説明

表面潤滑性を有する樹脂成形品及びその製造方法

【課題】湿潤時に高度な潤滑性を安定して発現することが可能な表面潤滑性を有する樹脂成形品及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリオレフィン又はポリオレフィンを含むコンパウンドを基材2とする樹脂成形品1であって、基材2の表面に形成されて親水基を有する表面活性化処理層3と、樹脂成形品1の最表層として形成されて、不溶化されていない部分を有する親水性高分子層4と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面潤滑性を有する樹脂成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンあるいはポリオレフィン系の樹脂成形品表面に潤滑性を与える方法として、様々な手法が検討されている。特に近年では、疎水性であるポリオレフィン表面にハイドロゲル層を形成し、湿潤時に潤滑性を与える方法が研究されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この方法では、潤滑成分として不溶化した親水性高分子を適用し、ポリオレフィンに対して接着性を有する樹脂と混合する、あるいは積層して基材と密着させることにより、表面潤滑性を付与している。
【特許文献1】特開平8−24328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法では、最表層が、ポリオレフィンに対して接着性を有する樹脂と親水性高分子の不溶化物との混合物であるため、親水性高分子の割合が減少した場合には潤滑性が低下するという問題がある。一方、ポリオレフィンに対して接着性を有する樹脂の上に親水性高分子の不溶化物層を形成する場合には、ポリオレフィンに対して接着性を有する樹脂が、ポリオレフィン基材と強固な結合を形成する。しかし、このポリオレフィンに対して接着性を有する樹脂は親水性高分子の不溶化物層との間にはなんらの結合も形成しないため、親水性高分子との密着性に問題があり、親水性高分子層の脱落により急激に潤滑性が低下する虞がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、湿潤時に高度な潤滑性を安定して発現することが可能な表面潤滑性を有する樹脂成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品は、ポリオレフィン又はポリオレフィンを含むコンパウンドを基材とする樹脂成形品であって、前記基材の表面に形成されて親水基を有する表面活性化処理層と、前記樹脂成形品の最表層として形成されて、不溶化されていない部分を有する親水性高分子層と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
この発明における、親水基を有する表面活性化処理層とは、コロナ放電処理やプラズマ処理等の何らかの手段により、水酸基やカルボキシル基といった親水基が導入された表面のことである。
よって、ポリオレフィンまたはポリオレフィンを含むコンパウンドからなる樹脂成形品の基材表面に、親水基を有する表面活性化処理層を形成し、その上に親水性高分子層が形成されているので、親水性高分子が親水基を有する表面と強固な結合を形成して密着させることができる。また、親水性高分子層が不溶化されていない部分を有するので、親水性高分子層が形成された表面に水分を供給すると、不溶化されていない部分を徐々に溶解させることができ、溶解した部分と水分との混合物を相手部材との間で潤滑剤として作用させることができる。
【0008】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品であって、前記親水性高分子層が、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体から選ばれる少なくとも1種類の材料からなることを特徴とする。
【0009】
この発明は、上記親水性高分子材料が比較的安価で入手しやすく、また湿潤時の潤滑性にも優れるため、より好適な表面潤滑性を安価に得ることができる。
【0010】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品であって、水分を保持し、前記親水性高分子層に水分を供給する保水性ゲル層が、前記表面活性化処理層と前記親水性高分子層との間に配されていることを特徴とする。
【0011】
この発明は、乾燥雰囲気下においても、保水性ゲル層から親水性高分子層に水分が供給されるので、親水性高分子層が乾燥することなく、より長期間湿潤状態を保つことができる。
【0012】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品であって、前記保水性ゲル層が、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリエチレンオキサイド、セルロース、でん粉、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルポリピロリドン、アクリル酸、N−ビニルピロリドン、ビニルエーテルモノマー、及び無水マレイン酸モノマーから選ばれる少なくとも1種類の材料からなることを特徴とする。
【0013】
この発明は、上記材料が比較的安価で入手しやすく、保水性が高いうえに毒性も低いので、より好適な表面潤滑性を安価に得ることができる。特に、用いる親水性高分子と同種の材料、例えば親水性高分子にポリビニルアルコールを使用する際にはポリビニルアルコールによるゲル層を、親水性高分子にポリエチレングリコールを使用する際にはポリエチレンオキサイドによるゲル層を、親水性高分子にポリビニルピロリドンを使用する際にはビニルピロリドン系のゲル層を、親水性高分子にメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体を使用する際には同材料又はビニルエーテルモノマー及び無水マレイン酸モノマーによるゲル層をそれぞれ使用した場合には、親水性高分子層と保水性ゲル層との親和性が向上し、密着性をより向上させることができる。
【0014】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品であって、前記保水性ゲル層の架橋度が、前記親水性高分子層の架橋度よりも大きいことを特徴とする。
【0015】
この発明は、保水性ゲル層の架橋度を高めることにより、分子間の結合点が増加し、より固体に近い状態になるため、保水性ゲル層の膜強度と保水性を確保することができる。
【0016】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品であって、前記保水性ゲル層の架橋度が、前記親水性高分子層側から前記表面活性化処理層側に向かって連続的に、或いは段階的に増大していることを特徴とする。
【0017】
この発明は、表面活性化処理層側の保水性ゲル層の架橋度を高めることにより、分子間の結合点が増加し、より固体に近い状態になるため、表面活性化処理層側の保水性ゲル層の膜強度と保水性を確保することができる。さらに、保水性ゲル層の架橋度が親水性高分子層に向かって連続的に、或いは段階的に低下するので、保水性ゲル層の分子構造を親水性高分子層の分子構造に近似させることができ、結合点を増やして親水性高分子層の剥離や脱落を好適に抑えることができる。
【0018】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品であって、前記保水性ゲル層が、架橋度の互いに異なる少なくとも3層から構成され、前記親水性高分子層に最も近い層を第一層及び前記表面活性化処理層に最も近い層を第二層としたとき、第一層及び第二層の厚さに比べて、前記第一層及び前記第二層に挟まれた層の厚さのほうが大きいことを特徴とする。
【0019】
一般に、保水性ゲル層は、その架橋度が高くなるほど供給された水分が散逸しにくくなるため保水性は向上するが、架橋度が高くなりすぎると水分の供給が困難になるため保水性は逆に低下する。この発明は、保水性ゲル層と親水性高分子層および表面活性化処理層との密着性を確保するとともに、架橋度が中程度で保水性の良好な層の厚さを比較的大きくとることにより、保水性ゲル層の保水性を高めることができる。
【0020】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品であって、前記親水性高分子層と前記保水性ゲル層とが同一の材料を備えていることを特徴とする。
【0021】
この発明は、保水性ゲル層と親水性高分子層とに架橋度の異なる同一の材料を用いるため、両層の密着性を高めることができる。
【0022】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品であって、前記親水性高分子層と前記保水性ゲル層とが、同一の成分を主成分として有し、前記親水性高分子層における前記成分の重量比率が、前記保水性ゲル層における前記成分の重量比率より大きいことを特徴とする。
【0023】
この発明は、親水性高分子層と保水性ゲル層とに同一の成分を主成分として用いるため、両層の密着性を高めることができる。また、潤滑性を担う成分の親水性高分子層における重量比率を高めることにより、親水性高分子層の潤滑性を確保することができる。なお、本発明において、「主成分」とは、「層が備える材料を構成する成分のうち、材料における重量比率が50%を超える成分」をいう。
【0024】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品であって、前記保水性ゲル層における前記成分の重量比率が、前記表面活性化処理層側から前記親水性高分子層側に向かって連続的に、或いは段階的に増大していることを特徴とする。
【0025】
この発明は、保水性ゲル層の親水性高分子層に近い部分における潤滑性を担う成分の重量比率を高くすることにより潤滑性を確保することができる。また、表面活性化処理層側に向かって前記成分の重量比率を連続的に或いは段階的に低下させることにより、より固体に近い状態になるため、表面活性化処理層側の保水性ゲル層の膜強度を向上させることができ、保水性ゲル層と表面活性化処理層との密着性をより高めることができる。
【0026】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品であって、前記親水性高分子層と前記保水性ゲル層とが、同一の成分を主成分として有する同一の材料を備えていることを特徴とする。
【0027】
この発明は、保水性ゲル層と親水性高分子層とに同一の成分を主成分として有する同一の材料を用いるため、両層の密着性をさらに高めることができる。また、潤滑性を担う成分の親水性高分子層における重量比率を高めることにより、親水性高分子層の潤滑性を確保することができる。さらに、保水性ゲル層においては、上記成分の重量比率を低くし、その分例えば保水性を担う他の成分の重量比率を高めることにより、保水性ゲル層の保水性を確保することができる。
【0028】
本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法は、ポリオレフィン又はポリオレフィンを含むコンパウンドを基材とする樹脂成形品の製造方法であって、前記基材の表面に表面活性化処理層を形成する表面活性化処理工程と、不溶化されていない部分を有する親水性高分子層を形成する潤滑層コーティング工程と、を備えていることを特徴とする。
【0029】
この発明は、ポリオレフィン又はポリオレフィンを含むコンパウンドからなる樹脂成形品基材表面に表面活性化処理を行うことにより、表面のC−H結合が切断され、大気中の水分等から親水基である水酸基やカルボキシル基が供給されて、ポリオレフィン基材表面を親水性に改質することができる。従って、親水性に改質された表面が、親水性高分子によるコーティング層と強固な結合を形成することができ、密着性を高めることができる。
また、親水性高分子層が不溶化されていない部分を有するので、潤滑層コーティング工程において形成された親水性高分子によるコーティング層の表面に水分を供給すると、不溶化されていない部分を徐々に溶解することができ、溶解した部分と水分との混合物を相手部材との間で潤滑剤として作用させることができる。
【0030】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法であって、前記表面活性化処理工程が、コロナ放電処理、低圧水銀灯或いはエキシマランプによる紫外線照射、エキシマレーザ照射、プラズマ照射、及びオゾン処理から選ばれる少なくとも1種類の処理を含むことを特徴とする。
【0031】
この発明は、上記処理により樹脂成形品の基材表面を確実に活性化することができる。
【0032】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法であって、前記親水性高分子層が、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、およびメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体から選ばれる少なくとも1種類の材料からなることを特徴とする。
【0033】
この発明は、上記材料が比較的安価で人手しやすく、また湿潤時の潤滑性にも優れるため、容易に潤滑性表面を形成することが可能となる。
【0034】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法であって、水分を保持し、前記親水性高分子層に水分を供給する保水性ゲル層を前記表面活性化処理層と前記親水性高分子層との間に形成する保水層コーティング工程をさらに備えていることを特徴とする。
【0035】
この発明は、表面活性化処理層と親水性高分子によるコーティング層との間に水分を保持する保水性ゲル層を形成することにより、乾燥雰囲気下においても、保水性ゲル層から親水性高分子層に水分を供給することができ、親水性高分子層が乾燥することを防止して、より長期間湿潤状態を保つことができる。
【0036】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法であって、前記保水性ゲル層が、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリエチレンオキサイド、セルロース、でん粉、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルポリピロリドン、アクリル酸、N−ビニルピロリドン、ビニルエーテルモノマー、無水マレイン酸モノマーから選ばれる少なくとも1種類の材料からなることを特徴とする。
【0037】
この発明は、上記材料が比較的安価で入手しやすく、保水性が高いうえに毒性も低いので、保水性ゲル層を容易に形成することができる。その際、上記材料を適宜選択することができ、親水性高分子層との組み合わせもあらゆる物が適用できる。特に、親水性高分子と同種の材料、例えば親水性高分子にポリビニルアルコールを使用する際には、ポリビニルアルコールによるゲル層を、親水性高分子にポリエチレングリコールを使用する際にはポリエチレンオキサイドによるゲル層を、親水性高分子にポリビニルピロリドンを使用する際にはビニルピロリドン系のゲル層を、親水性高分子にメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体を使用する際には同材料、又はビニルエ−テルモノマー及び無水マレイン酸モノマーによるゲル層をそれぞれ使用するようにすれば、親水性高分子層と保水性ゲル層との親和性が向上し、密着性を容易に向上させることができる。
【0038】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法であって、前記保水層コーティング工程が、前記親水性高分子層側から前記表面活性化処理層側まで連続的に、あるいは段階的に、前記保水性ゲル層の架橋度を増大させる工程を備えていることを特徴とする。
【0039】
この発明は、保水層コーティング工程において表面活性化処理層側の保水性ゲル層の架橋度を高めることにより、分子間の結合点が増加し、より固体に近い状態になるため、表面活性化処理層側の保水性ゲル層の膜強度と保水性を確保することができる。さらに、保水層コーティング工程において保水性ゲル層の架橋度を親水性高分子層に向かって連続的に、或いは段階的に低下させるので、保水性ゲル層の分子構造を親水性高分子層の分子構造に近似させることができ、結合点を増やして親水性高分子層の剥離や脱落を好適に抑えることができる。
【0040】
また、本発明に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法は、前記表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法であって、前記保水層コーティング工程が、前記保水性ゲル層を、架橋度の異なる少なくとも3層から構成し、前記親水性高分子層側の層および前記表面活性化処理層側の層の厚さに比べて、それらの層の中間に位置する層の厚さのほうを大きくする工程を備えていることを特徴とする。
【0041】
この発明は、保水性ゲル層と親水性高分子層および表面活性化処理層との密着性を確保するとともに、例えば架橋度が中程度の材料からなる層を形成するための時間や回数を増加させて保水性の良好な層の厚さを比較的大きくとることにより、保水性ゲル層の保水性を高めることができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、湿潤時に高度な潤滑性を安定して発現することが可能な表面潤滑性を有する樹脂成形品及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明に係る第1の実施形態について、図1を参照して説明する。
本実施形態に係る表面潤滑性を有する樹脂成形品(以下、単に樹脂成形品と称する。)1は、ポリオレフィン又はポリオレフィンを含むコンパウンドを基材2とする樹脂成形品であって、基材2の表面2aに形成されて親水基を有する表面活性化処理層3と、表面活性化処理層3の表面に(樹脂成形品1の最表層として)形成されて、不溶化されていない部分を有する親水性高分子層4と、を備えている。
【0044】
親水性高分子層4は、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体から選ばれる少なくとも1種類の材料から構成されている。
【0045】
次に、本実施形態に係る樹脂成形品1の製造方法及び作用について説明する。
この樹脂成形品1の製造方法は、基材2の表面2aに表面活性化処理層3を形成する表面活性化処理工程と、不溶化されていない部分を有する親水性高分子層4を形成する潤滑層コーティング工程と、を備えている。
【0046】
表面活性化処理工程は、コロナ放電処理、低圧水銀灯或いはエキシマランプによる紫外線照射、エキシマレーザ照射、プラズマ照射、及びオゾン処理から選ばれる少なくとも1種類の処理を含み、表面活性化処理層3を形成する。これによって、基材2の表面2aに表面活性化処理層3を形成することにより、基材2表面のC−H結合が切断され、大気中の水分等から親水基である水酸基やカルボキシル基が供給され、基材2表面が親水性に改質される。
【0047】
潤滑層コーティング工程は、表面活性化処理層3を表面に形成した基材2を、親水性高分子層4を構成する上記材料を含む溶液に所定時間浸漬させ、引き上げて乾燥させることによって、表面活性化処理層3の表面に親水性高分子層4を形成する。これによって、親水性に改質された表面活性化処理層3が親水性高分子と強固な結合を形成してこれと密着し、親水性高分子層4が形成される。
こうして得られた親水性高分子層4には、不溶化していない部分が残されているので、表面に水分を供給することによって、不溶化していない部分が徐々に溶解する。そして、溶解した部分と水分との混合物が相手部材との間で潤滑剤として作用する。
【0048】
この樹脂成形品1及びこの製造方法によれば、溶解した親水性高分子成分と水分との混合物により、高い潤滑性を発現させることができる。また、基材2表面が親水性に改質されているため、親水性高分子層4が急激に脱落することがなく、安定した潤滑性を得ることが可能である。
【0049】
特にポリビニルピロリドン、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体は湿潤時の潤滑性に非常に優れるため、親水性高分子層4を構成する材料としてより好ましい。また、表面活性化処理工程において、コロナ放電処理を使用した場合には、放電条件により基材2表面にマイクロクラックを形成することができ、親水性高分子層4とのアンカー効果により親水性高分子層4の密着性を高めることができる。
【0050】
次に、第2の実施形態について図2を参照しながら説明する。
なお、上述した第1の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第2の実施形態と第1の実施形態との異なる点は、本実施形態に係る樹脂成形品5が、水分を保持し、親水性高分子層4に水分を供給する保水性ゲル層6を備えているとした点である。
【0051】
保水性ゲル層6は、表面活性化処理層3と親水性高分子層4との間に配されており、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリエチレンオキサイド、セルロース、でん粉、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルポリピロリドン、アクリル酸、N−ビニルピロリドン、ビニルエーテルモノマー、及び無水マレイン酸モノマーから選ばれる少なくとも1種類の材料から構成されている。
【0052】
次に、本実施形態に係る樹脂成形品5の製造方法及び作用について説明する。
この樹脂成形品5の製造方法は、上述した第1の実施形態に係る製造方法に加えて、保水性ゲル層6を表面活性化処理層3と親水性高分子層4との間に形成する保水層コーティング工程をさらに備えている。
【0053】
保水層コーティング工程では、表面活性化処理工程にて基材2の表面に表面活性化処理層3を形成した後、保水性ゲル層6を構成する材料を含む混合溶液中に基材2を浸漬させ、所定時間後に引き上げて乾燥した後、さらに加熱架橋処理を所定時間行う。
こうして、保水性ゲル層6が得られた後は、第1の実施形態と同様の潤滑層コーティング工程を行い、樹脂成形品5を得る。
【0054】
この樹脂成形品5及びこの製造方法によれば、保水性ゲル層6を備えているため、保水性ゲル層6に蓄えられた水分を随時親水性高分子層4に供給することができ、乾燥環境下においても、長期間にわたり親水性高分子層4を湿潤状態に維持することができる。従って、外部からの水分の供給が無い条件下でも、親水性高分子層4の不溶化していない部分で溶解を発生させることができ、乾燥環境下においても高い潤滑性をより長期間発現することができる。
【0055】
次に、第3の実施形態について説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第3の実施形態と第2の実施形態との異なる点は、本実施形態に係る樹脂成形品7の保水性ゲル層8の架橋度が、親水性高分子層4の架橋度よりも大きく、親水性高分子層4側から表面活性化処理層3側に向かって連続的に、或いは段階的に増大しているとした点である。ここで、親水性高分子層4と保水性ゲル層8とが同一の材料を備えている。
【0056】
この樹脂成形品7の製造方法及び作用について説明する。
ここでは、保水層コーティング工程が、親水性高分子層4側から表面活性化処理層3側まで連続的に、或いは段階的に、保水性ゲル層8の架橋度を増大させる工程を備えている。
【0057】
具体的には、保水性ゲル層8を構成する架橋剤の添加比率を連続的に、或いは段階的に変化させた混合溶液を数種類用意して、表面活性化処理層3が表面に形成された基材2を前記混合溶液に浸漬、乾燥を繰り返し、保水性ゲル層8における架橋度が、親水性高分子層4側から表面活性化処理層3側に向かって段階的に増大するようにする。このとき、数種類の混合溶液のうち架橋剤の添加比率が中程度の混合溶液に基材2を浸漬する時間、または浸漬、乾燥を繰り返す回数を相対的に多くするのがよい。この結果、保水性ゲル層8において、親水性高分子層4に最も近い領域に形成された層を図示しない第一層及び表面活性化処理層3に最も近い領域に形成された層を図示しない第二層としたとき、第一層及び第二層の厚さに比べて、第一層及び第二層に挟まれた中間の層の厚さのほうが大きくなる。こうして、保水性ゲル層8が得られた後は、潤滑層コーティング工程を行い、樹脂成形品7を得る。
【0058】
この樹脂成形品7及びこの製造方法によれば、保水性ゲル層8の架橋度の高い表面活性化処理層3側では強固な膜が形成されるため、水分によって結合が解けることもなく、保水性や基材2との密着性を高めることができる。一方、保水性ゲル層8の架橋度の低い親水性高分子層4側では、架橋していない分子と親水性高分子との絡み合いや結合等が発生し、緩やかな結合を形成させることができる。そのため、親水性高分子層4の剥離や脱落を抑えることができる。さらに、親水性高分子層4が磨耗等により完全に消滅した後も、架橋度の低い保水性ゲル層8を徐々に溶解させることにより、親水性高分子層4に近い潤滑性を維持することができる。従って、より強固な結合と保水性とを得ることができ、より長期にわたって高い潤滑性を発揮することができる。
【0059】
本実施形態では親水性高分子層4と保水性ゲル層8とが同一の材料を備えているとしたが、保水性ゲル層8の架橋度が親水性高分子層4の架橋度より大きければよく、必ずしも、親水性高分子層4と保水性ゲル層8とが同一の材料を備えていなくてもよい。
【0060】
さらに、架橋度の制御方法としては、架橋剤のような架橋性を制御する材料の添加比率を調整するだけでなく、加熱架橋時の温度や時間による制御や、光開始剤を添加した際の光照射時間、光強度による制御によっても構わない。
【0061】
次に、第4の実施形態について説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第4の実施形態と第2の実施形態との異なる点は、本実施形態に係る樹脂成形品9の親水性高分子層4と保水性ゲル層10とが、同一の成分を主成分として有し、親水性高分子層4における該成分の重量比率が、保水性ゲル層10における該成分の重量比率よりも大きく、表面活性化処理層3側から親水性高分子層4側に向かって連続的に、或いは段階的に増大しているとした点である。ここで、親水性高分子層4と保水性ゲル層10とが同一の材料を備えている。
【0062】
この樹脂成形品9の製造方法及び作用について説明する。
ここでは、保水層コーティング工程が、表面活性化処理層3側から親水性高分子層4側まで連続的に、或いは段階的に、保水性ゲル層10における主成分の重量比率を増大させる工程を備えている。
【0063】
具体的には、保水性ゲル層10を構成する潤滑性を担う主成分の重量比率を連続的に、或いは段階的に変化させた混合溶液を数種類用意して、表面活性化処理層3が表面に形成された基材2を前記混合溶液に浸漬、乾燥を繰り返し、保水性ゲル層10における主成分の重量比率が、表面活性化処理層3側から親水性高分子層4側に向かって段階的に増大するようにする。保水性ゲル層10が得られた後は、潤滑層コーティング工程を行い、樹脂成形品9を得る。
【0064】
この樹脂成形品9及びこの製造方法によれば、保水性ゲル層10のうち潤滑性を担う主成分の重量比率の大きい親水性高分子層4側では、親水性高分子との緩やかな結合を形成させることができるため、親水性高分子層4の剥離や脱落を抑えることができる。また、保水性ゲル層10の親水性高分子層4側での潤滑性を確保することができ、親水性高分子層4が磨耗等により完全に消滅した後も、湿潤時に潤滑性を発揮する成分の重量比率の高い保水性ゲル層10を徐々に溶解させることにより、親水性高分子層4に近い潤滑性を維持することができる。従って、より強固な結合と潤滑性とを得ることができ、より長期にわたって高い潤滑性を発揮することができる。
一方、保水性ゲル層10のうち主成分以外の成分を、例えば高い保水性を発揮する成分とすれば、表面活性化処理層3側ではこの成分の重量比率が相対的に増大するため、保水性ゲル層10の表面活性化処理層3側での保水性を確保することができる。また、表面活性化処理層3側では強固な膜が形成されるため、水分によって結合が解けることもなく、基材2との密着性を高めることができる。
【0065】
本実施形態では親水性高分子層4と保水性ゲル層10とが同一の材料を備えているとしたが、親水性高分子層4と保水性ゲル層10とが、同一の成分を主成分として有し、親水性高分子層4における該成分の重量比率が、保水性ゲル層10における該成分の重量比率よりも大きければよく、必ずしも、親水性高分子層4と保水性ゲル層10とが同一の材料を備えていなくてもよい。
【0066】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
基材2の形状は、チューブ形状、シート状、ブロック状等各種形状に対して適用することができる。
【0067】
また、ポリオレフィン或いはポリオレフィンを含むコンパウンドが単独の樹脂成形物ではなく、金属、セラミックスも含めた他材質或いは同材質の上に被覆されたものであっても適用可能である。例えば、ベースとなるチューブの上に押し出し成形により被覆された状態であっても適用可能である。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
外形φ5mm、内径φ3mm、長さ500mmのポリエチレンチューブ(アズワン(株)製:ポリエチレンチューブホース)よりなる基材の表面に、大気中において、処理電力50W、処理時間30秒/100mmにてコロナ放電処理(Tantec社製;CoronaGenerator Model HV05-2)を行い、基材の表面に活性化処理層を形成した。
【0069】
続いて、親水性高分子であるメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体(ダイセル化学工業(株)製)の5%メチルエチルケトン(MEK)溶液に基材を浸漬(室温、60分)し、乾燥させた(60℃、1時間)。その後、さらに60℃の温水中に1時間保持し、乾燥(60℃、12時間)させて、親水性高分子層を形成して、第1の実施形態に係る樹脂成形品(サンプル1)を作製した。
【0070】
次に、同形状のポリプロピレンチューブ(アズワン(株)製:PPチューブ)よりなる基材の表面に、ランプ電力25Wの低圧水銀ランプ(岩崎電気(株)製、バッチ式紫外線照射装置;OC−2506)による紫外線照射を施し、活性化処理層を形成した。照射条件は距離10mm、照射時間5分である。その後、ポリビニルアルコール(和光純薬工業(株)製:部分けん化型)10%水溶液に室温で20分間浸漬し、引き上げ、乾燥(60℃、3時間)して親水性高分子層を形成し、第1の実施形態に係る樹脂成形品(サンプル2)を作製した。
【0071】
さらに、ポリオレフィン配合スチレン系エラストマー((株)クラレ製)をサンプル1と同形状に押し出し成形して得られたエラストマーチューブよりなる基材の表面に、サンプル2と同条件で紫外線を照射し、活性化処理層を形成した。その後ポリビニルピロリドン((株)日本触媒製)5%水溶液中に30分浸漬し、60℃に加熱、3時間乾燥して親水性高分子層を形成し、第1の実施形態に係る樹脂成形品(サンプル3)を作製した。
【0072】
一方、比較例1として未処理のポリエチレンチューブを水にぬらした状態のものと、比較例2として、コロナ放電処理したポリエチレンチューブを、ジメチルスルホキシド(DMSO)(和光純薬工業(株)製、和光1級):純水=6:4の溶媒中に、ボリビニルアルコール(PVA)を加熱溶解した溶液中に浸漬した後加熱・乾燥して、不溶化した親水性高分子サンプルとをそれぞれ作製した。
【0073】
図3に示す評価機Eにて、ガイドチューブG内を挿脱する力量をフォースゲージ((株)イマダ製:DPS−2)Fにて測定した力量の大きさによって、作製したサンプルSの表面潤滑性の評価を行った。ここで、挿脱力量が小さいほど、表面潤滑性が良好であることを示している。測定条件は、挿脱距離300mm、速度50mm/秒、挿脱回数30回である。本実施例におけるガイドチューブGの内径はφ8mmである。ガイドチューブG内は水で濡らして湿潤環境としてある。
【0074】
評価にあたって、サンプル1を水にぬらした状態で評価機にセットし、挿脱力量を測定したところ、約200gfの力量で挿脱が可能であった。サンプル2、3においても同様の評価を行った。一方、比較例1として未処理のポリエチレンチューブを水にぬらした状態で評価機にセットしようとしたところ、ガイドチューブとの抵抗力が大きく挿入不可能であった。
【0075】
また、比較例2のサンプルを水にぬらした状態で評価機にセットし、挿脱力量を測定したところ、約800gfの力量で挿脱が可能であった。特に、挿入時に所々で引っ掛かりがあり、スムーズな挿入が困難であった。また、10回挿脱を行ったところで、急に挿脱抵抗が大きくなり、挿入不可能となった。表面を観察すると、潤滑層の脱落と思われる現象が認められた。
【0076】
その他の評価結果を表1に示す。本実施形態における何れのサンプルにおいても、比較例1、2のサンプルよりも低い力量での挿脱が可能であった。また、挿脱30回後においても、挿脱力量に大きな変化は見られなかった。
【0077】
【表1】

【0078】
(実施例2)
ステンレス銅線よりなるワイヤー及びチタン/ニッケル/コバルト合金の銅線よりなるワイヤーの外側に、オレフィン系エラストマーを被覆し、各々外径φ約1mm、長さ1500mmの2種類の基材を形成した。
そして、このそれぞれの基材の表面に、サンプル2と同条件で紫外線照射を施し、活性化処理層を形成した。その後ポリビニルピロリドン20%水溶液中に室温で120分浸漬し、60℃、4時間加熱・乾燥して親水性高分子層を形成し、サンプル4及び5を作製した。
【0079】
一方、比較例3として、サンプル4と同様にステンレス銅線にオレフィン系エラストマーを被覆した基材に、コロナ放電処理後、ジメチルスルホキシド(DMSO):純水=6:4の溶媒中にポリビニルアルコール(PVA)を加熱溶解した溶液中に浸漬し、その後加熱・乾燥することにより、不溶化した親水性高分子サンプルを作製した。
【0080】
作製したサンプルの評価は、実施例1と同様の図3に示す評価機を用いて行った。本実施例におけるガイドチューブの内径はφ1.5mmである。測定条件は、挿脱距離500mm、速度75mm/秒、挿脱回数30回である。ガイドチューブ内は水で濡らして湿潤環境とした。
こうして、本実施例によるサンプル4を水にぬらした状態で評価機にセットし、挿脱力量を測定したところ、約50gfの力量で挿脱が可能であった。
また、サンプル5を水にぬらした状態で評価機にセットし、挿脱力量を測定したところ、約60gfの力量で挿脱が可能であった。
【0081】
一方、比較例3のサンプルを水にぬらした状態で評価機にセットし、挿脱力量を測定したところ、約120gfの力量が必要であった。また、15回目以降は挿脱力量が約300gfと急激に大きくなった。最表層の潤滑層が脱落したものと推測される。
【0082】
その他の評価結果を表2に示す。本実施例における何れのサンプルにおいても、比較例3よりも低い力量での挿脱が可能であり、挿脱30回後においても挿脱力量に大きな変化は見られなかった。
【0083】
【表2】

【0084】
本実施例における基材のベースは金属であるが、オレフィン系樹脂を被覆することにより、実施例1と同様の作用を発現することが可能となる。すなわち、樹脂ベースだけでなく、金属ベースに対しても、オレフィン系樹脂を被覆して基材とすることにより、高度な潤滑性を安定して発現することが可能となる。
【0085】
(実施例3)
外形φ15mm、内径φ12mm、長さ2000mmのポリエチレンチューブよりなる基材の外表面に、大気中においてコロナ放電処理を施し、活性化処理層を形成した。コロナ放電処理条件は、処理電力200W、処理時間5秒/100mmである。その後、ジメチルスルホキシド(DMSO):純水=5:5の溶媒中にポリビニルアルコール(PVA)を加熱溶解した溶液中にポリエチレンチューブを浸漬し、その後引き上げ、加熱・乾燥することによりPVAをゲル化させ、保水性ゲル層を形成した。さらに、その後、ポリビニルアルコール10%水溶液中に浸漬、引き上げ、加熱乾燥させ、親水性高分子層を形成し、第2の実施形態に係るサンプル6を作製した。
【0086】
次に、外形φ16mm、内径φ12mm、長さ2000mmのウレタンチューブ(ニッタ・ムアー(株)製)の外側に、押し出し成形によりオレフィン系エラストマー(三菱化学(株)製)を被覆して基材を形成した。その後、ランプ電力25Wの低圧水銀ランプにより基材の表面に紫外線照射を施し、活性化処理層を形成した。照射条件は距離30mm、照射時間30分である。その後、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸(VEMA)9部とセルロース(和光純薬工業(株)製:ヒドロキシプロピルセルロース)1部とMEK90部の混合溶液を表面に塗布し、60℃で3時間乾燥後、60℃の温水中に3時間保持することにより架橋を行い、保水性ゲル層を形成した。その後、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体の1%MEK溶液に浸漬し、乾燥させた後さらに75℃の温水中に1時間保持し、60℃で20時間乾燥させて、親水性高分子層を形成し、第2の実施形態に係るサンプル7を作製した。
【0087】
次にサンプル4と同形状のポリプロピレンチューブよりなる基材の表面に、大気中においてコロナ放電処理を施し、活性化処理層を形成した。コロナ放電処理条件は、処理電力100W、処理時間15秒/100mmである。その後、N−ビニルピロリドンモノマー((株)日本触媒製)と主鎖架橋剤ペンタエリスリトールトリアリルエーテル(ダイソー(株)製)と重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業(株)製)との混合溶液中に60分間浸漬し、引き上げ、室温にて12時間乾燥させた後に、60〜80℃、3時間で加熱架橋処理を施し、保水性ゲル層を形成した。その後、ポリビニルピロリドン(PVP)20%水溶液中に60分間浸漬し、60℃で3時間乾燥させて、親水性高分子層を形成し、第2の実施形態に係るサンプル8を作製した。
【0088】
一方、比較例4として、サンプル6と同形状のポリエチレンチューブよりなる基材の外表面に、大気中においてコロナ放電処理を施し、その後、ポリビニルアルコール10%水溶液中に浸漬、引き上げ、加熱乾燥させ、親水性高分子層を形成した。すなわち、比較例4はサンプル6から保水性ゲル層を省略したものに相当する。
【0089】
作製したサンプルの評価は、実施例1と同様の図3に示す評価機にて行った。本実施例におけるガイドチューブの内径はφ20mmである。測定条件は、挿脱距離500mm、速度50mm/秒、挿脱回数30回である。なお、本実施例におけるガイドチューブ内は水に濡らさずに乾燥環境とした。
本実施例におけるサンプル6を水にぬらした状態で評価機にセットし、挿脱力量を測定したところ、約420gfの力量で挿脱が可能であった。同様に、サンプル7、8についても評価を行った。
【0090】
これに対して比較例4のサンプルを水にぬらした状態で評価機にセットし、挿脱力量を測定したところ、約420gfの力量が必要であった。一方、挿脱30回目での挿脱力量は約1200gfになった。すなわち、初期においてはサンプル6と同程度の潤滑性であったが、挿脱を繰り返すことにより潤滑性が急激に低下したことがうかがえる。挿脱30回後のサンプルを観察すると、表面の潤滑層が乾燥しているのが認められた。
【0091】
その他の評価結果を表3に示す。本実施の形態におけるいずれのサンプルにおいても、比較例4に対し、挿脱30回後においても、挿脱力量に大きな変化は見られなかった。
【0092】
【表3】

【0093】
(実施例4)
外形φ5mm、内径φ3mm、長さ500mmのポリエチレンチューブ(アズワン(株)製:ポリエチレンチューブホース)よりなる基材の表面に、大気中において、処理電力50W、処理時間30秒/100mmにてコロナ放電処理(Tantec社製;CoronaGenerator Model HV05-2)を行い、活性化処理層を形成した。
【0094】
その後、表4に示すように、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸(VEMA)に対するヒドロキシプロピルセルロース(HPC)(和光純薬工業(株)製)の添加比率を変えたアセトン混合溶液に、全樹脂重量と同重量の蒸留水を添加して、3種類のコート液A,B,Cをそれぞれ調整した。その後、活性化処理層が表面に形成された基材に対して、コート液Aの塗布、乾燥、コート液Bの塗布、乾燥、コート液Cの塗布、乾燥、の順に塗布と乾燥を繰り返した。
【0095】
【表4】

【0096】
3種類のコート液を表面に塗布後、60℃で3時間乾燥し、さらにその後、90℃、12時間加熱により架橋を行った。その後60℃の温水中に1時間保持することにより親水化処理を行い、架橋度が段階的に変化する保水性ゲル層を形成した。その後、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体の1%水溶液に浸漬し、乾燥させた後さらに75℃の温水中に1時間保持し、60℃で20時間乾燥させて、親水性高分子層を形成し、サンプル9を作製した。このサンプル9では、保水性ゲル層の形成に際して、架橋剤としてのヒドロキシプロピルセルロースの添加比率を段階的に下げることにより、活性化処理層から親水性高分子層に向かって、架橋度が段階的に低下する保水性ゲル層となっている。
【0097】
作製したサンプル9の評価は、他の実施例と同様の図3に示す評価機にて行った。本実施例におけるガイドチューブの内径はφ20mmである。測定条件は、挿脱距離500mm、速度50mm/秒、挿脱回数60回である。なお、本実施例におけるガイドチュ−ブ内は、水に濡らさずに乾燥環境とした。本実施例に係るサンプル9を水に濡らした状態で評価機にセットし、挿脱力量を測定したところ、約400gfの力量で挿脱が可能であった。さらに挿脱回数60回後においても約390gfの力量で挿脱可能であり、耐久性が高くなっていた。
なお、本実施例においては、保水性ゲル層の架橋度を3段階に変化させたが、これに限られるものでなく、材料や目的に応じて任意に設定してよい。
【0098】
(実施例5)
外形φ5mm、内径φ3mm、長さ500mmのポリエチレンチューブ(アズワン(株)製:ポリエチレンチューブホース)よりなる基材の表面に、大気中において、処理電力50W、処理時間30秒/100mmにてコロナ放電処理(Tantec社製;CoronaGenerator Model HV05-2)を行い、活性化処理層を形成した。
【0099】
その後、アクリル酸(和光純薬工業(株)製)にメチレンビスアクリルアミド(和光純薬工業(株)製)を0.15wt%溶解させた溶液Dと、純水中にメチルビニルエーテル−無水マレイン酸(VEMA)を9.8wt%、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)(和光純薬工業(株)製)を0.2wt%溶解させた溶液Eを作成し、溶液D中のアクリル酸と溶液E中のメチルビニルエーテル−無水マレイン酸(VEMA)の重量比率を表5に示すように変化させた3種類のコート液F,G,Hをそれぞれ調整した。その後、活性化処理層が表面に形成された基材に対して、コート液Fの塗布、乾燥、コート液Gの塗布、乾燥、コート液Hの塗布、乾燥、の順に塗布と乾燥を繰り返した。
【0100】
【表5】

【0101】
3種類のコート液を表面に塗布後、80℃、12時間加熱により架橋を行い、主成分であるメチルビニルエーテル−無水マレイン酸(VEMA)とアクリル酸との重量比率が段階的に変化する保水性ゲル層を形成した。その後、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体とアクリル酸を重量比率99.5:0.5で混合した混合物の1%水溶液に浸漬し、乾燥させた後さらに75℃の温水中に1時間保持し、60℃で20時間乾燥させて、親水性高分子層を形成し、サンプル10を作製した。このサンプル10では、保水性ゲル層の形成に際して、より潤滑性の高いメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体を主成分とし、その重量比率を段階的に上げることにより、活性化処理層から親水性高分子層に向かって、潤滑性が段階的に増加する保水性ゲル層となっている。
【0102】
作製したサンプル10の評価は、他の実施例と同様の図3に示す評価機にて行った。本実施例におけるガイドチューブの内径はφ20mmである。測定条件は、挿脱距離500mm、速度50mm/秒、挿脱回数60回である。なお、本実施例におけるガイドチュ−ブ内は、水に濡らさずに乾燥環境とした。本実施例に係るサンプル10を水に濡らした状態で評価機にセットし、挿脱力量を測定したところ、約380gfの力量で挿脱が可能であった。さらに挿脱回数60回後においても約390gfの力量で挿脱可能であり、耐久性が高くなっていた。
なお、本実施例においては、保水性ゲル層における主成分の重量比率を3段階に変化させたが、これに限られるものでなく、材料や目的に応じて任意に設定してよい。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る樹脂成形品を示す断面図である。
【図2】本発明の第2、第3、および第4の実施形態に係る樹脂成形品を示す断面図である。
【図3】本発明に係る樹脂成形品の表面潤滑性を評価する際に使用する評価機を示す概要図である。
【符号の説明】
【0104】
1,5,7,9 樹脂成形品
2 基材
3 表面活性化処理層
4 親水性高分子層
6,7,8,10 保水性ゲル層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン又はポリオレフィンを含むコンパウンドを基材とする樹脂成形品であって、
前記基材の表面に形成されて親水基を有する表面活性化処理層と、
前記樹脂成形品の最表層として形成されて、不溶化されていない部分を有する親水性高分子層と、
を備えていることを特徴とする表面潤滑性を有する樹脂成形品。
【請求項2】
前記親水性高分子層が、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体から選ばれる少なくとも1種類の材料からなることを特徴とする請求項1に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品。
【請求項3】
水分を保持し、前記親水性高分子層に水分を供給する保水性ゲル層が、前記表面活性化処理層と前記親水性高分子層との間に配されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品。
【請求項4】
前記保水性ゲル層が、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリエチレンオキサイド、セルロース、でん粉、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルポリピロリドン、アクリル酸、N−ビニルピロリドン、ビニルエーテルモノマー、及び無水マレイン酸モノマーから選ばれる少なくとも1種類の材料からなることを特徴とする請求項3に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品。
【請求項5】
前記保水性ゲル層の架橋度が、前記親水性高分子層の架橋度よりも大きいことを特徴とする請求項3又は4に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品。
【請求項6】
前記保水性ゲル層の架橋度が、前記親水性高分子層側から前記表面活性化処理層側に向かって連続的に、或いは段階的に増大していることを特徴とする請求項5に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品。
【請求項7】
前記保水性ゲル層が、架橋度の互いに異なる少なくとも3層から構成され、
前記親水性高分子層に最も近い層を第一層及び前記表面活性化処理層に最も近い層を第二層としたとき、第一層及び第二層の厚さに比べて、前記第一層及び前記第二層に挟まれた層の厚さのほうが大きいことを特徴とする請求項6に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品。
【請求項8】
前記親水性高分子層と前記保水性ゲル層とが同一の材料を備えていることを特徴とする請求項5から7の何れか一項に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品。
【請求項9】
前記親水性高分子層と前記保水性ゲル層とが、同一の成分を主成分として有し、
前記親水性高分子層における前記成分の重量比率が、前記保水性ゲル層における前記成分の重量比率より大きいことを特徴とする請求項3又は4に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品。
【請求項10】
前記保水性ゲル層における前記成分の重量比率が、前記表面活性化処理層側から前記親水性高分子層側に向かって連続的に、或いは段階的に増大していることを特徴とする請求項9に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品。
【請求項11】
前記親水性高分子層と前記保水性ゲル層とが、同一の成分を主成分として有する同一の材料を備えていることを特徴とする請求項9又は10に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品。
【請求項12】
ポリオレフィン又はポリオレフィンを含むコンパウンドを基材とする樹脂成形品の製造方法であって、
前記基材の表面に表面活性化処理層を形成する表面活性化処理工程と、
不溶化されていない部分を有する親水性高分子層を形成する潤滑層コーティング工程と、
を備えていることを特徴とする表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法。
【請求項13】
前記表面活性化処理工程が、コロナ放電処理、低圧水銀灯或いはエキシマランプによる紫外線照射、エキシマレーザ照射、プラズマ照射、及びオゾン処理から選ばれる少なくとも1種類の処理を含むことを特徴とする請求項12に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法。
【請求項14】
前記親水性高分子層が、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、およびメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体から選ばれる少なくとも1種類の材料からなることを特徴とする請求項12又は13に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法。
【請求項15】
水分を保持し、前記親水性高分子層に水分を供給する保水性ゲル層を前記表面活性化処理層と前記親水性高分子層との間に形成する保水層コーティング工程をさらに備えていることを特徴とする請求項12から14の何れか一項に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法。
【請求項16】
前記保水性ゲル層が、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、ポリエチレンオキサイド、セルロース、でん粉、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルポリピロリドン、アクリル酸、N−ビニルピロリドン、ビニルエーテルモノマー、無水マレイン酸モノマーから選ばれる少なくとも1種類の材料からなることを特徴とする請求項15に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法。
【請求項17】
前記保水層コーティング工程が、前記親水性高分子層側から前記表面活性化処理層側まで連続的に、あるいは段階的に、前記保水性ゲル層の架橋度を増大させる工程を備えていることを特徴とする請求項15又は16に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法。
【請求項18】
前記保水層コーティング工程が、前記保水性ゲル層を、架橋度の異なる少なくとも3層から構成し、前記親水性高分子層側の層および前記表面活性化処理層側の層の厚さに比べて、それらの層の中間に位置する層の厚さのほうを大きくする工程を備えていることを特徴とする請求項17に記載の表面潤滑性を有する樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−162231(P2008−162231A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63(P2007−63)
【出願日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】