説明

表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム

【課題】 接着性の向上が容易で、かつ高温多湿の過酷な環境でも接着性の維持が可能なポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを提供する。
【解決手段】 ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムがイオンビーム処理されて表面積率が1.2以上、2.8以下で、該フィルムの表面自由エネルギーのうちの極性成分(γsh)が5mN/m以下となったフィルムであって、該フィルムを放電処理又は活性エネルギー線処理して前記表面自由エネルギーのうちの極性成分(γsh)を15mN/m以上とすることが可能であることを特徴とする表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムに関し、詳しくは、接着剤に対する接着性が改善され、フレキシブルプリント配線板などの用途に好適な表面改質されたポリイミドベンゾオキサゾールフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、機械的特性などが他のポリイミドフィルムより優れているが(例えば、特許文献1、2)、一般的なポリイミドフィルムと同様に、接着剤を用いても金属に対する密着性が乏しいという問題があった。これまで、ポリイミドフィルムの表面改質による接着性の改良が種々提案されている。例えば、ポリイミドフィルムをアルカリ処理して表面改質する方法(例えば、特許文献3)、ポリイミドフィルムの表面をプラズマ処理する方法(例えば、特許文献4)、コロナ放電処理する方法(例えば、特許文献5)、反応性ガスを吹き込みながらエネルギーを有するイオン粒子を表面に照射し、表面の接触角を低下させ、接着力を制御する方法(特許文献6参照)などが提案されている。
【0003】
しかしながら、アルカリによる表面処理では、薬品に浸漬させるために、工程が複雑になることや、フィルムの強度が低下するなどという問題点がある。また、プラズマ処理やコロナ処理は、処理の初期にはそれなりの効果が認められるものの、経時的に効果が低下することが問題視されている。
以上のように、ポリイミドフィルムの表面改質技術については多くの検討がなされているが、ポリイミドフィルムより機械的特性などが優れているポリイミドベンゾオキサゾールフィルムについての提案は少なく、その接着性の改善が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特表平6−56992号公報
【特許文献2】特表平10−508059号公報
【特許文献3】特開平7−3055号公報
【特許文献4】特開2004−51712号公報
【特許文献5】特開平7−149929号公報
【特許文献6】特表平11−501696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、先に、イオンを用いたイオンビームをフィルムに照射し、かつその際処理フィルムの近傍に酸素を導入するなどして、表面構造が特定のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムが得られ、その接着性が優れたものであることを見出して提案した(特願2008−8781号)が、得られた表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、常温、常圧、一定の湿度下で短期間保存では、初期の接着性は維持するものの、数ヶ月以上の長期保存後に使用した場合には、その接着性を維持できないことが認められた。
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。
すなわち、本発明の目的は、長期的にその接着性を維持でき、一旦接着性が失われても、簡単な処理で接着性が回復でき、接着後に高温多湿の過酷な環境下におかれても接着性を維持できる表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの原因究明の結果、接着性を維持できない理由は、表面改質フィルムの表面エネルギーのうちの極性成分が低下することが原因であることが判明し、本発明に到達した。
すなわち本発明は以下の構成になる。1. ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムがイオンビーム処理されて表面積率が1.2以上、2.8以下で、該フィルムの表面エネルギーのうちの極性成分(γsh)が5mN/m以下となったフィルムであって、該フィルムの表面自由エネルギーのうちの極性成分(γsh)が5mN/m以下となったフィルムであって、該フィルムを放電処理又は活性エネルギー線処理して前記表面自由エネルギーのうちの極性成分(γsh)を15mN/m以上とすることが可能であることを特徴とする表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
2. ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムが、引張弾性率が4GPa以上10GPa以下、厚さが7μm以下1μm以上である1.の表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
3. イオンビーム処理に用いるガスが、酸素と窒素との混合ガスである1.又は2.の表面構造改質ポリイミドフィルム。
4. イオンビーム処理が、イオンガンを備えたロールツウロールフィルム処理装置においてなされ、処理して得られたフィルムが幅250mm以上2m以下、長さ10m以上20000m以下である1.〜3.いずれかに記載の表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
5. ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムがイオンビーム処理されて該フィルムの表面積率が1.2以上、2.8以下で、かつ表面エネルギーのうちの極性成分(γsh)が5mN/m以下となったポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを、放電処理又は活性エネルギー線処理して前記γshを15mN/m以上にすることを特徴とする表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの処理方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、常温、常圧、一定の湿度のもと数ヶ月以上の長期保存でそのままでは接着性が低い場合であっても、簡便なプラズマ処理などでその表面自由エネルギーの極性成分を容易に高くすることができるため、接着性を向上させることができる。しかも、表面未処理のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムと同等のフィルム機械特性を保有することができる。
また、本発明の表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、その特異な表面構造と表面自由エネルギーの極性成分が高い値となるため、接着後に熱処理や湿熱処理などの高温多湿の過酷な環境下でも高い接着性を維持することができ、信頼性が要求されるプリント配線板(PWB)、FPC、TABテープ等の電子部品へ好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明におけるポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類(アミン、およびアミド結合性誘導体を総称して類という、以下同)と、芳香族テトラカルボン酸無水物類(無水物、酸、およびアミド結合性誘導体を総称して類という、以下同)とを反応させて得られるポリイミドを主成分とするフィルムである。反応は、まず、溶媒中でジアミン類とテトラカルボン酸無水物類とを開環重付加反応に供してポリアミド酸溶液を得て、次いで、このポリアミド酸溶液からグリーンフィルムなどを成形した後に脱水縮合(イミド化)することによりなされる。
<芳香族ジアミン類>
本発明で用いるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類の分子構造は特に限定されるものではなく、具体的には以下のものが挙げられる。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【0013】
【化5】

【0014】
【化6】

【0015】
【化7】

【0016】
【化8】

【0017】
【化9】

【0018】
【化10】

【0019】
【化11】

【0020】
【化12】

【0021】
【化13】

【0022】
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましく、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾールがより好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である(例;上記「化1」〜「化4」に記載の各化合物)。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明においては、全ジアミンの30モル%以下であれば下記に例示されるベンゾオキサゾール構造を有しないジアミン類を一種または二種以上を併用しても構わない。そのようなジアミン類としては、例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、
【0024】
3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、
【0025】
1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、
【0026】
1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、
【0027】
3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリルおよび上記芳香族ジアミンの芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0028】
<芳香族テトラカルボン酸無水物類>
本発明で用いられるテトラカルボン酸無水物は芳香族テトラカルボン酸無水物類である。芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、具体的には、以下のものが挙げられる。
【0029】
【化14】

【0030】
【化15】

【0031】
【化16】

【0032】
【化17】

【0033】
【化18】

【0034】
【化19】

これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明においては、全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以下であれば下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種または二種以上を併用しても構わない。そのようなテトラカルボン酸無水物としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0036】
ジアミン類と、テトラカルボン酸無水物類とを重合してポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられる。これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの質量が、通常5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるような量が挙げられる。
【0037】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌および/または混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の質量は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは10〜2000Pa・sであり、より好ましくは100〜1000Pa・sである。
【0038】
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸溶液を製造するのに有効である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合の使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
重合反応により得られるポリアミド酸溶液から、ポリイミドフィルムを形成するためには、ポリアミド酸溶液を支持体上に塗布して乾燥することによりグリーンフィルム(自己支持性の前駆体フィルムを得て、次いで、グリーンフィルムを熱処理に供することでイミド化反応させる方法が挙げられる。
支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し、等を含むが、これらに限られず、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
【0039】
支持体上に塗布したポリアミド酸を乾燥してグリーンシートを得る条件は特に限定はなく、温度としては70〜150℃が例示され、乾燥時間としては、5〜180分間が例示される。そのような条件を達する乾燥装置も従来公知のものを適用でき、熱風、熱窒素、遠赤外線、高周波誘導加熱などを挙げることができる。次いで、得られたグリーンシートから目的のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを得るために、イミド化反応を行わせる。その具体的な方法としては、従来公知のイミド化反応を適宜用いることが可能である。例えば、閉環触媒や脱水剤を含まないポリアミド酸溶液を用いて、必要により延伸処理を施した後に、加熱処理に供することでイミド化反応を進行させる方法(所謂、熱閉環法)が挙げられる。この場合の加熱温度は100〜500℃が例示され、フィルム物性の点から、より好ましくは、150〜250℃で3〜20分間処理した後に350〜500℃で3〜20分間処理する2段階熱処理が挙げられる。
【0040】
別のイミド化反応の例として、ポリアミド酸溶液に閉環触媒および脱水剤を含有させておいて、上記閉環触媒および脱水剤の作用によってイミド化反応を行わせる、化学閉環法を挙げることもできる。この方法では、ポリアミド酸溶液を支持体に塗布した後、イミド化反応を一部進行させて自己支持性を有するフィルムを形成した後に、加熱によってイミド化を完全に行わせることができる。この場合、イミド化反応を一部進行させる条件としては、好ましくは100〜200℃による3〜20分間の熱処理であり、イミド化反応を完全に行わせるための条件は、好ましくは200〜400℃による3〜20分間の熱処理である。
【0041】
本発明のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、その効果の発現の顕著さにおいて7μm以下が好ましい。
従来7μm以下、特に5μm以下のポリイミドフィルムの長尺フィルムを工業的に安定的に製造することが困難であり、また得られたこれらの極薄ポリイミドフィルムはその厚さ斑が極端に大きく、例えば市販の7.5μmのポリイミドフィルムの厚さ斑は25%程度のものであり、寸法精度の要求される電子部品などにおいては品質上問題があった。
このポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの厚さはポリアミド酸溶液を支持体に塗布する際の塗布量や、ポリアミド酸溶液の濃度によって容易に制御し得る。
【0042】
本発明において、これらの厚さ斑が20%以下である7μm以下の厚さであるポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを得る方法は、特に限定されるものではないが、好ましい方法として、(1)芳香族テトラカルボン酸類とベンゾオキサゾール骨格を有する芳香族ジアミン類とを反応させて得られるポリアミド酸を流延・乾燥し前駆体フィルム(ポリアミド酸フィルム)を得て、該前駆体フィルムを、フィルムの幅方向の両側端部におけるフィルム端部把持が、多数のクリップで挟み込むことやピンシートに設けられた多数のピンで突き刺すことによってなされ、幅方向およびまたは搬送方向に張設した状態でフィルムを搬送するテンター方式でイミド化させる厚さが7μm以下のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを得るポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの製造方法で、前駆体フィルムの幅方向の両側端部におけるフィルム把持が、イミド化される前駆体(ポリアミド酸)フィルムと細幅のポリイミドフィルムに接着剤層を設けた易接着性ポリイミドフィルムとを重ねて把持およびまたは突き刺すことで固定するポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの製造方法、(2)前記の細幅のポリイミドフィルムが、芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応させて得られるポリアミド酸を流延・乾燥して得られる前駆体フィルムのスリットした所謂前駆体フィルム(グリーンフィルム)である前記(1)の方法が挙げられる。
【0043】
ここで、別に用意された細幅のフィルムは、前駆体フィルムの場合も接着剤層を設けた易接着性ポリイミドフィルムの場合も特に限定されるものではないが、処理される前駆体フィルムと同ジアミンと同テトラカルボン酸からのものが好ましく、製造されるポリイミドフィルムとは別に、同じポリアミド酸溶液を流延・乾燥して別の前駆体フィルムを作成し予め細幅にスリットし用意した細幅ポリイミド前駆体フィルムであるか前駆体フィルムをイミド化させたポリイミドフィルムが好ましく、これらをそのままスリットするか、接着剤層を設けた易接着性ポリイミドフィルムとして後スリットして作製することができる。 その細幅フィルムの幅は20〜80mmが好ましい。またこの別に用意された細幅のフィルムの厚さは、特に限定されないが好ましくは処理される(ポリイミドフィルムとして製造される)前駆体フィルムと同程度の厚さが好ましく、5〜13μmであり、5μm未満の場合には重ね合わせの補強効果が低減しがちとなり、また13μmを超える場合には重ね合わせの補強効果が、ポリイミドフィルムとして製造されるべき前駆体フィルムにおよび難くなりがちとなる。
本発明において7μm以下のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムをロールツウロールでイオンガン処理などを行う場合は、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムにポリエステルフィルムなどの剛性のあるフィルムを耐熱性接着剤などを介して裏打ちして使用し、処理後にこの裏打ちフィルムを剥離除去する方法を採用することが好ましい。
【0044】
本発明においては、表面構造改質処理後の表面積率が1.2以上、2.8以下であることが必須である。本発明における表面積率とは、表面が理想平面に対し、何倍の表面積を持つかを示すものであり、表面物性評価機能付走査型プローブ顕微鏡によって好適に求めることができる。具体的には、例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のSPA300/SPI3800Nを使用することができる。
この表面積率の範囲はより好ましくは1.3以上、2.6以下、さらに好ましくは1.4以上、2.5以下である。
【0045】
本発明のフィルムの表面自由エネルギーのうちの極性成分(γsh)とは、D.K.Owens:J.Appl.Polym.Sci.,13巻,1741頁(1969)に基づいて、表面自由エネルギーγsv(単位:mN/m)は、γsv=γsd+γshであるとの定義に基づいて、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム上で実験的に求められるものである。
すなわち、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム上での純水(HO)とヨウ化メチレン(CH)のそれぞれの接触角θH2O、θCH2I2を測定し、以下の連立方程式a、bから求めることができる。
a.1+cosθH2O
2(γsd0.5((γH2Od0.5/γH2Ov)+2(γsh0.5((γH2Oh0.5/γH2Ov
b.1+cosθCH2I2
2(γsd0.5((γCH2I2d0.5/γCH2I2v)+2(γsh0.5((γCH2I2h0.5/γCH2I2v
γH2Od=21.8、γH2Oh=51.0、γH2Ov=72.8、
γCH2I2d=48.5、γCH2I2h=2.3、γCH2I2v=50.8
そこで、ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面自由エネルギーγsvは、γsdとγshの和で表され、本発明で言う極性成分とは、γshを意味する。
【0046】
本発明におけるポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、フィルムの表面自由エネルギーのうちの極性成分(γsh)が5mN/m以下となって接着特性が著しく劣るようになっても、容易に表面自由エネルギーの極性成分(γsh)を15mN/m以上に高くすることができ、接着特性を向上させることができるフィルムである。表面自由エネルギーの極性成分(γsh)は、好ましくは、20mN/m以上、より好ましくは、25mN/m以上である。
表面自由エネルギーの極性成分(γsh)を15mN/m以上に高くする方法としては、該フィルムを放電処理又は活性エネルギー線処理する方法がある。
放電処理としては、減圧プラズマ処理、大気圧プラズマ処理、コロナ処理などを挙げることができ、活性エネルギー線処理としては、紫外線、電子線などを挙げることができる。
したがって、本発明のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、イオンビーム処理されて該フィルムの表面積率が1.2以上、2.8以下であっても、最初からあるいは長期間の保存によって、表面自由エネルギーのうちの極性成分(γsh)が5mN/m以下であるフィルムを、放電処理又は活性エネルギー線処理することによって、前記γshを15mN/m以上にすることができるものでなければならない。
【0047】
本発明におけるポリイミドベンゾオキサゾールフィルムにおいては、表面積率が上記のの範囲で、かつ、表面自由エネルギーの極性成分(γsh)を15mN/m以上に高くすることによって、はじめてPCT処理(飽和水蒸気圧、121℃、2気圧)を96時間した後の接着性を示す剥離強度が4(N/cm)以上を維持するものとなる。表面積率が1.2に満たない場合はPCT処理(飽和水蒸気圧、121℃、2気圧)を96時間した後の接着性を示す剥離強度が4(N/cm)に満たないものとなり、表面積率が2.8を超える場合はPCT処理(飽和水蒸気圧、121℃、2気圧)を96時間した後の接着性を示す剥離強度が4(N/cm)以上であっても処理後フィルムの強度が実用に耐えるものとならない。また表面構造改質処理後の表面積率が1.2以上、2.8以下であって、かつRaが12〜30(nm)であることが好ましく、その機構は明白ではないがPCT処理(飽和水蒸気圧、121℃、2気圧)を96時間した後の接着性を示す剥離強度が十分実用に供することができないものとなる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0049】
1.ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)
ポリマー濃度が0.2g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドン(又は、N,N−ジメチルアセトアミド)に溶解した溶液をウベローデ型の粘度管により30℃で測定した。
2.フィルムの厚さ
測定対象のフィルムについて、マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定した。
【0050】
3.表面積率、表面粗さRa測定法
表面形態の計測は表面物性評価機能付走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製SPA300/SPI3800N)を使用した。計測はDFMモードで行い、カンチレバーはエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製DF3又はDF20を使用した。スキャナーはFS−20Aを使用し、走査範囲は2mm四方、測定分解能は512×512ピクセルとした。計測像については二次傾き補正を行った後、装置付属のソフトウエアで表面積率、表面粗さRaを算出した。
4.剥離強度測定法
上記で得られた各フィルムの処理面同士を向かい合わせて接着した後に、PCT処理(飽和水蒸気圧、121℃、2気圧)を96時間した後の剥離強度を評価した。なお、接着は、京セラケミカル社製TFA880−CAを接着剤として用い、100℃でロールラミ後に160℃、1時間のプレスで硬化させた。試料の剥離強度は、下記測定条件のT字剥離試験で求めた。
装置名 ; 島津製作所社製 オートグラフAG−IS
測定温度 ; 室温
剥離速度 ; 50mm/min
雰囲気 ; 大気
測定サンプル幅; 1cm
【0051】
5.表面自由エネルギー(γsv)の極性成分(γsh)の測定法
(1)フィルムの接触角の測定
測定フィルムを20℃、26%RHの条件下で1時間以上調湿した後に、純水(HO)とヨウ化メチレン(CH)のそれぞれの接触角θH2O、θCH2I2を測定した。
すなわち、協和界面科学(株)製、自動接触角計CA−X型を用い、1.8μlの液滴をフィルム上に滴下して液滴を作り、フィルムと液体とが接する点における、液体表面に対する接線とフィルム表面がなす角で、液体を含む側の角度を接触角として測定した。接触角は1サンプル・1種類の液体につき5回測定し、5回の平均値をθH2O、θCH2I2とした。
(2)表面自由エネルギーの極性成分(γsh)の算出法
上記で得られた接触角θH2O、θCH2I2を、前記の文献(D.K.Owens:J.Appl.Polym.Sci.,13巻,1741頁(1969))に基づいて、文献中の連立方程式a、bに代入して表面自由エネルギーを計算し、γsv(表面自由エネルギー)=γsd+γsh(極性成分)の関係あるγsh(mN/m)を求めた。
【0052】
<重合例1>
<ベンゾオキサゾール構造を有するジアミンからなるポリアミド酸の重合>
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた反応容器内を窒素置換した後、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール500質量部を仕込んだ。次いで、N、N−ジメチルアセトアミド8000質量部を加えて完全に溶解させた後、ピロメリット酸二無水物485質量部を加え,25℃の反応温度で48時間攪拌すると、淡黄色で粘調なポリアミド酸溶液(A)が得られた。得られた溶液のηsp/Cは4.0dl/gであった。
【0053】
<フィルム作成例1>
ポリアミド酸溶液(A)をステンレスベルトにスキージ/ベルト間のギャップを450μmとしてコーティングし、第一乾燥工程として3つの熱風式乾燥ゾーンにて雰囲気温度で90℃×7分間、90℃×7分間、90℃×7分間乾燥した。
乾燥後に自己支持性となった前駆体フィルムをステンレスベルトから剥離し、厚さ40μmのポリイミドベンゾオキサゾール前駆体フィルムを得た。
この剥離した前駆体フィルムを、熱風式乾燥ゾーンにて雰囲気温度150℃で10分間、両面乾燥を行った。
なお、ポリイミドベンゾオキサゾール前駆体フィルムの残留溶媒量は35.5質量%であった。
得られたポリイミドベンゾオキサゾール前駆体フィルムを、連続式の乾燥炉に通し、200℃にて3分間熱処理した後、450℃まで、約20秒間にて昇温し、450℃にて7分間熱処理し、5分間かけて室温まで冷却、褐色のポリイミドベンゾオキサゾールフィルム(A)を得た。同様に、膜厚のみを変えて、褐色のポリイミドベンゾオキサゾールフィルム(A2)、(A3)などを得た。
【0054】
<参考例1〜5>
これらのフィルムを使用して真空槽中でロール走行させながら、イオンガンにて酸素イオン照射を行い、フィルムの表面を処理した。スパッタ装置を使い、表面処理を行った。スパッタ装置はロールツウロール方式の装置であり、巻き出し室、スパッタ室、予備室、巻き取り室へとロールからフィルムが移動されながら、順次、表面処理が行われ、その後に、ロールに巻き取られる。
各室の間は、スリットによって概略仕切られている。イオンガン室ではフィルムはチルロールに接しており、チルロールの温度(−5℃)によって冷やされ、ロール幅方向に均一な、イオン照射が出来るよう幅の広いイオンガンを用いた。イオンガンはAdvanced Energy Industries社の38CMLISを用いた。イオンガンに導入するガスとして酸素を用い、放電電圧520V、放電電流0.6A 放電電力300W、ビームガス流量45sccm、差動圧力3×10−1Paでイオンガンを動作させた。それぞれのポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの250mm幅のものを用い、ロール送り速度は0.05m/minとした。酸素はイオンガン以外からの導入はしなかった。
イオンガン処理のガスと使用フィルムを変えた以外は上記と同様にしてイオンガン処理を実施した。得られた各表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの処理後1日(空気中、20℃、70%RH)経過後のフィルムについての評価結果を参考例1〜5として表1に示した。
【0055】
【表1】

【0056】
<参考例6〜8>
イオンガン処理を行わないポリイミドベンゾオキサゾールフィルム(A)について、上記と同様の評価を行い、その結果を参考例6として表2に示した。
単位面積に加わるエネルギーを下げるために、フィルム送り速度を0.2m/minとした以外は実施例1と同様に表面処理したフィルムについての評価結果を参考例7として表2に示した。
ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム(A)の250mm幅のものを、酸素のグロー放電でポリイミドフィルムの表面を処理した。処理時の条件は、O(酸素)ガス圧2×10−3Torr、流量50SCCM、放電周波数13.56MHz、出力450Wであり、処理時間は、フィルム送り速度0.1m/minで有効プラズマ照射幅が10cm程度のため、1箇所のプラズマ照射時間が1分間である。処理フィルムの評価結果を参考例8として、表2に示した。
なお、各処理フィルムの評価は、処理後1日(空気中、20℃、70%RH)経過後のフィルムについて実施した。
【0057】
【表2】

【0058】
上記参考例1〜8のフィルムを、空気中、20℃、70%RHの環境下に保存(1日(初期)、60日及び120日)した場合の表面自由エネルギーの極性成分の経時変化について表3に示す。
【表3】

【0059】
なお、60日及び120日保存経過後の各ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムについて、処理面同士を向かい合わせて接着した後に、PCT処理(飽和水蒸気圧、121℃、2気圧)を96時間した後の剥離強度は、いずれも2mN/m以下であった。
【0060】
<実施例1〜5、比較例1〜3>
上記参考例1〜8のポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの120日保存経過後の各フィルムを、A4サイズにカットして、バッチ式のスパッタ装置を用いて、RIEモードで、酸素のグロー放電でポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの表面をプラズマ処理した。処理時の条件は、Oガス圧2×10−3Torr、流量50SCCM、放電周波数13.56MHz、出力450Wで、処理時間は、プラズマ照射時間が1分間である。
これらの簡便なプラズマ処理で得られた各ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムについての評価結果を表4に示した。
【0061】
【表4】

【0062】
本発明の表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、簡便なプラズマ処理で表面自由エネルギーの極性成分の値が容易に高くなるとともに、接着剥離試験による剥離強度が高く、接着性が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムは、簡単な処理で接着性を向上させることができ、かつポリイミドベンゾオキサゾールフィルムのPCT処理後の接着性(剥離強度)を実用的な値にすることができる。このため、フレキシブルプリント配線板などの電子部品における高温多湿の過酷な環境でも使用することがより可能となり、しかも、その表面構造改質処理方法が非常に容易であることからも、産業界に大きく寄与することが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムがイオンビーム処理されて表面積率が1.2以上、2.8以下で、該フィルムの表面自由エネルギーのうちの極性成分(γsh)が5mN/m以下となったフィルムであって、該フィルムを放電処理又は活性エネルギー線処理して前記表面自由エネルギーのうちの極性成分(γsh)を15mN/m以上とすることが可能であることを特徴とする表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項2】
ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムが、引張弾性率が4GPa以上10GPa以下、厚さが7μm以下1μm以上である請求項1記載の表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項3】
イオンビーム処理に用いるガスが、酸素と窒素との混合ガスである請求項1又は2に記載の表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項4】
イオンビーム処理が、イオンガンを備えたロールツウロールフィルム処理装置においてなされ、処理して得られたフィルムが幅250mm以上2m以下、長さ10m以上20000m以下である請求項1〜3いずれかに記載の表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルム。
【請求項5】
ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムがイオンビーム処理されて該フィルムの表面積率が1.2以上、2.8以下で、かつ表面自由エネルギーのうちの極性成分(γsh)が5mN/m以下となったポリイミドベンゾオキサゾールフィルムを、放電処理又は活性エネルギー線処理して前記γshを15mN/m以上にすることを特徴とする表面構造改質ポリイミドベンゾオキサゾールフィルムの処理方法。

【公開番号】特開2009−227881(P2009−227881A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77046(P2008−77046)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】