説明

被覆蛍光体およびその製造方法ならびに被覆蛍光体を含む発光装置

【課題】高効率で特性の安定した分散性を有する被覆蛍光体およびその製造方法を提供する。また、該被覆蛍光体を用いた良好な白色発光を生ずる発光装置を提供する。
【解決手段】無機酸化物および金属のリン酸塩の群からなる化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物からなる微粒子で、下記の一般式(5)で表されるユーロピウム付活珪酸塩の蛍光体を被覆した被覆蛍光体およびその製造方法に関する。
一般式(5):2(M51-aEua)O・SiO2
(式中、M5はMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、0.005≦a≦0.10である)
また、1次光を発する窒化ガリウム系半導体からなる発光素子と該1次光を吸収して該1次光のピーク波長以上のピーク波長を有する2次光を発する波長変換部とを備えた発光装置であって、該波長変換部は該被覆蛍光体を含む発光装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆蛍光体およびその製造方法ならびに波長変換部に被覆蛍光体を含む発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光素子と蛍光体とを組合せることで作製される発光装置は、低消費電力、小型、高輝度かつ広範囲な色再現性が期待される次世代の発光装置として注目され、活発に研究、開発が行われている。また、発光装置の用途に適合させた様々な蛍光体を含有する波長変換部についても研究、開発が行なわれている。通常、波長変換部として用いるものはゲル化した樹脂中に蛍光体が分散しているものである。波長変換部とは、発光装置から発せられる1次光の一部を吸収し、2次光を発するものである。1次光と2次光とを合成することによって白色の発光を得ることができる。通常、発光素子から発せられる1次光として、長波長の紫外線から青色の範囲、即ち380〜480nmの波長のものが用いられる。
【0003】
現在、上述したような発光装置としては、青色発光の発光素子(ピーク波長、460nm前後)と該青色発光により励起され黄色発光を示す黄色系発光蛍光体との組合せが主として用いられている。該黄色系発光蛍光体は、例えば、3価のセリウムで付活された(Y,Gd)3(Al,Ga)512蛍光体あるいは2価のユーロピウムで付活された2(Sr,Ba,Ca)O・SiO2蛍光体が主に用いられている。
【0004】
しかしながら、3価のセリウムで付活された(Y,Gd)3(Al,Ga)512蛍光体は、青色発光(460〜480nm)の励起下において高効率に黄色発光を生ずるが、長波長の紫外光(380〜400nm)の励起下においては、黄色発光の効率が著しく低下する。他方、2価のユーロピウムで付活された2(Sr,Ba,Ca)O・SiO2蛍光体は、青色発光(460〜480nm)の励起下においても長波長の紫外光(380〜400nm)の励起下においても高効率に黄色発光を生ずる。しかし、該蛍光体は吸湿性を有するために、蛍光体同士が凝集する傾向を有する。これにより、ゾル化状態の樹脂中に該蛍光体を投入して攪拌する段階で蛍光体同士が凝集するため、結果として樹脂中に均一に該蛍光体が分散できない。したがって、波長変換部は均一な二次光を発することができず、発光装置の特性の変動が大きくなる傾向がある。以上から380nmから480nmの励起光において高効率に黄色発光を呈し、蛍光体同士が凝集しない蛍光体を用いて、発光装置での特性の安定性を図ることが重要な技術課題となっている。
【0005】
特許文献1では、均一な二次光を発するために、樹脂中に粒子状の光拡散物質を混合することによって、発光観測面方向に均一に発光が観測され、かつ光取り出し効率を向上させることができる技術が記載されている。また、光拡散物質としては、チタン酸バリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、軟質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム等を用いることが記載されている。
【0006】
特許文献2では、赤色発光を示す酸硫化ランタン蛍光体の粒子表面に金属酸化物からなる防湿層を形成し、凝集を防ぐ方法が記載されている。
【特許文献1】特開2004−221163号公報
【特許文献2】特開2005−286351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1においては、樹脂中に蛍光体を分散する場合における蛍光体の凝集現象およびその防止に関する記載はない。また、特許文献2においては、赤色発光以外を示す蛍光体の凝集を防ぐことができる方法の記載はないため、黄色発光を示す蛍光体の凝集を防ぐことはできない。
【0008】
上記の問題を鑑みて本発明は、半導体発光素子からの380nmから480nmの範囲の光によって、高効率に発光するユーロピウムで付活された2(Sr,Ba,Ca)O・SiO2蛍光体表面を特定の無機酸化物等で被覆することにより形成した、高効率で特性の安定した分散性を有する被覆蛍光体およびその製造方法を提供することを目的とする。また、該被覆蛍光体を用いた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の被覆蛍光体は、
一般式(1):M12
(式中、M1はSiおよびTiから選ばれる少なくとも1種の元素を示す)、
一般式(2):M223
(式中、M2はAl、Ga、Y、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を示す)、
一般式(3):M3227
(式中、M3はCa、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を示す)、
一般式(4):M4PO4
(式中、M4はAl、Ga、Y、La、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を示す)および、
酸化亜鉛の群から選ばれる少なくとも1種の化合物からなる微粒子で、下記の一般式(5)で表されるユーロピウム付活珪酸塩の蛍光体を被覆した被覆蛍光体に関する。
【0010】
一般式(5):2(M51-aEua)O・SiO2
(式中、M5はMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、0.005≦a≦0.10である)
また、本発明の被覆蛍光体において、微粒子は、蛍光体の質量に対して0.005〜1.0質量%であることが好ましい。また、本発明の被覆蛍光体において、微粒子の粒径は、1nm〜0.3μmであることが好ましい。
【0011】
また、本発明の被覆蛍光体の製造方法は、微粒子と蛍光体とを有機溶媒中で混合する工程を含む被覆蛍光体の製造方法に関する。
【0012】
また、本発明の発光装置は、ピーク波長が430nm〜480nmの範囲にある1次光を発する窒化ガリウム系半導体からなる発光素子と、1次光を吸収して1次光のピーク波長以上のピーク波長を有する2次光を発する波長変換部とを備えた発光装置において、波長変換部は、上述した被覆蛍光体を含む発光装置に関する。
【0013】
また、本発明の発光装置において、波長変換部は、
一般式(6):(M61-bEub)M7SiN3
(式中、M6はMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、M7は、Al、Ga、In、Sc、Y、La、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、0.001≦b≦0.05である)
で実質的に表されるユーロピウム付活窒化物の赤色系発光蛍光体を含むことが好ましい。
【0014】
また、本発明の発光装置において、一般式(6)中のM7は、Al、GaおよびInから選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の被覆蛍光体は黄色発光および緑色発光を示し、防湿性が高い。したがって被覆蛍光体同士の凝集を抑制することができる。また、波長変換部に被覆蛍光体を含む発光装置は、設定した発光色の色度の変動が小さく、良好な白色発光を生ずることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
〔被覆蛍光体〕
図1は、本発明による被覆蛍光体の構成を模式的に示した図である。図1を参照しつつ、被覆蛍光体の説明を行なう。なお、図1において、同一の参照符号は同一部分または相当部分を表している。また、図面における長さ、大きさ、幅などの寸法関係は、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法を表してはいない。
【0017】
本発明の被覆蛍光体10は、蛍光体12の表面を複数の微粒子11で被覆してなるものである。該被覆は、蛍光体12の表面に複数の微粒子11が直接付着することで、形成されている。微粒子11同士は互いに接触していてもよい。また、微粒子11は、蛍光体12の表面に付着した微粒子12にさらに付着してもよい。蛍光体12の表面は、全て複数の微粒子11によって被覆されて、微粒子11からなる被膜で覆われたような状態であることが好ましい。しかし、蛍光体12の表面の一部は、微粒子11が付着しておらず、結果として蛍光体12の表面が露出している部分があってもよい。なお、本発明において、蛍光体12の表面積の10%以上が微粒子によって被覆されていることが好ましい。また、微粒子11の大きさは、一定でなくてもよい。
【0018】
本発明の被覆蛍光体10において、微粒子11を形成する物質は、蛍光体12を形成する物質よりも吸湿性が低い物質である。吸湿性の尺度として、例えば吸湿水の質量を挙げることができる。具体的に示すと、微粒子11の吸湿水の質量は、蛍光体12の材料の質量に対して0.01%以下であることが好ましい。蛍光体12を複数の微粒子11で被覆してなる被覆蛍光体10は、蛍光体12よりも防湿性、防水性が高いものとなる。そして、被覆蛍光体10の表面の吸湿水の質量は、蛍光体12の表面の吸湿水の質量よりも少ないため、被覆蛍光体10の凝集が起こりにくい。そして、個々の被覆蛍光体10は、分散性を一定に長期間、安定して保つことができる。
【0019】
〔微粒子〕
本発明の微粒子11は、以下の一般式(1)または(2)で示される化合物、および酸化亜鉛のいずれかの無機酸化物からなるものである。
【0020】
一般式(1):M12
式中、M1はSiおよびTiから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。
【0021】
一般式(2):M223
式中、M2はAl、Ga、Y、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。
【0022】
該無機酸化物は、後述する蛍光体12の材料よりも防湿性が高い。該無機酸化物からなる微粒子11と蛍光体12とが接触している蛍光体12の表面は、水分の接触をうけない。したがって、被覆蛍光体10は、蛍光体12よりも高い防湿性を有することができる。また、該無機酸化物は、化学的に安定している化合物であり扱いやすく、手に入れやすい。微粒子11は、複数種の該無機酸化物からなるものが混在して構成されても良い。
【0023】
また、本発明の微粒子11は、以下の一般式(3)または(4)で示される化合物のいずれかの金属のリン酸塩からなるものであってもよい。
【0024】
一般式(3):M3227
式中、M3はCa、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。
【0025】
一般式(4):M4PO4
式中、M4はAl、Ga、Y、La、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。
【0026】
上述した無機酸化物と同様に、該リン酸塩は、後述する蛍光体12の材料よりも防湿性が高く、該リン酸塩からなる微粒子11を含む被覆蛍光体10は、蛍光体12よりも高い防湿性を有することができる。微粒子11は、複数種の該リン酸塩からなるものが混在して構成されても良い。
【0027】
ここで、上述した無機酸化物およびリン酸塩は、双方ともに微粒子11の材料として適しているが、安定した微粒子を得やすいことから、上述した無機酸化物が好ましく、特にAl2O、SiO2、TiO2、ZnOが、好ましい。また、微粒子11は、無機酸化物からなるものとリン酸塩からなるものとが、複数種混在したものであっても良い。
【0028】
被覆蛍光体10において、蛍光体12の質量に対して0.005〜1.0質量%、好ましくは0.005〜0.5質量%の微粒子11で蛍光体12が被覆されている。
【0029】
微粒子11の量は、蛍光体12の1.0質量%を超えると、微粒子11が蛍光体12の明るさに干渉し、蛍光体12の発光強度の低下につながる虞がある。また、微粒子11の量が、0.005質量%未満の場合には、被覆蛍光体10の耐水性を高める効果が抑制され、被覆蛍光体10の凝集を防止できない虞がある。
【0030】
なお、被覆している微粒子11の質量%は、誘導結合高周波プラズマ(ICP(Inductively coupled plasma))発光分光分析で測定される。
【0031】
被覆蛍光体10において、微粒子11の平均粒径は1nm〜0.3μm、好ましくは20〜100nmであることが好ましい。微粒子11の粒径が0.3μmを越える場合には、被覆率の点から蛍光体12の周りを均一に被覆することができない。また、1nm未満の場合には、微粒子間で凝集が起こり、蛍光体12の周りを均一に被覆することができない。平均粒径は、比表面積を求め、便宜上球体として換算した値である。
【0032】
なお、微粒子11の形状は、特に制限はなく、球状、直方体状、多角形体状あるいは空孔や突起を有していてもよいが、球状であることが好ましい。
【0033】
〔蛍光体〕
本発明の蛍光体12は、以下の一般式(5)で実質的に示されるユーロピウム付活珪酸塩の蛍光体である。
【0034】
一般式(5):2(M51-aEua)O・SiO2
式中、M5はアルカリ土類金属元素であり、特にMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、0.005≦a≦0.10、より好ましくは0.01≦a≦0.05である。aの値が0.005未満であると、十分な明るさが得られないという不具合があり、aの値が0.10を越えると、濃度消光などにより、明るさが大きく低下するという不具合がある。
【0035】
本発明の蛍光体は、430〜480nmの波長の光で励起された場合に、510〜600nmの波長の光を発することができる蛍光体である。したがって、緑色系〜黄色系の発光を生じることができる。以下、本発明において、緑色系発光蛍光体および黄色系発光蛍光体と記載した場合には、被覆蛍光体10を形成する蛍光体12と記載したのと同一であるものとする。
【0036】
蛍光体12の形状は、特に制限はなく、球状、直方体状、多角形体状あるいは空孔や突起を有していてもよいが、放射状に光を発するためには球状であることが好ましい。
【0037】
蛍光体12の平均粒径は、特に制限されるものではないが、6〜15μmであることが好ましい。6μm未満であると、蛍光体12の結晶成長が不十分であり、明るさが大きく低下する傾向にあり、15μmを越えると、上述した媒質中において蛍光体の沈降の制御が難しくなる傾向にある。
【0038】
蛍光体12は、具体的には、2(Sr0.90Ba0.07Ca0.01Eu0.02)O・SiO2、2(Sr0.42Ba0.56Eu0.02)O・SiO2、2(Sr0.850Ba0.115Ca0.020Eu0.015)O・SiO2、2(Sr0.37Ba0.60Ca0.01Eu0.02)O・SiO2、2(Sr0.81Ba0.15Ca0.02Eu0.02)O・SiO2、2(Sr0.75Ba0.21Ca0.01Eu0.03)O・SiO2、2(Sr0.35Ba0.62Eu0.03)O・SiO2、2(Sr0.90Ba0.07Eu0.03)O・SiO2、2(Sr0.88Ba0.08Eu0.04)O・SiO2、2(Sr0.86Ba0.10Ca0.02Eu0.02)O・SiO2、2(Sr0.74Ba0.21Ca0.02Eu0.03)O・SiO2、2(Sr0.23Ba0.75Eu0.02)O・SiO2、2(Sr0.86Ba0.13Eu0.01)O・SiO2、2(Sr0.75Ba0.24Eu0.01)O・SiO2、2(Sr0.20Ba0.75Ca0.02Eu0.03)O・SiO2などの組成式で表わされるものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
なお、蛍光体12の粒径の値は、例えば比表面積を求め、便宜上球体として換算することで得ることができる。
【0040】
〔被覆蛍光体の製造方法〕
本発明の被覆蛍光体10の製造方法について、製造の工程順に以下説明する。
【0041】
まず、用いる蛍光体12の体積の3〜20倍の有機溶媒を容器に投入し、該有機溶媒を攪拌する。そして、攪拌されている有機溶媒の中に蛍光体12を投入し、さらに有機溶媒の攪拌を続ける。有機溶媒中に十分に蛍光体12が分散した段階で、蛍光体12を含有する有機溶媒に、蛍光体12の質量の0.00005〜0.01倍の微粒子11を添加する。ここで、微粒子11を有機溶媒にあらかじめ分散させたコロイド溶液を準備し、蛍光体12を含有する有機溶媒に、該コロイド溶液を添加してもよい。微粒子11および蛍光体12を含有する有機溶媒を十分に攪拌した後に、ろ過などを行なうことで、有機溶媒と、微粒子11および蛍光体12からなる固形物とを分離する。この段階で、蛍光体12の表面に微粒子11が付着している。そして、分離した固形物を乾燥することで被覆蛍光体10を得ることができる。該乾燥には、1〜15Paで2〜6時間、30〜60℃で該固形分を保持した後に、さらに常圧で5〜20時間、100〜130℃で保持する方法を用いることが好ましい。
【0042】
ここで、上述した有機溶媒の代わりに溶媒として「水」を用いることも可能である。しかし、水を用いる場合には、上述した「乾燥」に細心の注意を払う必要がある。蛍光体12は、水中で水に接触しており、水と該固形物とを分離した段階で、微粒子11が付着していない蛍光体12の表面には、吸湿水としての水が存する。したがって、上述した乾燥の際に、該固形物を150℃程度で5〜20時間保持する等して、該吸湿水を除く工程を設ける必要がある。「有機溶媒」を用いる場合には、被覆蛍光体10の製造中に吸湿水のことを考慮する必要がないことから、製造の工程が簡略化できる。
【0043】
ここで、本発明において、有機溶媒とは、炭化水素系である溶媒を示し、具体的には、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、アセトン、酢酸ブチル、酢酸エチル、メチルブチルケトン、n−ブチルアルコール、酢酸メチル、イソプロピルアルコールなどを挙げることができる。
【0044】
なお、被覆蛍光体10の、蛍光体12に対する微粒子11の被覆量の調整は、上述した溶媒中への所定の添加量を変えることによって行なうことが可能である。
【0045】
〔発光装置〕
図2は、本発明の好ましい発光装置30の一形態を簡略化して示す構造断面図である。以下、図2に基づいて説明する。
【0046】
本発明の発光装置30は、1次光を発する発光素子13と、1次光の一部を吸収して、1次光以上の長さの波長を有する2次光を発する波長変換部20とを基本的に備える。波長変換部20は、媒質14とこれに封入された複数の被覆蛍光体10および好ましくは赤色系発光蛍光体21とを含む。発光素子13は、ワイヤ15によってリードフレーム16にワイヤボンディングされており、発光素子13および波長変換部20はパッケージ17で保持されている。また、媒質14は発光素子13を封止している。なお、本発明の発光装置30は、高効率な白色光を発光する。
【0047】
本発明の発光装置の相関色温度(Tc)が2,000〜20,000Kである。ここで、以下相関色温度(Tc)は、JIS−Z8725に規格されたものを指す。
【0048】
ここで、1次光のピーク波長の範囲が430〜480nmさらに440〜470nmであることが好ましい。1次光が430nm未満の場合には、青色成分の輝度が低くなりすぎる傾向にあり、実用的ではない。また、480nmを越えると、白色での明るさが低下する傾向にあり、実用的でなくなる。また、一次光が紫外光を含むと、媒質14として適している汎用的な有機樹脂が、紫外線によって劣化しやすいため、これを用いた発光装置30の信頼性が低下する。
【0049】
発光素子13は、窒化ガリウム(GaN)系半導体発光素子であることが好ましい。窒化ガリウム系半導体発光素子とは、窒化ガリウム系化合物からなる半導体層を少なくとも1層含む発光素子である。窒化ガリウム系化合物とは、たとえば窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)または窒化ガリウムアルミニウム(GaAlN)などが挙げられる。
【0050】
発光装置30は、波長変換部20、即ち励起光としての1次光を吸収して2次光を発する部分を備えている。媒質14には透明樹脂を用いることが好ましく、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、およびアクリル樹脂のうちから選ばれる、いずれかの有機樹脂を含むことが好ましい。これらの有機樹脂は、加工性に優れた透明樹脂である。
【0051】
上述の被覆蛍光体10を含む波長変換部20は、軟化させた媒質14中に被覆蛍光体10を分散させた後に、媒質14を硬化させることで製造される。
【0052】
上述の被覆蛍光体10は防湿性が高いため、媒質14中に被覆蛍光体10を均一に分散させる。一定時間経過させた場合にも、被覆蛍光体10は凝集せず、媒質14中に分散される。したがって、設定した2次光の発光色の色度のばらつきが小さい波長変換部を作製することができる。
【0053】
波長変換部20には、上述したとおり被覆蛍光体10の他に赤色系発光蛍光体21を含有することで、結果としてより赤色成分の色再現性が良好な、かつ低い色温度の効率の高い発光装置を得ることができる。そして特に、発光効率の観点から以下の式で示されるユーロピウム付活窒化物の赤色系発光蛍光体を含有することが好ましい。
【0054】
一般式(6):(M61-bEub)M7SiN3
式中、M6はアルカリ土類金属元素であり、特にMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、M7は3価の金属元素であり、特にAl、Ga、In、Sc、Y、La、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、0.001≦b≦0.05であり、より好ましくは、0.005≦b≦0.02である。bの値が0.001未満であると、十分な明るさが得られないという不具合があり、bの値が0.05を越えると、濃度消光などにより、明るさが大きく低下するという不具合がある。
【0055】
また特に、一般式(6)中のM6が、Al、GaおよびInから選ばれる少なくとも1種の元素であることが特に好ましい、Alが最も好ましい。一層高効率な赤色発光が得られることから、結果的に発光装置の白色発光において効率(明るさ)があがるためである。
【0056】
また、1次光のピーク波長が430〜480nmのとき、被覆蛍光体10を媒体に対して5〜45質量%、赤色蛍光体21を被覆蛍光体に対して2〜45質量%含有させることが好ましい。混合の割合は、各蛍光体の大きさ、所定の色温度、演色性を考慮することによって、決めることが可能である。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下に示す蛍光体は球形のものを用いた。なお、蛍光体等の「平均粒径」は、比表面積を求め、便宜上球体として換算することで求めた値である。
【0058】
<実施例1>
1000cc容量のビーカに溶媒としてイソプロピルアルコール((CH32CHOH)を500cc入れ、撹拌子にて十分撹拌した。該ビーカの溶媒中に黄色系発光蛍光体である2(Sr0.90Ba0.07Ca0.01Eu0.02)O・SiO2(平均粒径:8.6μm)を100g投入し、撹拌を続けた。その後、さらに溶媒中にSiO2からなる微粒子(平均粒径:24nm)を0.10g添加した。そして、黄色系発光蛍光体と微粒子とを含む溶媒を十分撹拌した後、該溶媒を濾過して固形物である残渣を回収し、残渣を乾燥した。乾燥は以下の要領で行なった。まず、減圧状態(10Pa)にて該残渣を5時間保持した。次にさらに常圧にて該残渣を120℃で10時間保持した。乾燥の後、黄色系発光蛍光体の表面に該黄色系発光蛍光体の0.1質量%の微粒子が付着した被覆蛍光体が得られた。
【0059】
この被覆蛍光体について、粒度分布を測定した。測定は以下の要領で行なった。
まず、分散剤としてヘキサメタ燐酸ソーダを含有したエチレングリコール(HOCH2CH2OH)中に、被覆蛍光体を分散させた。分散させて3分経過後および30分経過後、粒度分布を測定し、メディアン径(50%D)を求めた。本発明において、メディアン径とは、体積(質量)で累積50%に相当する粒子径のことである。また、測定に用いた粒度分布測定装置は堀場製作所製LA−920である。結果を表1に示す。
【0060】
<比較例1>
SiO2からなる微粒子が表面に付着していない黄色系発光蛍光体である2(Sr0.90Ba0.07Ca0.01Eu0.02)O・SiO2(平均粒径:8.6μm)を用いて、上述した方法と同様に粒度分布を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示す結果のとおり、実施例1の被覆蛍光体は、比較例1の蛍光体に比し、エチレングリコール中において凝集することなく、非常に安定していることが分かった。
【0063】
<実施例2>
500cc容量のプラスチック製瓶に純水150ccと硝子ビーズ(約3mmφ)100gとAl23からなる微粒子(平均粒径:43nm)20gとを入れた。そして、硝子ビーズと微粒子とを含有する純水を60rpmの条件にて30分間攪拌する分散処理を行なった。分散処理後、微粒子を通しかつ硝子ビーズを通さないメッシュを用いて、硝子ビーズを分離した。その際、硝子ビーズと微粒子とを含有する純水が付着したプラスチック製瓶内などの器具を30ccの純水にて洗浄した。その後、該メッシュを用いて、硝子ビーズを分離した。このようにして、分散処理をした10質量%のAl23からなる微粒子の溶液を調製した。
【0064】
次に、1000cc容量のビーカに溶媒としての純水を500cc入れ、撹拌子にて十分撹拌した。該ビーカの溶媒中に緑色系発光蛍光体である2(Sr0.42Ba0.56Eu0.02)O・SiO2(平均粒径:10.1μm)を100g投入し、撹拌を続けた。その後、さらに該溶媒中に予め分散処理をした10質量%の微粒子の溶液を0.5cc添加した。そして、緑色系発光蛍光体と微粒子とを含む溶媒を十分撹拌した後、該溶媒を濾過して固形物である残渣を回収し、残渣を乾燥した。乾燥は以下の要領で行なった。まず、常圧にて該残渣を100℃で10時間保持した。その後、該残渣を150℃で10時間保持した。上述した乾燥を行なうことで、緑色系発光蛍光体の表面に付着した水分を略完全に除去することが出来る。乾燥の後、緑色系発光蛍光体の表面に該緑色発光蛍光体の0.05質量%の微粒子が付着した被覆蛍光体が得られた。
【0065】
この被覆蛍光体について、実施例1と同様の方法にて粒度分布を測定した。結果を表2に示す。
【0066】
<比較例2>
Al23からなる微粒子が表面に付着していない緑色系発光蛍光体である2(Sr0.42Ba0.56Eu0.02)O・SiO2(平均粒径:10.1μm)を用いて、実施例1と同様の方法にて粒度分布を測定した。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に示す結果のとおり、実施例2の被覆蛍光体は、比較例2の蛍光体に比し、エチレングリコール中において凝集することなく、非常に安定していることが分かった。
【0069】
<実施例3>
1000cc容量のビーカに溶媒としてn−プロピルアルコール(C37OH)を500cc入れ、撹拌子にて十分撹拌した。該ビーカの溶媒中に黄色系発光蛍光体である2(Sr0.850Ba0.115Ca0.020Eu0.015)O・SiO2(平均粒径:9.3μm)を100g投入し、撹拌を続けた。その後、さらに溶媒中にY23からなる微粒子(平均粒径:85nm)を0.30g添加した。そして、黄色系発光蛍光体と微粒子とを含む溶媒を十分撹拌した後、濾過して固形物である残渣を回収し、残渣を乾燥した。乾燥は、以下の条件で行なった。まず、減圧状態(5Pa)にて該残渣を5時間保持した。次にさらに常圧にて該残渣を120℃で10時間保持した。乾燥の後、黄色系発光蛍光体の表面に該黄色系発光蛍光体の0.3質量%の微粒子が付着した被覆蛍光体が得られた。この被覆蛍光体について、実施例1と同様の方法にて粒度分布を測定した。結果を表3に示す。
【0070】
<比較例3>
23からなる微粒子が表面に付着していない黄色系発光蛍光体である2(Sr0.850Ba0.115Ca0.020Eu0.015)O・SiO2(平均粒径:9.3μm)を用いて、実施例1と同様の方法にて粒度分布を測定した。結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
表3に示す結果のとおり、実施例3の被覆蛍光体は、比較例3の蛍光体に比し、エチレングリコール中において凝集することなく、非常に安定していることが分かった。
【0073】
<実施例4〜19>
表4および表5に示すような組合せで、種々の蛍光体を種々の微粒子で被覆し、被覆蛍光体を作製した。実施例4〜19の中で実施例5および13以外の実施例においては、実施例1と同様の方法で被覆蛍光体を作製した。実施例5および13においては実施例2と同様の方法で被覆蛍光体を作製した。被覆蛍光体における蛍光体の質量に対する微粒子の被覆量(質量%)および被覆蛍光体を作製するために用いた溶媒は表4および表5に示す。作製した被覆蛍光体について、実施例1と同様の方法で粒度分布を測定した。結果を表4および表5に示す。なお、表4および表5には、蛍光体および微粒子の平均粒径を併記している。
【0074】
<比較例4〜19>
種々の蛍光体について、実施例1と同様の方法で粒度分布を測定した。結果を表4および表5に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
表4および表5に示す結果のとおり、本発明の被覆蛍光体は、従来品である蛍光体に比し、エチレングリコール中において凝集することなく、非常に安定していることが分かった。
【0078】
<実施例20>
発光素子として、450nmにピーク波長を有する窒化ガリウム系半導体を用いた。波長変換部に含む被覆蛍光体には、実施例1で作製した被覆蛍光体を用いた。該被覆蛍光体をエポキシ樹脂中に分散し、波長変換部を作製した。そして、該波長変換部を組み込んだ発光装置について、その特性を評価した。
【0079】
発光装置の特性は、エポキシ樹脂中に該被覆蛍光体を分散し、分散10分後に所定の成型をした場合と60分後に所定の成型をした場合とについて、色度(x,y)の変動を観測することで評価した。色温度、偏差および色度(x,y)については、順電流20mAの条件にて点灯した発光装置からの白色光を大塚電子製MCPD−2000にて測定し、その値を求めた。その結果を表6に示す。
【0080】
<比較例20>
被覆蛍光体の代わりに黄色系発光蛍光体である2(Sr0.90Ba0.07Ca0.01Eu0.02)O・SiO2を含む波長変換部に用いた以外は実施例20と同様の方法で発光装置を作製した。発光装置の特性は、実施例20と同様の方法で評価した。その結果を表6に示す。
【0081】
【表6】

【0082】
表6が示すように、実施例20の発光装置は比較例20の発光装置に比し、特性が著しく安定していることが分かった。
【0083】
<実施例21>
発光素子として、460nmにピーク波長を有する窒化ガリウム系半導体を用いた。波長変換部には、実施例3で作製した被覆蛍光体と(Ca0.98Eu0.02)AlSiN3からなる赤色発光蛍光体(粒径5.8μm)とを混合した混合蛍光体をシリコーン樹脂中に分散させたものを用いた。該混合蛍光体は、該被覆蛍光体と該赤色発光蛍光体とを質量比で1:0.22の割合で混合したものを用いた。該混合蛍光体をシリコーン樹脂中に分散し、波長変換部を作製した。該波長変換部を組み込んだ発光装置について、実施例20と同様の方法で特性を評価した。その結果を表7に示す。
【0084】
<比較例21>
混合蛍光体の代わりに黄色系発光蛍光体である2(Sr0.850Ba0.115Ca0.020Eu0.015)O・SiO2を含む波長変換部に用いた以外は実施例21と同様の方法で発光装置を作製した。発光装置の特性は、実施例20と同様の方法で評価した。その結果を表7に示す。
【0085】
【表7】

【0086】
表7が示すように、本発明の発光装置は従来品に比し、特性が著しく安定していることが分かった。
【0087】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明による被覆蛍光体の構成を模式的に示した図である。
【図2】本発明の好ましい発光装置の一形態を簡略化して示す構造断面図である。
【符号の説明】
【0089】
10 被覆蛍光体、11 微粒子、12 蛍光体、13 発光素子、14 媒質、15 ワイヤ、16 リードフレーム、17 パッケージ、20 波長変換部、21 赤色系発光蛍光体、30 発光装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):M12
(式中、M1はSiおよびTiから選ばれる少なくとも1種の元素を示す)、
一般式(2):M223
(式中、M2はAl、Ga、Y、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を示す)、
一般式(3):M3227
(式中、M3はCa、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を示す)、
一般式(4):M4PO4
(式中、M4はAl、Ga、Y、La、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を示す)および、
酸化亜鉛
の群から選ばれる少なくとも1種の化合物からなる微粒子で、下記の一般式(5)で表されるユーロピウム付活珪酸塩の蛍光体を被覆した被覆蛍光体。
一般式(5):2(M51-aEua)O・SiO2
(式中、M5はMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、0.005≦a≦0.10である)
【請求項2】
前記微粒子は、前記蛍光体の質量に対して0.005〜1.0質量%である請求項1に記載の被覆蛍光体。
【請求項3】
前記微粒子の粒径は、1nm〜0.3μmである請求項1に記載の被覆蛍光体。
【請求項4】
請求項1に記載の微粒子と蛍光体とを有機溶媒中で混合する工程を含む被覆蛍光体の製造方法。
【請求項5】
ピーク波長が430nm〜480nmの範囲にある1次光を発する窒化ガリウム系半導体からなる発光素子と、
前記1次光を吸収して前記1次光のピーク波長以上のピーク波長を有する2次光を発する波長変換部とを備えた発光装置において、
前記波長変換部は、請求項1に記載の被覆蛍光体を含む発光装置。
【請求項6】
前記波長変換部は、
一般式(6):(M61-bEub)M7SiN3
(式中、M6はMg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、M7は、Al、Ga、In、Sc、Y、La、GdおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、0.001≦b≦0.05である)
で実質的に表されるユーロピウム付活窒化物の赤色系発光蛍光体を含む請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
前記一般式(6)中のM7は、Al、GaおよびInから選ばれる少なくとも1種の元素である請求項6に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−63446(P2008−63446A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242855(P2006−242855)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】