説明

表面処理炭素繊維及びフェノール樹脂成形材料

【課題】炭素繊維とフェノール樹脂との密着性を高めることで成形品の機械的強度を向上させることが可能な表面処理炭素繊維とそれを用いたフェノール樹脂成形材料を提供する。
【解決手段】炭素繊維表面の少なくとも一部がレゾール型フェノール樹脂を含有する被覆処理用組成物により被覆処理されてなる表面処理炭素繊維であって、炭素繊維に対して処理用組成物中のレゾール型フェノール樹脂の量が、表面処理炭素繊維に対して0.1〜38重量%であることが好ましい。また、この表面処理炭素繊維と、マトリックス樹脂とを含有し、該マトリックス樹脂がフェノール樹脂を含有するフェノール樹脂成形材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面を処理剤によって被覆処理された炭素繊維及びそれを含有するフェノール樹脂成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂成形材料は耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、成形性等に優れ、自動車部品や産業機械部品或いは家電製品等の基幹産業分野で長期に渡り使用されてきた実績がある。さらに、金属部品をガラスフィラーで強化した高強度のフェノール樹脂成形品に置換することで、コストダウン、大幅な軽量化が可能になることから、積極的な代替検討が行なわれている。
【0003】
しかし、今後更なる金属代替を進めるためには、従来のフェノール樹脂成形材料より更に高強度かつ高弾性率を有することが必要である。高弾性率化を達成するための手段の1つとしては高弾性率繊維の利用が挙げられ、炭素繊維を強化繊維として用いる試みが数多くなされている。
【0004】
炭素繊維はガラス繊維を上回る高い強度と弾性率を有する繊維であるが、炭素繊維の特性を発揮させるためには繊維とマトリックス樹脂との界面密着が十分でなければならない。炭素繊維とマトリックス樹脂との密着性を向上させる手段としては、サイジング剤処理による繊維表面の樹脂被覆が一般的である。サイジング剤処理の主目的は繊維の取り扱い性向上にあるが、マトリックス樹脂と繊維を介在し十分な密着性を発現させることも重視されており、これまで数々の試みがなされている。
【0005】
しかしながら、炭素繊維の表面被覆処理に用いられる処理剤としては文献1、2、3記載のようにエポキシ樹脂、ナイロン、ウレタン樹脂が一般的であり、これらで処理された炭素繊維はフェノール樹脂をマトリクスとするフェノール樹脂成形材料においては繊維とマトリックス樹脂の界面密着性が十分ではない。実際、これらで被覆された炭素繊維を用いたフェノール樹脂成形材料の強度の特性値はガラス繊維強化成形材料の場合と同程度に留まっている。このことから、フェノール樹脂成形材料の高強度化のためには、フェノール樹脂用途に最適化した炭素繊維への表面被覆処理をおこない、炭素繊維とマトリックス樹脂の界面密着性を向上させることが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−280624号公報
【特許文献2】特開平8−35177号公報
【特許文献3】特開平10−266076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フェノール樹脂成形材料による金属代替検討を進めるに当たり必要不可欠な要素となる高強度を付与するためになされたものであり、炭素繊維とフェノール樹脂との密着性を高めることで成形品の機械的強度を向上させることができる表面処理炭素繊維とそれを用いたフェノール樹脂成形材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記[1]〜[7]に記載の本発明により達成される。
[1]炭素繊維表面の少なくとも一部がレゾール型フェノール樹脂を含有する被覆処理用組成物により被覆処理されてなることを特徴とする表面処理炭素繊維。
[2]前記表面処理炭素繊維において、炭素繊維に対して処理用組成物中のレゾール型フェノール樹脂の量が、表面処理炭素繊維に対して0.1〜38重量%である、上記[1]に記載の表面処理炭素繊維。
[3]前記レゾール型フェノール樹脂がメチロール基を有し、前記メチロール基が前記レゾール型フェノール樹脂中のフェノール核1モルに対して0.2モル以上2.0モル以下である上記[1]又は[2]に記載の表面処理炭素繊維。
[4]前記炭素繊維が、ポリアクリロニトリル系又はピッチ系の炭素繊維である、上記[1]ないし[4]のいずれか1項に記載の表面処理炭素繊維。
[5]上記[1]ないし[4]のいずれか1項に記載の表面処理炭素繊維と、マトリックス樹脂とを含有し、該マトリックス樹脂がフェノール樹脂を含有することを特徴とするフェノール樹脂成形材料。
[6]前記成形材料全体に対して、前記フェノール樹脂が20〜80重量%である、上記[5]に記載のフェノール樹脂成形材料。
[7]前記成形材料全体に対して、前記表面処理炭素繊維が5〜75重量%である、上記[5]又は[6]に記載のフェノール樹脂成形材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明の表面処理炭素繊維は、炭素繊維とマトリックス樹脂であるフェノール樹脂との密着力を向上させることができるという効果を有するものである。そして、本発明の表面処理炭素繊維を用いた本発明のフェノール樹脂成形材料を用いた成形品は、機械的強度に優れるという効果を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の表面処理炭素繊維と、これを含有するフェノール樹脂成形材料(以下、単に「成形材料」ということがある)について詳細に説明する。
本発明の表面処理炭素繊維は、炭素繊維表面の少なくとも一部が被覆処理用組成物により被覆処理されてなる表面処理炭素繊維であって、上記被覆処理用組成物は、レゾール型フェノール樹脂を含有することを特徴とする。
【0011】
以下、各成分について説明する。
<レゾール型フェノール樹脂> 本発明に用いられるレゾール型フェノール樹脂はフェノール類とアルデヒド類とをアルカリ性触媒条件下で反応させ重合したフェノール系樹脂であり、単独種、或いは二種類以上を併せて用いることができる。
【0012】
上記レゾール型フェノール樹脂の原料として用いられるフェノール類としては、特に限定されないが、例えば、フェノール、オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール、2、3−キシレノール、2、4−キシレノール、2、5−キシレノール、2、6−キシレノール、3、5−キシレノール、2,3,5−トリメチルフェノール、2−エチルフェノール、4−エチルフェノール、2−イソプロピルフェノール、4−イソプロピルフェノール、n−ブチルフェノール、イソブチルフェノール、tert−ブチルフェノール、ヘキシルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、フェニルフェノール、ベンジルフェノール、クミルフェノール、アリルフェノール、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、1−ナフトール、2−ナフトール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。これらの中でも、経済的にも有利なフェノールが特に好ましい。
【0013】
上記レゾール型フェノール樹脂の原料として用いられるアルデヒド類としては、特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、パラヒドロキシベンズアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド、1−ナフチルアルデヒド、2−ナフチルアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒド類は単独または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらの化合物の中でも、フェノール、オルソ置換フェノール類との反応性が優れ、工業的に大量生産され安価であるホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが好ましい。
【0014】
上記レゾール型フェノール樹脂の原料として用いられるアルカリ性触媒としては、特に限定はされないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水、トリエチルアミンなどの第3級アミン、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、炭酸ナトリウム、ヘキサメチレンテトラミンなどのアルカリ性物質が挙げられる。
【0015】
<レゾール型フェノール樹脂の含有量> 本発明に用いられるレゾール型フェノール樹脂の含有量としては、表面処理炭素繊維において、上記被覆処理用組成物中のレゾール型フェノール樹脂の量が、表面処理炭素繊維100重量部に対して0.1〜38.0重量部であることが好ましい。含有量が上記下限値未満では被覆処理による強度向上効果が小さいことがあり、上記上限値を越えると強度に対する効果が得られないことがあったり、作業性が悪化したりする場合もあり、さらに経済的に不利となる。
【0016】
<レゾール型フェノール樹脂の構造> 本発明に用いられるレゾール型フェノール樹脂の分子構造としては、特に限定されるものではなく、メチロール基、ヘミホルマール基、ジメチレンエーテル結合を有していてもよいが、フェノール核1モルあたり0.2モル以上2.0モル以下のメチロール基を有するものが好ましく、フェノール核1モルあたり0.2モル以上1.5モル以下のメチロール基を有するものがより好ましい。メチロール基量が上記下限値未満では被覆処理による強度向上効果が小さいことがあり、上記上限値を越えると強度に対する効果が得られないことがある。
【0017】
<レゾール型フェノール樹脂のメチロール基の含有量>
上記レゾール型フェノール樹脂に含まれるメチロール基の含有量はNuclear Magnetic Resonance(NMR)により測定することができる。NMRの条件としては、レゾール型フェノール樹脂を無水酢酸にてアセチル化して得られた試料の1H−NMRスペクトルから、該樹脂のフェノール核およびメチロール基の含有量を求める。装置は、日本電子社製・「JNM−AL300」(周波数300MHz)を使用する。なお、上記測定方法は、レゾール型フェノール樹脂の原料としてフェノールとホルムアルデヒドとを用いた場合であるが、これ以外のフェノール類及びアルデヒド類を用いた場合でも、基本的に同じ原理で測定することができる。
【0018】
<炭素繊維の材質> 本発明に用いられる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系又はピッチ系の炭素繊維を用いることが好ましい。中でも強度向上及びコストの面からPAN系炭素繊維を用いることが好ましい。
【0019】
<炭素繊維の形態> 本発明に用いられる炭素繊維の形態は特に限定されるものではなく、ロービング、チョップドストランド、ミルドファイバー等を用いることができるが、炭素繊維フィラメントが数千から数万本束になった炭素繊維束を使用することが好ましく、炭素繊維束を3mmないし6mmの長さに切断したチョップドストランドであることがより望ましい。これにより、表面処理の際の取り扱い作業性を向上させることができ、また成形材料を得る際の取り扱い作業性を向上させることができる。
【0020】
本発明に用いられる炭素繊維の処理状態は特に限定されるものではなく、薬剤酸化処理、気相酸化処理、電解酸化処理など各種酸化処理や、サイジング剤付着処理がなされたもの、カップリング剤などの化合物の添加処理がなされたものであっても構わない。
【0021】
<被覆処理用組成物の成分>
本発明において用いられる被覆処理用組成物には、必要に応じて、各種界面活性剤、シランカップリング剤、金属系カップリング剤等の化合物を添加することもできる。また、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリエーテルスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミドなどの樹脂を添加することもできる。また、メタノール、エタノール、エチレングリコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘキサン、フルフラール、フルフリルアルコール等の有機溶剤を添加することもできる。また、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛などの離型剤を添加することもできる。
【0022】
界面活性剤としては、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、1−デカンスルホン酸ナトリウム、1−ドデカンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルリン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化デシルトリメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、モノメチルアミン塩酸塩、ジメチルアミン塩酸塩、トリメチルアミン塩酸塩等のカチオン性界面活性剤、
ラウリン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、ペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミドステアリン酸ジエタノールアミド、等のノニオン界面活性剤、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ドデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウリルジメチルアミンN−オキシド等の両性界面活性剤といった各種界面活性剤を挙げることができる。
【0023】
シランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のシランカップリング剤等の各種化合物を挙げることができる。
【0024】
金属系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミドエチルアミノエチル)チタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネートなどのチタネート系カップリング剤、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなどのアルミカップリング剤などが挙げられる。
【0025】
<被覆処理法> 上記炭素繊維表面を、レゾール型フェノール樹脂を含有する被覆処理用組成物で被覆処理する方法は特に限定されないが、例えば、サイジング剤処理工程による被覆、炭素繊維に被覆処理用組成物溶液を噴霧する方法、炭素繊維を被覆処理用組成物溶液中に浸漬する方法、炭素繊維と被覆処理用組成物溶液を品川式万能混合攪拌機やヘンシェルミキサー等で撹拌し溶剤を除去しつつ被覆する方法などを適宜用いることができる。
【0026】
<乾燥条件> 上記方法にて表面被覆処理された炭素繊維の乾燥方法としては、特に限定されないが、温度が70〜100℃での各種乾燥処理が好ましい。温度が上記下限値未満であると溶媒の除去効率が低下し、上記上限値を超えると表面被覆処理物中に含まれるレゾール型フェノール樹脂の硬化が過剰に進行し材料化時の繊維解繊性低下やマトリクスとの反応性低下に繋がることがある。
【0027】
<被覆処理用組成物付着量の定量>
上記方法にて表面被覆処理された炭素繊維の被覆処理用組成物付着量は溶剤抽出法で評価することができる。
約3gの表面処理炭素繊維を秤量し、ソックスレー抽出機を用いて該表面処理炭素繊維の表面被覆処理付着物を80℃、4時間の条件下でアセトンに抽出処理し完全にアセトンに溶解させる。溶剤抽出後のフラスコを、80℃、5時間の条件下で真空乾燥機で熱処理した後、デシケーター中で常温になるまで放冷する。恒量に達したのを確認したのち、溶剤抽出後のフラスコ重量を秤量して、次式により被覆処理用組成物付着量を求める。
【0028】
被覆処理用組成物付着量(重量%)=(溶剤抽出後のフラスコ重量−溶剤抽出前のフラスコ重量)/(表面処理炭素繊維重量)×100
【0029】
次に、本発明の成形材料について説明する。
本発明の成形材料は、上記表面処理炭素繊維と、マトリックス樹脂とを含有し、該マトリックス樹脂はフェノール樹脂を含有することを特徴とする。
本発明の成形材料において、上記表面処理炭素繊維の含有量は、特に限定されないが、成形材料全体に対して5〜75重量%であることが好ましい。更に好ましくは25〜65重量%である。表面処理炭素繊維の含有量が上記下限値未満になると、成形品の機械的強度が低くなることがあり、上記上限値を超えると、必然的にフェノール樹脂の含有量が減少するために成形材料化段階での作業性や成形性を低下させることがある。
【0030】
<マトリックス樹脂> 本発明の成形材料でマトリックス樹脂として用いるフェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂を単独で使用、或いは二種類以上を併せて用いることができる。好ましくはヘキサメチレンテトラミンが硬化剤となるノボラック型フェノール樹脂である。
ノボラック型フェノール樹脂は、特に限定されるものではないが、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等が挙げられるが、フェノールノボラック樹脂が成形性、コスト面で好ましい。レゾール型フェノール樹脂も特に限定されるものではないが、例えば、未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂、ジメチレンエーテル型レゾール樹脂等が挙げられるが、材料化段階での作業性、得られた成形品の特性が良好であるジメチレンエーテル型レゾール樹脂を使用するのが好ましい。
【0031】
<硬化剤> 本発明の成形材料においてノボラック型フェノール樹脂を用いる場合は、通常、ヘキサメチレンテトラミンを使用する。ヘキサメチレンテトラミンの含有量は、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対し、10〜20重量部が好ましい。更に好ましくは14〜18重量部である。上記上限値を超えると、未反応へミサメチレンテトラミンが残存し強度に影響を与えることがあり、上記下限値未満では硬化が不十分となることがある。
【0032】
<マトリックス樹脂の配合量> 上記マトリックス用途フェノール樹脂の含有量は、成形材料全体に対して20〜80重量%であることが好ましい。上記上限値を超えると十分な機械的強度を有する成形品が得られないことがある。また、上記下限値未満では成形材料化段階での作業性が低下し、また流動性に乏しく成形性を低下させる可能性があるため、上記範囲が望ましい。
【0033】
<その他の配合> 本発明の成形材料には、上記表面処理炭素以外に、各種充填材や多価アルコールなどを配合することができる。
各種充填材としては特に限定されないが、例えば炭酸カルシウム、クレー、タルク、マイカ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ウォラストナイト等の無機粉末充填材や、ガラス繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維等の強化繊維を単独或いは二種類以上配合して用いることができる。
多価アルコールとしては特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールから選ばれるものを用いることが好ましい。
【0034】
次に、本発明の成形材料の製造方法について説明する。
本発明の成形材料は、通常の方法により製造することができる。すなわち、上記配合物を所定の配合割合で混合し、更に着色剤、離型剤、硬化触媒等を加え、加熱ロール、コニーダ、二軸押出機等を使用して溶融混練した後、冷却、粉砕することにより得られる。
本発明の成形材料は、圧縮成形、移送成形、射出成形などの通常の成形方法により成形することができる。このようにして得られた成形品は、優れた機械的強度を有していることから、自動車用、汎用機械用、家庭電化製品用及びその周辺機器用等の金属部品の代替に適用できる。
【0035】
<効果の推察> 以上に説明したような、炭素繊維表面の少なくとも一部が、レゾール型フェノール樹脂を含有する被覆処理用組成物で被覆処理されてなる本発明の表面処理炭素繊維を用いることにより、成形材料に配合した場合に成形品の機械的強度を向上させることができる。この理由は明らかではないが、以下のように推測される。
通常、市販の炭素繊維表面にはマトリクスとの密着性を向上させるために酸化処理が施されており、水酸基やカルボキシル基が存在し極性の高い状態となっている。フェノール樹脂成形材料の場合は、通常マトリクスとして用いられるノボラック型フェノール樹脂は極性基である水酸基を有するものの、剛直な分子骨格であるために水酸基が分子鎖に埋没してしまっていること、ノボラック樹脂同士の分子間水素結合あるいは分子内水素結合が強く作用していることから、ノボラック型フェノール樹脂の水酸基と炭素繊維表面の極性官能基との間の相互作用は十分に作用出来ておらず、密着性は不十分である。
本発明の表面処理炭素繊維は、被覆処理時に被覆処理用組成物中に含まれるレゾール型フェノール樹脂と炭素繊維表面の極性官能基との間で静電気的相互作用を形成することによって、被覆用組成物が炭素繊維と高い密着性を発揮するものと推察される。また、被覆処理用組成物中に含まれるレゾール型フェノール樹脂はマトリックスのフェノール樹脂と反応性を有するために、マトリックスと表面処理炭素繊維との密着性は強固である。
具体的には、炭素繊維と被覆処理用組成物との界面では、炭素繊維表面の極性の高いカルボキシル基およびヒドロキシル基と、極性が高く分子運動の自由度が高いレゾール型フェノール樹脂のメチロール基との間で静電気的相互作用が形成されることによって界面の密着強度が高まると推測される。また、被覆処理用組成物とマトリックス樹脂との界面では、レゾール型フェノール樹脂のメチロール基がマトリックスのフェノール樹脂との間で化学結合を形成することが可能であることで被覆処理用組成物とマトリックス樹脂の界面は強固な密着性を発揮していると推測される。このような作用効果により、本発明の表面処理炭素繊維を用いた成形材料の成形品において、機械的強度を大きく向上することができると考えられる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に記載に何ら限定されるものではない。実施例及び比較例に用いた各原料は以下のとおりである。
【0037】
(1)炭素繊維A:ポリアクリロニトリル系炭素繊維(東邦テナックス社製HT C261 6mm)
(2)炭素繊維B:ポリアクリロニトリル系炭素繊維(三菱レイヨン社製TR06QB4E)
(3)炭素繊維C:ポリアクリロニトリル系炭素繊維(三菱レイヨン社製TR06AB4E)
(4)炭素繊維D:ポリアクリロニトリル系炭素繊維(三菱レイヨン社製TR06UB4J)
(5)炭素繊維E:ポリアクリロニトリル系炭素繊維(三菱レイヨン社製TR06NEB4E)
(6)繊維被覆処理用レゾール型フェノール樹脂A:アニリン変性レゾール樹脂(住友ベークライト社製PR−51723)
(7)繊維被覆処理用レゾール型フェノール樹脂B:ジメチレンエーテル型レゾール樹脂(住友ベークライト社製PR−53529)
(8)繊維被覆処理用レゾール型フェノール樹脂C:ストレート型レゾール樹脂(住友ベークライト社製PR−961A)
(9)繊維被覆処理用レゾール型フェノール樹脂D:ストレート型レゾール樹脂
(10)繊維被覆処理用レゾール型フェノール樹脂E:ストレート型レゾール樹脂
(11)繊維被覆処理用エポキシ樹脂A:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成社製エポトートYD−101)
(12)フェノール樹脂成形材料のマトリックス樹脂:ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト社製PR−51714)
(13)硬化剤:ヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミンと略す)
(14)硬化助剤:酸化マグネシウム
(15)離型剤:ステアリン酸カルシウム
(16)着色剤:ニグロシン
【0038】
以下、実施例および比較例に用いた繊維被覆処理用のレゾール型フェノール樹脂Dおよびレゾール型フェノール樹脂Eの合成方法について説明する。
【0039】
<レゾール型フェノール樹脂D>
攪拌装置及び温度計を備えた5Lの三口フラスコ中に、フェノール1000重量部、37%ホルムアルデヒド水溶液1725重量部(フェノール類1モルに対して2.0モルに相当)、水酸化バリウム100部を添加して、70℃で1時間反応させ、レゾール型フェノール樹脂を合成した。次いで、25%硫酸水溶液を用いて反応系の中和を行い、pH=4.5に調整した。
その後、反応系を5000Paまで減圧し、70℃まで昇温して減圧蒸留を行い、系中の水分量が2.0%になるまで脱水を行った後、メタノール1021部(フェノール類1モルに対して3.0モルに相当)を添加して、レゾール型フェノール樹脂D溶液2760重量部を合成した。
【0040】
<レゾール型フェノール樹脂E>
攪拌装置及び温度計を備えた5Lの三口フラスコ中に、フェノール1000重量部、37%ホルムアルデヒド水溶液2588重量部(フェノール類1モルに対して3.0モルに相当)、水酸化バリウム100部を添加して、70℃で1時間反応させ、レゾール型フェノール樹脂を合成した。次いで、25%硫酸水溶液を用いて反応系の中和を行い、pH=4.5に調整した。
その後、反応系を5000Paまで減圧し、70℃まで昇温して減圧蒸留を行い、系中の水分量が2.0%になるまで脱水を行った後、メタノール1021部(フェノール類1モルに対して3.0モルに相当)を添加して、レゾール型フェノール樹脂E溶液3020重量部を合成した。
【0041】

実施例の表面処理炭素及び比較例の各種処理炭素繊維の配合について、表1および表2に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
1.表面処理炭素繊維の調整
[実施例1]
アセトン100重量部に対して、水5.0重量部とレゾール型フェノール樹脂A1.0重量部を添加し、攪拌装置により溶媒に溶解した被覆処理用組成物溶液を作製した。
この被覆処理用組成物溶液を、100重量部の炭素繊維Aに対してレゾール型フェノール樹脂A0.05重量部となるように添加して含浸処理し、70℃で120分間加熱乾燥処理を行い、表面処理炭素繊維1を得た。
【0045】
[実施例2]
アセトン100重量部に対して、水5.0重量部とレゾール型フェノール樹脂A5.0重量部を添加し、攪拌装置により溶媒に溶解した被覆処理用組成物溶液を作製した。
この被覆処理用組成物溶液を、100重量部の炭素繊維Aに対してレゾール型フェノール樹脂A4重量部となるように添加して含浸処理し、70℃で120分間加熱乾燥処理を行い、表面処理炭素繊維2を得た。
【0046】
[実施例3]
100重量部の炭素繊維Aに対してレゾール型フェノール樹脂A10重量部となるように被覆処理用組成物溶液を添加する以外は実施例2と同様にして表面処理炭素繊維3を得た。
【0047】
[実施例4]
アセトン100重量部に対して、レゾール型フェノール樹脂A100重量部を添加し、攪拌装置により溶媒に溶解した被覆処理用組成物溶液を作製した。
この被覆処理用組成物溶液を、100重量部の炭素繊維Aに対してレゾール型フェノール樹脂A40重量部となるように添加して含浸処理し、70℃で120分間加熱乾燥処理を行い、表面処理炭素繊維4を得た。
【0048】
[実施例5]
100重量部の炭素繊維Aに対してレゾール型フェノール樹脂A65重量部となるように被覆処理用組成物溶液を添加する以外は実施例4と同様にして表面処理炭素繊維5を得た。
【0049】
[実施例6]
アセトン100重量部に対して、テトラヒドロフラン15重量部とレゾール型フェノール樹脂B5重量部を添加し、攪拌装置により溶媒に溶解した被覆処理用組成物溶液を作製した。
この被覆処理用組成物溶液を、100重量部の炭素繊維Aに対してレゾール型フェノール樹脂B4重量部となるように添加して含浸処理し、80℃で120分間加熱乾燥処理を行い、表面処理炭素繊維6を得た。
【0050】
[実施例7]
100重量部の炭素繊維Aに対してレゾール型フェノール樹脂B10重量部となるように被覆処理用組成物溶液を添加する以外は実施例6と同様にして表面処理炭素繊維7を得た。
【0051】
[実施例8]
アセトン100重量部に対して、レゾール型フェノール樹脂C5.0重量部を添加し、攪拌装置により溶媒に溶解した被覆処理用組成物溶液を作製した。
この被覆処理用組成物溶液を、100重量部の炭素繊維Aに対してレゾール型フェノール樹脂C4重量部となるように添加して含浸処理し、70℃で120分間加熱乾燥処理を行い、表面処理炭素繊維8を得た。
【0052】
[実施例9]
100重量部の炭素繊維Aに対してレゾール型フェノール樹脂C10重量部となるように被覆処理用組成物溶液を添加する以外は実施例8と同様にして表面処理炭素繊維9を得た。
【0053】
[実施例10]
アセトン100重量部に対して、レゾール型フェノール樹脂D5.0重量部を添加し、攪拌装置により溶媒に溶解した被覆処理用組成物溶液を作製した。
この被覆処理用組成物溶液を、100重量部の炭素繊維Aに対してレゾール型フェノール樹脂D4重量部となるように添加して含浸処理し、70℃で120分間加熱乾燥処理を行い、表面処理炭素繊維10を得た。
【0054】
[実施例11]
100重量部の炭素繊維Aに対してレゾール型フェノール樹脂D10重量部となるように被覆処理用組成物溶液を添加する以外は実施例10と同様にして表面処理炭素繊維11を得た。
【0055】
[実施例12]
アセトン100重量部に対して、レゾール型フェノール樹脂E5.0重量部を添加し、攪拌装置により溶媒に溶解した被覆処理用組成物溶液を作製した。
この被覆処理用組成物溶液を、100重量部の炭素繊維Aに対してレゾール型フェノール樹脂E4重量部となるように添加して含浸処理し、70℃で120分間加熱乾燥処理を行い、表面処理炭素繊維12を得た。
【0056】
[実施例13]
100重量部の炭素繊維Aに対してレゾール型フェノール樹脂E10重量部となるように被覆処理用組成物溶液を添加する以外は比較例12と同様にして表面処理炭素繊維13を得た。
【0057】
[比較例1]
アセトン100重量部に対して、エポキシ樹脂A1.0重量部を添加し、攪拌装置により溶媒に溶解した被覆処理用組成物溶液を作製した。
この被覆処理用組成物溶液を、100重量部の炭素繊維Aに対してエポキシ樹脂A0.05重量部となるように添加して含浸処理し、70℃で120分間加熱乾燥処理を行い、表面処理炭素繊維14を得た。
【0058】
[比較例2]
100重量部の炭素繊維Aに対してエポキシ樹脂A4重量部となるように被覆処理用組成物溶液を添加する以外は比較例1と同様にして表面処理炭素繊維15を得た。
【0059】
[比較例3]
100重量部の炭素繊維Aに対してエポキシ樹脂A10重量部となるように被覆処理用組成物溶液を添加する以外は比較例1と同様にして表面処理炭素繊維16を得た。
【0060】
<レゾール型フェノール樹脂のメチロール基量の定量>
上記実施例および比較例において作成した表面処理炭素繊維の表面被覆処理剤に含まれるレゾール型フェノール樹脂のメチロール基の含有量はNMRにより測定した。以下、NMRの測定条件を示す。
レゾール型フェノール樹脂を無水酢酸にてアセチル化して得られた試料の1H−NMRスペクトルから、該樹脂のフェノール核、メチレン基、ジメチレンエーテル結合およびメチレン基の含有量を求めた。
装置は、日本電子社製・「JNM−AL300」(周波数300MHz)を使用した。
【0061】
上記NMRによって確認した実施例及び比較例に用いたレゾール型フェノール樹脂のメチロール基の含有量を表1に示す。
【0062】
<被覆処理用組成物付着量の定量>
上記実施例および比較例において作成した表面処理炭素繊維の被覆処理用組成物付着量の定量は溶剤抽出法でおこなった。
約3gの表面処理炭素繊維を秤量し、ソックスレー抽出機を用いて該表面処理炭素繊維の表面付着物を80℃、4時間の条件下でアセトンに抽出処理し完全にアセトンに溶解させる。溶剤抽出後のフラスコを、80℃、5時間の条件下で真空乾燥機で熱処理した後、デシケーター中で常温になるまで放冷した。恒量に達したのを確認したのち、溶剤抽出後のフラスコ質量を秤量して、次式により被覆処理用組成物付着量を求めた。
【0063】
被覆処理用組成物付着量(重量%)=(溶剤抽出後のフラスコ重量−溶剤抽出前のフラスコ重量)/(表面処理炭素繊維重量)×100
上記溶剤抽出法によって確認した実施例及び比較例に用いた表面処理炭素繊維の被覆処理用組成物付着量を表1に示す。
【0064】
2.成形材料の製造
得られた表面処理炭素繊維を含有する成形材料の実施例及び比較例の配合について表3、表4に示す。なお、実施例および比較例における炭素繊維の配合はいずれも処理前の炭素繊維の配合量が成形材料全体に対して47重量%となるような配合量であり、マトリックス樹脂の配合量は成形材料全体100重量%から表面処理炭素繊維および炭素繊維の配合量とその他添加剤の配合量を差し引いた残りとなるような配合量である。
【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
[実施例14]
成形材料全体に対して、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト社製PR−51714)とヘキサミンの混合物を50重量部(ノボラック型フェノール樹脂43重量部、ヘキサミン7重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維1を47重量部、硬化助剤(酸化マグネシウム)、着色剤(カーボンブラック)、離型剤(ステアリン酸カルシウム)、各々1重量部を配合し、予備混合した。この混合物を回転速度の異なった90℃の加熱ロールで溶融混練して、シート状に冷却したものを粉砕して顆粒状の成形材料を得た。
【0068】
[実施例15]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を49重量部(ノボラック型フェノール樹脂42重量部、ヘキサミン7重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維2を48重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0069】
[実施例16]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を46重量部(ノボラック型フェノール樹脂39重量部、ヘキサミン7重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維3を51重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0070】
[実施例17]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を32重量部(ノボラック型フェノール樹脂28重量部、ヘキサミン4重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維4を65重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0071】
[実施例18]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を19重量部(ノボラック型フェノール樹脂16重量部、ヘキサミン3重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維5を78重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0072】
[実施例19]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を49重量部(ノボラック型フェノール樹脂42重量部、ヘキサミン7重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維6を48重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0073】
[実施例20]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を46重量部(ノボラック型フェノール樹脂39重量部、ヘキサミン7重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維7を51重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0074】
[実施例21]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を49重量部(ノボラック型フェノール樹脂42重量部、ヘキサミン7重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維8を48重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0075】
[実施例22]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を46重量部(ノボラック型フェノール樹脂39重量部、ヘキサミン7重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維9を51重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0076】
[実施例23]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を49重量部(ノボラック型フェノール樹脂42重量部、ヘキサミン7重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維10を48重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0077】
[実施例24]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を46重量部(ノボラック型フェノール樹脂39重量部、ヘキサミン7重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維11を51重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0078】
[実施例25]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を49重量部(ノボラック型フェノール樹脂42重量部、ヘキサミン7重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維12を48重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0079】
[実施例26]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を46重量部(ノボラック型フェノール樹脂39重量部、ヘキサミン7重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維13を51重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0080】
[比較例4]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を50重量部(ノボラック型フェノール樹脂43重量部、ヘキサミン7重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維14を47重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0081】
[比較例5]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を46重量部(ノボラック型フェノール樹脂42重量部、ヘキサミン7重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維15を48重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0082】
[比較例6]
実施例14において、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂とヘキサミンの混合物を46重量部(ノボラック型フェノール樹脂39重量部、ヘキサミン7重量部)、表面処理炭素繊維として表面処理炭素繊維16を51重量部を配合する以外は実施例14と同様にして成形材料を得た。
【0083】
[比較例7]
成形材料全体に対して、マトリックス樹脂としてノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト社製PR−51714)とヘキサミンの混合物を50重量部(ノボラック型フェノール樹脂43重量部、ヘキサミン7重量部)、炭素繊維として炭素繊維A(東邦テナックス社製のエポキシ樹脂集束剤処理された繊維長6mmの炭素繊維チョップドストランドHT C261 6mm)を47重量部、硬化助剤(酸化マグネシウム)、着色剤(カーボンブラック)、離型剤(ステアリン酸カルシウム)、各々1重量部を配合し、予備混合した。この混合物を回転速度の異なった90℃の加熱ロールで溶融混練して、シート状に冷却したものを粉砕して顆粒状の成形材料を得た。
【0084】
[比較例8]
比較例7において、炭素繊維として炭素繊維B(三菱レイヨン社製のエポキシ樹脂集束剤処理された繊維長6mmの炭素繊維チョップドストランドTR06QB4E)を47重量部を配合する以外は比較例7と同様にして成形材料を得た。
【0085】
[比較例9]
比較例7において、炭素繊維として炭素繊維C(三菱レイヨン社製のエポキシ樹脂集束剤処理された繊維長6mmの炭素繊維チョップドストランドTR06AB4E)を47重量部を配合する以外は比較例7と同様にして成形材料を得た。
【0086】
[比較例10]
比較例7において、炭素繊維として炭素繊維D(三菱レイヨン社製のウレタン樹脂集束剤処理された繊維長6mmの炭素繊維チョップドストランドTR06UB4J)を47重量部を配合する以外は比較例7と同様にして成形材料を得た。
【0087】
[比較例11]
比較例7において、炭素繊維として炭素繊維E(三菱レイヨン社製のポリアミド樹脂集束剤処理された繊維長6mmの炭素繊維チョップドストランドTR06NEB4E)を47重量部を配合する以外は比較例7と同様にして成形材料を得た。
【0088】
3.特性評価
特性評価に使用した試験片の成形方法および評価方法は以下のとおりである。
【0089】
試験片は、上記実施例及び比較例で得られた成形材料を用い、射出成形により作製した。成形条件は、金型温度175℃、硬化時間40秒間とした。
【0090】
測定方法は下記のとおりである。
曲げ強さ:JIS K 7171に準拠して測定した。
【0091】
表3、表4の結果より、実施例はいずれも、本発明の表面処理炭素繊維を配合した本発明の成形材料であり、この成形品は、曲げ強さにおいて、従来表面処理剤として用いられていたビスフェノールA型エポキシ樹脂で被覆処理された炭素繊維を用いた比較例、および従来実施されていたサイズ剤処理された炭素繊維を用いた比較例より高い機械的強度を示した。
【0092】
また、実施例14〜24で示したメチロール基含有量0.2モル以上2.0モル以下のレゾール型フェノール樹脂を用いた場合に高い機械的強度を示し、実施例25〜26で示した高いメチロール基含有量のレゾール型フェノール樹脂を用いた場合には機械的強度が低下した。これはレゾール型樹脂の硬化進行に伴い発生する遊離成分が界面に蓄積し密着性を阻害するためであると考えられる。
【0093】
実施例18で示した被覆処理用組成物付着量の多い場合には機械的強度の向上率は小さくなった。これは成形物全体におけるマトリックスのフェノール樹脂の比率が小さくなりすぎたために、マトリックスのフェノール樹脂が複合材料のマトリックスとして有効に作用しなくなったためであると考えられる。
【0094】
上記結果はマトリックス樹脂が同じであり、炭素繊維の被覆処理用組成物付着物の量が多すぎない場合であれば、炭素繊維表面への被覆処理以外は同じであるため、機械的強度の向上は炭素繊維とマトリックス樹脂との密着性の向上による界面強化に起因するものと考えられる。
【0095】
以上の結果から、本発明の表面処理炭素繊維を用いることで、炭素繊維とフェノール樹脂との密着性が高まり、フェノール樹脂成形材料の成形品の機械的強度が向上することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の表面処理炭素繊維は、フェノール樹脂成形材料の成形品の機械的強度を向上させることができる。そして、本発明のフェノール樹脂成形材料は、機械的強度に優れた成形品を得ることができるものであり、自動車用、汎用機械用、家庭電化製品用及びその周辺機器用等の金属部品の代替として好適に適用できる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維表面の少なくとも一部がレゾール型フェノール樹脂を含有する被覆処理用組成物により被覆処理されてなることを特徴とする表面処理炭素繊維。
【請求項2】
前記表面処理炭素繊維において、炭素繊維に対して処理用組成物中のレゾール型フェノール樹脂の量が、表面処理炭素繊維に対して0.1〜38重量%である、請求項1に記載の表面処理炭素繊維。
【請求項3】
前記レゾール型フェノール樹脂がメチロール基を有し、前記メチロール基が前記レゾール型フェノール樹脂中のフェノール核1モルに対して0.2モル以上2.0モル以下である請求項1又は2に記載の表面処理炭素繊維。
【請求項4】
前記炭素繊維が、ポリアクリロニトリル系又はピッチ系の炭素繊維である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の表面処理炭素繊維。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の表面処理炭素繊維と、マトリックス樹脂とを含有し、該マトリックス樹脂がフェノール樹脂を含有することを特徴とするフェノール樹脂成形材料。
【請求項6】
前記成形材料全体に対して、前記フェノール樹脂が20〜80重量%である、請求項5に記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項7】
前記成形材料全体に対して、前記表面処理炭素繊維が5〜75重量%である、請求項5又は6に記載のフェノール樹脂成形材料。

【公開番号】特開2012−207098(P2012−207098A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73009(P2011−73009)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】