説明

被駆動体の位置検出装置

【課題】被駆動体の位置を検出するための専用のデバイスを追加することなく、被駆動体の位置を検出することができる被駆動体の位置検出装置を提供する。
【解決手段】被駆動体8と、コイル11b,12bが巻かれた電磁石11,12と、被駆動体に一体に設けられ、電磁石と対向するアーマチュア13と、コイル11b,12bに駆動電流IACを供給することにより、アーマチュア13を作動させ、被駆動体を駆動する駆動回路16と、を有する駆動装置において、被駆動体の位置を検出する被駆動体の位置検出装置であって、コイル11bの電圧を検出する電圧検出手段21と、駆動電流IACを検出する駆動電流検出手段22と、検出された検出電圧SVおよび検出電流SIに基づいて、被駆動体の位置を検出する位置検出手段30,40,50と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被駆動体を駆動する電磁式の駆動装置において、被駆動体の位置を検出する被駆動体の位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の位置検出装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この駆動装置は、被駆動体としての吸気弁および排気弁(以下、総称して「機関弁」という)を駆動するものである。駆動装置は、各機関弁の上端部の周囲に配置された閉弁用電磁コイルと、閉弁用電磁コイルの下側に間隔を存して配置された開弁用電磁コイルと、機関弁に一体に設けられ、両電磁コイルの間に配置されたアーマチュアおよび駆動回路を備えている。この駆動装置では、駆動回路によって電磁コイルに駆動電圧を印加することにより、機関弁が駆動される。具体的には、閉弁用電磁コイルに駆動電圧を印加すると、励磁された閉弁用電磁コイルにアーマチュアが引き付けられることによって、機関弁が閉弁される。一方、開弁用電磁コイルに駆動電圧を印加すると、アーマチュアが開弁用電磁コイルに引き付けられることによって、機関弁が開弁される。
【0003】
また、この位置検出装置は、高周波発生器を備えており、機関弁の位置を以下のようにして検出する。閉弁用電磁コイルに駆動電圧が印加されている場合には、これと反対側の開弁用電磁コイルに、高周波発生器から高周波電流を供給し、開弁用電磁コイルに駆動電圧が印加されている場合には、閉弁用電磁コイルに高周波電流を供給する。これにより、高周波磁界を発生させ、アーマチュアの表面に渦電流を発生させる。この渦電流の大きさは、アーマチュアと電磁コイルの間の距離に応じて変化するため、電磁コイルの電圧もそれに応じて変化する。このため、この電磁コイルの電圧に基づいて、アーマチュアの位置、すなわち機関弁の位置が検出される。しかし、この従来の位置検出装置では、機関弁の位置を検出するために、高周波発生器が別個に必要になるため、その分、製造コストが上昇する。
【0004】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、被駆動体の位置を検出するための専用のデバイスを追加することなく、被駆動体の位置を検出することができる被駆動体の位置検出装置を提供することを目的とする。
【0005】
【特許文献1】特開平10−115205号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、被駆動体(実施形態における(以下、本項において同じ)機関弁8)と、コイル11b,12bが巻かれた電磁石(閉弁用電磁石11、開弁用電磁石12)と、被駆動体に一体に設けられ、電磁石と対向するアーマチュア13と、コイル11b,12bに駆動電流IACを供給することにより、アーマチュア13を作動させ、被駆動体を駆動する駆動回路16と、を有する駆動装置において、被駆動体の位置を検出する被駆動体の位置検出装置であって、コイル11bの電圧を検出する電圧検出手段(電圧センサ21)と、駆動電流IACを検出する駆動電流検出手段(電流センサ22)と、検出された検出電圧(電圧信号SV)および検出電流(電流信号SI)に基づいて、被駆動体の位置を検出する位置検出手段(位置検出部30,40,50)と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この駆動装置では、被駆動体にアーマチュアが一体に設けられるとともに、このアーマチュアは、コイルが巻かれた電磁石に対向している。このコイルに駆動電流を供給すると、電磁石が励磁され、アーマチュアが電磁石に引き付けられることによって、これと一体の被駆動体が駆動される。また、この位置検出装置では、コイルの電圧を検出するとともに、コイルの駆動電流を検出し、検出されたコイルの検出電圧および検出電流に基づいて、被駆動体の位置が検出される。
【0008】
アーマチュアが電磁石に近いほど、コイルの逆起電力が大きくなり、また、電磁石、コイルおよびアーマチュアから成る磁気回路の渦電流損と、コイルに生じるリアクタンス成分を含む抵抗成分が大きくなるため、コイルの両端子間の電位差が大きくなり、検出電圧は大きくなる。同じ理由から、駆動電流が流れにくくなり、検出電流は小さくなる。このため、検出電圧および検出電流に基づいて、電磁石に対するアーマチュアの位置関係を検出でき、したがって、被駆動体の位置を検出することができる。また、被駆動体を駆動するために供給する駆動電流を利用して被駆動体の位置を検出するので、そのための専用のデバイスを新たに追加する必要がなく、その分、製造コストを抑えることができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の被駆動体の位置検出装置において、位置検出手段は、検出電圧を、所定の周波数域の成分を通過させるようにフィルタリングする電圧用フィルタ31と、検出電流を、所定の周波数域の成分を通過させるようにフィルタリングする電流用フィルタ34と、フィルタリングされた検出電圧(フィルタリング電圧信号SVF)の振幅を検出する電圧振幅検出手段(電圧振幅検出部33)と、フィルタリングされた検出電流(フィルタリング電流信号SIF)の振幅を検出する電流振幅検出手段(電流振幅検出部36)と、を有し、検出電圧の振幅(電圧振幅VAM)と検出電流の振幅(電流振幅IAM)との比に基づいて、被駆動体の位置を検出することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、フィルタリングされた検出電圧の振幅と検出電流の振幅との比に基づいて、被駆動体の位置を検出する。この検出電圧の振幅と検出電流の振幅との比は、コイルのインピーダンスを表す。前述したように、アーマチュアが電磁石に近いほど、抵抗成分が大きくなるため、コイルのインピーダンスは大きくなる。このため、両者の比に応じて、被駆動体の位置を検出することができる。また、検出電圧および検出電流をフィルタリングするので、不要な周波数成分を除去でき、それぞれの振幅を精度良く検出することができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の被駆動体の位置検出装置において、位置検出手段は、検出電圧をフーリエ変換する電圧フーリエ変換手段(電圧用フーリエ変換部41)と、検出電流をフーリエ変換する電流フーリエ変換手段(電流用フーリエ変換部42)と、フーリエ変換された検出電圧(フーリエ電圧信号SVFT)および検出電流(フーリエ電流信号SIFT)に基づいて、コイル11bのインピーダンスZの実数部Rを算出する実数部算出手段(実数部算出部44)と、を有し、インピーダンスZの実数部Rに基づいて、被駆動体の位置を検出することを特徴とする。
【0012】
検出電圧および検出電流をフーリエ変換すると、検出電圧および検出電流の周波数ごとにスペクトルが得られる。また、コイルを用いているため、各スペクトルは、実数部と虚数部を有し、検出電圧のスペクトルおよび検出電流のスペクトルに基づいて得られるインピーダンスもまた、実数部と虚数部を有する。このうち、インピーダンスの実数部は、コイルの抵抗損と、前述した抵抗成分のうちの渦電流損を表すため、この実数部に基づいて、被駆動体の位置を検出することができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の被駆動体の位置検出装置において、位置検出手段は、検出電圧をフーリエ変換する電圧フーリエ変換手段と、検出電流をフーリエ変換する電流フーリエ変換手段と、フーリエ変換された検出電圧および検出電流に基づいて、コイル11bのインピーダンスZの虚数部Xを算出する虚数部算出手段(虚数部算出部51)と、を有し、インピーダンスZの虚数部Xに基づいて、被駆動体の位置を検出することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、インピーダンスの虚数部は、コイルのリアクタンス成分を表すため、この虚数部に基づいて、被駆動体の位置を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態による位置検出装置、およびこれを適用した内燃機関(以下「エンジン」という)3の概略構成を示している。エンジン3は、直列4気筒のガソリンエンジンであり、車両(図示せず)に搭載されている。
【0016】
エンジン3のピストン3aとシリンダヘッド3bの間には、燃焼室3cが形成されている。シリンダヘッド3bには、吸気管4および排気管5が接続されている。
【0017】
エンジン3には、吸気弁6(被駆動体)および排気弁7(被駆動体)が設けられている。吸気弁6は、燃焼室3cを閉鎖する上方の閉弁位置(図1に示す位置)と、燃焼室3cに突出し、燃焼室3cを開放する下方の開弁位置との間で移動自在に設けられている。同様に、排気弁7は、上方の閉弁位置と、下方の開弁位置との間で移動自在に設けられている。これらの吸気弁6および排気弁7は、駆動装置によって駆動される。なお、吸気弁6と排気弁7の構成は互いに同じであるため、以下では、吸気弁6および排気弁7を総称して機関弁8とし、その説明を行うものとする。
【0018】
機関弁8の上端部には上ばね受け8aが、その中間部には下ばね受け8bが、それぞれ一体に設けられている。機関弁8のほぼ上半部はケーシング9内に収容されている(図2参照)。
【0019】
駆動装置は、動弁機構10および駆動回路16などを備えている。図2に示すように、動弁機構10は、ケーシング9内に収容され、機関弁8の上端部の周囲に配置された閉弁用電磁石11と、閉弁用電磁石11の下側に所定の間隔を存して設けられ、機関弁8の周囲に配置された開弁用電磁石12と、閉弁用電磁石11と開弁用電磁石12の間に配置され、機関弁8に一体に設けられたアーマチュア13と、上ばね14および下ばね15を備えている。
【0020】
上ばね14は、ケーシング9の上壁と機関弁8の上ばね受け8aとの間に設けられている。一方、下ばね15は、ケーシング9の下壁と下ばね受け8bとの間に設けられている。これらの上ばね14および下ばね15の付勢力がいずれも値0のときには、アーマチュア13は、閉弁用電磁石11と開弁用電磁石12の間の所定の中立位置(図2の実線位置)に位置する。
【0021】
閉弁用電磁石11は、ヨーク11aとコイル11bで構成されており、ヨーク11aの周りにコイル11bが巻かれている。同様に、開弁用電磁石12は、ヨーク12aと、その周りに巻かれたコイル12bで構成されている。また、コイル11bおよびコイル12bは、駆動回路16に接続されている。
【0022】
駆動回路16は、例えばnpn接続された複数のバイポーラトランジスタで構成されている。各バイポーラトランジスタのコレクタ、エミッタおよびベースはそれぞれ、バッテリ17、閉弁用電磁石11のコイル11b(または開弁用電磁石12のコイル12b)およびECU2に接続されている。駆動回路16は、バッテリ17から供給された電源電圧(例えば24V)を昇圧するとともに、昇圧した電圧を、ECU2から出力される所定の周波数(例えば20kHz)の駆動信号に応じて、コイル11b,12bに印加し、駆動電流IACを供給する。なお、この駆動電流IACの電流量は、駆動信号のデューティ比を制御することによって制御される。
【0023】
以上の構成により、閉弁用電磁石11のコイル11bに駆動電流IACを供給すると、ヨーク11aが励磁され、アーマチュア13は、上ばね14および下ばね15の付勢力に抗して閉弁用電磁石11に引き付けられ、吸着することによって、機関弁8が閉弁される(図2の1点鎖線)。以下、このアーマチュア13の位置を「閉弁位置」という。
【0024】
この状態からコイル11bへの駆動電流IACの供給を停止すると、上ばね14および下ばね15の付勢力によって、機関弁8が下方に移動する。そして、アーマチュア13が中立位置付近まで移動したときに、開弁用電磁石12のコイル12bに駆動電流IACを供給することで、アーマチュア13は、上ばね14および下ばね15の付勢力に抗して、励磁された開弁用電磁石12に引き付けられ、吸着することによって、機関弁8が最大リフトで開弁する。
【0025】
この状態からコイル12bへの駆動電流IACの供給を停止すると、機関弁8が上方に移動し、アーマチュア13が中立位置付近まで移動したときに、コイル11bに駆動電流IACが供給される。これにより、機関弁8の次の閉弁動作が行われる。
【0026】
ECU2には、電圧センサ21(電圧検出手段)から閉弁用電磁石11のコイル11bの電圧を表す検出信号(以下「電圧信号」という)SVが、電流センサ22(駆動電流検出手段)からコイル11bの駆動電流IACを表す信号(以下「電流信号」という)SIが、それぞれ入力される。
【0027】
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、図示しない各種のセンサからの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムなどに従って、燃料噴射量を含むエンジン3の制御を実行する。また、本実施形態では、ECU2は、位置検出部を構成しており、この位置検出部と電圧センサ21および電流センサ22によって、本発明の位置検出装置が構成されている。
【0028】
図3は、本発明の第1実施形態による位置検出部30(位置検出手段)を示している。この位置検出部30は、電圧用フィルタ31、電圧平滑部32、電圧振幅検出部33(電圧振幅検出手段)、電流用フィルタ34、電流平滑部35、電流振幅検出部36(電流振幅検出手段)、振幅比算出部37および位置算出部38を備えている。なお、以下では、電圧センサ21から図4(a)に示す方形波の電圧信号SVが、電流センサ22から図5(a)に示すのこぎり波の電流信号SIが位置検出部30に出力されるものとして、位置検出部30の構成および動作を説明する。
【0029】
電圧用フィルタ31は、所定の周波数域の成分を通過させるバンドパスフィルタで構成されている。この電圧用フィルタ31は、電圧センサ21から出力された閉弁用電磁石11のコイル11bの電圧信号SV(図4(a))を、ECU2からの駆動信号の周波数と同じ周波数(20kHz)の成分のみを通過させるようにフィルタリングし、同図(b)に示す正弦波のフィルタリング電圧信号SVFを、電圧平滑部32に出力する。
【0030】
電圧平滑部32は、全波整流器と、コンデンサおよび抵抗などで構成された平滑回路で構成されている。この電圧平滑部32は、フィルタリング電圧信号SVF(図4(c)の1点鎖線)を全波整流器で整流した後、平滑回路によって平滑化し、図4(c)に実線で示す平滑化電圧信号SVSを、電圧振幅検出部33に出力する。
【0031】
電圧振幅検出部33は、平滑化電圧信号SVSに基づいて、電圧振幅VAMを検出し、電圧振幅VAMを振幅比算出部37に出力する。この電圧振幅VAMは、平滑化電圧信号SVSの信号値(基準レベルから極大値までの振幅)に相当する(図4(c)参照)。電圧振幅検出部33は、その信号値を電圧振幅VAMとして検出する。
【0032】
電流用フィルタ34は、電圧用フィルタ31と同様のバンドパスフィルタで構成されている。電流用フィルタ34は、電流センサ22からの電流信号SI(図5(a))を、ECU2からの駆動信号の周波数と同じ周波数(20kHz)の成分のみを通過させるようにフィルタリングし、同図(b)に示すフィルタリング電流信号SIFを、電流平滑部35に出力する。
【0033】
電流平滑部35は、フィルタリング電流信号SIFを整流した後、平滑化し、図5(c)に示す平滑化電流信号SISを、電流振幅検出部36に出力する。
【0034】
電流振幅検出部36は、平滑化電流信号SISの信号値を電流振幅IAMとして検出し、この電流振幅IAMを振幅比算出部37に出力する。
【0035】
振幅比算出部37は、電圧振幅検出部33から出力された電圧振幅VAMを電流振幅IAMで除算することによって、電圧振幅VAMと電流振幅IAMとの比(=VAM/IAM)を算出し、インピーダンスZとして位置算出部38に出力する。
【0036】
位置算出部38は、インピーダンスZに基づき、図6に示すテーブルを検索することによって、機関弁8の位置POVLを算出する。この位置POVLは、アーマチュア13が閉弁用電磁石11に吸着している閉弁位置にあるときが値0であり、その値が大きいほど、アーマチュア13が中立位置側に位置することを意味する。前述したように、アーマチュア13が閉弁用電磁石11に近いほど、コイル11bのリアクタンス成分を含む抵抗成分が大きくなり、インピーダンスZはより大きくなる。このテーブルは、インピーダンスZと位置POVLの関係を実験によってあらかじめ求め、その結果を表したものである。このため、このテーブルでは、位置POVLは、インピーダンスZが大きいほど、より閉弁位置側に設定されている。
【0037】
したがって、インピーダンスZに基づいて、閉弁用電磁石11に対するアーマチュア13の位置関係を検出でき、それにより、機関弁8の位置を検出することができる。また、機関弁8を駆動するための駆動電流IACを利用して機関弁8の位置を検出するので、そのための専用のデバイスを新たに追加する必要がなく、その分、製造コストを抑えることができる。
【0038】
また、電圧信号SVおよび電流信号SIを、駆動信号と同じ周波数の成分のみを取り出すようにフィルタリングするので、不要な周波数成分を除去でき、コイル11bのインピーダンスZを精度良く算出することができる。さらに、フィルタリング電圧信号SVFおよびフィルタリング電流信号SIFを平滑化するので、脈動のほとんどない平滑化電圧信号SVSおよび平滑化電流信号SISが得られ、それにより、電圧振幅VAMおよび電流振幅IAMを精度良く検出することができる。
【0039】
図7は、本発明の第2実施形態による位置検出部40(位置検出手段)を示している。この位置検出部40は、電圧用フーリエ変換部41(電圧フーリエ変換手段)、電流用フーリエ変換部42(電流フーリエ変換手段)、インピーダンス算出部43、実数部算出部44(実数部算出手段)および位置算出部45を備えている。
【0040】
電圧フーリエ変換部41は、電圧センサ21からの電圧信号SV(図8(a))を高速フーリエ変換する。このフーリエ変換により、ECU2からの駆動信号の周波数を基本波とし、この基本波のスペクトルと、基本波の整数倍の周波数を有する高調波のスペクトルが、周波数ごとに得られる。図8(b)に示すように、各スペクトルは、実数部RVと虚数部JVで構成されている。また、電圧フーリエ変換部41は、これらのスペクトルの値を示す信号(以下「フーリエ電圧信号」という)SVFTをインピーダンス算出部43に出力する。
【0041】
同様に、電流用フーリエ変換部42は、電流センサ22からの電流信号SIを高速フーリエ変換する。これにより、電圧信号SVの場合と同様、ECU2からの駆動信号の周波数を基本波とする整数倍の周波数ごとのスペクトルが得られる。図9(b)に示すように、各スペクトルは、実数部RIと虚数部JIから構成されている。また、電流用フーリエ変換部42は、これらのスペクトルの値を示す信号(以下「フーリエ電流信号」という)SIFTをインピーダンス算出部43に出力する。
【0042】
インピーダンス算出部43は、フーリエ電圧信号SVFTおよびフーリエ電流信号SIFTを用い、次式(1)に従って、インピーダンスZを算出するとともに、算出したインピーダンスZを実数部算出部44に出力する。
【0043】
【数1】

このようにして算出されたインピーダンスZは、図10に示すように、実数部Rと虚数部jXで構成されている。このうち、実数部Rは、コイル11bの抵抗損と、コイル11b、ヨーク11aおよびアーマチュア13から成る磁気回路の渦電流損に起因する抵抗分に相当し、虚数部jXは、コイル11bのリアクタンス成分に相当する。これらはいずれも周波数特性を有する。
【0044】
実数部算出部44は、インピーダンスZのうち、ECU2からの駆動信号の周波数と同じ周波数の実数部Rを取り出し、位置算出部45に出力する。位置算出部45は、この実数部Rに基づき、図11に示すテーブルを検索することによって、機関弁8の位置POVLを算出する。このテーブルもまた実験によって求めたものであり、アーマチュア13が閉弁用電磁石11に近いほど、コイル11bの渦電流損が大きくなり、実数部Rがより大きくなるため、位置POVLは、実数部Rが大きいほど、より閉弁位置側に設定されている。
【0045】
したがって、インピーダンスZの実数部Rに基づいて、機関弁8の位置を検出することができる。また、第1実施形態と同様、機関弁8の位置を検出するための専用のデバイスを新たに追加する必要がないので、製造コストを抑えることができる。
【0046】
図12は、本発明の第3実施形態による位置検出部50(位置検出手段)を示している。機関弁8の位置を、上述した第2実施形態では、インピーダンスZの実数部Rに基づいて算出しているのに対し、本実施形態では、インピーダンスZの虚数部jXに基づいて算出する点が異なる。このため、以下の説明では、第2実施形態と異なる点のみを説明するものとする。同図に示すように、虚数部算出部51(虚数部算出手段)は、インピーダンス算出部43から出力されたインピーダンスZのうち、ECU2からの駆動信号の周波数と同じ周波数の虚数部Xを取り出し、位置算出部45に出力する。
【0047】
位置算出部45は、虚数部Xに基づき、図11に示すテーブルを検索することによって、機関弁8の位置を検出する。このテーブルもまた実験によって求めたものであり、アーマチュア13が閉弁用電磁石11に近いほど、コイル11bのリアクタンス成分が大きくなるため、虚数部Xの値が大きくなるため、位置POVLは、虚数部Xが大きいほど、より閉弁側に設定されている。
【0048】
以上のように、本実施形態においては、コイル11bのインピーダンスZの虚数部Xに基づいて、機関弁8の位置を算出することができる。また、第1および第2実施形態と同様、専用のデバイスを新たに追加する必要がないので、その分、製造コストを抑えることができる。
【0049】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、機関弁8の位置を閉弁動作時に検出しているが、これに代えて、またはこれとともに、開弁用電磁石12のコイル12bの電圧および電流を検出し、それらの検出信号を用いて、機関弁8の位置を開弁動作時に検出してもよい。また、実施形態は、被駆動体が、機関弁8の例であるが、これに限らず、本発明は、電磁石によって駆動される他の任意の被駆動体の位置検出に適用できる。
【0050】
さらに、実施形態では、機関弁の位置を、駆動信号と同じ周波数の電圧信号および電流信号に基づいて検出しているが、これに限らず、例えば駆動信号の整数倍の周波数の電圧信号および電流信号に基づいて検出してもよい。この場合、2倍または3倍の周波数成分のときに、インピーダンスの大きさの違いが顕著に現れることが確認されており、このため、それらの周波数成分の電圧信号および電流信号を用いることが好ましい。また、実施形態では、機関弁の位置を、テーブルを用いて算出しているが、これに限らず、電磁石に対するアーマチュアの位置とインピーダンスの大きさの関係を表す関数を用いて、算出してもよい。
【0051】
また、機関弁の位置を、第2実施形態ではインピーダンスの実数部に応じて、第3実施形態ではインピーダンスの虚数部に応じて、算出しているが、これに限らず、例えば、インピーダンスZの絶対値(=(R2+X21/2)に基づいて機関弁の位置を算出してもよい。その場合、機関弁の位置を、インピーダンスの絶対値に基づき、図11のテーブルを用いて算出してもよく、また、関数によって算出してもよい。
【0052】
さらに、本発明は、車両に搭載された実施形態のエンジンに限らず、クランク軸を鉛直に配置した船外機などのような船舶推進機用エンジンにも適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の位置検出装置を内燃機関とともに概略的に示す図である。
【図2】動弁機構の概略構成を示す模式図である。
【図3】本発明の第1実施形態による位置検出部を概略的に示すブロック図である。
【図4】閉弁用電磁石のコイルの(a)電圧信号、(b)フィルタリング電圧信号および(c)平滑化電圧信号の波形の一例を示す。
【図5】閉弁用電磁石のコイルの(a)電流信号、(b)フィルタリング電流信号および(c)平滑化電流信号の波形の一例を示す。
【図6】図3の処理で用いられるテーブルの一例を示す。
【図7】本発明の第2実施形態による位置検出部を概略的に示すブロック図である。
【図8】(a)電圧信号の波形および(b)電圧信号の周波数スペクトル列の一例を示す図である。
【図9】(a)電流信号の波形および(b)電流信号の周波数スペクトル列の一例を示す図である。
【図10】インピーダンスの周波数スペクトル列の一例を示す図である。
【図11】図7および図12の処理で用いられるテーブルの一例を示す。
【図12】本発明の第3実施形態による位置検出部を概略的に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0054】
8 機関弁(被駆動体)
11 閉弁用電磁石(電磁石)
11b コイル
12 開弁用電磁石(電磁石)
12b コイル
13 アーマチュア
16 駆動回路
21 電圧センサ(電圧検出手段)
22 電流センサ(駆動電流検出手段)
30 位置検出部(位置検出手段)
31 電圧用フィルタ
33 電圧振幅検出部(電圧振幅検出手段)
34 電流用フィルタ
36 電流振幅検出部(電流振幅検出手段)
40 位置検出部(位置検出手段)
41 電圧用フーリエ変換部(電圧フーリエ変換手段)
42 電流用フーリエ変換部(電流フーリエ変換手段)
44 実数部算出部(実数部算出手段)
50 位置検出部(位置検出手段)
51 虚数部算出部(虚数部算出手段)
IAC 駆動電流
SV 電圧信号(検出された検出電圧)
SVF フィルタリング電圧信号(フィルタリングされた検出電圧)
VAM 電圧振幅(検出電圧の振幅)
SVFT フーリエ電圧信号(フーリエ変換された検出電圧)
SI 電流信号(検出された検出電流)
SIF フィルタリング電流信号(フィルタリングされた検出電流)
IAM 電流振幅(検出電流の振幅)
SIFT フーリエ電流信号(フーリエ変換された検出電流)
Z インピーダンス
R 実数部
X 虚数部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被駆動体と、コイルが巻かれた電磁石と、前記被駆動体に一体に設けられ、前記電磁石と対向するアーマチュアと、前記コイルに駆動電流を供給することにより、前記アーマチュアを作動させ、前記被駆動体を駆動する駆動回路と、を有する駆動装置において、前記被駆動体の位置を検出する被駆動体の位置検出装置であって、
前記コイルの電圧を検出する電圧検出手段と、
前記駆動電流を検出する駆動電流検出手段と、
前記検出された検出電圧および検出電流に基づいて、前記被駆動体の位置を検出する位置検出手段と、
を備えることを特徴とする被駆動体の位置検出装置。
【請求項2】
前記位置検出手段は、
前記検出電圧を、所定の周波数域の成分を通過させるようにフィルタリングする電圧用フィルタと、
前記検出電流を、所定の周波数域の成分を通過させるようにフィルタリングする電流用フィルタと、
前記フィルタリングされた検出電圧の振幅を検出する電圧振幅検出手段と、
前記フィルタリングされた検出電流の振幅を検出する電流振幅検出手段と、を有し、
前記検出電圧の振幅と前記検出電流の振幅との比に基づいて、前記被駆動体の位置を検出することを特徴とする、請求項1に記載の被駆動体の位置検出装置。
【請求項3】
前記位置検出手段は、
前記検出電圧をフーリエ変換する電圧フーリエ変換手段と、
前記検出電流をフーリエ変換する電流フーリエ変換手段と、
前記フーリエ変換された検出電圧および検出電流に基づいて、前記コイルのインピーダンスの実数部を算出する実数部算出手段と、を有し、
前記インピーダンスの実数部に基づいて、前記被駆動体の位置を検出することを特徴とする、請求項1に記載の被駆動体の位置検出装置。
【請求項4】
前記位置検出手段は、
前記検出電圧をフーリエ変換する電圧フーリエ変換手段と、
前記検出電流をフーリエ変換する電流フーリエ変換手段と、
前記フーリエ変換された検出電圧および検出電流に基づいて、前記コイルのインピーダンスの虚数部を算出する虚数部算出手段と、を有し、
前記インピーダンスの虚数部に基づいて、前記被駆動体の位置を検出することを特徴とする、請求項1に記載の被駆動体の位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−145396(P2008−145396A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336139(P2006−336139)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】