説明

被洗浄物の洗浄方法

【課題】 光学部品等は、油等の汚れを除去するためイソプロピルアルコール等の親水性溶剤を用いて洗浄するのが一般的である。しかし、洗浄後の部品に付着した親水性溶剤が乾燥するまでの間に、親水性溶剤が空気中の水分を吸収し、この水分が部品表面に水しみ(ウォーターマーク)となる問題がある。
【解決手段】 洗浄室内の上部に冷却装置を下部に加熱装置をそれぞれ配設し、加熱装置により親水性の洗浄溶剤を加熱して、その蒸気により被洗浄物の表面を洗浄する被洗浄物の洗浄方法において、洗浄溶剤の蒸気が濃い洗浄室の下方の位置において被洗浄物を所定時間洗浄した後、この位置の蒸気温度と、冷却装置の近傍の蒸気温度との略中間温度の位置において被洗浄物を乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被洗浄物を蒸気洗浄する際に、被洗浄物の表面に水しみ等の汚れを残さない洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部品、光学部品、塗装部品等の各種部品は、加工工程や組立工程等において油等の各種の汚れが付着する。
かかる汚れを嫌う部品は、フロン系溶剤や塩素系溶剤に代わる洗浄溶剤の一つであり、安価に入手できるイソプロピルアルコール等の親水性溶剤を用いて洗浄するのが一般的である。
【0003】
しかし、親水性溶剤を用いて部品を洗浄する場合、洗浄後の部品に付着した親水性溶剤が乾燥するまでの間に、親水性溶剤が空気中の水分を吸収し、この水分が部品表面に水しみ(ウォーターマーク)となるという問題がある。
かかる問題に対して、従来、バートレル等の代替フロンを用いて水しみを手作業で拭き取るのが一般的に行われているが、代替フロンは環境負荷に与える影響が大きいという別の問題がある。
【0004】
これらの問題を解決するために、代替フロンを使うことなく、フロンに匹敵するような超精密洗浄ができる洗浄方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平04−124289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、かかる洗浄方法は、シリコーン系洗浄剤と、不燃性不活性液体の2種類の洗浄剤を用いなければならず、従来と比較して洗浄に要するコストがアップするという問題がある。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、従来から一般的に用いられている安価な親水性溶剤のみを用いて、フロンに匹敵するような超精密洗浄ができる洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の被洗浄物の洗浄方法は、洗浄室内の上部に冷却装置を下部に加熱装置をそれぞれ配設し、加熱装置により親水性の洗浄溶剤を加熱して、その蒸気により被洗浄物の表面を洗浄する被洗浄物の洗浄方法において、洗浄溶剤の蒸気が濃い洗浄室の下方の位置において被洗浄物を所定時間洗浄した後、その位置の蒸気温度と、前記冷却装置の近傍の蒸気温度との略中間温度の位置において前記被洗浄物を乾燥させるので、被洗浄物の表面に付着した親水性の洗浄溶剤が乾燥するまでに吸収する空気中の水分が極めて微量であるため、被洗浄物の表面への水しみの付着を防止することができるという効果を奏する。
【0008】
請求項2に記載の被洗浄物の洗浄方法は、請求項1において、被洗浄物を洗浄する洗浄時間を被洗浄物が洗浄室の下方の蒸気温度と略同じ温度になるまでの時間としたので、被洗浄物が洗浄溶剤の蒸気により十分に洗浄され、かつ、蒸気洗浄の位置よりも低温の乾燥位置において短時間に被洗浄物を乾燥させることができるという効果を奏する。
【0009】
請求項3に記載の被洗浄物の洗浄方法は、請求項1または請求項2において、洗浄溶剤が、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールまたはアセトンであるので、一般に市販されている安価な親水性溶剤のみを用いて、フロン系溶剤を用いた場合と遜色無い高品質な洗浄ができるという効果を奏する。
【0010】
請求項4に記載の被洗浄物の洗浄方法は、請求項1から請求項3において、被洗浄物が光学部品であるので、一般に市販されている安価な親水性溶剤のみを用いて、光学部品をフロン系溶剤を用いた場合と遜色無い高品質な洗浄ができるという効果を奏する。
【0011】
請求項5に記載の被洗浄物の洗浄方法は、請求項4において、光学部品がポリゴンミラーであるので、一般に市販されている安価な親水性溶剤のみを用いて、ポリゴンミラーをフロン系溶剤を用いた場合と遜色無い高品質な洗浄ができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、一般に市販されている安価な親水性溶剤のみを用いて、環境破壊が少なく、フロン系溶剤を用いた場合と遜色無い高品質な洗浄ができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を図面を用いて以下に詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、蒸気洗浄槽の断面図を示したものである。
図1に示すように、蒸気洗浄槽1の内部(洗浄室内)には、親水性の洗浄溶剤2を加熱し、洗浄溶剤2を蒸気にする加熱装置としてのヒータ4が下部に設けられ、洗浄溶剤2の蒸気を冷却して回収するための冷却装置としての冷却パイプ3が上部において洗浄室の内面を巻き回すように設けられている。
また、蒸気洗浄槽1は、開口部6から図示しない昇降装置により被洗浄物5を出し入れおよび昇降させるようになっている。
【0015】
この蒸気洗浄槽1に、親水性の洗浄溶剤2(例えば、イソプロピルアルコール等)を所定量入れ、ヒータ4を約100℃に加熱すると、洗浄溶剤2の一部が蒸気化し、この蒸気が洗浄エリア7の位置にある被洗浄物5を洗浄する。
洗浄エリア7は、蒸気の温度が約82℃であり、蒸気の濃度が高い洗浄室内の下方に設けられ、被洗浄物5の洗浄に適した位置となっている。
【0016】
洗浄エリア7において洗浄を終えた被洗浄物5は、洗浄エリア7の上方にある乾燥エリア8において被洗浄物5の表面に付着した洗浄溶剤2がなくなるまで乾燥される。
【0017】
この乾燥エリア8は、洗浄室の上部に設けられた冷却パイプの近傍の冷却エリア9の蒸気温度約16℃と、前記した洗浄エリア7の蒸気温度約82℃の略中間温度である蒸気温度約49℃の位置Aに設けられている。
被洗浄物5は、洗浄エリア7で蒸気温度とほぼ同じ温度(約82℃)まで暖められるので、位置Aにおいては、被洗浄物5の温度が乾燥エリアの蒸気温度(約49℃)よりも高く、洗浄エリア7よりも洗浄溶剤2の蒸気濃度が薄いため、乾燥に適している。
【0018】
さらに、空気濃度が高い冷却パイプの近傍の冷却エリア9から離れているため、乾燥中に被洗浄物5に付着した洗浄溶剤2が吸収する空気中の水分が極めて微量であるので、被洗浄物5の表面に水しみが生じない。
【0019】
ここで、乾燥エリア8は、乾燥時間の短縮化という観点からみれば、洗浄エリア7の上方であるほど好ましいが、前記した水しみが発生しない位置Aに設定されている。
この位置Aを決定するパラメータとしての蒸気温度は、洗浄エリア7の蒸気温度と、冷却エリア9の蒸気温度との略中間温度に設定され、この中間温度を中心として±10℃、より好ましくは±5℃の温度幅を持たせてもよい。すなわち、本実施例においては、49℃±10℃の温度範囲Bのエリアであれば良く、49℃±5℃の温度範囲のエリアであればより好ましい。
【0020】
尚、冷却パイプ3により冷却されて回収された洗浄溶剤2は、空気中の水分が多量に溶け込んでいるが、図示しない回収装置により水分を除去して再度洗浄溶剤として利用される。かかる回収装置の構造等については、蒸気式洗浄槽等で一般的に用いられているものであるため、説明を省略する。
【実施例2】
【0021】
図2および図3を用いて、本発明にかかる別の実施例を以下に説明する。
尚、実施例1と同一の部分については、同一の符号を付して説明を省略し、実施例1との主な相違点についてのみ詳細に説明する。
【0022】
図2は、アルミニウムを主な原料とするポリゴンブランクを加工して得られるポリゴンミラーの斜視図であり、図3は、ポリゴンミラーを洗浄するためのラインの模式図である。
【0023】
ポリゴンミラー30は、複写機等の画像形成装置におけるキー部品の1つである光偏向装置に用いられる光学部品であり、レーザー光を高精度に反射するために、反射面31は鏡面に加工されている。この反射面31には、鏡面に加工する際に用いる切削油の他に金属粉等の異物が付着している。
【0024】
ポリゴンミラー30の洗浄は、まず、シャワー洗浄装置10により大きな異物を除去し、その後、洗浄溶剤としてイソプロピルアルコール等の親水性の溶剤を用いた超音波洗浄装置20により残りの異物および切削油を除去し、最後に、実施例1で詳細に説明した蒸気洗浄槽1により仕上げ洗浄するのが望ましい。
【0025】
かかる洗浄方法を採用することにより、超音波洗浄装置20により洗浄されたポリゴンミラー30の反射面31に付着した水しわを完全に除去することができ、フロン洗浄の場合と遜色ない高品質のポリゴンミラーを得ることができる。
すなわち、本発明により、各種の装置を用いて洗浄ラインを構成する場合であっても、多量に市販されている低コストな親水性の洗浄溶剤のみを用いて精密な洗浄を行うことができる。
【0026】
前記した実施例は、説明のために例示したものであって、本発明としてはそれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲、発明の詳細な説明および図面の記載から当業者が認識することができる本発明の技術的思想に反しない限り、変更および付加が可能である。
【0027】
例えば、前記した実施例は、イソプロピルアルコールを用いた洗浄方法を示したが、洗浄溶剤としては、これに限定されるものではなく、エタノール、メタノール、アセトン等であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0028】
単一の親水性の洗浄溶剤のみで各種の部品を安価かつ精密に洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】蒸気洗浄槽の断面図である。(実施例1)
【図2】ポリゴンミラーの斜視図である。(実施例2)
【図3】ポリゴンミラーを洗浄するためのラインの模式図である。(実施例2)
【符号の説明】
【0030】
1 蒸気洗浄槽
2 洗浄溶剤
3 冷却装置
4 加熱装置
5 被洗浄物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄室内の上部に冷却装置を下部に加熱装置をそれぞれ配設し、該加熱装置により親水性の洗浄溶剤を加熱して、その蒸気により被洗浄物の表面を洗浄する被洗浄物の洗浄方法において、
前記洗浄溶剤の蒸気が濃い前記洗浄室の下方の位置において前記被洗浄物を所定時間洗浄した後、
該位置の蒸気温度と、前記冷却装置の近傍の蒸気温度との略中間温度の位置において前記被洗浄物を乾燥させることを特徴とする被洗浄物の洗浄方法
【請求項2】
前記所定時間は、前記被洗浄物が、前記洗浄室の下方の蒸気温度と略同じ温度になるまでの時間であることを特徴とする請求項1に記載の被洗浄物の洗浄方法
【請求項3】
前記洗浄溶剤は、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールまたはアセトンであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の被洗浄物の洗浄方法
【請求項4】
前記被洗浄物は、光学部品であることを特徴とする請求項1から請求項3に記載の被洗浄物の洗浄方法
【請求項5】
前記光学部品は、ポリゴンミラーであることを特徴とする請求項4に記載の被洗浄物の洗浄方法

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−326491(P2006−326491A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−153464(P2005−153464)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000251288)鈴鹿富士ゼロックス株式会社 (156)
【Fターム(参考)】