説明

表面反射型位相格子

【目的】金属格子の表面を透明誘電体膜で成膜することで、金属格子の安定性を向上させる。
【構成】断面形状が矩形状のレリーフ型回折格子を有する表面反射型位相格子21は、基板22に第1の金属膜23が成膜され、その上層に第1の金属膜23と異なる材質から成る第2の金属膜24による厚さdの断面矩形状の金属格子25が形成されている。なお、この金属格子25の厚さdは一次回折が最大となるように設定され、更に金属格子25の表面及びその間に露出した第1の金属膜23上に、SiO2から成る透明誘電体膜26が成膜されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上にレリーフ型回折格子を形成した表面反射型位相格子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば特許文献1に開示されているような表面反射型位相格子及びそれを用いた変位測定装置が知られている。この位相回折格子はガラス基板上に周期的な溝を形成することによりレリーフ型の回折格子とし、この周期的な溝の表面にAu、Al等の反射膜を蒸着することにより光学式スケールを構成している。
【0003】
図7はこの光学式スケール1の断面図を示し、基板2上にレリーフ型回折格子3を形成し、その上層に反射膜4が蒸着されている。
【0004】
基板2上に形成したレリーフ型回折格子3に光束を投射して、回折反射光同士を干渉させて干渉縞を形成し、この干渉縞を光電変換することにより光学式スケール1の変位を測定する。このようなレリーフ型回折格子3は、溝の高さを適宜定めることにより零次反射回折光である正反射光の強度を弱め、測定に用いる高次反射回折光の強度を強めることができるので極めて有効である。
【0005】
しかしながら、回折格子3の溝の表面に反射膜4が蒸着されているので、反射膜4の膜厚の変動によって、溝の形状や深さが変化して回折光の光量が変動し、高精度な測定ができないという問題点がある。
【0006】
また図8に示すように、特許文献2に開示されている光学式スケール11を用いた変位測定装置も知られている。この光学式スケール11は透明基板12の裏面上にレリーフ型回折格子13を形成し、回折格子13上に反射膜14が成膜されている。透明基板12の表面15側から光束を照射することにより、生じた回折光を用いて干渉縞を形成し、この干渉縞を光電変換することにより光学式スケール11の変位を測定する。
【0007】
この光学スケール11は回折格子13が形成されている面とは反対の表面15側から光束を照射し、反射光の回折光を発生させるため、反射膜14の膜厚の変動による回折光量の変動が生じない極めて高精度な光学式スケールが得られる。
【0008】
【特許文献1】実公昭61−39289号公報
【特許文献2】特開平2−254316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、この図8に示す裏面反射型回折格子の場合には、透明基板12を光が透過するため、透明基板12の表面15での反射の影響を受けることにより光量が変動する。更に、透明基板12の剛性を向上させるために透明基板12の板厚を厚くすると、透明基板12内を透過する光路が長くなって光量が減少する。
【0010】
逆に、透過光の影響を抑えるために、透明基板12の板厚を薄くした場合には、透明基板12の剛性が低下し、透明基板12に反りや撓みが生じ、高精度に変位を測定することができなくなる虞れがある。
【0011】
本発明の目的は、上述の問題点を解決し、製造が容易でかつ化学的に安定な表面反射型位相格子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係る表面反射型位相格子の技術的特徴は、基板上に第1の金属膜を形成し、該第1の金属膜上に一次回折が最も大きくなる膜厚を持ち周期構造を有する第2の金属膜による凹凸状の位相格子パターンを形成したことにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の表面反射型位相格子は、2種類の金属膜のエッチャントが異なるため、格子形状に加工する表面側の第2の金属膜が抜けても下層の第1の金属膜はエッチングされることはないため、表面側の金属膜が入射光の1回折が最大になる膜厚で成膜することにより、エッチングで深さを正確に制御する必要がなくなる。
【0014】
また、第1の金属膜と第2の金属膜で光が反射し回折するため、光は基板を通過せず、基板での反射や吸収による損失がなくなり、より強度の大きい回折光を得ることができ、基板に反射防止膜を成膜する必要がなくなる。
【0015】
更に、金属格子の上部を誘電体膜で成膜すると金属膜を化学的に安定させ、金属膜の劣化や腐食を抑え、格子の物理的強度を向上させることが可能となり、耐久性を向上させることができる。
【0016】
位相格子パターンの上部を透明誘電体により成膜することで、反射や吸収による損失はあるが、基板の厚さと比較すると十分に薄いため、従来例で説明した裏面反射格子型回折格子ほどの損失はない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を図1〜図6に図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は実施例1における断面形状が矩形状のレリーフ型回折格子を有する表面反射型位相格子21の断面図を示し、基板22上に第1の金属膜23が成膜され、その上層に第1の金属膜23と異なる材質から成る第2の金属膜24による、厚さdの断面矩形状の金属格子25が形成されている。
【0019】
なお、第1、第2の金属膜はAl、Cr、Au、Ag、Cu原子のうち、少なくとも1つを含む積層膜から成り、金属格子25の厚さdは一次回折が最大となるように設定されている。
【0020】
ここで、nは基板の屈折率、λは使用する光源の波長とすると、一次回折が最大になる回折格子の厚さdはd=nλ/4で与えられる。
【0021】
更に、金属格子25の表面及びその間に露出した第1の金属膜23上に、CVD法により例えばSiO2から成る透明誘電体膜26が成膜されている。
【0022】
このように、第1、第2の金属膜23、24上にSiO2から成る透明誘電体膜26を成膜したことにより、第1、第2の金属膜23、24が大気中に晒されることがなくなって膜質が安定し、回折光の光量が減少したり、変動したりすることがない。
【0023】
従って、表面反射型位相格子21を光学スケールとして使用する場合に、回折光を干渉させ、その干渉光の明暗変化を検出して、被検物体の変位量を測定すると、受光素子から安定した出力信号が得られ、高精度な測定が可能になる。
【0024】
また、本実施例における透明誘電体膜26はSiO2膜としたが、SiO2膜以外にも、TiO2、Ta25、ZrO2、HfO2、MgF2、Al23の何れか1つ以上を含むものとすることができる。
【0025】
図2はこの表面反射型位相格子21の製造プロセスのフローチャート図を示し、先ずステップS1において、基板22上に第1の金属膜23を成膜した後に、ステップS2において、第1の金属膜23上に第1の金属膜23と異なるエッチャントの第2の金属膜24を一次回折が最大となる膜厚dで成膜する。
【0026】
続いて、ステップS3において、表面側の第2の金属膜24をエッチングし、断面矩形状の金属格子25を形成した後に、ステップS4において、金属格子25上に例えばCVD法を用いて透明誘電体膜26を成膜する。
【0027】
図3は同様に正弦波状の金属格子25を形成した変形例の表面反射型位相格子21’を示し、図4も同様に三角波状の金属格子25を形成した変形例の表面反射型位相格子21”を示している。何れの表面反射型位相格子21、21’、21”も2層の第1、第2の金属膜23、24から成り、上層の第2の金属膜24がレリーフ型回折格子、厚さdの金属格子25が形成され、更にその上層に透明誘電体膜26が成膜されている。
【0028】
表面反射型位相格子21’、21”においても、上述の表面反射型位相格子21と同様の効果が得られる。
【実施例2】
【0029】
実施例1のように、第2の金属膜24上に、SiO2膜から成る透明誘電体膜26を成膜した後に、更に図5に示すように透明誘電体膜26上にMgF2膜27が成膜されている。このMgF2膜27の膜厚は透過率が最大になるように設計されている。
【0030】
この表面反射型位相格子21の場合には、MgF2膜27とSiO2から成る透明誘電体膜26を光が通過することによって反射防止効果が生じ、光の損失を抑制することができる。従って、回折光を干渉させ、その干渉光の明暗変化を検出して、被検物体の変位量を測定する際に、受光素子から安定した出力信号が得られ、更に高精度な測定が可能になる。
【実施例3】
【0031】
また、図6は実施例3における表面反射型位相格子31の断面図を示し、実施例1と同一の部材には同一の符号を付している。本実施例3においては、金属格子25間及び金属格子25の表面にSiO2から成る透明誘電体膜32が埋め込まれている。更に、埋め込まれた透明誘電体膜32の表面をCMP等で平滑仕上げすることにより、金属格子25が大気に曝されることがなくなり、金属格子25の強度が向上する。
【0032】
この場合においても、回折光を干渉させ、その干渉光の明暗変化を検出して、被検物体の変位量を測定する際に、受光素子から安定した出力信号が得られ、高精度な測定が可能になる。
【0033】
本実施例3においても、平滑化した透明誘電体膜32上に、実施例2と同様に透過率が最大になる膜厚のMgF2膜を成膜することができる。これにより、MgF2膜、透明誘電体膜32から成るSiO2を光が透過することによって反射防止効果が生じ、光の損失を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1の表面反射型位相格子の断面図である。
【図2】製造プロセスのフローチャート図である。
【図3】変形例の断面図である。
【図4】他の変形例の断面図である。
【図5】実施例2の表面反射型位相格子の断面図である。
【図6】実施例3の表面反射型位相格子の断面図である。
【図7】従来例の表面反射型位相格子の断面図である。
【図8】従来例の裏面反射型位相格子の断面図である。
【符号の説明】
【0035】
21、21’、21”、31 表面反射型位相格子
22 基板
23、24 金属膜
25 金属格子
26、32 透明誘電体膜
27 MgF2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1の金属膜を形成し、該第1の金属膜上に一次回折が最も大きくなる膜厚を持ち周期構造を有する第2の金属膜による凹凸状の位相格子パターンを形成したことを特徴とする表面反射型位相格子。
【請求項2】
前記金属膜はAl、Cr、Au、Ag、Cu原子のうち少なくとも1つを含む積層膜から成ることを特徴とする請求項1に記載の表面反射型位相格子。
【請求項3】
前記位相格子パターン上に透明誘電体膜を成膜したことを特徴とする請求項1に記載の表面反射型位相格子。
【請求項4】
前記第1の金属膜と第2の金属膜はエッチャントが異なる金属とした請求項1に記載の表面反射型位相格子。
【請求項5】
前記透明誘電体膜は前記位相格子パターンの凹凸部を埋設し、その表面を平滑にしたことを特徴とする請求項3又は4に記載の表面反射型位相格子。
【請求項6】
前記透明誘電体膜上にMgF2膜を積層したことを特徴とする請求項3〜5の何れか1つの請求項に記載の表面反射型位相格子。
【請求項7】
前記透明誘電体膜はSiO2、TiO2、Ta25、ZrO2、HfO2、MgF2、Al23のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項3〜6の何れか1つの請求項に記載の表面反射型位相格子。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1つの請求項の表面反射型位相格子を用い、前記位相格子パターンに光束を照射し回折光を生成する光学式スケール。
【請求項9】
請求項8に記載の光学式スケールを用いた変位測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−178312(P2006−178312A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373491(P2004−373491)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】