説明

表面実装用とした温度補償水晶発振器

【課題】水晶振動子の動作温度をICチップの発熱温度に接近させて温度補償動作を良好にした温度補償発振器を提供する。
【解決手段】一方と他方の凹部を両主面に有する積層セラミックからなる容器本体1を備え、一方の凹部に水晶片2を収容して密閉封入し、他方の凹部にフリップチップボンディングによるICチップ3を収容してなる表面実装用とした温度補償水晶発振器において、一方の凹部内表面に熱伝導の高い金属膜14を水晶片2に対向して設け、金属膜14はICチップ3のアース端子に電気的に接続した構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容器本体をH構造とした表面実装用の温度補償水晶発振器(以下、温度補償発振器とする)を技術分野とし、特に温度補償動作を良好にした温度補償発振器に関する。
【0002】
(発明の背景)
表面実装用とした温度補償発振器は小型・軽量であって、周囲温度の変化する動的環境下での周波数温度特性を補償する。このことから、特に携帯電話で代表されるように、携帯型の電子機器に周波数の基準源として採用される。
【0003】
(従来技術の一例)
第4図は一従来例を説明する図で、同図(a)は温度補償発振器の断面図、同図(b)水晶片の平面図である。
【0004】
温度補償発振器は一方と他方の凹部を両主面に有するH構造(断面)とした容器本体1に水晶片2とICチップ3を収容してなる。容器本体1は積層セラミックからなり、一方(一主面)の凹部底面には水晶保持端子4を有し、他方の凹部底面には回路端子5を有する。水晶保持端子4は回路端子5中の水晶端子に図示しない貫通電極を含む導電路によって電気的に接続する。また、一方の凹部の開口端面(枠壁上面)には金属膜6を有し、他方の凹部における開口端面の4角部には回路端子5に電気的に接続した実装端子7を有する。
【0005】
水晶片2は両主面に励振電極8(ab)を有し、一端部両側に引出電極9(ab)を延出する。引出電極9(ab)の延出した水晶片2の一端部両側は、容器本体1の一方の凹部底面に導電性接着剤10によって固着される。一方の凹部の開口端面には例えば金属リング11が設けられ、シーム溶接によって金属カバー16が接合される。これにより、一方の凹部内に水晶片2を密閉封入する。
【0006】
ICチップ3は少なくとも発振回路及び温度補償機構を集積化して、回路機能面となる一主面にIC端子12を有する。IC端子12は少なくとも水晶端子や電源、出力、アース及びAFC等を有する。ICチップ3(IC端子12)は、容器本体1の他方の凹部底面にバンプ(付番せず)を用いた超音波熱圧着によってフリップチップボンディングされて固着する。通常では、水晶片2とICチップ3とを電気的に遮蔽するシールド電極13が一方と他方の凹部を分離する中央台座の積層面に設けられる。
【0007】
これらの場合、例えば水晶振動子(水晶片2)はATカットとして三次曲線となる周波数温度特性を有する(第5図の曲線イ)。なお、水晶発振器の周波数温度特性は水晶振動子の周波数温度特性に依存してほぼ同じになる。図の縦軸は周波数偏差Δf/fであり、fは公称周波数、Δfは公称周波数からの発振周波数f′のずれ(f−f′)である。そして、ICチップ3の温度補償機構は例えば温度センサによって周囲温度に応答した電圧を図示しない電圧可変容量素子に印加し、周波数温度特性とは逆特性となる電圧周波数特性とする(第5図の曲線ロ)。なお、Vcは制御電圧(補償電圧)で、Vcoは常温25℃での印加電圧である。
【0008】
この場合、電圧可変容量素子の制御電圧Vcによる容量変化が水晶振動子から見た直列等価容量を可変するので発振周波数が変化して、周波数温度特性とは逆特性となる電圧周波数特性を得る。これにより、周波数温度特性による周波数変化が相殺されて温度に対する周波数特性を平坦にする。
【特許文献1】特開2008−252451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(従来技術の問題点)
しかしながら、上記構成の温度補償発振器では、ICチップ3の特に発振用増幅器等の能動素子の動作によって、ICチップ3は発熱して温度が上昇する。したがって、ICチップ3の温度補償機構の温度センサはICチップ3の発熱温度を検出する。これに対して、水晶振動子(水晶片2)はH構造とした別空間内に収容されるので、ICチップ3の発熱温度よりも低い動作温度になる。
【0010】
要するに、温度センサは水晶振動子の動作温度ではなく、ICチップ3の発熱温度を検出する。この場合、温度補償機構は水晶振動子の動作温度よりも高い温度に基づいた補償電圧を電圧可変容量素子に印加する。例えば水晶振動子の実際の動作温度がT℃(例えば25℃)としてICチップの発熱温度がこれより高いT′℃とすると、温度センサはT′℃を検出する。そして、温度補償機構はT′℃のときの過剰補償電圧Vc′(Vco′)を電圧可変容量素子に印加する。
【0011】
したがって、電圧周波数特性は通常の曲線ロを温度が高い方向に移動した曲線になる(第5図の曲線ハ)。これにより、過剰補償電圧Vc′の印加された電圧周波数変化特性では周波数温度特性を相殺できず、温度補償機構による温度補償動作に誤りを生ずる問題があった。
【0012】
(発明の目的)
本発明は水晶振動子の動作温度をICチップの発熱温度に接近させて温度補償動作を良好にした温度補償発振器を提供する。また、付随的に配線パターンの形成を容易にした温度補償発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、特許請求の範囲(請求項1)に示したように、一方と他方の凹部を両主面に有する積層セラミックからなる容器本体を備え、前記一方の凹部に水晶片を収容して密閉封入し、前記他方の凹部にフリップチップボンディングによるICチップを収容してなる表面実装用とした温度補償水晶発振器において、前記一方の凹部内表面に熱伝導の高い金属膜14を前記水晶片に対向して設け、前記金属膜14は前記ICチップのアース端子に電気的に接続した構成とする。
【発明の効果】
【0014】
このような構成であれば、ICチップの発熱温度はIC端子中のアース端子と電気的に接続した一方の凹部内表面の金属膜14に伝熱される。この場合、アース端子と金属膜との電気的な接続は、容器本体と比較して熱伝導率が格段に高い金属からなる。したがって、ICチップの発熱温度は金属膜にリアルタイムに伝熱される。そして、金属膜から水晶片に放熱熱される。
【0015】
したがって、水晶振動子(水晶片)の動作温度はICチップの発熱温度に接近する。これにより、ICチップの温度センサは、発熱温度に接近した水晶振動子の動作温度を検出する。これらから、温度補償発振器の温度補償機構による温度補償動作を良好にする。
【0016】
(実施態様項)
本発明の請求項2では、請求項1において、前記金属膜は少なくとも前記水晶片の励振電極を覆って前記一方の凹部の内底面に形成される。これにより、水晶振動子の動作領域(振動領域)に対する伝熱効果を高め、動作温度を発熱温度に接近させる。
【0017】
同請求項3では、請求項1において、前記金属膜は前記容器本体における一方の凹部の内底面のみならず内壁面にも設けられる。これにより、さらに水晶片に対する伝熱効果を高め、水晶振動子の動作温度を発熱温度に接近させる。
【0018】
同請求項4では、請求項1において、前記金属膜はAuとする。これにより、金属膜を具体的にして伝熱効果を高められる。また、容器本体に露出した実装端子等の例えば電界メッキ時に同時に形成できるので、経済的にも良好になる。
【0019】
同請求項2では、請求項1において、前記容器本体は一方と他方の凹部を分離する中央台座の積層面に設けられたシールド電極と電気的に接続し、前記シールド電極は引出電極の延出した水晶片の端部を覆って形成される。これにより、中央台座の積層面にスペースを確保できるので、配線パターンの形成を容易にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1実施形態)
第1図は本発明の第1実施形態を説明する温度補償発振器の断面図である。なお、前従来例と同一部分には同番号を付与してその説明は簡略又は省略する。
【0021】
温度補償発振器は、前述したように、一方と他方の凹部を両主面に有する積層セラミックからなる容器本体1を備え、一方の凹部に水晶片2を収容して金属カバー16を接合して密閉封入する。水晶片2は例えばATカットとして三次曲線となる周波数温度特性を有する。他方の凹部には発振回路及び温度補償機構を集積化したICチップ3をフリップチップボンディングによって固着する。
【0022】
そして、この実施形態では、容器本体1の凹部底面には水晶片2に対向して少なくとも励振電極8(ab)を覆う金属膜14が設けられる。金属膜14は下地電極を印刷によるW(タングステン)として、Ni(ニッケル)及びAu(金)が電界メッキによって形成される。これらは、金属膜14とともに実装端子7等の印刷による下地電極が形成されたシート状のセラミックを積層した後電解液中で一体的に形成され、その後、個々の容器本体1に分割される。
【0023】
一方の凹部底面の金属膜14は、積層面を経てICチップ3の固着される他方の凹部底面における回路端子5を経てIC端子12中のアース端子12(GND)に、図示しないスルーホール加工による貫通電極を含む積層面の導電路15によって電気的に接続する。なお、積層面の導電路15は外表面に露出しないので、NiやAuメッキはされず、下地としてWのみとなる。
【0024】
このような構成であれば、発明の効果の欄でも記載するように、ICチップ3の動作による発熱温度は、先ず、IC端子12中のアース端子12(GND)に伝熱される。次に、貫通電極を含む導電路15を経て一方の凹部内表面の金属膜14に伝熱される。最後に、励振電極8(ab)に覆って水晶片2と対面した金属膜14から水晶片2に伝熱される。
【0025】
この場合、アース端子12(GND)と金属膜14とを接続する導電路15は、容器本体1としてのセラミックに比較して熱伝導率が格段に高い。このことから、ICチップ3の熱は金属膜14にリアルタイムに伝熱して、水晶片2に放熱される。したがって、水晶振動子(水晶片2)の動作温度はICチップ3の発熱温度に接近し、ICチップ3の温度センサは発熱温度に接近した水晶振動子の動作温度を検出する。これらから、温度補償発振器の温度補償機構による温度補償動作を良好にする。
【0026】
(第2実施形態)
第2図は本実施例の第2実施形態を説明する温度補償発振器の断面図である。なお、前実施形態と同一部分の説明は省略又は簡略する。
【0027】
第2実施形態では、水晶片2の収容される容器本体1の一方の凹部底面に金属膜14を形成し、ICチップ3のアース端子12(GND)に電気的に接続する基本構成は同一とする。そして、この実施形態では、容器本体1の中央台座の積層面に設けたシールド電極13のうちの金属膜14と対向する領域を除去する。そして、引出電極の延出した水晶片2の下面となるシールド電極13と金属膜とを貫通電極によって電気的に接続する。
【0028】
このような構成であれば、第1実施形態と同様に、ICチップ3の発熱温度と水晶振動子の動作温度とが接近して、温度補償動作を良好にする。そして、容器本体1の中央台座の積層面からシールド電極13の大半を除去してスペースを確保するので、例えば積層面に形成する配線パターン(導電路)を自在にできる。
【0029】
(他の事項)
上記実施形態では金属膜14は容器本体1の一方の凹部底面に設けたが、例えば第3図(断面図)に示したように、一方の凹部底面のみならず内壁面を含む内表面に設けて金属膜14からの放熱量を多くしてもよい。この場合、内壁膜の金属膜14は、例えば積層セラミックの最上位層の内壁面を無電極として開口端面の金属膜6は電気的に遮断され、金属カバー16とは電気的に接続しない。これにより、温度補償発振器の設置される外部環境からの熱の影響を小さくする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態を説明する温度補償発振器の断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態を説明する温度補償発振器の断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を説明する温度補償発振器の断面図である。
【図4】従来例を説明する図で、同図(a)は温度補償発振器の断面図、同図(b)水晶片の平面図である。
【図5】従来例を説明する水晶発振器(水晶振動子)周波数温度特性図である。
【符号の説明】
【0031】
1 容器本体、2 水晶片、3 ICチップ、4 水晶保持端子、5 回路端子、6、14 金属膜、7 実装端子、8 励振電極、9 引出電極、10 導電性接着剤、11 金属リング、12 IC端子、13 シールド電極、15 導電路、16 金属カバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方と他方の凹部を両主面に有する積層セラミックからなる容器本体を備え、前記一方の凹部に水晶片を収容して密閉封入し、前記他方の凹部にフリップチップボンディングによるICチップを収容してなる表面実装用とした温度補償水晶発振器において、前記一方の凹部内表面に熱伝導の高い金属膜を前記水晶片に対向して設け、前記金属膜は前記ICチップのアース端子に電気的に接続したことを特徴とする温度補償水晶発振器。
【請求項2】
請求項1において、前記金属膜は少なくとも前記水晶片の励振電極を覆って前記一方の凹部の内底面に形成された温度補償水晶発振器。
【請求項3】
請求項1において、前記金属膜は前記容器本体における一方の凹部の内底面のみならず内壁面にも設けられた温度補償水晶発振器。
【請求項4】
請求項1において、前記金属膜はAuとする温度補償水晶発振器。
【請求項5】
請求項1において、前記容器本体は一方と他方の凹部を分離する中央台座の積層面に設けられたシールド電極と電気的に接続し、前記シールド電極は引出電極の延出した水晶片の端部を覆って形成された温度補償水晶発振器。

【図5】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−124022(P2010−124022A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292988(P2008−292988)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】