
図6(a)および(b)は、光散乱領域の他の構成例を概略的に示す平面図である。
【0067】
図6(a)の光散乱領域20では、光散乱構造25は、y方向に配向している。図6(b)の光散乱領域20では、光散乱構造25は、x方向に配向している。
【0068】
図6(a)および(b)に示す光散乱構造25は、図5(a)〜(c)に示す光散乱構造25と比較して幅がより広い。よって、図6(a)および(b)に示す光散乱領域20が射出する散乱光は、図5(a)〜(c)に示す光散乱領域20が射出する散乱光と比較して、配向方向26に垂直な方向への広がりがより少ない。
【0069】
散乱光の広がりが少ない場合、特定位置から観察したときの散乱光は強くなるので、光散乱軸26の方向が同じであり且つ光散乱構造25の幅が異なる複数の領域,例えば、図5(a)に示す光散乱領域20および図6(a)に示す光散乱領域20,で構成された像は、所定の位置から観察した場合に、濃淡を伴った像として見える。
【0070】
なお、図1および図2に示す光散乱領域20aおよび20bは、図5(a)〜(c)ならびに図6(a)および(b)に示した光散乱領域20に限定されるものではなく、様々な構成を採用することができる。
【0071】
以上説明したように、図1の光散乱領域20aおよび20bによって表示される像は、明確な切り替わり効果を有する。つまり、互いに異なる光散乱軸27を有する2つの光散乱領域20aおよび20bによって表示される2つの像は、混ざり合って見えることなく、それぞれ別個にはっきりと観察することができる。また、異なる光散乱軸27を有する光散乱領域20を複数設けることにより、設けた光散乱軸27と同じ数だけ、表示体1に像を表示させることができる。これにより、観察位置の変化によるアニメーション的な像変化を生じさせることも可能である。
【0072】
光散乱構造25は、深さまたは高さ方向においてバイナリ(2値)構造であってもよいし、連続的に変化する構造であってもよい。
【0073】
バイナリ構造の光散乱構造25を含んだ光散乱領域20は、微細加工能力のある装置を用いて比較的容易に製造することができ、形状などの設定も容易に行える。連続的に変化する構造の光散乱構造25を含んあ光散乱領域20は、レーザ光の干渉を利用してスペックルを感光性材料、例えばフォトレジストに記録することにより、容易に製造できる。光散乱領域20の面積に対して光散乱構造25の形成された部分の面積が、バイナリ構造である場合には50%、連続的に変化する構造の場合には100%、つまり平滑面がない場合、光散乱領域20における光散乱構造25の散乱効率が最も高くなる。
【0074】
図1および図2に示す表示体1の層2は、光散乱軸が互いに異なる2つの光散乱領域20aおよび20bを含んでいる。光散乱領域20aは“9”の文字を、そして光散乱領域20bはその“9”の文字の縁取りをそれぞれ像として表示している。
【0075】
図1の表示体1では、光散乱領域20aおよび20bの各々の光散乱軸は互いに直交している。上で説明したように、配向方向26に対して垂直な方向から光散乱領域20aまたは20bを観察すると、光が広がって見え、観察角度に拘らず、明るい像が観察できる。したがって、表示体1を光散乱領域20aの配向方向26に垂直な方向から観察すると、“9”の文字のみが白っぽく見え、縁取りは暗く見える。一方、表示体1を光散乱領域20bの配向方向26に垂直な方向から観察すると、“9”の縁取りのみが白っぽく見える。つまり、図1の表示体1は、光散乱軸が互いに異なる2つの光散乱領域20aおよび20bを含むため、表示体1の方位に応じて領域20aおよび20bの明暗が逆転する。
【0076】
図1および図2に示す表示体1は、光散乱軸27の方向が互いに異なる2つの光散乱領域20aおよび20bを含むため、散乱軸に対応した異なる方向から、それぞれ予め決められた像を観察できる。このような観察位置によって観察される像の変化は、回折格子領域10によっても表現できるが、回折格子領域10による虹色の見え方とは異なり、比較的広い観察位置範囲でほぼ均一な白さに見える。
【0077】
なお、以上では、図2の透過性材料層50が可視領域において特定の吸収帯を持たない場合を例に挙げて白色の散乱光を説明した。透過性材料層50に染料などが含まれている場合には、光散乱領域20による散乱光は、透過性材料層50を透過する波長成分の散乱光となる。
【0078】
図1および図2に示す表示体1は、回折格子領域10ならびに光散乱領域20aおよび20bに加えて、凹凸構造が形成されていない領域30をさらに含んでいる。領域30は、観察位置を変えても観察できる像は変化せず、層2が図2に示す透明材料層50および反射性材料層51から構成される場合には、領域3は反射性材料層51の金属的な外観を表示する。
【0079】
つまり、図1および図2に示す表示体1は、観察位置により大きく見え方が変化する視覚効果を有する回折格子領域10と、互いに直交する光散乱軸27を有し、像の切り替わりと安定した観察効果を有する2つの光散乱領域20aおよび20bと、視点により見え方が変化しない領域30とを複合して有するので、複雑な視覚効果を有する。さらに、図1および図2に示す表示体1は、各領域が別個に像を表示するため、回折格子領域10または光散乱領域20aおよび20bのどちらか一方だけで像を表示する表示体と比べて、さらに複雑な視覚効果を有し、類似品との区別をきわめて容易に、かつ確実に行うことができ、それにより偽造防止効果が向上する。
【0080】
図1および図2に示す表示体1は、回折格子領域10ならびに光散乱領域20aおよび20bのそれぞれを適宜設計することで、色や明度などが異なる様々な像を表示することができる。したがって、表示したい画像の色や明度に応じて回折格子領域10ならびに光散乱領域20aおよび20bを設計できる。また、図1および図2に示す表示体1は、回折格子11および光散乱構造25がともに凹凸によって構成されているため、凹凸の複製のみで両者の構成や位置関係、および機能を維持したまま、精密に容易な製造を行うことができる。高精度に作製された表示体1は、真正品である表示体に対する信頼度が増加し、真偽判定の確実さが増す。
【0081】
さらに、図1および図2に示した表示体1は、回折格子領域10ならびに光散乱領域20aおよび20bを含んでいるため、観察位置に応じて像の見え方が変化する。この視覚効果は、この表示体1をカラーコピーすることでは、再現することはできない。また、図1および図2に示す表示体1の偽造・模造を行おうとしても、種類の異なる2種類の効果をもった精密な凹凸構造を正確に再現することは難しい。しかも、回折格子11からの回折光を利用した光学的な複製方法によっても、図1および図2に示す表示体1の光散乱構造は複製できない。
【0082】
したがって、特徴的な視覚効果と、偽造・模造の困難さから、図1および図2に示す表示体1は、容易に真偽判定が可能な高セキュリティ光学媒体として、例えば、有価証券類や各種カード、パスポートなどに適用できる。
【0083】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。
図7は、本発明の第2実施形態の表示体を概略的に示す平面図である。
【0084】
図7に示す表示体1は、以下の構成を採用したこと以外は、図1および図2を参照しながら説明した表示体1と同様である。すなわち、図7に示す表示体1において、回折格子領域10ならびに光散乱領域20aおよび20bは、それぞれ、マトリックス状に配列された複数のセルから構成されている。換言すれば、図7に示す表示体1では、各々の領域において、複数のセルが画素として像を表示している。
【0085】
図7に示す表示体1では、回折格子領域10は、方位の異なる複数の回折格子セル12a〜12fを含んでいる。
【0086】
図7において、同じ参照符号を付したセルは、回折格子の方位がほぼ同一であるため、それぞれの方位に応じた回折光を射出する。したがって、同じ参照符号を付したセルは、同一の視覚効果を有する画素として像を表示する。これに対し、回折格子セル12a〜12fはそれぞれ回折格子の方位が異なるため、異なる視覚効果を有している。すなわち、図7の表示体1は異なる視覚効果を有する6つの回折格子領域を含んでいる。したがって、図7の表示体1の回折格子領域は、観察条件によって変化に富んだ見え方をする。
【0087】
また、図7に示す表示体1では、光散乱領域20aは、光散乱構造の配向方向がx方向から反時計回りに45°回転させた方向に平行な複数の光散乱セル21aからなる。光散乱領域20aは、複数の光散乱セル21aを画素として、“9”の像を形成している。一方、光散乱領域20bは、光散乱構造の配向方向が光散乱セル21aが含む光散乱構造のの配向方向と直交した複数の光散乱セル21bからなる。光散乱領域20bは、複数の光散乱セル21bを画素として、光散乱領域20aが表示する“9”の像を縁取る像を形成している。
【0088】
図7に示す表示体1の光散乱領域20aおよび20bは、それらを構成する光散乱セル21aおよび21bにおける光散乱構造の配向方向が直交しているので、互いの光散乱軸が直交する。したがって、x方向に対して反時計回りに45°回転させた方向から図7の表示体1を照明して正面から観察すると、光散乱領域20bでは散乱光が強く観察され、一方で光散乱領域20aでは散乱光が観察されないかまたは極めて弱く観察されるため、“9”の像は暗く見える。また、x軸方向に対して時計回りに45°回転させた方向から図7の表示体1を照明して正面から観察すると、光散乱領域20aでは散乱光が強く観察され、光散乱領域20bでは散乱光が観察されないかまたは極めて弱く観察されるため、“9”の像は白っぽく見え、その周囲は暗く見える像が表示される。つまり、照明する角度を90°回転させる毎に、“9”の像とその周りの像との明暗が反転する。
【0089】
回折格子セル12a〜12fならびに光散乱セル21aおよび21bの大きさは、300μm以下であることが好ましい。特に、表示体1が小さい場合には、近づけて見ることを考慮して、100μm以下であることが好ましい。各々のセルがこれら数値以下の大きさであれば、通常の観察条件下において、肉眼でセルを区別できなくなり、偽造防止効果の向上と、意匠性、装飾性の向上が実現できる。
【0090】
回折格子セル12a〜12fならびに光散乱セル21および21bは、同じ大きさであることが好ましい。同じ大きさのセルを画素として用いることで、画像データから表示体1の像を作るのが容易になる。
【0091】
以上説明したように、図7に示す表示体1は、互いに方位の異なる回折格子セル12a〜12fから構成される回折格子領域10、ならびに互いに直交する光散乱軸27を有する光散乱セル21aおよび21bからそれぞれ構成される2つの光散乱領域20aおよび20bが、それぞれ個別に像を表示するため、回折格子領域10ならびに光散乱領域20aおよび20bの1つまたは2つだけで像を表示する表示体と比べて、より複雑な視覚効果を有する。これにより、類似品との区別をきわめて容易に、かつ確実に行うことができる。
【0092】
また、図7に示す表示体1は、回折格子セル12a〜12fならびに光散乱セル21aおよび21bを画素として像を構成しているので、デジタル画像データから画素ごとに回折格子や光散乱構造の配置を簡便に行うことができ、表示体1の像を容易に複雑・高精細なものにすることができる。それにより、視覚効果を向上させるとともに、偽造防止効果を一層高めることができる。
【0093】
また、図7に示す表示体1は、回折格子11および光散乱構造25がともに凹凸によって構成されているため、凹凸の複製のみで両者の構成や位置関係、および機能を維持したまま、精密に容易な製造を行うことができる。上記の通り、高精度に作製された表示体1は、真正品である表示体に対する信頼度が増加し、真偽判定の確実さが増す。
【0094】
さらに、図7に示す表示体1の偽造・模造を行おうとしても、これらの視覚効果をもった精密な構造を正確に再現することは難しい。また、回折格子11からの回折光を利用した光学的な複製方法によっても、図7に示す表示体1の光散乱構造は複製できない。
【0095】
したがって、特徴的な視覚効果と、偽造・模造の困難さから、図7に示す表示体1は、容易に真偽判定が可能な高セキュリティ光学媒体として、例えば、有価証券類や各種カード、パスポートなどに活用できる。
【0096】
次に、図7に示す表示体1の変形例を説明する。
図8は、図7に示す表示体の変形例を概略的に示す平面図である。
【0097】
図8に示す表示体1は、以下の構成を採用したこと以外は、図7を参照しながら説明した表示体1と同様である。すなわち、図8に示す表示体の層2は、互いに方位が異なる2つの回折格子領域10aおよび10bと、光散乱軸が互いに直交する2つの光散乱領域20aおよび20bと、凹凸構造が形成されていない領域30とを含んでいる。
【0098】
図8に示す表示体1において、回折格子セル12aから構成されている回折格子領域10aは“0”の像を、回折格子セル12bから構成されている回折格子領域10bは“:”の像を、光散乱セル21aから構成されている光散乱領域20aは“1”の像を、光散乱セル21bから構成されている光散乱領域20bは“9”の像を形成している。
【0099】
図8に示す表示体1では、光散乱領域20aおよび光散乱領域20bの光散乱軸はほぼ直交している。したがって、或る観察位置では一方の像のみが観察され、他の観察位置では他方の像のみが観察される。つまり、光散乱領域20aおよび光散乱領域20bの両方の像が観察されることはない。
【0100】
また、図8に示す表示体1では、回折格子領域10aおよび回折格子領域10bの回折格子の方位は、互いに異なっている。したがって、回折格子領域10aが虹色に光って見える観察位置と回折格子領域10bが虹色に光って見える観察位置とは異なっている。
【0101】
さらに、図8の表示体1では、回折格子領域10bと光散乱領域20bとは、内部の凹凸構造がほぼ同じ方向に向いているので、観察位置によっては、これらの両者の像が観察されたり、どちらか一方の像のみが観察されたりする。
【0102】
図8に示す表示体1は、回折格子も光散乱構造も形成されていない領域30を含んでいる。この領域30は観察位置によって見え方が変化することはない。
【0103】
以上説明したように、図8に示す表示体1は、互いに方位の異なる回折格子セル12aおよび12bからそれぞれ構成される2つの回折格子領域10aおよび10b、ならびに互いに直交する光散乱軸27を有する光散乱セル21aおよび21bからそれぞれ構成される2つの光散乱領域20aおよび20bが、それぞれ個別に像を表示するため、これら領域の1つ以上を省略した表示体と比べて、より複雑な視覚効果を有する。これにより、類似品との区別をきわめて容易に、かつ確実に行うことができる。
【0104】
また、図7に示す表示体1は、回折格子11および光散乱構造25がともに凹凸によって構成されているため、凹凸の複製のみで両者の構成や位置関係、および機能を維持したまま、精密に容易な製造を行うことができる。安定して高精度に作製された表示体1は、真正品である表示体に対する信頼度が増加し、真偽判定の確実さが増す。
【0105】
さらに、図8に示す表示体1の偽造・模造を行おうとしても、これらの視覚効果をもった精密な構造を正確に再現することは難しい。また、回折格子11からの回折光を利用した光学的な複製方法によっても、図8に示す表示体1の光散乱構造は複製できない。
【0106】
したがって、特徴的な視覚効果と、偽造・模造の困難さから、図8に示す表示体1は、容易に真偽判定が可能な高セキュリティ光学媒体として、例えば、有価証券類や各種カード、パスポートなどに活用できる。
【0107】
以上で説明した表示体1は、線状の光散乱構造25を含んだ光散乱領域20aおよび20bなどに加えて、他の形状の凸部および/または凹部を含んだ光散乱領域をさらに含んでいてもよい。
【0108】
図9(a)および図9(b)は、線状以外の形状の凸部および/または凹部を含んだ光散乱領域の例を概略的に示す斜視図である。
【0109】
図9(a)の光散乱領域20’は、直方体形状の複数の凸部25aを含んでいる。複数の凸部25aの配向方向26’は、x方向に略平行である。図9(b)の光散乱領域20’は、楕円形状の複数の凸部25bを含でいる。複数の凸部25bの配向方向26’は、x方向に略平行である。
【0110】
図9(a)および(b)の光散乱領域20’では、光散乱軸27’は、y方向に略平行である。しかし、図9(a)および(b)の光散乱領域20’が含んでいる凸部25aおよび25bは、y方向の寸法に対するx方向の寸法の比が小さい,例えば、1〜5の範囲内にある,ため、上で説明した、線状の凸部および/または凹部25と比較して、光散乱能異方性が小さい。よって、図9(a)および図9(b)の光散乱領域20’は、散乱光は観察されるものの、観察位置に応じた見え方の変化が小さい。
【0111】
したがって、このような光散乱領域20’を追加することによって、表示体1の視覚効果をさらに複雑にすることができる。
【0112】
上述した表示体1は、印刷物等の物品に取り付けて、偽造防止媒体として使用することもできる。
【0113】
図10は、表示体を支持した物品の一例を概略的に示す平面図である。
【0114】
図10に示す物品100は、磁気カードである。この物品100は、印刷が施された基材90と、基材90に支持された表示体1とを含んでいる。この物品100が含んでいる表示体1は、先に説明した表示体1である。
【0115】
図10に示す物品100は、回折格子領域による視覚効果と、複数の光散乱領域による視覚効果とをもつ表示体1の像、およびカード90に施された印刷による像という、光学特性の異なる複数の要素からなる表示像が目視確認できるため、非真正品との区別が容易である。表示体1の偽造および模造は、上で説明したように困難であるため、物品100に対する偽造防止効果が期待できる。
【0116】
図10の物品は、本発明の表示体の適用例の1つの形態であって、本発明の表示体の適用形態は図10の形態に限定されない。例えば、本発明の表示体を印刷物のような物品に適用する場合、スレッド(ストリップ、フィラメント、糸状物、安全帯片などとも称される)と呼ばれる形態で、紙にすき込んでもよい。また、本発明の表示体は、図2で示したように、粘着層52を含むことができるので、様々な物品に容易に貼り付けて適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の第1実施形態の表示体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す表示体のII−II線に沿った概略断面図。
【図3】回折格子に入射した照明光と回折格子が射出した回折光との関係の一例を示す図。
【図4】光散乱領域の一例を概略的に示す平面図。
【図5】(a)〜(c)は、光散乱領域の構成例を示す平面図。
【図6】(a)および(b)は、光散乱領域の他の構成例を概略的に示す平面図。
【図7】本発明の第2実施形態の表示体を概略的に示す平面図。
【図8】図7に示す表示体の変形例を概略的に示す平面図。
【図9】(a)および(b)は、線状以外の形状の凸部および/または凹部を含んだ光散乱領域の例を概略的に示す斜視図。
【図10】表示体を支持した物品の一例を概略的に示す平面図。
【符号の説明】
【0118】
1…表示体、2…層、10…回折格子領域、11…回折格子、12…回折格子セル、20a…光散乱領域、20b…光散乱領域、21…光散乱セル、25…光散乱構造、26…主たる配向方向、27…光散乱軸、50…透明材料層、51…光反射層、90…基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レリーフ型の回折格子が形成された回折格子領域と、方向の揃った複数の直線状の凸部および/または凹部が各々に形成され、前記方向が互いに異なる複数の光散乱領域と
を一方の主面に含んだ層を具備し、前記複数の光散乱領域は互いに異なる像を形成していることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記回折格子領域および前記光散乱領域の各々は、複数のセルで構成されており、前記複数のセルを画素とした像を表示することを特徴とする請求項1記載の表示体。
【請求項3】
前記回折格子領域を構成している前記複数のセルは、前記回折格子を形成している溝の空間周波数、方位、および深さまたは高さ、ならびに前記セルに対する前記回折格子の面積比の少なくとも1つが互いに異なるセルを含み、
前記光散乱領域を構成している前記複数のセルは、前記凸部および/または凹部の密度、大きさ、形状、および深さまたは高さ、ならびに前記セルに対する前記凸部および/または凹部が形成された部分の面積比の少なくとも1つが互いに異なるセルを含んでいることを特徴とする請求項2記載の表示体。
【請求項4】
少なくとも1つの前記光散乱領域において、複数の前記直線状の凸部および/または凹部は、ランダムに配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の表示体。
【請求項5】
少なくとも1つの前記光散乱領域において、複数の前記直線状の凸部および/または凹部は、長さおよび幅の各々が等しいことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の表示体。
【請求項6】
前記光散乱領域を構成している前記複数のセルは、前記複数の凸部および/または凹部の長さおよび/または幅が互いに異なるセルを含んでいることを特徴とする請求項2または3記載の表示体。
【請求項7】
前記複数の凸部および/または凹部が、10μm以下の平均間隔で形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の表示体。
【請求項8】
前記複数の光散乱領域は、前記方向が互いに直交する2つの光散乱領域を含んでいることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の表示体。
【請求項9】
前記層は、前記主面に、平面形状が円形、楕円形または多角形である複数の凸部および/または凹部が形成された領域をさらに含んだことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の表示体。
【請求項10】
前記主面を被覆した反射膜または半透過反射膜をさらに含み、前記層は光透過性材料からなることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の表示体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項記載の表示体と、
前記表示体を支持した、印刷を施された基材とを含んだことを特徴とする印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−107472(P2008−107472A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288845(P2006−288845)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】