説明

被膜形成方法および被膜形成装置

【課題】エアロゾルデポジション法において粗大なセラミックス凝集粉等を容易に除去し、一次粒子の発生割合を容易に増やすことができ、得られる被膜の硬度や、成膜速度および成膜効率に優れる被膜形成方法および被膜形成装置を提供する。
【解決手段】原料セラミックス微粒子をガス中に分散させてエアロゾルとするエアロゾル発生装置11と、捕集チャンバー3と、真空チャンバー5と、該真空チャンバー5内に配設されたエアロゾル噴射ノズル12とを備える被膜形成装置1であって、捕集チャンバー3は、エアロゾル発生装置11と、噴射ノズル12との間に設けられ、エアロゾル発生装置11から供給されるエアロゾル中の粗大なセラミックス微粒子を捕集チャンバー3の底部に沈降させて捕集し、噴射ノズル12に供給されるエアロゾル中のセラミックス微粒子の平均粒子径が、0.1μm〜2μm である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゾルデポジション法(以下、AD法と記す)において、エアロゾル中のセラミックス微粒子の粒子径を所定の方法で調整した後、セラミックス被膜を形成する被膜形成方法および被膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原料セラミックス微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを基材に向けてエアロゾル噴射ノズルより噴射し、エアロゾルをこの基材表面に高速で衝突させ、超微粒子の構成材料からなる被膜を基材上に形成させるAD法が知られている。AD法の例としては、基板上に 50 nm〜5μm の超微粒子脆性材料を接合させて理論密度の 95 %以上で結晶サイズで 100 nm 以下の微結晶を含む脆性材料である超微粒子成形体を得る脆性材料超微粒子成形体の低温成形法が挙げられる(特許文献1参照)。AD法では、数μm〜数十μm の緻密な被膜を密着性良好に形成できるとともに、ワークの冷却不要、ニッケルアルミ等の下地処理不要および封孔処理不要などにより、他の被膜形成法である溶射法と比較して製造コストが大幅に安くなるという利点がある。
【0003】
しかしながら、AD法においては、微粒子をエアロゾル発生装置内に投入し、振動させてエアロゾルを発生させる機構を用いることが多く、微粒子が凝集し、二次粒子化しやすい。この二次粒子は、粒子径が大きく良好な被膜の形成に寄与しないので、一次粒子の含有比率を増やしたエアロゾルをエアロゾル噴射ノズルに供給する目的で、分級装置を付与したり(特許文献2参照)、分級装置および解砕装置を付与する方法(特許文献3参照)等が知られている。しかし、これらのように成膜装置に凝集粒子を分級あるいは解砕する手段を設けると、装置全体が複雑になり、大きなスペースを要するようになる欠点があった。
【0004】
この問題に対し、AD法において小さい粒子を配合することで緻密な成膜性と、大きい粒子を配合することで高い成膜速度とを付与することを目的として、少なくとも三つの粒径頻度ピークを有する粒子混合物をエアロゾル化する方法(特許文献4参照)や、また 0.01〜1μm の体積基準による 50%平均粒径(D50)を有する原料微粒子と、3〜100μm の体積基準による 50%平均粒径(D50)を有する補助粒子とを含んでなる粒子混合物をエアロゾル化する方法(特許文献5参照)が知られている。
しかしながら、実際には、この 3〜100μm の体積基準による 50%平均粒径(D50)を有する補助粒子にはエッチング効果があるため、原料微粒子と併用するのは好ましくないという問題がある。
【特許文献1】特許第3265481号公報
【特許文献2】特開平11−21677号公報
【特許文献3】特開2001−181859号公報
【特許文献4】特開2005−314800号公報
【特許文献5】特開2005−314801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような問題に対処すべくなされたものであり、AD法においてエッチング効果等により膜成長を阻害する要因となる粗大なセラミックス凝集粉等を除去し、一次粒子の発生割合を容易に増やすことができ、得られる被膜の硬度や、成膜速度および成膜効率に優れる被膜形成方法および被膜形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の被膜形成方法は、原料セラミックス微粒子をガス中に分散させてエアロゾルを形成するエアロゾル形成工程と、該エアロゾル形成工程で得られたエアロゾル中の粗大なセラミックス微粒子を捕集チャンバーで捕集する粗大粉捕集工程と、該粗大粉捕集工程を経たエアロゾルを真空チャンバー内でエアロゾル噴射ノズルから基材上に噴射して成膜を行なう成膜工程とを備えてなる、AD法による被膜形成方法であって、上記粗大粉捕集工程は、上記捕集チャンバー内において、上記エアロゾル中の粗大なセラミックス微粒子を捕集チャンバー底部に沈降させる工程であり、該粗大粉捕集工程を経たエアロゾル中のセラミックス微粒子の平均粒子径が、0.1μm〜2μm であることを特徴とする。
【0007】
上記粗大粉捕集工程は、上記捕集チャンバー内においてエアロゾルに旋回流を与え、遠心力により粗大なセラミックス微粒子を捕集チャンバー内壁に移動させ失速させて捕集チャンバー底部に沈降させる工程であることを特徴とする。
【0008】
上記原料セラミックス微粒子の平均粒子径は、0.1μm〜2μm であることを特徴とする。また、上記原料セラミックス微粒子は、アルミナ微粒子であることを特徴とする。
【0009】
本発明の被膜形成装置は、原料セラミックス微粒子をガス中に分散させてエアロゾルとするエアロゾル発生装置と、捕集チャンバーと、真空チャンバーと、該真空チャンバー内に配設されたエアロゾル噴射ノズルとを備え、AD法により上記エアロゾル噴射ノズルからエアロゾルを噴射して基材上にセラミックス被膜を形成する被膜形成装置であって、上記捕集チャンバーは、上記エアロゾル発生装置と、上記エアロゾル噴射ノズルとの間に設けられ、上記エアロゾル発生装置から供給されるエアロゾル中の粗大なセラミックス微粒子を捕集チャンバー底部に沈降させて捕集し、上記エアロゾル噴射ノズルに供給されるエアロゾル中のセラミックス微粒子の平均粒子径が、0.1μm〜2μm であることを特徴とする。
なお、エアロゾル発生装置とエアロゾル噴射ノズルとの間とは、エアロゾル発生装置からエアロゾル噴射ノズルまでのエアロゾル搬送経路における間である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の被膜形成方法は、捕集チャンバーにおいて、エアロゾル発生装置から供給されるエアロゾル中の粗大なセラミックス凝集粉を捕集チャンバー底部に沈降させる工程を有し、エアロゾル噴射ノズルに供給するエアロゾル中のセラミックス微粒子の平均粒子径を 0.1μm〜2μm に調整するので、主に一次粒子であるセラミックス微粒子で成膜が行われ、得られる被膜が緻密となり硬度の向上が図れる。また、成膜時にエッチング効果が発生しないので、成膜速度および成膜効率を向上させることができる。
また、セラミックス凝集粉の捕集工程が、捕集チャンバー底部に沈降させる簡易な工程であるので、別途分級装置や解砕装置が不要であり、成膜コストを低くできる。
【0011】
本発明の被膜形成装置は、エアロゾル発生装置と、エアロゾル噴射ノズルとの間に捕集チャンバーが設けられ、エアロゾル発生装置から供給されるエアロゾル中の粗大なセラミックス凝集粉を捕集チャンバー底部に沈降させて捕集し、エアロゾル噴射ノズルに供給されるエアロゾル中のセラミックス微粒子の平均粒子径を 0.1μm〜2μm に調整できるので、被膜特性の向上や、成膜速度および成膜効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明においてAD法は、セラミックス微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを基材に向けてエアロゾル噴射ノズルより噴射し、エアロゾルをこの基材表面に高速で衝突させ、微粒子の構成材料からなる被膜を基材上に形成させる方法である。一般にセラミックス微粒子は、静置保管中の粒子間堆積やエアロゾル形成時の粒子間衝突により一部凝集して二次粒子となりセラミックス凝集粉を形成しやすい。このセラミックス凝集粉等の粗大なセラミックス微粒子を含むエアロゾルはセラミックス被膜の成膜性や緻密性を阻害する。よって、本発明の被膜形成方法および被膜形成装置では、捕集チャンバーを設けてエアロゾル中のセラミックス凝集粉等を除去したエアロゾルをエアロゾル噴射ノズルから噴射させることで 、成膜性や緻密性の向上を図っている。エアロゾル中の一次粒子等の微細なセラミックス微粒子は、衝突により粉砕し、清浄な新生表面を形成し、低温接合を生じさせるので、室温で微粒子同士の接合を実現できる。
【0013】
本発明の一実施例に係る被膜形成装置の構成例を図1に基づいて説明する。図1は基材として軸受外輪外周面に被膜を形成する場合の被膜形成装置の構成を示す図である。
図1に示すように、AD法による被膜形成装置1は、エアロゾル発生装置11と、捕集チャンバー3と、真空チャンバー5とを有する。セラミックス微粒子はエアロゾル発生装置11において、振動モータ2によって振動を加えられ、ガス供給設備10から供給される搬送ガスと混合され、エアロゾルを形成する。セラミックス微粒子と、セラミックス微粒子の一部が凝集し、二次粒子化した凝集粉とを含むエアロゾルは捕集チャンバー3に送られる。
捕集チャンバー3は、後述する自重沈降方式、遠心分離方式、遮蔽板衝突方式等の方法によって、エアロゾル中のセラミックス凝集粉を底部に沈降させて除去し、セラミックス微粒子と搬送ガスとからなるエアロゾルを真空チャンバー5に供給する。
真空チャンバー5内にセラミックス被膜形成対象である基材7と、エアロゾル噴射ノズル12とが配設されている。エアロゾル噴射ノズル12から、このエアロゾルが基材7上に噴射・衝突されてセラミックス被膜が形成される。
エアロゾルのエアロゾル噴射ノズル12への供給速度は、ガス供給設備10からの搬送ガスの供給圧力および真空チャンバー内の減圧度によって調整される。
【0014】
エアロゾル噴射ノズル12は、長方形等の開口部を有するノズル先端から、基材7に向けてエアロゾルを噴射するものである。なお、エアロゾル噴射ノズル12は、1本であっても複数本であってもよい。
真空ポンプ6によって真空チャンバー5は減圧下に保たれる。微粒子フィルター4は、真空ポンプ6へのセラミックス微粒子の混入を防止するために設けられている。
【0015】
本発明の被膜形成方法を、図1に示す被膜形成装置に基づいて説明する。
基材上に噴射するエアロゾルの形成工程として、エアロゾル発生装置11にセラミックス微粒子を投入し、真空ポンプ6を起動して真空チャンバー5および捕集チャンバー3を介してエアロゾル発生装置11を減圧する。ガス供給設備10からエアロゾル発生装置11に搬送ガスを供給して、セラミックス微粒子と搬送ガスとからなるエアロゾルを形成する。なお、使用可能な搬送ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウム等の不活性ガスが挙げられる。
【0016】
次に粗大粉捕集工程として、上記エアロゾル形成工程で得られたエアロゾル中における凝集粉等の粗大なセラミックス微粒子を捕集チャンバー3の底部に沈降させて捕集する。
具体的な捕集方法としては、粗大なセラミックス微粒子を自重沈降させる方法、遠心分離する方法、遮蔽板に衝突させ分離する方法等を挙げることができる。
【0017】
粗大なセラミックス微粒子を自重沈降させる方法を図2を参照して説明する。図2は捕集チャンバーの断面図を示す。
捕集チャンバー入口3aaから捕集チャンバー3aに供給されたエアロゾルは、捕集チャンバー入口3aaよりも断面積の大きい捕集チャンバー3a内で失速するため、流体抵抗の大きい粗大なセラミックス凝集粉13bを搬送できず、セラミックス凝集粉13bは捕集チャンバー3aの底部に沈降し、流体抵抗の小さい微細なセラミックス微粒子13aのみを捕集チャンバー出口3abから真空チャンバー5(図1)に供給する。
【0018】
粗大なセラミックス微粒子を遠心分離する方法を図3を参照して説明する。図3(a)は捕集チャンバーを上部から見た図を、図3(b)は捕集チャンバーの断面図をそれぞれ示す。
捕集チャンバー入口3baから捕集チャンバー3bの内円周に接線方向に供給されたエアロゾルは、捕集チャンバー3b内で旋回流14cとなって捕集チャンバー3bの上端中央にある捕集チャンバー出口3bbに向かって捕集チャンバー3bの内壁沿いに上昇する。流体抵抗の大きい粗大なセラミックス凝集粉14bは遠心力により旋回流14c中心の外側(捕集チャンバー3bの内壁側)に移動するとともにエアロゾル旋回流14cから脱落して、捕集チャンバー3bの底部に沈降し、微細なセラミックス微粒子14aのみをエアロゾル旋回流14cに乗せて捕集チャンバー出口3bbから真空チャンバー5(図1)に供給する。
【0019】
粗大なセラミックス微粒子を遮蔽板に衝突させ分離する方法を図4を参照して説明する。図4(a)は捕集チャンバーを上部から見た図を、図4(b)は捕集チャンバーの断面図をそれぞれ示す。
捕集チャンバー入口3caから供給されたエアロゾルは、捕集チャンバー3c内に設けられた遮蔽板16に垂直に衝突し、捕集チャンバー入口3caよりも断面積の大きい捕集チャンバー3c内で失速する。流体抵抗の大きい粗大なセラミックス凝集粉15bはエアロゾル流から脱落し、捕集チャンバー3cの底部に沈降させられ、微細なセラミックス微粒子15aのみをエアロゾル流に乗せて捕集チャンバー出口3cbから真空チャンバー5(図1)に供給する。
【0020】
各方法における捕集チャンバーの形状、寸法等は、凝集等により粗大化した粒子径 2μm をこえるようなセラミックス微粒子を底部に沈降させて捕集が可能であり、捕集チャンバー出口から排出されるセラミックス微粒子の平均粒子径が、0.1μm〜2μm となるように適宜調整する。
以上の工程により、図1においてエアロゾル噴射ノズル12には、凝集粉等の粗大なセラミックス微粒子が除去され、一次粒子の存在比率を高めたセラミックス微粒子を含むエアロゾルが供給される。
【0021】
最後に成膜工程として、真空チャンバー5内において、エアロゾル噴射ノズル12から基材7に向けてこのエアロゾルを噴射し、基材7にセラミックス被膜を形成する。
基材7である軸受外輪は、位置決め用XYテーブル8に連設する対象物回転用モータ9に取り付け、対象物回転用モータ9により回転させられ(図中A)、位置決め用XYテーブル8により軸方向に移動させられる(図中B)。軸受外輪を回転・移動させつつ、該外輪外周面へのエアロゾル噴射を行ない被膜を形成する。被膜形成は、基材の用途に応じて被膜厚さが所定の膜厚となるまで行なう。
【0022】
本発明においてAD法によるセラミックス被膜を形成するための、エアロゾル原料となる原料セラミックス微粒子としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の酸化物、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の微粒子が挙げられる。それぞれのセラミックスの高純度グレードにおいて、真比重が小さい方がエアロゾル化しやすいことから、アルミナ微粒子を用いることが好ましい。
なお、セラミックス微粒子以外でも、シリコン、ゲルマニウムなどのへき開性の強い脆性材料の微粒子を使用することも可能である。
【0023】
AD法では、上述のように室温で微粒子同士の接合を実現でき、高温にさらされることによる原料セラミックスの変態による物性低下を招くこともない。例えば、絶縁性に優れたαアルミナを用いても溶射法ではγアルミナに変態して絶縁性が低下するため、膜厚を増加させる必要があるが、AD法でαアルミナを用いると絶縁性の高いαアルミナのままで成膜できるので、膜厚を増加させずに絶縁性の高いセラミックス層が得られる。
【0024】
本発明の被膜形成方法および被膜形成装置において使用する原料セラミックス微粒子の平均粒子径は、0.1μm〜2μm であることが好ましい。0.1μm 未満では凝集しやすくエアロゾル化は困難であり、2μm をこえると捕集チャンバーで堆積しやすく、成膜には寄与しない微粒子の割合が増加し、成膜効率が低下してコストが高くなる。なお、本発明において平均粒子径は日機装株式会社製:レーザー式粒度分析計マイクロトラックMT3000によって測定した値である。
本発明では、上述したように捕集チャンバーにより原料セラミックス微粒子が凝集して二次粒子となった、粗大なセラミックス微粒子(凝集粉)を捕集チャンバー底部に沈降させて捕集し、エアロゾル噴射ノズルに供給されるエアロゾル中のセラミックス微粒子の平均粒子径を、原料セラミックス微粒子と同等の 0.1μm〜2μm に調整する。よって、エッチング効果等により膜成長を阻害する要因となる、凝集等により粗大化した粒子径 2μm をこえるようなセラミックス微粒子のエアロゾル中における存在割合を低くでき、成膜性や緻密性の向上が図れる。
また、被膜形成を良好に行なうため、基材への衝突時に微粒子が容易に粉砕するように、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機を用いて微粒子にクラックを予め形成しておくことが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1
セラミックス微粒子(アルミナ:住友化学社製AKP−50、平均粒子径 0.2μm )を用いて、以下のようにして被膜の製造を行なった。
得られたセラミックス微粒子を図1に示されるエアロゾル発生装置11に、装填し、真空ポンプ6を起動した後、振動モータ2により振動を加え、搬送ガスとして窒素ガスを 7 L/分の流量で装置内に流しながら、エアロゾルを発生させて、図2に示す捕集チャンバー3a(寸法:直径 300×高さ 400 mm、配管径 60 mm )により凝集粉等の粗大なセラミックス微粒子を除去したエアロゾルを、ステンレス(SUS)基材上にエアロゾル噴射ノズル12から噴射させセラミックス微粒子を微量採取した後、基材上に面積 10 mm×10 mm のアルミナ被膜を形成させた。
採取したセラミックス(アルミナ)微粒子の平均粒子径を、レーザー式粒度分析計マイクロトラックMT3000(日機装株式会社製)を用いて測定し、得られたアルミナ被膜について以下に示す膜厚測定試験およびヴィッカース硬度試験に供し、それぞれ成膜速度(μm・cm/分)およびヴィッカース硬度を測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0027】
<膜厚測定試験>
作製したアルミナ被膜の厚さを触針式表面形状測定器(日本真空技術社製、Dectak3030)を用いて測定することにより、アルミナ被膜の成膜速度(μm・cm/分)を算出した。成膜速度(μm・cm/分)は、1分間にスキャン距離1cm につき形成される被膜の厚さ(μm )を意味する。
【0028】
<ヴィッカース硬度試験>
作製した酸化アルミニウム被膜のヴィッカース硬度をダイナミック超微小硬度計(DUH−W201、島津製作所製)を用いて測定した。
【0029】
実施例2
実施例1において図2に示す捕集チャンバー3aの代わりに図3に示す捕集チャンバー3b(寸法:直径 300×高さ 400 mm、配管径 60 mm 、エアロゾル投入口:高さ 150 mm、配管径 60 mm )を用いたこと以外は実施例1と同様に処理して、噴射エアロゾル中のセラミックス(アルミナ)微粒子の平均粒子径を測定し、得られたアルミナ被膜について成膜速度(μm・cm/分)およびヴィッカース硬度を測定した。これらの測定結果を表1に併記する。
【0030】
実施例3
実施例1において図2に示す捕集チャンバー3aの代わりに図4に示す捕集チャンバー3c(寸法:直径 300×高さ 400 mm、配管径 60 mm 、遮蔽板:直径 250mm )を用いたこと以外は実施例1と同様に処理して、噴射エアロゾル中のセラミックス(アルミナ)微粒子の平均粒子径を測定し、得られたアルミナ被膜について成膜速度(μm・cm/分)およびヴィッカース硬度を測定した。これらの測定結果を表1に併記する。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の被膜形成方法は、AD法においてエッチング効果等により膜成長を阻害する要因となる粗大なセラミックス凝集粉等を除去し、一次粒子の発生割合を容易に増やすことができ、得られる被膜の硬度や、成膜速度および成膜効率に優れるので、各種産業部品等へのセラミックス被膜形成に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例に係る被膜形成装置を示す図である。
【図2】捕集チャンバーの一例を示す模式図である。
【図3】捕集チャンバーの他の例を示す模式図である。
【図4】捕集チャンバーの他の例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0034】
1 被膜形成装置
2 振動モータ
3 捕集チャンバー
4 微粒子フィルター
5 真空チャンバー
6 真空ポンプ
7 基材
8 位置決め用XYテーブル
9 対象物回転用モータ
10 ガス供給設備
11 エアロゾル発生装置
12 エアロゾル噴射ノズル
13a、14a、15a セラミックス微粒子
13b、14b、15b セラミックス凝集粉
14c エアロゾル旋回流
16 遮蔽板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料セラミックス微粒子をガス中に分散させてエアロゾルを形成するエアロゾル形成工程と、該エアロゾル形成工程で得られたエアロゾル中の粗大なセラミックス微粒子を捕集チャンバーで捕集する粗大粉捕集工程と、該粗大粉捕集工程を経たエアロゾルを真空チャンバー内でエアロゾル噴射ノズルから基材上に噴射して成膜を行なう成膜工程とを備えてなる、エアロゾルデポジション法による被膜形成方法であって、
前記粗大粉捕集工程は、前記捕集チャンバー内において、前記エアロゾル中の粗大なセラミックス微粒子を捕集チャンバー底部に沈降させる工程であり、該粗大粉捕集工程を経たエアロゾル中のセラミックス微粒子の平均粒子径が、0.1μm〜2μm であることを特徴とする被膜形成方法。
【請求項2】
前記粗大粉捕集工程は、前記捕集チャンバー内においてエアロゾルに旋回流を与え、遠心力により粗大なセラミックス微粒子を捕集チャンバー内壁に移動させ失速させて捕集チャンバー底部に沈降させる工程であることを特徴とする請求項1記載の被膜形成方法。
【請求項3】
前記原料セラミックス微粒子の平均粒子径は、0.1μm〜2μm であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の被膜形成方法。
【請求項4】
前記原料セラミックス微粒子は、アルミナ微粒子であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の被膜形成方法。
【請求項5】
原料セラミックス微粒子をガス中に分散させてエアロゾルとするエアロゾル発生装置と、捕集チャンバーと、真空チャンバーと、該真空チャンバー内に配設されたエアロゾル噴射ノズルとを備え、エアロゾルデポジション法により前記エアロゾル噴射ノズルからエアロゾルを噴射して基材上にセラミックス被膜を形成する被膜形成装置であって、
前記捕集チャンバーは、前記エアロゾル発生装置と、前記エアロゾル噴射ノズルとの間に設けられ、前記エアロゾル発生装置から供給されるエアロゾル中の粗大なセラミックス微粒子を捕集チャンバー底部に沈降させて捕集し、前記エアロゾル噴射ノズルに供給されるエアロゾル中のセラミックス微粒子の平均粒子径が、0.1μm〜2μm であることを特徴とする被膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−50658(P2008−50658A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228556(P2006−228556)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】