説明

表面光沢に優れたフェライト系ステンレス冷延鋼帯の製造方法

【課題】表面光沢に優れたフェライト系ステンレス鋼帯を安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】冷間圧延、焼鈍、あるいはさらに酸洗をこの順に施した鋼帯を、調質圧延により表面仕上げするステンレス冷延鋼帯の製造方法において、鋼ロールの表面にCrめっきを施した後、ロール幅方向の平均粗さRaが0.003μm以上0.010μm以下に研磨したロールを用い、無潤滑にて、伸び率が0.8%以上2.0%以下となるように前記調質圧延を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面光沢に優れたフェライト系ステンレス冷延鋼帯の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェライト系ステンレス冷延鋼帯は、家電製品、厨房製品、洋食器などに使用される場合が多く、表面光沢は重要な特性である。フェライト系ステンレス冷延鋼帯は、通常、連続鋳造により精製されたスラブを熱間圧延して熱延鋼帯を製造し、焼鈍(場合によって省略)、酸洗した後、冷間圧延し、この鋼帯を、焼鈍、(場合によって、酸洗)、調質圧延することにより製造される。表面光沢を向上するためには、酸洗、冷間圧延、調質圧延の各工程で表面を平滑にすることが重要となる。
【0003】
従来、フェライト系ステンレス冷延鋼帯の表面光沢向上については、多くの技術が開示されており、冷間圧延に関しては、例えば、特許文献1には、冷間圧延のロール粗さ、及び、潤滑状態を規定することにより、高光沢の冷延鋼帯を製造する方法が記載されている。一方、調質圧延に関しては、例えば、特許文献2には、調質圧延のロール粗さを規定することにより、あるいは、特許文献3には、調質圧延の伸び率を、圧下による伸び率と張力による伸び率の比で規定することにより、それぞれ、高光沢の冷延鋼帯を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−92402号公報
【特許文献2】特開平7−32004号公報
【特許文献3】特開2005−230857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、冷間圧延時に圧延油が鋼板表面に押し込まれたオイルピット、あるいは、ロール研磨目が鋼板に転写したスクラッチ痕を調質圧延で完全に平滑化することは困難であり、光沢度(GS20°)が1100を超えるような鏡面に近い高光沢の冷延鋼帯を得ることが困難である。特許文献2に記載の方法では、高光沢の冷延鋼帯が得られるものの、調質圧延の圧延距離が伸びるとともにロール粗さが増加して調質圧延後の光沢が低下するため、安定して高光沢の冷延鋼帯を得ることは困難であった。特許文献3に記載の方法では、調質圧延の圧下による伸び率と張力による伸び率の比を規定するだけでは、表面光沢の向上には十分でない場合が多かった。
【0006】
上述のように、従来の技術では、表面光沢に優れたフェライト系ステンレス鋼帯を安定して製造することができないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決し、表面光沢に優れたフェライト系ステンレス冷延鋼帯を安定して製造する方法を提供するためになされたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
【0008】
1. 冷間圧延、焼鈍、あるいはさらに酸洗をこの順に施した鋼帯を、調質圧延により表面仕上げするステンレス冷延鋼帯の製造方法において、
鋼ロールの表面にCrめっきを施した後、ロール幅方向の平均粗さRaが0.003μm以上0.010μm以下に研磨したロールを用い、無潤滑にて、伸び率が0.8%以上2.0%以下となるように前記調質圧延を行うことを特徴とする、表面光沢に優れたフェライト系ステンレス冷延鋼帯の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来に比べ、表面光沢に優れたフェライト系ステンレス冷延鋼帯を、安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】調質圧延のロール粗さ、伸び率が鋼帯表面の光沢度に及ぼす影響を示すグラフ
【図2】調質圧延の圧延距離と鋼帯表面の光沢度の関係におよぼす本発明の効果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、冷延鋼帯の表面品質を最終的に決定する、調質圧延のロールに着目し、鋭意検討した結果、調質圧延ロールをCrめっきした後、ロール幅方向の平均粗さRaが0.003μm以上0.010μm以下となるように研磨することにより、表面光沢に優れたフェライト系ステンレス冷延鋼帯を安定して製造することができることを知見し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、0.003μm以上0.010μm以下の平均粗さRaに研磨された、ハイス鋼、ダイス鋼などの一般的な鋼製ロールを用い、無潤滑の調質圧延を行った場合、圧延距離が10kmを超えると、ロールの摩耗が顕著であるとともに、ロールと鋼帯が焼き付いたヒートスクラッチと称する疵が発生する場合があり、安定的に高光沢のステンレス冷延鋼帯を得られなかった。これに対し、本発明では、ダイス鋼などの鋼製ロールに硬質Crめっきを施し、その後、0.003μm以上0.010μm以下の平均粗さRaに研磨したロールを用いることにより、無潤滑の調質圧延で、圧延距離が20kmを超える場合も、ロールの摩耗などによるロール粗さの変化がごくわずかになり、かつ、ヒートスクラッチが発生することもないため、安定して高光沢のステンレス冷延鋼帯を得ることができることを知見した。これは、硬質Crめっき層が鋼に比べ、耐摩耗性、耐ヒートスクラッチ性に優れる特徴を利用したものである。
【0013】
本発明の効果を検証した実験について示す。本実験では、表1に示す、2種の条件で製造したSUS430冷延鋼帯を用いて、調質圧延に供した。
【0014】
【表1】

【0015】
調質圧延の前の段階で鋼板表面を比較すると、冷間圧延時のロール径の小さい条件Bの表面光沢は高く、冷間圧延時のロール径が大きい条件Aの表面光沢は低い。いずれの条件においても、40℃で10cStの鉱油を用いて冷間圧延を行ったものである。また、冷間圧延の後、条件Aの鋼帯は大気焼鈍し、硝酸酸洗を施し、条件Bの鋼帯は光輝焼鈍を施した。
【0016】
なお、冷間圧延後および調質圧延後の鋼板表面の光沢度は、JIS Z8741の方法5に準じて、光沢度(Gs20°)を圧延方向、圧延方向と直角な方向でそれぞれ5点測定し、その平均値とした。また、ロールの表面粗さは、JIS B0601に準じて、カットオフ値0.25mm、評価長さ4mmの条件において測定し、Ra(算術平均粗さ)を求めた。
【0017】
上記2種の鋼帯を供試材とし、ロール表面にCrめっきした後、研磨により、ロール粗さを変更した直径340mmのロールを用い、伸び率を0.3%から2.4%の範囲で変化させた調質圧延を行い、得られた鋼板の表面光沢を評価した。図1に結果を示す。伸び率は、調質圧延前後の鋼板の長さ変化から求めた。
【0018】
図1に示されるように、0.003μm以上0.010μm以下の平均粗さRaに研磨したロールを用いた場合、調質圧延前の鋼板表面品質に関わらず、伸び率が0.8%以上の条件で、光沢度(Gs20°)が1100以上の、非常に優れた表面光沢が得られることが分かった。
【0019】
本発明において、ロール幅方向の平均粗さRaを0.003μm以上0.010μm以下に限定した理由は以下の通りである。調質圧延ロールを平均粗さ0.003μm未満に研磨することは実用上困難であるとともに、0.003μm未満に研磨した場合、0.003μmの場合に比べて光沢はほぼ同等なためである。一方、0.010μmよりも大きい場合、光沢度(Gs20°)1100以上を得ることはできなかった。
【0020】
また、調質圧延の伸び率を0.8%以上2.0%以下に限定した理由は以下の通りである。0.8%未満の伸び率では、光沢度(Gs20°)1100以上を得ることはできなかった。2.0%を超える伸び率とすると、ヒートスクラッチが発生しやすくて、しかもこれ以上伸び率を増加させても光沢はほぼ同等なためである。なお、伸び率増加を張力でなく圧下で行うと、ロール平滑面が鋼帯表面に転写し易く、光沢向上に有効であるので、圧下による伸び率が大きい方が好ましい。
【0021】
本発明において、冷間圧延、焼鈍、酸洗条件は、特に限定するものではない。冷間圧延は、ロール径、圧下率などの条件により、圧延後の鋼板表面光沢は変化するが、本発明は、従来から実施されている光沢の優れたステンレス冷延鋼帯を製造する条件、すなわち、ロールバイトへの圧延油の引き込みを抑制するような適正なロール径、ロール粗さ、圧延油を用いた製造条件であれば、適用可能である。同様に、焼鈍、酸洗条件も、光輝焼鈍、大気焼鈍・酸洗のいずれでも良い。
【0022】
光輝焼鈍の場合は、テンパーカラーが付かないよう、不活性雰囲気、もしくは、還元雰囲気にて、鋼種や用途に応じ、適正な温度範囲、時間で焼鈍すれば良く、大気焼鈍・酸洗の場合は、焼鈍により生成した表面の酸化皮膜を除去できるよう、適正な酸、濃度、温度、浸漬時間で酸化皮膜を除去するようにすれば良い。
【実施例】
【0023】
本発明例の効果を従来例と比較して示すため、同一条件で冷間圧延、光輝焼鈍された、板厚0.8mm、板幅1250mmのSUS430冷延鋼帯を、本発明例用、従来例用にそれぞれ10コイルずつ用意した。それぞれ、以下に示す条件にて、連続的に調質圧延を施し、得られた鋼帯の表面光沢を調質圧延の距離とともに整理した。
【0024】
調質圧延は、ロール径570mmのロールを用い、50〜80MPaの張力を付与しながら、無潤滑、伸び率1.0%以上1.2%以下の条件で行った。本発明例では、ダイス鋼に硬質Crめっきした後、幅方向の平均粗さRaが0.005μmになるように研磨したロールを用い、従来例では、ダイス鋼をRaが0.005μmになるように研磨したロールを用いた。
【0025】
鋼帯の表面光沢は、各調質圧延距離の位置から鋼帯を切り出し、表裏面それぞれについて板幅方向に7箇所、前記方法にて光沢度を測定し、その平均値を代表値とした。
【0026】
図2に得られた結果を示すように、本発明例では、従来例に比べ、調質圧延距離が長い場合も、安定して1100以上の高い光沢度が得られることが分かる。通常、調質圧延では、20本以上のコイル(圧延距離に換算すると40km以上)を1サイクルとしており、1組のロールで調質圧延を行いたい。しかし、従来例の鋼ロールを用いた方法では、頻繁にロール交換をせざるを得ず、安定的に高光沢を得ることができないが、本発明の方法では、この長距離に亘る調質圧延を行っても高光沢を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延、焼鈍、あるいはさらに酸洗をこの順に施した鋼帯を、調質圧延により表面仕上げするステンレス冷延鋼帯の製造方法において、
鋼ロールの表面にCrめっきを施した後、ロール幅方向の平均粗さRaが0.003μm以上0.010μm以下に研磨したロールを用い、無潤滑にて、伸び率が0.8%以上2.0%以下となるように前記調質圧延を行うことを特徴とする、表面光沢に優れたフェライト系ステンレス冷延鋼帯の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−110594(P2011−110594A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270981(P2009−270981)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】