説明

被覆導体

【課題】高温超伝導体(HTS)、特に被覆導体として知られる高温超伝導体、及び該被覆導体の形状の自由度を改善することを可能にする被覆導体の製造プロセスを提供する。
【解決手段】第1の予め製造されたテープ形状の被覆導体1の最上層上に第2の基板2層を備え、第1の予め製造された被覆導体のHTS層を、中立軸位置の領域とするステップと、第2の基板層で覆われた第1の予め製造された被覆導体をその長手方向軸の周りに曲げて、内側の基板層と外側の基板層との間に挟まれたHTS層を備えた、本質的に丸い断面を備えた被覆導体を得るステップと、を含む方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温超伝導体(HTS)、特に被覆導体として知られる高温超伝導体、及び該被覆導体の形状の自由度を改善することを可能にする被覆導体の製造プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
「第2世代の超伝導体」とも呼ばれる被覆導体は、一般的に、テープまたは帯のような、平坦な面を備えた長い形状を有する。被覆導体は、基板、超伝導体層、及び必要に応じて、該基板と該超伝導体層との間の一または複数のバッファ層を備えた多層構造からなり、上記の層は、該基板の平坦な面に堆積される。上記バッファ層は、使用される材料の種々の異なる性質を補償する役割を果たす。一般的な被覆導体構造には、複数のバッファ層が必要である。最後に、上記超伝導体層上に、金属の保護層を堆積させて導体構造全体を完成させてもよい。
【0003】
被覆導体のような高温超伝導体は、電力伝送ケーブル、モータおよび発電機のロータ・コイル、変圧器の巻き線、限流器、及び医療の磁気共鳴画像法に対する多数の応用の有望な候補である。
【0004】
HTSケーブルの製造において、テープ形状の被覆導体を、HTSケーブルの周りにらせん状に巻くことが知られている。
【0005】
被覆導体の製造における大きな問題は、超伝導体材料の結晶粒の配向または整列であり、配向または整列は、超伝導状態における臨界電流密度(Jc)及び臨界電流(Ic)のような高い電流搬送特性を有するためには、単結晶の完璧さに近い必要がある。整列は、テクスチャとも呼ばれ、結晶粒の向きがランダムではなく、好ましい方向を有することを意味する。面内及び面外テクスチャを区別することは重要である。超伝導体層は、2軸テクスチャを有し、結晶粒が、面内及び面外の両方に整列しているのが好ましい。
【0006】
2軸テクスチャの品質は、結晶の面内及び面外の粒間の方位角によって一般的に表現される。方位角は、個々の結晶粒同士の傾きの程度を反映する。方位角が小さいほど、層のテクスチャは、より上質である。テクスチャの程度は、層の結晶粒の面内及び面外の配向分布関数を特定するX線回折によって測定することができる。X線データに基づいて、面内ファイスキャン(Δφ)及び面外ロッキング曲線(Δω)の半値全幅(FWHM)の値を得ることができる。それぞれのFWHM値が小さいほど、テクスチャはより上質である。一般的に、方位角は、約10度より小さく、特に約5度より小さくあるべきである。
【0007】
現在、望ましいテクスチャを達成するのに二つの主要なアプローチが存在する。第1のアプローチによれば、イオンビーム支援蒸着法(IBAD)などの制御された物理的コーティングプロセスによって、さまざまな方向の結晶からなり、ランダムに配向された基板上に高度にテクスチャ化されたバッファ層が堆積される。
【0008】
第2のアプローチによれば、機械加工、例としてRABiTS(基板の圧延支援2軸テクスチャ化)によって得ることのできる高度にテクスチャ化された基板が使用される。ここで、基板のテクスチャは、バッファ層、つぎにその上に堆積された超伝導体層に転移される。基板として適切な金属の例は、銅、ニッケル、銀、鉄及びこれらの合金である。
【0009】
被覆導体の製造において、限定されることはないが、式REBa2Cu3O7-xの希土バリウムキュプレート型の超伝導体が従来使用されている。ここでxは、特定の超伝導体材料に適切な範囲の酸素含有量を表す。そのうち好ましいものは、参照符号YBCO−123として知られるものである。ここで、数字の組み合わせ123は、元素Y、Ba及びCuの化学式の比を表す。
【0010】
一般的なバッファ層は、セラミックス酸化物であり、ジルコン酸ランタン、酸化セリウム、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、チタン酸ストロンチウム、希土類アルミン酸塩及び希土類酸化物を含む。
【0011】
バッファ層及び超伝導体層の堆積技術は、当該技術分野でよく知られている。また、テープ状の被覆導体及びその製造のためのプロセスも、当該技術分野でよく知られており、広く文献に記載されている。
【0012】
セラミックスの性質のために、バッファ層及びHTS層はもろい。また、テクスチャの品質は応力に対して非常に敏感である。このように、被覆導体の形状を定めるようなさらなる加工に際し、破壊を避けることが問題である。HTS層は、一般的に、約0.5乃至3μmの小さな厚さしか有しないので、破壊しやすいというこの問題はより大きくなる。
【0013】
テープ形状の被覆導体における曲げ応力下の機械的強固さを改善するために、非特許文献1(Supercond. Sci. Technol. 16 (2003) 1158 から 1161 におけるVerebelyi らによる論文)及び特許文献1(Fritzemeyer らによるUS 2002/144838 A1)は、被覆導体上に重ね層を設け、それによって高温超伝導体層を中立軸の領域とすることを提案している。この構造により、臨界電流の減損なしに、横断軸の周りの曲げ径を12mmまで小さくすることができた。しかし、約12mmであるテープの幅を考慮すると、長手方向軸の周りの曲げについての曲げ径は、約3から6mmであり、この曲げは材料にさらに大きな応力を課す。
【0014】
特許文献2(Schippl らによるDE 197 24 618 A1)は、その上に超伝導体層を堆積させた金属テープを、溝をつけたパイプに入れて、該溝をふさぎ、該パイプに波形をつけることによって、らせん状または環状の波形をつけたパイプに関する。この波形をつけたパイプにおいて、波形構造に起因する圧縮及び伸びにより、波の頂上及び谷の領域において、高温超伝導体層の損傷が観察された。この問題は、高温超伝導体層を備えたテープ上に、このテープよりもはるかに厚い、たとえば、約8倍である別の金属テープを設けることによって克服される。さらに、高温超伝導体層と上記別の金属テープとの間に付着促進層を設ける。付着促進層は、波形に要求される十分な動きやすさを構造に提供する。中立軸のゾーンが、別の厚いテープ内にあるこの構造において、高温超伝導体層を損傷させることなく、(12mmの曲げ径に相当する)約6mmの曲げ半径が得られる。すなわち、この構造によって、上述した非特許文献1及び特許文献1において得られる曲げのオーダーの曲げが可能となる。
【0015】
最近、「丸い被覆導体」とも呼ばれる円形断面を備えた被覆導体も文献に記載されている。そのような被覆導体においては、基板が層構造によって被覆された芯を形成する。芯は、菅のように中空であっても、棒のように中実であってもよい。そのような「丸い被覆導体」及びその製造方法は、たとえば、特許文献3(US 2008/0119365 A1) 及び 特許文献4(EP 1 916 720 A1)に開示されている。丸い被覆導体を生産する一般的な方法は、平坦な基板を長手方向軸の周りに曲げて溝付きの菅にすることによって、平坦な基板を丸い形状とするステップと、オプションとして、形成した基板にテクスチャ・アニーリングを施すステップと、それに続いて、その上にバッファ層及び高温超伝導体層を堆積するステップと、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】US 2002/144838 A1
【特許文献2】DE 197 24 618 A1
【特許文献3】US 2008/0119365 A1
【特許文献4】EP 1 916 720 A1
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Verebelyi et al., Supercond. Sci. Technol. ,16 (2003) 1158 から 1161
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、曲げ応力のために、構造のテクスチャが損傷されやすいという問題がある。また、上述したように、すでに堆積されたバッファ層及び高温超伝導体層を備えた被服導体の場合には、破壊のリスクは増加する。
【0019】
丸い被服導体を製造する際に、テープ形状の被服導体は、4mmより小さくわずか1mmまでの曲げ径に対応する非常に小さな曲げ角度で、その長手方向軸の周りに曲げられる必要がある。丸い被服導体を製造する際の曲げ角度は、図1に示さすように、曲げが横断方向軸の周りであるHTSケーブルの製造の場合よりもはるかに小さい。このように、テープ形状の被服導体を、その長手方向軸の周りに曲げることによって、発生する力及び破壊のリスクは、ケーブルの製造と比較してかなり大きくなる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、すでにその上に堆積させた、バッファ層及び高温超伝導体層を備えた、予め製造されたテープ形状の被服導体を、その長手方向軸の周りに曲げることによって得られる、丸い被服導体、及び、すでに堆積された層の機械的一体性及びテクスチャを損傷することなく、予め製造されたテープ形状の被服導体を、その長手方向軸の周りに曲げる方法に関する。
【0021】
本発明は、第1の基板層を含み、平坦な面を備えた、予め製造されたテープ形状の被覆導体、別の第2の基板層、及びそれらの間に挟まれた高温超伝導体層から、テープ形状の被覆導体をその長手方向軸の周りに曲げることによって得られた本質的に丸い断面を備えた被覆導体であって、高温超伝導体層が内側の基板層及び外側の基板層に挟まれ、高温超伝導体層が中立軸位置の領域に位置する被覆導体に向けられている。
【0022】
さらに本発明は、本質的に丸い断面を備えた被覆導体を生産する方法であって、第1の予め製造されたテープ形状の被覆導体の最上層上に第2の基板層を備え、第1の予め製造された被覆導体のHTS層を、中立軸位置の領域とするステップと、第2の基板層で覆われた第1の予め製造された被覆導体をその長手方向軸の周りに曲げて、内側の基板層と外側の基板層との間に挟まれたHTS層を備えた、本質的に丸い断面を備えた被覆導体を得るステップと、を含む方法に向けられている。
【0023】
一般的に、予め製造されたテープ形状の被覆導体は、基板と、高温超伝導体層と、オプションとして、該基板と該高温超伝導体層との間に位置する1または複数のバッファ層と、を含む。
【0024】
第1の予め製造されたテープ形状の被覆導体の少なくとも一つの基板及び1または複数のバッファ層が、2軸テクスチャを有するのが好ましい。
【0025】
「中立軸位置の領域」は、曲げにより物体内に発生する力がないかまたはほとんどない、曲げられていない物体を曲げることによって得られた曲げられた物体内の領域を意味する。図2に示すように、直線状の物体を曲げる際に、径方向に互いに対向する面上に、反対向きの力が生じる。すなわち、径方向に外側の面(ここでは下側の面)には張力が作用し、径方向に内側の面(ここでは上側の面)には圧縮力が作用する。
【0026】
径方向に外側の面及び内側の面の間には、一点鎖線xで示されるように今曲げられている物体が元の伸びを維持しており、応力の影響をほとんど受けない領域が存在する。
【0027】
実際に、中立軸の領域、または理想的な位置からのHTS層のズレの径方向の「サイズ」は、必要とされる応用に対して許容可能な応力レベルによって定めることができる。HTS材料の特定の場合には、中立軸の領域における応力は、Jc劣化について許容可能であるべきである。市場で調達可能な技術的な被覆導体に対して、約0.5%及び1%の曲げ応力レベルにおいて、それぞれ、10%及び50%のJc劣化に達する。0.5%の許容可能な応力レベルを仮定すると、1mm径の丸いワイヤにおける中立軸領域の径方向のサイズは5μmである。本発明に対して、HTS層は中立軸領域の位置にあるのが好ましく、その領域でHTS層の変形は0.05%から0.5%の範囲に維持される。
【0028】
本発明は添付の図面を参照してより詳細に説明される。これらの図面は、説明するためだけのものであり、本発明の制約を意味するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】テープ形状の被覆導体が周りに巻かれた公知のHTSケーブルである。
【図2】「中立軸位置」を説明するための説明例である。
【図3】本発明の一実施形態である。
【図4】本発明の別の実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
「本質的に丸い断面を備えた被覆導体」とは、断面の形状が、たとえば、楕円形や多角形など、理想的な円形形状から外れることが可能であることを意味する。
【0031】
本発明に対して、平らな基板及び該平らな基板の平坦な面上に堆積された層構造を含む、任意の予め製造されたテープ形状の被覆導体を使用することができる。該層構造は、使用の準備ができた、すなわち、すでに適切にテクスチャ化されたHTS層を含んでもよい。必要に応じ、基板とHTS層との間に堆積された、1または複数のバッファ層が存在してもよい。さらに、被覆導体の技術分野で知られているように、HTS層上に、金属保護層のような追加の層を堆積してもよい。
【0032】
HTS層を中立軸の位置に持ってくるために、予め製造された被覆導体の最上層上に第2の基板層を付する。第2の基板層厚さは、第1の基板の厚さ±5μmの範囲内、好ましくは、±0.5μmの範囲内であるべきである。第2の基板は、第1の基板とも呼ばれる、予め製造された基板層と同じ材料から作られるのが好ましい。
【0033】
しかし、第2の基板は、第1の基板と同じテクスチャを有する必要はなく、さらにテクスチャを有する必要もない。
【0034】
図3は一つの実施形態を説明するための図であり、第1の予め製造された被覆導体1は第2の基板で覆われる。さらに、図3において、+τ及び−τが、それぞれ、外側及び内側の基板に作用する応力であり、応力の方向を矢印で示すとして、結果としてもたらされる、本質的に円形断面を備えた被覆導体の中立軸の位置が示される。
【0035】
本発明によれば、丸い被覆導体は、それぞれ、3.2mm及び1.3mmの曲げ径に対応する10mm以下約4mmまでの幅を有する、テープ形状の被覆導体から得ることができる。特に、約1mmの曲げ径を備えた被覆導体を得ることが可能である。
【0036】
図4に示す好ましい実施形態によれば、第2の基板2は、HTS層が向かい合うように第1の被覆導体上に付される、別の予め製造された被覆導体であってもよい。図4において、本質的に丸い断面を備えた、結果としてもたらされる被覆導体の中立軸位置が、図3に示されるように示されている。
【0037】
第2の基板が予め製造された被覆導体である場合には、この追加の被覆導体の層構造は、第1の被覆導体の層構造と等しいのが好ましい。
【0038】
第2の基板は、はんだ接合、拡散接合及び任意の他の適切なプロセスによって、予め製造された被覆導体へ接合することができる。
【0039】
本発明は、堆積される層のテクスチャ化が、IBADのような使用される堆積方法によって得られる、ランダムに配向された基板を備えた被覆導体、及び堆積される層の配向がエピタキシアル成長によって得られるテクスチャ化された基板を備えた被覆導体に同様に適用することができる。
【0040】
原則として、本発明に対して、任意の高温超伝導体材料を使用してよい。高温超伝導体材料は、セラミックス酸化物高温超伝導体材料またはMgB2が好ましい。セラミックス酸化物高温超伝導体材料は、ビスマス、タリウム、イットリウム及び水銀をベースとしたセラミックス酸化物高温超伝導体から選択される。
【0041】
一般的な例は、Bi-Ae-Cu-Oy, (Bi, Pb)-Ae-Cu-Oy,Re-Ae-Cu-Oy, (Tl, Pb)-Ae-Cu-O or Hg-Ae-Cu-Oyをベースとするセラミックス酸化物高温超伝導体である。上記の化学式各々において、yは特定の超伝導体材料に適切な範囲の相対的な酸素含有量を表し、Aeは、少なくとも一つのアルカリ土類元素、特にBa, Ca 及び/または Srを意味し、Reは、少なくとも一つの希土類元素、特にY またはY, La, Lu, Sc, Ce, Nd または Ybの2個以上の組み合わせを意味する。
【0042】
セラミックス酸化物高温超伝導体材料は、Reおよびyが上記のように定義されるとして、式ReBaCuOyの希土バリウムキュプレート型の超伝導体であってもよい。
【0043】
代替的に、超伝導体材料の前駆物質を使用してもよい。前駆物質は、超伝導体材料と同じ名目上の成分を集合的に有し、加熱されると超伝導体材料を形成する酸化物の混合物である。
【0044】
特に、適切なセラミックス酸化物高温超伝導体材料は、数字の組み合わせ2212及び2223が、元素Bi, Sr, Ca 及び Cuの化学量論的比率を表すとして、参照符号BSCCO-2212、 BSCCO-2223として知られているものであり、好ましくは、Bi の一部を Pbで置換したものであり、数字の組み合わせ123及び211が、元素Y, Ba 及び Cuの化学量論的比率を表すとして、参照符号YBCO-123 及びYBCO-211として知られているものである。
【0045】
適切なセラミックス酸化物高温超伝導体材料がYBCO-123であるのが最も好ましい。
【0046】
テープまたはコアのような基板として適切な金属の例は、銅、ニッケル、銀、鉄、及びNiベース合金のような、上記の金属の合金であって、W, Mo, Mnなどから選択された少なくとも一つの合金成分を備えた合金である。
【0047】
一般的なバッファ層は、セラミックス酸化物であり、酸化セリウム、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、チタン酸ストロンチウム、希土類アルミン酸塩、Reは上記のように定義され、AはZr 及び Hfから選択されるとして、一般式Re2A2O7の酸化物、特に、La2Zr2O7 (LZO)、及び種々の希土類酸化物を含む。
【0048】
金属保護層は、一般的に、たとえば、金、銀、プラチナ及びパラジウムなどの貴金属または貴金属合金である。銀及び銀合金は、比較的低コストである点から好ましい。
【0049】
被覆導体用のバッファ層を成長させる適切な方法は、たとえば、物理気相成長法(PVD)、パルスレーザ堆積法(PLD)、電子ビーム蒸発及びスパッタリングなどの真空法、及び化学溶液法(CSD)、化学気相成長法(CVD)、及び有機金属化学気相成長法(MOCVD)などの非真空堆積プロセスを含む。
【0050】
超伝導体層を堆積させる適切な方法は、有機金属化学気相成長法、熱蒸発法、有機金属堆積法などの、種々の物理及び化学堆積プロセスを含む。
【0051】
本発明に対して、バッファ層及びHTS層の堆積方法に関し特定の制約はない。たとえば、上述のいずれの方法も使用することができる。
【0052】
しかし、低コスト及び高堆積速度の点から、化学溶液法などの化学的な非真空技術が好ましい。
【0053】
化学溶液法プロセスの適切な例は以下のとおりである。
1. 金属カルボン酸塩化合物を使用する有機金属堆積法(MOD)、特に、前駆物質として、金属トリフルオル酢酸塩を使用するトリフルオル酢酸塩(TFA)ルート
2. 有機溶媒中において金属アルコキシドを前駆物質として使用するゾル・ゲル・有機金属ルート
3. 有機金属ルートの変形であるキレートプロセス
【0054】
本発明は、超伝導被覆導体の最終形状のより多くの自由度を提供する。現在使用されているテープの平坦な形状に対する制約はない。本発明によれば、円形、楕円形または多角形の断面を備えた曲がった表面を備えた被覆導体を得うることが可能である。たとえば、円形または六角形などの多角形の断面は、電気特性の等方性を増加させ、特定の用途のための設計及び製造を容易にする上で有利である。
【0055】
成形及び引き抜き成形に対して、金属シート及び金属テープの加工に一般的に知られている技術を適用することができる。環状の被覆導体の製造は、EP 1 916 720 A1によって知られている。適切な加工プロセスの例は、圧延、引き抜き、溶接などである。
【0056】
原則として、本発明に対して、菅及びワイヤを準備するために従来の技術で知られている、任意の従来の成形ツールを使用することができる。一般的に、テープまたはワイヤがそこを通って引き出される開口を備えた引き抜きダイ、または一対の成形ロールまたは成形シリンダのような圧力伝達媒体を含む成形ツールが使用される。成形ツールによって、被覆導体テープは、本質的に丸い断面の被覆導体に徐々に変形される。別のよく知られた成形ツールは、「ターク・ヘッド」と呼ばれる。従来のターク・ヘッドは、互いに対称に直角に配置された、圧力伝達手段としての4個のローラを含む。
【0057】
たとえば、本発明によれば、第2の基板で覆われた、第1の予め製造されたテープ形状の被覆導体は、長手方向に沿って、成形で形成される長手方向の割れ目に沿って互いに隣接する長手方向の端部を備えた、割れ目を有する菅に成形することによって、菅形状に成形することができる。したがって、従来のワイヤのようにさらに処理することのできるHTS導体ワイヤが得られる。要求により、たとえば溶接によって、上記割れ目を閉じてもよい。
【0058】
第2の基板で覆われた、予め製造されたテープ形状の被覆導体の成形は、本質的に菅形状またはワイヤ形状の中央コアの周りで実施してもよい。中心コアは、鋼などの金像からつくられるのが好ましい。得られた、中心コアを備えた菅は、菅が中心コアに接するまで引き抜いてもよい。
【0059】
超伝導材料のHTS層上に、たとえば、金属分流層、金属保護層および絶縁層などの1または複数の別の層を堆積してもよい。
【0060】
金属分流層及び金属保護層は、電気メッキによって堆積してもよく、銀、金、銅などから作られてもよい。絶縁層は、ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のような公知の絶縁体の押し出し成形によって形成してもよい。
【0061】
本発明は、特に、大きさが約3.2mm以下、約1mmまでのオーダーである、非常に小さな曲げ径を有する被覆導体の製造に特に有用である。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
本質的に丸い断面を備えた被覆導体を製造するための被覆導体製造方法であって、
第1の予め製造されたテープ形状の被覆導体(1)の最上層上に第2の基板層(2)を備え、第1の予め製造されたテープ形状の被覆導体の高温超伝導体層を、中立軸位置の領域とするステップと、
第2の基板層(2)で覆われた第1の予め製造されたテープ形状の被覆導体をその長手方向軸の周りに曲げて、内側の基板層と外側の基板層との間に挟まれた高温超伝導体層を備えた、本質的に丸い断面を備えた被覆導体を得るステップと、を含み、
第1の予め製造されたテープ形状の被覆導体(1)は、テープ形状の基板と、高温超伝導体層と、オプションとして、該テープ形状の基板と該高温超伝導体層との間に位置する少なくとも一つのバッファ層と、を含む被覆導体製造方法。
【請求項2】
第2の基板層(2)が、第1の予め製造されたテープ形状の被覆導体(1)の基板層と同じ材料から作られ、同じ厚さを有する請求項1に記載の被覆導体製造方法。
【請求項3】
第2の基板層(2)が、別の予め製造されたテープ形状の被覆導体であり、該別の予め製造されたテープ形状の被覆導体が、第1の予め製造されたテープ形状の被覆導体上に、両者の高温超伝導体層が向き合うように付される請求項1または2に記載の被覆導体製造方法。
【請求項4】
高温超伝導体が、ビスマス、タリウム、イットリウム及び水銀をベースとしたセラミックス酸化物高温超伝導体からなるグループから選択される請求項1から3のいずれかに記載の被覆導体製造方法。
【請求項5】
セラミックス酸化物高温超伝導体が、Reは、Y またはY, La, Lu, Sc, Ce, Nd 及び Ybのグループから選択された少なくとも一つの希土類元素であり、yは酸素含有量を表すとして、一般的な式ReBaCuOyを有する請求項4に記載の被覆導体製造方法。
【請求項6】
高温超伝導体材料が、Y1Ba2Cu3Oy または Y2BaCuOy である請求項5に記載の被覆導体製造方法。
【請求項7】
第1の予め製造されたテープ形状の被覆導体の少なくとも一つの基板及び少なくとも一つのバッファ層が、2軸テクスチャを有する請求項1から6のいずれかに記載の被覆導体製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の被覆導体製造方法によって得ることのできる本質的に丸い断面を備えた被覆導体であって、
該被覆導体は、基板と、高温超伝導体層と、オプションとして、該基板と該高温超伝導体層との間に位置する少なくとも一つのバッファ層と、を含む第1の被覆導体(1)と、別の基板層(2)とからなり、該本質的に丸い断面を備えた被覆導体において、該高温超伝導体層は、第1の被覆導体(1)の基板層と該別の基板層(2)との間に挟まれており、該高温超伝導体層は、中立軸位置の領域に位置する被覆導体。
【請求項9】
第1の被覆導体(1)の少なくとも一つの基板及び少なくとも一つのバッファ層が、2軸テクスチャを有する請求項8に記載の被覆導体。
【請求項10】
該別の基板(2)の厚さは、第1の被覆導体(1)の基板の厚さ±5μmの範囲内である、請求項8または9に記載の被覆導体。
【請求項11】
該別の基板(2)が、別の予め製造された被覆導体である請求項8または9に記載の被覆導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−49160(P2011−49160A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−168386(P2010−168386)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(501044725)ネクサン (81)
【Fターム(参考)】