説明

表面被覆シリカオルガノゾルの製造方法および表面被覆シリカ粒子含有エポキシ樹脂組成物の製造方法

【課題】エポキシ化合物と混合した際の分散性に優れ、かつ、得られるエポキシ樹脂組成物が経時的にほとんど増粘したり硬化したりしないなど、良好な保存安定性を与える表面被覆シリカオルガノゾルを容易に製造する方法を提供すること。また、当該表面被覆シリカオルガノゾルとエポキシ化合物を混合してなる、保存安定性や分散安定性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】以下の1および2の製造方法。
1.下記の(A)〜(B)の工程をこの順で実施することを特徴とする、表面被覆シリカオルガノゾルの製造方法。
(A)シリカオルガノゾルにシランカップリング剤を添加して加水分解縮合反応を行う工程
(B)(A)の結果物から酸性触媒を除去して、該結果物のpHを中性に調整する工程
2.1の製造方法で得られた表面被覆シリカオルガノゾルを用い、これに下記の(C)〜(D)の工程をこの順で実施することを特徴とする、表面被覆シリカ粒子含有エポキシ樹脂組成物の製造方法。
(C)該表面被覆シリカオルガノゾルにエポキシ化合物を混合する工程
(D)(C)の結果物から有機溶媒を除去する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆シリカオルガノゾルの製造方法、および、表面被覆シリカ粒子含有エポキシ樹脂組成物の製造方法に関する。詳細には、シランカップリング剤で表面被覆処理したシリカ粒子を含むオルガノゾルの製造方法、および、当該溶液とエポキシ化合物を用いたエポキシ樹脂組成物の製造方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物中に、充填材としてシリカ粒子を分散させてなるエポキシ樹脂組成物は、一般に機械的特性や熱的特性、光学特性等に優れているので、各種成型材料として、特に発光ダイオード(LED)等の半導体素子の封止材として賞用されている。
【0003】
ところで、シリカ粒子を固体(粉末)として用いると、エポキシ化合物中に微細に分散させることが一般に困難であり、例えば二次凝集によってエポキシ樹脂組成物が濁ったり、シリカ粒子が沈殿したりする。また、シリカ粒子をヒドロゾルとして用いた場合には、有機物たるエポキシ化合物と均一に混合すること自体が難しい。そこで業界では一般に、シリカ粒子を有機溶媒に分散させて、シリカオルガノゾルとして用いることが多い。
【0004】
しかし、シリカオルガノゾルとエポキシ化合物を混合すると、得られるエポキシ樹脂組成物が経時的に増粘したり、硬化したりすることがある。これは、シリカオルガノゾル中のシリカ粒子表面に存するシラノール基が、エポキシ化合物のエポキシ基と常温でも反応するためと考えられる。このように保存安定性に劣ると、例えば、得られたエポキシ樹脂組成物を型に封入する際に、細部へ行き渡らせることが困難となって、得られる成型品にボイドやクラック等が生ずる懸念がある。
【0005】
そこで、シリカオルガノゾル中のシリカ粒子を何らかの手段で表面処理し、そのシラノール基の量をコントロールすることが有用であると考えられる。例えば特許文献1には、シリカ粒子をシランカップリング剤で表面処理してシラノール基の量をコントロールする技術が開示されており、当該処理シリカ粒子をシリカオルガノゾルとして用いることが考えられる。
【0006】
かかる表面被覆シリカ粒子を含むオルガノゾル(以下、表面被覆シリカオルガノゾルという)は、一般的にはシリカ粒子を含むシリカオルガノゾルにシランカップリング剤を添加して、加水分解縮合反応させることにより製造する。
【0007】
ところが、反応終了後、シリカ粒子と反応せずに残ったシランカップリング剤成分の一部が経時的に自己縮合を起こして網目構造(ゲル)を形成することがある。この場合、得られた表面被覆シリカオルガノゾルを用いたエポキシ樹脂組成物は、経時的に増粘することがあり、品質管理上問題があるだけでなく、成型品の機械的特性や光学的特性、熱的特性等が悪化する懸念がある。
【0008】
そこで、シリカ粒子とシランカップリング剤との反応効率を上げる目的で、酸性触媒を用いる必要がある。しかし、酸性触媒を用いて得た表面被覆シリカオルガノゾルをエポキシ化合物に混合すると、得られるエポキシ樹脂組成物が急激に増粘したり、硬化したりする。これは、当該表面被覆シリカオルガノゾル中に酸が多く含まれることから、エポキシ化合物の開環反応が促進されるためであると考えられる。
【0009】
そこで、当該表面被覆シリカオルガノゾル中の酸性触媒をアンモニア等の中和剤で中和することが考えられる。しかし、中和塩が不純物となって、最終物たるエポキシ樹脂組成物や、これを用いた成型品の諸物性に悪影響を及ぼすことが考えられる。また、当該不純物はエポキシ樹脂組成物中に渾然一体と混在しているので、除去することは一般に困難であり、そのようにすると工程の煩雑化や、最終製品(成型品)の高コスト化を招く。
【0010】
【特許文献1】特開2001−31843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、エポキシ化合物と混合した際の分散性に優れ、かつ、得られるエポキシ樹脂組成物が経時的にほとんど増粘したり硬化したりしないなど、良好な保存安定性を与える表面被覆シリカオルガノゾルを容易に製造する方法を提供することを主な課題とする。また、当該表面被覆シリカオルガノゾルとエポキシ化合物を混合してなる、保存安定性や分散安定性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供することを更なる課題とする。
【0012】
本発明者は、特定の工程により前記表面被覆シリカオルガノゾルおよび前記エポキシ樹脂組成物を製造できることを見出した。すなわち本発明は下記製造方法に関する。
【0013】
1.下記の(A)〜(B)の工程をこの順で実施することを特徴とする、表面被覆シリカオルガノゾルの製造方法。
(A)シリカオルガノゾルにシランカップリング剤を添加して、酸性触媒の存在下で加水分解縮合反応を行う工程
(B)(A)の結果物から酸性触媒を除去して、該結果物のpHを中性に調整する工程
【0014】
2.(B)の工程で、酸性触媒を除去する方法が陰イオン交換樹脂によるものであり、かつ、pHが6〜8である、前記1の製造方法。
【0015】
3.(A)の工程で、加水分解縮合反応を硫酸の存在下、50〜90℃で行うことを特徴とする、前記1または2の製造方法。
【0016】
4.(A)の工程で、シリカオルガノゾル中のシリカ粒子1gに対して、シランカップリング剤を0.2〜20mmol添加することを特徴とする、前記1〜3のいずれかの製造法。
【0017】
5.(B)工程の後で得られる表面被覆シリカオルガノゾルにおける、シリカ粒子の表面被覆量が0.2〜3mmol/gである、前記1〜4のいずれかの製造法。
【0018】
6.前記1〜5のいずれかの製造方法で得られた表面被覆シリカオルガノゾルを用い、これに下記の(C)〜(D)の工程をこの順で実施することを特徴とする、表面被覆シリカ粒子含有エポキシ樹脂組成物の製造方法。
(C)該表面被覆シリカオルガノゾルにエポキシ化合物を混合する工程
(D)(C)の結果物から有機溶媒を除去する工程
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法で得た表面被覆シリカオルガノゾルは、それ自体が経時的にほとんど増粘したり硬化したりしないなど保存安定性に優れる。また、当該表面被覆シリカオルガノゾルは、エポキシ化合物中での分散性に優れるので、これによれば保存安定性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供できる。
【0020】
また、本発明の製造方法で得たエポキシ樹脂組成物は、保存安定性や分散安定性に優れる。そして、該エポキシ樹脂組成物は、成型品とした場合に機械的特性や熱的特性、光学特性等が優れるので、特に発光ダイオード(LED)等の光半導体素子の封止材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る表面被覆シリカオルガノゾルは、以下の工程で製造できる。
【0022】
(A)シリカオルガノゾルにシランカップリング剤を添加して、酸性触媒の存在下で加水分解縮合反応を行う工程
(B)(A)の結果物から酸性触媒を除去して、該結果物のpHを中性に調整する工程
【0023】
[(A)工程について]
(A)工程は、シリカオルガノゾル中のシリカ粒子表面にあるシラノール基と、シランカップリング剤の有機基とを加水分解縮合反応(カップリング反応)させることにより、当該シリカ粒子の表面を該シランカップリング剤で表面被覆処理する工程である。ここに、「シリカオルガノゾル」とは、シリカ(二酸化珪素)粒子を分散粒子とし、有機溶媒を分散媒とするオルガノゾル(コロイド溶液)をいい、通常は透明ないし乳白色の外観を有する。
【0024】
該シリカオルガノゾルは特に限定されず、各種公知の方法で製造したものを用いうる。例えば、ケイ酸ナトリウムを重縮合する方法や、アルコキシシラン類をアルコール水溶液中で加水分解する方法(ゾルゲル法)、市販のシリカ粒子を公知の方法で有機溶媒に分散させてなるコロイド溶液を用いることができる。なお、該シリカオルガノゾルの固形分濃度は、通常1〜60重量%程度、好ましくは5〜50重量%である。
【0025】
該シリカ粒子の形状は特に限定されず、球状ないし扁平状であってよく、また、一次粒子であっても二次以上の凝集状態であってもよい。また、その一次平均粒子径(動的光散乱法による、一次粒子の平均粒子径をいう。以下、同様。)は特に問われず、用途に応じて適宜選択できる。例えば、光半導体封止材として使用する場合には、一次平均粒子径が通常500nm以下、好ましくは10〜450nm程度である。
【0026】
該有機溶媒は特に限定されず、各種公知のものが挙げられる。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、n−オクタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピルグリコールモノメチルエーテル、プロピルグリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステルまたはラクトン類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミドまたはラクタム類;ベンゼン、トルエン、キシレン類等の芳香族炭化水素類;が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、後述する陰イオン交換樹脂への影響を考慮すると、有機溶媒としては親水性有機溶媒、具体的には前記アルコール類や、エステルまたはラクトン類が好ましい。
【0027】
なお、該シリカオルガノゾルは市販品を用いてもよい。具体的には、例えば、メタノールシリカゾル、IPA−ST、MEK−ST、MIBK−ST、XBA−ST、DMAC−ST、ST−20、ST−40、ST−C、ST−N、ST−O、ST−50、ST−OL(以上、日産化学工業(株)製)、オルガノゾルPL−2PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル分散液、扶桑化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0028】
また、市販のシリカ粒子としては、具体的には、例えば、アエロジル130、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルOX50(以上、日本アエロジル(株)製)、シルデックスH31、シルデックスH32、シルデックスH51、シルデックスH52、シルデックスH121、シルデックスH122(以上、旭硝子(株)製)、E220A、E220(以上、日本シリカ工業(株)製)、SYLYSIA470(富士シリシア(株)製)、SGフレーク(日本板硝子(株)製)等が挙げられる。
【0029】
シランカップリング剤としては、一分子中に有機官能基と加水分解基とを有するものであれば特に限定されず、各種公知のものを用いることができる。該シランカップリング剤は、具体的には、一般式(1):YRSiX(式中、Yはビニル基、アミノ基、チオール基またはハロゲン基を、Rは炭化水素基を、Xはアルコキシ基、ハロゲン基またはアミノ基を表す。)で表される。
【0030】
該シランカップリング剤の具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン類;2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン類;N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン類;メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロルシラン、トリメチルブロモシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルジメトキシシラン等のハロゲン基含有アルコキシシラン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン等のビニル基含有アルコキシシラン類;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、ジエチルシラン等;が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明では、表面被覆シリカオルガノゾルを後述のエポキシ化合物中に良好に分散できることから、前記エポキシ基含有アルコキシシラン類、特に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0031】
加水分解縮合反応は、酸性触媒、水、および必要に応じて前記有機溶媒の存在下で行う。加水分解縮合反応の条件は特に限定されず、各種公知の例による。例えば反応温度は50〜90℃程度、反応時間は1〜20時間程度である。また、加水分解縮合反応で生ずる物質(水、メタノール等)は反応系から逐次留去するのが望ましい。また、加水分解縮合反応時の反応系の固形分濃度は、通常5〜60重量%程度である。
【0032】
酸性触媒としては各種公知のものを用いうる。具体的には、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸性触媒や、蟻酸、酢酸等の有機酸性触媒が挙げられ、加水分解縮合反応率が向上しやすいことから無機酸性触媒、特に硫酸が好ましい。また、酸性触媒の使用量は特に限定されないが、通常、シランカップリング剤に対して0.1〜5重量%程度である。
【0033】
前記シリカオルガノゾルに対する、前記シランカップリング剤の添加量は特に制限されないが、得られる表面被覆シリカオルガノゾルの被覆程度を考慮して、通常は該シリカオルガノゾル中のシリカ粒子1gに対して、前記シランカップリング剤を通常0.2〜20mmol程度、好ましくは、0.4〜15mmolとするのがよい。
【0034】
[(B)工程について]
(B)工程は、(A)工程の結果物から酸性触媒を除去することにより、該結果物のpHを中性に調整する工程である。pHを中性領域とすることにより、得られる表面被覆シリカオルガノゾルの保存安定性が良好となり、またこれを用いたエポキシ樹脂組成物の保存安定性も好適となる。なお、pHが中性であるとは、具体的にはpHが6〜8程度であることをいう。
【0035】
酸性触媒を除去する方法は特に限定されないが、後述のエポキシ樹脂組成物の保存安定性および透明性を考慮して、陰イオン交換樹脂を用いるのが好ましい。なお、(A)工程の結果物に各種中和剤(アンモニア、有機アミン、金属水酸化物等)を添加してそのpHを中性にした場合には、中和塩等の影響で、得られるエポキシ樹脂組成物に濁りが生じたり、表面被覆シリカオルガノゾルの凝集が起きたりすることがある。
【0036】
陰イオン交換樹脂としては、各種公知のもの(強塩基性(I型、II型)、弱塩基性)を特に制限なく用いることができ、その構造もゲル状、マクロポーラス状であってよい。具体的には、例えば、スチレン−ジビニルベンゼン系架橋ポリスチレンや、アクリル酸系ポリアクリレート、エーテル基またはカルボニル基を導入した耐熱性芳香族ポリマー等を母体とし、陰イオン交換基としてアミノ基や置換アミノ基、第4級アンモニウム基、カルボキシル基等を導入したものが用いられる。
【0037】
なお、本発明では強塩基性陰イオン交換樹脂が好ましく、特に、イオン交換基がトリアルキル置換窒素原子を持つ第4アンモニウム基か、ジアルキルエタノールアミン陽イオンを持つ第4アンモニウム基であるものが特に好適である。なお、Cl型陰イオン交換樹脂を用いた場合には、エポキシ樹脂組成物にClイオンが含まれることとなり、これが各種電子材料の腐食の原因となり得るので、本発明では特に、OH型の陰イオン交換樹脂が好ましい。
【0038】
該陰イオン交換樹脂の市販品としては、例えばアンバーライトIRA402BL OH型(オルガノ製)、SBR−PC OH型(室町ケミカル製)、ダウエックスモノスフィア550A、マラソン MSA(ダウケミカル製)、レバチットシリーズ(バイエル製)、ダイヤイオンSAシリーズ、PAシリーズ(三菱化学(株)製)等が挙げられる。
【0039】
(A)工程の結果物を陰イオン交換樹脂で処理する時間は特に限定されないが、通常は10〜80℃で、SV(Space Velocity)=1〜15程度量である。また、当該結果物の濃度も特に限定されないが、通常5〜60重量%程度である。また、処理回数も特に限定されず、pHが6〜8程度となるまで繰り返すことができる。
【0040】
こうして得られた表面被覆シリカオルガノゾルは、製造直後のシリカ粒子の一次平均粒子径(動的光散乱法による)が通常、500nm以下、具体的には5〜450nm程度であり、pHが6〜8程度であり、水分が0.1〜10重量%程度である。
【0041】
また、該表面被覆シリカオルガノゾル中のシリカ粒子は、シランカップリング剤により、一定の表面被覆量を有する。ここに、「表面被覆量」とは、表面被覆シリカオルガノゾル中のシリカ粒子の、シランカップリング剤による被覆程度を表す指標であり、該表面被覆シリカオルガノゾル中のシリカ粒子1gの表面を実際に被覆しているシランカップリング剤のモル(mmol/g)で表される値である。本発明では、エポキシ樹脂組成物の保存安定性を考慮して、表面被覆量は、0.2〜3mmol/g程度、好ましくは0.4〜2.5mmol/gであるのがよい。0.2mmol/g以上とすることで、後述の(D)有機溶媒を除去する工程の後、得られるエポキシ組成物の粘度を低減できたり、該エポキシ組成物の保存安定性(粘度安定性)を良好としたりできる。一方、3mmol/g以下とすることで、表面被覆シリカオルガノゾル中でシリカ粒子の過度の凝集が抑制され、エポキシ樹脂組成物に所定の流動性を付与できる。
【0042】
こうして得られた表面被覆シリカオルガノゾルを用いて、下記の(C)〜(D)の工程をこの順で実施することにより、表面被覆シリカ粒子含有エポキシ樹脂組成物を製造することができる。
【0043】
(C)前記表面被覆シリカオルガノゾルにエポキシ化合物を混合する工程
(D)(C)の結果物から有機溶媒を除去する工程
【0044】
[(C)工程について]
(C)工程で用いるエポキシ化合物としては、各種公知のものを特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等の芳香族型エポキシ化合物;芳香族型エポキシ化合物の芳香環を水素化して脂環式構造とした水添エポキシ化合物や、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、3,4−エポキシ−1−[8,9−エポキシ−2,4−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3−イル]−シクロヘキサンなどのエポキシ−[エポキシ−オキサスピロC8−15アルキル]−シクロC5−12アルカン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートや4,5−エポキシシクロオクチルメチル−4′,5′−エポキシシクロオクタンカルボキシレートなどのエポキシC5−12シクロアルキルC1−3アルキル−エポキシC5−12シクロアルカンカルボキシレート、ビス(2−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペートなどのビス(C1−3アルキルエポキシC5−12シクロアルキルC1−3アルキル)ジカルボキシレート等の脂環式エポキシ化合物;ヒダントインエポキシ樹脂等の含窒素環エポキシ樹脂;脂肪族系エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂等;が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、得られるエポキシ樹脂組成物の熱的特性(特に耐変色性)や光学特性(特に透明性)を考慮して、液状のものであれば外観が透明であるもの、また粉末状のものであれば有機溶媒の溶液とした際に外観が透明であるものが好ましく、特に、そのような脂環式エポキシ化合物が好ましい。
【0045】
前記エポキシ化合物に対する前記表面被覆シリカオルガノゾルの混合量は特に限定されず、得られるエポキシ樹脂組成物の用途によって適宜調整できる。具体的には、例えば、エポキシ化合物(固形分)100重量部に対し、表面被覆シリカオルガノゾルをそのシリカ粒子の重量に換算して通常3〜70重量%程度、好ましくは5〜60重量部程度となる範囲である。
【0046】
なお、当該混合の際には、必要に応じて前記有機溶媒や、各種界面活性剤を用いることもできる。
【0047】
混合手段は特に制限されず、前記表面被覆シリカオルガノゾルをエポキシ化合物中に分散させ得る各種公知の手段を利用できる。なお、混合時の温度は通常室温であり、また混合時間は通常10分〜5時間程度である。
【0048】
[(D)工程について]
(D)工程は、前記(C)工程の結果物から有機溶媒を各種公知の手段を用いて除去する工程である。通常は、減圧蒸留で行うのが好ましく、温度は通常30〜100℃程度、圧力は1〜150hPa程度、時間は15分〜5時間程度である。
【0049】
こうして、溶液状のエポキシ樹脂組成物が得られる。該組成物は、前記表面被覆シリカオルガノゾルとエポキシ化合物とが複合した組成物であり、マトリックス成分であるエポキシ樹脂中にシリカ粒子が微細分散したものである。
【0050】
また、該エポキシ樹脂組成物のpH、粘度、エポキシ当量(JISK7236)などの諸物性は特に限定されず、その用途に応じて適宜決定できる。また、その固形分は80〜100重量部程度である。
【0051】
また、該エポキシ樹脂組成物には、用途に応じて必要により、本発明の所期の効果を損なわない範囲で、各種添加剤を用いることができる。具体的には、例えば、脂肪族ポリオール類(エチレングリコール、プロピレングリコール等)や、フェノール化合物等の炭酸ガス発生防止剤;ポリアルキレングリコール類、ポリジメチルシロキサン誘導体等の可とう性付与剤;各種ゴムや有機ポリマービーズ等の耐衝撃性改良剤;酸化防止剤、可塑剤、滑剤、シランカップリング剤、難燃剤、帯電防止剤、レベリング剤、イオントラップ剤、摺動性改良剤、遥変性付与剤、表面張力低下剤、消泡剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、離型剤、蛍光剤、着色剤、導電性充填剤等;が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、該エポキシ樹脂組成物を成型品とする際には、各種の硬化剤や硬化促進剤を用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
実施例1−1(表面被覆シリカオルガノゾルの製造)
[(A)工程]
攪拌機、攪拌羽根、コンデンサー、滴下漏斗、温度計および窒素ラインを具備した四つ口丸底フラスコに、シリカオルガノゾル溶液(商品名「IPA-ST」、日産化学工業(株)製、分散媒はイソプロピルアルコール)、シリカ粒子の一次平均粒子径は約400nm、300g(固形分重量90g)、濃硫酸0.5g、脱イオン水11g、およびイソプロピルアルコール331.7gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら、80℃まで昇温した。次いで、当該反応系にシランカップリング剤(商品名「KBM−403」、信越化学工業(株)製、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)24gをイソプロピルアルコール272gで溶解した溶液を1時間かけて滴下し、滴下終了後、還流下で6時間保温することにより、加水分解縮合反応を実施した。
【0054】
[(B)工程]
次いで、反応系を25℃に冷却し、(A)工程で得た溶液820gを、OH型の陰イオン交換樹脂(商品名「アンバーライト402J OH」、オルガノ(株)製)400mLを充填したカラムに、5mL/分の割合で通液させることにより、硫酸を除去した。こうして、一次平均粒子径が約20nm、pHが7.5の表面被覆シリカオルガノゾル(分散媒はイソプロピルアルコール)を得た。
【0055】
なお、一次平均粒子径は、市販の動的光散乱法装置(製品名「FPAR−3」濃厚系プローブ使用、キュムラント解析法による平均粒子径、大塚電子(株)製)を用いて測定した値である。
【0056】
また、pHは、市販のpH計(D−52 (株)堀場製作所製)を用いて測定した値である。なお、測定は、得られた表面被覆シリカオルガノゾルを、溶液濃度が1%でなるように水で希釈した状態で行った。
【0057】
また、該表面被覆シリカオルガノゾルについて、その表面被覆シリカ粒子の表面被覆量を求めるために、以下の操作と計算を行った。
【0058】
該表面被覆シリカオルガノゾルから、未反応のシランカップリング剤成分を除去する操作を行った。具体的には、まず、該表面被覆シリカオルガノゾルをヘキサンと混合した。この際、混合液は白濁し、ゾル中のシリカ粒子が凝集を起こした。次いで、得られた混合液を遠心分離器(3000rpm、30分)にかけ、シリカ粒子を沈降させることにより、分散媒(イソプロピルアルコール)とシリカ粒子とを分離した。次いで、分散媒を除去し、代わりにテトラハイドロフランを加えてシリカ粒子を分散させ、さらにヘキサンを加えてシリカ粒子を凝集させた。以後、この操作を5回繰り返した。その後、残渣であるシリカゾルを乾燥機で105℃で3時間乾燥させた。得られた乾燥物を、以下、「残分」という。
【0059】
次に、当該残分について示差熱熱重量同時測定(TG−DTA)を行い、求めた減量分が、表面被覆シリカ粒子においてシラノール基と結合していたシランカップリング剤の有機成分部分が脱離した量であるとして、下記一般式(2)に従い表面被覆量を算出した。
【0060】
なお、TG−DTA測定(以下、単に測定という)は、10℃/分の条件で800度まで実施した。また、測定装置としては、ブルカーaxs(株)製の「TG−DTA 2000S」を用いた。
【0061】
また、「有機成分部分」とは、前記一般式(1)でいう「YR」の部位に相当し、実施例1−1の場合であれば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(分子量≒236)のうち、3−グリシドキシプロピル基(分子量≒115)が相当する。
【0062】
一般式(2):表面被覆量(mmol/g)=A(mol)/C(g)×1000
【0063】
A:表面被覆シリカ粒子を被覆しているシランカップリング剤の、有機成分部分のモル=〔(測定前の残分重量)−(測定後の残分重量)〕/(有機成分部分の分子量)〕=(1.01×10-2−9.3×10-3)/115=6.96×10-6
【0064】
B:表面被覆シリカ粒子を被覆しているシランカップリング剤の重量(g)=A×(シランカップリング剤の分子量)=6.96×10-6×236=1.64×10-3
【0065】
C:表面被覆シリカ粒子のシリカ粒子自体の重量(g)=(測定前の残分重量)−B=1.01×10-2−1.64×10-3=8.46×10-3
【0066】
以上より、実施例1−1の表面被覆シリカオルガノゾルにおける、表面被覆シリカ粒子の表面被覆量(mmol/g)は;
【0067】
(mol)/C(g)×1000=6.96×10-6(mol)/8.46×10-3(g)×1000≒0.8となる。
【0068】
実施例1−2〜1−5
実施例1−1のシランカップリング剤の使用量を表1に記載の量に変えた他は同様にして、各表面被覆シリカオルガノゾルを得た。また、それらの一次平均粒子径、表面被覆量およびpHを表1に示す。
【0069】
(表面被覆シリカオルガノゾルの保存安定性(粘度安定性)の評価)
実施例1−1〜1−5の各表面被覆シリカオルガノゾルを、40℃の恒温室に10日間放置した。放置前の粘度と放置後の粘度の変化幅を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
○:粘度変化率が20%未満
△:粘度変化率が20〜30%
【0070】
【表1】

【0071】
実施例2−1(エポキシ樹脂組成物の製造)
[(C)工程]
マグネチックスターラー、コンデンサ、および温度計を具備した丸底フラスコに、上記表面被覆シリカオルガノゾル330gと、脂環式エポキシ化合物(商品名「セロキサイド2021」、ダイセル化学工業(株)製)100g、およびイソプロピルアルコール32.9gを仕込み、室温で1時間攪拌した。
【0072】
[(D)工程]
次いで、40℃、50hPaの条件で、(C)工程で得た混合液からイソプロピルアルコールを留去することにより、固形分約97重量%のエポキシ樹脂組成物332.8gを得た。
【0073】
実施例2−2〜2−5
実施例1−1〜1−5の各表面被覆シリカオルガノゾルを用い、実施例2−1と同様にして、固形分が約97重量%の各エポキシ樹脂組成物を得た。
【0074】
(エポキシ樹脂組成物の保存安定性(粘度安定性)の評価)
実施例2−1〜2−5の各エポキシ樹脂組成物を、40℃の恒温室に10日間放置した。放置前の粘度と放置後の粘度の変化幅を以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
○:粘度変化率が20%未満
△:粘度変化率が20〜30%
【0075】
(エポキシ樹脂組成物の透明性評価)
実施例2−1のエポキシ樹脂組成物と、硬化剤としてメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(商品名「HN−5500E」、日立化成工業(株)製)、と硬化促進剤としてテトラn−ブチルホスホニウムo,o−ジエチルホスホロジチオエート(商品名「PX−4ET」、日本化学工業(株)製)とを、重量比(固形分換算)で100:100:1となるように混合した。次いで、得られた混合物をアルミカップに注入し、110℃で3時間予備加熱し、次いで130℃で3時間加熱することにより、厚さ2mmの板状硬化物を作製した。実施例2−2〜2−5の各エポキシ樹脂組成物についても同様にして各板状硬化物を作製した。
【0076】
各板状硬化物について、市販の紫外可視分光光度計(製品名「U−3300」、(株)日立製作所製)を用いて、波長470nmにおける光透過率(%)を測定した。結果を表2に示す。なお、かかる透明性の評価は、各エポキシ樹脂組成物における表面被覆シリカ粒子の分散性評価の指標となる。
【0077】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(B)の工程をこの順で実施することを特徴とする、表面被覆シリカオルガノゾルの製造方法。
(A)シリカオルガノゾルにシランカップリング剤を添加して、酸性触媒の存在下で加水分解縮合反応を行う工程
(B)(A)の結果物から酸性触媒を除去して、該結果物のpHを中性に調整する工程
【請求項2】
(B)の工程で、酸性触媒を除去する方法が陰イオン交換樹脂によるものであり、かつ、pHが6〜8である、請求項1の製造方法。
【請求項3】
(A)の工程で、加水分解縮合反応を硫酸の存在下、50〜90℃で行うことを特徴とする、請求項1または2の製造方法。
【請求項4】
(A)の工程で、シリカオルガノゾル中のシリカ粒子1gに対して、シランカップリング剤を0.2〜20mmol添加することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかの製造方法。
【請求項5】
(B)工程の後で得られる表面被覆シリカオルガノゾルにおける、シリカ粒子の表面被覆量が0.2〜3mmol/gである、請求項1〜4のいずれかの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの製造方法で得られた表面被覆シリカオルガノゾルを用い、これに下記の(C)〜(D)の工程をこの順で実施することを特徴とする、表面被覆シリカ粒子含有エポキシ樹脂組成物の製造方法。
(C)該表面被覆シリカオルガノゾルにエポキシ化合物を混合する工程
(D)(C)の結果物から有機溶媒を除去する工程


【公開番号】特開2009−13033(P2009−13033A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179428(P2007−179428)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】