説明

被膜の作製方法

【課題】組成変動が少なく、均一で緻密な表面の平滑性が優れたセラミックス被膜を得るための被膜の作製方法を提供することを目的としている。
【解決手段】微粒子材料をガスと混合化してエアロゾル化し、ノズルから基板に吹き付けて堆積膜を形成するエアロゾルデポジション法による被膜の作製方法であって、前記微粒子材料の破壊靱性値が6MPam1/2未満であることにより、組成変動が少なく、均一で緻密な表面の平滑性が優れたセラミック被膜を得ることが出来る被膜の作製方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子化したセラミックス、金属、半金属等の材料を基板上に噴射して成膜するエアロゾルデポジション法を用いた被膜の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化物、窒化物材料等の電子セラミックス材料を形成する手法として、エアロゾルデポジション法(以降、AD法)と呼ばれる新たな薄膜形成方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。この方法は、常温衝撃固化現象を基礎とした膜形成方法であり、あらかじめ微粒子化した原料をヘリウム、窒素、酸素等のガスと混合してエアロゾル化し、減圧化の雰囲気でノズルを通して基板に噴射して被膜を形成させるというものである。形成された皮膜は直径が数十ナノメーターレベルの微細結晶塊から構成され、空孔が発生せず緻密な構造になる。このAD法は、従来の形成方法であるスパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法等と比べて、桁違いに製膜速度が速く、しかも、高温での熱処理工程を伴う必要が無く室温にて緻密で高硬度な膜を得ることが出来るので、セラミックス膜の作製に非常に適した製法である。これらAD法の特徴を利用して、コンデンサー、抵抗、インダクター等の受動部品の集積化や3次元実装化に必要となる高誘電率誘電体膜の製造、インクジェットプリンタのプリンタヘッドに用いられる圧電素子の製造等への応用展開が図られている。
【0003】
図6は従来の一般的なAD法の装置の基本構成図である。装置の主な構成部品は真空チャンバー102、エアロゾル発生器106及びそれらを接続する細い搬送管112、この搬送管の先には噴射ノズル101が取り付けられている。真空チャンバー102には、基板ホルダー113の他、ロータリーポンプ等の真空ポンプ109が設置されており、数Paから数kPaに減圧される。エアロゾル発生器106は、ガスを供給するためのガスボンベ111と導入管110を通じて接続されている。原料である微粒子105は、エアロゾル発生器内でガスと攪拌、混合してエアロゾル化され、導入管112を通して噴射ノズル101に供給されている。エアロゾル発生器と真空チャンバーの差圧により生じるガスの流れに伴ってエアロゾル発生器から真空チャンバーに搬送され、スリット状の噴射ノズルを通して加速されたエアロゾルが基板103に噴射されて被膜107が形成される。一般にスリットの開口幅は1mm程度から百mm程度までが可能である。噴射ノズルを基板に対して相対運動させることにより広い面積の製膜領域を得ることが出来るし、固定することで比較的微小領域の成膜も可能である。
【0004】
上述したAD法の成膜メカニズムは常温衝撃固化現象を利用して以下のように考えられている。即ち、エアロゾル化された平均粒径が1000nm程度の原料微粒子が高速で基板と衝突することで10〜30nm程度の微粒子に粉砕されると共に、粉砕によって細かく割れた面が新生面として非常に活性な状態となり、新生面同士が強固な粒子間結合を引き起こす。そのため、従来の焼結法での形成とは異なり、低温にて緻密な組織を有したセラミックス膜を作製することが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−3180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、我々はAD法に用いる材料物性と成膜性について様々検討した結果、成膜する材料の破壊靱性値が非常に重要であり、材料の破壊靱性値が大きくなると、AD法で成膜することは困難であり、基板上へはほとんど成膜されない。この成膜されない現象は、単に成膜速度が遅いだけでは説明出来ず、たとえ長時間成膜したとしてもある一定以上の厚い膜は形成出来ない。つまり、従来の方法では、特性を左右する組成を精度良く制御することは不可能であるし、主原料に対して副原料が比較的大きな割合で有率させることを必要とすることも困難となる。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、組成変動が少なく、均一で緻密な表面の平滑性が優れたセラミックス被膜を得るための被膜の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、微粒子材料をガスと混合化してエアロゾル化し、ノズルから基板に吹き付けて堆積膜を形成するエアロゾルデポジション法による被膜の作製方法であって、前記微粒子材料の破壊靱性値が6MPam1/2未満であることを特徴とする被膜の作製方法である。
【発明の効果】
【0008】
これにより、組成変動が少なく、均一で緻密な表面の平滑性が優れたセラミックス被膜を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例に係る1つのノズルを用いたAD法を示す模式図
【図2】本発明の実施例に係る破壊靱性値と成膜速度との関係を示す特性図
【図3】本発明の実施例に係る2つのノズルを用いたAD法を示す模式図
【図4】本発明の実施例に係る感光体の層構造を示す模式図
【図5】本発明の実施例に係る電子写真装置の概略構成図
【図6】従来のAD法を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の請求項1記載の発明によれば、脆性微粒子材料をガスと混合化してエアロゾル化し、ノズルから基板に吹き付けて堆積膜を形成するエアロゾルデポジション法による被膜の作製方法であって、微粒子材料の破壊靱性値が6MPam1/2未満であることにより、効率良く基板上に膜が形成出来るので、混合化や積層化の工程においても組成変動が少なく、任意に組成比を制御した安定な膜特性を有した被膜を得ることが出来る。
【0011】
本発明の請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の被膜の作製方法であって、微粒子材料は、複数の材料からなることにより、基板上に同時に吹き付けた場合、複合膜を作製することが出来る。
【0012】
本発明の請求項3記載の発明によれば、請求項2記載の被膜の作製方法であって、複数の材料を基板に交互に吹き付けることにより、容易に積層膜を作製することが出来る。
【0013】
本発明の請求項4記載の発明によれば、請求項1記載の被膜の作製方法であって、破壊靱性値が6MPam1/2以上の微粒子材料を前記堆積膜に吹き付けることにより、上記粒子材料によって堆積膜を平坦化することが出来る。
【0014】
また、平坦化の肯定に用いる微粒子材料の破壊靱性値が6MPam1/2以上であるため、平坦化する工程に用いる微粒子が堆積膜に不純物として含有することを防ぐと共に、堆積膜の表面平滑性を改善することが出来る。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の一実施例を示す詳細を図面にて説明する。
【0016】
図1は、本発明のAD法を用いた成膜装置の概略図である。本発明の成膜装置は組成の異なる材料粒子5−a、5−bをそれぞれキャリアガスに分散させてエアロゾル化するためのエアロゾル発生器6−a、6−bとこれらエアロゾル4−a、4−bを吹き付けるための噴射ノズル1で構成し、全体を真空チャンバー2で覆っている。真空チャンバー2には排気ポンプ9が接続され、成膜中は真空チャンバー2を排気し続けている。基板3は、基板ホルダー13に装着され、必要に応じて前後左右に移動することが出来る。エアロゾル発生器6−a、6−bには、キャリアガスを導入するためのガスボンベ11−a、11−bが導入管10−a、10−bを介して接続されている。導入管10−a、10−bの先端はエアロゾル発生器6−a、6−bの内部において底面付近に位置し、材料粒子5−a、5−b中に埋没するように配置されており、ガスボンベ11−a、11−bからキャリアガスを送ることで材料粒子5−a、5−bが吹き上げられてエアロゾル4−a、4−bを生成する。生成されたエアロゾル4−a、4−bは導入管12を通って噴出ノズル1に供給される。噴射ノズル1より噴射されるエアロゾルは基板に吹き付けられることで粉砕され、基板3上で堆積膜7となる。堆積膜7を混合被膜とするか積層被膜とするかは切り替えバルブ8−a、8−bの開閉にて行う。即ち、混合被膜を得るには、切り替えバルブ8−a、8−bを共に開けて混合化されたエアロゾルを噴射ノズル1より噴射させる。積層被膜を得るには、切り替えバルブ8−a、8−bのどちらか一方を開け、その開閉を交互に切り替えて行う。切り替えバルブ8−a、8−bの開閉数が積層被膜の層数をとなる。上記の工程に用いる材料粒子5−a、5−bは共に破壊靱性値6MPam1/2未満の材料を用いることで、基板上に形成される堆積膜は材料粒子5−a、5−bの組成を共に含んだ混合被膜または個々の組成を有した単層膜が積層化された積層被膜を得ることが可能となる。
【0017】
キャリアガスとしては、例えばヘリウム、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスや窒素、空気、酸素等を使用することが出来、ガスボンベ11−a、11−bには同じガスであっても、異なるガスであっても構わない。用いる材料粒子の機械的特性、粉体特性等の特性に応じ、最適なキャリアガスの種類を選択することが重要である。
【0018】
図2にAD法を用いて得られた膜の破壊靱性値と成膜速度との関係を示しており、成膜速度がゼロとは基板に膜が作製されないことを意味している。尚、図中の種々の異なる破壊靱性値は異なる原料粒子を成膜することで得られ、具体的な材料としては図中の破壊靱性値が低い方より順に、イットリア、窒化アルミニウム、炭化珪素、酸化アルミニウムである。図中に示した破壊靱性値の値はそれぞれ左から順に、1.0Pam1/2、3.0Pam1/2、4.0Pam1/2、5.6Pam1/2であり、これらの点から近似曲線を求め、成膜速度がゼロとなる破壊靱性値は6.0Pam1/2である。
【0019】
ガス流量、ガス種類等の成膜条件は全て同一条件下で行い、膜厚は全て一定の膜厚とし、ほぼ5ミクロンである。尚、本実施例で用いた個々の原料粒子はその大きさを均一にするため、ボールミルやジェットミル等によって処理を行い、平均粒径D50がほぼ1ミクロンの粒子とした。また、水分の影響を極力排除し、原料粉体の状態を均一にするため、前処理として真空中で200℃1時間の熱処理を施した。
【0020】
図2より、破壊靱性値とAD法での成膜速度とは密接に関係しており、破壊靱性値が高くなると成膜速度は低下し、成膜速度がゼロとなる破壊靱性値はおよそ6MPam1/2程度と予想出来る。つまりこれは、AD法では破壊靱性値が6MPm1/2以上の膜を成膜することは困難であることを示唆している。AD法にて成膜される膜の成膜速度は、当然、ガス流量、ガスの種類、粉の粒径等の成膜条件によって大きく影響される。一方、膜の破壊靱性値はそれら条件にて若干左右されるが大きな変化は無く、物質そのものの特性によって決定される。従って、図2の傾きは成膜条件によって変化するが、X軸との切片は変化せず、破壊靱性値6MPm1/2付近である。
【0021】
破壊靱性値の測定方法はJIS R1607の圧子圧入法(IF法)を用いて測定しており、試料にくぼみを付けたときのくぼみの大きさと、亀裂の長さから破壊靱性値を求めるものである。本実施例では、測定装置として島津製作所社製の微小硬度計HMV−2Tを用い、荷重圧力0.05Nで試験を行った。尚、正確性を期すため、1つの試料に対して異なる箇所の5点を測定しその平均とした。
【0022】
(表1)には様々な脆性材料の破壊靱性値とAD法における成膜性の成否との関係をまとめた。破壊靱性値は上述と同じ測定装置を用いて行い、荷重圧力は10Nとした。膜の成膜性の目視にて確認し、基板上に膜が成膜しない場合を×とした。尚、ここで示す破壊靱性値は図1で示した破壊靱性値とは異なり、膜の値ではなく焼結体の値である。この表が示す結果は図2で示す結果と同様の傾向を示している。つまり、破壊靱性値6MPam1/2以上の材料をAD法で成膜することは困難との結論になる。
【0023】
【表1】

【0024】
ところで、焼結体の破壊靱性値は各メーカが発行するカタログにも記載されているように例えば、旭硝子株式会社製の窒化珪素N800は5.5MPam1/2、京セラ株式会社製の窒化珪素SN−240は7.0MPam1/2と同じ材質であってもメーカによる焼結条件や測定条件の違いによって多少の差を生じてしまう。また、一般にAD法での成膜は、粉の状態(粒径、乾燥状態)、エアロゾルの入射角度、ガスの流量、ガスの種類等によって成膜の成否や成膜速度が大きく影響される。従って、材料の成膜可否を判断する場合、単に1つの材料を1つの条件にて成膜を試み、その結果から判断すると間違った結果を導き出してしまう。(表1)で示した成膜性の結果は、様々な原料粒子(メーカ、平均粒径、熱処理条件等)と様々な成膜条件(ガス種類、ガス流量、ノズル−基板間距離等)を総合的に検討した結果であるため、特定メーカの材料や特定の成膜条件に限定したものでなく、AD法にとっての普遍的な結果となっている。つまり、図2及び(表1)の結果から、破壊靱性値が高く、その値が6MPam1/2以上の脆性材料をAD法で成膜することは困難であるとの新たな知見が結論付けられたことになる。尚、破壊靱性値がAD法の成膜性に影響する理由は、以下のメカニズムであると考えられる。破壊靱性値とは表面や内部に亀裂を持つ材料の破壊に対する抵抗力を示す一種の尺度であるので、破壊靱性値の高い材料をAD法に用いた場合、基板に衝突することで仮に原料粒子にクラックが入ったとしても完全に破砕することが少なく、膜として成長するために必要不可欠な活性な新生面を得ることが出来ない。その結果、基板上に膜として成長することが出来なくなってしまう。また、これを改善すべく、成膜条件を工夫することで衝突エネルギーを大きくしたとしてもエッチング効果を増大させてしまい、エッチングの割合が成膜の割合を超えてしまうので基板上への膜の成長が出来なくなってしまう。従って、破壊靱性値の高い材料をAD法で成膜することは困難になってしまう。
【0025】
図3は本発明の一実施例に係わる複数の噴射ノズルを用いて混合被膜および積層被膜を作製するためのAD法成膜装置の概略図である。図1で示した成膜装置が、切り替えバルブ8−a、8−bの開閉にて1つの噴射ノズルで混合被膜および積層被膜を作製するのに対して、図3で示した成膜装置は2つの独立した噴射ノズルを用いて被膜を作製する方法である。図3で示した2つの噴射ノズルを用いて連続的に膜を形成する場合、個々の噴射ノズル1−a、1−bから噴射されるエアロゾルと基板と衝突する焦点位置を制御することで、混合被膜と積層被膜を任意に作製することが出来る。つまり、混合被膜を作製する場合は焦点Aと焦点B(図3中に示す)を略同一位置となすことで可能である。一方、積層被膜は焦点Aと焦点Bを離した位置とすることで作製可能となる。
【0026】
様々な脆性材料を図3のAD法成膜装置を用いて作製した場合の混合被膜の特性を(表2)に示している。尚、本実施例との比較のための、比較例1および2にはAD法で作製した混合化させていない単一組成被膜の特性を示している。炭化珪素被膜は磨耗性が非常に優れており、切削工具やベアリング等に応用されているが、抵抗や透過率が低く、各種電子デバイスによっては改善すべき特性となっている。炭化珪素にアルミナやイットリアを添加することで抵抗値、透過率が改善していることが(表2)より明らかであり、酸化チタンも炭化珪素と同じくアルミナと混合化することで特性が改善されている。炭化珪素の混合化のメリットは電子ペーパやタッチパネル液晶のように、透明性を要求されつつ耐磨耗性を必要とするディスプレイ用の表面コーティング材として利用出来る。酸化チタンの場合のメリットは混合化させることで光の吸収特性が変化するので、感光体用の電荷発生層や電荷輸送層に利用出来る。混合被膜が出来ているかどうかの確認は(表2)に示す特性面だけでなく電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)による組成分析によっても確認している。尚、本実施例では混合被膜の組成比は粉体ミル条件や流量ガス等の成膜条件によって制御しており、今回得られた被膜の組成比はほぼ主原料0.8:副原料0.2であった。
【0027】
【表2】

【0028】
図3にて説明したAD法の成膜装置では個々の噴射ノズルの位置関係は、角度的にも左右対称ではない位置に配置しているが特にこれに限定するわけではなく、材料固有の成膜速度、混合組成比に応じて可変可能である。一般的には、垂直入射で吹き付ける方が斜めから吹き付けるより同じ材質であっても成膜速度は速くなるので、これを加味した最適な成膜条件を選定すれば良い。また、噴射ノズルの本数も特に限定するものではなく、混合させる材料や積層させる材料の種類数に応じて2本以上の複数本のノズルを用いても構わない。
【0029】
ノズルの噴射幅(図3は奥方向)は特に限定するものではなく、数mmから百mm程度の幅を持ったノズルであっても本発明の効果を問題なく発揮することが出来る。
【0030】
本発明に用いることが出来る破壊靱性値6MPam1/2未満の材料粒子としては、酸化アルミニュウム、イットリア、酸化チタン、酸化珪素、フェライト等の酸化物、窒化アルミニュウム、窒化チタン等の窒化物、炭化珪素等の炭化物、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フォルステライト等の化合物等が挙げられる。
【0031】
ところで、これまで、混合被膜や積層被膜を得るには破壊靱性値6MPam1/2未満の材料粒子を用いることが必要不可欠であると述べてきたが、一方の材料粒子に破壊靱性値6MPam1/2以上のものを用いることで形成される被膜の平坦化に非常に有効であることを見出した。従来は被膜の表面平滑性を向上させるため、微粒子材料をガスと混合化してエアロゾル化し、ノズルから基板に吹き付けて堆積膜を形成する工程と微粒子材料をガスと混合化してエアロゾル化し、ノズルから基板に吹き付けて前記堆積膜の表面を削ることにより平坦化する工程を併用した作製方法が提案されていた。しかしながら、平坦化工程で用いる材料を上手く選定しないと、その微粒子材料が膜に不純物として含まれてしまうとの課題を有していた。
【0032】
そこで、本発明では破壊靱性値6MPam1/2以上の微粒子材料を平坦化工程に用いることで、破壊靱性値6MPam1/2以上の微粒子材料は、上述したように堆積膜として形成されないため、その微粒子自身が不純物として被膜へ含有することを防ぐことが可能となる。具体的な作製方法としては、図1および図3で示したAD法成膜装置において、被膜となる微粒子材料に葉破壊靱性値6MPam1/2未満を用い、一方の微粒子材料に破壊靱性値6MPam1/2以上のものを用いて平坦化を行う。図1においては、成膜工程と平坦化工程を交互に行うか、成膜工程を終了させた後に平坦化工程を行うかの2つの方法があり、切り替えバルブ8−a、8−bの開閉にて実施可能である。図3で示す2つの噴射ノズルを用いた実施例においては、膜が成長する過程で平坦化を行えるのでその平坦化効果も大きく、1つの噴射ノズルを用いて成膜工程と平坦化工程を行う場合と比べて、より平坦な表面を得ることが出来る。また、成膜工程と平坦化工程を同時に行えるようになるので、1つの噴射ノズルを切り替える場合と比べて生産性も高くなる。尚、この場合、焦点Aと焦点Bの位置関係は離した方が好ましい。
【0033】
また、本発明に係る平坦化工程に用いることが出来る破壊靱性値6MPam1/2以上の材料粒子としては、ジルコニア、窒化珪素、ダイヤモンド等が挙げられる。尚、本発明の効果は上記記載した材料粒子に限定したものではなく、それ以外の材料であっても良い。本発明において重要なことは、成膜工程に用いる材料の破壊靱性値が6MPam1/2未満であり、平坦化工程に用いる材料の破壊靱性値が6MPm1/2以上であるということである。
【0034】
図4は本発明のAD法を用いて作製した電子写真感光体20の層構造を示す模式図である。図4の中で、21は導電性の支持体、22は有機膜で構成した電荷発生層、23は光透過性を有する金属酸化膜で構成した電荷輸送層であり、支持体21の上に順に形成されている。この電荷輸送層23を図1または図3で示す本発明のAD法の製造方法にて形成する。
【0035】
電荷輸送層23として利用するためには、露光する光の波長帯域において吸収することなく電荷発生層22に達し、そこで発生した電荷を電子写真感光体の表面まで輸送する機能を有していなければならない。本実施例ではその特性を有する材料として、酸化チタンとアルミナの混合被膜を電荷輸送層として用いた。
【0036】
本発明のAD法を用いて形成した酸化チタンとアルミナの複合被膜の代表的な膜特性としては、膜厚5μmにおいて、透過率80%(波長:800nm)、電気抵抗(シート抵抗)2×10-13Ω/□、表面粗さ40nmである。成膜条件として、粒度分布がD10=0.2μm、D50=0.3μm、D90=0.5μmの高純度酸化チタン粉末、粒度分布がD10=0.3μm、D50=0.5μm、D90=0.8μmのアルミナ粉末を用いた。キャリアガスは共に窒素ガスを用い、流量を可変することで個々の最適化を図った。尚、比較のため、上記と同じ材料粒子を用いて同じ成膜条件で単一組成の酸化チタンを形成した場合、膜の電気抵抗(シート抵抗)は7×10-8Ω/□、透過率は70%となり、電子写真感光体の電荷輸送層として用いるには本実施例の方が適していることが確認されている。
【0037】
支持体21としては支持体21自体が導電性を有するもの、例えば、アルミニウムが代表的ではあるが、それ以外にも、アルミニウム合金、銅、ステンレス、クロム、チタン、ニッケル、マグネシウム、インジウム、金、白金、銀、鉄等を用いることが出来る。その他に、プラスチック等の誘電体基材に、アルミニウム、酸化インジウム、酸化スズ、金、等を蒸着等により被膜形成して導電性を持たせたものや、プラスチックや紙に導電性微粒子を混合したもの等を用いることが出来る。これらの導電性の支持体21は均一な導電性が求められると共に、平滑な表面性も重要となる。支持体21表面の平滑性は、その上層に形成する電荷発生層22、電荷輸送層23の均一性に大きな影響を与えることから、その表面荒さは0.5μm以下で用いられることが好ましい。
【0038】
図4においては、支持体21の上に直接電荷発生層22を形成した構成について示したが、支持体21と電荷発生層22の中間に、注入阻止機能と接着機能を持つ下引層を設けることも出来る(図示せず)。下引層の材料としては絶縁性能を示す、カゼイン、ポリビニルアルコール、ニトロセルロース、エチレンーアクリル酸コポリマー、ポリビニルブチラール、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリウレタン、ゼラチン等が一般的な材料として挙げられる。また、支持体がアルミニュウムの場合、アルマイト処理を施して数十μmのアルミナを形成して下引層としても良い。
【0039】
電荷発生層22としては、特に指定する物ではない。例えば、チタニルフタロシアニン、無金属フタロシアニン、銅フタロシアニン等の金属フタロシアニン類、ナフタロシアニン類、またこれら2種のフタロシアニンの混晶、アゾ化合物、セレン−テルル、ピリリウム化合物、ペリレン系化合物、シアニン系化合物、スクアリウム化合物、多環キノン化合物等の有機物のほか、アモルファスシリコン、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0040】
耐刷性を向上させるために電荷輸送層23の上に種々の保護膜をコーティングしても構わず、材質としてはカーボン、アルミナ、炭化珪素等が挙げられる。また、それら保護膜を形成する方法としては、スパッタリングやCVD等の他、本実施例のAD法によって形成しても良い。
【0041】
図5は本発明の係る電子写真感光体を用いて構成した電子写真装置30の概略構成図である。図5に示す電子写真装置30は、4つの円筒状または円柱状の像形成体として、感光体31、32、33、34と、これらに跨って延在しているベルト状転写体35を有する中間転写ユニット36等から構成されている。それぞれの感光体31、32、33、34の周辺には、帯電装置(ここでは帯電ローラ)37、38、39、40、露光装置41、上部にそれぞれ現像剤格納部を有する現像器42、43、44、45、感光体クリーナ46、47、48、49が配置されている。尚、中間転写ユニット36には、記録紙50に転写されずにベルト状転写体35の表面に残ったいわゆる残トナーをクリーニングするためのベルトクリーナ51が設けられている。さらに、中間転写ユニット36のベルト状転写体35には、各感光体31、32、33、34で形成された後、転写され重畳されたトナー像を記録紙50に転写するのに必要な最終転写ローラ52が当接または対向している。定着器53は記録紙50に転写されたトナー像を定着させるための手段である。
【0042】
次に画像形成の詳細について説明する。まず、本発明に係る電子写真感光体31が帯電装置37により一様に帯電された後、露光装置41により露光され、これにより形成された静電潜像を現像器42により現像する。静電潜像が可視化されたトナー画像は、中間転写ユニット36のベルト状転写体35と対向または接する位置でベルト状転写体35に転写される。この第1のトナー画像が電子写真感光体32と接触する位置に進むタイミングに合わせて、電子写真感光体32の表面に形成された他の色のトナー画像が、第2のトナー画像として第1のトナー画像の上に重ねて転写される。以下同様に、第3、第4のトナー画像が重ねて転写され、4色の重ね画像が完成する。この中間転写ユニット36のベルト状転写体35の上に形成された重ね画像は、その後最終転写ローラ52と接する部分において記録紙50に一括転写され、定着器53により記録紙50に定着されて、記録紙50にカラー画像が形成される。
【0043】
さて、一連の画像形成プロセスにおいて、電子写真感光体31、32、33、34からベルト状転写体35に転写されなかったトナーは、感光体クリーナ46、47、48、49によって掻き落とされるが、一般に感光体クリーナ46、47、48、49はブレード等によって構成されており、感光体クリーナ46、47、48、49は、それぞれ感光体31、32、33、34と接触(摺動)することで転写されなかったトナーを除去する。
【0044】
本発明に係る電子写真感光体31、32、33、34は高い耐摩耗性(耐久性)を有することから、例えば電子写真装置30のプロセス速度をより高速に設定した場合や、いわゆるヘビーデューティ機といわれるような高いスループットが要求される分野の機器においても好適に用いることが出来る。
【0045】
以上のように構成された電子写真装置30に、本発明に係る電子写真感光体を搭載して動作させた結果、得られた画像の画質は従来の有機感光体やアモルファスシリコン感光体を用いて作製したものと比べても遜色が無いことを確認した。
【0046】
尚、本発明の上記実施例では、電子写真感光体に適用した場合について記載したが、その他のデバイス、例えば、インクジェットヘッド用の圧電素子、セラミックスコンデンサ、半導体等の各種デバイス用の絶縁膜、コーティング膜へ適用した場合も同様の好ましい結果が得られることを確認している。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の被膜の作製方法によれば、精密に組成が制御され、しかも、組成比の割合が制限することが無い混合被膜、積層被膜を形成出来るので、各種の産業機器部品における被膜形成に好適に利用出来る。
【符号の説明】
【0048】
1、1−a、1−b 噴射ノズル
2 真空チャンバー
3 基板
4 エアロゾル
5−a、5−b 材料粒子
6−a、6−b エアロゾル発生器
7 堆積膜
8−a、8−b 切り替えバルブ
9 排気ポンプ
10−a、10−b 導入管
11−a、11−b ガスボンベ
12 導入管
13 基板ホルダー
20 電子写真感光体
21 支持体
22 電荷発生層
23 電荷輸送層
30 電子写真装置
31、32、33、34 感光体
35 ベルト状転写体
36 中間転写ユニット
37、38、39、40 帯電装置(帯電ローラ)
41 露光装置
42、43、44、45 現像器
46、47、48、49 感光体クリーナ
50 記録紙
51 ベルトクリーナ
52 最終転写ローラ
53 定着器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性微粒子材料をガスと混合化してエアロゾル化し、ノズルから基板に吹き付けて堆積膜を形成するエアロゾルデポジション法による被膜の作製方法であって、前記微粒子材料の破壊靱性値が6MPam1/2未満であることを特徴とする被膜の作製方法。
【請求項2】
前記微粒子材料は、複数の材料からなることを特徴とする請求項1記載の被膜の作製方法。
【請求項3】
前記複数の材料を基板に交互に吹き付けることを特徴とする請求項2記載の被膜の作製方法。
【請求項4】
破壊靱性値が6MPam1/2以上の微粒子材料を前記堆積膜に吹き付けることを特徴とする請求項1記載の被膜の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−285649(P2010−285649A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139744(P2009−139744)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】