説明

被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法、被覆樹脂型消火剤粒子及び自己消火性シート状成形体

【課題】容易にポリリン酸アンモニウムを樹脂成分で被覆した被覆樹脂型消火剤粒子を製造できる被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリリン酸アンモニウムとリン酸エステルとを混合してスラリー状の消火剤組成物を調製する工程と、前記消火剤組成物、硬化性成分及び多孔性粒子を水中で撹拌分散させることにより、前記消火剤組成物が硬化性成分に被覆された被覆樹脂型消火剤粒子を得る工程とを有する被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易にポリリン酸アンモニウムを樹脂成分で被覆した被覆樹脂型消火剤粒子を製造できる被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法に関する。また、該被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法によって製造された被覆樹脂型消火剤粒子、及び、該被覆樹脂型消火剤粒子を含有する自己消火性シート状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年研究が進んでいる2次電池のセパレータとしてシート状成形体が用いられている。このような2次電池用途に用いられるシート状成形体には、2次電池が異常に加熱した場合にでも発火しない難燃性が求められる。また、シート状成形体の他の用途として、例えば、化粧シートが挙げられるが、化粧シートには下地材の隠蔽性や施工性の他に、火災時に化粧シートを伝わっての延焼を防ぐ目的で難燃性が要求される。
更に近年では、このような難燃性に加えて、火災時にシート状成形体自体が消火する自己消火性が求められるようになってきた。
【0003】
このような自己消火性の原理の1つとして、一定以上に加熱されることにより消火性のガスを発生する消火剤粒子を配合したシート状成形体が考えられている。例えば、ポリリン酸アンモニウムは、加熱によりアンモニウムガスを発生することから、火災時には酸素の供給を遮断して消火に至ると考えられる。しかし実際には、ポリリン酸アンモニウムを直接シート状成形体に配合しても、このような機能を発現させることは困難であった。
【0004】
これに対して特許文献1には、ポリリン酸アンモニウムをホルムアルデヒド等の重合により得られる縮合化合物でマイクロカプセル化した自己消火性重合体組成物が提案されている。このようなマイクロカプセルを用いれば優れた自己消火性が期待された。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された製造方法は生産性に劣り、工業的にポリリン酸アンモニウムを封入したマイクロカプセルを製造することは困難であった。また、特許文献1で得られたマイクロカプセルを含有するシート状成形体は、実際には期待したほどの自己消化性を発揮できないという問題もあった。
【特許文献1】特開平5−331376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、容易にポリリン酸アンモニウムを樹脂成分で被覆した被覆樹脂型消火剤粒子を製造できる被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法を提供することを目的とする。また、該被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法によって製造された被覆樹脂型消火剤粒子、及び、該被覆樹脂型消火剤粒子を含有する自己消火性シート状成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリリン酸アンモニウムとリン酸エステルとを混合してスラリー状の消火剤組成物を調製する工程と、前記消火剤組成物、硬化性成分及び多孔性粒子を水中で撹拌分散させることにより、前記消火剤組成物が硬化性成分に被覆された被覆樹脂型消火剤粒子を得る工程とを有する被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
ポリリン酸アンモニウムのカプセル化が困難である理由の1つは、ポリリン酸アンモニウムが常温で固体状であって、取扱い性に劣るという点にあった。本発明者らは、鋭意検討の結果、ポリリン酸アンモニウムをリン酸エステルと混合してスラリー状の消火剤組成物とすることにより、本来は固体状であるポリリン酸アンモニウムを、その消火機能を損なうことなく液体に近い取り扱いをすることが可能となること、及び、このようなスラリー状の消火剤組成物を用いれば容易に被覆樹脂型消火剤粒子を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。更に、本発明の被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法により製造された被覆樹脂型消火剤粒子を含有するシートは、特に高い自己消火性を発揮することを見出した。
【0009】
本発明の被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法は、ポリリン酸アンモニウムとリン酸エステルとを混合してスラリー状の消火剤組成物を調製する工程を有する。固体状のポリリン酸アンモニウムを液状のリン酸エステルと混合してスラリー状とすることにより、ポリリン酸アンモニウムの取り扱い性を飛躍的に向上させることができる。しかもリン酸エステルも高い難燃性を有することが知られており、ポリリン酸アンモニウムの難燃性、消火性を妨げることもない。
【0010】
上記ポリリン酸アンモニウムとしては特に限定されないが、重合度1000以上のII型のポリリン酸アンモニウムが好適である。
【0011】
上記リン酸エステルとしては特に限定されないが、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、芳香族縮合リン酸エステル等が挙げられる。
【0012】
上記消火剤組成物におけるポリリン酸アンモニウムとリン酸エステルとの配合比としては特に限定されないが、ポリリン酸アンモニウム100重量部に対するリン酸エステルの配合比の好ましい下限は20重量部、好ましい上限は400重量部である。リン酸エステルの配合比が20重量部未満であると、充分に流動性の高いスラリーが得られないことがあり、400重量部を超えると、得られる被覆樹脂型消化剤粒子の消火性が発揮できないことがある。リン酸エステルの配合比のより好ましい下限は50重量部、より好ましい上限は200重量部である。
【0013】
上記消火剤組成物を調製する方法としては特に限定されず、上記ポリリン酸アンモニウムとリン酸エステルとを、ホモジナイザー、ホモディスパー、ローターステーター、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等を用いて充分に撹拌し、混合する方法等が挙げられる。
【0014】
本発明の被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法においては、次いで、上記消火剤組成物、硬化性成分及び多孔性粒子を水中で撹拌分散させることにより、上記消火剤組成物が硬化性成分に被覆された被覆樹脂型消火剤粒子を得る工程を行う。
上記消火剤組成物、硬化性成分、及び、多孔性粒子を同時に水中に攪拌分散することによって、硬化性成分の界面縮重合によって被覆層が消火性組成物の周りに形成されていくのと同時に、多孔性粒子が被覆層の周囲を取り囲むことによって、被覆樹脂型消火剤粒子同士が合着することなく、ごく短時間のうちに、適度な大きさと、ある程度の応力に耐えられる強度とを有する単分散した被覆樹脂型消火剤粒子を得ることができる。
【0015】
上記多孔性粒子は、上記スラリー状の消火剤組成物及び/又はイソシアネートを一時的に吸着して、その後、被覆樹脂型消火剤粒子の形成時に、その表面に存在して、被覆樹脂型消火剤粒子同士が合着するのを防止する分散剤としての役割を果たすと考えられる。
【0016】
上記多孔性粒子としては特に限定されず、例えば、ケイ藻土、非晶質湿式法シリカ、非晶質乾式法シリカ、珪酸カルシウム系多孔体、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる。なかでも、非晶質湿式法シリカ、非晶質乾式法シリカ、珪酸カルシウム系多孔体、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムは、強度があり、吸油量が100mL/100g以上であることから好適である。これらの多孔性粒子は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本明細書において、吸油量とは、JIS K 6220に準拠して測定される値を意味し、吸油量が高いほど、潜熱型蓄熱成分としての脂肪族炭化水素の吸収や吸着による担持量が高いことを意味する。
【0017】
上記多孔性粒子の平均粒子径(二次粒子)の好ましい下限は1μm、好ましい上限は100μmである。上記多孔性粒子の平均粒子径が1μm未満であると、粉体として取り扱いにくくなることがあり、100μmを超えると、シートに成形加工した時に、表面あれが生じたり、被覆樹脂型消火剤粒子が起点となり、成形体の力学強度が低下したりすることがある。上記多孔性粒子の平均粒子径のより好ましい上限は70μm、更に好ましい上限は40μmである。
【0018】
上記消火剤組成物100重量部に対する上記多孔性粒子の配合量の好ましい下限は5重量部、好ましい上限は200重量部である。多孔性粒子の配合量が5重量部未満であると、水中での分散が困難となり粒子形状とならないことがあり、200重量部を超えると、得られる被覆樹脂型消火剤粒子の消火効果が不充分となることがある。多孔性粒子の配合量のより好ましい下限は15重量部、より好ましい上限は50重量部である。
【0019】
上記硬化性成分としては、イソシアネート、イソシアネートと多官能アルコールとの混合物、変性シリコーン樹脂と錫触媒との混合物、エポキシ樹脂とアミン化合物との混合物等が挙げられる。
これらの硬化性成分は、水及び熱のトリガーにより硬化する。例えば、硬化性成分がイソシアネートの場合、イソシアネート等と水とが界面縮重合することにより硬化すると考えられる。なかでも、比較的低温で硬化するものを用いることが好ましい。このような硬化性成分を用いることで、消火剤組成物の表面に被覆層を形成する工程において、高温で加熱する必要がなくなり、消火剤組成物が揮発することを防止することができる。特に湿気によって硬化するものが好適である。
【0020】
上記イソシアネートとしては特に限定されないが、例えば、イソシアネート基を少なくとも2個有するポリイソシアネートであって、水又はアミンとの反応によってポリウレアを生成し、多官能アルコール(ポリオールを含む)との反応によってウレタン樹脂を生成するものが好ましい。
【0021】
上記ポリイソシアネートとしては、例えば、一般にウレタン樹脂の製造に用いられる種々のポリイソシアネート化合物が挙げられる。具体的には、2,4−トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアンート、及び、これらの水素添加物、MDIとトリフェニルメタントリイソシアネート等の混合物(クルードMDI)、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート等が挙げられる。安全性及び反応性の面から、MDI及びクルードMDIが好ましい。
【0022】
上記多官能アルコールとしては、一般にウレタン樹脂の製造に用いられる種々のポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリマーポリオール等が挙げられる。
上記ポリエーテル系ポリオールとしては、例えば、活性水素を2個以上有する低分子量活性水素化合物(例えば、ビスフェノールA、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、オクチルグリコール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール等のジオール類や、グリセリン、トリメチロールプロパン等のトリオール類や、エチレンジアミン、ブチレンジアミン等のアミン類)の1種又は2種以上の存在下で、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等のアルキレンオキサイドの1種又は2種以上を開環重合させて得られるポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0023】
上記ポリエステル系ポリオールとしては、多塩基酸(例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸等)と多価アルコール(例えば、ビスフェノールA、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサングリコール、ネオペンチルグリコール等)とを脱水縮合して得られる重合体、ラクトン(例えば、ε−カプロラクトン、α−メチル−ε−カプロラクトン等)の重合体、ヒドロキシカルボン酸と上記多価アルコール等との縮合物(例えば、ひまし油、ひまし油とエチレングリコールの反応生成物等)が挙げられる。
【0024】
上記ポリマーポリオールとしては、例えば、上記ポリエーテルポリオールもしくはポリエステルポリオールにアクリロニトリル、スチレン、メチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和化合物をグラフト重合させたものや、1,2−もしくは1,4−ポリブタジエンポリオール、又は、これらの水素添加物が挙げられる。これらのポリオールは1種のみが用いられてもよく、2種類以上が用いられてもよい。
【0025】
上記イソシアネートと水との反応物としてポリウレアが得られる。
上記イソシアネートと上記多官能アルコールとの反応物としてウレタン樹脂が得られる。従って、上記イソシアネートと上記多官能アルコールとを水中に分散させると、上記イソシアネートと水とが反応しポリウレアを生成するとともに、上記イソシアネートと多官能アルコールとが反応しウレタン樹脂を生成する。
上記ウレタン樹脂は、水中に上記消火剤組成物と上記多孔性粒子とを配合する前に、予め上記ポリイソシアネートと多官能アルコールを、多官能アルコール中の活性水素基(OH)とポリイソシアネート中の活性イソシアネート基(NCO)の割合(NCO/OH)が当量比で、1.2〜15、好ましくは1.2〜10となるように、好ましくは窒素気流中で、空気中の場合は5分以内で攪拌混合することにより得られる。当量比が上記範囲内であると、多官能アルコールが局部的に未反応で残ることがなく、充分な被覆性能が得られる。また、ポリイソシアネートの活性イソシアネート基は、水と反応してポリウレアを生成するとともに、多官能アルコールと反応してウレタン樹脂を生成する。
【0026】
上記変性シリコーン樹脂としては特に限定されず、例えば、主鎖が本質的にポリエーテル系重合体からなり、加水分解性シリル基を有する樹脂等が挙げられる。中でも、主鎖がポリオキシプロピレン重合体からなる樹脂が好ましい。
【0027】
上記変性シリコーン樹脂のうち市販品としては、例えば、商品名「MSポリマー」(カネカ社製)として、MSポリマーS−203、S−303等、商品名「サイリルポリマー」(カネカ社製)として、サイリルSAT−030、SAT−200、SAT−350、SAT−400や、商品名「エクセスター」(旭硝子社製)として、エクセスターESS−3620、ESS−3430、ESS−2420、ESS−2410等が挙げられる。
【0028】
上記錫触媒としては特に限定されず、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫フタレート、オクチル酸錫等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記エポキシ樹脂としては、通常使用されているエポキシ樹脂を使用することができ、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0030】
上記アミン化合物は、上記エポキシ樹脂に用いる硬化剤として使用することができる。
上記アミン化合物としては特に限定されず、具体的には例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ポリオキシプロピレントリアミン等の鎖状脂肪族アミン及びその誘導体、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン等が挙げられる。
【0031】
上記アミン化合物の他にも、上記エポキシ樹脂に用いる硬化剤としては、従来公知の各種エポキシ樹脂用の硬化剤を用いることができる。具体的には、アミン化合物から合成されるポリアミノアミド化合物等の化合物、ヒドラジド化合物、ジシアンアミド及びその誘導体、メラミン化合物等が挙げられる。
【0032】
上記硬化性成分には、硬化後の耐熱性や柔軟性を付与する目的で、例えば、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、高級脂肪酸のグリシジルエステル、グリシジルアミン型エポキシ等の特殊エポキシ樹脂を添加してもよい。
【0033】
上記消火剤組成物100重量部に対する上記硬化性成分の配合量の好ましい下限は10重量部、好ましい上限は400重量部である。硬化性成分の配合量が10重量部未満であると、消火剤組成物を充分に被覆できないことがあり、400重量部を超えると、被覆層の形成が困難となることがある。硬化性成分の配合量のより好ましい下限は40重量部、より好ましい上限は100重量部である。
【0034】
上記被覆樹脂型消火剤粒子を得る工程においては、更に、層状珪酸塩を添加してもよい。添加された層状珪酸塩は、上記樹脂からなる被覆層中に均一に分散するとともに、上記消火剤組成物中では上記樹脂からなる被覆層内面近傍に偏在して分散する。このように分散することによって、内部に封入された消火剤組成物に対するバリア性が向上し、消火剤組成物の揮発防止性を大幅に改善することができる。
【0035】
上記層状珪酸塩としては、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト等のスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイト、膨潤性マイカ(膨潤性雲母)等が挙げられ、なかでも、モンモリロナイト、ベントナイト及び/又は膨潤性マイカが好適に用いられる。これらの層状珪酸塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0036】
本発明の被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法では、被覆層を充分に硬化させる目的で、更に加熱を行ってもよい。加熱する温度については上記硬化性成分の種類等に応じて適宜選択すればよい。また、上記硬化性成分として例えばイソシアネート等を用いた場合には、硬化反応時に気体(炭酸ガス)が発生して懸濁液の容量が著しく増大することがあるが、加熱することにより硬化反応が加速して、炭酸ガスが短時間に発生し終えて、容量の増大を最小限に抑えることが可能になる。
【0037】
本発明の被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法は、上記硬化性成分を硬化させた後に、懸濁液を速やかに冷却することが好ましい。上記硬化性成分を硬化させた後に懸濁液をすばやく冷却することにより、得られた被覆樹脂型消火剤粒子同士が合着するのを防止することができる。冷却する温度については特に限定されないが、通常は常温程度にまで冷却する。
【0038】
本発明の被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法にて製造された被覆樹脂型消火剤粒子は、そのまま懸濁液の状態で用いてもよいが、いったん乾燥させてから用いることもできる。
上記乾燥の方法としては特に限定されないが、例えば、フリーズドライ法、強制熱風乾燥法、スプレードライ法等が挙げられる。なかでも、得られる乾燥粒子の性状や、工業的処理量から判断して、スプレードライ法が好適である。
【0039】
本発明の被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法によって製造される被覆樹脂型消火剤粒子は、消火剤組成物が樹脂からなる被覆層により被覆された構造を有する。
このような被覆樹脂型消火剤粒子は、樹脂からなるマトリックス中に容易に分散させることができ、自己消火性シート状成形体を得ることができる。
本発明の被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法により製造されたものである被覆樹脂型消火剤粒子もまた、本発明の1つである。
本発明の被覆樹脂型消火剤粒子と、樹脂からなるマトリックスとを含有する自己消火性シート状成形体もまた、本発明の1つである。
【0040】
本発明の自己消火性シート状成形体のマトリックスとなる樹脂としては特に限定されず、例えば、ウレタン、酢酸ビニル、アクリル、エチレン酢酸ビニルの合成樹脂エマルジョン等が挙げられる。
また、乾燥後の被覆樹脂型消火剤粒子を用いる場合には、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、変性シリコーン等の硬化樹脂、SBR、NBR、SIS、SBS、天然ゴム等を溶剤で希釈した溶剤系ゴム、溶剤中で重合して得られるアクリル樹脂等が使用できる。
【0041】
本発明の自己消火性シート状成形体は、従来公知の被覆樹脂型消火剤粒子(例えば、特許文献1で製造されたもの)を含むシート状成形体に比べて、極めて高い自己消火性を発揮することができる。これは、従来のシート状成形体が燃焼時に容易に溶解してドリップしてしまうのに対して、本発明の自己消火性シート状成形体は、ドリップせずに形状を保つことによるものと考えられる。即ち、高い自己消火性を発揮するためには、シート状成形体が「その場所にある」ことが重要であって、火災の初期に早々に溶解してドリップしてしまったのでは、例えポリリン酸アンモニウムからアンモニアガスが供給されても、ほとんど酸素の遮断の効果は得られない。
【0042】
本発明の被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法によって製造される被覆樹脂型消火剤粒子は、その製法上、必然的に被覆層の表面に、上記多孔性粒子が存在している。このように多孔性粒子が表面に存在していることにより、本発明の自己消火性シート状成形体が燃焼する際には、早期に焼結体が形成され、その結果ドリップが防止されるものと考えられる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、容易にポリリン酸アンモニウムを樹脂成分で被覆した被覆樹脂型消火剤粒子を製造できる被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法を提供することができる。また、該被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法によって製造された被覆樹脂型消火剤粒子、及び、該被覆樹脂型消火剤粒子を含有する自己消火性シート状成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
(1)懸濁液の調製
リン酸エステル(大八化学工業社製、TMCPP)50重量%とポリリン酸アンモニウム50重量%をホモジナイザーで分散して、スラリー状の組成物Aを得た。組成物A65重量部とシリカ粒子(トクヤマ社製、トクシールNP)15重量部の比率になるように連続粉体混合機で混合して、MHDシリーズ(IKAジャパン社製)の分散用回転体(ジェネレータ)に40kg/時で供給した。ジェネレータは3段構成であり、その上段にジフェニルメタンジイソシアネート変性物(住化バイエルウレタン社製、SBUイソシアネート0620)を10kg/時で供給した。更にジェネレータの中段に40℃の水を100kg/時で供給した。ジェネレータは7000rpmで回転させた。ジェネレータの下段からは硬化性成分に被覆された被覆樹脂型消火剤粒子を含む懸濁液を得た。なお、この段階では硬化性成分は殆ど硬化していなかった(硬化反応は始まっている)。
【0046】
(2)加熱処理
得られた被覆樹脂型消火剤粒子を含む懸濁液を、ジャケットで60℃に加熱した加熱用ステンレス製容器の下方から連続的に注入し、ホモディスパーを用いて回転数500rpmで攪拌しながら、硬化性成分を硬化させた。なお、この段階では硬化性成分は完全には硬化していなかったが、粒子形状を維持するには充分の強度を保持していた。被覆樹脂型消火剤粒子を含む懸濁液は、加熱用ステンレス製容器の上方から次の冷却用ステンレス製容器の下方に連続的に流れていった。加熱用ステンレス製容器の下方から上方までの所要時間、すなわち加熱時間は10分であった。
【0047】
(3)冷却処理
加熱処理後の被覆樹脂型消火剤粒子を含む懸濁液を、ジャケットで15℃に冷却した冷却用ステンレス製容器の下方から連続的に注入し、ホモディスパーを用いて回転数500rpmで攪拌しながら、被覆樹脂型消火剤粒子を含む懸濁液を20℃まで冷却した。これにより、ほぼ単粒子の被覆樹脂型消火剤粒子を含む懸濁液を得た。冷却用ステンレス製容器の下方から上方までの所要時間、すなわち冷却時間は10分であった。被覆樹脂型消火剤粒子を含む懸濁液は、冷却用ステンレス製容器の上方出口から、150kg/時の流量で得た。
【0048】
(4)シートの製造
ウレタン系エマルジョン(大日本インキ化学社製、ハイドランHW−930)の固形分20重量%、得られた被覆樹脂型消火剤粒子80重量%になるようにホモディスパーで攪拌して調整液を作製した。調整液は所定の水を含んでいる。調整液を厚み2mmのステンレス製型枠に流し込み、110℃×20分乾燥して水分を除去した。更に、厚み0.3mmのステンレスの型枠を用いて、130℃×5分プレスして、厚み約0.3mmの消火シートを得た。プレス前のシートは乾燥時に発泡しているが、プレス後は発泡が消失して平滑な均一な半透明のシートであった。
【0049】
(比較例1)
(1)懸濁液の調製
シリカ粒子(トクヤマ社製、トクシールNP)18重量部と難燃剤成分としてリン酸エステル(大八化学工業社製、TMCPP)60重量部の比率になるように連続粉体混合機で混合して、MHDシリーズ(IKAジャパン社製)の分散用回転体(ジェネレータ)に39kg/時で供給した。ジェネレータは3段構成であり、その上段にジフェニルメタンジイソシアネート変性物(住化バイエルウレタン社製、SBUイソシアネート0620)を11kg/時で供給した。更にジェネレータの中段に常温(20〜25℃)の水を100kg/時で供給した。ジェネレータは7000rpmで回転させた。ジェネレータの下段からは硬化性成分に被覆された被覆樹脂型難燃剤粒子を含む懸濁液を得た。なお、この段階では硬化性成分は殆ど硬化していなかった(硬化反応は始まっている)。
【0050】
(2)加熱処理
得られた被覆樹脂型難燃剤粒子を含む懸濁液を、ジャケットで60℃に加熱した加熱用ステンレス製容器の下方から連続的に注入し、ホモディスパーを用いて回転数500rpmで攪拌しながら、硬化性成分を硬化させた。なお、この段階では硬化性成分は完全には硬化していなかったが、粒子形状を維持するには充分の強度を保持していた。被覆樹脂型難燃剤粒子を含む懸濁液は、加熱用ステンレス製容器の上方から次の冷却用ステンレス製容器の下方に連続的に流れていった。加熱用ステンレス製容器の下方から上方までの所要時間、すなわち加熱時間は10分であった。
【0051】
(3)冷却処理
加熱処理後の被覆樹脂型難燃剤粒子を含む懸濁液を、ジャケットで15℃に冷却した冷却用ステンレス製容器の下方から連続的に注入し、ホモディスパーを用いて回転数500rpmで攪拌しながら、被覆樹脂型難燃剤粒子を含む懸濁液を20℃まで冷却した。これにより、ほぼ単粒子の被覆樹脂型難燃剤粒子を含む懸濁液を得た。冷却用ステンレス製容器の下方から上方までの所要時間、すなわち冷却時間は10分であった。被覆樹脂型難燃剤粒子を含む懸濁液は、冷却用ステンレス製容器の上方出口から、150kg/時の流量で得た。
【0052】
(4)シートの製造
ウレタン系エマルジョン(大日本インキ化学社製、ハイドランHW−930)の固形分20重量%、得られた被覆樹脂型難燃剤粒子80重量%になるようにホモディスパーで攪拌して調整液を作製した。調整液は所定の水を含んでいる。調整液を厚み2mmのステンレス製型枠に流し込み、110℃×20分乾燥して水分を除去した。更に、厚み0.3mmのステンレスの型枠を用いて、130℃×5分プレスして、厚み約0.3mmの消火シートを得た。プレス前のシートは乾燥時に発泡しているが、プレス後は発泡が消失して平滑な均一な半透明のシートであった。
【0053】
(比較例2)
シリカ粒子(トクヤマ社製、トクシールNP)14重量部と消火成分としてポリリン酸アンモニウム69重量部の比率になるように連続粉体混合機で混合して、MHDシリーズ(IKAジャパン社製)の分散用回転体(ジェネレータ)に43kg/時で供給した。ジェネレータは3段構成であり、その上段にジフェニルメタンジイソシアネート変性物(住化バイエルウレタン社製、SBUイソシアネート0620)を7kg/時で供給した。更にジェネレータの中段に常温(20〜25℃)の水を100kg/時で供給した。ジェネレータは7000rpmで回転させた。ジェネレータの下段から得られた液は懸濁液になっていなかった(即ち、粒子化できなかった)。
【0054】
(比較例3)
ウレタン系エマルジョン(大日本インキ化学社製、ハイドランHW−930)の固形分77重量%、ポリリン酸アンモニウム23重量%になるようにホモディスパーで攪拌して調整液を作製した。調整液は所定の水を含んでいる。調整液を厚み2mmのステンレス製型枠に流し込み、110℃×20分乾燥して水分を除去した。更に、厚み0.3mmのステンレスの型枠を用いて、130℃×5分プレスして、厚み約0.3mmの消火シートを得た。プレス前のシートは乾燥時に発泡しているが、プレス後は発泡が消失して平滑な均一な半透明のシートであった。
【0055】
(比較例4)
ウレタン系エマルジョン(大日本インキ化学社製、ハイドランHW−930)の固形分43重量%、ポリリン酸アンモニウム23重量%、リン酸エステル(大八化学工業社製、TMCPP)23重量%、シリカ粒子(トクヤマ社製、トクシールNP)11重量%になるようにホモディスパーで攪拌して調整液を作製した。調整液は所定の水を含んでいる。調整液を厚み2mmのステンレス製型枠に流し込み、110℃×20分乾燥して水分を除去した。更に、厚み0.3mmのステンレスの型枠を用いて、130℃×5分プレスして、厚み約0.3mmの消火シートを得た。プレス前のシートは乾燥時に発泡しているが、プレス後は発泡が消失して平滑な均一な半透明のシートであった。
【0056】
(評価)
実施例1及び比較例1〜4で得られたシートについて、以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0057】
(1)難燃性の評価
シートを10mm×150mmの短冊状に切断し、長手方向に垂直につるした。シートの下部から20mm離れた位置に炎の先端が来るようにして、ライターで着火し、3秒後にライターの火を消した。このときのシートの着火の有無を目視にて観察した。
【0058】
(2)ドリップの有無の評価
シートを10mm×150mmの短冊状に切断し、長手方向に垂直につるした。シートの下部から20mm離れた位置に炎の先端が来るようにして、ライターで着火し、3秒後にライターの火を消した。このときの溶融したシートからドリップがあったかを目視にて観察した。
【0059】
(3)消火性ガスの発生
シートを10mm×150mmの短冊状に切断し、長手方向に垂直につるした。シートの下部から20mm離れた位置に炎の先端が来るようにして、ライターで着火し、3秒後にライターの火を消した。このときのシート付近の臭いを嗅いで、アンモニア臭が発生したかを判断した。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、容易にポリリン酸アンモニウムを樹脂成分で被覆した被覆樹脂型消火剤粒子を製造できる被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法を提供することができる。また、該被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法によって製造された被覆樹脂型消火剤粒子、及び、該被覆樹脂型消火剤粒子を含有する自己消火性シート状成形体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリリン酸アンモニウムとリン酸エステルとを混合してスラリー状の消火剤組成物を調製する工程と、
前記消火剤組成物、硬化性成分及び多孔性粒子を水中で撹拌分散させることにより、前記消火剤組成物が硬化性成分に被覆された被覆樹脂型消火剤粒子を得る工程とを有する
ことを特徴とする被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法。
【請求項2】
硬化性成分は、イソシアネート、イソシアネートと多官能アルコールとの混合物、変性シリコーン樹脂と錫触媒との混合物、又は、エポキシ樹脂とアミン化合物との混合物であることを特徴とする請求項1記載の被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の被覆樹脂型消火剤粒子の製造方法により製造されたものであることを特徴とする被覆樹脂型消火剤粒子。
【請求項4】
請求項3記載の被覆樹脂型消火剤粒子と、樹脂からなるマトリックスとを含有することを特徴とする自己消火性シート状成形体。


【公開番号】特開2010−31127(P2010−31127A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193906(P2008−193906)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】