説明

表面に凹凸形状部を有する樹脂板の製造方法

【課題】削り加工を施すことによって樹脂板の表面に凹凸形状部を形成する製造方法であって、削り加工により形成した凹凸形状を変形させることなく、凹凸形状部の削り加工面を十分に平滑化することのできる製造方法を提供する。
【解決手段】この発明に係る表面に凹凸形状部を有する樹脂板10の製造方法は、樹脂板の表面に削り加工を施すことによって樹脂板の表面に凹凸形状部2を形成する工程と、樹脂板における前記凹凸形状部2が形成された表面2aに、溶媒100質量部に対して樹脂を0.5〜3質量部含有してなる処理液をドリップコーティング法により塗布した後、乾燥させる工程と、を包含することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、削り加工を施すことによって表面に凹凸形状部を有する樹脂板を製造するに際し、凹凸形状部の削り加工面を十分に平滑化できる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂板の表面にミクロンレベルの凹凸形状(三角形状等)を加工する方法としては、ダイヤモンドバイト等を用いた切削加工、ダイヤモンド砥石や金属砥石等を用いた研削加工、レーザー加工が公知である。
【0003】
また、プラスチックレンズの表面の凹凸(傷)を見えなくする方法として、レンズ基材を50〜150℃の温度で加熱処理する方法が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−22902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、上記切削加工で加工した場合、非常に平滑な削り加工面を得ることができるものの、長時間同一のダイヤモンドバイトで加工を行った場合、該バイトの刃先に荒れが生じ、これが削り加工面に微細な筋として残ることが懸念される。また、切削加工時に、ワークをセットするステージが僅かに揺れた場合でも、削り加工面に微細な筋が入ることも懸念される。このように樹脂板の削り加工面に微細な筋が残存していると、該削り加工面に入射してくる光が無秩序に散乱されるために、この樹脂板を例えばプリズムシート等の光学的用途に用いることはできなかった。
【0005】
また、研削加工を用いる場合、刃の回転を用いて形状を加工するので、樹脂板の削り加工面には刃が回転した跡が残る。このように樹脂板の削り加工面に刃の回転跡が残存していると、該削り加工面に入射してくる光が無秩序に散乱されて樹脂板の削り加工面が白濁化するので、この樹脂板を例えばプリズムシート等の光学的用途に用いることはできなかった。
【0006】
また、レーザー加工では、バイトや砥石の接触による加工跡が残存することはないものの、レーザー加工の際の熱によって加工表面が荒らされるという問題があり、この樹脂板を例えばプリズムシート等の光学的用途に用いることはできなかった。
【0007】
また、上記特許文献1の加熱手法を、削り加工によって凹凸高さが1.0〜800μm程度のミクロンレベルの凹凸形状部が表面に形成された樹脂板に対して適用すると、削り加工によって一旦形成せしめた凹凸形状部の加工形状が、熱によって変形するという問題があった。
【0008】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、削り加工を施すことによって樹脂板の表面に凹凸形状部を形成する製造方法であって、削り加工により形成した凹凸形状を変形させることなく、凹凸形状部の削り加工面を十分に平滑化することのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0010】
[1]樹脂板の表面に削り加工を施すことによって前記樹脂板の表面に凹凸形状部を形成する削り工程と、
前記樹脂板における前記凹凸形状部が形成された表面に、溶媒100質量部に対して樹脂を0.5〜3質量部含有してなる処理液をドリップコーティング法により塗布した後、乾燥させる工程と、
を包含することを特徴とする表面に凹凸形状部を有する樹脂板の製造方法。
【0011】
[2]樹脂板の表面に削り加工を施すことによって前記樹脂板の表面に凹凸形状部を形成する削り工程と、
前記樹脂板における前記凹凸形状部が形成された表面に、溶媒100質量部に対して樹脂を3〜7質量部含有してなる処理液を刷毛塗り法により塗布した後、乾燥させる工程と、
を包含することを特徴とする表面に凹凸形状部を有する樹脂板の製造方法。
【0012】
[3]前記削り加工が、切削加工または研削加工である前項1または2に記載の表面に凹凸形状部を有する樹脂板の製造方法。
【0013】
[4]前記凹凸形状部は、断面形状が三角形である三角形凸部を多数個備えてなる前項1〜3のいずれか1項に記載の表面に凹凸形状部を有する樹脂板の製造方法。
【0014】
[5]前記処理液を構成する樹脂として、前記樹脂板の屈折率との屈折率差の絶対値が0.05以下である樹脂を用いる前項1〜4のいずれか1項に記載の表面に凹凸形状部を有する樹脂板の製造方法。
【0015】
[6]前記削り工程において、前記樹脂板の表面に凹凸高さが1.0〜800μmの凹凸形状部を形成する前項1〜5のいずれか1項に記載の表面に凹凸形状部を有する樹脂板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
[1]の発明では、樹脂板における凹凸形状部の削り加工面に、溶媒100質量部に対して樹脂を0.5〜3質量部含有してなる処理液をドリップコーティング法により塗布した後、乾燥させるので、削り加工により形成された凹凸形状を変形させることなく、凹凸形状部の削り加工面を十分に平滑化することができる。
【0017】
[2]の発明では、樹脂板における凹凸形状部の削り加工面に、溶媒100質量部に対して樹脂を3〜7質量部含有してなる処理液を刷毛塗り法により塗布した後、乾燥させるので、削り加工により形成された凹凸形状を変形させることなく、凹凸形状部の削り加工面を十分に平滑化することができる。
【0018】
[3]の発明では、切削加工または研削加工により削り加工するので、より精度の高い凹凸形状部を形成できる。
【0019】
[4]の発明では、凹凸形状部は、断面形状が三角形である三角形凸部を多数個備えてなる構成であるから、製造された樹脂板は、例えばプリズムシート、光拡散板として好適である。
【0020】
[5]の発明では、処理液を構成する樹脂として、樹脂板の屈折率との屈折率差の絶対値が0.05以下である樹脂を用いるから、得られた樹脂板では、凹凸形状部の表面における光の散乱と屈折を十分に抑制することができて、入射してくる光の強度を十分に維持しつつ光が透過するものとなる(優れた光透過性を確保できる)。
【0021】
[6]の発明では、凹凸高さが1.0〜800μmの微細な凹凸形状部を形成する場合においても、削り加工により形成された凹凸形状を変形させることなく、凹凸形状部の削り加工面を十分に平滑化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明の第1製造方法は、樹脂板の表面に削り加工を施すことによって前記樹脂板の表面に凹凸形状部を形成する削り工程と、前記樹脂板(1)における前記凹凸形状部(2)が形成された表面に、溶媒100質量部に対して樹脂を0.5〜3質量部含有してなる処理液をドリップコーティング法により塗布した後、乾燥させる工程と、を包含することを特徴とする。
【0023】
また、この発明の第2製造方法は、樹脂板の表面に削り加工を施すことによって前記樹脂板の表面に凹凸形状部を形成する削り工程と、前記樹脂板(1)における前記凹凸形状部(2)が形成された表面に、溶媒100質量部に対して樹脂を3〜7質量部含有してなる処理液を刷毛塗り法により塗布した後、乾燥させる工程と、を包含することを特徴とする。
【0024】
一般に、単に、樹脂板の表面に削り加工(切削加工、研削加工、レーザー加工等)を施すことによって樹脂板の表面に凹凸形状部(2)を形成した場合、図1(a)に示すように、凹凸形状部(2)の削り加工面(2a)は粗面(非平滑面)になっており、このために従来では特に光学用途への適用は困難であったのであるが、本発明の上記第1製造方法では、前記樹脂板(1)における前記凹凸形状部(2)が形成された表面に、溶媒100質量部に対して樹脂を0.5〜3質量部含有してなる処理液をドリップコーティング法により塗布した後、乾燥させるものであるから、図1(b)に示すように、削り加工により形成された凹凸形状を変形させることなく、凹凸形状部(2)の削り加工面(2a)を十分に平滑化することができ、また上記第2製造方法では、前記樹脂板(1)における前記凹凸形状部(2)が形成された表面に、溶媒100質量部に対して樹脂を3〜7質量部含有してなる処理液を刷毛塗り法により塗布した後、乾燥させるので、図1(b)に示すように、削り加工により形成された凹凸形状を変形させることなく、凹凸形状部(2)の削り加工面(2a)を十分に平滑化することができる。
【0025】
前記第1及び第2製造方法では、まず、樹脂板の表面に削り加工を施すことによって樹脂板の表面に凹凸形状部(2)を形成する(削り工程)。この凹凸形状部(2)の削り加工面(2a)は、単に削り加工しただけであるから、図1(a)に示すように、粗面(非平滑面)である。
【0026】
本実施形態では、樹脂板の表面に削り加工を施すことによって樹脂板の表面に断面形状が三角形である三角形凸部(7)が複数個突設されてなる凹凸形状部(2)を形成した(図1参照)。この三角形凸部(7)は、樹脂板の表面に平行な一方向に沿って延ばされた断面形状が三角形の凸条部(8)で形成され、これら複数の凸条部(8)の長さ方向は互いに略平行状である(図2参照)。
【0027】
前記削り加工対象の樹脂板としては、特に限定されずどのような種類の樹脂板でも用いることができる。例えば、アクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート等が挙げられるが、特にこれら例示のものに限定されない。
【0028】
前記削り加工としては、切削加工、研削加工、レーザー加工等が挙げられるが、特にこれら例示の加工に限定されるものではない。ただ、切削加工または研削加工により削り加工した場合にはより精度の高い凹凸形状を形成できるので、切削加工または研削加工を採用するのが好ましい。
【0029】
前記切削加工としては、特に限定されるものではないが、例えばダイヤモンドバイトを用いた切削加工等が挙げられる。また、前記研削加工としては、特に限定されるものではないが、例えばダイヤモンド砥石、金属砥石、合金バイト等を用いた研削加工等が挙げられる。
【0030】
前記削り加工により形成する凹凸形状部(2)の断面形状としては、例えば三角形形状(プリズム形状)、四角形形状(台形形状等)、その他の多角形形状、レンチキュラーレンズ形状、その他の入り組んだ凹凸形状などが挙げられるが、特にこれら例示の形状に限定されない。
【0031】
前記削り加工により形成する凹凸形状部(2)の凹凸高さ(H)は、通常、1.0〜800μmである。
【0032】
次に、第1製造方法では、前記樹脂板(1)における前記凹凸形状部(2)が形成された表面に、溶媒100質量部に対して樹脂を0.5〜3質量部含有してなる処理液をドリップコーティング法により塗布した後、乾燥させる。前記処理液としては、溶媒100質量部に対して樹脂を0.5〜3質量部含有してなる処理液を用いる。0.5質量部未満では削り加工で形成された凹凸形状部(2)が溶媒による溶解作用を受けやすくなって凹凸形状部の変形を生じて形状精度が低下する。また、3質量部を超えると、凹凸形状部の溝部に樹脂分が溜まりやすく形状精度が低下する。中でも、溶媒100質量部に対して樹脂を0.8〜2.5質量部含有してなる処理液を用いるのが好ましい。
【0033】
前記ドリップコーティング法とは、樹脂板(1)の塗布対象面を水平面に対して傾斜させて配置し、この状態で塗布対象面の一端側(上端側)に処理液を滴下することによって、樹脂板の塗布対象面に処理液をコーティングする方法である(図3参照)。なお、このドリップコーティング法により塗布する場合には、図3に示すように、処理液の滴下方向(即ち上下方向)に三角形凸部(7)からなる凸条部(8)の長さ方向を略一致させた態様で塗布を行うのが好ましく、この場合には凹凸形状部(2)の削り加工面(2a)をより一層平滑化することができる。
【0034】
また、第2製造方法では、前記樹脂板(1)における前記凹凸形状部(2)が形成された表面に、溶媒100質量部に対して樹脂を3〜7質量部含有してなる処理液を刷毛塗り法により塗布した後、乾燥させる。前記処理液としては、溶媒100質量部に対して樹脂を3〜7質量部含有してなる処理液を用いる。3質量部未満では削り加工で形成された凹凸形状部(2)が溶媒による溶解作用を受けやすくなって凹凸形状部の変形を生じて形状精度が低下する。また、7質量部を超えると、凹凸形状部の溝部に樹脂分が溜まりやすく形状精度が低下する。中でも、溶媒100質量部に対して樹脂を4〜6質量部含有してなる処理液を用いるのが好ましい。
【0035】
前記刷毛塗り法とは、前記処理液を刷毛に染み込ませて該刷毛を用いて塗布する塗布方法である。
【0036】
前記第1製造方法及び前記第2製造方法において、溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えばクロロホルム、メチルアルコール、ベンゼン、アセトン等が挙げられる。中でも、揮発性が高く乾燥速度が大きい点で、クロロホルムが好適に用いられる。
【0037】
また、前記処理液を構成する樹脂としては、特に限定されるものではないが、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリカーボネート等が挙げられる。中でも、前記処理液を構成する樹脂としては、前記樹脂板(1)の屈折率との屈折率差の絶対値が0.05以下(0を含む)である樹脂を用いるのが好ましい。この場合には、得られた樹脂板(10)において、凹凸形状部(2)の表面における光の散乱と屈折を十分に抑制することができて、入射してくる光の強度を十分に維持しつつ光が透過するものとなる。前記処理液を構成する樹脂としては、前記樹脂板(1)の屈折率との屈折率差の絶対値が0.03以下である樹脂を用いるのがより好ましく、同0.01以下である樹脂を用いるのが特に好ましい。
【0038】
また、前記乾燥の手法としては、特に限定されるものではないが、例えば10〜30℃程度の温度で自然乾燥させる手法等が挙げられる。この乾燥処理によって、前記凹凸形状部(2)の削り加工面(2a)に樹脂のコーティング膜が形成されて平滑化処理が施される。
【0039】
この発明に係る表面に凹凸形状部を有する樹脂板(10)の製造方法は、上記実施形態のものに特に限定されるものではなく、請求の範囲内であれば、その精神を逸脱するものでない限りいかなる設計的変更をも許容するものである。
【実施例】
【0040】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
厚さ2mmのアクリル樹脂板(屈折率1.49)の表面に研削加工を施すことによって、アクリル樹脂板の表面に、図1(a)に示すような断面形状が三角形である三角形凸部(7)からなる凸条部(8)が多数個突設された凹凸形状部(2)を形成した。この三角形凸部(7)の頂角(α)は90度、三角形凸部(7)の高さ(H)は150μm、隣り合う三角形凸部(7)同士のピッチ間隔(P)は300μmであった。前記研削加工は、株式会社テクノロジック製の研削機(FM1280型)を用いて合金バイト(テーパー角度を20度に研磨したもの)により行った。
【0042】
次に、前記樹脂板(1)における凹凸形状部(2)が形成された表面に、クロロホルム100質量部に対してアクリル樹脂(屈折率1.49)1.0質量部溶解せしめてなる処理液をドリップコーティング法(図3参照)により塗布した後、20℃の室内で自然乾燥させることによって、図2に示すような光学部材(10)を作製した。
【0043】
<実施例2>
前記処理液として、クロロホルム100質量部に対してアクリル樹脂(屈折率1.49)2.0質量部溶解せしめてなる処理液を用いた以外は、実施例1と同様にして光学部材を作製した。
【0044】
<実施例3>
前記処理液として、クロロホルム100質量部に対してアクリル樹脂(屈折率1.49)2.5質量部溶解せしめてなる処理液を用いた以外は、実施例1と同様にして光学部材を作製した。
【0045】
<比較例1>
前記処理液として、クロロホルム100質量部に対してアクリル樹脂(屈折率1.49)5.0質量部溶解せしめてなる処理液を用いた以外は、実施例1と同様にして光学部材を作製した。
【0046】
<比較例2>
前記処理液として、クロロホルム100質量部に対してアクリル樹脂(屈折率1.49)10.0質量部溶解せしめてなる処理液を用いた以外は、実施例1と同様にして光学部材を作製した。
【0047】
<比較例3>
前記処理液として、クロロホルム100質量部に対してアクリル樹脂(屈折率1.49)0.2質量部溶解せしめてなる処理液を用いた以外は、実施例1と同様にして光学部材を作製した。
【0048】
<実施例4>
厚さ2mmのアクリル樹脂板(屈折率1.49)の表面に研削加工を施すことによって、アクリル樹脂板の表面に、図1(a)に示すような断面形状が三角形である三角形凸部(7)からなる凸条部(8)が多数個突設された凹凸形状部(2)を形成した。この三角形凸部(7)の頂角(α)は90度、三角形凸部(7)の高さ(H)は150μm、隣り合う三角形凸部(7)同士のピッチ間隔(P)は300μmであった。前記研削加工は、株式会社テクノロジック製の研削機(FM1280型)を用いて合金バイト(テーパー角度を20度に研磨したもの)により行った。
【0049】
次に、前記樹脂板(1)における凹凸形状部(2)が形成された表面に、クロロホルム100質量部に対してアクリル樹脂(屈折率1.49)5.0質量部溶解せしめてなる処理液を刷毛塗り法により塗布した後、20℃の室内で自然乾燥させることによって、図2に示すような光学部材(10)を作製した。
【0050】
<実施例5>
前記処理液として、クロロホルム100質量部に対してアクリル樹脂(屈折率1.49)4.0質量部溶解せしめてなる処理液を用いた以外は、実施例4と同様にして光学部材を作製した。
【0051】
<実施例6>
前記処理液として、クロロホルム100質量部に対してアクリル樹脂(屈折率1.49)6.0質量部溶解せしめてなる処理液を用いた以外は、実施例4と同様にして光学部材を作製した。
【0052】
<比較例4>
前記処理液として、クロロホルム100質量部に対してアクリル樹脂(屈折率1.49)1.0質量部溶解せしめてなる処理液を用いた以外は、実施例4と同様にして光学部材を作製した。
【0053】
<比較例5>
前記処理液として、クロロホルム100質量部に対してアクリル樹脂(屈折率1.49)10.0質量部溶解せしめてなる処理液を用いた以外は、実施例4と同様にして光学部材を作製した。
【0054】
<比較例6>
前記処理液として、クロロホルムからなる処理液を用いた以外は、実施例4と同様にして光学部材を作製した。
【0055】
上記のようにして得られた各光学部材に対して下記評価法に基づいて評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0056】
<加工面の観察による評価>
超深度顕微鏡(株式会社キーエンス製、超深度カラー3D形状測定顕微鏡 VK−9500型)を用いて、各光学部材(樹脂板)の表面(凹凸形状部形成面)及び断面を観察し、下記評価基準に基づいて評価を行った。
【0057】
(凹凸形状部の溝部の形状の評価基準)
断面観察した結果、溝部の断面形状にシャープさがなくて丸みを帯びているものを「×」、溝部の断面形状が僅かに丸みを帯びているものを「△」、溝部の断面形状に丸みがなくシャープであるものを「○」とした。
【0058】
(凹凸形状部の頂部の形状の評価基準)
断面観察した結果、頂部の断面形状にシャープさがなくて丸みを帯びているものを「×」、頂部の断面形状が僅かに丸みを帯びているものを「△」、頂部の断面形状に丸みがなくシャープであるものを「○」とした。
【0059】
(平滑度)
凹凸形状部の三角形凸部を構成する傾斜面(削り加工面2aに相当する面)が、削り加工後とあまり変わらず粗面であるものを「×」、ある程度平滑化されたものを「△」、十分に平滑化されたものを「○」とした。
【0060】
【表1】

【0061】
表1から明らかなように、この発明の製造方法で製造された実施例1〜6の樹脂板は、凹凸形状部の溝部及び頂部の形状がシャープである(削り加工により形成された凹凸形状を変形させることがない)と共に、凹凸形状部の構成面は十分に平滑であった(凹凸形状部の削り加工面が十分に平滑化されていた)。
【0062】
実施例1の樹脂板(光学部材)の超深度顕微鏡による表面(凹凸形状部形成面)観察画像を図4(b)(図4の右側半分)に示すと共に、削り加工を施した直後(即ち処理液の塗布前)の樹脂板の表面観察画像を図4(a)(図4の左側半分)に示した。この図4(a)(b)の対比から、削り加工を施した直後の樹脂板の表面には多数本の筋(縦方向の筋)が観察されていたのであるが、処理液の塗布・乾燥を経た後の樹脂板の表面には筋が実質的に観察されておらず平滑面が形成されていることがわかる。また、実施例1において、削り加工を施した直後(即ち処理液の塗布前)の樹脂板は透明さが十分ではなかったが、処理液の塗布・乾燥を経た後の樹脂板は十分に透明な外観を有していた。
【0063】
また、自動変角光度計(村上色彩技術研究所製、GP−230型)を用いて、実施例1の樹脂板(光学部材)の表面(凹凸形状部形成面)に所定角度で光を入射させた場合に透過光の強度の角度分布がどのようになるかを測定した結果を図5(b)に示す。なお、図5(a)は、削り加工を施した直後(即ち処理液の塗布前)の樹脂板について同様にして透過光強度の角度分布を調べて得られたグラフである。なお、光束絞りを1.7mmφとし、測定時における出射光の強度と受光の感度は一定の状態で、光の入射角度(IA)を0°として、測定した。
【0064】
これら図5(a)(b)の対比から、この発明の製造方法で製造された樹脂板(光学部材)では、凹凸形状部の形状角度に依存した特定の出射角度で高い強度で光を透過させることができることがわかる。このようにこの発明の製造方法を適用すれば、樹脂板の透過光強度を向上させることができ、ひいては光学部材としての輝度を十分に向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
この発明の製造方法で製造された樹脂板(10)は、削り加工面(2a)が十分に平滑化されており、これにより精度の高い形状制御がなされた凹凸形状部(例えばプリズム部等)(2)が形成されるので、例えばプリズムシート、光拡散板等の光学部材として好適に用いられるが、特にこのような用途に限定されるものではない。中でも、液晶表示装置等の画像表示装置用の光学部材として特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(a)は表面に削り加工を施した直後の樹脂板を示す模式的断面図であり、(b)はさらに処理液の塗布、乾燥を経て得られた樹脂板を示す模式的断面図である。
【図2】この発明の製造方法で得られた樹脂板の一実施形態を示す模式的斜視図である。
【図3】ドリップコーティング法の説明図である。
【図4】超深度顕微鏡による樹脂板の表面(凹凸形状部形成面)観察画像であり、(a)は削り加工を施した直後の樹脂板の表面観察画像、(b)は実施例1で得られた樹脂板(処理液の塗布・乾燥処理後)の表面観察画像である。
【図5】透過光強度の角度分布を示すグラフであり、(a)は削り加工を施した直後の樹脂板、(b)は実施例1で得られた樹脂板(処理液の塗布・乾燥処理後)のグラフである。
【符号の説明】
【0067】
1…削り加工が施された樹脂板
2…凹凸形状部
2a…削り加工面
7…三角形凸部
8…凸条部
10…処理液の塗布により平滑化処理された樹脂板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂板の表面に削り加工を施すことによって前記樹脂板の表面に凹凸形状部を形成する削り工程と、
前記樹脂板における前記凹凸形状部が形成された表面に、溶媒100質量部に対して樹脂を0.5〜3質量部含有してなる処理液をドリップコーティング法により塗布した後、乾燥させる工程と、
を包含することを特徴とする表面に凹凸形状部を有する樹脂板の製造方法。
【請求項2】
樹脂板の表面に削り加工を施すことによって前記樹脂板の表面に凹凸形状部を形成する削り工程と、
前記樹脂板における前記凹凸形状部が形成された表面に、溶媒100質量部に対して樹脂を3〜7質量部含有してなる処理液を刷毛塗り法により塗布した後、乾燥させる工程と、
を包含することを特徴とする表面に凹凸形状部を有する樹脂板の製造方法。
【請求項3】
前記削り加工が、切削加工または研削加工である請求項1または2に記載の表面に凹凸形状部を有する樹脂板の製造方法。
【請求項4】
前記凹凸形状部は、断面形状が三角形である三角形凸部を多数個備えてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面に凹凸形状部を有する樹脂板の製造方法。
【請求項5】
前記処理液を構成する樹脂として、前記樹脂板の屈折率との屈折率差の絶対値が0.05以下である樹脂を用いる請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面に凹凸形状部を有する樹脂板の製造方法。
【請求項6】
前記削り工程において、前記樹脂板の表面に凹凸高さが1.0〜800μmの凹凸形状部を形成する請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面に凹凸形状部を有する樹脂板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−137322(P2008−137322A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327197(P2006−327197)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】