説明

装着バンドおよび装着バンドの製造方法

【課題】人体に装着したときの違和感が少なく、かつ、外部からストレスがかかってもインレットが壊れにくい装着バンドを提供する。
【解決手段】ICチップ3に記録された情報をアンテナ21によって無線で送信するインレット1を搭載し、人体の一部に装着可能なリング状に形成された装着バンドであって、内部にインレット1を包含してリング状に形成された弾性体を備えている。そして、インレット1は、弾性体よりも単位引張力あたりのその引張方向のひずみが小さく、弾性体が周方向に伸縮したときに少なくともその一部が弾性体に対してスリップするように伸縮率の低い硬質フィルでラミネート加工されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に装着する装着バンドおよびその製造方法に関し、特に、人体の一部に装着して個人を識別するのに好適な装着バンドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、個人を識別するために、人体の手首や足首などの一部に装着する装着バンド(リストバンドなど)が広く使用されている。例えば、医療向けの装着バンドとして、患者を特定するために本人を識別するためのユニークな情報を記録した装着バンドが知られている。このような装着バンドを患者の手首や足首などに巻回すれば、確実に本人を確認して適正な医療処置を施すことができる。
【0003】
また、装着バンドに記録される本人識別情報としては、装着バンドに印字されたバーコードや視認できる数字などの情報だけでなく、システム的に応用できる非接触で読み書き可能なインレット(ICチップとアンテナ)により記録された情報が、利用されている。
なお、インレットは、その周囲に、保護などのための素材(ポリプロピレン(PP)など)を備えたRFID(Radio Frequency IDentification)タグとして使用されることもある。
【0004】
インレットは、ICチップに記録されているID(IDdentification:識別情報)などをRF(Radio Frequency:無線周波数)で外部へ送信する機能を備えている。このようなインレットは、前記したように、情報を記録した小さなICチップとそのICチップに記録された情報を無線で外部へ送信する小さなアンテナとによって構成されている。例えば、インレットは、長さ52mm×幅3mm程度の小さなアンテナの中央部付近に、幅0.4mm、奥行き0.4mm、高さ0.1mm程度の微細なICチップが取り付けられた構成となっているので、そのインレットをインレット読取装置にかざせば非接触でICチップに記録されている情報(例えば、個人の識別情報など)を容易に読み取らせることができる。
【0005】
このようなインレット(あるいはRFIDタグ)を実装した装着バンドは、患者の手首や足首に一度取り付けたら意図的に取り外さない限り退院するまで外れないようになっているため、長時間の使用に耐え得る強度や耐湿性を保持できると共に柔らかくて手首や足首などに違和感が少ないことが要求される。つまり、装着バンドは身体の一部に巻きつけて長時間使用しても耐え得る強度・耐湿性と柔軟性を備えている必要がある。
【0006】
このような要求に応えるために、従来の装着バンドとして、柔らかくて強度を有するナイロン6などのナイロン層を中間基材とし、その上面の表面基材には軽量で柔軟性のあるポリエチレン(PE)およびその共重合体を採用し、さらに、人の肌に直接触れる裏面基材にはエンボス加工を施した軽量で柔軟なポリエチレン基材を採用した3層構造としたものがある。
【0007】
また、この装着バンドの表面基材には個人を識別するためのバーコードや数字などの情報が印字されている。このような装着バンドは、人体の手首や足首などに巻回しても長時間の使用に耐えることができると共に軽量かつ表面がソフトであるので違和感が小さく、かつ個人情報を確実に管理することができる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−283992号公報(段落番号0023〜0042、図1〜図3参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記した従来の装着バンドは、細長い帯状に形成されていて所望の穴に突起を挿入して腕に巻回するようになっているので(つまり、元々の形状がリング状になっていないので)、腕に取り付けるときに手間がかかり、かつ、穴や突起が壊れやすい。また、人の肌に直接触れる部分の裏面基材がポリエチレン(PE)基材であるので、汗をかいたときに肌にくっついてしまってある程度の違和感を受ける。
【0009】
さらに、表面層のポリエチレン(PE)にバーコードや数字などの情報が印字されているので、長時間の使用によってそれらの印字情報が消えてしまうおそれがある。また、インレットは、ナイロンに直接内装されているが、装着バンドの折り曲げや伸縮などに耐え得る構成まで考慮されておらず、折り曲げや引張りにより、ICチップやアンテナ(アルミ箔などの電気伝導体)などが壊れる恐れもある。さらに、ナイロンとインレットの膨張係数の違いによってインレットがナイロン層の表面から剥がれるおそれもある。
【0010】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、人体に装着したときの違和感が少なく、かつ、外部からストレスがかかってもインレットが壊れにくい装着バンドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記の目的を達成するために創案されたものであり、ICチップに記録された情報をアンテナによって無線で送信するインレットを搭載し、人体の一部に装着可能なリング状に形成された装着バンドであって、内部にインレットを包含してリング状に形成された弾性体を備えている。そして、インレットは、弾性体よりも単位引張力あたりのその引張方向のひずみが小さく、弾性体が周方向に伸縮したときに少なくともその一部が弾性体に対してスリップするように構成されている。その他の手段については後記する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、人体に装着したときの違和感が少なく、かつ、外部からストレスがかかってもインレットが壊れにくい装着バンドおよびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<発明の概要>
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態(以下「実施形態」という。)に係るリストバンドについて、好適な例を挙げて詳細に説明するが、まず、理解を容易にするために本実施形態のリストバンドの概要について説明する。
【0014】
第1実施形態〜第3実施形態に係るリストバンドは、シリコーンゴムや天然ゴムなどの弾性材を使用してリング状のバンドを形成し、そのリング状の弾性材の内部に、その弾性材よりも伸縮率の低い硬質フィルムでラミネート加工したインレットを実装した構成となっている。なお、伸縮率とは、単位引張力あたりのその引張方向のひずみのことであり、ひずみとは、元の長さに対する引張方向の伸びの比のことである。
【0015】
つまり、硬質フィルムを用いているのは、シリコーンゴムが伸縮しても硬質フィルムがあまり伸縮せず、それにより、硬質フィルムの内部のインレット(たとえばアンテナ)が破壊されるのを防止するためである。
なお、インレットを薄くするために、インレットに用いるベースフィルムを薄く作成した場合、伸縮によりインレットが破壊されやすくなってしまうことがある。その際、インレットの伸縮率よりも低い伸縮率を有する硬質フィルムでインレットをラミネート加工すれば、一体化されたインレットと硬質フィルムが引張り力により変形しても、伸縮率の低い硬質フィルムに主に応力がかかり、伸縮率の高いインレットに印加される応力が低減され、インレットが破壊される可能性が少なくて済む。
【0016】
以下、第1実施形態〜第3実施形態では、硬質フィルムでラミネート加工したインレットをRFIDタグということにする。つまり、リストバンドは次のような工程によって実現(製作)される。まず、ICチップとアンテナからなるインレットを2枚の透明な樹脂製の硬質フィルムによってラミネート加工してRFIDタグを構成し、ICチップとアンテナを強度的並びに防湿・防塵的に保護する。そして、透明な硬質フィルムの表面にバーコードまたは数字などの文字情報を印字する。さらに、硬質フィルムでラミネート加工されたRFIDタグをリング状の金型に挿入し、その金型にシリコーンゴムなどの弾性材の溶液を注入して成形加工する。
【0017】
このようにして成形加工されたリストバンドは、リング状に形成された弾性材(以下、シリコーンゴムとする)を伸ばしながら、手首や足首をその中に挿入すれば簡単に身体に装着することができると共に、故意に外さない限りは身体から容易に外れるおそれもない。また、肌に接触する部分がシリコーンゴムであるので、リストバンドの装着時の違和感も少なく、肌に接触する部分が汗などによって密着するおそれもない。
【0018】
さらに、リストバンドを折り曲げても、硬質フィルムの剛性によってRFIDタグはあまり曲がらず、それにより、RFIDタグの内部に実装されているインレットを破損されるおそれが少なくて済む。また、印字情報はインレットを覆う透明な硬質フィルムの表面(つまり、RFIDタグの表面)に印字され、さらにそのRFIDタグがシリコーンゴムで覆われているので、リストバンドを長期間使用しても印字情報が消えるおそれはない。もちろん、シリコーンゴムには、RFIDタグの表面の印字情報を視認できるような透明な材料が使用される。
【0019】
また、ポリプロピレン等の硬質フィルムは、シリコーンゴムと比べ伸縮率が低い。RFIDタグは、硬質フィルムでインレットを挟んだ構造を有することから、シリコーンゴム内部のRFIDタグはシリコーンゴムと比べて低い伸縮率を示す。つまり、シリコーンゴムの円周方向に引張り力を加えた場合に、外部のシリコーンゴムが伸縮する長さの率に比べて、内部のRFIDタグが伸縮する長さの率のほうが短い。したがって、伸縮性の低いアンテナなどが保護されることになる。
【0020】
このような伸縮率の相違に基づくシリコーンゴムと内部のRFIDタグの伸びの相違は、内部のRFIDタグが外部のシリコーンゴムの内部を滑る(スリップする)ことにより吸収される。したがって、RFIDタグ内部のアンテナとICチップの接続部は、ラミネート加工されていない場合に比べ、シリコーンゴムリングを人体に装着するときの引張り力に対しても、破壊されにくい。また、シリコーンゴムとRFIDタグの膨張係数が異なっていても、温度変化に対してはラミネート加工されたRFIDタグがシリコーンゴムの内部で滑るように少しだけ伸び縮みするので、ICチップやアンテナにはストレスがあまり加わらない。
【0021】
また、第4実施形態では、インレットのアンテナの基部となるベースフィルムに硬質フィルムを用いることで、インレットを包含する硬質フィルムを用いずにインレットを内包したリストバンドについて説明する。つまり、インレットに、ある程度の強度やシリコーンゴムとの滑りやすさがある場合には、インレットを包含する硬質フィルムを省略することもでき、その場合も、シリコーンゴムが伸びたときに、インレットがシリコーンゴムの内部でスリップすることにより、ICチップやアンテナに加わる力が小さくて済み、インレットが保護されることになる。
【0022】
<第1実施形態>
以下、第1実施形態に係るリストバンドについて、弾性材としてシリコーンゴムを用いた場合を例に挙げて、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、第1実施形態のリストバンドに実装されるインレットの構成図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は分解図である。
【0023】
図1(a)および(b)に示すように、インレット1は、ベースフィルム20の上にアルミ箔などの金属箔で形成された細長い電気伝導体2が設けられ、その電気伝導体2の上面にICチップ3が搭載されることで構成される。また、電気伝導体2とベースフィルム20を合わせてアンテナ21という。
【0024】
電気伝導体2は、送受信される電波の使用周波数の波長をλとすると、長手方向はλ/2の長さでダイポールアンテナを構成している。例えば、電気伝導体2と図示しないインレット読取装置との間で送受信される電波の使用周波数を2.45GHzとすると、電気伝導体2の長手方向の長さは約52mmである。また、電気伝導体2の幅方向の長さは特に限定されないが、例えば、幅0.4mm、奥行き0.4mm、高さ0.1mm程度の大きさのICチップ3を搭載しても多少の余裕がある程度の幅であればよい。一例として、電気伝導体2の長手方向の長さが約52mmの場合は幅方向の長さは3mm程度である。なお、使用周波数を13.56MHzとすると、電気伝導体2の長手方向の長さは52mmよりさらに長くなるが幅については特に限定されない。
【0025】
さらに、電気伝導体2の厚みは、通常の金属箔の厚みである数10ミクロン程度であるが、通常の引張り力で電気伝導体2が切れたり破れたりしない程度の厚みであれば、特に厚みは限定されない。あるいは、電気伝導体2は、薄い樹脂製の基板の上に金属蒸着して形成したものであってもよい。
【0026】
また、本実施形態で用いるインレット1は、パッシブ型である。インレット1は、図示しないインレット読取装置から電気伝導体2で電波を受けて、電気伝導体2の長手方向に生じる電位差を電気伝導体2の中央部における給電部(後記)からICチップ3に供給し、この電位差によりICチップ3が動作する。
【0027】
図1(c)に示すように(適宜図1(a)参照)、電気伝導体2の中央部には、ICチップ3と電気伝導体2との間でインピーダンスマッチングを行うための、かぎ状のスリット2a、および、スタブ2bが形成されている。ICチップ3の電極3cがスリット2aをまたいで電気伝導体2の給電部2cに接続されるので、スリット2aの幅はICチップ3の端子間隔(電極3cの間隔)よりも狭くなっている。本実施形態では、スリット2aの形成によりできるスタブ2bの部分を電気伝導体2とICチップ3の間に直列に接続することで、スタブ2bが、アンテナ入力インピーダンスに関するインダクタ成分として働く。このインダクタ成分により、ICチップ3の入力インピーダンスのキャパシティブ成分を相殺し、アンテナ入力インピーダンスとICチップの入力インピーダンスのマッチングを図る。
【0028】
電気伝導体2の入力インピーダンスは、電気伝導体2の周囲の環境、例えば周囲のシリコーンゴムや硬質フィルムの誘電率の影響で変化するので、スリット2a(スタブ2b)の長さを変化させることで、周囲の環境に対応して、ICチップ3と電気伝導体2のインピーダンスマッチングを図ることができる。
ICチップ3は、電気伝導体2から供給された電力で動作することにより、内部に記憶されたIDの情報に応じたタイミングで、ICチップ3の入力インピーダンスを変化させる。そうすると、ICチップ3の入力インピーダンスの変化に応じて、ICチップ3がインレット読取装置から供給される電波を反射する反射率が変わる。したがって、インレット読取装置ではICチップ3で反射される電波を受信し、受信した電波の変化の様子からIDを読取ることができる。
【0029】
図2は、図1に示すインレットを2枚の透明な硬質フィルムによってラミネート加工したRFIDタグの構成図であり、(a)は上面図、(b)は側面図である。ベースフィルム20、電気伝導体2およびICチップ3によって構成されたインレット1は、図2(b)に示すように、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ナイロン、塩化ビニル(PVC)などの硬質フィルム4を上下で貼り合わせてラミネート加工され、RFIDタグ6として構成されている。
【0030】
このようなラミネート加工は、硬質フィルム4がPPやPEなどであれば、120〜130℃の温度によって上下の硬質フィルム4を加熱加圧しながら貼り合わせることによって実現される。また、硬質フィルム4がPET、PEN、ナイロン、PVCなどであれば、接着剤によって、ラミネート加工を実現することができる。したがって、いずれのラミネート加工の場合でも、温度によって、インレット1を構成する電気伝導体2やICチップ3などが破壊されるおそれはない。
【0031】
なお、硬質フィルム4は、単層フィルムでも多層フィルムでも、いずれでもよい。たとえば、PETとPPを張り合わせた多層フィルムの場合、PPにより熱融着によるラミネートが容易になる。
【0032】
また、図2(a)に示すように、ラミネート加工されたRFIDタグ6の表面(つまり、硬質フィルム4の表面)の任意の部分には、バーコード(1次元または2次元)または数字などの印字情報5が記録されている。この印字情報5は、例えば、“123456”のような数字が記録されていて、整理番号、登録番号、または会員番号などとして使用される。このようにして構成されたRFIDタグ6は、例えば、使用周波数が2.45GHzの場合、長さが60mm、幅が6mm、厚みが1.5mm程度の大きさである。
【0033】
なお、ICチップ3の情報と印字情報5は、直接的な関係があってもなくてもいずれでもよいが、たとえば、以下のいずれかの関係を有するものとすることができる。
(1)ICチップ3の情報そのもの、あるいは、ICチップ3の情報をハッシュ関数などの暗号化関数に入力して得られた出力情報を、印字情報5の一部または全部とするもの。
(2)逆に、印字情報5をハッシュ関数などの暗号化関数に入力して得られた出力情報の一部または全部を、ICチップ3に書き込む。
(3)ICチップ3の情報と印字情報5は情報自体としては関数関係にないが、データベースにおいて対応付けて格納する。その場合、インレット読取装置で読み取ったICチップ3の情報、あるいは、目視でリストバンドから読み取って手で入力した印字情報5のいずれかをキーとしてデータベースを検索すれば、対応する他方の情報を読み出して利用することができる。
【0034】
このようにして硬質フィルム4によってラミネート加工されたRFIDタグ6は、その内部のインレット1を構成するベースフィルム20、電気伝導体2およびICチップ3を強度的並びに防湿・防塵的に保護している。さらに、RFIDタグ6は、ベースフィルム20、電気伝導体2およびICチップ3に対して、シリコーンゴムからの摩擦力が直接加わらないように、つまり、シリコーンゴムの伸縮により発生する力が直接電気伝導体2などに伝わらないようにして、インレット1を保護している。
【0035】
図3は、図2に示すRFIDタグをリング状のシリコーンゴムの内部に実装して構成されたリストバンドの斜視図である。図3に示すように、リストバンド8はリング状のシリコーンゴム7の内部にRFIDタグ6が実装された構成となっている。すなわち、図示しないリング状の金型の厚み方向の中央部付近に図2のように構成されたRFIDタグ6を挿入し、その金型に透明なシリコーンゴム7の溶液を注入する。このとき、シリコーンゴム7の溶液の注入温度は100℃程度であるので、硬質フィルム4、および、RFIDタグ6の内部のインレット1(つまり、ベースフィルム20、電気伝導体2およびICチップ3)を熱的に破壊させるおそれがない。
【0036】
次に、シリコーンゴム7の溶液が冷却した後に金型を取り外すと、図3に示すようなリング状のリストバンド8が成形される。このようにして成形されたリストバンド8は、例えば、厚みが5mm、幅が10mm、内径が50mm程度のリング状の円筒バンドである。したがって、図3に示すようなリング状のリストバンド8の輪を広げて、手首などをその中に通せば容易に人体に装着することができる。
【0037】
シリコーンゴム7は、シロキサン結合(−Si−O−)の繰り返しを主鎖とし、側基としてアルキル・アリール基などを持つ重合体で形成された弾力性のあるゴムである。したがって、シリコーンゴム7は、このような分子構造に起因して耐熱性、撥水性、電気絶縁性、耐薬品性、耐老化性などに優れている。一般的に、シリコーンは、重合体の重合度、側基の種類、主鎖の橋かけの程度などによって、液状、グリース状、ゴム状、樹脂状などに任意に変えられるので、本実施形態で使用されるシリコーンゴム7はそれらの化学的特性を考慮して最適に構成されたものである。つまり、本実施形態で使用されるシリコーンゴム7は、高重合度の線状のポリジメチルシロキサンあるいはその共重合体を中程度に橋かけして良好なゴム状弾性を示すように構成されたものである。
【0038】
図4は、図3に示すリストバンドの一部(A部)の拡大図であり、(a)は図3の矢印Bの方向から見た断面図、(b)は図3の矢印Cの方向から見た上面図である。すなわち、図4(a)の断面図に示すように、リング状のリストバンド8は、透明なシリコーンゴム7の厚さ方向の中央部付近にRFIDタグ6が配置され、そのRFIDタグ6の内部にはベースフィルム20、電気伝導体2およびICチップ3からなるインレット1が実装されている。つまり、図4(b)の上面図に示すようにシリコーンゴム7の円周方向(つまり、長手方向)に並行してRFIDタグ6が内部に配置された構成となっているので、RFIDタグ6の内部のインレット1も、シリコーンゴム7の円周方向(長手方向)に並行して配置される状態となっている。
【0039】
このような構成されたリストバンド8を人体の一部(例えば手首)に装着したときは、電気伝導体2の指向方向を腕の円周方向に向けた状態にすることができるので、図示しないインレット読取装置によってリストバンド8の円周方向を検知すれは容易にICチップ3の情報を読み取ることができる。また、図示しないインレット読取書込装置によってリストバンド8の内部のICチップ3に対して新たな情報を書き込むこともできる。
【0040】
また、硬質フィルム4は、シリコーンゴム7と固着しにくいPETなどから構成されているため、使用者が手首などに通す際にリストバンド8を伸ばしたときにシリコーンゴム7が伸びた場合でも、硬質フィルム4はほとんど形を変えず、硬質フィルム4とシリコーンゴム7の間でスリップが起きることになる。それにより、硬質フィルム4に内包されたインレット1には、シリコーンゴム7が伸びたことによる力があまり加わらず、インレット1の破壊される可能性が低減される。
【0041】
また、図4(b)に示すように、RFIDタグ6の表面には“123456”のような目視可能な印字情報5が記録されているが、シリコーンゴム7は透明であるので、リストバンド8の表面からこの印字情報5を読み取って、リストバンド8と装着者との対応関係などを管理することができる。このとき、RFIDタグ6の表面に記録された印字情報5は、シリコーンゴム7の内部に封入されているので、患者などがリストバンド8を長期に亘って装着しても消えるおそれはない。
【0042】
すなわち、本実施形態のリストバンド8に記録された印字情報5は、“123456”などの数字の羅列やバーコードや二次元コードなどであって、患者を特定するための個人識別用のID番号、性別、名称、生年月日、血液型、担当医の氏名などを記録することができるので、患者の取り違えなどに伴う誤診療を防止するための管理情報として用いることができる。なお、印字情報5がバーコードや二次元コードの場合、読取装置(リーダ)によってそれを光学的に読み取ることが可能となる。
【0043】
また、インレット1のICチップ3には、患者を特定するための個人識別情報をあらかじめ書き込んでおけば、その患者の診察時にインレット1の情報を読み出すことによって、患者を取り違えることなく適正な診療を行うことができ、さらに、診療経過の記録を残すこともできる。
たとえば、ICチップ3がROM(Read Only Memory)型の場合、ICチップ3のID(Identification)と印字情報5(バーコードの情報など)を関連付けておいて、コンピュータに登録して管理することができる。
【0044】
なお、図4(b)に示すようなリストバンド8において、数字などの印字情報5を表示などさせるには、たとえば、あらかじめRFIDタグ6の内部に、磁性粉末と磁性層を塗布したシートをケース状にして封入する。そうすれば、シートは、磁石を近づけるなどすることにより、印字情報5を磁気的に表示でき、書き換えることもできる。また、リストバンド8を揺するなどして、磁性粉末をシート上に付着させることにより、印字情報5を表示させたり、非表示にさせたりすることができる。
【0045】
また、図4のように構成されたリストバンド8は、ICチップ3がRAM(Random Access Memory)型の場合、ICチップ3に多くの情報を記録したり書き換えたりすることができるので、例えば、病院において、患者の過去のあらゆる病歴情報をインレット1に記録して総合的な医療に役立てたり、複数の病院間で情報をシステム的に送受信して医療の連携に利用したりすることもできる。もちろん、このリストバンド8は、医療以外の様々な分野において利用することもできる。
【0046】
<第2実施形態>
リストバンド8を人体に装着してインレットを2.45GHzの周波数で使用した場合、インレット読取装置から送信される電波は人体で吸収されやすいため、人体の近傍にインレットを設置するとインレットで発生する電力が低減することがある。これは、インレットの感度を低下させるとともに、インレットからの反射波を低減させてしまい、ICチップ3に記録されている情報が読みにくくなることを意味する。そこで、第2実施形態においては、2.45GHzの電波を使用しても人体で吸収されにくいようにアンテナを構成したリストバンド8aを提供する。
【0047】
図5は、第2実施形態におけるリストバンドの断面の一部拡大図である。すなわち、図5に示すように、電気伝導体2の投影下面に相当するシリコーンゴム7の裏面(つまり、リストバンド8aの内径部分の肌に接触する位置)に電気伝導体2とほぼ同じ大きさかそれよりやや大きい補助アンテナ9を貼付する。これによって、電気伝導体2の近傍の電波は肌で吸収されにくくなり、インレットの感度が改善されるほか、インレットからの反射波の低減を改善することができる。よって、ICチップ3に記録されている情報の読み取りが容易になる。
なお、補助アンテナ9は、電気伝導体2の長さおよび幅よりやや大きめに構成しておけば、肌での吸収をより有効に防止することができる。
【0048】
また、あらかじめ、補助アンテナ9を電気伝導体2と対向させて金型内に挿入してシリコーンゴム7を注入してリストバンド8aを成形すれば、すなわち、補助アンテナ9をシリコーンゴム7の内部に設置すれば、リストバンド8aの装着や取り外しを繰り返しても補助アンテナ9がリストバンド8aから脱落するおそれはない。
【0049】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係るリストバンドについて、図6を参照しながら説明する。
図6は、第3実施形態に係るリストバンドの一部拡大図で、(a)は図4(a)と同様の断面図、(b)は図4(b)と同様の上面図、(c)は(b)のX−X断面図である。なお、図4と同一の構成には同一の符号を付し、重複説明を適宜省略する。図6のリストバンドが図4のリストバンドと異なっている点は、RFIDタグ6の周囲をフィルム40が覆っていることである。
【0050】
図6(a)、(b)および(c)に示すように、リストバンド8において、RFIDタグ6の周囲をフィルム40が覆い、それらがシリコーンゴム7に内包されている。このフィルム40は、硬質フィルム4と固着しない(しにくい)PETやPENなどの素材から構成されている。
このように、RFIDタグ6の周囲をさらにフィルム40が覆っていることで、シリコーンゴム7が伸縮したときに、硬質フィルム4とフィルム40の間でもスリップが起き、シリコーンゴム7の伸縮による力がインレット1にあまり伝わらず、インレット1がより保護される。
【0051】
なお、第3実施形態では、図6(c)に示すように、フィルム40を、リストバンド8の長手方向と平行な部分(右側端部)で封止するものとしたが、それ以外の部分で封止するようにしてもよい。
また、第3実施形態では、フィルム40がRFIDタグ6の全体を覆うようにしたが、フィルム40がRFIDタグ6の中央部付近だけを覆ってRFIDタグ6の端部は覆わないなど、RFIDタグ6の一部を覆うようにしてもよい。
【0052】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態に係るリストバンドについて、図7を参照しながら説明する。この第4実施形態では、インレットのアンテナの基部となるベースフィルムに硬質フィルムを用いることで、インレットを包含する硬質フィルムを用いずにインレットを内包したリストバンドを実現する。
図7は、第4実施形態に係るリストバンドの一部拡大図で、図4と対応する図であり、(a)は図4(a)と同様の断面図、(b)は図4(b)と同様の上面図である。なお、図4と同一の構成には同一の符号を付し、重複説明を適宜省略する。図7のリストバンドが図4のリストバンドと異なっている点は、硬質フィルム4が設けられていないことである。
【0053】
図7(a)および(b)に示すように、インレット1がそのままシリコーンゴム7に内包されている。この場合、インレット1は、シリコーンゴム7よりも、伸縮率(単位引張力あたりのその引張方向のひずみ)が低くなるように構成されている必要がある。そのような構成を実現するには、電気伝導体2やベースフィルム20の素材にある程度の硬質性を有するものを選択する、あるいは、インレット1とシリコーンゴム7の間に粉末や潤滑液を使用することでそれらの間の摩擦力を減らす、などをすればよい。
たとえば、ベースフィルム20(基部)が、PP、PE、PET、PEN、ナイロンおよびPVCなどの硬質フィルムから構成されていればよい。
【0054】
そうすることで、シリコーンゴム7が周方向に伸縮したときに、インレット1は、少なくともその一部がシリコーンゴム7に対してスリップし、シリコーンゴム7の伸縮による力がインレット1にあまり伝わらず、インレット1が保護される。
なお、図7では、インレット1がシリコーンゴム7の内部においてむきだしになるように構成したが、インレット1の表面のうち電気伝導体2とICチップ3の側(つまり、ベースフィルム20の逆側)にだけ、図6で用いたフィルム40が覆うように構成してもよい。
【0055】
また、第4実施形態のリストバンド8においては、第1実施形態のRFIDタグ6の場合(図2(a)参照)と同様、インレット1の任意の箇所に、バーコードまたは文字情報などの印字情報を表示するようにしてもよい(図示は省略)。その場合、ICチップ3の情報と印字情報は、第1実施形態の場合と同様、直接的な関係があってもなくてもいずれでもよく、また、片方の情報を暗号化してから関係付けておいてもよい。
【0056】
なお、本実施形態によるリストバンドは、病院に限ることはなく、老人ホームや養護施設など大勢の利用者を管理する施設において一人一人を適正に管理することができると共に、リストバンドを装着した利用者に大きな違和感を受けさせることがない。したがって、本実施形態のリストバンドは、大勢の利用者を管理する施設などにおいて有効に利用することができる。また、本実施形態によるリストバンドは、社会復帰の途上にある受刑者を収容する施設などにおいても利用することができる。
【0057】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれらに限定されるものではない。たとえば、本実施形態では、装着バンドとして、手首にはめるリストバンドを例として挙げたが、足首にはめるアンクルバンドなど、他のバンドであってもよい。その他、具体的な構成について、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】第1実施形態のリストバンドに実装されるインレットの構成図であり、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は分解図である。
【図2】図1に示すインレットを2枚の透明な硬質フィルムによってラミネート加工したRFIDタグの構成図であり、(a)は上面図、(b)は側面図である。
【図3】図2に示すRFIDタグをリング状のシリコーンゴムの内部に実装して構成したリストバンドの斜視図である。
【図4】図3に示すリストバンドの一部拡大図であり、(a)は断面図、(b)は上面図である。
【図5】第2実施形態におけるリストバンドの断面の一部拡大図である。
【図6】第3実施形態に係るリストバンドの一部拡大図であり、(a)は断面図、(b)は上面図、(c)は(b)のX−X断面図である。
【図7】第4実施形態に係るリストバンドの一部拡大図であり、(a)は断面図、(b)は上面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 インレット
2 アンテナ
2a スリット
3 ICチップ
4 硬質フィルム
5 印字情報
6 RFIDタグ
7 シリコーンゴム
8 リストバンド
9 補助アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICチップに記録された情報をアンテナによって無線で送信するインレットを搭載し、人体の一部に装着可能なリング状に形成された装着バンドであって、
内部に前記インレットを包含してリング状に形成された弾性体を備え、
前記インレットは、前記弾性体よりも単位引張力あたりのその引張方向のひずみが小さく、前記弾性体が周方向に伸縮したときに少なくともその一部が前記弾性体に対してスリップするように構成された
ことを特徴とする装着バンド。
【請求項2】
前記インレットは、硬質フィルムからなる基部を有することにより、前記弾性体よりも単位引張力あたりのその引張方向のひずみが小さいことを特徴とする請求項1に記載の装着バンド。
【請求項3】
ICチップに記録された情報をアンテナによって無線で送信するインレットを搭載し、人体の一部に装着可能なリング状に形成された装着バンドであって、
樹脂製の硬質フィルムによって前記インレットを包含するRFIDタグと、
前記RFIDタグを包含してリング状に形成された弾性体と、を備え、
前記RFIDタグは、前記弾性体よりも単位引張力あたりのその引張方向のひずみが小さく、前記弾性体が周方向に伸縮したときに少なくともその一部が前記弾性体に対してスリップするように構成された
ことを特徴とする装着バンド。
【請求項4】
前記インレットは、前記硬質フィルムよりも、単位引張力あたりのその引張方向のひずみが大きいことを特徴とする請求項3に記載の装着バンド。
【請求項5】
前記RFIDタグは、2枚の前記硬質フィルムを貼り合わせたラミネート加工によって形成されていることを特徴とする請求項3に記載の装着バンド。
【請求項6】
前記硬質フィルムは、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ナイロンおよび塩化ビニル(PVC)のいずれかの層からなる単層フィルムあるいは少なくとも1つの層を含む多層フィルムであることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の装着バンド。
【請求項7】
前記弾性体はシリコーンゴムであることを特徴とする請求項1または請求項3に記載の装着バンド。
【請求項8】
前記インレットの任意の箇所にバーコードまたは文字情報が印字されていることを特徴とする請求項1に記載の装着バンド。
【請求項9】
前記RFIDタグの任意の箇所にバーコードまたは文字情報が印字されていることを特徴とする請求項3に記載の装着バンド。
【請求項10】
前記ICチップに記録された情報の少なくとも一部が、前記バーコードまたは前記文字情報に対応していることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の装着バンド。
【請求項11】
リング状に形成された前記シリコーンゴムの内面側であって前記アンテナの面と対向する位置には、該アンテナの投影面積より広い面積の補助アンテナが設置されていることを特徴とする請求項7に記載の装着バンド。
【請求項12】
前記補助アンテナは、前記シリコーンゴムの内部に設置されていることを特徴とする請求項11に記載の装着バンド。
【請求項13】
前記RFIDタグの周囲の少なくとも一部を覆い、前記RFIDタグと固着しないフィルムを、さらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の装着バンド。
【請求項14】
ICチップに記録された情報をアンテナによって無線で送信するインレットを包含するRFIDタグを搭載し、そのRFIDタグが、人体の一部に装着可能なリング状に形成されたシリコーンゴムよりも単位引張力あたりのその引張方向のひずみが小さくて、前記シリコーンゴムの周方向に関する伸縮時に少なくともその一部が前記シリコーンゴムに対してスリップするように構成される装着バンドの製造方法であって、
樹脂製の硬質フィルムによるラミネート加工により前記インレットを包含してRFIDタグを形成する工程と、
前記RFIDタグをリング状の金型内の厚さ方向の中央部付近に挿入する工程と、
前記金型内にシリコーンゴムの溶液を注入する工程と、
冷却された前記シリコーンゴムをリング状の装着バンドとして成形する工程と、
を含むことを特徴とする装着バンドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−286213(P2007−286213A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111536(P2006−111536)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】