説明

表面処理シリカゲル吸着剤及びアントシアニンの精製方法

【課題】
工業的大量精製が可能なオープンカラム方式に適し、吸着性と脱離性とがともに優れた吸着剤を提供する。アントシアニンを精製する場合には、公知吸着剤の3倍以上の吸着能力を有し、一方脱離に要する溶離剤の必要量は1/2程度の少量で十分であること。
【解決手段】 吸着剤が、その平均粒径が200μm〜1,000μm、好ましくは400μm〜800μmの範囲であり、平均細孔径が50Å〜600Åの範囲であることを特徴とする脂肪族炭化水素残基を含むシラン化合物で表面処理されたシリカゲルであること。
アントシアニンの精製において、前記の表面処理シリカゲルを使用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択吸着によって精製するに適した表面処理シリカゲル及び該シリカゲルを使用することを特徴とするアントシアニンの精製方法に関する。詳しくは、工業的に大量に精製することが可能な特定の平均粒径、平均細孔径を有する表面処理されたシリカゲル 及び該シリカゲルを使用することを特徴とするアントシアニンの精製方法に関する。
【0002】
表面処理は、脂肪族炭化水素残基を含むシラン化合物とシリカゲル表面のシラノール基を反応させることにより行う。
【背景技術】
【0003】
微細孔を有する表面処理シリカゲル自体は公知であり、分析用あるいは分取精製用に使用されている。具体的には、液体クロマトグラフィー(HPLC)分析あるいは分取クロマト用に使われている。飽和脂肪族炭化水素残基を含むシラン化合物で表面処理されたシリカゲルも使用されている。
【0004】
しかしながら、工業的に大量に精製しようとすると、これら公知の表面処理シリカゲルは二つの大きな欠点がある。欠点の一つは高圧を要することである。HPLC分析用の表面処理シリカゲルでは、粒径が5μm〜50μmの範囲で非常に細かいので、一般的には、概略50Kg/cm前後の高圧が必要である。
【0005】
これよりも大きい粒径(50μm〜150μm)の表面処理シリカゲルも知られており、シクロデキストリンの精製に適していると報告されている。例えば、(非特許文献1)「吸着樹脂ハンドブック」((株)エヌ・ティーエス)(1993年、647〜652)、及び(非特許文献2)日本農芸化学大会講演要旨集(1988)101ページに「シリカゲルODS」として記載されている。
【0006】
しかし、比較的大きい粒径(50μm〜150μm)の表面処理シリカゲルでも、5Kg/cm程度の高圧が必要であり、設備投資が高額となり又設備の運転も熟練を要する。
【0007】
従って、常圧(1Kg/cm)で使える微細孔を有する表面処理シリカゲルが待望されているが、現在の所、専門メーカーの2社(富士シリシア化学(株)、(株)ワイエムシイ)のカタログでは、最大の粒径は150μmまでしか記載されていない。
【0008】
公知の微細孔を有する表面処理シリカゲルの第二の欠点は、価格が猛烈に高いことである。常圧条件化のオープンカラムによる精製用として使用可能な吸着剤としては、樹脂系合成吸着剤が既に工業的に実用化されている。前記の公知表面処理シリカゲルの価格は、樹脂系合成吸着剤の価格の20倍以上である。従って、公知の表面処理シリカゲルは、工業的精製のためには到底使用できない。
【0009】
一方、常圧のオープンカラムに適合する樹脂系合成吸着剤が、既に実用化されている。例えば、
XAD−7:ローム&ハース社 アクリル系吸着樹脂 平均粒径600μm、平均細孔径450Å(45nm)
HP−20:三菱化学社 スチレン系吸着樹脂平均粒径450μm、平均細孔径500Å(50nm)
SP−825:三菱化学社 スチレン系吸着樹脂平均粒径450μm、平均細孔径110Å(11nm)
などが知られているが、目的物1重量部に対しこれら吸着樹脂は100重量部〜200重量部と大量に必要である。従って吸着能力の大幅アップが待望されている状況にある。
【0010】
更に、細孔のあるシリカを母体とし表面をスチレンポリマーで被覆した吸着剤がアントシアニンの精製を目的として(特許文献1)特公昭55−47060「アントシアニンの精製方法」(ローヌ・プーラン・アンデュストリ)で提案されている。しかし、この樹脂は、精製前後でのアントシアニンの回収率は、68%〜79%であり極めて低い。現在汎用の合成吸着樹脂XAD−7の回収率は90%以上のレベルにある。
【0011】
アントシアニンは、様々な植物から抽出・精製され、医薬品あるいは健康食品として、大量に製造・販売されている。用途としては、例えば、眼精疲労の緩和であり、その効果は現在では広く認知されている。例えば、(非特許文献3)高宮和彦「色から見た食品のサイエンス」(株)サイエンスフォーラム(2004)に記載されている。従って、アントシアニンの精製方法を大幅に改善することの経済的・社会的意義は極めて大きいといえる。
【0012】
アントシアニンを工業的に精製する目的で脂肪族炭化水素基を含むシラン化合物で表面処理したシリカゲルを使用すること自体従来知られておらず、本発明にして初めて、従来の水準をはるかに超える新規表面処理シリカゲル吸着剤を提供するものである。
【0013】
【特許文献1】 特公昭55−47060「アントシアニンの精製方法」
【特許文献2】 特開2005−117910「カシス抽出物の製法」
【非特許文献1】 「吸着樹脂ハンドブック」((株)エヌ・ティーエス)(1993年)、p.647〜p.652
【非特許文献2】 日本農芸化学大会講演要旨集(1988)、p.101
【非特許文献3】 高宮和彦「色から見た食品のサイエンス」(株)サイエンスフォーラム(2004)
【非特許文献4】 植物色素研究会編「植物色素研究法」(大阪公立大学共同出版会)(2004年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
公知の吸着剤は、吸着能力の大きい吸着剤は、脱離性が小さく、一方脱離性の良好な(従って目的物質の取得が容易)吸着剤は吸着能力が小さい傾向があった。言い換えれば、吸着性と脱離性とが両立する吸着剤は知られていなかった。特に工業的大量精製が可能なオープンカラム方式に適した吸着性と脱離性がともに優れた吸着剤は知られていない。
【0015】
本発明は、吸着性が、公知の吸着剤をはるかにしのぎ、かつまた同時に脱離性にも優れた吸着剤を提供せんとするものであり、またアントシアニンの優れた精製方法を提供するものである。
具体的には、吸着能力が 汎用の合成吸着樹脂よりはるかに大きく、(例えば3倍以上)、なおかつ脱離用の溶離剤の使用量が少なくて済む(例えば1/2以下)吸着剤を提供しようとするものである。
【0016】
精製前後の回収率は、従来技術レベルの同等以上(90%以上)が必要であり、経済的な精製方法であるオープンカラム方式が適用できることも必要条件である。そのため、粒径の大きさは適切でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
驚くべきことに、本発明にて初めて吸着性と脱離性とが高いレベルで両立し、かつまた工業的に大量に精製することが可能となることが判明した。それは、特定の平均粒径、特定の平均細孔径を有し、脂肪族炭化水素残基を含むシラン化合物で表面処理されたシリカゲルにより可能となる。
【0018】
特定の範囲とは、平均粒径が、200μm〜1,000μmの範囲であり、平均細孔径が、50Å(5nm)〜600Å(60nm)の範囲である。
【0019】
オープンカラムを目詰まりさせにくくするためには、平均粒径の50%以下の小さい粒子が全体の5重量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、2重量%以下である。
【0020】
表面処理するためのシラン化合物の脂肪族炭化水素残基としては、C〜C22の飽和炭化水素残基から選ぶことが出来る。工業的に大量に適切な価格で入手可能なのは、C(メチル基)、C(オクチル基)あるいはC18(オクダデシル基)が代表的である。
【0021】
なかでもアントシアニン精製には、C18(オクダデシル基)が好ましい。
【0022】
表面処理のための脂肪族炭化水素残基を含むシラン化合物は、少なくとも1個以上の脂肪族炭化水素残基を含む必要がある。
【0023】
アントシアニンを工業的に精製する目的で脂肪族炭化水素基を含むシラン化合物で表面処理したシリカゲルを使用すること自体知られていなかったが、意外にも本発明にて初めて吸着性と脱離性とが高いレベルで両立していることを見出したものである。オープンカラムが工業的に有利であるが、そのためには吸着剤が、前述した特定の平均粒径範囲、特定の平均細孔径、平均粒径の50%以下の小さい粒子が全体の5重量%以下の表面処理シリカゲルが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
工業的大量精製が可能なオープンカラム方式に適し、吸着性と脱離性とがともに優れた吸着剤を提供する。
【0025】
アントシアニンを精製する場合には、吸着能力は、公知の合成吸着剤の3倍以上であり、一方脱離に要する溶離剤の必要量は1/2程度で十分である。
【0026】
更に、脱離液の量が1/2程度に激減するので、その後の濃縮処理に要する時間も半減し、その合理化効果は顕著である。アントシアニンの場合、時間半減によりアントシアニンの熱劣化が抑えられる効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
表面処理シリカゲルは、公知の製法によって得られる。すなわち、シリカゲル表面のシラノール基と脂肪族炭化水素のクロロシランを塩基(例えばピリジン)の存在下に反応させ、脂肪族炭化水素シリル化シリカゲルを得ることが出来る。
【0028】
本発明のポイントは平均粒径と平均細孔径にあるので、原料のシリカゲルの選択は重要であり、平均粒径が200μm〜1,000μm、平均細孔径が50Å(5nm)〜600Å(60nm)の範囲である。平均粒径が200μmより小さいとオーブンカラムでは圧力損失のため常圧での通液が困難となり、一方1,000μmより大きい平均粒径では精製が不十分(分離性が不十分)となる。なお、より好ましい平均粒径の範囲は400μm〜800μmである。
【0029】
また、オープンカラムでの目詰まりを回避するためには、平均粒径の50%以下の小さい粒子が原料シリカゲル全体の5重量%以下とすることが好ましい。
【0030】
脂肪族炭化水素のクロロシランとしては、トリメチルクロロシラン、n−ブチルトリクロロシラン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、エイコシルトリクロロシラン、オクタデシルメチルジクロロシラン、オクタデシルジメチルクロロシランなどがある。複数の脂肪族炭化水素基が混合していてもよい。例えば、オクタデシルトリクロロシランと反応後、残存の未反応シラノール基にトリメチルクロロシランを追加反応させることも出来る。
【0031】
精製するための原料のアントシアニン水溶液は、ビルベリー、ブルーベリー、ブラックカーラント、赤キャベツ、ブドウ果皮、赤シソ、クランベリーなどの植物の抽出液から得られる。
【0032】
本発明の表面処理シリカゲルの機能は、抽出液からアントシアニンを選択的に吸着させることにより、糖類、ペクチン類、塩類などを除くことにある。精製方法自体は、公知の方法が適用出来る。例えば、(特許文献2)特開2005−117910には「アントシアニン抽出液の調製〜オープンカラムによるアントシアニンの精製〜アントシアニンエキス粉末を得る」が記載されている。
【0033】
目的物を吸着させた後は脱離工程であるが、溶離剤としては、公知のエタノール、エタノール〜水混合系、メタノール単独あるいは水との混合系、プロパノール単独または水混合系、アセトニトリル単独または水混合系などが挙げられる。これらの3成分以上の混合系でもよい。
【0034】
目的物が健康食品などの食品用の場合には、食品衛生法の規制があるので、エタノール、エタノール〜水混合系がよい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
【0037】
吸着剤1(トリメチルシリルシリカゲル)の調製:
シリカゲル:大江化学(株)製 C−Type Silica gel
平均粒径 350μm、細孔径102Å(10nm)
粒径 200μm以下の小さい粒子の割合は1.4%
トリメチルクロロシラン:信越化学(株)製
【0038】
シリカゲル50gをトルエン350ml中に懸濁させる。ついで約110℃にて緩く攪拌しながら 水分を共沸留去(約50ml)させることにより除く。ついで、トリメチルクロロシラン(信越化学(株)製)50ml及びピリジン62.5mlを加え、94℃にて5時間還流させる。この操作により、シリカゲル表面のシラノール基(―Si―OH)とトリメチルクロロシラン(Cl―Si―(CH)とがピリジンにより脱HClし、表面官能基がシラノール基から―Si―O―Si―(CHへと変る。ついで、過剰のトリメチルクロロシランを留去させる。冷却後、100メッシュの篩いで大部分の溶媒を除き、ついで水洗により残存するピリジン塩酸塩を除いた。更にエタノールで洗浄したのち、再度水洗し、減圧乾燥した。
こうして、トリメチルシリルシリカゲル 52g(平均粒径350μm、細孔径102Å)を得る。
【0039】
アントシアニン水溶液の調製は以下の通りである。
ビルベリー(Vaccinium myrtillus L.)の果実から公知の方法(非特許文献4)植物色素研究会編「植物色素研究法」(大阪公立大学共同出版会)(2004年)または(特許文献2)特開2005−117910「カシス抽出物の製法」公開日平成17年5月12日に従って抽出及び固液分離操作を行い、微粒の懸濁不溶物を濾紙で除き、アントシアニン水溶液を得た。
この時のアントシアニンの濃度は1.3g/Lで、pHは2.0であった。
【0040】
吸着剤1(トリメチルシリルシリカゲル)によるアントシアニンの吸着〜脱離を示す。まず吸着剤1(トリメチルシリルシリカゲル)22g(約50ml)を、0.05%クエン酸を含む80体積%エタノールに懸濁させガラスカラム(内径26mm)に充填した。充填長は95mmであった。
ついで、0.05%クエン酸水150ml(pH3.4)を線速度0.5cm/分でゆっくり流下させカラム内吸着剤の細孔内を酸性水に置換した。
【0041】
調製したアントシアニン水溶液100ml(アントシアニン0.13g含有)を吸着剤1(トリメチルシリルシリカゲル)50mlを含むカラムに線速度0.5cm/分で流下させアントシアニンを吸着させた。
アントシアニン吸着部は濃い紫色を呈するので目視ではっきり確認出来、吸着長は、10mmだった。
【0042】
次に、カラムを0.05%クエン酸水75ml(pH3.4)にて水洗した。
【0043】
ついで、アントシアニンを、溶離液として0.05%クエン酸を含む80体積%エタノールを75ml用い、線速度0.5cm/分で溶離した。この操作だけで、すなわち押し出しを行わずとも、アントシアニンのほとんどカラム外に溶離できた。
【0044】
次に押し出し水0.05%クエン酸水75ml(pH3.4)にてカラム内に残存する少量のアントシアニンを押し出し、先のカラムを通した溶離液と合わせた。
【0045】
アントシアニンの回収率は、98.9%だった。このことは、本発明の吸着剤では、吸着〜脱離操作にて目的物のアントシアニンの大部分が回収されていることを示している。
【0046】
(比較例1)
吸着剤1(トリメチルシリルシリカゲル)の代わりに、公知の樹脂系吸着剤XAD−7を用いる以外は(実施例1)と全く同じ条件で吸着を行った。吸着長は52mm だった。脱離性は、溶離液(0.05%クエン酸を含む80体積%エタノール)75mlだけでは不完全で、アントシアニン回収率は、96.7%だった。
【0047】
(実施例1)と(比較例1)とから、吸着長が、10mm(本発明)と52mm(比較例1)とで大きく異なり、本発明では、約1/5くらいの少ない吸着剤ですんでいる。回収率が同程度以上に高いことから、吸着しているアントシアニンも同程度以上である。
【0048】
つまり、本発明の吸着剤1(トリメチルシリルシリカゲル)は、公知の樹脂系吸着剤に比べ、5倍大きい吸着能力があることは明らかである。しかも、脱離に際しては、溶離剤が少なくてすむこともまた明らかである。
通常 吸着性と脱離性は相反するのが自然なのに、両立していることは驚くべきことである。
【0049】
(実施例2)
【0050】
吸着剤2(オクタデシルシリルシリカゲル)の調製
シリカゲル:大江化学(株)製C−Type Silica gel平均粒径750μm、細孔径102Å(10nm)粒径500μm以下の小さい粒子の割合1.7%
n−オクタデシルトリクロロシラン:米国Gelest社製
トリメチルクロロシラン:信越化学(株)製
【0051】
シリカゲル200gをトルエン2,500ml中に懸濁させる。ついで約110℃にて緩く攪拌しながら水分を共沸留去(約200ml)させ除く。ついで、n−オクタデシルトリクロロシラン40ml及びピリジン137mlを加え、110℃ にて10時間還流させる。この操作により、シリカゲル表面のシラノール基(―Si―OH)とn−オクタデシルトリクロロシラン(Cl―Si―C1837)とがピリジンにより脱HClし、表面官能基がシラノール基から―Si―O―Si―C1837Clへと変る。
【0052】
次に、少量の未反応の残存シラノール基をエンドキャッピングする。すなわちトリメチルクロロシラン85gを滴下する(110℃にて10時間還流)。
【0053】
冷却後、100メッシュの篩いで大部分の溶媒を除き、ついで水洗により残存するピリジン塩酸塩を除いた。更に、エタノールで洗浄したのち再度水洗し、減圧乾燥した。こうしてオクタデシルシリルシリカゲル240g(平均粒径750μm、細孔径102Å)を得た。
【0054】
吸着剤2(オクタデシルシリルシリカゲル))によるアントシアニンの吸着〜脱離は以下の様にして行った。
吸着剤として前記にて調製したオクタデシルシリルシリカゲル50ml=26.3gを使用する以外は、(実施例1)と全く同様に行った。
【0055】
吸着長は、8mmであり、吸着性が(実施例1)よりも更に優れている。また、溶離操作だけで、すなわち押し出しを行わずとも、アントシアニンがほとんどカラム外に溶離できた。(比較例1)では、押し出しなしでは溶離が完了しないことと比べ、溶離性も優れていることがわかる。
また、アントシアニンの回収率は98.8%であり、実用上満足できるレベルだった。
【0056】
(比較例2)
粒径の小さいシリカゲルを使用する以外は、(実施例2)の方法にならって(吸着剤3)を調製した。
シリカゲル:旭硝子エスアイテック(株)製 MSG D100−60A
平均粒径 100μm、細孔径 60Å(6nm)
n−オクタデシルトリクロロシラン:米国 Gelest社 製
トリメチルクロロシラン:信越化学(株)製
【0057】
シリカゲル200gをトルエン2,500ml中に懸濁させる。ついで約110℃にて緩く攪拌しながら 水分を共沸留去(約200ml)させて除く。
ついで、n−オクタデシルトリクロロシラン40ml及びピリジン137mlを加え、110℃にて10時間還流させる。
この操作により、シリカゲル表面のシラノール基(―Si―OH)とn−オクタデシルトリクロロシラン(Cl―Si―C1837)とがピリジンにより脱HClし、表面官能基がシラノール基から―Si―O―Si―C1837Clへと変る。
【0058】
次に、少量の未反応の残存シラノール基をエンドキャッピングする。すなわちトリメチルクロロシラン85gを滴下する(110℃にて10時間還流)。
【0059】
冷却後、100メッシュの篩いで大部分の溶媒を除き、ついで水洗により残存するピリジン塩酸塩を除いた。更に、エタノールで洗浄したのち、再度水洗し、減圧乾燥した。こうして、オクタデシルシリルシリカゲル240gを得た(平均粒径100μm、細孔径60Å)。
【0060】
調製した粒径の小さい(平均粒径100μm)オクタデシルシリルシリカゲル50mlをカラムに充填し、吸着〜脱離を行った。粒径が小さいため,オープンカラムでは、流速が全くとれず、2Kg/cm の圧力をかけても、線速度0.3cm/分 程度であった。従ってオープンカラム方式では、この小さい粒径では実用性がない。
【0061】
(実施例3)
【0062】
(実施例2)で調製した吸着剤2、すなわちオクタデシルシリルシリカゲル50mlにアントシアニン水溶液を限度まで吸着させた。吸着限度は、800mlだった。
【0063】
一方、公知吸着剤XAD−7では、(比較例1)がほぼ限界、つまりアントシアニン水溶液の100mlが吸着限界。吸着長は52mmだが、吸着後の水洗浄により吸着先端が移動し、吸着長が80mmとなる。従って、本発明の(吸着剤2)(オクタデシルシリルシリカゲル)は、公知吸着剤XAD−7の約8倍の吸着能力があるといえる。
【0064】
更に、好ましいことがはっきりした。溶離液(0.05%クエン酸を含む80体積%エタノール)は、公知のXAD−7の場合、アントシアニン水溶液100mlにつき75ml 使用するが、本実施例では、アントシアニン水溶液800mlに対し、溶離液は300mlで十分であった。
これは、本発明では、溶離液が1/2で十分であることを示し、経済効果は非常に大きい。
【0065】
また、アントシアニンの回収率は、96.9%であり、十分なレベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
工業的製に利用が可能なオープンカラム方式に適し、吸着性と脱離性とがともに優れた吸着剤を提供し、精製工程のコストダウン効果は非常に大きい。
アントシアニンを精製する場合には、公知吸着剤の3倍以上の吸着能力を有し、一方脱離に要する溶離剤の必要量は1/2程度の少量で十分である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が200μm〜1,000μmであり、平均細孔径が50Å(5nm)〜600Å(60nm)の範囲であることを特徴とする脂肪族炭化水素残基を含むシラン化合物で表面処理されたシリカゲル。
【請求項2】
平均粒径が200μm〜1,000μmであり、平均細孔径が50Å(5nm)〜600Å(60nm)の範囲であり、平均粒径の50%以下の小さい粒子が全体の5重量%以下であることを特徴とする脂肪族炭化水素残基を含むシラン化合物で表面処理されたシリカゲル。
【請求項3】
脂肪族炭化水素残基を含むシラン化合物がC〜C22の飽和炭化水素残基からなることを特徴とする上記(2)記載の表面処理されたシリカゲル。
【請求項4】
飽和炭化水素残基がオクタデシル基(C18)であることを特徴とする上記(3)記載の表面処理されたシリカゲル。
【請求項5】
アントシアニンの水溶液を、オープンカラムに充填した吸着剤に通液しアントシアニンを吸着させた後、溶離剤で脱離することを含むアントシアニン水溶液の精製方法であって、該吸着剤が脂肪族炭化水素残基を含むシラン化合物で表面処理されたシリカゲルであることを特徴とする方法。
【請求項6】
シリカゲルの平均粒径が200μm〜1,000μmの範囲であり、平均細孔径が50Å(5nm)〜600Å(60nm)の範囲であり、平均粒径の50%以下の小さい粒子が全体の5重量%以下であることを特徴とする(請求項5)記載のアントシアニンの精製方法。

【公開番号】特開2009−57268(P2009−57268A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256069(P2007−256069)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(595132360)株式会社常磐植物化学研究所 (10)
【Fターム(参考)】