説明

表面処理装置

【課題】被処理物を均一にプラズマ処理することのできる表面処理装置を提供する。
【解決手段】表面処理装置100は、内筒10、外筒20、電極30、被処理物供給部40、ガス導入部50および回転駆動機構60を有している。外筒20は内筒10に対して軸回転可能に設けられ内筒10を収容する。被処理物供給部40は外筒20と内筒10との間の反応空間Vに被処理物を供給する。ガス導入部50は、反応空間Vにガスを供給する。電極30は内筒10および外筒20の周面に互いに対向してそれぞれ設けられたプラズマ発生用の電極であり印加電極32および接地電極34を含む。そして、回転駆動機構60は内筒10と外筒20とを相対的に軸回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体などの多数の被処理物をプラズマ処理によって表面改質する各種の表面処理装置が提案されている。この種の装置に関し、特許文献1には、回動軸に軸支された円筒型容器を真空層の内部に設置し、この容器の軸方向の両端面をプラズマ発生用の電極とする装置が記載されている。円筒型容器の周面には攪拌部材が突出して設けられており、この装置では、被処理物にあたる粒子を周方向に掻き上げながら真空プラズマ処理を行う。
【0003】
特許文献2には、プラズマ発生用の複数の電極を外周面に装着した筒状の絶縁体容器を横倒しにして被処理物を収容し、この被処理物を転動または浮動させながら大気圧プラズマ処理する装置が記載されている。被処理物を転動させる方法としては絶縁体容器を傾斜または揺動させる方法が提案され、被処理物を浮動させる方法としては処理ガスを噴射する方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献3、4には、被処理物が充填された内外二重の筒状体からなる放電容器を全体に軸回転させるプラズマ処理装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−136701号公報
【特許文献2】特開平6−65739号公報
【特許文献3】特開2010−29830号公報
【特許文献4】特開2010−29831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多数の被処理物を均一にプラズマ処理するにあたっては、プラズマ発生用の電極(印加電極および接地電極)と被処理物との位置関係を均一化することが望まれる。具体的には、被処理物と電極との相対位置を固定せず被処理物をバランスよく動かしつづけることで、プラズマとの接触の程度が被処理物ごとに均一化される。
【0007】
しかしながら、特許文献1の装置の場合、円筒型容器の両端面を電極とし、被処理物は周方向に掻き上げられながらプラズマ処理が行われる。このため、円筒型容器の軸方向の両端近傍に収容された被処理物と、中間部に収容された被処理物とでは、電極からの距離が相違した状態のままでプラズマ処理が行われる。このため、プラズマとの接触効率が被処理物ごとに大きく異なり、均一な表面処理をおこなうことが困難である。
【0008】
特許文献2の装置の場合、被処理物を転動または浮動させることで、被処理物と電極との位置関係が完全に固定されることは避けられるものの、絶縁体容器の周面を底として被処理物が堆積するため、やはり均一なプラズマ処理をおこなうことは困難である。下方に堆積した被処理物は上方の被処理物に比べて移動しにくいため、被処理物の全体に亘ってプラズマとの接触効率を均一化することが困難なためである。
【0009】
また、特許文献3、4の装置の場合、シリコンゴムからなる密閉膜部によって互いに連結された内側の筒状体(中心電極)と外側の筒状体(周辺電極)とが一体に軸回転する。このため、周辺電極によって揚送される被処理物と中心電極との相対位置は固定されており、被処理物を均一にプラズマ処理することはやはり困難である。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、被処理物を均一にプラズマ処理することのできる表面処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の表面処理装置は、内筒と、前記内筒に対して軸回転可能に設けられ、前記内筒を収容する外筒と、前記外筒と前記内筒との間の反応空間に被処理物を供給する供給部と、前記反応空間にガスを供給するガス導入部と、前記内筒および前記外筒の周面に互いに対向してそれぞれ設けられたプラズマ発生用の電極と、前記内筒と前記外筒とを相対的に軸回転させる回転駆動機構と、を有する。
【0012】
上記発明によれば、プラズマ発生用の電極が内筒および外筒の周面に互いに対向してそれぞれ設けられていることにより、軸方向に亘って電極同士の対向間隔が均一化されている。この状態で、回転駆動機構が内筒と外筒とを相対的に軸回転させるため、回転する内筒または外筒に接した被処理物が周方向に移動して揚送と落下とを繰り返しながらプラズマ処理される。
【0013】
なお、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の表面処理装置によれば、反応空間に供給された被処理物を均一にプラズマ処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は第一実施形態にかかる表面処理装置を示す正面図であり、(b)はそのB−B線断面図である。
【図2】内筒および外筒の縦断面模式図である。
【図3】(a)から(d)は、攪拌翼の正面図である。
【図4】(a)は第二実施形態にかかる表面処理装置の部分横断面図であり、(b)はその動作説明図である。
【図5】第二実施形態の変形例にかかる表面処理装置の部分横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0017】
<第一実施形態>
図1(a)は、本発明の第一実施形態にかかる表面処理装置100を示す正面図であり、同図(b)はそのB−B線断面図である。本実施形態においては、内筒10および外筒20の回転軸に対して直交する水平方向を表面処理装置100の正面視方向とする。
【0018】
本実施形態の表面処理装置100は、内筒10、外筒20、電極30、被処理物供給部40、ガス導入部50および回転駆動機構60を有している。
外筒20は、内筒10に対して軸回転可能に設けられ、内筒10を収容する。
被処理物供給部40は、外筒20と内筒10との間の反応空間Vに被処理物Wを供給する。
ガス導入部50は、反応空間VにガスGを供給する。
電極30は、内筒10および外筒20の周面12、22に互いに対向してそれぞれ設けられたプラズマ発生用の電極であり、印加電極32および接地電極34を含む。
そして、回転駆動機構60は内筒10と外筒20とを相対的に軸回転させる。
【0019】
次に、本実施形態の表面処理装置100について詳細に説明する。
【0020】
本実施形態に用いる被処理物Wの形状は、粉体などの粒子状、球状または塊状である。粒子状の場合、長径方向と短径方向との比率は特に限定されず、略球形であってもよく、棒状または針状であってもよい。また、被処理物Wの材質は、表面がプラズマ修飾可能であるかぎり、特に限定されない。
【0021】
より具体的には、本実施形態の被処理物Wとしては有機粒子を用いる。たとえば、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂である。また、被処理物Wの平均粒径は1μm以上100μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以上75μm以下、さらに好ましくは3μm以上50μm以下である。なお、平均粒径(d50)は、レーザー回折散乱法により測定されたものである。具体的には、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、メタノール中で粉体を5分間超音波処理することにより分散させ、粒子径の測定を行う。なお、d50値を粒子径平均値とする。
【0022】
表面処理装置100は、印加電極32および接地電極34からなる電極30によって被処理物Wをプラズマ処理して、その表面を修飾する装置である。
表面処理装置100は、互いに異なる角速度で回転する同軸二重管式の内筒10および外筒20から構成される管状構造を有している。内筒10と外筒20の回転速度および回転方向は独立しており、異なる速度および異なる方向に回転させることができる。
【0023】
回転駆動機構60は、外筒20を軸回転させる第一回転機構62と、内筒10を外筒20と逆向きに軸回転可能な第二回転機構64と、を含んでいる。
【0024】
本実施形態の第一回転機構62は、軸方向に沿って外筒20の下方両側に平行配置された一対のボールミルローラである。第一回転機構62は、外筒20を支持するとともに外筒20を軸回転させる。ボールミルローラの回転方向を切り替えることで、外筒20の回転方向を反転させることができる。
【0025】
また、本実施形態の第二回転機構64は、反応空間Vの外部で内筒10の周囲に装着された駆動ベルト65と、駆動ベルト65を走行させるモータ66とで構成されている。モータ66による駆動ベルト65の走行方向を切り替えることで、内筒10の回転方向を反転させることができる。そして、本実施形態のように内筒10を回転可能とすることで、内筒10の上に一時的に堆積した被処理物Wが払い落とされる。これにより、被処理物Wの表面処理が均一化される。
【0026】
内筒10と外筒20とは相対的に軸回転する。具体的には、内筒10と外筒20の一方が表面処理装置100に固定されて、他方が回転してもよい。または、内筒10と外筒20とが互いに逆方向に回転してもよい。または、内筒10と外筒20とは同方向に、異なる角速度で回転してもよい。内筒10と外筒20との相対的な角速度を大きくするためには、内筒10と外筒20とが逆方向に回転するとよい。
【0027】
外筒20は、絶縁体容器24からなる反応炉である。
絶縁体容器24の筒状の周面22には、プラズマ発生用の電極30(接地電極34)が設けられている。また、絶縁体容器24は、ガラスなどの誘電体からなる筒状体である。絶縁体容器24の形状は特に限定されず、円筒状でも角筒状でもよい。筒状体の径(角筒状の場合は対角寸法)は軸方向に沿って均一でもよく、または相違してもよい。言い換えると、外筒20の絶縁体容器24は、直筒状でもよく、またはテーパー筒でもよい。テーパー筒の場合、軸方向の中央が太径に形成された略球体状でもよい。このうち、図1(b)に示す本実施形態の絶縁体容器24(外筒20)は、直筒状の円筒状である。
【0028】
接地電極34は、絶縁体容器24の周面22の一部または全部に設けられている。接地電極34の配置位置は、絶縁体容器24の内表面または外表面に露出して設けられてもよく、または周面22の内部に設けられてもよい。また、接地電極34の形状は特に限定されない。
本実施形態の接地電極34は、絶縁体容器24の外表面を覆う網状導体である。このほか、接地電極34としては、絶縁体容器24の外表面に螺旋状に巻回した帯状電極でもよく、絶縁体容器24の外表面の全面に被着した面状電極でもよい。
【0029】
内筒10は、外筒20の内側に同軸で設置された、プラズマ発生用の円筒形の電極30(印加電極32)である。すなわち、本実施形態では、内筒10の筒状の周面12に印加電極32を設け、外筒20に接地電極34を設けている。ただし、本発明はこれに限られず、接地電極と印加電極とを入れ替えてもよい。すなわち、内筒10に接地電極を設け、外筒20に印加電極を設けてもよい。
【0030】
本実施形態の表面処理装置100は、内筒10または外筒20の少なくとも一方に、電極30を冷却する冷媒L(図2を参照)を流通させる冷却機構14が設けられている。冷却機構14によって電極30を冷却することで、粉体状の被処理物Wが内筒10または外筒20に凝集することを防止する。
【0031】
より具体的には、内筒10は、導電性の筒状体として構成された印加電極32と、その内部に設けられた冷却機構14とを備えている。印加電極32には、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)等の金属材料、または黒鉛などの炭素材料を用いることができる。内筒10の表面にはガラス等の誘電体を被覆しても良い。
【0032】
内筒10の形状は特に限定されず、円筒状でも角筒状でもよく、また直筒状でもテーパー筒でもよい。このうち、本実施形態の内筒10は、外筒20と同様に円筒状である。すなわち、本実施形態の表面処理装置100は、同軸かつ異径に構成された内筒10と外筒20との間隔が反応空間Vの全域に亘って略等しい。本実施形態では、内筒10の外筒20との間隔にあたる反応空間Vの厚みは、1mm以上50mm以下である。
【0033】
冷却機構14は、水などの冷媒Lを連続的に供給する貯液槽(図示せず)と、内筒10の内部の表層近傍に形成された管路である冷媒導入管15と、その内側に設けられて印加電極32を冷却した冷媒Lを貯液槽に還流する冷媒排出管16と、還流された冷媒Lを冷却する冷却器(図示せず)とを含む。冷媒導入管15と冷媒排出管16は、内筒10の軸方向に沿って設けられている。本実施形態では、内筒10の表層に近接する冷媒導入管15の内部に、ガス導入部50の反対側(図1の左方)から冷媒Lが供給される。冷媒導入管15の中を流動した冷媒Lは、内筒10の内部で折り返され、冷媒排出管16を通じて排出される。なお、本実施形態に代えて、冷媒導入管15に対する冷媒Lの供給側を、ガス導入部50と同一側としてもよい。
【0034】
印加電極32には、高周波電源36が接続されている。本実施形態の高周波電源36は、所定の周波数の交流電圧を発生するパルス高周波電源37と、パルス高周波電源37で生成した交流電圧を昇圧および周波数調整して印加電極32に印加する高周波電源トランス38とを含む。印加電極32に印加する電圧の周波数は、1kHz以上10GHz以下が望ましい。
【0035】
本実施形態の表面処理装置100は、内筒10の周面の全体を印加電極32とし、網状の接地電極34をアース側としている。そして、接地電極34と印加電極32との間に誘電体(絶縁体容器24)を配置することにより、印加電極32から放出された高周波電流が誘電体の表面で蓄積される。さらに、多量の電流が接地電極34に流れることにより、誘電体の表面に適度な電荷蓄積状態が形成される。
【0036】
図2は、内筒10および外筒20の縦断面模式図である。同図は、内筒10および外筒20を回転軸に沿って切った断面模式図である。
【0037】
図2に示すように、外筒20は内筒10を包み込むように配置されており、内筒10の外径よりも外筒20の内径の方が大きい。内筒10と外筒20の間に反応空間Vが存在する。内筒10は、先端側(図中、右方)の太径部10aと、基端側(図中、左方)の細径部10bとを含み、反応空間Vの内部に太径部10aが配置されている。太径部10aが印加電極32にあたり、細径部10bは回転駆動機構60(図1を参照)により回転駆動される部位である。
【0038】
また、内筒10は外筒20よりも長く、かつ外筒20の両端には、内筒10の外径と一致するように両端に向けて径が小さくなる半球状の蓋体18が設けられている。内筒10と外筒20とが接する部分には、回転シール26が備えられている。回転シール26は、内筒10および外筒20の少なくとも一方に対して軸回転可能であり、内筒10と外筒20とは独立に軸回転することができる。また、回転シール26は反応空間Vの両端を気密に封止している。
【0039】
蓋体18は、止め具19によって絶縁体容器24に固定されている。止め具19はクランプであり、蓋体18と絶縁体容器24とを開閉可能に閉止する。蓋体18および止め具19は、絶縁体容器24の軸方向の両側に設けられており、蓋体18の一方または両方を絶縁体容器24から開放することで、反応空間Vに対して被処理物Wを出し入れ可能である。すなわち、本実施形態の蓋体18は被処理物供給部40として機能する。
【0040】
反応空間Vには、プラズマを発生させるためのガスGがガス導入部50により供給される。ガス導入部50は、ガスGを連続的に供給する貯気槽(図示せず)と、貯気槽および反応空間Vを連通する流路を構成しているガス導入管51およびガス排出管52と、を含む。本実施形態のガス導入管51とガス排出管52は、ロータリジョイントを介して外筒20に連結されている。これにより、ガス導入管51とガス排出管52を表面処理装置100に固定した状態において、軸回転する外筒20の内部にガスGを供給することができる。なお、本実施形態では、二重管構造のガス導入部50における内側の管をガス導入管51としているが、本発明はこれに限られない。ガス導入部50における外側の管をガス導入管51としてもよい。また、本実施形態では外筒20の一端側(図2の右方)に設けたガス導入部50を通じてのみガスGの供給および排出をおこなっているが、本発明はこれに限られない。複数箇所よりガスGを反応空間Vに供給または排出してもよく、またガスGの供給側と排出側とを外筒20の軸方向の反対側に個別に設けてもよい。
【0041】
反応空間Vにおけるガス導入管51の開口である導入口53と、ガス排出管52の開口である排出口54とは、フランジ部55を挟んで反対側に設けられている。導入口53、排出口54は複数あってもよい。より具体的には、フランジ部55は内筒10と同軸の円板状をなし、フランジ部55の周囲と絶縁体容器24との間隙は、ガス導入管51の導入口53と絶縁体容器24との間隙よりも十分に小さい。ただし、フランジ部55と絶縁体容器24とは非接触であり、フランジ部55の周囲をガスGが流動可能である。フランジ部55は、導入口53から反応空間Vに供給されたガスGが排出口54に至ることを阻害する邪魔板である。
【0042】
そして、ガス導入管51の導入口53は、フランジ部55よりも反応空間Vの内部に配置されている。このため、フランジ部55を境界として、反応空間Vが存在する空間と、排出口54が存在する空間とを分離することができる。内筒10および外筒20の相対回転と、後述する攪拌翼44a〜44dの存在によって、反応空間V中に存在するガスは、導入されたガスGと十分に攪拌・混合される。さらに、被処理物Wの存在により、反応空間V中のガスの攪拌がさらに促進されて、反応空間Vは完全混合槽に近似された状態になっている。このため、ガスGの導入口53から供給されたガスGは、反応空間Vに入ることにより、反応空間Vに存在するガスと十分に攪拌・混合された後に、フランジ部55と外筒20の内壁との隙間から、排出口54が存在する空間に排気される。なお、排出口54には、被処理物Wの排出を防止するためのフィルタ(図示せず)が設けられている。
【0043】
なお、内筒10の太径部10a(印加電極32)の基端側には、被処理物Wが細径部10bに向かって移動することを規制する規制板56が設けられている。規制板56はフランジ部55と同様に円板状をなし、規制板56の周囲と絶縁体容器24とは、僅かな間隙をもって非接触である。
【0044】
本実施形態の電極30(印加電極32および接地電極34)は大気圧プラズマを発生させる。大気圧プラズマは、コロナ放電、誘電体バリア放電、RF放電、マイクロ波放電またはアーク放電などの方法で発生させることができる。なお、ここでいう大気圧は1気圧に限定されるものではない。本実施形態では、0.02MPa以上0.102MPa以下とする。
【0045】
本実施形態のように大気圧プラズマを用いることで、反応空間Vを真空引きする真空装置が不要である。また、内筒10と外筒20とが相対的に軸回転して反応空間Vの内部に気流が生じるため、内筒10の上に一時的に堆積した被処理物Wが払い落とされる。
【0046】
ガスGは、プラズマを発生させるためのガスであり、反応性ガスを含んでもよい。
プラズマ発生用のガスとしては、ヘリウム、アルゴン等の希ガス、または窒素等の不活性ガスを用いることができる。また、反応性ガスとしては、窒素、酸素、アンモニア、一酸化二窒素もしくは二酸化炭素などの無機系ガス、または、ハロゲン原子もしくはハロゲンを含む原子団を有するハロゲン系ガスを用いることができる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、被処理物Wに対して難燃性を付与する場合には臭素原子が好ましい。ハロゲン原子を含むガスとしては、たとえば、テトラフロロ炭素、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジブロモメタンまたはブロモホルムを含むガスが挙げられる。なかでも、ハロゲン化の効率を考慮すると、臭素ガス等のハロゲン系ガスを使用することが好ましい。
このほか、反応性ガスとしては、テトラエトキシシラン(TEOS)もしくはヘキサメチルジシロキサン等のケイ素を含む有機モノマーガスや、ケトン、アルコール、エーテル、ジメチルホルムアミド(DMF)、アルデヒド、アミン類もしくはカルボン酸等の有機モノマーの蒸気を使用することができる。
このような反応性ガスを使用することで、被処理物Wの表面の未結合手に反応性ガスを構成する原子または原子団を結合させることができる。
【0047】
本実施形態の表面処理装置100の運転開始時においては、反応空間Vに残存する酸素ガスの濃度が十分に低くなるよう、希ガスなどのプラズマ発生用のガスGをガス導入管51より反応空間Vに供給する。供給するガスGの1分当たりの体積をΔVとすると、理論上、n分経過後の酸素濃度Cは、初期の酸素濃度Cを用いて、下式(1)で求めることができる。
= C×{V/(V+ΔV)} (1)
【0048】
図1に戻り、表面処理装置100は、内筒10および外筒20を水平支持する支持構造70をさらに備えている。
本実施形態の支持構造70は、内筒10の両端を回転可能に保持する支持材72と、外筒20の両端を保持して蓋体18を絶縁体容器24に固定する上記の止め具19と、筐体74とで構成されている。
なお、ここでいう水平支持とは、厳密な水平度を要するものではなく、被処理物Wが自重によって反応空間Vの片側に移動して溜まることがない程度の僅かな傾斜角度を許容するものである。
【0049】
図1各図に示すように、表面処理装置100は、外筒20を冷却するとともに接地電極34を接地するための放熱構造80を備えている。
本実施形態の放熱構造80は、金属板82、放熱フィン84、接地用ケーブル86および支持台88で構成されている。
金属板82は、接地電極34の表面に接触して、接地電極34とアース部76とを電気的に接続する導電性の部材である。接地用ケーブル86は、筐体74のアース部76と金属板82とを接続している。
【0050】
第一回転機構62によって軸回転する外筒20と金属板82との導通を維持するよう、金属板82は外筒20の上部に設けられ、自重によって僅かに接地電極34に押し付けられている。かかる押し付け力が過大とならないよう、金属板82は支持台88によって略水平に支持されている。支持台88は筐体74に設置されている。
【0051】
放熱フィン84は、金属板82の上面に設けられており、空冷ファン(図示せず)によって冷却される。すなわち、放熱構造80は、接地電極34を接地するとともに、絶縁体容器24および接地電極34の熱を放熱フィン84で除熱する。
【0052】
図1(b)に示すように、反応空間Vには、被処理物Wを攪拌する突起部42が径方向に突出して設けられている。
突起部42は、反応空間Vに供給された被処理物Wを電極30に対して周方向に移動させるための手段であり、具体的には被処理物Wをすくい上げて揚送する手段である。ここで、被処理物Wの位置に偏りがあると、均一なプラズマが得られず、また被処理物Wの表面が均一にプラズマ処理されにくい。これに対し、突起部42によって反応空間Vの内部で被処理物Wを攪拌することで、被処理物Wが分散するため、安定したプラズマが形成されるとともに被処理物Wを均一にプラズマ処理することができる。
【0053】
図3(a)から(d)は、攪拌翼44a〜44dの正面図である。
【0054】
本実施形態の突起部42は、外筒20の軸方向に沿って複数が離散的に配置されて櫛歯状の攪拌翼44a〜44dを構成している。4枚の攪拌翼44a〜44dは、90度間隔で外筒20の周面22に、反応空間Vに向かって立設されている。そして、回転駆動機構60(第一回転機構62)が外筒20を軸回転させることにより、被処理物Wは攪拌翼44a〜44dにすくい上げられて揚送され、さらに落下運動によって被処理物Wの上下運動が働き、混合が進む。このため個々の被処理物Wがプラズマに照射される機会が増加し、かつ均等にプラズマ処理が行われる。
【0055】
本実施形態の表面処理装置100は、複数の突起部42が回転軸方向に間欠的に形成された攪拌翼44a〜44dが、反応空間Vの周方向の複数箇所に設けられている。
そして、周方向に隣接する攪拌翼44a〜44dにおける突起部42は、回転軸方向に互いに異なる位置に設けられている。
【0056】
すなわち、本実施形態の攪拌翼44a〜44dは、突起部42同士の間のスリット部43の位置が、隣り合う他の攪拌翼44a〜44dと互いにずれあっている。これにより、揚送されて落下する被処理物Wが、隣接する攪拌翼44a〜44dによってすぐに止められることがなく、軸方向に亘ってより均一に分散する。
【0057】
なお、攪拌翼44a〜44dの正面視形状は、左右対称でも左右非対称でもよい。また、本実施形態のようにスリット部43を設けることは任意であり、軸方向に延在する一つの帯状の突起部42によって攪拌翼44a〜44dを構成してもよい。
【0058】
なお、本実施形態については種々の変形を許容する。
例えば、図1(b)では外筒20にのみ攪拌翼44a〜44dを設けた場合を例示的に示したが、これに限られない。外筒20の内周面と、内筒10の外周面の双方に攪拌翼を設けてもよい。この場合、外筒20の攪拌翼と内筒10の攪拌翼とが干渉しないよう、攪拌翼を櫛歯状にするとともに、互いの突起部42の位置を軸方向にずらすとよい。すなわち、たとえば図3に示した攪拌翼44aと攪拌翼44cを外筒20の内周面に設け、攪拌翼44bと攪拌翼44dを内筒10の外周面に設けるとよい。これにより、回転駆動機構60によって相対的に軸回転する内筒10と外筒20の攪拌翼同士が干渉することがない。
【0059】
<第二実施形態>
図4(a)は、本実施形態にかかる表面処理装置100の部分横断面図であり、内筒10および外筒20を軸方向に見た断面図である。同図(b)は、その動作説明図である。
【0060】
本実施形態の表面処理装置100は、内筒10または外筒20の少なくとも一方が、軸直交方向の断面に角部11を有することを特徴とする。
【0061】
角部11は、滑らかな円筒の一部を突出させて形成してもよく、または本実施形態のように内筒10自体を角筒状としてそのコーナーに形成してよい。
【0062】
より具体的には、内筒10または外筒20の少なくとも一方(本実施形態では内筒10)が角筒状である。具体的には、内筒10は三角筒状であり、3枚の平坦な周面12の稜線が角部11にあたる。
【0063】
そして、内筒10の3枚の平坦な周面12は、印加電極32として機能する。したがって、本実施形態の印加電極32は、軸方向に伸びる先鋭な角部11を有している。ここで、印加電極32に角部11が存在することで、プラズマPはもっぱら角部11から発生する。ここで、印加電極32を軸回転させることで、プラズマPが発生する角部11が外筒20に対して回転するため、プラズマPの発生位置は反応空間Vの内部で分散する。言い換えると、本実施形態の表面処理装置100は、プラズマPが集中的に発生する角部11を設けつつ、この角部11を被処理物Wに対して回転移動させることで、個々の被処理物Wに対するプラズマ接触効率を平均化させるものである。
【0064】
このように、プラズマPの発生箇所を軸方向に延在する角部11に集中させることで、印加電極32への印加電圧を低減することが可能である。また、内筒10および印加電極32の製造時に、その表面に微細な凹凸が生じたとしても、プラズマPの発生密度が不測に偏在することがない。これにより、表面処理装置100の省電力と被処理物Wの均一な表面処理とが実現する。
【0065】
本実施形態のガス導入部50は、内筒10または外筒20から反応空間Vに向けてガスGを吐出するノズル57を含む。
ノズル57は、径方向かつ内筒10または外筒20の相対回転方向の後方に向けてガスGを吐出する。
【0066】
本実施形態のガス導入管51は、冷媒導入管15および冷媒排出管16とともに内筒10の内部に収容され、軸方向に関して反応空間Vのほぼ全体に亘る長さで設けられている。より具体的には、本実施形態のガス導入管51は、冷媒排出管16のさらに内側に収容されている。
ノズル57は、ガス導入管51から径方向の外側に突出して設けられ、その先端の導入口53は、内筒10の3枚の平坦な周面12の略中央にそれぞれ開口している。これにより、印加電極32の角部11よりもっぱら生じるプラズマPが、ノズル57および導入口53と干渉することがない。ノズル57は、ガス導入管51に沿って軸方向の複数箇所に所定の間隔で設けられている。
【0067】
図4(a)に示すように、本実施形態の外筒20は時計回りに回転し、内筒10は反時計回りに回転する。したがって、ノズル57が設けられた内筒10は、外筒20に対して反時計回りに回転する。外筒20には攪拌翼44a〜44dが設けられており、被処理物Wを周方向に揚送および落下させる。
【0068】
ガスGは、図4(b)に破線矢印で示すように、平坦な印加電極32の面直方向に吐出される。一方、内筒10(印加電極32)は、同図に実線細矢印で示すように反時計回りに回転する。このため、実線太矢印で示すように、回転する内筒10から見てガスGは回転方向の後方に吐出される。ノズル57は、径方向かつ内筒10に対して相対的に、回転方向(本実施形態の場合、反時計回り)の後方に向けてガスGを吐出する。すなわち、ノズル57は、内筒10から回転方向の後方に、かつ径方向の外側に向かって、ガスGを吐出する。これにより、ノズル57から反応空間Vに吐出されたガスGは周面12に沿って印加電極32の周囲に層流を形成し、かつ径方向の外側に向かって反応空間Vの全体に拡散していく。このため、本実施形態の表面処理装置100によれば、反応空間Vの内部の気流を乱すことなく大気圧プラズマを発生することができる。
【0069】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0070】
図5は、第二実施形態の変形例にかかる表面処理装置100の部分横断面図である。
本変形例の表面処理装置100は、内筒10が筐体74(図1を参照)に固定され、外筒20のみが軸回転する点で第二実施形態と相違する。
【0071】
本変形例の内筒10は角筒状(矩形筒状)であり、角部11の一つを上方に向けて固定されている。このため、被処理物Wが内筒10の上に溜まることがない。
【0072】
本変形例のノズル57もまた、平坦な印加電極32の面央に設けられている。そして、ガスGがノズル57から径方向に真っ直ぐに吐出される。
一方、外筒20は同図の時計回りに回転する。これにより、反応空間Vの内部には、時計回りの気流が生じるため、吐出されたガスGは時計回りの層流を形成し、反応空間Vの全体に均一に拡散する。
そして本変形例の場合も、外筒20に対して相対的に反時計回りに回転する内筒10に対して、この相対回転方向の後方かつ径方向に向かってガスGが吐出される。本変形例のようにノズル57が表面処理装置100に固定されていても、大気圧プラズマを用いる場合には、反応空間V内に生じる気流によってガスGが拡散される。
【符号の説明】
【0073】
10 内筒
10a 太径部
10b 細径部
11 角部
12、22 周面
14 冷却機構
15 冷媒導入管
16 冷媒排出管
18 蓋体
19 止め具
20 外筒
24 絶縁体容器
26 回転シール
30 電極
32 印加電極
34 接地電極
36 高周波電源
37 パルス高周波電源
38 高周波電源トランス
40 被処理物供給部
42 突起部
43 スリット部
44a〜44d 攪拌翼
50 ガス導入部
51 ガス導入管
52 ガス排出管
53 導入口
54 排出口
55 フランジ部
56 規制板
57 ノズル
60 回転駆動機構
62 第一回転機構
64 第二回転機構
65 駆動ベルト
66 モータ
70 支持構造
72 支持材
74 筐体
76 アース部
80 放熱構造
82 金属板
84 放熱フィン
86 接地用ケーブル
88 支持台
100 表面処理装置
G ガス
L 冷媒
P プラズマ
V 反応空間
W 被処理物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒と、
前記内筒に対して軸回転可能に設けられ、前記内筒を収容する外筒と、
前記外筒と前記内筒との間の反応空間に被処理物を供給する供給部と、
前記反応空間にガスを供給するガス導入部と、
前記内筒および前記外筒の周面に互いに対向してそれぞれ設けられたプラズマ発生用の電極と、
前記内筒と前記外筒とを相対的に軸回転させる回転駆動機構と、
を有する表面処理装置。
【請求項2】
前記電極が大気圧プラズマを発生させる請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記反応空間に、前記被処理物を攪拌する突起部が径方向に突出して設けられている請求項1または2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
複数の前記突起部が回転軸方向に間欠的に形成された攪拌翼が、前記反応空間の周方向の複数箇所に設けられているとともに、
周方向に隣接する前記攪拌翼における前記突起部が、前記回転軸方向に互いに異なる位置に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記回転駆動機構が、前記外筒を軸回転させる第一回転機構と、前記内筒を前記外筒と逆向きに軸回転可能な第二回転機構と、を含む請求項1から4のいずれか一項に記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記内筒および前記外筒を水平支持する支持構造をさらに備える請求項1から5のいずれか一項に記載の表面処理装置。
【請求項7】
前記内筒または前記外筒の少なくとも一方が、軸直交方向の断面に角部を有する請求項1から6のいずれか一項に記載の表面処理装置。
【請求項8】
前記内筒または前記外筒の少なくとも一方が角筒状である請求項7に記載の表面処理装置。
【請求項9】
前記ガス導入部が、前記内筒または前記外筒から前記反応空間に向けて前記ガスを吐出するノズルを含むとともに、
前記ノズルが、径方向かつ前記内筒または前記外筒の相対回転方向の後方に向けて前記ガスを吐出することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の表面処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−249014(P2011−249014A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117583(P2010−117583)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】