説明

被洗浄基板の洗浄水の影響評価方法、この評価方法に基づく水質設定方法、及びこの設定された水質の水を得るための超純水製造システム

【課題】被洗浄基板の洗浄水中の不純物が被洗浄基板の汚染に及ぼす影響を評価する方法を提供する。
【解決手段】被洗浄基板としてのシリコンウエハの表面の汚染は、シリコンウエハ上に存在するSiOHに由来するOH基が吸着活性点となり、ここ金属含有成分、有機物等が吸着することにより生じる。そこで超純水製造システム1を基本システムとして洗浄した後のSiOH(OH基)の量と、シリコンウエハの洗浄条件や水質条件等の洗浄処理条件を変動させて洗浄した後のSiOHの量とを測定し、両者の比に基づき最適な水質を設定し、さらに当該設定水質の超純水を供給し得る最適なシステム設定となるように基本システムを組み換えたり、基本システムの構成要素の仕様を変更したりする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄水中の不純物が被洗浄基板の汚染に及ぼす影響を評価する方法に関する。また、本発明は、この評価された影響に基づき被洗浄基板の洗浄に好適な水質を設定する方法に関する。さらに、本発明は、この設定された被洗浄基板の洗浄に好適な水質を得るために最適な超純水製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ICの高集積化に伴い、半導体製品や液晶製品の製造に使用される超純水にも厳しいコンタミネーションコントロールと、変動の少ない水を安定的に供給することが要求されている。洗浄対象となる基板の汚染は、デバイス性能や製品歩留まりに大きく影響するため、ITRSのロードマップなどを基準に、プロセスルールに対応する形で影響物質(不純物)の濃度条件が規定されてきた。さらに、この基準に上乗せする形で、各企業は独自の基準を持つケースが少なくない。これらの基準は、試料水を実際に採取し、高感度の分析装置を使用して不純物濃度を測定し、これらの水質の基準を満たしているか否かを確認している。
【0003】
このように金属成分等の含有量を極微量に設定しているのは、従来どの程度の純度の水とすれば必要十分であるかを理論的に設定する方法がなく、より高純度の水とすることで対応せざるを得なかったためである。吸着物として特に問題となる金属の場合を例に説明すれば、水中の濃度を下げることが安全サイドであるため、どの成分をどの程度低減すればよいかという効果の確認はないまま、全般的な濃度低減に注力しているのが現状であった。しかしながら、水の純度の追及には限度があり、コスト等を考えると、限界領域に近づきつつあるという状況になってきている。
【0004】
そこで、水質による影響をあらかじめ予測して、影響度の大きな成分を重点的に減少させることが考えられる。例えば、逆浸透膜を用いて水処理を行う場合においては、JIS−K3802に定義されるようなファウリングインデックス(FI)、あるいはASTM−D4189に定義されるようなシルトデンシティインデックス(SDI)等の指標を用いて供給水への影響を予測し、現実的な供給水の清澄度としてから安定運転を継続する方法が実施されている。
【0005】
また、非特許文献1の7〜10頁には、一般的な水質の管理方法が開示されている。さらに、特許文献1には、超純水の水質を直接評価することが開示されている。しかしながら、これらの方法はいずれも水質自体を評価する方法であって、その水質が被洗浄物であるシリコンウエハにどのような影響を与えるかを理論的に予測する方法ではない。
【0006】
そこで、半導体基板としてのシリコンウエハ自体を評価することが試みられている。例えば、非特許文献2には、アルカリ条件下でシリコンウエハのOH基に金属水酸化物が脱水縮合によって吸着するモデルが開示されている。また、特許文献2には、半導体基板の処理表面に対して赤外線による分析を行うことが一般的に行われている旨記載されている。
【0007】
さらに、非特許文献1の1〜6頁には、超純水への要求は純度及びコストのバランスを取ることが重要である旨記載されている。そして、この非特許文献1の11〜15頁には、ウエハ表面への吸着挙動を調べることが実験的に可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−101982号公報
【特許文献2】特開2009−212303号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「クリーンテクノロジー」,日本工業出版,2009年10月
【非特許文献2】「Journal of Electrochemical Society」,Vol.151,No.9,pp.G590-G597,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献2に記載された吸着モデルは、アルカリ性溶液での吸着モデルであって、薬液洗浄後の基板のリンスなどに用いられる超純水のpH領域の全てをカバーするモデルではなく、さらにモデルの反応活性点となっているSiOHを直接観察し、その定量結果から水中不純物の影響度を規定して、必要十分な水質を設定するものではない。
【0011】
また、特許文献2では、シリコンウエハの処理表面に赤外線を照射し、赤外線スペクトルによって表面構造を分析することが一般的であることが示されているが、その結果に合わせて、超純水の水質設定に活用するものではない。
【0012】
なお、非特許文献1に記載されているように、超純水の水質への要求は純度及びコストのバランスを取ることが重要ではあるが、水中に微量に含まれる金属あるいは有機物がシリコンウエハの汚染に及ぼす影響を予測することなく、純度の許容濃度を上げることは非常にリスクが高く、超純水を使ったデバイスの生産において歩留まりを極端に悪化させるおそれもある、という問題点がある。
【0013】
さらに、ウエハ表面への金属あるいは有機物等の不純物の吸着の挙動を調べることは実験により可能であり、非特許文献1ではシリコンウエハ上の金属除去装置も提案されているが、ウエハと汚染物の吸着量との関係付けは明確になっていない。これは以下のような理由による。すなわち、金属あるいは有機物等の不純物の吸着は、吸着対象となる物質の構造によって大きく影響されるものであり、シリコンウエハの洗浄条件が異なる度に、このような実験を繰り返さざるを得ないからである。そして、このように実験を繰り返すことは、時間やコストの面から好ましくない。
【0014】
このように従来は、洗浄水中の不純物が基板の汚染に及ぼす影響を予測評価する方法が存在しなかった。そのため、より安全サイドを求めて洗浄水中の不純物濃度をより厳しく管理せざるを得ず、この方針に基づいて、例えば許容金属濃度を厳しく規定した超純水製造システムを構築せざるを得なかった。また、技術進歩の著しい電子産業分野では必ずしも分析できない濃度でも汚染許容量規定が行われ、そのことによって製品歩留まり向上やデバイス性能の向上を達成する努力がなされているため、不純物が基板の汚染に及ぼす影響を予測評価することによって、用途に適した水質を設定する方法が望まれている。
【0015】
また、シリコンウエハの処理方法が変化した場合には、ウエハの表面構造の変化を伴う場合があり、シリコンウエハの処理方法の変更の都度、実験等により吸着量を確かめる必要があるという問題もある。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、洗浄水中の不純物が、洗浄対象である基板の汚染に及ぼす影響を評価することを目的とする。また、本発明は、この評価に基づき、基板の洗浄に好適な水質を設定する方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、この設定された基板の洗浄に好適な水質を得るために最適な超純水製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、第一に本発明は、被洗浄基板の洗浄に供される洗浄水中の不純物が、該被洗浄基板の汚染に及ぼす影響を評価する方法であって、所定の条件における前記被洗浄基板上に存在する吸着活性点の量の分析値と、前記洗浄水によって洗浄された際の前記被洗浄基板の汚染量と、条件変更後の前記被洗浄基板上に存在する吸着活性点の量の分析値とから前記被洗浄基板への前記不純物の予想吸着量を算出し、この予想吸着量により前記被洗浄基板へ前記洗浄水が汚染に及ぼす影響を評価することを特徴とする洗浄水の影響評価方法を提供する(請求項1)。
【0018】
上記発明(請求項1)によれば、被洗浄基板には金属等の不純物が吸着しやすい特異点、すなわち吸着活性点が存在し、この吸着活性点に吸着しやすい物質は、被洗浄基板の材質や処理条件によって異なる。そこで、被洗浄基板の処理条件を変更する場合などに、変更前を基準とした変更後の吸着活性点に起因する分析測定値の変化率を算定し、変更前後の相関関係に基づいて被洗浄基板への不純物による汚染量を予測することで、洗浄水が被洗浄基板に及ぼす影響を評価することができる。これにより、処理条件等の変更に伴って必要となる洗浄水の水質を予測し、例えば、超純水製造設備の過不足を判断することができる。
【0019】
上記発明(請求項1)においては、前記被洗浄基板が、シリコンウエハであるのが好ましい(請求項2)。
【0020】
上記発明(請求項2)によれば、シリコンウエハの最表面構造における吸着活性点を分析し、その存在量からシリコンウエハへの不純物の吸着量を予測することができ、この予測された吸着量から、該吸着物の水中存在許容量を算出することができる。
【0021】
上記発明(請求項2)においては、前記吸着活性点が、前記被洗浄基板表面に存在するOH基であるのが好ましい(請求項3)。
【0022】
上記発明(請求項3)によれば、被洗浄基板の表面における吸着活性点であるOH基(SiOHに由来)を分析し、その存在量から被洗浄基板への不純物の吸着量を予測することができ、この予想吸着量から、該不純物の水中存在許容量を算出することができる。
【0023】
上記発明(請求項1〜3)においては、前記吸着活性点の分析の方法が、赤外線を用いる分析方法であるのが好ましい(請求項4)。
【0024】
また、上記発明(請求項4)においては、前記赤外線を用いる分析方法により分析された吸着活性点の量が、波数950〜810cm−1に現れるピークがシフトして生じるSiOHに由来するピークの面積で規定されるのが好ましい(請求項5)。
【0025】
上記発明(請求項4,5)によれば、被洗浄基板の表面処理条件等を変更するにあたり、処理条件の変更の前後で全反射型赤外分光分析をそれぞれ実施し、赤外線吸収スペクトルの波数950〜810cm−1のピークがシフトして生じるSiOH由来のピーク(例えば、波数980cm−1のピーク)の面積をそれぞれ求め、これらのピーク面積の面積比によってOH基の変化率を算定し、この変化率の相関関係に基づいて被洗浄基板への吸着量を予測することで、必要な洗浄水水質を予測し、例えば、超純水製造設備の過不足を判断することができ、結果として必要な水質を満たした超純水を生産することができる。
【0026】
上記発明(請求項1〜3)においては、前記吸着活性点の分析の方法が、X線光電子分光法であることが好ましい(請求項6)。
【0027】
上記発明(請求項6)においては、前記X線光電子分光法により分析された吸着活性点の量が、O1sに基づくピークをSi−O−SiとSiOHとに分離することによるSiOH量で規定されるのが好ましい(請求項7)。
【0028】
上記発明(請求項6,7)によれば、被洗浄基板の表面処理条件を変更するにあたり、処理の前後においてX線光電子分光法による測定を行ない、O1s軌道に基づく酸素原子のそれぞれのピークシフト量からOH基の変化率を算定し、相関関係に基づいて被洗浄基板への吸着量を予測することで、必要な洗浄水水質を予測し、例えば超純水製造設備の過不足を判断することができ、結果として必要な水質を満たした超純水を生産することができる。
【0029】
上記発明(請求項6)においては、前記X線光電子分光法により分析された吸着活性点の量が、C1sピークに基づくカルボキシル基の量で規定されるのが好ましい(請求項8)。
【0030】
上記発明(請求項8)によれば、被洗浄基板の表面処理条件を変更するにあたり、処理の前後においてX線光電子分光法による測定を行ない、C1s軌道に基づくそれぞれのピークシフト量からカルボキシル基の変化率を算定し、相関関係に基づいて被洗浄基板への吸着量を予測することで、必要な洗浄水水質を予測し、例えば超純水製造設備の過不足を判断することができ、結果として必要な水質を満たした超純水を生産することができる。
【0031】
上記発明(請求項1〜8)においては、前記吸着活性点が、1種または2種以上であるのが好ましい(請求項9)。
【0032】
上記発明(請求項9)によれば、吸着活性点の種類を適宜選択して、あるいはこれを組み合わせることにより、洗浄水水質の要求レベルに応じて被洗浄基板への吸着量を予測し、例えば超純水製造設備の過不足を判断することができ、結果として必要な水質を満たした超純水を生産することができる。
【0033】
上記発明(請求項1〜7)においては、前記不純物が金属含有成分であるのが好ましく(請求項10)、また、前記不純物が有機物であるのが好ましい(請求項11)。
【0034】
上記発明(請求項3〜7及び9〜11)においては、前記不純物の予想吸着量が、基準となる被洗浄基板のOH基量と実際の被洗浄基板のOH基量との比及び予め1点以上得ておいた前記基準となる被洗浄基板のOH基に対応した不純物量から算出された前記実際の被洗浄基板への不純物量であるのが好ましい(請求項12)。
【0035】
上記発明(請求項12)によれば、全く同じ洗浄水を用いた場合の不純物の吸着量は、OH基の量にある程度比例するので、両者のOH基の量を比較することで、不純物の予想吸着量を算出することができる。
【0036】
第二に本発明は、上記発明(請求項1〜12)に係る影響評価方法を用いて評価された洗浄水中から前記被洗浄基板への不純物の予想吸着量に基づき、前記不純物の水中濃度の上限を設定することを特徴とする水質設定方法を提供する(請求項13)。
【0037】
上記発明(請求項13)によれば、被洗浄基板の吸着活性点を算出し、その存在量から洗浄水で洗浄した後の被洗浄基板への不純物の吸着量を予測し、この予想吸着量と、許容される吸着量と、所定の条件における不純物の濃度とから洗浄水中における不純物の存在許容量を算出することで、使用目的に合わせた洗浄水水質を設定することができる。ここで、許容される吸着量は、例えば、半導体トランジスタの製造において許容される、キャリアライフタイムの測定結果に基づいて設定することができる。
【0038】
第三に本発明は、上記発明(請求項13)に係る水質設定方法を用いて決定した水質を得るために、最適なシステムの単位操作ユニット構成としたことを特徴とする超純水製造システムを提供する(請求項14)。
【0039】
上記発明(請求項14)によれば、被洗浄基板の吸着活性点を検出し、その存在量から所定の濃度における被洗浄基板への不純物の吸着量を予測し、この予想吸着量と、許容される吸着量と、所定の濃度とから水中存在許容量を算出することで、使用目的に合わせた洗浄水水質を設定し、この設定水質に基づいて最適な超純水製造システムの構成を決定することができる。
【0040】
上記発明(請求項14)においては、前記単位操作ユニットが、UV酸化装置、膜分離装置、イオン交換装置のうち少なくとも1つを含むのが好ましい(請求項15)。また、上記発明(請求項14)においては、前記単位操作ユニットが、イオン交換フィルタを含むのが好ましい(請求項15)。
【発明の効果】
【0041】
本発明の被洗浄基板の洗浄水の影響評価方法によれば、被洗浄基板の処理条件を変更する場合でも、変更前を基準とした変更前後での吸着活性点に起因する測定値の変化率を算定し、両測定値の相関関係に基づいて被洗浄基板への不純物の吸着量を予測することで、例えば超純水製造設備等から供給される洗浄水の被洗浄基板への汚染に及ぼす影響を評価することができる。また、不純物の存在許容量を算出することで、使用目的に合わせた洗浄水水質を設定し、この設定水質に基づいて最適な超純水製造システムの構成を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る半導体洗浄水の影響評価方法を適用可能な超純水製造システムを示すフロー図である。
【図2】図1に示すシステムで得られた超純水で洗浄を用いた塩酸/過酸化水素で処理(HPM処理、SC−2処理)したシリコンウエハのOH基の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図3】図1に示すシステムで得られた超純水で洗浄を用いたオゾン水で処理したシリコンウエハのOH基の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図4】図1に示すシステムで得られた超純水で洗浄を用いて異なる温度条件で塩酸/過酸化水素で処理したシリコンウエハのXPS分析結果(炭素原子1s軌道結合エネルギー)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、添付図面を参照して本発明の被洗浄基板の洗浄水の影響評価方法の実施の形態について説明する。
【0044】
図1は、本実施形態に係る被洗浄基板たる半導体基板の洗浄水の影響評価方法を好適に適用可能な超純水製造システムを示すフロー図である。図1において、超純水製造システム1は、前処理システム2と、一次純水製造システム3と、二次純水製造システム4とからなり、前処理システム2と一次純水製造システム3との間には、タンク5と保安フィルタ6とが設けられているとともに、一次純水製造システム3と二次純水製造システム4との間にはサブタンク7が設けられている。このような超純水製造システム1において、前処理システム2は凝集・ろ過装置からなり、一次純水製造システム3は、RO膜装置11とイオン交換装置12と脱気装置13とからなり、二次純水製造システム4は、UV酸化装置14とイオン交換装置15と限外ろ過装置16とからなる。そして、二次純水製造システム4は、ユースポイントとしてのクリーンルーム8に設けられた薬液洗浄槽、基板リンス槽または個別の洗浄装置などの各種洗浄装置(図示せず)に連通している。また、クリーンルーム8には、生物処理装置17と膜ろ過装置18とからなる排水回収システム9が連通していて、この膜ろ過装置18は、タンク5に連通している。これを基本システムとする。
【0045】
上述したような装置において、原水としての処理水Wは、凝集・ろ過装置としての前処理システム2で除濁された後、タンク5に溜められ保安フィルタ6を通って、一次純水製造システム3に供給される。この一次純水製造システム3において、処理水Wに対しRO膜装置11で硬度成分を除去した後、イオン交換装置12でアニオン成分及び/カチオン成分を取り除き、さらに脱気装置13で炭酸成分を除去することで一次純水W1を得る。この一次純水W1はサブタンク7に一旦貯留された後、さらに、二次純水製造システム4において、UV酸化装置14で残留するTOC成分を分解し、イオン交換装置15でこのTOCの分解に伴うアニオン成分及び/カチオン成分を取り除き、そして限外ろ過装置16により、微細な粒子を除去することで高純度の二次純水W2を製造する。
【0046】
このようにして得られた二次純水W2を用いて、例えば塩酸/過酸化水素洗浄液で半導体基板としてのシリコンウエハの酸化処理を行ったもの(以下、HPM処理という)に対し、リンス洗浄を行う。そして、残存した二次純水W2は、二次純水製造システム4に戻される。
【0047】
ここで使われたリンス水(二次純水W2)は、排水回収システム9において、生物処理装置17及び膜ろ過装置18で処理された後、タンク5に還流することで再利用され、一部は放流される。
【0048】
上述したようなシリコンウエハの洗浄工程において、HPM処理のオゾン水による処理への変更、原水の水質の変動、あるいは洗浄水の温度の変更等の処理条件に変更が生じた場合に、どのような超純水製造システムとすれば必要十分な洗浄水を供給できるかを正確に決定することはこれまで困難であった。そこで、安全性を考慮して超純水製造システムを設計せざるを得ず、当該超純水製造システムがオーバースペックになりやすかった。
【0049】
本発明者らは、本実施形態の一例として、被洗浄基板であるシリコンウエハの表面における汚染は、シリコンウエハ上に存在するSiOH等が吸着活性点となることによって、ここに金属含有成分(金属イオン、金属水酸化物、金属錯体等)や有機物が吸着することにより生じることを見出し、吸着活性点としてのSiOH量に基づいて影響を評価することに想到したものである。
【0050】
すなわち、基本システムを用いて最初に洗浄した場合を所定の条件として、その最初の洗浄処理条件での洗浄後のシリコンウエハ上に存在するSiOHの量を測定するとともに、二次純水W2中の吸着量の測定対象となる不純物の濃度及びシリコンウエハ上のこの不純物の吸着量を測定する。一方、このシリコンウエハ上における不純物の許容吸着量を設定する。次に、シリコンウエハの洗浄条件を変動させて洗浄した後のSiOHの量を同様に測定することにより、洗浄処理条件の変更の前後によるSiOHの量の比を求める。
【0051】
そして、変更前の基本システムにより製造される二次純水W2中の不純物の濃度及びシリコンウエハ上の吸着量と、シリコンウエハ上の不純物の許容吸着量と、前述した両SiOHの比とから、変更後に必要とされる水質を設定することができる。そして、この設定された水質に基づき、最適なシステム設定となるように基本システムを組み換えたり、システムの構成要素の仕様を変更したりすればよい。上記吸着量の不純物としては、水中に含まれシリコンウエハに対して悪影響を及ぼすものであれば特に制限はなく、各種金属含有成分(金属イオン、金属水酸化物、金属錯体など)、あるいは有機物などを影響度に応じて適宜選択すればよい。
【0052】
具体的には、吸着活性点としてのSiOHの分析方法として、全反射型赤外分光分析を用いことができる。この全反射型赤外分光分析では、Si−OHに由来する赤外吸収スペクトルのピークは、一般に波数1050cm−1に現れるSi−O−Si結合の横波光学振動モード(TO)のピークよりも低波数側に現れる波数950〜810cm−1のピークがシフトして、例えば波数980cm−1あたりに生じる。そこで、洗浄処理条件、あるいはプロセスやシステムの変更前後のシリコンウエハに対し、赤外吸収スペクトルを求め、SiOHに由来するピークの面積をそれぞれ求め、両者のピーク面積の増減に基づいてシリコンウエハ上のOH基の変化率を算定する。そして、両者の変化率と、変更前の基本システムにより製造される二次純水W2中の不純物の濃度及びシリコンウエハの吸着量との相関関係に基づいて、変更後のシリコンウエハへの不純物の吸着量を予測する。さらに、不純物の許容吸着量と予想吸着量との比率から、変更後に必要とされる水質を設定することができる。この設定水質に基づいて、基本システムの過不足を判断して、適宜変更することで必要十分な水質の超純水を生産することができる。
【0053】
変更前の処理条件による不純物の吸着量を維持したい場合には、この吸着量を許容吸着量とし、処理条件の変更の前後でOH基ピーク面積が2倍になっていたら、2倍量の不純物が吸着すると予測して、例えば、変更前の処理条件(プロセスやシステム)によりイオン交換装置12の仕様を変更したり、イオン交換フィルタを追加したりして、二次純水W2中の不純物が1/2となるように基本システムを変更すればよい。例えば、ICの高集積化のために微細化がより進み、例えばキャリア量が1/2になり、不純物とキャリアの会合確率が維持され、キャリアライフタイムが不純物濃度に比例するような場合には、同様のデバイス性能を得るためにキャリアライフタイムを2倍に延ばすため、許容不純物濃度を1/2に設定し、この結果をシステムに反映するなどすればよい。
【0054】
また、SiOHの分析方法として、上記全反射型赤外分光分析に代えて、X線光電子分光法を用いることができる。この場合、処理条件の変更前後のシリコンウエハ表面に対し、X線光電子分光法による測定を行い、O1s軌道に基づくピークをSi−O−SiとSi−OHに分離することで処理前後のSiOH量を算出し、変更前の基本システムにより製造される二次純水W2中の不純物の濃度及びシリコンウエハの不純物の吸着量との相関関係に基づいてシリコンウエハへの不純物の吸着量を予測する。そして、許容吸着量と予想吸着量との比率から、変更後に必要とされる水質を設定することができる。この設定水質に基づいて、基本システムの過不足を判断し、適宜変更することで必要十分な水質の超純水を生産することができる。
【0055】
例えば、変更前の処理条件による不純物の吸着量を維持したい場合には、この吸着量を許容吸着量とし、処理条件の変更の前後でO1s軌道に基づく酸素原子のピークシフト量が2倍になっていたら、2倍量の不純物が吸着すると予測して、例えば、イオン交換装置12の仕様を変更したり、イオン交換フィルタを追加したりして、二次純水W2中の不純物が1/2となるように基本システムを変更すればよい。
【0056】
以上、本発明について上記実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は前記実施形態に限らず種々の変更実施が可能である。例えば、前記実施形態においては、被洗浄基板としてシリコンウエハの場合を例に説明したが、これに限定されず種々の被洗浄基板に対して適用可能である。また、この被洗浄基板の素材(例えば、GaAs、GaP、GaN、InP等)及び洗浄処理条件により、吸着活性点、及びこの吸着活性点に吸着される被吸着物が異なるので、吸着活性点に応じて、各種金属含有成分(金属イオン、金属水酸化物、金属錯体など)、あるいは有機物等を不純物として選定すればよい。
【0057】
また、SiOHに由来するOH基の測定方法として、全反射型赤外分光分析、X線光電子分光法を用いたが、これに限定されず種々の方法で測定することができる。さらに、吸着活性点としては、SiOHに由来するOH基に限らず、カルボキシル基、あるいはダングリングボンドなど電子的に活性なサイト等を例示することができる。
【0058】
上述したような本実施形態のシリコンウエハへの洗浄水の影響評価方法は、シリコンウエハの処理条件を変更するにあたり、その処理条件の変更前後でSiOHに由来するOH基等の吸着活性点に起因する測定値の変化率を算定し、両測定値の相関関係に基づいてシリコンウエハへの吸着量を予測することで、超純水製造設備から供給される洗浄水によるシリコンウエハの汚染に及ぼす影響を評価することができる。これにより、処理条件の変更に伴い必要な超純水の水質を予測し、超純水製造設備の過不足を判断することができるので、半導体等の製造上の不具合の発生を防止しつつ半導体等の洗浄装置の最適化を図ることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0060】
〔初期設定〕
図1に示されるような超純水製造システム(基本システム)において、二次純水W2を製造し、この二次純水W2を用いてクリーンルーム(ユースポイント)8において、HPM処理したシリコンウエハを洗浄した。なお、基準となる不純物をカルシウム(Ca)とした。この二次純水W2中のCa濃度が1.2pptのときに、シリコンウエハ上に1×10atoms/cmのCaが吸着した。このCaの吸着量は、シリコンウエハの歩留まりを一定以上に保つために維持したい吸着量であり、これを許容Ca吸着量とした。
【0061】
〔実施例1〕
シリコンウエハの洗浄工程をHPM処理から、二次純水W2に所定の濃度にオゾンを溶解したオゾン溶解水により処理した後、この二次純水W2で洗浄した。に変更した。変更前の酸化膜付きのシリコンウエハ表面を全反射赤外分析装置(ATR−FTIR)で分析し、波数980cm−1のピーク面積を測定した。赤外分析結果を図2のグラフに示す。次にオゾン溶解水による洗浄に変更した後にシリコンウエハ表面をATR−FTIRにより分析し、同様にして波数980cm−1のピーク面積を測定した。赤外分析結果を図3のグラフに示す。
【0062】
図2及び図3において、HPM処理による変更前の波数980cm−1におけるピーク面積と、オゾン溶解水による洗浄に変更した後の波数980cm−1におけるピーク面積とを比較したとこと、変更前に対して変更後は約3倍であった。この結果から洗浄処理条件の変更に伴いCaは3倍以上吸着すると予測し、変更後の二次純水W2の水質をCa濃度で0.4pptと設定した。
【0063】
そこで、この設定水質を満足するために、二次純水製造システム4の限外ろ過装置16の後段にイオン交換フィルタを設置して二次純水W2中のCa濃度を0.3pptとして、クリーンルーム8において同様にしてオゾン溶解水によるシリコンウエハの洗浄を行ったところ、シリコンウエハ上のCa吸着量は0.8×10atoms/cmとなり、シリコンウエハの歩留まりを一定以上に保つための許容Ca吸着量以下に維持することができた。
【0064】
〔比較例1〕
前述した実施例1において、基本システムを変更せず二次純水W2の水質を変更することなく、クリーンルーム8において同様にしてオゾン溶解水によるシリコンウエハの洗浄を行ったところ、シリコンウエハ上のCa吸着量は4×10atoms/cmとなり、シリコンウエハの歩留まりを一定以上に保つための許容Ca吸着量を超えることとなった。
【0065】
〔実施例2〕
シリコンウエハの洗浄工程のHPM処理温度を65℃から25℃に変更した。変更前の酸化膜付きのシリコンウエハ表面をXPSで分析した結果を図4に示す。次に、変更後の酸化膜付きのシリコンウエハ表面をXPSで分析した結果を図4に合わせて示す。
【0066】
図4から明らかなように、変更前のOs1におけるピークでSi−OHのピークのSi−O−Siピークに対するピークシフトは0.5eVであったのに対し、変更後のピークは0.2eVであった。この結果から洗浄処理条件の変更に伴いOH基の量は約40%になり、Ca吸着量は1/3程度になると予測し、設定水質をCa濃度で3pptと設定した。
【0067】
そこで、この設定水質を満足するには、イオン交換装置15の層高は半分でも十分であると判断できたため、メンテナンス時の樹脂全量交換で量を半分とし、メンテナンスコストを40%削減することができた。そして、同様にしてオゾン溶解水によるシリコンウエハの洗浄を行ったところ、シリコンウエハ上のCa吸着量は、0.9×10atoms/cmとなり、シリコンウエハの歩留まりを一定以上に保つための許容Ca吸着量を維持することができた。
【0068】
〔比較例2〕
前述した実施例2において、低温処理に変更するにあたり、変更による影響が不明であるため、Ca吸着量が増加することを懸念して限外ろ過装置の後段にイオン交換フィルタを増設した。さらに、樹脂も低溶出でグレードの高いものに切り替えたところ、水中のCa濃度は0.3pptとなった。この結果、シリコンウエハ上のCa濃度は0.1×10atoms/cmとなり、シリコンウエハの歩留まりを一定以上に保つための許容Ca吸着量は達成できたが、メンテナンスコストが2倍となってしまった。
【0069】
〔実施例3〕
シリコンウエハのオゾン水処理において、オゾンの濃度を下記表1に示すように条件BからAに変更したところ、C1s起動の解析結果から、OH基よりも30倍以上不純物への影響が高いカルボキシル基(O−C=O)が増えていることがわかった。また、同時にO1sの解析結果から、OH基の量に変化はなかった。この結果から、処理条件の変更に伴い吸着活性点としてカルボキシル基が増えることで20%程度Ca吸着量が増えると予測し、設定水質をCa濃度で0.9pptとした。
【0070】
【表1】

【0071】
そこで、この設定水質を満足するために、Caを40%除去することができる相対コスト1のイオン交換フィルタを設置して、二次純水W2中のCa濃度を0.8pptとして、クリーンルーム8においてウエハの洗浄を行ったところ、シリコンウエハ上のCa吸着量は0.9×10atom/cmとなり、シリコンウエハの処理後の歩留まりを一定に保つための許容Caを維持することができた。
【0072】
〔実施例4〕
シリコンウエハのオゾン水処理において、オゾンの濃度を表1に示すように条件BからAに変更したところ、C1s起動の解析結果から、OH基よりも3倍不純物の影響が高いカルボキシル基が6%増えていることがわかった。また、この時、同時にO1sの解析結果から、OH基の量に変化はなかった。この結果から、処理条件の変更に伴い吸着活性点としてカルボキシル基が6%増えることで20%程度Ca吸着量が増えると予測し、このカルボキシル基の原因となる有機物を低減することが金属吸着量の低減に有効であることから、低圧UV酸化器の出力を0.5kwh/mから1.0kwh/mに変更したところ、最終的に生成するカルボキシル基の量は検出下限値以下となった。このシリコンウエハの洗浄を行ったところ、シリコンウエハ上のCaの吸着量は1.0×10atom/cmとなり、シリコンウエハの処理後の歩留まりを一定に保つための許容Ca吸着量を維持することができた。この時、低圧UV酸化器の出力を上げたことによる相対コストは1であった。
【0073】
〔比較例3〕
前述した実施例3、4において、処理条件の変更によるCa吸着量の変化が不明だったため、Caを50%除去することができる相対コスト2のイオン交換フィルタを設置して、二次純水W2中のCa濃度を0.6pptとして、クリーンルーム8においてウエハの洗浄を行ったところ、シリコンウエハ上のCa吸着量は0.7×10atom/cmとなりシリコンウエハの歩留まりを一定以上に保つための許容Ca吸着量は達成できたが、追加の設置コストが2倍となってしまった。
【符号の説明】
【0074】
1…超純水製造システム
11…RO膜装置(膜分離装置)
12…イオン交換装置
14…UV酸化装置
15…イオン交換装置
16…限外ろ過装置(膜分離装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被洗浄基板の洗浄に供される洗浄水中の不純物が、該被洗浄基板の汚染に及ぼす影響を評価する方法であって、
所定の条件における前記被洗浄基板上に存在する吸着活性点の量の分析値と、
前記洗浄水によって洗浄された際の前記被洗浄基板の汚染量と、
条件変更後の前記被洗浄基板上に存在する吸着活性点の量の分析値とから前記被洗浄基板への前記不純物の予想吸着量を算出し、この予想吸着量により前記被洗浄基板へ前記洗浄水が汚染に及ぼす影響を評価することを特徴とする洗浄水の影響評価方法。
【請求項2】
前記被洗浄基板が、シリコンウエハであることを特徴とする請求項1に記載の影響評価方法。
【請求項3】
前記吸着活性点が、前記被洗浄基板表面に存在するOH基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の影響評価方法。
【請求項4】
前記吸着活性点の分析の方法が、赤外線を用いる分析方法であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の影響評価方法。
【請求項5】
前記赤外線を用いる分析方法により分析された吸着活性点の量が、波数950〜810cm−1に現れるピークがシフトして生じるSiOHに由来するピークの面積で規定されることを特徴とする請求項4に記載の影響評価方法。
【請求項6】
前記吸着活性点の分析の方法が、X線光電子分光法であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の影響評価方法。
【請求項7】
前記X線光電子分光法により分析された吸着活性点の量が、O1sに基づくピークをSi−O−SiとSiOHとに分離することによるSiOH量で規定されることを特徴とする請求項6に記載の影響評価方法。
【請求項8】
前記X線光電子分光法により分析された吸着活性点の量が、C1sピークに基づくカルボキシル基の量で規定されることを特徴とする請求項6に記載の影響評価方法。
【請求項9】
前記吸着活性点が、1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の影響評価方法。
【請求項10】
前記不純物が、金属含有成分であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の影響評価方法。
【請求項11】
前記不純物が、有機物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の影響評価方法。
【請求項12】
前記不純物の予想吸着量が、基準となる被洗浄基板のOH基量と実際の被洗浄基板のOH基量との比及び予め1点以上得ておいた前記基準となる被洗浄基板のOH基に対応した不純物量から算出された前記実際の被洗浄基板への不純物量であることを特徴とする請求項3〜7及び9〜11のいずれかに記載の影響評価方法。
【請求項13】
請求項1〜12に記載の影響評価方法を用いて評価された洗浄水中から前記被洗浄基板への不純物の予想吸着量に基づき、前記不純物の水中濃度の上限を設定することを特徴とする水質設定方法。
【請求項14】
請求項13に記載の水質設定方法を用いて決定した水質を得るために、最適なシステムの単位操作ユニット構成としたことを特徴とする超純水製造システム。
【請求項15】
前記単位操作ユニットが、UV酸化装置、膜分離装置、イオン交換装置のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項14に記載の超純水製造システム。
【請求項16】
前記単位操作ユニットが、イオン交換フィルタを含むことを特徴とする請求項14に記載の超純水製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−214856(P2011−214856A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80552(P2010−80552)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】